ゲスト
(ka0000)
【東征】子どもたちに笑顔を
マスター:四月朔日さくら

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/09/13 19:00
- 完成日
- 2015/09/18 06:35
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
東方の戦いが――ひとまず、終わった。
リムネラ(kz0019)としても、辛く悲しい戦いだった。
エトファリカに多くの血が流れ、そして要ともいえた存在・黒龍は力を使い果たして消えた。
……リムネラの肩に乗る小さな白龍に、そのマテリアルの残滓を授けて。
これからこの国、いやこの世界も大きく様変わりをしていくことだろう。しかし、今のリムネラにはそれを見届ける余裕がなかった。
本当はもう少しこの場所で、それこそ霊を弔い、傷ついた大地に癒しと浄化を施したい。リムネラは巫女だ、それは彼女の本領を発揮できるはずの行為なのだ――が。
リムネラは同時に、ユニオンのリーダーでもある。
いくら転移門があるとはいえ、補佐役がいるとは言え、ユニオンを放ったままにしているわけには行かない。
各国の要人たちも、なんのかんのと言っても長逗留はできないだろうし、それはリムネラも同様と言うことだ。
後ろ髪を引かれる思いで、彼女はエトファリカを後にしようとする。
(ドウか……この国の皆サンに、一日も早く笑顔が戻りマスヨウに……)
たくさんの、たくさんの想いを胸に抱えて。
●
一方その頃リゼリオでは。
「……そうか、終わりましたか……」
辺境ユニオン・ガーディナで情報を受け取っているのは補佐役を務めるジーク・真田(kz0090)だ。
安堵の息をこぼす一方で、話を詳しく聞くに連れ、リムネラの苦労が察せられてまたやきもきとする。もともとユニオンリーダーでもあるし、戻るのは早いだろう――が、優しい彼女の性格を考えるとなかなか難しいだろう。状況が状況だけにかなり落ち込んでいるかも知れない。
(また、何か慰労会を開かないとな)
そんなことを思いながら、雑務にまた追われていた。
●
そしてそんな心配をされているリムネラの、服の裾を引くものがいた。
それは転移門にはいる前、都近郊の状態を自分の目で確認しているさなかだった。
「ねえねえおねえちゃん、わるいようかいはやっつけたんでしょ?」
まだ五つほどの少女だろうか、あどけない口ぶりでそう尋ねてくる。
「……エエ。もう、ダイジョウブデスよ」
少女に向かって微笑むリムネラ。
「あたいのおかあちゃんたち、もどってくるかな」
「オカアサン……?」
リムネラが尋ねると、少女は無造作に指を指す。――墓場に向かって。
少女はまだきっと、『死』を理解していないのだ。
でも、少女は期待を込めた眼差しで、リムネラを見る。その眼差しに、真実を告げられるかというと――リムネラはそこまで毅然とした態度のとれる少女ではなかった。
「……もしかして、ホカにもこんな子が?」
エトファリカの戦いが熾烈を極めたのは周知の事実。戦災孤児も多いだろう。近くにいた役人は小さく頷くと、リムネラは眉をそっと寄せて少女の頬を撫でた。
「ありがとう、おねえちゃんのてはあったかいね。……ね、ちょっとでいいんだ、あたいたちとあそんでくれないかなぁ?」
どうやら戦災孤児はこの近くにも多いらしい。
「……イイ、ですか? 帰る時間、遅れマスケド」
随行していた役人にきくと、そのくらいなら、と言うことだった。
「ジャア、ミンナで遊びまショウ? その方がキット、楽しいデス」
かくして、戦災孤児との交流会が急遽開かれることになったのである。
東方の戦いが――ひとまず、終わった。
リムネラ(kz0019)としても、辛く悲しい戦いだった。
エトファリカに多くの血が流れ、そして要ともいえた存在・黒龍は力を使い果たして消えた。
……リムネラの肩に乗る小さな白龍に、そのマテリアルの残滓を授けて。
これからこの国、いやこの世界も大きく様変わりをしていくことだろう。しかし、今のリムネラにはそれを見届ける余裕がなかった。
本当はもう少しこの場所で、それこそ霊を弔い、傷ついた大地に癒しと浄化を施したい。リムネラは巫女だ、それは彼女の本領を発揮できるはずの行為なのだ――が。
リムネラは同時に、ユニオンのリーダーでもある。
いくら転移門があるとはいえ、補佐役がいるとは言え、ユニオンを放ったままにしているわけには行かない。
各国の要人たちも、なんのかんのと言っても長逗留はできないだろうし、それはリムネラも同様と言うことだ。
後ろ髪を引かれる思いで、彼女はエトファリカを後にしようとする。
(ドウか……この国の皆サンに、一日も早く笑顔が戻りマスヨウに……)
たくさんの、たくさんの想いを胸に抱えて。
●
一方その頃リゼリオでは。
「……そうか、終わりましたか……」
辺境ユニオン・ガーディナで情報を受け取っているのは補佐役を務めるジーク・真田(kz0090)だ。
安堵の息をこぼす一方で、話を詳しく聞くに連れ、リムネラの苦労が察せられてまたやきもきとする。もともとユニオンリーダーでもあるし、戻るのは早いだろう――が、優しい彼女の性格を考えるとなかなか難しいだろう。状況が状況だけにかなり落ち込んでいるかも知れない。
(また、何か慰労会を開かないとな)
そんなことを思いながら、雑務にまた追われていた。
●
そしてそんな心配をされているリムネラの、服の裾を引くものがいた。
それは転移門にはいる前、都近郊の状態を自分の目で確認しているさなかだった。
「ねえねえおねえちゃん、わるいようかいはやっつけたんでしょ?」
まだ五つほどの少女だろうか、あどけない口ぶりでそう尋ねてくる。
「……エエ。もう、ダイジョウブデスよ」
少女に向かって微笑むリムネラ。
「あたいのおかあちゃんたち、もどってくるかな」
「オカアサン……?」
リムネラが尋ねると、少女は無造作に指を指す。――墓場に向かって。
少女はまだきっと、『死』を理解していないのだ。
でも、少女は期待を込めた眼差しで、リムネラを見る。その眼差しに、真実を告げられるかというと――リムネラはそこまで毅然とした態度のとれる少女ではなかった。
「……もしかして、ホカにもこんな子が?」
エトファリカの戦いが熾烈を極めたのは周知の事実。戦災孤児も多いだろう。近くにいた役人は小さく頷くと、リムネラは眉をそっと寄せて少女の頬を撫でた。
「ありがとう、おねえちゃんのてはあったかいね。……ね、ちょっとでいいんだ、あたいたちとあそんでくれないかなぁ?」
どうやら戦災孤児はこの近くにも多いらしい。
「……イイ、ですか? 帰る時間、遅れマスケド」
随行していた役人にきくと、そのくらいなら、と言うことだった。
「ジャア、ミンナで遊びまショウ? その方がキット、楽しいデス」
かくして、戦災孤児との交流会が急遽開かれることになったのである。
リプレイ本文
●
親を喪った子どもたち。
その心中はいかばかりなものか。
リムネラ(kz0018)は、幼い頃に別れたきりの両親を薄ぼんやりと思い出す。巫女としての修行の為、大霊堂に向かったリムネラ。彼女にとって家族とは血のつながりよりもともにあった仲間たち、と言うイメージが強いが、幼い子どもたちにはそんな言葉は理解できまい。
と、そんな風に悩んでいる小さな肩を、ぽんと叩く人がいた。
「ア……」
そこに立っていたのは、見知った顔もあれば見知らぬ顔もある。しかし全員に共通するのは、彼らがリムネラの思いに呼応して集まったと言うことだろう。
「皆サン、アリガトウ……」
リムネラはそう言って、小さく頭を下げた。
●
(子どもって言うのは笑って楽しんで喜んで、そして生きる元気の塊みたいな存在だ……その元気を取り戻す手伝い、できるといいな)
ジュード・エアハート(ka0410)はそう良いながら、山のように持ってきた菓子を見て笑んでみせる。
甘味というのは老若男女、誰もが元気の源になる、立派な『くすり』の一種のようなものだ。それに絵本や紙芝居もさらに準備している。こちらはどれも残酷表現のない、明るくほのぼのとした、あるいはわくわくするような内容ばかりだ。
菓子を持ってきたのはなにもジュードだけではない。
元気の源であると同時に立派な栄養源である菓子は、子どもたちの空きっ腹を満足させることができるだろうと、誰もがなにがしかの菓子を準備しているようだった。
(でも、歪虚と戦うことばかり教わってきたけど、こういうときにどうすればいいのかって、はっきりと教わったことってない……僕のほうが落ちこんでなんていられないけど)
騎士として生まれ育った少年ルーエル・ゼクシディア(ka2473)は、ぼんやりとそんなことを胸の中で思う。まだ幼い少年である彼にとって、こういう経験はそれほどまだ無いのだ。特に、彼は比較的恵まれた環境に育っている。結果として、こういう状況になれているというわけではなかった。――それでも。
(こういうときは、明るく振る舞わなくちゃ)
少年は、自分のすべきことを理解していた。
(大戦は終わったけれど、ここからはが本当の意味での始まり――この先に続く未来を生きる、この子たちにとって)
エイル・メヌエット(ka2807)はそっと目を伏せ、それから傍らのレイス(ka1541)に目配せをした。幼い頃にすべてを失ったレイスにとって、は、彼らの存在は決して他人事ではない。
「争いの被害者はいつだって、このような弱い誰か、か」
やるせなさの詰まった声で、そう呟く。
「だからこそできることをやらなきゃダメね。生きる気力を与えられればいいのだけれど」
エイルの言葉に、レイスもゆるく頷いた。
そう、ついた傷はすぐに塞がるわけではない。それは誰もが理解している。だからこそ、明るく振る舞い、今はその悲しいことを忘れてしまえたら、そう思っているのはグリムバルド・グリーンウッド(ka4409)。マイペースな彼だが、リアルブルー出身者と言うこともあってこのような戦争を間近で感じる機械はあまりなかった。しかし、だからこそ出来ることもあると、彼は理解している。
「そう、戦いのあとにゃぁ悲しみが残るもんだ。でもだからと言って、いつまでも笑ってられねぇ世の中じゃあイケねえな!」
そう言っているのはマッド・ロウ(ka4589)。まるで世紀末から現れたかのような独特の姿をしているが、その心根は緑や生命を愛する、非常に優しい男である。見た目で誤解をされがちだが。
「よお、チビども!」
最初に声をかけたのは彼だった。突然の来訪者、しかも厳つい男性ということで、子どもたちは一瞬目をまん丸くして、なかには泣き出す子どもまでいる始末。しかし、それもある程度は想定済みだ。
「チビどもの傷をすぐに治すことは、オレにゃできねぇ。いや、時間かけたってできねえかも知れねえ。でも、それじゃあイケねえんだ」
マッドの言葉は真剣そのもの。見た目で驚いていた子どもたちも、だんだんしゃくり上げるのをやめて、彼の話を聞いていた。そのようすをみて、マッドは笑う。
「花壇でも作ろうぜ。そしてお花ちゃんの種を植えて、育てるんだ」
そう言われた子どもたちは、また目をぱちくりさせる。
「そうだよ。今は悲しいことを一旦忘れて、遊ぼうか」
その横に現れたのは王国に住む妖精ユグディラをアレンジした着ぐるみ、まるごとゆぐでぃらに身を包んだグリムバルド。もふもふにゃんこのような着ぐるみが現れて、子どもたちはそちらに目を奪われる。
「ほら、たくさん遊ぶのも子どもの仕事だからね」
「ねこさん!」
「ねこさんだー!」
着ぐるみというものに縁がなかったのか、子どもたちも興味深そうに彼らを見つめていた。そこへさっと菓子を配るのはジュードの役目。全員がそれぞれに手分けして持ってきた菓子類を、ジュードが配って回る。
「おかし!」
子どもたちは目を輝かせ、渡されたチョコやマカロンにかじりつく。
きっと西方の甘味に触れるのもはじめてなのだろう、子どもたちは嬉しそうに次から次へとそれらを食べていく。
「さあ、お菓子は他にもあるよ。ヘタかも知れないけど、作り方も教えてあげるからね」
ルーエルがにっこりと微笑む。まあ事実、料理は下手なのだが……しかし一つでもレパートリーがあれば、生きる糧にすることはできるかも知れない。
「このやきがし、おいしいねっ」
そう言ってにこにこ笑う子どもに優しく微笑み返すのは、リアルブルー出身の葵・ミコシバ(ka4010)だ。リアルブルーの東洋人――つまり東方と似たような文化を持つエリア出身――で、かつ家族を失った経験のある彼女からしてみれば、この子どもたちは他人事とは思えないのだ。子どもたちの支えになればと動物の形の焼き菓子を手作りして準備していたのだが、好評のようで何よりと嬉しそう。
「紙芝居や絵本もたっぷりあるよ。どれから読んでみたい?」
ジュードがきくと、子どもたちはわっと絵本はこれ、紙芝居はこれ――という感じに騒ぎ出した。娯楽に飢えていたのだろう、子どもたちには単純な話でも喜ばれる。
そんな様子を見て、リムネラも読み語りの輪に加わり、そして子どもたちと触れあうのだった。
葵は舞も披露する。しゃんしゃんしゃんと、足を一歩踏み込むごとにつけている鈴が鳴る。その音もどこか心地よくて、子どもたちのみならずハンターたちも思わず見てしまうほどだ。
そしてその舞の美しさに、子どもたちも大きな拍手を送った。
「ほら、わんちゃんもいるわよ? それとも馬が好きな子がいるかしら?」
エイルはペットを示して微笑む。子どもたちは犬や馬にこわごわ触れながら、しかしそのぬくもりに笑顔を浮かべた。
●
「そうだ、こんなものは知っているかな」
グリムバルドが取り出したのは、昔懐かしい風情漂う玩具の竹とんぼ、それに紙飛行機。
着ぐるみの手で作るのは骨だが、あらかじめ作っておいたものなので問題ない。紙飛行機をすっと飛ばしてみれば、子どもたちはきゃっと声を上げ、竹とんぼも飛ばしてみれば初めて見るであろう玩具に胸をときめかせている。
「作ってみたいかな?」
「つくるー!」
「おれもー!」
興味を示したのは主に少年たち。少女たちは葵の舞にすっかり目を奪われている。一緒になって踊ろうとしている子どももいるようだ。
しかしここで問題が。グリムバルドの今の姿、つまり着ぐるみのままでは作り方を指導することは難しい。えーい、と脱いだ中から現れたのは黒髪に蜂蜜のような金色の瞳をしたなかなかの美丈夫で、まるで変身ヒーローか何かのように子どもたちに歓迎されていた。これはこれで複雑な気分だが。
そんな一方で、マッドは焼けた土を丁寧に掘り返し、花壇作りにいそしむ。
花の種の植え方、水の量など、育てるのに必要なことを簡単に、だが丁寧に教えていく。はじめこそその姿に怯えていた子どももいたが、心根の優しさに少しずつふれるにつれて子どもたちも自主的に花壇作りに手を貸すようになっていった。まだ不安そうにしている子どもたちについては、
「ヒャッハー! なーに、怖い顔すんなよ。別にとって食ったりしねぇから心配すんなって!」
そう言って花の種をぽぽいと手渡し、にかっと笑う。コワモテだが、案外笑うと印象が変わるので、子どもたちも安心しているらしい。さらには葵も加わって、気づけば子どもたちは誰も彼も土まみれになりながらも笑顔を浮かべていた。
まだ幼さの残るルーエルは子どもたちの良き話し相手も務めている。世代が近い方が、何かと話題も広がりやすいのだろう。試しに作った料理は決して美味しいと言い張れるものではなかったが、それでも子どもたちに笑顔を与えるには十分だ。
そう。子どもたちとのレクリエーションは十分すぎるくらいだ。
――じゃあ、次はどうする?
●
まだ生を受けてから数えるほどの年月しか、過ごしていない子どもたち。
彼らが『死』を実感するには、正直なところまだ幼すぎる。
自分の生活の糧すらも得ることのできない幼い少年少女たちに、家族の『死』をどうやって実感させるか。
――しかし、エイルとレイスには何か考えがあるようだった。
「子どもたちはまだ、はっきりとした『死』の意味が理解できていないだろう。だが、親がいなくとも強く生きられるよう、そういう自信をつけてあげる必要がある。墓のなかにいる両親が戻ってくると思っている子どもも、どうやらまだいるようだしな」
レイスはそう告げると、エイルに目配せをする。
「だから――墓参をしようと思うんです。志半ばで倒れたであろうご両親を弔い、そして子どもたちがもっと笑顔になれるように」
「何カ、作戦があるのデスカ?」
リムネラが問うと、エイルはぼそぼそと彼女の耳元に囁きかけてやった。
その言葉に、リムネラもぱっと顔を明るくする。自分にも手伝えることは――あるのだと。
●
年長の子どもたちに簡単な料理(エイルと協力して作ったこちらはそれなりの出来である)を振る舞い、そのレシピを記した紙を子どもに渡したレイスはふっと微笑んだ。
幼い頃の自分を思い出させる、子どもたち。
どうか自分のような道をたどらないで欲しいと思いつつ、彼はそっと声をかけた。
「それを食べ終わったら、あとで墓参りに行かないか」
「おはかまいり?」
子どもたちは実感がないのだろう、きょとんとしている。
「ええ。みんなのお父さんやお母さんにもご挨拶しなきゃいけないでしょう」
エイルの言葉で、子どもたちはこっくりと頷いた。
墓参りに行く前に、軽く水浴びもする。
ほこりまみれの身体の汚れを、綺麗にしていく。
清潔な衣装はエイルが用意していた。それを身につけて、子どもたちは照れくさそうに笑う。
「……それじゃあ、行きましょう?」
そう言うと、子どもたちはこっちだよ、と案内してくれた。
――墓地は、小さかった。
正確に言うと、大きな土饅頭がひとつきり。戦争のあとにはしばしばある光景だが、子どもたちはその墓地に無邪気に連れてきてくれる。
ハンターたちは子どもにも協力して貰いながら、軽く清掃をし、土饅頭にそっと花を捧げる。
「お母さん、ハンターさんだよ」
「ぼくたちをたすけにきてくれたんだ」
子どもたちは土饅頭に、口々に言葉をかける。
その様子をひととおり見終わったあと、レイスは子どもたちにそっと囁いた。
「……もしも、君たちと同じような人に出会ったら、そのときは今度は君たちが優しくしてあげて欲しい。自分が困っていても、他の誰かのことを考えてあげられる優しい人になって欲しい。今は分からなくても、どうか覚えていてくれ」
ルーエルも頷く。
「みんな、けっしてひとりじゃないってこと、忘れないで。辛い思いをした子もいるだろうけれど、ひとりになってしまったって思うと誰だって、暗い気持ちになってしまうもの。でも、同じ痛みを知ってる子が、こんなに周りにいる。辛いこと、悲しいことを分かち合えば、楽しいことや嬉しいこともきっと同じように感じる。それが、きっと君たちの、明日へ踏み出す力になってくれればって、僕はそう思う」
子どもたちはじっと、じっとハンターたちを見つめている。
そう、決して忘れ去ったわけではないのだ。
辛い思い出を閉じ込めて、無かったことにしたいという、都合のいい意識の改ざん。子どもたちの、自己防衛本能。
でも、子どもたちの瞳は決して昏いものではなかった。むしろ、言われた言葉を何とか受け止めたいという、必死なもの。
「さあ、祈りまショウ」
自分たちの幸福な未来を。
リムネラがそっと祈りを捧げると同時に、エイルはそっとプロテクションのスキルを子どもたちにかけてやる。スキルの効果でもある柔らかな光が、子どもたちの身体をそっと包み込み、それがまるで両親の愛情そのものであるかのように見せる。
そしてレイスもまた祈る。
――どうか貴方方に安らかな眠りを、そして願わくば遺児たちに幸せを、と。
「きっと君たちは幸せになってくれ、でないとほ両親は安心して眠れないから。皆が言うとおり、君たちは一人じゃない。友達も、優しくしてくれる人もいる。それに、きっとご両親が見守ってくれているから――そう。君たちが大きくなって、さらに時間が過ぎたそのときには、きっとまたお母さんたちに逢えるから」
子どもたちの頭をそっと撫でながら、彼はわずかに目を細めた。
●
楽しい時間はあっという間に過ぎる。
マッドたちが作った花壇は、数ヶ月もすれば綺麗な花を咲かせるのだろう。
料理を覚えた子どもたちは、自分で生きる糧を得る手段をさらに見つけるに違いない。
幼い子どもたちは竹とんぼや紙飛行機、どれもグリムバルドに教えてもらったものたちに夢中だし、葵も絵本はプレゼントだと言って微笑む。
「お父さんたちは遠くに行っちゃったけど、見てくれてるんだよね」
飲み込みの早い子どもがそう言って笑うと、グリムバルドはすこし嬉しいような切ないような笑みを浮かべてその子たちの頭を優しく撫でてやる。
分からないわけではない。ただ、目を閉じて、耳を塞いでいただけ。
「ホントは野菜でも育てられりゃもっと良かったんだが、あれは案外難しいからな。もう少し大きくなったら、挑戦するといい」
マッドの手渡した袋には、野菜の種がぎっしりだ。
「てめえの足で立って、生きて。兎に角でっかくなれよ!」
それはハンターたちの総意。
頑張って、生きて。今はまだ分からないことが多くても、どうか生きて。
ハンターたちとの優しい思い出が、きっと彼らの糧になりますように。
誰もがそう、祈って。そして笑顔の子どもたちに手を振って、その村をあとにしたのだった。
親を喪った子どもたち。
その心中はいかばかりなものか。
リムネラ(kz0018)は、幼い頃に別れたきりの両親を薄ぼんやりと思い出す。巫女としての修行の為、大霊堂に向かったリムネラ。彼女にとって家族とは血のつながりよりもともにあった仲間たち、と言うイメージが強いが、幼い子どもたちにはそんな言葉は理解できまい。
と、そんな風に悩んでいる小さな肩を、ぽんと叩く人がいた。
「ア……」
そこに立っていたのは、見知った顔もあれば見知らぬ顔もある。しかし全員に共通するのは、彼らがリムネラの思いに呼応して集まったと言うことだろう。
「皆サン、アリガトウ……」
リムネラはそう言って、小さく頭を下げた。
●
(子どもって言うのは笑って楽しんで喜んで、そして生きる元気の塊みたいな存在だ……その元気を取り戻す手伝い、できるといいな)
ジュード・エアハート(ka0410)はそう良いながら、山のように持ってきた菓子を見て笑んでみせる。
甘味というのは老若男女、誰もが元気の源になる、立派な『くすり』の一種のようなものだ。それに絵本や紙芝居もさらに準備している。こちらはどれも残酷表現のない、明るくほのぼのとした、あるいはわくわくするような内容ばかりだ。
菓子を持ってきたのはなにもジュードだけではない。
元気の源であると同時に立派な栄養源である菓子は、子どもたちの空きっ腹を満足させることができるだろうと、誰もがなにがしかの菓子を準備しているようだった。
(でも、歪虚と戦うことばかり教わってきたけど、こういうときにどうすればいいのかって、はっきりと教わったことってない……僕のほうが落ちこんでなんていられないけど)
騎士として生まれ育った少年ルーエル・ゼクシディア(ka2473)は、ぼんやりとそんなことを胸の中で思う。まだ幼い少年である彼にとって、こういう経験はそれほどまだ無いのだ。特に、彼は比較的恵まれた環境に育っている。結果として、こういう状況になれているというわけではなかった。――それでも。
(こういうときは、明るく振る舞わなくちゃ)
少年は、自分のすべきことを理解していた。
(大戦は終わったけれど、ここからはが本当の意味での始まり――この先に続く未来を生きる、この子たちにとって)
エイル・メヌエット(ka2807)はそっと目を伏せ、それから傍らのレイス(ka1541)に目配せをした。幼い頃にすべてを失ったレイスにとって、は、彼らの存在は決して他人事ではない。
「争いの被害者はいつだって、このような弱い誰か、か」
やるせなさの詰まった声で、そう呟く。
「だからこそできることをやらなきゃダメね。生きる気力を与えられればいいのだけれど」
エイルの言葉に、レイスもゆるく頷いた。
そう、ついた傷はすぐに塞がるわけではない。それは誰もが理解している。だからこそ、明るく振る舞い、今はその悲しいことを忘れてしまえたら、そう思っているのはグリムバルド・グリーンウッド(ka4409)。マイペースな彼だが、リアルブルー出身者と言うこともあってこのような戦争を間近で感じる機械はあまりなかった。しかし、だからこそ出来ることもあると、彼は理解している。
「そう、戦いのあとにゃぁ悲しみが残るもんだ。でもだからと言って、いつまでも笑ってられねぇ世の中じゃあイケねえな!」
そう言っているのはマッド・ロウ(ka4589)。まるで世紀末から現れたかのような独特の姿をしているが、その心根は緑や生命を愛する、非常に優しい男である。見た目で誤解をされがちだが。
「よお、チビども!」
最初に声をかけたのは彼だった。突然の来訪者、しかも厳つい男性ということで、子どもたちは一瞬目をまん丸くして、なかには泣き出す子どもまでいる始末。しかし、それもある程度は想定済みだ。
「チビどもの傷をすぐに治すことは、オレにゃできねぇ。いや、時間かけたってできねえかも知れねえ。でも、それじゃあイケねえんだ」
マッドの言葉は真剣そのもの。見た目で驚いていた子どもたちも、だんだんしゃくり上げるのをやめて、彼の話を聞いていた。そのようすをみて、マッドは笑う。
「花壇でも作ろうぜ。そしてお花ちゃんの種を植えて、育てるんだ」
そう言われた子どもたちは、また目をぱちくりさせる。
「そうだよ。今は悲しいことを一旦忘れて、遊ぼうか」
その横に現れたのは王国に住む妖精ユグディラをアレンジした着ぐるみ、まるごとゆぐでぃらに身を包んだグリムバルド。もふもふにゃんこのような着ぐるみが現れて、子どもたちはそちらに目を奪われる。
「ほら、たくさん遊ぶのも子どもの仕事だからね」
「ねこさん!」
「ねこさんだー!」
着ぐるみというものに縁がなかったのか、子どもたちも興味深そうに彼らを見つめていた。そこへさっと菓子を配るのはジュードの役目。全員がそれぞれに手分けして持ってきた菓子類を、ジュードが配って回る。
「おかし!」
子どもたちは目を輝かせ、渡されたチョコやマカロンにかじりつく。
きっと西方の甘味に触れるのもはじめてなのだろう、子どもたちは嬉しそうに次から次へとそれらを食べていく。
「さあ、お菓子は他にもあるよ。ヘタかも知れないけど、作り方も教えてあげるからね」
ルーエルがにっこりと微笑む。まあ事実、料理は下手なのだが……しかし一つでもレパートリーがあれば、生きる糧にすることはできるかも知れない。
「このやきがし、おいしいねっ」
そう言ってにこにこ笑う子どもに優しく微笑み返すのは、リアルブルー出身の葵・ミコシバ(ka4010)だ。リアルブルーの東洋人――つまり東方と似たような文化を持つエリア出身――で、かつ家族を失った経験のある彼女からしてみれば、この子どもたちは他人事とは思えないのだ。子どもたちの支えになればと動物の形の焼き菓子を手作りして準備していたのだが、好評のようで何よりと嬉しそう。
「紙芝居や絵本もたっぷりあるよ。どれから読んでみたい?」
ジュードがきくと、子どもたちはわっと絵本はこれ、紙芝居はこれ――という感じに騒ぎ出した。娯楽に飢えていたのだろう、子どもたちには単純な話でも喜ばれる。
そんな様子を見て、リムネラも読み語りの輪に加わり、そして子どもたちと触れあうのだった。
葵は舞も披露する。しゃんしゃんしゃんと、足を一歩踏み込むごとにつけている鈴が鳴る。その音もどこか心地よくて、子どもたちのみならずハンターたちも思わず見てしまうほどだ。
そしてその舞の美しさに、子どもたちも大きな拍手を送った。
「ほら、わんちゃんもいるわよ? それとも馬が好きな子がいるかしら?」
エイルはペットを示して微笑む。子どもたちは犬や馬にこわごわ触れながら、しかしそのぬくもりに笑顔を浮かべた。
●
「そうだ、こんなものは知っているかな」
グリムバルドが取り出したのは、昔懐かしい風情漂う玩具の竹とんぼ、それに紙飛行機。
着ぐるみの手で作るのは骨だが、あらかじめ作っておいたものなので問題ない。紙飛行機をすっと飛ばしてみれば、子どもたちはきゃっと声を上げ、竹とんぼも飛ばしてみれば初めて見るであろう玩具に胸をときめかせている。
「作ってみたいかな?」
「つくるー!」
「おれもー!」
興味を示したのは主に少年たち。少女たちは葵の舞にすっかり目を奪われている。一緒になって踊ろうとしている子どももいるようだ。
しかしここで問題が。グリムバルドの今の姿、つまり着ぐるみのままでは作り方を指導することは難しい。えーい、と脱いだ中から現れたのは黒髪に蜂蜜のような金色の瞳をしたなかなかの美丈夫で、まるで変身ヒーローか何かのように子どもたちに歓迎されていた。これはこれで複雑な気分だが。
そんな一方で、マッドは焼けた土を丁寧に掘り返し、花壇作りにいそしむ。
花の種の植え方、水の量など、育てるのに必要なことを簡単に、だが丁寧に教えていく。はじめこそその姿に怯えていた子どももいたが、心根の優しさに少しずつふれるにつれて子どもたちも自主的に花壇作りに手を貸すようになっていった。まだ不安そうにしている子どもたちについては、
「ヒャッハー! なーに、怖い顔すんなよ。別にとって食ったりしねぇから心配すんなって!」
そう言って花の種をぽぽいと手渡し、にかっと笑う。コワモテだが、案外笑うと印象が変わるので、子どもたちも安心しているらしい。さらには葵も加わって、気づけば子どもたちは誰も彼も土まみれになりながらも笑顔を浮かべていた。
まだ幼さの残るルーエルは子どもたちの良き話し相手も務めている。世代が近い方が、何かと話題も広がりやすいのだろう。試しに作った料理は決して美味しいと言い張れるものではなかったが、それでも子どもたちに笑顔を与えるには十分だ。
そう。子どもたちとのレクリエーションは十分すぎるくらいだ。
――じゃあ、次はどうする?
●
まだ生を受けてから数えるほどの年月しか、過ごしていない子どもたち。
彼らが『死』を実感するには、正直なところまだ幼すぎる。
自分の生活の糧すらも得ることのできない幼い少年少女たちに、家族の『死』をどうやって実感させるか。
――しかし、エイルとレイスには何か考えがあるようだった。
「子どもたちはまだ、はっきりとした『死』の意味が理解できていないだろう。だが、親がいなくとも強く生きられるよう、そういう自信をつけてあげる必要がある。墓のなかにいる両親が戻ってくると思っている子どもも、どうやらまだいるようだしな」
レイスはそう告げると、エイルに目配せをする。
「だから――墓参をしようと思うんです。志半ばで倒れたであろうご両親を弔い、そして子どもたちがもっと笑顔になれるように」
「何カ、作戦があるのデスカ?」
リムネラが問うと、エイルはぼそぼそと彼女の耳元に囁きかけてやった。
その言葉に、リムネラもぱっと顔を明るくする。自分にも手伝えることは――あるのだと。
●
年長の子どもたちに簡単な料理(エイルと協力して作ったこちらはそれなりの出来である)を振る舞い、そのレシピを記した紙を子どもに渡したレイスはふっと微笑んだ。
幼い頃の自分を思い出させる、子どもたち。
どうか自分のような道をたどらないで欲しいと思いつつ、彼はそっと声をかけた。
「それを食べ終わったら、あとで墓参りに行かないか」
「おはかまいり?」
子どもたちは実感がないのだろう、きょとんとしている。
「ええ。みんなのお父さんやお母さんにもご挨拶しなきゃいけないでしょう」
エイルの言葉で、子どもたちはこっくりと頷いた。
墓参りに行く前に、軽く水浴びもする。
ほこりまみれの身体の汚れを、綺麗にしていく。
清潔な衣装はエイルが用意していた。それを身につけて、子どもたちは照れくさそうに笑う。
「……それじゃあ、行きましょう?」
そう言うと、子どもたちはこっちだよ、と案内してくれた。
――墓地は、小さかった。
正確に言うと、大きな土饅頭がひとつきり。戦争のあとにはしばしばある光景だが、子どもたちはその墓地に無邪気に連れてきてくれる。
ハンターたちは子どもにも協力して貰いながら、軽く清掃をし、土饅頭にそっと花を捧げる。
「お母さん、ハンターさんだよ」
「ぼくたちをたすけにきてくれたんだ」
子どもたちは土饅頭に、口々に言葉をかける。
その様子をひととおり見終わったあと、レイスは子どもたちにそっと囁いた。
「……もしも、君たちと同じような人に出会ったら、そのときは今度は君たちが優しくしてあげて欲しい。自分が困っていても、他の誰かのことを考えてあげられる優しい人になって欲しい。今は分からなくても、どうか覚えていてくれ」
ルーエルも頷く。
「みんな、けっしてひとりじゃないってこと、忘れないで。辛い思いをした子もいるだろうけれど、ひとりになってしまったって思うと誰だって、暗い気持ちになってしまうもの。でも、同じ痛みを知ってる子が、こんなに周りにいる。辛いこと、悲しいことを分かち合えば、楽しいことや嬉しいこともきっと同じように感じる。それが、きっと君たちの、明日へ踏み出す力になってくれればって、僕はそう思う」
子どもたちはじっと、じっとハンターたちを見つめている。
そう、決して忘れ去ったわけではないのだ。
辛い思い出を閉じ込めて、無かったことにしたいという、都合のいい意識の改ざん。子どもたちの、自己防衛本能。
でも、子どもたちの瞳は決して昏いものではなかった。むしろ、言われた言葉を何とか受け止めたいという、必死なもの。
「さあ、祈りまショウ」
自分たちの幸福な未来を。
リムネラがそっと祈りを捧げると同時に、エイルはそっとプロテクションのスキルを子どもたちにかけてやる。スキルの効果でもある柔らかな光が、子どもたちの身体をそっと包み込み、それがまるで両親の愛情そのものであるかのように見せる。
そしてレイスもまた祈る。
――どうか貴方方に安らかな眠りを、そして願わくば遺児たちに幸せを、と。
「きっと君たちは幸せになってくれ、でないとほ両親は安心して眠れないから。皆が言うとおり、君たちは一人じゃない。友達も、優しくしてくれる人もいる。それに、きっとご両親が見守ってくれているから――そう。君たちが大きくなって、さらに時間が過ぎたそのときには、きっとまたお母さんたちに逢えるから」
子どもたちの頭をそっと撫でながら、彼はわずかに目を細めた。
●
楽しい時間はあっという間に過ぎる。
マッドたちが作った花壇は、数ヶ月もすれば綺麗な花を咲かせるのだろう。
料理を覚えた子どもたちは、自分で生きる糧を得る手段をさらに見つけるに違いない。
幼い子どもたちは竹とんぼや紙飛行機、どれもグリムバルドに教えてもらったものたちに夢中だし、葵も絵本はプレゼントだと言って微笑む。
「お父さんたちは遠くに行っちゃったけど、見てくれてるんだよね」
飲み込みの早い子どもがそう言って笑うと、グリムバルドはすこし嬉しいような切ないような笑みを浮かべてその子たちの頭を優しく撫でてやる。
分からないわけではない。ただ、目を閉じて、耳を塞いでいただけ。
「ホントは野菜でも育てられりゃもっと良かったんだが、あれは案外難しいからな。もう少し大きくなったら、挑戦するといい」
マッドの手渡した袋には、野菜の種がぎっしりだ。
「てめえの足で立って、生きて。兎に角でっかくなれよ!」
それはハンターたちの総意。
頑張って、生きて。今はまだ分からないことが多くても、どうか生きて。
ハンターたちとの優しい思い出が、きっと彼らの糧になりますように。
誰もがそう、祈って。そして笑顔の子どもたちに手を振って、その村をあとにしたのだった。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/09/10 00:44:55 |
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子らの未来のために【相談卓】 エイル・メヌエット(ka2807) 人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2015/09/11 20:06:53 |