ゲスト
(ka0000)
心優しき商人の護衛
マスター:鳴海惣流

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~7人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/08/21 15:00
- 完成日
- 2015/08/25 17:57
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
「少しでも人の役に立てれば、商人としてとても嬉しいですね」
太陽の光が降り注ぐ林道にて、グラズヘイム王国内で商人をしているダンダ・ダッダが言った。
二匹の馬を引くその顔には、満面の笑みを浮かべている。
商人ではあるものの、商売をするより誰かの役に立ちたかった。
ふっくらとした容姿のダンダは、三十代後半の男性。
生まれてからずっと住んでいる村には、愛する妻と娘がいる。自分の留守中、店を預かってくれている。
人々の役に立ちたいと願うがゆえに、商人として出向く先は戦争などで被害を受けたような村や地域が多かった。
実際に戦うわけでなくとも、危険はある。とてもじゃないが、大切な妻子を同行させられない。
ダンダと共に道を歩いているのは、目的地までの護衛を引き受けたハンターたちだ。
戦う能力のないダンダと違い、ハンターたちは戦闘のエキスパートだ。
遠くまで商売に出るのは初めてでも、おかげで安心できる。
最近はゴブリンなどの亜人の出現が増え、各村にも被害が出ていると聞く。用心するにこしたことはない。
向かう先は、王国内でも北――アルテリア地方のとある小さな集落だった。
つい先日、店に来たお客さんから、その村が大変困ってると聞いた。
ゴブリンに襲われ、撃退したまではよかったが、村にある唯一の日用雑貨店が破壊されてしまった。
すぐの商品調達が困難で、不便な生活を強いられているらしい。
それなら、商人である自分の出番だ。そう思って、ダンダは立ち上がった。
村に金銭がないのであれば、無料でも構わない。
日用品以外にも、様々なものが不足しているはずだ。
個人店主にすぎないダンダだけでは限界があるものの、可能な限りの商品を用意した。
「村人が困窮しているのなら、運んでる物資を無料で提供してもいいと思ってるんですよ。人の命の方が、お金よりも大事ですからね。なんと、妻も賛成してくれたんです。よくできた女性だと思いませんか」
苦笑するハンターもいる中、その時の光景を思い出しているのか、ダンダはだらしないくらいのニヤケ顔になる。
――緊張感がまるでなかったせいか。もしくは周囲を木々に挟まれているせいか。
一行は敵の接近に気付けなかった。
「ゴ、ゴブリン!?」
現れたのは総勢十一匹のゴブリン。全員が、これまでに襲った旅人から奪ったと思われる草鎧とショートソードを装備している。
驚愕の声を発したダンダ。危うく腰が抜けそうになる。
慌てふためいて前へ逃げようとするも、すでに敵の陣形は完成していた。
先ほどまで平和だった緑豊かな道が、肌が切り裂かれそうな緊張感に包まれる。
「お、お願いです。馬に運ばせている積み荷を守ってください!」
睨み合うハンターとゴブリン。
積み荷とダンダを守るための戦いが、今、開始される――。
「少しでも人の役に立てれば、商人としてとても嬉しいですね」
太陽の光が降り注ぐ林道にて、グラズヘイム王国内で商人をしているダンダ・ダッダが言った。
二匹の馬を引くその顔には、満面の笑みを浮かべている。
商人ではあるものの、商売をするより誰かの役に立ちたかった。
ふっくらとした容姿のダンダは、三十代後半の男性。
生まれてからずっと住んでいる村には、愛する妻と娘がいる。自分の留守中、店を預かってくれている。
人々の役に立ちたいと願うがゆえに、商人として出向く先は戦争などで被害を受けたような村や地域が多かった。
実際に戦うわけでなくとも、危険はある。とてもじゃないが、大切な妻子を同行させられない。
ダンダと共に道を歩いているのは、目的地までの護衛を引き受けたハンターたちだ。
戦う能力のないダンダと違い、ハンターたちは戦闘のエキスパートだ。
遠くまで商売に出るのは初めてでも、おかげで安心できる。
最近はゴブリンなどの亜人の出現が増え、各村にも被害が出ていると聞く。用心するにこしたことはない。
向かう先は、王国内でも北――アルテリア地方のとある小さな集落だった。
つい先日、店に来たお客さんから、その村が大変困ってると聞いた。
ゴブリンに襲われ、撃退したまではよかったが、村にある唯一の日用雑貨店が破壊されてしまった。
すぐの商品調達が困難で、不便な生活を強いられているらしい。
それなら、商人である自分の出番だ。そう思って、ダンダは立ち上がった。
村に金銭がないのであれば、無料でも構わない。
日用品以外にも、様々なものが不足しているはずだ。
個人店主にすぎないダンダだけでは限界があるものの、可能な限りの商品を用意した。
「村人が困窮しているのなら、運んでる物資を無料で提供してもいいと思ってるんですよ。人の命の方が、お金よりも大事ですからね。なんと、妻も賛成してくれたんです。よくできた女性だと思いませんか」
苦笑するハンターもいる中、その時の光景を思い出しているのか、ダンダはだらしないくらいのニヤケ顔になる。
――緊張感がまるでなかったせいか。もしくは周囲を木々に挟まれているせいか。
一行は敵の接近に気付けなかった。
「ゴ、ゴブリン!?」
現れたのは総勢十一匹のゴブリン。全員が、これまでに襲った旅人から奪ったと思われる草鎧とショートソードを装備している。
驚愕の声を発したダンダ。危うく腰が抜けそうになる。
慌てふためいて前へ逃げようとするも、すでに敵の陣形は完成していた。
先ほどまで平和だった緑豊かな道が、肌が切り裂かれそうな緊張感に包まれる。
「お、お願いです。馬に運ばせている積み荷を守ってください!」
睨み合うハンターとゴブリン。
積み荷とダンダを守るための戦いが、今、開始される――。
リプレイ本文
●
決して油断していたわけじゃない。
それでも、気がつけばゴブリンの集団に囲まれてしまっていた。
いきなりの展開に狼狽しつつも、ダンダは自分の身よりも馬と荷物を心配する。
「積み荷を守ってください。困っている人たちを、助けてあげられるものばかりなんです」
ダンダから荷物についての説明を受けていたハンターたちが反応する。
「このご時世に立派なんじゃん! ダンダさんの力になりたいし、荷物を待ってる人もいる! これははりきって護衛しないとね。……そういえば私、護衛任務が多いけど気のせい?」
ひとり小首を傾げながらリンカ・エルネージュ(ka1840)が言った。
「無償でも良いとか……私はタダ働きはごめんですねー。でも嫌いじゃないですよそういうの。個人的にはあり得ないけどその心意気はすごいと思います。きっとそういうのの積み重ねが世界を動かしたりするんでしょうねー」
しみじみと言ったのはアメリア・フォーサイス(ka4111)だ。
その言葉に反応したわけではないだろうが、ステラ・レッドキャップ(ka5434)がおしとやかそうに微笑む。
そうですねと頷きつつも、ステラの心情は、表情とまるで違っていた。
――無料で提供ってバカだろ? ……まぁ、嫌いじゃねェけどよ。
ダンダの性格に呆れつつも顔に出さず、内心でステラは尊敬もしていた。
「被災地への救援物資を無償で運んでいる商人の護衛、思うところもあって受けたけど。商人としてはあまり良くない気もするけど、ただ将来的な顧客も増えるし悪いことじゃない」
周囲に注意を向けるカイン・マッコール(ka5336)が、独り言のように呟いた。
その側では友人同士であるフィリテ・ノート(ka0810)と蒼綺 碧流(ka3373)が、お互いの位置と状況を確認し合う。
ハンターを取り囲んだゴブリンが咆哮を放つ。
余計に怯えたダンダがパニくって、ゴブリンの待ち構える前方へ進もうとする。
真っ先に声をかけたのは、ダンダの近くにいたアバルト・ジンツァー(ka0895)だった。
「……落ち着いてくれ! 皆若いが、一廉のハンターばかりだ。必ずおぬしと荷物は守りきってみせる。安心して自分らの指示に従ってくれればいい」
ダンダを落ち着かせようとするのは、アバルトだけではなかった。
アメリアがダンダへ、まずは深呼吸をするように促す。
「はーい、ダンダさん落ち着いて下さいねー。何の為に私達を雇ったんですか? こういう時の為ですよね? 指示に従って動いて下さい。絶対に守ります。返事は?」
「は、はいっ」
反射的に返事をしたダンダが直立する。
アバルトとアメリアのおかげで多少は落ち着いたみたいだが、まだ本調子とはいかないみたいだった。
そこで碧流も、ダンダへ声をかける。
「前に行くなら慌てず確実に進みさえすれば前を排除することに専念できて時間も稼げるかもなのです。全てがうまくいけばきっとご褒美のプリンをもらえるのです!」
「は、はあ……」
とりあえずダンダの中の恐怖は和らいだ。
ダンダが前へ進めば後方からの攻撃を遅らせられる。
落ち着きを取り戻しつつあるダンダに、お淑やかな少女を猫かぶるステラが話しかける。
「大事な積み荷を護る為、速やかに前へ進んでいただけますでしょうか」
道中の話で聞いていた、ダンダの妻の雰囲気に近い感じで催促した。この方がより効果的だと判断したためだ。
ハンターたちの指示により、ダンダは二頭の馬を連れて前方を目指す。
「護衛!! 守るものの優先順位は……ダンダさん! 次いで馬と荷物。ゴブリンを倒すことも大切だけどね」
リンカが声を張り上げた。
頷いたフィリテが、後方から馬へ迫ろうとするゴブリンへの対処として、馬の背後へアースウォールを放った。
完成したニメートル四方もの土壁が、後方からの攻撃を防ぐ盾代わりとなる。
二匹のゴブリンは馬の背後から攻撃を仕掛けられなくなり、左右に一匹ずつ分かれる。
「よっし、これで後ろのゴブリン達への時間稼ぎになったわ!」
してやったりの表情を浮かべたフィリテのおかげで、注意すべき敵からの攻撃は、前方と左右の三方向になった。
まずはダンダが向かっている先の、前方に陣取るゴブリンをなんとかしなければならない。
憎悪に満ちた視線を向けるカインが、武器を構える。
「ハンターになる前もこんな人から食事もらってたし、たまにはこういう依頼なら悪くない。……と思っていたのに、またゴブリンかいつもいつもこいつらは、弱者を狙い嬲り殺していくんだ。だから僕は亞人を許さない」
狙いを定めた遠距離攻撃を、ゴブリンの一匹へ見舞った。
負ったダメージで苦悶する敵を、ステラが仕留めにかかる。
「多少は危険を冒す覚悟はありますが、接近されずに済むのであれば、それにこしたことはありません」
放った強弾が、標的にしたゴブリンを絶命させた。
ダンダの左隣を守る形で移動したアバルトも、前方にいるゴブリンへの射撃を行う。
「今為すべき事はゴブリンの掃討ではなく、ダンダと荷馬を無事逃がす事だ。その障害となる前方のゴブリンを撃破する」
レイターコールドショットをまともに食らったゴブリンは瀕死となるも、一撃で仕留めるには至らなかった。
しかし傷を負ったゴブリンは冷気により、行動を阻害される。
ダンダの前にいる碧流も、正面のゴブリン撃破を担う。
空に一発撃って轟音を出し、ダンダに冷静さを取り戻させようとも考えた。けれどすでにだいぶ混乱ぶりが収まっていたので、碧流は最初からゴブリンに銃口を向けた。
「……ゴブリン……葬るのです」
冷徹冷静にゴブリンの命を奪う。前方に残るのは一匹となり、正面方向の安全を確保できるのも時間の問題だ。
眼光を鋭くした碧流が言葉を続ける。
「ダンダさん……焦らず急いで正確に動くのです」
「わ、わかりました!」
ダンダが返事をする中、リンカはフィリテのアースウォールによって、馬の左右へ回り込もうとするゴブリンの一匹をウォーターシュートで撃退する。
「大丈夫ですよ、ダンダさん。私たちに任せて!」
ゴブリンに遭遇する前まで色々と話、多少なりともリンカはダンダとの信頼関係を築けていた。
そのダンダを勇気づけるためにも強気に、頼もしく見えるように振る舞った。おかげでダンダも、ほんのわずかだが安心したみたいだった。
馬とダンダの側からできるだけ離れないようにしていたアメリアは、制圧射撃で一行の右側を狙うゴブリンの戦闘を行動不能にする。
張られた弾幕で動けなくなっているゴブリンの側を、他の二匹が血肉に飢えた瞳をギラつかせて駆け抜ける。一行の左側に位置を取っていたゴブリンも馬との距離を詰めてくる。
ダンダはハンターに指示されたとおり、ひたすら前への移動を継続する。そこへ正面衝突する形で、ゴブリンもやってくる。
ひいっと悲鳴を上げるダンダに、アバルトが恐れずに進めと声をかける。前方に残っているゴブリンは最後の一匹だ。
よく狙ったレイターコールドショットで、ゴブリンをほとんど動けない状態へ追い込む。
とどめを刺すのはカインだ。
「この人をお前たちにやらせる訳にはいかない」
断末魔の叫びを放ち、ゴブリンが地面へ倒れる。もう息をしていないのは、傍目からでも明らかだった。
倒れたゴブリンをチラリと横目で見つつ、アメリアはリロードしたばかりの銃で再び制圧射撃を行う。迷ったが、同じゴブリンを引き続き狙う。
一行の右側から押し寄せてくるゴブリンが、アメリアのおかげで一匹減っている。これだけでも大助かりだ。
その間にステラが行動不能のゴブリンの横から向かってくるうちの一匹の足を、強弾を放って止める。
ステラの援護によって生まれた敵の隙を見逃さず、リンカは持ち替えた武器にファイアエンチャントをかける。
ゴブリンたちの動きに注視し、ステラの一撃でダメージを負っていた一匹をリンカが切り捨てた。
「ダンダさんの安全が確保できそうなら、あとは荷物を守らないとね!」
これで残るゴブリンは六匹。うち三匹が一行の左側から南下し、先頭の一匹が馬に狙いを定めている。続く二匹は前方へ逃げていくダンダと二頭の馬を追いかけようとする。
後方から迫っていた一匹は、一行から見て右側の二匹と合流した。右側には三匹となったが、そのうちの一匹はアメリアが制圧射撃で行動を封じている。
今まではなんとか守れてきたが、危険度は確実に上昇中だ。このまま挟撃されたら、ダンダはともかく馬と荷物に被害が出る。
馬を攻撃範囲に入れているゴブリンを放置はできない。フィリテが友人でもある碧流へ指示を出す。
「碧流、狙撃はお願いね。あたしはフォローに徹するわ」
この子の腕は確かだから、あまりすることはないと思うけど……。
心の中で呟きつつも、フィリテは確実に狙ったゴブリンを倒すためにウォーターシュートで援護する。
「リテ、信用してるのです」
弱ったゴブリンにライフルの弾丸を命中させ、寸前のところで馬へ危害を加えそうだったゴブリンを仕留めた。
しかし、倒れたゴブリンを踏みつけるように、他のゴブリンがその場に到着する。放置しておくのは危険すぎる。
横目で見ていたアメリアはそちらの援護へまわろうかと思ったが、挟み撃ちの危険を考慮すれば、足止めを途中でやめられない。
接近されたゴブリンへの対処は仲間に任せ、アメリアは制圧射撃を続ける。今度はこれまでと他のゴブリンを狙う。やはり馬に近づきつつあった一匹だ。
行動不能にし続けてきたゴブリンは動きを回復するが、すぐには逃げ続ける馬の側へは到着できない。そう判断してターゲットを変更したのである。
一行の左側から迫るゴブリンは二匹。馬を無視して、ダンダを狙える距離でもある。
間違ってもダンダが囲まれたりしないよう、カインは近づいてくるゴブリンに射撃を行う。
「僕はこの人を護る、そしてゴブリンは殺すだけだ」
一撃では倒せなかったものの、勢いをそぐには十分すぎる威力だった。
ダンダの前方の安全を確保できていたのもあり、ステラが味方と連携をとる。
「積み荷の安全を優先し、ゴブリンを迅速に掃討します」
カインの攻撃で弱っていたゴブリンをきっちり仕留め、左側から迫ってきたゴブリンの数を残り一匹まで減らした。
その一匹も、迎撃準備を終えていたフィリテのウォーターシュートをまともに食らう。
「碧流、今よっ!」
フィリテと一対な連携を心がけていた碧流が、待ってましたとばかりにゴブリンへ致命傷を与えた。
左側のゴブリンを殲滅し、危険度がある程度下がった。馬を連れてなおも前方へ移動するダンダの顔にも、多少の余裕が復活する。
残ったゴブリンが一行の右側に集中したことで、ハンターたちもずいぶんと戦いやすくなった。
周囲の僅かな空間を発見しては潜り狙撃を敢行する碧流の近くで、フィリテがフォローでウォーターシュートを放つ。
味方の行動を阻害するような魔術行使はせず、なるべく死角や隙を埋めるように行使していく。
連携のとれた碧流とフィリテの攻撃で、ゴブリンの数がさらに一匹減る。
その間にもダンダは逃げ続けるので、確実に危機は脱していく。
ゴブリンの中に指揮官がいるかもしれない――。
ステラや碧流は、その可能性を考慮して注意深く敵を観察していた。結局のところリーダーらしき存在はいなかった。
まとまって一行を襲ったまではよかったが、戦闘が開始されると一斉に襲い掛かるだけだった。効果的な作戦などを用いたりもしなかった。
二人の心配が杞憂に終わり、ダンダも着実に安全圏へ移動する。
しかし、残った二匹のゴブリンは執拗に追い縋る。
「……今後の為にも後顧の憂いは断つべきだろう」
最初に立ち止ったのはアバルトだ。仲間にダンダの護衛を委ね、殲滅させるべくレイターコールドショットを打ち込む。
ゴブリンに強襲された場合の対策として、他のハンターの動きと戦術を観察していたカインもアバルトに続いた。
護衛対象のダンダや馬に気を遣わなくてよくなれば、二匹のゴブリンはハンターたちの敵ではなかった。
ゴブリン一掃後。碧流の顔を見ながら、フィリテは急にプリンを作ろうかな、と心の中で考えだす。
普通の手作りプリンは、既に食べ飽きてるでしょうし……紅茶の茶葉でプリンってできるかしら。
フィリテと碧流が互いの無事を喜んでいると、ダンダが助かったと大きく息を吐いた。
「ありがとうございました。荷物はもちろんですが、皆さんもご無事でよかったです」
お礼を言い終えたダンダにカインが近づく。
コーヒーが趣味のカインは、珈琲の生豆が仕入れられるところがないか質問した。
「申し訳ありません。私は取り扱っておりませんし、知り合いにも恐らくいないと……」
申し訳なさそうなダンダに、カインは気にしないでくださいと告げる。
ゴブリンたちによる奇襲を乗り越えたあとは、さしたる障害もなく一行は目的地へ到着できたのだった。
●
到着した小さな村は予想以上に被害が大きかった。
ゴブリンに襲撃された影響で怪我人が多く、日用品どころか薬類なども不足していた。
商品を欲しそうにしながらも、家が壊されたせいでお金がどこにいったかわからないという家族がいた。
するとダンダは必要な品を聞き、手元にあるものを無償で手渡した。
「困った時はお互い様です。命があればお金は稼げますが、お金で命は買えないですからね」
そう言って笑い、損をするのも構わずに商品を提供していく。
人手が必要だったのもあり、ダンダの護衛を終えたハンターたちも手伝った。
フィリテが忙しそうにしながらも、やりがいがありそうに村の中を走り回る。
「営業スマイル営業スマイル♪ 笑顔は接客の基本です!」
にこやかな笑顔で、アメリアが村人と交流する。
大量に持ってきた荷物はすぐに売り切れた……というより、配り終えた。
ハンターが必死に守ったおかげで、不便な生活を強いられてきた村人に一時的とはいえ笑顔が戻った。
利益がなかろうとも、その光景を眺めているだけでダンダは満足そうだった。
そこへアバルトが近寄る。ダンダの肩に置いた手に、軽く力を込める。
「……おぬしの志は実に立派だ。その手助けが出来た事は自分にとっても誇りに思う。次の機会にも声掛けして貰いたい」
ありがとうございます。そう言って頭を下げたダンダは、充実しきった笑顔を浮かべた。
ダンダの背後からは、村人たちの楽しそうな話し声が聞こえてくる。
晴れやかなハンターたちの気持ちを表すかのように、雲ひとつない空はどこまでも青かった。
決して油断していたわけじゃない。
それでも、気がつけばゴブリンの集団に囲まれてしまっていた。
いきなりの展開に狼狽しつつも、ダンダは自分の身よりも馬と荷物を心配する。
「積み荷を守ってください。困っている人たちを、助けてあげられるものばかりなんです」
ダンダから荷物についての説明を受けていたハンターたちが反応する。
「このご時世に立派なんじゃん! ダンダさんの力になりたいし、荷物を待ってる人もいる! これははりきって護衛しないとね。……そういえば私、護衛任務が多いけど気のせい?」
ひとり小首を傾げながらリンカ・エルネージュ(ka1840)が言った。
「無償でも良いとか……私はタダ働きはごめんですねー。でも嫌いじゃないですよそういうの。個人的にはあり得ないけどその心意気はすごいと思います。きっとそういうのの積み重ねが世界を動かしたりするんでしょうねー」
しみじみと言ったのはアメリア・フォーサイス(ka4111)だ。
その言葉に反応したわけではないだろうが、ステラ・レッドキャップ(ka5434)がおしとやかそうに微笑む。
そうですねと頷きつつも、ステラの心情は、表情とまるで違っていた。
――無料で提供ってバカだろ? ……まぁ、嫌いじゃねェけどよ。
ダンダの性格に呆れつつも顔に出さず、内心でステラは尊敬もしていた。
「被災地への救援物資を無償で運んでいる商人の護衛、思うところもあって受けたけど。商人としてはあまり良くない気もするけど、ただ将来的な顧客も増えるし悪いことじゃない」
周囲に注意を向けるカイン・マッコール(ka5336)が、独り言のように呟いた。
その側では友人同士であるフィリテ・ノート(ka0810)と蒼綺 碧流(ka3373)が、お互いの位置と状況を確認し合う。
ハンターを取り囲んだゴブリンが咆哮を放つ。
余計に怯えたダンダがパニくって、ゴブリンの待ち構える前方へ進もうとする。
真っ先に声をかけたのは、ダンダの近くにいたアバルト・ジンツァー(ka0895)だった。
「……落ち着いてくれ! 皆若いが、一廉のハンターばかりだ。必ずおぬしと荷物は守りきってみせる。安心して自分らの指示に従ってくれればいい」
ダンダを落ち着かせようとするのは、アバルトだけではなかった。
アメリアがダンダへ、まずは深呼吸をするように促す。
「はーい、ダンダさん落ち着いて下さいねー。何の為に私達を雇ったんですか? こういう時の為ですよね? 指示に従って動いて下さい。絶対に守ります。返事は?」
「は、はいっ」
反射的に返事をしたダンダが直立する。
アバルトとアメリアのおかげで多少は落ち着いたみたいだが、まだ本調子とはいかないみたいだった。
そこで碧流も、ダンダへ声をかける。
「前に行くなら慌てず確実に進みさえすれば前を排除することに専念できて時間も稼げるかもなのです。全てがうまくいけばきっとご褒美のプリンをもらえるのです!」
「は、はあ……」
とりあえずダンダの中の恐怖は和らいだ。
ダンダが前へ進めば後方からの攻撃を遅らせられる。
落ち着きを取り戻しつつあるダンダに、お淑やかな少女を猫かぶるステラが話しかける。
「大事な積み荷を護る為、速やかに前へ進んでいただけますでしょうか」
道中の話で聞いていた、ダンダの妻の雰囲気に近い感じで催促した。この方がより効果的だと判断したためだ。
ハンターたちの指示により、ダンダは二頭の馬を連れて前方を目指す。
「護衛!! 守るものの優先順位は……ダンダさん! 次いで馬と荷物。ゴブリンを倒すことも大切だけどね」
リンカが声を張り上げた。
頷いたフィリテが、後方から馬へ迫ろうとするゴブリンへの対処として、馬の背後へアースウォールを放った。
完成したニメートル四方もの土壁が、後方からの攻撃を防ぐ盾代わりとなる。
二匹のゴブリンは馬の背後から攻撃を仕掛けられなくなり、左右に一匹ずつ分かれる。
「よっし、これで後ろのゴブリン達への時間稼ぎになったわ!」
してやったりの表情を浮かべたフィリテのおかげで、注意すべき敵からの攻撃は、前方と左右の三方向になった。
まずはダンダが向かっている先の、前方に陣取るゴブリンをなんとかしなければならない。
憎悪に満ちた視線を向けるカインが、武器を構える。
「ハンターになる前もこんな人から食事もらってたし、たまにはこういう依頼なら悪くない。……と思っていたのに、またゴブリンかいつもいつもこいつらは、弱者を狙い嬲り殺していくんだ。だから僕は亞人を許さない」
狙いを定めた遠距離攻撃を、ゴブリンの一匹へ見舞った。
負ったダメージで苦悶する敵を、ステラが仕留めにかかる。
「多少は危険を冒す覚悟はありますが、接近されずに済むのであれば、それにこしたことはありません」
放った強弾が、標的にしたゴブリンを絶命させた。
ダンダの左隣を守る形で移動したアバルトも、前方にいるゴブリンへの射撃を行う。
「今為すべき事はゴブリンの掃討ではなく、ダンダと荷馬を無事逃がす事だ。その障害となる前方のゴブリンを撃破する」
レイターコールドショットをまともに食らったゴブリンは瀕死となるも、一撃で仕留めるには至らなかった。
しかし傷を負ったゴブリンは冷気により、行動を阻害される。
ダンダの前にいる碧流も、正面のゴブリン撃破を担う。
空に一発撃って轟音を出し、ダンダに冷静さを取り戻させようとも考えた。けれどすでにだいぶ混乱ぶりが収まっていたので、碧流は最初からゴブリンに銃口を向けた。
「……ゴブリン……葬るのです」
冷徹冷静にゴブリンの命を奪う。前方に残るのは一匹となり、正面方向の安全を確保できるのも時間の問題だ。
眼光を鋭くした碧流が言葉を続ける。
「ダンダさん……焦らず急いで正確に動くのです」
「わ、わかりました!」
ダンダが返事をする中、リンカはフィリテのアースウォールによって、馬の左右へ回り込もうとするゴブリンの一匹をウォーターシュートで撃退する。
「大丈夫ですよ、ダンダさん。私たちに任せて!」
ゴブリンに遭遇する前まで色々と話、多少なりともリンカはダンダとの信頼関係を築けていた。
そのダンダを勇気づけるためにも強気に、頼もしく見えるように振る舞った。おかげでダンダも、ほんのわずかだが安心したみたいだった。
馬とダンダの側からできるだけ離れないようにしていたアメリアは、制圧射撃で一行の右側を狙うゴブリンの戦闘を行動不能にする。
張られた弾幕で動けなくなっているゴブリンの側を、他の二匹が血肉に飢えた瞳をギラつかせて駆け抜ける。一行の左側に位置を取っていたゴブリンも馬との距離を詰めてくる。
ダンダはハンターに指示されたとおり、ひたすら前への移動を継続する。そこへ正面衝突する形で、ゴブリンもやってくる。
ひいっと悲鳴を上げるダンダに、アバルトが恐れずに進めと声をかける。前方に残っているゴブリンは最後の一匹だ。
よく狙ったレイターコールドショットで、ゴブリンをほとんど動けない状態へ追い込む。
とどめを刺すのはカインだ。
「この人をお前たちにやらせる訳にはいかない」
断末魔の叫びを放ち、ゴブリンが地面へ倒れる。もう息をしていないのは、傍目からでも明らかだった。
倒れたゴブリンをチラリと横目で見つつ、アメリアはリロードしたばかりの銃で再び制圧射撃を行う。迷ったが、同じゴブリンを引き続き狙う。
一行の右側から押し寄せてくるゴブリンが、アメリアのおかげで一匹減っている。これだけでも大助かりだ。
その間にステラが行動不能のゴブリンの横から向かってくるうちの一匹の足を、強弾を放って止める。
ステラの援護によって生まれた敵の隙を見逃さず、リンカは持ち替えた武器にファイアエンチャントをかける。
ゴブリンたちの動きに注視し、ステラの一撃でダメージを負っていた一匹をリンカが切り捨てた。
「ダンダさんの安全が確保できそうなら、あとは荷物を守らないとね!」
これで残るゴブリンは六匹。うち三匹が一行の左側から南下し、先頭の一匹が馬に狙いを定めている。続く二匹は前方へ逃げていくダンダと二頭の馬を追いかけようとする。
後方から迫っていた一匹は、一行から見て右側の二匹と合流した。右側には三匹となったが、そのうちの一匹はアメリアが制圧射撃で行動を封じている。
今まではなんとか守れてきたが、危険度は確実に上昇中だ。このまま挟撃されたら、ダンダはともかく馬と荷物に被害が出る。
馬を攻撃範囲に入れているゴブリンを放置はできない。フィリテが友人でもある碧流へ指示を出す。
「碧流、狙撃はお願いね。あたしはフォローに徹するわ」
この子の腕は確かだから、あまりすることはないと思うけど……。
心の中で呟きつつも、フィリテは確実に狙ったゴブリンを倒すためにウォーターシュートで援護する。
「リテ、信用してるのです」
弱ったゴブリンにライフルの弾丸を命中させ、寸前のところで馬へ危害を加えそうだったゴブリンを仕留めた。
しかし、倒れたゴブリンを踏みつけるように、他のゴブリンがその場に到着する。放置しておくのは危険すぎる。
横目で見ていたアメリアはそちらの援護へまわろうかと思ったが、挟み撃ちの危険を考慮すれば、足止めを途中でやめられない。
接近されたゴブリンへの対処は仲間に任せ、アメリアは制圧射撃を続ける。今度はこれまでと他のゴブリンを狙う。やはり馬に近づきつつあった一匹だ。
行動不能にし続けてきたゴブリンは動きを回復するが、すぐには逃げ続ける馬の側へは到着できない。そう判断してターゲットを変更したのである。
一行の左側から迫るゴブリンは二匹。馬を無視して、ダンダを狙える距離でもある。
間違ってもダンダが囲まれたりしないよう、カインは近づいてくるゴブリンに射撃を行う。
「僕はこの人を護る、そしてゴブリンは殺すだけだ」
一撃では倒せなかったものの、勢いをそぐには十分すぎる威力だった。
ダンダの前方の安全を確保できていたのもあり、ステラが味方と連携をとる。
「積み荷の安全を優先し、ゴブリンを迅速に掃討します」
カインの攻撃で弱っていたゴブリンをきっちり仕留め、左側から迫ってきたゴブリンの数を残り一匹まで減らした。
その一匹も、迎撃準備を終えていたフィリテのウォーターシュートをまともに食らう。
「碧流、今よっ!」
フィリテと一対な連携を心がけていた碧流が、待ってましたとばかりにゴブリンへ致命傷を与えた。
左側のゴブリンを殲滅し、危険度がある程度下がった。馬を連れてなおも前方へ移動するダンダの顔にも、多少の余裕が復活する。
残ったゴブリンが一行の右側に集中したことで、ハンターたちもずいぶんと戦いやすくなった。
周囲の僅かな空間を発見しては潜り狙撃を敢行する碧流の近くで、フィリテがフォローでウォーターシュートを放つ。
味方の行動を阻害するような魔術行使はせず、なるべく死角や隙を埋めるように行使していく。
連携のとれた碧流とフィリテの攻撃で、ゴブリンの数がさらに一匹減る。
その間にもダンダは逃げ続けるので、確実に危機は脱していく。
ゴブリンの中に指揮官がいるかもしれない――。
ステラや碧流は、その可能性を考慮して注意深く敵を観察していた。結局のところリーダーらしき存在はいなかった。
まとまって一行を襲ったまではよかったが、戦闘が開始されると一斉に襲い掛かるだけだった。効果的な作戦などを用いたりもしなかった。
二人の心配が杞憂に終わり、ダンダも着実に安全圏へ移動する。
しかし、残った二匹のゴブリンは執拗に追い縋る。
「……今後の為にも後顧の憂いは断つべきだろう」
最初に立ち止ったのはアバルトだ。仲間にダンダの護衛を委ね、殲滅させるべくレイターコールドショットを打ち込む。
ゴブリンに強襲された場合の対策として、他のハンターの動きと戦術を観察していたカインもアバルトに続いた。
護衛対象のダンダや馬に気を遣わなくてよくなれば、二匹のゴブリンはハンターたちの敵ではなかった。
ゴブリン一掃後。碧流の顔を見ながら、フィリテは急にプリンを作ろうかな、と心の中で考えだす。
普通の手作りプリンは、既に食べ飽きてるでしょうし……紅茶の茶葉でプリンってできるかしら。
フィリテと碧流が互いの無事を喜んでいると、ダンダが助かったと大きく息を吐いた。
「ありがとうございました。荷物はもちろんですが、皆さんもご無事でよかったです」
お礼を言い終えたダンダにカインが近づく。
コーヒーが趣味のカインは、珈琲の生豆が仕入れられるところがないか質問した。
「申し訳ありません。私は取り扱っておりませんし、知り合いにも恐らくいないと……」
申し訳なさそうなダンダに、カインは気にしないでくださいと告げる。
ゴブリンたちによる奇襲を乗り越えたあとは、さしたる障害もなく一行は目的地へ到着できたのだった。
●
到着した小さな村は予想以上に被害が大きかった。
ゴブリンに襲撃された影響で怪我人が多く、日用品どころか薬類なども不足していた。
商品を欲しそうにしながらも、家が壊されたせいでお金がどこにいったかわからないという家族がいた。
するとダンダは必要な品を聞き、手元にあるものを無償で手渡した。
「困った時はお互い様です。命があればお金は稼げますが、お金で命は買えないですからね」
そう言って笑い、損をするのも構わずに商品を提供していく。
人手が必要だったのもあり、ダンダの護衛を終えたハンターたちも手伝った。
フィリテが忙しそうにしながらも、やりがいがありそうに村の中を走り回る。
「営業スマイル営業スマイル♪ 笑顔は接客の基本です!」
にこやかな笑顔で、アメリアが村人と交流する。
大量に持ってきた荷物はすぐに売り切れた……というより、配り終えた。
ハンターが必死に守ったおかげで、不便な生活を強いられてきた村人に一時的とはいえ笑顔が戻った。
利益がなかろうとも、その光景を眺めているだけでダンダは満足そうだった。
そこへアバルトが近寄る。ダンダの肩に置いた手に、軽く力を込める。
「……おぬしの志は実に立派だ。その手助けが出来た事は自分にとっても誇りに思う。次の機会にも声掛けして貰いたい」
ありがとうございます。そう言って頭を下げたダンダは、充実しきった笑顔を浮かべた。
ダンダの背後からは、村人たちの楽しそうな話し声が聞こえてくる。
晴れやかなハンターたちの気持ちを表すかのように、雲ひとつない空はどこまでも青かった。
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相談卓 カイン・A・A・カーナボン(ka5336) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/08/21 08:36:48 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/08/18 07:52:07 |