ゲスト
(ka0000)
プロレスしようず
マスター:革酎

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/08/05 19:00
- 完成日
- 2015/08/11 00:03
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●そこが会場
とある田舎の地方領主は、街の広場に設営されつつある四角い舞台を眺めていた。
僅かにバウンドする板敷の床に布を被せ、四方には金属製の支柱が立ち、その支柱から少し内側に入ったところを三段のマットが並んで、舞台の各辺を結ぶロープの起点となっている。
リアルブルーでは、この四角い舞台は『リング』と呼ばれているらしい。
実は一週間程前、ふたりのハンターが祭りのエキシビジョンとして、『プロレス』なるものを興行したいと申し入れてきたのだが、説明を聞いているうちに興味が湧いてきた領主は、祭りでの興行に許可を出したのだ。
曰く、プロレスというものは複数名の戦士がリングの内外で素手で戦うらしいのだが、説明によれば、これは決して真剣勝負ではなく、技の華麗さやダイナミックさなどを観客に楽しんでもらうショーなのだという。
真剣勝負の武闘大会ではなく、あくまでも興行であり、戦士同士はお互い、相手に怪我をさせないように細心の注意を払って技を仕掛け合うという、一風変わった観念を持って闘いに臨むらしい。
プロレスとは、一体どんなものなのか――。
領主は我知らず、心が躍る思いだった。
●レスラーの本音
祭りでのプロレス興行を主宰するハンターであり、且つリアルブルーでは本職の女子プロレスラーでもあった秋山潤は、完成したリングを眺めながら、複雑な表情を浮かべていた。
「よぉ、秋山。どうしたんだ?」
声をかけてきたのは、今回の興行で潤の対戦相手としてリングに登るステファン・ハンセンだ。
ステファンも同じくリアルブルーでは女子プロレスラーであったが、ここクリムゾンウェストでは潤と同様にハンターとしても活動している。
このふたり、リアルブルーでは互いにしのぎを削り合ったライバル同士として知られていた。
クリムゾンウェストで生活を始めた当初はふたりともハンターとして新たな人生を歩み出していたのだが、矢張りプロレスラーとしての血が騒いだらしく、こちらの世界でもプロレスを興行として実施したいとの思いが高まり、一カ月ほど前からリングを自作して、漸くエキシビジョンとして実行に移せる段階にまで至っていた。
ところが――。
「いやぁ……何っつぅか、もっと人数が欲しいなぁ、ってね」
潤がいうように、レスラーが圧倒的に足りなかった。
実際、この祭りでのプロレス興行に選手としてリングに上がるのは潤とステファンの他には、誰も居なかったのだ。
「そういうことなら……いっそ、ハンターからレスラーを募ってみるかい?」
ステファンのこの発想に、潤は一も二も無く頷いた。
翌日、某ハンターズソサイエティのオフィスの片隅に、次のような張り紙が掲示板に張り出されていた。
●張り紙広告
=============================
プロレスラー急募。
基礎からしっかり教えます。
興味のある方は、秋山かハンセンまでご連絡を。
=============================
とある田舎の地方領主は、街の広場に設営されつつある四角い舞台を眺めていた。
僅かにバウンドする板敷の床に布を被せ、四方には金属製の支柱が立ち、その支柱から少し内側に入ったところを三段のマットが並んで、舞台の各辺を結ぶロープの起点となっている。
リアルブルーでは、この四角い舞台は『リング』と呼ばれているらしい。
実は一週間程前、ふたりのハンターが祭りのエキシビジョンとして、『プロレス』なるものを興行したいと申し入れてきたのだが、説明を聞いているうちに興味が湧いてきた領主は、祭りでの興行に許可を出したのだ。
曰く、プロレスというものは複数名の戦士がリングの内外で素手で戦うらしいのだが、説明によれば、これは決して真剣勝負ではなく、技の華麗さやダイナミックさなどを観客に楽しんでもらうショーなのだという。
真剣勝負の武闘大会ではなく、あくまでも興行であり、戦士同士はお互い、相手に怪我をさせないように細心の注意を払って技を仕掛け合うという、一風変わった観念を持って闘いに臨むらしい。
プロレスとは、一体どんなものなのか――。
領主は我知らず、心が躍る思いだった。
●レスラーの本音
祭りでのプロレス興行を主宰するハンターであり、且つリアルブルーでは本職の女子プロレスラーでもあった秋山潤は、完成したリングを眺めながら、複雑な表情を浮かべていた。
「よぉ、秋山。どうしたんだ?」
声をかけてきたのは、今回の興行で潤の対戦相手としてリングに登るステファン・ハンセンだ。
ステファンも同じくリアルブルーでは女子プロレスラーであったが、ここクリムゾンウェストでは潤と同様にハンターとしても活動している。
このふたり、リアルブルーでは互いにしのぎを削り合ったライバル同士として知られていた。
クリムゾンウェストで生活を始めた当初はふたりともハンターとして新たな人生を歩み出していたのだが、矢張りプロレスラーとしての血が騒いだらしく、こちらの世界でもプロレスを興行として実施したいとの思いが高まり、一カ月ほど前からリングを自作して、漸くエキシビジョンとして実行に移せる段階にまで至っていた。
ところが――。
「いやぁ……何っつぅか、もっと人数が欲しいなぁ、ってね」
潤がいうように、レスラーが圧倒的に足りなかった。
実際、この祭りでのプロレス興行に選手としてリングに上がるのは潤とステファンの他には、誰も居なかったのだ。
「そういうことなら……いっそ、ハンターからレスラーを募ってみるかい?」
ステファンのこの発想に、潤は一も二も無く頷いた。
翌日、某ハンターズソサイエティのオフィスの片隅に、次のような張り紙が掲示板に張り出されていた。
●張り紙広告
=============================
プロレスラー急募。
基礎からしっかり教えます。
興味のある方は、秋山かハンセンまでご連絡を。
=============================
リプレイ本文
●オープニングマッチ
客席から、歓声とどよめきが波打つ潮騒のように、交互に響いてくる。
リング上では悪魔の黒兎と化したマスクマン『コエーリョ・ド・ディアーボ』に扮するカミーユ・鏑木(ka2479)と、王道のベビーフェイススタイルでカミーユを迎え撃つ『キャンディ・トム』こと喜屋武・D・トーマス(ka3424)の激突が繰り広げられていた。
試合前、カミーユとトーマスは控室で入念な打ち合わせを繰り返していた。
「念の為の確認よん。怪我したらお互い大変だものね、トーマスちゃん」
「やっぱりここはお互い、王道の展開でどうかしら。パワーを前面に押し出した迫力ある試合にしましょ」
流れとしてはヒールであるカミーユが序盤から中盤までをコントロールし、観衆のフラストレーションをそこそこ高めたところでトーマスが反撃に転じ、観衆に王道の楽しさを味わってもらう、というものである。
「ぎったぎたにしちゃうから、覚悟してよねうさーッ!」
リングに上がるや否や、いきなりリングアナウンサーからマイクを奪ってトーマスと観衆を挑発する出だしから、既にカミーユは会場そのものを支配していたといって良い。
対するトーマスも心得たもので、
「さぁ行くわよ、コエーリョちゃんッ!」
と、一応マイクで受けて立つ。
両者揃いも揃ってキワモノっぽい雰囲気だが、試合展開はオーソドックスとトリッキーを組み合わせた、プロレス初心者を喜ばせる内容だった。
まずは組み合ってからのハンマースロー、そこからカミーユがタックルでグラウンドの展開に持ってゆく。
(さぁ行くわよ、しっかり目ぇ閉じててねッ!)
カミーユはトーマスとアイコンタクトを取りつつ、マウントポジションからの容赦ない毒霧で、観衆の度肝を抜いた。
「うッきゃぁ~ッ!」
トーマスは派手に苦しみ、その様が観衆のトーマスコールを沸き起こす引き金となった。
勿論あまり一方的過ぎるのも不自然なので、トーマスも要所で浴びせ蹴りやパワースラムなどで切り替えしつつ、基本は中盤まで受けのスタイルを徹底した。
この流れを受けてカミーユがコブラツイストで締め上げた後、ハンマースローからのRKO(ジャンピング式ダイヤモンドカッター)で良い具合にトーマスのグロッキー加減を演出しており、これが非常に大きな説得力を持った。
そして予定通り、カミーユがトーマスをゴリー・エスペシャルで固めたところでは、トーマスが半分ぐらい着ぐるみに埋まってしまい、その見た目は相当厳しいダメージがトーマスを苦しめているという印象を観衆に抱かせることに成功していた。
両腕両脚を固められての背面バックブリーカーである。見た目的には相当なインパクトがあった。
しかし実際にはトーマスは然程に苦しんでおらず、ゴリー・エスペシャルを受けながら少しばかり休憩していたというのが実情であったが。
(ねぇトーマスちゃん、もうちょっと苦しんで頂戴な)
(あら、御免なさい)
その直後からトーマス、派手に苦悶。ヒール・コエーリョの面目躍如である。
何とかブレークし、トーマスが窮地を脱したところから展開が切り替わった。
トーマスが死力を尽くして(と観衆に思わせて)カミーユをドラゴンスクリューで動きを封じ、続けて胴締めドラゴンスリーパーでぐいぐいと締め上げた。
「ちょっと……苦しいうさッ!」
カミーユがここで上手くサミングを駆使して、最後の見せ場を作った。勿論この時は、ブーイングの大波がリング上に押し寄せてきたが、これこそまさに望むところであろう。
序盤を小技で、中盤を投げや極め技の応酬に固めた試合運びは、フィニッシュへのムーヴメントを観衆に納得させるには十分な役割を果たしていた。
最後は両者、力を出し尽くして大技の仕掛け合いとなった。
「っしゃぁッ! いっくぞぉらぁッ!」
吼えた直後、トーマスのノーザンライトスープレックスが美しい弧を描き、カミーユの体躯は空中でくるりと回転しながらマットに叩きつけられ、そのまま3カウントを聞いた。
その直前に決まっていたノーザンライトボム気味のパワースラムがほとんどフィニッシュに近しい威力を発揮していたのが、トーマスには幸いした。
(……ま、プロレス初心者には勧善懲悪の分かり易い展開が、一番親切かしらね)
勝ち名乗りを受けているトーマスを尻目に、カミーユは赤コーナーのエプロンサイドで尻もちをつきながら、やんやの喝采を送っている観衆に満足げな視線を送った。
観衆は気付いていなかったが、トーマスは勝ち名乗りを受けている最中、一瞬だけカミーユにウィンクを送る仕草を見せた。
カミーユの巧みな試合運びがあってこその、これだけの大歓声であるということを、誰よりもトーマス自身が一番よく理解していた。
―― 第一試合 ――
○キャンディ・トム (14分21秒、北斗原爆固め) コエーリョ・ド・ディアーボ×
●真剣勝負だからこそ
「さぁここからはマイクを手放し、リング上を主戦場に致しますッ!」
直前まで実況担当として実況席に陣取っていた水城もなか(ka3532)は、自身の出番となるとほとんど一瞬に近い生着替えで軍人っぽいリングコスチュームに変身し、一気にリング上へと駆け登った。
ゲスト解説として隣に座っていたステファン・ハンセンが、呑気な笑顔でリング上へと駆けてゆくもなかに手を振っていた。
もなかの対戦相手は、秋山潤である。
潤との事前の打ち合わせで、ハイブリッドレスリングスタイルで進めることが決まっていた。
基本的に潤は王道スタイルなのだが、ストロングスタイルやハイブリッドにも対応出来る、懐の深さを具えていた。
これは、もなかにとっても大変に有り難い。
(市民を守る軍人として負ける訳には参りません……勿論、怪我をさせないこと前提ですが、ガチで行かせて頂きますッ!)
もなか自身は本職のプロレスラーとしては、経験が浅い。
長時間に亘る試合展開は非常に辛い旨を潤に伝えたところ、所謂秒殺が定着しているハイブリッドなら、もなかにとって一番安心出来る展開に持っていけるだろう、との話であった。
「軍人さんを、舐めちゃいけませんよぉッ!」
もなかの挑発で会場が沸くと同時に、ゴングが鳴った。
開始直後こそは、もなかが立体的な動きからのトリッキーなミサイルキックで観衆を沸かせたが、その後は本当に真剣勝負に近しい技の応酬となった。
潤がエルボーを繰り出せばもなかがニーリフトで返し、逆にもなかがハイキックで攻めれば潤は掌打で返すといった具合に、序盤から激しい攻防が展開された。
そして、決着が早いのもハイブリッドの特徴である。
グラウンドの展開に入るや、まずもなかがスリーパーホールドで潤の後ろを取ると、潤は器用にこれを切り替えし、脇固めに入った。
ところが更に今度はもなかが、脇固めが完全に入り切る前に全身を回転させてこれを脱し、潤を三角絞めに捉えた。
実に目まぐるしい展開に、技が決まって動きが落ち着いたところで、会場から一斉に歓声が上がった。
そして肝心の勝負の方はというと、もなかの三角絞めから抜けられないと瞬間的に判断した潤が、ものの数秒でタップして決着がついた。
(流石に、プロですね……下手に失神してスタッフに迷惑をかけるのではなく、早々にタップして試合を終わらせるとは)
もなかも、レフェリーがタップを認めて試合終了のゴングを要請した以上、いつまでも技をかけ続ける訳にはいかない。
「ありがとうございました」
勝ち名乗りを受けた後、自ら潤に歩み寄って握手を求めると、潤も満足げな笑みで右手を差し出した。
「まだ仕事は、終わってないわよ。ここからはまた、実況席に戻って声を嗄らせなきゃ」
「あ……そういえば、次の試合のゲスト解説は、潤さんでしたっけ」
ふたりは慌ててリングを降り、試合時の格好そのまんまで実況席に飛び込んで、次の試合に向けてマイクの調整に入った。
―― 第二試合 ――
○水城もなか (2分46秒、三角絞め) 秋山潤×
●異次元プロレス
最後の試合は、タッグマッチである。
全身ピンク一色の、虎をモチーフにした覆面とマントを着用しているミリア・コーネリウス(ka1287)と、猫マスクに肉球グローブで子猫スタイルのコスチュームで統一した『猫マスク』メルクーア(ka4005)が、軽快な入場曲に乗って颯爽とリングインを果たす。
ミリアがマントを客席に放り投げる一方で、メルクーアはマットの中央で、
「にゃ~んッ」
と妙なリズムでダンスを披露していた。
このふたり、一日限定の猫科同盟なるタッグチームを結成していた。
ちなみに、メルクーアだけがリングネームを用意しているのは勿体ないということで、潤がミリアにガーディアンタイガーなるリングネームを用意していた。
「あ、成る程。確かに、ひとりだけ素で本名ってのも、おかしな話か」
ミリアも、思わず納得した。
このガーディアンタイガーはスーパージュニアヘビー級、そして猫マスクはミゼットプロレスのスタイルという実に印象的且つ異色のタッグチームであった。
対する『ノエル・ザ・スネグーラチカ』ことノエル(ka0768)と、ステファン・ハンセンのペアは王道スタイルのタッグチームである。
蒼を基調とした爽やかな色合いのリングコスチュームを身に纏うノエルと、ブルロープを振り回しながらテキサスアメリカンスタイルで猛然と突っ込んでくるステファン。
このふたりも、微妙にスタイルが異なる珍しいペアであった。
ゴングが鳴った。
先発はメルクーアとノエルである。
とりあえずノエルとしては、相手の技を全部貰う腹積もりでリングインしたが、メルクーアのトリッキーで観衆の笑いを誘う動きには、特に注意が必要だった。
下手に真面目な返しを入れてしまうと、それだけで全てが台無しになってしまう。
メルクーアの持ち味を、最大限に活かしてやらなければならなかった。
「にゃーんッ!」
早速メルクーアがロープの反動を使ったレッグラリアートを仕掛けるも、位置が微妙にずれていたのか、ノエルに真正面から受け止められ、所謂お姫様抱っこ状態から、ぽいっと放り投げられてしまった。
「うにゃ~んッ!」
腰をさすってから、猫そっくりの顔を洗う仕草でリング内を走り回るメルクーア。
会場内が、笑いに包まれた。
更にノエルがナックルパートでじりじりと間合いを詰めてきたところで、メルクーアは猫パンチで応酬。
一方は真面目にジャブを連打し、一方は猫そっくりの動きでふにゃふにゃとパンチを返す様は、滑稽というよりもシュールであった。
しかし、ただ笑いを誘うばかりではない。
ノエルがダブルアームスープレックスの態勢にてメルクーアをリバースフルネルソンで真っ逆さまに持ち上げたところで、メルクーアは両太腿でノエルの頭を左右から挟んだ。
(成る程……これは、面白いですね)
メルクーアの太腿に頭を捉えられながらも、ノエルは感心していた。
これはメルクーアの小さな体格だからこそ、為し得た技である。そのままノエルが両手を離したところで、メルクーアがフランケンシュタイナーでノエルを投げ切った。
小さな体でも、これだけの迫力が出せるということに、観衆からはどよめきが起きた。
ここで両チーム、タッチ交代である。
「ぶわっ!」
猛然と走り込んでくるステファンに対し、ミリアはまともにタックルを喰らって吹っ飛ばされた。
しかし、そのまま受けっぱなしになるのはジュニアのスタイルではない。
倒れる反動でコークスクリュー・ヘッドシザーズにステファンを捉え、盛大に放り投げた。
(よし、行くよ……ッ!)
ステファンが場外に転げ落ちたところで、宇宙飛行虎爆弾のチャンスである。ミリアは反対側のロープに走るや、側転で勢いを増してから、トップロープ越えのプランチャーを敢行。
場内が、沸きに沸いた。
しかしここからは、しばらくステファンの時間である。
必殺のラリアットこそは喰らわなかったが、その豪快で荒々しいラフファイトに、ミリアはしばらく受けに廻った。
交代して入ってきたノエルもステファンが作った流れに乗って、ミリアをバックドロップで叩きつけてからグラウンドの展開へと持ってゆき、スピニング・トーホールドからテキサスクローバーホールドへと繋いだ。
そこへカットに入ったメルクーアの低空レッグラリアートが、今度は決まった。
(持ち味は出せたし……後はステファンさん、お願いします)
ノエルはミリアをダブルアームスープレックスで放り投げて間合いを取ってから、ステファンにタッチ。
ここからステファン、容赦の無い猛攻に転じた。
まぁとにかく、攻める攻める。
だが途中から攻め疲れたのか、動きが鈍くなってきた。いや、どちらかといえば、ここから攻守交代せよというステファンの意図が見え隠れしていた。
(よぅっし、了解ッ!)
ステファンからの無言のメッセージを受けて、ミリアは墓石式脳天杭打ちでダウンを奪うと、そのまま強引に引きずり上げて猛虎原爆固めで綺麗に投げ切った。
ここでノエルがカットに入り、3カウントは奪えなかったが、流れは完全に猫科同盟側である。
チキンウィングフェイスロックでステファンを捉えると、再びノエルがカットに入ってきたが、今度はメルクーアも飛び込んできて、これを阻止。
「にゃーんッ!」
ノエルの脚を取ってドラゴンスクリューを決めたかと思うと、そのままアキレス腱固めへと持ち込んで、ノエルの動きをしばし止めた。
メルクーアがノエルを押さえ込んでいる間に、ミリアは再度、猛虎原爆固めを敢行。
今度こそ、3カウントが入った。
―― 第三試合 ――
猫マスク (23分37秒、猛虎原爆固め) ステファン・ハンセン×
○ガーディアンタイガー ノエル・ザ・スネグーラチカ
●戦い終わって
僅か三試合ではあったが、祭に於けるプロレス興行は参戦したハンター達の活躍もあって、成功を収めた。
真剣勝負で勝つか負けるかだけの武闘大会とは異なり、観衆を喜ばせることを第一義とするプロレス。
その何たるかを、プロレス初心者である町の観衆に十二分以上に伝えることが出来たということで、今回の興行に参加したカミーユ、トーマス、もなか、ミリア、メルクーア、ノエル達の表情も、実に晴れやかだった。
プロレス。
それはいつの時代、場所に於いても通用するエンターテインメントである。
客席から、歓声とどよめきが波打つ潮騒のように、交互に響いてくる。
リング上では悪魔の黒兎と化したマスクマン『コエーリョ・ド・ディアーボ』に扮するカミーユ・鏑木(ka2479)と、王道のベビーフェイススタイルでカミーユを迎え撃つ『キャンディ・トム』こと喜屋武・D・トーマス(ka3424)の激突が繰り広げられていた。
試合前、カミーユとトーマスは控室で入念な打ち合わせを繰り返していた。
「念の為の確認よん。怪我したらお互い大変だものね、トーマスちゃん」
「やっぱりここはお互い、王道の展開でどうかしら。パワーを前面に押し出した迫力ある試合にしましょ」
流れとしてはヒールであるカミーユが序盤から中盤までをコントロールし、観衆のフラストレーションをそこそこ高めたところでトーマスが反撃に転じ、観衆に王道の楽しさを味わってもらう、というものである。
「ぎったぎたにしちゃうから、覚悟してよねうさーッ!」
リングに上がるや否や、いきなりリングアナウンサーからマイクを奪ってトーマスと観衆を挑発する出だしから、既にカミーユは会場そのものを支配していたといって良い。
対するトーマスも心得たもので、
「さぁ行くわよ、コエーリョちゃんッ!」
と、一応マイクで受けて立つ。
両者揃いも揃ってキワモノっぽい雰囲気だが、試合展開はオーソドックスとトリッキーを組み合わせた、プロレス初心者を喜ばせる内容だった。
まずは組み合ってからのハンマースロー、そこからカミーユがタックルでグラウンドの展開に持ってゆく。
(さぁ行くわよ、しっかり目ぇ閉じててねッ!)
カミーユはトーマスとアイコンタクトを取りつつ、マウントポジションからの容赦ない毒霧で、観衆の度肝を抜いた。
「うッきゃぁ~ッ!」
トーマスは派手に苦しみ、その様が観衆のトーマスコールを沸き起こす引き金となった。
勿論あまり一方的過ぎるのも不自然なので、トーマスも要所で浴びせ蹴りやパワースラムなどで切り替えしつつ、基本は中盤まで受けのスタイルを徹底した。
この流れを受けてカミーユがコブラツイストで締め上げた後、ハンマースローからのRKO(ジャンピング式ダイヤモンドカッター)で良い具合にトーマスのグロッキー加減を演出しており、これが非常に大きな説得力を持った。
そして予定通り、カミーユがトーマスをゴリー・エスペシャルで固めたところでは、トーマスが半分ぐらい着ぐるみに埋まってしまい、その見た目は相当厳しいダメージがトーマスを苦しめているという印象を観衆に抱かせることに成功していた。
両腕両脚を固められての背面バックブリーカーである。見た目的には相当なインパクトがあった。
しかし実際にはトーマスは然程に苦しんでおらず、ゴリー・エスペシャルを受けながら少しばかり休憩していたというのが実情であったが。
(ねぇトーマスちゃん、もうちょっと苦しんで頂戴な)
(あら、御免なさい)
その直後からトーマス、派手に苦悶。ヒール・コエーリョの面目躍如である。
何とかブレークし、トーマスが窮地を脱したところから展開が切り替わった。
トーマスが死力を尽くして(と観衆に思わせて)カミーユをドラゴンスクリューで動きを封じ、続けて胴締めドラゴンスリーパーでぐいぐいと締め上げた。
「ちょっと……苦しいうさッ!」
カミーユがここで上手くサミングを駆使して、最後の見せ場を作った。勿論この時は、ブーイングの大波がリング上に押し寄せてきたが、これこそまさに望むところであろう。
序盤を小技で、中盤を投げや極め技の応酬に固めた試合運びは、フィニッシュへのムーヴメントを観衆に納得させるには十分な役割を果たしていた。
最後は両者、力を出し尽くして大技の仕掛け合いとなった。
「っしゃぁッ! いっくぞぉらぁッ!」
吼えた直後、トーマスのノーザンライトスープレックスが美しい弧を描き、カミーユの体躯は空中でくるりと回転しながらマットに叩きつけられ、そのまま3カウントを聞いた。
その直前に決まっていたノーザンライトボム気味のパワースラムがほとんどフィニッシュに近しい威力を発揮していたのが、トーマスには幸いした。
(……ま、プロレス初心者には勧善懲悪の分かり易い展開が、一番親切かしらね)
勝ち名乗りを受けているトーマスを尻目に、カミーユは赤コーナーのエプロンサイドで尻もちをつきながら、やんやの喝采を送っている観衆に満足げな視線を送った。
観衆は気付いていなかったが、トーマスは勝ち名乗りを受けている最中、一瞬だけカミーユにウィンクを送る仕草を見せた。
カミーユの巧みな試合運びがあってこその、これだけの大歓声であるということを、誰よりもトーマス自身が一番よく理解していた。
―― 第一試合 ――
○キャンディ・トム (14分21秒、北斗原爆固め) コエーリョ・ド・ディアーボ×
●真剣勝負だからこそ
「さぁここからはマイクを手放し、リング上を主戦場に致しますッ!」
直前まで実況担当として実況席に陣取っていた水城もなか(ka3532)は、自身の出番となるとほとんど一瞬に近い生着替えで軍人っぽいリングコスチュームに変身し、一気にリング上へと駆け登った。
ゲスト解説として隣に座っていたステファン・ハンセンが、呑気な笑顔でリング上へと駆けてゆくもなかに手を振っていた。
もなかの対戦相手は、秋山潤である。
潤との事前の打ち合わせで、ハイブリッドレスリングスタイルで進めることが決まっていた。
基本的に潤は王道スタイルなのだが、ストロングスタイルやハイブリッドにも対応出来る、懐の深さを具えていた。
これは、もなかにとっても大変に有り難い。
(市民を守る軍人として負ける訳には参りません……勿論、怪我をさせないこと前提ですが、ガチで行かせて頂きますッ!)
もなか自身は本職のプロレスラーとしては、経験が浅い。
長時間に亘る試合展開は非常に辛い旨を潤に伝えたところ、所謂秒殺が定着しているハイブリッドなら、もなかにとって一番安心出来る展開に持っていけるだろう、との話であった。
「軍人さんを、舐めちゃいけませんよぉッ!」
もなかの挑発で会場が沸くと同時に、ゴングが鳴った。
開始直後こそは、もなかが立体的な動きからのトリッキーなミサイルキックで観衆を沸かせたが、その後は本当に真剣勝負に近しい技の応酬となった。
潤がエルボーを繰り出せばもなかがニーリフトで返し、逆にもなかがハイキックで攻めれば潤は掌打で返すといった具合に、序盤から激しい攻防が展開された。
そして、決着が早いのもハイブリッドの特徴である。
グラウンドの展開に入るや、まずもなかがスリーパーホールドで潤の後ろを取ると、潤は器用にこれを切り替えし、脇固めに入った。
ところが更に今度はもなかが、脇固めが完全に入り切る前に全身を回転させてこれを脱し、潤を三角絞めに捉えた。
実に目まぐるしい展開に、技が決まって動きが落ち着いたところで、会場から一斉に歓声が上がった。
そして肝心の勝負の方はというと、もなかの三角絞めから抜けられないと瞬間的に判断した潤が、ものの数秒でタップして決着がついた。
(流石に、プロですね……下手に失神してスタッフに迷惑をかけるのではなく、早々にタップして試合を終わらせるとは)
もなかも、レフェリーがタップを認めて試合終了のゴングを要請した以上、いつまでも技をかけ続ける訳にはいかない。
「ありがとうございました」
勝ち名乗りを受けた後、自ら潤に歩み寄って握手を求めると、潤も満足げな笑みで右手を差し出した。
「まだ仕事は、終わってないわよ。ここからはまた、実況席に戻って声を嗄らせなきゃ」
「あ……そういえば、次の試合のゲスト解説は、潤さんでしたっけ」
ふたりは慌ててリングを降り、試合時の格好そのまんまで実況席に飛び込んで、次の試合に向けてマイクの調整に入った。
―― 第二試合 ――
○水城もなか (2分46秒、三角絞め) 秋山潤×
●異次元プロレス
最後の試合は、タッグマッチである。
全身ピンク一色の、虎をモチーフにした覆面とマントを着用しているミリア・コーネリウス(ka1287)と、猫マスクに肉球グローブで子猫スタイルのコスチュームで統一した『猫マスク』メルクーア(ka4005)が、軽快な入場曲に乗って颯爽とリングインを果たす。
ミリアがマントを客席に放り投げる一方で、メルクーアはマットの中央で、
「にゃ~んッ」
と妙なリズムでダンスを披露していた。
このふたり、一日限定の猫科同盟なるタッグチームを結成していた。
ちなみに、メルクーアだけがリングネームを用意しているのは勿体ないということで、潤がミリアにガーディアンタイガーなるリングネームを用意していた。
「あ、成る程。確かに、ひとりだけ素で本名ってのも、おかしな話か」
ミリアも、思わず納得した。
このガーディアンタイガーはスーパージュニアヘビー級、そして猫マスクはミゼットプロレスのスタイルという実に印象的且つ異色のタッグチームであった。
対する『ノエル・ザ・スネグーラチカ』ことノエル(ka0768)と、ステファン・ハンセンのペアは王道スタイルのタッグチームである。
蒼を基調とした爽やかな色合いのリングコスチュームを身に纏うノエルと、ブルロープを振り回しながらテキサスアメリカンスタイルで猛然と突っ込んでくるステファン。
このふたりも、微妙にスタイルが異なる珍しいペアであった。
ゴングが鳴った。
先発はメルクーアとノエルである。
とりあえずノエルとしては、相手の技を全部貰う腹積もりでリングインしたが、メルクーアのトリッキーで観衆の笑いを誘う動きには、特に注意が必要だった。
下手に真面目な返しを入れてしまうと、それだけで全てが台無しになってしまう。
メルクーアの持ち味を、最大限に活かしてやらなければならなかった。
「にゃーんッ!」
早速メルクーアがロープの反動を使ったレッグラリアートを仕掛けるも、位置が微妙にずれていたのか、ノエルに真正面から受け止められ、所謂お姫様抱っこ状態から、ぽいっと放り投げられてしまった。
「うにゃ~んッ!」
腰をさすってから、猫そっくりの顔を洗う仕草でリング内を走り回るメルクーア。
会場内が、笑いに包まれた。
更にノエルがナックルパートでじりじりと間合いを詰めてきたところで、メルクーアは猫パンチで応酬。
一方は真面目にジャブを連打し、一方は猫そっくりの動きでふにゃふにゃとパンチを返す様は、滑稽というよりもシュールであった。
しかし、ただ笑いを誘うばかりではない。
ノエルがダブルアームスープレックスの態勢にてメルクーアをリバースフルネルソンで真っ逆さまに持ち上げたところで、メルクーアは両太腿でノエルの頭を左右から挟んだ。
(成る程……これは、面白いですね)
メルクーアの太腿に頭を捉えられながらも、ノエルは感心していた。
これはメルクーアの小さな体格だからこそ、為し得た技である。そのままノエルが両手を離したところで、メルクーアがフランケンシュタイナーでノエルを投げ切った。
小さな体でも、これだけの迫力が出せるということに、観衆からはどよめきが起きた。
ここで両チーム、タッチ交代である。
「ぶわっ!」
猛然と走り込んでくるステファンに対し、ミリアはまともにタックルを喰らって吹っ飛ばされた。
しかし、そのまま受けっぱなしになるのはジュニアのスタイルではない。
倒れる反動でコークスクリュー・ヘッドシザーズにステファンを捉え、盛大に放り投げた。
(よし、行くよ……ッ!)
ステファンが場外に転げ落ちたところで、宇宙飛行虎爆弾のチャンスである。ミリアは反対側のロープに走るや、側転で勢いを増してから、トップロープ越えのプランチャーを敢行。
場内が、沸きに沸いた。
しかしここからは、しばらくステファンの時間である。
必殺のラリアットこそは喰らわなかったが、その豪快で荒々しいラフファイトに、ミリアはしばらく受けに廻った。
交代して入ってきたノエルもステファンが作った流れに乗って、ミリアをバックドロップで叩きつけてからグラウンドの展開へと持ってゆき、スピニング・トーホールドからテキサスクローバーホールドへと繋いだ。
そこへカットに入ったメルクーアの低空レッグラリアートが、今度は決まった。
(持ち味は出せたし……後はステファンさん、お願いします)
ノエルはミリアをダブルアームスープレックスで放り投げて間合いを取ってから、ステファンにタッチ。
ここからステファン、容赦の無い猛攻に転じた。
まぁとにかく、攻める攻める。
だが途中から攻め疲れたのか、動きが鈍くなってきた。いや、どちらかといえば、ここから攻守交代せよというステファンの意図が見え隠れしていた。
(よぅっし、了解ッ!)
ステファンからの無言のメッセージを受けて、ミリアは墓石式脳天杭打ちでダウンを奪うと、そのまま強引に引きずり上げて猛虎原爆固めで綺麗に投げ切った。
ここでノエルがカットに入り、3カウントは奪えなかったが、流れは完全に猫科同盟側である。
チキンウィングフェイスロックでステファンを捉えると、再びノエルがカットに入ってきたが、今度はメルクーアも飛び込んできて、これを阻止。
「にゃーんッ!」
ノエルの脚を取ってドラゴンスクリューを決めたかと思うと、そのままアキレス腱固めへと持ち込んで、ノエルの動きをしばし止めた。
メルクーアがノエルを押さえ込んでいる間に、ミリアは再度、猛虎原爆固めを敢行。
今度こそ、3カウントが入った。
―― 第三試合 ――
猫マスク (23分37秒、猛虎原爆固め) ステファン・ハンセン×
○ガーディアンタイガー ノエル・ザ・スネグーラチカ
●戦い終わって
僅か三試合ではあったが、祭に於けるプロレス興行は参戦したハンター達の活躍もあって、成功を収めた。
真剣勝負で勝つか負けるかだけの武闘大会とは異なり、観衆を喜ばせることを第一義とするプロレス。
その何たるかを、プロレス初心者である町の観衆に十二分以上に伝えることが出来たということで、今回の興行に参加したカミーユ、トーマス、もなか、ミリア、メルクーア、ノエル達の表情も、実に晴れやかだった。
プロレス。
それはいつの時代、場所に於いても通用するエンターテインメントである。
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相談卓 メルクーア(ka4005) ドワーフ|10才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/08/05 09:57:10 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/08/01 02:58:31 |