• 聖呪

【聖呪】君がいたから

マスター:鹿野やいと

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/09/15 19:00
完成日
2015/09/29 10:01

このシナリオは4日間納期が延長されています。

みんなの思い出

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オープニング

 ――私は、もういなくなるから。

 ――ありがとう。さようなら。私も、好きだったよ。

 夢の中でアランは再び彼女の声を聞いた。憤怒を抱き生きてきた彼に、それは望外の奇跡。
 光に飲まれ再び暗闇の中へと落ちながらも、彼の心は平穏であった。心にわだかまった沼のような毒を、もう恐れなくても良いのだ。
 彼はまっすぐな心で彼女に別離を告げることができた。喪失と激憤を受け入れた彼は、もはや感情に溺れる必要は無い。醜い自分も、受け入れることができたから。
 同時に彼は直感で理解した。あるいはマテリアルが彼の理解を導いた。
 彼女が消えていく。何をしても、何もしなくても、彼女は消えていく。
「エリカ、今度こそ……」
 口に出してしまうと、言葉と共に心の中身がこぼれていくような気がした。教会へ、そして自分への怒りで満たされていた心が空洞になっていく。生きる糧を失ったあの日から今日までずっと、世界を憎む一歩手前の憤激が自身の原動力だった。
 それが今、急速に失われている。だが、不思議と絶望は感じなかった。15年間先送りにし続けた決断を、今終えたのだ。この15年がたとえ無為に終わったのだとしても、前に進む勇気を貰った。
「けど、今更他にしたいことなんて……」
 そこまで考えて苦笑する。本当に、自分は女々しかったのだなと今更ながらに自覚した。
 エリカのことで頭が一杯で、それ以外に価値を見出していなかった。
 いや、価値を認めないようにしてきた。それが、彼女への裏切りになるような気がして。
「本当に、どうやって生きていけば良いんだろう?」
 今起こっているゴブリンの騒動を終わらせよう。でもその後は?
 突如として訪れた空漠とした思いは、白い靄となって思考を覆っていく。


 夢からさめた後のアランは、その日まで夢の続きを歩くように空を見上げるばかりであった。



■禁断の茨
 その洞窟には泉があった。
 その洞窟には茨があった。
 その洞窟には、逃げ場があった。
 とある村にほど近く、けれどあまり近寄る者はいない。
 遠くもなく近くもない、そんな距離。それ故にその洞窟は、もはやこの世の者ならぬ身である娘にとって最良の場所だった。
 暗く、仄かに湿り気を帯びた空間。
 ひっそりとした内部では、岩の天井から時折垂れる水滴だけが定期的に音を立てている。
 澱んだ大気に溶け込み、その音に聴き入っていた娘はしかし、次に静寂を打ち破る無粋な足音を聞いた。
 そして下卑た笑い声も。
「ゲッゲ……親方の命令、ゼッタイ。オレ、いっぱい持ち帰る……」
 異形のゴブリンだった。彼らは互いに頭をくっつけて打ち合わせると、いかにも楽しげな足取りで洞窟の壁面に向かう。
 そして岩の壁面が隠れるほどびっしりと張り巡らされている茨に手をかけるや、喜悦に口元を歪め――。

 ぃやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!

 突如として高い断末魔が響いてきたのは、茜色の日差しがパルシア村を照らし始めた頃だった。
 聞く者の気を狂わせる叫喚。無垢な娘の魂を削る慟哭。
 この世のものとは思えぬそれはしかし、村に住む人々にとって未知の恐怖ではなかった。
 既知の、悲劇。それは一人の村娘が命を散らしてなお晴れぬ、行き場のない嘆きだ。
「……、エリカ……」
 村の長は沈痛に顔を歪める。娘を好いていた男は悔恨に奥歯を噛み締める。
 村の誰もが顔を伏せ、娘のことを思う。
 だからこそ気付くのが遅れた。遠く、北の洞窟から侵食してくる緑の絨毯に。
 ――そうして。
 八月三十一日、逢魔時。パルシア村は、茨の海に沈んだ。



 ハンター達は不運にも、あるいは幸いにもパルシア村に常駐していた。ある者は戦乱の気配に仕事を求めて、またある者は無辜の人々を救うために。そして、あの日の夢の続きを探して。
 その日、村を覆った茨は何重にも村を取り巻き、やがて村内も迷路と化す勢いで侵食を始めていた。
 村人に避難を促しながら進む間にも、茨は村を飲み込もうとしていく。茨を避けながら進み村長宅の近辺まで辿り着いた頃、ハンター達は前方で戦いが始まっていることに気づいた。
 かろうじて侵食は免れた広場で、アランは1人で茨子鬼2体と戦っていた。
 1体は色鮮やかな精霊を従える呪術師、1体は巨大な狼を自在に操る調教師だ。戦況はアランに不利で、防戦一方のアランは徐々に押されている。
 アランはハンター達に気づくと一瞬だけ視線を動かした。
「ハンターか! 頼む、力を貸してくれ。こいつらをここで止めなければ、逃げた村の皆が後ろから襲われる」
 迷路となった村内で村人は皆、逃げ惑いようやく集合を始めた頃合だ。アランがここで2体を食い止めていなければ多くの犠牲者が出ていただろう。
 アランは巨大な狼の爪をかわしながら話を続けた。
「リルエナは村長や村人の避難に向かっている。
 オーランの居る場所には他のハンターが向かっていた。あとはこいつだけだ」
 彼を知るハンター達は驚いた。15年前の事件に関わっていたオーラン・クロスは、アランにとって許しがたい存在だったはずだ。今までの彼であれば言葉に何か含むところがあっただろう。
 彼の変化は他にもある。彼は大剣を好んで使っていたはずだが、武器は長剣と盾に変わっている。武具は一通り揃っていたが、大剣以外を使っているのは珍しい。
 動き方にも変化は現れており、過剰なほど暴力的だった戦い方は鳴りを潜めている。まず先手を打つのではなく敵を見極める落ち着きがあった。それが気のせいでないことの証左に、精霊達が動き始めるとアランは迷わず飛び出した。
「行かせるかぁ!!」
 アランは狼の前足をすり抜けると、人魂に似た雑魔を剣で斬りつけた。雑魔が霧散したのを確認するより早く次の目標に狙いを定める。続いて振り返る勢いで盾を振り、後方の一匹を打ち据えた。
 一撃では消滅しなかったため執拗に数度。潰れた雑魔はほどなくして消滅する。2体の視線は再びアランに集中した。
「そうだ、俺を狙え! お前たちが怖いのは俺のはずだ!!」
 2人に挟まれた危険な状態になりながらも、アランは一歩も引く様子が無い。ハンター達は迷うことなくこの戦いに割り込んだ。

リプレイ本文

 茨に侵食される光景は、さながら夢の続きのようにも思えた。現実味のある夢を見た後では尚更そう思えただろう。
「請け負ってはみたけど……これは……」
 セイラ・イシュリエル(ka4820)は今なお増殖する茨にやや気おされていた。『夢』のおかげで解決したこともある。だが事態は当事者達の意向を無視して破滅的な方向に向かっていく。
 事情を知らない南條 真水(ka2377)もうんざりした顔で増え続ける茨を眺めていた。
(たくさんの人が夢を共有した、なんて話を聞いて来てみたけれど。これは来るタイミング間違えたかなぁ)
 すこし前の興味本位な自分を後悔する。ハンター達に話は聞けたが、それに見合うものではないだろう。その内心を知ってか知らずか、ヒース・R・ウォーカー(ka0145)は意味ありげに笑みを浮かべていた。
「どんな夢を見ようと、そこにボクの救いはないし求めてもいない。無様な道化は現実と一緒に踊るしかないから、ねぇ」
「何それ?」
「世の中は上手くまわらないってことさ」
 状況は混沌としている。だが流された血は本物だ。例えそれがまだ夢の続きでも、彼らは何をすべきか心得ていた。アランの言葉に呼応して、あるいは心の命じるままに、彼らは行動を開始する。
 ハンター達は怪物と化した茨小鬼2体の前に立ちふさがった。
「いつも言ってるような事ではあるが……ここを通すわけにはいかないな」
 ロニ・カルディス(ka0551)はクロノスサイズを振りかぶるように構えた。ユーモアにくすりと笑いつつも、バレーヌ=モノクローム(ka1605)らもそれに続いた。
「月並みな台詞ですがそのとおり。ここから先は行ってもらっては困りますからね」
 2体の茨小鬼――ゴブリンライダーとゴブリンシャーマン――は動きを止める。理性的な動きではなかったが、本能で目の前の脅威を認識したようだ。茨小鬼の乗る巨大狼が威嚇するように大きく唸る。まるでそれにあわせるかのように、ざわざわと周囲の茨が蠢いた。
「やはり、茨の出現と関係があるようですね」
 レイ・T・ベッドフォード(ka2398)は正面から目を離さぬまま、周囲の気配をそう認識した。咆哮以前にも2体のゴブリンが何らかの術を使うたびに同じ現象が起きている。
「ええ。気になりますが…先ずは人的被害を出さぬようにせねばなりませんね」
「尤もです」
 状況は不透明でのんびり茨を観察する時間はない。シメオン・E・グリーヴ(ka1285)はレイにプロテクションをかける。次の瞬間にもこの均衡は崩れるかもしれないのだ。ゴブリン達の放出するマテリアルは徐々に増している。
「アラン様はあちらを。こちらは私達が預かります。皆様、それでよろしいですね?」
 他のハンターからも異議はない。続々と「応」とばかりに答えが返るジェーン・ノーワース(ka2004)は無言で頷き返した。アランはちらりとバレーヌを見る。
「話は後で」
「……わかった」
 アランは深呼吸して武器を構えなおすと、一歩前に進み出た。それが戦闘開始の合図となった。



 ゴブリンシャーマンの操る精霊は、空中で燃え上がる炎のようにも見えた。それが既に5体。シャーマンを守るように、あるいはハンターを威嚇するように展開している。その中央でシャーマンが新たな一体を生み出していた。茨のマテリアル量を考えれば、事実上無限に呼び寄せるだろう。
「長引かせるつもりはないが、ますます長期戦は不利だな」
 前列に陣取るロニは隣に立つアランに視線を送る。両脇を固めるバレーヌとセイラを見る余裕はないが、武器を構える気配はあった。好機逸すべからず。ロニとアランはほぼ同時に走り出した。シャーマンの手がハンター達を指差すと精霊は一斉に動き出す。
「おおおお!!」
 アランが正面から飛来した2体を、1体ずつバックラーで殴りつけ、強引に受け流す。精霊は衝撃を受け止めきると重力を無視して再度突進を繰り返す。殴っても手ごたえのない相手は地に足をつける戦士にはやりづらい。致命打を与えられないアランはたちまち防戦一方となった。
 それを助けたのはセイラだった。アランに突撃しようとした一体を横からの銃撃で阻む。セイラの撃った弾丸では致命傷ではないが、アランが反撃するには十分な間となった。渾身の切り落としが直撃する。痛みを表現しない精霊だがアランは確かな手ごたえを感じていた。
 剣を振り切ったアランの背中にもう1体が迫る。アランは振り返り盾を構えるが、精霊が直撃するよりも早く真水のデルタレイが焼き払った。デルタレイはアランと戦っていた2体とロニ、バレーヌ組と対峙する1体を貫く。マテリアルが衝撃となったのか、精霊のうち2体はガスの抜けるような音と共に霧散した。
 この戦況の中でもシャーマンは更に1体の精霊を増やしているが、戦線は崩れ精霊の弱点や特性も露呈した。短期決戦を望むハンターは迷い無くシャーマンに突撃した。
「ここだ。我が篤信に、偉大なるエクラの光あれ!」
 ロニは鎌の石突を前衛となるエレメンタルの目前の地面に叩きつける。衝撃波がシャーマンを、召喚されたばかりのエレメンタルを吹き飛ばす。守っていたエレメンタルの壁が消え、人がすり抜ける隙間ができた。
 すかさず飛び出したアランの剣がシャーマンに迫る。シャーマンは手に持った茨の杖で剣を受けた。硬質な音がして火花が散る。茨と思えない硬度だ。同時にシャーマンは空いた右手から火球を生み出す。
 魔術師の使うファイヤーボールと同様の魔術だが、下地となるマテリアル量が異様に大きい。もろともに焼き尽くす算段だが既に遅かった。
 脇より抜けて隙を窺っていたセイラの鞭がシャーマンの腕にからみつく。シャーマンは節くれ立った茨の杖を取り落とした。集中が途切れ火の玉はあっけなく霧散する。
 慌てて距離を取るシャーマンだがこうなれば逃げ場所は無い。左翼より回り込んだバレーヌの剣がシャーマンの胸を貫いた。血がこぼれる。理性を失ったにごった目でハンターを睨みつけながら、シャーマンは息絶えた。
「ゴブリンとはいえ、嫌な感触ですね」
「気に病まぬように。誰かがしなければならないことです」
 誰かが手を汚さねばならない。生き残るために必要なこと。それは正しい理屈でもあったが、正しい理屈は人を救うわけではない。血の感触はそんな疑念をバレーヌの心に残した。



 ゴブリンライダーの脅威は乗騎である巨大狼の機動性にある。足止めに失敗すれば戦線をかき回される。それだけは避けたかった。左翼側に出たヒースは手裏剣で左手の甲を軽く裂く。血が滴り地面にぽたりぽたりと落ちるが、狼は見向きもしない。
「へえ。血のにおいを嗅ぐだけの野生もなくなったのかな?」
「……困ったわ。ケダモノ以下じゃない」
 同じくコントロールを考えていたジェーンもぼそりと愚痴をもらす。
 しかし手がないわけではない。嫌がらせに徹して削り取るのは作戦の範疇だ。
「足の指や腱を切れば流石に止まるわよね」
 狼は三方に威嚇しながら獰猛な唸り声を上げていた。中央のレイ、左翼のヒース、右翼のジェーンがじわじわと巨大狼に迫る。痺れを切らしたのは狼が先であった。一際大きな声で吼えると、巨大な前足を正面へと勢いよく振り下ろした。それが狼のスキルだったのか、衝撃波が狼より前方180度に飛び出した。
 砂が巻き上がり、視界を覆う。脅しか牽制か。回避しきれないためにジェーンとヒースは後方に跳んで体勢を保った。一方正面にたったレイは後方のシメオンを守るために下がれない。事前にシメオンよりプロテクションによる補助を受けてはいるが、危険にはかわらない。
「レイさん!」
 シメオンは砂埃で見えなくなった仲間に呼びかける。砂埃が収まってまず見えたのは、変わらず狼に正対し続けるレイの姿だった。 
「足止め、そのつもりでしたが――この程度でしたら、その限りでも御座いませんね」
 正面から衝撃波を受け止めてなおレイは無傷だった。巨大狼はレイと正対したまま動けない。追撃に移れば間違いなく返り討ちにあっただろう。その判断は正しかったが、数秒の誤差でしかなかった。
「それでは失礼致します。暫しお付き合い願います」
 丁寧に断りを入れると、レイが目にも止まらぬ速さで飛び込んだ。狼は巨大な前足を横薙ぎにして迎え撃つ。直撃すればただではすまないが、レイはひらりと木の葉が舞うようにかわす。
 レイの初撃は引き戻し損ねた右足に放たれた。踏み込みと共に大きく振られた黄金の刃は狼の右足を深く切り裂く。狼は前に出たレイを噛み殺そうと顔を突き出すが、これも届かない。
 代わりに突き出た顔を頬から右目にかけて切り裂かれることになった。ならばと次は左足。先程と同じくマテリアルを使用して衝撃波を発生させる。完全なタイミングで受けたレイには掠り傷程度しか残らず、その小さな傷さえ後列のシメオンがすぐに癒してしまった。
 再びレイが前に出る。が、狼が身構えたところでレイは唐突に身を引いた。巨大狼の腕は空振って地面を叩く。警戒したまま狼はレイを威嚇し続ける。レイが武器を構えると再び緊張が高まり…。
「!!」
 巨大狼は慌てて自身の後方を振り返る。ジェーンの持つワイヤーウィップが狼の左後足に巻きつき、容赦なく肉に食い込んでいた。
 レイの動きは警戒された瞬間から囮として機能していたのだ。狼は吼える。後ろ足を絡め取られただけなら、体格の差で吹き飛ばせば済む。しかしそれは残りの前衛2人には十分な隙だった。
「さあ、僕と踊ってくれないか!?」
 ヒースの絡繰刀「紫電」が右後足の腿を抉る。肉を深く食い込んだ刃からは紫がかった電光が奔り、狼は全身を痙攣させた。間髪入れず身体を硬直させた狼に正面からレイが突撃する。
 狼は反応できない。硬直したままの体で、狼は迫るレイを睨みつけることしか出来なかった。
 レイのハルバードが狼の眉間を文字通り叩き割る。狼は断末魔の悲鳴を上げることもできず、倒れ伏して二度と起きあがることはなかった。
 振り落とされたゴブリンライダーは地面に転げ落ちる。ゴブリンは鞭を振りなおも戦おうとするが抵抗はそこまでだった。小気味良い銃声と共に銃弾がゴブリンの胸に3発。シメオンの銃だ。更に苦痛で胸を押さえ動きを止めたゴブリンを、ジェーンが背後から大鎌で薙ぎ払う。切り離された首はごろりと音をたて、ボールか何かのように地面に転がった。
「お見事なお手並みでした」
「貴方ほどではありませんよ」
 シメオンは苦笑しながらレイの賞賛をかわす。理性を喪失した敵の過失もあったが、作戦が完全に機能したこともあり、魔力はほとんど余っている。
 働けなかったことは少し心残りだが、怪我人は幾らでもいるだろう。ここは自分の働く場所でなかったのだと、シメオンは気持ちを切り替えた。




 茨の脅威は未だに村を覆っているが、直接的に害となる存在はほぼ駆逐された。遠くで響いていた戦闘の音も、今は聞こえてこない。
「助かった。ありがとう」
 緊張のとけたアランは、まず最初に頭を下げた。元から丁寧なところはあったが、憑き物が落ちたかのように声には以前と違う張りがあった。
「アランさん、何だか変わりましたね」
「……そうかな?」
「そうですよ。今日の戦いではっきりわかりました」
 バレーヌに続きシメオンも言葉を続ける。武器が変わったのは心の変化、というのは少々乱暴かもしれないが、少なくとも彼の価値観が大きく変わったのは確かだろう。 以前のように怒りに任せて振り回すような戦い方ではなかった。
 アランは話を聞きながら、夢のことを思い出した。ハンター達が居た為に違う結末をたどったあの夢を。
「……俺はあの日、側にいることも、自分の気持ちを伝えることもできなかった。それが夢で叶った。エリカの言葉も聞けた。だから……」
 だから、変わることができた。以前のアランは攻撃的だった。そして同時に破滅的だった。守りたいという思いや行いでさえ、どこか歪んでいた。
 死んだ聖女を追って緩慢に自死するかのように。あの日追いつけなかった彼女を、ずっと追っていたのだろう。
 セイラは夢で会ったエリカの言葉を思い出す。
「エリカさんは言ってたわ。貴方と、貴方と同じように痛みを抱える人を救って……て」
「…………」
「貴方は大丈夫かしら?」
 アランの答えはない。それは未だ残る未練にも見えた。
「お兄さん、夢に飲まれたいならそれでも良いんだよ。悪夢も悪くなかった。むしろ幸せだった。そうでしょ?」
 真水が答えに詰まるアランを覗き込む。アランは何かを考え、すぐに頭を振った。 
「いや、大丈夫だ。大丈夫……だと思う。まだ混乱してるのも事実だけどね」
「そう。それならボクの役目はないね」
 真水は悪戯っぽく笑うと身を話す。やりとりを眺めながら、セイラは安堵していた。少なくとも彼は未来を見ている。聖女と悲憤と共に死ぬのでなく、聖女の想いと共に生きようとしている。セイラにはそれで十分に思えた。
 話が途切れたところを見計らい、レイがアランの前に進み出た。
「混乱しているのであれば、別の事を考えましょう。例えば……貴方はこの先、どうされるのですか?」
 レイは質問しながら、視線を周囲の茨に向けた。聖女だったものの悲鳴は途切れていない。
「前に進むのであれば、切るしかありません」
 シメオンは沈痛な顔で告げる。事実そこまで茨を切り開く場面もあった。アランは僅かにためらうが、すぐに答えを出した。
「いや、良いんだ。やってくれ。エリカの魂はもうそこには残っていない」
 あの夢と共に消え去った。魔術の知識の無い彼だが、直感で理解していた。同じ夢を見ていた者達も同様だ。
 それに彼女の思いを叶えるのであれば、そこで立ち止まってはいられない。
「ひとまず村長達と合流しよう。落ち着いたら洞窟にも人を出す。……それと皆」
 アランは深呼吸し、意を決したように続きを口にした。
「ありがとう。……その、待っていてくれて」
 ハンター達はその変化を、笑顔で持って迎えた。
 ハンター達の意志を再度確認したアランは自ら先頭に立つ。
 茨を押しのけ、あるいは切り開き、逃げ遅れた者を探しながら村長宅を目指した。
 途上、茨は前触れ無く消えうせるが、アランの心には確かな覚悟が根付いていた。

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重体一覧

参加者一覧

  • 真水の蝙蝠
    ヒース・R・ウォーカー(ka0145
    人間(蒼)|23才|男性|疾影士
  • 支援巧者
    ロニ・カルディス(ka0551
    ドワーフ|20才|男性|聖導士
  • 護るべきを識る者
    シメオン・E・グリーヴ(ka1285
    人間(紅)|15才|男性|聖導士
  • 母なる海より祝福をこめて
    バレーヌ=モノクローム(ka1605
    人間(紅)|20才|男性|闘狩人
  • グリム・リーパー
    ジェーン・ノーワース(ka2004
    人間(蒼)|15才|女性|疾影士
  • ヒースの黒猫
    南條 真水(ka2377
    人間(蒼)|22才|女性|機導師
  • SKMコンサルタント
    レイ・T・ベッドフォード(ka2398
    人間(蒼)|26才|男性|霊闘士
  • 正しき姿勢で正しき目を
    セイラ・イシュリエル(ka4820
    人間(紅)|20才|女性|疾影士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談スペース
レイ・T・ベッドフォード(ka2398
人間(リアルブルー)|26才|男性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2015/09/15 08:35:08
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/09/14 09:30:02