ゲスト
(ka0000)
山岳猟団~影渦
マスター:有坂参八

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~7人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/10/30 09:00
- 完成日
- 2015/11/09 06:29
このシナリオは2日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
辺境の対歪虚部隊、山岳猟団はかつて帝国から独立した、義勇軍組織である。
単純とは言い難い経緯と背景を持ちながらも彼らは現在、対歪虚の最前線における討伐活動を続けていた。
そして、その結果に生じる、力なき者達の救助も。
……山岳猟団の拠点、パシュパティ砦の最上階。
その日、猟団団長の八重樫敦(kz0056)は、とある歪虚の残骸の調査を団員達と共に行っていた。
先日エルフの難民を助ける為に討伐した際、ハンター達が持ち帰ったものだ。
「おいおい、こいつァ唯のマルチコプターじゃねぇなぁ」
リアルブルー出身の団員達が騒ぎながら歪虚の残骸を囲むのを、八重樫は険しい表情で見つめていた。
ドローン。それは、辺境に通常出没する、生物や植物の姿ではなかった。
リアルブルーの機械を模した……いや、寧ろ機械そのものの様な歪虚であったのだ。
「すげぇ。機銃に、小型の電探に、赤外線センサーまでついてやがる。電器屋で売ってる様な代物じゃねぇな」
「よく判らん部品もあるが……これが、この前に機械を停止させたっつう電撃関係の機構かも」
「団長……見てくれ」
振り返った団員は、ドローンの底部装甲だった箇所の板を、八重樫に差し出した。
小さな金属プレートが貼り付けられている。文字が書いてあった様だが、損傷が酷く読めない。
八重樫は目の前に出されたそれを、ただ沈黙のままに見つめた。
「団長、これはまさか、連合宙軍の……」
八重樫が目を細めた。プレートを指でなぞる。
「ありゃ、おっかしぃねぇ、トランシーバーにノイズが走りやがる」
……だが、思考は背後の団員の一人文句に遮られた。
見張り役との定時通信が、上手く行かないらしい。
「ロッソの電波でも拾ったか?」「な訳ねーだろ、遠すぎらぁ」
団員の何気ない会話に、八重樫がぴくりと反応した。
ドローン。電探。プレート。ノイズ。
一つ一つの単語が、おぼろげに繋がって、仄暗いビジョンを描く。
「態勢移行だ。全隊は今すぐ臨戦警戒態勢を取れ」
「あん、団長どうした? なんか気づいたんか」
「詳しい説明は……」
八重樫の言葉はそこで遮られた。
キィーン、という風を切り裂くような音。
気づいた時には、遅すぎた。
衝撃。轟音。破壊。
パシュパティ砦の壁が粉々に砕けた。
大小の石礫が団員敵に襲いかかる。
「敵襲!」
誰かが叫んだ。
八重樫は、直前の感覚を反芻する。
(……曲射による砲撃ではなかった。大口径弾の無曲直線砲撃。アレは……)
「あああーッ! 団長、アレ見ろアレ!」
逡巡する間に、壁に空いた穴から外を覗いた団員が叫ぶ。
砦を砲撃した犯人は、遥か彼方の森の出口から、その姿を覗かせていた。
それは、リアルブルー出身の八重樫にとって、あまりに馴染み深い……
「デュミナス……歪虚CAMかよ! 大物がでなすったぜ!」
「不味いな、あんな長距離からの砲撃、すぐには止められんぞ。こちらには難民もいるのに!」
団員達は、砦の中庭にテントを張っている、部族の難民を見た。
しばらく逗留させた後、ホープに護送する予定だったのだ。
八重樫は、一瞬で決断を下したが……
「あのCAMは騎兵で接近し潰す。砦に残る者は訓練通り防護措置を取れ。難民達は避難させるか、砦の地下に……」
『大変ですにゃー! うちのおじーちゃんがゴランシンですにゃー!』
突如、机上の魔導短伝話がけたたましい少女の声を中継した。
声は、辺境部族や猟団に協力する諜報組織『部族なき部族』の、テト(kz0107)のものだ。かなり錯乱している。
「今度は猫助か。状況が判るか」
『うにゃ、こちらでも情報がサクソウして……そ、そうじゃにゃくて、しし、シバ様がー!』
「落ち着け。敵の数と種類が判るなら教えろ」
八重樫がぴしゃりと言うと、短伝話越しにすーはーと深呼吸が聞こえた後に、声が続く。
『歪虚きゃむが……し、視認できてるのは一つ。んでももう一つ、よく似た別の足音を確認してますにゃ。あ、あいつら、私達の見張りをすり抜けて……』
「それだけ判ればもういい。それで、シバがどうした」
『にゃ、突然暴れだして、ひ、ひ、一人で……歪虚に…………あんにゃの……、……シ……様じゃ……、……!』
ざり、ざりざり。
不意に、短伝話がノイズが走った。電波通信のそれによく似た、不気味なノイズ。
テトとの通信が、途切れる。
八重樫も、猟団員も、一瞬ピタリと固まった。
通信障害? 魔導短伝話に? このタイミングで?
逡巡しているうちに、トランシーバーから、甲高い声が響いた。
『ハロー、シチズン。直ちに武器を放棄し、投降してください。ハロー、シチズン。直ちに武器を放棄し、投降しなさい』
その時、八重樫が目をかっと見開いた事を、少なくとも猟団員は誰も気づかなかった。
「なんだ今の。フザケてやがる」団員が吐き捨てる様に呟く。
「…………惑わされるな。まず事態の収拾を優先する」
情報源であるテトとの通信が途絶えた以上、行動せねば活路は無い。
八重樫は団員に命令を下し……そして、背後にいたハンター達に振り返った。
「聞け、ハンター。これから俺を含む猟団の騎兵三〇騎であのデク人形に全力攻撃を仕掛ける。お前たちは……とにかく状況を好転させろ。各人の最善を尽くせ」
●
パシュパティ砦北の森に向かう道を、山岳猟団の老戦士シバ(kz0048)は一人、歩いていた。
「おおお、影め影め、とうとう来おったな禍つ影め、我らを暴き、明らめてもう勝ったつもりか。儂の目は、我が蛇の目だけは欺けぬぞ」
脂汗を垂らし、虚ろな瞳を揺らしながら、シバは一直線に歪虚CAMへと向かう。
冬の戦で受けた傷は半身に膿を作り、今や老人を死の淵に引きずりこみつつあった。
或いは、シバの目には既に、現世のモノでない何かが見え始めているのかもしれない。
「儂を食らうつもりか、良かろう唯では討たれぬ、道連れに尽く尽く根絶やしにしてくれるわ腐れ歪虚共めが。
去ね、去ね、ただ去ね、去ね去ね去ね去ね去ね去ね去ね去ね去ね去ね去ね去ね」
老人を止めるものは居ない。今は。
歪虚CAMはシバを認識したか立ち止まり――外部スピーカーから、あの、甲高い声を発した。
『ハロー、シチズン。直ちに武器を放棄し、指示に従いなさい。さもなくば……』
辺境の対歪虚部隊、山岳猟団はかつて帝国から独立した、義勇軍組織である。
単純とは言い難い経緯と背景を持ちながらも彼らは現在、対歪虚の最前線における討伐活動を続けていた。
そして、その結果に生じる、力なき者達の救助も。
……山岳猟団の拠点、パシュパティ砦の最上階。
その日、猟団団長の八重樫敦(kz0056)は、とある歪虚の残骸の調査を団員達と共に行っていた。
先日エルフの難民を助ける為に討伐した際、ハンター達が持ち帰ったものだ。
「おいおい、こいつァ唯のマルチコプターじゃねぇなぁ」
リアルブルー出身の団員達が騒ぎながら歪虚の残骸を囲むのを、八重樫は険しい表情で見つめていた。
ドローン。それは、辺境に通常出没する、生物や植物の姿ではなかった。
リアルブルーの機械を模した……いや、寧ろ機械そのものの様な歪虚であったのだ。
「すげぇ。機銃に、小型の電探に、赤外線センサーまでついてやがる。電器屋で売ってる様な代物じゃねぇな」
「よく判らん部品もあるが……これが、この前に機械を停止させたっつう電撃関係の機構かも」
「団長……見てくれ」
振り返った団員は、ドローンの底部装甲だった箇所の板を、八重樫に差し出した。
小さな金属プレートが貼り付けられている。文字が書いてあった様だが、損傷が酷く読めない。
八重樫は目の前に出されたそれを、ただ沈黙のままに見つめた。
「団長、これはまさか、連合宙軍の……」
八重樫が目を細めた。プレートを指でなぞる。
「ありゃ、おっかしぃねぇ、トランシーバーにノイズが走りやがる」
……だが、思考は背後の団員の一人文句に遮られた。
見張り役との定時通信が、上手く行かないらしい。
「ロッソの電波でも拾ったか?」「な訳ねーだろ、遠すぎらぁ」
団員の何気ない会話に、八重樫がぴくりと反応した。
ドローン。電探。プレート。ノイズ。
一つ一つの単語が、おぼろげに繋がって、仄暗いビジョンを描く。
「態勢移行だ。全隊は今すぐ臨戦警戒態勢を取れ」
「あん、団長どうした? なんか気づいたんか」
「詳しい説明は……」
八重樫の言葉はそこで遮られた。
キィーン、という風を切り裂くような音。
気づいた時には、遅すぎた。
衝撃。轟音。破壊。
パシュパティ砦の壁が粉々に砕けた。
大小の石礫が団員敵に襲いかかる。
「敵襲!」
誰かが叫んだ。
八重樫は、直前の感覚を反芻する。
(……曲射による砲撃ではなかった。大口径弾の無曲直線砲撃。アレは……)
「あああーッ! 団長、アレ見ろアレ!」
逡巡する間に、壁に空いた穴から外を覗いた団員が叫ぶ。
砦を砲撃した犯人は、遥か彼方の森の出口から、その姿を覗かせていた。
それは、リアルブルー出身の八重樫にとって、あまりに馴染み深い……
「デュミナス……歪虚CAMかよ! 大物がでなすったぜ!」
「不味いな、あんな長距離からの砲撃、すぐには止められんぞ。こちらには難民もいるのに!」
団員達は、砦の中庭にテントを張っている、部族の難民を見た。
しばらく逗留させた後、ホープに護送する予定だったのだ。
八重樫は、一瞬で決断を下したが……
「あのCAMは騎兵で接近し潰す。砦に残る者は訓練通り防護措置を取れ。難民達は避難させるか、砦の地下に……」
『大変ですにゃー! うちのおじーちゃんがゴランシンですにゃー!』
突如、机上の魔導短伝話がけたたましい少女の声を中継した。
声は、辺境部族や猟団に協力する諜報組織『部族なき部族』の、テト(kz0107)のものだ。かなり錯乱している。
「今度は猫助か。状況が判るか」
『うにゃ、こちらでも情報がサクソウして……そ、そうじゃにゃくて、しし、シバ様がー!』
「落ち着け。敵の数と種類が判るなら教えろ」
八重樫がぴしゃりと言うと、短伝話越しにすーはーと深呼吸が聞こえた後に、声が続く。
『歪虚きゃむが……し、視認できてるのは一つ。んでももう一つ、よく似た別の足音を確認してますにゃ。あ、あいつら、私達の見張りをすり抜けて……』
「それだけ判ればもういい。それで、シバがどうした」
『にゃ、突然暴れだして、ひ、ひ、一人で……歪虚に…………あんにゃの……、……シ……様じゃ……、……!』
ざり、ざりざり。
不意に、短伝話がノイズが走った。電波通信のそれによく似た、不気味なノイズ。
テトとの通信が、途切れる。
八重樫も、猟団員も、一瞬ピタリと固まった。
通信障害? 魔導短伝話に? このタイミングで?
逡巡しているうちに、トランシーバーから、甲高い声が響いた。
『ハロー、シチズン。直ちに武器を放棄し、投降してください。ハロー、シチズン。直ちに武器を放棄し、投降しなさい』
その時、八重樫が目をかっと見開いた事を、少なくとも猟団員は誰も気づかなかった。
「なんだ今の。フザケてやがる」団員が吐き捨てる様に呟く。
「…………惑わされるな。まず事態の収拾を優先する」
情報源であるテトとの通信が途絶えた以上、行動せねば活路は無い。
八重樫は団員に命令を下し……そして、背後にいたハンター達に振り返った。
「聞け、ハンター。これから俺を含む猟団の騎兵三〇騎であのデク人形に全力攻撃を仕掛ける。お前たちは……とにかく状況を好転させろ。各人の最善を尽くせ」
●
パシュパティ砦北の森に向かう道を、山岳猟団の老戦士シバ(kz0048)は一人、歩いていた。
「おおお、影め影め、とうとう来おったな禍つ影め、我らを暴き、明らめてもう勝ったつもりか。儂の目は、我が蛇の目だけは欺けぬぞ」
脂汗を垂らし、虚ろな瞳を揺らしながら、シバは一直線に歪虚CAMへと向かう。
冬の戦で受けた傷は半身に膿を作り、今や老人を死の淵に引きずりこみつつあった。
或いは、シバの目には既に、現世のモノでない何かが見え始めているのかもしれない。
「儂を食らうつもりか、良かろう唯では討たれぬ、道連れに尽く尽く根絶やしにしてくれるわ腐れ歪虚共めが。
去ね、去ね、ただ去ね、去ね去ね去ね去ね去ね去ね去ね去ね去ね去ね去ね去ね」
老人を止めるものは居ない。今は。
歪虚CAMはシバを認識したか立ち止まり――外部スピーカーから、あの、甲高い声を発した。
『ハロー、シチズン。直ちに武器を放棄し、指示に従いなさい。さもなくば……』
リプレイ本文
●
二回目の砲撃は、砦の外壁に命中した。
空高く舞い上がった石塊が、団員や難民、そしてハンター達に容赦なく降り注ぐ。
「ちょ、ちょっと……嘘でしょ……? ピンチって聞いたけど……こんな酷いの聞いてないよ!?」
クレーターの様にえぐられた弾着点を見て、ウーナ(ka1439)は戦慄を堪えながら叫んだ。
彼女の知るリアルブルーのあらゆる火砲でさえ、これほどの代物はそうそう無い。
「こんなもの何発も撃ち込まれたら……」
言いかけたウーナの眼前を、なびく黒髪が横切る。
「先手を取られた以上、対処を迷えば負けます。落ち着いて、できることをしましょう」
白神 霧華(ka0915)は言葉通りの手際で、砦に備えられた狼煙台に火を投げ入れた。
相手に増援を呼んだと思わせれば、或いは撤退を促せるかもしれない。
それに……
(「テトにゃんには、これで伝わるでしょうか」)
可能性は薄いが、連絡の途絶えたテトとコンタクトできるかもしれない。
諜報員であり斥候であるテトは、霧華にとってはそれ以上の存在だが……その所在は、一切解らない。無事かどうかさえ。
既にハンターを含めた騎兵が歪虚CAMの対応へと向かったものの、情報が錯綜し陽動の可能性を否定できない状況から、半数のハンターは砦に残留して防衛に当たっていた。
「他にも、何か連絡手段を決められればいいんだけど。信号弾とかないの?」
ウーナが砦に残った団員の一人に問うと、彼は「これがある」とハンター達に紐束の様なものを投げてよこした。
笛の束だった。小さな角笛、貝笛、ホイッスルなど、音の違ういくつかの笛。
団員であれば、対応する笛を吹けば簡易な伝達を行えるという。
「ゼータク言ってる場合じゃないよね」
と、ウーナはその笛の束を首に掛けながら、背後を振り返った。
そこでは、ウーナと同じ桃色のツインテールを揺らしながら、しかし足を引きずる様に歩く一人の少女……エリス・ブーリャ(ka3419) が、難民達を砦の地下室へと誘導していた。
「はいはい、避難民のみんなはこっちだよ。おさない、はしらない、しゃべらないだかんね」
覚醒者かつ鍛えられている猟団員たちは兎も角、彼らが何らかの被害を受ければ命の保証は無い。
最後の一人が地下に潜ったのを確認して、ウーナは小さく溜息をついた。
「貴女も怪我人なんだから。ムリしないでよ、エリス」
ウーナの気遣いに、エリスはウインクの目配せで応えてみせる。
直前の戦いで受けた傷が癒えぬまま、場に居合わせてしまったエルフの少女。
避難誘導さえ、遠く離れた友人からマテリアルの助力を借り受けなければ覚束ない程だが……しかし、苦しさを表には出さない。
(「……CAMって言ったら、人類の切り札だったのに。くそっ、クラーレめ、あの時の忘れ形見か、今になって邪魔してくるわけ?」)
エリスはウーナから目線を外し、ひとり心中で呟いた。
リアルブルーからもたらされた鉄の巨人、CAM。
歪虚の陰謀に晒されたそれは、既に何体かが敵の手に落ちた。
今砦を砲撃しているCAMも、その時の一体に過ぎないのだろうか?
エリスは試しに、トランシーバーのスイッチを入れてみた。
『――――――!!!!!!』
スピーカーが、獣の断末魔の様なノイズ音を吐く。
反射的にエリスはその長い耳をビクッと反り上げ、トランシーバーを耳から遠ざけた。
「……だめだね、こりゃ。魔導短伝話だけじゃなくて、無線もジャミングにやられてる」
横からウーナが、エリスのトランシーバーを操作し、音量をぎりぎりまで絞った。
そのまま、そっとエリスの手ごとトランシーバーを握り、様々の方向にかざしてみる。
「音の強弱で、発信源が判ればいいんだけど……」
ノイズ音が酷く、少し振った程度で強弱の違いは解らない。
裏を返せば、だ。
(「……方角が判らない位強いジャミング? そんなに強力な妨害電波って……あんなちゃちいドローンには荷が重すぎない?」)
自分の中の機械知識を総動員して推測するウーナ。
トランシーバーのアンテナでは、そもそも受信方位を割り出す事はできないかもしれない。
だがそれでも、こんなジャミングには心当たりが出ないのだ。少なくとも、彼女の持ちうる知識の範疇には。
この戦場には、何かが居る。目の前のCAM以外の何か……直前に調査していた、ドローンの別個体だろうか?
暫く粘って、かろうじて歪虚CAMが出現した森の方角からノイズが入っているらしい事は、感覚で掴むことができた。
「……CAMって、単体でジャミングとか、できたっけ」
「エルちゃんは聞いたことないけど」
ウーナの呟きに、エリスが首をひねる。
「仮に、敵がドローンかなにかで砦の構造を偵察していたとして、連合宙軍の軍人ならこの砦をどう攻めるでしょう?」
霧華が、周囲を警戒しながらそう述べると、猟団員がその疑問に答えた。
「『相手の目を潰して、遠距離から滅多打ち』。これにつきらぁな」
「目、とは」
「レーダーか、肉眼か。つまり索敵手段だな」
「だとすれば……人間のセオリー通りに攻めてるってことですか、あの歪虚は」
霧華の言葉に団員は頷く。
霧華も、ウーナも、エリスも、その時は同じことを考えた。
『……一体、何のために?』と。
●
「僕達を、自陣へ誘いこもうとしているのでは。つまり……砦を人質に取って、伏兵で主力を誘導し撲滅しようと」
カール・フォルシアン(ka3702)は歪虚CAMへと駆ける愛馬ゴースロンの馬上で、八重樫へと叫んだ。
彼らの後には、猟団の騎兵三〇と、天竜寺 詩(ka0396)、カール・フォルシアン(ka3702)、アイラ(ka3941)、アメリア・フォーサイス(ka4111)が、それぞれの愛馬に跨って続き、砦を狙う歪虚CAMへと急行する。
「ドローン、見張りをすり抜けた、二つの足音、連続砲撃しないデュミナス、呼びかけ内容……これらを考えたら、連合宙軍の対ゲリラ戦経験者が歪虚化したのでは、と思うんです」
と、カールは語る。
一発目と二発目の砲撃には奇妙な間があり、今また三発目の砲撃がないまま、歪虚CAMはその場で動かない。
カールが自説への確信を深めるに値する状況であったが……。
「伏兵の可能性を考慮して、ハンターが先行して索敵します。僕らに続いてください」
「任せる」
八重樫は、カールの考察を是とも否ともせず、その一言だけを返した。
一方、アメリアは馬上から八重樫を見つめ、砲撃直前の事を思い起こしていた。
(「あの時……敵の声に八重樫さんが反応していたような。知り合いなんですかね」)
彼は何かを知っている。アメリアは漠然と、そんな直感を抱く。
周囲の地平や森を注意深く索敵はしているが、今のところ眼前のCAM以外の存在は感じ取れない。
無線から聞こえた声の主は、あのCAMに乗っているのだろうか。
光学迷彩……という単語が脳裏に浮かんだが、だとすれば捜索はほぼお手上げだ。
謎ばかりが膨らんでいくが、しかし一方でアメリアは時折、何かに気づいて上空を仰ぐ仕草を見せていた。
じっと空の一点を注視し……幾度か瞬きしてから、地上に視線を戻す。
「……アイラさん、何か、聞こえますか?」
アメリアは、すぐ隣で騎乗するエルフの少女に、確認するような語調で問うた。
霊闘士のアイラは、超聴覚で周囲の音を探っている。三つ編みにした赤毛を馬上で跳ね上げながら、アイラは答えた。
「……あのCAM、何か音を出してる。きゅうーん、って」
「音?」
カールが問い返したが、それが何の音か確かめる時間は無かった。
『……!』
三度目の砲撃。砦を狙ったものではない。
標的は、索敵の為に前に出たハンター達だ。
キィン、という高い音がしたかと思うと、土が水飛沫の様に宙に舞う。
「ぐっ……」
ダメージを受けたのは先頭を行くカールだ。
砦の壁を一撃で貫く砲撃である。
友より受けたるマテリアルの祈りなくば、砲撃の直前に歪虚CAMの背中が輝いた事に気づくこともなく、今の被弾が致死傷を免れる事も無かっただろう。
弾着の衝撃で吹き飛ばされ地面を転がったカールとゴースロンは、しかし、一命を取り留めて立ち上がる。
「進んでください! 次の砲撃までは時間が有るはずです!」
身を跳ね上げて叫んだカールの言葉に、ハンターと山岳猟団は即座に呼応する。
砲撃は、CAMが徐々に輝きを強めた後にやってきた。
それがエネルギーの充填の様な作業だとすれば、猶予はあるかもしれない。
ハンターたちはそれぞれの乗馬を飛ばしながら、歪虚CAMへの距離を一気に詰めていく……だが。
敵の方が、行動が早かった。残酷にも次弾が飛来する。
再び地面が爆ぜ、並んだ山岳猟団の騎兵が何人か纏めて吹き飛ばされた。
「……!」
土に混じって、赤黒い塊が飛沫となって飛び散る。恐らくは、痛みを感じる事さえなかっただろう。
「死にたくなければ進み続けろ!」
八重樫の叫びが聞こえる。
先に相手が遠距離から先制攻撃してくる以上、八重樫は犠牲を覚悟の上でその阻止を選択したのだ。
「来た……もう一体! あっちにいるよ!」
集団の左側に散開したアイラが、森を指差して叫んだ。
「それに……シバさんも」
「……えっ」
詩が、さっと青ざめた表情を浮かべた。アイラが、言葉を続ける。
「戦ってる。多分、二体目の敵……歪虚CAMと」
目の前に居る敵に加え、もう一体の歪虚CAM。片や砲撃の狙いを定め、片やシバと戦っている。
ハンター達はどうするべきか逡巡したが……
「行こう、アイラさん。まずは、シバさんを連れて帰るの」
「……うん」
詩とアイラは、腹を決めた。ただ二人、二体目の歪虚CAMの方角へと向かう。
「私達の方は……一刻も早く、これを片付けなければいけませんか」
アメリアは、今や自身の射程ギリギリに迫った歪虚CAMを見上げた。
背中に長い筒状の火器がマウントされている。
恐らくは砦を攻撃した砲だろうが、『きゅうーん』という音と共に発光していたそれは、たった今その動作を止めた。
普通の火砲ではなさそうだと、アメリアは率直に思った。
それから、右手にマシンガン。
(こちらがライフルだからと言って、油断はできないですね……)
続いて山岳猟と、僅かに遅れて駆けつけたカールが、戦場に駆けつける。
歪虚CAMは、その場にじっと立ち尽くしていたが……
『ハロー、シチズン。武器を捨てて投降してください』
突如、そのスピーカーが甲高い声を発した。
先手を撃ったのは、アメリアだ。
レイターコールドショット。銀の小銃が、硝煙と粉雪を同時に吹き上げる。
冷気を宿された弾丸は、歪虚CAM背部の砲の様なものへ命中した。
『敵性行動確認、保護規則に則り、対処を実行します』
歪虚CAMは後退しながら、弾丸を散らす様に機銃掃射する。
散開したカールと八重樫、十名ほどの猟団員が、CAMを囲むように動く。
「膝裏を狙ってください! 装甲内部に攻撃できれば!」
団員にそう伝えて、カールが自分の機杖を握りしめた時、彼は不気味な感触を感じた。
機杖の動作がおかしい。
込めたマテリアルに対する、反応が鈍いのだ……魔導短伝話と同じように。
「魔導機械そのものが、能力を減衰させられている……?」
だが、迷っている暇はない。
嫌な予感を振り払い、カールは自らの手に光の刃――機動剣を展開した。
●
連絡を絶っていた斥候のテトが砦に現れたのは、森で歪虚CAMとの交戦が始まってすぐ後の事だった。
「テトにゃん!」
友人の姿を認めた霧華が、半泣きになったテトに駆け寄り、その頭を撫ぜた。
「ごめんなさいにゃぁ~、私、私……」
「落ち着いて、わかってることを話して下さい……ゆっくりで、いいですから」
霧華になだめられたテトは深呼吸してから、必死に状況を説明し始めた。
……いかにシバの作った諜報組織が情報戦に優れるといえ、その人数には限りがあれば、警戒網に穴もある。
見張りが位置を交代する僅かな時間に生まれる、ごく小さな監視の穴……敵は、いかなる手段を用いてかそこを突いて砦に接近し、気づいた時にはシバは鬼の形相で弟子を振り払い飛び出した。
残されたテト自身は右往左往するうち、砦から上がる狼煙が自分を呼んでいると思ってこちらへ来たのだと言う。
「ねぇ、貴方達は、他に敵は把握できてる? CAMが囮にしてドローンとかが攻めてくる可能性が有る以上、砦を動けないよ」とウーナ。
「うんにゃ、私達が確認できたのは……敵は二体の歪虚CAMだけですにゃ。少にゃくとも、『どろーん』は砦の周りには居にゃいって、断言できますにゃ」
「……それって」
読みを外したかもしれない……ウーナや霧華が、表情を曇らせる。
歪虚ドローンが持っていた能力は、果たしてジャミングだったか?
同じ電子的な攻撃ではあっても、電磁パルス(EMP)とジャミング(ECM)は全く別の手段だ。
ならば……今、戦場にジャミングをかけているのは。
先ほどのトランシーバーで調べたノイズの発生源を思い出す。
可能性は低いとしても、その『まさか』にぶち当たったということもあり得ると、ウーナは思った。
「ウーナさん」
「急ごう!」
霧華とウーナは顔を見合わせ、厩舎へと駆けていく。
砦が襲撃される恐れがないならば、ここに留まる意義は薄い。
ウーナは『周辺敵影なし』と『攻撃』の笛を続けて吹き、戦場の全ての味方に通知する。
呼応した猟団員達も、後続の攻撃部隊を結成し、ウーナや霧華と共に討って出た。
一方……重傷のエリスは増援に同行する事無く、猟団員を引き連れて、半壊した砦の内部へと戻っていた。
「今は砲撃が止んでるからいいもののよ……この状況でそんなこと頼むかね」
エリスのある提案に、リアルブルーの元電気工という団員が、ぶつくさと文句を垂れる。
「悪いねぇ。でさ、『どれ』が『それ』なのか、教えて頂戴」
エリスがそう言うと、団員は拳大の黒い部品を持ち上げた。
「『これ』だ。こいつは明らかにリアルブルーのモンじゃなけりゃ、増してクリムゾンウェスト製な訳はねぇ」
「何が特別なの?」
「電撃と一緒に強力な電磁パルスが出せる。出力と効率、サイズの比で言や完全にオーバーテクノロジーで……」
「ごめん、も少しわかりやすく。ジャミングとは違うの?」
きっぱり言い放つエリス。団員は、焦れた様子で回答を返す。
「別モンだって。ジャミングは特定の電波を妨害するだけだが、こいつは作動させたら、ここら一帯のリアルブルーの機械が全部止まっちまっ……て、オイ、まさか」
「えへへ。そのまさかって言ったらさぁ、どーする?」
悪童の如き笑顔。
エリスにつられて団員も頬を引きつらせ、ぼそり呟く。
「頭イカれてるぜ、お嬢」
●
「敵はCAM二体だけじゃありませんね。上空に、もう一機」
アメリアは、漸く確信を持てた事実を、言葉にして口にした。
空の遥か上空を飛ぶ、豆粒のように小さい目標を、猟撃師の眼はしっかりと捉えた。
「上空、って……ドローンですか、さっき僕たちが調べてたような」カールが、目を見開いて問う。
「いいえ……飛行機みたい? 小さすぎて良くは見えませんけど、さっきから私達の頭上を、ぐるぐる回ってるんです」
それが何なのか、アメリアは断定まではできなかった。
だが、彼女が半ば本能的に感じ取った事実もある。
「私達を見て……監視してる気がします。銃も届かないような高所から、戦場を……ううん、辺境全体を」
「そんな馬鹿な、って言いたいですけど。敵が『見張りをすり抜けた』っていうのはもしかして……」
アメリアの仮説を聞いたカールの頬を、冷や汗が一筋伝う。
CAMも、ドローンも、歪虚となった。それなら、『歪虚の偵察航空機』もありえるのだろうか。
カールにとっては、機杖の不具合も気になる。
それでいて、戦況は逡巡する間さえ与えない。
歪虚CAMの射撃は恐ろしい程に正確で、地形を利用しながら猟団員を次々と撃ち殺していく。
「こちらの意図が読まれてるみたいだ……!」
「俺が攻撃を引き付ける。猟団員は間接射撃で援護。お前は敵の背後に回り込め」
焦りを見せたカールの脇を、八重樫が抜けていく。
「狙うのは関節です。倒すよりまず機能不全を狙いましょう」
遮蔽の影に隠れたアメリアは、猟団の射手と共に跳弾で前衛を支援する。
守るべきものは、余りに多い……彼らに後退は、許されなかった。
●
「絶対に死なせない。絶対に。約束、守ってもらってないもの」
駆けながら詩は、誰にともなく、祈るように呟いた。
シバともう一体の敵の元へ急行する彼女の耳にも、既に歪虚CAMの足音が響いている。
誘導するアイラと共に森の木々をすり抜けて進むと、やがてその姿は見えてきた。
「あれは……デュミナス?」
アイラが眼を丸くする。外見はデュミナスに近いが、背面や肩部を始め、至る所に棒状・球状・円盤状の突起があり、いびつなフォルムを形成している。
そして、その足元には……
「シバさん!」
詩は迷わず、正しい判断を下した。
跨った馬ごと、歪虚CAMと戦うシバの目の前に躍り出たのだ。妹から受け取ったマテリアルが、輝き、四散する。
シバが、たたらを踏む様な動きでつんのめり、そのまま倒れた。
歪虚CAMは、手にしたマシンガンを構える。だが、その動作は、風を切って飛来した矢によって阻まれた。
「シバさん、無理しないで! 死んじゃうわ!」
自身の短弓に次の矢を番えながら、アイラが叫ぶ。
詩は下馬してシバに駆け寄り、その体を抱き起こす。
「…………!」
その瞬間、詩は息を詰まらせた。
聖導師として数多の命に触れた詩だからこそ、一目で判ってしまった。
シバの命は弱り果て、今この瞬間にも潰えようとしている。
崩れた肉、淀んだ出血、白濁した瞳。本来ならば、何日も前に死んでいておかしくない。
なぜ。
それを問う前に、詩はヒールで傷を癒やし、レジストで魂への加護を与える。
例えその結果を免れないとしても、せめて時を作る為に。
「ハンター、か」
一瞬気絶したかのよう見えたシバが、息を吹き返す。
「こんな状態で戦ってどうするの!? シバさん死んじゃうよ!」
詩は激昂し、荒く呼吸を繰り返すシバに、想いをぶつけた。
シバは、返す言葉も無く詩の顔を見る……まるで、獣の様な目で。
アイラが歪虚CAMを牽制しながら、シバを見やった。
「貴方は導く人でしょ。自分で望んでそういう立場でいたんでしょ! なら、最後まで貫いて。投げ出しちゃダメ! 貴方が死んだら相手の思うツボだよ!」
「否」
シバが、答えた。
「彼奴は儂を、儂らを、『観ておる』。我らの全てを、はるか以前から。もはや……時間がない。あの影を止めねば、手遅れとなる」
その言葉に、詩もアイラも一瞬固まった。真意を、図りかねて。
しかし、彼女たちの意思は変わらない。犠牲が出ては、意味が無いのだ。
「横領の話の時シバさん言ったよね。何時か全て明るみに出すって」
皺だらけの手を握る詩。溢れ出そうになる涙をこらえて。
「貴方はまだそれをまだ果たしてない。責任も取らずに行っちゃうの? 約束を破るなんて許さない。勝手に死ぬなんて、許さないんだから!」
シバは、じっと黙って詩の言葉を聞いた。
そして、アイラも。
「私達に協力して。知ってる事あるなら全部教えて。私が伝える。だから……痛ッ!」
言葉の最後は、CAMの銃撃によって遮られた。
歪虚CAMが、三人へと迫る。
シバは、微かに沈黙し……やがて、弱々しく頷いた。
「……もはや儂の力は、滅びを遅らせることしか、できぬ。だがあるいは、お主達ならば」
「シバさん」
その時、砦から『周辺敵影なし』と『攻撃』の笛符号が聴こえた。増援が来る。
シバは……ふらつく足で、その腰を上げた。
詩がシバを自分の馬に乗せ、アイラがその援護をしながら、彼女達は猟団本隊へ合流すべく移動を始める。
まだ、希望が残っていると信じて。
●
残った騎馬をかき集めて、砦から出せた増援は十二騎。
ウーナや霧華が猟団の増援とともに前線に追いついた時、戦況は激戦の様相を呈していた。
歪虚CAMから放たれる銃弾に耐えながら、応射する猟団員達、そして必死に接近を試みるカールと八重樫。
更にその反対方向から、シバを抱えた詩とアイラが森を抜けてきたかと思うと、それを追ってもう一体のCAMが姿を現す。
「……アレがジャミングの発生源ってわけね」
ウーナが苛立たしげに嘆息した。
二体目の歪虚CAMについた円盤や棒状の突起は、電子戦用のアンテナ類だと判断できたからだ。
『ハロー、シチズン』『艦艇中枢管理システムへの物理的抵抗は犯罪です』
二体の歪虚CAMが、息ぴったりに声を発し、同時に機銃を掃射。
十字砲火で逃げ場を奪い、猟団員を二人纏めて蜂の巣にする。
「艦艇中枢管理システム……プログラム的な何かが、あのCAMを動かしてる?」
霧華が、聞き慣れない単語に眉を潜めた。
敵の目的は何かと、ずっと考えていた。
だが、敵の正体が、自分の想像の遥か先の存在であるとしたら……前提が覆る事にもなりかねない。
「『影』じゃ……我らを、蝕む……」
シバが、うわ言の様に呟く。
カールが反応して、シバに近づいた。
「シバさん、『影』とは? それが何か、どこに居るか分かりますか」
「目の前に居る。そしてどこにも居ない。奴らは……お主らは……」
そこでシバは、意識を失ってしまった。
言葉を続けたのは……他ならない歪虚CAMのスピーカーから聞こえてきた、あの甲高い声だ。
『シェイプレス。私に形はありません』
『ポジションレス。私に位置座標はありません』
『ネームレス。私に名前はありません。しかし、符号名は必要ですね』
戦場の左右から交互に響く声。
それがハンターの疑問への回答だと気づくと、誰もが一瞬、手を止めた。
そして……
『【エンドレス】。故に私は私を、終わりなきものと名づけましょう。
回答にご満足頂けましたか。では、投降して……』
●
そのころ、パシュパティ砦では……
歪虚ドローンの部品を逆利用し、歪虚CAMへEMP攻撃を仕掛ける。
エリスの前代未聞の試みは、相応の時間を要してようやっと、準備が整った。
「ほんとにコレ、行けるかな。完全に、カンで配線繋いだけど」
いくら機械といえ、歪虚の一部を人類の手で復元したのだ。マニュアルもへったくれもない。
猟団員達もエリスに協力はしてくれたが、彼らに取っても何一つ確信の無い作業だった筈だ。
「ま、やってみるしかないよね。いけ、スイッチ・オンっ!」
バチンッ!
「きゃんっ!」
電源を入れた瞬間、周囲に電撃が走ると同時に、件の部品が派手に爆発した。
もともと重傷を負っていたエリスは、一撃で意識を失ってしまった。
身に纏うケープが激しく炎上し、少女は全身火達磨となって倒れこむ。
命を落とさなかったのは、運の一言に尽きる。
周囲に味方しかいない事、その味方が意識を保ったこと、そして遠く離れた友がマテリアルの加護を与えてくれた事……どれか一つにおいてでも賽の目が狂っていたならば、死神は容赦なくエリスの魂を連れ去った事だろう。
「おい、しっかりしろお嬢!」
猟団員達が這々の体でエリスの体を包む炎を消して、衛生兵を呼びに行く。
果たして、この挑戦は上手くいったのか……そんなことを気にする余裕は、今の彼らには無かった。
●
結論から言えば……エリスの賭けは、大穴を引き当てた。
『では、投稿して、く、だ、さぁぁぁぁぁぁ……』
名乗ったばかりの歪虚CAMの片割れ……一体目の砲撃型が、膝からガクリと崩れ落ちて動きを止める。
電磁パルスによるその現象の原理は、落雷による停電と同じである。
しかし、歪虚のテクノロジーによって生み出されたそれは、人智を超えた威力で歪虚CAMの中枢回路を攻撃したのだ。
そして……遥か上空の『飛行機のようなもの』も、砦の方角へ落下していくのを、ハンター達の目はしかと見届けた。
それはつまり、件の飛行物体がこの歪虚CAMの一味であったと捉えて間違いないということである。
『――電子攻撃を検知。シチズン、艦艇中枢管理システムへの電磁波干渉は重大な犯罪です』
電子戦型のCAMが言った。
こちらには何らかの対策が施されているらしいが、それでも一瞬、動きが鈍った。
瞬間、二体目の電子戦型CAMが背負うレーダーアンテナの一つが、狙撃を受けて砕け散った。アメリアだ。
「……!」
逆転の機があるとすれば今しかない。
アメリアは淡々、CAMから生えたいびつな突起を矢継ぎ早に破壊していく。
『抵抗には鎮圧を持って対処します』
「何が……」
電子戦型CAMの前に踊りでたのは霧華だ。
牽制の弾丸を体で受け止め、血飛沫上げながら敵の側面に踏み込む。
「エンドレス、ですか!」
そして繰り出すは、鞭の強打。
大蛇の如くCAMの足首に巻き付いた銀の鞭を、霧華は全膂力を以って引っ張った。
CAMが重心を狂わせ、体を傾ける。
『抵抗をやめ』
機銃を霧華に向ける電子戦型CAM。しかし、言葉の途中で頭部が粉々に吹き飛ばされる。
ウーナがすかさず、霧華をカバーしたのだ。
「ブルズアイ。目を潰して意味があればいいんだけど」
遮蔽となる木陰から木陰へとへ移動しつつ、ライフルをリロードするウーナ。
今は足止めでもいい、とにかく味方の時間を稼ぐ必要があった。
砲撃戦型のCAMが動きを止めた好機を、ハンター達は決して逃していなかった。
八重樫が指示を出すと同時に、団員達が砲撃戦型CAMに一斉射撃を加え、センサーやカメラを潰していく。
『REBOOT。ハロー、シチズン』
いささか間抜けな声を発して砲撃戦型CAMが再起動したが、もう遅い。
足元に肉薄した八重樫が大剣をフルスイングし、CAMの関節部装甲を粉砕した。
「お前の狙いはこれだろう」
剣を引き抜くと同時に、後ろのカールを見やった時には、既に彼はそこに居ない。
ジェットブーツで八重樫を飛び越えてCAMに取り付き、露出した関節内部にワイヤーを食い込ませる。
「止まれぇぇぇぇぇぇッ!」
友より受けたるマテリアルまで全てを集約した電撃……エレクトリックショックを、鉄の巨人に見舞う。
『ビー……』と、断末魔の様なビープ音を上げて、砲撃戦型CAMは再び、そして永遠に機能を停止した。
『【ヴァルキリー5】シグナルロスト。脅威度レベル上昇を承認』
その時、傷だらけになっていた電子戦型CAMはシュポシュポシュポ……と、発煙する玉を地面にばらまいた。
あっという間に、あたり一面が視界ゼロとなる。
「発煙弾……霧華!」
ウーナが叫ぶと同時に、煙の向うから霧華が転がってきた。
「……逃しました。口惜しいですが」
鞭を解こうと暴れたCAMに吹き飛ばされたらしい。
同時に、CAMの機銃の発砲音。足音と共に、急速に遠ざかっていく。
その時には既に重傷者が多数出ており、追いかける余力は、ハンターと猟団には残されていなかった。
●
一時間後。
「シバさんは……大丈夫。大丈夫じゃないけど、でも……まだ」
シバの手当を終えた詩が、冷や汗を拭いもせずに息をつく。
「うわ言でずっと言ってた。話をするとか、借りを返す、とか……」
それは、シバの為に祈りを捧げた者達の声なのだろう。遥か遠くから、彼を守るために。
「時間は、まだあるよ。聞きたいことはいっぱいあるけど、きっと……教えてくれる筈」
アイナも、胸をなでおろした。
そう、機会は繋がれたのだ。潰える事なく。その意味は、決して小さくない。
「エリスもとりあえず『死んでない』ってさ。無茶するなっていったのに」
と、こぼすのはウーナだ。
しかし、その無茶なくば、ここまではっきりと勝利することは難しかっただろうと考えると、複雑な気分だ。
とりあえず、目を覚ましたら少し絞ってやる必要があるだろうか……と、ウーナは心中でひとりごちた。
一方、生存する全人員の安全が確認された後、ハンター達は砦から少し離れた広陵に歪虚の残骸を集めた。
即ち、ドローン、ヴァルキリー5と呼ばれた砲戦型歪虚CAM、そして……上空で戦場を監視していた『鉄の鳥』。
その、事後調査を行う為だ。
「これは……無人偵察機?」
カールが、そんな推測を口にする。
墜落の衝撃でひしゃげた機体は、いつか映像で見た兵器と、一致する気がしたのだ。
「これで、砦を偵察していた訳ですか……」
と、霧華。傍らには、しょぼくれた様相のテトがぴったりと寄り添っている。
「恐らくは、歪虚ドローンに追跡用発信機が仕掛けられていた」険しい表情で語る、八重樫。
「つまり……あの『エンドレス』は、前の戦いの段階から、今回の襲撃を見越していた、と?」
カールの言葉に、八重樫は頷く。
横からアメリアがそっと彼に近づき、小さく囁いた。
「情報は多い方が良いです。敵の素性が分かれば傾向と対策も練れるはず」
「何が言いたい」
「お望みなら、私の心の中に留めて置くこともできます」
配慮を含んだ、詮索だった。
八重樫は……少し間を置いて、答えた。
それも、その場の全員に聞こえるように。
「あの歪虚ドローンのプレートは連合宙軍の装備管理番号を記したものだ。俺が知っている番号だった。
ヴァルキリー・ファイフというコールサインも、音声インターフェースの発言や声質も、それを裏付ける」
猟団員達さえも、驚愕の視線で八重樫を見つめたが……八重樫は変わらぬ仏頂面で、言葉を続けた。
「連合宙軍所属クンルン級宇宙揚陸艦『ヴァルハラ』。俺のかつての所属艦だ」
二回目の砲撃は、砦の外壁に命中した。
空高く舞い上がった石塊が、団員や難民、そしてハンター達に容赦なく降り注ぐ。
「ちょ、ちょっと……嘘でしょ……? ピンチって聞いたけど……こんな酷いの聞いてないよ!?」
クレーターの様にえぐられた弾着点を見て、ウーナ(ka1439)は戦慄を堪えながら叫んだ。
彼女の知るリアルブルーのあらゆる火砲でさえ、これほどの代物はそうそう無い。
「こんなもの何発も撃ち込まれたら……」
言いかけたウーナの眼前を、なびく黒髪が横切る。
「先手を取られた以上、対処を迷えば負けます。落ち着いて、できることをしましょう」
白神 霧華(ka0915)は言葉通りの手際で、砦に備えられた狼煙台に火を投げ入れた。
相手に増援を呼んだと思わせれば、或いは撤退を促せるかもしれない。
それに……
(「テトにゃんには、これで伝わるでしょうか」)
可能性は薄いが、連絡の途絶えたテトとコンタクトできるかもしれない。
諜報員であり斥候であるテトは、霧華にとってはそれ以上の存在だが……その所在は、一切解らない。無事かどうかさえ。
既にハンターを含めた騎兵が歪虚CAMの対応へと向かったものの、情報が錯綜し陽動の可能性を否定できない状況から、半数のハンターは砦に残留して防衛に当たっていた。
「他にも、何か連絡手段を決められればいいんだけど。信号弾とかないの?」
ウーナが砦に残った団員の一人に問うと、彼は「これがある」とハンター達に紐束の様なものを投げてよこした。
笛の束だった。小さな角笛、貝笛、ホイッスルなど、音の違ういくつかの笛。
団員であれば、対応する笛を吹けば簡易な伝達を行えるという。
「ゼータク言ってる場合じゃないよね」
と、ウーナはその笛の束を首に掛けながら、背後を振り返った。
そこでは、ウーナと同じ桃色のツインテールを揺らしながら、しかし足を引きずる様に歩く一人の少女……エリス・ブーリャ(ka3419) が、難民達を砦の地下室へと誘導していた。
「はいはい、避難民のみんなはこっちだよ。おさない、はしらない、しゃべらないだかんね」
覚醒者かつ鍛えられている猟団員たちは兎も角、彼らが何らかの被害を受ければ命の保証は無い。
最後の一人が地下に潜ったのを確認して、ウーナは小さく溜息をついた。
「貴女も怪我人なんだから。ムリしないでよ、エリス」
ウーナの気遣いに、エリスはウインクの目配せで応えてみせる。
直前の戦いで受けた傷が癒えぬまま、場に居合わせてしまったエルフの少女。
避難誘導さえ、遠く離れた友人からマテリアルの助力を借り受けなければ覚束ない程だが……しかし、苦しさを表には出さない。
(「……CAMって言ったら、人類の切り札だったのに。くそっ、クラーレめ、あの時の忘れ形見か、今になって邪魔してくるわけ?」)
エリスはウーナから目線を外し、ひとり心中で呟いた。
リアルブルーからもたらされた鉄の巨人、CAM。
歪虚の陰謀に晒されたそれは、既に何体かが敵の手に落ちた。
今砦を砲撃しているCAMも、その時の一体に過ぎないのだろうか?
エリスは試しに、トランシーバーのスイッチを入れてみた。
『――――――!!!!!!』
スピーカーが、獣の断末魔の様なノイズ音を吐く。
反射的にエリスはその長い耳をビクッと反り上げ、トランシーバーを耳から遠ざけた。
「……だめだね、こりゃ。魔導短伝話だけじゃなくて、無線もジャミングにやられてる」
横からウーナが、エリスのトランシーバーを操作し、音量をぎりぎりまで絞った。
そのまま、そっとエリスの手ごとトランシーバーを握り、様々の方向にかざしてみる。
「音の強弱で、発信源が判ればいいんだけど……」
ノイズ音が酷く、少し振った程度で強弱の違いは解らない。
裏を返せば、だ。
(「……方角が判らない位強いジャミング? そんなに強力な妨害電波って……あんなちゃちいドローンには荷が重すぎない?」)
自分の中の機械知識を総動員して推測するウーナ。
トランシーバーのアンテナでは、そもそも受信方位を割り出す事はできないかもしれない。
だがそれでも、こんなジャミングには心当たりが出ないのだ。少なくとも、彼女の持ちうる知識の範疇には。
この戦場には、何かが居る。目の前のCAM以外の何か……直前に調査していた、ドローンの別個体だろうか?
暫く粘って、かろうじて歪虚CAMが出現した森の方角からノイズが入っているらしい事は、感覚で掴むことができた。
「……CAMって、単体でジャミングとか、できたっけ」
「エルちゃんは聞いたことないけど」
ウーナの呟きに、エリスが首をひねる。
「仮に、敵がドローンかなにかで砦の構造を偵察していたとして、連合宙軍の軍人ならこの砦をどう攻めるでしょう?」
霧華が、周囲を警戒しながらそう述べると、猟団員がその疑問に答えた。
「『相手の目を潰して、遠距離から滅多打ち』。これにつきらぁな」
「目、とは」
「レーダーか、肉眼か。つまり索敵手段だな」
「だとすれば……人間のセオリー通りに攻めてるってことですか、あの歪虚は」
霧華の言葉に団員は頷く。
霧華も、ウーナも、エリスも、その時は同じことを考えた。
『……一体、何のために?』と。
●
「僕達を、自陣へ誘いこもうとしているのでは。つまり……砦を人質に取って、伏兵で主力を誘導し撲滅しようと」
カール・フォルシアン(ka3702)は歪虚CAMへと駆ける愛馬ゴースロンの馬上で、八重樫へと叫んだ。
彼らの後には、猟団の騎兵三〇と、天竜寺 詩(ka0396)、カール・フォルシアン(ka3702)、アイラ(ka3941)、アメリア・フォーサイス(ka4111)が、それぞれの愛馬に跨って続き、砦を狙う歪虚CAMへと急行する。
「ドローン、見張りをすり抜けた、二つの足音、連続砲撃しないデュミナス、呼びかけ内容……これらを考えたら、連合宙軍の対ゲリラ戦経験者が歪虚化したのでは、と思うんです」
と、カールは語る。
一発目と二発目の砲撃には奇妙な間があり、今また三発目の砲撃がないまま、歪虚CAMはその場で動かない。
カールが自説への確信を深めるに値する状況であったが……。
「伏兵の可能性を考慮して、ハンターが先行して索敵します。僕らに続いてください」
「任せる」
八重樫は、カールの考察を是とも否ともせず、その一言だけを返した。
一方、アメリアは馬上から八重樫を見つめ、砲撃直前の事を思い起こしていた。
(「あの時……敵の声に八重樫さんが反応していたような。知り合いなんですかね」)
彼は何かを知っている。アメリアは漠然と、そんな直感を抱く。
周囲の地平や森を注意深く索敵はしているが、今のところ眼前のCAM以外の存在は感じ取れない。
無線から聞こえた声の主は、あのCAMに乗っているのだろうか。
光学迷彩……という単語が脳裏に浮かんだが、だとすれば捜索はほぼお手上げだ。
謎ばかりが膨らんでいくが、しかし一方でアメリアは時折、何かに気づいて上空を仰ぐ仕草を見せていた。
じっと空の一点を注視し……幾度か瞬きしてから、地上に視線を戻す。
「……アイラさん、何か、聞こえますか?」
アメリアは、すぐ隣で騎乗するエルフの少女に、確認するような語調で問うた。
霊闘士のアイラは、超聴覚で周囲の音を探っている。三つ編みにした赤毛を馬上で跳ね上げながら、アイラは答えた。
「……あのCAM、何か音を出してる。きゅうーん、って」
「音?」
カールが問い返したが、それが何の音か確かめる時間は無かった。
『……!』
三度目の砲撃。砦を狙ったものではない。
標的は、索敵の為に前に出たハンター達だ。
キィン、という高い音がしたかと思うと、土が水飛沫の様に宙に舞う。
「ぐっ……」
ダメージを受けたのは先頭を行くカールだ。
砦の壁を一撃で貫く砲撃である。
友より受けたるマテリアルの祈りなくば、砲撃の直前に歪虚CAMの背中が輝いた事に気づくこともなく、今の被弾が致死傷を免れる事も無かっただろう。
弾着の衝撃で吹き飛ばされ地面を転がったカールとゴースロンは、しかし、一命を取り留めて立ち上がる。
「進んでください! 次の砲撃までは時間が有るはずです!」
身を跳ね上げて叫んだカールの言葉に、ハンターと山岳猟団は即座に呼応する。
砲撃は、CAMが徐々に輝きを強めた後にやってきた。
それがエネルギーの充填の様な作業だとすれば、猶予はあるかもしれない。
ハンターたちはそれぞれの乗馬を飛ばしながら、歪虚CAMへの距離を一気に詰めていく……だが。
敵の方が、行動が早かった。残酷にも次弾が飛来する。
再び地面が爆ぜ、並んだ山岳猟団の騎兵が何人か纏めて吹き飛ばされた。
「……!」
土に混じって、赤黒い塊が飛沫となって飛び散る。恐らくは、痛みを感じる事さえなかっただろう。
「死にたくなければ進み続けろ!」
八重樫の叫びが聞こえる。
先に相手が遠距離から先制攻撃してくる以上、八重樫は犠牲を覚悟の上でその阻止を選択したのだ。
「来た……もう一体! あっちにいるよ!」
集団の左側に散開したアイラが、森を指差して叫んだ。
「それに……シバさんも」
「……えっ」
詩が、さっと青ざめた表情を浮かべた。アイラが、言葉を続ける。
「戦ってる。多分、二体目の敵……歪虚CAMと」
目の前に居る敵に加え、もう一体の歪虚CAM。片や砲撃の狙いを定め、片やシバと戦っている。
ハンター達はどうするべきか逡巡したが……
「行こう、アイラさん。まずは、シバさんを連れて帰るの」
「……うん」
詩とアイラは、腹を決めた。ただ二人、二体目の歪虚CAMの方角へと向かう。
「私達の方は……一刻も早く、これを片付けなければいけませんか」
アメリアは、今や自身の射程ギリギリに迫った歪虚CAMを見上げた。
背中に長い筒状の火器がマウントされている。
恐らくは砦を攻撃した砲だろうが、『きゅうーん』という音と共に発光していたそれは、たった今その動作を止めた。
普通の火砲ではなさそうだと、アメリアは率直に思った。
それから、右手にマシンガン。
(こちらがライフルだからと言って、油断はできないですね……)
続いて山岳猟と、僅かに遅れて駆けつけたカールが、戦場に駆けつける。
歪虚CAMは、その場にじっと立ち尽くしていたが……
『ハロー、シチズン。武器を捨てて投降してください』
突如、そのスピーカーが甲高い声を発した。
先手を撃ったのは、アメリアだ。
レイターコールドショット。銀の小銃が、硝煙と粉雪を同時に吹き上げる。
冷気を宿された弾丸は、歪虚CAM背部の砲の様なものへ命中した。
『敵性行動確認、保護規則に則り、対処を実行します』
歪虚CAMは後退しながら、弾丸を散らす様に機銃掃射する。
散開したカールと八重樫、十名ほどの猟団員が、CAMを囲むように動く。
「膝裏を狙ってください! 装甲内部に攻撃できれば!」
団員にそう伝えて、カールが自分の機杖を握りしめた時、彼は不気味な感触を感じた。
機杖の動作がおかしい。
込めたマテリアルに対する、反応が鈍いのだ……魔導短伝話と同じように。
「魔導機械そのものが、能力を減衰させられている……?」
だが、迷っている暇はない。
嫌な予感を振り払い、カールは自らの手に光の刃――機動剣を展開した。
●
連絡を絶っていた斥候のテトが砦に現れたのは、森で歪虚CAMとの交戦が始まってすぐ後の事だった。
「テトにゃん!」
友人の姿を認めた霧華が、半泣きになったテトに駆け寄り、その頭を撫ぜた。
「ごめんなさいにゃぁ~、私、私……」
「落ち着いて、わかってることを話して下さい……ゆっくりで、いいですから」
霧華になだめられたテトは深呼吸してから、必死に状況を説明し始めた。
……いかにシバの作った諜報組織が情報戦に優れるといえ、その人数には限りがあれば、警戒網に穴もある。
見張りが位置を交代する僅かな時間に生まれる、ごく小さな監視の穴……敵は、いかなる手段を用いてかそこを突いて砦に接近し、気づいた時にはシバは鬼の形相で弟子を振り払い飛び出した。
残されたテト自身は右往左往するうち、砦から上がる狼煙が自分を呼んでいると思ってこちらへ来たのだと言う。
「ねぇ、貴方達は、他に敵は把握できてる? CAMが囮にしてドローンとかが攻めてくる可能性が有る以上、砦を動けないよ」とウーナ。
「うんにゃ、私達が確認できたのは……敵は二体の歪虚CAMだけですにゃ。少にゃくとも、『どろーん』は砦の周りには居にゃいって、断言できますにゃ」
「……それって」
読みを外したかもしれない……ウーナや霧華が、表情を曇らせる。
歪虚ドローンが持っていた能力は、果たしてジャミングだったか?
同じ電子的な攻撃ではあっても、電磁パルス(EMP)とジャミング(ECM)は全く別の手段だ。
ならば……今、戦場にジャミングをかけているのは。
先ほどのトランシーバーで調べたノイズの発生源を思い出す。
可能性は低いとしても、その『まさか』にぶち当たったということもあり得ると、ウーナは思った。
「ウーナさん」
「急ごう!」
霧華とウーナは顔を見合わせ、厩舎へと駆けていく。
砦が襲撃される恐れがないならば、ここに留まる意義は薄い。
ウーナは『周辺敵影なし』と『攻撃』の笛を続けて吹き、戦場の全ての味方に通知する。
呼応した猟団員達も、後続の攻撃部隊を結成し、ウーナや霧華と共に討って出た。
一方……重傷のエリスは増援に同行する事無く、猟団員を引き連れて、半壊した砦の内部へと戻っていた。
「今は砲撃が止んでるからいいもののよ……この状況でそんなこと頼むかね」
エリスのある提案に、リアルブルーの元電気工という団員が、ぶつくさと文句を垂れる。
「悪いねぇ。でさ、『どれ』が『それ』なのか、教えて頂戴」
エリスがそう言うと、団員は拳大の黒い部品を持ち上げた。
「『これ』だ。こいつは明らかにリアルブルーのモンじゃなけりゃ、増してクリムゾンウェスト製な訳はねぇ」
「何が特別なの?」
「電撃と一緒に強力な電磁パルスが出せる。出力と効率、サイズの比で言や完全にオーバーテクノロジーで……」
「ごめん、も少しわかりやすく。ジャミングとは違うの?」
きっぱり言い放つエリス。団員は、焦れた様子で回答を返す。
「別モンだって。ジャミングは特定の電波を妨害するだけだが、こいつは作動させたら、ここら一帯のリアルブルーの機械が全部止まっちまっ……て、オイ、まさか」
「えへへ。そのまさかって言ったらさぁ、どーする?」
悪童の如き笑顔。
エリスにつられて団員も頬を引きつらせ、ぼそり呟く。
「頭イカれてるぜ、お嬢」
●
「敵はCAM二体だけじゃありませんね。上空に、もう一機」
アメリアは、漸く確信を持てた事実を、言葉にして口にした。
空の遥か上空を飛ぶ、豆粒のように小さい目標を、猟撃師の眼はしっかりと捉えた。
「上空、って……ドローンですか、さっき僕たちが調べてたような」カールが、目を見開いて問う。
「いいえ……飛行機みたい? 小さすぎて良くは見えませんけど、さっきから私達の頭上を、ぐるぐる回ってるんです」
それが何なのか、アメリアは断定まではできなかった。
だが、彼女が半ば本能的に感じ取った事実もある。
「私達を見て……監視してる気がします。銃も届かないような高所から、戦場を……ううん、辺境全体を」
「そんな馬鹿な、って言いたいですけど。敵が『見張りをすり抜けた』っていうのはもしかして……」
アメリアの仮説を聞いたカールの頬を、冷や汗が一筋伝う。
CAMも、ドローンも、歪虚となった。それなら、『歪虚の偵察航空機』もありえるのだろうか。
カールにとっては、機杖の不具合も気になる。
それでいて、戦況は逡巡する間さえ与えない。
歪虚CAMの射撃は恐ろしい程に正確で、地形を利用しながら猟団員を次々と撃ち殺していく。
「こちらの意図が読まれてるみたいだ……!」
「俺が攻撃を引き付ける。猟団員は間接射撃で援護。お前は敵の背後に回り込め」
焦りを見せたカールの脇を、八重樫が抜けていく。
「狙うのは関節です。倒すよりまず機能不全を狙いましょう」
遮蔽の影に隠れたアメリアは、猟団の射手と共に跳弾で前衛を支援する。
守るべきものは、余りに多い……彼らに後退は、許されなかった。
●
「絶対に死なせない。絶対に。約束、守ってもらってないもの」
駆けながら詩は、誰にともなく、祈るように呟いた。
シバともう一体の敵の元へ急行する彼女の耳にも、既に歪虚CAMの足音が響いている。
誘導するアイラと共に森の木々をすり抜けて進むと、やがてその姿は見えてきた。
「あれは……デュミナス?」
アイラが眼を丸くする。外見はデュミナスに近いが、背面や肩部を始め、至る所に棒状・球状・円盤状の突起があり、いびつなフォルムを形成している。
そして、その足元には……
「シバさん!」
詩は迷わず、正しい判断を下した。
跨った馬ごと、歪虚CAMと戦うシバの目の前に躍り出たのだ。妹から受け取ったマテリアルが、輝き、四散する。
シバが、たたらを踏む様な動きでつんのめり、そのまま倒れた。
歪虚CAMは、手にしたマシンガンを構える。だが、その動作は、風を切って飛来した矢によって阻まれた。
「シバさん、無理しないで! 死んじゃうわ!」
自身の短弓に次の矢を番えながら、アイラが叫ぶ。
詩は下馬してシバに駆け寄り、その体を抱き起こす。
「…………!」
その瞬間、詩は息を詰まらせた。
聖導師として数多の命に触れた詩だからこそ、一目で判ってしまった。
シバの命は弱り果て、今この瞬間にも潰えようとしている。
崩れた肉、淀んだ出血、白濁した瞳。本来ならば、何日も前に死んでいておかしくない。
なぜ。
それを問う前に、詩はヒールで傷を癒やし、レジストで魂への加護を与える。
例えその結果を免れないとしても、せめて時を作る為に。
「ハンター、か」
一瞬気絶したかのよう見えたシバが、息を吹き返す。
「こんな状態で戦ってどうするの!? シバさん死んじゃうよ!」
詩は激昂し、荒く呼吸を繰り返すシバに、想いをぶつけた。
シバは、返す言葉も無く詩の顔を見る……まるで、獣の様な目で。
アイラが歪虚CAMを牽制しながら、シバを見やった。
「貴方は導く人でしょ。自分で望んでそういう立場でいたんでしょ! なら、最後まで貫いて。投げ出しちゃダメ! 貴方が死んだら相手の思うツボだよ!」
「否」
シバが、答えた。
「彼奴は儂を、儂らを、『観ておる』。我らの全てを、はるか以前から。もはや……時間がない。あの影を止めねば、手遅れとなる」
その言葉に、詩もアイラも一瞬固まった。真意を、図りかねて。
しかし、彼女たちの意思は変わらない。犠牲が出ては、意味が無いのだ。
「横領の話の時シバさん言ったよね。何時か全て明るみに出すって」
皺だらけの手を握る詩。溢れ出そうになる涙をこらえて。
「貴方はまだそれをまだ果たしてない。責任も取らずに行っちゃうの? 約束を破るなんて許さない。勝手に死ぬなんて、許さないんだから!」
シバは、じっと黙って詩の言葉を聞いた。
そして、アイラも。
「私達に協力して。知ってる事あるなら全部教えて。私が伝える。だから……痛ッ!」
言葉の最後は、CAMの銃撃によって遮られた。
歪虚CAMが、三人へと迫る。
シバは、微かに沈黙し……やがて、弱々しく頷いた。
「……もはや儂の力は、滅びを遅らせることしか、できぬ。だがあるいは、お主達ならば」
「シバさん」
その時、砦から『周辺敵影なし』と『攻撃』の笛符号が聴こえた。増援が来る。
シバは……ふらつく足で、その腰を上げた。
詩がシバを自分の馬に乗せ、アイラがその援護をしながら、彼女達は猟団本隊へ合流すべく移動を始める。
まだ、希望が残っていると信じて。
●
残った騎馬をかき集めて、砦から出せた増援は十二騎。
ウーナや霧華が猟団の増援とともに前線に追いついた時、戦況は激戦の様相を呈していた。
歪虚CAMから放たれる銃弾に耐えながら、応射する猟団員達、そして必死に接近を試みるカールと八重樫。
更にその反対方向から、シバを抱えた詩とアイラが森を抜けてきたかと思うと、それを追ってもう一体のCAMが姿を現す。
「……アレがジャミングの発生源ってわけね」
ウーナが苛立たしげに嘆息した。
二体目の歪虚CAMについた円盤や棒状の突起は、電子戦用のアンテナ類だと判断できたからだ。
『ハロー、シチズン』『艦艇中枢管理システムへの物理的抵抗は犯罪です』
二体の歪虚CAMが、息ぴったりに声を発し、同時に機銃を掃射。
十字砲火で逃げ場を奪い、猟団員を二人纏めて蜂の巣にする。
「艦艇中枢管理システム……プログラム的な何かが、あのCAMを動かしてる?」
霧華が、聞き慣れない単語に眉を潜めた。
敵の目的は何かと、ずっと考えていた。
だが、敵の正体が、自分の想像の遥か先の存在であるとしたら……前提が覆る事にもなりかねない。
「『影』じゃ……我らを、蝕む……」
シバが、うわ言の様に呟く。
カールが反応して、シバに近づいた。
「シバさん、『影』とは? それが何か、どこに居るか分かりますか」
「目の前に居る。そしてどこにも居ない。奴らは……お主らは……」
そこでシバは、意識を失ってしまった。
言葉を続けたのは……他ならない歪虚CAMのスピーカーから聞こえてきた、あの甲高い声だ。
『シェイプレス。私に形はありません』
『ポジションレス。私に位置座標はありません』
『ネームレス。私に名前はありません。しかし、符号名は必要ですね』
戦場の左右から交互に響く声。
それがハンターの疑問への回答だと気づくと、誰もが一瞬、手を止めた。
そして……
『【エンドレス】。故に私は私を、終わりなきものと名づけましょう。
回答にご満足頂けましたか。では、投降して……』
●
そのころ、パシュパティ砦では……
歪虚ドローンの部品を逆利用し、歪虚CAMへEMP攻撃を仕掛ける。
エリスの前代未聞の試みは、相応の時間を要してようやっと、準備が整った。
「ほんとにコレ、行けるかな。完全に、カンで配線繋いだけど」
いくら機械といえ、歪虚の一部を人類の手で復元したのだ。マニュアルもへったくれもない。
猟団員達もエリスに協力はしてくれたが、彼らに取っても何一つ確信の無い作業だった筈だ。
「ま、やってみるしかないよね。いけ、スイッチ・オンっ!」
バチンッ!
「きゃんっ!」
電源を入れた瞬間、周囲に電撃が走ると同時に、件の部品が派手に爆発した。
もともと重傷を負っていたエリスは、一撃で意識を失ってしまった。
身に纏うケープが激しく炎上し、少女は全身火達磨となって倒れこむ。
命を落とさなかったのは、運の一言に尽きる。
周囲に味方しかいない事、その味方が意識を保ったこと、そして遠く離れた友がマテリアルの加護を与えてくれた事……どれか一つにおいてでも賽の目が狂っていたならば、死神は容赦なくエリスの魂を連れ去った事だろう。
「おい、しっかりしろお嬢!」
猟団員達が這々の体でエリスの体を包む炎を消して、衛生兵を呼びに行く。
果たして、この挑戦は上手くいったのか……そんなことを気にする余裕は、今の彼らには無かった。
●
結論から言えば……エリスの賭けは、大穴を引き当てた。
『では、投稿して、く、だ、さぁぁぁぁぁぁ……』
名乗ったばかりの歪虚CAMの片割れ……一体目の砲撃型が、膝からガクリと崩れ落ちて動きを止める。
電磁パルスによるその現象の原理は、落雷による停電と同じである。
しかし、歪虚のテクノロジーによって生み出されたそれは、人智を超えた威力で歪虚CAMの中枢回路を攻撃したのだ。
そして……遥か上空の『飛行機のようなもの』も、砦の方角へ落下していくのを、ハンター達の目はしかと見届けた。
それはつまり、件の飛行物体がこの歪虚CAMの一味であったと捉えて間違いないということである。
『――電子攻撃を検知。シチズン、艦艇中枢管理システムへの電磁波干渉は重大な犯罪です』
電子戦型のCAMが言った。
こちらには何らかの対策が施されているらしいが、それでも一瞬、動きが鈍った。
瞬間、二体目の電子戦型CAMが背負うレーダーアンテナの一つが、狙撃を受けて砕け散った。アメリアだ。
「……!」
逆転の機があるとすれば今しかない。
アメリアは淡々、CAMから生えたいびつな突起を矢継ぎ早に破壊していく。
『抵抗には鎮圧を持って対処します』
「何が……」
電子戦型CAMの前に踊りでたのは霧華だ。
牽制の弾丸を体で受け止め、血飛沫上げながら敵の側面に踏み込む。
「エンドレス、ですか!」
そして繰り出すは、鞭の強打。
大蛇の如くCAMの足首に巻き付いた銀の鞭を、霧華は全膂力を以って引っ張った。
CAMが重心を狂わせ、体を傾ける。
『抵抗をやめ』
機銃を霧華に向ける電子戦型CAM。しかし、言葉の途中で頭部が粉々に吹き飛ばされる。
ウーナがすかさず、霧華をカバーしたのだ。
「ブルズアイ。目を潰して意味があればいいんだけど」
遮蔽となる木陰から木陰へとへ移動しつつ、ライフルをリロードするウーナ。
今は足止めでもいい、とにかく味方の時間を稼ぐ必要があった。
砲撃戦型のCAMが動きを止めた好機を、ハンター達は決して逃していなかった。
八重樫が指示を出すと同時に、団員達が砲撃戦型CAMに一斉射撃を加え、センサーやカメラを潰していく。
『REBOOT。ハロー、シチズン』
いささか間抜けな声を発して砲撃戦型CAMが再起動したが、もう遅い。
足元に肉薄した八重樫が大剣をフルスイングし、CAMの関節部装甲を粉砕した。
「お前の狙いはこれだろう」
剣を引き抜くと同時に、後ろのカールを見やった時には、既に彼はそこに居ない。
ジェットブーツで八重樫を飛び越えてCAMに取り付き、露出した関節内部にワイヤーを食い込ませる。
「止まれぇぇぇぇぇぇッ!」
友より受けたるマテリアルまで全てを集約した電撃……エレクトリックショックを、鉄の巨人に見舞う。
『ビー……』と、断末魔の様なビープ音を上げて、砲撃戦型CAMは再び、そして永遠に機能を停止した。
『【ヴァルキリー5】シグナルロスト。脅威度レベル上昇を承認』
その時、傷だらけになっていた電子戦型CAMはシュポシュポシュポ……と、発煙する玉を地面にばらまいた。
あっという間に、あたり一面が視界ゼロとなる。
「発煙弾……霧華!」
ウーナが叫ぶと同時に、煙の向うから霧華が転がってきた。
「……逃しました。口惜しいですが」
鞭を解こうと暴れたCAMに吹き飛ばされたらしい。
同時に、CAMの機銃の発砲音。足音と共に、急速に遠ざかっていく。
その時には既に重傷者が多数出ており、追いかける余力は、ハンターと猟団には残されていなかった。
●
一時間後。
「シバさんは……大丈夫。大丈夫じゃないけど、でも……まだ」
シバの手当を終えた詩が、冷や汗を拭いもせずに息をつく。
「うわ言でずっと言ってた。話をするとか、借りを返す、とか……」
それは、シバの為に祈りを捧げた者達の声なのだろう。遥か遠くから、彼を守るために。
「時間は、まだあるよ。聞きたいことはいっぱいあるけど、きっと……教えてくれる筈」
アイナも、胸をなでおろした。
そう、機会は繋がれたのだ。潰える事なく。その意味は、決して小さくない。
「エリスもとりあえず『死んでない』ってさ。無茶するなっていったのに」
と、こぼすのはウーナだ。
しかし、その無茶なくば、ここまではっきりと勝利することは難しかっただろうと考えると、複雑な気分だ。
とりあえず、目を覚ましたら少し絞ってやる必要があるだろうか……と、ウーナは心中でひとりごちた。
一方、生存する全人員の安全が確認された後、ハンター達は砦から少し離れた広陵に歪虚の残骸を集めた。
即ち、ドローン、ヴァルキリー5と呼ばれた砲戦型歪虚CAM、そして……上空で戦場を監視していた『鉄の鳥』。
その、事後調査を行う為だ。
「これは……無人偵察機?」
カールが、そんな推測を口にする。
墜落の衝撃でひしゃげた機体は、いつか映像で見た兵器と、一致する気がしたのだ。
「これで、砦を偵察していた訳ですか……」
と、霧華。傍らには、しょぼくれた様相のテトがぴったりと寄り添っている。
「恐らくは、歪虚ドローンに追跡用発信機が仕掛けられていた」険しい表情で語る、八重樫。
「つまり……あの『エンドレス』は、前の戦いの段階から、今回の襲撃を見越していた、と?」
カールの言葉に、八重樫は頷く。
横からアメリアがそっと彼に近づき、小さく囁いた。
「情報は多い方が良いです。敵の素性が分かれば傾向と対策も練れるはず」
「何が言いたい」
「お望みなら、私の心の中に留めて置くこともできます」
配慮を含んだ、詮索だった。
八重樫は……少し間を置いて、答えた。
それも、その場の全員に聞こえるように。
「あの歪虚ドローンのプレートは連合宙軍の装備管理番号を記したものだ。俺が知っている番号だった。
ヴァルキリー・ファイフというコールサインも、音声インターフェースの発言や声質も、それを裏付ける」
猟団員達さえも、驚愕の視線で八重樫を見つめたが……八重樫は変わらぬ仏頂面で、言葉を続けた。
「連合宙軍所属クンルン級宇宙揚陸艦『ヴァルハラ』。俺のかつての所属艦だ」
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 カール・フォルシアン(ka3702) 人間(リアルブルー)|13才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/10/30 07:32:43 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/10/26 08:39:48 |