ゲスト
(ka0000)
【聖呪】小鬼と食われる貴族
マスター:馬車猪

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/09/15 22:00
- 完成日
- 2015/09/21 20:26
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●ヨーク丘陵前の戦い。右側。
ゴブリンと王国の戦士達がにらみ合っている。
数は同程度だがゴブリン部隊の方が小さく見える。
種類は茨小鬼だが通常の小鬼に近い能力しか持たず、粗末な槍と汚れた毛皮しか装備していない。
対する人間達は良質な剣と盾を持ち金属鎧で身を固め、指揮官級の貴族など自ら輝く高級装備を身につけている。
体格と体力と装備で圧倒している以上、王国の勝利は確実だと、貴族達だけはそう思っていた。
「聖堂戦士団には戦いの後の治療を担当してもおう」
「ふん。女子供が戦場に出るのが間違っておるのだ」
イコニア・カーナボン(kz0040)は、指揮所で複数の貴族から好意的でない視線を向けられていた。
年齢差が3倍以上の爵位持ち相手に強気に出るなど不可能だ。
何度も頭を下げて指揮所から離れ、年上の部下達と合流してほっと息を吐こうとした。
「大丈夫ですよ司祭。ここにいるのは男爵以上の有力者ばかりです。装備も優良、数も数だけは多いゴブリンと同じくらいです。何があっても負けることだけはありませんよ」
王都勤めのクルセイダーが、自分の娘と同じ年頃の司祭安心させるため戯けて話しかける。
イコニアは礼儀正しくうなずいている。頑張って内心を顔に出さないようしつつ、使い込まれてはいても傷がない部下達の装備を見て顔色を悪くする。
「男爵様が動きました!」
戦場の右端にいた軽装部隊が突進。穂先を並べたゴブリン左端部隊と接触する。
均衡は数秒だけ。疾影士が茨小鬼槍兵の間をすり抜け指揮官を狙い、混乱した茨小鬼部隊が後退を始めたように見えた。
「馬鹿者! すぐに出るのだ!」
「とっとと前進せぃ!」
戦場右側全体に貴族達の号令が響く。
攻守に優れた装備の部隊が隊列を維持したまま前進する。
重装甲の兵が大盾を構え、その後ろから弓兵が矢を放つ。
1つ1つを見れば勇猛で勇壮だ。
けれど右翼全体を見ると動きがちぐはぐ過ぎる。
個々の部隊の連携はあっても部隊同士の連携は皆無。隊と隊の距離は遠くなり、矢を他の部隊に当てかける場面すらあった。
そんな状況で、茨小鬼部隊が大きく動く。
「後退ヲ止メロ。術ヲ使エ」
20近い茨小鬼が槍で以て堅守の構えをとる。
人間の軽装部隊の前進が止まり、乱れた隊列を崩され後退を強いられる。
「走レ!」
ゴブリン部隊複数が、ほぼ完全に足並みを揃えて急加速。
一部茨小鬼に人間兵の隊列端から回り込ませ、半包囲に成功する。
「射ヨ!」
虎の子の茨小鬼弓兵が、人間弓兵ではなく指揮官である貴族だけを狙う。
「おのれ卑怯な。守りを固めぃ」
人間の重装部隊は完全に防御に集中してしまい、速度はあっても殴り合いの力に劣る軽装と通常部隊のみで茨小鬼全力と戦うはめになる。
このままでは戦場右端から王国軍が崩壊しゴブリンの完全勝利に繋がりかねない。
ようやくそのことに気づいた聖堂戦士団からの派遣部隊が混乱し、慣れぬ手つきでトランシーバーを取り出したイコニアが叫ぶ。
「助けてください!」
回線は、近くにいるはずのハンター達に繋がっていた。
●戦場の後方で
『助けてください!』
救援要請が聞こえたとき、ハンターの大部分は悩んでいた。
人間側が負けそうだからではない。
「遊んでいる訳じゃないよな?」
敵味方の弓の射程が短い。しかも命中率が甘く見て3割程度しかない。
移動速度も酷い。最も速い部隊でも装備しすぎのハンター並の速度しか出ていない。
練度が低いのだ。1人1人がどれだけ速く動けても歩調を合わせることができないなら部隊の速度は鈍足になる。
まあ、歪虚相手に数え切れない激戦を繰り広げたハンターや、リアルブルーの軍事技術を取り入れたハンターと比べるのは酷かもしれない。
「助けに入って恨まれてもな」
妙にハンターを敵視していた貴族の顔を思い浮かべる。
ハンター達がうけた依頼はこの場の警備だ。
助けに向かっても向かわなくても法的には全く問題ないとはいえ、貴族に逆恨みされたら面倒なことになりかねない。
『トラブルの原因は私、功績は全部皆さんになるようしまっ、へぶっ』
戦場に向かっていた聖堂戦士団の一部が倒れて部隊の動きが止まる。
うぐ、へぐっ、と泣き声が聞こえたのは気のせいだろうか。
『助けて……』
敵陣を蹂躙して英雄になるのも、貴族の私兵を援護して破綻を防ぐも、全てはハンターの選択次第だ。
ゴブリンと王国の戦士達がにらみ合っている。
数は同程度だがゴブリン部隊の方が小さく見える。
種類は茨小鬼だが通常の小鬼に近い能力しか持たず、粗末な槍と汚れた毛皮しか装備していない。
対する人間達は良質な剣と盾を持ち金属鎧で身を固め、指揮官級の貴族など自ら輝く高級装備を身につけている。
体格と体力と装備で圧倒している以上、王国の勝利は確実だと、貴族達だけはそう思っていた。
「聖堂戦士団には戦いの後の治療を担当してもおう」
「ふん。女子供が戦場に出るのが間違っておるのだ」
イコニア・カーナボン(kz0040)は、指揮所で複数の貴族から好意的でない視線を向けられていた。
年齢差が3倍以上の爵位持ち相手に強気に出るなど不可能だ。
何度も頭を下げて指揮所から離れ、年上の部下達と合流してほっと息を吐こうとした。
「大丈夫ですよ司祭。ここにいるのは男爵以上の有力者ばかりです。装備も優良、数も数だけは多いゴブリンと同じくらいです。何があっても負けることだけはありませんよ」
王都勤めのクルセイダーが、自分の娘と同じ年頃の司祭安心させるため戯けて話しかける。
イコニアは礼儀正しくうなずいている。頑張って内心を顔に出さないようしつつ、使い込まれてはいても傷がない部下達の装備を見て顔色を悪くする。
「男爵様が動きました!」
戦場の右端にいた軽装部隊が突進。穂先を並べたゴブリン左端部隊と接触する。
均衡は数秒だけ。疾影士が茨小鬼槍兵の間をすり抜け指揮官を狙い、混乱した茨小鬼部隊が後退を始めたように見えた。
「馬鹿者! すぐに出るのだ!」
「とっとと前進せぃ!」
戦場右側全体に貴族達の号令が響く。
攻守に優れた装備の部隊が隊列を維持したまま前進する。
重装甲の兵が大盾を構え、その後ろから弓兵が矢を放つ。
1つ1つを見れば勇猛で勇壮だ。
けれど右翼全体を見ると動きがちぐはぐ過ぎる。
個々の部隊の連携はあっても部隊同士の連携は皆無。隊と隊の距離は遠くなり、矢を他の部隊に当てかける場面すらあった。
そんな状況で、茨小鬼部隊が大きく動く。
「後退ヲ止メロ。術ヲ使エ」
20近い茨小鬼が槍で以て堅守の構えをとる。
人間の軽装部隊の前進が止まり、乱れた隊列を崩され後退を強いられる。
「走レ!」
ゴブリン部隊複数が、ほぼ完全に足並みを揃えて急加速。
一部茨小鬼に人間兵の隊列端から回り込ませ、半包囲に成功する。
「射ヨ!」
虎の子の茨小鬼弓兵が、人間弓兵ではなく指揮官である貴族だけを狙う。
「おのれ卑怯な。守りを固めぃ」
人間の重装部隊は完全に防御に集中してしまい、速度はあっても殴り合いの力に劣る軽装と通常部隊のみで茨小鬼全力と戦うはめになる。
このままでは戦場右端から王国軍が崩壊しゴブリンの完全勝利に繋がりかねない。
ようやくそのことに気づいた聖堂戦士団からの派遣部隊が混乱し、慣れぬ手つきでトランシーバーを取り出したイコニアが叫ぶ。
「助けてください!」
回線は、近くにいるはずのハンター達に繋がっていた。
●戦場の後方で
『助けてください!』
救援要請が聞こえたとき、ハンターの大部分は悩んでいた。
人間側が負けそうだからではない。
「遊んでいる訳じゃないよな?」
敵味方の弓の射程が短い。しかも命中率が甘く見て3割程度しかない。
移動速度も酷い。最も速い部隊でも装備しすぎのハンター並の速度しか出ていない。
練度が低いのだ。1人1人がどれだけ速く動けても歩調を合わせることができないなら部隊の速度は鈍足になる。
まあ、歪虚相手に数え切れない激戦を繰り広げたハンターや、リアルブルーの軍事技術を取り入れたハンターと比べるのは酷かもしれない。
「助けに入って恨まれてもな」
妙にハンターを敵視していた貴族の顔を思い浮かべる。
ハンター達がうけた依頼はこの場の警備だ。
助けに向かっても向かわなくても法的には全く問題ないとはいえ、貴族に逆恨みされたら面倒なことになりかねない。
『トラブルの原因は私、功績は全部皆さんになるようしまっ、へぶっ』
戦場に向かっていた聖堂戦士団の一部が倒れて部隊の動きが止まる。
うぐ、へぐっ、と泣き声が聞こえたのは気のせいだろうか。
『助けて……』
敵陣を蹂躙して英雄になるのも、貴族の私兵を援護して破綻を防ぐも、全てはハンターの選択次第だ。
リプレイ本文
●救援到着
柊 真司(ka0705)がバイクの速度を緩めつつ杖型魔導機械を起動。内部の歯車が蠢き、真司が流し込んだマテリアルを炎の形にして外部に放つ。
炎の線が扇状に広がり伸びていく。10と2つの光の線が、ゴブリン槍隊1小隊を覆い尽くした。
体格だけなら平均的な人間にも劣る小鬼達が半数近く倒れ伏す。
弱い訳ではない。茨小鬼としては平均より下でも1体1体が小鬼離れして強い。
単に、真司の力が桁外れに強いのだ。
「ハンターか」
身形の良い男が目を剥いて真司を見る。
感謝、驚き、薄い敵意と蔑視が混じった視線を意識して無視し、真司はバイクを停めて貴族の目を見つめた。
「男爵殿。このままじゃ部隊が危険だ。ここでアンタの部隊を失うわけにはいかないから一旦下がって後ろの部隊と合流して体制を立て直してくれねぇか?」
顔を指揮官に向けたままで再度のファイアスローワー。
後退途中の小鬼槍部隊1つに止めを刺した。
「分かった」
引き攣った笑みを浮かべてうなずく貴族。不愉快に思って当然な状況で、真司は内心深く安堵をしていた。
聞く耳持たない重装部隊の指揮官よりずっとましだ。
真司は大きくうなずいてバイクに活を入れる。
混乱する味方兵士の間をすり抜け、茨小鬼槍兵が作る分厚い横列に近づいた。
「前進止メ! 機械馬ノ人間ニハ正面カラ当タラズ時間ヲ稼ゲ!」
茨小鬼部隊の陣形が崩れる。真司の術でも一度に数体しか倒されない程度に密度が薄くなった。
『榊様。奥から2列目、右端から9体目が指揮官ですわ』
榊 兵庫(ka0010)は返答より行動を優先した。
戦馬を戦場奥へ突進させる。左右から突き出される槍は移動速度と進路の微修正でほとんどを回避。戦馬に当たりそうな穂先のみを十文字槍で切り飛ばす。
小鬼が密集し槍衾を組まれていたなら立ち止まって正面から戦うか時間をかけて大きく回避するしかなかったろう。
しかし真司の攻撃を警戒し過ぎた茨小鬼達は、本物の騎兵のための対策を行ってしまった。
兵庫の背中から肩の筋肉が盛り上がる。
重く長く決して扱いやすい訳ではない槍が真横に振るわれ、指揮官を守ろうとした茨小鬼達の首を飛ばした。
『榊様。敵指揮官は別の個体に権限を委譲したようです。新たな指揮官は……』
断末魔と悲鳴と土を蹴る音しか聞こえなかった耳に、安全なオフィスにいるかのような冷静な声が届く。
「承知した」
さらに前進して追いすがるゴブリンを突き放す。
視界の隅に見える炎と光の線は、間違いなく仲間の攻撃だ。
「援護は無用! 立て直しを優先しろ」
こちらに来ようとした貴族私兵達に釘を刺す。
それを隙と見て襲いかかる大槍茨ゴブリンを軽々と回避して、十文字槍を振りかぶり高速で叩きつける。
大槍が割り込む。
受けは完璧に近かった。だが足りない。
十文字槍は大槍ごと茨小鬼にぶつかり地面に向けて押し込んでいく。
「貴様、何者ッ」
貴族とその私兵とは違いすぎる武威に、ゴブリンは絶望に限りなく近い感情を抱いてしまった。
「ハンター、榊だ、茨小鬼の武人殿」
人間無骨が大槍ごとゴブリンを両断したとき、両者の顔には淡い笑みが浮かんでいた。
●戦場中央
腰の引けた重装部隊の前を、小柄な騎手を乗せた立派な体格の馬が移動していた。
小柄な、某高位歪虚並に禍々しいドラゴン風全身鎧が銃を構える。
狙いは左翼の貴族私兵を包囲したゴブリン達だ。
1体や2体背後から撃たれても撃たれる間に前を殲滅するという意気込みに満ちた精鋭に対し、バレルが長めな他は通常のアサルトライフルにしか見えないものが火を噴いた。
連続しすぎた銃声は、突撃銃の出す音とは到底思えない。
もたらされたた破壊も普通とは外れすぎている。非覚醒者よりずっと頑丈なはずの茨小鬼達に穴が開く。体の表面は小さな、その反対側にはより大きな穴が開いて大量の血が噴き出した。
「押せ! 突破! 突破せい!」
ここで動かねば名誉も命も無いと判断した貴族が内側から猛攻を加え、半死半生の茨小鬼を辛うじて突破した。
「援護を感謝す……何者っ?」
異形の鎧を見てぎょっとする貴族に気づかない振りをして、シルヴィア=ライゼンシュタイン(ka0338)は馬と銃口の向きを変えた。
標的が多すぎるので折り畳み式のバイポットは折りたたんだまま、空になった弾倉に弾を補給して、敵陣奥のゴブリンを狙う。
分厚い盾も鎧も無く、槍と己の練度しか頼れない槍兵では銃弾を防ぐことはできない。
直径6メートルの弾幕が槍兵に流血を強要する。
シルヴィアを脅威と見た茨小鬼弓兵がシルヴィアを狙い矢を放つ。
茨小鬼にとっては会心の射撃だった。見事に風に乗り、5本全てが異形の鎧に届きかける。
リロードにあわせて肩をすくめる。たったそれだけの動きで2本が躱され地面にぶつかる。
残る2本は胴部の装甲を撃ち抜けずに自重に負けて抜けてしまい、残る1本は着弾時に砕けて衝撃でシルヴィアの体力を微量削るだけで終わる。
奥の敵勢が前進を開始する。
シルヴィアによる弓兵隊数隊分に匹敵する射撃に晒され、茨小鬼槍兵の陣は進むごとに陣形が崩れていく。
「これでも動かねーのか」
岩井崎 旭(ka0234)が息を吐く。
訊いてしまった重装歩兵が己を恥じる表情を浮かべ、上司にも主君にも報告できずに黙り込む。
女子供が戦場に出るな、という言葉に種々の問題はあるのは重々承知しているが、発言したくなる気持は分かる。
だが、言ったことに責任持つ戦いをせずに女子供が尻拭いに前に出すなんて現状、納得出来る訳がない。
「ま、ここの覚醒者なんてトンデモの中でも特にトンデモだけどよ」
イコニア・カーナボン(kz0040)より小さな少女の背をちらりと見て、旭はこの戦場で初めて覚醒した。
高濃度のマテリアルが体を覆う。
肌を覆うマテリアルは羽毛に、武具を覆うものは光輝となり、それでも使い尽くせぬマテリアルが背中に現実と見紛うミミズクの翼を形作る。
肝が据わっているはずの重装歩兵隊が動揺して揺れた。
「後ろは任せた!」
ゴースロンと共に突撃を開始する。
前方しか警戒しない。左右から小鬼が来てもシルヴィアが確実に始末すると信じて加速する。
「油断スルナッ。複数の隊デ槍衾ダ!」
指揮官格の茨小鬼が咆える。
槍兵十数体が、目を血走らせて旭のみを狙った槍の柵を作り上げた。
「へっ」
旭が心底楽しげに笑う。
7割以上をを回避し、残る3割弱も9割以上を受けるか防ぎ、たった1度のみ肌に当たったのを気にもせず両手持ちの斧を振るう。
ゴブリンの回避されたのをあわせて5割外れるが仕方がない。
全長3メートルの手斧を360度回転させるという無茶が、命中力低下と引き替えに茨小鬼とは次元の異なる破壊力を実現する。
革鎧が中身と共に弾ける。硬い槍が粉微塵になり戦場の一角を覆い隠す。
「兄貴、ドコニ、ドコニイッタァッ!?」
斧が静止し直前まで声をあげていた小鬼に埋まる。
生き残りと旭による攻防は、未だ終わりから遠かった。
●指揮官強襲
戦闘開始直後、友軍を無視して丘のある方向に駆ける者達がいた。
先頭は黒い生地に白龍の着物を着こなす東方の乙女、紅薔薇(ka4766)。
小柄で軽装な彼女が数メートル先で停止をすると、敵である茨小鬼達は非情な罠の存在を予感し哀れみに近い感情を紅薔薇に向けた。
「イコニア殿も大変そうだのう。」
トランシーバーから、気品があると同時に蠱惑的で、特に男心をくすぐる少女の声が延々と流れてくる。
文面はハンター達が作ったものだ。言い方次第で堕落を誘う雌狐の言葉にもなるということを、耳で実感させてしまう音であった。
「まぁ、泣いていたら後で甘い物でも奢るのじゃ」
現実に、胃薬とカンニングペーパー片手に頑張っているイコニアを正確に想像する。
くすりと笑い、健康的な色気と気品を感じさせる動作で抜刀。
九尾切の号を持つMURASAMEブレイドが多数のゴブリンを怯えさせる。
「手加減はせぬ。主等も全力でかかってくるがよい」
細身の紅薔薇を乗せたまま、ゴースロンが一定の速度でゴブリンに向かって歩いた。
「最前列ヲ残シアノ女ニ向カエ。生キヨウトハ思ウナ。少シデモ時間ヲ稼ゲ!」
悲痛に命じて最先任の槍兵が先頭に立つ。
紅薔薇は満足げに微笑み、心得のない者なら子供の遊びにしか見えない動きで刃を振るった。
先頭の槍兵が腹から上下に両断される。
最も近くにいた小鬼の腕が飛び、1つ右の小鬼の両膝が消え、もう1つ右の小鬼が米神から逆の米神まで切断され倒れていく。
「全て我等が相手をしてやりたいとこじゃがこちらにも都合があってな。通してもらうぞ」
茨小鬼達の怒号は、MURASAMEが骨を断つ音にかき消された。
数分後。戦場左側の茨小鬼はようやく混乱から回復した。戦場中央近くは異形の人間2人に包囲を食い破られ、反対側は紅薔薇達によって粉砕され、生き残った少数がまとまり人間部隊に対抗しようとしていた。
馬蹄の音が茨小鬼に近づいてくる。
気づいて、恐怖に体が震えた頃には手遅れだった。
紅薔薇に代わってアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)が先頭に立つ。
槍小鬼部隊は後退してアルトと人間部隊の両方を防ごうとはしたが、アルト達の速度に追いつけずに陣形が崩れる。
「後ろは任せなさい」
セリス・アルマーズ(ka1079)のヒールがアルトの傷を癒す。
「ああ。……いくぞグレース、あの夢の再現だ。戦争を血の華で埋め尽くす」
紅薔薇により数が激減した茨小鬼では、アルトを食い止めるに足る槍衾をつくれない。
最悪でも槍衾程度の壁がなければアルトとその愛馬を止められない。アルト主従は鋭い穂先全てを置き去りにして、この戦場の茨小鬼を統べる大槍茨小鬼の目の前に到着した。
大槍持ちが咆える。アルトの護拳付オートMURAMASAが視認不能な速度に達し、茨小鬼指揮官の近くを惑わせた。
アルトの速度が最高速に達した瞬間、破滅的な微動を伴い、MURAMASAが鎧ごと大槍持ちの皮と肉を切り裂いた。
最高速のまま止まらずもう一撃。ゴブリンは一太刀浴びせるどことか反応することもできず、虚しく息を吐いて大地に転がり息絶えた。
『ヨクモ』
生き残りの小鬼がアルトを囲んで一気に包囲を詰める。
前後左右から攻撃されては回避も防御も難しい。アルトは至近の小鬼を切り捨てながら槍の到達を待つ。だがそのときは結局訪れなかった。
セリス・アルマーズ(ka1079)が拳を振り下ろす。
甲のホーリーシンボルから膨大な光が広がって、直径10メートル内にいる小鬼に浅くないダメージを与えた。
小鬼から見て絶望的な回避能力を持つアルトと比べればまだ与しやすいと見たのだろう。
アルトの抑えに数体を残し、残りがセリスを狙って時間差で槍を繰り出した。
鎧の表面で火花が散る。
そして、補修されても微かに残るこれまでの刺突や斬撃と同様に、セリスの肌まで届かず滑っていった。
「アルト君、イコニアちゃんから連絡」
セリスとの進路上の小鬼粉砕と瞬きを同時に行いつつトランシーバーの音量を調整。すると貴族抜きの周波数からイコニアの泣き声が届く。
『ハンターの皆さんの位置づけで揉めて落としどころが、たすけっ』
ろくに戦わぬ貴族を見てささくれた心が落ち着く。
「伏兵とでも聖堂騎士団からの増援とでもしておけ」
その割に素っ気ないのはアルトの個性である。
『はいぃ』
うふふと楽しげに笑うセリスに気付き、アルトは一度だけ咳払いをして目の前の戦いに集中した。
●包囲殲滅
北では茨小鬼の指揮官が倒れ、西は貴族私兵が持ち直し、南は貴族の重装歩兵が陣取ったまま動かない。
東では聖堂戦士団がヒール連発し、全滅寸前だった軽装部隊を蘇らせている。
J(ka3142)が魔導バイクに腰掛けたままつぶやいた。
「穿て、瞬光」
3つの光が別々の方向へ伸び、軽装歩兵を討とうとした小鬼を貫き、討たれた指揮官の代わりを務めようとした小鬼をも貫く。
運が良ければ1発で確実に小鬼を殺せる威力。しかし威力より凄まじいのは射程と手数だ。
30数メートルの射程で同時に3目標というのは、敵の指揮官すら探せるJにとっては有用過ぎる。
「そろそろですね。……閣下、小鬼の抵抗が弱まった気がします」
気弱げで男を立てる女を演じ、軽装備部隊を率いる貴族に囁く。
貴族の視界外で白炎による小鬼蹂躙劇を展開もしているが、Jの予想通り貴族に気づくだけの能はなかった。
「ほほう」
何も分かっていないことを隠す程度の知力はあるようだ。
Jは蒼眼に静かな光を浮かべたまま、自らと仲間によって追い込んだ茨小鬼群を視線で示した。
「下がっておれ」
貴族がJを後方に追い払う。
Jの誘導した通りに軽装備部隊が動かされ、小鬼の逃げ道が塞がれた。
「後は窮鼠の抵抗を潰していけばおしまい」
トランシーバーの前で百面相をするイコニアを一瞥する。
「仕上げは依頼人に任せましょう」
軽装部隊が茨小鬼槍兵を追い立てる。
追い立てられた槍兵が既に半包囲された同属にぶつかり動きが止まる。
そして、ようやく南側の重装部隊も前に進んで今度こそ包囲が完成する。
「オ前ハ精鋭ヲ連レ丘ニ行ケ!」
数体の茨小鬼が走り出す。
向かう先は手柄に目がくらんで陣形も崩れた重装部隊だ。気づいた貴族が命令を下しても混乱は拡大するばかり。
「行キ掛ケノ駄賃ダ」
茨小鬼の穂先が貴族に触れる寸前、空から重厚な鎧が飛来した。
「エクラの光が我等を照らす! 恐れるな! この加護があるかぎり敗北は無い!」
騎馬から跳躍したセリスが小鬼の背中に着地。弾き飛ばされるが危なげなく着地し最後のセイクリッドフラッシュを切る。
生き残りが次々に倒れていく。
「オ前ハッ!」
槍は鎧に届かない。セリスは大型の盾で槍を払いのけ、もう一方の手で茨小鬼を重装歩兵の隊列に向かい、押す。
断末魔の悲鳴を堪え、茨小鬼は人間達に憎悪の目を向けたまま死んだ。
「司祭様、討伐を完了しました」
セリスは不敵に微笑み、こちらに向かって来るイコニアに目配した。
「ぬ」
「むぅ」
戦闘開始前まで邪険にしていた司祭に対し、圧倒的な武威を示したハンターが部下として振る舞う。
この状況で自己のみの利益を追求することは、いくら貴族でも出来なかった。
「もういいわよ」
イコニアの表情が緩んでついでに足の力も抜けてその場に座り込む。
既に貴族達から距離をとり、セリス達が壁になっている。
「司祭殿、疲れているところを申し訳ないのだが」
兵庫が詳しい内容を囁く。
「生き延びたのは皆さんのお陰ですし上申はしますけど」
貴族の権利を一部奪った上で、奪った権利を有効に使う能力と体制が要る。
イコニアは、紅茶の香りを縋るように嗅いでいた。
柊 真司(ka0705)がバイクの速度を緩めつつ杖型魔導機械を起動。内部の歯車が蠢き、真司が流し込んだマテリアルを炎の形にして外部に放つ。
炎の線が扇状に広がり伸びていく。10と2つの光の線が、ゴブリン槍隊1小隊を覆い尽くした。
体格だけなら平均的な人間にも劣る小鬼達が半数近く倒れ伏す。
弱い訳ではない。茨小鬼としては平均より下でも1体1体が小鬼離れして強い。
単に、真司の力が桁外れに強いのだ。
「ハンターか」
身形の良い男が目を剥いて真司を見る。
感謝、驚き、薄い敵意と蔑視が混じった視線を意識して無視し、真司はバイクを停めて貴族の目を見つめた。
「男爵殿。このままじゃ部隊が危険だ。ここでアンタの部隊を失うわけにはいかないから一旦下がって後ろの部隊と合流して体制を立て直してくれねぇか?」
顔を指揮官に向けたままで再度のファイアスローワー。
後退途中の小鬼槍部隊1つに止めを刺した。
「分かった」
引き攣った笑みを浮かべてうなずく貴族。不愉快に思って当然な状況で、真司は内心深く安堵をしていた。
聞く耳持たない重装部隊の指揮官よりずっとましだ。
真司は大きくうなずいてバイクに活を入れる。
混乱する味方兵士の間をすり抜け、茨小鬼槍兵が作る分厚い横列に近づいた。
「前進止メ! 機械馬ノ人間ニハ正面カラ当タラズ時間ヲ稼ゲ!」
茨小鬼部隊の陣形が崩れる。真司の術でも一度に数体しか倒されない程度に密度が薄くなった。
『榊様。奥から2列目、右端から9体目が指揮官ですわ』
榊 兵庫(ka0010)は返答より行動を優先した。
戦馬を戦場奥へ突進させる。左右から突き出される槍は移動速度と進路の微修正でほとんどを回避。戦馬に当たりそうな穂先のみを十文字槍で切り飛ばす。
小鬼が密集し槍衾を組まれていたなら立ち止まって正面から戦うか時間をかけて大きく回避するしかなかったろう。
しかし真司の攻撃を警戒し過ぎた茨小鬼達は、本物の騎兵のための対策を行ってしまった。
兵庫の背中から肩の筋肉が盛り上がる。
重く長く決して扱いやすい訳ではない槍が真横に振るわれ、指揮官を守ろうとした茨小鬼達の首を飛ばした。
『榊様。敵指揮官は別の個体に権限を委譲したようです。新たな指揮官は……』
断末魔と悲鳴と土を蹴る音しか聞こえなかった耳に、安全なオフィスにいるかのような冷静な声が届く。
「承知した」
さらに前進して追いすがるゴブリンを突き放す。
視界の隅に見える炎と光の線は、間違いなく仲間の攻撃だ。
「援護は無用! 立て直しを優先しろ」
こちらに来ようとした貴族私兵達に釘を刺す。
それを隙と見て襲いかかる大槍茨ゴブリンを軽々と回避して、十文字槍を振りかぶり高速で叩きつける。
大槍が割り込む。
受けは完璧に近かった。だが足りない。
十文字槍は大槍ごと茨小鬼にぶつかり地面に向けて押し込んでいく。
「貴様、何者ッ」
貴族とその私兵とは違いすぎる武威に、ゴブリンは絶望に限りなく近い感情を抱いてしまった。
「ハンター、榊だ、茨小鬼の武人殿」
人間無骨が大槍ごとゴブリンを両断したとき、両者の顔には淡い笑みが浮かんでいた。
●戦場中央
腰の引けた重装部隊の前を、小柄な騎手を乗せた立派な体格の馬が移動していた。
小柄な、某高位歪虚並に禍々しいドラゴン風全身鎧が銃を構える。
狙いは左翼の貴族私兵を包囲したゴブリン達だ。
1体や2体背後から撃たれても撃たれる間に前を殲滅するという意気込みに満ちた精鋭に対し、バレルが長めな他は通常のアサルトライフルにしか見えないものが火を噴いた。
連続しすぎた銃声は、突撃銃の出す音とは到底思えない。
もたらされたた破壊も普通とは外れすぎている。非覚醒者よりずっと頑丈なはずの茨小鬼達に穴が開く。体の表面は小さな、その反対側にはより大きな穴が開いて大量の血が噴き出した。
「押せ! 突破! 突破せい!」
ここで動かねば名誉も命も無いと判断した貴族が内側から猛攻を加え、半死半生の茨小鬼を辛うじて突破した。
「援護を感謝す……何者っ?」
異形の鎧を見てぎょっとする貴族に気づかない振りをして、シルヴィア=ライゼンシュタイン(ka0338)は馬と銃口の向きを変えた。
標的が多すぎるので折り畳み式のバイポットは折りたたんだまま、空になった弾倉に弾を補給して、敵陣奥のゴブリンを狙う。
分厚い盾も鎧も無く、槍と己の練度しか頼れない槍兵では銃弾を防ぐことはできない。
直径6メートルの弾幕が槍兵に流血を強要する。
シルヴィアを脅威と見た茨小鬼弓兵がシルヴィアを狙い矢を放つ。
茨小鬼にとっては会心の射撃だった。見事に風に乗り、5本全てが異形の鎧に届きかける。
リロードにあわせて肩をすくめる。たったそれだけの動きで2本が躱され地面にぶつかる。
残る2本は胴部の装甲を撃ち抜けずに自重に負けて抜けてしまい、残る1本は着弾時に砕けて衝撃でシルヴィアの体力を微量削るだけで終わる。
奥の敵勢が前進を開始する。
シルヴィアによる弓兵隊数隊分に匹敵する射撃に晒され、茨小鬼槍兵の陣は進むごとに陣形が崩れていく。
「これでも動かねーのか」
岩井崎 旭(ka0234)が息を吐く。
訊いてしまった重装歩兵が己を恥じる表情を浮かべ、上司にも主君にも報告できずに黙り込む。
女子供が戦場に出るな、という言葉に種々の問題はあるのは重々承知しているが、発言したくなる気持は分かる。
だが、言ったことに責任持つ戦いをせずに女子供が尻拭いに前に出すなんて現状、納得出来る訳がない。
「ま、ここの覚醒者なんてトンデモの中でも特にトンデモだけどよ」
イコニア・カーナボン(kz0040)より小さな少女の背をちらりと見て、旭はこの戦場で初めて覚醒した。
高濃度のマテリアルが体を覆う。
肌を覆うマテリアルは羽毛に、武具を覆うものは光輝となり、それでも使い尽くせぬマテリアルが背中に現実と見紛うミミズクの翼を形作る。
肝が据わっているはずの重装歩兵隊が動揺して揺れた。
「後ろは任せた!」
ゴースロンと共に突撃を開始する。
前方しか警戒しない。左右から小鬼が来てもシルヴィアが確実に始末すると信じて加速する。
「油断スルナッ。複数の隊デ槍衾ダ!」
指揮官格の茨小鬼が咆える。
槍兵十数体が、目を血走らせて旭のみを狙った槍の柵を作り上げた。
「へっ」
旭が心底楽しげに笑う。
7割以上をを回避し、残る3割弱も9割以上を受けるか防ぎ、たった1度のみ肌に当たったのを気にもせず両手持ちの斧を振るう。
ゴブリンの回避されたのをあわせて5割外れるが仕方がない。
全長3メートルの手斧を360度回転させるという無茶が、命中力低下と引き替えに茨小鬼とは次元の異なる破壊力を実現する。
革鎧が中身と共に弾ける。硬い槍が粉微塵になり戦場の一角を覆い隠す。
「兄貴、ドコニ、ドコニイッタァッ!?」
斧が静止し直前まで声をあげていた小鬼に埋まる。
生き残りと旭による攻防は、未だ終わりから遠かった。
●指揮官強襲
戦闘開始直後、友軍を無視して丘のある方向に駆ける者達がいた。
先頭は黒い生地に白龍の着物を着こなす東方の乙女、紅薔薇(ka4766)。
小柄で軽装な彼女が数メートル先で停止をすると、敵である茨小鬼達は非情な罠の存在を予感し哀れみに近い感情を紅薔薇に向けた。
「イコニア殿も大変そうだのう。」
トランシーバーから、気品があると同時に蠱惑的で、特に男心をくすぐる少女の声が延々と流れてくる。
文面はハンター達が作ったものだ。言い方次第で堕落を誘う雌狐の言葉にもなるということを、耳で実感させてしまう音であった。
「まぁ、泣いていたら後で甘い物でも奢るのじゃ」
現実に、胃薬とカンニングペーパー片手に頑張っているイコニアを正確に想像する。
くすりと笑い、健康的な色気と気品を感じさせる動作で抜刀。
九尾切の号を持つMURASAMEブレイドが多数のゴブリンを怯えさせる。
「手加減はせぬ。主等も全力でかかってくるがよい」
細身の紅薔薇を乗せたまま、ゴースロンが一定の速度でゴブリンに向かって歩いた。
「最前列ヲ残シアノ女ニ向カエ。生キヨウトハ思ウナ。少シデモ時間ヲ稼ゲ!」
悲痛に命じて最先任の槍兵が先頭に立つ。
紅薔薇は満足げに微笑み、心得のない者なら子供の遊びにしか見えない動きで刃を振るった。
先頭の槍兵が腹から上下に両断される。
最も近くにいた小鬼の腕が飛び、1つ右の小鬼の両膝が消え、もう1つ右の小鬼が米神から逆の米神まで切断され倒れていく。
「全て我等が相手をしてやりたいとこじゃがこちらにも都合があってな。通してもらうぞ」
茨小鬼達の怒号は、MURASAMEが骨を断つ音にかき消された。
数分後。戦場左側の茨小鬼はようやく混乱から回復した。戦場中央近くは異形の人間2人に包囲を食い破られ、反対側は紅薔薇達によって粉砕され、生き残った少数がまとまり人間部隊に対抗しようとしていた。
馬蹄の音が茨小鬼に近づいてくる。
気づいて、恐怖に体が震えた頃には手遅れだった。
紅薔薇に代わってアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)が先頭に立つ。
槍小鬼部隊は後退してアルトと人間部隊の両方を防ごうとはしたが、アルト達の速度に追いつけずに陣形が崩れる。
「後ろは任せなさい」
セリス・アルマーズ(ka1079)のヒールがアルトの傷を癒す。
「ああ。……いくぞグレース、あの夢の再現だ。戦争を血の華で埋め尽くす」
紅薔薇により数が激減した茨小鬼では、アルトを食い止めるに足る槍衾をつくれない。
最悪でも槍衾程度の壁がなければアルトとその愛馬を止められない。アルト主従は鋭い穂先全てを置き去りにして、この戦場の茨小鬼を統べる大槍茨小鬼の目の前に到着した。
大槍持ちが咆える。アルトの護拳付オートMURAMASAが視認不能な速度に達し、茨小鬼指揮官の近くを惑わせた。
アルトの速度が最高速に達した瞬間、破滅的な微動を伴い、MURAMASAが鎧ごと大槍持ちの皮と肉を切り裂いた。
最高速のまま止まらずもう一撃。ゴブリンは一太刀浴びせるどことか反応することもできず、虚しく息を吐いて大地に転がり息絶えた。
『ヨクモ』
生き残りの小鬼がアルトを囲んで一気に包囲を詰める。
前後左右から攻撃されては回避も防御も難しい。アルトは至近の小鬼を切り捨てながら槍の到達を待つ。だがそのときは結局訪れなかった。
セリス・アルマーズ(ka1079)が拳を振り下ろす。
甲のホーリーシンボルから膨大な光が広がって、直径10メートル内にいる小鬼に浅くないダメージを与えた。
小鬼から見て絶望的な回避能力を持つアルトと比べればまだ与しやすいと見たのだろう。
アルトの抑えに数体を残し、残りがセリスを狙って時間差で槍を繰り出した。
鎧の表面で火花が散る。
そして、補修されても微かに残るこれまでの刺突や斬撃と同様に、セリスの肌まで届かず滑っていった。
「アルト君、イコニアちゃんから連絡」
セリスとの進路上の小鬼粉砕と瞬きを同時に行いつつトランシーバーの音量を調整。すると貴族抜きの周波数からイコニアの泣き声が届く。
『ハンターの皆さんの位置づけで揉めて落としどころが、たすけっ』
ろくに戦わぬ貴族を見てささくれた心が落ち着く。
「伏兵とでも聖堂騎士団からの増援とでもしておけ」
その割に素っ気ないのはアルトの個性である。
『はいぃ』
うふふと楽しげに笑うセリスに気付き、アルトは一度だけ咳払いをして目の前の戦いに集中した。
●包囲殲滅
北では茨小鬼の指揮官が倒れ、西は貴族私兵が持ち直し、南は貴族の重装歩兵が陣取ったまま動かない。
東では聖堂戦士団がヒール連発し、全滅寸前だった軽装部隊を蘇らせている。
J(ka3142)が魔導バイクに腰掛けたままつぶやいた。
「穿て、瞬光」
3つの光が別々の方向へ伸び、軽装歩兵を討とうとした小鬼を貫き、討たれた指揮官の代わりを務めようとした小鬼をも貫く。
運が良ければ1発で確実に小鬼を殺せる威力。しかし威力より凄まじいのは射程と手数だ。
30数メートルの射程で同時に3目標というのは、敵の指揮官すら探せるJにとっては有用過ぎる。
「そろそろですね。……閣下、小鬼の抵抗が弱まった気がします」
気弱げで男を立てる女を演じ、軽装備部隊を率いる貴族に囁く。
貴族の視界外で白炎による小鬼蹂躙劇を展開もしているが、Jの予想通り貴族に気づくだけの能はなかった。
「ほほう」
何も分かっていないことを隠す程度の知力はあるようだ。
Jは蒼眼に静かな光を浮かべたまま、自らと仲間によって追い込んだ茨小鬼群を視線で示した。
「下がっておれ」
貴族がJを後方に追い払う。
Jの誘導した通りに軽装備部隊が動かされ、小鬼の逃げ道が塞がれた。
「後は窮鼠の抵抗を潰していけばおしまい」
トランシーバーの前で百面相をするイコニアを一瞥する。
「仕上げは依頼人に任せましょう」
軽装部隊が茨小鬼槍兵を追い立てる。
追い立てられた槍兵が既に半包囲された同属にぶつかり動きが止まる。
そして、ようやく南側の重装部隊も前に進んで今度こそ包囲が完成する。
「オ前ハ精鋭ヲ連レ丘ニ行ケ!」
数体の茨小鬼が走り出す。
向かう先は手柄に目がくらんで陣形も崩れた重装部隊だ。気づいた貴族が命令を下しても混乱は拡大するばかり。
「行キ掛ケノ駄賃ダ」
茨小鬼の穂先が貴族に触れる寸前、空から重厚な鎧が飛来した。
「エクラの光が我等を照らす! 恐れるな! この加護があるかぎり敗北は無い!」
騎馬から跳躍したセリスが小鬼の背中に着地。弾き飛ばされるが危なげなく着地し最後のセイクリッドフラッシュを切る。
生き残りが次々に倒れていく。
「オ前ハッ!」
槍は鎧に届かない。セリスは大型の盾で槍を払いのけ、もう一方の手で茨小鬼を重装歩兵の隊列に向かい、押す。
断末魔の悲鳴を堪え、茨小鬼は人間達に憎悪の目を向けたまま死んだ。
「司祭様、討伐を完了しました」
セリスは不敵に微笑み、こちらに向かって来るイコニアに目配した。
「ぬ」
「むぅ」
戦闘開始前まで邪険にしていた司祭に対し、圧倒的な武威を示したハンターが部下として振る舞う。
この状況で自己のみの利益を追求することは、いくら貴族でも出来なかった。
「もういいわよ」
イコニアの表情が緩んでついでに足の力も抜けてその場に座り込む。
既に貴族達から距離をとり、セリス達が壁になっている。
「司祭殿、疲れているところを申し訳ないのだが」
兵庫が詳しい内容を囁く。
「生き延びたのは皆さんのお陰ですし上申はしますけど」
貴族の権利を一部奪った上で、奪った権利を有効に使う能力と体制が要る。
イコニアは、紅茶の香りを縋るように嗅いでいた。
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
---|
面白かった! | 8人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
【質問卓】 柊 真司(ka0705) 人間(リアルブルー)|20才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/09/13 00:11:41 |
|
![]() |
相談卓 エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142) 人間(リアルブルー)|30才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/09/15 18:05:46 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/09/12 22:56:11 |