ゲスト
(ka0000)
エール祭を盛り上げて
マスター:からた狐

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 少なめ
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/10/11 19:00
- 完成日
- 2015/11/01 10:19
このシナリオは3日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
ゾンネンシュトラール帝国でも北の方にあるとある町。近隣の村とも協力して、エール祭りが行われようとしている。辺鄙な場所ではあるものの、ご当地酒造メーカーを始め、各地で仕入れたエールやワインも並ぶとあって、楽しみにしている人も多い。
酒の他にもパンや肉や菓子なども売られ、旅芸人にも来てもらう。単純に娯楽を求めて来る人も多く、開催日は町が一日中賑やかになる。
のだが。
ハンターオフィスにてハンターたちが呼び集められていた。
「予定していた芸人一座が別の町で興行中に食あたりを起こし、伏せって来られなくなったそうです。メインは酒。他にも地元の手料理が振る舞われるので、祭りの目的には問題なく、十分開催できます。けど、娯楽に欠け、単調で味気なくなるのは否めません。
新たに別の一座を手配しようにも開催まで日が無い為、難しいようです。
そこで、ハンターたちに何か祭りを盛り上げるイベントをして欲しい、との依頼が来ております」
どうやら戦闘とは関係ない依頼。どころか、芸人代わりにされて不満を顔に出すハンターもいる。
立ち去りそうな雰囲気に、しかし、係員は待ったをかける。
「報酬もささいなものですが。その代わり会場での飲み食いや、その他必要経費などは依頼人たちで負担するとのことです。
すなわち! 飲みやすいライトから苦味の入った黒、口当たりのいいブラウン、苦味少なめの白、水代わりに飲める低アルコールなどなど様々なエールが飲み放題!! ワインは……正直今一の出来ですが、試行錯誤の最中なので褒めてあげて下さい! きつい蒸留酒のカルヴァドス、ジャガイモ蒸留アクアビット、女性向けには果汁で割るカクテルも用意されているのだとか!」
なぜか机に登って立ちあがり、拳を握り、力説する係員。
「帝国料理は不味いと評判だけど! 美味しい物だってちゃんとあります!! 酸味のきいたライ麦パンに、ふっくら軟らか小麦パン。エールのつまみにプレッツェル。バター、チーズ、獣脂などは好みに応じて。そして、何といっても肉! です!! 保存食としてずいぶん塩をきかせたソーセージやハムも多いですが、燻製肉や切り落としなどもあり、種類も牛豚羊と様々! 塩漬けキャベツのザワークラウトに夏野菜のピクルスでお口もさっぱり。焼ポテト、茹でポテト、フライポテト、マッシュポテト、スープにコロッケなどなど、ジャガイモ料理は困りません!」
鼻息荒く、どこかに向かって高らかに宣言すると、ふと肩の力を抜いて係員はおもむろに席に座り直した。
悪びれもせずに咳ばらいを一つだけすると、改めてそこにいたハンターたちを見回す。
「あくまで祭りを盛り上げてくれたらの話なので、仕事そっちのけで楽しまれては困りますけどね。人前で何かをするのが苦手なら、会場の警備や清掃などでもいいそうです。それなりの賑わいになるので、スリや喧嘩といったトラブルは当然予想出来ますし、皿やカップはデポジット制で、使い終わった皿やカップの洗浄、各店舗への再配布なども結構重労働です。それでもさまざまなゴミが出るのは止められません。
何より、終盤になるほど死体運びが必要になります」
死体、と聞いてハンターたちはぎょっとした顔で係員を見直すが、当の係員は涼しい顔で説明を続ける。
「平たく言えば泥酔者です。嘔吐する程度の人もいれば、道端で寝てしまう人もいます。そういう人を救護テントに誘導、あるいは担架もあるので搬送して下さい。放置すると周りの迷惑ですし、彼らを狙った窃盗なども発生しやすくなります」
たまの祭り。楽しく過ごしてほしいものの、楽しいゆえの面倒も出て来る。
誰もが無理なく怪我無く気兼ねなく。笑って過ごせる祭りにして欲しいのだとか。
「行きたい人は手続きをお願いします。――ああ、飲み放題に食い放題ー。仕事なければ自分が行くのにー。」
机に突っ伏して泣いている係員は放っといて。
行くべきかやめるべきか。行っても何をするべきか。
ハンターたちは顔を見合わせると、どうしようかと考える。
酒の他にもパンや肉や菓子なども売られ、旅芸人にも来てもらう。単純に娯楽を求めて来る人も多く、開催日は町が一日中賑やかになる。
のだが。
ハンターオフィスにてハンターたちが呼び集められていた。
「予定していた芸人一座が別の町で興行中に食あたりを起こし、伏せって来られなくなったそうです。メインは酒。他にも地元の手料理が振る舞われるので、祭りの目的には問題なく、十分開催できます。けど、娯楽に欠け、単調で味気なくなるのは否めません。
新たに別の一座を手配しようにも開催まで日が無い為、難しいようです。
そこで、ハンターたちに何か祭りを盛り上げるイベントをして欲しい、との依頼が来ております」
どうやら戦闘とは関係ない依頼。どころか、芸人代わりにされて不満を顔に出すハンターもいる。
立ち去りそうな雰囲気に、しかし、係員は待ったをかける。
「報酬もささいなものですが。その代わり会場での飲み食いや、その他必要経費などは依頼人たちで負担するとのことです。
すなわち! 飲みやすいライトから苦味の入った黒、口当たりのいいブラウン、苦味少なめの白、水代わりに飲める低アルコールなどなど様々なエールが飲み放題!! ワインは……正直今一の出来ですが、試行錯誤の最中なので褒めてあげて下さい! きつい蒸留酒のカルヴァドス、ジャガイモ蒸留アクアビット、女性向けには果汁で割るカクテルも用意されているのだとか!」
なぜか机に登って立ちあがり、拳を握り、力説する係員。
「帝国料理は不味いと評判だけど! 美味しい物だってちゃんとあります!! 酸味のきいたライ麦パンに、ふっくら軟らか小麦パン。エールのつまみにプレッツェル。バター、チーズ、獣脂などは好みに応じて。そして、何といっても肉! です!! 保存食としてずいぶん塩をきかせたソーセージやハムも多いですが、燻製肉や切り落としなどもあり、種類も牛豚羊と様々! 塩漬けキャベツのザワークラウトに夏野菜のピクルスでお口もさっぱり。焼ポテト、茹でポテト、フライポテト、マッシュポテト、スープにコロッケなどなど、ジャガイモ料理は困りません!」
鼻息荒く、どこかに向かって高らかに宣言すると、ふと肩の力を抜いて係員はおもむろに席に座り直した。
悪びれもせずに咳ばらいを一つだけすると、改めてそこにいたハンターたちを見回す。
「あくまで祭りを盛り上げてくれたらの話なので、仕事そっちのけで楽しまれては困りますけどね。人前で何かをするのが苦手なら、会場の警備や清掃などでもいいそうです。それなりの賑わいになるので、スリや喧嘩といったトラブルは当然予想出来ますし、皿やカップはデポジット制で、使い終わった皿やカップの洗浄、各店舗への再配布なども結構重労働です。それでもさまざまなゴミが出るのは止められません。
何より、終盤になるほど死体運びが必要になります」
死体、と聞いてハンターたちはぎょっとした顔で係員を見直すが、当の係員は涼しい顔で説明を続ける。
「平たく言えば泥酔者です。嘔吐する程度の人もいれば、道端で寝てしまう人もいます。そういう人を救護テントに誘導、あるいは担架もあるので搬送して下さい。放置すると周りの迷惑ですし、彼らを狙った窃盗なども発生しやすくなります」
たまの祭り。楽しく過ごしてほしいものの、楽しいゆえの面倒も出て来る。
誰もが無理なく怪我無く気兼ねなく。笑って過ごせる祭りにして欲しいのだとか。
「行きたい人は手続きをお願いします。――ああ、飲み放題に食い放題ー。仕事なければ自分が行くのにー。」
机に突っ伏して泣いている係員は放っといて。
行くべきかやめるべきか。行っても何をするべきか。
ハンターたちは顔を見合わせると、どうしようかと考える。
リプレイ本文
ゾンネンシュトラール帝国片隅の田舎町……とは思えない賑わいがハンターたちを取り囲んでいた。
並ぶテントからは食欲を刺激する料理の数々に、振る舞われる大量の酒。
そして、会場の中心に設置された舞台では、祭りをさらに盛り上げようと歌姫が立つ。
「会場では、暴れたり、物を壊したりとかは、やめてくださいね。もちろん犯罪行為は厳禁です☆」
「おおおおおお!!」
Uisca Amhran(ka0754)からまだ開催にあたっての諸注意を説明されているだけだというのに、ノリのいい若者中心に声が上がる。
舞台。と言っても安っぽいものだ。音響設備も期待できず、演奏に至っては音楽が趣味程度の街の衆に頼んで、時間も無いのでほぼ即興。
けれどその程度何でもない、と言わんばかりの笑顔で、Uiscaは手を振る。
「では、楽しんでください。帝国軍歌アレンジ『Go!Go!出撃』 ――♪ 天に代わって 歪虚を討つ 天下無双の 私たち ~♪」
帝国第一師団・帝国歌舞音曲部隊の某アイドル嬢に扮した紅衣装に身を包み、ポップにした軍歌を口にしながら、Uiscaは舞台狭しと元気に踊りだした。
ザレム・アズール(ka0878)とステラ・レッドキャップ(ka5434)はナイフ投げを披露。
板の前に立つザレムの頭上と両手の肘の上には、真っ赤なリンゴがある。そこを射抜こうというのだ。
「ステラのナイフが見事にリンゴを貫きましたら、拍手ご喝采」
観客が恐々とする中、ザレムは平然と主旨を紹介。
ステラがスカートを持ち上げてお辞儀する。練習してきたことをアピールする様は、大舞台に挑む健気な少女にしか見えない。――実際は性別からして違うのだが。
強張った表情のステラと向き合いながらも、的にされるザレムは普段と変わらない自然体。どんな猫を被っていようと、ステラの腕前を疑う気は無いのだ。
実際その通り。届きそうにない遠距離から投げようと、二本を同時に投げようと、狙いたがわずステラのナイフは小さなリンゴを捉えていた。
ザレムはナイフが刺さったリンゴをジャグリングで舞わせて受け止めると、ステラと共にお辞儀。
「ステラ&ザレムでしたー」
挨拶と共に、ザレムの瞳が真紅に変わり、黒い竜の翼のような幻が現れる。
観客が驚く中で、リンゴを空高くに放るとデルタレイで射抜く。三つの光がリンゴを捉え、客の視線がそちらに向いてる隙に二人で退場。
客が気付いた時には、舞台上に二人の姿は無い。忽然と消えたように見えた二人に向け、惜しみない拍手がまだ続いていた。
「これでお役御免だな。あとは酒を満喫させてもらおうか」
拍手の音に満足すると、ステラは身だしなみを整え、再びしおらしい態度で屋台を見て回る。
協力したハンターには飲み食い自由という便宜を図ってもらっているので、懐は痛まない。問題は、外見に騙され過ぎて飲酒の年齢制限にまで引っかからないか、だ。
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)とボルディア・コンフラムス(ka0796)は模擬戦を行う。
互いに当てないとはいえ、振り回す武器は本物。ボルディアが豪快に武器を振り回せば、アルトも身軽にかわして斬りこむ。
一進一退の攻防。演技なのか、本気なのか。その見極めも難しいほど激しく動く二人に、観客たちも手に汗握りながら、食い入るように見守っている。
「それじゃあ、ちょっと派手にやらせてもらおうかな」
にやりと笑うボルディアの口元には犬歯が伸びていた。犬耳と尻尾も生え、赤黒い炎のオーラが揺らめく。
ハルバードに炎のオーラを纏わせ周囲に振り回せば、紅蓮の炎が舞台に沸き立つ。
巨大な炎の出現に、さらに観客は熱狂。
模擬戦は無事に終え、互いに礼を取る。もちろん二人とも怪我はない。
非常に盛り上がったが、アルトは若干複雑な心境に陥る。やりすぎて、客の興奮を煽ってしまったかもしれない。
悪いことをしたら自分たちハンターがいるぞ、という意思表示でもあったが、はたしてどこまで伝わったか。
(理解してない奴は捕まえるだけなんだけどね)
警備に専念しているハンターも多いし、舞台後や空いた時間に手伝いに回るハンターも少なくない。
アルトも、他の人の舞台が盛り上がっているのを確認すると、見回りの為に人混みへと足を向けていた。
舞台に三つの的を並べ、エルバッハ・リオン(ka2434)は魔法の実演を行う。
衣装はいつもの戦闘装備。観客に向けて礼をすると、その胸元に薔薇の花を模した赤色の紋様が浮かび上がった。そこを起点に赤い棘のような紋様が六本、手足や頬にまで伝い巻き付く。
ドラゴンヘルムを被りなおして、スタッフ「ケレース」を構える。
ライトニングボルトによる雷撃、アースパレットによる石つぶて、ウィンドスラッシュによる風。
動かない的相手に外れることなく。派手な魔法で標的が砕かれると、観客がどよめく。
「こんなものでしょうか。――後は見回りでもさせていただきましょう」
エルバッハもまた屋台に向かう。飲食も目的ではあるが、ここからはいつどこでどういう相手をするか分からない。案外これからの方が大変かもしれない。
●
「ふふふっ、酒と聞いたら黙ってられねぇですね! さぁ、わたくしに酒を浴びるほど持ってきやがれです!」
「いいぜ、それ行け、飲め呑め~!」
聖職者の恰好をしたシレークス(ka0752)が、ジョッキ片手に盛大に煽る。
清楚なんだか荒っぽいんだか。そのギャップを面白がる人たちが次々と酒を運び、それを簡単にシレークスは飲み干していく。
楽しんではいるようだが、その様をイーディス・ノースハイド(ka2106)はすっかり呆れた顔で見ていた。
「……。何でアレを美味しいと思うのか、理解に苦しむよ」
「なんらい、飲めないのかい。そえはもったいねぇよ。ほれ、これなんてどうよ」
酒が苦手なイーディス。芋は大量にあると聞き、酒のアテにポテチやコロッケを作っている。
聞きとがめた赤ら顔の男がイーディスにジョッキを差し出す。イーディスが断りを入れる前に、横から手が伸びた。
「ボクがいただこうか。飲める人が飲む方が酒も喜ぶよ」
見回りに出ていたアルトがジョッキを取ると、一気に煽って返す。顔色一つ変わらない。
「はっはっは。酒追加だー。おっと、そのポテトももらおうか」
「ありがとう。ポテチを一つ。こちらのコロッケはいかが?」
見回りに戻るアルトに軽く礼を告げると、イーディスは売り子の作業に戻る。
ポテチの塩気を強くする以外は基本に忠実。揚げたてコロッケも好評。
酔客の臭気に閉口することはあるが、子供も笑顔で食べてくれている。
火艶 静 (ka5731)としては、帝国料理の味で、祭りが盛り上がるのだろうかと懸念していたが、心配無用とばかりにあちこちで歓声が上がっている。
結局の所、酒さえあれば人は騒げるらしい。場所柄、地元民も多いので、味に慣れているというのもあるだろう。
それでも屋台テントを覗いて回れば、珍妙な表情でフォークを加えて固まっている人もいる。
静も用意してもらった屋台に食材を並べると、料理の腕を振るう。
スライスしたポテトにチーズ。塩の効いたベーコン&ソーセージに、燻製肉をスライスして肉の臭みを取る為にハーブと焼き、小麦パンに載せる。パンを揚げたバターにはガーリックも少々。
祭りの前に、静は食材探しで食べ歩いていた。さすがに肉も酒も美味い。
「片手で摘まめますよ。お一ついかがですか」
呼びかけと独特の匂いに惹かれて、客も順次集まってきた。
時間経過と共に、種族やふるまいからしてどうも帝国人ではない人が増えていったのは、やはり味覚の差が大きいようだ。
●
オウカ・レンヴォルト(ka0301)の横笛に合わせて、イレーヌ(ka1372)が歌声を披露する。
事前に簡単な打ち合わせをするだけで、二人の息がぴたりと合うのは普段から想いが通じているからか。
「ふう……お疲れさま、イレーヌ」
程無く舞台を終えて、二人で乾杯。十歳くらいにしか見えないイレーヌには、さすがに酒を簡単に渡してもらえないし、飲んでいても妙な目で見られる。
いちいち実年齢を説明するのも面倒なので、覚醒状態で成人女性の体つきにはなるが、覚醒するにも限度がある。服のサイズも小さくなるので、オウカとしては気が気でない。
それでも二人で仲良く、祭りを楽しんでいると、騒ぎの中に泣き声を聞く。
泣きながらうろついている子がいる。イレーヌの外見よりもさらに幼そうな子が、一人でやって来る場所ではない。
「どうした? 誰かは一緒でないのか?」
「お父さんと、お母さんが、どっか行ったー」
思った通り。話しかけると泣きながら訴えて来る。
迷子を放っておけない。保護してもらおうと、迷子センターへと案内しようとする。
「どうかしましたか?」
泣き声を聞きつけて、雪ノ下正太郎(ka0539)が二人に話しかける。
「分かりました。俺が一緒に探します。――だから、もう泣かないで下さい」
「うええぇ。おかあさあああん」
二人から迷子の保護を請け負ったはいいが、ずっと泣き続ける子供に正太郎は手を焼く。
結局その声を聞いて母親がすっ飛んできてくれた。
その間にも、別の屋台では別の騒ぎが起きていて、警備で見廻っていた榊 兵庫(ka0010)が駆けつけて来る。
騒ぎの内容はおつりが足りないとかちゃんと払ったとか。普段であればただの言い合いで終わる程度なのだろうが、今回ばかりは主張する双方ともに、何やら手を振り回して危なっかしい。
「……酒が入れば、騒ぎが起きるのはどこでも変わらないか」
警備として見廻るだけでも大変なのだが、兵庫の持つ連絡用のトランシーバーにはあちこちから連絡が入り、兵庫の都合お構いなく振り回してくる。
やはり、祭りに酒が入るとゆっくりしてられない。それでも隙をついては、兵庫も屋台に顔を出し、エールの飲み比べを行うのも忘れない。
今もややくたびれぎみに、持っていたハムをエールで流し込み、喧嘩腰の言い合いの仲裁に飛び込んでいく。
「酒主体の祭りともなれば、そりゃ治安の悪い面も出るよね。――ほらきりきり歩く」
巌 技藝(ka5675)が男をひねり上げて、警備用テントへと連行しようとしている。
「ちくしょう、離せ。俺は関係ない!」
祭りは楽しい。だからこそ、そこに水をさす真似など許しておけない。
人が多ければ、手癖の悪い奴も出て来る。勘違いだの陰謀だのと、男は喚いているが……、
「他人のバッグから財布を取っておいて何言うかな」
そこは技藝の方が上手。きちんと犯行を見届けた上での捕縛だ。
男から他の人の財布が出てきたとあっては何を言ってもいい訳にならない。暴れた所で、ハンターに勝てるはずなく、あえなく後ろ手に縛られている。
腹立たしいのはスリのきっかけを作ったのは、どうも自分らしいという事。
帝国の田舎では鬼は見慣れないらしく、技藝は歩くだけで注目される。その注目に隠れて悪事を働こうとしていたようだ。
悪いのは勿論スリだ。きっかけにされたのなら、技藝も被害者。おかげで、何の呵責も無く、警備に突き出せる。
柊 真司(ka0705)とリーラ・ウルズアイ(ka4343)は結局二人で会場を回っていた。
見て回るのはゴミ。主催者側もゴミを出さない工夫は凝らしているが、それでも皆無とはならない。気持ちよく祭りを楽しんでもらうには、会場だって綺麗な方がいい。
大きなゴミをウィンドスラッシュで粉砕。細かくしてゴミ箱に放り込んだリーラは、その足で屋台テントに突入する。
「お酒置いてる所は汚れやすいから重点的に見廻らないとね――。という訳で、店主。置いてるお酒全種類下さいな~♪ あ、大丈夫。これでもうーんと長生きしてるんだから」
嬉々として店主と交渉するリーラに、真司は頭を抱える。
「賑わっている店にゴミが多い理屈は分かるとしても。そこで酒を飲む必要は無いだろ」
「何言ってんのよ。目の前にお酒があるのに手を出さないなんて、お酒に対して失礼じゃない?」
さすがうわばみの理論。さらりと当然のように言ってくる。
どう見ても、屋台巡りの合間のゴミ拾いなのだが。完全にサボっている訳でも無いし、飲食自由で仕事なのか楽しんでいるのか分からないのは、他のハンターも同じだ。
そう納得するしかない真司。店主が根負けして、とっておきの酒も並べ出したのを見ると、自分も肩を竦めて席につく。
休憩も必要。――休憩ばかりの気もするが、気にしても仕方がない。
嬉々として酒杯を煽り出したリーラに付き合い、真司もしばし祭りを楽しむことにする。
●
祭りの賑やかしが必要と聞き、ルピナス(ka0179)は舞台用のマリオネットを用意。バッカスの酒宴を称える明るい歌声と共に人形を躍らせ、客を楽しませる。
誘ったエヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)も、『何でも描きます』と画材道具を並べて客を呼ぶ。人物画から風景画まで、時間は限られながらも精一杯描く。
最後の客を笑顔で見送り、次の演者に交代すると、こちらも二人揃って祭り屋台に繰り出す。
「「乾杯ー♪」」
カップを軽く合わせると、仕事の疲れを癒すように喉に流し込む。
人形劇も絵画もどちらも好評で、人は途切れずやって来た。仕事はきちんとこなしたし、祭りは今も賑わっている。
だが、エヴァの顔が浮かないことに、ルピナスは気付く。
「大丈夫よ。懐かしかっただけ。帝国出身でも最近では同盟の味に慣れてたからね」
魚のフライを平気で食べているルピナスに、エヴァは苦笑する。住んでいる時は気付かなくても、一度外に出るとやはり帝国料理のよく言えば質素で堅実な料理に気付かされる。
「そう? じゃあ、あっちの燻製肉はどうだろう。肉は美味しいとお客が言ってたからね。取って来てあげ――うわっと!!」
店に向かおうとしたルピナスが、何かにつまづく。
足元を見れば、いつの間にやら人が倒れていた。
赤ら顔で涎垂らして幸せそう。いびきもかいてるようだが、祭りの喧騒で消えていた。
何せ酒の祭りだ。盛況になるほど、こういう死体があちこちに増えて来る。
見つけた以上は放置も出来ない。二人は顔を見合わせると、しょうがないなと医務用のテントに死体を運ぶ。
ユメ・ターニツ(ka4799)は水無瀬 悠人(ka4800)を伴って、舞台に駆け上がる。
「お祭ですよ! 悠人さん! 私でも出来る事がありそうです、という事で踊りましょう! 歌いましょう! 伴奏よろしくお願いします!」
サボり癖のあるお目付け役も、首根っこ掴まれては逃げようがない。
片手に剣、片手に扇子を持ってスタンバイした彼女に合わせ、悠人は横笛を借りる。
ユメが踊りやすいよう、強弱のある音楽を奏でだすと、そのユメは観客も踊りやすいように大きな動きで舞台上を跳ね舞わる。
拍子を促し、剣や扇子も高く掲げて打ち鳴らし。時には歌も交えて活気をさらに煽っていった。
舞台が終われば、当然のように彼らも屋台に向かう。……のだが。
「ユメ、お前にはまだ酒は早い。ジュースで我慢しておけ」
「ぶー」
あちこちで起こる乾杯と、酌み交わされるエール。その楽しげな後継に、ユメは興味津々。その視線を遮るように今度は悠人がユメをやや強引に席につかせると、子供用飲料を目の前に置く。
ユメの微妙な年ごろ。アバウトな店主なら、低アルコールぐらいは振る舞いかねない。
ユメからの視線がきついが、そこは譲れない。
「うぉっちゃー。何するんだ、小娘」
「その小娘相手に、さっきからうるさい。ナンパは他で迷惑にならないようにやりなさい、と再三注意したけど?」
藤堂 小夏(ka5489)の手にはスープのカップ。かけられた男の方は赤くはなっているが、火傷とまではいかない。赤いのは単に飲酒が問題か。
そんな騒ぎもユメに気付かせないよう、悠人は振る舞い。自身もエールを頼んで塩の強い料理を口に運び、祭りを楽しむ。
小夏はいろんな料理を食べ歩く。酒はさすがに仕事中だからと我慢するが、他のハンターが乾杯をしているのを見つけると、その必要も無かったのかもしれない。
食べ歩いていると何だか喉の渇きが早い気もするが、案外それも酒を飲ませる策略か。
帝国料理はまずい、と聞くが、食べ歩けばアタリもそれなりにある。……ハズレの時は、表情の乏しい彼女が思わず顔を歪ませるほど、後悔だけが駆け巡るのだが。
食べ歩きながら、もちろん警備も行う。怪我人に泥酔者。時にナンパ者を注意。見つけた迷子には料理を分けて一緒に食べながら親探し。
それで見つかればいいが、迷子探しの最中にまた迷子を見つけたりと、すんなり解決とはいかない。
そういう時に厄介になるのが、救護所兼迷子センターの存在。そして、たぬきだった。
「迷子になっちゃたのだ? たぬきさんと一緒に探しにいこうなのだぁ~」
玄間 北斗(ka5640)は愛用の着ぐるみを着て、迷子を主に担当する。大きく書かれた『迷子担当職員』のたすきと幟を持ち、コミカルで愛嬌のある仕草で歩き回ると人ごみの中でもかなり目立つ。
最初は会場を定期的に巡回していたが、各方面から迷子が目印に集められてくると、さすがにその人数をぞろぞろ連れ歩く訳にもいかなくなる。
「お水です。ゆっくり飲んでくださいね。……こちらは怪我ですか。ちょっと染みますよ」
明王院 穂香(ka5647)は救護を行う。
多くは飲みすぎによる体調不良。転倒や乱闘による怪我。
毎年のことだそうで、その分のスペースも確保済み。とはいえ、酔っ払いの世話も一苦労。酔い潰れた死体がいつまでも転がっていても邪魔なので、手当をして動けるようならさっさと交代。
たいした怪我は無いのに絡んで来たり、酒で血の巡りがいいからか少しの傷でも大量出血していたり、何故か人生相談で泣き出す人もいたり。
対処は多岐に渡り、穂香や他スタッフも対応に追われる。
迷子センターも兼ねているので、子供も走り回る。おとなしく待ってもらおうと携帯ゲーム機も用意したが、こちらは物珍しさからゲーム目当ての行列ができて来たので、理由をつけて引っ込めざるを得なかった。
その頃には北斗も迷子相手にほぼ常駐状態になっていたので、大きな騒ぎも無く。
舞台は無事に埋まり、祭りの盛り上げに一役買った。
騒動や怪我人や犯罪や。警備や救護は暇になることなく、ひっきりなしに動かされたが、祭りに大きな支障が出る程の混乱は無かった。
盛況の内に今年のエール祭りは閉幕。
エール飲み放題。料理は食べ放題。持ち帰るのもなんだからと、残った酒や料理も振る舞われ、忙しさに食べそびれていた者も十分に胃袋を満たした。
些少ながらも礼金が支払われ、それぞれの思いを胸に解散。だが、一番の報酬は祭りを無事開催できた主催者たちと、祭りに足を運んでくれた客たちの、満足そうな笑顔なのかもしれない。
並ぶテントからは食欲を刺激する料理の数々に、振る舞われる大量の酒。
そして、会場の中心に設置された舞台では、祭りをさらに盛り上げようと歌姫が立つ。
「会場では、暴れたり、物を壊したりとかは、やめてくださいね。もちろん犯罪行為は厳禁です☆」
「おおおおおお!!」
Uisca Amhran(ka0754)からまだ開催にあたっての諸注意を説明されているだけだというのに、ノリのいい若者中心に声が上がる。
舞台。と言っても安っぽいものだ。音響設備も期待できず、演奏に至っては音楽が趣味程度の街の衆に頼んで、時間も無いのでほぼ即興。
けれどその程度何でもない、と言わんばかりの笑顔で、Uiscaは手を振る。
「では、楽しんでください。帝国軍歌アレンジ『Go!Go!出撃』 ――♪ 天に代わって 歪虚を討つ 天下無双の 私たち ~♪」
帝国第一師団・帝国歌舞音曲部隊の某アイドル嬢に扮した紅衣装に身を包み、ポップにした軍歌を口にしながら、Uiscaは舞台狭しと元気に踊りだした。
ザレム・アズール(ka0878)とステラ・レッドキャップ(ka5434)はナイフ投げを披露。
板の前に立つザレムの頭上と両手の肘の上には、真っ赤なリンゴがある。そこを射抜こうというのだ。
「ステラのナイフが見事にリンゴを貫きましたら、拍手ご喝采」
観客が恐々とする中、ザレムは平然と主旨を紹介。
ステラがスカートを持ち上げてお辞儀する。練習してきたことをアピールする様は、大舞台に挑む健気な少女にしか見えない。――実際は性別からして違うのだが。
強張った表情のステラと向き合いながらも、的にされるザレムは普段と変わらない自然体。どんな猫を被っていようと、ステラの腕前を疑う気は無いのだ。
実際その通り。届きそうにない遠距離から投げようと、二本を同時に投げようと、狙いたがわずステラのナイフは小さなリンゴを捉えていた。
ザレムはナイフが刺さったリンゴをジャグリングで舞わせて受け止めると、ステラと共にお辞儀。
「ステラ&ザレムでしたー」
挨拶と共に、ザレムの瞳が真紅に変わり、黒い竜の翼のような幻が現れる。
観客が驚く中で、リンゴを空高くに放るとデルタレイで射抜く。三つの光がリンゴを捉え、客の視線がそちらに向いてる隙に二人で退場。
客が気付いた時には、舞台上に二人の姿は無い。忽然と消えたように見えた二人に向け、惜しみない拍手がまだ続いていた。
「これでお役御免だな。あとは酒を満喫させてもらおうか」
拍手の音に満足すると、ステラは身だしなみを整え、再びしおらしい態度で屋台を見て回る。
協力したハンターには飲み食い自由という便宜を図ってもらっているので、懐は痛まない。問題は、外見に騙され過ぎて飲酒の年齢制限にまで引っかからないか、だ。
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)とボルディア・コンフラムス(ka0796)は模擬戦を行う。
互いに当てないとはいえ、振り回す武器は本物。ボルディアが豪快に武器を振り回せば、アルトも身軽にかわして斬りこむ。
一進一退の攻防。演技なのか、本気なのか。その見極めも難しいほど激しく動く二人に、観客たちも手に汗握りながら、食い入るように見守っている。
「それじゃあ、ちょっと派手にやらせてもらおうかな」
にやりと笑うボルディアの口元には犬歯が伸びていた。犬耳と尻尾も生え、赤黒い炎のオーラが揺らめく。
ハルバードに炎のオーラを纏わせ周囲に振り回せば、紅蓮の炎が舞台に沸き立つ。
巨大な炎の出現に、さらに観客は熱狂。
模擬戦は無事に終え、互いに礼を取る。もちろん二人とも怪我はない。
非常に盛り上がったが、アルトは若干複雑な心境に陥る。やりすぎて、客の興奮を煽ってしまったかもしれない。
悪いことをしたら自分たちハンターがいるぞ、という意思表示でもあったが、はたしてどこまで伝わったか。
(理解してない奴は捕まえるだけなんだけどね)
警備に専念しているハンターも多いし、舞台後や空いた時間に手伝いに回るハンターも少なくない。
アルトも、他の人の舞台が盛り上がっているのを確認すると、見回りの為に人混みへと足を向けていた。
舞台に三つの的を並べ、エルバッハ・リオン(ka2434)は魔法の実演を行う。
衣装はいつもの戦闘装備。観客に向けて礼をすると、その胸元に薔薇の花を模した赤色の紋様が浮かび上がった。そこを起点に赤い棘のような紋様が六本、手足や頬にまで伝い巻き付く。
ドラゴンヘルムを被りなおして、スタッフ「ケレース」を構える。
ライトニングボルトによる雷撃、アースパレットによる石つぶて、ウィンドスラッシュによる風。
動かない的相手に外れることなく。派手な魔法で標的が砕かれると、観客がどよめく。
「こんなものでしょうか。――後は見回りでもさせていただきましょう」
エルバッハもまた屋台に向かう。飲食も目的ではあるが、ここからはいつどこでどういう相手をするか分からない。案外これからの方が大変かもしれない。
●
「ふふふっ、酒と聞いたら黙ってられねぇですね! さぁ、わたくしに酒を浴びるほど持ってきやがれです!」
「いいぜ、それ行け、飲め呑め~!」
聖職者の恰好をしたシレークス(ka0752)が、ジョッキ片手に盛大に煽る。
清楚なんだか荒っぽいんだか。そのギャップを面白がる人たちが次々と酒を運び、それを簡単にシレークスは飲み干していく。
楽しんではいるようだが、その様をイーディス・ノースハイド(ka2106)はすっかり呆れた顔で見ていた。
「……。何でアレを美味しいと思うのか、理解に苦しむよ」
「なんらい、飲めないのかい。そえはもったいねぇよ。ほれ、これなんてどうよ」
酒が苦手なイーディス。芋は大量にあると聞き、酒のアテにポテチやコロッケを作っている。
聞きとがめた赤ら顔の男がイーディスにジョッキを差し出す。イーディスが断りを入れる前に、横から手が伸びた。
「ボクがいただこうか。飲める人が飲む方が酒も喜ぶよ」
見回りに出ていたアルトがジョッキを取ると、一気に煽って返す。顔色一つ変わらない。
「はっはっは。酒追加だー。おっと、そのポテトももらおうか」
「ありがとう。ポテチを一つ。こちらのコロッケはいかが?」
見回りに戻るアルトに軽く礼を告げると、イーディスは売り子の作業に戻る。
ポテチの塩気を強くする以外は基本に忠実。揚げたてコロッケも好評。
酔客の臭気に閉口することはあるが、子供も笑顔で食べてくれている。
火艶 静 (ka5731)としては、帝国料理の味で、祭りが盛り上がるのだろうかと懸念していたが、心配無用とばかりにあちこちで歓声が上がっている。
結局の所、酒さえあれば人は騒げるらしい。場所柄、地元民も多いので、味に慣れているというのもあるだろう。
それでも屋台テントを覗いて回れば、珍妙な表情でフォークを加えて固まっている人もいる。
静も用意してもらった屋台に食材を並べると、料理の腕を振るう。
スライスしたポテトにチーズ。塩の効いたベーコン&ソーセージに、燻製肉をスライスして肉の臭みを取る為にハーブと焼き、小麦パンに載せる。パンを揚げたバターにはガーリックも少々。
祭りの前に、静は食材探しで食べ歩いていた。さすがに肉も酒も美味い。
「片手で摘まめますよ。お一ついかがですか」
呼びかけと独特の匂いに惹かれて、客も順次集まってきた。
時間経過と共に、種族やふるまいからしてどうも帝国人ではない人が増えていったのは、やはり味覚の差が大きいようだ。
●
オウカ・レンヴォルト(ka0301)の横笛に合わせて、イレーヌ(ka1372)が歌声を披露する。
事前に簡単な打ち合わせをするだけで、二人の息がぴたりと合うのは普段から想いが通じているからか。
「ふう……お疲れさま、イレーヌ」
程無く舞台を終えて、二人で乾杯。十歳くらいにしか見えないイレーヌには、さすがに酒を簡単に渡してもらえないし、飲んでいても妙な目で見られる。
いちいち実年齢を説明するのも面倒なので、覚醒状態で成人女性の体つきにはなるが、覚醒するにも限度がある。服のサイズも小さくなるので、オウカとしては気が気でない。
それでも二人で仲良く、祭りを楽しんでいると、騒ぎの中に泣き声を聞く。
泣きながらうろついている子がいる。イレーヌの外見よりもさらに幼そうな子が、一人でやって来る場所ではない。
「どうした? 誰かは一緒でないのか?」
「お父さんと、お母さんが、どっか行ったー」
思った通り。話しかけると泣きながら訴えて来る。
迷子を放っておけない。保護してもらおうと、迷子センターへと案内しようとする。
「どうかしましたか?」
泣き声を聞きつけて、雪ノ下正太郎(ka0539)が二人に話しかける。
「分かりました。俺が一緒に探します。――だから、もう泣かないで下さい」
「うええぇ。おかあさあああん」
二人から迷子の保護を請け負ったはいいが、ずっと泣き続ける子供に正太郎は手を焼く。
結局その声を聞いて母親がすっ飛んできてくれた。
その間にも、別の屋台では別の騒ぎが起きていて、警備で見廻っていた榊 兵庫(ka0010)が駆けつけて来る。
騒ぎの内容はおつりが足りないとかちゃんと払ったとか。普段であればただの言い合いで終わる程度なのだろうが、今回ばかりは主張する双方ともに、何やら手を振り回して危なっかしい。
「……酒が入れば、騒ぎが起きるのはどこでも変わらないか」
警備として見廻るだけでも大変なのだが、兵庫の持つ連絡用のトランシーバーにはあちこちから連絡が入り、兵庫の都合お構いなく振り回してくる。
やはり、祭りに酒が入るとゆっくりしてられない。それでも隙をついては、兵庫も屋台に顔を出し、エールの飲み比べを行うのも忘れない。
今もややくたびれぎみに、持っていたハムをエールで流し込み、喧嘩腰の言い合いの仲裁に飛び込んでいく。
「酒主体の祭りともなれば、そりゃ治安の悪い面も出るよね。――ほらきりきり歩く」
巌 技藝(ka5675)が男をひねり上げて、警備用テントへと連行しようとしている。
「ちくしょう、離せ。俺は関係ない!」
祭りは楽しい。だからこそ、そこに水をさす真似など許しておけない。
人が多ければ、手癖の悪い奴も出て来る。勘違いだの陰謀だのと、男は喚いているが……、
「他人のバッグから財布を取っておいて何言うかな」
そこは技藝の方が上手。きちんと犯行を見届けた上での捕縛だ。
男から他の人の財布が出てきたとあっては何を言ってもいい訳にならない。暴れた所で、ハンターに勝てるはずなく、あえなく後ろ手に縛られている。
腹立たしいのはスリのきっかけを作ったのは、どうも自分らしいという事。
帝国の田舎では鬼は見慣れないらしく、技藝は歩くだけで注目される。その注目に隠れて悪事を働こうとしていたようだ。
悪いのは勿論スリだ。きっかけにされたのなら、技藝も被害者。おかげで、何の呵責も無く、警備に突き出せる。
柊 真司(ka0705)とリーラ・ウルズアイ(ka4343)は結局二人で会場を回っていた。
見て回るのはゴミ。主催者側もゴミを出さない工夫は凝らしているが、それでも皆無とはならない。気持ちよく祭りを楽しんでもらうには、会場だって綺麗な方がいい。
大きなゴミをウィンドスラッシュで粉砕。細かくしてゴミ箱に放り込んだリーラは、その足で屋台テントに突入する。
「お酒置いてる所は汚れやすいから重点的に見廻らないとね――。という訳で、店主。置いてるお酒全種類下さいな~♪ あ、大丈夫。これでもうーんと長生きしてるんだから」
嬉々として店主と交渉するリーラに、真司は頭を抱える。
「賑わっている店にゴミが多い理屈は分かるとしても。そこで酒を飲む必要は無いだろ」
「何言ってんのよ。目の前にお酒があるのに手を出さないなんて、お酒に対して失礼じゃない?」
さすがうわばみの理論。さらりと当然のように言ってくる。
どう見ても、屋台巡りの合間のゴミ拾いなのだが。完全にサボっている訳でも無いし、飲食自由で仕事なのか楽しんでいるのか分からないのは、他のハンターも同じだ。
そう納得するしかない真司。店主が根負けして、とっておきの酒も並べ出したのを見ると、自分も肩を竦めて席につく。
休憩も必要。――休憩ばかりの気もするが、気にしても仕方がない。
嬉々として酒杯を煽り出したリーラに付き合い、真司もしばし祭りを楽しむことにする。
●
祭りの賑やかしが必要と聞き、ルピナス(ka0179)は舞台用のマリオネットを用意。バッカスの酒宴を称える明るい歌声と共に人形を躍らせ、客を楽しませる。
誘ったエヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)も、『何でも描きます』と画材道具を並べて客を呼ぶ。人物画から風景画まで、時間は限られながらも精一杯描く。
最後の客を笑顔で見送り、次の演者に交代すると、こちらも二人揃って祭り屋台に繰り出す。
「「乾杯ー♪」」
カップを軽く合わせると、仕事の疲れを癒すように喉に流し込む。
人形劇も絵画もどちらも好評で、人は途切れずやって来た。仕事はきちんとこなしたし、祭りは今も賑わっている。
だが、エヴァの顔が浮かないことに、ルピナスは気付く。
「大丈夫よ。懐かしかっただけ。帝国出身でも最近では同盟の味に慣れてたからね」
魚のフライを平気で食べているルピナスに、エヴァは苦笑する。住んでいる時は気付かなくても、一度外に出るとやはり帝国料理のよく言えば質素で堅実な料理に気付かされる。
「そう? じゃあ、あっちの燻製肉はどうだろう。肉は美味しいとお客が言ってたからね。取って来てあげ――うわっと!!」
店に向かおうとしたルピナスが、何かにつまづく。
足元を見れば、いつの間にやら人が倒れていた。
赤ら顔で涎垂らして幸せそう。いびきもかいてるようだが、祭りの喧騒で消えていた。
何せ酒の祭りだ。盛況になるほど、こういう死体があちこちに増えて来る。
見つけた以上は放置も出来ない。二人は顔を見合わせると、しょうがないなと医務用のテントに死体を運ぶ。
ユメ・ターニツ(ka4799)は水無瀬 悠人(ka4800)を伴って、舞台に駆け上がる。
「お祭ですよ! 悠人さん! 私でも出来る事がありそうです、という事で踊りましょう! 歌いましょう! 伴奏よろしくお願いします!」
サボり癖のあるお目付け役も、首根っこ掴まれては逃げようがない。
片手に剣、片手に扇子を持ってスタンバイした彼女に合わせ、悠人は横笛を借りる。
ユメが踊りやすいよう、強弱のある音楽を奏でだすと、そのユメは観客も踊りやすいように大きな動きで舞台上を跳ね舞わる。
拍子を促し、剣や扇子も高く掲げて打ち鳴らし。時には歌も交えて活気をさらに煽っていった。
舞台が終われば、当然のように彼らも屋台に向かう。……のだが。
「ユメ、お前にはまだ酒は早い。ジュースで我慢しておけ」
「ぶー」
あちこちで起こる乾杯と、酌み交わされるエール。その楽しげな後継に、ユメは興味津々。その視線を遮るように今度は悠人がユメをやや強引に席につかせると、子供用飲料を目の前に置く。
ユメの微妙な年ごろ。アバウトな店主なら、低アルコールぐらいは振る舞いかねない。
ユメからの視線がきついが、そこは譲れない。
「うぉっちゃー。何するんだ、小娘」
「その小娘相手に、さっきからうるさい。ナンパは他で迷惑にならないようにやりなさい、と再三注意したけど?」
藤堂 小夏(ka5489)の手にはスープのカップ。かけられた男の方は赤くはなっているが、火傷とまではいかない。赤いのは単に飲酒が問題か。
そんな騒ぎもユメに気付かせないよう、悠人は振る舞い。自身もエールを頼んで塩の強い料理を口に運び、祭りを楽しむ。
小夏はいろんな料理を食べ歩く。酒はさすがに仕事中だからと我慢するが、他のハンターが乾杯をしているのを見つけると、その必要も無かったのかもしれない。
食べ歩いていると何だか喉の渇きが早い気もするが、案外それも酒を飲ませる策略か。
帝国料理はまずい、と聞くが、食べ歩けばアタリもそれなりにある。……ハズレの時は、表情の乏しい彼女が思わず顔を歪ませるほど、後悔だけが駆け巡るのだが。
食べ歩きながら、もちろん警備も行う。怪我人に泥酔者。時にナンパ者を注意。見つけた迷子には料理を分けて一緒に食べながら親探し。
それで見つかればいいが、迷子探しの最中にまた迷子を見つけたりと、すんなり解決とはいかない。
そういう時に厄介になるのが、救護所兼迷子センターの存在。そして、たぬきだった。
「迷子になっちゃたのだ? たぬきさんと一緒に探しにいこうなのだぁ~」
玄間 北斗(ka5640)は愛用の着ぐるみを着て、迷子を主に担当する。大きく書かれた『迷子担当職員』のたすきと幟を持ち、コミカルで愛嬌のある仕草で歩き回ると人ごみの中でもかなり目立つ。
最初は会場を定期的に巡回していたが、各方面から迷子が目印に集められてくると、さすがにその人数をぞろぞろ連れ歩く訳にもいかなくなる。
「お水です。ゆっくり飲んでくださいね。……こちらは怪我ですか。ちょっと染みますよ」
明王院 穂香(ka5647)は救護を行う。
多くは飲みすぎによる体調不良。転倒や乱闘による怪我。
毎年のことだそうで、その分のスペースも確保済み。とはいえ、酔っ払いの世話も一苦労。酔い潰れた死体がいつまでも転がっていても邪魔なので、手当をして動けるようならさっさと交代。
たいした怪我は無いのに絡んで来たり、酒で血の巡りがいいからか少しの傷でも大量出血していたり、何故か人生相談で泣き出す人もいたり。
対処は多岐に渡り、穂香や他スタッフも対応に追われる。
迷子センターも兼ねているので、子供も走り回る。おとなしく待ってもらおうと携帯ゲーム機も用意したが、こちらは物珍しさからゲーム目当ての行列ができて来たので、理由をつけて引っ込めざるを得なかった。
その頃には北斗も迷子相手にほぼ常駐状態になっていたので、大きな騒ぎも無く。
舞台は無事に埋まり、祭りの盛り上げに一役買った。
騒動や怪我人や犯罪や。警備や救護は暇になることなく、ひっきりなしに動かされたが、祭りに大きな支障が出る程の混乱は無かった。
盛況の内に今年のエール祭りは閉幕。
エール飲み放題。料理は食べ放題。持ち帰るのもなんだからと、残った酒や料理も振る舞われ、忙しさに食べそびれていた者も十分に胃袋を満たした。
些少ながらも礼金が支払われ、それぞれの思いを胸に解散。だが、一番の報酬は祭りを無事開催できた主催者たちと、祭りに足を運んでくれた客たちの、満足そうな笑顔なのかもしれない。
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
---|
面白かった! | 11人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
働かざる者食うべからず ステラ・レッドキャップ(ka5434) 人間(クリムゾンウェスト)|14才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/10/11 17:02:10 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/10/11 14:45:46 |