水棲の筋肉

マスター:ゐ炉端

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/10/16 12:00
完成日
2015/10/24 21:35

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 最近になって転移してきたばかりの駆け出しハンター、七藻 忍(ななも しのぶ)は、とある依頼のとある用事で、ド田舎中のド田舎にある小さな村に立ち寄っていた。遠くに薄らと山影が浮かび、青々と茂る木々のカーテンから覗くのは、緩やかに伸びる川。柔らかな潺(せせらぎ)が耳に心地よく、風は穏やかに流れ、天からは麗らかな陽が射す。
「平和だなぁ……」
 七藻は目を細めて、ゆっくりと息を吐いた。独特の風情を醸し出す木製の橋。その手摺から川の流れを見届ける長閑な時間。リアルブルーにも、こういう場所はあったのかもしれない。けど、少なくとも今まではこういう、時間をゆっくりに感じられる所に来たことは無かった。この世界に急に飛ばされ、ずっと『自分は不幸だ』と感じていたが、何も悪い事ばかりじゃないと、そう初めて思えた気がする。

「おねーちゃん、おねーちゃん」
 袖をくいくいと引かれ、七藻は何事かと視線を落とした。この高齢者の多い農村では珍しい、5、6歳くらいの女の子が七藻を見上げている。
「……ん。なぁに?」
 眠たげに目を擦り、七藻が問い掛けると、女の子はそれに答えるように橋桁の斜め下を、手摺の隙間から指差した。
「ジョノくん、ジョノくん」
「……ジョノくん?」
 何のことだろうと、指差された先に視線を向けると、水面から淡灰色の、丸い何かがひょっこりと顔を覗かせている。ぷっかっぷっか、すぃーっと移動していく物体。何だろアレと思っていると、不意にそれが振り返り、七藻はギョッとした。
「……え? 何アレ、アザラシ?」
「ジョノくん!」
 女の子は歓声を上げ、ソレに手を振った。リアルブルーで、アザラシが近隣の川に迷い込んだとか、そんな事が昔あったらしいが、あれは確か、海水と真水が入り混じった汽水域での話だったはず。海岸から離れたこの場所に、アザラシが出没することなどあるのだろうか。いや、それともこちらの世界では、アザラシは川に棲むのが常識なのか?
 七藻がそんな疑問で頭の中を満たしていると、いつの間にか周囲に村人達が集まっていた。どうやら、この珍妙な客を見物しに集まってきたようだ。先程まで疎らだった村人は、見れば50人程にも膨らんでいる。
「キャー! ジョノくーん!」
 ミーハーそうなオバハンが黄色い声を上げた。その声を皮切りに、人々がジョノ君を呼び、次々と、こだまの様に連呼する。すると、つぶらな瞳のソイツは、声援に応えるようにくるりと周囲を見渡し、「きゅいっ」っと一声上げた。実に可愛い仕草と、鳴き声。少々訝しく思うところはあるが、成程、この村のアイドルのようなものなのかもしれない。……と、思ったのも束の間。七藻はぬうっと水面からせり上がってきたソイツの首から下を見て、すぐさま考えを撤回した。

 躍動する大胸筋、隆起する上腕二頭筋、広腹筋は美しい曲線を描き、その背筋は脈打ち、今にも叫びだしそうな雄々しさを噴出している。こんがり焼けた肌は黒光りし、パツーンと引き締まった凛々しい臀部を隠す黒ビキニ。
 清々しいほどのマッスルバディ。……そう、可愛いアザラシの頭の下は、溢れんばかりの筋肉がてんこ盛りの、人型の身体。それが大胸筋をアピールしたポーズのまま、ゆっくりとせり上がってくる。立ち泳ぎで浮上してくるあたり、下半身も相当鍛えられている事は容易に想像できる。

 どう見ても、自然から生まれた生物ではなく、まして精霊の類でもなさそうだった。いや、これが自然発生するようだったら、自刃してでも、この世界から去りたい。七藻は心の中がバーストしそうだった。しかし、この摩訶不思議奇々怪々なこの姿を見ても、村人は変わらずに声援を送り続けている。
 ……もしかして、こっちの世界だと、これが普通? とか、クリムゾンウェストに疎い七藻は少し思ってしまったが、いやいや、それは流石にねーよとセルフツッコミをする。どうにも村人達の様子がおかしい。先程まで何事も無かったはずなのに、ジョノ君が現れてからというもの、何かに取り憑かれたかのような虚ろな目に変わり、まるで操られているようにも見える。これは、ジョノ君が村人に何かしらの影響を与えているのだろうか。
 幸いなことに、直接村人に危害を加える様子はない。七藻は静かに腰に下げた鉄パイプを取りだした。間違いない。ふざけた容姿をしているが、コイツは……敵だ。

「おねーちゃん……、それ……、どうするの……?」
「えっ……?」
 隣でジョノ君を見ていたはずの女の子が、いつの間にか無表情な眼差しで七藻に視線を向けている。背中にゾクッとしたものが走り、顔を上げると、周囲の村人達もまた、ジョノ君から自分へと視線を移し、注がれていた熱視線は一転して、凍り付くような冷たく、刺すようなものへと変容していた。先程までの黄色い歓声が嘘のように止み、静寂の中を流れる、川の潺だけが、耳をつく。

「ちょっと、冗談でしょ……」
 肝を鷲掴みにされた様な感覚。呼吸は止まり、嫌な汗が噴き出す。


 ……どうやら、七藻の不幸はまだまだ続くようである。

リプレイ本文



 どう転んでも俺達は悪役。
 ならば悪役でも人気の出る倒し方……即ち。

 血沸き肉踊る、プロレスの時間だぁぁ!!!

 村に近付くや否やそう叫び、藤堂研司(ka0569)は一人、駆け出して行った。段々と気分が昂揚してどうにもならなくなったのか、否、マッスルなキメラ……筋肉の二文字が魂に火をつけたのか、残されたメンバーには憶測しかできない。そう、今の彼の心境を知る者は、彼の、彼自身の大胸筋しかいないのだ。

 とか、テンシ・アガート(ka0589)が、真顔でそんなナレーションを脳内で付け加えていた。研司を除くハンター一行は既に村に入り、件の橋の前で黙々と準備を進めている。

 単純に倒すだけではどんな影響が出るか分からないジョノ君。考え過ぎかもしれないが、心に、精神に我々の手で深いダメージを与えさせるのが目的かもしれない。
 そこで提案されたのが、『プロレスを介して決着をつける』という、研司の案であった。興行色が強く、単純に『相手を倒す』というモノではなく、時には技を受け、強さよりも見栄えを優先し、観客を盛り上げることに重点を置かれたエンターテイメント・プロレス。
 ギャラリーを求める性質のあるジョノ君を戦いの舞台に上げ、かつ、村人達を意気消沈させないよう、盛り上げながらも討伐する。まさにこの依頼にぴったりの作戦である……のだが。
「リアルブルーのプロレスが、こっちでどれだけ通用するか」
「懸念も分かるけどね。……ま、他にいい案もないし」
 テンシ、研司と同じ、リアルブルー出身の藤堂 小夏(ka5489)がロープを袋から出しながら、少し気怠そうに抑揚のない声で言い、気負い過ぎだよ、と言葉を続ける。
「そじゃの。どうせ同じ悪者になるなら、明るく激しく鮮烈にじゃな」
 開き直ったように、幼い風貌のディヤー・A・バトロス(ka5743)は、どこか悪い事を思いついた子供のような、そんな含みを感じられる表情で笑って見せた。
「歪虚め……。肉体美で村人たちを洗脳するなんて許せないねっ」
 ルーエル・ゼクシディア(ka2473)は唇を噛みしめ、神妙な面持ちで作業を進める。ジョノ君のあがってきやすいよう、水深の浅い場所にリングを作ることも検討したが、プロレスに耐えうるロープを張る為に、川に近い平地に杭を打って、ロープを括った。観客が巻き込まないように、リングから離して観客席を隔てるロープも張る。
「うんその、『ぷろれす』ってのはよくわからないけど、こう、筋肉と筋肉のぶつかり合いなんだってね?」
 ルーエルの隣に立つレイン・レーネリル(ka2887)の能天気な声が、青藍の空へと渡る。
「最悪ダメだったら遠ーーくの方から、こう、ね!」
 人差し指を突き出し、無垢な表情で笑う幼馴染であり恋人のエルフに、ルーエルは「ま」と、一声吐いて、
「周囲に被害も出ないし、近くにいるであろう村人たちにも怪我させる心配がないものね。良いと思うよ」
 と、やんわりと微笑んだ。
「さてと藤堂さん……って、そうか、小夏さんも藤堂さんだっけ。
 研司さんもエントリー準備して待ってるだろうし、さっさとリング開設済ませないとね。とびっきりの作ってあげるよ! モノ作っちゃう系エルフだし、私!」
 上腕二頭筋に手を当て、息を張るレイン。
 その様子を見て、当然というか、気が付けばチラホラと村人が集まって来ていた。予めディヤーがハンターズソサエティを通して興行企画を申し込んであるが、改めて説明は必要か。小夏が一歩前に出て、不思議そうな顔をした老人に寄った。

「これは決闘の場を作っているんだよ、ジョノ君よりも自分の筋肉の方が凄いといっている人が居るからね」
 筋肉、は兎も角、決闘という穏やかじゃない言葉を聞いて、眉間に更に深い皺を寄せる老人。それを見て、小夏は更に言葉を続ける。
「君達はジョノ君の筋肉が……いや、ジョノ君そのものが侮辱されたままで良いと言うのかい? ましてジョノ君の誇りを守る決闘に賛成しないのかな?」
 一歩後退った老人に、畳み掛けるようににじり寄る小夏。
「本当にジョノ君を想うなら、皆でジョノ君を応援しよう! 我らがジョノ君が思い上がった愚かな悪漢を斃してくれるんだよ!」
 少々大袈裟に、芝居がかったセリフ回し。だが、ジョノ君の特殊効果で正常な判断が鈍くなっている老人には効果は十分にあったようで、老人は納得したように大きく頷くと道を戻った。応援する仲間を集めるためだろう。
「……これで、ジョノ君を呼ぶための条件も揃うね」
 先程の熱の篭った演技から一転、冷めた瞳の小夏が首を竦めながら仲間達へと呟いた。


○白昼のルチャリブレ

 元々それ程大きくない村の、住民が全て集まるのに、それ程時間は要さなかった。マットは敷けなかったが、簡易リングの設置は完了し、観客達は今か今かとヒーローの登場を待ちわびている。リングの脇に実況席らしき長テーブルが置かれ、そこに座するは小夏とディヤー。リング上には、うさぎの着ぐるみを着たテンシが、その口の中から顔を覗かせていた。どうやらレフリー(?)らしい。

 そして悪役レスラーこと研司を除いた残り二人は、というと。

「って、なんでこんな格好なの」
 レインへ、哀愁漂う眼差しを向けるルーエル。当のレインはさも当たり前のように、むしろ何言ってんのこの子くらいの表情で首をかくりと傾げ、
「なんでって、……売り子?」
 と、ノースリーブにミニスカートの売り子姿で耳まで赤くしたルーエルを眺めた。この、もじもじしながら瞳を反らし、耳にかかった横髪をそっと掻き上げる姿でごはん3杯はいける。
「なんでって、これが売り子の正装! 即ち、ドレスコードだから!」
「でもこれ女のk……」
「しかし愚かにも、我らがヒーロージョノ君に挑まんとするヒールがいるらしいからね! なんだっけ、こういう時は処刑執行だ! とか言うんだっけ? あ、これじゃヒールか!」
 ルーエルの抗議の声に被せ気味に、村人にアピールするかのように、レインが仰々しく言う。これも作戦。こうしてギャラリーに紛れて村人を焚き付け、やんわり扇動するのが目的だ。その為に、端材で作ったジョノ君応援グッズなんかも用意している。
「はいはいヒールねー。って、ヒールじゃなくてビールだっつーの。こっちのお客さんは応援グッツね~。あ、CAMグッズもあるよ! え? いらない?」
「何、どさくさに紛れて売ろうとしてるの」
「ところで、ルー君。ヒールって何だろ?」
「って、知らないで言ってたの?」
 レインによって意図的にスカートの丈を上げられ、何か間違ったものが出そうなくらい危うい最終防衛ラインを死守しつつ、ルーエルはツッコミを入れた。

「ジョノ君!」

 そんな二人のやり取りを他所に、小さな女の子が立ち上がって一所を指さした。視線を辿ると、細水にうっすらと影。やがてそれはゆっくりとせり上がり、噴水のように飛沫をあげ、キラキラと眩く降り注ぐ雫が空に虹を掛けた。
「愛しきベビーフェイスに弾ける筋肉重戦車、我らがヒーロージョノ君の登場だよ!」
 小夏がその軌道を目で追いながら叫ぶ。


 天高く。そう、天高く。そして太陽を背に舞い降りてくる鋼の肉体。


「おぉー……ジョノ君とは、なかなか可愛いではないか!」
 軽やかにリングへと降り立ったジョノ君に対し、ディヤーは思わず感嘆の息を零す。同時に湧き上がる大歓声。まるで舞台に人気役者が上がって来たかのような熱狂っぷり。

「魔術や呪いの類と思ったがの」
 魔術師見習いのディヤーは目を光らせ、小さく呻く。大勢を巻き込むことで興奮を増幅させ、人々から正常な判断を奪う。
「ふぅん。催眠商法、みたいなもんね」
 小夏の呟きに、ディヤーが頷いた。
「術自体の力は、大したものではないようじゃの。さて」


 ジョノキン川をイカダで静かに下り、リングに立つジョノ君を不敵に見上げる覆面マント姿の男。


「どうも初めまして……そしてこんにちは! 俺こそが!! 新たなるジョノキン川のヒーロー……そして世界を制するプロレスの神!!!
 ミスタ~~~~!! フォーアイズ!!!」
 バサァとマントをひる返し、その下パンツ一丁のバディを披露する。サイドチェストにポージングした、研司の胸筋はモリモリと膨れ、ピクピクと脈打った。
「ヘイ、ジョノ君! 俺は貴様に挑戦を申し込む! 黒光りする貴様の筋肉を、俺の筋肉が凌駕するという事実を試合にて知らしめてくれよう!!」

 研司の名乗り直後、小夏がマイク(に見立てた棒)を手に叫ぶ。
「おっとぉ! ここで、この俺こそがジョノキン川に相応しい、真の筋肉とは何か膝詰小一時間教えてやると豪語し、ジョノ君に挑戦状を叩き付けた四つ目の悪童の登場だよ!!」

 ブゥゥゥーー!!

 村人から一斉にブーイングと罵声が飛ぶが、スッと、ジョノ君がそれを制するように腕を上げ、そしてテンシからマイクを受け取り、研司へと指差した。

「オウッオウッ!!」


「…………」


 少しの沈黙。
「よかろう! 血も涙も無い筋肉地獄の開幕だ!! ぐわーっはっはっはっは!!」
 高らかに叫び、イカダから飛ぶ。ジョノキン橋の橋桁を足場に、手摺へと飛び、更に回転しながらリングへと降り立つ研司。

「はい。実況、私小夏と――」
「解説のディヤーじゃ。技の解説ならまかせておけ」
「ディヤーよろしくね」
「よろしくの」
「レフリーですが、あの恰好はなんですかね?」
「ジョノ君へのアニマル的な配慮かの」
「ああ」

 そんな実況解説が行われるとも露知らず、テンシはジョノ君へとインタビューを敢行していた。
「相手は相当の猛者だと思われますが勝算ありますか?」
「オウッ、オウッッ!!」
「成程! 凄いですね!!」


「リング外は10カウントで反則負け、相手を3カウントフォールしたら勝ち、金的攻撃、凶器の使用は禁止! いいですね!」
 テンシは簡単にルール説明をする。ジョノ君に通じているかは怪しいが、村人にルールを説明する必要はあるだろう。

「ゴーファイッ!」
 テンシの掛け声とともにゴングが鳴り、試合が始まる。

「俺の鍛え上げた一矢……ナックルアローだ!!」
 弓を引くような独特のフォームから繰り出される拳が、ジョノ君の硬い胸板を叩く!
「フォーアイズが先制! しかしジョノ君ものともしない! 逆に水平チョップを打ち返したァァ!!」
「まずはお互い小手調べというところかのう」

 響き渡る肉が弾ける音を遠い目で見守りつつ、売り子を続けるルーエルとレイン。
「おー……世の中ってのは本当に奇妙だなぁ、広いなぁ。アザラシマッチョマンが現れた! なんて誰が信じるの? でも目の前にいる現実。あー人間社会ッテスゴイワー」

 人間社会に、あんなものがいてたまるか。

「むむむむ、聖導士としては何とか、こっそりあの筋肉歪虚を亡き者にしたいのに……歯痒いなぁ。こっそり凶器を置いておくとか、ダメかな?」
「ルー君、特攻しちゃダメだからね。露骨に抹殺しようとしないの!」
「声援に紛れれば、レクイエムも」
「落ち着いて、単なるアザラシよ。ちょっとマッチョメンな割合が多過ぎるけど」
 所々ルーエルから黒いオーラが滲み出ていたが、直ぐに営業スマイルへと戻る。
「あ、はい、御饅頭ですねっ」

 ドカーン!

 地面が震え、パワーボムが研司を地面へと沈めた。流石に生身で歪虚と戦うのは無理があったか。チカチカと目の前に光が走り、覆い被さる巨大な影がジョノ君と知覚するまで時間は要さなかった。すぐに始まるレフリーのカウント。
「ワン!ツーゥゥー……えっ、村人のワンさんが倒れた!?……ツー!!」
 という微妙な引き延ばしがあって、意識を取り戻す時間が稼げた。勢いを付けてフォールを返し、体勢を整える研司。

「アーユーマッソー!?」
 研司に意識の確認をするレフリー。彼の眼はまだ死んでいない。
「ジョノ君、フライングボディアタックー!!」
 小夏の声にハッとする研司。がうっかり足がもつれ、レフリーを押して二人仲良く押し潰された。

「な・に・すんだコルァ!! デスマッチだオラァァ!!」
「おおっとレフリー乱入!」
「ラビットストリィィム!!」
「コーナートップからのドロップキックが、フォーアイズに誤爆ゥ!!」
「あ、ごめ」

「ジョノ君、この隙を見逃さない! 得意のマッスルパフォー……」
「なんと神々しき筋肉……!! しからば、フォーアイズマッスルパフォーマンス!! 筋肉と筋肉の激突だ!!
 そしてプロレスの真骨頂! ヤツの技をあえて受け、同じ技でもって葬ってくれる!!」
「2名の技により場の盛り上がりは最高潮! 空気が、空間が震えているよ!!」

「あれはもしや……! ベルセルック・シャーマニック・レジデンス!!」
 実況テーブルをひっくり返さんばかりの勢いでディヤーは席を立ち、声を荒げた。隣に座っていた小夏は、割と「え、何それ」と、一瞬素でポカンとしてしまったが、直ぐに我に返り、
「知ってるの、ディヤー!?」
 と、思い出したように、お約束のセリフを吐いた。
「うむ。皆が知らんのも無理はない。あれは太古の昔、術の開発の志半ばで死んだ霊闘士のもの……」
 わなわなと震えるディヤー。まるで見てはいけないものを見てしまったかのような狼狽っぷりだが、当然そんな術など存在しない。ディヤーは更に言葉を綴る。
「ベルセルクの禁忌に、祖霊を自らの魂と融合させ、力を何十倍にも増幅するものがあると聞く。しかしその技の特殊さ故、憑依させた祖霊と深く混ざり合って肉体をも蝕み、魂は永遠の牢獄へと堕ちてしまったそうな。そう、コーヒーへと落としたミルクが溶けるように。恐らくはあの姿、アザラシと魂を融合させた者の末路じゃろう……」
 正常な判断を失っている今の村人ならばと、ディヤーはその状況を逆手に取った。嘘の羅列が行き着く先は、ディヤーにしかわからない。
「彼は生と死の連環の中で、永遠とも言える時を苦しみ続けている! だが今、その魂と同等のベクトルを持つ筋肉魂と共振し、その境界線が限りなくゼロに近付いておる!! 今ならば、ジョノ君を魂の呪縛から解き放てよう!!」

 言っている意味は全くわからない。だが、魂には響いた。

「彼を苦しみから救ってやるのじゃ!!」

 悲痛とも言えるディヤーの叫びは、村人の心を締め付けた。悲しいが、苦痛を和らげるためならば、彼を解放する為ならば……。


 だがせめて、あのリングの上で。

 皆の見守る中で、決着を。

 夢を、希望を、ありがとう、ジョノ君。


 ぶつかり合う肉と肉。弾ける汗と汗が宙を舞って、風と共に散る。

 試合終了を告げるゴングは、まるで教会の鐘のように厳かに心に響いた。





















 なお。

 流石にプロレス技で歪虚を斃すことは出来なかったので、ルーエルとレインが後程こっそり路地裏でトドメを刺し、一件は蟠りを残すことなく、無事解決したのであった。

依頼結果

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MVP一覧

  • 龍盟の戦士
    藤堂研司ka0569
  • 鉄壁の機兵操者
    ディヤー・A・バトロスka5743

重体一覧

参加者一覧

  • 龍盟の戦士
    藤堂研司(ka0569
    人間(蒼)|26才|男性|猟撃士
  • 遥かなる未来
    テンシ・アガート(ka0589
    人間(蒼)|18才|男性|霊闘士
  • 掲げた穂先に尊厳を
    ルーエル・ゼクシディア(ka2473
    人間(紅)|17才|男性|聖導士
  • それでも私はマイペース
    レイン・ゼクシディア(ka2887
    エルフ|16才|女性|機導師
  • スライムの御遣い
    藤堂 小夏(ka5489
    人間(蒼)|23才|女性|闘狩人
  • 鉄壁の機兵操者
    ディヤー・A・バトロス(ka5743
    人間(紅)|11才|男性|魔術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 筋肉バトル相談卓!
藤堂研司(ka0569
人間(リアルブルー)|26才|男性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2015/10/16 09:59:44
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/10/12 20:37:14