ゲスト
(ka0000)
【深棲】ドワーフの海水浴
マスター:旅硝子

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 3日
- 締切
- 2014/07/26 07:30
- 完成日
- 2014/07/30 04:33
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
その日、ドワーフ達は海水浴に来ていた。
ドワーフだって海で泳ぐのである。
そりゃまぁ、その、稀だけど。
特に今回は、帝国領からわざわざ10人ものドワーフが遊びに来て、サルヴァトーレ・ロッソの立ち入り自由区域を見学したり、珍しいリアルブルーの食べ物を買い込んだり、ハンター達の集まるハンターズソサエティやユニオンを見学したり、ついでに飲み食いしたり、市場を眺めたり、買い食いしたり、そんなプログラム(?)の一環で海で遊ぼうというのだ。
しかし――ちょうど狂気の歪虚襲来と海水浴が被ってしまったのは、彼らの不幸だった。
「あんまし海で戦いたくはないのう。斧が錆びちまうわい」
「本当だわ。あっ、ちょっと! 巻き付くんじゃないわよ!」
「お、パリパさんのセクシーショットですぞうへへ」
「うへへ」
「あんた達! いいから助けなさいよ!」
「はーい」
「ところで、このエビでかいなぁ」
「美味しいかなぁ」
「歪虚って死体残るんか?」
「わからん。歪虚による」
「よし残ったら焼いて食おう」
「いいねぇ」
「美味しかったら大量捕獲したいねぇ」
「おいお前、仮にも歪虚だぞ」
「あぁそうだった」
……いやうん、歪虚との邂逅は不幸に違いないのである。
10人のドワーフが水着に斧とかメイスとか魔導銃とかで戦っているという滅多にない光景だろうと不幸である。
和気あいあいと割と楽しそうな気もするが不幸である。
実際、歪虚は明らかにドワーフ達より強く、このままだと負けてしまいそうなのだ。
楽しそうなのはその現実から目をそらし、戦う気力を湧き立たせるため――なのかもしれない。
「むぅ……おいバルキド、こりゃやばそうだからハンターに依頼出して来てくれ。それまではもたせる」
「えー俺パリパさんのセクシーシーン見てたいなー」
「バルキドあとで工房裏」
「冗談っす冗談! 俺が帰って来るまで持ちこたえて下さいよ!」
「大丈夫じゃよ。バルトアンデルスの家で妻と子どもがこの『れとるとかれー』を待っているからな」
「あたし、この戦いが終わって無事に帝国に帰ったら、結婚……相手を、まず作ろうかなって」
「なんか死にそうな台詞並べないで下さいよぉぉ!?」
決して楽しいからやっているわけでは……あるかも……しれない。
水着姿のドワーフが、駆けこんだハンターズソサエティで急いで人を集める。
用件は、彼の仲間であるドワーフ9人の救出。
ハンターズソサエティはそれに、最近頻出している狂気の歪虚の掃討をさらに依頼し、水着姿のドワーフと共に駆け出すハンター達を見送ったのだった。
ドワーフだって海で泳ぐのである。
そりゃまぁ、その、稀だけど。
特に今回は、帝国領からわざわざ10人ものドワーフが遊びに来て、サルヴァトーレ・ロッソの立ち入り自由区域を見学したり、珍しいリアルブルーの食べ物を買い込んだり、ハンター達の集まるハンターズソサエティやユニオンを見学したり、ついでに飲み食いしたり、市場を眺めたり、買い食いしたり、そんなプログラム(?)の一環で海で遊ぼうというのだ。
しかし――ちょうど狂気の歪虚襲来と海水浴が被ってしまったのは、彼らの不幸だった。
「あんまし海で戦いたくはないのう。斧が錆びちまうわい」
「本当だわ。あっ、ちょっと! 巻き付くんじゃないわよ!」
「お、パリパさんのセクシーショットですぞうへへ」
「うへへ」
「あんた達! いいから助けなさいよ!」
「はーい」
「ところで、このエビでかいなぁ」
「美味しいかなぁ」
「歪虚って死体残るんか?」
「わからん。歪虚による」
「よし残ったら焼いて食おう」
「いいねぇ」
「美味しかったら大量捕獲したいねぇ」
「おいお前、仮にも歪虚だぞ」
「あぁそうだった」
……いやうん、歪虚との邂逅は不幸に違いないのである。
10人のドワーフが水着に斧とかメイスとか魔導銃とかで戦っているという滅多にない光景だろうと不幸である。
和気あいあいと割と楽しそうな気もするが不幸である。
実際、歪虚は明らかにドワーフ達より強く、このままだと負けてしまいそうなのだ。
楽しそうなのはその現実から目をそらし、戦う気力を湧き立たせるため――なのかもしれない。
「むぅ……おいバルキド、こりゃやばそうだからハンターに依頼出して来てくれ。それまではもたせる」
「えー俺パリパさんのセクシーシーン見てたいなー」
「バルキドあとで工房裏」
「冗談っす冗談! 俺が帰って来るまで持ちこたえて下さいよ!」
「大丈夫じゃよ。バルトアンデルスの家で妻と子どもがこの『れとるとかれー』を待っているからな」
「あたし、この戦いが終わって無事に帝国に帰ったら、結婚……相手を、まず作ろうかなって」
「なんか死にそうな台詞並べないで下さいよぉぉ!?」
決して楽しいからやっているわけでは……あるかも……しれない。
水着姿のドワーフが、駆けこんだハンターズソサエティで急いで人を集める。
用件は、彼の仲間であるドワーフ9人の救出。
ハンターズソサエティはそれに、最近頻出している狂気の歪虚の掃討をさらに依頼し、水着姿のドワーフと共に駆け出すハンター達を見送ったのだった。
リプレイ本文
ハンターズソサエティの扉をくぐれば、さんさんと日差しが降り注ぐ夏の真っ昼間である。
「この暑さではドワーフの方々も海水浴したくもなりますよね……」
ふ、と息をついて、不動 大(ka2136)が既に噴き出しつつある汗を拭う。
「そんじゃ、お願いしますな。さて、ひとっ走り行きましょうか!」
「よよ、よ、よろしくお願いします!」
バルキドと名乗った依頼人の水着姿のドワーフに、わたわたとマコト・タツナミ(ka1030)が頭を下げる。
「……ドワーフさんたちが……大変。今……助ける……」
ぎゅ、と小さな拳を握り締め、シェリル・マイヤーズ(ka0509)が懸命に走り出す。ドワーフとあまり変わらぬほどの小さな身体の彼女は、けれど疾影士らしく風のように海岸への道を駆け抜ける。
それぞれの武器をすぐに構えられるように確かめ、ハンター達も一気に足を速める。人通りの少ない道を選んで通り、坂道を駆け下り、見えてきた海岸に――触手を蠢かせる巨大なエビとの戦いを繰り広げる、水着姿のドワーフ達。
「ぅわ……」
その毒々しい色の触手に、十色 エニア(ka0370)が思わず嫌悪の声を上げる。
「エビが巨大化とか漫画の世界だよね。でもここではこれが現実……やっぱりリアルブルーとは違うなぁ」
しみじみと、天竜寺 詩(ka0396)がその光景に呟く横で、同じリアルブルー出身の大が頷く。
「あれだけ大きなエビは見たことありませんね……料理し甲斐がありそうです」
「ぇ、食べれるの……!?」
思わず目を丸くするエニア。いやそりゃあ、触手以外は大体エビだけど。
その横で、シェリルはぎゅっと唇を噛み締めていた。
腰に挿した刀の柄を握る手に、力が篭る。
「狂気の関係の……歪虚?」
そう、最近リゼリオや同盟諸国の近隣の海を、脅かしているという噂の狂気の歪虚、その特徴たる気の狂いそうな不気味な姿。
そして――LH044を襲撃した者達と、同じ存在と言われている。
忘れられるはずがない。赦せるはずがない。
シェリルの両親は、その襲撃によって死んだのだから。
「そうなら……一匹残らず……狩る……LH044……忘れない……」
ふわり、と風を纏い、瞳を金色に輝かせた小さな体が地を蹴って駆けた。脚にマテリアルを込めてそのスピードを加速させ、すらりと抜いた刀の柄を強く握る。
「って呑気に見てる場合じゃないね。早くドワーフさん達を助けないと!」
さらに詩が、ロッドを握り締めて砂浜に足を取られながら慌てて走り出す。大が頷いて、
その後方で、腕組みをして立つやや小さな人影があった。
「浮かれて海水浴に来た集団がモンスターに襲われるのはこの世の真理と教義にも存在する。そして」
ばさりとマント代わりのローブを翻すヴァール(ka1900)である。
信ずる教えは【モエはジャスティス】。エクラ教とリアルブルーのオタク文化が悪魔合体とか魔改造とかした凄まじい宗教である。
「打倒するのもまたしかり。海の藻屑と我々の食材にさせてもらうぞ!」
聖なる光を手の中に輝かせながら、駆け抜けるヴァール。
ドワーフの小さな体格に見合わぬほどの巨乳が、たゆんたゆんと飛び跳ねる。
「ど、ドワーフさん達っ、今のうちに逃げて下さーっい!」
さらにアルケミストデバイスを操作しながら、マコトが必死に駆け抜ける。スニーカーは走りやすいが、砂が入るのが辛いところである。
「おっ!?」
「何だ何だ、救援か?」
振り返るドワーフ達。その間に触手に絡まれて(絵面的に)大変になるドワーフ数名。
「ドワーフさん、助けに来たよ!」
「依頼されたハンターの者です」
ラストスパートをかけながら、詩と大がそれぞれの武器を構えてエビへと向かう。
「結局みんな食べる気なんだ……いや食べれるなら食べるけど……」
ハイライトの消えた目で呟いて、エニアはすっと距離を詰めてウィンドスラッシュを解き放つ。
鋭い風の刃が、ハンター達を追い抜いてエビの一体を切り裂いた。
ちなみにハイライトが消えているのは覚醒の効果である。別にエビを食べるのが嫌すぎてこうなったら全員まとめて何のかんのというわけではない。
……たぶん。
ヴァールと詩のホーリーライトが連続で弾け、ドワーフ達に向かっていたエビ達が、ぎょろりとその目をハンター達に向ける。
「バルキドが呼んで来てくれたのね!」
「そう……今のうち……逃げて……」
恰幅の良いドワーフの少女に絡んでいた触手を、シェリルが目にも留まらぬ斬撃で両断する。さらに振り返って、今度は恰幅の良いドワーフの中年男性に絡み付いている触手を一撃。
「……でも、お前たちは……逃がさない……っ」
金色の瞳が、憎悪の炎を宿したように燃える。
「エビさんには悪いけど……おとなしく料理されて下さいねっ」
マコトがデバイスに指を走らせ、伸ばした指先から機導砲を解き放つ。ドワーフへと体当たりしようとしていたエビが、急転換と共にマコトへと向かう。
大も素早く刀を使い、ドワーフ達を囲み狙い、時に締め上げる触手を斬り捨てて。
「加勢しますので、後方でバーベキューや料理の準備をお願いできますか?」
「ほ? じゃが、わしらも戦った方が……」
「……獲れたての新鮮な海老は極上ですよ。直ぐに食べたいのでしたらお願いします」
「そうかい? 俺達そろそろ戦い限界だったんだよ」
「ほーら、腕貸すからキリキリ下がるわよ! ハンターさん達に迷惑掛けないの!」
ドワーフ達は怪我をした者達に肩を貸し、わっほいわっほいと下がっていく。彼らから敵の注意をそらすべく、じりじりと距離を詰めながら風の刃を飛ばしていたエニアと後退するドワーフ達がすれ違う頃には、あらかたのエビ達の注意はハンター達へと向いていた。
(楽しそうに見えるのは気のせいかなぁ……結構危ない状態だし、そんな事ないよね?)
思わず詩が思ってしまうほど、ある意味で危機感のないドワーフ達であった。
彼らとて、酷過ぎる怪我をするような無茶はしていないのであるが――雰囲気が、ねえ。
それでも触手をうごめかせてカサカサとドワーフ達を追うエビを、ヴァールのロッドが思いっきりぶちのめした。
「さて、あとは一切合財食材にしてやるだけだ!」
触手が絡んでくるのも構わず、ヴァールはロッドを勢いよく叩き付ける。ぼこり、とエビの殻がへこむ。
「まずは軽く火を通しましょう……なんてね」
炎の矢を解き放ち、どこか人形めいた様子でエニアがにこりと笑う。
まともな知性を持たない狂気の歪虚でなければ、恐ろしいと、或いは美しいと感じたかもしれない。
「うねうね……気持ち悪い……全部……切る……」
構えから一転、気付いた時にはもう断っている。そんな素早い斬撃を繰り返し、シェリルがすぱすぱと触手を切り離す。
接近戦を挑む仲間達に、詩が次々に光り輝く守りの加護をもたらしていく。その輝きを受けて、さらに機導砲を使い切ったマコトが、ウォーハンマーを構えて突っ込んでいく。
「さぁエビさん、こっちの方ですよー……っと。そしてー……」
存分に引き付けたところで――
「ごめんなさい!」
アルケミックパワーからの一撃必殺!
倒れ伏すエビを踏まないように、マコトは次の標的へと狙いを定める。
大も執拗に己を狙っていたエビを倒し、次のエビへと目標を移す。その背後から伸びてきた触手を一刀の元に斬り落とし、さらに踏み込んで触手を避けて殻の隙間に一撃。
――その頃。
「もらいっ」
あらかた触手を焼かれ、弱ってよろよろしながら足元までやって来たエビに、エニアがさっくりと短剣でトドメを刺す。
しかし、そのさらに向こうに元気なエビが!
「ゃ、やば……っ」
絡まれてあられもないことになったら(一応伏せている)性別が――慌てて撃ったファイアアローは、逸れて明後日へと飛んで行く。迫る触手。
たらりと冷や汗流した彼女の前に飛び込んだのは――ロッドを構えたヴァールであった。
「やられる前にやる方がイイ! こういう状況ではな!」
4回の攻撃をひらひらかわし、ヴァールがロッドを思いっきりぶち込む。
間違っても海に逃げられぬよう、僅かに空いた陣形の穴を埋めるようシェリルが駆け、刀を思いっきり叩きこむ。
脚の関節から身に向けて叩きこまれた刃が、歪虚に改めて死をもたらす。
――戦いが終わるまで、少々色っぽいシーンはちょっぴりだけあったが。
大した時間はかけず、ハンター達は戦闘を終えたのだった。
最後のエビが倒れた頃には、炭の焼けるいい香りが漂っていた。
「……っと、これでエビさん達は片付いた……かな? じゃあ早速準備しないとっ」
マコトがほっと息を吐く間もなく、ぐるりと後ろに振り返る。
と――ドワーフ1人に1つというバーベキューセットに、さらにいくつか焚き火まで用意されている。
「いやぁ、ハンターさん達さすがの戦いぶりですな! 助けて頂いてありがとうございます!」
「あ、エビの殻剥いとくよ!」
戦いが終わったと見て、すぐさま動き出すドワーフ達。
「ま、待って下さい! 傷の手当てを!」
慌てて詩が押しとどめ、応急手当とヒールを施す。口々に感謝の言葉を述べて、やっぱり待ちきれないように駆けだすドワーフ達。
「個人的には、そのまま焼いて醤油で食べたい気分なんだけど……醤油あるの?」
「おっ、サルヴァトーレ・ロッソの近くで売ってたやつがこんなところで役に立つとは!」
ドワーフのリュックサック(でかい)から取り出される醤油。嬉しそうに焼き網を借り、どかんと海老の身を置いて焼き始めるエニア。
「エビは茹でるのもいいが浜辺なら焼きが良いな! こう、キンキンに冷やした麦酒や蒸留酒と一緒に!」
そう水着姿で豊かな胸を張って言い放ったヴァールに、ドワーフ達からはやんややんやの大喝采。
さらに別の焼き網の上に追加されるエビ。後から後から出てくる、海水で冷やしておいたドワーフ達の酒類。
「先ずはエビフライだね♪」
手持ちのポテトチップスを砕いてパン粉代わりに、ドワーフが持っていた大鍋に、さすがに油は満たせるほどはなかったので、底に敷いて回しながら焼くように揚げていく。
結構な時間がかかりそうなので、その間にフライパンを借りて、エビの殻と頭を使ったアメリケーヌソースにも取りかかって。
大きなエビの殻を砕くのは、結構な重労働だ。早く食べたいので、全力でマコトが手伝う。さらにドワーフ達も手伝う。
「ほほう、普通は捨ててしまうエビの殻や頭も料理に使えるのですなぁ」
手元を覗き込むドワーフ達の感心顔に、詩は嬉しそうに胸を張る。
「すみません、お湯の番をお願いしてしまって」
「あら、美味しい料理のためだもの」
一度街まで行って食材を用意してきた大を迎えて、お湯を沸かしていたドワーフの女性がにっこり笑う。
どぶん、と海老の身を鍋に沈めて、大が急いで作るのはリアルブルー秘伝のマヨネーズ。
向こう側ではエビの焼けるいい香りが漂っていた。エニアがじゅっと醤油をかければ、香ばしい匂いとドワーフ達の歓声が上がる。
どんどん切り分けて皿に乗せて、空になったら次のエビを乗せておく。
「さぁ、焼いて食べて飲むよー♪」
「かんぱーい!」
かんかんかん、とコップや缶のぶつかり合う音。
エニアやヴァール、マコトの成人3人組は、ドワーフ達と一緒にすっかりビールを堪能中だ。
「ぷはー! この一杯のために生きておる!」
「いいよねぇこういうの」
「あ、良かったらレトルトカレー、付けたい人はどうぞ!」
「おー!」
2名くらい見た目的に違和感があるが気にしてはいけない。
エニアなんてちゃんと年齢確認できるようにIDカード持って来てるし。
アルコールが皆に回り始めた頃、今度は大のエビが茹で上がっていた。
「まずは単純に茹でたものを。こちらのマヨネーズを少し付けてお食べください」
シェフのように優雅に大が言って皿を差し出せば、次々に手が伸びる。
「おおっ! これはいいな!」
「焼くのもいいが茹でるのもいい」
「このマヨネーズっての? エビとぴったりよね!」
わいわいとはしゃぐドワーフ達とハンター達に嬉しげに微笑み、大はまた調理に取り掛かる。
ドワーフ達に混じって、いただきますと手を合わせたシェリルが、美味しそうにエビを頬張る。
「……ありがとう……美味しい」
じゅわりと噛み締めれば口いっぱいに海の幸の味が広がる。しっかりと、たくさん食べる。早く大きくなりたいから。力を付けたいから。
「でも、ヴォイドって……食べられるんだ……」
ぽつりと呟いたところで、今度は運ばれてきたのは巨大なエビフライである。
「このソースをエビフライにかけて食べてね♪」
詩がにっこり笑って巨大なエビフライをどんと鉄板を借りて置く。その迫力に、思わず歓声。
「こりゃ美味い!」
「この塩っけのある衣とソースがまた絡んで、エビがじゅーしぃで」
「ソースがいいのう。濃厚で海の味と栄養がたっぷりじゃ」
あっという間に平らげられる料理。焼きエビも醤油味に飽きたら今度はマコトからレトルトカレーが提供され、新しい味に皆が舌鼓を打つ。
「夏にこそ辛い物ですね。癖になる程よい辛さなのでどうぞ召し上がってください」
そして半分ほどエビフライがなくなったところに、今度は大がエビチリを運んでくる。
「おお、辛い!」
「だが確かにこの辛さが夏って感じだ!」
「地球の味を思い出すなぁ……」
料理を終えた大や詩も食事の輪に加わって、大いに盛り上がり大いに食べた。
成年達はさらにたっぷり飲んだ。
そして――新調した赤いビキニも鮮やかに、せっかくだからと詩が未成年のドワーフ達と共に、海へと駆けて行く。
「元気だねぇ」
ビールを空けながら、それをのんびりと眺めるエニア。
「なんの、ワシだってまだ現役じゃ」
大きな胸をさらに張る、やはり水着姿のヴァール。
「んー……しかしこのエビさん、養殖できたら訓練と食料とで一石二鳥だよね……」
「歪虚ですから難しいのではないでしょうか」
ほろ酔いの顔でにこにこ言うマコトに、真面目な顔でツッコミを入れる大。
「そっかぁ、さすがにそれは無理かぁ、あはは」
ほわぁ、と顔を緩めて楽しげなマコトである。
喧騒を遠くに聞きながら、そっと抜け出してきたシェリルは1人、海を眺めていた。
コロニー育ちの彼女は、まだ海を見たことがなかった。
(大きくて、綺麗で……私、小さい……)
自分が小さく感じて、切なくて、シェリルはぎゅっと膝を抱える。
隣に両親がいたらいいのに。そうしたらきっとこんなに心細くないのに。
(海のキラキラ……とても、眩しい……)
切なくて、心細いのに。
なぜか、海から目を離せなかった。
夕暮れの空の下、16の影が帰っていく。
潮風が、人々に仇為す歪虚を倒し、そして海を心行くまで堪能した満足げな彼らの背を、追うように吹き抜けた。
「この暑さではドワーフの方々も海水浴したくもなりますよね……」
ふ、と息をついて、不動 大(ka2136)が既に噴き出しつつある汗を拭う。
「そんじゃ、お願いしますな。さて、ひとっ走り行きましょうか!」
「よよ、よ、よろしくお願いします!」
バルキドと名乗った依頼人の水着姿のドワーフに、わたわたとマコト・タツナミ(ka1030)が頭を下げる。
「……ドワーフさんたちが……大変。今……助ける……」
ぎゅ、と小さな拳を握り締め、シェリル・マイヤーズ(ka0509)が懸命に走り出す。ドワーフとあまり変わらぬほどの小さな身体の彼女は、けれど疾影士らしく風のように海岸への道を駆け抜ける。
それぞれの武器をすぐに構えられるように確かめ、ハンター達も一気に足を速める。人通りの少ない道を選んで通り、坂道を駆け下り、見えてきた海岸に――触手を蠢かせる巨大なエビとの戦いを繰り広げる、水着姿のドワーフ達。
「ぅわ……」
その毒々しい色の触手に、十色 エニア(ka0370)が思わず嫌悪の声を上げる。
「エビが巨大化とか漫画の世界だよね。でもここではこれが現実……やっぱりリアルブルーとは違うなぁ」
しみじみと、天竜寺 詩(ka0396)がその光景に呟く横で、同じリアルブルー出身の大が頷く。
「あれだけ大きなエビは見たことありませんね……料理し甲斐がありそうです」
「ぇ、食べれるの……!?」
思わず目を丸くするエニア。いやそりゃあ、触手以外は大体エビだけど。
その横で、シェリルはぎゅっと唇を噛み締めていた。
腰に挿した刀の柄を握る手に、力が篭る。
「狂気の関係の……歪虚?」
そう、最近リゼリオや同盟諸国の近隣の海を、脅かしているという噂の狂気の歪虚、その特徴たる気の狂いそうな不気味な姿。
そして――LH044を襲撃した者達と、同じ存在と言われている。
忘れられるはずがない。赦せるはずがない。
シェリルの両親は、その襲撃によって死んだのだから。
「そうなら……一匹残らず……狩る……LH044……忘れない……」
ふわり、と風を纏い、瞳を金色に輝かせた小さな体が地を蹴って駆けた。脚にマテリアルを込めてそのスピードを加速させ、すらりと抜いた刀の柄を強く握る。
「って呑気に見てる場合じゃないね。早くドワーフさん達を助けないと!」
さらに詩が、ロッドを握り締めて砂浜に足を取られながら慌てて走り出す。大が頷いて、
その後方で、腕組みをして立つやや小さな人影があった。
「浮かれて海水浴に来た集団がモンスターに襲われるのはこの世の真理と教義にも存在する。そして」
ばさりとマント代わりのローブを翻すヴァール(ka1900)である。
信ずる教えは【モエはジャスティス】。エクラ教とリアルブルーのオタク文化が悪魔合体とか魔改造とかした凄まじい宗教である。
「打倒するのもまたしかり。海の藻屑と我々の食材にさせてもらうぞ!」
聖なる光を手の中に輝かせながら、駆け抜けるヴァール。
ドワーフの小さな体格に見合わぬほどの巨乳が、たゆんたゆんと飛び跳ねる。
「ど、ドワーフさん達っ、今のうちに逃げて下さーっい!」
さらにアルケミストデバイスを操作しながら、マコトが必死に駆け抜ける。スニーカーは走りやすいが、砂が入るのが辛いところである。
「おっ!?」
「何だ何だ、救援か?」
振り返るドワーフ達。その間に触手に絡まれて(絵面的に)大変になるドワーフ数名。
「ドワーフさん、助けに来たよ!」
「依頼されたハンターの者です」
ラストスパートをかけながら、詩と大がそれぞれの武器を構えてエビへと向かう。
「結局みんな食べる気なんだ……いや食べれるなら食べるけど……」
ハイライトの消えた目で呟いて、エニアはすっと距離を詰めてウィンドスラッシュを解き放つ。
鋭い風の刃が、ハンター達を追い抜いてエビの一体を切り裂いた。
ちなみにハイライトが消えているのは覚醒の効果である。別にエビを食べるのが嫌すぎてこうなったら全員まとめて何のかんのというわけではない。
……たぶん。
ヴァールと詩のホーリーライトが連続で弾け、ドワーフ達に向かっていたエビ達が、ぎょろりとその目をハンター達に向ける。
「バルキドが呼んで来てくれたのね!」
「そう……今のうち……逃げて……」
恰幅の良いドワーフの少女に絡んでいた触手を、シェリルが目にも留まらぬ斬撃で両断する。さらに振り返って、今度は恰幅の良いドワーフの中年男性に絡み付いている触手を一撃。
「……でも、お前たちは……逃がさない……っ」
金色の瞳が、憎悪の炎を宿したように燃える。
「エビさんには悪いけど……おとなしく料理されて下さいねっ」
マコトがデバイスに指を走らせ、伸ばした指先から機導砲を解き放つ。ドワーフへと体当たりしようとしていたエビが、急転換と共にマコトへと向かう。
大も素早く刀を使い、ドワーフ達を囲み狙い、時に締め上げる触手を斬り捨てて。
「加勢しますので、後方でバーベキューや料理の準備をお願いできますか?」
「ほ? じゃが、わしらも戦った方が……」
「……獲れたての新鮮な海老は極上ですよ。直ぐに食べたいのでしたらお願いします」
「そうかい? 俺達そろそろ戦い限界だったんだよ」
「ほーら、腕貸すからキリキリ下がるわよ! ハンターさん達に迷惑掛けないの!」
ドワーフ達は怪我をした者達に肩を貸し、わっほいわっほいと下がっていく。彼らから敵の注意をそらすべく、じりじりと距離を詰めながら風の刃を飛ばしていたエニアと後退するドワーフ達がすれ違う頃には、あらかたのエビ達の注意はハンター達へと向いていた。
(楽しそうに見えるのは気のせいかなぁ……結構危ない状態だし、そんな事ないよね?)
思わず詩が思ってしまうほど、ある意味で危機感のないドワーフ達であった。
彼らとて、酷過ぎる怪我をするような無茶はしていないのであるが――雰囲気が、ねえ。
それでも触手をうごめかせてカサカサとドワーフ達を追うエビを、ヴァールのロッドが思いっきりぶちのめした。
「さて、あとは一切合財食材にしてやるだけだ!」
触手が絡んでくるのも構わず、ヴァールはロッドを勢いよく叩き付ける。ぼこり、とエビの殻がへこむ。
「まずは軽く火を通しましょう……なんてね」
炎の矢を解き放ち、どこか人形めいた様子でエニアがにこりと笑う。
まともな知性を持たない狂気の歪虚でなければ、恐ろしいと、或いは美しいと感じたかもしれない。
「うねうね……気持ち悪い……全部……切る……」
構えから一転、気付いた時にはもう断っている。そんな素早い斬撃を繰り返し、シェリルがすぱすぱと触手を切り離す。
接近戦を挑む仲間達に、詩が次々に光り輝く守りの加護をもたらしていく。その輝きを受けて、さらに機導砲を使い切ったマコトが、ウォーハンマーを構えて突っ込んでいく。
「さぁエビさん、こっちの方ですよー……っと。そしてー……」
存分に引き付けたところで――
「ごめんなさい!」
アルケミックパワーからの一撃必殺!
倒れ伏すエビを踏まないように、マコトは次の標的へと狙いを定める。
大も執拗に己を狙っていたエビを倒し、次のエビへと目標を移す。その背後から伸びてきた触手を一刀の元に斬り落とし、さらに踏み込んで触手を避けて殻の隙間に一撃。
――その頃。
「もらいっ」
あらかた触手を焼かれ、弱ってよろよろしながら足元までやって来たエビに、エニアがさっくりと短剣でトドメを刺す。
しかし、そのさらに向こうに元気なエビが!
「ゃ、やば……っ」
絡まれてあられもないことになったら(一応伏せている)性別が――慌てて撃ったファイアアローは、逸れて明後日へと飛んで行く。迫る触手。
たらりと冷や汗流した彼女の前に飛び込んだのは――ロッドを構えたヴァールであった。
「やられる前にやる方がイイ! こういう状況ではな!」
4回の攻撃をひらひらかわし、ヴァールがロッドを思いっきりぶち込む。
間違っても海に逃げられぬよう、僅かに空いた陣形の穴を埋めるようシェリルが駆け、刀を思いっきり叩きこむ。
脚の関節から身に向けて叩きこまれた刃が、歪虚に改めて死をもたらす。
――戦いが終わるまで、少々色っぽいシーンはちょっぴりだけあったが。
大した時間はかけず、ハンター達は戦闘を終えたのだった。
最後のエビが倒れた頃には、炭の焼けるいい香りが漂っていた。
「……っと、これでエビさん達は片付いた……かな? じゃあ早速準備しないとっ」
マコトがほっと息を吐く間もなく、ぐるりと後ろに振り返る。
と――ドワーフ1人に1つというバーベキューセットに、さらにいくつか焚き火まで用意されている。
「いやぁ、ハンターさん達さすがの戦いぶりですな! 助けて頂いてありがとうございます!」
「あ、エビの殻剥いとくよ!」
戦いが終わったと見て、すぐさま動き出すドワーフ達。
「ま、待って下さい! 傷の手当てを!」
慌てて詩が押しとどめ、応急手当とヒールを施す。口々に感謝の言葉を述べて、やっぱり待ちきれないように駆けだすドワーフ達。
「個人的には、そのまま焼いて醤油で食べたい気分なんだけど……醤油あるの?」
「おっ、サルヴァトーレ・ロッソの近くで売ってたやつがこんなところで役に立つとは!」
ドワーフのリュックサック(でかい)から取り出される醤油。嬉しそうに焼き網を借り、どかんと海老の身を置いて焼き始めるエニア。
「エビは茹でるのもいいが浜辺なら焼きが良いな! こう、キンキンに冷やした麦酒や蒸留酒と一緒に!」
そう水着姿で豊かな胸を張って言い放ったヴァールに、ドワーフ達からはやんややんやの大喝采。
さらに別の焼き網の上に追加されるエビ。後から後から出てくる、海水で冷やしておいたドワーフ達の酒類。
「先ずはエビフライだね♪」
手持ちのポテトチップスを砕いてパン粉代わりに、ドワーフが持っていた大鍋に、さすがに油は満たせるほどはなかったので、底に敷いて回しながら焼くように揚げていく。
結構な時間がかかりそうなので、その間にフライパンを借りて、エビの殻と頭を使ったアメリケーヌソースにも取りかかって。
大きなエビの殻を砕くのは、結構な重労働だ。早く食べたいので、全力でマコトが手伝う。さらにドワーフ達も手伝う。
「ほほう、普通は捨ててしまうエビの殻や頭も料理に使えるのですなぁ」
手元を覗き込むドワーフ達の感心顔に、詩は嬉しそうに胸を張る。
「すみません、お湯の番をお願いしてしまって」
「あら、美味しい料理のためだもの」
一度街まで行って食材を用意してきた大を迎えて、お湯を沸かしていたドワーフの女性がにっこり笑う。
どぶん、と海老の身を鍋に沈めて、大が急いで作るのはリアルブルー秘伝のマヨネーズ。
向こう側ではエビの焼けるいい香りが漂っていた。エニアがじゅっと醤油をかければ、香ばしい匂いとドワーフ達の歓声が上がる。
どんどん切り分けて皿に乗せて、空になったら次のエビを乗せておく。
「さぁ、焼いて食べて飲むよー♪」
「かんぱーい!」
かんかんかん、とコップや缶のぶつかり合う音。
エニアやヴァール、マコトの成人3人組は、ドワーフ達と一緒にすっかりビールを堪能中だ。
「ぷはー! この一杯のために生きておる!」
「いいよねぇこういうの」
「あ、良かったらレトルトカレー、付けたい人はどうぞ!」
「おー!」
2名くらい見た目的に違和感があるが気にしてはいけない。
エニアなんてちゃんと年齢確認できるようにIDカード持って来てるし。
アルコールが皆に回り始めた頃、今度は大のエビが茹で上がっていた。
「まずは単純に茹でたものを。こちらのマヨネーズを少し付けてお食べください」
シェフのように優雅に大が言って皿を差し出せば、次々に手が伸びる。
「おおっ! これはいいな!」
「焼くのもいいが茹でるのもいい」
「このマヨネーズっての? エビとぴったりよね!」
わいわいとはしゃぐドワーフ達とハンター達に嬉しげに微笑み、大はまた調理に取り掛かる。
ドワーフ達に混じって、いただきますと手を合わせたシェリルが、美味しそうにエビを頬張る。
「……ありがとう……美味しい」
じゅわりと噛み締めれば口いっぱいに海の幸の味が広がる。しっかりと、たくさん食べる。早く大きくなりたいから。力を付けたいから。
「でも、ヴォイドって……食べられるんだ……」
ぽつりと呟いたところで、今度は運ばれてきたのは巨大なエビフライである。
「このソースをエビフライにかけて食べてね♪」
詩がにっこり笑って巨大なエビフライをどんと鉄板を借りて置く。その迫力に、思わず歓声。
「こりゃ美味い!」
「この塩っけのある衣とソースがまた絡んで、エビがじゅーしぃで」
「ソースがいいのう。濃厚で海の味と栄養がたっぷりじゃ」
あっという間に平らげられる料理。焼きエビも醤油味に飽きたら今度はマコトからレトルトカレーが提供され、新しい味に皆が舌鼓を打つ。
「夏にこそ辛い物ですね。癖になる程よい辛さなのでどうぞ召し上がってください」
そして半分ほどエビフライがなくなったところに、今度は大がエビチリを運んでくる。
「おお、辛い!」
「だが確かにこの辛さが夏って感じだ!」
「地球の味を思い出すなぁ……」
料理を終えた大や詩も食事の輪に加わって、大いに盛り上がり大いに食べた。
成年達はさらにたっぷり飲んだ。
そして――新調した赤いビキニも鮮やかに、せっかくだからと詩が未成年のドワーフ達と共に、海へと駆けて行く。
「元気だねぇ」
ビールを空けながら、それをのんびりと眺めるエニア。
「なんの、ワシだってまだ現役じゃ」
大きな胸をさらに張る、やはり水着姿のヴァール。
「んー……しかしこのエビさん、養殖できたら訓練と食料とで一石二鳥だよね……」
「歪虚ですから難しいのではないでしょうか」
ほろ酔いの顔でにこにこ言うマコトに、真面目な顔でツッコミを入れる大。
「そっかぁ、さすがにそれは無理かぁ、あはは」
ほわぁ、と顔を緩めて楽しげなマコトである。
喧騒を遠くに聞きながら、そっと抜け出してきたシェリルは1人、海を眺めていた。
コロニー育ちの彼女は、まだ海を見たことがなかった。
(大きくて、綺麗で……私、小さい……)
自分が小さく感じて、切なくて、シェリルはぎゅっと膝を抱える。
隣に両親がいたらいいのに。そうしたらきっとこんなに心細くないのに。
(海のキラキラ……とても、眩しい……)
切なくて、心細いのに。
なぜか、海から目を離せなかった。
夕暮れの空の下、16の影が帰っていく。
潮風が、人々に仇為す歪虚を倒し、そして海を心行くまで堪能した満足げな彼らの背を、追うように吹き抜けた。
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どう料理しましょうか? 十色・T・ エニア(ka0370) 人間(リアルブルー)|15才|男性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2014/07/25 21:34:04 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/07/23 01:34:34 |