ゲスト
(ka0000)
【蒼祭】同人誌即売会、開催します!
マスター:四月朔日さくら

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/09/21 12:00
- 完成日
- 2015/09/28 06:15
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
サルヴァトーレ・ロッソで行なわれる、通称【ロッソ祭り】。
リアルブルー出身者にとっても待ち遠しい瞬間だった。なにしろ一部関係者以外には立ち入りが制限されていたサルヴァトーレ・ロッソの解放というのは、どう考えても朗報であろう。
そしてその喜ばしい出来事を、嬉しそうに見つめているのは元女子高生、今はハンターのトワ・トモエ。
彼女は考えていた。
(もっとリアルブルーの面白い文化を知って貰えればなあ)
もともとポップカルチャーに強いトモエであるが、このクリムゾンウェストでもその能力はそれなりに発揮してきたつもりだ。
コスプレとか、マンガ談義とか。
でも、こんな大規模なイベントなら――
(ああ、そういえば即売会なんてもう一年以上も行ってないんだ……)
そう、彼女はいわゆるオタク女子。
と言ってもいわゆる腐女子ではなく、学校で漫研と文芸部を掛け持ちしていたような、どちらかというと自作小説などを手がけるタイプだ。……まあ、まったく理解がない、と言うわけではないが。
しかしロッソ祭り、こんなアイデアも通っちゃったりするんだろうか。
不安は隠しきれないが、ハンターズソサエティへと彼女は足を向けた。
●
結果としては――面白そうだからという理由で許可が下りてしまった。
まあ、マンガや小説の同人誌なんて作っている人はそう多くないだろうし、リアルブルーの優れた印刷技術がまるっと存在するわけでもない。
規模の小ささは、妥協すべき点だろう。
それでも自作のマンガや小説、雑貨をやりとりするのはきっと楽しいに違いない。
トモエはわくわくしながら、さっそくハンターオフィスにポスターを出した。
【同人誌即売会、開催します!】
サルヴァトーレ・ロッソで行なわれる、通称【ロッソ祭り】。
リアルブルー出身者にとっても待ち遠しい瞬間だった。なにしろ一部関係者以外には立ち入りが制限されていたサルヴァトーレ・ロッソの解放というのは、どう考えても朗報であろう。
そしてその喜ばしい出来事を、嬉しそうに見つめているのは元女子高生、今はハンターのトワ・トモエ。
彼女は考えていた。
(もっとリアルブルーの面白い文化を知って貰えればなあ)
もともとポップカルチャーに強いトモエであるが、このクリムゾンウェストでもその能力はそれなりに発揮してきたつもりだ。
コスプレとか、マンガ談義とか。
でも、こんな大規模なイベントなら――
(ああ、そういえば即売会なんてもう一年以上も行ってないんだ……)
そう、彼女はいわゆるオタク女子。
と言ってもいわゆる腐女子ではなく、学校で漫研と文芸部を掛け持ちしていたような、どちらかというと自作小説などを手がけるタイプだ。……まあ、まったく理解がない、と言うわけではないが。
しかしロッソ祭り、こんなアイデアも通っちゃったりするんだろうか。
不安は隠しきれないが、ハンターズソサエティへと彼女は足を向けた。
●
結果としては――面白そうだからという理由で許可が下りてしまった。
まあ、マンガや小説の同人誌なんて作っている人はそう多くないだろうし、リアルブルーの優れた印刷技術がまるっと存在するわけでもない。
規模の小ささは、妥協すべき点だろう。
それでも自作のマンガや小説、雑貨をやりとりするのはきっと楽しいに違いない。
トモエはわくわくしながら、さっそくハンターオフィスにポスターを出した。
【同人誌即売会、開催します!】
リプレイ本文
●
ハンターオフィスの片隅に張られた手書きのポスターに、目をとめた人は決して多くはなかった。
それでも、トモエはけんめいに知り合いやらなんやらを口説き落とし、何とか会場の確保と日程、それに参加者を抑えることができた。
サークル参加者が少ないのは、まあ仕方が無い。『同人誌』というポップカルチャーがすぐに浸透する、と言うわけではないからだ。故郷であるリアルブルーでさえ、それがごく一般的な存在となってまだせいぜい数十年、と言ったところなのだから。
むろん類似の文化は、このクリムゾンウェストにも皆無ではなかろう。コスプレとはつまり仮装してなりきることだし、さまざまな物語からさらに想像の翼を広げる人はきっとこの世界にだって若男女問わず多いはずだ。
もともと想像力というものには国境とか人種とか、そう言う壁が存在しない。
リアルブルーでだってそうなのだから、世界が違ったってそれは変わらないはずだ。
それに同人誌というものはとてつもなく懐が広い。
もともと同人誌と言う言葉をひもとけば、文学を志す者――主に青年たち――が自分たちの作品を互いに批評する目的もこめて発表していたものだ。
やがて時代がくだり、それがもっと大衆的になるにつれ、同人誌即売会というものが頻繁に開催されるようになった。そしてそこではラブコメディやファンタジーといった典型的創作作品はもちろんのこと、己の趣味をさらけ出す場として、例えば風俗や習俗に関する研究考察を個人的にまとめた冊子や、趣味で描いたイラストをまとめた画集、さらにはちょっとした雑貨類も最近は同人誌即売会で頒布されるようになっている。
そしてイマドキの若者であるトモエの考える『同人誌』は、だいたい後者――大衆的な同人誌、にあたる。
だから彼女の言う『同人誌即売会』というのも、簡単に言ってしまえば、『自作商品の頒布会』に近い。
最近の同人誌即売会は多種多様なニーズに合わせて日々進歩している。そう考えれば、決して怪しいところはない。コスプレも自分の身体を使った自己表現の場所という認識になっているから、おかしな話でもないし。
そして何より、リアルブルー出身の参加者たちは燃えていた。
いや、飢えていた、と言うのが正しいか。
同人誌を作って発表できる場所を。
己の趣味を、思い切りさらけ出せるこの機会を。
●
そんなこんなで開催されることになった同人誌即売会。
変な名称をつけると逆に混乱するだろうと言うことで、あえてそのまま『同人誌即売会』で祭りにはエントリーしている。
説明には、
『皆さんの好きなものを自分で表現し、そしてそれを頒布する、そんな場所です』
それだけ。簡潔な表現のほうが、逆にわかる人にはわかるし、わからない人はわからない人なりに興味を抱くだろう。そう言うひとたちにも自己表現の楽しさを知って貰いたくて、あえて細かいことは書かないでおいてある。
はじめてと言うこともあり、慣れない人も多いなか。
ひとり、楽しそうにロップイヤーのまるごとうさぎを着ているエルフの少女がいた。と言っても、人間の血も混じったエルフであるが。
ケイルカ(ka4121)である。
彼女の最近のお気に入りは、リアルブルー出身の知人に勧められて読んだ小説『舵天照』だ。特にその中でも、ふてぶてしい性格を持つマスコット的存在・もふらがお気に入りだ。
だからよくよく見れば、ケイルカの身につけているまるごとうさぎは耳や首回りが赤く染められている。もふらのコスプレ、と言うことらしい。
「あ、これ、『舵天照』の?」
開場を目前に見回っていたトモエが、思わず足を止める。
「そうもふ~♪」
ケイルカも嬉しそうに頷いた。
頒布物も、手作りのもふらぬいぐるみやもふらを主人公にした絵本風の同人誌『もふらのモウフの大冒険』だ。
同人誌の内容のほうは牧場で生まれたばかりの子もふらが伝説の存在に憧れて牧場を脱走し、開拓者――クリムゾンウェストのハンターに近い存在、と言えばわかりやすいだろうか――とともに冒険したいがために、彼らが依頼を受ける為のオフィスで待ち構え、そしてまだ駆け出し開拓者の魔術師の少女と旅立つ――と言うほのぼのした物語だった。
描写も繊細な上に可愛らしく、如何にも少女らしい、可愛らしい物語だ。
「それにしてももふらとは……確かに人気あるけど」
舵天照の作中に出てくるもふらは真っ白いポメラニアンやマルチーズといったかんじのものを巨大にしたような容姿をしている、と記されている。しかしその性格は色んな意味でふてぶてしいという、一癖も二癖もあるマスコットなのだ。だからこそ人気があるというところもあるのだが。
「気合い入ってるなぁ……応援してるね!」
「ありがともふ~」
トモエの声援を受けて、ケイルカはこっくりと頷いた。
そして、いよいよ、待ちに待った瞬間――
開場だ。
●
人がなだれ込んでくる、と言うことは流石にない。
むしろ人のいり自体は緩やかで、一瞬これが同人誌即売会なのか、とトモエが驚いたくらいである。
しかし少しずつ少しずつ、人の数は増えていく。
興味を持った人たちが冷やかし混じりに立ち寄ったまま、なかなか出て行こうとしなかったり、そんな様子が所々に垣間見えた。
言ってしまえば自費出版をはじめとする、趣味の祭典。一度興味を持てば、なかなか足を動かすのが難しい人も多い。
かと思えば、明らかにこのイベント目的にやってきたという人もそれなりにいた。
特にコスプレ参加者にその傾向は顕著であろう。
「即売会、それはすなわち人々の叡智の結晶だよ! ドレスコードもあるんだから! 私はCAMのコスプレしていくから!」
そう言って満面の笑みを浮かべ、入場したのはレイン・レーネリルル(ka2887)、同行者は恋人でもあるルーエル・ゼクシディア(ka2473)だ。
「即売会……一体どんなところなんだろう?」
興味を持ったらしいルーエル。しかしルーエルのほうはこういった知識に疎い。ので、レインに上手く丸め込まれてしまったようである。
ふたりは更衣室に一直線に向かい、レインは見事にCAMになりきり、一方のルーエルは――
「だ、騙されたっ。来てる人の方が少ないじゃないか!」
顔を真っ赤にしながらレインと合流する。それもそのはず、ルーエルの為にレインが用意した衣装というのは身体によくフィットするタイプのパイロットスーツなのだから。ただ、その服装が似合っていないかというと決してそんなことはなく、少年パイロットという風体がよく似合っていた。
「えへへ。こういう即売会で、大人買いってしてみたかったんだよね!」
レインにそう言われてしまうと、まあ仕方ないか、と思う辺り、ルーエルはまだまだお子様である。
「わぁ、ほら見てみて! マニアックなCAMの同人誌! 歴史とか、こっちは画集とか、すごいいっぱい……!」
目を輝かせて商品を眺めているレインに、ルーエルも思わず苦笑してしまう。
「いやー、ほんとに語り合いたいなぁ、CAM大好きなんですっ! 私、生まれる場所を間違えたんだと思う!」
レインの生まれはクリムゾンウェストの、それもエルフ。おそらくリアルブルーに生まれていたなら、CAMのパイロットに志願していたことだろう。
「ほんとだ……すごいね、これ」
恋人のCAM好きは知らないわけではなかった。けれど、ここまで熱く語るレインというのはルーエルには新鮮でたまらない。
「なるほど、こういうところだとお互いの知識を深め合ったり交流したりすることが出来るんだね? レインお姉さん、すごく楽しそう」
「うん!」
レインの手には気づけば袋が二つ。結構な量の本を手に入れることが出来たようだ。
「そういえばそっちの袋の本は何? いつの間に買ったの?」
ルーエルが無邪気に問えば、レインは慌てた声で、
「え、あ、いや、別に美少年の同人誌とかは、買ってないし。ほんとだし」
そんなことを言うものだから、なおのことあやしい。ルーエルは袋を奪おうと手を伸ばした。中身を確認しないと、気が済まない気分に駆られたのだ。変な物を買っていてもいやだし。
「ダメ、漁らないで―!」
しかしその声は意外なところで救われた。
CAMとパイロットのコスプレという組み合わせが珍しいのか、他の客たちに写真を撮っていいか求められたのだ。
むろん断る理由もない。何しろ自己表現の場所なのだから。
レインは誇らしげに、ルーエルは少し照れくさそうに、ファインダーに収まった。
●
Gacrux(ka2726)は、そこかしこで配布されているサルヴァトーレ・ロッソ祭りのパンフレットを手に取りつつ、ふと面白そうな名前を見つけた。
「同人誌即売会……? ふむ、アマチュア作家の作品発表会、と言った者でしょうか?」
それは当たらずとも遠からず。
趣味は読書、そしてリアルブルー文化にも興味を示しているガクルックスにとって、これはまたとない機会だ。
会場にたどり着いて様子を見てみれば、さまざまな服装の男女が己の表現したいものを探してたどり着いたものを頒布していたり、あるいはみずからの服装でそれを表現していたり。
昼頃にはそれなりの人出があり、それを見たガクルックスも思わず嬉しそうに鼻歌交じりだ。
――十人十色のこの世界で、さまざまな表現方法の存在に、気づかせてくれるからだ。
手に取ったのはアマチュア作品の叙情的な詩集。値段を聞けば市場で売っているプロのものよりやや単価は高いが、自費出版物だと思えばそれも納得がいく。
また手作り雑貨では、海月のキーホルダーが目にとまったようだ。クリムゾンウェストではあまり浸透していない、レジンアクセサリーの、透明感を持った美しさ。それを手に取り、しげしげと見つめてしまう。
「リアルブルーの方は手先が器用なのですね。これとこれ、いただけますか」
色違いで入手すると、なんだか嬉しくなって一つはさっそくカバンにつけてみる。きれいな海月が、ふわふわとくっついているような感じで、なんだか自分の心もふわふわするようだ。
「それにしても何でもありなんですね……」
リアルブルーの鉄道史や、いわゆる撮り鉄の写真などをにまとめた冊子などは、なかなか通常の本屋ではお目にかかることがない。珍しいものは手に入れるべしと、こちらも即購入を決定した。
――そんな風にして歩いていると、迷い込んだ一角のブース。どう見ても女性ばかりで、なにがあるのかと思いきや……表紙には容姿端麗な男性のイラスト。
あえて口にはしない。ただ、彼は何も見なかったことにしてそそくさとその場を立ち去った。
得物をいるような女性たちの視線が、本能的な恐怖を呼び起こしたのである。そう、触れてはいけないものをみた、と言う気分にさせられたのだ。
……深くは、語るまい。
●
――まあ、そんな小さなサプライズやらなにやらはあったけれど、一応無事に閉会にこぎ着けることができたのは、トモエとしてもありがたいことだった。
何が起きるか分からない、それがこういったイベントのつねだから。
確かに疲れた。だけどそれは心地よい疲労感で。
気づけば誰もが笑顔だった。
買う人も、売る人も、見物に来た人も。
そして――トモエ自身も。
少女はにっこりと微笑んで、そして大きく礼をした。
「本日は、ご来場ありがとうございました!」
ハンターオフィスの片隅に張られた手書きのポスターに、目をとめた人は決して多くはなかった。
それでも、トモエはけんめいに知り合いやらなんやらを口説き落とし、何とか会場の確保と日程、それに参加者を抑えることができた。
サークル参加者が少ないのは、まあ仕方が無い。『同人誌』というポップカルチャーがすぐに浸透する、と言うわけではないからだ。故郷であるリアルブルーでさえ、それがごく一般的な存在となってまだせいぜい数十年、と言ったところなのだから。
むろん類似の文化は、このクリムゾンウェストにも皆無ではなかろう。コスプレとはつまり仮装してなりきることだし、さまざまな物語からさらに想像の翼を広げる人はきっとこの世界にだって若男女問わず多いはずだ。
もともと想像力というものには国境とか人種とか、そう言う壁が存在しない。
リアルブルーでだってそうなのだから、世界が違ったってそれは変わらないはずだ。
それに同人誌というものはとてつもなく懐が広い。
もともと同人誌と言う言葉をひもとけば、文学を志す者――主に青年たち――が自分たちの作品を互いに批評する目的もこめて発表していたものだ。
やがて時代がくだり、それがもっと大衆的になるにつれ、同人誌即売会というものが頻繁に開催されるようになった。そしてそこではラブコメディやファンタジーといった典型的創作作品はもちろんのこと、己の趣味をさらけ出す場として、例えば風俗や習俗に関する研究考察を個人的にまとめた冊子や、趣味で描いたイラストをまとめた画集、さらにはちょっとした雑貨類も最近は同人誌即売会で頒布されるようになっている。
そしてイマドキの若者であるトモエの考える『同人誌』は、だいたい後者――大衆的な同人誌、にあたる。
だから彼女の言う『同人誌即売会』というのも、簡単に言ってしまえば、『自作商品の頒布会』に近い。
最近の同人誌即売会は多種多様なニーズに合わせて日々進歩している。そう考えれば、決して怪しいところはない。コスプレも自分の身体を使った自己表現の場所という認識になっているから、おかしな話でもないし。
そして何より、リアルブルー出身の参加者たちは燃えていた。
いや、飢えていた、と言うのが正しいか。
同人誌を作って発表できる場所を。
己の趣味を、思い切りさらけ出せるこの機会を。
●
そんなこんなで開催されることになった同人誌即売会。
変な名称をつけると逆に混乱するだろうと言うことで、あえてそのまま『同人誌即売会』で祭りにはエントリーしている。
説明には、
『皆さんの好きなものを自分で表現し、そしてそれを頒布する、そんな場所です』
それだけ。簡潔な表現のほうが、逆にわかる人にはわかるし、わからない人はわからない人なりに興味を抱くだろう。そう言うひとたちにも自己表現の楽しさを知って貰いたくて、あえて細かいことは書かないでおいてある。
はじめてと言うこともあり、慣れない人も多いなか。
ひとり、楽しそうにロップイヤーのまるごとうさぎを着ているエルフの少女がいた。と言っても、人間の血も混じったエルフであるが。
ケイルカ(ka4121)である。
彼女の最近のお気に入りは、リアルブルー出身の知人に勧められて読んだ小説『舵天照』だ。特にその中でも、ふてぶてしい性格を持つマスコット的存在・もふらがお気に入りだ。
だからよくよく見れば、ケイルカの身につけているまるごとうさぎは耳や首回りが赤く染められている。もふらのコスプレ、と言うことらしい。
「あ、これ、『舵天照』の?」
開場を目前に見回っていたトモエが、思わず足を止める。
「そうもふ~♪」
ケイルカも嬉しそうに頷いた。
頒布物も、手作りのもふらぬいぐるみやもふらを主人公にした絵本風の同人誌『もふらのモウフの大冒険』だ。
同人誌の内容のほうは牧場で生まれたばかりの子もふらが伝説の存在に憧れて牧場を脱走し、開拓者――クリムゾンウェストのハンターに近い存在、と言えばわかりやすいだろうか――とともに冒険したいがために、彼らが依頼を受ける為のオフィスで待ち構え、そしてまだ駆け出し開拓者の魔術師の少女と旅立つ――と言うほのぼのした物語だった。
描写も繊細な上に可愛らしく、如何にも少女らしい、可愛らしい物語だ。
「それにしてももふらとは……確かに人気あるけど」
舵天照の作中に出てくるもふらは真っ白いポメラニアンやマルチーズといったかんじのものを巨大にしたような容姿をしている、と記されている。しかしその性格は色んな意味でふてぶてしいという、一癖も二癖もあるマスコットなのだ。だからこそ人気があるというところもあるのだが。
「気合い入ってるなぁ……応援してるね!」
「ありがともふ~」
トモエの声援を受けて、ケイルカはこっくりと頷いた。
そして、いよいよ、待ちに待った瞬間――
開場だ。
●
人がなだれ込んでくる、と言うことは流石にない。
むしろ人のいり自体は緩やかで、一瞬これが同人誌即売会なのか、とトモエが驚いたくらいである。
しかし少しずつ少しずつ、人の数は増えていく。
興味を持った人たちが冷やかし混じりに立ち寄ったまま、なかなか出て行こうとしなかったり、そんな様子が所々に垣間見えた。
言ってしまえば自費出版をはじめとする、趣味の祭典。一度興味を持てば、なかなか足を動かすのが難しい人も多い。
かと思えば、明らかにこのイベント目的にやってきたという人もそれなりにいた。
特にコスプレ参加者にその傾向は顕著であろう。
「即売会、それはすなわち人々の叡智の結晶だよ! ドレスコードもあるんだから! 私はCAMのコスプレしていくから!」
そう言って満面の笑みを浮かべ、入場したのはレイン・レーネリルル(ka2887)、同行者は恋人でもあるルーエル・ゼクシディア(ka2473)だ。
「即売会……一体どんなところなんだろう?」
興味を持ったらしいルーエル。しかしルーエルのほうはこういった知識に疎い。ので、レインに上手く丸め込まれてしまったようである。
ふたりは更衣室に一直線に向かい、レインは見事にCAMになりきり、一方のルーエルは――
「だ、騙されたっ。来てる人の方が少ないじゃないか!」
顔を真っ赤にしながらレインと合流する。それもそのはず、ルーエルの為にレインが用意した衣装というのは身体によくフィットするタイプのパイロットスーツなのだから。ただ、その服装が似合っていないかというと決してそんなことはなく、少年パイロットという風体がよく似合っていた。
「えへへ。こういう即売会で、大人買いってしてみたかったんだよね!」
レインにそう言われてしまうと、まあ仕方ないか、と思う辺り、ルーエルはまだまだお子様である。
「わぁ、ほら見てみて! マニアックなCAMの同人誌! 歴史とか、こっちは画集とか、すごいいっぱい……!」
目を輝かせて商品を眺めているレインに、ルーエルも思わず苦笑してしまう。
「いやー、ほんとに語り合いたいなぁ、CAM大好きなんですっ! 私、生まれる場所を間違えたんだと思う!」
レインの生まれはクリムゾンウェストの、それもエルフ。おそらくリアルブルーに生まれていたなら、CAMのパイロットに志願していたことだろう。
「ほんとだ……すごいね、これ」
恋人のCAM好きは知らないわけではなかった。けれど、ここまで熱く語るレインというのはルーエルには新鮮でたまらない。
「なるほど、こういうところだとお互いの知識を深め合ったり交流したりすることが出来るんだね? レインお姉さん、すごく楽しそう」
「うん!」
レインの手には気づけば袋が二つ。結構な量の本を手に入れることが出来たようだ。
「そういえばそっちの袋の本は何? いつの間に買ったの?」
ルーエルが無邪気に問えば、レインは慌てた声で、
「え、あ、いや、別に美少年の同人誌とかは、買ってないし。ほんとだし」
そんなことを言うものだから、なおのことあやしい。ルーエルは袋を奪おうと手を伸ばした。中身を確認しないと、気が済まない気分に駆られたのだ。変な物を買っていてもいやだし。
「ダメ、漁らないで―!」
しかしその声は意外なところで救われた。
CAMとパイロットのコスプレという組み合わせが珍しいのか、他の客たちに写真を撮っていいか求められたのだ。
むろん断る理由もない。何しろ自己表現の場所なのだから。
レインは誇らしげに、ルーエルは少し照れくさそうに、ファインダーに収まった。
●
Gacrux(ka2726)は、そこかしこで配布されているサルヴァトーレ・ロッソ祭りのパンフレットを手に取りつつ、ふと面白そうな名前を見つけた。
「同人誌即売会……? ふむ、アマチュア作家の作品発表会、と言った者でしょうか?」
それは当たらずとも遠からず。
趣味は読書、そしてリアルブルー文化にも興味を示しているガクルックスにとって、これはまたとない機会だ。
会場にたどり着いて様子を見てみれば、さまざまな服装の男女が己の表現したいものを探してたどり着いたものを頒布していたり、あるいはみずからの服装でそれを表現していたり。
昼頃にはそれなりの人出があり、それを見たガクルックスも思わず嬉しそうに鼻歌交じりだ。
――十人十色のこの世界で、さまざまな表現方法の存在に、気づかせてくれるからだ。
手に取ったのはアマチュア作品の叙情的な詩集。値段を聞けば市場で売っているプロのものよりやや単価は高いが、自費出版物だと思えばそれも納得がいく。
また手作り雑貨では、海月のキーホルダーが目にとまったようだ。クリムゾンウェストではあまり浸透していない、レジンアクセサリーの、透明感を持った美しさ。それを手に取り、しげしげと見つめてしまう。
「リアルブルーの方は手先が器用なのですね。これとこれ、いただけますか」
色違いで入手すると、なんだか嬉しくなって一つはさっそくカバンにつけてみる。きれいな海月が、ふわふわとくっついているような感じで、なんだか自分の心もふわふわするようだ。
「それにしても何でもありなんですね……」
リアルブルーの鉄道史や、いわゆる撮り鉄の写真などをにまとめた冊子などは、なかなか通常の本屋ではお目にかかることがない。珍しいものは手に入れるべしと、こちらも即購入を決定した。
――そんな風にして歩いていると、迷い込んだ一角のブース。どう見ても女性ばかりで、なにがあるのかと思いきや……表紙には容姿端麗な男性のイラスト。
あえて口にはしない。ただ、彼は何も見なかったことにしてそそくさとその場を立ち去った。
得物をいるような女性たちの視線が、本能的な恐怖を呼び起こしたのである。そう、触れてはいけないものをみた、と言う気分にさせられたのだ。
……深くは、語るまい。
●
――まあ、そんな小さなサプライズやらなにやらはあったけれど、一応無事に閉会にこぎ着けることができたのは、トモエとしてもありがたいことだった。
何が起きるか分からない、それがこういったイベントのつねだから。
確かに疲れた。だけどそれは心地よい疲労感で。
気づけば誰もが笑顔だった。
買う人も、売る人も、見物に来た人も。
そして――トモエ自身も。
少女はにっこりと微笑んで、そして大きく礼をした。
「本日は、ご来場ありがとうございました!」
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
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MVP一覧
- 紫陽
ケイルカ(ka4121)
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/09/21 07:48:17 |