ゲスト
(ka0000)
対岸の催事
マスター:月宵

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/10/19 15:00
- 完成日
- 2015/10/27 06:21
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
辺境の地。そこには様々な部族が存在している。彼らにはそれぞれ崇拝し、信仰するトーテムと言うものが存在する。彼ら部族をまとめあげるに不可欠なもの、言わば生命線と言ったところだろうか。
そんな部族の中に『イチヨ族』と言うものがいる。彼らは流浪の少数部族で、各地を転々とする者達。
彼らのトーテムの名は『概念精霊・コリオリ』と言う。
彼らの信条は『他部族の信仰を信仰する』と言う変わったものだ。
それが例え、如何なる信仰であろうとも……
●
それはハンター達にとって日常的な出来事。オフィスで依頼を受けて、目的地の森までやってきて歪虚の退治。
ただ、辺りに濃い霧が出始めた。地の利もないハンター達には視界不良は不利だろう。木々の少ない開けた場所を目指し、彼らは疾走した。
背後の歪虚達の足音、羽根音が遠退かぬ程度に距離を取り、やがて曇り空なれども視界が確保出来うる場所にたどり着いた。
最初にハンターが目の前に見たのは川であった。横に寝そべる川は幅10mくらいだろうか。今までの湿った空気が嘘の様に、肺に透き通った冷たい空気が押し寄せる。
ただ穏やかに水音がせせらぐ。彼処まで追い込めば、歪虚は流れに足を取られるのではないか。
水底にある、なだらかな丸石が、深度を教えてくれた。問題なく、川に身を浸せるだろう。
が、その希望は足元に刺さった矢により、あえなく挫かれた。
当てる気は無くとも、矢の夥しい数が拒絶を物語る。幾何学模様が描かれた白い覆面を被る集団。
そこで漸くハンター達は、川の対岸の群衆に気付くのだ。
彼らがハンター達へ矢をつがえている。その数、30。
「――――! ━━━━!」
族長と思わしき人間が、ハンター達に叫ぶ。だがハンター達には、それは声ではなく。音として、でしか伝わらない。
恐らく言葉。彼は何かを伝えたいのだろう。幽かに伝わったとしたら、力強い殺気立つ老年の様子だろうか。
「僕が訳そう」
置くから出てきたのは中肉中背の仮面を着けた人間。彼の名は、イ・シダ。イチヨ族と言う部族の人物である。
「『この川は我らが聖域だ。如何なるものも足を踏み入れることを赦さない』」
「『それは歪虚もヒトも変わらない。一滴でも身を浸そうものなら、矢の雨を降らせる』だ」
ハンター達は唐突な出来事に言葉も出ない。前からは、歪虚。背後は、謎の部族。
「残念だが、僕は彼らを止められない。イチヨ族の信条に反するからな」
淡々と告げるシダ。だが、此方の催事に支障がないかぎり、シダは手を出さない、とも告げた。
翻訳して貰い、状況を説明されただけ良かった……とでも思うしかない。
怒涛の足音と羽音が耳の中で大きくなっていく。謎の部族をハンター達が背にした時には、歪虚達は目前であった。
「全ては御霊コリオリの元へ」
シダは呟きを溢すように、そう祈った。
そんな部族の中に『イチヨ族』と言うものがいる。彼らは流浪の少数部族で、各地を転々とする者達。
彼らのトーテムの名は『概念精霊・コリオリ』と言う。
彼らの信条は『他部族の信仰を信仰する』と言う変わったものだ。
それが例え、如何なる信仰であろうとも……
●
それはハンター達にとって日常的な出来事。オフィスで依頼を受けて、目的地の森までやってきて歪虚の退治。
ただ、辺りに濃い霧が出始めた。地の利もないハンター達には視界不良は不利だろう。木々の少ない開けた場所を目指し、彼らは疾走した。
背後の歪虚達の足音、羽根音が遠退かぬ程度に距離を取り、やがて曇り空なれども視界が確保出来うる場所にたどり着いた。
最初にハンターが目の前に見たのは川であった。横に寝そべる川は幅10mくらいだろうか。今までの湿った空気が嘘の様に、肺に透き通った冷たい空気が押し寄せる。
ただ穏やかに水音がせせらぐ。彼処まで追い込めば、歪虚は流れに足を取られるのではないか。
水底にある、なだらかな丸石が、深度を教えてくれた。問題なく、川に身を浸せるだろう。
が、その希望は足元に刺さった矢により、あえなく挫かれた。
当てる気は無くとも、矢の夥しい数が拒絶を物語る。幾何学模様が描かれた白い覆面を被る集団。
そこで漸くハンター達は、川の対岸の群衆に気付くのだ。
彼らがハンター達へ矢をつがえている。その数、30。
「――――! ━━━━!」
族長と思わしき人間が、ハンター達に叫ぶ。だがハンター達には、それは声ではなく。音として、でしか伝わらない。
恐らく言葉。彼は何かを伝えたいのだろう。幽かに伝わったとしたら、力強い殺気立つ老年の様子だろうか。
「僕が訳そう」
置くから出てきたのは中肉中背の仮面を着けた人間。彼の名は、イ・シダ。イチヨ族と言う部族の人物である。
「『この川は我らが聖域だ。如何なるものも足を踏み入れることを赦さない』」
「『それは歪虚もヒトも変わらない。一滴でも身を浸そうものなら、矢の雨を降らせる』だ」
ハンター達は唐突な出来事に言葉も出ない。前からは、歪虚。背後は、謎の部族。
「残念だが、僕は彼らを止められない。イチヨ族の信条に反するからな」
淡々と告げるシダ。だが、此方の催事に支障がないかぎり、シダは手を出さない、とも告げた。
翻訳して貰い、状況を説明されただけ良かった……とでも思うしかない。
怒涛の足音と羽音が耳の中で大きくなっていく。謎の部族をハンター達が背にした時には、歪虚達は目前であった。
「全ては御霊コリオリの元へ」
シダは呟きを溢すように、そう祈った。
リプレイ本文
漸く、などと言う気の聞いた言葉が出るほど長い時間はないが、猪型の歪虚と相まみえる直前、ユノ(ka0806)は川の端にストーンウォールを張った。
理不尽だ、と部族の大人へ愚痴りつつも猫のように石壁によじ登る。そこからだと、中空を飛行する鷲の様な怪鳥もよく見える。
「…どうやら歪虚と私達は招かれざる客と扱われている様だな」
なりたくてなったワケじゃないが、と心に付け加えるのは久延毘 大二郎(ka1771)だ。
「だが、辺境とはそういうものだろう。考え方や教義はそれぞれだ」
前衛のバルドゥル(ka5417)が大二郎にそう応えた。
「そうだな、彼らも自ら信条に従ったまでだ」
大二郎はイチヨ族とも何度か時を共にし、平時なら話がわからない相手であることも心得ている。
が、今は兎に角事を終わらせよう。
彼が指し棒にも似たそれを振りかざすと、辺りが一瞬に霧に包まれる。ハンター達は念のため離れたところで口元を押さえて見守る。
ぱたり、ぱたり、と猪達は目を瞑ってゆく。半数は超えた筈だ。
それは同じく、中空を飛ぶ怪鳥も包む。しかし……
「な、んだって」
両羽根を同時に羽ばたかせ、作り出した突風で霧を一気に飛ばし散らした。無論、まぶたは落ちることなく此方を見据えている。人を吹き飛ばす程の風力だ。霧を飛ばすなど、造作もないのだろう。この鳥にスリープクラウドは効かない、それを知るには充分な情報だった。
しかし、吹き飛ばしの動作は代償に大きな隙も作る。
「今です!」
ステラ・レッドキャップ(ka5434)がライフルを構える。響く銃声。頭を狙った一発は見事命中。瞬間、氷が鳥に張り巡らされる。一拍置いて、火の玉が怪鳥の片羽を目指す。しかし、怪鳥も半身をそらし、羽根の付け根を焦がしたにとどまる。
ギリァァァァァ
「…ああ、マジックカード発動したい…」
そうぼやくのは、今しがた火炎符を命中させた黒耀 (ka5677)である。何か、ばいんだー?とやらを忘れやる気がでないのか、とぼとぼと横へ移動する。
「前門の虎、後門の狼、と言った所でしょうかね?」
誤称も気にせず、盾を片手に呟くのはテノール(ka5676)だ。彼としても、聖域と言われたこの川を汚すのは忍びない。
「俺ァ万歳丸だ!」
テノールの真横、声を張り上げる万歳丸(ka5665)にテノールは思わず身を竦めた。
「聖域とやらを穢したくねェなら手ェ貸せ!俺たちもテメェらを蔑ろにする気はねェ!」
それからシダに更に、これからの方針を伝える。先ずこいつらが水に入らぬように止め、俺たちは頃合いを見て横に動くといった物である。
「…それを僕に彼らに伝えろ、と?」
「頼むぜ!」
こちら側の意思を汲み取ると、シダは少し待てと後ろに下がる。が、猪は待っちゃくれない。一匹の歪虚の突進。それを万歳丸が受け止める。
「呵呵ッ!良い当たりじゃねェか……!」
身体を揺らす衝撃は、金剛を使用した彼の身体にダメージは与えない。が、衝撃は殺せず一気に後ろへと持ってかれる。端へ追いやられ、踵は既に片方地に付いていない。
「テメェらが此処の『肝』だからなァ、絶対ェ守り抜くッ!」
その内に背後にかかる、先程となんら変わらないシダの声。
「構わないそうだ。『元より侵入者を滅したら殺るつもりだった』と」
「下手くそ以外は猪を撃てよ! 俺達を射たねぇようにな!」
「……既に危険な貴様が、それを言うのか」
また一頭の猪が、今度は大二郎に向かって突進を仕掛ける。
「毘古ちゃんの邪魔はさせません!」
猪とほぼ同時に一直線に薙刀で彼を守る形で駆け抜けるのは、八雲 奏(ka4074)大二郎の愛しい人だ。切っ先は見事喉元を抉り、心の臓に一撃。手際よく猪の一頭を絶命させた。
その狙いを定めかのように、近場の一匹が奏を強襲。しかしそこは戦巫女。まるで戦舞のように、柔らかに袖を浮かせて回避する。まるであの時を思い出すように……
「咲くのも華なら、散るのも華。狂い咲くのも、また華命を散らせる事を恐れぬのならば、存分に死合うと致しましょう」
他前衛達と違い奏は、前線へと踏み込んでいけた。
……やがて林の中にまで一匹の猪と対峙する形になっていった。
さてここで問いましょう。ハンター達は、何故林を抜けようと考えたのでしょう?
林の中で振り向いた奏。はたと思い出したのは、この林を抜けたその理由。視界に入る薄い白……霧の存在を思い出したからだ。
(私としたことが……)
まだ殆んど手前、方向感覚が鈍るほどではない。今ならまだ、走って抜けられるだろう。
共に林に入ったこの猪を滅せればの話だが。
●
「ココならどうだ!」
テノールは敢えて、突進しにかかる歪虚に拳を捻り、眼球その先の脳髄を狙ってぶち破り一瞬にして無に帰した。が、目が覚めた一匹が同じく、テノールへ突き進む。
急ぎ構えるテノールであったが、猪の作る直線はテノールから大きく反れている。
(しまった)
あのままでは、岸を突っ切り猪が川に落ちてしまう、彼はそう思った。が、そうはならない。鳥のけたたましい鳴き声に歪虚は足を強く止めた。
(これって、そういうこと?)
同じような状況はバルドゥルにも起きていた。突進を受けた腕は大きく腫れるも、猪はまた声に合わせて後退し再び彼目掛けて跳んでくる。
「これは…」
が、これを盾で去なして凌ぎきった。
「どうゆうことかな~?」
壁の上。猫のような体勢を維持したまま補助魔法をおじ…バルドゥルにかけながらユノが言う。幼い彼でも、猪の動きに不信感を持ったようだ。
「これが統率、そう言う意味だろう」
男が見上げた視線の先には、あの巨体で大きな翼を動かし空を闊歩する怪鳥の姿があった。
その後、獣ながらにチームワークに物を言わせる猪達は、数を徐々に減らしながらもハンター達を端から縫い止めるように動かさない。
それでも微かな傷で済んでいるのは、自らを後にしながら治癒を仲間に繰り返したバルドゥル。ウインドガストを仲間に施し続けたユノのお陰だろう。
煮え切らない状況に怪鳥が更に動く。更に高く羽ばたけば地を見下ろし、ある一点に向かい真空の刃を放つ。
「きゃあ!」
「奏!」
吸い込まれるように木々や霧を巻き込み、風がぶつかると悲鳴があがった。
「このような愚行っ……許さん!」
最初に真横へ避難していた大二郎は、言葉より早くワンドを降り下ろした。出現した鏡面より、雷が一目散に曇り空を駆ける。
ギッ……ギィ……
深い眠りについた二匹の猪は迅雷に素直に焼け焦げるが、鳥は塵と成るどころなカスリもしない。
「こ、この」
一度氷の箍を振り払えば、飛び交う弾丸や魔法は綺麗にかわされる。
「歪虚じゃなければ、焼いたら美味そうなんですけどね、猪」
近くで見ていたテノールの暢気な台詞。が、忌々しげに鳥を見上げる大二郎には聴こえない。
そして、見計らったように中衛へ移動し浮遊。両羽根を高く上げた。
「来るぞ、吹き飛ばされンじゃねぇぞ!」
ずっと様子を伺っていたステラのなりふり構わぬ声が響いた。これを聞いた黒耀は大二郎の近くに、ステラは岩壁を背に、ユノは石壁に身体を丸くし、しがみついた。
が、万歳丸に到っては調度その時、柔能制剛で猪を一頭投げ倒したその直後である。
怪鳥には、運良く強い追い風が吹いた。
「くっ」
「わぁ!」
黒耀は回避。ユノも石壁にしがみつき事なきを得る。テノール、バルドゥル、奏、大二郎は範囲外。
残る二人。隙を見せた万歳丸は、最高まで足を踏ん張らせて留まろうとした。
しかし、吹き飛ばしの方が強かった。
パシャ、そんな音がしたかも知れない。万歳丸は何かを感じて首を動かした。感じたのは頬に熱さ、耳の横を掠めた夥しい矢の音。狙いは頭部、どうみても殺す気があるのだろう。
小麦の肌に冷や汗をたらしながら、その場から飛び退いた。これ程に、相手の弓矢の精密度の拙さをありがたいと思うこともないだろう。
そして……一番に気付き、警告を放ったステラであったが……
「だいじょうぶ?」
「だ、大丈夫ですよ……イ゛、ッテェ」
「今回復してやろう」
突風に足元を掬われ吹き飛ばされ、赤い頭巾纏った後頭部をあろうことか石壁に勢い良くぶつけたのである。
因みに石壁は、少しヒビは入ったが壊れることはなかった。どれだけ痛かったは、かわいい金髪の頭にたんこぶ作っている所から察せるだろう。
「今が攻めどきだ! 準備はよろしいか?」
と言ってから、札を補充しながら白湯を飲んでいる黒耀。付近の雑魚を始末したテノールは、彼女の声に応とし怪鳥に襲い掛かる。
飛び上がろうとする怪鳥の翼をぶち破った。激痛にのたうつ鳥に、更にステラの弾丸が足を穿つ。
「決めます。発動魔法カード!」
既に虫の息のそれに、黒耀は止めとばかりにカードを掲げて火炎球が禍々しい火の鳥を作り上げた。
やがて、火の鳥は断末魔をあげて蘇えることはなかった……
怪鳥を滅しても、まだ戦闘は終わらない。大二郎は未だ奏へ応答を願っていた。
グルァァァァ
やがて鼓膜に響くのは、獰猛な歪虚の声。その場所は林の先。
「奏! 大丈夫か!?かな――」
大二郎の目の前に塊が飛び出る。斬撃に血塗れなそれは、地面に着地する間に姿を滅した。それから数秒後現れたのは、肩に掠り傷を残した奏。
現在の事態に虚を突かれ、開口が直らない大二郎に、彼女は先程の言葉を答えるように笑いかけた。
「毘古ちゃんが見ていてくれるなら…それだけで勇気100倍です!」
「そ……そうか。そうだよな」
なんともしまらない、ある意味『らしい』のだが。
●聖域の理由
怪鳥が消えた後、統率は一気に乱れる。頭がいなくなったのだから、当たり前と言えば当たり前だろう。
おかげで突進で川に飛び込もうとする猪は後を経たなかった。残り三匹だから良かったものの、もし十匹いる内にこの雑魚が制御を失っていたら、ここにはヒトの屍もあったかも知れない。あくまで仮定の話だが。
不様に川に嵌まった猪が、針鼠に成り変わったのを最後にこの戦いは終わる。
まるで、最初からその結果を知っていたように、シダは手招きをしながらこう伝えた。
「これより少し南に橋がある」
それだけ伝えると、シダは部族の元へ行ってしまう。
「さて、ご教授願いに行くとするか」
「ずっーと理不尽だったもんね」
「相当……なんだろうなァ」
全員で橋を渡り、部族の元へと向かっていく。ハンター達が反対側の岸に到着する頃には、あの有り余る殺気は消え失せ、しめやかに儀式が行われていた。穏やかな川を眺め、直立しながら花や砂金を流している。一人が流すと、続々と続いた。
「オイ、謝罪もなしかよ!?」
全く此方への反応のない部族へ、万歳丸がそう告げた。
「儀式中だ。それに彼らにとって貴様らは邪魔者でしかない」
が、流石にしのびない為、後でそちらの事情は付け足しておく、とシダは言ってくれた。
「いえ、僕らも不用心に聖域に近付いたこと、歪虚を引き寄せたこと謝罪したいと、彼らに伝えて下さい」
テノールの添えた言葉に無言でシダは頷いた。
「さて、話して頂こうか。不思議とは思わないが、説明くらいは聞きたいものだね」
大柄な体躯で腕組みをしながら、バルドゥルが聞いてきた。
「今は穏やかな河川だが、その昔酷く増水した時があった」
シダはつい数日前に聞いた話であるのに限らず、正確に説明を始めた。
毎日のように続く豪雨と台風。このままでは、増水した川が決壊し下流の集落は壊滅するだろう。
「そこで彼らは、トーテムである川の精霊の御許に、それなりの数の柱を贈る」
「は・し・ら?」
そんなものどうするのだろう、と言う疑問に思うユノは首を傾げる。
(人柱……要するに生贄か)
それを聞けば大二郎には部族のあの様相に、直ぐに納得がいった。恐らくこの聖域と言う場所に、何人もの骨がまだ埋まっているのだろう。今では、せせらぐ川底に見る影もないが。
「実際柱のお陰で、川は穏やかになった」
「………」
胸くそ悪い話。そう言いたげな舌打ちをステラは隠さない。
「彼らは柱に感謝の意味を込めて、この川に流す」
小声で「彼らへの感謝を忘れないようにだ」とシダは付け加えた。
「それほどに神聖な場所というワケか」
生け贄が無ければ、集落は流され今自分達はここにいない。その感謝を忘れるな、と言う儀式とバルドゥルは解釈する。
(つまりはァ、俺達は墓荒らしっつーことか)
と簡単に纏める万歳丸。
「無論、今は行っていないが」
「そりゃァ、そうだろ」
少なくとも公にできるものではない。
真剣に話を聞いていた奏が、ふとシダに目元柔らかく笑みを浮かべて提案してきた。
「あの私も、一緒にご参加させて貰えませんか?」
一瞬驚いたように仮面を奏に動かすも、自らも前の世界では巫女をやっており是非参加したいと彼女は伝える。
「あ、私も!」
「僕も良いですか?」
更にユノ、テノールものっかると、シダは後で確認を取ると言ってくれた。
「前の時とは、随分違うようだ」
前にイチヨ族と関わった大二郎は、シダに敢えて聞いてみた。様々な信仰のカタチ。それはヒトが忌避するものも含まれていることを、改めて大二郎は理解し直した。
「信仰を信仰する。それが如何なるものでも……不服か」
「いや、私自身の学者としての、興味、が湧いただけだよ」
理不尽だ、と部族の大人へ愚痴りつつも猫のように石壁によじ登る。そこからだと、中空を飛行する鷲の様な怪鳥もよく見える。
「…どうやら歪虚と私達は招かれざる客と扱われている様だな」
なりたくてなったワケじゃないが、と心に付け加えるのは久延毘 大二郎(ka1771)だ。
「だが、辺境とはそういうものだろう。考え方や教義はそれぞれだ」
前衛のバルドゥル(ka5417)が大二郎にそう応えた。
「そうだな、彼らも自ら信条に従ったまでだ」
大二郎はイチヨ族とも何度か時を共にし、平時なら話がわからない相手であることも心得ている。
が、今は兎に角事を終わらせよう。
彼が指し棒にも似たそれを振りかざすと、辺りが一瞬に霧に包まれる。ハンター達は念のため離れたところで口元を押さえて見守る。
ぱたり、ぱたり、と猪達は目を瞑ってゆく。半数は超えた筈だ。
それは同じく、中空を飛ぶ怪鳥も包む。しかし……
「な、んだって」
両羽根を同時に羽ばたかせ、作り出した突風で霧を一気に飛ばし散らした。無論、まぶたは落ちることなく此方を見据えている。人を吹き飛ばす程の風力だ。霧を飛ばすなど、造作もないのだろう。この鳥にスリープクラウドは効かない、それを知るには充分な情報だった。
しかし、吹き飛ばしの動作は代償に大きな隙も作る。
「今です!」
ステラ・レッドキャップ(ka5434)がライフルを構える。響く銃声。頭を狙った一発は見事命中。瞬間、氷が鳥に張り巡らされる。一拍置いて、火の玉が怪鳥の片羽を目指す。しかし、怪鳥も半身をそらし、羽根の付け根を焦がしたにとどまる。
ギリァァァァァ
「…ああ、マジックカード発動したい…」
そうぼやくのは、今しがた火炎符を命中させた黒耀 (ka5677)である。何か、ばいんだー?とやらを忘れやる気がでないのか、とぼとぼと横へ移動する。
「前門の虎、後門の狼、と言った所でしょうかね?」
誤称も気にせず、盾を片手に呟くのはテノール(ka5676)だ。彼としても、聖域と言われたこの川を汚すのは忍びない。
「俺ァ万歳丸だ!」
テノールの真横、声を張り上げる万歳丸(ka5665)にテノールは思わず身を竦めた。
「聖域とやらを穢したくねェなら手ェ貸せ!俺たちもテメェらを蔑ろにする気はねェ!」
それからシダに更に、これからの方針を伝える。先ずこいつらが水に入らぬように止め、俺たちは頃合いを見て横に動くといった物である。
「…それを僕に彼らに伝えろ、と?」
「頼むぜ!」
こちら側の意思を汲み取ると、シダは少し待てと後ろに下がる。が、猪は待っちゃくれない。一匹の歪虚の突進。それを万歳丸が受け止める。
「呵呵ッ!良い当たりじゃねェか……!」
身体を揺らす衝撃は、金剛を使用した彼の身体にダメージは与えない。が、衝撃は殺せず一気に後ろへと持ってかれる。端へ追いやられ、踵は既に片方地に付いていない。
「テメェらが此処の『肝』だからなァ、絶対ェ守り抜くッ!」
その内に背後にかかる、先程となんら変わらないシダの声。
「構わないそうだ。『元より侵入者を滅したら殺るつもりだった』と」
「下手くそ以外は猪を撃てよ! 俺達を射たねぇようにな!」
「……既に危険な貴様が、それを言うのか」
また一頭の猪が、今度は大二郎に向かって突進を仕掛ける。
「毘古ちゃんの邪魔はさせません!」
猪とほぼ同時に一直線に薙刀で彼を守る形で駆け抜けるのは、八雲 奏(ka4074)大二郎の愛しい人だ。切っ先は見事喉元を抉り、心の臓に一撃。手際よく猪の一頭を絶命させた。
その狙いを定めかのように、近場の一匹が奏を強襲。しかしそこは戦巫女。まるで戦舞のように、柔らかに袖を浮かせて回避する。まるであの時を思い出すように……
「咲くのも華なら、散るのも華。狂い咲くのも、また華命を散らせる事を恐れぬのならば、存分に死合うと致しましょう」
他前衛達と違い奏は、前線へと踏み込んでいけた。
……やがて林の中にまで一匹の猪と対峙する形になっていった。
さてここで問いましょう。ハンター達は、何故林を抜けようと考えたのでしょう?
林の中で振り向いた奏。はたと思い出したのは、この林を抜けたその理由。視界に入る薄い白……霧の存在を思い出したからだ。
(私としたことが……)
まだ殆んど手前、方向感覚が鈍るほどではない。今ならまだ、走って抜けられるだろう。
共に林に入ったこの猪を滅せればの話だが。
●
「ココならどうだ!」
テノールは敢えて、突進しにかかる歪虚に拳を捻り、眼球その先の脳髄を狙ってぶち破り一瞬にして無に帰した。が、目が覚めた一匹が同じく、テノールへ突き進む。
急ぎ構えるテノールであったが、猪の作る直線はテノールから大きく反れている。
(しまった)
あのままでは、岸を突っ切り猪が川に落ちてしまう、彼はそう思った。が、そうはならない。鳥のけたたましい鳴き声に歪虚は足を強く止めた。
(これって、そういうこと?)
同じような状況はバルドゥルにも起きていた。突進を受けた腕は大きく腫れるも、猪はまた声に合わせて後退し再び彼目掛けて跳んでくる。
「これは…」
が、これを盾で去なして凌ぎきった。
「どうゆうことかな~?」
壁の上。猫のような体勢を維持したまま補助魔法をおじ…バルドゥルにかけながらユノが言う。幼い彼でも、猪の動きに不信感を持ったようだ。
「これが統率、そう言う意味だろう」
男が見上げた視線の先には、あの巨体で大きな翼を動かし空を闊歩する怪鳥の姿があった。
その後、獣ながらにチームワークに物を言わせる猪達は、数を徐々に減らしながらもハンター達を端から縫い止めるように動かさない。
それでも微かな傷で済んでいるのは、自らを後にしながら治癒を仲間に繰り返したバルドゥル。ウインドガストを仲間に施し続けたユノのお陰だろう。
煮え切らない状況に怪鳥が更に動く。更に高く羽ばたけば地を見下ろし、ある一点に向かい真空の刃を放つ。
「きゃあ!」
「奏!」
吸い込まれるように木々や霧を巻き込み、風がぶつかると悲鳴があがった。
「このような愚行っ……許さん!」
最初に真横へ避難していた大二郎は、言葉より早くワンドを降り下ろした。出現した鏡面より、雷が一目散に曇り空を駆ける。
ギッ……ギィ……
深い眠りについた二匹の猪は迅雷に素直に焼け焦げるが、鳥は塵と成るどころなカスリもしない。
「こ、この」
一度氷の箍を振り払えば、飛び交う弾丸や魔法は綺麗にかわされる。
「歪虚じゃなければ、焼いたら美味そうなんですけどね、猪」
近くで見ていたテノールの暢気な台詞。が、忌々しげに鳥を見上げる大二郎には聴こえない。
そして、見計らったように中衛へ移動し浮遊。両羽根を高く上げた。
「来るぞ、吹き飛ばされンじゃねぇぞ!」
ずっと様子を伺っていたステラのなりふり構わぬ声が響いた。これを聞いた黒耀は大二郎の近くに、ステラは岩壁を背に、ユノは石壁に身体を丸くし、しがみついた。
が、万歳丸に到っては調度その時、柔能制剛で猪を一頭投げ倒したその直後である。
怪鳥には、運良く強い追い風が吹いた。
「くっ」
「わぁ!」
黒耀は回避。ユノも石壁にしがみつき事なきを得る。テノール、バルドゥル、奏、大二郎は範囲外。
残る二人。隙を見せた万歳丸は、最高まで足を踏ん張らせて留まろうとした。
しかし、吹き飛ばしの方が強かった。
パシャ、そんな音がしたかも知れない。万歳丸は何かを感じて首を動かした。感じたのは頬に熱さ、耳の横を掠めた夥しい矢の音。狙いは頭部、どうみても殺す気があるのだろう。
小麦の肌に冷や汗をたらしながら、その場から飛び退いた。これ程に、相手の弓矢の精密度の拙さをありがたいと思うこともないだろう。
そして……一番に気付き、警告を放ったステラであったが……
「だいじょうぶ?」
「だ、大丈夫ですよ……イ゛、ッテェ」
「今回復してやろう」
突風に足元を掬われ吹き飛ばされ、赤い頭巾纏った後頭部をあろうことか石壁に勢い良くぶつけたのである。
因みに石壁は、少しヒビは入ったが壊れることはなかった。どれだけ痛かったは、かわいい金髪の頭にたんこぶ作っている所から察せるだろう。
「今が攻めどきだ! 準備はよろしいか?」
と言ってから、札を補充しながら白湯を飲んでいる黒耀。付近の雑魚を始末したテノールは、彼女の声に応とし怪鳥に襲い掛かる。
飛び上がろうとする怪鳥の翼をぶち破った。激痛にのたうつ鳥に、更にステラの弾丸が足を穿つ。
「決めます。発動魔法カード!」
既に虫の息のそれに、黒耀は止めとばかりにカードを掲げて火炎球が禍々しい火の鳥を作り上げた。
やがて、火の鳥は断末魔をあげて蘇えることはなかった……
怪鳥を滅しても、まだ戦闘は終わらない。大二郎は未だ奏へ応答を願っていた。
グルァァァァ
やがて鼓膜に響くのは、獰猛な歪虚の声。その場所は林の先。
「奏! 大丈夫か!?かな――」
大二郎の目の前に塊が飛び出る。斬撃に血塗れなそれは、地面に着地する間に姿を滅した。それから数秒後現れたのは、肩に掠り傷を残した奏。
現在の事態に虚を突かれ、開口が直らない大二郎に、彼女は先程の言葉を答えるように笑いかけた。
「毘古ちゃんが見ていてくれるなら…それだけで勇気100倍です!」
「そ……そうか。そうだよな」
なんともしまらない、ある意味『らしい』のだが。
●聖域の理由
怪鳥が消えた後、統率は一気に乱れる。頭がいなくなったのだから、当たり前と言えば当たり前だろう。
おかげで突進で川に飛び込もうとする猪は後を経たなかった。残り三匹だから良かったものの、もし十匹いる内にこの雑魚が制御を失っていたら、ここにはヒトの屍もあったかも知れない。あくまで仮定の話だが。
不様に川に嵌まった猪が、針鼠に成り変わったのを最後にこの戦いは終わる。
まるで、最初からその結果を知っていたように、シダは手招きをしながらこう伝えた。
「これより少し南に橋がある」
それだけ伝えると、シダは部族の元へ行ってしまう。
「さて、ご教授願いに行くとするか」
「ずっーと理不尽だったもんね」
「相当……なんだろうなァ」
全員で橋を渡り、部族の元へと向かっていく。ハンター達が反対側の岸に到着する頃には、あの有り余る殺気は消え失せ、しめやかに儀式が行われていた。穏やかな川を眺め、直立しながら花や砂金を流している。一人が流すと、続々と続いた。
「オイ、謝罪もなしかよ!?」
全く此方への反応のない部族へ、万歳丸がそう告げた。
「儀式中だ。それに彼らにとって貴様らは邪魔者でしかない」
が、流石にしのびない為、後でそちらの事情は付け足しておく、とシダは言ってくれた。
「いえ、僕らも不用心に聖域に近付いたこと、歪虚を引き寄せたこと謝罪したいと、彼らに伝えて下さい」
テノールの添えた言葉に無言でシダは頷いた。
「さて、話して頂こうか。不思議とは思わないが、説明くらいは聞きたいものだね」
大柄な体躯で腕組みをしながら、バルドゥルが聞いてきた。
「今は穏やかな河川だが、その昔酷く増水した時があった」
シダはつい数日前に聞いた話であるのに限らず、正確に説明を始めた。
毎日のように続く豪雨と台風。このままでは、増水した川が決壊し下流の集落は壊滅するだろう。
「そこで彼らは、トーテムである川の精霊の御許に、それなりの数の柱を贈る」
「は・し・ら?」
そんなものどうするのだろう、と言う疑問に思うユノは首を傾げる。
(人柱……要するに生贄か)
それを聞けば大二郎には部族のあの様相に、直ぐに納得がいった。恐らくこの聖域と言う場所に、何人もの骨がまだ埋まっているのだろう。今では、せせらぐ川底に見る影もないが。
「実際柱のお陰で、川は穏やかになった」
「………」
胸くそ悪い話。そう言いたげな舌打ちをステラは隠さない。
「彼らは柱に感謝の意味を込めて、この川に流す」
小声で「彼らへの感謝を忘れないようにだ」とシダは付け加えた。
「それほどに神聖な場所というワケか」
生け贄が無ければ、集落は流され今自分達はここにいない。その感謝を忘れるな、と言う儀式とバルドゥルは解釈する。
(つまりはァ、俺達は墓荒らしっつーことか)
と簡単に纏める万歳丸。
「無論、今は行っていないが」
「そりゃァ、そうだろ」
少なくとも公にできるものではない。
真剣に話を聞いていた奏が、ふとシダに目元柔らかく笑みを浮かべて提案してきた。
「あの私も、一緒にご参加させて貰えませんか?」
一瞬驚いたように仮面を奏に動かすも、自らも前の世界では巫女をやっており是非参加したいと彼女は伝える。
「あ、私も!」
「僕も良いですか?」
更にユノ、テノールものっかると、シダは後で確認を取ると言ってくれた。
「前の時とは、随分違うようだ」
前にイチヨ族と関わった大二郎は、シダに敢えて聞いてみた。様々な信仰のカタチ。それはヒトが忌避するものも含まれていることを、改めて大二郎は理解し直した。
「信仰を信仰する。それが如何なるものでも……不服か」
「いや、私自身の学者としての、興味、が湧いただけだよ」
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 久延毘 大二郎(ka1771) 人間(リアルブルー)|22才|男性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2015/10/19 00:06:46 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/10/18 19:02:57 |