罰、屍に問う

マスター:朝臣あむ

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/09/25 22:00
完成日
2015/10/03 03:56

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 総司令官選挙が行われている最中、帝都バルトアンデルスの市街地で事件は起きた。
「ここが帝国政府軍事課課長、ゴドウィン卿の屋敷か」
 そう零して市街地の一角で足を止めたのは、政府司法課の司法官ニカ・アニシンだ。
 彼女は手にしている地図と目の前の屋敷を見比べると、敷地内に止められた魔導自動車を一瞥して足を動かした。
「失礼。政府司法課より派遣されてきたニカ・アニシンだ。事件現場への案内を頼む」
「政府司法課……貴女が……?」
「見た目で判断するなど愚の骨頂だが仕方がない……」
 扉を開けた直後、訝しむように向けられた視線にニカの眉が上がる。だが直ぐに身分証を取り出すと、メイドらしき女性に見せて脇を通り過ぎた。
「あ、あの!」
「現場へ案内しろ」
 有無を言わさず言い放って歩き続ける。
 その姿に慌てたメイドが彼女の前を歩きだすと、ニカは道中に佇む帝国軍人らしき者たちの姿を見た。
「現場へは誰が立ち入った? まさか現状動かしたりしてはいないだろうな?」
「現場は奥さまと旦那様の部下の方が2名……現場を動かしたと言うお話は聞いておりません」
 メイドはそう言ってある部屋の前で足を止めた。
「こちらが旦那様のお部屋です。中には第一師団の方がいらっしゃいます」
「ほう……」
 本来であれば司法課の面々が現場維持にあたるのだが、今回は人手が足りず第一師団に協力要請が出された。と言うか、出さざる終えなかった、と言うべきか。
「失礼――」
「よお、遅かったな」
 部屋に入った途端、ニカの鼻を強烈な煙が襲った。その原因は中で待っていたオズワルドの煙だ。
「遅れて参じたことは謝罪しましょう。だがオズワルド師団長……現場での喫煙は如何なものかと」
「ん? ああ、すまねぇな。で、仏さんだがこっちの都合で勝手に移動させちまったが、大丈夫か?」
「……まあ、遺体の状況さえ教えて頂ければ問題ありません。後程、直接伺いに行きます」
「悪いな」
 いえ。そんな短い言葉をオズワルド(kz0027)に返し、ニカは部屋の中を見回した。
 彼女がここを訪れる数時間前。この屋敷の主、ゴドウィンが亡くなった。死因は首を吊ったことによる窒息死。
 部屋の中央から下がる紐に首を引っ掛けて亡くなった。
「確か扉は勿論、窓も鍵がかかっていたとか?」
「ああ。室内は完全な密室だった。ゴドウィンが自殺したとしか思えねぇ状況だな」
 オズワルドはそう言うと、苦々しげに息を吐いて煙草の火を消した。
「ゴドウィンは俺や前皇帝の友人でな。最近は少しばかしキナ臭い話もあったが、こんな死に方をする奴じゃねぇんだがな……」
「オズワルド師団長。ゴドウィン卿は足が悪かったと資料にありましたが本当ですか?」
「あ?」
「ここの来る前、被害者の情報を確認した所、ゴドウィン卿は片足が不自由だったと」
「ああ。革命戦争の時に銃弾を受けて動かなくなっちまった。今は杖を頼りに歩いてたはずだぜ」
 それが如何した? そう問い掛けるオズワルドに、ニカの目が落ちる。
「不自然なんです。ゴドウィン卿は足が不自由だったが、その割には首を吊った紐の位置が高い。これでは台でも使わない限り無理だがその台もない。そして愛用の杖も見当たらない」
 ニカの言う通り、ゴドウィンが首を吊った紐はかなり高い位置にある。健常者が背伸びをして頑張れば届かなくもないが、足の不自由な人間が台も無しに届くのは無理がある。
「だが密室だぜ? 第三者の関与があったとしてどうやって逃げる」
 そう。現場は密室だった。
 それはニカがここを訪れる前に実証されている。つまりこの事実は覆らない。
「自殺……いや、それ以外も視野に入れるべきだ」
 だがどうやって。
 この考えが頭を巡り続ける。そして新たな手掛かりを得ようと足を動かした時、ニカは驚いた様に目を見開き、息を呑んだ。
「今の話が真であるのなら、彼を死に追い遣った者を許しはしないだろう」
「ヴィルヘルミナ陛下!?」
 慌てて足を下げたニカに、ヴィルヘルミナ・ウランゲル(kz0021)は軽く手を上げる事で礼を制し、ゴドウィンが首を吊ったと言う日もの前で足を止めた。
「オズワルドの言うように、ゴドウィンは私の部下である以前に親父殿の良き友であった。ここ最近、辺境への支援物資が滞るなどの異常があったので身辺調査はさせていたが、その程度で死を選ぶとは思えない。だからこそ司法課にこの件の調査を頼みたい」
 元よりそのつもりでここに来ている。
 思わず頷くニカを見て、ヴィルヘルミナはフッと笑みを零すと彼女の目を見た。
「先にも言ったように、ゴドウィンには思う所があって調査を差し向けていた。その関係上、帝国の息が掛かる者に調査を依頼するのは避けたいのが実情だ」
「私も帝国の組織に身を置く者ですが?」
「貴様の場合は冷徹司法官と言われる程に裁きへの厳しさを持ち合わせているだろう? 貴様とハンターが力を合せればより公平な立場でゴドウィンの死を調査できるはずだ」
 違うか? そう問い掛ける彼女に思案する。
(成程。私の裁きに公平さを求めるが故にハンターとの協力を望むか……)
 そこまで考えて、最近起こった事件でハンターたちが言っていた公平な裁きとやらを思い出す。
「奴らの言葉が口先だけでない事を確認する良い機会でもあるか」
 ニカはそう呟くと、目の前に在るヴィルヘルミナとオズワルドを見た。
「承知しました。現場検証及び、ゴドウィン卿の死因調査をハンターと共に行いましょう。ヴィルヘルミナ陛下の望む公平な判断……必ずやお届けいたします」

リプレイ本文

「……なんなんだこれは」
 デスクに広げた書類を見下ろし、Charlotte・V・K(ka0468)は愕然と声を零した。
 ここはゴドウィン卿の執務室。卿の死因特定の為にと人払いを願った上で調査を開始した。が、ここまでの資料を望んではいなかった。
(間違いなく、ルミナくん……皇帝陛下の勅命を偽造した何者かの件で間違いはないだろう……そう、踏んでいた。だが……)
「シャルロッテ……これって」
「ああ、間違いない……っ」
 苦々しく零れた声にシェリル・マイヤーズ(ka0509)の目が止まる。
 Charlotteは苦虫を噛み潰した表情のまま書類の束を見詰めると、己が信頼を寄せる将の顔を思い浮かべた。

●時は僅かに遡る
 天井から吊るされた縄に、足場の台。これだけを見れば卿の自殺は疑う余地もない。だが捨て置けない事実もある。
「いやはや、不思議だらけだよ」
 そう語る龍崎・カズマ(ka0178)に虫眼鏡を片手に調査を実行していたチョココ(ka2449)が振り返る。
「いやな。首吊りなんて言うそこまで一般的でもない終わり方っていうのが些か不思議でな」
 ここに来る前確認したが、帝国には死刑という制度がないらしい。つまり死は最高刑以上の刑罰、と言う事だ。
「軍務を行った事があるなら、その死因がどんな結果を生じるかを知っているはずなんだが……」
 零し、床に視線を這わす。
「知ってるか? 首吊りをした遺体は相当ひどい状況になるんだ」
 床板に僅かに残る染みは死後の筋肉収縮の際に起きた人の体によるものだろう。となると卿の死因はあの『縄』で間違いないだろう。
(そうなると疑問は泉のように湧いてくるわけだが……)
「わからんなぁ……っと、そう言えば何かあったか?」
「なにもないですの」
「そうか……」
 首を横に振るチョココ。その姿に手詰まりを感じた直後、思わぬ言葉が彼を引き戻す。
「でもでも、不可能だと思ったら、実は可能だったという事もありますの! 無理の先は目前になし、ですの!」
「不可能だと思ったら実は可能――」
 呟いて縄を見上げる。
「――飛びかけてたな。公平な調査、か」
 コキッと首を鳴らして苦笑する。危うく目に見える状況だけで全てを判断する所だった。
「子供ってのはすごいもんだ」
 幼いからこそ純粋な物の見方や考え方が出来る。カズマはそれを実感して息を吐くと、床に這い蹲るようにして調査を続けるチョココを見た。
「あんたはそのまま下を調べてくれ。俺はこっちを見る」
 調査時間はまだある。カズマは軽く伸びをすると、自身の身長よりも遥か上に在る梁を見上げた。

●ゴドウィン卿部下
「ゴドウィン様はいつも寝る間も惜しんで働いてらっしゃるので、そろそろお年を考えた働き方をした方が……と皆に言われるほどでした」
「亡くなる前日の様子ですか? 普段どおり軍務をこなされた後、軍用車で帰宅しているはずです」
「仕事熱心な方でしたな。我々にも平等に接してくださいましたし、あの方が誰かから恨まれるなどあるはずもないですぞ」
 帝国軍軍事課に在って聞き込みを行っていたダリオ・パステリ(ka2363)は、次々と聞こえる死者の評判に喉を唸らせた。
「不思議であるな。誰も卿の悪評を言わぬ。しかも、亡くなった日の挙動にも変化がない……」
 不審点は何もない。だがそれが妙に気になった。
(部下からの信頼も厚く、仕事熱心……やはり不正を暴く証拠を入手した故に殺されたと言う方が説得力があろうな)
「そう言えば」
 不意に話を聞いていた部下が口を開いた。
「ゴドウィン様が杖を使わずに歩いているのを前に見た気が……」
「何を言っているんだ。あのお方は我々が配属されるよりも前に足を――」
「それはいつ頃の話ですかな?」
「最近だったと思います。書類整理が山ほどあって残業する羽目になった際、卿をたまたま見かけたんですよ」
「ほう」
 ダリオは自殺の線は低いと考えていた。それは先に彼が思ったとおりと言うのもあるが、卿が補給物資の不正に関与していたのであれば自殺してはスジが通らないと思ったからだ。だがもし杖がない状態で歩けるとしたら。
(意味がわからぬな……)
 ダリオは頭を抱えるように前髪を掻くと、別の部下へも聞き込みを行うべく歩き出した。

●軍事課隣接部署課長
「ちっ。慣れねえ仕事だぜ」
 着慣れた服ではなく、帝国にいて不自然ではない服に着替えたアーヴィン(ka3383)は、そう零すと目の前にいる御仁に頭を下げた。
「君がアーヴィン君かい? ゴドウィン卿について聞きたい事があると聞いたが」
「お時間をとらせて申し訳ありません。実は」
 こう切り出して尋ねるのは卿の交友関係と昨今の行動についてだ。
「ふむ。私も昔は彼と同じ部署に居た者だからね、彼の死に関しては残念に思っているよ。彼は少々難しい点はあったが、仕事には酷く熱心でね……恨み? ハハハ、彼に限ってそれはなかろう」
(目も逸らさず、滑舌も変わらず……「現場百回」に「可能性は総当たり」とは言うが、ここまで同じ反応が続くと滅入ってくるな)
 現在の証人の前にも聞き込みを行っているが、その時にも似たような反応が返ってきた。
「仕事での不調とかもないんでしょうか?」
「不調? ああ、そう言えばここのところ経費が嵩むとかで上から苦言を言われていると漏らしていたな」
「経費?」
「軍事課は軍備の調達も仕事に入るからな。陛下からの要望もあって色々苦戦していたのだろう。とは言え、彼は良くやっていたよ」
(軍備の調達、か……)
 そう考えて脳裏を過ぎった「物資不足」。
 帝国内の仕事で実際にそういった現場を見たが故に後方業務の正常化は必須だと考えている。だからこそ今回の依頼にも参加したのだ。
 いざという時に供えがない。これ程の恐怖はないだろう。
「その話、もう少し詳しく聞くにはどこへ行ったら良いでしょうか?」
 アーヴィンはそう言うと、人好きのする笑みを浮かべて証人の言葉に耳を傾けた。

●ゴドウィン卿奥方
「この度はご愁傷様ですわ。申し訳ないのですけど、幾つか質問をさせて下さいませ」
 神妙な面持ちで切り出したドロテア・フレーベ(ka4126)。彼女の目の前にはゴドウィン卿の奥方が座っている。
「まずはご家族の関係ですけれど、最近は如何でしたの?」
「どういう……」
「卿の前日の様子を知れないほどに冷淡だったのでしょうか。それとも」
「良好ですわよ! そりゃ、最近は残業も多く、屋敷へ戻るのは明け方……それでも朝の食卓には家族揃って顔を……っ」
 卿が亡くなった日の朝も、皆で食卓を囲むために待っていたらしい。だからいつまで経っても現れない卿に痺れを切らして奥方が様子を見に行ったのだ。
「朝食までの間に、ご家族や使用人に不審な点はありませんでしたかしら。それと遺体を発見された時の詳しい情報を教えていただきたいのですけれど」
「……遺体発見時……」
 奥方は消え入りそうな声でそう呟き、次の瞬間、耳が裂けそうなほどの悲鳴を上げて頭を抱えた。この声に外で子息の聞き込みを行っていたイルム=ローレ・エーレ(ka5113)が駆け込んでくる。
「何が……っ、誰か人を!」
 蹲るようにして耳を押さえる奥方に、子息が駆け寄る。そうして僅かに奥方が落ち着くと、子息はドロテアとイルムを睨み付けて言った。
「1度外へ……母を落ち着かせてから、自分がお話します」と。

●ゴドウィン卿ご子息
「卿の遺体について先ほど司法課の方にお伺いした所、首吊り自殺独特の症例があったそうだよ」
「……そうですの」
 第一発見者は卿の奥方だ。という事は、奥方は遺体のその状況を目の当たりにしている。最愛の人の最悪の姿を目にしている、と言う訳だ。
「カズマ君も気にしていた死因だけど、首吊りの際の重みに耐え切れず頚椎が損傷したという線で間違いないね。ちなみに服装は昨日のままのようだよ」
 イルムはここまでにニカに聞き込んだ情報を開示しながら可能性を1つずつ潰してゆく。そして次の情報を開示しようとした所で近付いてくる影に気付いた。
「奥方のご様子は?」
「鎮静剤を投与して貰いましたので今は落ち着いています」
 そう言いながら子息はドロテアを見て眉を潜める。その姿にドロテアの頭が下がった。
「先ほどは失礼いたしました。真相究明へ急く気持ちが奥方を追い詰めてしまい……申し訳ありません」
「真相究明、ですか……それで聞きたいことというのは?」
 質問を受け付けてくれるらしい子息の言葉にドロテアの口から安堵の息が漏れる。そうして問いを重ねると、子息の口から重い息が漏れた。
「まさかとは思いますが、父の死に不審点でも?」
「いや、自殺を裏付けるために確認しておきたいと思ってね」
 そうだよね? と、尋ねるイルムにドロテアは頷く。
「……遺体発見時、母は悲鳴を上げて部屋の入り口に座り込んでいました。自分や使用人が来るまで腰を抜かしていましたね。それとここ最近の来客や手紙の有無ですが、これに関してはどれが怪しいのか……」
 そこまで言って子息の視線が落ちた。
「何か気になることでも?」
「……いえ。ただ……ここ数年、父と出かけた記憶がないな、と思いまして」
「家族仲は良好でしたのよね?」
「……そうですね。揉め事もなく、平穏でした……怒られることもありませんでしたし、母の誕生日にはきちんと花も……」
 子息は明らかに正しい記憶を辿って口にしている。なのに何故歯切れが悪いのか。
「あの」
 そうドロテアが口を開いたときだ。ハッとした子息の視線が2人を捉える。
「そうだ。父は――」

●現在・軍事課課長執務室
「隠す気、ゼロか」
 各々の調査を終えて集合した一行は、Charlotteとシェリルが発見した資料の山を前に違和感に襲われていた。
(確かに私は彼が白であれ黒であれ、真実を追求し白日のもとに晒すのが、絶火隊の候補たる私の仕事だと思っていた。例えそれが帝国にとって打撃になろうとも、膿は出さないと腐敗するから。と……だが、これは……)
 彼女が見詰める資料は辺境への物資横領の証拠だ。本来は支援物資として送られるはずだった物がある組織へ渡っていた。その組織とは――
「――反政府組織、ヴルツァライヒ」
 シェリルの声に沈黙が走る。だがすぐにダリオがこの沈黙を破った。
「もしや反乱の失敗故の自殺……と言うことであろうか? だが些か早計過ぎやせぬか?」
「組織がなくなったから……消されたか、何かに気づいて殺された、とか?」
「いや、他殺の線は薄いと見て良いだろうね」
 シェリルの声をやんわり否定したイルムは遺体の状態を提示する。そこにカズマが加わる。
「こっちも現場の状況だけで判断するなら他殺の線はないな。けど縄を結んだ方法、杖を必要とする状態でそこまで行く方法は解明不可能だ。そもそも時間がかかり過ぎる上に視界も悪い。物音もなかったってんだから完全手詰まりだぜ」
「そもそも、ゴドウィン卿の死によっておこることってなんなのですの? この状況だとメリットはありませんの」
 確かにチョココの言うとおりだ。
「うーん。それがしの勘では、卿は善人であったと思うのだが」
「善人だとしても、アーヴィンが調べてきた金の流れと書類上の納品物や搬入輸出、これらは全て一致しているからな」
「……ねえ。シャルロッテ……これだけ証拠が、あって……なんで誰も……気付かなかったんだろう……」
「考えられるのは隠す必要がなくなった、と言う事だろうな」
 隠すべき組織はなくなり、自分はいなくなる。故に資料が表に出ようが出まいが関係ない。
 寧ろ表に出る事で現政府の不利に運ぶかもしれない。そう考えた可能性もある。
「待ってちょうだい」
 皆の声を遮りドロテアが前に出た。
「ご子息のお話を伺う限り卿は家族想いでしたわ。そのような方が残されたご家族のことを気にしないでしょうか?」
「そうだね。だけど貴女も聞いていたはずだよ。卿が家族想いだったのは表向きだと……」
「そう、でしたわね……」
 イルムの声に頷いたドロテアは、屋敷で聞いた話を皆に聞かせた。
 それは卿が奥方の誕生日を例年間違えて贈り物をしていたのに対し、ここ数年は間違えずに正確な日付に贈り物をしていた、という物だ。
 単純に誕生日を覚えただけかもしれないが、他にも気になる点はある。
「そう言えばこちらでも杖のない状態で歩いているのを目撃したという証言がありましたな」
 どういうことだ。そう眉を寄せ合う面々にチョココが言う。
「もし杖が愛用品ならそう簡単には手離したりしませんの……。だからもし杖が見つからない場合は……自力で部屋に入っていない線? 例えば、何者かに運ばれたとか、身体を乗っ取られたとか」
「身体を、乗っ取られた……?」
 思わぬ言葉に誰かが呟いた時だ。「コンコン」とノックする音が響き、最終判断を下すべくニカが姿を現した。
「今乗っ取られたとか聞こえたが……結論は出たか?」
 問い掛けながら入ってきた彼女に、一行は顔を見合わせると集めた情報の開示をし始めた。

●公平な裁きとは
「ここまでの調査報告は受け取った。素人にしては良く調べたと褒めてやろう」
 口角を上げたニカを見るに、彼女の望む成果以上の情報が集まったのだろう。特に彼女が喜んだのは、Charlotteとシェリルが発見した書類だ。
「妙な縁もあるものだな」
 零し、書類を取り上げたニカの目に、こちらを見るシェリルの顔が見える。
 彼女は何か言いたげにニカに歩み寄ると、彼女の顔を見上げて問うた。
「……争いをなくす為に、おねーさんは……どうしたらいいと……思う?」
 シェリルは以前、ニカの持つ憎しみに触れた。
 彼女は言ったのだ。『人間でありながら人間を襲う犯罪者は皆殺しにするべきだ』と。
「――みんな、いなくなれば……もう……だれも……かなしまない……?」
 あまりにも突飛な、けれど純粋な考えにニカの眉が上がった。
「何かと思えば愚かな問いだ。貴様が何をもってその様な事を口にしたのかはわからんが、私の答えが欲しいのなら教えてやろう。私が思う争いをなくす方法とは、その根源を断つ事だ」
 例えば。そう彼女が持ち上げたのは証拠資料。
「今回の件は『自殺』として処理するだろうが、この事件の根源を貴様らはゴドウィン卿だけと思うか? もしそうならばこれで事件は解決だ。だがそうでないのならこの先も何かしらの事象は起きる」
 必ずだ。そう言い切った彼女にイルムが問う。
「ニカ君はまだ諦めないと言うことかい?」
「貴様らは今回、限られた情報の中で出来る限りの調査を行った。これを公平な裁きというのであればまだ出来る事はあるだろう。そこの子供が言った可能性も伝えておこう……」
 ニカはそう言葉を添えると、僅かに口角を上げてチョココを見た。

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MVP一覧

  • 金色の影
    Charlotte・V・Kka0468
  • 光森の太陽
    チョココka2449

重体一覧

参加者一覧

  • 虹の橋へ
    龍崎・カズマ(ka0178
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士
  • 金色の影
    Charlotte・V・K(ka0468
    人間(蒼)|26才|女性|機導師
  • 約束を重ねて
    シェリル・マイヤーズ(ka0509
    人間(蒼)|14才|女性|疾影士
  • 帝国の猟犬
    ダリオ・パステリ(ka2363
    人間(紅)|28才|男性|闘狩人
  • 光森の太陽
    チョココ(ka2449
    エルフ|10才|女性|魔術師

  • アーヴィン(ka3383
    人間(紅)|21才|男性|猟撃士
  • 燐光の女王
    ドロテア・フレーベ(ka4126
    人間(紅)|25才|女性|疾影士
  • 凛然奏する蒼礼の色
    イルム=ローレ・エーレ(ka5113
    人間(紅)|24才|女性|舞刀士

サポート一覧

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依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/09/22 23:13:54
アイコン 相談しましょ♪
ドロテア・フレーベ(ka4126
人間(クリムゾンウェスト)|25才|女性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2015/09/25 07:11:22