ゲスト
(ka0000)
山岳猟団~胎動
マスター:有坂参八

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/10/11 19:00
- 完成日
- 2015/10/18 11:20
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
辺境、パシュパティ砦……帝国を離脱し、対歪虚独立部隊となった山岳猟団がこの地に居着いて、はや数ヶ月。
赤き大地を揺るがしたあの戦いから時が経ち、世界は目まぐるしく変化し続けたが……彼らは、変わらなかった。
『歪虚討つべし』を理念とする戦い日々も、枯渇する物資も、狂気的な闘志も。
全てがそのままに、彼らは、戦い続けていた。
だが彼らとて、世界の流れから一切隔絶される事もなく……
「……まただ。今月に入って三回目だぞ」
猟団の副団長ガーハートは、物見台から門前の集団を見おろして、大きく息を吐いた。
二、三十名ほどが寄り添う、辺境部族の一団だった。顔ぶれには老若男女が入り混じり、皆一様に薄汚れ、酷い者は負傷している。
まるで……何かから逃げて来たかの様な風体だ。
「あー。ありゃぁ北方の、すんげぇ遠くに住んでる部族だ。歪虚にやられて落ち伸びてきたかね」
「俺たちの事、慈善団体かなんかと勘違いしたんじゃねーの? 歪虚殺すための集まりなんだけどな」
部族出身の団員の呟きに、隣の傭兵出身の団員が、肩をすくめた。
猟団が砦に定着してからと言うもの、同じような事は度々起こっていた。
何らかの理由で行き場を無くした者達が、国家や社会の枠に制約されない猟団に助けを求めてくるのである。
「どうする、団長。先日のヴァルカンの件もある……恐らく、保護を請われるぞ」
ガーハートが、背後を振り返って言った。
団長と呼ばれた、無骨な顔立ちの男……八重樫敦(kz0056)は、殆ど即座に回答する。
「入れてやれ」
「そうは言うがな、食料がもう危ない。また商隊が運良く謝礼を出してくれるのを期待する訳にも行くまい」
帝国軍人を出自とする副団長は、本来は兵站構築が専門だ。八重樫もその言葉を軽んじはしないものの、この時は意見を変えなかった。
「今は、入れてやれ。資質のある者は見繕って団に引き入れろ。そうでないものは、休ませた後で『ホープ』に送れ」
●
副団長と別れて、八重樫は一人、倉庫へと向かう。
その道すがら、階段へと繋がる廊下でのこと。
「団長殿。もう一件、助けを求む民の報せがございますにゃぁ」
物陰から不意に話しかけられても、八重樫は眉一つ動かさず、悠々その少女に視線を向けた。
「……シバ(kz0048)の飼猫か」
「にゃにゃ、飼猫はあんまりですにゃ。これでもこのテト(kz0107)、シバ様じまんの優秀弟子にございますにゃ」
少女は、睨まれて猫背に縮こまると、続いて猫の様な仕草と声色でテトに頭を垂れた。
シバ……今や八重樫の懐刀と噂されるまでに猟団を支えたその老兵は、数週間前にまた、姿を眩ませていた。
災厄の十三魔との戦で受けた傷が、日毎に悪くなっていたにも関わらず。
シバ本人でなく、弟子のテトが報せを持ってきたのも、恐らくは……
「……まず、報せを聞こう」しかし八重樫は、雑念を遮断した。優先順位がある。
「西方のアカルカ林道から、耳長達がやって来ますにゃ。この、パシュパティ砦を目指して」
「耳長……エルフだと?」
「それも、れっきとした戦士の一団ですにゃ。ただ……既に何処かで敗走してきた様子で」
「人間相手にか」
八重樫は眉を潜める。もし件の集団がエルフハイムから来たなどと言い出せば、話が派手に拗れる。
「いいえ。恐らくは、純粋に歪虚によって滅んだ一族ですにゃ。彼らを傷つけた『何か』も、既にアカルカ林道に蠢いてますにゃ」
「それを先に言え」
「ひにゃぁ。私達『部族なき部族』の仲間が、宙に浮かぶ箱が弾丸と稲光を放つのを見てますにゃ。回る羽根で、まるで虫みたいに飛び回ると」
八重樫の強面が、更に険しくなった。
「お心当たりがございますかにゃぁ」
「ある」
八重樫は即答した。
「だが、可能性は低い」
「にゃんでも構いませんにゃ。お聞かせくださいまし」
「ドローン。離れた主の指令に従い、回る羽根で空を飛ぶ機械だ」
「それは、青の世界の?」
「ああ。だから、まずありえん。稲光というのも気にかかる」
テトはそれを聞き、深い金色の瞳で八重樫の顔を見つめた。八重樫には何故か、その仕草がかの老兵にだぶって見えた。
「どのみち歪虚が人間の領域に踏み込んできたならば、猟団はそれを討つだけだ。森林戦に慣れた者を選抜し、救援に出す」
「それを聞いて一安心ですにゃぁ。ハンターにも招集をかけますにゃ?」
「無論」
「にゃら、そっちの案内は私が引き受けますにゃ」
と、足早に立ち去ろうとするテトを、八重樫が引き止めた。
「……まて、猫。シバの容体はどうなっている」
問われ、テトは俯く。
言葉を詰まらせ、迷ってから……ほんの小さく、掠れた声で囁いた。
「連合軍の話を聞いて、『儂はもう用済みじゃ』と」
テトの表情は、暗い。
八重樫は、そうか、と、短く応えただけだった。
●
パシュパティ砦西、アカルカ林道にて。
「いいか、敵はまだこちらの能力を推し量っている。絶対に隙を見せるな。そうすれば、振り切るチャンスが来る筈だ」
集団の先頭に立つエルフの長は、続く若者たちに語りかけた。
総勢十五名の集団に無傷な者は居ない。既に歩けず、担がれている者さえいる。
その殆どが、火傷や焦げた様な痕、あるいは、細い物体に体を貫かれた様な傷を受けていた。
彼らは慎重に歩みを進めながら、木々の間を注視し、未知の敵の襲撃を警戒し続けた。
「何だというのだ……あんな怪物、見たことがないぞ」
その敵は、彼らが今まで見たどの歪虚とも違う。
木々の間を縫って飛び、予測のつかぬ機動を取る、あれは、一体……
「また、来るぞ……」
エルフの長が、身構えた。
稲光、それから少し遅れて、破裂音。草木を切り裂き、極小の鉄塊が飛来する。
周囲には、低く不気味な……何かの唸る様な音が響いていた。
辺境、パシュパティ砦……帝国を離脱し、対歪虚独立部隊となった山岳猟団がこの地に居着いて、はや数ヶ月。
赤き大地を揺るがしたあの戦いから時が経ち、世界は目まぐるしく変化し続けたが……彼らは、変わらなかった。
『歪虚討つべし』を理念とする戦い日々も、枯渇する物資も、狂気的な闘志も。
全てがそのままに、彼らは、戦い続けていた。
だが彼らとて、世界の流れから一切隔絶される事もなく……
「……まただ。今月に入って三回目だぞ」
猟団の副団長ガーハートは、物見台から門前の集団を見おろして、大きく息を吐いた。
二、三十名ほどが寄り添う、辺境部族の一団だった。顔ぶれには老若男女が入り混じり、皆一様に薄汚れ、酷い者は負傷している。
まるで……何かから逃げて来たかの様な風体だ。
「あー。ありゃぁ北方の、すんげぇ遠くに住んでる部族だ。歪虚にやられて落ち伸びてきたかね」
「俺たちの事、慈善団体かなんかと勘違いしたんじゃねーの? 歪虚殺すための集まりなんだけどな」
部族出身の団員の呟きに、隣の傭兵出身の団員が、肩をすくめた。
猟団が砦に定着してからと言うもの、同じような事は度々起こっていた。
何らかの理由で行き場を無くした者達が、国家や社会の枠に制約されない猟団に助けを求めてくるのである。
「どうする、団長。先日のヴァルカンの件もある……恐らく、保護を請われるぞ」
ガーハートが、背後を振り返って言った。
団長と呼ばれた、無骨な顔立ちの男……八重樫敦(kz0056)は、殆ど即座に回答する。
「入れてやれ」
「そうは言うがな、食料がもう危ない。また商隊が運良く謝礼を出してくれるのを期待する訳にも行くまい」
帝国軍人を出自とする副団長は、本来は兵站構築が専門だ。八重樫もその言葉を軽んじはしないものの、この時は意見を変えなかった。
「今は、入れてやれ。資質のある者は見繕って団に引き入れろ。そうでないものは、休ませた後で『ホープ』に送れ」
●
副団長と別れて、八重樫は一人、倉庫へと向かう。
その道すがら、階段へと繋がる廊下でのこと。
「団長殿。もう一件、助けを求む民の報せがございますにゃぁ」
物陰から不意に話しかけられても、八重樫は眉一つ動かさず、悠々その少女に視線を向けた。
「……シバ(kz0048)の飼猫か」
「にゃにゃ、飼猫はあんまりですにゃ。これでもこのテト(kz0107)、シバ様じまんの優秀弟子にございますにゃ」
少女は、睨まれて猫背に縮こまると、続いて猫の様な仕草と声色でテトに頭を垂れた。
シバ……今や八重樫の懐刀と噂されるまでに猟団を支えたその老兵は、数週間前にまた、姿を眩ませていた。
災厄の十三魔との戦で受けた傷が、日毎に悪くなっていたにも関わらず。
シバ本人でなく、弟子のテトが報せを持ってきたのも、恐らくは……
「……まず、報せを聞こう」しかし八重樫は、雑念を遮断した。優先順位がある。
「西方のアカルカ林道から、耳長達がやって来ますにゃ。この、パシュパティ砦を目指して」
「耳長……エルフだと?」
「それも、れっきとした戦士の一団ですにゃ。ただ……既に何処かで敗走してきた様子で」
「人間相手にか」
八重樫は眉を潜める。もし件の集団がエルフハイムから来たなどと言い出せば、話が派手に拗れる。
「いいえ。恐らくは、純粋に歪虚によって滅んだ一族ですにゃ。彼らを傷つけた『何か』も、既にアカルカ林道に蠢いてますにゃ」
「それを先に言え」
「ひにゃぁ。私達『部族なき部族』の仲間が、宙に浮かぶ箱が弾丸と稲光を放つのを見てますにゃ。回る羽根で、まるで虫みたいに飛び回ると」
八重樫の強面が、更に険しくなった。
「お心当たりがございますかにゃぁ」
「ある」
八重樫は即答した。
「だが、可能性は低い」
「にゃんでも構いませんにゃ。お聞かせくださいまし」
「ドローン。離れた主の指令に従い、回る羽根で空を飛ぶ機械だ」
「それは、青の世界の?」
「ああ。だから、まずありえん。稲光というのも気にかかる」
テトはそれを聞き、深い金色の瞳で八重樫の顔を見つめた。八重樫には何故か、その仕草がかの老兵にだぶって見えた。
「どのみち歪虚が人間の領域に踏み込んできたならば、猟団はそれを討つだけだ。森林戦に慣れた者を選抜し、救援に出す」
「それを聞いて一安心ですにゃぁ。ハンターにも招集をかけますにゃ?」
「無論」
「にゃら、そっちの案内は私が引き受けますにゃ」
と、足早に立ち去ろうとするテトを、八重樫が引き止めた。
「……まて、猫。シバの容体はどうなっている」
問われ、テトは俯く。
言葉を詰まらせ、迷ってから……ほんの小さく、掠れた声で囁いた。
「連合軍の話を聞いて、『儂はもう用済みじゃ』と」
テトの表情は、暗い。
八重樫は、そうか、と、短く応えただけだった。
●
パシュパティ砦西、アカルカ林道にて。
「いいか、敵はまだこちらの能力を推し量っている。絶対に隙を見せるな。そうすれば、振り切るチャンスが来る筈だ」
集団の先頭に立つエルフの長は、続く若者たちに語りかけた。
総勢十五名の集団に無傷な者は居ない。既に歩けず、担がれている者さえいる。
その殆どが、火傷や焦げた様な痕、あるいは、細い物体に体を貫かれた様な傷を受けていた。
彼らは慎重に歩みを進めながら、木々の間を注視し、未知の敵の襲撃を警戒し続けた。
「何だというのだ……あんな怪物、見たことがないぞ」
その敵は、彼らが今まで見たどの歪虚とも違う。
木々の間を縫って飛び、予測のつかぬ機動を取る、あれは、一体……
「また、来るぞ……」
エルフの長が、身構えた。
稲光、それから少し遅れて、破裂音。草木を切り裂き、極小の鉄塊が飛来する。
周囲には、低く不気味な……何かの唸る様な音が響いていた。
リプレイ本文
●
「勝手ながら俺も山岳猟団の一員と思ってますので、召集に馳せ参じました。歪虚討つべし、その想いは常に共にあります」
猟団即応員のラシュディア・シュタインバーグ(ka1779)が、開口一番に恭しく挨拶する。
今回同行する猟団員達は、見知った彼の姿に「今更水臭い」と笑った。
「ハンター側から、作戦の提案があるのですが」
「聞くぜ。団長からはハンターと協議しろって言われてる」
団員達が快い態度を見せた所で、ルシオ・セレステ(ka0673)が細かな作戦を説明した。
「索敵の為に、部隊を二手に分けたいんだ。協力してもらえるかな。特に霊闘士の二人には、超聴覚で周囲を探って欲しい」
ルシオから説明された作戦の殆どを、猟団員は承諾した。
会話中、『男性にしては』妙に柔らかなルシオの声音を、微かに気にする様子を見せたが……
「肝心な所を頼ってばかりで申し訳ないけれど……貴方たちの庭だ。宜しく頼む」
しかしそれも一瞬の事。ルシオが頭を下げると、彼らは即座に行動に移った。
「先導はテトさんにお願いするよ。現場の位置も判るのかな」
ジュード・エアハート(ka0410)が、テトに問う。テトは親指をぐっと立てた。
「ばっちり、把握しておりますにゃ」
そうして救援隊は、森の中程までテトの背を追って歩いた後、隊を分ける手筈を決めた。
現場へのみちすがら。
「……シバさんの馬鹿! 無理したら駄目なのに」
天竜寺 詩(ka0396)が、小さな握り拳を作り叫んだのは、テトからシバの容体を聞かされての事だ。
戦傷が膿み高熱に襲われてなお老人は、いかなる理由か周囲の静止を振り払い働き続けているという。
その話を聞いていた金髪の青年、エアルドフリス(ka1856)も眉を潜める。
「……まずは、目の前の義務を果たすとするかね」
誰にともなく、呟く。
彼を始め、聴覚を澄ませた者達には既に、微かな異音が届き始めていた。
八重樫が出発前に語っていた『虫が羽ばたく様な、低い風切り音……』。
「なにか聞こえるか?」
エアルドフリスは、猟団の霊闘士に問うた。聴聴覚を発動する彼らの聴覚は、一団の中で最も鋭敏だ。
「風切り矢の音、銃声、人の叫び、それにブーンっつう……羽音」
「間違いないね」
ジュードが、魔導拳銃の安全装置を外した。
それから、トランシーバーでもう片方の班に呼びかける。
スピーカーからは、ノイズに混じって了解、という声が聞こえた。
●
発見時の位置関係で言えば、現場に近いのはルシオ、ラシュディア、そしてリュー・グランフェスト(ka2419)達の班だった。
「無人機ごときに好きにされてたまるかよ……今行くぜ!」
リューが先陣切ってエルフ達に駆け寄ると、彼らは明らかな安堵の表情を浮かべた。
「救援か」
「そんな所だ。俺はリュー、リュー・グランフェストってんだ」
「有り難い」
真っ直ぐ向けたリューの視線に、エルフの長は深い青色の瞳で見つめ返す。
しかし、響く銃声に邂逅の時間が阻まれた。
「俺とリューさんで時間を稼ぎます。ルシオさん」「任せて」
後から追いついてきたラシュディアの言葉を受け、ルシオは直ぐ様エルフの治療に掛かった。
「……酷い怪我だ」
迷わずヒーリングスフィアを用いるも、一度の治療では凡そ追いつかぬ被害。
特に、瀕死の重傷者が三人も居るのがまずい。
「ラシュディア、ジュード達に連絡してくれ。当初の予定通り頼むと」
と、ルシオ。
ラシュディアは慣れた手つきでトランシーバーを操作し、マイクに語り始めた。
「こちらB班、救出対象と合流しました。敵もこちらに居るので対処を……」
ざざ、ざ、ざ。
その時……トランシーバーが、奇妙なノイズを吐いた。
そして、次の瞬間。
『掌握下の帯域に不正な発信を検知しました。保護規定に基づき、対抗措置を実施します』
「……!?」
スピーカーから、不気味な程クリアで甲高い声。次に、強烈な閃光。誰もの視界が、真っ白に染まる。
「ぐあっ!」
殿に立とうとしたリューと猟団員、それにエルフ数名が、強烈な放電に巻き込まれた。
ラシュディアは、状況の把握に努めながら、通信を回復しようとしたが……
「無線機が……故障?」
手の中のトランシーバーは、音どころか電源ランプの光さえ発しなくなっていた。
同時に、リューにも異変。
「なんだ、ムラマサが……おい、動いてくれよ!」
握りしめた機械刀「オートMURAMASA」が突如、モーターの駆動を止めてしまったのだ。
そして、その瞬間を狙いすましたかの様に、『六つの回転翼を持つ機銃付きの箱』……マルチコプタードローンがリューの目の前に姿を表した。
●
異常は、班を分けた詩、ジュード、エアルドフリス達をも襲っていた。
トランシーバーが沈黙した瞬間、彼らの方にもドローンが現れたのだ。
「来るぞ!」
羽音を聞き取った猟団員が警告した直後、ドローンが機体下部の機銃を発射してくる。
先頭に立つその猟団員の体が、撃ちぬかれた。
「こいつは二体目って所かね」
エアルドフリスは迷わず災恵如雨を詠唱し、ドローンの翼めがけて水の弾丸を発射した。
未知の敵であろうと、飛んでいるならば翼を狙うのが道理。案の定、水弾に打たれたドローンの姿勢が崩れる。
「私はあまり前に出られないから。お願いします」
詩は落ち着いてヒーリングスフィアを唱え、撃たれた霊闘士を治癒してから、次に彼にプロテクションを施した。
本来であれば交戦後に団員の班分けを入れ替える予定だったが、最早そのような余裕はあるまい。
団員達も含むハンターが迎撃の姿勢を取る中、ジュードは沈黙したトランシーバーを即座に見切り、魔導短伝話で状況の確認を試みる。
その判断は、吉と出た。短伝話に応答したのは、ルシオ。
『件のエルフ達には会えたけど、敵の歪虚とも遭遇してる。救援に来れる?』
「……すまない、こっちも別の個体に襲われてて。でも……すぐに、そちらに行くから」
ジュードは手短に交信を終え、目の前のドローンに向き直る。
きっ、と表情を締めたジュードの肩を、エアルドフリスがそっと叩いた。
「どのみち倒して安全を確保する予定だったんだ、手早く済まそうじゃないか。なぁ、ジュード」
「……任せて、エアさん」
友の言葉を背に受けて、ジュードは一度だけ大きく息を吐き、また吸った。
次の瞬間、ジュードの魔導拳銃が火を放つ。
「堕ちろ」
銃を腰の高さに構え、ガンマンめいたファニングショット。
無数の弾丸が光の尾を引く銀雨となって、ドローンめがけ降り注ぐ。
弾丸に貫かれ、六つのプロペラのうち一枚が歪み、目に見えて動作が鈍る。
その隙にハンターと猟団員は散開し、機動を鈍らせたドローンを包囲した。
「街道に押し出せばいいんだよね!」
間合いに飛び込んできたドローンに、詩がセイクリッドフラッシュを見舞う。
いかに素早いとはいえ、相手は一機だ。
続く猟団員も矢継ぎ早の攻撃を加え、敵を徐々に、遮蔽物の少ない街道の真ん中へと、追い込んでいく。
それは、焦りを抑える様に、けれど、苛烈に。
●
『……すぐに、向かうから』
ジュードとの通信が切れてから、暫く。
ルシオ、ラシュディア、リュー達の班は、歪虚相手に防戦を続けていた。
(故郷を離れ生きる道を選んだ同胞たちから……これ以上、何も奪わせはしない)
呼吸を荒げながら、ルシオは持てるマテリアルの全てを、エルフ達の治癒と保護に注いでいた。
守る者を背負っての戦いは、辛い。
必死に応急処置を施し続けているとはいえ、一つ間違えば死者が出かねない状況は変わらない。
それでもルシオは、猟団の聖導士と共に一心不乱の治療を続けた。この場でそれを担えるのは、彼女達だけであったから。
ドローンは相変わらず、絶妙な距離を保ちながらじわじわと攻撃を加えてくる。
反撃のきっかけを掴めない中、必死に敵の攻撃を凌いでいるのはリューとラシュディアだ。
リューは駆動を止めた機械刀で守りの構えを取り、殿として幾度もエルフ達の盾となった。
「大丈夫か、少年」
背後で矢を番えるエルフの戦士に問われ、リューは、力強く笑った。
「騎士が立ってる間に他の仲間が傷つくなんざ、恥以外のなにもんでもないからな!」
その体は既に傷だらけだが、騎士を自負する少年の表情に恐れなく。
焦ってはならない。反撃の機は来る。
リューが防ぎきれぬ流れ弾は、ラシュディアのアースウォールが遮ってくれている。
ラシュディアの意図は、ただ敵の射線を遮るに留まらない。その、挙動を見るにある。
(間違いなく、土壁を認識して回りこんで来てる。知性があるのか、それとも……)
ドローンの挙動を見つめながら、ラシュディアは灰色の杖を握りしめた。
無線機や機械刀の故障は、まず間違いなくこの歪虚に関連する現象であろう。
或いは、リアルブルーの機械知識に詳しいものであれば何か判るかもしれないが。
「森の中で戦っていては不利だ。少しずつ後退して、街道側に引きずりだそう」
ヒーリングスフィアを全て使い切って、ルシオが言った。
「我らも遮蔽を失う事になるぞ」
不安げな表情になったエルフ……同胞の言葉に、ルシオは努めて穏やかに答えた。
「私達が盾になり剣になる。信じて欲しい、生き延びるために」
●
そうして、押すと引くの違いはあれどハンター達の2つの班が街道に出たのは、殆ど同時だった。
比して状況が良かったのは、ジュードらのA班だ。
詩は視界に入ったエルフ達の様子を見ると即座に、ルシオに駆け寄った。
「大丈夫、直ぐに治すからね!」
言い終える前にヒーリングスフィアを唱え、重傷者をまとめて治療する。
一方、得物を弓に持ち替えたジュードは、冷気のを宿した鏃……青霜を放ち、対峙するドローンの機動を抑えこんでいた。
その隙に、猟団員の疾影士と霊闘士が攻撃を引きつけながら、敵への距離を詰めて挟撃。
止めにエアルドフリスが蒼炎箭を叩き込むという、鮮やかな連携が完成する。
「これじゃ撃ち合いにもならないな」
呟きながら、エアルドフリスは逡巡した。
ドローンは未だ戦意を失っておらず、相変わらず一定の距離から銃撃を仕掛けてくる。
(一体、何のために)
彼と同じ事を、ラシュディアも考えていた。
彼らはこの歪虚に指令を出している存在も探ったが、戦場に他の歪虚らしき存在は見えなかった。
ラシュディアがファイアーボールを放つ。
敵はいかなる知覚に依ってか、回避を試みる。そして、一度、わずかに動きを止める。
(恐らく、アレは……)
ラシュディアは直感ながら、一つの仮定を結論づけた。
出発前に八重樫が語った、あの歪虚の原型となった機械の、本来の用途。
「力を、推し量ってる……?」
「恐らくは、な」
ラシュディアの言葉に、傍らのエルフ達が頷いた。
護衛と治療の甲斐あって、エルフのうち約半数は戦線に復帰できるほどに回復していた。
森の民の矢と魔術が、ドローンに十字砲火の如く襲いかかる。
二体のドローンは満身創痍となって、漸く退却の姿勢に入った。
「遅ェ!」
森に入ろうとしたドローンの前に飛び出したのは側面に回りこんでいたリューだ。
無駄なく正確だが、それ故に単調な敵の動きを、リューは既に読み切っていた。
駆動の止まったオートMURAMASAは、しかし未だリューの溢れるマテリアルに応え、重々しい衝撃波を放出する。
攻撃を受けたドローンは、潰れた羽虫の様にひしゃげて砕け、地に落ちて動きを止めた。
「こっちは仕留めた、残りは……!」
「任せて!」
リューが叫ぶのと、ジュードの弓が閃光を放つのは同時。
青霜の矢が、ドローンの胴体部を真っ二つに圧し折ると、程なくして森に静寂が訪れた。、
●
「感謝する。この恩は一生忘れまい」
パシュパティ砦まで護送された後、エルフ達の長は深く頭を垂れてそう、礼を述べた。
「皆、命に別状はないよ……時間は掛かるけど、治る傷だ」
重傷者の手当を終えたルシオがやってきて、大きく息をついた。
彼女の言葉に、エルフの長も安堵の表情を浮かべる。
「エルフさんだったら、あっさりした料理の方が口にあうかな?」
そう言って詩が差し出したのは、野菜を煮込んだスープだった。
文化の違う相手の味覚に合うか少し不安だったが、エルフ達は喜んで、詩の料理を口にした。
「我らは故郷の森を歪虚に滅ぼされ、最早失うものもない。山岳猟団の噂を聞き、力を添える為に来た」
十五人のエルフはそう言って猟団への参加を望み、八重樫はただ頷く。
話を聞いていたラシュディアは「僭越ながら」と八重樫に声をかけた……エルフには、聞こえない様に。
「最近の猟団が、キャパを超えてでも避難民を受け入れようとするのは何か意図があるのですか」
「不服か」
「いいえ。ただ、その戦略がわかれば、俺達も協力できる事があるかもしれません」
「……合理だ。それ以上の理由はない」
八重樫は語った。
猟団は力づくで帝国を脱し義勇軍となったが、直後に連合軍などという枠ができてしまったのが『まずかった』と。
「猟団が行動次第では、帝国以外の社会、特に部族からさえ圧力を受ける恐れがある……ということかね」
エアルドフリスは何かを考え込みながら、感情を抑えた声で口を挟んだ。それは彼にも、無関係な問題では無かったから。
八重樫は頷く。今は、大義名分で猟団を守る必要があるという。
大きな枠が救う事のできぬ、零れた人々を救う枠として。
「中にはこのエルフ達の様に、俺達に利する者も居る」
「歪虚を、討つ為に……それが、『合理』?」
ラシュディアの言葉に、八重樫は頷いた。
一方、砦の広間では、ハンターや団員達が集まる中、エアルドフリスが持ち帰った歪虚の残骸が並べられていた。
「殆ど、リアルブルーの機械と変わらない様に見えるね」
用途の解らない金属板をつまみ上げて、ジュードが言った。
となりでリアルブルー出身の猟団員がああでもないこうでもないと言っているが、結論はいずれ出る事だろう。
「こんな機械に翻弄されてたって思うと、ちょっと納得行かないな」
リューは不満気だ。
オートMURAMASAやトランシーバーは正常な機能を取り戻しているが、歪虚から何らかの妨害を受けたのは事実だ。
「それなんだけどよ、電撃と一緒に機械が止まったんなら電磁パルスなんじゃねぇかなぁ」
つぶやいた一人の団員の表情を、リューが覗きこむ。
「なんだよ、それ?」
「リアルブルーの機械は強力な雷なんかの影響で偶に止まっちまうんだ。目に見えねえ効果だから厄介だよ」
「……へえ」
異国の人間から聞かされる異国の知識を、リューは意外にも真剣な表情で聞き入っていた。
次に同じ敵と対峙した時に、もっとよく戦う事が出来る様に。
もっとよく、守ることができる様に、と。
「勝手ながら俺も山岳猟団の一員と思ってますので、召集に馳せ参じました。歪虚討つべし、その想いは常に共にあります」
猟団即応員のラシュディア・シュタインバーグ(ka1779)が、開口一番に恭しく挨拶する。
今回同行する猟団員達は、見知った彼の姿に「今更水臭い」と笑った。
「ハンター側から、作戦の提案があるのですが」
「聞くぜ。団長からはハンターと協議しろって言われてる」
団員達が快い態度を見せた所で、ルシオ・セレステ(ka0673)が細かな作戦を説明した。
「索敵の為に、部隊を二手に分けたいんだ。協力してもらえるかな。特に霊闘士の二人には、超聴覚で周囲を探って欲しい」
ルシオから説明された作戦の殆どを、猟団員は承諾した。
会話中、『男性にしては』妙に柔らかなルシオの声音を、微かに気にする様子を見せたが……
「肝心な所を頼ってばかりで申し訳ないけれど……貴方たちの庭だ。宜しく頼む」
しかしそれも一瞬の事。ルシオが頭を下げると、彼らは即座に行動に移った。
「先導はテトさんにお願いするよ。現場の位置も判るのかな」
ジュード・エアハート(ka0410)が、テトに問う。テトは親指をぐっと立てた。
「ばっちり、把握しておりますにゃ」
そうして救援隊は、森の中程までテトの背を追って歩いた後、隊を分ける手筈を決めた。
現場へのみちすがら。
「……シバさんの馬鹿! 無理したら駄目なのに」
天竜寺 詩(ka0396)が、小さな握り拳を作り叫んだのは、テトからシバの容体を聞かされての事だ。
戦傷が膿み高熱に襲われてなお老人は、いかなる理由か周囲の静止を振り払い働き続けているという。
その話を聞いていた金髪の青年、エアルドフリス(ka1856)も眉を潜める。
「……まずは、目の前の義務を果たすとするかね」
誰にともなく、呟く。
彼を始め、聴覚を澄ませた者達には既に、微かな異音が届き始めていた。
八重樫が出発前に語っていた『虫が羽ばたく様な、低い風切り音……』。
「なにか聞こえるか?」
エアルドフリスは、猟団の霊闘士に問うた。聴聴覚を発動する彼らの聴覚は、一団の中で最も鋭敏だ。
「風切り矢の音、銃声、人の叫び、それにブーンっつう……羽音」
「間違いないね」
ジュードが、魔導拳銃の安全装置を外した。
それから、トランシーバーでもう片方の班に呼びかける。
スピーカーからは、ノイズに混じって了解、という声が聞こえた。
●
発見時の位置関係で言えば、現場に近いのはルシオ、ラシュディア、そしてリュー・グランフェスト(ka2419)達の班だった。
「無人機ごときに好きにされてたまるかよ……今行くぜ!」
リューが先陣切ってエルフ達に駆け寄ると、彼らは明らかな安堵の表情を浮かべた。
「救援か」
「そんな所だ。俺はリュー、リュー・グランフェストってんだ」
「有り難い」
真っ直ぐ向けたリューの視線に、エルフの長は深い青色の瞳で見つめ返す。
しかし、響く銃声に邂逅の時間が阻まれた。
「俺とリューさんで時間を稼ぎます。ルシオさん」「任せて」
後から追いついてきたラシュディアの言葉を受け、ルシオは直ぐ様エルフの治療に掛かった。
「……酷い怪我だ」
迷わずヒーリングスフィアを用いるも、一度の治療では凡そ追いつかぬ被害。
特に、瀕死の重傷者が三人も居るのがまずい。
「ラシュディア、ジュード達に連絡してくれ。当初の予定通り頼むと」
と、ルシオ。
ラシュディアは慣れた手つきでトランシーバーを操作し、マイクに語り始めた。
「こちらB班、救出対象と合流しました。敵もこちらに居るので対処を……」
ざざ、ざ、ざ。
その時……トランシーバーが、奇妙なノイズを吐いた。
そして、次の瞬間。
『掌握下の帯域に不正な発信を検知しました。保護規定に基づき、対抗措置を実施します』
「……!?」
スピーカーから、不気味な程クリアで甲高い声。次に、強烈な閃光。誰もの視界が、真っ白に染まる。
「ぐあっ!」
殿に立とうとしたリューと猟団員、それにエルフ数名が、強烈な放電に巻き込まれた。
ラシュディアは、状況の把握に努めながら、通信を回復しようとしたが……
「無線機が……故障?」
手の中のトランシーバーは、音どころか電源ランプの光さえ発しなくなっていた。
同時に、リューにも異変。
「なんだ、ムラマサが……おい、動いてくれよ!」
握りしめた機械刀「オートMURAMASA」が突如、モーターの駆動を止めてしまったのだ。
そして、その瞬間を狙いすましたかの様に、『六つの回転翼を持つ機銃付きの箱』……マルチコプタードローンがリューの目の前に姿を表した。
●
異常は、班を分けた詩、ジュード、エアルドフリス達をも襲っていた。
トランシーバーが沈黙した瞬間、彼らの方にもドローンが現れたのだ。
「来るぞ!」
羽音を聞き取った猟団員が警告した直後、ドローンが機体下部の機銃を発射してくる。
先頭に立つその猟団員の体が、撃ちぬかれた。
「こいつは二体目って所かね」
エアルドフリスは迷わず災恵如雨を詠唱し、ドローンの翼めがけて水の弾丸を発射した。
未知の敵であろうと、飛んでいるならば翼を狙うのが道理。案の定、水弾に打たれたドローンの姿勢が崩れる。
「私はあまり前に出られないから。お願いします」
詩は落ち着いてヒーリングスフィアを唱え、撃たれた霊闘士を治癒してから、次に彼にプロテクションを施した。
本来であれば交戦後に団員の班分けを入れ替える予定だったが、最早そのような余裕はあるまい。
団員達も含むハンターが迎撃の姿勢を取る中、ジュードは沈黙したトランシーバーを即座に見切り、魔導短伝話で状況の確認を試みる。
その判断は、吉と出た。短伝話に応答したのは、ルシオ。
『件のエルフ達には会えたけど、敵の歪虚とも遭遇してる。救援に来れる?』
「……すまない、こっちも別の個体に襲われてて。でも……すぐに、そちらに行くから」
ジュードは手短に交信を終え、目の前のドローンに向き直る。
きっ、と表情を締めたジュードの肩を、エアルドフリスがそっと叩いた。
「どのみち倒して安全を確保する予定だったんだ、手早く済まそうじゃないか。なぁ、ジュード」
「……任せて、エアさん」
友の言葉を背に受けて、ジュードは一度だけ大きく息を吐き、また吸った。
次の瞬間、ジュードの魔導拳銃が火を放つ。
「堕ちろ」
銃を腰の高さに構え、ガンマンめいたファニングショット。
無数の弾丸が光の尾を引く銀雨となって、ドローンめがけ降り注ぐ。
弾丸に貫かれ、六つのプロペラのうち一枚が歪み、目に見えて動作が鈍る。
その隙にハンターと猟団員は散開し、機動を鈍らせたドローンを包囲した。
「街道に押し出せばいいんだよね!」
間合いに飛び込んできたドローンに、詩がセイクリッドフラッシュを見舞う。
いかに素早いとはいえ、相手は一機だ。
続く猟団員も矢継ぎ早の攻撃を加え、敵を徐々に、遮蔽物の少ない街道の真ん中へと、追い込んでいく。
それは、焦りを抑える様に、けれど、苛烈に。
●
『……すぐに、向かうから』
ジュードとの通信が切れてから、暫く。
ルシオ、ラシュディア、リュー達の班は、歪虚相手に防戦を続けていた。
(故郷を離れ生きる道を選んだ同胞たちから……これ以上、何も奪わせはしない)
呼吸を荒げながら、ルシオは持てるマテリアルの全てを、エルフ達の治癒と保護に注いでいた。
守る者を背負っての戦いは、辛い。
必死に応急処置を施し続けているとはいえ、一つ間違えば死者が出かねない状況は変わらない。
それでもルシオは、猟団の聖導士と共に一心不乱の治療を続けた。この場でそれを担えるのは、彼女達だけであったから。
ドローンは相変わらず、絶妙な距離を保ちながらじわじわと攻撃を加えてくる。
反撃のきっかけを掴めない中、必死に敵の攻撃を凌いでいるのはリューとラシュディアだ。
リューは駆動を止めた機械刀で守りの構えを取り、殿として幾度もエルフ達の盾となった。
「大丈夫か、少年」
背後で矢を番えるエルフの戦士に問われ、リューは、力強く笑った。
「騎士が立ってる間に他の仲間が傷つくなんざ、恥以外のなにもんでもないからな!」
その体は既に傷だらけだが、騎士を自負する少年の表情に恐れなく。
焦ってはならない。反撃の機は来る。
リューが防ぎきれぬ流れ弾は、ラシュディアのアースウォールが遮ってくれている。
ラシュディアの意図は、ただ敵の射線を遮るに留まらない。その、挙動を見るにある。
(間違いなく、土壁を認識して回りこんで来てる。知性があるのか、それとも……)
ドローンの挙動を見つめながら、ラシュディアは灰色の杖を握りしめた。
無線機や機械刀の故障は、まず間違いなくこの歪虚に関連する現象であろう。
或いは、リアルブルーの機械知識に詳しいものであれば何か判るかもしれないが。
「森の中で戦っていては不利だ。少しずつ後退して、街道側に引きずりだそう」
ヒーリングスフィアを全て使い切って、ルシオが言った。
「我らも遮蔽を失う事になるぞ」
不安げな表情になったエルフ……同胞の言葉に、ルシオは努めて穏やかに答えた。
「私達が盾になり剣になる。信じて欲しい、生き延びるために」
●
そうして、押すと引くの違いはあれどハンター達の2つの班が街道に出たのは、殆ど同時だった。
比して状況が良かったのは、ジュードらのA班だ。
詩は視界に入ったエルフ達の様子を見ると即座に、ルシオに駆け寄った。
「大丈夫、直ぐに治すからね!」
言い終える前にヒーリングスフィアを唱え、重傷者をまとめて治療する。
一方、得物を弓に持ち替えたジュードは、冷気のを宿した鏃……青霜を放ち、対峙するドローンの機動を抑えこんでいた。
その隙に、猟団員の疾影士と霊闘士が攻撃を引きつけながら、敵への距離を詰めて挟撃。
止めにエアルドフリスが蒼炎箭を叩き込むという、鮮やかな連携が完成する。
「これじゃ撃ち合いにもならないな」
呟きながら、エアルドフリスは逡巡した。
ドローンは未だ戦意を失っておらず、相変わらず一定の距離から銃撃を仕掛けてくる。
(一体、何のために)
彼と同じ事を、ラシュディアも考えていた。
彼らはこの歪虚に指令を出している存在も探ったが、戦場に他の歪虚らしき存在は見えなかった。
ラシュディアがファイアーボールを放つ。
敵はいかなる知覚に依ってか、回避を試みる。そして、一度、わずかに動きを止める。
(恐らく、アレは……)
ラシュディアは直感ながら、一つの仮定を結論づけた。
出発前に八重樫が語った、あの歪虚の原型となった機械の、本来の用途。
「力を、推し量ってる……?」
「恐らくは、な」
ラシュディアの言葉に、傍らのエルフ達が頷いた。
護衛と治療の甲斐あって、エルフのうち約半数は戦線に復帰できるほどに回復していた。
森の民の矢と魔術が、ドローンに十字砲火の如く襲いかかる。
二体のドローンは満身創痍となって、漸く退却の姿勢に入った。
「遅ェ!」
森に入ろうとしたドローンの前に飛び出したのは側面に回りこんでいたリューだ。
無駄なく正確だが、それ故に単調な敵の動きを、リューは既に読み切っていた。
駆動の止まったオートMURAMASAは、しかし未だリューの溢れるマテリアルに応え、重々しい衝撃波を放出する。
攻撃を受けたドローンは、潰れた羽虫の様にひしゃげて砕け、地に落ちて動きを止めた。
「こっちは仕留めた、残りは……!」
「任せて!」
リューが叫ぶのと、ジュードの弓が閃光を放つのは同時。
青霜の矢が、ドローンの胴体部を真っ二つに圧し折ると、程なくして森に静寂が訪れた。、
●
「感謝する。この恩は一生忘れまい」
パシュパティ砦まで護送された後、エルフ達の長は深く頭を垂れてそう、礼を述べた。
「皆、命に別状はないよ……時間は掛かるけど、治る傷だ」
重傷者の手当を終えたルシオがやってきて、大きく息をついた。
彼女の言葉に、エルフの長も安堵の表情を浮かべる。
「エルフさんだったら、あっさりした料理の方が口にあうかな?」
そう言って詩が差し出したのは、野菜を煮込んだスープだった。
文化の違う相手の味覚に合うか少し不安だったが、エルフ達は喜んで、詩の料理を口にした。
「我らは故郷の森を歪虚に滅ぼされ、最早失うものもない。山岳猟団の噂を聞き、力を添える為に来た」
十五人のエルフはそう言って猟団への参加を望み、八重樫はただ頷く。
話を聞いていたラシュディアは「僭越ながら」と八重樫に声をかけた……エルフには、聞こえない様に。
「最近の猟団が、キャパを超えてでも避難民を受け入れようとするのは何か意図があるのですか」
「不服か」
「いいえ。ただ、その戦略がわかれば、俺達も協力できる事があるかもしれません」
「……合理だ。それ以上の理由はない」
八重樫は語った。
猟団は力づくで帝国を脱し義勇軍となったが、直後に連合軍などという枠ができてしまったのが『まずかった』と。
「猟団が行動次第では、帝国以外の社会、特に部族からさえ圧力を受ける恐れがある……ということかね」
エアルドフリスは何かを考え込みながら、感情を抑えた声で口を挟んだ。それは彼にも、無関係な問題では無かったから。
八重樫は頷く。今は、大義名分で猟団を守る必要があるという。
大きな枠が救う事のできぬ、零れた人々を救う枠として。
「中にはこのエルフ達の様に、俺達に利する者も居る」
「歪虚を、討つ為に……それが、『合理』?」
ラシュディアの言葉に、八重樫は頷いた。
一方、砦の広間では、ハンターや団員達が集まる中、エアルドフリスが持ち帰った歪虚の残骸が並べられていた。
「殆ど、リアルブルーの機械と変わらない様に見えるね」
用途の解らない金属板をつまみ上げて、ジュードが言った。
となりでリアルブルー出身の猟団員がああでもないこうでもないと言っているが、結論はいずれ出る事だろう。
「こんな機械に翻弄されてたって思うと、ちょっと納得行かないな」
リューは不満気だ。
オートMURAMASAやトランシーバーは正常な機能を取り戻しているが、歪虚から何らかの妨害を受けたのは事実だ。
「それなんだけどよ、電撃と一緒に機械が止まったんなら電磁パルスなんじゃねぇかなぁ」
つぶやいた一人の団員の表情を、リューが覗きこむ。
「なんだよ、それ?」
「リアルブルーの機械は強力な雷なんかの影響で偶に止まっちまうんだ。目に見えねえ効果だから厄介だよ」
「……へえ」
異国の人間から聞かされる異国の知識を、リューは意外にも真剣な表情で聞き入っていた。
次に同じ敵と対峙した時に、もっとよく戦う事が出来る様に。
もっとよく、守ることができる様に、と。
依頼結果
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MVP一覧
- 杏とユニスの先生
ルシオ・セレステ(ka0673)
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 ジュード・エアハート(ka0410) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/10/11 18:22:30 |
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質問卓 エアルドフリス(ka1856) 人間(クリムゾンウェスト)|30才|男性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2015/10/11 14:44:54 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/10/07 00:17:49 |