ゲスト
(ka0000)
海からババアが攻めてくる
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2015/09/25 22:00
- 完成日
- 2015/10/01 03:05
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●昨日
ハンターオフィス内にある喫茶スペース。
リアルブルー出身のハンター(兼画家)八橋杏子は、仲間のハンターたちにスケッチブックを開いて見せた。
「出版社から依頼をされたのよ。『リアルブルーの歪虚たち』っていう企画で……」
リアルブルーにも歪虚がいることは、誰しも知っている。だがあちら産の歪虚がどんな姿をしどんな特性を持ち、またどんな名前を持っているかについてはあまり知られていない。
相互理解を深めるため、それを体系づけた出版物があってもいいのではないかというのが、企画の趣旨だそうだ。
「本当に歪虚なのかどうなのかハッキリしないのもいるんだけどね、とりあえず化け物とか妖怪とか言われてたものについて描いてみたのよ」
スケッチブックに所狭しと描かれているラフ画を興味津々眺めていた皆は、とあるページで手を留めた。
……凶悪な形相の婆さんがしおれた乳をさらけ出し波間に溺れている。
「……杏子さん、このお婆さんを襲っている歪虚は、どこに描いてあるんですか?」
「あ、違うわよ。それはお婆さんじゃなくて人魚。私たちの世界で言う、東洋風の人魚像。ほら、ここに尻尾が描いてあるでしょう」
その返答にみなの時間が止まった。
人魚――貝殻のブラジャーをつけ珊瑚の櫛で長い髪をとかしている半人半魚の幻獣。何故かそろいも揃って美女ばかり。それがクリムゾンウェストにおける常識だ。
ああ、なのにこの絵ときたら。
「……すいませんこれのどこが人魚なんですか?」
「どこがって言われてもね……人魚だから人魚だとしか」
「いやいやいや違うだろ人魚はこんなババアじゃないだろ」
「あのねー、人魚だって生き物である以上老化するし老化したらババアになるでしょ?」
「老化するにしてもこれはひどすぎるでしょう。たとえ年くってしまうにしたって、こんな汚いお婆さんではなくきれいなお婆さんになるはずです。もとがきれいなんだから。そうじゃないですか」
「だよな。こんな混沌の海からのたくり出てきたような存在では断じてないぞ人魚は」
「……えーと、私に色々言われても困るんだけど……これはあくまでもリアルブルーに伝わる伝承のほんの一部を絵にしただけなんであって……」
確かにそれもそうだ。これ以上突っ込み続けて杏子を困らせるのもどうかと思ったので、ハンターたちは釈然としないまま、人魚についての話題を打ち切った。
●本日
ハンターたちは港に出現した歪虚を前にしていた。
目撃者の証言によると、朝霧に紛れ海から上がってきたらしい。
魚市場に集団で乱入し人を襲い軽傷重傷を負わせた挙句、その辺に散乱した魚やタコ、イカ、貝といった水産物を食っている。
水揚げされたばかりだったというマグロが1匹残らず骨になっている。被害額はかなり大きいと言えるだろう。
歪虚は集団である。15匹もいる。口内にびっしり生えた鋭い歯で生魚を頭からバリバリ食っている。腰から上は人、腰から下は魚。
枯れ切った乳をさらししわくちゃの凶悪な面をしざんばら髪を振り乱しているその姿。
それは紛れもなく先日見た、『人魚』……いや、妖怪ババ魚人の姿であった。
リプレイ本文
● ババア・ザ・ファーストコンタクト
食えるものを皆食い散らかしたババ魚人がどたどた海に戻って行く。
葛城 ゆい(ka5405)は乾いた声で一人ごちた。
「ああ……リアルブルーの絵画で見た事あるわね、たしかに。妖怪画だけど」
藤堂研司(ka0569)は額を押さえよろめいた。
「なんてことだ……残暑もほどほどに涼やかな海に暗黒ババアフェスティバルが開幕してしまうとは……! このままでは視覚と食欲の暴力でいずれ誰かが死ぬ! 水際で止めねば! 文字通り!!」
垂れ乳とざんばら髪を振り乱し波間に漂うババアババアババア。海に入ると髪が濡れぬらぬら顔に張り付き、一層見た目のすさまじさが増す。
テンシ・アガート(ka0589)は魚と悪魔合体したババアが何匹いるのか試しに数えてみた。
「15匹! これは退治しないと危ないね! 絵面が!」
しかしメオ・C・ウィスタリア(ka3988)にとっては、危ない絵面が逆に面白かった。
「うわー、なんだアレ。写真撮って皆に見せてやろー。たかし丸もあんな感じになったら強くなれそうだよねぇ」
話しかけられている左手のパペットは、口をぱくぱく。
ババフェスを直視し続けるに忍びない檜ケ谷 樹(ka5040)は、目頭を押さえ顔を背けた。
「こーれは……きつい」
エルディン(ka4144)は額に手をかざし妖怪軍団を眺める。
「……リアルブルーの海から転移してきたのでしょうかねえ、あの熟し切った人魚たちは」
リアルブルーの海にもあんなものそうそう泳いでないのだが、とクオン・サガラ(ka0018)は思った。というか、ホラー映画の産物的歪虚を人魚と呼ぶのは人魚に対する冒涜であるような気もする。
「リアルブルーの伝承から考えるとアレは美化無しの「サイレン」……ですけどね。海に飛び込みたくなる様な叫び声をあげるという……報告によるとピラニアか何かみたいな生態らしいですが」
イルカのように軽やかに、海面に撥ね飛ぶババ魚人。美しい海と空が台なしだ。
吹いてくる潮風の涼しさに柏部 狭綾(ka2697)は、一抹の寂しさを覚える。
「もう、季節は大分秋になっているのに、また海に来るなんてね……」
白い雲を見ていると鮮明に思い出される。この夏に起きた出来事が。
(今年の夏も、何度か海や水辺に来たけれど……折角のプライベートビーチで、何故か白スク水とか着ていたわよね……水鉄砲でのサバイバルゲームに、トップレスで参戦する羽目になったり……あ、あれ? な、何だか今年の夏、海や水辺絡みでは碌な目に遭っていないような……?)
狭綾の見開いた両の目から涙が溢れ、流れ始める。
驚いたゆいは彼女に尋ねた。
「狭綾さん、どうしたの?」
「……気にしないで。目から汗が出ただけだから」
小さな胸に渦巻く大きな悲しみをあざ笑うかのように、ババ魚人らがけたたましく鳴き騒いでいる。停泊中の漁船を齧っている輩もいた。船板がみるみるうちに削れていく。そして、沈没。
ゆいは即座に水中戦を断念する。
「そういえば船を沈める妖怪っていうのもいたわよね……」
樹は最初からそんな冒険をするつもりなどない。
「……これは……。こっちから海に入って行ったら確実に地獄でしょう」
研司がさっと前髪をかきあげる。
「皆安心してくれ、俺にはこの状況を打開する秘策がある……必殺料理わんこ海鮮バーベキュー地獄という秘策が!」
「ふーん、聞くだに愉快そうだねぇ。メオもいっちょその秘策とやらに噛ませてもらえないかい?」
「おお、ありがたいな! よろしく頼むよメオさん!」
作戦内容も明らかにならないうちハイタッチを交わす2者。
その時エルディンが、いきなりカソックを脱ぎ捨てた。
「仕方ありませんね。ここは私も秘策を弄させていただきましょう!」
胸にはハマグリのメンズニップレス。腰から下はうろこ模様を描いた毛布を巻き付けている。尾ヒレに見えるよう、足元の余った部分を紐で縛って。
涙が一気に乾いてしまった狭綾は、恐る恐るエルディンに聞いた。
「あの……一体何を……?」
「彼女達は女性でしょう。ならばこの私が身を持って惹き付けなければ! さあ、私を存分に見てください!」
海に向かって両手を広げる姿、聖職者というより超爽やかな変質者みたいである。
いざとなったらこの人をババ魚人の盾――もとい餌――もとい頼りにしようと心ひそかに決意するゆい。
おびき寄せに尽力してくれる人が多そうなので、クオンとテンシは、釣りという手段を選ぶことにした。両者漁協に一番丈夫なマグロ用の釣竿、並びに釣り餌を拝借しに行くため、場を離れる。
● カモン・ザ・ババア
メオは連れてきた馬と斧を使い、砂浜に穴を掘っていた。
「ホットドッグー、そこ開けたらこっちもねー。あー、あとそこも」
彼女が作業している近くでは、樹が間隔を置き干し肉を並べていた。
研司はバーベキュー地獄作戦の準備を整えている。
ババア軍団の襲来に耐えるには一に物量二に物量。港界隈から借りられるだけ借りたバーベキュー台30をずらりと並べ新鮮な海の幸を配置していく。
「俺の料理人のプライドをかけて! 食い尽くされる度に海鮮焼きを補充してくれる!! 燃えろ俺のマテリアル!! 人類の限界を超えて大漁の海産物を同時に美味しく焼き上げ尽くすのだ!!」
バーベキュー台の端から端まで走り抜けながら、点火。
「いい匂いの前に為す術もあるまい!」
そこに魔導短伝話がかかってきた。
『研司さん、イカ焼き、ホタテ焼き、ウーロン茶ください。ちなみに私、下半身がこのようになっておりますからほとんど動けませんのでー』
「ウワッエルディンさんからも注文だ! アイヨー!!」
クオンとテンシは、芳しい匂いが漂う防波堤にポイントを設定する。
やるせない思いをババ魚人にぶつけんと心に決めている狭綾は、クオンが釣り道具と一緒に持ち込んできたトロ箱へ目を向けた。
「クオンさん、それは?」
「ああ、隠れる場所が無さそうなんで、これを積んで目隠しを作ろうと思いまして」
目隠しになるだろうか。相手は既に水中から顔を出している気がするのだが。
まあそれはとにかく始めよう。
「よーし、準備が出来たら釣りだ!」
サバの撒き餌と共に、仕掛けを沖へ打ち込むテンシ。
彼の傍らにはクリムゾンウェスト産オオカジキマグロォンギヌゥス――またの名をクリムゾンウェスト産オオカジキマグロォンギヌゥス。全長3mの魚。鼻が凶悪でありクレイモア並の威力で実際危険と言われており、海の漢達にとっては槍である。身が引き締まりすぎており大変堅い、食べるには工夫が必要。たとえそう見えるからといって単なる冷凍カジキマグロではない――がうつろな目を光らせていた。
波打ち際に寝そべるエルディンはイカ焼きを食べつつ、ポーズを決めている。
「……ふふふ、さあ、寄ってらっしゃい」
彼の傍らにはゆいが、いつでも逃げられる態勢をとりつつ控え、暗黒ババ魚の動向を観察している。
ババ魚たちは顔を水面から出し回遊している。本物の人魚なら心洗われるだろう光景も、ババ魚人がやると見なければよかったと思わされるばかりの悪夢へと早代わり。
「うーん、なかなか上がってこないわね」
バーベキューといい釣りといいオス人魚といい、罠としてあまりにも分かりやすかったろうか。
……などという疑念は奇遇であった。次の瞬間ババアたちは進撃を開始してきたのである。
● アタック・オン・ザ・ババア
「お……おおおおお!?」
ものすごい引きが来た。テンシは危うくつんのめりそうになる。
「くっ……餌に釣られてやってきたな! 人魚婆! というか人魚っていうより魚人でしょ!」
渾身の力でリールを回す。竿を引く。しかし上がらない。
よく見たら釣り針にかかっているババ魚は1匹でなく複数だった。餌の取り合いをしているのだ。その様、あたかも蜘蛛の糸を伝い地獄から抜けださんとする亡者の如し。
狭綾がオートマチックピストルの銃口を向ける。
「わたしは、きっと、帰るわー!」
風穴を空けられたババアが散る。
それでもなお脱落しなかったババアを、今度はテンシが攻撃する。
「マグロ・サンダーボルト!」
蒼き炎をまとったオオカジキマグロォンギヌゥスが一直線に飛び、ババ魚人の額に刺さった。
ババアはそのまま沈んだ。
ちなみにクオンの竿もババ魚人が鈴なりだんご状態。腰を落とし引きずり込まれぬよう耐える。
「協調性なさ過ぎですよあなたがた!」
渾身の力でリールを回しある程度近づけてから、ファイアスローワーをかける。釣り糸の上側にいたババ魚人が離れた。
数が減ったところにショットアンカーを向ける。
アンカー射出、電撃。
ババアは黒焦げになった。
バーベキュー台の端から端まで休みなく往復している研司は、大きなうちわで炭をあおぎまくる。
メオはそのバーベキュー台から、勝手につまみ食い。
「おー、なんだこれ。うま。……えー、こんな美味しいの食べさせんのー? もったいなくね?」
軽口を叩きつ、視線はしっかり海の方へ。
バババフイッシュが白波を蹴立て陸へ這い上がってくる。撒いてあった干し肉にまず食いついた。肉は取り合いの末、あっと言う間になくなった。
樹はペンタグラムを向け、撃つ。移動力を奪うため、脚部――魚の下半身を狙って。
「陸だろうが海だろうが、その脚部が駄目になれば唯の置物なんだ」
攻撃を受けた妖怪たちは醜い顔をさらに醜くし、いっせいに向かってきた。
銃弾を浴びせながら走りだす樹。
追いすがるババアババアババア。捕まったら黄泉の国まで引きずり込まれそうだ。
「B級のホラーよりこれ怖いよ……もぉ!」
が、魚なだけに頭が悪いんだろう。浜に掘られた穴に続々落ちている。すぐ這い上がりはしてくるものの。
「人がせっかく食べてんのにさぁ……そーゆー邪魔はよくないと思うんだー」
メオはイカ焼きを口に斧を手に、ひらり馬に跨がった。
(そういえばエルディンちゃんどうなったんだろ)
と思って馬上からそちら方向に目を向ければ、神父は天の使いの如く翼を背負っていた。
その周囲へ地獄の使者どもがじりじり迫っている。
「おお、なんということでしょう。世の中熟した女性を好む男性もおりますが誰得でしょうか。私はほとんど丸腰なのですよ~~」
両手を天に広げて呑気なことを言っているあたり余裕が感じられるが、それが本心から出たものなのかそれとも自棄から出たものなのかは誰にも分からない。
とにかく彼の姿は、押し寄せてきたババ波の下に消えた。
「ああっ、エルディンさーん!」
悲痛な声を上げるゆい。
ババア軍団が大挙上陸してきた時点でいち早く後方に引き下がっていた彼女は、スローイングカードを投げつけた。
小娘に攻撃を食らったババアは怒った。数匹がのたくり向かってくる。
口から発される怪音には、人の心を動揺させる作用があった。それを聞くとたださえ奇怪な相手がさらに奇怪な物のように思え、怖くなってくるのだ。
「ひっ!?」
ゆいはステップを踏み、大きく跳び下がる。
そこへ樹が加勢に入った。びっしり牙の生えた口中へ銃弾を撃ち込む。
「迂闊に口なんか開けてるから。狙い撃ちなんだよ……!」
メオは馬を走らせ妖怪軍団らに突撃、蹴散らす。馬が足を齧られぬよう、渾身の力で斧を振り回す。
「あー、気持ち悪いなぁ……メオさん早くご飯の続きしたいんだけどー……」
ババ魚人の食いつきが悪いようなら自分も囮になってやろうかと考えていたけれど、その必要はどうやら全くなさそうだ。オス人魚、釣り餌、そして海鮮に引き付けられ、ババア入れ食い状態。
「くうっ、結構目に染みるな! 脂乗ってるな今年のサンマは!」
バーベキュー台に陣取る研司は、立ち込める煙に涙が止まらない。
しかしそれに耐え、遠い海から来たBBAをけしかける。
「争え! もっと争え!! このデリシャス海鮮を味わい尽くしたければ最後の一人になるまで戦い抜くのだ!! 勝ち抜いた最後の一人! ババア・ザ・ババアにこの俺の魂の料理を全てくれてやるぞ! ワーッハッハッハ!!!」
防波堤では相変わらずテンシたちが、ババ魚人相手に死闘を繰り広げている。
エルヴィンも群がるババアに杖を振り回し応戦している。
自分も戦う方面に集中しよう。
そう心得てメオは、斧を再び振りかざす。
「さー、いくよー?……そのグロい顔、こっち向けんな」
● ジ・エンド・オブ・ババア・ザ・ババア
殺し合ったり殺されたりが続いた。
そして、ついに1匹が残った。
そいつは最も強く最も強欲でそして最も恐ろしいババア。
乳は長く地を引きずり顔面はミイラ寸前乱杭歯の間からしゅうしゅう蒸気を吹き出している。
これぞまさしくババアの中のババア。
研司はへらを手に、ふっ……とニヒルな笑みを浮かべた。
「最後の一撃は、せつない……とどめをくれてやるとしよう! 胃袋爆裂内蔵破裂死よぉーーっ!!」
彼がそう言って焼きそばを鉄板にぶちまけたとき、銃声が響いた。
額に穴を空け倒れるラストババア。
撃ったのは……狭綾だった。彼女の手元と声は震えていた。
「何故なの……何故ババ魚人さえ揃いも揃ってわたしより胸が大きいのよー!」
慰める術も持たず立ちつくす男たち(砂に埋もれているエルディン除外)。
ゆいとメオが彼女に近づき励ました。
「胸が大きいの小さいの、そんなに気にすることないよ」
「小さければババアになったとき垂れてこないという利点があるんだしねぇ。元気出せサヤアちゃん」
「サアヤです!」
「……お? そうだったっけ」
● ロング・グッドバイ・ババア
夕日が水平線に沈んで行く。
波打ち際でテンシは、友に別れを告げていた。
「……海に帰るのか……オオカジキマグロォンギヌゥス……」
マグロォンギヌゥスは体の3分の2を食われ、骨が丸見えになっている。
テンシは大きく振りかぶって、彼を遠い沖へ投げた。
「君のおかげで、平和な海を取り戻すことが出来たよ! ありがとう! ありがとうオオカジキマグロォンギヌゥス! 海のどこかで、また会おう! 共に戦った事を、俺は忘れないよー!」
狭綾も赤い日を浴びながら叫ぶ。
「来年は、素敵でセクシーな水着を着て! ポロリとかいった恥ずかしい思いなんてすることなくっ! 楽しいサマーバケーションを過ごして見せるんだから~~~~!!」
浜では、戦勝記念BBQが行われている。
「研司さーん、追加お願いします~。焼き鳥下さい」
「へいただ今!」
「んー、このイカ美味しいねぇ、たかし丸ー。あ、ホットドッグもお疲れさまー。あとでたくさんご飯あげるねぇ」
「あーあ、ひどいもの見ちゃった」
「今晩夢に出そうだな、あのグロ画像……」
「まあ犠牲が出なくてよかったじゃないですか」
ああ、今年の夏も終わる。
食えるものを皆食い散らかしたババ魚人がどたどた海に戻って行く。
葛城 ゆい(ka5405)は乾いた声で一人ごちた。
「ああ……リアルブルーの絵画で見た事あるわね、たしかに。妖怪画だけど」
藤堂研司(ka0569)は額を押さえよろめいた。
「なんてことだ……残暑もほどほどに涼やかな海に暗黒ババアフェスティバルが開幕してしまうとは……! このままでは視覚と食欲の暴力でいずれ誰かが死ぬ! 水際で止めねば! 文字通り!!」
垂れ乳とざんばら髪を振り乱し波間に漂うババアババアババア。海に入ると髪が濡れぬらぬら顔に張り付き、一層見た目のすさまじさが増す。
テンシ・アガート(ka0589)は魚と悪魔合体したババアが何匹いるのか試しに数えてみた。
「15匹! これは退治しないと危ないね! 絵面が!」
しかしメオ・C・ウィスタリア(ka3988)にとっては、危ない絵面が逆に面白かった。
「うわー、なんだアレ。写真撮って皆に見せてやろー。たかし丸もあんな感じになったら強くなれそうだよねぇ」
話しかけられている左手のパペットは、口をぱくぱく。
ババフェスを直視し続けるに忍びない檜ケ谷 樹(ka5040)は、目頭を押さえ顔を背けた。
「こーれは……きつい」
エルディン(ka4144)は額に手をかざし妖怪軍団を眺める。
「……リアルブルーの海から転移してきたのでしょうかねえ、あの熟し切った人魚たちは」
リアルブルーの海にもあんなものそうそう泳いでないのだが、とクオン・サガラ(ka0018)は思った。というか、ホラー映画の産物的歪虚を人魚と呼ぶのは人魚に対する冒涜であるような気もする。
「リアルブルーの伝承から考えるとアレは美化無しの「サイレン」……ですけどね。海に飛び込みたくなる様な叫び声をあげるという……報告によるとピラニアか何かみたいな生態らしいですが」
イルカのように軽やかに、海面に撥ね飛ぶババ魚人。美しい海と空が台なしだ。
吹いてくる潮風の涼しさに柏部 狭綾(ka2697)は、一抹の寂しさを覚える。
「もう、季節は大分秋になっているのに、また海に来るなんてね……」
白い雲を見ていると鮮明に思い出される。この夏に起きた出来事が。
(今年の夏も、何度か海や水辺に来たけれど……折角のプライベートビーチで、何故か白スク水とか着ていたわよね……水鉄砲でのサバイバルゲームに、トップレスで参戦する羽目になったり……あ、あれ? な、何だか今年の夏、海や水辺絡みでは碌な目に遭っていないような……?)
狭綾の見開いた両の目から涙が溢れ、流れ始める。
驚いたゆいは彼女に尋ねた。
「狭綾さん、どうしたの?」
「……気にしないで。目から汗が出ただけだから」
小さな胸に渦巻く大きな悲しみをあざ笑うかのように、ババ魚人らがけたたましく鳴き騒いでいる。停泊中の漁船を齧っている輩もいた。船板がみるみるうちに削れていく。そして、沈没。
ゆいは即座に水中戦を断念する。
「そういえば船を沈める妖怪っていうのもいたわよね……」
樹は最初からそんな冒険をするつもりなどない。
「……これは……。こっちから海に入って行ったら確実に地獄でしょう」
研司がさっと前髪をかきあげる。
「皆安心してくれ、俺にはこの状況を打開する秘策がある……必殺料理わんこ海鮮バーベキュー地獄という秘策が!」
「ふーん、聞くだに愉快そうだねぇ。メオもいっちょその秘策とやらに噛ませてもらえないかい?」
「おお、ありがたいな! よろしく頼むよメオさん!」
作戦内容も明らかにならないうちハイタッチを交わす2者。
その時エルディンが、いきなりカソックを脱ぎ捨てた。
「仕方ありませんね。ここは私も秘策を弄させていただきましょう!」
胸にはハマグリのメンズニップレス。腰から下はうろこ模様を描いた毛布を巻き付けている。尾ヒレに見えるよう、足元の余った部分を紐で縛って。
涙が一気に乾いてしまった狭綾は、恐る恐るエルディンに聞いた。
「あの……一体何を……?」
「彼女達は女性でしょう。ならばこの私が身を持って惹き付けなければ! さあ、私を存分に見てください!」
海に向かって両手を広げる姿、聖職者というより超爽やかな変質者みたいである。
いざとなったらこの人をババ魚人の盾――もとい餌――もとい頼りにしようと心ひそかに決意するゆい。
おびき寄せに尽力してくれる人が多そうなので、クオンとテンシは、釣りという手段を選ぶことにした。両者漁協に一番丈夫なマグロ用の釣竿、並びに釣り餌を拝借しに行くため、場を離れる。
● カモン・ザ・ババア
メオは連れてきた馬と斧を使い、砂浜に穴を掘っていた。
「ホットドッグー、そこ開けたらこっちもねー。あー、あとそこも」
彼女が作業している近くでは、樹が間隔を置き干し肉を並べていた。
研司はバーベキュー地獄作戦の準備を整えている。
ババア軍団の襲来に耐えるには一に物量二に物量。港界隈から借りられるだけ借りたバーベキュー台30をずらりと並べ新鮮な海の幸を配置していく。
「俺の料理人のプライドをかけて! 食い尽くされる度に海鮮焼きを補充してくれる!! 燃えろ俺のマテリアル!! 人類の限界を超えて大漁の海産物を同時に美味しく焼き上げ尽くすのだ!!」
バーベキュー台の端から端まで走り抜けながら、点火。
「いい匂いの前に為す術もあるまい!」
そこに魔導短伝話がかかってきた。
『研司さん、イカ焼き、ホタテ焼き、ウーロン茶ください。ちなみに私、下半身がこのようになっておりますからほとんど動けませんのでー』
「ウワッエルディンさんからも注文だ! アイヨー!!」
クオンとテンシは、芳しい匂いが漂う防波堤にポイントを設定する。
やるせない思いをババ魚人にぶつけんと心に決めている狭綾は、クオンが釣り道具と一緒に持ち込んできたトロ箱へ目を向けた。
「クオンさん、それは?」
「ああ、隠れる場所が無さそうなんで、これを積んで目隠しを作ろうと思いまして」
目隠しになるだろうか。相手は既に水中から顔を出している気がするのだが。
まあそれはとにかく始めよう。
「よーし、準備が出来たら釣りだ!」
サバの撒き餌と共に、仕掛けを沖へ打ち込むテンシ。
彼の傍らにはクリムゾンウェスト産オオカジキマグロォンギヌゥス――またの名をクリムゾンウェスト産オオカジキマグロォンギヌゥス。全長3mの魚。鼻が凶悪でありクレイモア並の威力で実際危険と言われており、海の漢達にとっては槍である。身が引き締まりすぎており大変堅い、食べるには工夫が必要。たとえそう見えるからといって単なる冷凍カジキマグロではない――がうつろな目を光らせていた。
波打ち際に寝そべるエルディンはイカ焼きを食べつつ、ポーズを決めている。
「……ふふふ、さあ、寄ってらっしゃい」
彼の傍らにはゆいが、いつでも逃げられる態勢をとりつつ控え、暗黒ババ魚の動向を観察している。
ババ魚たちは顔を水面から出し回遊している。本物の人魚なら心洗われるだろう光景も、ババ魚人がやると見なければよかったと思わされるばかりの悪夢へと早代わり。
「うーん、なかなか上がってこないわね」
バーベキューといい釣りといいオス人魚といい、罠としてあまりにも分かりやすかったろうか。
……などという疑念は奇遇であった。次の瞬間ババアたちは進撃を開始してきたのである。
● アタック・オン・ザ・ババア
「お……おおおおお!?」
ものすごい引きが来た。テンシは危うくつんのめりそうになる。
「くっ……餌に釣られてやってきたな! 人魚婆! というか人魚っていうより魚人でしょ!」
渾身の力でリールを回す。竿を引く。しかし上がらない。
よく見たら釣り針にかかっているババ魚は1匹でなく複数だった。餌の取り合いをしているのだ。その様、あたかも蜘蛛の糸を伝い地獄から抜けださんとする亡者の如し。
狭綾がオートマチックピストルの銃口を向ける。
「わたしは、きっと、帰るわー!」
風穴を空けられたババアが散る。
それでもなお脱落しなかったババアを、今度はテンシが攻撃する。
「マグロ・サンダーボルト!」
蒼き炎をまとったオオカジキマグロォンギヌゥスが一直線に飛び、ババ魚人の額に刺さった。
ババアはそのまま沈んだ。
ちなみにクオンの竿もババ魚人が鈴なりだんご状態。腰を落とし引きずり込まれぬよう耐える。
「協調性なさ過ぎですよあなたがた!」
渾身の力でリールを回しある程度近づけてから、ファイアスローワーをかける。釣り糸の上側にいたババ魚人が離れた。
数が減ったところにショットアンカーを向ける。
アンカー射出、電撃。
ババアは黒焦げになった。
バーベキュー台の端から端まで休みなく往復している研司は、大きなうちわで炭をあおぎまくる。
メオはそのバーベキュー台から、勝手につまみ食い。
「おー、なんだこれ。うま。……えー、こんな美味しいの食べさせんのー? もったいなくね?」
軽口を叩きつ、視線はしっかり海の方へ。
バババフイッシュが白波を蹴立て陸へ這い上がってくる。撒いてあった干し肉にまず食いついた。肉は取り合いの末、あっと言う間になくなった。
樹はペンタグラムを向け、撃つ。移動力を奪うため、脚部――魚の下半身を狙って。
「陸だろうが海だろうが、その脚部が駄目になれば唯の置物なんだ」
攻撃を受けた妖怪たちは醜い顔をさらに醜くし、いっせいに向かってきた。
銃弾を浴びせながら走りだす樹。
追いすがるババアババアババア。捕まったら黄泉の国まで引きずり込まれそうだ。
「B級のホラーよりこれ怖いよ……もぉ!」
が、魚なだけに頭が悪いんだろう。浜に掘られた穴に続々落ちている。すぐ這い上がりはしてくるものの。
「人がせっかく食べてんのにさぁ……そーゆー邪魔はよくないと思うんだー」
メオはイカ焼きを口に斧を手に、ひらり馬に跨がった。
(そういえばエルディンちゃんどうなったんだろ)
と思って馬上からそちら方向に目を向ければ、神父は天の使いの如く翼を背負っていた。
その周囲へ地獄の使者どもがじりじり迫っている。
「おお、なんということでしょう。世の中熟した女性を好む男性もおりますが誰得でしょうか。私はほとんど丸腰なのですよ~~」
両手を天に広げて呑気なことを言っているあたり余裕が感じられるが、それが本心から出たものなのかそれとも自棄から出たものなのかは誰にも分からない。
とにかく彼の姿は、押し寄せてきたババ波の下に消えた。
「ああっ、エルディンさーん!」
悲痛な声を上げるゆい。
ババア軍団が大挙上陸してきた時点でいち早く後方に引き下がっていた彼女は、スローイングカードを投げつけた。
小娘に攻撃を食らったババアは怒った。数匹がのたくり向かってくる。
口から発される怪音には、人の心を動揺させる作用があった。それを聞くとたださえ奇怪な相手がさらに奇怪な物のように思え、怖くなってくるのだ。
「ひっ!?」
ゆいはステップを踏み、大きく跳び下がる。
そこへ樹が加勢に入った。びっしり牙の生えた口中へ銃弾を撃ち込む。
「迂闊に口なんか開けてるから。狙い撃ちなんだよ……!」
メオは馬を走らせ妖怪軍団らに突撃、蹴散らす。馬が足を齧られぬよう、渾身の力で斧を振り回す。
「あー、気持ち悪いなぁ……メオさん早くご飯の続きしたいんだけどー……」
ババ魚人の食いつきが悪いようなら自分も囮になってやろうかと考えていたけれど、その必要はどうやら全くなさそうだ。オス人魚、釣り餌、そして海鮮に引き付けられ、ババア入れ食い状態。
「くうっ、結構目に染みるな! 脂乗ってるな今年のサンマは!」
バーベキュー台に陣取る研司は、立ち込める煙に涙が止まらない。
しかしそれに耐え、遠い海から来たBBAをけしかける。
「争え! もっと争え!! このデリシャス海鮮を味わい尽くしたければ最後の一人になるまで戦い抜くのだ!! 勝ち抜いた最後の一人! ババア・ザ・ババアにこの俺の魂の料理を全てくれてやるぞ! ワーッハッハッハ!!!」
防波堤では相変わらずテンシたちが、ババ魚人相手に死闘を繰り広げている。
エルヴィンも群がるババアに杖を振り回し応戦している。
自分も戦う方面に集中しよう。
そう心得てメオは、斧を再び振りかざす。
「さー、いくよー?……そのグロい顔、こっち向けんな」
● ジ・エンド・オブ・ババア・ザ・ババア
殺し合ったり殺されたりが続いた。
そして、ついに1匹が残った。
そいつは最も強く最も強欲でそして最も恐ろしいババア。
乳は長く地を引きずり顔面はミイラ寸前乱杭歯の間からしゅうしゅう蒸気を吹き出している。
これぞまさしくババアの中のババア。
研司はへらを手に、ふっ……とニヒルな笑みを浮かべた。
「最後の一撃は、せつない……とどめをくれてやるとしよう! 胃袋爆裂内蔵破裂死よぉーーっ!!」
彼がそう言って焼きそばを鉄板にぶちまけたとき、銃声が響いた。
額に穴を空け倒れるラストババア。
撃ったのは……狭綾だった。彼女の手元と声は震えていた。
「何故なの……何故ババ魚人さえ揃いも揃ってわたしより胸が大きいのよー!」
慰める術も持たず立ちつくす男たち(砂に埋もれているエルディン除外)。
ゆいとメオが彼女に近づき励ました。
「胸が大きいの小さいの、そんなに気にすることないよ」
「小さければババアになったとき垂れてこないという利点があるんだしねぇ。元気出せサヤアちゃん」
「サアヤです!」
「……お? そうだったっけ」
● ロング・グッドバイ・ババア
夕日が水平線に沈んで行く。
波打ち際でテンシは、友に別れを告げていた。
「……海に帰るのか……オオカジキマグロォンギヌゥス……」
マグロォンギヌゥスは体の3分の2を食われ、骨が丸見えになっている。
テンシは大きく振りかぶって、彼を遠い沖へ投げた。
「君のおかげで、平和な海を取り戻すことが出来たよ! ありがとう! ありがとうオオカジキマグロォンギヌゥス! 海のどこかで、また会おう! 共に戦った事を、俺は忘れないよー!」
狭綾も赤い日を浴びながら叫ぶ。
「来年は、素敵でセクシーな水着を着て! ポロリとかいった恥ずかしい思いなんてすることなくっ! 楽しいサマーバケーションを過ごして見せるんだから~~~~!!」
浜では、戦勝記念BBQが行われている。
「研司さーん、追加お願いします~。焼き鳥下さい」
「へいただ今!」
「んー、このイカ美味しいねぇ、たかし丸ー。あ、ホットドッグもお疲れさまー。あとでたくさんご飯あげるねぇ」
「あーあ、ひどいもの見ちゃった」
「今晩夢に出そうだな、あのグロ画像……」
「まあ犠牲が出なくてよかったじゃないですか」
ああ、今年の夏も終わる。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
ババア殲滅作戦 藤堂研司(ka0569) 人間(リアルブルー)|26才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/09/24 22:18:25 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/09/24 21:06:06 |