ゲスト
(ka0000)
月の光のさす折に
マスター:岡本龍馬

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/09/14 12:00
- 完成日
- 2015/09/23 01:43
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
「うさぎ~うさぎ~」
秋の夜風に揺れる辺り一面のすすきの中で、一人の少女が口ずさむ。
「な~に見てはねる~」
鈴虫の音が、少女の歌に合わせるように、リンリン、リンリン、と。
そんな様子を、淡く輝くお月様が見下ろしていた。
「十五夜お月様見ては~ねる」
歌の終わりと共に訪れる静寂の中を一吹きの風が通りぬける。
月に照らされたすすきは、月光に照らされてくすんだ金色を反射しながらその穂を揺らす。
夏の暑さも鳴りを潜めた明るい夜。
もう季節は秋を見せ始めているのだった。
●
「お月見?」
「ええ、なんでも東方の風習でそういったものがあるそうですよ。たしか、リアルブルーにも同様の風習があったような」
ハンターオフィスでお月見の話を聞きつけたハンターが好奇心に目を輝かせていた。
「月を眺めてお酒を飲んだり、和歌というものを作って楽しんだり……あとは、お団子ですかね。あぁ、うさぎ遊びなんてのもあるみたいですね」
「うさぎ遊びってなんだ?」
「東方との交流も最近になってやっと始まったことですから詳しいことは分からないのですが、うさぎの格好をして餅をつくらしいです」
「そんな遊びがあるんだな。なかなか、面白そうじゃないか」
「せっかくの機会ですし、お祭りをやってみましょうか」
「お、そんなら俺も準備手伝うぜ?」
こうして十五夜へ向けてお月見の準備が始まったのだった。
「うさぎ~うさぎ~」
秋の夜風に揺れる辺り一面のすすきの中で、一人の少女が口ずさむ。
「な~に見てはねる~」
鈴虫の音が、少女の歌に合わせるように、リンリン、リンリン、と。
そんな様子を、淡く輝くお月様が見下ろしていた。
「十五夜お月様見ては~ねる」
歌の終わりと共に訪れる静寂の中を一吹きの風が通りぬける。
月に照らされたすすきは、月光に照らされてくすんだ金色を反射しながらその穂を揺らす。
夏の暑さも鳴りを潜めた明るい夜。
もう季節は秋を見せ始めているのだった。
●
「お月見?」
「ええ、なんでも東方の風習でそういったものがあるそうですよ。たしか、リアルブルーにも同様の風習があったような」
ハンターオフィスでお月見の話を聞きつけたハンターが好奇心に目を輝かせていた。
「月を眺めてお酒を飲んだり、和歌というものを作って楽しんだり……あとは、お団子ですかね。あぁ、うさぎ遊びなんてのもあるみたいですね」
「うさぎ遊びってなんだ?」
「東方との交流も最近になってやっと始まったことですから詳しいことは分からないのですが、うさぎの格好をして餅をつくらしいです」
「そんな遊びがあるんだな。なかなか、面白そうじゃないか」
「せっかくの機会ですし、お祭りをやってみましょうか」
「お、そんなら俺も準備手伝うぜ?」
こうして十五夜へ向けてお月見の準備が始まったのだった。
リプレイ本文
●丸い月に思いをはせて
雲一つない夜の空に浮かぶ月が見事な丸を描いている。
リアルブルーにおいては十五夜だとか言われているらしい。
そんなお月見をするのに絶好な今夜。
会場として用意された場所には真っ赤な和傘や木組みのベンチなど、どこか落ち着いた雰囲気の装飾がなされていた。
そんな一角では。
「月を眺め風情を味わうもの……でございましたでしょうか?」
「先日までの大きな戦いの打ち上げなんだ。まずは手元を見たらどうなのかな?」
ディードリヒ・D・ディエルマン(ka3850)のつぶやきにエルシス・ファルツ(ka4163)が酒を差し出す。
「はい、じゃあニケ。乾杯の音頭よろしく」
ウインクしながらのエルシスの言葉が向けられた相手、ニケ・ヴェレッド(ka4135)は紅茶の入ったコップを持ち上げると。
「皆のおかげで、今回も戦う事が出来た。感謝する」
そう一言告げ、合わせて差し出された残り三つのコップと自身のコップを優しくはじきあった。
「皆様とてもご活躍してらっしゃいましたね。お疲れ様でございます」
ニケに合わせるようにそうディードリヒも一言挟んだところで、手元に返ってきたコップを口に運んでそれぞれの飲み物を堪能する四人。
そうして半分ほど飲み終えたあたりだろうか、皿に盛られた白くて丸いものにニケが興味を示した。
「これは……なんだか、不思議な食べ物だな……?」
「それ、お月見団子って言うみたいだね」
「おだんご……?初めて食べるわ」
エルシスが軽く説明をすると、ニケに続いてショコラ・ヴィエノワ(ka4075)もお団子が気になったようだ。
しばらくの間じっとお団子を見つめたのち、先にそれを食べたのはショコラだった。
途中までを口の中にいれ、そこで噛み切ろうとするショコラ。しかし弾力性のある餅はちぎれず、ならばと口の外に出ている部分を引っ張てみても、むにーっという音が聞こえるかのように餅が伸びるのみ。
「!?」
「あはは、ショコラ大丈夫? ほら、お皿に乗せて千切っちゃいな」
あたふたとするショコラにエルシスがお皿を差し出す。
「これはなかなか……」
その食感にニケも少なからず困惑していたものの、先にショコラの様子を見ていたこともあってか、むぐむぐとおいしそうにお団子を堪能していた。
「よろしければこちらもいかがでしょうか?」
お団子への二人の反応をある程度見た後で、ディードリヒが用意されていたものとは異なるお菓子を取り出した。
「これは?」
「餡と栗を餅に包んで作った、リアルブルーの大福なる菓子でございます」
「いろんな見た目があるんだね」
ディードリヒが大福と説明したお菓子をエルシスが物珍しそうに眺める。
するとお団子の衝撃から回復したショコラが大福に手を伸ばし、口に含む。
もぐもぐ……むぐむぐ……。
「ディードリヒのこれも……悪くないじゃない」
気に入ったのかおいしそうにパクパク食べていくショコラに、
「ショコラ、ボクの分もどうぞ?」
と、ニケが自分の分を差し出した。差し出したのだが……。
「Σ!? ……ぉ、お姉さまこそ……召し上がられるといいんですのよ?」
なんとか笑顔でそう答えたショコラだったが、先ほどとは別の理由で明らかにあたふたとしている。
けれどショコラのその反応は当然といえば当然なもので。なにせニケの差し出し方が俗にいう「あーん」だったのだ。
そんな様子をシギル・ブラッドリィ(ka4520)は一歩引いたところで眺めていた。
仲間たちが騒いでいるのはいい酒の肴になる。そして、空に浮かぶ月も。
「……良い月だ。そう思わないか?」
シギルは無意識に、誰もいない自分の側へそうつぶやいていた。
すでに自分の中でくせになっているんだな、と自嘲気味にシギルが苦笑する。
「……未練だな。自分から手離しておいて。我ながら呆れる」
かつては常に傍にありながら、今では空白となっているその場所。
そこにいるはずの親友だった彼女のことを思い浮かべればきりがない。
……そんな親友への思いをシギルは酒にのせたのだった。
こちらもまた、きゃいきゃいやっている二人を眺めつつ楽しげな笑いを浮かべているエルシスが、その隣で同じように眺めていたディードリヒにふと問いかけた。
「……それにしても。ディがあの子の居ないとこに来るなんて珍しいよね。フラれた?」
「然様な事はございません。私とあの方の想いは同じにございます故」
あいかわらず笑顔のままのエルシスに、こちらもまた微笑みながらそう返すディードリヒ。
「確かに、ディードリヒ様が珍しい……が、ボクは嬉しいよ?」
「私も……皆の事は、その……嫌いじゃないわ」
はて、どこから聞いていたのだろう。ニケとショコラの二人も話に混ざってきた。
「皆と一緒に過ごす時間が、ボクは好きだ。……同志、というものだからかな?」
嘘偽りを感じさせないニケのその言葉に自然と皆の意識が集まる。
「女の子は可愛くて、男は変なのも居るけど面白くて。ホント、良い仲間に巡り合っちゃったなぁ。……勝つ為にも。ちゃんと支えてあげなきゃ、だね」
エルシスもまた、誰かへ向けたわけではないのだろう。その証拠に月を眺めながらそんな言葉をつぶやいた。
「……ボクも、皆に恥じない者とならなければ」
「お姉さま……ショコラ、皆やお姉さまのお役に立てるよう、これからも頑張りますわね」
そこにニケと、おそらくはショコラも続き。
「彼女はいま、同じ月を見ているんだろうか……」
親友を思うシギルも顔を上げる。
「望む未来の為……今暫くはこのぬるま湯に浸って居ましょうか」
最後にディードリヒ。五人がそれぞれの思いを胸に抱いて空を仰ぎ見る。
しかしそんな空の彼方だけではなく。
ニケに酒を注がれたディードリヒの盃の水面にも、丸い丸い見事なまでのお月様が映りこんでいたのだった。
●ウサギがつくは月の餅
静かに秋の始まりを感じるところがある反面、わいわいと楽しむスペースも用意されていた。
時折聞こえてくるのはペッタン……ペッタン……という規則的な音。
けれどそんな中に突然、他とは全く異なる音が響いた。
ドガッ……。
「はわ、強くつき過ぎ?」
「それでは黄粉味ではなく木粉味になるぞや……加減せいよ」
……時間は少し前にさかのぼる。
ウサギ餅つき、ということで用意された白いウサギの着ぐるみに身を包んだ参加者たちが餅をつき、つき立てほやほやのそれを酒なんかと一緒に堪能していた。
しかしそんな会場に、とある二人が入ってきたことでざわざわというざわめきが立った。
バニーガールさながらの衣装に身を包んだUisca Amhran(ka0754)と星輝 Amhran(ka0724)である。
「この衣装は……あれかや、こすぷれいうやつかの?」
「あいどるさんの衣装と似ていて可愛いよ☆」
「まあイスカが着ぃ言うんじゃから仕方ないのぅ?」
嬉々として話しかけているUiscaの様子に半ばあきらめ気味の星輝。
「それはそれとして、これを使って餅をついていくようじゃのう」
割り当てられた杵と臼の様子を星輝が確かめていると、
「杵は種別:棍ですよね……龍撃使って思いっきりついてみるね」
強くついた方がおいしくなる、という係員の説明を思い出したのであろうUiscaが杵を持ち上げて意気込む。
……この時点で気づくべきだったのだ。Uiscaの目が戦闘の時のそれと同じようであったことに。
しかしUiscaに対する星輝もノリノリだった。
「なら、慣れたワシがコネようぞ♪」
臼の中には炊き立てのもち米が。
それを挟むように向かい合って立つUiscaと星輝の間でアイコンタクトが交わされた後。
……バン!……バン!
龍撃を使った一撃がもち米へ襲い掛かる。
けれど星輝のサポートも見事なもので、Uiscaの杵に完璧なタイミングで合わせて的確にもち米をひっくり返していく。
だが。人という生き物はうまくいけばいくだけ調子に乗ってしまうもの。
本人たちにも気づかぬうちにその強さ、速度共に凄まじいものとなっておりすでに餅つきと形容していいのかすら怪しい、神業の領域に到達していた。
そしてそれはそんなときだった。
ドガッ……。
「はわ、強くつき過ぎ?」
「イスカよ‥それでは黄粉味ではなく木粉味になるぞや……加減せいよ」
かろうじて原形をとどめている臼の中、餅があるはずのところにはつかれすぎて煎餅のようになった元餅が悲しげに張り付いていた。
「予備があってよかったですね」
自分たちの餅を煎餅にしたUiscaと星輝の二人。
結局もう一度つき直すことになり、予備のもち米をもらってお餅にして今に至る。
「自分でつくったお餅もおいしいね~」
やはり食べるまでの作業が多い分達成感も違ってくるのだろう。
二人ともが餅をおいしそうにほおばっていた。
しかし星輝がふと立ち上がったかと思うと、盃に酒を注ぎ直し、どこからか扇を出した。
そして、静かな唄とともに星輝の舞が始まった。
「月の下、童女姿なれど流す瞳に宿りしは、妖しき色香の芳しき事
左に扇、右に杯、月下に咲くはとりどりの華
舞いて舞いては胡蝶の如く、夢か現か朧に映り
酔える蜜へと舞いて移て、腰を下ろすは月の餅
食めや飲めや、舞えや謳えや、満ち月望む一夜の宴」
星輝の舞は本人が意識してかしないでか、他の参加者の心までもつかんでいた。
皆がその舞に見入ったがために静かになっていく会場。
秋の夜のすすき野原に響き渡るその唄が、風に乗って月まで届く。
……そんなこともあったかもしれない。
●月の光のさす折に
月は古くより不思議な力を持つとされてきた。
もしかすると、このめぐり合わせもそのひとつなのやも知れない。
「歌織さ、……歌織殿では御座いませんか」
思いがけない人物が月見に参加していた弥栄(ka4950)の目に入った。
かつては共にありながらも、相手のことを思ってそのそばを離れた。
そんな相手、小鳥遊宮 歌織(ka5166)も月見に参加していたのだ。
「失礼だが以前お会いしたことがあったかな?」
わずかに不審がる様子をみせる歌織。
「以前ハンターオフィスでお見かけ致しまして覚えていたので御座います」
務めて自然に話したつもりの弥栄だが、本当に隠しきれているのか本人にも不安だった。
「そうだった、かな」
始めのうちこそ警戒の色を見せていた歌織だったが、弥栄との会話が進むたびに得も知れぬ気持ちがわきあがってくるのを感じていた。
「オフィスで互いに見かけただけなんだろうけれど何故か懐かしい心地がするんだ」
「っ!?」
唐突なその言葉に動揺を隠しきれない弥栄。
けれども……。
「昔の知り合いにでも似ているのかな」
世間話としてその話の中で歌織の近況について聞かされていた弥栄。
その頬を、一筋の涙がつたった。
「え……?」
一度流れ出した涙はなぜか止まらなかった。
「大丈夫? 若しやどこか痛むのか」
歌織にとっては話の中で弥栄が突然泣き出したようにしか見えていないだろう。
しかしそこで歌織がかけた言葉で、弥栄は自分のこの涙の理由に思い至った。
その言葉はかつて弥栄が歌織にかけられた言葉。
歌織に自分のことを思い出してほしい。楽しかったあの頃のことを思い出してほしい。
けれど、自分のことを思い出すということは歌織の両親に起こった出来事についても思い出すことにつながる。
だからこそ思い出してほしくないと思っている自分がいる。
そのジレンマの中で、弥栄の目から涙はこぼれ続けているのだ。
「申し訳ございませぬ。少し飲み過ぎたようで……泣き上戸故……」
心配そうにしている歌織に弥栄がかけられたのはそんな言葉だった。
月明かりに照らされて、すすき野原に肩を寄せ合う影が伸びる。
「お月見って言うんだってね」
「由来は様々ですけど豊作祈願や収穫の感謝としてのものが一般的ですね」
少しばかりいつもより饒舌になりながら自分の生まれ故郷のことを最愛のミューレ(ka4567)に話す来未 結(ka4610)。
けれど饒舌、とはいってもそれはいつもに比べて。
風に揺れるすすきの音や鈴虫の鳴き声をかき消すことがないよう、結はぽつぽつと言葉を紡ぐ。
ミューレもまた、それを邪魔することが無いよう静かに耳を傾ける。
「素敵な風習だね」
ひとしきり自分の故郷のことを語り終わった結の頭に手を置き、やさしくなでるミューレ。
その一撫で一撫でからミューレの感じる愛おしさが伝わっているのだろう。
撫でられている結がその安心を表すかのように、体の力を抜いてミューレにしなだれかかる。
「こうして結と一緒にいる……ただそれだけですごく幸せだ」
今度はミューレの番だった。
結を撫でる手を同じように優しい声音で、その心のうちをこぼしていく。
「この世で一番の幸せ者だ、と本当にそんな気分になってしまう」
「もちろん結も幸せにしてあげたい」
そこでミューレの言葉が止まる。そればかりかそれと同時に、結の頭を撫でていた手も止まった。
どうしたのか、そう問いかけようと結が振り向いた時だった。
「2人で一緒に幸せにならないと意味が無いんだ」
ミューレが振り向いた結の肩を抱き寄せ、反対の手を結のあごにそえた。
結もそれに抵抗することはなく。ミューレの手により少し上向きにされた結の視線が、結を見つめるミューレの視線と重なる。
さすがに顔を朱に染める結だったが、あたりに聞こえるのは虫たちの合唱の声のみ。
それは結とミューレの二人を世界から包み隠しているようで。
どちらからともなく自然に……二人の一番やわらかいところが触れ合った。
そこには二人だけの時間が流れている。
邪魔する者は誰一人としていなかった。
それからしばしの時間が流れ、二人の距離がわずかに開く。
けれど、視線はお互いを捉えたまま。
「結と出会って今まで、二人でたくさんの思い出を作ってきた。これからも一緒に作っていきたい」
「えへへ……思い出、十五夜では足りないですね」
「結、世界で一番、大好きだよ」
「ミューレさん……愛しています」
一度離れた二人の距離が再びゼロになった。
「月を肴にゆっくり飲むのも悪くない」
街の光というものがほとんどないこの世界において夜空の景観を邪魔するものは存在しない。
レイオス・アクアウォーカー(ka1990)は酒をあおりつつ、ぼんやりと月へ思いをはせていた。
空に浮かび、金色に輝いているあの月に、リアルブルーでは人類がその足で立っている。
しかしこちらではそうはいかず、いまだ前人未到の地としてそこにある。
「しかし、クリムゾンウェストの月だからな。本当にウサギが住んでそうだよな」
その言葉にはいつか行ってみたい、そんなニュアンスが含まれていたようだ。
けれど、今はまだ叶わぬ夢であるわけで。
レイオスが地上へ目を向けた時、ふっとその頬を夜風が撫でた。
「そういえば和歌を作るのが東方風だったか?」
しばしの思案ののち、つぶやくようにレイオスが和歌を詠みあげた。
「『さかずきの 月を味わう 月見酒 また愛でるため われ酒そそぐ』……なんてな」
心に映った風流なものをありのままに詩にする。
それこそが和歌の醍醐味とも言われ、レイオスの詩は見事に今夜の様子を言い表していた。
けれど評価する者がいない場においてその感想を知る術はない。
「上手くはないだろうがこういうのは気分だしな」
その言葉に応えるかのように、一吹きの夜風がレイオスの髪を揺らした。
しかし気づけば月は天頂を超えて沈み始めている時間だ。
「夜も更けて冷えてきたし、次はぬる燗で飲むか」
そうしてレイオスの手元からはゆっくりと湯気が立ち上っていくのだった。
所変わって静かな時間が流れる場所。
「……我らが故郷は、もう少し月が近かったな……」
酒を手に月を仰ぎ見るシュクトゥ(ka5118)がいた。
彼女は鳥と契約する部族の生まれ。必然的に高地に住んでいた彼女にとって、月とはもっと近い存在であった。
けれど、今は違う。
「どこにいても、月は月だよ、それに……月が遠い分、ここの夜空は星がよく見える」
気持ちが沈みかけていたシュクトゥにアマメ(ka5316)が気にかけるように声をかける。
けれどそういうアマメだってなにも思っていないわけではない。
そこに置いてきたものだってたくさんあるはずだ。……けれど。
お月見に選ばれるだけあって特に月の明るい今夜であっても、その夜空には故郷で見ることのできなかった星たちが自己の存在をその輝きをもって示していた。
「離れるからこそ、見えるものもきっとあるんだよ」
「離れるからこそ……か」
アマメの見上げる先の夜空、そこには知らない星が無数に瞬いている。アマメの言葉の真意がわからないようなシュクトゥではなかった。
しかし。そうは言ってもだ。
「今は遠い――けど、いつかは、また」
故郷で酒を酌み交わしたいのだ、と。その思いは心の奥底にしっかりと持っているわけで。
ムウ(ka5077)は自分の盃に映った月を一瞥すると、そのまま一息に飲みほした。
……けれどお酒というのはそんな少なからず重さを感じさせる空気すらも融解させるものであり。
自然と三人の話は弾んでいき、合わせてお酒を運ぶ手もだんだんと数を増していった。
そして案の定。
「すまない、少し、飲み過ぎたようだ」
「私も……だな」
許容量を超えた量を飲んだ二人が船をこぎ出す。
思うところはそれぞれあるのだろう。
しかしこんな時くらい夢現に、そのはざまで揺蕩うのもいいではないか。
「――ったく。そんなになるまで飲むなよ」
いつの間にか眠りに落ちていた二人をあきれ顔で見下ろすムウ。
どうしたものかとしばし思案した後。
結局二人を運んでいくにはこうするしかないとムウはその両肩に一人ずつ担ぎ上げた。
「んぅ……ぅ」
少々嫌そうな声をもらすシュクトゥ。
だからと言って運び方を変えてあげられるほどムウにも余裕はないわけで。
「……」
扱いそのものはぞんざいだったが、最大限両肩の二人に負担がかからないよう帰り道を歩いたムウの気遣いを、当の二人が知ることはおそらくないのだろう。
人には人の思いがあり、人には人の物語がある。
お月様はただ静かに、そんな物語を見守ってくれているのかも、しれない
雲一つない夜の空に浮かぶ月が見事な丸を描いている。
リアルブルーにおいては十五夜だとか言われているらしい。
そんなお月見をするのに絶好な今夜。
会場として用意された場所には真っ赤な和傘や木組みのベンチなど、どこか落ち着いた雰囲気の装飾がなされていた。
そんな一角では。
「月を眺め風情を味わうもの……でございましたでしょうか?」
「先日までの大きな戦いの打ち上げなんだ。まずは手元を見たらどうなのかな?」
ディードリヒ・D・ディエルマン(ka3850)のつぶやきにエルシス・ファルツ(ka4163)が酒を差し出す。
「はい、じゃあニケ。乾杯の音頭よろしく」
ウインクしながらのエルシスの言葉が向けられた相手、ニケ・ヴェレッド(ka4135)は紅茶の入ったコップを持ち上げると。
「皆のおかげで、今回も戦う事が出来た。感謝する」
そう一言告げ、合わせて差し出された残り三つのコップと自身のコップを優しくはじきあった。
「皆様とてもご活躍してらっしゃいましたね。お疲れ様でございます」
ニケに合わせるようにそうディードリヒも一言挟んだところで、手元に返ってきたコップを口に運んでそれぞれの飲み物を堪能する四人。
そうして半分ほど飲み終えたあたりだろうか、皿に盛られた白くて丸いものにニケが興味を示した。
「これは……なんだか、不思議な食べ物だな……?」
「それ、お月見団子って言うみたいだね」
「おだんご……?初めて食べるわ」
エルシスが軽く説明をすると、ニケに続いてショコラ・ヴィエノワ(ka4075)もお団子が気になったようだ。
しばらくの間じっとお団子を見つめたのち、先にそれを食べたのはショコラだった。
途中までを口の中にいれ、そこで噛み切ろうとするショコラ。しかし弾力性のある餅はちぎれず、ならばと口の外に出ている部分を引っ張てみても、むにーっという音が聞こえるかのように餅が伸びるのみ。
「!?」
「あはは、ショコラ大丈夫? ほら、お皿に乗せて千切っちゃいな」
あたふたとするショコラにエルシスがお皿を差し出す。
「これはなかなか……」
その食感にニケも少なからず困惑していたものの、先にショコラの様子を見ていたこともあってか、むぐむぐとおいしそうにお団子を堪能していた。
「よろしければこちらもいかがでしょうか?」
お団子への二人の反応をある程度見た後で、ディードリヒが用意されていたものとは異なるお菓子を取り出した。
「これは?」
「餡と栗を餅に包んで作った、リアルブルーの大福なる菓子でございます」
「いろんな見た目があるんだね」
ディードリヒが大福と説明したお菓子をエルシスが物珍しそうに眺める。
するとお団子の衝撃から回復したショコラが大福に手を伸ばし、口に含む。
もぐもぐ……むぐむぐ……。
「ディードリヒのこれも……悪くないじゃない」
気に入ったのかおいしそうにパクパク食べていくショコラに、
「ショコラ、ボクの分もどうぞ?」
と、ニケが自分の分を差し出した。差し出したのだが……。
「Σ!? ……ぉ、お姉さまこそ……召し上がられるといいんですのよ?」
なんとか笑顔でそう答えたショコラだったが、先ほどとは別の理由で明らかにあたふたとしている。
けれどショコラのその反応は当然といえば当然なもので。なにせニケの差し出し方が俗にいう「あーん」だったのだ。
そんな様子をシギル・ブラッドリィ(ka4520)は一歩引いたところで眺めていた。
仲間たちが騒いでいるのはいい酒の肴になる。そして、空に浮かぶ月も。
「……良い月だ。そう思わないか?」
シギルは無意識に、誰もいない自分の側へそうつぶやいていた。
すでに自分の中でくせになっているんだな、と自嘲気味にシギルが苦笑する。
「……未練だな。自分から手離しておいて。我ながら呆れる」
かつては常に傍にありながら、今では空白となっているその場所。
そこにいるはずの親友だった彼女のことを思い浮かべればきりがない。
……そんな親友への思いをシギルは酒にのせたのだった。
こちらもまた、きゃいきゃいやっている二人を眺めつつ楽しげな笑いを浮かべているエルシスが、その隣で同じように眺めていたディードリヒにふと問いかけた。
「……それにしても。ディがあの子の居ないとこに来るなんて珍しいよね。フラれた?」
「然様な事はございません。私とあの方の想いは同じにございます故」
あいかわらず笑顔のままのエルシスに、こちらもまた微笑みながらそう返すディードリヒ。
「確かに、ディードリヒ様が珍しい……が、ボクは嬉しいよ?」
「私も……皆の事は、その……嫌いじゃないわ」
はて、どこから聞いていたのだろう。ニケとショコラの二人も話に混ざってきた。
「皆と一緒に過ごす時間が、ボクは好きだ。……同志、というものだからかな?」
嘘偽りを感じさせないニケのその言葉に自然と皆の意識が集まる。
「女の子は可愛くて、男は変なのも居るけど面白くて。ホント、良い仲間に巡り合っちゃったなぁ。……勝つ為にも。ちゃんと支えてあげなきゃ、だね」
エルシスもまた、誰かへ向けたわけではないのだろう。その証拠に月を眺めながらそんな言葉をつぶやいた。
「……ボクも、皆に恥じない者とならなければ」
「お姉さま……ショコラ、皆やお姉さまのお役に立てるよう、これからも頑張りますわね」
そこにニケと、おそらくはショコラも続き。
「彼女はいま、同じ月を見ているんだろうか……」
親友を思うシギルも顔を上げる。
「望む未来の為……今暫くはこのぬるま湯に浸って居ましょうか」
最後にディードリヒ。五人がそれぞれの思いを胸に抱いて空を仰ぎ見る。
しかしそんな空の彼方だけではなく。
ニケに酒を注がれたディードリヒの盃の水面にも、丸い丸い見事なまでのお月様が映りこんでいたのだった。
●ウサギがつくは月の餅
静かに秋の始まりを感じるところがある反面、わいわいと楽しむスペースも用意されていた。
時折聞こえてくるのはペッタン……ペッタン……という規則的な音。
けれどそんな中に突然、他とは全く異なる音が響いた。
ドガッ……。
「はわ、強くつき過ぎ?」
「それでは黄粉味ではなく木粉味になるぞや……加減せいよ」
……時間は少し前にさかのぼる。
ウサギ餅つき、ということで用意された白いウサギの着ぐるみに身を包んだ参加者たちが餅をつき、つき立てほやほやのそれを酒なんかと一緒に堪能していた。
しかしそんな会場に、とある二人が入ってきたことでざわざわというざわめきが立った。
バニーガールさながらの衣装に身を包んだUisca Amhran(ka0754)と星輝 Amhran(ka0724)である。
「この衣装は……あれかや、こすぷれいうやつかの?」
「あいどるさんの衣装と似ていて可愛いよ☆」
「まあイスカが着ぃ言うんじゃから仕方ないのぅ?」
嬉々として話しかけているUiscaの様子に半ばあきらめ気味の星輝。
「それはそれとして、これを使って餅をついていくようじゃのう」
割り当てられた杵と臼の様子を星輝が確かめていると、
「杵は種別:棍ですよね……龍撃使って思いっきりついてみるね」
強くついた方がおいしくなる、という係員の説明を思い出したのであろうUiscaが杵を持ち上げて意気込む。
……この時点で気づくべきだったのだ。Uiscaの目が戦闘の時のそれと同じようであったことに。
しかしUiscaに対する星輝もノリノリだった。
「なら、慣れたワシがコネようぞ♪」
臼の中には炊き立てのもち米が。
それを挟むように向かい合って立つUiscaと星輝の間でアイコンタクトが交わされた後。
……バン!……バン!
龍撃を使った一撃がもち米へ襲い掛かる。
けれど星輝のサポートも見事なもので、Uiscaの杵に完璧なタイミングで合わせて的確にもち米をひっくり返していく。
だが。人という生き物はうまくいけばいくだけ調子に乗ってしまうもの。
本人たちにも気づかぬうちにその強さ、速度共に凄まじいものとなっておりすでに餅つきと形容していいのかすら怪しい、神業の領域に到達していた。
そしてそれはそんなときだった。
ドガッ……。
「はわ、強くつき過ぎ?」
「イスカよ‥それでは黄粉味ではなく木粉味になるぞや……加減せいよ」
かろうじて原形をとどめている臼の中、餅があるはずのところにはつかれすぎて煎餅のようになった元餅が悲しげに張り付いていた。
「予備があってよかったですね」
自分たちの餅を煎餅にしたUiscaと星輝の二人。
結局もう一度つき直すことになり、予備のもち米をもらってお餅にして今に至る。
「自分でつくったお餅もおいしいね~」
やはり食べるまでの作業が多い分達成感も違ってくるのだろう。
二人ともが餅をおいしそうにほおばっていた。
しかし星輝がふと立ち上がったかと思うと、盃に酒を注ぎ直し、どこからか扇を出した。
そして、静かな唄とともに星輝の舞が始まった。
「月の下、童女姿なれど流す瞳に宿りしは、妖しき色香の芳しき事
左に扇、右に杯、月下に咲くはとりどりの華
舞いて舞いては胡蝶の如く、夢か現か朧に映り
酔える蜜へと舞いて移て、腰を下ろすは月の餅
食めや飲めや、舞えや謳えや、満ち月望む一夜の宴」
星輝の舞は本人が意識してかしないでか、他の参加者の心までもつかんでいた。
皆がその舞に見入ったがために静かになっていく会場。
秋の夜のすすき野原に響き渡るその唄が、風に乗って月まで届く。
……そんなこともあったかもしれない。
●月の光のさす折に
月は古くより不思議な力を持つとされてきた。
もしかすると、このめぐり合わせもそのひとつなのやも知れない。
「歌織さ、……歌織殿では御座いませんか」
思いがけない人物が月見に参加していた弥栄(ka4950)の目に入った。
かつては共にありながらも、相手のことを思ってそのそばを離れた。
そんな相手、小鳥遊宮 歌織(ka5166)も月見に参加していたのだ。
「失礼だが以前お会いしたことがあったかな?」
わずかに不審がる様子をみせる歌織。
「以前ハンターオフィスでお見かけ致しまして覚えていたので御座います」
務めて自然に話したつもりの弥栄だが、本当に隠しきれているのか本人にも不安だった。
「そうだった、かな」
始めのうちこそ警戒の色を見せていた歌織だったが、弥栄との会話が進むたびに得も知れぬ気持ちがわきあがってくるのを感じていた。
「オフィスで互いに見かけただけなんだろうけれど何故か懐かしい心地がするんだ」
「っ!?」
唐突なその言葉に動揺を隠しきれない弥栄。
けれども……。
「昔の知り合いにでも似ているのかな」
世間話としてその話の中で歌織の近況について聞かされていた弥栄。
その頬を、一筋の涙がつたった。
「え……?」
一度流れ出した涙はなぜか止まらなかった。
「大丈夫? 若しやどこか痛むのか」
歌織にとっては話の中で弥栄が突然泣き出したようにしか見えていないだろう。
しかしそこで歌織がかけた言葉で、弥栄は自分のこの涙の理由に思い至った。
その言葉はかつて弥栄が歌織にかけられた言葉。
歌織に自分のことを思い出してほしい。楽しかったあの頃のことを思い出してほしい。
けれど、自分のことを思い出すということは歌織の両親に起こった出来事についても思い出すことにつながる。
だからこそ思い出してほしくないと思っている自分がいる。
そのジレンマの中で、弥栄の目から涙はこぼれ続けているのだ。
「申し訳ございませぬ。少し飲み過ぎたようで……泣き上戸故……」
心配そうにしている歌織に弥栄がかけられたのはそんな言葉だった。
月明かりに照らされて、すすき野原に肩を寄せ合う影が伸びる。
「お月見って言うんだってね」
「由来は様々ですけど豊作祈願や収穫の感謝としてのものが一般的ですね」
少しばかりいつもより饒舌になりながら自分の生まれ故郷のことを最愛のミューレ(ka4567)に話す来未 結(ka4610)。
けれど饒舌、とはいってもそれはいつもに比べて。
風に揺れるすすきの音や鈴虫の鳴き声をかき消すことがないよう、結はぽつぽつと言葉を紡ぐ。
ミューレもまた、それを邪魔することが無いよう静かに耳を傾ける。
「素敵な風習だね」
ひとしきり自分の故郷のことを語り終わった結の頭に手を置き、やさしくなでるミューレ。
その一撫で一撫でからミューレの感じる愛おしさが伝わっているのだろう。
撫でられている結がその安心を表すかのように、体の力を抜いてミューレにしなだれかかる。
「こうして結と一緒にいる……ただそれだけですごく幸せだ」
今度はミューレの番だった。
結を撫でる手を同じように優しい声音で、その心のうちをこぼしていく。
「この世で一番の幸せ者だ、と本当にそんな気分になってしまう」
「もちろん結も幸せにしてあげたい」
そこでミューレの言葉が止まる。そればかりかそれと同時に、結の頭を撫でていた手も止まった。
どうしたのか、そう問いかけようと結が振り向いた時だった。
「2人で一緒に幸せにならないと意味が無いんだ」
ミューレが振り向いた結の肩を抱き寄せ、反対の手を結のあごにそえた。
結もそれに抵抗することはなく。ミューレの手により少し上向きにされた結の視線が、結を見つめるミューレの視線と重なる。
さすがに顔を朱に染める結だったが、あたりに聞こえるのは虫たちの合唱の声のみ。
それは結とミューレの二人を世界から包み隠しているようで。
どちらからともなく自然に……二人の一番やわらかいところが触れ合った。
そこには二人だけの時間が流れている。
邪魔する者は誰一人としていなかった。
それからしばしの時間が流れ、二人の距離がわずかに開く。
けれど、視線はお互いを捉えたまま。
「結と出会って今まで、二人でたくさんの思い出を作ってきた。これからも一緒に作っていきたい」
「えへへ……思い出、十五夜では足りないですね」
「結、世界で一番、大好きだよ」
「ミューレさん……愛しています」
一度離れた二人の距離が再びゼロになった。
「月を肴にゆっくり飲むのも悪くない」
街の光というものがほとんどないこの世界において夜空の景観を邪魔するものは存在しない。
レイオス・アクアウォーカー(ka1990)は酒をあおりつつ、ぼんやりと月へ思いをはせていた。
空に浮かび、金色に輝いているあの月に、リアルブルーでは人類がその足で立っている。
しかしこちらではそうはいかず、いまだ前人未到の地としてそこにある。
「しかし、クリムゾンウェストの月だからな。本当にウサギが住んでそうだよな」
その言葉にはいつか行ってみたい、そんなニュアンスが含まれていたようだ。
けれど、今はまだ叶わぬ夢であるわけで。
レイオスが地上へ目を向けた時、ふっとその頬を夜風が撫でた。
「そういえば和歌を作るのが東方風だったか?」
しばしの思案ののち、つぶやくようにレイオスが和歌を詠みあげた。
「『さかずきの 月を味わう 月見酒 また愛でるため われ酒そそぐ』……なんてな」
心に映った風流なものをありのままに詩にする。
それこそが和歌の醍醐味とも言われ、レイオスの詩は見事に今夜の様子を言い表していた。
けれど評価する者がいない場においてその感想を知る術はない。
「上手くはないだろうがこういうのは気分だしな」
その言葉に応えるかのように、一吹きの夜風がレイオスの髪を揺らした。
しかし気づけば月は天頂を超えて沈み始めている時間だ。
「夜も更けて冷えてきたし、次はぬる燗で飲むか」
そうしてレイオスの手元からはゆっくりと湯気が立ち上っていくのだった。
所変わって静かな時間が流れる場所。
「……我らが故郷は、もう少し月が近かったな……」
酒を手に月を仰ぎ見るシュクトゥ(ka5118)がいた。
彼女は鳥と契約する部族の生まれ。必然的に高地に住んでいた彼女にとって、月とはもっと近い存在であった。
けれど、今は違う。
「どこにいても、月は月だよ、それに……月が遠い分、ここの夜空は星がよく見える」
気持ちが沈みかけていたシュクトゥにアマメ(ka5316)が気にかけるように声をかける。
けれどそういうアマメだってなにも思っていないわけではない。
そこに置いてきたものだってたくさんあるはずだ。……けれど。
お月見に選ばれるだけあって特に月の明るい今夜であっても、その夜空には故郷で見ることのできなかった星たちが自己の存在をその輝きをもって示していた。
「離れるからこそ、見えるものもきっとあるんだよ」
「離れるからこそ……か」
アマメの見上げる先の夜空、そこには知らない星が無数に瞬いている。アマメの言葉の真意がわからないようなシュクトゥではなかった。
しかし。そうは言ってもだ。
「今は遠い――けど、いつかは、また」
故郷で酒を酌み交わしたいのだ、と。その思いは心の奥底にしっかりと持っているわけで。
ムウ(ka5077)は自分の盃に映った月を一瞥すると、そのまま一息に飲みほした。
……けれどお酒というのはそんな少なからず重さを感じさせる空気すらも融解させるものであり。
自然と三人の話は弾んでいき、合わせてお酒を運ぶ手もだんだんと数を増していった。
そして案の定。
「すまない、少し、飲み過ぎたようだ」
「私も……だな」
許容量を超えた量を飲んだ二人が船をこぎ出す。
思うところはそれぞれあるのだろう。
しかしこんな時くらい夢現に、そのはざまで揺蕩うのもいいではないか。
「――ったく。そんなになるまで飲むなよ」
いつの間にか眠りに落ちていた二人をあきれ顔で見下ろすムウ。
どうしたものかとしばし思案した後。
結局二人を運んでいくにはこうするしかないとムウはその両肩に一人ずつ担ぎ上げた。
「んぅ……ぅ」
少々嫌そうな声をもらすシュクトゥ。
だからと言って運び方を変えてあげられるほどムウにも余裕はないわけで。
「……」
扱いそのものはぞんざいだったが、最大限両肩の二人に負担がかからないよう帰り道を歩いたムウの気遣いを、当の二人が知ることはおそらくないのだろう。
人には人の思いがあり、人には人の物語がある。
お月様はただ静かに、そんな物語を見守ってくれているのかも、しれない
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/09/13 23:44:07 |