山小屋を解放せよ

マスター:貴島春介

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/08/03 19:00
完成日
2014/08/12 19:42

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 依頼人の男は左腕を真新しい包帯で吊っていた。
 あごひげを生やし、体格もしっかりしている。王国北部の山にある山小屋の管理人をやっているのだと紹介され、なるほど山男なのだと納得してしまう風貌だ。
 大きな体をちぢこめるようにして、男は切り出した。
「山小屋を占拠したゴブリンを退治してくれませんでしょうか」
 依頼の詳細は、こうである。
「今年も山開きのシーズンになっんで、食料と燃料を背負い、管理している山小屋に向かいました。小屋がそろそろ見えるかというあたりまで来たところ、小屋の煙突から煙が出ている。こいつはおかしいと思って近づくと、小屋はゴブリンに占拠されていたんです。山の上は夏になってもまだまだ寒いですからね、ちょうどいい拠点になっちまったんです」
 男は渋面になって続けた。
「山小屋の外に、弓を構えたゴブリンが一匹いました。慌てて近づいたもんだから、そいつに見つかっちまいまして。そのゴブリン、慌てず騒がず笛で合図をしたんです。すると、小屋の中からさらに仲間が現れた。見張りの奴と同じくらいの体格の奴が四匹。加えて大柄なのが一匹いて、小屋に置いてあった薪割り用の斧を持ってました。これじゃ多勢に無勢です。荷物も放り捨てて、必死で逃げました。逃げようと背中を向けたら、見張りの奴から弓を射かけられて、この様です」
 男は吊られたままの左腕を示す。
「ゴブリンどもは、置いてきちまった食料と燃料をくすねて、悠々と過ごしているでしょう。このままじゃあ、山に入れません。山での猟や散策にも影響が出ちまいます。どうか、ハンターの皆さんのお力を貸してほしいんです」
 依頼人の男はもう一度、頭を下げた。

リプレイ本文


 ゴブリンに占拠された山小屋の解放。小屋を傷つけずゴブリンを殲滅するためには、情報を元に細かな作戦を立てる必要がある。早速ハンターたちは依頼人から山小屋と周辺の情報を聞き出した。勿論、地図の入手も忘れない。山が開けば狩猟に使われる場所だけあり、大まかなものはリゼリオの街で手に入れることができた。
「小屋前には開けた場所があって登山道につながっていて、周りは背の高い樹木と下生えの多い森になっている。風は山頂から吹いてきて、風上に窓があり、玄関方向に抜けていくのか……」
 龍崎・カズマ(ka0178)は依頼人に事細かに質問し、地図よりも詳細な山小屋周辺の地形や小屋内部の構造まで、絵図面を作るのに大いに貢献した。
 依頼人の説明と絵図面を統合し、外から吹き込む建物内の風の流れは見えた。この流れが重要だ。
(一応、もう一つ手段を考えておこうか。使わなきゃそれはそれで構わんしな)
 どうしようもなくなった最期の手段だ。全員で共有する必要はない、自分ひとりで抱えておけばいい。
 
「ゴブリンなんてまさにファンタジーの敵っぽくて、らしくていいですねー」
 作戦立案中に、どこか嬉しそうに言うのは葛音 水月(ka1895)だ。猫耳のカチューシャにフリルをあしらったドレスという出で立ち、女の子に見紛う女の子顔だが、れっきとした15才の少年である。リアルブルーからやってきた水月にとってゴブリン退治は、王道ファンタジー世界を体現する依頼に思えた。どこかでわくわくしてしまう気持ちを抑えられない。
「人の居場所を占拠する奴は嫌いだな」
 鈴胆 奈月(ka2802)がぽつりと言った。動かない表情にほんの僅か、傍若無人に振る舞うゴブリンたちへの不快感が浮かんでいる。
「山小屋のベッドを独占するなんて駄目だよ。みんなの快眠はわたしが守るよ」
 ゆったりとした口調で言ったのは猫を思わせる少女、ミウ・ミャスカ(ka0421)だ。端から見ると寝ぼけたような表情をしているが、彼女は至って真剣だ。
「でもベッドが綺麗になったらまずはわたしが……あふぅ」
 山小屋のまだ見ぬ寝床を夢想して、ミウの目元がとろん、と下がる。

 弥勒 明影(ka0189)と淵東 茂(ka1327)は囮役を担当することになり、偽装用の荷物を準備している。目を引く大荷物の中身は、以前依頼人が持ち込んだものと被らない食料が詰まっている。魚の燻製、チーズ、香りの強い濁酒、これはゴブリンを誘い出すための餌も兼ねている。補給物資としてビスケットとドライフルーツ。余剰分に小型のホウキや雑巾といった軽めの清掃用具も忘れない。
 茂は手頃な長さの鉄パイプに布を巻いている。
「こうすりゃあ、登山用の杖に見えるやろ。短刀は荷に隠すしかないけどな」
 他方、山小屋までの地図に各人の待機場所と動きを書き込んだものを手に、明影は細かくシミュレーションを繰り返している。
「登山路からの、敵から発見される事を始めとして。情報で知り得る五体を十分惹き付ける様に立ち回り。方針は、挟撃対応が上手く立ち回れるように。また伏撃が打ち倒し易く出来るように。自分の行動は茂に合わせよう。よろしくお願いする」
「よっしゃ。よろしゅう頼むで、明影はん」
 茂はにっと笑みを返し、明影は不敵に笑う。即席だが重要な役割を負ったコンビが結成された。


 伏撃担当のカズマとミウは山小屋前の広場側面、見張りの見えない身を隠せそうな場所に潜伏した。髪の白いミウは目立つ外見を気にして、ミスティックコートに泥や木の枝で偽装して体をすっぽりと覆って見つからないように工夫している。
「やるよ。必要なら使え」
 カズマがぬっと手を突き出し、植物を揉んで絞ったものをミウに渡した。不思議そうな顔をしたミウが臭いを嗅いでみると、少し甘い花のような香りが清涼感と共にすっと抜けていった。
「なんですか? これ」
「虫除け。臭いもごまかせる」
 答えるカズマからも渡されたものと同じ香りがする。ここまで来る道中に草むらから何か摘んでいたり、枝葉を集めていたのはこのためだったらしい。ここに隠れてからも、集めた植物を使ってなにやら枯れ葉を巻いた枝を作っていた。
 カモフラージュの一端になればと、ミウはコートの偽装に虫除けも加えることにした。
「でも潜伏ってなんだか眠くなっちゃいそう……」
「ミウはそればっかだな」
 ふわわー……とあくびをするミウに、カズマは少しあきれたような声を出す。
「大丈夫。白猫英霊さん、力を貸してね」
 ミウがそう言うと、その頭からは白猫のような耳が、腰部からはふさふさの尻尾が生える。そしてそのまま傍らの木の上へと、軽い身のこなしでするすると駆け上がった。
「わたしはここに隠れてるよ。カズマさん、虫除けありがとうね」
 あとは明影と茂の合図を待つだけだ。さわさわと木々が鳴る。

 水月と鈴胆は挟撃のため、見張りに気付かれないよう山小屋後ろに回り込もうとしていた。見張りゴブリンの退治と敵が小屋に戻らないよう妨害するのが役目だ。
 水月を先頭に、窓の位置と風向きに注意して大回り気味に進む。
「こそこそかくれんぼみたいで、なんだか楽しーですねー」
 水月はにこにこしている。ファンタジーの王道設定が大変お気に召しているようだ。
「囮役の人がゴブリンを引き出して、隠れている味方の位置まで誘導したところで行動開始ですよ」
「ああ」
 鈴胆はアルケミストデバイスとLEDライトを準備する。
 見張りには気づかれず位置に付くことができた。作戦開始だ。

 高原特有の気温で薄く霧のかかった登山道を、二人の人物が歩いていた。目を引くほどの大荷物を背負っているのは、補給物資を届けに行く途中だろうか。もうすぐ休憩所に当たる山小屋が見えようか、というところになって片方がなにやらごそごそと不審な動きをはじめる。大きめの瓶を取り出すと、ぐいとあおった。
「プハー! 山で飲む酒は堪らンで!」
 大げさな仕草で口元をぬぐうと、茂は声を張り上げた。
「明影はんは未成年やさかい、この美味さをを共有でけへんのが残念や!」
「それは気持ちだけ受け取らせてもらう。俺は食べるものだけで十分だ」
 茂をあしらいながら、明影は手元のチーズの塊を手で割る。固い外側部分が崩れて柔らかい中身があらわになると、付近にはチーズ独特の香りが広がった。
「おー、こりゃツマミにちょうどええな」
 そんな浮かれたレジャー客のような演技をしつつ、二人は山小屋へと近づいていく。
 ピィィィ!
 鋭い音が響いた。明影と茂からも、見張りのゴブリンが仲間を呼ぶための合図に笛を吹いたのが確認できる距離だ。山小屋のドアが開き、手に手に武器を構えたゴブリンが飛び出してくる。
「なんや? ゴブが1……2……4匹?」
 こちらに向かってくるゴブリンの中に、斧を持ったリーダー格の個体がいることを確認し、茂は叫ぶ。
「斧とか来ンといてや!」
「来るぞ」
 明影の合図と共に背から荷物を降ろすと、二人は慌ててゴブリンから逃げ出す……ふりをする。ゴブリンがその背に殺到する。
 2匹が短剣を構えて茂に飛びかかる。腹や脚を狙う突きの攻撃を、茂は杖に偽装した鉄パイプを振り回し必死に受け流す。先ほどまでの浮かれた演技を感じさせない華麗なステップで避けきった。
 残りの2匹は明影を狙う。マントを翻し一撃をかわしたが、次の攻撃が避けきれない。足に切りかかられ動きが止まったところに、見張りが放った矢が突き刺さる。
「明影はん!」
「大丈夫だ、受けきっている! 但し、抜かせてもらうぞ」
 明影はゴブリンをにらみつけ、黒漆塗りの刀の鯉口を切った。

 5匹のゴブリンが囮に殺到したのを見計らい、水月と鈴胆は背後から見張りのゴブリンに飛びかかる。
「……後ろからこんちは、そしてすぐにばいばいですー」
 にこやかなセリフを言いながら水月は一気に接近し、シルバークローで急所を突き刺す。猫のようにしなやかな動きで懐に飛び込み一撃を見舞う。
 続けざまに鈴胆が機導剣を構え肉薄したが、大ぶりの攻撃がすんでの所で避けられる。
 仕留めきれないか、と思われた瞬間。
 黒曜石のナイフでゴブリンの腕が切り裂かれ、その両手から弓が落ちる。
「伏撃の効果あり、ってところか」
 カズマは返り血を払うと銀色のリボルバーを構える。狙いは、リーダー格の斧持ちだ。
「にゃんこ祖霊の猫パンチクラッシュブロウを食らえー」
 猫の祖霊の力を宿したミウが軽やかな動きで強襲をかけ、スピードで翻弄し渾身の一撃を繰り出す。両手持ちの刀による斬撃が、斧のゴブリンに綺麗に命中した。
「今度はこっちの番や!」
 偽装の杖をラウンデル・ダガーに持ち替えた茂が、斧のゴブリンに飛びかかる。ミウの攻撃で弱っていたゴブリンにさらに追い打ちをかける。
 連続攻撃によろめく斧のゴブリン。その隙を、明影は見逃さなかった。刃を振るう最適の距離まで一息に踏み込み。風斬り音と共に刀を振るい。たたみ込まれたゴブリンはひとたまりもない。うめき声を上げて、地面に倒れる。
 戦局は一気にハンターたちに傾いた。返す刀で明影は別のゴブリンに斬りつける。体勢が崩れたところにカズマのリボルバーが火を噴き、撃破する。
「小屋には絶対に帰してあげないんだからね」
 祖霊の宿ったミウには敵に相対するだけの度胸が生まれる。勇ましく宣言し、敵に向かっていく。祖霊の力を込めた攻撃が、見事一撃でゴブリンを沈黙させた。残りは2匹。
 茂が短刀での攻撃で追い込み、その隙を突くように水月が接近して急所を貫く。ついに残りの1匹になったゴブリンが慌てふためく。
「隙だらけだ」
 その様子を小屋の位置から見定めた鈴胆がつぶやく。LEDライトを向け、狙いを付ける。アルケミストデバイスが、マテリアルのエネルギーを。
「デバイス駆動……」
 LEDライトの光源部分から鋭いマテリアルの光が溢れる。これが鈴胆の機導砲だ。標的のゴブリンは斜線から逃れようとするが、すでに遅い。光の奔流に貫かれ、山小屋を占拠したゴブリンの最後の1匹が撃破された。


 戦闘終了後は、持ってきた掃除用具を使い、全員で小屋の掃除をすることにした。
「案の定というか、きたないですねー」
 ホウキを手にしたまま小屋の様子を見回し、水月は顔をしかめる。
「みんなの快眠の為にわたしの持てる全てを出して頑張っちゃうよ、気合だ気合だー」
 ミウはベッド周りを綺麗にできるというので張り切っている。
「そういえばカズマさん、作戦前に作ってた焚き付けみたいの、あれなんですか?」
 三角巾とエプロンまでして片付けへの気合い十分のカズマが、あん?とミウの方を振り向く。
「使わなくて済むなら、それが一番さ」
 そう言って、カズマは『それ』を集めたゴミに枝を放り投げた。
「お日様の香りの布団や綺麗に洗った清潔なシーツ……、できれば虫除けの蚊帳とかもあるともう最高……Zzz」
「ミウさーん、寝ちゃダメですよー」
 理想の寝床を想像してうっとりするミウを水月がたしなめた。
 
 小屋内が騒がしく掃除を行っているところ、外では茂を主導で侵入路の補強と修繕が行われた。
「今後の安全営業にセキュリティは大事やで! もう二度と占拠なんかされんようにせんとな」
 小屋の周りを改めたところ、おそらくはここから侵入したのだろうという獣道が見つかった。通れないようにすればええやろ、という茂の発案でとがった枝や棘の付いた植物が道に敷かれた。明影と鈴胆がもくもくとその作業を手伝っている。
 ちなみに、このアフターサービスは、依頼人にとても感謝されることになる。
 ハンターたちが、その嬉しい予想外の反応を受け取るのは、リゼリオの街に帰ってからのおはなし。

依頼結果

依頼成功度大成功
面白かった! 5
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 虹の橋へ
    龍崎・カズマ(ka0178
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士
  • 輝きを求める者
    弥勒 明影(ka0189
    人間(蒼)|17才|男性|霊闘士

  • ミウ・ミャスカ(ka0421
    人間(紅)|13才|女性|霊闘士

  • 淵東 茂(ka1327
    人間(蒼)|38才|男性|疾影士
  • 黒猫とパイルバンカー
    葛音 水月(ka1895
    人間(蒼)|19才|男性|疾影士
  • 生身が強いです
    鈴胆 奈月(ka2802
    人間(蒼)|18才|男性|機導師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/07/29 07:41:12
アイコン 作戦スレッド
淵東 茂(ka1327
人間(リアルブルー)|38才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2014/08/03 15:08:33