ゲスト
(ka0000)
【聖呪】襲撃の茨小鬼
マスター:鳴海惣流

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~7人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2015/10/21 07:30
- 完成日
- 2015/10/26 22:47
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
グラズヘイム王国ラスリド領にある田舎村リーランに、最近引っ越してきたばかりの父娘がいた。三十代後半の父親をドリュー。八歳になったばかりの娘をエリーと言った。
ドリューとエリーは東方の出身だった。住んでいた村をアカシラ一派の鬼に追われ、天ノ都へ移り住んだ。
その際に体の弱かったエリーの母親は病に倒れた。必死の看病も空しく、天ノ都で息を引き取った。
そんなある日、東方に遠征へ出ていたラスリド領の領主ゲオルグ・ミスカ・ラスリド伯爵と出会った。
刀匠だったドリューの刀にひと目惚れしたらしく、娘を連れてグラズヘイム王国へ移住しないかと誘われた。私兵団の装備の充実と、刀の販売による領の財政強化が狙いだった。
環境を変えるのもエリーのためになるかもしれない。そう思ったドリューは悩んだ末に、受け入れた。
ラスリド伯爵の動きは早かった。グラズヘイム王国へドリューを東方から移住させる旨を告げ、許可を得て転移門を利用させた。
少なくない影響でドリューとエリーはリゼリオで寝込むことになったが、事前に説明を受けていたのと、十分な看護をしてもらえたおかげで無事に回復した。
元気になってから伯爵とともにラスリド領へ入ったドリューは、のどかな村で娘と暮らしたいと要望した。紹介してもらえたのがリーランだった。
親切で優しい村の人々に囲まれて過ごすうちに、エリーは肉体的にも精神的にも元気になった。
「いいか、エリー。ソニアのお母さんの言う事をきちんと聞くんだぞ」
とある日の朝。村の入口まで見送りに来てくれたエリーに、ドリューは言った。側にはエリーの親友になってくれたソニアと、その母親がいる。
ドリューはこれからラスリド領へ赴くことになっていた。
「うんっ! 大丈夫だよ。エリー、パパの子供だもんっ」
「そうか。それを聞いて安心したよ」
そう言ったあとで、ドリューはソニアの母親に改めてエリーのことを頼んだ。
「それでは行ってきます。騒がしくして迷惑をかけるかもしれませんが、よろしくお願いします」
村の出入口から遠ざかるドリューの背中が見えなくなるまで、愛娘はずっと大きな声でのいってらっしゃいを繰り返してくれた。
●
その日、遠征中の父親の留守を預かるレイル・ミスカ・ラスリドは、客間でひとりの男性と会っていた。
男の名前はドリュー。父親で現当主のラスリド伯爵が、はるばる東方からスカウトしてきた刀匠だ。
本来ならまだ気軽に行き来できる環境でないにもかかわらず、グラズヘイム王国へ働きかけて許可を得たらしかった。
最初はどうしてそこまでと思ったが、ドリューの作った刀を見て納得した。
「実に見事だ。当主のラスリド伯爵もお喜びになるだろう」
レイルに褒められたドリューは、嬉しそうに頭を下げた。
「この地へ導いてくださった伯爵に、少しでも恩返しできるとよいのですが……」
恐縮するドリューと、レイルが会話を続けようとした瞬間だった。
二人しかいない客間のドアがけたたましく叩かれ、ひとりの若い男性兵士が許可を得る前に入室してきた。
礼儀のなさを叱ろうと思ったが、すぐにその気は失せた。兵士の顔色が尋常ではなかったからだ。
「ご、ご報告します! 領内の村リーランに、ゴブリンの一団が迫っています。率いているのは、大型の茨小鬼の模様です!」
「何だと!?」
驚愕の表情を浮かべたのは、報告を受けたレイルだけではなかった。
「そ、そんな! リーランは私がお世話になっている村です! そこには大事な娘のエリーが!」
取り乱すドリューを、レイルが落ち着けと叱責する。
「領内の村を見捨てるわけにはいかぬ。すぐに出撃準備を整えるのだ!」
「はっ!」
レイルの指示を聞き、報告をしにきた兵士が急いで退室する。
「ドリュー殿。貴殿は領主の館で待っていてくれ」
「し、しかし……」
「急遽、編成する部隊では、恐らく茨小鬼を倒すのは難しい。となれば、今回の任務は村人の救出が最優先になる。酷な言い方かもしれぬが、護衛対象は少ない方がいい」
娘を心配し、同行したがるドリューの気持ちはわかるが、彼までをも危険に晒すわけにはいかなかった。
「堪えてくれ。その代わり、村人や娘さんは、可能な限り救出すると約束しよう」
●
ラスリド領の留守を預かるレイルが全速で進軍中、小さな村リーランはゴブリンたちの侵入を許してしまった。
自警団では、相手にすらならないのが明白。村人は抵抗よりも逃走を選んだ。
自警団は村を守るためではなく、住民を逃がすために剣を取った。しかし、ゴブリンの一団を率いる茨小鬼の力は圧倒的だった。
「ゲッゲェ! 逃げマドエ、ニンゲンドモ」
三メートルほどはあろうかという体長の茨小鬼が、嬉々として棍棒を振り回す。自警団の装備では何の役にも立たず、盾ごと吹き飛ばされて絶命する。
言語を理解する茨小鬼は部下に命じ、略奪と惨殺を行わせる。
「親方のメイレイに従うヨリ、ニンゲンの村を襲ってるホウガ、タノシイゾ! ゲギャギャ!」
男たちの大半は命を落とし、女子供でさえも狙われる。そのような状況下で、ひとりの女性が茨小鬼の前に立ち塞がる。
「ニンゲンのメスごときが、このドンガ様ニ、歯向かうノカ?」
「そうよ! 私の宝物は絶対に守ってみせる! さあ、早く行きなさい、ソニア! エリーちゃんを頼むわね」
「マ、ママぁ!」
懐に隠していた小剣を構えて突撃するも、か弱い女性の一撃はあまりに無力だった。
弾き飛ばされた細い体が宙を舞い、ソニアやエリーが見ている前で、押し潰された。
耳をつんざく悲鳴が村に木霊す中、母親の持っていた小剣がソニアの足元まで飛んできた。
地面に突き刺さったばかりの小剣を、ソニアはすぐに引き抜く。
「エリーちゃん、逃げて!」
「ソ、ソニアちゃん……」
「私、ママにエリーちゃんを頼まれたものっ!」
「無理だよっ! 誰か……誰か、助けてっ! パパ――っ!」
叫ぶエリーの声に導かれるように、レイル率いるラスリド領の兵士と、依頼を引き受けたハンターが到着する。
「くっ! もう攻め込まれたあとか! 我々はゴブリンどもを牽制する。ハンターの諸君には、住民の避難をお願いしたい。全員を逃がしたのち、素早く戦線を離脱する。現在の手勢だけでは、とても戦力が足りそうにないからな」
レイルの号令で兵士たちがゴブリンへ突撃していく。
そして、ハンターたちも各自、行動を開始するのだった。
グラズヘイム王国ラスリド領にある田舎村リーランに、最近引っ越してきたばかりの父娘がいた。三十代後半の父親をドリュー。八歳になったばかりの娘をエリーと言った。
ドリューとエリーは東方の出身だった。住んでいた村をアカシラ一派の鬼に追われ、天ノ都へ移り住んだ。
その際に体の弱かったエリーの母親は病に倒れた。必死の看病も空しく、天ノ都で息を引き取った。
そんなある日、東方に遠征へ出ていたラスリド領の領主ゲオルグ・ミスカ・ラスリド伯爵と出会った。
刀匠だったドリューの刀にひと目惚れしたらしく、娘を連れてグラズヘイム王国へ移住しないかと誘われた。私兵団の装備の充実と、刀の販売による領の財政強化が狙いだった。
環境を変えるのもエリーのためになるかもしれない。そう思ったドリューは悩んだ末に、受け入れた。
ラスリド伯爵の動きは早かった。グラズヘイム王国へドリューを東方から移住させる旨を告げ、許可を得て転移門を利用させた。
少なくない影響でドリューとエリーはリゼリオで寝込むことになったが、事前に説明を受けていたのと、十分な看護をしてもらえたおかげで無事に回復した。
元気になってから伯爵とともにラスリド領へ入ったドリューは、のどかな村で娘と暮らしたいと要望した。紹介してもらえたのがリーランだった。
親切で優しい村の人々に囲まれて過ごすうちに、エリーは肉体的にも精神的にも元気になった。
「いいか、エリー。ソニアのお母さんの言う事をきちんと聞くんだぞ」
とある日の朝。村の入口まで見送りに来てくれたエリーに、ドリューは言った。側にはエリーの親友になってくれたソニアと、その母親がいる。
ドリューはこれからラスリド領へ赴くことになっていた。
「うんっ! 大丈夫だよ。エリー、パパの子供だもんっ」
「そうか。それを聞いて安心したよ」
そう言ったあとで、ドリューはソニアの母親に改めてエリーのことを頼んだ。
「それでは行ってきます。騒がしくして迷惑をかけるかもしれませんが、よろしくお願いします」
村の出入口から遠ざかるドリューの背中が見えなくなるまで、愛娘はずっと大きな声でのいってらっしゃいを繰り返してくれた。
●
その日、遠征中の父親の留守を預かるレイル・ミスカ・ラスリドは、客間でひとりの男性と会っていた。
男の名前はドリュー。父親で現当主のラスリド伯爵が、はるばる東方からスカウトしてきた刀匠だ。
本来ならまだ気軽に行き来できる環境でないにもかかわらず、グラズヘイム王国へ働きかけて許可を得たらしかった。
最初はどうしてそこまでと思ったが、ドリューの作った刀を見て納得した。
「実に見事だ。当主のラスリド伯爵もお喜びになるだろう」
レイルに褒められたドリューは、嬉しそうに頭を下げた。
「この地へ導いてくださった伯爵に、少しでも恩返しできるとよいのですが……」
恐縮するドリューと、レイルが会話を続けようとした瞬間だった。
二人しかいない客間のドアがけたたましく叩かれ、ひとりの若い男性兵士が許可を得る前に入室してきた。
礼儀のなさを叱ろうと思ったが、すぐにその気は失せた。兵士の顔色が尋常ではなかったからだ。
「ご、ご報告します! 領内の村リーランに、ゴブリンの一団が迫っています。率いているのは、大型の茨小鬼の模様です!」
「何だと!?」
驚愕の表情を浮かべたのは、報告を受けたレイルだけではなかった。
「そ、そんな! リーランは私がお世話になっている村です! そこには大事な娘のエリーが!」
取り乱すドリューを、レイルが落ち着けと叱責する。
「領内の村を見捨てるわけにはいかぬ。すぐに出撃準備を整えるのだ!」
「はっ!」
レイルの指示を聞き、報告をしにきた兵士が急いで退室する。
「ドリュー殿。貴殿は領主の館で待っていてくれ」
「し、しかし……」
「急遽、編成する部隊では、恐らく茨小鬼を倒すのは難しい。となれば、今回の任務は村人の救出が最優先になる。酷な言い方かもしれぬが、護衛対象は少ない方がいい」
娘を心配し、同行したがるドリューの気持ちはわかるが、彼までをも危険に晒すわけにはいかなかった。
「堪えてくれ。その代わり、村人や娘さんは、可能な限り救出すると約束しよう」
●
ラスリド領の留守を預かるレイルが全速で進軍中、小さな村リーランはゴブリンたちの侵入を許してしまった。
自警団では、相手にすらならないのが明白。村人は抵抗よりも逃走を選んだ。
自警団は村を守るためではなく、住民を逃がすために剣を取った。しかし、ゴブリンの一団を率いる茨小鬼の力は圧倒的だった。
「ゲッゲェ! 逃げマドエ、ニンゲンドモ」
三メートルほどはあろうかという体長の茨小鬼が、嬉々として棍棒を振り回す。自警団の装備では何の役にも立たず、盾ごと吹き飛ばされて絶命する。
言語を理解する茨小鬼は部下に命じ、略奪と惨殺を行わせる。
「親方のメイレイに従うヨリ、ニンゲンの村を襲ってるホウガ、タノシイゾ! ゲギャギャ!」
男たちの大半は命を落とし、女子供でさえも狙われる。そのような状況下で、ひとりの女性が茨小鬼の前に立ち塞がる。
「ニンゲンのメスごときが、このドンガ様ニ、歯向かうノカ?」
「そうよ! 私の宝物は絶対に守ってみせる! さあ、早く行きなさい、ソニア! エリーちゃんを頼むわね」
「マ、ママぁ!」
懐に隠していた小剣を構えて突撃するも、か弱い女性の一撃はあまりに無力だった。
弾き飛ばされた細い体が宙を舞い、ソニアやエリーが見ている前で、押し潰された。
耳をつんざく悲鳴が村に木霊す中、母親の持っていた小剣がソニアの足元まで飛んできた。
地面に突き刺さったばかりの小剣を、ソニアはすぐに引き抜く。
「エリーちゃん、逃げて!」
「ソ、ソニアちゃん……」
「私、ママにエリーちゃんを頼まれたものっ!」
「無理だよっ! 誰か……誰か、助けてっ! パパ――っ!」
叫ぶエリーの声に導かれるように、レイル率いるラスリド領の兵士と、依頼を引き受けたハンターが到着する。
「くっ! もう攻め込まれたあとか! 我々はゴブリンどもを牽制する。ハンターの諸君には、住民の避難をお願いしたい。全員を逃がしたのち、素早く戦線を離脱する。現在の手勢だけでは、とても戦力が足りそうにないからな」
レイルの号令で兵士たちがゴブリンへ突撃していく。
そして、ハンターたちも各自、行動を開始するのだった。
リプレイ本文
●
のどかな田舎村であるはずのリーランに、悲鳴と怒号が交錯する。
緑豊かな村に充満する血のにおいが、悲惨な有様をこれでもかと物語る。
そんな中でハンターが見つけたのは、震える手でゴブリンに小剣を向けている少女だった。
少女の背に隠れるようにして、もうひとりの少女が泣き叫ぶように「ソニアちゃん!」と名前を呼んだ。
涙と憎しみにまみれた瞳で、正面のゴブリンを睨みつけるソニアと呼ばれた少女は、背後にいる少女へ「エリーちゃん、逃げて」と言った。
逃げ惑う住民と二人の少女。ハンターたちは、どちらも救出するつもりで村に入っていた。
「うわー……これは酷い……私は平気な方だと思ってるけど、子供だとショッキングすぎてトラウマになりそう……絶対に許せない」
ソフィア・フォーサイス(ka5463)は呟くように言った。
つい先ほど、エリーを守ろうとしているソニアが「よくもお母さんを!」と激昂していた。
目の前でゴブリンに潰されたのが、ソニアの母親なのだ。状況が判明するほどに、少女たちの辛さがソフィアに伝わってくるようだった。
「女の子のピンチとあっちゃぁじっとしてられねぇな! それに……無抵抗の人間を皆殺しにしようとはな」
状況が状況だ。普段はもっとチャラい感じのするロジャー=ウィステリアランド(ka2900)も、心の底からゴブリンに怒りを覚えていた。
同様に舌打ちせんばかりに、住民を虐殺しようとするゴブリンを睨みつけるのはグリムバルド・グリーンウッド(ka4409)だ。
「ゴブリン共……此処にもやってきたのか。相変わらずとんでもない勢いだな……茨小鬼も強そうだ。まあ、だからといって退くつもりは無ぇけどな」
並木 怜(ka3388)も村で繰り広げられる惨劇を目にして、許せませんと唇を震わせた。
「ゴブリンの暴力、許しておけないもん! エリーも村の人達も絶対に助け出すんだ」
強く決意した時音 ざくろ(ka1250)が、跨っている試作魔導バイクを稼働させる。
途中のゴブリンをひき殺す勢いで全力移動して、ソニアとエリーのもとへ駆けつけるつもりだった。
「俺もゴブリンの事を馬鹿にできないくらいの無法者だって自覚はあるが、無法者には無法者なりのルールってモンがある。それを破った奴がどうなるか……きっちりケジメつけてもらうぜ」
ロングボウを両手に構え、ロジャーが前進する。
本当は女の子の救援に行きたいと思っていたが、そこは味方に任せて村人と兵士の援護に回るつもりだった。
「……全員を助け、尚且つ茨小鬼を倒すことができれば、それが理想。だけど、それができるほど世の中は甘くないし、私は強くない。それでも出来る限りのことはしなくちゃ。救える限りの人は救わなくちゃ……!」
ワンドを持つ手に力が入る。
一人でできることなどたかが知れている。そう思っていても、みんなの、世界の為に役立ちたいと願うティス・フュラー(ka3006)は、困難な状況にも諦めずに立ち向かおうとする。
そんなティスに呼応したのが、グリムバルドだった。
「目の前で助けを求めて手を伸ばす人がいて、俺には助けられる力がある。突っ込まない理由などあるものかよ。手の届く限り、皆引っ張り上げてやるぜ」
誰もがゴブリンへの怒りを露わにする中、努めて冷静さを維持しているのがクオン・サガラ(ka0018)だった。
「住民の救出が最優先ですが、戦況は中々うまくいきそうもないですね……エリー達の事は心配ですが、今回は退路の確保が主ですね」
退路を確保すれば、より安全に逃がせる。
クオンは逃走中の住民に近い位置へ移動し、その場に留まって南下してくるゴブリンを迎撃するつもりだった。
その隣を、ゴースロンを駆るティスが移動していく。
視線の先にいるゴブリンを複数同時狙う。味方を巻き込まないよう気をつけつつ、ファイアーボールを撃つ。
燃える火球が爆発し、衝撃を受けたゴブリンに、今度はグリムバルドがデルタレイを食らわせる。
「俺の射程内にいることを後悔しな!」
ゴブリンの足が止まった隙に、メカニカルマスカレードに猫耳というヒーローに見えなくもない出で立ちのロジャーが住民の救出に向かう。
「騎兵隊、参上!」
村人を安心させるように宣言したあと、即座に攻撃を仕掛ける。
引き絞りからのダブルシューティングで二体同時に狙うも、それぞれのゴブリンに皮一枚程度のギリギリのところで回避されてしまう。
「どうやら、突破口は開けたみたいですね」
クオンが両手に構えた魔導銃で狙ったのは、正面に立っていたゴブリンだった。
見事に命中し、倒れたゴブリンのところからソニアとエリーの姿がはっきり確認できた。
ソニアとエリーのところまで行けるルートが開けたのを見て、ざくろ、怜、ソフィアが敵のラインを抜ける。
魔導バイクに乗ったざくろが、真っ先にソニアとエリーの側まで移動する。
「お待たせ、もうだいじょうぶだよ」
ソニアの前に立ち、身を盾にしてざくろが二人の少女を守る。
眼前のゴブリンと睨み合いを続ける中、ゴースロンに乗ったソフィアもこの場に到着する。
「お、お姉ちゃん達は……?」
突然の展開に驚くエリーが、ざくろとソフィアに声をかけた。
「助けに来たのよ。2人とも、早く馬に乗って」
ソフィアの言葉に困惑するソニアの手を、エリーが強く引っ張った。
「ソニアちゃん。一緒に、お姉ちゃん達に助けてもらおうよ!」
「で、でも……」
「ソニアちゃんがここで死んじゃったら、ソニアちゃんのママだって悲しいよ!」
「……! う、うん。わかった」
ソフィアがソニアとエリーを馬に乗せる間、その隙を狙ってゴブリンが攻撃を仕掛けてくる。
ソニアとエリーが脱出する時間を稼ぐために、ざくろがゴブリンの一撃を大剣で受け止める。
「もう彼女達に手は出させない、お前達の相手はざくろだ!」
一方で怜はソニアたちや住民が逃げる際に、邪魔をしてきそうなゴブリンの注意を自分へ向けさせようとする。
「貴方の相手はこっちです!」
構えたユナイテッド・ドライブ・ソードで、立ち並ぶゴブリンへ切り込んでいく。
相手や状況に合わせて武器の形状を変えて対処し、怜は一歩も退かない姿勢を見せる。
ハンターたちの猛攻に勇気を貰ったのか、レイルも兵を率いて前進する。
突然に乱入してきたハンターに押され気味だったが、ここでゴブリンたちも反撃に転じる。
「グギャギャ! ニンゲンどもを皆ゴロしにしろォ!」
「モチロンだ。ドンガの大将!」
巨大な棍棒を振り回し、取り巻きのゴブリンにドンガと呼ばれた茨小鬼が突進してくる。
その前に陣取っていたゴブリンが南下するのを、ロジャーやグリムバルドが押し止めようとする。
クオンとティスも迎撃を行うも、数で勝るゴブリンの一部が住民に迫ってしまう。
「いけないっ! 早く逃げてっ!」
声の限りにティスは叫んだが、現実はあまりに無慈悲だった。
助けを求める声が村に響き、直後に肉の潰れる音がした。
並んで逃げていた住民のうち、ゴブリン側に近かった二名が犠牲になった。
「これ以上はさせない! 村の人たちは私が守る」
住民を庇うために前へ出たティスが、押し寄せるゴブリンの一体をウォーターシュートで仕留めた。
もう犠牲者は出さない。散った住民への懺悔はあとにして、まだ生き残っている者の無事を優先する。
精根尽き果てるまで戦うと言わんばかりに、グリムバルドがデルタレイを連発する。
受けたダメージで苦しむゴブリンに、今度はロジャーが引き絞りからのダブルシューティングを命中させる。
「仲間をやられて悔しかったら、こっちへ来いよ。無抵抗の人間ばかり狙ってんじゃねえよ!」
住民を手にかけたゴブリンを倒すと同時に、ロジャーは他の敵の注意を自分へ向けようとした。
力尽きた住民の仇はとれたが、これで終わりではない。
緊張が増しているのは、ソニアとエリーの救出に向かった面々も同じだった。
繰り出されるゴブリンの攻撃を、ざくろはひたすら大剣で受け流す。
怜も援護する。救出地点へ向かう道はまだ塞がれていない。
仲間の頼もしいサポートを得て、ソフィアがソニアとエリーを馬に乗せ終わる。
しっかりつかまっててねと注意喚起をしてから、ソフィアは馬を走らせる。
ソニアとエリーに狙いを定めていたのか、数体のゴブリンが注意を逃げるソフィアへ向ける。
「ソフィアが2人を逃がすまで、行かせはしないよ!」
ゴブリンの前に立ち塞がったざくろが、籠手の宝石で空中に三角形を描く。
「必殺デルタエンド!」
三角形の頂点一つ一つから伸びた光が、貫いた二体のゴブリンを一気に絶命させた。
ざくろに続いて、ゴブリンたちを通せんぼしたのは怜だった。
背後にラインでも引いたかのように下がろうとはせず、逆に向かってくるゴブリンを押し返そうとする。
怜とざくろの奮闘により、ソフィアはクオンが守ってくれている防衛ラインを抜けられた。
「エリーたちを救出するための突破が遅れずに済んだのは幸いでした。あとは生き残ってる住民の脱出を難しくさせないためにも、頑張って防衛しなければなりませんね」
言いながら放ったクオンのデルタレイで、ゴブリンが一体また一体と倒れていく。
逃げる住民の護衛をしてきたグリムバルドは、そのままレイルたちの助太刀にも向かう。
ゴブリンの数も減りつつあり、クオンの守る最終ラインを突破される可能性は低いと判断したからだ。
すぐ近くにゴブリンがいなくなり、若干ホっとしたらしい住民がグリムバルドにお礼を言った。
手を振って応えている暇はない。視線を前に向ければ、茨小鬼のドンガが猛然と南下してきている最中だった。
ラスリド兵たちは正面のゴブリンとの戦いを制し、ドンガの迎撃に当たった。
しかし、巨大な茨小鬼は圧倒的だった。
水平に放たれた棍棒の一撃で、ラスリド兵のひとりの体が大きく曲がる。
「グギャギャ! オレのコロせるニンゲンの数が増えた」
ニタリと笑う顔には、慈悲の欠片すらない。
ラスリド兵だけでは、突破されるのは時間の問題。
ドンガの南下に合わせて、近付いていたロジャーがロングボウの矢にマテリアルを込める。
「海魔の八腕は敵を縛る。茨なんぞよりずっと強くな」
冷気を纏った矢がドンガに命中し、動きを阻害する。
長く持たないと判断したロジャーは、大声でソニアとエリーを早く逃がすようにソフィアへ告げる。
ほぼ同タイミングで、ソフィアは村から脱出できる地点に到着した。
「よく頑張った! それじゃ二人とも下がってて! ここからはお姉ちゃん達の仕事だから!」
ソニアとエリーへ村の外へ避難するよう指示したあと、すぐにソフィアは戦線へ復帰する。
怜がゴブリンの一体と武器を合せる中、クオンがドンガと取り巻きのゴブリンにデルタレイを食らわせる。
怒りの咆哮を放つドンガの前に、飛ぶように現れたのは背後から追いかけてきたざくろだ。
即座に振り下ろされた棍棒の一撃を回避すると、ざくろは超重錬成でドンガを真っ二つにしようとする。
「この一撃が命の重さ、剣よ今一度元の姿に……超・重・斬!」
だが強靭な肉体誇るドンガにダメージを与えても、絶命させるには至らない。
激昂したドンガは近くに仲間のゴブリンがいようとも関係ないとばかりに、手に持つ棍棒を大きく振り回す。
なかなか接近できない状況の中、グリムバルドもドンガの抑えにまわる。
「住民の安全は確保した。相手にとって不足はない。全力でぶつからせてもらうぜ!」
機導剣を使い、正面からグリムバルドはドンガに近接戦闘を挑む。
攻撃終了後はすぐ防御へ切り替え、致命的な傷を食らわないように注意する。
そしてドンガの攻撃を首尾よくかわせれば、しつこいくらいに機導剣を使った攻撃を繰り返す。
グリムバルドはドンガ相手になんとか戦えるが、実力的に劣るラスリド兵はそうもいかない。
大振りするドンガの棍棒を回避しきれず、またしてもひとり事切れて地面に倒れてしまう。
「住民に襲い掛かるゴブリンは倒し終えたけれど、まだ戦闘は続いているようね。このまま兵士の方々の救援へ向かうわ」
ドンガ最後の取り巻きもウォーターシュートで撃退したティスが、ラスリド兵の援護を行う。
先ほどの光景からもわかるとおり、黙って見てたらラスリド兵は苦も無く全滅させられてしまう。
ソニアとエリーを脱出させて戻ってきたソフィアは、無理にドンガへ突っ込まずに周囲を警戒する。
「住民の救出も順調に進んでいます。この分なら、エレクトリカルショットは使わずに済みそうですね」
クオンが言い終えたあと、大きな音が鳴った。
レイルを狙ったドンガの一撃を、グリムバルドが代わりに防御障壁で受け止めた音だった。
これ以上は厳しいと判断したレイルが、村の出入口を見る。
すでに住民の姿が見えなくなっていたことから脱出をしたと判断し、生き残った兵士とハンターに総員撤退の指示を出す。
「体力にはまだ余裕がある。俺が殿になるから、先に逃げてくれ」
「わかった。すまないが、よろしくお願いする」
グリムバルドの言葉に従い、レイルが先に後退を開始する。
その後すぐにハンターたちも、惨劇の舞台となったリーランから脱出した。
●
先に村から逃げていた住民やエリーたちと合流する。
ロジャーは待っていた少女二人の頭を、黙って撫でて慰めた。
特にソニアは母親を目の前で亡くしたばかりなので、何て言ってやればいいのかわからなかった。
「お母様の事は残念でしたけど……とても素晴らしいお母様だったみたいですね」
ソフィアがソニアに言った。
何か出来ればいいが、さすがに母親の代わりは無理だ。
まだまだ駆け出しのハンターではあるが、こういう時はやはり無力さを感じる。
いたたまれない気持ちになりながらも、自分に出来る範囲でソフィアも少女たちを慰め続けた。
その様子を見ていたレイルに、クオンがそっと近づく。
「今後もこのような事件が起こる可能性が高いので、より警戒が必要という所ですね。木製でもいいから壁と見張り台が欲しい所です」
「そうだな。前向きに検討しよう。私も、もうこんな光景は見たくない」
ハンターが同行してくれなければ、犠牲はもっと増えていた。
「世の中のことは、月と雲のようにどうなるかわからず、おかしいものです」
それは少女たちに対しての慰めだったのか、それとも世の儚さを嘆いた言葉だったのか。
誰にともなく呟いた怜は、こんな時でもいつもと変わりない空を見上げていた。
犠牲は出てしまったが、それでも住民の大半と、エリーだけでなく助けるのが難しいと思われたソニアも救出できた。
悪逆非道な茨小鬼への怒りで心から満足はできないが、守れた少女たちの姿が疲れたハンターの心身を癒してくれた。
のどかな田舎村であるはずのリーランに、悲鳴と怒号が交錯する。
緑豊かな村に充満する血のにおいが、悲惨な有様をこれでもかと物語る。
そんな中でハンターが見つけたのは、震える手でゴブリンに小剣を向けている少女だった。
少女の背に隠れるようにして、もうひとりの少女が泣き叫ぶように「ソニアちゃん!」と名前を呼んだ。
涙と憎しみにまみれた瞳で、正面のゴブリンを睨みつけるソニアと呼ばれた少女は、背後にいる少女へ「エリーちゃん、逃げて」と言った。
逃げ惑う住民と二人の少女。ハンターたちは、どちらも救出するつもりで村に入っていた。
「うわー……これは酷い……私は平気な方だと思ってるけど、子供だとショッキングすぎてトラウマになりそう……絶対に許せない」
ソフィア・フォーサイス(ka5463)は呟くように言った。
つい先ほど、エリーを守ろうとしているソニアが「よくもお母さんを!」と激昂していた。
目の前でゴブリンに潰されたのが、ソニアの母親なのだ。状況が判明するほどに、少女たちの辛さがソフィアに伝わってくるようだった。
「女の子のピンチとあっちゃぁじっとしてられねぇな! それに……無抵抗の人間を皆殺しにしようとはな」
状況が状況だ。普段はもっとチャラい感じのするロジャー=ウィステリアランド(ka2900)も、心の底からゴブリンに怒りを覚えていた。
同様に舌打ちせんばかりに、住民を虐殺しようとするゴブリンを睨みつけるのはグリムバルド・グリーンウッド(ka4409)だ。
「ゴブリン共……此処にもやってきたのか。相変わらずとんでもない勢いだな……茨小鬼も強そうだ。まあ、だからといって退くつもりは無ぇけどな」
並木 怜(ka3388)も村で繰り広げられる惨劇を目にして、許せませんと唇を震わせた。
「ゴブリンの暴力、許しておけないもん! エリーも村の人達も絶対に助け出すんだ」
強く決意した時音 ざくろ(ka1250)が、跨っている試作魔導バイクを稼働させる。
途中のゴブリンをひき殺す勢いで全力移動して、ソニアとエリーのもとへ駆けつけるつもりだった。
「俺もゴブリンの事を馬鹿にできないくらいの無法者だって自覚はあるが、無法者には無法者なりのルールってモンがある。それを破った奴がどうなるか……きっちりケジメつけてもらうぜ」
ロングボウを両手に構え、ロジャーが前進する。
本当は女の子の救援に行きたいと思っていたが、そこは味方に任せて村人と兵士の援護に回るつもりだった。
「……全員を助け、尚且つ茨小鬼を倒すことができれば、それが理想。だけど、それができるほど世の中は甘くないし、私は強くない。それでも出来る限りのことはしなくちゃ。救える限りの人は救わなくちゃ……!」
ワンドを持つ手に力が入る。
一人でできることなどたかが知れている。そう思っていても、みんなの、世界の為に役立ちたいと願うティス・フュラー(ka3006)は、困難な状況にも諦めずに立ち向かおうとする。
そんなティスに呼応したのが、グリムバルドだった。
「目の前で助けを求めて手を伸ばす人がいて、俺には助けられる力がある。突っ込まない理由などあるものかよ。手の届く限り、皆引っ張り上げてやるぜ」
誰もがゴブリンへの怒りを露わにする中、努めて冷静さを維持しているのがクオン・サガラ(ka0018)だった。
「住民の救出が最優先ですが、戦況は中々うまくいきそうもないですね……エリー達の事は心配ですが、今回は退路の確保が主ですね」
退路を確保すれば、より安全に逃がせる。
クオンは逃走中の住民に近い位置へ移動し、その場に留まって南下してくるゴブリンを迎撃するつもりだった。
その隣を、ゴースロンを駆るティスが移動していく。
視線の先にいるゴブリンを複数同時狙う。味方を巻き込まないよう気をつけつつ、ファイアーボールを撃つ。
燃える火球が爆発し、衝撃を受けたゴブリンに、今度はグリムバルドがデルタレイを食らわせる。
「俺の射程内にいることを後悔しな!」
ゴブリンの足が止まった隙に、メカニカルマスカレードに猫耳というヒーローに見えなくもない出で立ちのロジャーが住民の救出に向かう。
「騎兵隊、参上!」
村人を安心させるように宣言したあと、即座に攻撃を仕掛ける。
引き絞りからのダブルシューティングで二体同時に狙うも、それぞれのゴブリンに皮一枚程度のギリギリのところで回避されてしまう。
「どうやら、突破口は開けたみたいですね」
クオンが両手に構えた魔導銃で狙ったのは、正面に立っていたゴブリンだった。
見事に命中し、倒れたゴブリンのところからソニアとエリーの姿がはっきり確認できた。
ソニアとエリーのところまで行けるルートが開けたのを見て、ざくろ、怜、ソフィアが敵のラインを抜ける。
魔導バイクに乗ったざくろが、真っ先にソニアとエリーの側まで移動する。
「お待たせ、もうだいじょうぶだよ」
ソニアの前に立ち、身を盾にしてざくろが二人の少女を守る。
眼前のゴブリンと睨み合いを続ける中、ゴースロンに乗ったソフィアもこの場に到着する。
「お、お姉ちゃん達は……?」
突然の展開に驚くエリーが、ざくろとソフィアに声をかけた。
「助けに来たのよ。2人とも、早く馬に乗って」
ソフィアの言葉に困惑するソニアの手を、エリーが強く引っ張った。
「ソニアちゃん。一緒に、お姉ちゃん達に助けてもらおうよ!」
「で、でも……」
「ソニアちゃんがここで死んじゃったら、ソニアちゃんのママだって悲しいよ!」
「……! う、うん。わかった」
ソフィアがソニアとエリーを馬に乗せる間、その隙を狙ってゴブリンが攻撃を仕掛けてくる。
ソニアとエリーが脱出する時間を稼ぐために、ざくろがゴブリンの一撃を大剣で受け止める。
「もう彼女達に手は出させない、お前達の相手はざくろだ!」
一方で怜はソニアたちや住民が逃げる際に、邪魔をしてきそうなゴブリンの注意を自分へ向けさせようとする。
「貴方の相手はこっちです!」
構えたユナイテッド・ドライブ・ソードで、立ち並ぶゴブリンへ切り込んでいく。
相手や状況に合わせて武器の形状を変えて対処し、怜は一歩も退かない姿勢を見せる。
ハンターたちの猛攻に勇気を貰ったのか、レイルも兵を率いて前進する。
突然に乱入してきたハンターに押され気味だったが、ここでゴブリンたちも反撃に転じる。
「グギャギャ! ニンゲンどもを皆ゴロしにしろォ!」
「モチロンだ。ドンガの大将!」
巨大な棍棒を振り回し、取り巻きのゴブリンにドンガと呼ばれた茨小鬼が突進してくる。
その前に陣取っていたゴブリンが南下するのを、ロジャーやグリムバルドが押し止めようとする。
クオンとティスも迎撃を行うも、数で勝るゴブリンの一部が住民に迫ってしまう。
「いけないっ! 早く逃げてっ!」
声の限りにティスは叫んだが、現実はあまりに無慈悲だった。
助けを求める声が村に響き、直後に肉の潰れる音がした。
並んで逃げていた住民のうち、ゴブリン側に近かった二名が犠牲になった。
「これ以上はさせない! 村の人たちは私が守る」
住民を庇うために前へ出たティスが、押し寄せるゴブリンの一体をウォーターシュートで仕留めた。
もう犠牲者は出さない。散った住民への懺悔はあとにして、まだ生き残っている者の無事を優先する。
精根尽き果てるまで戦うと言わんばかりに、グリムバルドがデルタレイを連発する。
受けたダメージで苦しむゴブリンに、今度はロジャーが引き絞りからのダブルシューティングを命中させる。
「仲間をやられて悔しかったら、こっちへ来いよ。無抵抗の人間ばかり狙ってんじゃねえよ!」
住民を手にかけたゴブリンを倒すと同時に、ロジャーは他の敵の注意を自分へ向けようとした。
力尽きた住民の仇はとれたが、これで終わりではない。
緊張が増しているのは、ソニアとエリーの救出に向かった面々も同じだった。
繰り出されるゴブリンの攻撃を、ざくろはひたすら大剣で受け流す。
怜も援護する。救出地点へ向かう道はまだ塞がれていない。
仲間の頼もしいサポートを得て、ソフィアがソニアとエリーを馬に乗せ終わる。
しっかりつかまっててねと注意喚起をしてから、ソフィアは馬を走らせる。
ソニアとエリーに狙いを定めていたのか、数体のゴブリンが注意を逃げるソフィアへ向ける。
「ソフィアが2人を逃がすまで、行かせはしないよ!」
ゴブリンの前に立ち塞がったざくろが、籠手の宝石で空中に三角形を描く。
「必殺デルタエンド!」
三角形の頂点一つ一つから伸びた光が、貫いた二体のゴブリンを一気に絶命させた。
ざくろに続いて、ゴブリンたちを通せんぼしたのは怜だった。
背後にラインでも引いたかのように下がろうとはせず、逆に向かってくるゴブリンを押し返そうとする。
怜とざくろの奮闘により、ソフィアはクオンが守ってくれている防衛ラインを抜けられた。
「エリーたちを救出するための突破が遅れずに済んだのは幸いでした。あとは生き残ってる住民の脱出を難しくさせないためにも、頑張って防衛しなければなりませんね」
言いながら放ったクオンのデルタレイで、ゴブリンが一体また一体と倒れていく。
逃げる住民の護衛をしてきたグリムバルドは、そのままレイルたちの助太刀にも向かう。
ゴブリンの数も減りつつあり、クオンの守る最終ラインを突破される可能性は低いと判断したからだ。
すぐ近くにゴブリンがいなくなり、若干ホっとしたらしい住民がグリムバルドにお礼を言った。
手を振って応えている暇はない。視線を前に向ければ、茨小鬼のドンガが猛然と南下してきている最中だった。
ラスリド兵たちは正面のゴブリンとの戦いを制し、ドンガの迎撃に当たった。
しかし、巨大な茨小鬼は圧倒的だった。
水平に放たれた棍棒の一撃で、ラスリド兵のひとりの体が大きく曲がる。
「グギャギャ! オレのコロせるニンゲンの数が増えた」
ニタリと笑う顔には、慈悲の欠片すらない。
ラスリド兵だけでは、突破されるのは時間の問題。
ドンガの南下に合わせて、近付いていたロジャーがロングボウの矢にマテリアルを込める。
「海魔の八腕は敵を縛る。茨なんぞよりずっと強くな」
冷気を纏った矢がドンガに命中し、動きを阻害する。
長く持たないと判断したロジャーは、大声でソニアとエリーを早く逃がすようにソフィアへ告げる。
ほぼ同タイミングで、ソフィアは村から脱出できる地点に到着した。
「よく頑張った! それじゃ二人とも下がってて! ここからはお姉ちゃん達の仕事だから!」
ソニアとエリーへ村の外へ避難するよう指示したあと、すぐにソフィアは戦線へ復帰する。
怜がゴブリンの一体と武器を合せる中、クオンがドンガと取り巻きのゴブリンにデルタレイを食らわせる。
怒りの咆哮を放つドンガの前に、飛ぶように現れたのは背後から追いかけてきたざくろだ。
即座に振り下ろされた棍棒の一撃を回避すると、ざくろは超重錬成でドンガを真っ二つにしようとする。
「この一撃が命の重さ、剣よ今一度元の姿に……超・重・斬!」
だが強靭な肉体誇るドンガにダメージを与えても、絶命させるには至らない。
激昂したドンガは近くに仲間のゴブリンがいようとも関係ないとばかりに、手に持つ棍棒を大きく振り回す。
なかなか接近できない状況の中、グリムバルドもドンガの抑えにまわる。
「住民の安全は確保した。相手にとって不足はない。全力でぶつからせてもらうぜ!」
機導剣を使い、正面からグリムバルドはドンガに近接戦闘を挑む。
攻撃終了後はすぐ防御へ切り替え、致命的な傷を食らわないように注意する。
そしてドンガの攻撃を首尾よくかわせれば、しつこいくらいに機導剣を使った攻撃を繰り返す。
グリムバルドはドンガ相手になんとか戦えるが、実力的に劣るラスリド兵はそうもいかない。
大振りするドンガの棍棒を回避しきれず、またしてもひとり事切れて地面に倒れてしまう。
「住民に襲い掛かるゴブリンは倒し終えたけれど、まだ戦闘は続いているようね。このまま兵士の方々の救援へ向かうわ」
ドンガ最後の取り巻きもウォーターシュートで撃退したティスが、ラスリド兵の援護を行う。
先ほどの光景からもわかるとおり、黙って見てたらラスリド兵は苦も無く全滅させられてしまう。
ソニアとエリーを脱出させて戻ってきたソフィアは、無理にドンガへ突っ込まずに周囲を警戒する。
「住民の救出も順調に進んでいます。この分なら、エレクトリカルショットは使わずに済みそうですね」
クオンが言い終えたあと、大きな音が鳴った。
レイルを狙ったドンガの一撃を、グリムバルドが代わりに防御障壁で受け止めた音だった。
これ以上は厳しいと判断したレイルが、村の出入口を見る。
すでに住民の姿が見えなくなっていたことから脱出をしたと判断し、生き残った兵士とハンターに総員撤退の指示を出す。
「体力にはまだ余裕がある。俺が殿になるから、先に逃げてくれ」
「わかった。すまないが、よろしくお願いする」
グリムバルドの言葉に従い、レイルが先に後退を開始する。
その後すぐにハンターたちも、惨劇の舞台となったリーランから脱出した。
●
先に村から逃げていた住民やエリーたちと合流する。
ロジャーは待っていた少女二人の頭を、黙って撫でて慰めた。
特にソニアは母親を目の前で亡くしたばかりなので、何て言ってやればいいのかわからなかった。
「お母様の事は残念でしたけど……とても素晴らしいお母様だったみたいですね」
ソフィアがソニアに言った。
何か出来ればいいが、さすがに母親の代わりは無理だ。
まだまだ駆け出しのハンターではあるが、こういう時はやはり無力さを感じる。
いたたまれない気持ちになりながらも、自分に出来る範囲でソフィアも少女たちを慰め続けた。
その様子を見ていたレイルに、クオンがそっと近づく。
「今後もこのような事件が起こる可能性が高いので、より警戒が必要という所ですね。木製でもいいから壁と見張り台が欲しい所です」
「そうだな。前向きに検討しよう。私も、もうこんな光景は見たくない」
ハンターが同行してくれなければ、犠牲はもっと増えていた。
「世の中のことは、月と雲のようにどうなるかわからず、おかしいものです」
それは少女たちに対しての慰めだったのか、それとも世の儚さを嘆いた言葉だったのか。
誰にともなく呟いた怜は、こんな時でもいつもと変わりない空を見上げていた。
犠牲は出てしまったが、それでも住民の大半と、エリーだけでなく助けるのが難しいと思われたソニアも救出できた。
悪逆非道な茨小鬼への怒りで心から満足はできないが、守れた少女たちの姿が疲れたハンターの心身を癒してくれた。
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
---|
面白かった! | 6人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
- 神秘を掴む冒険家
時音 ざくろ(ka1250)
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
相談卓 ロジャー=ウィステリアランド(ka2900) 人間(クリムゾンウェスト)|19才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/10/20 22:46:03 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/10/19 07:37:27 |