ゲスト
(ka0000)
大マフォジョ祭!
マスター:剣崎宗二
- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
- 500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 寸志
- 相談期間
- 4日
- 締切
- 2014/07/29 19:00
- 完成日
- 2014/08/04 22:38
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「さて、準備はこれでほぼ整いましたか」
筋骨隆々の大男が、腕を組み、広場の中央に立てられた像を見上げる。
――それだけならば、何の変哲もない光景だ。
だが、この場に異様な雰囲気を漂わせたのは、彼が纏う装束。
ピンクのフリフリゴスロリドレス。筋骨隆々の大男がこれを纏う姿は、余りにも正常な精神をもつ人間の目には毒ではないだろうか。
「ガルヴァン様」
然し、そんな状況の中、彼に冷静に声を掛ける姿が一つ。
何故、と思われるのかもしれないが、その姿を見れば疑問は一瞬にして晴れるだろう。
――彼に声を掛けたその男もまた、彼と同様の装束を纏っていたのである。
「食事の用意は?」
「はっ、素材の方は整っております。ですが、料理人の方が――」
「やはり不足しておりましたか」
はぁ、と一つ溜息をつく。男――マフォジョ族族長、ガルヴァン・マフォジョは、空を見上げる。
「此度は『ハンター』と呼ばれるあの者たちや、近辺の他の部族の者をも招きます故、失礼をする訳にも行きませぬ。人手配分をもう一度見直してください」
「族長」
「どうした」
直ぐに下がらなかった、部下と思われる男に、ガルヴァンの目線が向く。
「お言葉ですが、この神聖なマフォジョ祭に、何故部外者を――」
ギロリと、向けられる目線に僅かな怒りが込められたのを見て、男の言葉は止まる。
「……我らがマフォジョの教えを、忘れられたのですかな?」
「い、いえ、そのような事は……!?」
「『人の間で争う事は最大の禁忌。故に人我らを犯さねば我ら人を犯さず、人を平等に扱い差別せず――』」
「は、仰る通りです」
すこすこと引き下がる男に、ガルヴァンが深く溜息一つ。
「マフォジョ様も、恐らくこのような風景を見たかったのでしょうな。――人が平和で、楽しむ、お祭りを――」
かくして、ハンターオフィスにも、『マフォジョ祭』への招待は届く事となる。
人員不足を補うためのヘルパー募集と、参加自由のお祭りの招待。二つ同時に。
【ハンターオフィス参考資料:マフォジョ族】
マフォジョ、と言う英霊を祭る部族。
男性しかいない部族でありながら、ピンクのゴスロリドレスを正装として着用している。
彼らいわく、それは彼らの先祖を救った『マフォジョ』が着用していた服装であり、その先祖が感謝の意を込め、英霊が名乗った『マフォジョ』の名を部族の名前にしたという。
潜在魔力はありながら魔法の能力には優れないが、彼らはその潜在魔力を肉体強化に回す事により、驚異的な身体能力を発揮させる戦士となる事が可能である。
※尚、確証はないが、各種考察により、『マフォジョ』はリアルブルーから転移されてきた者ではないかと言う仮説が示されている。
筋骨隆々の大男が、腕を組み、広場の中央に立てられた像を見上げる。
――それだけならば、何の変哲もない光景だ。
だが、この場に異様な雰囲気を漂わせたのは、彼が纏う装束。
ピンクのフリフリゴスロリドレス。筋骨隆々の大男がこれを纏う姿は、余りにも正常な精神をもつ人間の目には毒ではないだろうか。
「ガルヴァン様」
然し、そんな状況の中、彼に冷静に声を掛ける姿が一つ。
何故、と思われるのかもしれないが、その姿を見れば疑問は一瞬にして晴れるだろう。
――彼に声を掛けたその男もまた、彼と同様の装束を纏っていたのである。
「食事の用意は?」
「はっ、素材の方は整っております。ですが、料理人の方が――」
「やはり不足しておりましたか」
はぁ、と一つ溜息をつく。男――マフォジョ族族長、ガルヴァン・マフォジョは、空を見上げる。
「此度は『ハンター』と呼ばれるあの者たちや、近辺の他の部族の者をも招きます故、失礼をする訳にも行きませぬ。人手配分をもう一度見直してください」
「族長」
「どうした」
直ぐに下がらなかった、部下と思われる男に、ガルヴァンの目線が向く。
「お言葉ですが、この神聖なマフォジョ祭に、何故部外者を――」
ギロリと、向けられる目線に僅かな怒りが込められたのを見て、男の言葉は止まる。
「……我らがマフォジョの教えを、忘れられたのですかな?」
「い、いえ、そのような事は……!?」
「『人の間で争う事は最大の禁忌。故に人我らを犯さねば我ら人を犯さず、人を平等に扱い差別せず――』」
「は、仰る通りです」
すこすこと引き下がる男に、ガルヴァンが深く溜息一つ。
「マフォジョ様も、恐らくこのような風景を見たかったのでしょうな。――人が平和で、楽しむ、お祭りを――」
かくして、ハンターオフィスにも、『マフォジョ祭』への招待は届く事となる。
人員不足を補うためのヘルパー募集と、参加自由のお祭りの招待。二つ同時に。
【ハンターオフィス参考資料:マフォジョ族】
マフォジョ、と言う英霊を祭る部族。
男性しかいない部族でありながら、ピンクのゴスロリドレスを正装として着用している。
彼らいわく、それは彼らの先祖を救った『マフォジョ』が着用していた服装であり、その先祖が感謝の意を込め、英霊が名乗った『マフォジョ』の名を部族の名前にしたという。
潜在魔力はありながら魔法の能力には優れないが、彼らはその潜在魔力を肉体強化に回す事により、驚異的な身体能力を発揮させる戦士となる事が可能である。
※尚、確証はないが、各種考察により、『マフォジョ』はリアルブルーから転移されてきた者ではないかと言う仮説が示されている。
リプレイ本文
●祭・花形
「よっしゃぁ、皆、準備はいいかぁ!」
「「応ッ!!」」
――そこには、非常に暑苦しい空間が形成されていた。
沖本 権三郎(ka2483)を囲む形で、マフォジョ族の若い衆が立つ。
彼らは一様にして鍛えられたボディをピンクのフリフリドレスで包んでいるが為に、作業着姿である権三郎の姿とは対照的であったが……農業で鍛えられた権三郎の体格は、彼らに負けるとも劣らない。
「許可も出た事だしよぉ、材料も揃った。協力してくれた皆に恥ずかしくねぇように、盛り上げていこう!!」
「「応ッ!」」
彼らの後ろには、巨大な台車。
――リアルブルーでは『山車』と呼ばれ、祭りの中核となるべき物である。
だが、今回の彼らの目的は、これを見せびらかす事に非ず。
「おっし! いっちょ気合入れて引っ張ってやらぁ! へいやぁぁぁ!」
「「はぁぁぁあ!」」
漢たちの筋肉によって、巨大な台車は動き始める。
華麗に飾りつけされたそれによって、人々の目を引き付けていく。
「ねぇねぇ、おかあさん、あれどこに行くのー?」
「そういえば、今日はお祭りがあったらしいわね」
「みにいきたーい!」
「はいはい、じゃあ後でね」
そんな会話を耳に挟み、汗水を垂らす権三郎は、満足げな笑顔を浮かべる。
彼らの目的は、この様に、『人寄せ』を行う事であった。
「んじゃま、このまま二週するぞぉ!」
「「へーい!」」
普段から鍛えていたマフォジョ族たちの力は申し分なく、根性もある。力仕事にはうってつけだ。
いっそ農業でもやらせるのも面白い。そう考えながら、彼は山車を引っ張っていく。
「面白そう。……エリスさん、行ってみない?」
「ん、いいよ、イザヤ様」
そんな山車に興味を引かれ、祭りにやってきたのは金刀比良 十六那(ka1841) とエリス・カルディコット(ka2572)のペア。
友と回る祭りは格別。こと、余りこう言う祭りに参加した事のないエリスには特にそうなのだろう。
心なしか、その表情は少し明るくなっている。
「ねぇ、あれはどう?」
イザヤが見つけたのは衣装の露店。どうやらマフォジョ族の正装でもあるあのドレスを売っているらしい。
「せっかくだから……着てみない?」
「イザヤ様がそう言うのでしたら……」
ゆっくり頷いたエリスを、イザヤは更衣室へと押し込んだ。
「エリスさんは、何を着ても綺麗よね……」
「うう……このドレスは、少し恥ずかしく感じます……」
二人とも着替えた後。
――何故イザヤがしょげているかと言えば、エリスがドレスを着た姿が、実に様になっているからである。
イザヤ含め、知っている者は僅かなのだが……エリスは男なのだ。
そんな彼が、自分よりドレスが似合うと知れば、プライドなど色々な所に差し支えてくるのも、仕方の無い事ではある。
「はいイザヤ様、あーん」
そんな事を考えていると。エリスが箸でつまみあげた一口サイズの揚げ物が、直ぐ口の傍まで迫っていた。
別に彼には深い考えがあった訳ではなく、ただ自然に行っただけなのだが、今のイザヤには知る由も無い。
「んむ……っ……お、おっ、おいしいわねっ……」
一見、恭しいエリスの態度が、イザヤが主導権を握っているように感じさせるこのペア。
だが、果たして真実はどちらか。
食べ歩きながら、彼女たちが辿りついたのはサーカステントの様な屋台。
ショーはもう直ぐ始まる、との事だが――
「お嬢様、準備が整いました」
アミグダ・ロサ(ka0144)が、彼女の主であるリズリエル・ュリウス(ka0233)に一礼する。
「うむ! さすが仕事が速いな!」
ぎゅっと、吊られたロープを引っ張りその強度を確認。道具の緩みはそのまま演芸の失敗、ひいては命につながる可能性がある。故に技芸に優れた道化ほど、その道具の確認は怠らない。
「私が目立てなくなるのは困るんだぞっ。だから…開演と行くぜ!」
張られたロープの上に飛び乗る。まるで平地の上が如きステップが、観客の注目を引き付ける。
予測通りの観客の視線に、リズリエルはほくそえむ。次の瞬間、トン、とステップを踏んだかと思うと、その手のステッキが消失する。
――手品の極意とは、『視線をコントロールする』事にある。
それ故に、彼女の行う『アクロバットと手品の組み合わせ』は、極めて理に適っていたと言えよう。
「わーあ、すごーい!」
客席から上がる歓声に、リズリエルは歓喜し、更に激しい動作を行う。
と、その瞬間。
足を滑らせたが如く、彼女は張られたロープの上から落下する。
だが、空中でくるりと一回転。華麗に着地する。
「お嬢様。悪戯が過ぎますよ?」
「へへっ、ばれちゃった? でも見たでしょっ、あの大歓声?」
祭りは、喧騒の中進んでいく。
●華やかなマフォジョの舞台裏
「さて、お嬢様の晴れ舞台も済みましたし、こちらもお手伝いしませんと」
サーカスの休憩時間を縫い、アミグダは事前にハンターオフィスで指定された場所へとやってきた。
「おう、嬢ちゃんも手伝いか。ちょうど良かった。人手足りねぇんだからよ、早く手伝ってくれや」
有無を言わさぬ感じで、巨漢に調理場のような所へ連れ込まれる。
――そこは、別の意味で『戦場』であった。
「おい、下ごしらえはまだか! 魚の鮮度はここじゃ落ちやすいんだから早く煮込まないとダメだろうが!」
「やってるよ! でも野菜刻まないとソースが間に合わねぇ!!」
巨漢たちが、食材を運びながら調理場を駆け回る姿はある意味滑稽ですらある。
苦笑いしながら、アミグダは彼らを手伝うことにした。
「なるほど、こうやると皮むきが早くなるのですね」
「お、兄ちゃん、細い体の割りには、中々速いじゃねぇか」
調理場の一角。足立 正太郎(ka2586)が、先ほどマフォジョ族が披露した獣の解体法を真似して見せていた。
「いえいえ、家を守る主夫としては、これくらい出来ませんと」
ニコニコ微笑みながらも、余裕のある口調。
事を行うにはまず形から入る。そう考えた彼の服装は、メイド服である。
執事服でも良かったのではないか、と言うツッコミは禁物である。何より周囲がゴスロリドレスの漢ばかりのこの状況では、寧ろその格好は溶け込んでいたのである。
「ふむ。然し勉強になります。この肉はここが美味しいのですね」
違う世界、である。見た目が同じ動物であろうと、その性質が違う事もある。
故に、正太郎は一字一句、マフォジョ族の料理人たちの言った事を脳裏に刻み込む。愛する家族に、美味しい料理を食べさせるために。
そんな彼らを、見守る目が。
(「……うちの旦那にも似合うかしら。体型似てるし……いや、絶対似合う……絶対可愛い……連れてくればよかった……!!」)
爪を噛みながら熱い視線を注ぐのは、辰川 桜子(ka1027)。
どこかできっと彼女の旦那は寒気を感じている事だろう。
「はっ、こんな事をしている場合じゃなかった……手伝わないと!」
振り返れば、鍋が泡立っている。
「次は……あの赤い瓶のソースを入れればいいのね。量は三匙か」
ノートを確認しながら、先ほどメモった通りに調味料を加える。
メモは作業の為以外にも、レシピの確保と言う意味合いもあったのである。手馴れたその調理の動きは、正に正太郎の『主夫』と相対の位置にある『主婦』の物であった。
「さぁ、切るでも煮るでも焼くでも、何でも言って!」
「わぁ……美味しそうです」
その桜子の隣で、鍋や食器を運んだりしているのは燈京 紫月 (ka0658)。
彼もまた、正太郎と同様の格好をしていたのであった。
――最も、彼の体格は比較的に小柄。それ故に、正太郎ほどはマフォジョ族たちに引っ張り回されなかったのだろう。
食器運搬に乗じて、あっちへ行ったりこっちへ行ったり。桜子と違う方法で、彼もまたマフォジョ族の料理を覚えようとしていた。
「あ、これ美味しそう……すみません、これどうやって作るんですか?」
「教えてる暇が惜しい……一緒に作ればわからぁ!」
半ば強制的に、調理を手伝わされる事になったのである。
「はい皆はん、疲れたやろ? 余り物で作りましたどすえ」
「ほう、そんな作り方もあるのか」
高雅 聖(ka2749)が持ってきたのは、彼女の故郷の料理である京料理。
今回は素材の味を存分に生かすため、後付けの味付けは薄めに仕立ててある。主に野菜や、卵をメインとしているのだ。
「中々美味しい。けど、さすがにこの辺境の地じゃ、食材もそれ程新鮮じゃねぇ事も多いからな」
素材の味を存分に生かすと言う事は、その分素材の鮮度なども大きく味に反映されると言う事でもある。聖の料理が美味しい事は、マフォジョ族たちの食べ方を見れば分かる。だが、彼女自身が味わってみると――
「――確かに、どすなぁ」
後一歩が、足りなくなるのだ。
「どれ、新鮮さは作り出せないし、元の味もちっと潰すハメになるが、俺らはこういうのはこう処理する」
なにやら、特殊なオイルを棚から取り出すマフォジョ族料理人。それに、しばらく魚を漬けたかと思うと、今度は油で揚げ始める。
漂う香り。
(「香料油の類どすなぁ……」)
なるほど、そう言う事か。考えながら、揚がった魚に、聖は口をつけた。
一方。別の一角。
「まさか調理場でも……と思ったが、ははは……」
苦笑いを浮かべたのは、ザレム・アズール(ka0878)。あの『正装』で調理を行うのは、彼でも予想外だったのだろう。
「盛り付け、終わったよ。次は?」
「おっとすまん。今作る」
レム・K・モメンタム(ka0149) の声に、ザレムは目の前の鍋にその注意を引き戻す。
中では肉類が、ぐつぐつと音を立てながら煮込まれている。もう暫く掛かりそうだ。
「そう言えば、レムの好きな食べ物は何だ?」
「ん、私の好み?」
小首をかしげるレム。
「んー、私、好き嫌いは言えない境遇だったしね。――強いて言えば、大盛り?」
くすり、と微笑んだザレムに、レムはほっぺを膨らませる。
「むー。じゃあザレムの好き嫌いは何なのよ?」
「いやいや、らしいと思って、な。 俺は……特に好き嫌いはないな」
「何よその答え……」
ため息をつくレム。
その一瞬の隙を突き、ザレムの手が鍋へと伸びた。
「――何してんのよ」
「味見だ。『味見』」
「その割には取った量、多くなかった?」
「多めに取らないと隠し味まで分からない」
はぁ、とまた一つ、ため息をつくレム。最も、彼女にも、本気でザレムを咎める気は無かったが。
「おい、料理はまだか!」
響く誰かの怒鳴り声。ぴょんとレムは飛び上がり、皿を手に取る。
「はーい、今行くよー!」
それを見て、微笑みながら、ザレムは鍋へ調味料を加えていった――
●メインイベント・ラウンド1
「さーぁ皆様!これより行われますは、大マフォジョ祭がメインイベント!」
舞台に上がっていたのは、ハンターオフィスから派遣されていた司会役。
「マフォジョ族の皆さんによりますと、このイベントは、彼らが信仰する『マフォジョ』の教えが一つ!『マフォジョは変身中に攻撃を受けてはいけない。即ち敵の攻撃が行われる前に、変身を終わらせねばいけない――』と言う事だそうです!」
なんともよく分からないコンセプトである。だが、その様な事等どうでもいい。
――要は、これが、この祭りに於いて最も盛況なイベントである事。その一点が重要なのだ。
「それでは、第一ラウンド、始まります!」
「公演の時は素早い着替えが基本なのだっ、この程度――!」
第一ラウンドに登場していたのは、リズリエル。道化師らしい、素早い手つきで着替えていく。
だが、如何せん服装はいつもとは違う物。手馴れた舞台衣装とは、構造が多少違ってくる。
それでもその器用さは見事な物で、ドレスに袖を通し。着実に着ていく。
「お嬢様、頑張って!」
舞台下からはアミグダも応援している。これで負ければ――後でどんな事を言ってからかわれる事か。
ぶるっと僅かに身震いし、リズリエルは更に着替えの速度を上げる。
「困りましたわ。早脱ぎには自身がございますが……」
「ちょっとヴィズちゃん? あんまり動くと二人とも着替えられないよ?」
仲がいいのは悪い事ではない。然しそれも、時と場合によるだろう。
――何を考えたのか。ヴィーズリーベ・メーベルナッハ(ka0115)とレベッカ・ヘルフリッヒ(ka0617)は、同じカーテンの中で、着替える事にしたのだ。
無論、これは元々は一人用。故に、狭くて、二人とも動きにくい事この上ない。
「え、えぇっと。此れは思っていた以上に……」
「レベッカ様、もう少し腕を上げて――じゃないと私の胸が引っかかって着れませんわ」
「ええっ、これ以上はボクには無理だよぉ」
何やら不穏な言葉が聞こえてくる。中の二人、果たして大丈夫なのだろうか(放送コード的な意味で)
「さて、30秒がもう直ぐ過ぎます――5! 4! 3! 2! 1!……0!!」
司会者の号令と共に、各参加者を囲んでいたカーテンが一斉に落ちる。
「嗚呼、斯様な恥を晒してしまうとは……愉悦を覚えてしまいますね……」
抱き合ってお互いの体を隠す状態の中。何やら危ない台詞を発しているヴィーズリーベと、沸き立つ観客席の男性陣。
それとは裏腹に、ガルヴァンを含むスタッフは渋い顔であった。
「……カバーしてやりなされ」
「了解です」
カーテンをそのままスタッフの一人が引き上げ、彼女らの周囲を一周するように巻きつける。
そのままスタッフたちは、ヴィーズリーベとレベッカを担ぎ上げ、運んでいったのである。
「いやぁーんっ♪ やっぱり無理だったね、ヴィズちゃんっ♪」
一方、リズリエルの方といえば。
「じゃーん! どうだこの早着替え!」
「お見事ですわ、お嬢様」
どうどうと胸を張る彼女に、ステージ下のアミグダが相槌を打つ。
この際、少しくらい服がずれていても、些細な問題なのだろう。
●メインイベント・ラウンド2
「ふふふ……マフォジョ族……いつみてもいい男でいっぱいね。鍛え上げられたガチムチの肉体に、あのピンクのフリフリのアンバランスさが絶妙だわ……」
隣のカーテンの中に入って行ったガルヴァンの姿を見ながら、ユラン・ジラント(ka0770)が笑う。
「っと、いけない。着替えないと」
事前に参考資料として、ギルドから服装を借りて研究済み。
その仕組みも、最速での着脱の仕方も練習した。ユランは、本気で『勝つ』つもりだったのである。
「私服だったらジッパーだけなのに……意外と面倒だね」
ため息をつき、袖を通していく。
「あ、こっちも忘れちゃいけないね」
普段、三つ編みにしている髪を解く。輝く網の如く髪が、広がる。
「よし、これで準備完了!」
「『神聖騎士教則本』にも、『祭日は大いに楽しみ英気を養え』とあるしな。楽しむとしよう!」
言っている事は間違っている訳ではない。しかし、ラグナ・グラウシード(ka1029)がその言を発したのは……着替えるためのカーテンの中なのだから、何か締まらない。
ピンクのフリフリドレスを目の当たりにしても――
「ふふん、美しい私はたとえ女の格好であろうとも美しいはずなのだ!」
おい、本当に大丈夫なのか。どこかとは言わないが。
かくして、着替え始めるラグナ。しかし――
「む……ん!? 入らんぞ?」
彼は致命的に、不器用だったのである。
――本当に、大丈夫なのだろうか。いろんな意味で。
「く……う!?」
ラグナ以外にも、大変な事になっていた者はいた。
しろくま(ka1607)である。
「30秒は短すぎますくま! これでは……!?」
元の着衣がぬいぐるみである彼は、大きなハンデを背負っていた。そもそも脱ぐのに時間が掛かりすぎるのだ。
脱ぎ終わった時点で既に22秒が経過。これは8秒で着衣を整えろと言う事だろうか。
「無理くま! ダメくま! くま――」
そして、無情にも、カーテンは落とされる事になる。
「どう?」
「ふむ……」
見事に着替えたガルヴァンの直ぐ横で、華麗に一回転したユランの髪が空を切る。
他のグループならば、ステージ下の注意は彼女に釘付けだっただろう。だが、今回に限っては――相手が悪すぎた。
「いやーんはれんちくまーーー!!」
「ふはははは! 見よ我が鍛えられし肉体を!」
その態度に違いこそあるモノの、ラグナとしろくまには共通点があった。
――どちらも、服装は整っていないのである。
しろくまは前方ファスナーが閉められておらず、何とかカーテンの切れ端で隠している状態。
ラグナに至っては、開き直ったのか。下着一枚の状態で堂々とポーズを取っていた。
「これが勝負下着と言う物だぁぁ!」
ちなみにふんどしでした。はい。
何でも彼の読んでいた『神聖騎士教則本』に、『最も気合を入れるのに適しているため、勝負の際はこれを着るように』と書いてあったそうだ。何か間違っていないか?何も間違っていない――
――が、さすがにこのまま放置していては、観客の精神衛生にも関わる。
ガルヴァンを含むスタッフたちが一斉に飛び掛り、彼らをカーテンで包み上げ、運んでいった。
「私も、アレを狙うべきだったのかしらね」
何やら不穏な事をつぶやきながら、ユランも退場していく。
●メインイベント・ラウンド3
「頑張って下さいませ! 花繰様!!」
「負けたら赤っ恥だよー!」
友人――サーカスの鑑賞を終え、メインイベント会場に辿りついたエリスとイザヤの応援を受け。
花繰 桃歌(ka2161) はカーテンの中で小さくガッツポーズをし、気合を入れる。
「よし……早着替え、頑張るのです……!」
だが、そんな彼女に早速、障害が立ちはだかる。
「うう……こんな事なら、もっと着替えやすい服にしたのです……」
しろくまと同じで、着る方よりも、寧ろ脱ぐ方に時間が掛かると言う事態が発生してしまったのである。
「頑張って、裸だけは回避してー!」
ロングソックスを脱いだ時点での応援は、ある意味で脱力を誘う物ではあったが。何とか脱ぎ終わり――
「後は、着るだけなのです」
「――ディーナちゃん、大丈夫かしら」
客席の反対側。頬に手を当て、心配そうにカーテンの方を見つめるのは、ヴィーナ・ストレアル(ka1501) 。
元々こういった大騒ぎをする場は余り得意ではなかったのだが、妹がイベントに出ると、無理やり引っ張って来られたのである。
「あんまり過激な事をしないといいのですけれど」
最も、彼女自身も、妹が羽目を外し過ぎないように見守ると言う目的があったようだが。
そんなヴィーナに見守られているディーナ(ka1748)と言えば――
「この状態なら30秒など余裕ぞ!」
――カーテンの中で既に勝ち誇っていた。
彼女の服装は、桃歌やしろくまとは正反対。元より布面積が……その、少なめな、踊り子の衣装なのである。
故に、脱ぐ方は極めて早く終了する。
「さーて、後は着るだけじゃな!」
だがここで、一つ問題が発生する。
「ん……?ここに腕を通して……ああもう、面倒くさいのじゃ!」
普段着が簡易であればあるほど、ドレスを着る際には慣れない問題が発生する。練習していれば大丈夫ではあったが、面倒くさい事が嫌いなディーナがその様な事をするはずも無い。
――そして、遠慮なく、カーテンは落ちる。
「どうじゃ! 間に合ったぞ!」
息を荒げながら、胸を張るディーナ。脱ぐのが速かった分、着る方の時間は稼げたようだ。
「ん……お……? 普段とあまり色がかわらないぞよの……我は本当に着替えたぞよか!?」
何か不穏な雰囲気が漂う。
「ええい、もう一度着なおしぞよ!」
その場でカーテンが掛かっていないにも関わらず、服を脱ごうとするディーナ。だが、スタッフが止めるより速く。ステージ下から、何かが飛んできて、彼女に直撃。
「はいはい、ディーナちゃん。帰ったらおしおきですからね」
有無を言わさずに、ヴィーナがディーナを回収し、そのまま退場した。
「ううん……何とか注目されずに済んだ……」
ディーナの騒ぎを見ながら、桃歌はほっと一息つく。
何とか体裁は整えたものの、彼女の格好もまた、ギリギリだったのだ。
「お見事でしたよ、花繰様」
最も、見学に来た友人たちは、しっかり彼女に注目したようだが。
●メインイベント・ラウンド4
「さて、このイカしたカーニバルで……日頃の成果を魅せてあ・げ・る☆」
カーテンの中、ライダースーツのジッパーを下げ。一瞬にして装備解除したカミーユ・鏑木(ka2479)。
マフォジョ族にも負けぬその肉体を存分に見せつけ――カーテンのせいで誰も見えないのがある意味救いである。
着実と、着替えていく。ブーメランパンツ一丁だ。意外と漢らしい。
服の構造の関係で予想以上に時間は食ったものの、それでも僅かながら時間には余裕がある。その中で、彼が取った行動は、身だしなみを整える事ではなく――
「脱ぎ散らかしたままじゃ、乙女とは言えないわ☆」
服を畳んで片付ける事である。意外とマメであった。
「え……えっと……何でこんなことになったんだろう……」
自分はどこで道を間違えたのだろう。頭に手を当てたエクス・ナンバーズ(ka2647)が、考え込む。
思えば、ただ道を尋ねようと道端のカウンターに向かったはずだった。それが、いつの間にかあれよあれよと登録させられ、このカーテンの中へと放り込まれたのである。
だが、嘆いていても事態が好転する事はない。全裸で人前に出るのを回避するためには、着替えるしかないのである。
「こ……これここ通せばいいのかな?えっと……今度はこっちで……」
さて、この『事件』は果たして幸となるか。禍となるか。
エクスが思い悩んでいた頃。
早着替え大会の会場では、一つの事件が起こっていた。
「よい。我にはその様な物は必要ない」
手で彼女をテント内に案内しようとしたマフォジョ族の者を制し、オンサ・ラ・マーニョ(ka2329)はおもむろにドレスをそれを支える骨組みごと、壁に掛ける。
(「まさか、ここで着替えるつもりか……?」)
困ったマフォジョ族の者が、ステージ下の族長の方に目線を向ける。
得られた指示は『勝手にやらせておけ』。
周囲を一周見回り、しぶしぶマフォジョ族スタッフが後退する。
「刮目して見よ! これがグン=マーニョたる我のやり方だ!」
服が空を舞う。ステージ下の(主に男性諸君が)注目する中、下に着ていたビキニ一丁となったオンサは、神速の動きでドレスの下へと潜り込み、そのまま流れるような動きで袖を通す。一瞬の内にお行われた動きに淀みは無く。彼女はそのまま隣に立てかけてあった剣を手に取り、剣舞を行う。
――その全てが終わった時、ステージ下では、轟雷の如く拍手が起こっていた。
「族長。よろしいのですか? 早着替え大会の伝統では、下着まで着替えなければならないはずですが」
「――祭りとは、楽しむべき物ですからな。この観客の反応を見れば、お分かりになるでしょう。――我らがマフォジョが居たとしたら、こう言うでしょうな。『楽しければいーのよ!』と」
「全く、注意を全部持っていっちゃって。羨ましいわね☆」
「ぼ、僕はその方が助かったけどね」
その隣で、衣装がはだけてやばい感じになっているエクスと、堂々としているカミーユ。
観客の一人の視線がこちらに向けられた事に気づいたのか、カミーユが投げキッス。
――あ、観客が卒倒した。
「あら。あたしの魅力に当てられちゃったのかしら」
「そうじゃないと思うけど……」
自らの身が危険にさらされる前にさっさと退散しよう。そう思ったエクスであった。
●歓談の時間
「うんうん、よく撮れておりますわね」
イベント終了後。チョココ(ka2449)は、先ほど撮影したビデオを鑑賞していた。
重要なシーンに漏れは無く、観賞用として十分に耐えうる出来である。
「ほほう、それも異世界の技術と言う物ですかな?」
肩越しにその画面をガルヴァンが覗き込む。彼らは住む場所が辺境と言う事もあり、この様な技術は見た事もないのだろう。
「ええ、そうですわ。このお祭り、私も大いに楽しめましたわ。着替え大会にも参加したかったのですけれど、この服装じゃあまり変わりばえがしないのですわ」
微笑んでガルヴァンの方に向き直るチョココ。
「それは良かったです。我らがマフォジョ様も、こういった祭りをこよなく愛しておりましたからな」
そのガルヴァンに、にこっと微笑むチョココ。
「ガルヴァン様は、奥様はいらっしゃるのですか?」
「あ、それ、私も聞きたかった」
直ぐ近くで『なにこれ、かわい~っ♪』と、マフォジョ族たちの服装を見てはしゃいでいた夢路 まよい(ka1328)が話に混じる。
「私は未だ独身ですな。これでもまだ30に満たぬ身ですから」
「ええー!?」
驚きの声が上がる。
「うーん、奥様がいらっしゃるのでしたら、同じようなドレスを着ていらっしゃるのか、お聞きしたかったのですが……」
「この正装は、我らの中でも『戦う力』を持つ者のみが着る物。故に女性で着ている者は寧ろ少ないですな――と、ありがとうございます」
チョココが差し出した飲み物を飲みながら、ガルヴァンが答える。
付近を通り過ぎるマフォジョ族スタッフの一人にちらりと目をやりながら、まよいが口を開く。
「んー、やっぱり、部族の人達って私達ハンターのこと嫌いな人もいるのかな?」
その言葉にガルヴァンの表情が強張る。
「……何か無礼な対応でも処されましたかな?それであれば私の方から厳重に注意しておきます故、ご容赦を――」
「いやいや、そういうことじゃないよ。ただ、この間、他の部族の人と関わった時にも色々あったから。どういうことにしろ、私は部族の人達、大好きだし」
「ふむ。……そうですな。部族としての態度、と言う事なれば、我らがマフォジョの教えは『和』に尽きます故、友好的に努めているつもりなのでございますが……やはり、どうしても自分たちと違う方を恐れたり、嫌ったりする者はいるようですからな」
苦笑いするガルヴァン。
「そう言えば、帝国側で不穏な歪虚の動きがあったけど……」
そこへ合流したのは、着替えを終えたしろくまと、料理を持ったレム。状況を見るに、恐らくザレムの方はまだ料理作業を行っており、彼女はガルヴァンの為の料理を持ってきたのだろう。
「そっちについては?」
しばし、ガルヴァンは考え込む。
「あちらは海が主な戦場と聞き及んでおりますな。先刻の山岳戦でも見て頂いた通り、我らは特定の地形での交戦に長けています。それに――」
「こちらの歪虚も動き出さないとは限らない、という事でしょ?」
「ご名答です。……援軍を優先して本陣の守りを疎かにする訳にはまいりませぬからな。……まぁ、それでも援軍を出したい部族は、自由にしているようではございますが」
そこは、厳密な上下関係がない、『部族』と言うまとまり故の物なのだろう。
「如何なる時にも、守るべき物の優先度を違えてはなりませぬ。何を先にし、何を後にするか――というのは、極めて重要な項目ではございますな」
その言葉に、なるほど、としろくまが頷く。
「ん、そういう時に動くのが、私たちの役目ね」
立ち上がるレム。
「危機は好機、よ。私達の力が必要な今だからこそ、私は実力を証明して見せる」
「よろしい。それでは、若き英雄たちの台頭を、私は楽しみにしていましょう」
そう、ガルヴァンは微笑んだ。
●祭りの終わり
「ん、楽しかったね、ヴィズちゃん」
「そうですわね……」
ふと、レベッカは、見上げる。
「ねぇヴィズちゃん」
「どうしました?」
「今まで気づかなかったんだけど、あれってどう見ても――」
レベッカが見つめているのは、祭り場の中央に立てられた、『マフォジョ』の像。
それはひらひらのドレスを着ており、手にはかわいいステッキ。
「――『魔法少女』ですわね。娘たちも見ていた、テレビに出ていたそのままの」
「って事は、『マフォジョ』って言うのは若しかして――!?」
「よっしゃぁ、皆、準備はいいかぁ!」
「「応ッ!!」」
――そこには、非常に暑苦しい空間が形成されていた。
沖本 権三郎(ka2483)を囲む形で、マフォジョ族の若い衆が立つ。
彼らは一様にして鍛えられたボディをピンクのフリフリドレスで包んでいるが為に、作業着姿である権三郎の姿とは対照的であったが……農業で鍛えられた権三郎の体格は、彼らに負けるとも劣らない。
「許可も出た事だしよぉ、材料も揃った。協力してくれた皆に恥ずかしくねぇように、盛り上げていこう!!」
「「応ッ!」」
彼らの後ろには、巨大な台車。
――リアルブルーでは『山車』と呼ばれ、祭りの中核となるべき物である。
だが、今回の彼らの目的は、これを見せびらかす事に非ず。
「おっし! いっちょ気合入れて引っ張ってやらぁ! へいやぁぁぁ!」
「「はぁぁぁあ!」」
漢たちの筋肉によって、巨大な台車は動き始める。
華麗に飾りつけされたそれによって、人々の目を引き付けていく。
「ねぇねぇ、おかあさん、あれどこに行くのー?」
「そういえば、今日はお祭りがあったらしいわね」
「みにいきたーい!」
「はいはい、じゃあ後でね」
そんな会話を耳に挟み、汗水を垂らす権三郎は、満足げな笑顔を浮かべる。
彼らの目的は、この様に、『人寄せ』を行う事であった。
「んじゃま、このまま二週するぞぉ!」
「「へーい!」」
普段から鍛えていたマフォジョ族たちの力は申し分なく、根性もある。力仕事にはうってつけだ。
いっそ農業でもやらせるのも面白い。そう考えながら、彼は山車を引っ張っていく。
「面白そう。……エリスさん、行ってみない?」
「ん、いいよ、イザヤ様」
そんな山車に興味を引かれ、祭りにやってきたのは金刀比良 十六那(ka1841) とエリス・カルディコット(ka2572)のペア。
友と回る祭りは格別。こと、余りこう言う祭りに参加した事のないエリスには特にそうなのだろう。
心なしか、その表情は少し明るくなっている。
「ねぇ、あれはどう?」
イザヤが見つけたのは衣装の露店。どうやらマフォジョ族の正装でもあるあのドレスを売っているらしい。
「せっかくだから……着てみない?」
「イザヤ様がそう言うのでしたら……」
ゆっくり頷いたエリスを、イザヤは更衣室へと押し込んだ。
「エリスさんは、何を着ても綺麗よね……」
「うう……このドレスは、少し恥ずかしく感じます……」
二人とも着替えた後。
――何故イザヤがしょげているかと言えば、エリスがドレスを着た姿が、実に様になっているからである。
イザヤ含め、知っている者は僅かなのだが……エリスは男なのだ。
そんな彼が、自分よりドレスが似合うと知れば、プライドなど色々な所に差し支えてくるのも、仕方の無い事ではある。
「はいイザヤ様、あーん」
そんな事を考えていると。エリスが箸でつまみあげた一口サイズの揚げ物が、直ぐ口の傍まで迫っていた。
別に彼には深い考えがあった訳ではなく、ただ自然に行っただけなのだが、今のイザヤには知る由も無い。
「んむ……っ……お、おっ、おいしいわねっ……」
一見、恭しいエリスの態度が、イザヤが主導権を握っているように感じさせるこのペア。
だが、果たして真実はどちらか。
食べ歩きながら、彼女たちが辿りついたのはサーカステントの様な屋台。
ショーはもう直ぐ始まる、との事だが――
「お嬢様、準備が整いました」
アミグダ・ロサ(ka0144)が、彼女の主であるリズリエル・ュリウス(ka0233)に一礼する。
「うむ! さすが仕事が速いな!」
ぎゅっと、吊られたロープを引っ張りその強度を確認。道具の緩みはそのまま演芸の失敗、ひいては命につながる可能性がある。故に技芸に優れた道化ほど、その道具の確認は怠らない。
「私が目立てなくなるのは困るんだぞっ。だから…開演と行くぜ!」
張られたロープの上に飛び乗る。まるで平地の上が如きステップが、観客の注目を引き付ける。
予測通りの観客の視線に、リズリエルはほくそえむ。次の瞬間、トン、とステップを踏んだかと思うと、その手のステッキが消失する。
――手品の極意とは、『視線をコントロールする』事にある。
それ故に、彼女の行う『アクロバットと手品の組み合わせ』は、極めて理に適っていたと言えよう。
「わーあ、すごーい!」
客席から上がる歓声に、リズリエルは歓喜し、更に激しい動作を行う。
と、その瞬間。
足を滑らせたが如く、彼女は張られたロープの上から落下する。
だが、空中でくるりと一回転。華麗に着地する。
「お嬢様。悪戯が過ぎますよ?」
「へへっ、ばれちゃった? でも見たでしょっ、あの大歓声?」
祭りは、喧騒の中進んでいく。
●華やかなマフォジョの舞台裏
「さて、お嬢様の晴れ舞台も済みましたし、こちらもお手伝いしませんと」
サーカスの休憩時間を縫い、アミグダは事前にハンターオフィスで指定された場所へとやってきた。
「おう、嬢ちゃんも手伝いか。ちょうど良かった。人手足りねぇんだからよ、早く手伝ってくれや」
有無を言わさぬ感じで、巨漢に調理場のような所へ連れ込まれる。
――そこは、別の意味で『戦場』であった。
「おい、下ごしらえはまだか! 魚の鮮度はここじゃ落ちやすいんだから早く煮込まないとダメだろうが!」
「やってるよ! でも野菜刻まないとソースが間に合わねぇ!!」
巨漢たちが、食材を運びながら調理場を駆け回る姿はある意味滑稽ですらある。
苦笑いしながら、アミグダは彼らを手伝うことにした。
「なるほど、こうやると皮むきが早くなるのですね」
「お、兄ちゃん、細い体の割りには、中々速いじゃねぇか」
調理場の一角。足立 正太郎(ka2586)が、先ほどマフォジョ族が披露した獣の解体法を真似して見せていた。
「いえいえ、家を守る主夫としては、これくらい出来ませんと」
ニコニコ微笑みながらも、余裕のある口調。
事を行うにはまず形から入る。そう考えた彼の服装は、メイド服である。
執事服でも良かったのではないか、と言うツッコミは禁物である。何より周囲がゴスロリドレスの漢ばかりのこの状況では、寧ろその格好は溶け込んでいたのである。
「ふむ。然し勉強になります。この肉はここが美味しいのですね」
違う世界、である。見た目が同じ動物であろうと、その性質が違う事もある。
故に、正太郎は一字一句、マフォジョ族の料理人たちの言った事を脳裏に刻み込む。愛する家族に、美味しい料理を食べさせるために。
そんな彼らを、見守る目が。
(「……うちの旦那にも似合うかしら。体型似てるし……いや、絶対似合う……絶対可愛い……連れてくればよかった……!!」)
爪を噛みながら熱い視線を注ぐのは、辰川 桜子(ka1027)。
どこかできっと彼女の旦那は寒気を感じている事だろう。
「はっ、こんな事をしている場合じゃなかった……手伝わないと!」
振り返れば、鍋が泡立っている。
「次は……あの赤い瓶のソースを入れればいいのね。量は三匙か」
ノートを確認しながら、先ほどメモった通りに調味料を加える。
メモは作業の為以外にも、レシピの確保と言う意味合いもあったのである。手馴れたその調理の動きは、正に正太郎の『主夫』と相対の位置にある『主婦』の物であった。
「さぁ、切るでも煮るでも焼くでも、何でも言って!」
「わぁ……美味しそうです」
その桜子の隣で、鍋や食器を運んだりしているのは燈京 紫月 (ka0658)。
彼もまた、正太郎と同様の格好をしていたのであった。
――最も、彼の体格は比較的に小柄。それ故に、正太郎ほどはマフォジョ族たちに引っ張り回されなかったのだろう。
食器運搬に乗じて、あっちへ行ったりこっちへ行ったり。桜子と違う方法で、彼もまたマフォジョ族の料理を覚えようとしていた。
「あ、これ美味しそう……すみません、これどうやって作るんですか?」
「教えてる暇が惜しい……一緒に作ればわからぁ!」
半ば強制的に、調理を手伝わされる事になったのである。
「はい皆はん、疲れたやろ? 余り物で作りましたどすえ」
「ほう、そんな作り方もあるのか」
高雅 聖(ka2749)が持ってきたのは、彼女の故郷の料理である京料理。
今回は素材の味を存分に生かすため、後付けの味付けは薄めに仕立ててある。主に野菜や、卵をメインとしているのだ。
「中々美味しい。けど、さすがにこの辺境の地じゃ、食材もそれ程新鮮じゃねぇ事も多いからな」
素材の味を存分に生かすと言う事は、その分素材の鮮度なども大きく味に反映されると言う事でもある。聖の料理が美味しい事は、マフォジョ族たちの食べ方を見れば分かる。だが、彼女自身が味わってみると――
「――確かに、どすなぁ」
後一歩が、足りなくなるのだ。
「どれ、新鮮さは作り出せないし、元の味もちっと潰すハメになるが、俺らはこういうのはこう処理する」
なにやら、特殊なオイルを棚から取り出すマフォジョ族料理人。それに、しばらく魚を漬けたかと思うと、今度は油で揚げ始める。
漂う香り。
(「香料油の類どすなぁ……」)
なるほど、そう言う事か。考えながら、揚がった魚に、聖は口をつけた。
一方。別の一角。
「まさか調理場でも……と思ったが、ははは……」
苦笑いを浮かべたのは、ザレム・アズール(ka0878)。あの『正装』で調理を行うのは、彼でも予想外だったのだろう。
「盛り付け、終わったよ。次は?」
「おっとすまん。今作る」
レム・K・モメンタム(ka0149) の声に、ザレムは目の前の鍋にその注意を引き戻す。
中では肉類が、ぐつぐつと音を立てながら煮込まれている。もう暫く掛かりそうだ。
「そう言えば、レムの好きな食べ物は何だ?」
「ん、私の好み?」
小首をかしげるレム。
「んー、私、好き嫌いは言えない境遇だったしね。――強いて言えば、大盛り?」
くすり、と微笑んだザレムに、レムはほっぺを膨らませる。
「むー。じゃあザレムの好き嫌いは何なのよ?」
「いやいや、らしいと思って、な。 俺は……特に好き嫌いはないな」
「何よその答え……」
ため息をつくレム。
その一瞬の隙を突き、ザレムの手が鍋へと伸びた。
「――何してんのよ」
「味見だ。『味見』」
「その割には取った量、多くなかった?」
「多めに取らないと隠し味まで分からない」
はぁ、とまた一つ、ため息をつくレム。最も、彼女にも、本気でザレムを咎める気は無かったが。
「おい、料理はまだか!」
響く誰かの怒鳴り声。ぴょんとレムは飛び上がり、皿を手に取る。
「はーい、今行くよー!」
それを見て、微笑みながら、ザレムは鍋へ調味料を加えていった――
●メインイベント・ラウンド1
「さーぁ皆様!これより行われますは、大マフォジョ祭がメインイベント!」
舞台に上がっていたのは、ハンターオフィスから派遣されていた司会役。
「マフォジョ族の皆さんによりますと、このイベントは、彼らが信仰する『マフォジョ』の教えが一つ!『マフォジョは変身中に攻撃を受けてはいけない。即ち敵の攻撃が行われる前に、変身を終わらせねばいけない――』と言う事だそうです!」
なんともよく分からないコンセプトである。だが、その様な事等どうでもいい。
――要は、これが、この祭りに於いて最も盛況なイベントである事。その一点が重要なのだ。
「それでは、第一ラウンド、始まります!」
「公演の時は素早い着替えが基本なのだっ、この程度――!」
第一ラウンドに登場していたのは、リズリエル。道化師らしい、素早い手つきで着替えていく。
だが、如何せん服装はいつもとは違う物。手馴れた舞台衣装とは、構造が多少違ってくる。
それでもその器用さは見事な物で、ドレスに袖を通し。着実に着ていく。
「お嬢様、頑張って!」
舞台下からはアミグダも応援している。これで負ければ――後でどんな事を言ってからかわれる事か。
ぶるっと僅かに身震いし、リズリエルは更に着替えの速度を上げる。
「困りましたわ。早脱ぎには自身がございますが……」
「ちょっとヴィズちゃん? あんまり動くと二人とも着替えられないよ?」
仲がいいのは悪い事ではない。然しそれも、時と場合によるだろう。
――何を考えたのか。ヴィーズリーベ・メーベルナッハ(ka0115)とレベッカ・ヘルフリッヒ(ka0617)は、同じカーテンの中で、着替える事にしたのだ。
無論、これは元々は一人用。故に、狭くて、二人とも動きにくい事この上ない。
「え、えぇっと。此れは思っていた以上に……」
「レベッカ様、もう少し腕を上げて――じゃないと私の胸が引っかかって着れませんわ」
「ええっ、これ以上はボクには無理だよぉ」
何やら不穏な言葉が聞こえてくる。中の二人、果たして大丈夫なのだろうか(放送コード的な意味で)
「さて、30秒がもう直ぐ過ぎます――5! 4! 3! 2! 1!……0!!」
司会者の号令と共に、各参加者を囲んでいたカーテンが一斉に落ちる。
「嗚呼、斯様な恥を晒してしまうとは……愉悦を覚えてしまいますね……」
抱き合ってお互いの体を隠す状態の中。何やら危ない台詞を発しているヴィーズリーベと、沸き立つ観客席の男性陣。
それとは裏腹に、ガルヴァンを含むスタッフは渋い顔であった。
「……カバーしてやりなされ」
「了解です」
カーテンをそのままスタッフの一人が引き上げ、彼女らの周囲を一周するように巻きつける。
そのままスタッフたちは、ヴィーズリーベとレベッカを担ぎ上げ、運んでいったのである。
「いやぁーんっ♪ やっぱり無理だったね、ヴィズちゃんっ♪」
一方、リズリエルの方といえば。
「じゃーん! どうだこの早着替え!」
「お見事ですわ、お嬢様」
どうどうと胸を張る彼女に、ステージ下のアミグダが相槌を打つ。
この際、少しくらい服がずれていても、些細な問題なのだろう。
●メインイベント・ラウンド2
「ふふふ……マフォジョ族……いつみてもいい男でいっぱいね。鍛え上げられたガチムチの肉体に、あのピンクのフリフリのアンバランスさが絶妙だわ……」
隣のカーテンの中に入って行ったガルヴァンの姿を見ながら、ユラン・ジラント(ka0770)が笑う。
「っと、いけない。着替えないと」
事前に参考資料として、ギルドから服装を借りて研究済み。
その仕組みも、最速での着脱の仕方も練習した。ユランは、本気で『勝つ』つもりだったのである。
「私服だったらジッパーだけなのに……意外と面倒だね」
ため息をつき、袖を通していく。
「あ、こっちも忘れちゃいけないね」
普段、三つ編みにしている髪を解く。輝く網の如く髪が、広がる。
「よし、これで準備完了!」
「『神聖騎士教則本』にも、『祭日は大いに楽しみ英気を養え』とあるしな。楽しむとしよう!」
言っている事は間違っている訳ではない。しかし、ラグナ・グラウシード(ka1029)がその言を発したのは……着替えるためのカーテンの中なのだから、何か締まらない。
ピンクのフリフリドレスを目の当たりにしても――
「ふふん、美しい私はたとえ女の格好であろうとも美しいはずなのだ!」
おい、本当に大丈夫なのか。どこかとは言わないが。
かくして、着替え始めるラグナ。しかし――
「む……ん!? 入らんぞ?」
彼は致命的に、不器用だったのである。
――本当に、大丈夫なのだろうか。いろんな意味で。
「く……う!?」
ラグナ以外にも、大変な事になっていた者はいた。
しろくま(ka1607)である。
「30秒は短すぎますくま! これでは……!?」
元の着衣がぬいぐるみである彼は、大きなハンデを背負っていた。そもそも脱ぐのに時間が掛かりすぎるのだ。
脱ぎ終わった時点で既に22秒が経過。これは8秒で着衣を整えろと言う事だろうか。
「無理くま! ダメくま! くま――」
そして、無情にも、カーテンは落とされる事になる。
「どう?」
「ふむ……」
見事に着替えたガルヴァンの直ぐ横で、華麗に一回転したユランの髪が空を切る。
他のグループならば、ステージ下の注意は彼女に釘付けだっただろう。だが、今回に限っては――相手が悪すぎた。
「いやーんはれんちくまーーー!!」
「ふはははは! 見よ我が鍛えられし肉体を!」
その態度に違いこそあるモノの、ラグナとしろくまには共通点があった。
――どちらも、服装は整っていないのである。
しろくまは前方ファスナーが閉められておらず、何とかカーテンの切れ端で隠している状態。
ラグナに至っては、開き直ったのか。下着一枚の状態で堂々とポーズを取っていた。
「これが勝負下着と言う物だぁぁ!」
ちなみにふんどしでした。はい。
何でも彼の読んでいた『神聖騎士教則本』に、『最も気合を入れるのに適しているため、勝負の際はこれを着るように』と書いてあったそうだ。何か間違っていないか?何も間違っていない――
――が、さすがにこのまま放置していては、観客の精神衛生にも関わる。
ガルヴァンを含むスタッフたちが一斉に飛び掛り、彼らをカーテンで包み上げ、運んでいった。
「私も、アレを狙うべきだったのかしらね」
何やら不穏な事をつぶやきながら、ユランも退場していく。
●メインイベント・ラウンド3
「頑張って下さいませ! 花繰様!!」
「負けたら赤っ恥だよー!」
友人――サーカスの鑑賞を終え、メインイベント会場に辿りついたエリスとイザヤの応援を受け。
花繰 桃歌(ka2161) はカーテンの中で小さくガッツポーズをし、気合を入れる。
「よし……早着替え、頑張るのです……!」
だが、そんな彼女に早速、障害が立ちはだかる。
「うう……こんな事なら、もっと着替えやすい服にしたのです……」
しろくまと同じで、着る方よりも、寧ろ脱ぐ方に時間が掛かると言う事態が発生してしまったのである。
「頑張って、裸だけは回避してー!」
ロングソックスを脱いだ時点での応援は、ある意味で脱力を誘う物ではあったが。何とか脱ぎ終わり――
「後は、着るだけなのです」
「――ディーナちゃん、大丈夫かしら」
客席の反対側。頬に手を当て、心配そうにカーテンの方を見つめるのは、ヴィーナ・ストレアル(ka1501) 。
元々こういった大騒ぎをする場は余り得意ではなかったのだが、妹がイベントに出ると、無理やり引っ張って来られたのである。
「あんまり過激な事をしないといいのですけれど」
最も、彼女自身も、妹が羽目を外し過ぎないように見守ると言う目的があったようだが。
そんなヴィーナに見守られているディーナ(ka1748)と言えば――
「この状態なら30秒など余裕ぞ!」
――カーテンの中で既に勝ち誇っていた。
彼女の服装は、桃歌やしろくまとは正反対。元より布面積が……その、少なめな、踊り子の衣装なのである。
故に、脱ぐ方は極めて早く終了する。
「さーて、後は着るだけじゃな!」
だがここで、一つ問題が発生する。
「ん……?ここに腕を通して……ああもう、面倒くさいのじゃ!」
普段着が簡易であればあるほど、ドレスを着る際には慣れない問題が発生する。練習していれば大丈夫ではあったが、面倒くさい事が嫌いなディーナがその様な事をするはずも無い。
――そして、遠慮なく、カーテンは落ちる。
「どうじゃ! 間に合ったぞ!」
息を荒げながら、胸を張るディーナ。脱ぐのが速かった分、着る方の時間は稼げたようだ。
「ん……お……? 普段とあまり色がかわらないぞよの……我は本当に着替えたぞよか!?」
何か不穏な雰囲気が漂う。
「ええい、もう一度着なおしぞよ!」
その場でカーテンが掛かっていないにも関わらず、服を脱ごうとするディーナ。だが、スタッフが止めるより速く。ステージ下から、何かが飛んできて、彼女に直撃。
「はいはい、ディーナちゃん。帰ったらおしおきですからね」
有無を言わさずに、ヴィーナがディーナを回収し、そのまま退場した。
「ううん……何とか注目されずに済んだ……」
ディーナの騒ぎを見ながら、桃歌はほっと一息つく。
何とか体裁は整えたものの、彼女の格好もまた、ギリギリだったのだ。
「お見事でしたよ、花繰様」
最も、見学に来た友人たちは、しっかり彼女に注目したようだが。
●メインイベント・ラウンド4
「さて、このイカしたカーニバルで……日頃の成果を魅せてあ・げ・る☆」
カーテンの中、ライダースーツのジッパーを下げ。一瞬にして装備解除したカミーユ・鏑木(ka2479)。
マフォジョ族にも負けぬその肉体を存分に見せつけ――カーテンのせいで誰も見えないのがある意味救いである。
着実と、着替えていく。ブーメランパンツ一丁だ。意外と漢らしい。
服の構造の関係で予想以上に時間は食ったものの、それでも僅かながら時間には余裕がある。その中で、彼が取った行動は、身だしなみを整える事ではなく――
「脱ぎ散らかしたままじゃ、乙女とは言えないわ☆」
服を畳んで片付ける事である。意外とマメであった。
「え……えっと……何でこんなことになったんだろう……」
自分はどこで道を間違えたのだろう。頭に手を当てたエクス・ナンバーズ(ka2647)が、考え込む。
思えば、ただ道を尋ねようと道端のカウンターに向かったはずだった。それが、いつの間にかあれよあれよと登録させられ、このカーテンの中へと放り込まれたのである。
だが、嘆いていても事態が好転する事はない。全裸で人前に出るのを回避するためには、着替えるしかないのである。
「こ……これここ通せばいいのかな?えっと……今度はこっちで……」
さて、この『事件』は果たして幸となるか。禍となるか。
エクスが思い悩んでいた頃。
早着替え大会の会場では、一つの事件が起こっていた。
「よい。我にはその様な物は必要ない」
手で彼女をテント内に案内しようとしたマフォジョ族の者を制し、オンサ・ラ・マーニョ(ka2329)はおもむろにドレスをそれを支える骨組みごと、壁に掛ける。
(「まさか、ここで着替えるつもりか……?」)
困ったマフォジョ族の者が、ステージ下の族長の方に目線を向ける。
得られた指示は『勝手にやらせておけ』。
周囲を一周見回り、しぶしぶマフォジョ族スタッフが後退する。
「刮目して見よ! これがグン=マーニョたる我のやり方だ!」
服が空を舞う。ステージ下の(主に男性諸君が)注目する中、下に着ていたビキニ一丁となったオンサは、神速の動きでドレスの下へと潜り込み、そのまま流れるような動きで袖を通す。一瞬の内にお行われた動きに淀みは無く。彼女はそのまま隣に立てかけてあった剣を手に取り、剣舞を行う。
――その全てが終わった時、ステージ下では、轟雷の如く拍手が起こっていた。
「族長。よろしいのですか? 早着替え大会の伝統では、下着まで着替えなければならないはずですが」
「――祭りとは、楽しむべき物ですからな。この観客の反応を見れば、お分かりになるでしょう。――我らがマフォジョが居たとしたら、こう言うでしょうな。『楽しければいーのよ!』と」
「全く、注意を全部持っていっちゃって。羨ましいわね☆」
「ぼ、僕はその方が助かったけどね」
その隣で、衣装がはだけてやばい感じになっているエクスと、堂々としているカミーユ。
観客の一人の視線がこちらに向けられた事に気づいたのか、カミーユが投げキッス。
――あ、観客が卒倒した。
「あら。あたしの魅力に当てられちゃったのかしら」
「そうじゃないと思うけど……」
自らの身が危険にさらされる前にさっさと退散しよう。そう思ったエクスであった。
●歓談の時間
「うんうん、よく撮れておりますわね」
イベント終了後。チョココ(ka2449)は、先ほど撮影したビデオを鑑賞していた。
重要なシーンに漏れは無く、観賞用として十分に耐えうる出来である。
「ほほう、それも異世界の技術と言う物ですかな?」
肩越しにその画面をガルヴァンが覗き込む。彼らは住む場所が辺境と言う事もあり、この様な技術は見た事もないのだろう。
「ええ、そうですわ。このお祭り、私も大いに楽しめましたわ。着替え大会にも参加したかったのですけれど、この服装じゃあまり変わりばえがしないのですわ」
微笑んでガルヴァンの方に向き直るチョココ。
「それは良かったです。我らがマフォジョ様も、こういった祭りをこよなく愛しておりましたからな」
そのガルヴァンに、にこっと微笑むチョココ。
「ガルヴァン様は、奥様はいらっしゃるのですか?」
「あ、それ、私も聞きたかった」
直ぐ近くで『なにこれ、かわい~っ♪』と、マフォジョ族たちの服装を見てはしゃいでいた夢路 まよい(ka1328)が話に混じる。
「私は未だ独身ですな。これでもまだ30に満たぬ身ですから」
「ええー!?」
驚きの声が上がる。
「うーん、奥様がいらっしゃるのでしたら、同じようなドレスを着ていらっしゃるのか、お聞きしたかったのですが……」
「この正装は、我らの中でも『戦う力』を持つ者のみが着る物。故に女性で着ている者は寧ろ少ないですな――と、ありがとうございます」
チョココが差し出した飲み物を飲みながら、ガルヴァンが答える。
付近を通り過ぎるマフォジョ族スタッフの一人にちらりと目をやりながら、まよいが口を開く。
「んー、やっぱり、部族の人達って私達ハンターのこと嫌いな人もいるのかな?」
その言葉にガルヴァンの表情が強張る。
「……何か無礼な対応でも処されましたかな?それであれば私の方から厳重に注意しておきます故、ご容赦を――」
「いやいや、そういうことじゃないよ。ただ、この間、他の部族の人と関わった時にも色々あったから。どういうことにしろ、私は部族の人達、大好きだし」
「ふむ。……そうですな。部族としての態度、と言う事なれば、我らがマフォジョの教えは『和』に尽きます故、友好的に努めているつもりなのでございますが……やはり、どうしても自分たちと違う方を恐れたり、嫌ったりする者はいるようですからな」
苦笑いするガルヴァン。
「そう言えば、帝国側で不穏な歪虚の動きがあったけど……」
そこへ合流したのは、着替えを終えたしろくまと、料理を持ったレム。状況を見るに、恐らくザレムの方はまだ料理作業を行っており、彼女はガルヴァンの為の料理を持ってきたのだろう。
「そっちについては?」
しばし、ガルヴァンは考え込む。
「あちらは海が主な戦場と聞き及んでおりますな。先刻の山岳戦でも見て頂いた通り、我らは特定の地形での交戦に長けています。それに――」
「こちらの歪虚も動き出さないとは限らない、という事でしょ?」
「ご名答です。……援軍を優先して本陣の守りを疎かにする訳にはまいりませぬからな。……まぁ、それでも援軍を出したい部族は、自由にしているようではございますが」
そこは、厳密な上下関係がない、『部族』と言うまとまり故の物なのだろう。
「如何なる時にも、守るべき物の優先度を違えてはなりませぬ。何を先にし、何を後にするか――というのは、極めて重要な項目ではございますな」
その言葉に、なるほど、としろくまが頷く。
「ん、そういう時に動くのが、私たちの役目ね」
立ち上がるレム。
「危機は好機、よ。私達の力が必要な今だからこそ、私は実力を証明して見せる」
「よろしい。それでは、若き英雄たちの台頭を、私は楽しみにしていましょう」
そう、ガルヴァンは微笑んだ。
●祭りの終わり
「ん、楽しかったね、ヴィズちゃん」
「そうですわね……」
ふと、レベッカは、見上げる。
「ねぇヴィズちゃん」
「どうしました?」
「今まで気づかなかったんだけど、あれってどう見ても――」
レベッカが見つめているのは、祭り場の中央に立てられた、『マフォジョ』の像。
それはひらひらのドレスを着ており、手にはかわいいステッキ。
「――『魔法少女』ですわね。娘たちも見ていた、テレビに出ていたそのままの」
「って事は、『マフォジョ』って言うのは若しかして――!?」
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
---|
面白かった! | 12人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
【相談】甘ロリ部族の奇祭? レム・K・モメンタム(ka0149) 人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2014/07/28 19:16:13 |
||
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/07/29 18:41:03 |