ゲスト
(ka0000)
森の錬金術師
マスター:神宮寺飛鳥

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/08/19 19:00
- 完成日
- 2015/08/27 06:05
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
エルフハイムで生産された術具、浄化の楔。
大量のそれらを東方へ輸送する為には帝都の転移門が用いられた。
本来、浄化の楔はエルフハイムの秘伝の一つなのだが、これの使用権と全ての楔を帝国政府が買い上げる形でいつの間にか話がまとまっていた。
ジエルデ・エルフハイムが話を聞いたのは全てが決まった後の事で、反論の暇も与えられはしなかった。
「帝都に来るのは初めて?」
トラックの荷台に腰を下ろした女が問いかける。
ハイデマリー・アルムホルム。恭順派長老ヨハネが見初めたという組合所属の錬金術師だ。
エルフハイムからバルトアンデルスまでの物資輸送には錬金術師組合の力も借りた。その際に帝国との橋渡しになってくれたのも彼女であった。
「……ええ。噂には聞いていましたが、ひどい町ですね」
「でしょうね。ゴミゴミしてるし、汚いしくさいし」
「東方は……エトファリカは、自然が豊かだと聞いています。少しでも過ごしやすいと良いのですが」
「過ごしやすいも何も、あそこは戦場よ。人類種の最前線なんだから、命懸けの戦いになるに決まってるわ」
儚い希望を打ち砕くようなハイデマリーの無遠慮な言葉に肩を落とす。
だがそれが事実だ。送り込まれたエルフハイムの巫子と、人型術具である浄化の器。これらが無事に帰る保証はない。
「いつから決まっていたのでしょう……」
「少なくとも、私がエルフハイムを訪れるより前でしょうね。対応がいくらなんでも早すぎるもの」
エルフハイムは錬金術師組合と協力し、浄化術の発展を目指すと決まったのがつい先日の事。
そこで東方との交流や、エルフハイム外への浄化術の輸出が議論されはしたものの、そこから結論を出し、即輸出。これまでのエルフハイムの腰の重さを考えれば、異常なスピード感だ。
「私の来訪と組合側からの要請を受けて動いたって形になるから、既定路線だったくせにこっちに“応じた”と見せかけてる。あのヨハネって男、相当のやり手ね。それに帝国政府と何らかのパイプも持ってるとしか思えないわ」
それは良い事なのか、悪い事なのか。
どちらかと言えば望むべき変化だろう。しかしヨハネが発言力を高めはじめてから、森の変化はあまりに急激だ。
維新派初の長老、ユレイテルの就任。錬金術師組合との技術提携と、外部の人間であるハイデマリーの移住。
そしてこの浄化術輸出と、事実上の帝国政府との内通……とても一朝一夕の仕込みでできる事ではない。
「浄化の楔は職人が一本一本手作業で作っています。相当前から依頼されなければこんなに沢山は作れません」
「なんだか掌の上で踊らされているようでいい気分じゃないけど、あなた的には器ちゃんの方が気になるのかしら?」
その笑いはどこか呆れるような、嘲るような感情が垣間見えた。
「何かおかしい?」
「別に……ただ、あなたはあの子を自由にしてあげたいってずっと願っていた筈よね。それが実際に叶おうと動き始めたというのに、どうしてか不満そうだから」
思わず視線を逸らす。確かにそうだ。あの子が森の外の世界と触れて歩く事は間違いなく望ましいはず。
だというのに、何故か気持ちが落ち着かない。いや、理由ならばハッキリしている。
「独り占めできなくなるのが嫌なんでしょ」
「あなたには関係のないことです!」
「関係有るわよ。私の研究にはあの子の力も必要だもの」
帝都に流れるイルリ河を見つめながら腕を組んだジエルデは震えていた。
怖いのだ。自分の側に彼女がいたのなら、命に代えたって守るつもりだった。
けれど東方への同行は許可されなかった。東方に術師を送り込んだ分、有事の際に備えて高位の術者を残す必要があったのだ。
「……タングラムに聞いた通り、弱い人ね」
ぽつりと呟いてハイデマリーは荷台から飛び降りる。
「ねえ。少し寄り道して行かない?」
「寄り道……ですか?」
「どうせヒマでしょ? 私は元々この町に住んでいたから、引っ越すのに荷物をまとめようと思うの」
「このまま森に住むつもりですか?」
「許可は貰ってるし、仕事も一段落したしね。せっかく工房を新しくするんだから、色々と入用でしょ? 森には売ってない物も多いだろうし」
そう言いながらハイデマリーは上着の内ポケットから使い込まれた手帳を取り出す。
そこにさらさらとペンを走らせると千切り、ジエルデへと差し出した。
「はいこれ」
「え?」
「お使いに行ってきて。心配要らないわ、素人でもマーケットで買えるものだから。あなた達、何人か彼女の付き添いをお願い。重い物もあるから」
楔の輸送を受け持っていたハンター達に語りかけるハイデマリー。ジエルデは困惑し、メモと周囲を交互に眺め。
「わ、私人間の町で買い物したことなんて……しかもこんなゴチャゴチャした町……!」
「迷子になっちゃう?」
「な……なりま……せん……よ?」
「大丈夫よ。道に迷うこともまた研究。何事も経験と思って行ってきなさいな」
そうしてトラックの荷台に戻ると、運転席に座ったハンターに声をかける。
「私のアパートに向かってくれる? 組合にも顔を出したいけど、時間あるかな……。あ、報酬はちゃんと出すから安心して」
動き出したトラックの荷台に腰を下ろし、遠ざかるジエルデに手を振る。
「はるかに年上の筈なんだけど……カワイイ人ね、あれ」
両手でメモを握り締めあたふたしているジエルデが曲がり角で見えなくなる。
ハンターに笑いかけながら、ハイデマリーはどこか楽しげに呟いた。
大量のそれらを東方へ輸送する為には帝都の転移門が用いられた。
本来、浄化の楔はエルフハイムの秘伝の一つなのだが、これの使用権と全ての楔を帝国政府が買い上げる形でいつの間にか話がまとまっていた。
ジエルデ・エルフハイムが話を聞いたのは全てが決まった後の事で、反論の暇も与えられはしなかった。
「帝都に来るのは初めて?」
トラックの荷台に腰を下ろした女が問いかける。
ハイデマリー・アルムホルム。恭順派長老ヨハネが見初めたという組合所属の錬金術師だ。
エルフハイムからバルトアンデルスまでの物資輸送には錬金術師組合の力も借りた。その際に帝国との橋渡しになってくれたのも彼女であった。
「……ええ。噂には聞いていましたが、ひどい町ですね」
「でしょうね。ゴミゴミしてるし、汚いしくさいし」
「東方は……エトファリカは、自然が豊かだと聞いています。少しでも過ごしやすいと良いのですが」
「過ごしやすいも何も、あそこは戦場よ。人類種の最前線なんだから、命懸けの戦いになるに決まってるわ」
儚い希望を打ち砕くようなハイデマリーの無遠慮な言葉に肩を落とす。
だがそれが事実だ。送り込まれたエルフハイムの巫子と、人型術具である浄化の器。これらが無事に帰る保証はない。
「いつから決まっていたのでしょう……」
「少なくとも、私がエルフハイムを訪れるより前でしょうね。対応がいくらなんでも早すぎるもの」
エルフハイムは錬金術師組合と協力し、浄化術の発展を目指すと決まったのがつい先日の事。
そこで東方との交流や、エルフハイム外への浄化術の輸出が議論されはしたものの、そこから結論を出し、即輸出。これまでのエルフハイムの腰の重さを考えれば、異常なスピード感だ。
「私の来訪と組合側からの要請を受けて動いたって形になるから、既定路線だったくせにこっちに“応じた”と見せかけてる。あのヨハネって男、相当のやり手ね。それに帝国政府と何らかのパイプも持ってるとしか思えないわ」
それは良い事なのか、悪い事なのか。
どちらかと言えば望むべき変化だろう。しかしヨハネが発言力を高めはじめてから、森の変化はあまりに急激だ。
維新派初の長老、ユレイテルの就任。錬金術師組合との技術提携と、外部の人間であるハイデマリーの移住。
そしてこの浄化術輸出と、事実上の帝国政府との内通……とても一朝一夕の仕込みでできる事ではない。
「浄化の楔は職人が一本一本手作業で作っています。相当前から依頼されなければこんなに沢山は作れません」
「なんだか掌の上で踊らされているようでいい気分じゃないけど、あなた的には器ちゃんの方が気になるのかしら?」
その笑いはどこか呆れるような、嘲るような感情が垣間見えた。
「何かおかしい?」
「別に……ただ、あなたはあの子を自由にしてあげたいってずっと願っていた筈よね。それが実際に叶おうと動き始めたというのに、どうしてか不満そうだから」
思わず視線を逸らす。確かにそうだ。あの子が森の外の世界と触れて歩く事は間違いなく望ましいはず。
だというのに、何故か気持ちが落ち着かない。いや、理由ならばハッキリしている。
「独り占めできなくなるのが嫌なんでしょ」
「あなたには関係のないことです!」
「関係有るわよ。私の研究にはあの子の力も必要だもの」
帝都に流れるイルリ河を見つめながら腕を組んだジエルデは震えていた。
怖いのだ。自分の側に彼女がいたのなら、命に代えたって守るつもりだった。
けれど東方への同行は許可されなかった。東方に術師を送り込んだ分、有事の際に備えて高位の術者を残す必要があったのだ。
「……タングラムに聞いた通り、弱い人ね」
ぽつりと呟いてハイデマリーは荷台から飛び降りる。
「ねえ。少し寄り道して行かない?」
「寄り道……ですか?」
「どうせヒマでしょ? 私は元々この町に住んでいたから、引っ越すのに荷物をまとめようと思うの」
「このまま森に住むつもりですか?」
「許可は貰ってるし、仕事も一段落したしね。せっかく工房を新しくするんだから、色々と入用でしょ? 森には売ってない物も多いだろうし」
そう言いながらハイデマリーは上着の内ポケットから使い込まれた手帳を取り出す。
そこにさらさらとペンを走らせると千切り、ジエルデへと差し出した。
「はいこれ」
「え?」
「お使いに行ってきて。心配要らないわ、素人でもマーケットで買えるものだから。あなた達、何人か彼女の付き添いをお願い。重い物もあるから」
楔の輸送を受け持っていたハンター達に語りかけるハイデマリー。ジエルデは困惑し、メモと周囲を交互に眺め。
「わ、私人間の町で買い物したことなんて……しかもこんなゴチャゴチャした町……!」
「迷子になっちゃう?」
「な……なりま……せん……よ?」
「大丈夫よ。道に迷うこともまた研究。何事も経験と思って行ってきなさいな」
そうしてトラックの荷台に戻ると、運転席に座ったハンターに声をかける。
「私のアパートに向かってくれる? 組合にも顔を出したいけど、時間あるかな……。あ、報酬はちゃんと出すから安心して」
動き出したトラックの荷台に腰を下ろし、遠ざかるジエルデに手を振る。
「はるかに年上の筈なんだけど……カワイイ人ね、あれ」
両手でメモを握り締めあたふたしているジエルデが曲がり角で見えなくなる。
ハンターに笑いかけながら、ハイデマリーはどこか楽しげに呟いた。
リプレイ本文
走り去っていくトラックを見送り深く溜息を零すジエルデ。その肩をエイル・メヌエット(ka2807)が叩く。
「大丈夫よ、私達が手伝うから。それに私、貴女と話したいと思っていたの」
「私と……ですか?」
「話すと長くなるけれど、これまでちょっと色々あってね」
ジエルデと特別な接点はなかったが浄化の器と呼ばれる少女に纏わる戦いに何度も参戦した経験があった。
「そうでしたか、あの子が……」
「実は六式浄化結界の時も一緒だったのよ。あの時はお話どころじゃなかったけど」
そんな話をしていた時だ。突如、遠くから一人の男が自転車で接近してくる!
「ジーエールーデーおねー様ぁー! 俺が手伝いに来・た・ぜー……うおおおっ!?」
紫月・海斗(ka0788)を無慈悲な魔法攻撃が襲う!
「ジャドウブリットだね」
眼鏡を光らせぽつりと解説するジェールトヴァ(ka3098)。
魔法を受けた海斗が転倒し自転車と一緒に滑りこんでくると、ジエルデは追撃の構えを取る。
「不埒で邪悪な人間……まだ息があったのですね」
「ジ、ジエルデさん落ち着いて!」
背後からジエルデを止めにかかるエイル。フレイア(ka4777)は首を傾げ。
「町中で魔法を放つとは、思いの外大胆ですわね。しかし、このままでは騒ぎになってしまいます」
フレイアの言う通り、通りがかりの住民達は何事かとざわつきながら足を止めている。
「事情はわかりませんが、場所を変えた方がよろしいかと」
フレイアとエイルに連れて行かれるジエルデ。転がったままの海斗にジェールトヴァは歩み寄り、命の別状はない事を確認すると、通行の邪魔にならないよう、端っこに寄せておいた。
「うわぁ~! これが都会の錬金術師の工房なんですね!」
ボロアパートが並ぶ郊外の一画に停車したトラックからファティマ・シュミット(ka0298)が降り立つ。
「ここの二階よ。ついてきて」
年々人口増加傾向にあるバルトアンデルスでは、こうした無茶な増築を繰り返した安価な住居が乱立している。
もう見えている部屋に入る為にわざわざ遠回りし、裏から入って階段を上がって下りるという意味不明な行動の後、部屋に辿り着く事ができた。
「お邪魔しま~す……」
扉を開くと、人一人通るのがやっとの玄関がお出迎え。そしてすぐに研究用の機材が並んでいるのが見えた。
「どうぞあがって」
「うわ~、なんですか、これ?」
「浄化装置の試作品と、汚染物質を持ち帰る錬金籠よ。一年くらい前に、ハンターに依頼して……」
興味津々な様子で部屋に上がっていくファティマだが、レイス(ka1541)は玄関口で棒立ちしていた。
「どうしたの、あなた?」
「……ハイデマリー。一つ確認する。本当にここでいいのだな?」
もう玄関に下着が干してあり、まるでカーテンか何かのように二人はスルーしてくぐっていったのだが……。
「何か、遠い昔に似たような事があったような……」
神妙な面持ちでそんな事を呟きつつ、覚醒の光を放ちレイスは部屋に一歩足を踏み入れた。
「ふむ……どうやらさほど難しい買い物ではなさそうですね。これならジエルデさん一人でも大丈夫でしょう」
場所を変えたフレイアはハイデマリーのメモを確認し、念のため予備を取る。紛失されるというのが一番哀しいオチだからだ。
「それにこれは、どうやらそういうことのようだね」
納得したように微笑むジェールトヴァにフレイアは頷き返す。
「なんだかよくわかりませんが、皆さんがわかるようなら皆さんにお任せしたいのですが」
「そういうわけにはいかないかな。買い物を頼まれたのはジエルデさんだし。それにハイデマリーさんが言っていたように、迷うことも経験だよ」
ハンター達はあくまでもジエルデの自主性に任せ、補佐に徹するという事になった。
といっても、そもそもまず店の場所から検討もつかないジエルデなので、まずは大通りに連れて行く所からスタートである。
「ふと思ったんですが」
「なんだ?」
「男性が女性の部屋をこんなに漁るのってイイノ?」
ファティマの質問にレイスはすっくと立ち上がり。
「いいか悪いかで言えば、あまりよくない」
「彼女同道ですもんね!」
「任せると言われた以上、問題はない筈だが……」
ハイデマリーの部屋は研究に使う机以外は散らかり放題であり、特に衣類の散乱がひどい。
引っ越しをいい切っ掛けに不要品は捨ててしまおうと考えたのか、それらの分別をしながらハイデマリーは笑い。
「私の下着でレイスが欲情しなければ、浮気にはならないんじゃない?」
「……ハイデマリー。この部屋の事もそうだが、お前の性格はなんとかした方が良いぞ。エルフハイムでお前が一般的な人間だと誤解されては問題になる」
「平気平気」
「何が平気なのか全く分からないけど、すごい自信です!」
「全然俺の話聞いてないだろ」
ハイデマリーのメモには、主に衣料品や化粧品について書いてあった。
衣食住の内、食と住はエルフハイムで保証されているので、必然的に生活雑貨と衣の買い出しが優先される。
そこでやってきたアパレル店の前で戸惑うジエルデをエイルとフレイアが左右から手を引き店に引き入れていく。
「な、なんだか私は場違いじゃないでしょうか?」
「そんな事はありませんよ」
「うんうん。せっかくだし、ジエルデさんの服も見て行ったらどうかな?」
確かにフレイアやエイルと異なり、ジエルデの服装は地味なローブだ。
しかし服には興味があったのか、帝都の流行ファッションを女性三人で吟味する。
「そういえば、ホリィ……器の服装はジエルデさんが選んだのよね?」
「はい。ピースホライズンで購入した布で自作したんです。ここの服はとても参考になります」
「え……まさかの自作……」
遠巻きに眺めつつ、ジェールトヴァは頷く。
恐らくハイデマリーはこういう展開を予想して買い物を依頼したのだろう。
器のこととなると急に楽しそうに笑顔を作るジエルデの横顔を眺め、彼女がどれだけ器の事を想っているのかを知る。
いや、彼女の過去を思えばそれは当然の事だ。
アイリスという最愛の妹を失い、自罰的な後悔に囚われた彼女にとって、器は罪滅ぼしであり、そして妹の代わりでもあった。
(依存……だね)
だからこそ、こうして自分の時間を持つ事は大切なのだ。
少なくとも今の彼女は、リゼリオで妹を遠巻きに見ていた悲しげな横顔とは別人のようだった。
「そういえばきちんと礼を言っていなかったな。ハイデマリー、あの時は有難う。そして済まなかった」
「うん。別にあれは、私の勝手な判断だから。力を試したくて奢った術師の失敗談よ」
「お前ならばそう言うとは思っていたが、俺の自己満足みたいなものだ」
二人の話にファティマはハイデマリーの腕を見やる。
「それってハイデマリーさんがそうなっちゃった時の……?」
「ああ」
腕を組み、レイスはハイデマリーを一瞥する。一応デリケートな話かと思い顔色を伺ったが、杞憂だったようだ。
剣妃オルクスとの戦い、そして機導浄化術とエルフハイムへの移住。そんな話を二人は語ってくれた。
「ちょっと見ない間にそんな事になってたなんて……すごいですね」
「そう?」
「わたしとは時間の流れが違うって感じです。わたし、ちょっと昔まで森の中に住んでて、のったりと錬金術やってたんです。ハイデマリーさんの話を聞いていると、私はなまけてるのかなぁ、なんて思ったりするわけですよ」
「レイスも言ったけど、私は異端者よ。組合でも煙たがられてる。でもそれでいいと思っているわ。人と違うという事は悪ではないし、多様性が新たな研究を有み可能性を広げるの。それは錬金術師ならわかるわよね?」
皆が同じ事柄に同じアプローチを行っても見える結果は同じだ。
だから様々な術師がそれぞれのやり方で研鑽を重ねている。そのどれが最適解かはやらねばわからないが、少なくとも数多積み重なる無駄は決して無意味ではない筈だ。
「人も自然もそれぞれの時間を持ってる。大切なのはそれをお互いに尊重する事。錬金術は往々に時を踏みにじるものだから、術師は敬意を忘れてはいけないと思う」
窓際に飾られた真空管のような装置の中には小さな花が収められている。
浄化術の研究の為、汚染地域から採取し浄化して延命させている花は、装置から出せば枯れてしまうだろう。
「あなたはあなたの時を大切にすればいい。人と比べるのではなくて、ね」
「やっと見つけたぜ! 皆俺を放置して行くなんて酷いぞ! さあジエルデ義姉様、俺の自転車に乗るんだ!」
「え……嫌ですけど……」
得体の知れない人物の得体の知れない乗り物には乗りたくなかった。けど多分乗ってたら色々大変だったと思うぞ。
断られガックリしている海斗。買い物は既に殆ど終わっているようで、完全に合流が遅れてしまった。
「そういえば服装が変わってるな? 帝国人っぽいが良く似合ってるぜ!」
先程の店で購入したミリタリー風のワンピースは帝都最先端のファッションだ。
「必要な買い出しが終わったなら寄りたい所があるんだが」
そう言って海斗が皆を連れてきたのは菓子屋。カラフルでジエルデには馴染みのない派手なお菓子が並んでいる。
「器ちゃんはお菓子が好きだからな。帝都土産にはコレが一番だろ」
「え? あの子はお菓子が好きなんですか?」
「は? まさか知らねぇのか?」
これにはエイルも驚いた。二人は親しい関係だとばかり思っていたのだが……。
「そう……。あの子は私には甘えてくれないから……」
「それなら尚更買い込んでけよ。持って帰って器ちゃんが帰ってきたら一緒に食いな」
俯いたジエルデの隣で海斗はお菓子を買い込む。しかしジエルデの表情が晴れる事はなかった。
「浄化術については任せるが、例のカートリッジ。アレは穢れを溜め込む物なのだろう? 器と似た役割の」
「そうね」
「あれを器の代わりにする事はできないだろうか。大型化や連結式にして容量を増やせば」
「将来的にはそのつもりよ。器ちゃんの為でしょう?」
レイスは頷き。
「彼女を犠牲にしたくはない。わかっている犠牲を見逃してのうのうと生きていたくはないんだ。それでは奴らの言う通り……行き着く先は絶望だけだ」
「私は研究者だから命にそこまで執着はないけれど、特別な個体に依存したシステムは不完全だと考えるわ。特別を普遍させる事こそ機導の真髄だし」
「お前らしいな」
「でも、エルフの人的に機導術師ってどうなのかしら。ハイデマリーさん……マーさんが乗り込んでいくのは複雑な心境です」
「勿論、すぐには受け入れられないでしょうね」
ファティマの疑問にそう明るく答え。
「だけどね、これは錬金術師の至上命題の一つなのよ。機導は世界を汚染する……その責任を誰かが取らないといけない」
「浄化の術……そうですね。世界と共生できるようになればいいなあと思います」
「犠牲を強いない世界……。俺に優しい世界を取り戻してくれたエイル達がいるこの世界が、絶望的ではないと言えるように、俺も協力していくつもりだ」
「オルクスにはこの腕の借りを返さないといけないし、ね……」
そんな話をしていると、気づけば引っ越しの準備は終わっていた。
あとはトラックに積み込むだけ。問題は窓の外に見えているトラックに辿り着くまで、遠回りをしないと行けないという事なのだが。
大通りに面したカフェテラスでテーブルを囲み、フレイアは遠巻きに聳え立つ錬魔院を見上げる。
浄化技術の改善の為にもと思い見学を申し入れようと考えたのだが、軍直属の研究組織であり、部外者の訪問は許可されなかった。
仮にされたとしても浄化術は錬金術師組合とエルフハイムが共有した極秘技術である為、込み入った話はできなかったのだが。
「ワカメエルさんと……でしたっけ? とお話できれば死に至るような義手を改良できるかと考えたのですが」
「悪い錬金術師の集まりと聞いているのですが、そうなのですか?」
といってもこの場にはさほど錬魔院に詳しい者も居なかったので、話題は直ぐに変わる。
「ねえ、器はどうやって“器”になったの? エルフハイムは彼女に何をしたの?」
「私にもそれはわからないし、分かったとしても教える事はできません」
それは嘘ではない。ジエルデを見ればわかる。
「ジエルデさん。私はあの子が大事よ。東方へもあの子を支えに行く。貴女の分も。貴女は器をどうしたい?」
「どうしたい……そんな事、考えたこともありませんでした」
ジエルデにとって今は当たり前の物だ。そして同時に自分の意志ではなく、与えられた物に過ぎない。
何より自らの感情に疎いのは、それを禁じられてきたから。器は少し前まで触れる事も、言葉を交わすことも禁じられていた。それはジエルデとて例外ではなかったのだ。
「私はハイデマリーが言うように、あの子を独り占めしたいだけなのでしょうか」
「アンタはただ独り占めしたいんじゃなくて妹を大事にしてる。それくらいの事は俺にもわかるぜ」
「私はホリィ自身に本当の意味で“生きて”ほしい。彼女に教えたい事が沢山ある。その命を愛しいと思うなら、どうか貴女も。喪失を怖れる心を抱えたまま前を向いて」
海斗とエイルの言葉にジエルデは俯く。自信のなさは見て取れる程だ。
「ジエルデさん、今日は楽しかったかな?」
ジェールトヴァはそう問いかけ。
「他人を幸せにするためには、まずは自分が幸せにならないと。どうすれば幸せになれるのか、どんなことが幸せなのか、自分が理解して実践していないと、説得力がないよね。器さんの幸せのために、まずはジエルデさんが自分の幸せを探してみてはどうかな」
「幸せ……そんな物、私が望むわけには……」
「幸せを望んじゃいけない奴なんているわけねーだろ。アンタもアンタの妹も俺がきっちり面倒みてやるっつの!」
親指を立てながら笑う海斗だが、ジエルデの視線は厳しい。前回のアレが全然許されてないっぽい。
「貴女は独りじゃないわ。私達が力になるから」
道すがらジエルデの服に合わせて購入した帽子をかぶせながらエイルは笑う。
「貴女はエルフ、私は人間。戦う場所も違うけれど、それでもきっと同じ未来を夢見る事もできるのよ」
複雑な表情を浮かべたジエルデの真意は読み取れなかった。
ただそれは拒絶ではなく、もっと別の何か……後悔のようなものに通じているようだった。
ふと、そこへ魔導トラックへ乗った三人が近づいてくる。仕事も一段落したのでお茶をするのに呼んだのだ。
ハンター達が席を立つと、その背後の席に腰掛けていた男がゆっくりと立ち上がり新聞を畳む。
「エルフハイムと浄化術、ですか。せっかくですし、個人的に動いてみますか」
変装用らしい眼鏡を外し、男は椅子にかけた上着を手に取り、自らの住処である塔へと歩き出した。
「大丈夫よ、私達が手伝うから。それに私、貴女と話したいと思っていたの」
「私と……ですか?」
「話すと長くなるけれど、これまでちょっと色々あってね」
ジエルデと特別な接点はなかったが浄化の器と呼ばれる少女に纏わる戦いに何度も参戦した経験があった。
「そうでしたか、あの子が……」
「実は六式浄化結界の時も一緒だったのよ。あの時はお話どころじゃなかったけど」
そんな話をしていた時だ。突如、遠くから一人の男が自転車で接近してくる!
「ジーエールーデーおねー様ぁー! 俺が手伝いに来・た・ぜー……うおおおっ!?」
紫月・海斗(ka0788)を無慈悲な魔法攻撃が襲う!
「ジャドウブリットだね」
眼鏡を光らせぽつりと解説するジェールトヴァ(ka3098)。
魔法を受けた海斗が転倒し自転車と一緒に滑りこんでくると、ジエルデは追撃の構えを取る。
「不埒で邪悪な人間……まだ息があったのですね」
「ジ、ジエルデさん落ち着いて!」
背後からジエルデを止めにかかるエイル。フレイア(ka4777)は首を傾げ。
「町中で魔法を放つとは、思いの外大胆ですわね。しかし、このままでは騒ぎになってしまいます」
フレイアの言う通り、通りがかりの住民達は何事かとざわつきながら足を止めている。
「事情はわかりませんが、場所を変えた方がよろしいかと」
フレイアとエイルに連れて行かれるジエルデ。転がったままの海斗にジェールトヴァは歩み寄り、命の別状はない事を確認すると、通行の邪魔にならないよう、端っこに寄せておいた。
「うわぁ~! これが都会の錬金術師の工房なんですね!」
ボロアパートが並ぶ郊外の一画に停車したトラックからファティマ・シュミット(ka0298)が降り立つ。
「ここの二階よ。ついてきて」
年々人口増加傾向にあるバルトアンデルスでは、こうした無茶な増築を繰り返した安価な住居が乱立している。
もう見えている部屋に入る為にわざわざ遠回りし、裏から入って階段を上がって下りるという意味不明な行動の後、部屋に辿り着く事ができた。
「お邪魔しま~す……」
扉を開くと、人一人通るのがやっとの玄関がお出迎え。そしてすぐに研究用の機材が並んでいるのが見えた。
「どうぞあがって」
「うわ~、なんですか、これ?」
「浄化装置の試作品と、汚染物質を持ち帰る錬金籠よ。一年くらい前に、ハンターに依頼して……」
興味津々な様子で部屋に上がっていくファティマだが、レイス(ka1541)は玄関口で棒立ちしていた。
「どうしたの、あなた?」
「……ハイデマリー。一つ確認する。本当にここでいいのだな?」
もう玄関に下着が干してあり、まるでカーテンか何かのように二人はスルーしてくぐっていったのだが……。
「何か、遠い昔に似たような事があったような……」
神妙な面持ちでそんな事を呟きつつ、覚醒の光を放ちレイスは部屋に一歩足を踏み入れた。
「ふむ……どうやらさほど難しい買い物ではなさそうですね。これならジエルデさん一人でも大丈夫でしょう」
場所を変えたフレイアはハイデマリーのメモを確認し、念のため予備を取る。紛失されるというのが一番哀しいオチだからだ。
「それにこれは、どうやらそういうことのようだね」
納得したように微笑むジェールトヴァにフレイアは頷き返す。
「なんだかよくわかりませんが、皆さんがわかるようなら皆さんにお任せしたいのですが」
「そういうわけにはいかないかな。買い物を頼まれたのはジエルデさんだし。それにハイデマリーさんが言っていたように、迷うことも経験だよ」
ハンター達はあくまでもジエルデの自主性に任せ、補佐に徹するという事になった。
といっても、そもそもまず店の場所から検討もつかないジエルデなので、まずは大通りに連れて行く所からスタートである。
「ふと思ったんですが」
「なんだ?」
「男性が女性の部屋をこんなに漁るのってイイノ?」
ファティマの質問にレイスはすっくと立ち上がり。
「いいか悪いかで言えば、あまりよくない」
「彼女同道ですもんね!」
「任せると言われた以上、問題はない筈だが……」
ハイデマリーの部屋は研究に使う机以外は散らかり放題であり、特に衣類の散乱がひどい。
引っ越しをいい切っ掛けに不要品は捨ててしまおうと考えたのか、それらの分別をしながらハイデマリーは笑い。
「私の下着でレイスが欲情しなければ、浮気にはならないんじゃない?」
「……ハイデマリー。この部屋の事もそうだが、お前の性格はなんとかした方が良いぞ。エルフハイムでお前が一般的な人間だと誤解されては問題になる」
「平気平気」
「何が平気なのか全く分からないけど、すごい自信です!」
「全然俺の話聞いてないだろ」
ハイデマリーのメモには、主に衣料品や化粧品について書いてあった。
衣食住の内、食と住はエルフハイムで保証されているので、必然的に生活雑貨と衣の買い出しが優先される。
そこでやってきたアパレル店の前で戸惑うジエルデをエイルとフレイアが左右から手を引き店に引き入れていく。
「な、なんだか私は場違いじゃないでしょうか?」
「そんな事はありませんよ」
「うんうん。せっかくだし、ジエルデさんの服も見て行ったらどうかな?」
確かにフレイアやエイルと異なり、ジエルデの服装は地味なローブだ。
しかし服には興味があったのか、帝都の流行ファッションを女性三人で吟味する。
「そういえば、ホリィ……器の服装はジエルデさんが選んだのよね?」
「はい。ピースホライズンで購入した布で自作したんです。ここの服はとても参考になります」
「え……まさかの自作……」
遠巻きに眺めつつ、ジェールトヴァは頷く。
恐らくハイデマリーはこういう展開を予想して買い物を依頼したのだろう。
器のこととなると急に楽しそうに笑顔を作るジエルデの横顔を眺め、彼女がどれだけ器の事を想っているのかを知る。
いや、彼女の過去を思えばそれは当然の事だ。
アイリスという最愛の妹を失い、自罰的な後悔に囚われた彼女にとって、器は罪滅ぼしであり、そして妹の代わりでもあった。
(依存……だね)
だからこそ、こうして自分の時間を持つ事は大切なのだ。
少なくとも今の彼女は、リゼリオで妹を遠巻きに見ていた悲しげな横顔とは別人のようだった。
「そういえばきちんと礼を言っていなかったな。ハイデマリー、あの時は有難う。そして済まなかった」
「うん。別にあれは、私の勝手な判断だから。力を試したくて奢った術師の失敗談よ」
「お前ならばそう言うとは思っていたが、俺の自己満足みたいなものだ」
二人の話にファティマはハイデマリーの腕を見やる。
「それってハイデマリーさんがそうなっちゃった時の……?」
「ああ」
腕を組み、レイスはハイデマリーを一瞥する。一応デリケートな話かと思い顔色を伺ったが、杞憂だったようだ。
剣妃オルクスとの戦い、そして機導浄化術とエルフハイムへの移住。そんな話を二人は語ってくれた。
「ちょっと見ない間にそんな事になってたなんて……すごいですね」
「そう?」
「わたしとは時間の流れが違うって感じです。わたし、ちょっと昔まで森の中に住んでて、のったりと錬金術やってたんです。ハイデマリーさんの話を聞いていると、私はなまけてるのかなぁ、なんて思ったりするわけですよ」
「レイスも言ったけど、私は異端者よ。組合でも煙たがられてる。でもそれでいいと思っているわ。人と違うという事は悪ではないし、多様性が新たな研究を有み可能性を広げるの。それは錬金術師ならわかるわよね?」
皆が同じ事柄に同じアプローチを行っても見える結果は同じだ。
だから様々な術師がそれぞれのやり方で研鑽を重ねている。そのどれが最適解かはやらねばわからないが、少なくとも数多積み重なる無駄は決して無意味ではない筈だ。
「人も自然もそれぞれの時間を持ってる。大切なのはそれをお互いに尊重する事。錬金術は往々に時を踏みにじるものだから、術師は敬意を忘れてはいけないと思う」
窓際に飾られた真空管のような装置の中には小さな花が収められている。
浄化術の研究の為、汚染地域から採取し浄化して延命させている花は、装置から出せば枯れてしまうだろう。
「あなたはあなたの時を大切にすればいい。人と比べるのではなくて、ね」
「やっと見つけたぜ! 皆俺を放置して行くなんて酷いぞ! さあジエルデ義姉様、俺の自転車に乗るんだ!」
「え……嫌ですけど……」
得体の知れない人物の得体の知れない乗り物には乗りたくなかった。けど多分乗ってたら色々大変だったと思うぞ。
断られガックリしている海斗。買い物は既に殆ど終わっているようで、完全に合流が遅れてしまった。
「そういえば服装が変わってるな? 帝国人っぽいが良く似合ってるぜ!」
先程の店で購入したミリタリー風のワンピースは帝都最先端のファッションだ。
「必要な買い出しが終わったなら寄りたい所があるんだが」
そう言って海斗が皆を連れてきたのは菓子屋。カラフルでジエルデには馴染みのない派手なお菓子が並んでいる。
「器ちゃんはお菓子が好きだからな。帝都土産にはコレが一番だろ」
「え? あの子はお菓子が好きなんですか?」
「は? まさか知らねぇのか?」
これにはエイルも驚いた。二人は親しい関係だとばかり思っていたのだが……。
「そう……。あの子は私には甘えてくれないから……」
「それなら尚更買い込んでけよ。持って帰って器ちゃんが帰ってきたら一緒に食いな」
俯いたジエルデの隣で海斗はお菓子を買い込む。しかしジエルデの表情が晴れる事はなかった。
「浄化術については任せるが、例のカートリッジ。アレは穢れを溜め込む物なのだろう? 器と似た役割の」
「そうね」
「あれを器の代わりにする事はできないだろうか。大型化や連結式にして容量を増やせば」
「将来的にはそのつもりよ。器ちゃんの為でしょう?」
レイスは頷き。
「彼女を犠牲にしたくはない。わかっている犠牲を見逃してのうのうと生きていたくはないんだ。それでは奴らの言う通り……行き着く先は絶望だけだ」
「私は研究者だから命にそこまで執着はないけれど、特別な個体に依存したシステムは不完全だと考えるわ。特別を普遍させる事こそ機導の真髄だし」
「お前らしいな」
「でも、エルフの人的に機導術師ってどうなのかしら。ハイデマリーさん……マーさんが乗り込んでいくのは複雑な心境です」
「勿論、すぐには受け入れられないでしょうね」
ファティマの疑問にそう明るく答え。
「だけどね、これは錬金術師の至上命題の一つなのよ。機導は世界を汚染する……その責任を誰かが取らないといけない」
「浄化の術……そうですね。世界と共生できるようになればいいなあと思います」
「犠牲を強いない世界……。俺に優しい世界を取り戻してくれたエイル達がいるこの世界が、絶望的ではないと言えるように、俺も協力していくつもりだ」
「オルクスにはこの腕の借りを返さないといけないし、ね……」
そんな話をしていると、気づけば引っ越しの準備は終わっていた。
あとはトラックに積み込むだけ。問題は窓の外に見えているトラックに辿り着くまで、遠回りをしないと行けないという事なのだが。
大通りに面したカフェテラスでテーブルを囲み、フレイアは遠巻きに聳え立つ錬魔院を見上げる。
浄化技術の改善の為にもと思い見学を申し入れようと考えたのだが、軍直属の研究組織であり、部外者の訪問は許可されなかった。
仮にされたとしても浄化術は錬金術師組合とエルフハイムが共有した極秘技術である為、込み入った話はできなかったのだが。
「ワカメエルさんと……でしたっけ? とお話できれば死に至るような義手を改良できるかと考えたのですが」
「悪い錬金術師の集まりと聞いているのですが、そうなのですか?」
といってもこの場にはさほど錬魔院に詳しい者も居なかったので、話題は直ぐに変わる。
「ねえ、器はどうやって“器”になったの? エルフハイムは彼女に何をしたの?」
「私にもそれはわからないし、分かったとしても教える事はできません」
それは嘘ではない。ジエルデを見ればわかる。
「ジエルデさん。私はあの子が大事よ。東方へもあの子を支えに行く。貴女の分も。貴女は器をどうしたい?」
「どうしたい……そんな事、考えたこともありませんでした」
ジエルデにとって今は当たり前の物だ。そして同時に自分の意志ではなく、与えられた物に過ぎない。
何より自らの感情に疎いのは、それを禁じられてきたから。器は少し前まで触れる事も、言葉を交わすことも禁じられていた。それはジエルデとて例外ではなかったのだ。
「私はハイデマリーが言うように、あの子を独り占めしたいだけなのでしょうか」
「アンタはただ独り占めしたいんじゃなくて妹を大事にしてる。それくらいの事は俺にもわかるぜ」
「私はホリィ自身に本当の意味で“生きて”ほしい。彼女に教えたい事が沢山ある。その命を愛しいと思うなら、どうか貴女も。喪失を怖れる心を抱えたまま前を向いて」
海斗とエイルの言葉にジエルデは俯く。自信のなさは見て取れる程だ。
「ジエルデさん、今日は楽しかったかな?」
ジェールトヴァはそう問いかけ。
「他人を幸せにするためには、まずは自分が幸せにならないと。どうすれば幸せになれるのか、どんなことが幸せなのか、自分が理解して実践していないと、説得力がないよね。器さんの幸せのために、まずはジエルデさんが自分の幸せを探してみてはどうかな」
「幸せ……そんな物、私が望むわけには……」
「幸せを望んじゃいけない奴なんているわけねーだろ。アンタもアンタの妹も俺がきっちり面倒みてやるっつの!」
親指を立てながら笑う海斗だが、ジエルデの視線は厳しい。前回のアレが全然許されてないっぽい。
「貴女は独りじゃないわ。私達が力になるから」
道すがらジエルデの服に合わせて購入した帽子をかぶせながらエイルは笑う。
「貴女はエルフ、私は人間。戦う場所も違うけれど、それでもきっと同じ未来を夢見る事もできるのよ」
複雑な表情を浮かべたジエルデの真意は読み取れなかった。
ただそれは拒絶ではなく、もっと別の何か……後悔のようなものに通じているようだった。
ふと、そこへ魔導トラックへ乗った三人が近づいてくる。仕事も一段落したのでお茶をするのに呼んだのだ。
ハンター達が席を立つと、その背後の席に腰掛けていた男がゆっくりと立ち上がり新聞を畳む。
「エルフハイムと浄化術、ですか。せっかくですし、個人的に動いてみますか」
変装用らしい眼鏡を外し、男は椅子にかけた上着を手に取り、自らの住処である塔へと歩き出した。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/08/14 16:18:23 |
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お引越しとおつかいと【相談卓】 エイル・メヌエット(ka2807) 人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2015/08/18 21:17:31 |