ゲスト
(ka0000)
【深棲】帝国兵士の深刻ホームシック
マスター:旅硝子
- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
- 1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/07/31 19:00
- 完成日
- 2014/08/06 19:33
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
ゾンネンシュトラール帝国では、皇帝ウィルヘルミナの方針で積極的な派兵を行わないことに決めた――とは言っても、各師団の方針などで、いくらかの帝国軍兵士が同盟各都市や冒険都市リゼリオに送り込まれている。
そして。
彼らは今、深刻なホームシックに悩まされていた。
仮にも帝国兵士、母親が恋しくて泣いているわけではない。
今回は帝国とはあまり関係ない歪虚の襲来なので、妻や子どもを心配しているわけでもない。
ただ――合わなかった、のだ。
「毎日! 毎日毎日毎日毎日パスタだのリゾットだのパエリアだの! 芋が! 芋がねえ!」
「何でこんなに野菜多いんでしょうね……なのに芋は野菜の一部みたいな扱いだし……」
「羊肉が……羊肉がない……!」
「トマト味がくどすぎる……塩でいいんだよ塩で……」
「酒の度数が足りないんだよぉ!」
「ああ……帝国ご飯が懐かしい……」
「ふかした芋と焼いた羊に塩かけてかぶりつきたい……」
ついに兵士達は、本国に向けて陳情を出す。
事態を重く見た帝国では、芋と羊、そしてアクアヴィットなどの大量補給を行うと共に、APVを通じてハンター達に協力を要請。
曰く――『帝国軍兵士達の食生活の違いによるホームシックを改善せよ』。
というわけで、APV主催の一風変わった炊き出しが開催されることになったのだった。
そして。
彼らは今、深刻なホームシックに悩まされていた。
仮にも帝国兵士、母親が恋しくて泣いているわけではない。
今回は帝国とはあまり関係ない歪虚の襲来なので、妻や子どもを心配しているわけでもない。
ただ――合わなかった、のだ。
「毎日! 毎日毎日毎日毎日パスタだのリゾットだのパエリアだの! 芋が! 芋がねえ!」
「何でこんなに野菜多いんでしょうね……なのに芋は野菜の一部みたいな扱いだし……」
「羊肉が……羊肉がない……!」
「トマト味がくどすぎる……塩でいいんだよ塩で……」
「酒の度数が足りないんだよぉ!」
「ああ……帝国ご飯が懐かしい……」
「ふかした芋と焼いた羊に塩かけてかぶりつきたい……」
ついに兵士達は、本国に向けて陳情を出す。
事態を重く見た帝国では、芋と羊、そしてアクアヴィットなどの大量補給を行うと共に、APVを通じてハンター達に協力を要請。
曰く――『帝国軍兵士達の食生活の違いによるホームシックを改善せよ』。
というわけで、APV主催の一風変わった炊き出しが開催されることになったのだった。
リプレイ本文
依頼を聞いた杜郷零嗣(ka0003)は、言い放ったものである。
「郷土料理作るってどこから? 調味料から?」
帝国料理の調味料といえば塩。
そのままにしておいたら、海に行って天日塩作りとか山に行って岩塩採取とかしそうだったので、APVの担当者は慌てて止めた。
「おいおい、普通こういった食事関係は備えておくべきだろう?」
依頼の内容に、柊 恭也(ka0711)の眉間に深い皺が刻まれる。
「衣食住、あるいは三大欲求。食は人生に密接に関わる重要な要素だ」
クリュ・コークス(ka0535)が顎に手を当て、うむと頷く。
「しかし同時に、食文化と言う言葉もあるように、食とは場所によって大きく異なる。なるほど、厄介な問題だ」
「そう。仮にも軍事国家なんだし、指揮に直結する食が如何に重要な事か理解してるだろうに。一体上層部は何考えてんだ……?」
「とにかくんなもん、美味いもん食って騒いでぶっ飛ばすっきゃねーだろ!」
考え込む恭也の隣で、ばん、と岩井崎 旭(ka0234)がテーブルを叩く。
「いや、ま、俺みたいな馬鹿に考えて分かる訳ねぇわな。それよか今は、戦いの準備をしねぇとな」
ふ、と息を吐いた恭也の隣で、勢い良く立ち上がる旭。
「つーわけで、祭りだ祭り!」
「兵達のホームシックを癒すべく、楽しい催し物になればいいのぅ」
ヴィルマ・ネーベル(ka2549)がきらきらと瞳を輝かせる。
「楽しくするためなら我は努力を惜しまないのじゃ」
「異世界の食べ物……どんな物か気になるのです♪」
立花 沙希(ka0168)がうんうんと頷き、どんな会場にしようかと紙にペンを走らせる。
「まずは兵士達に、郷土料理のレシピを聞いてくるのが良さそうだな」
零嗣の言葉をきっかけに、次々に生まれるアイディア。
「炊き出しと料理に関する催し物で、近隣の人にも帝国料理を知ってもらうのじゃ」
「帝国軍の兵士も巻き込んで、一緒に料理作ればいいんじゃね?」
「軍人の行動力と組織力に、バカ騒ぎに掛ける情熱が加わって暴走したらいいよな」
「見物客も多いでしょうから、椅子やテーブルは大目に用意したいですね」
「あとは、継続的な帝国料理の提供を実現したいな。ホームシックへの一時的な対策は確かに可能だろうが、やはり重要な問題だけに抜本的な解決が必要だろう」
次から次から溢れる提案を纏め上げ、ハンター達は頷きあう。
「ここまで考えたら、後は……」
「役割分担、だな」
ホームシック解消と帝国料理の安定供給、そして普及も目指して!
作戦――開始!
「つーか、食材が船で来てんだ船で。俺らが何人かでどーこーできるレベルじゃなくなってんだよ」
APVを通して帝国兵達との面談の機会を得た旭は、彼らを相手にそう力説していた。
「帝国料理のできそうな料理部隊、地元料理人や多くの人を迎える場所を確保する設営部隊、食って飲んで歌って騒ぐお祭り部隊……人手はいくらでもいるしな」
その熱のこもった言葉にも反応が薄い帝国兵達に、どうしたものかと顔を上げた旭は、思わずぎょっとした。
ぎらぎらとほの昏い情熱を湛えた瞳が、じっと旭を見つめていたのだ。
その情熱の正体は――食欲。
「帝国料理が食べられるのか……」
「も、もちろん!」
「腹いっぱい……」
「そうそう!飲んで喰らってお祭り騒ぎだ!」
「羊……芋……アクアヴィット……」
「だから船で用意してあるっていったろ?」
「うおおおお!!!」
突然の雄叫びに、思わず耳を塞ぐ旭。
「わかった! 我ら帝国軍リゼリオ派遣隊、全力で協力させて頂こう」
「おう! よろしく頼むぜ!」
熱狂の中、代表者と旭は固い握手を交わすのだった。
「ここも、駄目だったか……」
8軒目の料理屋を後にし、クリュは深い溜息を吐いた。
彼女の目的は、継続的な帝国料理の提供を実現すること。
すなわち、近くの料理屋で、帝国料理を作って提供してくれる場所を探すこと……なのだが。
帝国料理の悪いイメージは、既にリゼリオの料理人に定着してしまっているようで。
「うちでは、同盟の各地で修行した一流の料理人しか使っていませんので……」
申し訳なさそうに言われたが、帝国料理を見下しているのは明らかだった。
「同盟は貿易で益を挙げているのから、帝国の商人や兵も多数訪れると思うのだが……ふむ、次はこの店か」
気を取り直して、クリュは9軒目の扉を叩く。
「おっと、まだ準備中なんですが……」
現れた気の良さそうな店主が済まなさそうに頭を下げるのに、クリュは急いで用件を口にする。
「……帝国料理、ですか?」
言葉自体は、これまでの店で掛けられたものと同じ。
けれど、口ぶりは全く違う。興味を持ってくれたようだと、クリュは頷きさらに言葉を重ねる。
「現在訪れている帝国兵、またこれから訪れるであろう兵士や商人達が、客として見込めるだろう。詳しい話は……」
「そうですね、中で致しましょう」
案内された店の中は、素朴で小規模ながら居心地の良い空間だった。
「帝国料理は確かに荒削りですけどね。それだけに、進化の余地がたくさんあると思うんですよ」
テーブルに着いたクリュに茶と受け菓子を差し出しながら、店主はにっこりと笑う。
「そう言ってもらえると嬉しいな」
微笑みを浮かべて頷いたクリュも、帝国領の中に位置するエルフハイムの出身。帝国料理には馴染みがある。
「もちろん協力してもらえるならレシピも提供できる。『帝国料理が食べられる店』というのは十分な売りになるし」
「アレンジに成功すれば、現地や王国、同盟、それに辺境からの旅人も客として見込めますな」
「もちろん、帝国民に受け入れられるアレンジでお願いしたいのだが」
「勿論です。そうでなくては、帝国料理ではなくなりますからね。あとの問題は、材料の確保ですな……」
確かに帝国の外では羊肉や芋の生産量は、あまり高くない。
けれど。
「今回、そしてしばらくは、帝国から輸送された食材を使ってもらうことができる。今後も帝国料理を出してもらえるならば、手頃な値段で輸入できるようある程度の話はつけてあるんだ」
「それなら安心ですね」
頷いた店主が差し出した手を、クリュはしっかりと握って。
「良かったら、料理研究会にも出店してもらえたら嬉しい」
「では、それまでに研究を積んでおきましょう」
そう約束を交わして、クリュは懸念のなくなった心と新たな帝国料理への期待を抱えて仲間達の元に戻るのだった。
そして零嗣もせっせといろんな場所に足を運んでいた。
「あの芋と牛肉とか野菜とか煮込んだのはいいんだけどな……毎日食べるとくどいよ」
「なるほど、確かに帝国ではあまりない味だ」
兵士達が口々に言う食の不満を、零嗣は分析し書き留める。
聞き取りを終えて、礼を言って次に零嗣が向かうのは貿易商店、帝国で使われている調味料を買い付ける――大体塩とか胡椒なのだが、一応帝国で採れるハーブなども若干はある。
「あとは交流会に出てもらえる料理人を探して……ハンターズソサエティも帝国軍もそういうのは門外漢だからな……」
そうこうして皆が忙しく動き回っているうちに。
交流会前日である。
「くっくっく、久々に楽しくなってきたわ……!」
そう言って楽しげに笑った恭也が一緒に料理を作るよう帝国軍に話を付けに行き、沙希と旭は帝国兵達と共に設営を担当し、クリュは協力者となってくれた店主と打ち合わせ。零嗣はあちこちに呼ばれて駆け回っている。
「よろしく頼みますぞ。どうか来て下され!」
手書きのチラシを手に、ヴィルマはせっせと宣伝を行う。街角のあちこちには、やはりお手製のポスターが貼られて、人々がその前で足を止めていた。
(あわよくばこれを機に料理人に帝国家庭料理のレシピを知って興味を持ってもらい、ここら近辺の料理屋でも今後帝国料理を出してもらえるようになったらいいのぅ)
そう、ヴィルマは思いを馳せながら。
「あ、こちらは明日の料理研究会のチラシとなっていての……」
興味深げに見ていた人に、さっと声を掛けてチラシを渡す。料理研究会まで、もう少し。
――当日は、夏らしく綺麗に晴れ渡っていた。
「さぁ、いざ戦場へ……!」
恭也が、会場となる広場を前にニヤリと笑う。
会場には兵士達に帝国出身者をはじめとしたハンター達、それに住民達が集まり、既にいい香りが漂っていた。
楽しげな様子につられてか集まって来たパルム達が、ちょこちょこと辺りを見回しながら駆け回る。
「これより、料理対決を始めるッ!」
そう宣言したのは、マイク代わりに麺棒を握った旭である。
「同盟の材料で帝国料理を!」
零嗣があらかじめ仕込みをしておいた、帝国兵士からのリクエストに笑顔で頷いたのは、クリュが声を掛けていた店主だ。
「オリーブ油に代えて、獣脂をドバー……」
「今回はラードですね。さらにこれを……」
「追いトマトを追い胡椒に応用だぁ!」
出来上がっていくのはつやつやと熟成されたベーコンと、ジャガイモを材料としたニョッキ、トウモロコシを使いチーズを仕上げにかけた、変わり種のジャーマンポテト。
帝国の味には不慣れな店主を手伝って、クリュが味を見て帝国風の味に近づけていく。
「おお……同盟料理の味なのに、懐かしい……」
「芋だ、芋の味がする……」
「しかしくどいと思っていたが、チーズが意外とさっぱりしていていいな!」
帝国兵達がわいわいと料理に群がる様子に、観客達も興味深げに皿を取り、舌鼓を打つ。
その向こうのブースでは、興味を持った帝国兵達を集めて、恭也が料理教室を繰り広げていた。
「今回は切って焼いて漬けて煮る、簡単な料理をチョイスだ」
手際よく準備を整える恭也。今日のメニューはラムチョップのローズマリー焼きにラム肉とマッシュルームのシチュー、ジンギスカンにジャガイモのホイル焼き。
「このホイルは厚手の紙を水に濡らしたやつでも代用できるな」
「あー、こういうのは帝国にゃないからなぁ」
そう話しながら果物で風味をつけたタレに羊肉を漬け込み、マッシュルームの石突を取って大き目の一口大に切った羊肉と一緒に鍋に放り込む。
ジャガイモは焚き火の中に、アルミホイルで包んで、灰の中に埋まるようにして蒸し焼きにする。
塩胡椒を振ってローズマリーの香りを付けたラムチョップをフライパンに落とせば、ジュウといい音が辺りに響く。
手伝いを申し出たヴィルマが、シチューの味付けを確かめる。帝国暮らしは長いから、少しでも役に立とうと。
「ん。この素朴で懐かしい感じ、帝国の味じゃ」
塩と胡椒、いくつかのハーブでマッシュルームと羊肉を煮た、シンプルなもの。けれどその2つから出る出汁が、絶妙だ。
「折角違う所から来た人達との交流ですもの、お料理も混ぜても良いですよね♪」
郷土料理を少しアレンジしながら作っていた沙希が、ギャラリーにウィンクして取り出したのはオリーブオイル!
まず蒸かし芋をオリーブオイルで和えます。
次に、タレに浸け込んだ羊肉を……まぁ、端的に言うとジンギスカンをオリーブオイルで炒めます。
「魚介類をアクアヴィットで軽く蒸してオリーブオイルを振りかけるとか……オリーブオイルの揚げ物も良いですね♪」
あまりのオリーブオイル乱舞に驚く観客達だが、こちらでも使われるオリーブオイルの味に、帝国料理との合わせ技で慣れておくことは、これからの駐留の役に立つかもしれない。
「ぜひ皆さんに味見して貰うのです♪」
笑顔で沙希が差し出した皿に、恐る恐る手を付けて……けれどオリーブの香りが程よく漂うその味に、次々に観客達の手が伸びる。
用意した屋台では、リゼリオに店を持つ料理人が、自慢の腕を揮っている。
しかし、大規模な祭ともあれば喧嘩もつきもの。
「おい、今お前、何あの店の料理見て顔しかめてるんだよ! 同盟料理ならリゼリオで一番のシェフだぞ!?」
「いやぁ、またトマトかと思うとうんざりしてね」
「何だと!? 芋喰らいめが!」
「ああ!?」
睨み合いになった地元民と帝国兵の間に、すぐさまヴィルマが割り込む。
「ほれ、喧嘩をするでない。まぁ、互いに食べてみたらどうじゃ?」
「む……」
美女の笑顔とウィンクに、しぶしぶといった様子で地元民は帝国の、帝国兵は地元の料理を食べ――目を見開く。
「これは魚をトマトで煮たのか!? こんなサッパリしたのもあるんだな」
「へぇ、この漬けダレ、意外と深い味だな……このシチューもよく出汁が出てる」
先入観を取り払えば、どんな国の料理にもその美味しさがあるのだろう。
見れば、料理人もその様子に興味を持ったようである。ヴィルマの仲裁と、クリュが事前にしていた勧誘が上手く合わさったようであった。
「サラダにも使える新鮮謎野菜を煮込みと漬物に!」
「ウリの一種ですね。ビネガーで漬けたのと、魚介と煮込んだのがありますよ」
「そして塩ファサー!」
零嗣と店主が織りなすブースも大盛り上がりである。
そして、向こうの方には――折り重なり倒れる帝国兵の向こうに、『辛さに挑戦!』の立札、そして激辛カレーの鍋と行列。
沙希が用意したそれは、なんか帝国兵士のゲーム好き心を刺激してしまったらしい。賞品は名誉である。
つまりローコスト!
「こういうお祭りを定期的にやれば、帝国の人達の息抜きにもなりそうです」
あとで町と軍の責任者に提案してみようと、沙希は満足げに頷く。
さらに恭也と一緒に出来上がった帝国料理を感動に瞳を潤ませて食べている帝国兵達に、ヴィルマが声をかける。
「懐かしいじゃろ? 帝国の温かい家庭の味、しかと胃袋に収めるがいいのじゃ」
「ああ……たっぷり、いただくよ……」
「料理の腕に自信のある者は、材料も器具もあるでな、存分に腕をふるってここいらの人に作ってやると良い」
「んじゃ、もう少し作って振る舞うか」
一皿食べ終えた恭也が立ち上がり、また有志を募って調理台の前に立つ。
料理の皿が回り、アクアヴィットの瓶が開けられ、酔い潰れかけた兵士達を介抱したり、片づけをしたりと旭はまめに動き回って。
「楽しかったか?」
「ああ……最高だった」
そう頷く酔っ払った兵士に、旭は嬉しそうに笑う。
「次はあんたら自身でもやれるだろ。地元の連中だって、たぶん喜ぶと思うぜ」
ありがとう、と笑って、眠りに落ちた兵士を旭は横向きに寝かせてやった。
同盟自慢のリゾットで作り、具にチーズを詰めたおにぎりを、美味しそうに零嗣が頬張る。
「素材と腕が良いからどんな料理もやっぱり旨いな!」
そう、同盟の料理にフォローを入れた零嗣に、料理人がその通りだと頷く。
「そう、素材と腕があれば、どんな料理も旨いのさ。……帝国料理も、な」
ぱちりと瞬きしてからにっと笑った零嗣に、料理人は照れくさそうに目を逸らしながら、帝国料理の材料の輸入について、話を聞いて駆け寄ったクリュに尋ねるのだった――。
「郷土料理作るってどこから? 調味料から?」
帝国料理の調味料といえば塩。
そのままにしておいたら、海に行って天日塩作りとか山に行って岩塩採取とかしそうだったので、APVの担当者は慌てて止めた。
「おいおい、普通こういった食事関係は備えておくべきだろう?」
依頼の内容に、柊 恭也(ka0711)の眉間に深い皺が刻まれる。
「衣食住、あるいは三大欲求。食は人生に密接に関わる重要な要素だ」
クリュ・コークス(ka0535)が顎に手を当て、うむと頷く。
「しかし同時に、食文化と言う言葉もあるように、食とは場所によって大きく異なる。なるほど、厄介な問題だ」
「そう。仮にも軍事国家なんだし、指揮に直結する食が如何に重要な事か理解してるだろうに。一体上層部は何考えてんだ……?」
「とにかくんなもん、美味いもん食って騒いでぶっ飛ばすっきゃねーだろ!」
考え込む恭也の隣で、ばん、と岩井崎 旭(ka0234)がテーブルを叩く。
「いや、ま、俺みたいな馬鹿に考えて分かる訳ねぇわな。それよか今は、戦いの準備をしねぇとな」
ふ、と息を吐いた恭也の隣で、勢い良く立ち上がる旭。
「つーわけで、祭りだ祭り!」
「兵達のホームシックを癒すべく、楽しい催し物になればいいのぅ」
ヴィルマ・ネーベル(ka2549)がきらきらと瞳を輝かせる。
「楽しくするためなら我は努力を惜しまないのじゃ」
「異世界の食べ物……どんな物か気になるのです♪」
立花 沙希(ka0168)がうんうんと頷き、どんな会場にしようかと紙にペンを走らせる。
「まずは兵士達に、郷土料理のレシピを聞いてくるのが良さそうだな」
零嗣の言葉をきっかけに、次々に生まれるアイディア。
「炊き出しと料理に関する催し物で、近隣の人にも帝国料理を知ってもらうのじゃ」
「帝国軍の兵士も巻き込んで、一緒に料理作ればいいんじゃね?」
「軍人の行動力と組織力に、バカ騒ぎに掛ける情熱が加わって暴走したらいいよな」
「見物客も多いでしょうから、椅子やテーブルは大目に用意したいですね」
「あとは、継続的な帝国料理の提供を実現したいな。ホームシックへの一時的な対策は確かに可能だろうが、やはり重要な問題だけに抜本的な解決が必要だろう」
次から次から溢れる提案を纏め上げ、ハンター達は頷きあう。
「ここまで考えたら、後は……」
「役割分担、だな」
ホームシック解消と帝国料理の安定供給、そして普及も目指して!
作戦――開始!
「つーか、食材が船で来てんだ船で。俺らが何人かでどーこーできるレベルじゃなくなってんだよ」
APVを通して帝国兵達との面談の機会を得た旭は、彼らを相手にそう力説していた。
「帝国料理のできそうな料理部隊、地元料理人や多くの人を迎える場所を確保する設営部隊、食って飲んで歌って騒ぐお祭り部隊……人手はいくらでもいるしな」
その熱のこもった言葉にも反応が薄い帝国兵達に、どうしたものかと顔を上げた旭は、思わずぎょっとした。
ぎらぎらとほの昏い情熱を湛えた瞳が、じっと旭を見つめていたのだ。
その情熱の正体は――食欲。
「帝国料理が食べられるのか……」
「も、もちろん!」
「腹いっぱい……」
「そうそう!飲んで喰らってお祭り騒ぎだ!」
「羊……芋……アクアヴィット……」
「だから船で用意してあるっていったろ?」
「うおおおお!!!」
突然の雄叫びに、思わず耳を塞ぐ旭。
「わかった! 我ら帝国軍リゼリオ派遣隊、全力で協力させて頂こう」
「おう! よろしく頼むぜ!」
熱狂の中、代表者と旭は固い握手を交わすのだった。
「ここも、駄目だったか……」
8軒目の料理屋を後にし、クリュは深い溜息を吐いた。
彼女の目的は、継続的な帝国料理の提供を実現すること。
すなわち、近くの料理屋で、帝国料理を作って提供してくれる場所を探すこと……なのだが。
帝国料理の悪いイメージは、既にリゼリオの料理人に定着してしまっているようで。
「うちでは、同盟の各地で修行した一流の料理人しか使っていませんので……」
申し訳なさそうに言われたが、帝国料理を見下しているのは明らかだった。
「同盟は貿易で益を挙げているのから、帝国の商人や兵も多数訪れると思うのだが……ふむ、次はこの店か」
気を取り直して、クリュは9軒目の扉を叩く。
「おっと、まだ準備中なんですが……」
現れた気の良さそうな店主が済まなさそうに頭を下げるのに、クリュは急いで用件を口にする。
「……帝国料理、ですか?」
言葉自体は、これまでの店で掛けられたものと同じ。
けれど、口ぶりは全く違う。興味を持ってくれたようだと、クリュは頷きさらに言葉を重ねる。
「現在訪れている帝国兵、またこれから訪れるであろう兵士や商人達が、客として見込めるだろう。詳しい話は……」
「そうですね、中で致しましょう」
案内された店の中は、素朴で小規模ながら居心地の良い空間だった。
「帝国料理は確かに荒削りですけどね。それだけに、進化の余地がたくさんあると思うんですよ」
テーブルに着いたクリュに茶と受け菓子を差し出しながら、店主はにっこりと笑う。
「そう言ってもらえると嬉しいな」
微笑みを浮かべて頷いたクリュも、帝国領の中に位置するエルフハイムの出身。帝国料理には馴染みがある。
「もちろん協力してもらえるならレシピも提供できる。『帝国料理が食べられる店』というのは十分な売りになるし」
「アレンジに成功すれば、現地や王国、同盟、それに辺境からの旅人も客として見込めますな」
「もちろん、帝国民に受け入れられるアレンジでお願いしたいのだが」
「勿論です。そうでなくては、帝国料理ではなくなりますからね。あとの問題は、材料の確保ですな……」
確かに帝国の外では羊肉や芋の生産量は、あまり高くない。
けれど。
「今回、そしてしばらくは、帝国から輸送された食材を使ってもらうことができる。今後も帝国料理を出してもらえるならば、手頃な値段で輸入できるようある程度の話はつけてあるんだ」
「それなら安心ですね」
頷いた店主が差し出した手を、クリュはしっかりと握って。
「良かったら、料理研究会にも出店してもらえたら嬉しい」
「では、それまでに研究を積んでおきましょう」
そう約束を交わして、クリュは懸念のなくなった心と新たな帝国料理への期待を抱えて仲間達の元に戻るのだった。
そして零嗣もせっせといろんな場所に足を運んでいた。
「あの芋と牛肉とか野菜とか煮込んだのはいいんだけどな……毎日食べるとくどいよ」
「なるほど、確かに帝国ではあまりない味だ」
兵士達が口々に言う食の不満を、零嗣は分析し書き留める。
聞き取りを終えて、礼を言って次に零嗣が向かうのは貿易商店、帝国で使われている調味料を買い付ける――大体塩とか胡椒なのだが、一応帝国で採れるハーブなども若干はある。
「あとは交流会に出てもらえる料理人を探して……ハンターズソサエティも帝国軍もそういうのは門外漢だからな……」
そうこうして皆が忙しく動き回っているうちに。
交流会前日である。
「くっくっく、久々に楽しくなってきたわ……!」
そう言って楽しげに笑った恭也が一緒に料理を作るよう帝国軍に話を付けに行き、沙希と旭は帝国兵達と共に設営を担当し、クリュは協力者となってくれた店主と打ち合わせ。零嗣はあちこちに呼ばれて駆け回っている。
「よろしく頼みますぞ。どうか来て下され!」
手書きのチラシを手に、ヴィルマはせっせと宣伝を行う。街角のあちこちには、やはりお手製のポスターが貼られて、人々がその前で足を止めていた。
(あわよくばこれを機に料理人に帝国家庭料理のレシピを知って興味を持ってもらい、ここら近辺の料理屋でも今後帝国料理を出してもらえるようになったらいいのぅ)
そう、ヴィルマは思いを馳せながら。
「あ、こちらは明日の料理研究会のチラシとなっていての……」
興味深げに見ていた人に、さっと声を掛けてチラシを渡す。料理研究会まで、もう少し。
――当日は、夏らしく綺麗に晴れ渡っていた。
「さぁ、いざ戦場へ……!」
恭也が、会場となる広場を前にニヤリと笑う。
会場には兵士達に帝国出身者をはじめとしたハンター達、それに住民達が集まり、既にいい香りが漂っていた。
楽しげな様子につられてか集まって来たパルム達が、ちょこちょこと辺りを見回しながら駆け回る。
「これより、料理対決を始めるッ!」
そう宣言したのは、マイク代わりに麺棒を握った旭である。
「同盟の材料で帝国料理を!」
零嗣があらかじめ仕込みをしておいた、帝国兵士からのリクエストに笑顔で頷いたのは、クリュが声を掛けていた店主だ。
「オリーブ油に代えて、獣脂をドバー……」
「今回はラードですね。さらにこれを……」
「追いトマトを追い胡椒に応用だぁ!」
出来上がっていくのはつやつやと熟成されたベーコンと、ジャガイモを材料としたニョッキ、トウモロコシを使いチーズを仕上げにかけた、変わり種のジャーマンポテト。
帝国の味には不慣れな店主を手伝って、クリュが味を見て帝国風の味に近づけていく。
「おお……同盟料理の味なのに、懐かしい……」
「芋だ、芋の味がする……」
「しかしくどいと思っていたが、チーズが意外とさっぱりしていていいな!」
帝国兵達がわいわいと料理に群がる様子に、観客達も興味深げに皿を取り、舌鼓を打つ。
その向こうのブースでは、興味を持った帝国兵達を集めて、恭也が料理教室を繰り広げていた。
「今回は切って焼いて漬けて煮る、簡単な料理をチョイスだ」
手際よく準備を整える恭也。今日のメニューはラムチョップのローズマリー焼きにラム肉とマッシュルームのシチュー、ジンギスカンにジャガイモのホイル焼き。
「このホイルは厚手の紙を水に濡らしたやつでも代用できるな」
「あー、こういうのは帝国にゃないからなぁ」
そう話しながら果物で風味をつけたタレに羊肉を漬け込み、マッシュルームの石突を取って大き目の一口大に切った羊肉と一緒に鍋に放り込む。
ジャガイモは焚き火の中に、アルミホイルで包んで、灰の中に埋まるようにして蒸し焼きにする。
塩胡椒を振ってローズマリーの香りを付けたラムチョップをフライパンに落とせば、ジュウといい音が辺りに響く。
手伝いを申し出たヴィルマが、シチューの味付けを確かめる。帝国暮らしは長いから、少しでも役に立とうと。
「ん。この素朴で懐かしい感じ、帝国の味じゃ」
塩と胡椒、いくつかのハーブでマッシュルームと羊肉を煮た、シンプルなもの。けれどその2つから出る出汁が、絶妙だ。
「折角違う所から来た人達との交流ですもの、お料理も混ぜても良いですよね♪」
郷土料理を少しアレンジしながら作っていた沙希が、ギャラリーにウィンクして取り出したのはオリーブオイル!
まず蒸かし芋をオリーブオイルで和えます。
次に、タレに浸け込んだ羊肉を……まぁ、端的に言うとジンギスカンをオリーブオイルで炒めます。
「魚介類をアクアヴィットで軽く蒸してオリーブオイルを振りかけるとか……オリーブオイルの揚げ物も良いですね♪」
あまりのオリーブオイル乱舞に驚く観客達だが、こちらでも使われるオリーブオイルの味に、帝国料理との合わせ技で慣れておくことは、これからの駐留の役に立つかもしれない。
「ぜひ皆さんに味見して貰うのです♪」
笑顔で沙希が差し出した皿に、恐る恐る手を付けて……けれどオリーブの香りが程よく漂うその味に、次々に観客達の手が伸びる。
用意した屋台では、リゼリオに店を持つ料理人が、自慢の腕を揮っている。
しかし、大規模な祭ともあれば喧嘩もつきもの。
「おい、今お前、何あの店の料理見て顔しかめてるんだよ! 同盟料理ならリゼリオで一番のシェフだぞ!?」
「いやぁ、またトマトかと思うとうんざりしてね」
「何だと!? 芋喰らいめが!」
「ああ!?」
睨み合いになった地元民と帝国兵の間に、すぐさまヴィルマが割り込む。
「ほれ、喧嘩をするでない。まぁ、互いに食べてみたらどうじゃ?」
「む……」
美女の笑顔とウィンクに、しぶしぶといった様子で地元民は帝国の、帝国兵は地元の料理を食べ――目を見開く。
「これは魚をトマトで煮たのか!? こんなサッパリしたのもあるんだな」
「へぇ、この漬けダレ、意外と深い味だな……このシチューもよく出汁が出てる」
先入観を取り払えば、どんな国の料理にもその美味しさがあるのだろう。
見れば、料理人もその様子に興味を持ったようである。ヴィルマの仲裁と、クリュが事前にしていた勧誘が上手く合わさったようであった。
「サラダにも使える新鮮謎野菜を煮込みと漬物に!」
「ウリの一種ですね。ビネガーで漬けたのと、魚介と煮込んだのがありますよ」
「そして塩ファサー!」
零嗣と店主が織りなすブースも大盛り上がりである。
そして、向こうの方には――折り重なり倒れる帝国兵の向こうに、『辛さに挑戦!』の立札、そして激辛カレーの鍋と行列。
沙希が用意したそれは、なんか帝国兵士のゲーム好き心を刺激してしまったらしい。賞品は名誉である。
つまりローコスト!
「こういうお祭りを定期的にやれば、帝国の人達の息抜きにもなりそうです」
あとで町と軍の責任者に提案してみようと、沙希は満足げに頷く。
さらに恭也と一緒に出来上がった帝国料理を感動に瞳を潤ませて食べている帝国兵達に、ヴィルマが声をかける。
「懐かしいじゃろ? 帝国の温かい家庭の味、しかと胃袋に収めるがいいのじゃ」
「ああ……たっぷり、いただくよ……」
「料理の腕に自信のある者は、材料も器具もあるでな、存分に腕をふるってここいらの人に作ってやると良い」
「んじゃ、もう少し作って振る舞うか」
一皿食べ終えた恭也が立ち上がり、また有志を募って調理台の前に立つ。
料理の皿が回り、アクアヴィットの瓶が開けられ、酔い潰れかけた兵士達を介抱したり、片づけをしたりと旭はまめに動き回って。
「楽しかったか?」
「ああ……最高だった」
そう頷く酔っ払った兵士に、旭は嬉しそうに笑う。
「次はあんたら自身でもやれるだろ。地元の連中だって、たぶん喜ぶと思うぜ」
ありがとう、と笑って、眠りに落ちた兵士を旭は横向きに寝かせてやった。
同盟自慢のリゾットで作り、具にチーズを詰めたおにぎりを、美味しそうに零嗣が頬張る。
「素材と腕が良いからどんな料理もやっぱり旨いな!」
そう、同盟の料理にフォローを入れた零嗣に、料理人がその通りだと頷く。
「そう、素材と腕があれば、どんな料理も旨いのさ。……帝国料理も、な」
ぱちりと瞬きしてからにっと笑った零嗣に、料理人は照れくさそうに目を逸らしながら、帝国料理の材料の輸入について、話を聞いて駆け寄ったクリュに尋ねるのだった――。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 柊 恭也(ka0711) 人間(リアルブルー)|18才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2014/07/30 18:35:47 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/07/26 11:05:05 |