ゲスト
(ka0000)
帰郷しての収穫祭
マスター:天田洋介

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/10/26 12:00
- 完成日
- 2015/10/31 20:00
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
ここは冒険都市リゼリオのハンターオフィス。毎日多くのハンターで賑わうハンターズソサエティの本部。
「♪」
就業時間を終えた本部職員のフミナ・エミエール(kz0131)は更衣室で私服に着替える。
「お疲れ様でした~♪」
廊下ですれ違う同僚と挨拶を交わしながら退社。普段よりも足取りが軽やかなのはしばらく休みだからだ。彼女は長期休暇に合わせて帰郷の予定を組んでいた。
故郷はグラズヘイム王国にある。リゼリオの港から旅客帆船に乗れば南部海岸線の港街【ガンナ・エントラータ】までは比較的簡単に辿り着けた。但し、そこから先は別。村は少々治安の悪い南部平原地帯の西側に存在している。
村周辺の警戒はしっかりしているのだが、至る道中には危険が潜んでいた。稀に雑魔が出現する。そこでフミナは自費でハンターオフィスに依頼。ハンターに護衛してもらうことにした。
自宅へ戻ったフミナは晩御飯を食べてから旅行の荷物を点検する。
「ああ、楽しみなのですよ……」
この時期、故郷の村では収穫祭が開催されるはずである。
(収穫祭では醸造したばかりの葡萄酒と野生肉の料理が振る舞われるのですよ。今年はどんなのかな♪)
村の主産業は葡萄栽培による葡萄酒造り。収穫祭に合わせて狩猟も行われる。
葡萄酒とジビエ料理、決してそれだけが帰郷の目的ではないと自分自身に言い聞かせつつ、フミナは荷造りを終えた。両親へのお土産もばっちりである。
普段よりも早めに就寝。夜明け前に目が覚めた。
「旅の護衛、よろしくお願いします~♪」
重たい荷物を引きずりながら港でハンター一行と合流。約二日半の船旅を経て王国の港街に降り立つ。そこから先は借りた馬車で向かう。
「こう見えても御者は得意なのです☆」
馬車の御者台に腰かけたフミナが手綱をしならせる。村を目指す馬車はゆっくりと走りだすのだった。
「♪」
就業時間を終えた本部職員のフミナ・エミエール(kz0131)は更衣室で私服に着替える。
「お疲れ様でした~♪」
廊下ですれ違う同僚と挨拶を交わしながら退社。普段よりも足取りが軽やかなのはしばらく休みだからだ。彼女は長期休暇に合わせて帰郷の予定を組んでいた。
故郷はグラズヘイム王国にある。リゼリオの港から旅客帆船に乗れば南部海岸線の港街【ガンナ・エントラータ】までは比較的簡単に辿り着けた。但し、そこから先は別。村は少々治安の悪い南部平原地帯の西側に存在している。
村周辺の警戒はしっかりしているのだが、至る道中には危険が潜んでいた。稀に雑魔が出現する。そこでフミナは自費でハンターオフィスに依頼。ハンターに護衛してもらうことにした。
自宅へ戻ったフミナは晩御飯を食べてから旅行の荷物を点検する。
「ああ、楽しみなのですよ……」
この時期、故郷の村では収穫祭が開催されるはずである。
(収穫祭では醸造したばかりの葡萄酒と野生肉の料理が振る舞われるのですよ。今年はどんなのかな♪)
村の主産業は葡萄栽培による葡萄酒造り。収穫祭に合わせて狩猟も行われる。
葡萄酒とジビエ料理、決してそれだけが帰郷の目的ではないと自分自身に言い聞かせつつ、フミナは荷造りを終えた。両親へのお土産もばっちりである。
普段よりも早めに就寝。夜明け前に目が覚めた。
「旅の護衛、よろしくお願いします~♪」
重たい荷物を引きずりながら港でハンター一行と合流。約二日半の船旅を経て王国の港街に降り立つ。そこから先は借りた馬車で向かう。
「こう見えても御者は得意なのです☆」
馬車の御者台に腰かけたフミナが手綱をしならせる。村を目指す馬車はゆっくりと走りだすのだった。
リプレイ本文
●
馬車が枯れ野に伸びる一本道を駆け抜けていた。併走する護衛ハンターが跨ぐ馬二頭の足運びは軽やかである。
「すっかり秋の景色なのです☆」
仕事から離れたフミナ・エミエールは普段よりも砕けた感じで喋る。御者台で手綱を握り、馬車を操っていた。
「村の収穫祭、楽しみなのだぁ~。小さな子供達もいるのかなぁ~なのだ♪」
玄間 北斗(ka5640)はフミナの隣に座っている。膝の上ではリフィカ・レーヴェンフルス(ka5290)から預かった猫のメットクイが気持ちよさそうに眠っていた。
「アルくんが旋回している。ってことは近くに人家があるはずですね」
「故郷の村までもうすぐなのですよ。あの高さからなら見えるはずなのです♪」
ブレナー ローゼンベック(ka4184)とフミナが天を仰ぐ。上空ではイヌワシの『アルくん』が気持ちよさそうに飛翔していた。
「あたしも収穫祭、楽しみだなぁー! どんなものがあるかな?」
「このまま何も起こらないといいんだけどねぇ」
ミリア=シャートラウム(ka5766)は左の車窓、ユピテール・オーク(ka5658)は右の車窓から外を眺めながら言葉を交わす。
乗馬中の鳳凰院ひりょ(ka3744)が耳を澄ませた。そして自分と同じように愛馬で駆っていたリフィカに近づく。
「声が聞こえたような気がしたのですが」
「私もそんな気が……」
リフィカとブレナーのやり取りは玄間北斗の耳にも届いていた。
「丘の上で何か起きているのだぁ!」
遠見の眼鏡を使った玄間北斗が叫んだ。その直後、遠くから悲鳴が聞こえてくる。
急行しようとする一行。向かう先は村方面の道沿いであった。近づくにつれて雑魔と思しき異形狼の群れに荷馬車が襲われているのがわかる。
リフィカは程なく愛馬を停めた。構えた和弓にマテリアルを込めてから矢を解き放つ。る。遠くの狼雑魔の首を貫いた。
鳳凰院は射程に入ったの同時にウィンドチャクラムを投擲。当てることで狼雑魔の群れの気を引く。
急停車中の車内からハンターが次々と飛びおりる。馬車に残ったユピテールは魔導銃で狼雑魔の頭部を狙い撃った。
玄間北斗が背を屈めつつ大地を駆け抜けた。闘心昂揚を付与しつつ女性に噛みつこうとしていた狼雑魔を突き飛ばす。
「ミリア、落ち着いていけば大丈夫だからな」
「うん! 射れる距離なら外せないね、あたしもハンターの端くれなんだから!」
鳳凰院の鼓舞に応えるようにミリアが狼雑魔に銃弾を叩き込んだ。
次々と消滅していく狼雑魔。まもなく最後の一体が無に還る。
「父さんに母さん?」
「おー、フミナじゃないか」
荷馬車の持ち主はフミナの両親だった。遠方の町へでかけた帰りに襲われたらしい。
(良かった、これで笑顔を失わずに済むな)
フミナの両親だと知って鳳凰院は安心するのだった。
●
馬車一行と荷馬車一行は一緒に村へ到着する。
フミナは実家はかなり広かった。一人に一部屋ずつ割り当てられる。
「泊めて頂いてありがとうございます」
「いえいえ、命を助けて頂いた方々にこれぐらいのことは」
鳳凰院が宿泊の礼をいうとフミナの両親が畏まった。
夕食の時間には広間に集まって全員でテーブルを囲んだ。
「フミナからも聞いていると思いますが、明後日は収穫祭なんです。是非楽しんでいって下さいね」
フミナの母が赤葡萄酒入りのシチューを皿によそう。
「頂きます♪ う~ん、この味。久しぶりなのですよ♪」
母の手料理にフミナは嬉しそうである。
「この村に子供はどれくらい住んでいるのだぁ?」
「大体……二十人ぐらいですね」
玄間北斗は気になっていたことをフミナの母に教えてもらう。
「踊りがあると聞いているんだが、村の女性達に理容は必要かい? そのつもりで道具を揃えてきたんだが」
「みなさんとても喜びます。あのできれば私も……」
ユピテールの申し出にフミナの母は殊の外喜んだ。食事の後、ユピテールは彼女の髪を切ってあげる。
「収穫祭用の肉なんですが、もう狩りは済んでいるのかな?」
「殆どは罠で生け捕り済みですよ。明日辺りに解体するんじゃないかな」
鳳凰院とフミナの父がしていた会話にミリアが目を輝かす。
「あたし料理を振る舞いたかったんだけど、あまり腕が……でも捌くのは上手いと思うんだよね! 狩りはしてたし」
ミリアは鳳凰院の調理のために解体を手伝うことにした。
ブレナーも葡萄酒で上機嫌な様子のフミナの父に教えてもらう。
「収穫祭の設営はどうなっていますか? まだなら手伝わせてもらおうかと」
「心配ありませんよ。殆ど終わっていますので。当日にテーブルと椅子を運ぶくらいですかな」
「パンを作ってみなさんに振る舞いたいんですけど、大きめの石釜があるお宅を紹介してはもらえませんか?」
「家にもありますよ。葡萄酒造りを村総出でやるようになってから、人を雇う必要がなくなってね。それで使わなくなった。たくさんの部屋もその名残です」
ブレナーの明日の仕事は決まった。埃にまみれた石釜の掃除である。
「私も料理を作るつもりなんだが、この村で造った白葡萄酒のビネガーはあるかな?」
「もちろんありますとも。入り用はどれくらいで?」
リフィカが作ろうとしていた料理は三種類。マガモのコンフィ、熊肉と根菜の味噌煮、鹿肉のパイである。
「ふむふむ……」
フミナは料理に関する会話すべてに耳をそばだてている。食いしん坊は変わらないなと父にいわれて舌をだすフミナだった。
●
翌朝、玄間北斗は庭先で大工仕事をこなしていた。フミナの両親からもらった端材で明日の大道芸に使う看板を製作していたのである。
「ねぇ、何しているの?」
しばらくすると子供達が集まってきた。
「収穫祭で面白いことをするのだぁ~」
子供達に差しだした何もない掌を握り、開くと一輪の花が現れる。
「すごーい! 他にどんなことできるの?」
「それは明日のお楽しみなのだぁ~♪」
玄間北斗は子供達と仲良くなる。その後、看板作りを手伝ってもらった。
●
ブレナーが石釜の掃除をしているとフミナがやってきた。二人で埃を取り除き、拭いて内側を綺麗にする。
その後は薪割り。フミナがぶつ切りの丸太を運び、ブレナーが斧で割っていく。
「あの石釜ならパンを一度にたくさん焼けますね」
「焼きたてパン、楽しみなのです~♪」
休憩でお茶をしながら明日の収穫祭を話題にする。
「ダンスもあるんでしたっけ……?」
「とても簡単なのです♪ こんな感じなのですよ」
フミナが鼻歌を唄いながら踊ってみせた。ブレナーも真似て一緒に身体を動かす。
薪割りの後は小麦粉等の食材を石釜の部屋に持ち込んだ。小麦粉を練って秘蔵のパンの種を加えておく。
パン作りは夜明け前から。早めに就寝するブレナーだった。
●
理容用に開放された一室でユピテールは挟みと櫛を手にしていた。廊下には村の女性が五名ほど待機中である。
「折角のお祭りだよ。一番きれいな姿を村の男衆に見せ付けてやらなきゃねぇ」
「えっとあの――」
髪をカットしてあげている娘が頬を赤く染めて俯きながら話す。どうやら気になる異性がいるらしい。
「収穫祭は明日のお昼の少し前からだよねぇ。お化粧も手伝ってあげるから、朝にここへ来るといいよ。ばっちりめかし込んであげるから」
「ほ、本当ですか?!」
ユピテールの申し出に娘はとても喜んだ。
(小さな村じゃ、こういう機会じゃないと想いを上手く伝えられないだろうからねぇ)
上手く後押ししてあげようとユピテールは考えていた。
●
鳳凰院とミリアは村の猟師の元へ向かう。
「こいつを捕らえたところは木の実豊富な森だからな。きっと美味いぜ。血抜きとかの後処理もばっちりだよ」
二人は猟師に感謝する。木の棒に吊されたままの猪を担いでミリアの実家に戻った。
「ここまでしてあるなら簡単簡単!」
ミリアが大きめのナイフで捌いていく。必要分を残し、残りの切り分けた肉は村の家々に配る。明日には収穫祭を賑わす料理になっていることだろう。
「鮮やかな色、とてもよい肉だね。いい猪鍋が作れそうだよ」
「ほめられると照れるね」
二人が話していたところへリフィカがやってくる。
「いい肉だな。猪か?」
リフィカが抱えていた籠の中身もたくさんの肉だ。マガモ、熊、鹿の三種類である。
「くさみ取りに香草はいるかい? それと根野菜もあるんだが」
「うれしいですね。頂きます」
鳳凰院はリフィカから様々な食材をもらう。猪肉は醤油で満たされた樽の中に漬け込んだ。その際、香草類も加えておく。
「さあ、私も頑張らないとな」
リフィカがまな板に三種類の肉を並べた。
「手伝いますよ」
「あたしも!」
鳳凰院とミリアも手伝って下拵えが行われる。
使う香辛料は大蒜、黒胡椒、岩塩に香草としてタイム、ローズマリー、ローリエ等。白葡萄酒のビネガーは村産を使う。それらを組み合わせ肉類に下味をつけていく。一部の肉には味噌も使われていた。
●
収穫祭当日は快晴。
村人総出で野外の広場にたくさんのテーブルと椅子を並べられる。
お昼前には殆どの村人が席に着く。各テーブルに料理を運ぶ給仕担当者の中にはハンターの姿もあった。
料理は冷めないよう焼いた石板の上に載せられていた。給仕の時間が終わり、村長の挨拶が始まる。ハンター一行はフミナの家族と同じテーブルを囲んだ。
「うわぁ~、どれも美味しそうなのです☆」
フミナが料理の数々を眺めて瞳を輝かせる。
「それでは村の繁栄と皆の長寿を祈って――」
村長のかけ声に合わせて広場の全員が乾杯。大人のジョッキには葡萄酒、子供には甘酸っぱい葡萄ジュースが注がれていた。
「フミナ嬢はなかなかいける口のようだな」
「リフィカさん、お注ぎしますですよ~♪」
フミナとリフィカは瞬く間に一杯目の葡萄酒を飲み干す。その間にリフィカが大皿の料理を小皿に取り分ける。
「これが昨日下拵えした料理だね。うんっ!」
「美味しいなぁ!」
鳳凰院とミリアが口にしたのはマガモのコンフィ。低温の脂でじっくりと煮た料理でほろりとした食感が特徴だ。
「いけますね!」
「こちらも食べてみてくれ。パンの石釜を貸してもらって焼いた鹿肉のパイだ」
ブレナーはコンフィに続いてリフィカが切り分けてくれた鹿肉のパイを味わう。鹿肉は硬い場合が多いのだが、下拵えのおかげでとても柔らかい。
「鹿肉ってこんなに美味しいんだ~!」
「幸せなのですよ♪」
ブレナーの横でフミナも鹿肉のパイに舌鼓を打つ。ちなみにブレナーのアルくんを始めとしたハンターのペット達も生肉等のご相伴に預かっていた。
「このパンを焼いてくれたの兄ちゃんって本当かい? とってもうまいぜ」
「本当に。白パンもいいもんだねぇ」
隣のテーブルにいた村人がパンを誉めてくれてブレナーが照れまくる。
「これだけのパン、リゼリオでも中々味わえないのです♪」
フミナも賞賛も加わり、ブレナーの顔は真っ赤に染まった。
玄間北斗は熊肉と根菜の味噌煮ばかりを食べている。それに気づいたフミナが話しかけた。
「そんなに美味しいのです?」
「熊肉がこんなうまいとは知らなかったのだぁ~♪」
「では私も……美味いのです。でも熊肉ってこんな味?」
「おいらもそう思うのだ。秘密があるのだ?」
疑問を感じたフミナと玄間北斗が料理を作ったリフィカに訊ねる。
「料理に使った熊は最近できたばかりの玉蜀黍畑を荒らしていたようだ。もしかして玉蜀黍を食べていたおかげかも知れないな」
二人が納得したとき、鳳凰院がテーブル中央の鍋の蓋を開けた。
「俺の猪鍋もちょうど良い頃だね」
湯気と共に美味しそうなにおいが周囲に広がる。かなり食べていたフミナなのに空腹感に襲われた。フミナと玄間北斗も猪鍋を頂く。
「骨で出汁をとる調理法はミリアから教えてもらったんだよね」
鳳凰院も自ら食べて満足げに頷いた。
「身体が暖まるね。美味しい。こんなにしっかりとした味だとは思っていなかったよ」
「いい感じよね。ひりょは隠し味にこの村の葡萄酒も使ったみたいよ」
ユピテールとミリアも猪鍋を味わう。
「玄間さ……」
ユピテールが玄間北斗に声をかけようとしたところ、いつの間にかいなくなっていた。どこにいったのかはまもなくわかる。子供達が目立つところに看板を立てたからだ。『たれたぬきの大道芸』と大きく書かれてあった。
「たれたぬきなのだぁ~♪」
キグルミ姿の玄間北斗が登場。瞬く間に子供達が集まる。
「あまり近づかないようにこの線までね」
気を利かせたミリアが子供達を見てくれた。
すぐに本格的な大道芸が始まる。
転がってきた大玉に乗ろうとした玄間北斗がコテンと大失敗。再挑戦しても頭上に大玉がのってしまう始末。これでは逆だと悩んでみせて笑いを誘う。
ようやく大玉に乗れるようになり、お腹の部分で跳ねてみせると子供達だけでなく大人達からも歓声があがった。ミリアに投げてもらった品々をジャグリングしながら一回り。最後は笑いと喝采を浴びながら玄間北斗は去っていく。
そしてダンスの時間となる。ブレナーに誘われてフミナも踊りの場へ。村の有志達による演奏と歌に合わせて踊りだす。
「帰郷してよかったのです☆」
「ボクも楽しい思いをさせてもらっています」
軽やかにステップを踏むフミナとブレナー。その近くで不器用に躍っているカップルが一組。ユピテールは心の中でその一組を応援していた。
(いわれた通りにすれば大丈夫さ)
娘に化粧をしてあげたとき、アドバイスをいくつかしている。踊りながら娘が耳元で囁くと青年は肩の力を抜いて軽やかな動きとなる。二人がよい雰囲気になったのを眺めながら頂く葡萄酒は格別だった。リフィカと改めての乾杯を交わす。
鳳凰院とミリアも踊りに加わる。つい先程まで子供達と走り回っていたはずなのにミリアはとても元気だ。
収穫祭は滞りなく楽しい雰囲気のまま終わる。
その日の夜。寝付かれなかった鳳凰院は夜風に吹かれながら村内を散歩した。
賑やかだった広場にはテーブルすら並んでいない。だが胸の中には思い出が詰まっている。
(やはり人の笑顔はこちらの心を癒してくれるものだ。これからもそんな笑顔を守っていこう)
鳳凰院は夜空を見上げながら固く心に誓った。
●
それから数日ほど村に滞在してからフミナ一行は帰路に就く。
往路を逆に辿ってリゼリオを目指す。帆船で港に辿り着いて旅は終わりを告げる。
お土産としてもらった肉と葡萄酒は旅の途中で美味しく頂いた。日持ちしないのでそうするのが一番だったからだ。いくらかは残ったのでリゼリオで親しい者達と味わうつもりのハンターもいる。
「楽しい休暇を過ごせたのはみなさんのおかげなのです☆」
フミナにとって今回は大満足の帰郷。ハンター達も楽しかった思い出を胸に住処へと帰っていくのだった。
馬車が枯れ野に伸びる一本道を駆け抜けていた。併走する護衛ハンターが跨ぐ馬二頭の足運びは軽やかである。
「すっかり秋の景色なのです☆」
仕事から離れたフミナ・エミエールは普段よりも砕けた感じで喋る。御者台で手綱を握り、馬車を操っていた。
「村の収穫祭、楽しみなのだぁ~。小さな子供達もいるのかなぁ~なのだ♪」
玄間 北斗(ka5640)はフミナの隣に座っている。膝の上ではリフィカ・レーヴェンフルス(ka5290)から預かった猫のメットクイが気持ちよさそうに眠っていた。
「アルくんが旋回している。ってことは近くに人家があるはずですね」
「故郷の村までもうすぐなのですよ。あの高さからなら見えるはずなのです♪」
ブレナー ローゼンベック(ka4184)とフミナが天を仰ぐ。上空ではイヌワシの『アルくん』が気持ちよさそうに飛翔していた。
「あたしも収穫祭、楽しみだなぁー! どんなものがあるかな?」
「このまま何も起こらないといいんだけどねぇ」
ミリア=シャートラウム(ka5766)は左の車窓、ユピテール・オーク(ka5658)は右の車窓から外を眺めながら言葉を交わす。
乗馬中の鳳凰院ひりょ(ka3744)が耳を澄ませた。そして自分と同じように愛馬で駆っていたリフィカに近づく。
「声が聞こえたような気がしたのですが」
「私もそんな気が……」
リフィカとブレナーのやり取りは玄間北斗の耳にも届いていた。
「丘の上で何か起きているのだぁ!」
遠見の眼鏡を使った玄間北斗が叫んだ。その直後、遠くから悲鳴が聞こえてくる。
急行しようとする一行。向かう先は村方面の道沿いであった。近づくにつれて雑魔と思しき異形狼の群れに荷馬車が襲われているのがわかる。
リフィカは程なく愛馬を停めた。構えた和弓にマテリアルを込めてから矢を解き放つ。る。遠くの狼雑魔の首を貫いた。
鳳凰院は射程に入ったの同時にウィンドチャクラムを投擲。当てることで狼雑魔の群れの気を引く。
急停車中の車内からハンターが次々と飛びおりる。馬車に残ったユピテールは魔導銃で狼雑魔の頭部を狙い撃った。
玄間北斗が背を屈めつつ大地を駆け抜けた。闘心昂揚を付与しつつ女性に噛みつこうとしていた狼雑魔を突き飛ばす。
「ミリア、落ち着いていけば大丈夫だからな」
「うん! 射れる距離なら外せないね、あたしもハンターの端くれなんだから!」
鳳凰院の鼓舞に応えるようにミリアが狼雑魔に銃弾を叩き込んだ。
次々と消滅していく狼雑魔。まもなく最後の一体が無に還る。
「父さんに母さん?」
「おー、フミナじゃないか」
荷馬車の持ち主はフミナの両親だった。遠方の町へでかけた帰りに襲われたらしい。
(良かった、これで笑顔を失わずに済むな)
フミナの両親だと知って鳳凰院は安心するのだった。
●
馬車一行と荷馬車一行は一緒に村へ到着する。
フミナは実家はかなり広かった。一人に一部屋ずつ割り当てられる。
「泊めて頂いてありがとうございます」
「いえいえ、命を助けて頂いた方々にこれぐらいのことは」
鳳凰院が宿泊の礼をいうとフミナの両親が畏まった。
夕食の時間には広間に集まって全員でテーブルを囲んだ。
「フミナからも聞いていると思いますが、明後日は収穫祭なんです。是非楽しんでいって下さいね」
フミナの母が赤葡萄酒入りのシチューを皿によそう。
「頂きます♪ う~ん、この味。久しぶりなのですよ♪」
母の手料理にフミナは嬉しそうである。
「この村に子供はどれくらい住んでいるのだぁ?」
「大体……二十人ぐらいですね」
玄間北斗は気になっていたことをフミナの母に教えてもらう。
「踊りがあると聞いているんだが、村の女性達に理容は必要かい? そのつもりで道具を揃えてきたんだが」
「みなさんとても喜びます。あのできれば私も……」
ユピテールの申し出にフミナの母は殊の外喜んだ。食事の後、ユピテールは彼女の髪を切ってあげる。
「収穫祭用の肉なんですが、もう狩りは済んでいるのかな?」
「殆どは罠で生け捕り済みですよ。明日辺りに解体するんじゃないかな」
鳳凰院とフミナの父がしていた会話にミリアが目を輝かす。
「あたし料理を振る舞いたかったんだけど、あまり腕が……でも捌くのは上手いと思うんだよね! 狩りはしてたし」
ミリアは鳳凰院の調理のために解体を手伝うことにした。
ブレナーも葡萄酒で上機嫌な様子のフミナの父に教えてもらう。
「収穫祭の設営はどうなっていますか? まだなら手伝わせてもらおうかと」
「心配ありませんよ。殆ど終わっていますので。当日にテーブルと椅子を運ぶくらいですかな」
「パンを作ってみなさんに振る舞いたいんですけど、大きめの石釜があるお宅を紹介してはもらえませんか?」
「家にもありますよ。葡萄酒造りを村総出でやるようになってから、人を雇う必要がなくなってね。それで使わなくなった。たくさんの部屋もその名残です」
ブレナーの明日の仕事は決まった。埃にまみれた石釜の掃除である。
「私も料理を作るつもりなんだが、この村で造った白葡萄酒のビネガーはあるかな?」
「もちろんありますとも。入り用はどれくらいで?」
リフィカが作ろうとしていた料理は三種類。マガモのコンフィ、熊肉と根菜の味噌煮、鹿肉のパイである。
「ふむふむ……」
フミナは料理に関する会話すべてに耳をそばだてている。食いしん坊は変わらないなと父にいわれて舌をだすフミナだった。
●
翌朝、玄間北斗は庭先で大工仕事をこなしていた。フミナの両親からもらった端材で明日の大道芸に使う看板を製作していたのである。
「ねぇ、何しているの?」
しばらくすると子供達が集まってきた。
「収穫祭で面白いことをするのだぁ~」
子供達に差しだした何もない掌を握り、開くと一輪の花が現れる。
「すごーい! 他にどんなことできるの?」
「それは明日のお楽しみなのだぁ~♪」
玄間北斗は子供達と仲良くなる。その後、看板作りを手伝ってもらった。
●
ブレナーが石釜の掃除をしているとフミナがやってきた。二人で埃を取り除き、拭いて内側を綺麗にする。
その後は薪割り。フミナがぶつ切りの丸太を運び、ブレナーが斧で割っていく。
「あの石釜ならパンを一度にたくさん焼けますね」
「焼きたてパン、楽しみなのです~♪」
休憩でお茶をしながら明日の収穫祭を話題にする。
「ダンスもあるんでしたっけ……?」
「とても簡単なのです♪ こんな感じなのですよ」
フミナが鼻歌を唄いながら踊ってみせた。ブレナーも真似て一緒に身体を動かす。
薪割りの後は小麦粉等の食材を石釜の部屋に持ち込んだ。小麦粉を練って秘蔵のパンの種を加えておく。
パン作りは夜明け前から。早めに就寝するブレナーだった。
●
理容用に開放された一室でユピテールは挟みと櫛を手にしていた。廊下には村の女性が五名ほど待機中である。
「折角のお祭りだよ。一番きれいな姿を村の男衆に見せ付けてやらなきゃねぇ」
「えっとあの――」
髪をカットしてあげている娘が頬を赤く染めて俯きながら話す。どうやら気になる異性がいるらしい。
「収穫祭は明日のお昼の少し前からだよねぇ。お化粧も手伝ってあげるから、朝にここへ来るといいよ。ばっちりめかし込んであげるから」
「ほ、本当ですか?!」
ユピテールの申し出に娘はとても喜んだ。
(小さな村じゃ、こういう機会じゃないと想いを上手く伝えられないだろうからねぇ)
上手く後押ししてあげようとユピテールは考えていた。
●
鳳凰院とミリアは村の猟師の元へ向かう。
「こいつを捕らえたところは木の実豊富な森だからな。きっと美味いぜ。血抜きとかの後処理もばっちりだよ」
二人は猟師に感謝する。木の棒に吊されたままの猪を担いでミリアの実家に戻った。
「ここまでしてあるなら簡単簡単!」
ミリアが大きめのナイフで捌いていく。必要分を残し、残りの切り分けた肉は村の家々に配る。明日には収穫祭を賑わす料理になっていることだろう。
「鮮やかな色、とてもよい肉だね。いい猪鍋が作れそうだよ」
「ほめられると照れるね」
二人が話していたところへリフィカがやってくる。
「いい肉だな。猪か?」
リフィカが抱えていた籠の中身もたくさんの肉だ。マガモ、熊、鹿の三種類である。
「くさみ取りに香草はいるかい? それと根野菜もあるんだが」
「うれしいですね。頂きます」
鳳凰院はリフィカから様々な食材をもらう。猪肉は醤油で満たされた樽の中に漬け込んだ。その際、香草類も加えておく。
「さあ、私も頑張らないとな」
リフィカがまな板に三種類の肉を並べた。
「手伝いますよ」
「あたしも!」
鳳凰院とミリアも手伝って下拵えが行われる。
使う香辛料は大蒜、黒胡椒、岩塩に香草としてタイム、ローズマリー、ローリエ等。白葡萄酒のビネガーは村産を使う。それらを組み合わせ肉類に下味をつけていく。一部の肉には味噌も使われていた。
●
収穫祭当日は快晴。
村人総出で野外の広場にたくさんのテーブルと椅子を並べられる。
お昼前には殆どの村人が席に着く。各テーブルに料理を運ぶ給仕担当者の中にはハンターの姿もあった。
料理は冷めないよう焼いた石板の上に載せられていた。給仕の時間が終わり、村長の挨拶が始まる。ハンター一行はフミナの家族と同じテーブルを囲んだ。
「うわぁ~、どれも美味しそうなのです☆」
フミナが料理の数々を眺めて瞳を輝かせる。
「それでは村の繁栄と皆の長寿を祈って――」
村長のかけ声に合わせて広場の全員が乾杯。大人のジョッキには葡萄酒、子供には甘酸っぱい葡萄ジュースが注がれていた。
「フミナ嬢はなかなかいける口のようだな」
「リフィカさん、お注ぎしますですよ~♪」
フミナとリフィカは瞬く間に一杯目の葡萄酒を飲み干す。その間にリフィカが大皿の料理を小皿に取り分ける。
「これが昨日下拵えした料理だね。うんっ!」
「美味しいなぁ!」
鳳凰院とミリアが口にしたのはマガモのコンフィ。低温の脂でじっくりと煮た料理でほろりとした食感が特徴だ。
「いけますね!」
「こちらも食べてみてくれ。パンの石釜を貸してもらって焼いた鹿肉のパイだ」
ブレナーはコンフィに続いてリフィカが切り分けてくれた鹿肉のパイを味わう。鹿肉は硬い場合が多いのだが、下拵えのおかげでとても柔らかい。
「鹿肉ってこんなに美味しいんだ~!」
「幸せなのですよ♪」
ブレナーの横でフミナも鹿肉のパイに舌鼓を打つ。ちなみにブレナーのアルくんを始めとしたハンターのペット達も生肉等のご相伴に預かっていた。
「このパンを焼いてくれたの兄ちゃんって本当かい? とってもうまいぜ」
「本当に。白パンもいいもんだねぇ」
隣のテーブルにいた村人がパンを誉めてくれてブレナーが照れまくる。
「これだけのパン、リゼリオでも中々味わえないのです♪」
フミナも賞賛も加わり、ブレナーの顔は真っ赤に染まった。
玄間北斗は熊肉と根菜の味噌煮ばかりを食べている。それに気づいたフミナが話しかけた。
「そんなに美味しいのです?」
「熊肉がこんなうまいとは知らなかったのだぁ~♪」
「では私も……美味いのです。でも熊肉ってこんな味?」
「おいらもそう思うのだ。秘密があるのだ?」
疑問を感じたフミナと玄間北斗が料理を作ったリフィカに訊ねる。
「料理に使った熊は最近できたばかりの玉蜀黍畑を荒らしていたようだ。もしかして玉蜀黍を食べていたおかげかも知れないな」
二人が納得したとき、鳳凰院がテーブル中央の鍋の蓋を開けた。
「俺の猪鍋もちょうど良い頃だね」
湯気と共に美味しそうなにおいが周囲に広がる。かなり食べていたフミナなのに空腹感に襲われた。フミナと玄間北斗も猪鍋を頂く。
「骨で出汁をとる調理法はミリアから教えてもらったんだよね」
鳳凰院も自ら食べて満足げに頷いた。
「身体が暖まるね。美味しい。こんなにしっかりとした味だとは思っていなかったよ」
「いい感じよね。ひりょは隠し味にこの村の葡萄酒も使ったみたいよ」
ユピテールとミリアも猪鍋を味わう。
「玄間さ……」
ユピテールが玄間北斗に声をかけようとしたところ、いつの間にかいなくなっていた。どこにいったのかはまもなくわかる。子供達が目立つところに看板を立てたからだ。『たれたぬきの大道芸』と大きく書かれてあった。
「たれたぬきなのだぁ~♪」
キグルミ姿の玄間北斗が登場。瞬く間に子供達が集まる。
「あまり近づかないようにこの線までね」
気を利かせたミリアが子供達を見てくれた。
すぐに本格的な大道芸が始まる。
転がってきた大玉に乗ろうとした玄間北斗がコテンと大失敗。再挑戦しても頭上に大玉がのってしまう始末。これでは逆だと悩んでみせて笑いを誘う。
ようやく大玉に乗れるようになり、お腹の部分で跳ねてみせると子供達だけでなく大人達からも歓声があがった。ミリアに投げてもらった品々をジャグリングしながら一回り。最後は笑いと喝采を浴びながら玄間北斗は去っていく。
そしてダンスの時間となる。ブレナーに誘われてフミナも踊りの場へ。村の有志達による演奏と歌に合わせて踊りだす。
「帰郷してよかったのです☆」
「ボクも楽しい思いをさせてもらっています」
軽やかにステップを踏むフミナとブレナー。その近くで不器用に躍っているカップルが一組。ユピテールは心の中でその一組を応援していた。
(いわれた通りにすれば大丈夫さ)
娘に化粧をしてあげたとき、アドバイスをいくつかしている。踊りながら娘が耳元で囁くと青年は肩の力を抜いて軽やかな動きとなる。二人がよい雰囲気になったのを眺めながら頂く葡萄酒は格別だった。リフィカと改めての乾杯を交わす。
鳳凰院とミリアも踊りに加わる。つい先程まで子供達と走り回っていたはずなのにミリアはとても元気だ。
収穫祭は滞りなく楽しい雰囲気のまま終わる。
その日の夜。寝付かれなかった鳳凰院は夜風に吹かれながら村内を散歩した。
賑やかだった広場にはテーブルすら並んでいない。だが胸の中には思い出が詰まっている。
(やはり人の笑顔はこちらの心を癒してくれるものだ。これからもそんな笑顔を守っていこう)
鳳凰院は夜空を見上げながら固く心に誓った。
●
それから数日ほど村に滞在してからフミナ一行は帰路に就く。
往路を逆に辿ってリゼリオを目指す。帆船で港に辿り着いて旅は終わりを告げる。
お土産としてもらった肉と葡萄酒は旅の途中で美味しく頂いた。日持ちしないのでそうするのが一番だったからだ。いくらかは残ったのでリゼリオで親しい者達と味わうつもりのハンターもいる。
「楽しい休暇を過ごせたのはみなさんのおかげなのです☆」
フミナにとって今回は大満足の帰郷。ハンター達も楽しかった思い出を胸に住処へと帰っていくのだった。
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
---|
面白かった! | 7人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
収穫祭準備会場 ひりょ・ムーンリーフ(ka3744) 人間(リアルブルー)|18才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/10/26 11:44:25 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/10/24 02:48:06 |