ゲスト
(ka0000)
弾けると白いふわふわ
マスター:天田洋介

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/08/22 12:00
- 完成日
- 2015/08/28 08:55
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
その畑はグラズヘイム王国の南部平原地帯に広がる。
移住したばかりの集落民が栽培していたのは爆裂種の玉蜀黍だ。火にかけると粒が弾けてポップコーンになる。
交易商人との契約はすでに済んでいた。各地の秋祭りで屋台販売されることだろう。
爆裂種は一般的な玉蜀黍とは違って完全に枯れてから収穫を行う。
意気揚々と畑を訪れた農夫達は鎌で実の部分を切り取って麻袋に詰めていく。それらをまとめて荷馬車へと積み込んだ。
「大変だけど、やっぱ収穫は嬉しいもんだな」
「なんせ初めての作物。うまくいくか気が気じゃなかったからな」
農夫達が談笑しながら昼食のパンを囓る。目前に広がる玉蜀黍畑を眺めていると蠢く何かがいた。
「泥棒?」
「いや単に動物が紛れ込んだのかも」
玉蜀黍は家畜の飼料として使われるが皮がついたままではとても食べにくい。果たして正体は何なのか。農夫達は鎌を片手に近づいていく。
正体がわかった瞬間、一目散で逃げだした。大急ぎで荷馬車に乗ってその場を離れる。玉蜀黍畑にいたのは長い角の牛のような雑魔だった。
「もしやあれが……?」
実は農夫の一人が荒れ地を開拓していたときに妙な壺を発見していた。大した価値もなさそうなので現場に放置して今に至る。
農夫達は魔導伝話が置かれている町まで移動。ハンターズソサエティ支部に雑魔退治の依頼をしたときにそのことを話す。すると職員が教えてくれた。
「遺跡に残留していた魔法公害によって雑魔が発生する場合もあり得ます。絶対とは言い切れませんが、その壺が似たような現象を起こしたのかも知れませんね」
どうであれこのままでは玉蜀黍の収穫は難しい。牛雑魔の退治を頼む農夫達であった。
移住したばかりの集落民が栽培していたのは爆裂種の玉蜀黍だ。火にかけると粒が弾けてポップコーンになる。
交易商人との契約はすでに済んでいた。各地の秋祭りで屋台販売されることだろう。
爆裂種は一般的な玉蜀黍とは違って完全に枯れてから収穫を行う。
意気揚々と畑を訪れた農夫達は鎌で実の部分を切り取って麻袋に詰めていく。それらをまとめて荷馬車へと積み込んだ。
「大変だけど、やっぱ収穫は嬉しいもんだな」
「なんせ初めての作物。うまくいくか気が気じゃなかったからな」
農夫達が談笑しながら昼食のパンを囓る。目前に広がる玉蜀黍畑を眺めていると蠢く何かがいた。
「泥棒?」
「いや単に動物が紛れ込んだのかも」
玉蜀黍は家畜の飼料として使われるが皮がついたままではとても食べにくい。果たして正体は何なのか。農夫達は鎌を片手に近づいていく。
正体がわかった瞬間、一目散で逃げだした。大急ぎで荷馬車に乗ってその場を離れる。玉蜀黍畑にいたのは長い角の牛のような雑魔だった。
「もしやあれが……?」
実は農夫の一人が荒れ地を開拓していたときに妙な壺を発見していた。大した価値もなさそうなので現場に放置して今に至る。
農夫達は魔導伝話が置かれている町まで移動。ハンターズソサエティ支部に雑魔退治の依頼をしたときにそのことを話す。すると職員が教えてくれた。
「遺跡に残留していた魔法公害によって雑魔が発生する場合もあり得ます。絶対とは言い切れませんが、その壺が似たような現象を起こしたのかも知れませんね」
どうであれこのままでは玉蜀黍の収穫は難しい。牛雑魔の退治を頼む農夫達であった。
リプレイ本文
●
転移門を通過して王都を訪れたハンター一行は南下の旅を続ける。
翌日の夕方、南部平原地帯にぽつりとある集落に到着。移住してまだ間もないので何もかもが真新しかった。
しばらく泊まる空き家での夕食後、牛雑魔を見かけた農夫達から詳しい事情を聞く。
「して、農夫や……それらの牛が出る前に何か変わった事や変な物など無かったかや? 依頼を受注する際に担当官が壺がどうのと……それが臭うのじゃ」
「わしらも怪しいとは思うとる」
星輝 Amhran(ka0724)の問いに農夫達が答える。壺の大きさは大人一人が屈んで入れるぐらいの大きさ。知らない象形文字の文様が刻まれていたという。
「蓋のようなものもあったぞ」
「おーあったあった」
農夫達も少しずつ思いだす。
「壺は畑のどの辺りに放置されているのですか?」
「私も牛よりも壺を優先して探すつもりなのよ」
メトロノーム・ソングライト(ka1267)とリリーベル・A・ラミアス(ka5488)が預かった畑周辺の地図を卓に広げた。
農夫達の記憶は曖昧だったが、大まかな位置は特定される。畑全体を方位に例えると南南西の少し奥まった辺りだった。
「なるほど、この辺りか」
柊 真司(ka0705)がペンで地図に壺のマーキングを行う。牛雑魔を退治するにしろ今後のことを考えると壺を放置しておく訳にはいかなかった。
「柊は右回り、左回りでよろしいですか?」
「了解だ」
J(ka3142)が地図を指でなぞると柊真司が頷いた。二人ともここまで魔導バイクに乗ってやって来ている。
排気音で牛雑魔が怖がるのであれば畑の周囲を走ることで封じ込めが可能。興奮して追いかけてくるのならば引きずり回すことができるはず。幸いなことに広大な畑の周囲は走りやすそうである。唯一、水路にかけられた橋については注意が必要だ。
「収穫を控えた畑に雑魔が居座っているとは許し難いな。早めに撃退してやるからな。農夫のおっちゃん達」
「牛殺しは格闘家の憧れ……ここはワタシにまかせるヨロシ」
Anbar(ka4037)と李 香月(ka3948)が農夫達に任せろと約束する。そんな二人の姿を眺めながら仁川 リア(ka3483)は小さなため息をつく。
(牛、雑魔だから倒しても食べれないんだよね? 残念だなぁ……まぁいいや、代わりに僕の強さの糧にさせてもらおうか)
彼の言うとおり、雑魔は基本倒されると消えてしまうので食べることができない。
すでに日は暮れている。畑の下調べや罠を仕掛けたくても厚い曇のせいで星や月の光は期待できない。早めに就寝して明日に備える一行であった。
●
翌日は快晴。農夫達に安全なところまで案内してもらい、そこから先はハンターのみで向かう。聞いていた通り畑の玉蜀黍はすべて枯れていた。
「これがポップコーンになるのか」
仁川リアがダガーで玉蜀黍を一本だけ刈り取る。包葉を剥いてみると中にびっしりと粒が詰まっていた。乾燥しているので一粒ずつがとても硬い。
「気配がするじゃ」
馬上の星輝が望遠鏡で八町分の畑を眺めながら瞼を半分落とす。流れてくる風がどこか不穏な空気を漂わせていた。
「それでは始めるとするか」
「すれ違いは互いに右よりで」
柊真司とJはそれぞれ試作魔導バイク「ナグルファル」に跨がる。クラッチとアクセル操作で走りだした。まもなく玉蜀黍畑は二台の排気音によって囲まれる。
作戦通りに他のハンターも動きだす。
「いくぞ」
星輝が愛馬「成金」の腹を踵で軽く蹴る。玉蜀黍畑の内部にも農作業がしやすいようあぜ道がいくつか通っていた。手綱で誘導して畑の中を駆け抜ける。
中央付近で飛び降りた星輝は片手にトランシーバー、反対には望遠鏡を持って枯れた唐土の間を縫うように走った。
脆いはずの玉蜀黍の茎を揺らすことなく天踏の爪先で駆け上がる。螺旋を描きながら天辺に立ち、身体へ捻りを加えてくるりと一回転。その間に双眼鏡で遠くを望んだ。
「北西の方角。外縁から二十Mの内におるのじゃ。揺れからすると複数かも知れん」
発見したときには無線で仲間に連絡。星輝は畑の中央付近で監視を続ける。
メトロノームとリリーベルは外側から回り込みながら壺のある南南西を目指していた。
「場所がわかっていても遠いですね。できるだけ畑は荒らしたくありませんし」
「そうね。戦馬に乗ってきてよかったわ。乗るのも手綱を操るのも一苦労ですけど!」
乗馬して並びながら先を急ぐ。しばらくして畑の中に乗馬のまま分け入る。
(視界がすごく高くても怖くなんてないんだから!)
リリーベルは手綱を持つ指先を少し震えさせながら高い視線から畑を眺めた。
牛に似た雑魔なので人よりも当然大きい。上から望めば玉蜀黍の茂みで寝転んでいても姿は見えるはず。牛雑魔に見つけられて襲われたとしても、騎乗しているのならば逃げる選択を採ることもできた。
「アリスが手招きしています。きっとあそこです」
メトロノームは連れてきた桜型妖精のアリスにも手伝ってもらう。愛犬のレトリバーも一緒に浮かんでいるアリスの真下を目指す。
土に三分の一ほどが埋まった状態で壺は放置されていた。下馬した二人を呼ぶように離れていたレトリバーが軽く吠える。犬の足元には蓋らしき円盤が転がっていた。
「えっ?」
蓋は見かけよりもずっと重い。二人で持ち上げて壺へ被せる。さらに遠くからでも位置がわかるように幟を立てた。戦闘で破壊しないようにするための策だった。
●
畑外縁で待機していた仁川リア、Anbar、李香月はバイクのJと接触。Jが星輝からの無線で知った牛雑魔発見の報を教えてもらう。
仁川リアとAnbarは愛馬に乗って畑外縁を駆ける。李香月は仲間より一足先に覚醒して畑の中をショートカットしていった。
乗馬の二人は北西に辿り着いて畑の内側へ。
「きっとあの下辺りだね」
「アルタイルもいる。間違いないな」
仁川リアがカラス、Anbarがイヌワシに偵察させていた。上空の二羽が上空の一所を旋回し続けている。
Anbarは一瞬だけ馬の鞍の上に立つ。牛雑魔らしき影を目撃する。
「妾も見かけたアル」
李香月が再合流したところで簡易な罠を仕掛ける。地面すれすれにロープを何本か張っておく。
屯っていた牛雑魔二頭のせいで畑が踏み荒らされていた。戦う場所はその範囲とし、これ以上広げないつもりで退治に挑む。
「気を高め……体重を乗せて突く!」
李香月が先制攻撃。隠れていた茂みから飛びだして牛雑魔・壱の横っ腹に拳を叩き込んだ。彼女が暫し壱を引きつける。
「畑を荒らしやがって」
体中に漆黒の文様を浮かび上がらせたAnbarはにやりと笑う。精霊に祈りを捧げて『闘心昂揚』を得た彼は牛雑魔・弐の懐に入り込む。頭部目がけてアックス「ライデンシャフト」をクラッシュブロウで撃ち込んだ。右角に斧刃が食い込んでにらみ合う形に。そこへ仁川リアが背後から忍び寄った。
「これでその角はもう怖くない! さぁ、ロデオの時間だよ!」
仁川リアは左角に引っかけた投げ縄を手綱代わりにして弐の背中に跳び乗った。振り下ろそうと弐が大暴れする。
「こらこら。まだ始まったばかりだろ?」
振り落とされないようダガーを弐の背中に突き刺して身体を支えた。こうして仁川リアが時間稼ぎをしている間にAnbarは李香月の加勢に入る。
「こっちアルよ!」
ちょうど李香月が壱を誘導してロープで転ばせていた。土煙にまみれながら壱がよろよろと立ち上がる。
「そこから動くなよ」
Anbarのブロウビートによる睨みが壱を怯えさせた。前足の両膝を折った壱が前のめりに倒れ込んだ。
「これでどうアルか!」
この機を逃さず、李香月の連撃が壱の脳天を揺らす。更に部位狙いで喉元に指先を突っ込んで内部のそれを引き抜いた。
Anbarが振り下ろしたアックスの刃が壱の頭をかち割る。
黒い飛沫がまき散らされる中、壱の身体からみるみる力が抜けていく。後は止めを刺すだけ。消えていく様を目の端で確かめつつ、李香月とAnbarが弐へと振り向いた。ロデオの攻防は継続中。弐の背中に刻まれた傷口から真っ黒な飛沫が吹き上がっている。
「頃合いだね」
壱の退治を知った仁川リアが弐の背中から飛びおりた。今度はダガーではなく戦斧「アグスティニア」を握りしめる。
Anbarが興奮状態の弐にブロウビート。周囲はすでに薄らと臭い。再びゲップをまき散らされる前に飲み込ませた。
青龍偃月刀を上段に構えた李香月は左横から。戦斧を振り上げた仁川リアは左横から。左右同時の攻撃が二本の角を切り落とす。
呻く弐の口にむけてAnbarがアックスの刃を水平に打ち込んだ。千切れた舌が地面へ落ちて土まみれとなり、わずかに残った部分で顎がぶら下がる。
弐の動きは完全に失速。頭を集中して狙うことで完全に仕留めるのだった。
●
牛雑魔退治は順調に事が運んだ。
壺のにおいから犬が足取り追って牛雑魔の参、肆が発見される。リリーベルとメトロノームから連絡を受けた星輝が加勢して仕留めきった。
その頃、畑外周でも異変が起きていた。
「来たか!」
畑から飛びだした牛雑魔二頭が柊真司の操るバイクを追いかけだしたのである。
「爆音に苛ついたようですね」
わずかに遅れてJ側にも反応があった。後方から土煙をあげる二つの影が迫る。畑の外周を走る二台のバイクはそれぞれに牛雑魔二頭から追いかけられる形となった。
「万事任せるがよい!」
バイクの二人から連絡を受けた星輝は愛馬に乗ってあぜ道を駆ける。仁川リア、李香月、Anbarを望遠鏡で発見。三人を連れて畑外縁を目指す。
リリーベルとメトロノームは直接無線を聞いて外縁へと向かっていた。耳に届くバイクの排気音を目安にして先回りする。玉蜀黍の間を抜けて畑からでると、バイクで近づいてくるJの姿が望めた。
「あちらには誰もいませんね」
メトロノームはJが自分の横を通り過ぎていくタイミングを計る。刹那、猛突進中の牛雑魔二頭をスリープクラウドの青い霧で包み込んだ。二頭ともがくりと遅くなって大地に転倒。但し、すぐに目を覚ます。
反転して戻ってきたJはバイクに跨がったまま、水中用アサルトライフルP5を構える。雲心で射撃精度を高めつつ、狙うは牛雑魔・伍の頭部。一発一発確実に当てていく。
まもなく柊真司のバイクも現れる。
アースウォールの土壁を盾にしながらメトロノームが絶妙のタイミングでもう一度スリープクラウドを使った。牛雑魔の伍、陸、漆、捌がまとめて眠りに誘われる。
すぐに目を覚ました伍がゲップをまき散らす。しかしハンターとは離れていたので誰にも被害は及ばない。
「もしかしてこいつらで全部か?」
二輪ドリフトで急停車した柊真司も銃撃で応戦。水中用アサルトライフルP5の銃弾で伍を追い詰めていく。
(これなら万全ね)
リリーベルはプロテクションを柊真司とJに付与。二人とも相手側の牛雑魔二頭とすれ違う際に少々の傷を負っていた。ヒールで全回復しておく。
眼を血走らせた伍が迫る度にJと柊真司はヘッドショット。自分達の元へ辿り着く前に仕留めきった。
柊真司とJによる銃撃の対象が陸へ移行するとき、何頭かが同時に目を覚ます。
「これが最後の足止めは最後です」
メトロノームが最後のスリープクラウドを使用する。直後、馬蹄音が耳に届いた。
「最後の追い込みじゃな!」
成金に騎乗して先頭を駆けていた星輝が勢いのまま大太刀飛胤を振るう。地面に倒れていた漆の角が二本とも根元から削り取られた。痛みで目を覚ました漆がうめき声をあげる。仁川リアとAnbarも漆と対峙した。
捌が目を覚ました直前、李香月が駆けつけて拳を振り上げる。
陸を倒した柊真司とJも加勢して漆、捌も倒しきった。雑魔の定めとして塵と化して消えていく。景色に残ったのはたくさんの実を蓄えた玉蜀黍だった。
●
退治成功の夕方。
「此れが原因であったれば然るべき場所で解析なりせぬといかぬが……どうしようも危険じゃったら破壊もやむ無しかの……?」
「道中で何かあったらそうしましょうか」
星輝とJが観察した後で疑惑の壺は掘りだされる。王都までの輸送中に問題がないよう蓋ごとしっかりとロープで縛られた。
「すごい助かった。これで玉蜀黍の収穫ができる」
翌日から集落の者総出で玉蜀黍の収穫が始まる。ハンター達は万が一の牛雑魔出現に備えて見守った。何事もなく収穫の日々は過ぎ去る。
ある日、農夫が一行にポップコーンを振る舞ってくれた。深い鉄鍋の底で塩とバター、そして粒が弾ける。
「これもなかなかいけるんだぜ」
柊真司は自らポップコーンを調理。砂糖とバターで作ったソースを絡めてキャラメルポップコーンが完成した。
野外の木陰に置かれた卓につく。おやつの時間にポップコーンパーティの始まりである。
神に祈りを捧げたリリーベルが早速頂いた。
「……あら、何これ美味しいじゃない。おかわりくださる? そうだわ、ちょうどティーバッグを持っているのだけど、これでお茶を淹れていただけるかしら?」
二種類のポップコーンの双方を摘まんだリリーベルが瞳をぱちりと開いた。ちょうどお湯が沸いたところである。仲間の分も淹れられる。とてもよい香りが漂った。
「俺の腕も満更じゃないな。これはうまい!」
「おいしいですね!」
柊真司は調理を手伝ってくれた農夫に作り方を教える。祭りの屋台にキャラメルポップコーンが並ぶ日も近い。
「!! これは結構いけるな。悪いが、お土産に少し包んでくれるか?」
「もちろんですとも♪」
Anbarががぶりと食べて頬を大きく膨らませる。
(わたしには少し脂っぽく感じますね。でも好きそうな友人へのお土産には喜ばれそうです)
メトロノームも賞味。バター味がちょっとくどかったようだ。キャラメル味の感想は彼女のみが知る。
「美味しい! やっぱりポップコーンって最高だね!」
仁川リアはあっと言う間に一皿分のポップコーンを平らげてしまう。おかわりはたくさんあった。ポップコーン山盛りに瞳を輝かせる。
「ポップコーンじゃな」
「ブランデーを入れた紅茶、美味しいですね」
星輝とJもポップコーンと紅茶を味わう。
数日後の帰路の間際、農夫達から改めてそれぞれにポップコーンが贈られる。調理された大袋一杯のポップコーンと粒の状態のままの二種類だ。これだけあれば友人知人、家族と一緒にしばらくポップコーン三昧である。
壺は王都のソサエティー支部へと預けた。調査の末、今後の憂いに繋がるのであれば無害化の上で廃棄される。
何人かのハンターは王都支部の職員にポップコーンをお裾分けする。そして転移門でリゼリオへと帰っていくのだった。
転移門を通過して王都を訪れたハンター一行は南下の旅を続ける。
翌日の夕方、南部平原地帯にぽつりとある集落に到着。移住してまだ間もないので何もかもが真新しかった。
しばらく泊まる空き家での夕食後、牛雑魔を見かけた農夫達から詳しい事情を聞く。
「して、農夫や……それらの牛が出る前に何か変わった事や変な物など無かったかや? 依頼を受注する際に担当官が壺がどうのと……それが臭うのじゃ」
「わしらも怪しいとは思うとる」
星輝 Amhran(ka0724)の問いに農夫達が答える。壺の大きさは大人一人が屈んで入れるぐらいの大きさ。知らない象形文字の文様が刻まれていたという。
「蓋のようなものもあったぞ」
「おーあったあった」
農夫達も少しずつ思いだす。
「壺は畑のどの辺りに放置されているのですか?」
「私も牛よりも壺を優先して探すつもりなのよ」
メトロノーム・ソングライト(ka1267)とリリーベル・A・ラミアス(ka5488)が預かった畑周辺の地図を卓に広げた。
農夫達の記憶は曖昧だったが、大まかな位置は特定される。畑全体を方位に例えると南南西の少し奥まった辺りだった。
「なるほど、この辺りか」
柊 真司(ka0705)がペンで地図に壺のマーキングを行う。牛雑魔を退治するにしろ今後のことを考えると壺を放置しておく訳にはいかなかった。
「柊は右回り、左回りでよろしいですか?」
「了解だ」
J(ka3142)が地図を指でなぞると柊真司が頷いた。二人ともここまで魔導バイクに乗ってやって来ている。
排気音で牛雑魔が怖がるのであれば畑の周囲を走ることで封じ込めが可能。興奮して追いかけてくるのならば引きずり回すことができるはず。幸いなことに広大な畑の周囲は走りやすそうである。唯一、水路にかけられた橋については注意が必要だ。
「収穫を控えた畑に雑魔が居座っているとは許し難いな。早めに撃退してやるからな。農夫のおっちゃん達」
「牛殺しは格闘家の憧れ……ここはワタシにまかせるヨロシ」
Anbar(ka4037)と李 香月(ka3948)が農夫達に任せろと約束する。そんな二人の姿を眺めながら仁川 リア(ka3483)は小さなため息をつく。
(牛、雑魔だから倒しても食べれないんだよね? 残念だなぁ……まぁいいや、代わりに僕の強さの糧にさせてもらおうか)
彼の言うとおり、雑魔は基本倒されると消えてしまうので食べることができない。
すでに日は暮れている。畑の下調べや罠を仕掛けたくても厚い曇のせいで星や月の光は期待できない。早めに就寝して明日に備える一行であった。
●
翌日は快晴。農夫達に安全なところまで案内してもらい、そこから先はハンターのみで向かう。聞いていた通り畑の玉蜀黍はすべて枯れていた。
「これがポップコーンになるのか」
仁川リアがダガーで玉蜀黍を一本だけ刈り取る。包葉を剥いてみると中にびっしりと粒が詰まっていた。乾燥しているので一粒ずつがとても硬い。
「気配がするじゃ」
馬上の星輝が望遠鏡で八町分の畑を眺めながら瞼を半分落とす。流れてくる風がどこか不穏な空気を漂わせていた。
「それでは始めるとするか」
「すれ違いは互いに右よりで」
柊真司とJはそれぞれ試作魔導バイク「ナグルファル」に跨がる。クラッチとアクセル操作で走りだした。まもなく玉蜀黍畑は二台の排気音によって囲まれる。
作戦通りに他のハンターも動きだす。
「いくぞ」
星輝が愛馬「成金」の腹を踵で軽く蹴る。玉蜀黍畑の内部にも農作業がしやすいようあぜ道がいくつか通っていた。手綱で誘導して畑の中を駆け抜ける。
中央付近で飛び降りた星輝は片手にトランシーバー、反対には望遠鏡を持って枯れた唐土の間を縫うように走った。
脆いはずの玉蜀黍の茎を揺らすことなく天踏の爪先で駆け上がる。螺旋を描きながら天辺に立ち、身体へ捻りを加えてくるりと一回転。その間に双眼鏡で遠くを望んだ。
「北西の方角。外縁から二十Mの内におるのじゃ。揺れからすると複数かも知れん」
発見したときには無線で仲間に連絡。星輝は畑の中央付近で監視を続ける。
メトロノームとリリーベルは外側から回り込みながら壺のある南南西を目指していた。
「場所がわかっていても遠いですね。できるだけ畑は荒らしたくありませんし」
「そうね。戦馬に乗ってきてよかったわ。乗るのも手綱を操るのも一苦労ですけど!」
乗馬して並びながら先を急ぐ。しばらくして畑の中に乗馬のまま分け入る。
(視界がすごく高くても怖くなんてないんだから!)
リリーベルは手綱を持つ指先を少し震えさせながら高い視線から畑を眺めた。
牛に似た雑魔なので人よりも当然大きい。上から望めば玉蜀黍の茂みで寝転んでいても姿は見えるはず。牛雑魔に見つけられて襲われたとしても、騎乗しているのならば逃げる選択を採ることもできた。
「アリスが手招きしています。きっとあそこです」
メトロノームは連れてきた桜型妖精のアリスにも手伝ってもらう。愛犬のレトリバーも一緒に浮かんでいるアリスの真下を目指す。
土に三分の一ほどが埋まった状態で壺は放置されていた。下馬した二人を呼ぶように離れていたレトリバーが軽く吠える。犬の足元には蓋らしき円盤が転がっていた。
「えっ?」
蓋は見かけよりもずっと重い。二人で持ち上げて壺へ被せる。さらに遠くからでも位置がわかるように幟を立てた。戦闘で破壊しないようにするための策だった。
●
畑外縁で待機していた仁川リア、Anbar、李香月はバイクのJと接触。Jが星輝からの無線で知った牛雑魔発見の報を教えてもらう。
仁川リアとAnbarは愛馬に乗って畑外縁を駆ける。李香月は仲間より一足先に覚醒して畑の中をショートカットしていった。
乗馬の二人は北西に辿り着いて畑の内側へ。
「きっとあの下辺りだね」
「アルタイルもいる。間違いないな」
仁川リアがカラス、Anbarがイヌワシに偵察させていた。上空の二羽が上空の一所を旋回し続けている。
Anbarは一瞬だけ馬の鞍の上に立つ。牛雑魔らしき影を目撃する。
「妾も見かけたアル」
李香月が再合流したところで簡易な罠を仕掛ける。地面すれすれにロープを何本か張っておく。
屯っていた牛雑魔二頭のせいで畑が踏み荒らされていた。戦う場所はその範囲とし、これ以上広げないつもりで退治に挑む。
「気を高め……体重を乗せて突く!」
李香月が先制攻撃。隠れていた茂みから飛びだして牛雑魔・壱の横っ腹に拳を叩き込んだ。彼女が暫し壱を引きつける。
「畑を荒らしやがって」
体中に漆黒の文様を浮かび上がらせたAnbarはにやりと笑う。精霊に祈りを捧げて『闘心昂揚』を得た彼は牛雑魔・弐の懐に入り込む。頭部目がけてアックス「ライデンシャフト」をクラッシュブロウで撃ち込んだ。右角に斧刃が食い込んでにらみ合う形に。そこへ仁川リアが背後から忍び寄った。
「これでその角はもう怖くない! さぁ、ロデオの時間だよ!」
仁川リアは左角に引っかけた投げ縄を手綱代わりにして弐の背中に跳び乗った。振り下ろそうと弐が大暴れする。
「こらこら。まだ始まったばかりだろ?」
振り落とされないようダガーを弐の背中に突き刺して身体を支えた。こうして仁川リアが時間稼ぎをしている間にAnbarは李香月の加勢に入る。
「こっちアルよ!」
ちょうど李香月が壱を誘導してロープで転ばせていた。土煙にまみれながら壱がよろよろと立ち上がる。
「そこから動くなよ」
Anbarのブロウビートによる睨みが壱を怯えさせた。前足の両膝を折った壱が前のめりに倒れ込んだ。
「これでどうアルか!」
この機を逃さず、李香月の連撃が壱の脳天を揺らす。更に部位狙いで喉元に指先を突っ込んで内部のそれを引き抜いた。
Anbarが振り下ろしたアックスの刃が壱の頭をかち割る。
黒い飛沫がまき散らされる中、壱の身体からみるみる力が抜けていく。後は止めを刺すだけ。消えていく様を目の端で確かめつつ、李香月とAnbarが弐へと振り向いた。ロデオの攻防は継続中。弐の背中に刻まれた傷口から真っ黒な飛沫が吹き上がっている。
「頃合いだね」
壱の退治を知った仁川リアが弐の背中から飛びおりた。今度はダガーではなく戦斧「アグスティニア」を握りしめる。
Anbarが興奮状態の弐にブロウビート。周囲はすでに薄らと臭い。再びゲップをまき散らされる前に飲み込ませた。
青龍偃月刀を上段に構えた李香月は左横から。戦斧を振り上げた仁川リアは左横から。左右同時の攻撃が二本の角を切り落とす。
呻く弐の口にむけてAnbarがアックスの刃を水平に打ち込んだ。千切れた舌が地面へ落ちて土まみれとなり、わずかに残った部分で顎がぶら下がる。
弐の動きは完全に失速。頭を集中して狙うことで完全に仕留めるのだった。
●
牛雑魔退治は順調に事が運んだ。
壺のにおいから犬が足取り追って牛雑魔の参、肆が発見される。リリーベルとメトロノームから連絡を受けた星輝が加勢して仕留めきった。
その頃、畑外周でも異変が起きていた。
「来たか!」
畑から飛びだした牛雑魔二頭が柊真司の操るバイクを追いかけだしたのである。
「爆音に苛ついたようですね」
わずかに遅れてJ側にも反応があった。後方から土煙をあげる二つの影が迫る。畑の外周を走る二台のバイクはそれぞれに牛雑魔二頭から追いかけられる形となった。
「万事任せるがよい!」
バイクの二人から連絡を受けた星輝は愛馬に乗ってあぜ道を駆ける。仁川リア、李香月、Anbarを望遠鏡で発見。三人を連れて畑外縁を目指す。
リリーベルとメトロノームは直接無線を聞いて外縁へと向かっていた。耳に届くバイクの排気音を目安にして先回りする。玉蜀黍の間を抜けて畑からでると、バイクで近づいてくるJの姿が望めた。
「あちらには誰もいませんね」
メトロノームはJが自分の横を通り過ぎていくタイミングを計る。刹那、猛突進中の牛雑魔二頭をスリープクラウドの青い霧で包み込んだ。二頭ともがくりと遅くなって大地に転倒。但し、すぐに目を覚ます。
反転して戻ってきたJはバイクに跨がったまま、水中用アサルトライフルP5を構える。雲心で射撃精度を高めつつ、狙うは牛雑魔・伍の頭部。一発一発確実に当てていく。
まもなく柊真司のバイクも現れる。
アースウォールの土壁を盾にしながらメトロノームが絶妙のタイミングでもう一度スリープクラウドを使った。牛雑魔の伍、陸、漆、捌がまとめて眠りに誘われる。
すぐに目を覚ました伍がゲップをまき散らす。しかしハンターとは離れていたので誰にも被害は及ばない。
「もしかしてこいつらで全部か?」
二輪ドリフトで急停車した柊真司も銃撃で応戦。水中用アサルトライフルP5の銃弾で伍を追い詰めていく。
(これなら万全ね)
リリーベルはプロテクションを柊真司とJに付与。二人とも相手側の牛雑魔二頭とすれ違う際に少々の傷を負っていた。ヒールで全回復しておく。
眼を血走らせた伍が迫る度にJと柊真司はヘッドショット。自分達の元へ辿り着く前に仕留めきった。
柊真司とJによる銃撃の対象が陸へ移行するとき、何頭かが同時に目を覚ます。
「これが最後の足止めは最後です」
メトロノームが最後のスリープクラウドを使用する。直後、馬蹄音が耳に届いた。
「最後の追い込みじゃな!」
成金に騎乗して先頭を駆けていた星輝が勢いのまま大太刀飛胤を振るう。地面に倒れていた漆の角が二本とも根元から削り取られた。痛みで目を覚ました漆がうめき声をあげる。仁川リアとAnbarも漆と対峙した。
捌が目を覚ました直前、李香月が駆けつけて拳を振り上げる。
陸を倒した柊真司とJも加勢して漆、捌も倒しきった。雑魔の定めとして塵と化して消えていく。景色に残ったのはたくさんの実を蓄えた玉蜀黍だった。
●
退治成功の夕方。
「此れが原因であったれば然るべき場所で解析なりせぬといかぬが……どうしようも危険じゃったら破壊もやむ無しかの……?」
「道中で何かあったらそうしましょうか」
星輝とJが観察した後で疑惑の壺は掘りだされる。王都までの輸送中に問題がないよう蓋ごとしっかりとロープで縛られた。
「すごい助かった。これで玉蜀黍の収穫ができる」
翌日から集落の者総出で玉蜀黍の収穫が始まる。ハンター達は万が一の牛雑魔出現に備えて見守った。何事もなく収穫の日々は過ぎ去る。
ある日、農夫が一行にポップコーンを振る舞ってくれた。深い鉄鍋の底で塩とバター、そして粒が弾ける。
「これもなかなかいけるんだぜ」
柊真司は自らポップコーンを調理。砂糖とバターで作ったソースを絡めてキャラメルポップコーンが完成した。
野外の木陰に置かれた卓につく。おやつの時間にポップコーンパーティの始まりである。
神に祈りを捧げたリリーベルが早速頂いた。
「……あら、何これ美味しいじゃない。おかわりくださる? そうだわ、ちょうどティーバッグを持っているのだけど、これでお茶を淹れていただけるかしら?」
二種類のポップコーンの双方を摘まんだリリーベルが瞳をぱちりと開いた。ちょうどお湯が沸いたところである。仲間の分も淹れられる。とてもよい香りが漂った。
「俺の腕も満更じゃないな。これはうまい!」
「おいしいですね!」
柊真司は調理を手伝ってくれた農夫に作り方を教える。祭りの屋台にキャラメルポップコーンが並ぶ日も近い。
「!! これは結構いけるな。悪いが、お土産に少し包んでくれるか?」
「もちろんですとも♪」
Anbarががぶりと食べて頬を大きく膨らませる。
(わたしには少し脂っぽく感じますね。でも好きそうな友人へのお土産には喜ばれそうです)
メトロノームも賞味。バター味がちょっとくどかったようだ。キャラメル味の感想は彼女のみが知る。
「美味しい! やっぱりポップコーンって最高だね!」
仁川リアはあっと言う間に一皿分のポップコーンを平らげてしまう。おかわりはたくさんあった。ポップコーン山盛りに瞳を輝かせる。
「ポップコーンじゃな」
「ブランデーを入れた紅茶、美味しいですね」
星輝とJもポップコーンと紅茶を味わう。
数日後の帰路の間際、農夫達から改めてそれぞれにポップコーンが贈られる。調理された大袋一杯のポップコーンと粒の状態のままの二種類だ。これだけあれば友人知人、家族と一緒にしばらくポップコーン三昧である。
壺は王都のソサエティー支部へと預けた。調査の末、今後の憂いに繋がるのであれば無害化の上で廃棄される。
何人かのハンターは王都支部の職員にポップコーンをお裾分けする。そして転移門でリゼリオへと帰っていくのだった。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/08/20 07:14:06 |
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【相談卓】 仁川 リア(ka3483) 人間(クリムゾンウェスト)|16才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/08/21 19:58:04 |