いままさに、ぼくらはこごえているのです

マスター:龍河流

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
少なめ
相談期間
3日
締切
2015/08/28 22:00
完成日
2015/09/08 04:54

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 今回のお仕事は、とある山に出る雑魔退治でした。
 依頼してきたのは、山の下の村の人達です。
 そりゃあ、雑魔が時々降りて来て、畑を荒らしたり、人を襲おうとしたりするのですから、『ハンターさん、助けて』と言うのは当たり前。
 なにしろ、その雑魔ときたら、それはそれは大きい奴でしたから。

 そう、『大きい奴でした』。
 もう退治し終わっています。
 すごく高い山の上に逃げた、リアルブルーの人が『白いゴリラ』と呼んだ雑魔を追い掛けて坂道を上り続け、更には上から落とされる岩を避け続けて、えいやーと皆さんで退治したのも、今はもういい思い出です。
 最初にお話を聞いた時より、ちょっと、いえ、かーなーりー苦労した気がします。けれども、お仕事が終わった後の気分は、たいていの人が最高だと言うでしょう。
 あとは村まで降りて、心配していた村の人達に、雑魔退治の報告をして、帰るだけです。
 そういえば、お仕事が終わったら、村で美味しいものをご馳走するから頑張ってねって言われていたのでした。
 じゃあ、今夜は村に泊まらせてもらって、ご馳走になっちゃうのもいいかもしれません。


 村まで、降りられれば。


「おかしいだろ、なんで八月に雪が降るんだ!」
「あ……眠くなってきた」
「寝るなっ、寝たら死ぬぞーっ!」

リプレイ本文

 ぺちっ
 ぽか
 どすっ
 ばっちーん
 ごす
 ぽこん
 どがげしっ

 七発の拳骨を喰らったジャック・J・グリーヴ(ka1305)さんに、高瀬 未悠(ka3199)さんが、とっても真面目なお顔で尋ねました。
「まだ必要だったら、心を鬼にして殴らせてもらうけれど?」
 その横で、鬼百合(ka3667)くんがにこにこ、拳骨を振り回しています。
「オレは、やっていいならすぐにぶん殴りまっせ」
 いたずら小僧の笑顔に引っ付くように、犬養 菜摘(ka3996)さんは柴犬を抱えて、しゃがんでいました。
「まだ足りないのか。致し方ない、歯を食いしばれ」
 ぶんぶんと拳骨を振り回している人達に、これまたくっつくようにして、黒の夢(ka0187)さんことアンノウンさんはにこにこしています。一緒になってくっついている静架(ka0387)さん、笹原 雄成(ka4797)さん、華彩 理子(ka5123)さんは、じいっと見ていたり、困ったりしています。
 ジャックさん、口をパクパクさせながら、いらないに両手を振りました。おしゃべり出来ないのは、皆さんにぼこぼこ殴られた後だからです。
 誰かと誰かが、ものすごく力一杯ぶん殴ったので、あごが痛いらしいですよ。でも、殴れって言ったのは、ジャックさんです。
「知ってたんだ、これが夢じゃないことくらい」
「そうか。本気であんなことを考えていたなら、無事下山は心許ないと心配していたところだ」
「正気付いたようで、なによりです」
「ヒールを掛けましょうか?」
 事の起こりは、雑魔退治の帰り道。突然天気が悪くなって、事もあろうに雪が降り出したことでした。
 突然の吹雪でびっくりしすぎて、ハンターさん達は帰り道が分からなくなりました。これを短く言うと、遭難。
 まさか遭難すると思わなかったジャックさん、しばらくしてから行動がおかしくなって、『これは夢に違いない』とか言い出したのです。それで、ご本人が殴れって言うから、皆さんで一発ずつ殴ってみましたよ。
 皆さんも、かーなーりおかしくなってます。
 でも、そうなっても仕方のない事情が、ハンターさん達にはあったのでした。

 三時間前まで、ハンターさん達は未悠さんや静架さん、菜摘さんが『白ゴリラ』と呼んだ雑魔を退治していました。
 それで、皆さんで帰る前に休憩していたら、突然空が真っ暗になって、雪が降って来たのでした。いやぁ、寒いのなんの。
 もちろん皆さん、長袖を着ていましたよ。笹原さんの白衣とか、理子さんや鬼百合くんのお着物とか、あんまり山登りっぽくなくても、他の皆さんも長袖でした。だけど、それは夏向けの長袖だったのです。
「防寒具なんか、持ってきちゃいねーっすよ」
「まったくだ。ほら、コートの中に入って良いのだぞ」
 連れてきたフクロウさんを抱っこして、がたぷるしていた鬼百合くんに、コートを羽織ったアンノウンさんがほれほれと手招きしました。にこにこしていますが、なんだかとっても眠そうです。
「我輩は、くしゅっ、魔物、へくちっ、だから……大丈夫、くっしゃん、なのだ」
 全然大丈夫に聞こえませんが、アンノウンさんは平気の平左。こともあろうに、立ったままうとうとし始めましたよ。慌てて、静架さんが声を掛けます。
「おっと、起きてください。寝たら、体温が下がる一方です。危険ですから」
 お仕事の後で疲れているとしても、ここで寝てはいけません。歩けるならば、歩かねば。
 だって、今いるところは吹きっ晒しで、それはもう寒いのですから!
 という訳で、ねむねむのアンノウンさんを真ん中に、皆さんは山の下の方に歩き出しました。先頭は派手な色の上着を持って来ていた菜摘さんです。柴わんこが、自信たっぷりにご一緒しています。
「素手で金属に触れたらいけませんよ。この温度では、皮膚が張り付きます」
 吹雪いて来たら、その時は風が遮られる場所を選んでビバークですと、リアルブルーの人らしい言葉を使いながら、ゆっくり歩きます。すぐ後ろには、腰にロープを結んだ静架さんが続きます。
 なんで、腰にロープ? きっと、後ろを歩く人達がはぐれないように持って歩くためでしょう。まさか、迷子紐なんてことはありません。
 それから鬼百合くん、アンノウンさん、理子さん、未悠さん、笹原さん、最後がジャックさんで、ひたすらに歩きましょう。だんだん雪が強くなってきましたから、どこか避難できる場所を探さないといけません。
 ところで、未悠さんがぶるぶるしていますが、大丈夫でしょうか?
「寒くなんてないわ。これは下山という困難なミッションに挑戦している武者震いよ」
 唇が真っ青でそんな風に言っても、とっても言う通りには見えません。これはきっと強がりというやつです。こんなに雪が降っているのに、コートもなしで寒くないはずがありません。
「この雪が、全部砂糖だったらいいのに……」
 変なことを話し出しましたが、気晴らしのようなので、まだ大丈夫。多分、きっとね?
「ふむ、これだけの白砂糖が手に入れば、一攫千金だな。悪くない」
 ジャックさんが、面白いと返事をしてくれました。そうでしょうと、唇をカクカクさせながら振り返った未悠さん、首を傾げました。
「大変、雄成がいないわ!」
 え? と、前を歩いていた人達が振り返りました。笹原さんは、周りをきょろきょろ見回してしまいました。ちゃんと未悠さんとジャックさんの間を歩いているのに、一体何事が起きたのやら。
 びっくりしていたら、未悠さんが目をごしごししています。
 そうして、言いました。
「白衣が雪に同化してて見失ったわ」
 なんか他にももにょもにょ言いましたが、そんなことは誰も聞いちゃいません。
「だあっ、低体温からの幻覚かよ。そうまで言うなら、この白衣はマフラーにしとけ!」
 耳や鼻は凍傷になりやすいから、しっかり隠すんだと、笹原さんは物知りでした。自分の白衣を未悠さんにグルグル巻いて、その右腕を抱えます。左腕は、理子さんががっちり掴みました。
「おい、そっちも両側から抱えちまってくれ」
 アンノウンさん、道に迷わないように木に印を刻もうとか、言うことは良いんですが、時々寝始めます。鬼百合くんと静架さんに両脇から抱えられました。
「途中に川がありました。あれを見付けられれば、下山ルートが割り出せるはずです」
「谷に入ると、かえって危険ですが……」
 静架さんと菜摘さんが、あーとかこーとか、人里への道を探す方法を相談し始めました。なんて頼もしいのでしょう。
 急いで、風が当たらないところに行かねばなりません。アンノウンさんと未悠さんを抱えた人の荷物は、ジャックさんが持ちました。先頭の菜摘さんは、邪魔になる木の枝を切り払ったり、足元の草を踏み固めたり、通りやすいようにしながら、風が避けられる場所を探して下ります。
 さっきまで夏山だったから、足元の草は青々としていて、そこに雪が積もるから滑りやすくなっています。歩きやすいところを行きながら、後で暖を取るための枯れ枝も拾っていきましょう。
「だぁっ、寝たら駄目だってばさー!」
「未悠ちゃんも、転ばないように気を付けて。休めるようになったら、チョコレートを差しげますからね」
「「チョコレート!」」
 ふらふらしていた二人が、この魔法の言葉で少し元気を出したので、ハンターさん達はなんとかかんとか川を見付け、その近くの土手で風を避けるのにテントを張ることが出来たのでした。周りに鬼百合くんにアースウォールも作ってもらって、風対策はばっちりです。
 どうしてテントがあったかって?
「山に入る時のたしなみです」
 菜摘さんによると、リアルブルーでは当たり前のことらしいですよ。
 そして、皆さんで持って来た食べ物を出したり、役に立ちそうなものを並べたら、案外たくさんあったのでした。
 どうして?
「お恥ずかしながら、先日も遭難しまして……」
 理子さんが、何かとんでもないことを言いました。更にこの遭難癖は、笹原さんと未悠さんにもあるようです。静架さんも、初めてではないご様子?
 遭難とは、案外日常のことのようですね。
 では、雪を集めて、火を焚いて、お湯を作るところから始めましょう。

 雪を食べると、体温が下がってしまいます。
 うんと冷たくなった手を、突然火にかざすと血の巡りがおかしくなって、かえって調子が変になります。
 もしも手の指の感覚がなくなったら、口に入れましょう。口の中の温度で、だんだんあったまってきます。
 お顔はしかめたり、とにかく動かすと凍傷になりにくいのです。
 でも、今日はわんこやフクロウさんがいるので、抱っこして暖まるのが一番。
 あ、と、は。
「この緊急事態に、女を暖める甲斐性がない方がおかしいわよ!」
「「なんでそうなる!!」」
 鬼百合くんの寝袋に、アンノウンさんと一緒に下半身だけ入って、大分元気が出た未悠さんが、笹原さんとジャックさんに怒っていました。こういう時は、皆でくっついて暖まるべきなのに、このお二人が嫌そうな顔をしたからです。
 いやいや、お二人だって言いたいことがあるのです。……恥ずかしいじゃありませんか、女の人とくっつくなんて。女の人と普段ご縁が全然ないので、恥ずかしいからくっついたりしたくありません。流石にお二人とも、はっきりは言いませんでしたけれどもね。笹原さんが、さっき未悠さんの腕を抱えていたのは、命の危機だったからです。
 だけど、今だって非常事態なので、皆でくっついて丸くなりました。火はあるけど、ちょっと小さいのでそうしないと寒いからです。
 で、女の人の隣には静架さんと鬼百合くんが入ったのに、なんだか恥ずかしがって火の近くに行かなかったジャックさんが、寒くておかしくなりました。殴れと言われて、思わず殴っちゃった皆さんも、まだ頭の働きが良くありません。
 ここまで冷えると、ちょっとやそっとじゃいつも通りにはなれないのでした。わんこ達も、やっぱりふるふるしています。
 あー、寒ぅい。

 そのうちに。
 少し暖まってきたので、元気の残っている菜摘さんと静架さんが燃料を拾いにお出掛けしました。静架さんの腰には、まだロープが結んであります。
 いえ、ありました。邪魔そうなので、菜摘さんが解いてあげたのです。だってほら、そこまで行って戻ってくるだけだし、他の人が付いてくるわけではありませんからね。
 そうして、静架さんは燃料になりそうな枝を拾いつつ、狩りが出来ないかとテントからずんずん離れていきます。大丈夫でしょうか。帰ってこられる?
 菜摘さんは、雪道でも滑らないようにかんじきか何かを作ろうと、その材料まで集めています。何故か虫まで集めていますが、どうするつもりなのでしょう?
「この虫は、向こうで食べたことがありますから、大丈夫でしょう」
 何がどう大丈夫なのかは、後でわかる……かもしれません。
 その頃のテントの中では、眠り込まないように皆さんでお話をしていました。今の話題は、笹原さんの知識はすごいねーということでした。
「道に迷った時の用心はしてきましたが、こうまで寒くなるとは見込み違いでした。師匠の知識がなければ、今頃、また慌てているところでしたわ」
 理子さんが感心したように『センセイ』と呼ぶのは、笹原さんのことです。薬学部の学生さんで、たまたまさっき役に立つ知識を覚えていただけの笹原さん、師匠などと言われるとむず痒くて困ります。ただの学生だと何度も言ったのですが、理子さんも他の人もちっとも聞いてくれないので、もうあきらめ気味。
 一人対いっぱいだと、今は元気が足りないのですごく疲れてしまいます。だから、うっかり油断して、ぼんやりしていたのです。
 そう、油断しました。
「あっ、プリンが見えまさぁ!」
 突然、叫んだのは鬼百合くんでした。チョコレートはあったけれど、皆さんで仲良くちょっとずつ分けたので、もうとっくに食べてしまったのに、プリンとはどうしたのでしょう。と、他の皆さんが不思議に思った時には、鬼百合くんは笹原さんの頭を掴んでいました。
「プリン? ……あっ、特大プリンね!」
 未悠さんも騒ぎ始めましたが、もちろんプリンはありません。笹原さんの髪の毛が、染めているところと元の色とで、それっぽく見えなくもありませんが……どう見ても人の頭です。
「汝ら、寝惚けたのか。あれほど、うたた寝はいかんと注意したではないか」
 少ぅし暖まって、気が緩んだ鬼百合くんと未悠さんが、うっかり寝込んでしまったようです。それで寝惚けて、笹原さんを襲い始めました。
 あんまりいきなりで、笹原さんは、二人掛かりで押し倒されています。鬼百合くんはともかく、未悠さんにも押し倒されました。

 お し た お さ れ ま し た

「俺様にはサオリたんがいるから、他の婦女子に手を触れるわけにはいかないぞ!」
「ギャルゲーの嫁が、見てるわけないだろ! 助けろ!!」
 髪の毛をくしゃくしゃされている笹原さんが、ジャックさんを怒鳴りました。
 サオリたんは、ジャックさんがどこぞで手に入れたリアルブルーのギャルゲーとやらに出て来る架空の女の子で、クリムゾンウェストの人には良く分かりませんが、結婚したりできるそうです。
 さっきまで、そのサオリたんについてジャックさんがものすごく熱く語ってくれていたのですが、意味が分からない鬼百合くんと、意味は分かるけど興味なんかない未悠さんは、うっかり寝てしまったのですね。
「女の子が危ないのに、助けないなんて……」
 一番危ないのは笹原さんですが、アンノウンさんは未悠さんがまた寒さでおかしくなりかけているのにと、ジャックさんに怒り始めました。アンノウンさんも服の袖をはむはむとくわえながら、うとうとしかかっていましたが、今は目がくわっと開きました。
「お尻叩きです。さっ、ズボンを脱ぎなさい!」
 当然ですが、ジャックさんは逃げました。うっかり、テントの入口と反対方向に。
「二人とも、落ち着いてください。さ、師匠の上から降りて」
「早く、引きずり、降ろして……」
 まだ寝惚けている二人に、理子さんが説得を開始しています。プリンに憑りつかれた二人に、その声が届くのはいつのことでしょう。
 今のところ、笹原さんの声は、誰にも届いていません。
 そして。
「皆元気が戻ってきたようだな。これなら、もう少し燃料を集めに行っても良さそうだ」
 テントの外では、菜摘さんが中の騒ぎをよく確かめず、また燃料集めにお出掛けしてしまいました。かんじきの材料も、もうちょっと欲しいのです。
 この頃、静架さんはと言えば。
「ふむ、どの方向から来たのだったか……」
 雪に凍えていた山鳥を首尾よく捕えて、帰り道を考えているところでした。
 愛犬のシェパードくんが、帰り道を覚えているのかは分かりません。

依頼結果

依頼成功度大成功
面白かった! 7
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 黒竜との冥契
    黒の夢(ka0187
    エルフ|26才|女性|魔術師
  • アークシューター
    静架(ka0387
    人間(蒼)|19才|男性|猟撃士
  • ノブレス・オブリージュ
    ジャック・J・グリーヴ(ka1305
    人間(紅)|24才|男性|闘狩人
  • シグルドと共に
    未悠(ka3199
    人間(蒼)|21才|女性|霊闘士
  • 瑞鬼「白澤」
    鬼百合(ka3667
    エルフ|12才|男性|魔術師
  • 熊撃ち
    犬養 菜摘(ka3996
    人間(蒼)|21才|女性|猟撃士

  • 笹原 雄成(ka4797
    人間(蒼)|20才|男性|機導師

  • 華彩 理子(ka5123
    人間(紅)|25才|女性|聖導士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 生存戦略をしましょう。
笹原 雄成(ka4797
人間(リアルブルー)|20才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2015/08/28 15:42:40
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/08/27 01:01:00