ゲスト
(ka0000)
【闇光】黒の中に、白を
マスター:香月丈流

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/10/07 12:00
- 完成日
- 2015/10/16 15:46
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
クリムゾンウェストの北部。辺境と呼ばれる地域よりも、更に北の大地……『北狄』。大昔は国や文明が栄えていたが、歪虚の大侵攻により情勢が大きく変わった。
多数の国々が滅び、多くの血が流れ、屍が山を築く。人々の悲鳴すら噛み砕き、歪虚は破壊の限りを尽くした。
全ては……マテリアルのバランスを崩し、全てを無に帰すために。
歪虚の『負のマテリアル』に汚染された大地は、命の存在を許さない。辺境領域に近い場所では濃度が低いため、即死する可能性は限り無く低いが……北上するにつれ、死の世界と化していく。草木も生えず、鳥や動物の姿も無く、痩せてヒビ割れた大地。そんな光景が、北狄では延々と広がっているのだ。
死と絶望に彩られた大地を見せられても、人々は希望を捨てない。足掻く事を止めない。未来に光がある事を信じ、前に進もうとしている。
人類の『次なる1歩』……それは、北狄への進攻。歪虚に侵された領土を取り戻すため、理不尽に散っていった先人達の無念を晴らすため、大きな合戦が始まろうとしていた。
恐らく、一番の障害となるのは『負のマテリアル』。今までは対抗する術が無かったが、東方での戦いを経て解決策が見付かった。
術者達の力と、東方の結界術を合わせれば、『負のマテリアル』の浄化が可能となる。今回の作戦が成功すれば、同様の方法で『歪虚に侵された土地』を奪い返せるだろう。
しかし……北狄への進攻が始まれば、歪虚が妨害してくるのは目に見えている。特に、今回は『浄化キャンプ』と呼ばれる地点を複数設置し、浄化術を中継して前線まで送るため、そこを集中的に狙ってくる可能性が高い。
いくつの浄化キャンプが必要か予想も出来ないが、1個でも多い方が有利に戦える。本格的な作戦を前に、新たなキャンプが作られる事になった。
多数の国々が滅び、多くの血が流れ、屍が山を築く。人々の悲鳴すら噛み砕き、歪虚は破壊の限りを尽くした。
全ては……マテリアルのバランスを崩し、全てを無に帰すために。
歪虚の『負のマテリアル』に汚染された大地は、命の存在を許さない。辺境領域に近い場所では濃度が低いため、即死する可能性は限り無く低いが……北上するにつれ、死の世界と化していく。草木も生えず、鳥や動物の姿も無く、痩せてヒビ割れた大地。そんな光景が、北狄では延々と広がっているのだ。
死と絶望に彩られた大地を見せられても、人々は希望を捨てない。足掻く事を止めない。未来に光がある事を信じ、前に進もうとしている。
人類の『次なる1歩』……それは、北狄への進攻。歪虚に侵された領土を取り戻すため、理不尽に散っていった先人達の無念を晴らすため、大きな合戦が始まろうとしていた。
恐らく、一番の障害となるのは『負のマテリアル』。今までは対抗する術が無かったが、東方での戦いを経て解決策が見付かった。
術者達の力と、東方の結界術を合わせれば、『負のマテリアル』の浄化が可能となる。今回の作戦が成功すれば、同様の方法で『歪虚に侵された土地』を奪い返せるだろう。
しかし……北狄への進攻が始まれば、歪虚が妨害してくるのは目に見えている。特に、今回は『浄化キャンプ』と呼ばれる地点を複数設置し、浄化術を中継して前線まで送るため、そこを集中的に狙ってくる可能性が高い。
いくつの浄化キャンプが必要か予想も出来ないが、1個でも多い方が有利に戦える。本格的な作戦を前に、新たなキャンプが作られる事になった。
リプレイ本文
●
肌寒い風に乗り、喧騒が北狄の地を駆け抜けていく。数体のスケルトンを蹴散らし、前進を続ける集団が1つ。その歩みが止まると、3人の術者が浄化の準備を始めた。それに伴い、護衛者の3人が周囲を固めていく。
彼ら6人の任務は、新たな浄化キャンプの設置と、その維持。歪虚に支配された土地での作業は、当然ながら危険も多い。護衛者は『浄化キャンプの維持』が目的であり、準備段階では敵が多過ぎて多勢に無勢である。
だから、術者達は覚醒者に同行を依頼したのだ。絶対の信頼を込め、護衛者の3人が静かに頭を下げる。
『準備が終わるまでの間、護衛をお願いします』という言葉と共に。
「ほいほい、まーかせて。僕達がバッチリ護衛しちゃうからさ」
その期待に応えるように、超級まりお(ka0824)が元気に言葉を返す。青いショートサロペットに、赤いシャツと帽子という服装は『誰か』を彷彿とさせるが……元気な笑顔と声は、暗い雰囲気の北狄では有難い。
「『負のマテリアル』の浄化か……長い目で見れば、こういう地道な作業こそが今必要なんだろうな」
作業を進める術者達を眺めながら、榊 兵庫(ka0010)がポツリと呟いた。表情はいつもの仏頂面だが、黒い両眼は微笑んでいるようにも見える。内心では、『新しい試み』を祝福しているのかもしれない。
「せっかく、汚染された領土を取り戻せるようになったんだ。その最初の一歩……失敗させるわけにはいかないな」
静かに闘志を燃やしているのは、柊 真司(ka0705)。金色の瞳は鋭く、冷たくて厳しそうな印象を受けるが、内面は人情に篤い熱血漢。危険をおして北狄に来た術者達に対して、感謝の念を抱いている。
「行くとしようか。『北の大地』を人の手に取り戻すために」
周囲に響く、凛とした女性の声。それは、イーディス・ノースハイド(ka2106)が放った一言だった。特注の全身鎧を身に纏い、身の丈ほどの盾を携える姿は、15歳ながらも騎士の風格に溢れている。
彼女の言葉に、仲間達が静かに頷く。浄化の準備に必要な時間は、約1時間。その間、術者達の作業を邪魔させるワケにはいかない。
周囲から襲ってくる敵を迎撃するため、ハンター達は4つの班に別れ、それぞれ東西南北を分担。術者を中心に、100m~150m程度の距離で防衛戦を展開する事になった。
浄化が始まれば、負のマテリアルが弱まって敵の数も減る。そうなれば、護衛者だけでも充分に対応できるだろう。
四方に分かれる前に、ザレム・アズール(ka0878)は護衛者の1人に駆け寄った。
「念のために、俺達が戻るまで『コレ』を持っててくれ。ま、気持ちとしてさ」
そう言って手渡したのは、エトファリカ陰陽寮で作られた護符。四神と呼ばれる聖獣が描かれ、神聖なオーラが漂っている。
とは言え、効果があるか定かではないが。
仮に効果が無かったとしても、護衛者にとっては嬉しい気遣いである。移動を始めたハンター達を見送るように、護衛者達は深々と頭を下げた。
●
移動中も若干のスケルトンと遭遇したが、それらを全て蹴散らし、2騎の騎馬が東側に到達。周囲に視線を向けると、雑魔の群れが接近してくるのがハッキリと見えた。その数……少なく見積もっても、20体。
「さて、ここから先は根競べだ……もっとも、根を上げるつもりもないがな」
向かってくる敵を正面から見据え、ロニ・カルディス(ka0551)が巨大な鎌を握り直す。神々しい鎌は彼の身長よりも大きく、2m近い。これを振り回したら、敵を纏めて薙ぎ払えそうだ。
「その意気は良いが、戦闘領域は意外に広い。体力の計算を忘れないようにな?」
ロニの隣で龍崎・カズマ(ka0178)が注意を促すが、既に臨戦態勢は整っている。黒い瞳が金色に変わり、黒い短髪がくすんだ金色に変化。身長と同程度の大剣を抜き放つと、白い光の粒が舞い散った。
視線を合わせた2人が、ほんの少しだけ微笑む。そのまま、カズマは軍馬に合図を送り、雑魔の集団に突撃した。
彼を援護するように、ロニは大鎌を掲げてマテリアルを開放。宙に影色の塊が生まれ、スケルトンに向かって飛んでいく。それが敵の頭部や脚部に直撃し、衝撃で骨が砕け散った。
足止めを受けた処に、カズマの煌剣が一閃。剣撃の軌道が白い光のように奔り、馬上から敵を斬り散らす。剣閃に触れたスケルトンは、飴細工のようにボロボロと崩れ落ちた。
『影色』と『白光』が入り乱れるのと時を同じくして、南側でも戦闘が始まっていた。
「サテ、俺達も始めまショウカ。前衛はお任せしますネ?」
オートマチック拳銃を片手に、ヒズミ・クロフォード(ka4246)がザレムに言葉を掛ける。若干の訛りがあるものの、物腰は柔らかく、雰囲気は優雅。スーツとハットを纏った姿が、それを強調している。
ヒズミの言葉に頷きつつ、ザレムは赤い弓を構えた。前衛を担当するのに異論は無いが、敵が接近する前に数を減らそうと考えている。
マテリアルの活性と共に、青眼が赤眼に変化。その状態で、ザレムは矢を放った。正確無比な一矢が、雑魔の眉間に突き刺さる。
追撃するように、ヒズミは引金を引いた。弾丸が宙を奔り抜け、額を直撃。亀裂が全身に広がり、骨の肉体が派手に砕け散った。
「どっちを見てもスケルトンだらけだね~……」
西側に到着したまりおが、溜息混じりに言葉を吐く。後方には術者達が居るが、前や左右には敵の群れ。こんな光景を見たら、誰だって愚痴をこぼすだろう。
それでも、まりおは頬を軽く叩いて気合を入れ直す。彼女の隣では、イーディスが難しい表情を浮べていた。
「まりお殿……悪いのだが、この『機械』の使い方を教えて貰えると助かる」
軍馬から颯爽と飛び降り、彼女が差し出したのは……トランシーバー。今回は別れて行動するため、緊急連絡用に全員が携帯しているのだが……イーディスは機械の扱いが苦手だったりする。ボタンが多いと、尚更に。
彼女の意外な一面に驚きながらも、思わず微笑むまりお。トランシーバーを受け取って素早くボタンを操作し、通信可能な状態にしてイーディスに返した。
と同時に、まりおは両脚にマテリアルを集中して地面を蹴る。赤い閃光の如く戦場を駆け抜け、敵の集団に突撃。試作光斬刀で敵を斬り裂き、魔導拳銃が骨を撃ち砕いていく。
数秒遅れて、イーディスが愛馬に騎乗。その状態で前進し、敵を迎え撃つ。剣の射程圏内に入ったスケルトンに、彼女の大剣が唸る。金色の刀身が走る度に、宙に骨片が舞い散った。
どの方角からも骨の砕ける音が響いているが……一番激しいのは北側。負のマテリアルが濃い事もあり、他の場所よりも敵の侵攻が多い。それを食い止めるため、担当の2人は縦横無尽に駆け回っていた。
兵庫は戦馬を操り、敵の注意を引くように大きく移動。相手が群がってきた処で急反転し、長槍で薙ぎ払った。防御を完全に無視した、攻撃特化の一撃……その全身に、血を滲ませたような傷跡が薄っすらと浮かんでいる。
覚醒状態の槍撃が敵を纏めて砕き、残骸が大地に散らばっていく。兵庫は一旦脚を止め、槍を地面に突き立てた。
「俺の槍術は、伊達や酔狂ではない。人々の明日の為、尽力させてもらう……!」
迷いが無く、力強い言葉。飾り気はないが、兵庫の決意は伝わってくる。それを感じ取る事ができない雑魔達は、兵庫の背後から剣で斬り掛かった。
直後。横合いから銃弾が飛来し、剣を撃ち砕く。更に、スケルトンの頭部や腰部に銃撃が直撃。ダメージが全身を駆け巡り、全ての骨が崩れ落ちた。
「敵は兵庫だけじゃないんだぜ? 骨らしく、静かに寝てろ!」
吼えるように、真司が大声で叫ぶ。燃え上がる闘志に呼応し、マテリアルが炎となって具現化。それを銃弾の代わりに噴射すると、扇状に広がって複数の敵を飲み込んだ。
『あと50分! この耐久レース、絶対勝つぞ!』
突如、全員のトランシーバーからザレムの声が響く。今回の防衛戦は、一時間の長丁場。仲間達の士気を下げないため、ザレムは10分毎に残り時間を叫ぶと決めていた。
「お前に言われなくても、最初からそのつもりだぜ!」
ザレムの作戦が功を奏したのか、真司が不敵な笑みを浮かべながら言葉を返す。バイクを片手で操縦し、空いた手でライフルを発射。乾いた音が周囲に響き、スケルトンの背骨を一撃で撃ち砕いた。
●
倒しても倒しても、次々に湧いてくる雑魔達。1体1体の戦闘能力は低いが、無傷で戦線を維持するのは不可能に近い。30分を過ぎた頃には、誰もが大小様々な傷を負っていた。
それでも、ハンター達の勢いは衰えない。トランシーバーでも連絡を取り合い、死角をフォローして戦闘を進めている。
「基本、多数対多数なんて言うのは詰将棋みたいなものだ。個人が幾ら頑張ろうが『集団の連携』の前では無意味だからな」
カズマの言葉は、今の戦況を指しているのだろう。数は圧倒的な差があるが、覚醒者達が劣勢ではない。むしろ、逆に押しているようにも見える。
「流石に、これだけ数が多いと面倒ではあるが……な」
ほんの少しだけ、ロニの口から弱音が零れる。今の処、相手の戦力は無尽蔵に近い。弱音や不安を斬り裂くように、ロニは大鎌を薙いだ。
防衛戦が始まってから、骨が砕ける音は途切れる事なく続いている。敵を撃ち抜くため、ヒズミは狙いを定めて銃を撃ち放った。銃声と共に弾丸が走り、直進していく。
が……銃撃は肋骨の隙間を通り抜け、狙いから逸れた。代わりに、標的の後方に居た敵に命中。腰骨に穴が穿たれ、短い亀裂が走った。
「ウーン……スナイパーには『骨の隙間』ってのが厄介デスネ」
狙いが外れ、苦笑いを浮かべるヒズミ。攻撃が無駄になったワケではないが、銃使いとして納得できない結果なのだろう。
「だったら、纏めてぶっ飛ばす! 振りまわしゃ当たんだよ!」
言うが早いか、ザレムは大剣を構える。彼のマテリアルに反応し、武器が瞬間的に巨大化。バイクのアクセルを全開にし、ザレムは突撃しながら巨大剣を振り回した。斬撃が空を斬り、数体のスケルトンが一撃で骨片と化す。
その活躍を眺めながら、ヒズミは感嘆の吐息を漏らした。ハンターとしての経験が少ない彼にとって、仲間の動きは理想的なお手本かもしれない。
そんな彼の背後から、スケルトンが剣を振り下ろす。突然の事に一瞬反応が遅れ、背中に大きな傷が刻まれた。
痛みに耐え、ヒズミは武器を持ち帰る。1mにも満たない、鉄製の工具用パイプ……スナイパーには不釣合いの品だが、それを全力で振り下ろした。鈍色の殴打が頭部に炸裂し、頭蓋骨が砕けて全身が崩れ落ちる。
「俺はスナイパーですが、ガスッと殴るくらいの力はありますヨ♪」
散りゆくスケルトンに、ヒズミは爽やか過ぎる笑顔を贈った。
●
『あと10分だ! 互いのカバーを忘れるな!』
5回目にして、最後の経過報告。ザレムは宙に三角形を描きながら、トランシーバーに向かって叫んだ。図形が光を放ち、3つの頂点から閃光が奔る。3筋の光が同時に3体の敵を貫き、力尽きた残骸が周囲に散らばった。
「りょーかい! ここで『増援が通常の10倍』なんて事にならない……よね?」
ザレムの報告を聞き、まりおが不安を口にする。最後に冗談のような増援が来るのは、ある意味、良くある事だが……。
「それは、ご遠慮願いたいね。まぁ……敵が増えても、纏めて屠るだけさ」
まりおの隣で、イーディスは一瞬だけ苦笑いを浮ながらも、すぐに盾を構えて敵の攻撃を受け止めた。長い防衛戦を経たが、彼女の負傷は最も軽い。自身だけでなく、愛馬への怪我も最小限に抑えている。
彼女の本領は、攻撃よりも『守護』。その堅牢かつ堅固な防御は、他の追随を許さないだろう。
イーディスは盾に力を込め、敵の剣や斧を弾き飛ばす。間髪入れず、大剣にマテリアルを込めて一閃。鋭い薙ぎ払いが、複数の敵を斬り飛ばした。
「そろそろ使い時か……纏めて片づけていくとしよう」
『奥の手』は、最後まで残しておくものである。ロニは大鎌にマテリアルを込め、虚空を大きく薙いだ。その動きに合わせ、光の波動が一直線に伸びていく。衝撃と閃光が雑魔の全身を打ち付け、その姿が光に溶けるように砕け散った。
「生者に赦されぬ永劫の休日だ。歓喜のままに朽ちるがいい!」
雄叫びのような叫びと共に、カズマは自身と軍馬にマテリアルを行き渡らせる。流れるような動きから一気に加速し、1つ1つの動きを連動させて更に加速。煌剣を突き出して突撃する姿は、まるで輝く牙のように見える。
人馬一体の一撃が戦場を駆け抜け、複数のスケルトンを纏めて粉砕。残骸が天高く舞い上がった。
「塵は塵に、灰は灰に……だったかね?」
問い掛けの言葉を口にするが、答えは返ってこない。もっとも、今回のスケルトンは会話能力を持っていないが。
「皆サン、頼もしい限りデスネ」
トランシーバーから響く声を聞き、ヒズミが微笑む。鉄パイプを短銃身ライフルに持ち替えると、素早く引金を引いた。
「ああ。最後の最後まで……何としても護りぬくぜ!」
真司は決意を新たに、炎と銃撃を織り交ぜる。2つの攻撃が敵の上で重なり、燃える骨片が周囲に飛び散った。
(ゴールが見えた時こそ、油断や隙が生まれるものだが……心配要らないようだな)
仲間達の様子を知り、胸を撫で下ろす兵庫。もし油断している者が居たら注意を促すつもりだったが、杞憂に終わったようだ。軽く息を吐き、残った敵の殲滅に集中した。
●
「俺たちの勝ち……だな」
満面の笑顔で、ロニが言葉を噛み締める。一時間に及ぶ戦いは終わりを告げ、無事に浄化術が発動。負のマテリアルが一気に薄まり、近隣の雑魔達は撤退していった。
「ふぅ……まだまだ『奴』のダッシュには敵わないなぁ」
戦闘中の行動を振り返り、まりおは溜息を吐いた。彼女には、憧れている人がいる。その人に近付きたくてハンターになったのだが……その道程は、まだまだ遠いようだ。
若干落ち込むまりおの隣で、イーディスは馬から降りて静かに目を閉じた。
(この勝利……我が君主、システィーナ王女に)
胸の前で両手を組み、心の中で勝利を捧げる。騎士として、民や国を守るのは当然の事だが、イーディスは王女に忠誠を誓っていた。生真面目な性格故に、この忠誠が揺らぐ事は無いだろう。
「遅々たる歩みかもしれないが、これで少しは将来への楔を打ち込むことが出来たか」
新たな浄化キャンプを眺めながら、兵庫が満足そうに呟く。今日の依頼は終わったが……『全て』が終わったワケではない。北狄の奪還作戦も残っているし、歪虚との戦いはまだまだ続く。
全てを守るために気は抜けないが……今は依頼の成功を喜び、笑い合っても良いかもしれない。
肌寒い風に乗り、喧騒が北狄の地を駆け抜けていく。数体のスケルトンを蹴散らし、前進を続ける集団が1つ。その歩みが止まると、3人の術者が浄化の準備を始めた。それに伴い、護衛者の3人が周囲を固めていく。
彼ら6人の任務は、新たな浄化キャンプの設置と、その維持。歪虚に支配された土地での作業は、当然ながら危険も多い。護衛者は『浄化キャンプの維持』が目的であり、準備段階では敵が多過ぎて多勢に無勢である。
だから、術者達は覚醒者に同行を依頼したのだ。絶対の信頼を込め、護衛者の3人が静かに頭を下げる。
『準備が終わるまでの間、護衛をお願いします』という言葉と共に。
「ほいほい、まーかせて。僕達がバッチリ護衛しちゃうからさ」
その期待に応えるように、超級まりお(ka0824)が元気に言葉を返す。青いショートサロペットに、赤いシャツと帽子という服装は『誰か』を彷彿とさせるが……元気な笑顔と声は、暗い雰囲気の北狄では有難い。
「『負のマテリアル』の浄化か……長い目で見れば、こういう地道な作業こそが今必要なんだろうな」
作業を進める術者達を眺めながら、榊 兵庫(ka0010)がポツリと呟いた。表情はいつもの仏頂面だが、黒い両眼は微笑んでいるようにも見える。内心では、『新しい試み』を祝福しているのかもしれない。
「せっかく、汚染された領土を取り戻せるようになったんだ。その最初の一歩……失敗させるわけにはいかないな」
静かに闘志を燃やしているのは、柊 真司(ka0705)。金色の瞳は鋭く、冷たくて厳しそうな印象を受けるが、内面は人情に篤い熱血漢。危険をおして北狄に来た術者達に対して、感謝の念を抱いている。
「行くとしようか。『北の大地』を人の手に取り戻すために」
周囲に響く、凛とした女性の声。それは、イーディス・ノースハイド(ka2106)が放った一言だった。特注の全身鎧を身に纏い、身の丈ほどの盾を携える姿は、15歳ながらも騎士の風格に溢れている。
彼女の言葉に、仲間達が静かに頷く。浄化の準備に必要な時間は、約1時間。その間、術者達の作業を邪魔させるワケにはいかない。
周囲から襲ってくる敵を迎撃するため、ハンター達は4つの班に別れ、それぞれ東西南北を分担。術者を中心に、100m~150m程度の距離で防衛戦を展開する事になった。
浄化が始まれば、負のマテリアルが弱まって敵の数も減る。そうなれば、護衛者だけでも充分に対応できるだろう。
四方に分かれる前に、ザレム・アズール(ka0878)は護衛者の1人に駆け寄った。
「念のために、俺達が戻るまで『コレ』を持っててくれ。ま、気持ちとしてさ」
そう言って手渡したのは、エトファリカ陰陽寮で作られた護符。四神と呼ばれる聖獣が描かれ、神聖なオーラが漂っている。
とは言え、効果があるか定かではないが。
仮に効果が無かったとしても、護衛者にとっては嬉しい気遣いである。移動を始めたハンター達を見送るように、護衛者達は深々と頭を下げた。
●
移動中も若干のスケルトンと遭遇したが、それらを全て蹴散らし、2騎の騎馬が東側に到達。周囲に視線を向けると、雑魔の群れが接近してくるのがハッキリと見えた。その数……少なく見積もっても、20体。
「さて、ここから先は根競べだ……もっとも、根を上げるつもりもないがな」
向かってくる敵を正面から見据え、ロニ・カルディス(ka0551)が巨大な鎌を握り直す。神々しい鎌は彼の身長よりも大きく、2m近い。これを振り回したら、敵を纏めて薙ぎ払えそうだ。
「その意気は良いが、戦闘領域は意外に広い。体力の計算を忘れないようにな?」
ロニの隣で龍崎・カズマ(ka0178)が注意を促すが、既に臨戦態勢は整っている。黒い瞳が金色に変わり、黒い短髪がくすんだ金色に変化。身長と同程度の大剣を抜き放つと、白い光の粒が舞い散った。
視線を合わせた2人が、ほんの少しだけ微笑む。そのまま、カズマは軍馬に合図を送り、雑魔の集団に突撃した。
彼を援護するように、ロニは大鎌を掲げてマテリアルを開放。宙に影色の塊が生まれ、スケルトンに向かって飛んでいく。それが敵の頭部や脚部に直撃し、衝撃で骨が砕け散った。
足止めを受けた処に、カズマの煌剣が一閃。剣撃の軌道が白い光のように奔り、馬上から敵を斬り散らす。剣閃に触れたスケルトンは、飴細工のようにボロボロと崩れ落ちた。
『影色』と『白光』が入り乱れるのと時を同じくして、南側でも戦闘が始まっていた。
「サテ、俺達も始めまショウカ。前衛はお任せしますネ?」
オートマチック拳銃を片手に、ヒズミ・クロフォード(ka4246)がザレムに言葉を掛ける。若干の訛りがあるものの、物腰は柔らかく、雰囲気は優雅。スーツとハットを纏った姿が、それを強調している。
ヒズミの言葉に頷きつつ、ザレムは赤い弓を構えた。前衛を担当するのに異論は無いが、敵が接近する前に数を減らそうと考えている。
マテリアルの活性と共に、青眼が赤眼に変化。その状態で、ザレムは矢を放った。正確無比な一矢が、雑魔の眉間に突き刺さる。
追撃するように、ヒズミは引金を引いた。弾丸が宙を奔り抜け、額を直撃。亀裂が全身に広がり、骨の肉体が派手に砕け散った。
「どっちを見てもスケルトンだらけだね~……」
西側に到着したまりおが、溜息混じりに言葉を吐く。後方には術者達が居るが、前や左右には敵の群れ。こんな光景を見たら、誰だって愚痴をこぼすだろう。
それでも、まりおは頬を軽く叩いて気合を入れ直す。彼女の隣では、イーディスが難しい表情を浮べていた。
「まりお殿……悪いのだが、この『機械』の使い方を教えて貰えると助かる」
軍馬から颯爽と飛び降り、彼女が差し出したのは……トランシーバー。今回は別れて行動するため、緊急連絡用に全員が携帯しているのだが……イーディスは機械の扱いが苦手だったりする。ボタンが多いと、尚更に。
彼女の意外な一面に驚きながらも、思わず微笑むまりお。トランシーバーを受け取って素早くボタンを操作し、通信可能な状態にしてイーディスに返した。
と同時に、まりおは両脚にマテリアルを集中して地面を蹴る。赤い閃光の如く戦場を駆け抜け、敵の集団に突撃。試作光斬刀で敵を斬り裂き、魔導拳銃が骨を撃ち砕いていく。
数秒遅れて、イーディスが愛馬に騎乗。その状態で前進し、敵を迎え撃つ。剣の射程圏内に入ったスケルトンに、彼女の大剣が唸る。金色の刀身が走る度に、宙に骨片が舞い散った。
どの方角からも骨の砕ける音が響いているが……一番激しいのは北側。負のマテリアルが濃い事もあり、他の場所よりも敵の侵攻が多い。それを食い止めるため、担当の2人は縦横無尽に駆け回っていた。
兵庫は戦馬を操り、敵の注意を引くように大きく移動。相手が群がってきた処で急反転し、長槍で薙ぎ払った。防御を完全に無視した、攻撃特化の一撃……その全身に、血を滲ませたような傷跡が薄っすらと浮かんでいる。
覚醒状態の槍撃が敵を纏めて砕き、残骸が大地に散らばっていく。兵庫は一旦脚を止め、槍を地面に突き立てた。
「俺の槍術は、伊達や酔狂ではない。人々の明日の為、尽力させてもらう……!」
迷いが無く、力強い言葉。飾り気はないが、兵庫の決意は伝わってくる。それを感じ取る事ができない雑魔達は、兵庫の背後から剣で斬り掛かった。
直後。横合いから銃弾が飛来し、剣を撃ち砕く。更に、スケルトンの頭部や腰部に銃撃が直撃。ダメージが全身を駆け巡り、全ての骨が崩れ落ちた。
「敵は兵庫だけじゃないんだぜ? 骨らしく、静かに寝てろ!」
吼えるように、真司が大声で叫ぶ。燃え上がる闘志に呼応し、マテリアルが炎となって具現化。それを銃弾の代わりに噴射すると、扇状に広がって複数の敵を飲み込んだ。
『あと50分! この耐久レース、絶対勝つぞ!』
突如、全員のトランシーバーからザレムの声が響く。今回の防衛戦は、一時間の長丁場。仲間達の士気を下げないため、ザレムは10分毎に残り時間を叫ぶと決めていた。
「お前に言われなくても、最初からそのつもりだぜ!」
ザレムの作戦が功を奏したのか、真司が不敵な笑みを浮かべながら言葉を返す。バイクを片手で操縦し、空いた手でライフルを発射。乾いた音が周囲に響き、スケルトンの背骨を一撃で撃ち砕いた。
●
倒しても倒しても、次々に湧いてくる雑魔達。1体1体の戦闘能力は低いが、無傷で戦線を維持するのは不可能に近い。30分を過ぎた頃には、誰もが大小様々な傷を負っていた。
それでも、ハンター達の勢いは衰えない。トランシーバーでも連絡を取り合い、死角をフォローして戦闘を進めている。
「基本、多数対多数なんて言うのは詰将棋みたいなものだ。個人が幾ら頑張ろうが『集団の連携』の前では無意味だからな」
カズマの言葉は、今の戦況を指しているのだろう。数は圧倒的な差があるが、覚醒者達が劣勢ではない。むしろ、逆に押しているようにも見える。
「流石に、これだけ数が多いと面倒ではあるが……な」
ほんの少しだけ、ロニの口から弱音が零れる。今の処、相手の戦力は無尽蔵に近い。弱音や不安を斬り裂くように、ロニは大鎌を薙いだ。
防衛戦が始まってから、骨が砕ける音は途切れる事なく続いている。敵を撃ち抜くため、ヒズミは狙いを定めて銃を撃ち放った。銃声と共に弾丸が走り、直進していく。
が……銃撃は肋骨の隙間を通り抜け、狙いから逸れた。代わりに、標的の後方に居た敵に命中。腰骨に穴が穿たれ、短い亀裂が走った。
「ウーン……スナイパーには『骨の隙間』ってのが厄介デスネ」
狙いが外れ、苦笑いを浮かべるヒズミ。攻撃が無駄になったワケではないが、銃使いとして納得できない結果なのだろう。
「だったら、纏めてぶっ飛ばす! 振りまわしゃ当たんだよ!」
言うが早いか、ザレムは大剣を構える。彼のマテリアルに反応し、武器が瞬間的に巨大化。バイクのアクセルを全開にし、ザレムは突撃しながら巨大剣を振り回した。斬撃が空を斬り、数体のスケルトンが一撃で骨片と化す。
その活躍を眺めながら、ヒズミは感嘆の吐息を漏らした。ハンターとしての経験が少ない彼にとって、仲間の動きは理想的なお手本かもしれない。
そんな彼の背後から、スケルトンが剣を振り下ろす。突然の事に一瞬反応が遅れ、背中に大きな傷が刻まれた。
痛みに耐え、ヒズミは武器を持ち帰る。1mにも満たない、鉄製の工具用パイプ……スナイパーには不釣合いの品だが、それを全力で振り下ろした。鈍色の殴打が頭部に炸裂し、頭蓋骨が砕けて全身が崩れ落ちる。
「俺はスナイパーですが、ガスッと殴るくらいの力はありますヨ♪」
散りゆくスケルトンに、ヒズミは爽やか過ぎる笑顔を贈った。
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『あと10分だ! 互いのカバーを忘れるな!』
5回目にして、最後の経過報告。ザレムは宙に三角形を描きながら、トランシーバーに向かって叫んだ。図形が光を放ち、3つの頂点から閃光が奔る。3筋の光が同時に3体の敵を貫き、力尽きた残骸が周囲に散らばった。
「りょーかい! ここで『増援が通常の10倍』なんて事にならない……よね?」
ザレムの報告を聞き、まりおが不安を口にする。最後に冗談のような増援が来るのは、ある意味、良くある事だが……。
「それは、ご遠慮願いたいね。まぁ……敵が増えても、纏めて屠るだけさ」
まりおの隣で、イーディスは一瞬だけ苦笑いを浮ながらも、すぐに盾を構えて敵の攻撃を受け止めた。長い防衛戦を経たが、彼女の負傷は最も軽い。自身だけでなく、愛馬への怪我も最小限に抑えている。
彼女の本領は、攻撃よりも『守護』。その堅牢かつ堅固な防御は、他の追随を許さないだろう。
イーディスは盾に力を込め、敵の剣や斧を弾き飛ばす。間髪入れず、大剣にマテリアルを込めて一閃。鋭い薙ぎ払いが、複数の敵を斬り飛ばした。
「そろそろ使い時か……纏めて片づけていくとしよう」
『奥の手』は、最後まで残しておくものである。ロニは大鎌にマテリアルを込め、虚空を大きく薙いだ。その動きに合わせ、光の波動が一直線に伸びていく。衝撃と閃光が雑魔の全身を打ち付け、その姿が光に溶けるように砕け散った。
「生者に赦されぬ永劫の休日だ。歓喜のままに朽ちるがいい!」
雄叫びのような叫びと共に、カズマは自身と軍馬にマテリアルを行き渡らせる。流れるような動きから一気に加速し、1つ1つの動きを連動させて更に加速。煌剣を突き出して突撃する姿は、まるで輝く牙のように見える。
人馬一体の一撃が戦場を駆け抜け、複数のスケルトンを纏めて粉砕。残骸が天高く舞い上がった。
「塵は塵に、灰は灰に……だったかね?」
問い掛けの言葉を口にするが、答えは返ってこない。もっとも、今回のスケルトンは会話能力を持っていないが。
「皆サン、頼もしい限りデスネ」
トランシーバーから響く声を聞き、ヒズミが微笑む。鉄パイプを短銃身ライフルに持ち替えると、素早く引金を引いた。
「ああ。最後の最後まで……何としても護りぬくぜ!」
真司は決意を新たに、炎と銃撃を織り交ぜる。2つの攻撃が敵の上で重なり、燃える骨片が周囲に飛び散った。
(ゴールが見えた時こそ、油断や隙が生まれるものだが……心配要らないようだな)
仲間達の様子を知り、胸を撫で下ろす兵庫。もし油断している者が居たら注意を促すつもりだったが、杞憂に終わったようだ。軽く息を吐き、残った敵の殲滅に集中した。
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「俺たちの勝ち……だな」
満面の笑顔で、ロニが言葉を噛み締める。一時間に及ぶ戦いは終わりを告げ、無事に浄化術が発動。負のマテリアルが一気に薄まり、近隣の雑魔達は撤退していった。
「ふぅ……まだまだ『奴』のダッシュには敵わないなぁ」
戦闘中の行動を振り返り、まりおは溜息を吐いた。彼女には、憧れている人がいる。その人に近付きたくてハンターになったのだが……その道程は、まだまだ遠いようだ。
若干落ち込むまりおの隣で、イーディスは馬から降りて静かに目を閉じた。
(この勝利……我が君主、システィーナ王女に)
胸の前で両手を組み、心の中で勝利を捧げる。騎士として、民や国を守るのは当然の事だが、イーディスは王女に忠誠を誓っていた。生真面目な性格故に、この忠誠が揺らぐ事は無いだろう。
「遅々たる歩みかもしれないが、これで少しは将来への楔を打ち込むことが出来たか」
新たな浄化キャンプを眺めながら、兵庫が満足そうに呟く。今日の依頼は終わったが……『全て』が終わったワケではない。北狄の奪還作戦も残っているし、歪虚との戦いはまだまだ続く。
全てを守るために気は抜けないが……今は依頼の成功を喜び、笑い合っても良いかもしれない。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/10/05 22:41:34 |
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骨無双(相談版) 龍崎・カズマ(ka0178) 人間(リアルブルー)|20才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/10/07 00:41:04 |