ゲスト
(ka0000)
【聖呪】制御なき獣の進軍
マスター:馬車猪

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/11/07 07:30
- 完成日
- 2015/11/13 03:27
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●森の奥の檻
「お止めください。奴等は制御できる存在ではありません」
茨小鬼が命を賭して諫言するが、装備の良い茨小鬼複数に取り押さえられた。
「手段を選ぶ余裕はないのだ」
風格のある茨小鬼が淡々と答え、柵を形作る丸太を1本引き抜いた。
丸太と丸太の隙間から、剛毛に覆われた腕が伸ばされ指揮官の喉を掴み、潰した。
大気が揺れる。
丸太で出来た柵の向こう側から、捕食者の唸りが轟き茨小鬼達の戦意を吹き飛ばす。
「逃げろ。逃げるんだ」
飼育担当者の警告は遅すぎた。
腕が死骸を中に引き入れる。
複数の何かが唸る音と死骸を奪い合い引き裂く音、骨と肉をかみ砕き嚥下する音が連続して聞こえ。
一際大きな手が丸太と丸太の間を押し広げた。
「熊?」
精鋭茨小鬼が目を見開いて見上げる。
餌が厳しく制限された結果、太い骨と筋肉だけが目立つようになった凶悪な外見。
眼光には鈍さが無くただただ鋭い。野生動物の目ではなく猟犬の目でもない戦士の目だ。
剛毛から微かに漏れている光は、一部の人間がまとう何かによく似ていた。
「逃げっ」
檻が内側から爆ぜた。
3メートル級の熊2体が迷い無く茨小鬼との距離を詰め、悲鳴をあげることすら許さず首をねじ切り引き抜く。
鳥も虫も息を潜めた森の中、飢えた熊が食らう音だけが響いていた。
●王都某所
グラムヘイズ王国北部で複数の謎生物が発見された。
異常な生命力を持つ熊、新種と見紛うほどの筋肉を持つ鳩。
未確認ではあるが、狼だか犬だか雑魔だか分からぬものまで徘徊しているようだ。
「あくまで一般論として述べますが」
王国軍の重鎮の前で、聖堂教会から派遣された司祭が説明を行っている。
「マテリアルは宿った対象を強化することがあります」
負のマテリアルは歪虚。
正のマテリアルは覚醒者。
では、歪虚ではないのに力を持つ謎生物達は?
「はい。茨小鬼のように強化された種だと思われます。はい、いいえ、高濃度正マテリアルの供給源となったものは既に存在しません。今いるものを倒せば、同種が再び発生する確率は激減するでしょう」
マテリアルの出所かどこだとか、立場上話せないことが多いので司祭の説明は不明瞭だ。
「はい。聖堂戦士団からも新たな援軍を……」
表情筋を駆使して笑顔を保ちながら、イコニア・カーナボン(kz0040)は聖堂戦士団だけでは足りないかもと考え始めていた。
●ハンターオフィス
警告音が一度だけ響く。
きっかり3秒後、10近い大型3Dディスプレイがオフィスの一角を占拠した。
「森?」
「録画か?」
王国北部を示す地図が1つ、森の中と思われる動画が7つ表示されている。
うち1つに突然激しく揺れる。まるで、撮影者が何かに襲われ逃走しているようだ。
「これ巻き戻ししてくんない?」
ハンターが職員に声をかけると、画面が揺れる直前まで巻き戻され停止し襲撃者の姿が明らかになる。
「熊か。にしちゃあ体格がおかしい。まるでアニメかコミックだ」
本物より猛猛しく戦闘に向いている。パニック映画でモンスター役をこなせそうだ。
「こっちは犬か?」
別のディスプレイでは、犬っぽい何かが木を蹴って三角飛びして猪の首をかみ切っている。
「立体攻撃と部位狙いかよ。おっかねぇ」
「こっちの熊もどき、マテリアルヒーリング使ってるわよ。一度の回復量は小さいみたいだけど、これって逃がしたら無傷になった熊が復讐戦しかけてくるってことよね」
ハンター達の表情は暗い。
平地で戦うならいくらでもやりようがあるが、相手に地の利がある森の中での戦闘は、かなり面倒な展開になってしまいそうだ。
「依頼内容は聖堂戦士団と組んでの山狩り、ねぇ」
依頼票本体が映ったディスプレイへ視線が集中する。
友軍の数が多く個々の練度も低くはないのだが、装備や編成に違和感がある。
「こいつら勢子としてしか使えないんじゃねーの?」
「うん、平地での歪虚相手の戦争と勘違いしてるみたい」
既に彼等は現地にいる。今から装備や編成の変更を助言しても効果が無いかもしれない。
王国北部を表す地図に熊と犬を表すシンボルが現れる。
それはゆっくりと、しかし着実に速度を増して、聖堂戦士団がつくる防衛線の隙間へ向かっていた。
「お止めください。奴等は制御できる存在ではありません」
茨小鬼が命を賭して諫言するが、装備の良い茨小鬼複数に取り押さえられた。
「手段を選ぶ余裕はないのだ」
風格のある茨小鬼が淡々と答え、柵を形作る丸太を1本引き抜いた。
丸太と丸太の隙間から、剛毛に覆われた腕が伸ばされ指揮官の喉を掴み、潰した。
大気が揺れる。
丸太で出来た柵の向こう側から、捕食者の唸りが轟き茨小鬼達の戦意を吹き飛ばす。
「逃げろ。逃げるんだ」
飼育担当者の警告は遅すぎた。
腕が死骸を中に引き入れる。
複数の何かが唸る音と死骸を奪い合い引き裂く音、骨と肉をかみ砕き嚥下する音が連続して聞こえ。
一際大きな手が丸太と丸太の間を押し広げた。
「熊?」
精鋭茨小鬼が目を見開いて見上げる。
餌が厳しく制限された結果、太い骨と筋肉だけが目立つようになった凶悪な外見。
眼光には鈍さが無くただただ鋭い。野生動物の目ではなく猟犬の目でもない戦士の目だ。
剛毛から微かに漏れている光は、一部の人間がまとう何かによく似ていた。
「逃げっ」
檻が内側から爆ぜた。
3メートル級の熊2体が迷い無く茨小鬼との距離を詰め、悲鳴をあげることすら許さず首をねじ切り引き抜く。
鳥も虫も息を潜めた森の中、飢えた熊が食らう音だけが響いていた。
●王都某所
グラムヘイズ王国北部で複数の謎生物が発見された。
異常な生命力を持つ熊、新種と見紛うほどの筋肉を持つ鳩。
未確認ではあるが、狼だか犬だか雑魔だか分からぬものまで徘徊しているようだ。
「あくまで一般論として述べますが」
王国軍の重鎮の前で、聖堂教会から派遣された司祭が説明を行っている。
「マテリアルは宿った対象を強化することがあります」
負のマテリアルは歪虚。
正のマテリアルは覚醒者。
では、歪虚ではないのに力を持つ謎生物達は?
「はい。茨小鬼のように強化された種だと思われます。はい、いいえ、高濃度正マテリアルの供給源となったものは既に存在しません。今いるものを倒せば、同種が再び発生する確率は激減するでしょう」
マテリアルの出所かどこだとか、立場上話せないことが多いので司祭の説明は不明瞭だ。
「はい。聖堂戦士団からも新たな援軍を……」
表情筋を駆使して笑顔を保ちながら、イコニア・カーナボン(kz0040)は聖堂戦士団だけでは足りないかもと考え始めていた。
●ハンターオフィス
警告音が一度だけ響く。
きっかり3秒後、10近い大型3Dディスプレイがオフィスの一角を占拠した。
「森?」
「録画か?」
王国北部を示す地図が1つ、森の中と思われる動画が7つ表示されている。
うち1つに突然激しく揺れる。まるで、撮影者が何かに襲われ逃走しているようだ。
「これ巻き戻ししてくんない?」
ハンターが職員に声をかけると、画面が揺れる直前まで巻き戻され停止し襲撃者の姿が明らかになる。
「熊か。にしちゃあ体格がおかしい。まるでアニメかコミックだ」
本物より猛猛しく戦闘に向いている。パニック映画でモンスター役をこなせそうだ。
「こっちは犬か?」
別のディスプレイでは、犬っぽい何かが木を蹴って三角飛びして猪の首をかみ切っている。
「立体攻撃と部位狙いかよ。おっかねぇ」
「こっちの熊もどき、マテリアルヒーリング使ってるわよ。一度の回復量は小さいみたいだけど、これって逃がしたら無傷になった熊が復讐戦しかけてくるってことよね」
ハンター達の表情は暗い。
平地で戦うならいくらでもやりようがあるが、相手に地の利がある森の中での戦闘は、かなり面倒な展開になってしまいそうだ。
「依頼内容は聖堂戦士団と組んでの山狩り、ねぇ」
依頼票本体が映ったディスプレイへ視線が集中する。
友軍の数が多く個々の練度も低くはないのだが、装備や編成に違和感がある。
「こいつら勢子としてしか使えないんじゃねーの?」
「うん、平地での歪虚相手の戦争と勘違いしてるみたい」
既に彼等は現地にいる。今から装備や編成の変更を助言しても効果が無いかもしれない。
王国北部を表す地図に熊と犬を表すシンボルが現れる。
それはゆっくりと、しかし着実に速度を増して、聖堂戦士団がつくる防衛線の隙間へ向かっていた。
リプレイ本文
大柄な鬼が直進する。
丈の低い草を踏みつぶし、太い枝から垂れ下がる蔦を手で押しのける。
岩井崎 旭(ka0234)が目礼し、旭の戦馬が危なげなくイッカク(ka5625)の脇を通り抜けると視界が一気に開けた。
湿って冷たい森が広がっている。
遠くから聞こえてくるのは鎧が一方的に打たれる音。間近に見えるのは、最高のブリーダーでも難しいほど逞しく育った犬。
ドーベルマンに似た犬の反応は異様に素早く、視認直後に馬の喉目がけて跳んだ。
ゴースロン種のシーザーは、一切慌てず前に出た。
回避が難しい距離とタイミングだが全く問題ない。鞍の上の旭が軽く手を振る。犬が喉を打たれて体勢を崩し、慌てて体を捻ってなんとか着地した。
即座に反転しシーザーを追おうとするが、何もかもが遅すぎた。
「尻ぃ向けんな」
イッカクが仕掛ける。
雄偉な体格を守るのは天目一箇。
超重量級の板金鎧に相当する鎧は酷く重く、イッカクの体力でも速度が鈍る。
「臭ぇだろ」
斬馬刀をただの刀の如く扱い抜刀。
丹田から神経、神経から四肢にマテリアルを淀みなく循環させ、素晴らしい速度で分厚い刃を叩きつけた。
「ちっ」
緑が邪魔で狙いが微かにずれていた。
切っ先が犬の骨に当たって折って勢いが弱まり、肉と毛皮を削ぎ落として地面に突き立つ。
犬は吠えない。血走った目で方向転換し攻撃直後のイッカクを狙う。
「効くかよ」
イッカクは避けようともせず、ほんの少しだけ体を前に倒す。
喉元を狙った牙がずれて肩の装甲に当たり、表面を削っただけではね返された。
勝てない。犬がそう判断したときには手遅れだった。
イッカクは振り下ろした動作で距離を詰めている。犬は旭から逃げようとすればイッカクに向かわざるを得ず、イッカクから逃げようとすれば旭に向かわざるを得ない。
立つ尽くす犬の首に、止めの刃が繰り出された。
「先に行け」
血塗れの刃を手に促す。
重装備故速度は出ないし、悪路すらない戦場でシーザーに2人乗りするのは危険過ぎる。
旭は無言でうなずく、トランシーバーとイコニアを含む面倒事をイッカクに任せ、加速した。
草、枝、幹、根、あらゆるものが危険な障害となって牙を剥く。
シーザーだけでは数度蹴躓いてもおかしくなかったろう。旭が優れた知覚で気づいて誘導し、容易くはないが無理なく回避に成功。聖堂戦士団に追いつき追い越した。
「ハンターだ。援護する」
戸惑う重装クルセイダーを見て言葉を添える。
「こっちの代表は司祭のイコニアだ。文句はそっちに言ってくれ」
主が言葉をはっするときもシーザーの足は止まらない。
人間共の相手をすり抜け、常に聖堂戦士団を押していた犬の前に立ちふさがる。
「犬のストライダーか、やっかいな」
パリィグローブの濃密なマテリアルを纏わせ突く。
丁度犬の攻撃のタイミングどかち合う形になる。当たれば重傷以上だったろうが、衝突直前に犬が横へ逸れて回避されてしまう。
「だがな、こちとら鳥人間のベルセルクだぜ! 簡単に負けてられっかよッ!!」
犬の追撃を軽々と回避、距離は詰めずに戦槍を横に振るう。
飛び退こうとした犬の足を強く打ち、甲高い悲鳴をあげさせた。
「奥にもう1頭か」
1頭も逃がす気はないが、戦いが長引きく予感があった。
●
トランシーバーの向こうは混乱しっぱなしだ。
頻繁に通話途絶するのは隔意ではなく機械音痴が原因だ。イコニア経由のイッカクの助言がなければ、会話自体が成り立たなかったもしれない悲惨さだ。
「指示が半分伝わっていれば奇跡か?」
ボルディア・コンフラムス(ka0796)が不愉快そうに吐き捨てる。
ただし目には楽しげな光があり、口角は上がっている。
戦馬は無言で北へ進む。
大型熊と聖堂戦士団との争いに割り込む程度簡単だけれども、今は他にやるべきことがある。
「今夜は熊鍋だな」
肩にハルバードを担ぎ、装備した全身鎧の重さを感じさせない動きで馬から飛び降りた。
「俺に何頭かまわせ。全部でもいいぞ」
闘争への期待でマテリアルが活性化。
「援護は頼むぜ」
傷跡まみれでも闘志を失っていない聖導士に声をかけ、横をすり抜けて最前列へ。
見上げるほどの大きさな熊が、鼻息粗く逞しい腕を振った。
黄金の刃が震えて熊の爪先が砕けた。熊の腕に力がこもり、ボルディアの熱がさらに増す。
「この前の鳩よりは楽しませてくれそうだなぁ」
最低でも5倍以上の体重差があるのに押し負けていない。
にやりと笑い、押し込んで仰け反らせ、祖霊と自身の力を刃に込める。
熊の爪が折れて吹き飛ぶ。太い腕が弾かれ、無防備な胸部が晒された。
「テメェと俺、どっちが強ぇか試してみようぜ!?」
突く。
力と速度は圧倒的で熊に回避を許さない。
強靱な毛も、分厚い皮膚と脂肪も容易く貫通し、熊の腹部を貫いた。
熊が吠える。痛みを激怒で塗りつぶし、両手を重ねてボルディアの頭部を粉砕しようと振り下ろす。
大振りに当たるほど甘くはない。けれど左右から別の熊が接近し、絶妙な時間差で拳を突き出してくる。
右からのは長柄で弾く。柄を通じた衝撃で手が痛む。
左からの拳は回避に失敗し、不運にも装甲の隙間を抉って肌に届いた。
ボルディアが纏う炎が揺れる。熊腕が引き抜かれる側から炎が傷口に集中し再生させていく。
「オラ来いよ!」
ハルバードが旋回し、熊の頭を張り飛ばした。
その数メートル後方で、ロニ・カルディス(ka0551)が駆けていた。
血の臭いが濃すぎる。体に纏わり付いて離れないようにすら感じられる。
「負傷者は集まれ。この場で負傷をおして戦うのは自己満足にすぎないと自覚しろ」
強い口調で命令する。
言葉は叱責でも込められた感情は共感に近かった。
装甲の隙間に草や枯葉が詰まった戦士が、前線から這うように下がりしてロニに近づく。
「ヒーリングスフィアの効果範囲は分かっているな?」
10人以上に対し癒しの術を行使する。
柔らかな光に照らされ傷が消えていく。しかし元が多すぎ深すぎるため全快には至らない。
「後1頭食い止めます!」
聖導士が再度前に出ようとする。
「動くなと言っている」
ロニは、殺気に限りなく近いものを叩きつけた。
近くにいる熊は4頭。うち3頭はボルディアが引きつけているが、1頭はハンターを警戒しながら力を溜めている。
「もう二度と、俺のような者を生ませぬ」
口の中だけでつぶやき、4頭目の頭にシャドウブリットを当てた。
熊の目が見開かれる。牙を剥き出しにしてロニに向かってきたので、ロニは聖堂戦士団を置き去りにして前に進み出た。
しかし攻撃はしない。再度のヒーリングスフィアで、一時は全滅済んでまで追い込まれた隊を骨折程度の状態にまで回復させる。
熊が地面を蹴りロニに急接近する。
高位覚醒者であるロニでも、当たれば深い傷をおいかねないだけの速度と重さがあった。
銃声が響く。熊の分厚い毛皮に穴が開く。
銃としては破格の威力だ。しかし熊に与えた影響は見た目以上に大きい。
弾に込められた冷たいマテリアルが溶け出し神経を冒し、熊の動きが鈍っていく。
『動かれると狙い辛いから、近づくなら足止めに徹して頂戴』
トランシーバー越しの白金 綾瀬(ka0774)の声によって聖堂戦士団の足が止まる。
熊が跳びかかる。狙いが甘すぎロニは余裕で躱す。ロニにより完全回復した戦士団が動き始める。
『相手もデカイしちょっと遠いけど……当てて見せる』
綾瀬は後方で戦馬にまたがったまま、決して軽くはない魔導銃を微動だにさせず、撫でるような力で引き金を引いた。
熊の上半身が揺れる。
胸肉の奥深くまで銃弾がめり込み、どろりと赤黒い体液がこぼれた。
そこでようやく聖堂戦士団が完全回復し、森で使うには大きすぎる長弓で矢を放ち、同じく扱いづらい棘付きメイスで殴りかかった。
「スコアの1つくらい譲ってあげないとね」
この依頼では勝利すれば報酬は手に入る。聖堂戦士団に花を持たせてやっても問題はないだろう。
綾瀬は銃口をずらしてボルディアの至近にいる熊に狙いを付けた。
「がら空きね」
ボルディアの猛攻に気をとられ、無防備に背中を晒していた。
引き金を引いてリロード。
銃弾が背中から肩に抜け、一瞬硬直したところをハルバードで首を狩られた。
「後は2頭」
ボルディアが横に跳ぶ。
追いかけるようにロニによる癒しの光が届き、体についた傷が綺麗に消えた。
「狙い撃つわ!」
右の熊に向け1発。
弾は枝と枝の間をすり抜けるように飛び血塗れの米神に到達する。
ハルバードによる切れ目が広がる。頭蓋にめり込み脳に届き、衝撃で以て内側から破壊した。
残る1頭がボルディアに背を向け、背を刻まれながら北に向け逃げる。
「逃がすわけにはいかないわ」
熊の足先に当てて動きを止めてる。ハルバードが熊の頭をかち割るまで、1秒もかからなかった。
●
並みの雑魔を超える熊4犬3の戦場の側に、犬はいないが熊6頭が荒れ狂う戦場が存在した。
熊6頭が南への前進を加速。
聖堂戦士団の隊列が崩れて南に押し込まれ、しかし1カ所だけが崩れない。
大熊が体当たりして跳ね返される。
別の大熊が二方向から熊パンチを繰り出すたびに、ミットではなく分厚い盾に防がれた。
「エクラの光に歪み無し!」
木漏れ日が白銀の鎧を照らす。
「我が信仰に揺ぎ無し!」
大重量な割りに細長い、つまり扱い辛い盾を素早く動かし熊の手と足と体当たりを受け止める。
「エクラの信徒を傷つけんとする災いを取り除くのだ!」
銀の剣から強烈な光が水平に広がる。セリス・アルマーズ(ka1079)を迂回しようとしていた熊にも当たり、合計6頭の注意がセリス1人に向いた。
「いざあぁぁ!!」
この状況で前に踏み出すセリスの姿が、聖堂戦士団と戦士団に近い価値観を持つ男共に火をつけた。
「兄弟に続け!」
「エクラ! エクラ!」
退けていた腰が据わって隊列が安定し、セリスの左右を固めてじりじりと前進し始めた。
「酷い戦い方」
後方で犬養 菜摘(ka3996)が眉をひそめていた。
逃げ腰よりましだけれども、つまずいたり左右の味方が邪魔になったりで、辛うじてセリスの邪魔になっていないだけだ。
右端の熊の動きが変わった。
攻撃してもろくに通じず、たまに通じても自己回復するセリスを避けて無様な隊列を蹂躙しようとしていた。
「警戒」
菜摘の足下で、柴犬とシェパードが息を殺してそれぞれ右と左を伺った。
2頭とも怯えが滲んでいる。ハンターの戦いに巻き込まれたら即死か大怪我確実なので、この程度なら十分忠誠心に溢れているといえる。
呼吸が小さくなり、銃口がほぼ完全な静止状態になる。戦士団の隊列の上に熊の上半身が見えた。
引き金に触れる。
火薬と同時にマテリアルが爆発し、残滓が銃身に刻まれた文字から滲む。
銃弾は直線を描いて熊との距離を0にし、熊の眉間近くが弾ける。
頭蓋の一部が欠損、頭蓋の中身がどろりとこぼれた。
「やった!」
歓声は戦士団しかあげなかった。
「ステイ! 敵は健在よ」
詳しく解説してやりたくても時間が無い。
犬養は銃口を左にずらし、戦士団を突破しかけている熊に向け引き金を引いた。
銃床が肩に押しつけられる。威力を強化した分反動も強く、覚醒前なら扱い切れなかったかもしれない。
もっとも強化しただけの価値はあり、弾が熊の腹肉と脂肪を貫通して背中で止まった。
大熊が血走った目で菜摘を凝視する。戦士団は熊の勢いを止められず、1頭の大熊と菜摘の間の障害が皆無になった。
「銃をかいくぐってここまでこられれば鉈を抜くしかない。ほぼ死んだようなものね」
菜摘がつぶやき2種の犬が覚悟を決めた。
が、犬が我が身を盾にするよりも速く、3度目の銃声が森の中に響いた。
大熊が棒立ちになり、左の眼窩から眼球と脳のミックスジュースを噴出する。
「接触までに3発当てるはずが1発で済んだわ」
安堵する犬を放置し、菜摘は次の熊に狙いをつけた。
最前線では大きな変化がうまれていた。
『錬金術師が仕掛けるから騎士団は散開。散開してくださいっ』
複数のトランシーバーからイコニアの声が流れてから丁度3秒後。極太の横向き火柱が戦場に出現した。
炎は強く渦巻いている。聖堂戦士団は驚き戸惑うが熊の混乱はさらに酷い。
背中を焼かれ、退路である北を焔に塞がれ、目の前の聖導士に効果の薄い攻撃をするしか出来なくなった。
「まとめて熊のローストにしてやるぜ」
柊 真司(ka0705)が森の奥から現れる。ジェットブーツを使い、生身で馬に匹敵する速度を得て回り込んだのだ。
杖型魔導計算機に濃厚なマテリアルを流し込み、焔属性と一定距離の移動の性質を持たせ解放する。
再び焔が巻き起こる。
枯れ草にはわずかな熱すら与えず、術者である真司が敵とした相手にだけ膨大な熱量を与え、焼いた。
毛が燃える。脂が燃える。肉が血液を含んだまま固まっていく。
苦悶する熊の群れを見て、覚悟が決まっているはずの戦士団が怯んだ。
「あと少しだ。最後の最後で油断するなんて無様晒したら一生笑ってやるぞ」
わざと挑発する。
「言ったな」
「炎を意識して熊の退路を塞げ。悔しいなら行動で示すんだ!」
戦士団が左右に広がり、大熊の逃げ場を完璧に塞いだ。
真司が一瞬右の戦場に目を向けると、旭が最後の犬に止めを刺すところだった。
「燃えろ」
炎が熊を焼く。
逃げようとする熊をメイスの林がつついて追い返す。
炎が晴れたときには、消し炭だけが森の中に残されていた。
●
同日夜。王都聖堂教会応接室。
貴金属や宝石を使われていないだけで、絨毯、長椅子、テーブル、ランプの全てが選りすぐりの一品だった。
セリスは無言で紅茶を飲み干し、音をたてずに白磁のカップをソーサーに戻す。
「終わったわね」
「はい」
イコニアが神妙にうなずいた。
理解した上で裏の事情を言わないでいてくれるセリスが、有り難かった。
「ねぇイコニア君。ちょっとまずいんじゃない?」
「え」
聖女の件を持ち出されるのかと思い、冷や汗をかく。
「そうじゃなくて。私、聖堂戦士でもなくて民間の信徒なんだけど」
あのまま聖堂戦士団を教会まで引率してきたことを指摘する。
「戦士団の人に気づかれても怒られませんよ」
気づかれたら戦士団入りと戦士団専業を熱烈に勧められるだろうけども口にはしない。
「1つ気になってたんだ」
真司がけちのつけようのない所作でカップを置く。
「第2第3の同種の動物に対する備えは必要ないのか?」
イコニアが凍り付いた。
「報告と対策の提案は任せたぜ。頑張れ中間管理職、期待してる」
ハンター達が去った後、イコニアは報告書の書き直しその他に涙目でとりかかる。
少なくとも現時点では、同種の生物は目撃されていない。
丈の低い草を踏みつぶし、太い枝から垂れ下がる蔦を手で押しのける。
岩井崎 旭(ka0234)が目礼し、旭の戦馬が危なげなくイッカク(ka5625)の脇を通り抜けると視界が一気に開けた。
湿って冷たい森が広がっている。
遠くから聞こえてくるのは鎧が一方的に打たれる音。間近に見えるのは、最高のブリーダーでも難しいほど逞しく育った犬。
ドーベルマンに似た犬の反応は異様に素早く、視認直後に馬の喉目がけて跳んだ。
ゴースロン種のシーザーは、一切慌てず前に出た。
回避が難しい距離とタイミングだが全く問題ない。鞍の上の旭が軽く手を振る。犬が喉を打たれて体勢を崩し、慌てて体を捻ってなんとか着地した。
即座に反転しシーザーを追おうとするが、何もかもが遅すぎた。
「尻ぃ向けんな」
イッカクが仕掛ける。
雄偉な体格を守るのは天目一箇。
超重量級の板金鎧に相当する鎧は酷く重く、イッカクの体力でも速度が鈍る。
「臭ぇだろ」
斬馬刀をただの刀の如く扱い抜刀。
丹田から神経、神経から四肢にマテリアルを淀みなく循環させ、素晴らしい速度で分厚い刃を叩きつけた。
「ちっ」
緑が邪魔で狙いが微かにずれていた。
切っ先が犬の骨に当たって折って勢いが弱まり、肉と毛皮を削ぎ落として地面に突き立つ。
犬は吠えない。血走った目で方向転換し攻撃直後のイッカクを狙う。
「効くかよ」
イッカクは避けようともせず、ほんの少しだけ体を前に倒す。
喉元を狙った牙がずれて肩の装甲に当たり、表面を削っただけではね返された。
勝てない。犬がそう判断したときには手遅れだった。
イッカクは振り下ろした動作で距離を詰めている。犬は旭から逃げようとすればイッカクに向かわざるを得ず、イッカクから逃げようとすれば旭に向かわざるを得ない。
立つ尽くす犬の首に、止めの刃が繰り出された。
「先に行け」
血塗れの刃を手に促す。
重装備故速度は出ないし、悪路すらない戦場でシーザーに2人乗りするのは危険過ぎる。
旭は無言でうなずく、トランシーバーとイコニアを含む面倒事をイッカクに任せ、加速した。
草、枝、幹、根、あらゆるものが危険な障害となって牙を剥く。
シーザーだけでは数度蹴躓いてもおかしくなかったろう。旭が優れた知覚で気づいて誘導し、容易くはないが無理なく回避に成功。聖堂戦士団に追いつき追い越した。
「ハンターだ。援護する」
戸惑う重装クルセイダーを見て言葉を添える。
「こっちの代表は司祭のイコニアだ。文句はそっちに言ってくれ」
主が言葉をはっするときもシーザーの足は止まらない。
人間共の相手をすり抜け、常に聖堂戦士団を押していた犬の前に立ちふさがる。
「犬のストライダーか、やっかいな」
パリィグローブの濃密なマテリアルを纏わせ突く。
丁度犬の攻撃のタイミングどかち合う形になる。当たれば重傷以上だったろうが、衝突直前に犬が横へ逸れて回避されてしまう。
「だがな、こちとら鳥人間のベルセルクだぜ! 簡単に負けてられっかよッ!!」
犬の追撃を軽々と回避、距離は詰めずに戦槍を横に振るう。
飛び退こうとした犬の足を強く打ち、甲高い悲鳴をあげさせた。
「奥にもう1頭か」
1頭も逃がす気はないが、戦いが長引きく予感があった。
●
トランシーバーの向こうは混乱しっぱなしだ。
頻繁に通話途絶するのは隔意ではなく機械音痴が原因だ。イコニア経由のイッカクの助言がなければ、会話自体が成り立たなかったもしれない悲惨さだ。
「指示が半分伝わっていれば奇跡か?」
ボルディア・コンフラムス(ka0796)が不愉快そうに吐き捨てる。
ただし目には楽しげな光があり、口角は上がっている。
戦馬は無言で北へ進む。
大型熊と聖堂戦士団との争いに割り込む程度簡単だけれども、今は他にやるべきことがある。
「今夜は熊鍋だな」
肩にハルバードを担ぎ、装備した全身鎧の重さを感じさせない動きで馬から飛び降りた。
「俺に何頭かまわせ。全部でもいいぞ」
闘争への期待でマテリアルが活性化。
「援護は頼むぜ」
傷跡まみれでも闘志を失っていない聖導士に声をかけ、横をすり抜けて最前列へ。
見上げるほどの大きさな熊が、鼻息粗く逞しい腕を振った。
黄金の刃が震えて熊の爪先が砕けた。熊の腕に力がこもり、ボルディアの熱がさらに増す。
「この前の鳩よりは楽しませてくれそうだなぁ」
最低でも5倍以上の体重差があるのに押し負けていない。
にやりと笑い、押し込んで仰け反らせ、祖霊と自身の力を刃に込める。
熊の爪が折れて吹き飛ぶ。太い腕が弾かれ、無防備な胸部が晒された。
「テメェと俺、どっちが強ぇか試してみようぜ!?」
突く。
力と速度は圧倒的で熊に回避を許さない。
強靱な毛も、分厚い皮膚と脂肪も容易く貫通し、熊の腹部を貫いた。
熊が吠える。痛みを激怒で塗りつぶし、両手を重ねてボルディアの頭部を粉砕しようと振り下ろす。
大振りに当たるほど甘くはない。けれど左右から別の熊が接近し、絶妙な時間差で拳を突き出してくる。
右からのは長柄で弾く。柄を通じた衝撃で手が痛む。
左からの拳は回避に失敗し、不運にも装甲の隙間を抉って肌に届いた。
ボルディアが纏う炎が揺れる。熊腕が引き抜かれる側から炎が傷口に集中し再生させていく。
「オラ来いよ!」
ハルバードが旋回し、熊の頭を張り飛ばした。
その数メートル後方で、ロニ・カルディス(ka0551)が駆けていた。
血の臭いが濃すぎる。体に纏わり付いて離れないようにすら感じられる。
「負傷者は集まれ。この場で負傷をおして戦うのは自己満足にすぎないと自覚しろ」
強い口調で命令する。
言葉は叱責でも込められた感情は共感に近かった。
装甲の隙間に草や枯葉が詰まった戦士が、前線から這うように下がりしてロニに近づく。
「ヒーリングスフィアの効果範囲は分かっているな?」
10人以上に対し癒しの術を行使する。
柔らかな光に照らされ傷が消えていく。しかし元が多すぎ深すぎるため全快には至らない。
「後1頭食い止めます!」
聖導士が再度前に出ようとする。
「動くなと言っている」
ロニは、殺気に限りなく近いものを叩きつけた。
近くにいる熊は4頭。うち3頭はボルディアが引きつけているが、1頭はハンターを警戒しながら力を溜めている。
「もう二度と、俺のような者を生ませぬ」
口の中だけでつぶやき、4頭目の頭にシャドウブリットを当てた。
熊の目が見開かれる。牙を剥き出しにしてロニに向かってきたので、ロニは聖堂戦士団を置き去りにして前に進み出た。
しかし攻撃はしない。再度のヒーリングスフィアで、一時は全滅済んでまで追い込まれた隊を骨折程度の状態にまで回復させる。
熊が地面を蹴りロニに急接近する。
高位覚醒者であるロニでも、当たれば深い傷をおいかねないだけの速度と重さがあった。
銃声が響く。熊の分厚い毛皮に穴が開く。
銃としては破格の威力だ。しかし熊に与えた影響は見た目以上に大きい。
弾に込められた冷たいマテリアルが溶け出し神経を冒し、熊の動きが鈍っていく。
『動かれると狙い辛いから、近づくなら足止めに徹して頂戴』
トランシーバー越しの白金 綾瀬(ka0774)の声によって聖堂戦士団の足が止まる。
熊が跳びかかる。狙いが甘すぎロニは余裕で躱す。ロニにより完全回復した戦士団が動き始める。
『相手もデカイしちょっと遠いけど……当てて見せる』
綾瀬は後方で戦馬にまたがったまま、決して軽くはない魔導銃を微動だにさせず、撫でるような力で引き金を引いた。
熊の上半身が揺れる。
胸肉の奥深くまで銃弾がめり込み、どろりと赤黒い体液がこぼれた。
そこでようやく聖堂戦士団が完全回復し、森で使うには大きすぎる長弓で矢を放ち、同じく扱いづらい棘付きメイスで殴りかかった。
「スコアの1つくらい譲ってあげないとね」
この依頼では勝利すれば報酬は手に入る。聖堂戦士団に花を持たせてやっても問題はないだろう。
綾瀬は銃口をずらしてボルディアの至近にいる熊に狙いを付けた。
「がら空きね」
ボルディアの猛攻に気をとられ、無防備に背中を晒していた。
引き金を引いてリロード。
銃弾が背中から肩に抜け、一瞬硬直したところをハルバードで首を狩られた。
「後は2頭」
ボルディアが横に跳ぶ。
追いかけるようにロニによる癒しの光が届き、体についた傷が綺麗に消えた。
「狙い撃つわ!」
右の熊に向け1発。
弾は枝と枝の間をすり抜けるように飛び血塗れの米神に到達する。
ハルバードによる切れ目が広がる。頭蓋にめり込み脳に届き、衝撃で以て内側から破壊した。
残る1頭がボルディアに背を向け、背を刻まれながら北に向け逃げる。
「逃がすわけにはいかないわ」
熊の足先に当てて動きを止めてる。ハルバードが熊の頭をかち割るまで、1秒もかからなかった。
●
並みの雑魔を超える熊4犬3の戦場の側に、犬はいないが熊6頭が荒れ狂う戦場が存在した。
熊6頭が南への前進を加速。
聖堂戦士団の隊列が崩れて南に押し込まれ、しかし1カ所だけが崩れない。
大熊が体当たりして跳ね返される。
別の大熊が二方向から熊パンチを繰り出すたびに、ミットではなく分厚い盾に防がれた。
「エクラの光に歪み無し!」
木漏れ日が白銀の鎧を照らす。
「我が信仰に揺ぎ無し!」
大重量な割りに細長い、つまり扱い辛い盾を素早く動かし熊の手と足と体当たりを受け止める。
「エクラの信徒を傷つけんとする災いを取り除くのだ!」
銀の剣から強烈な光が水平に広がる。セリス・アルマーズ(ka1079)を迂回しようとしていた熊にも当たり、合計6頭の注意がセリス1人に向いた。
「いざあぁぁ!!」
この状況で前に踏み出すセリスの姿が、聖堂戦士団と戦士団に近い価値観を持つ男共に火をつけた。
「兄弟に続け!」
「エクラ! エクラ!」
退けていた腰が据わって隊列が安定し、セリスの左右を固めてじりじりと前進し始めた。
「酷い戦い方」
後方で犬養 菜摘(ka3996)が眉をひそめていた。
逃げ腰よりましだけれども、つまずいたり左右の味方が邪魔になったりで、辛うじてセリスの邪魔になっていないだけだ。
右端の熊の動きが変わった。
攻撃してもろくに通じず、たまに通じても自己回復するセリスを避けて無様な隊列を蹂躙しようとしていた。
「警戒」
菜摘の足下で、柴犬とシェパードが息を殺してそれぞれ右と左を伺った。
2頭とも怯えが滲んでいる。ハンターの戦いに巻き込まれたら即死か大怪我確実なので、この程度なら十分忠誠心に溢れているといえる。
呼吸が小さくなり、銃口がほぼ完全な静止状態になる。戦士団の隊列の上に熊の上半身が見えた。
引き金に触れる。
火薬と同時にマテリアルが爆発し、残滓が銃身に刻まれた文字から滲む。
銃弾は直線を描いて熊との距離を0にし、熊の眉間近くが弾ける。
頭蓋の一部が欠損、頭蓋の中身がどろりとこぼれた。
「やった!」
歓声は戦士団しかあげなかった。
「ステイ! 敵は健在よ」
詳しく解説してやりたくても時間が無い。
犬養は銃口を左にずらし、戦士団を突破しかけている熊に向け引き金を引いた。
銃床が肩に押しつけられる。威力を強化した分反動も強く、覚醒前なら扱い切れなかったかもしれない。
もっとも強化しただけの価値はあり、弾が熊の腹肉と脂肪を貫通して背中で止まった。
大熊が血走った目で菜摘を凝視する。戦士団は熊の勢いを止められず、1頭の大熊と菜摘の間の障害が皆無になった。
「銃をかいくぐってここまでこられれば鉈を抜くしかない。ほぼ死んだようなものね」
菜摘がつぶやき2種の犬が覚悟を決めた。
が、犬が我が身を盾にするよりも速く、3度目の銃声が森の中に響いた。
大熊が棒立ちになり、左の眼窩から眼球と脳のミックスジュースを噴出する。
「接触までに3発当てるはずが1発で済んだわ」
安堵する犬を放置し、菜摘は次の熊に狙いをつけた。
最前線では大きな変化がうまれていた。
『錬金術師が仕掛けるから騎士団は散開。散開してくださいっ』
複数のトランシーバーからイコニアの声が流れてから丁度3秒後。極太の横向き火柱が戦場に出現した。
炎は強く渦巻いている。聖堂戦士団は驚き戸惑うが熊の混乱はさらに酷い。
背中を焼かれ、退路である北を焔に塞がれ、目の前の聖導士に効果の薄い攻撃をするしか出来なくなった。
「まとめて熊のローストにしてやるぜ」
柊 真司(ka0705)が森の奥から現れる。ジェットブーツを使い、生身で馬に匹敵する速度を得て回り込んだのだ。
杖型魔導計算機に濃厚なマテリアルを流し込み、焔属性と一定距離の移動の性質を持たせ解放する。
再び焔が巻き起こる。
枯れ草にはわずかな熱すら与えず、術者である真司が敵とした相手にだけ膨大な熱量を与え、焼いた。
毛が燃える。脂が燃える。肉が血液を含んだまま固まっていく。
苦悶する熊の群れを見て、覚悟が決まっているはずの戦士団が怯んだ。
「あと少しだ。最後の最後で油断するなんて無様晒したら一生笑ってやるぞ」
わざと挑発する。
「言ったな」
「炎を意識して熊の退路を塞げ。悔しいなら行動で示すんだ!」
戦士団が左右に広がり、大熊の逃げ場を完璧に塞いだ。
真司が一瞬右の戦場に目を向けると、旭が最後の犬に止めを刺すところだった。
「燃えろ」
炎が熊を焼く。
逃げようとする熊をメイスの林がつついて追い返す。
炎が晴れたときには、消し炭だけが森の中に残されていた。
●
同日夜。王都聖堂教会応接室。
貴金属や宝石を使われていないだけで、絨毯、長椅子、テーブル、ランプの全てが選りすぐりの一品だった。
セリスは無言で紅茶を飲み干し、音をたてずに白磁のカップをソーサーに戻す。
「終わったわね」
「はい」
イコニアが神妙にうなずいた。
理解した上で裏の事情を言わないでいてくれるセリスが、有り難かった。
「ねぇイコニア君。ちょっとまずいんじゃない?」
「え」
聖女の件を持ち出されるのかと思い、冷や汗をかく。
「そうじゃなくて。私、聖堂戦士でもなくて民間の信徒なんだけど」
あのまま聖堂戦士団を教会まで引率してきたことを指摘する。
「戦士団の人に気づかれても怒られませんよ」
気づかれたら戦士団入りと戦士団専業を熱烈に勧められるだろうけども口にはしない。
「1つ気になってたんだ」
真司がけちのつけようのない所作でカップを置く。
「第2第3の同種の動物に対する備えは必要ないのか?」
イコニアが凍り付いた。
「報告と対策の提案は任せたぜ。頑張れ中間管理職、期待してる」
ハンター達が去った後、イコニアは報告書の書き直しその他に涙目でとりかかる。
少なくとも現時点では、同種の生物は目撃されていない。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/11/05 00:47:52 |
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山の獣は恐ろしい ロニ・カルディス(ka0551) ドワーフ|20才|男性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2015/11/06 22:27:37 |