ゲスト
(ka0000)
残滓と丸い敵
マスター:天田洋介

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/11/02 07:30
- 完成日
- 2015/11/09 22:39
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
グラズヘイム王国は機導術の導入が他国に比べてかなり遅れている。
だからといって鉱物性マテリアルを活用する錬金術研究がまったく行われていないのではない。日々研究に明け暮れる学者や施設もある。
研究段階であっても鉱物マテリアルの残滓は少しずつ溜まっていく。これをそのまま放置すると魔法公害に繋がってしまうので適切な処置が必要だった。
曇り空の十月下旬。護衛付きの荷馬車三両が北東山岳地帯を目指していた。先頭車両の御者台には若者と中年男性の姿がある。
「雑魔とかが生まれるって聞いたんだけど、大丈夫なのか?」
手綱を持つ若者が数秒だけ真後ろの荷台を振り返く。被された幌の下は大量の残滓で一杯だった。
「平気、平気。そういうのが発生する濃さじゃないそうだ」
中年男性は背もたれ代わりの板に大きく寄りかかる。
「そうなんだ。まあ、大丈夫ならいいんだけど」
「ただな……」
「ただ?」
「三両分の残滓を一山にまとめちまうと、安全の上限を超えちまうらしいんだよ。くれぐれもそうしないようにって学者さんにいわれている」
「そ、そうなんですか?! 道理で今回の仕事、金払いが良すぎると思ったよ!」
「まとめたからってすぐじゃないから安心しな。それにだな。現地で土と混ぜて希釈すりゃ、なんの危険もなく――」
喋っている途中で中年男性の額に矢が突き刺さった。
若者も狙われたが、矢の鏃が頬を掠めただけで済む。眼を凝らすと遠くの茂みに賊が隠れていた。
荷馬車三両を守るために雇われていた護衛十名が反撃を開始する。しかし力及ばず、殆どの者が殺されて荷馬車三両は奪われてしまう。唯一生き延びたのが先頭車両の若者だった。
若者は丸一日荒野を歩いてようやく村へと辿り着く。喉の渇きと空腹を満たし、次に魔導伝話を借りて取引先だった錬金術の工房に連絡をいれる。
「はい。その通りです。荷馬車ごと残滓を奪われてしまいました。息を潜めて隠れていたときに賊のやり取りを聞いたんですか、どうやら歪虚を敬っている奴ららしいんです。それと残滓をマナシー町の近郊に放置するっていってました。俺、どことか全然知らないですけれど」
若者からの連絡を受けた後、学者はハンターズソサエティーの支部にかけ直した。
「――あの濃度のマテリアル残滓三両分が一所に集まると、三日から一週間ぐらいで魔法生物が発生するはずです。いや、いきなり雑魔の発生もあり得ます。また周辺に動植物がいた場合は雑魔に変化するかも知れません」
学者にも歪虚崇拝の賊が何故マナシー町を狙っているのかはわからなかった。ただその危険がある以上、放っておけるはずがない。悪いのは歪虚崇拝の賊だが、責任の一端は学者にもある。
さっそく手続きが進められる。ハンター一行がマナシー町周辺に辿り着いたのはそれから六日後のことだった。
だからといって鉱物性マテリアルを活用する錬金術研究がまったく行われていないのではない。日々研究に明け暮れる学者や施設もある。
研究段階であっても鉱物マテリアルの残滓は少しずつ溜まっていく。これをそのまま放置すると魔法公害に繋がってしまうので適切な処置が必要だった。
曇り空の十月下旬。護衛付きの荷馬車三両が北東山岳地帯を目指していた。先頭車両の御者台には若者と中年男性の姿がある。
「雑魔とかが生まれるって聞いたんだけど、大丈夫なのか?」
手綱を持つ若者が数秒だけ真後ろの荷台を振り返く。被された幌の下は大量の残滓で一杯だった。
「平気、平気。そういうのが発生する濃さじゃないそうだ」
中年男性は背もたれ代わりの板に大きく寄りかかる。
「そうなんだ。まあ、大丈夫ならいいんだけど」
「ただな……」
「ただ?」
「三両分の残滓を一山にまとめちまうと、安全の上限を超えちまうらしいんだよ。くれぐれもそうしないようにって学者さんにいわれている」
「そ、そうなんですか?! 道理で今回の仕事、金払いが良すぎると思ったよ!」
「まとめたからってすぐじゃないから安心しな。それにだな。現地で土と混ぜて希釈すりゃ、なんの危険もなく――」
喋っている途中で中年男性の額に矢が突き刺さった。
若者も狙われたが、矢の鏃が頬を掠めただけで済む。眼を凝らすと遠くの茂みに賊が隠れていた。
荷馬車三両を守るために雇われていた護衛十名が反撃を開始する。しかし力及ばず、殆どの者が殺されて荷馬車三両は奪われてしまう。唯一生き延びたのが先頭車両の若者だった。
若者は丸一日荒野を歩いてようやく村へと辿り着く。喉の渇きと空腹を満たし、次に魔導伝話を借りて取引先だった錬金術の工房に連絡をいれる。
「はい。その通りです。荷馬車ごと残滓を奪われてしまいました。息を潜めて隠れていたときに賊のやり取りを聞いたんですか、どうやら歪虚を敬っている奴ららしいんです。それと残滓をマナシー町の近郊に放置するっていってました。俺、どことか全然知らないですけれど」
若者からの連絡を受けた後、学者はハンターズソサエティーの支部にかけ直した。
「――あの濃度のマテリアル残滓三両分が一所に集まると、三日から一週間ぐらいで魔法生物が発生するはずです。いや、いきなり雑魔の発生もあり得ます。また周辺に動植物がいた場合は雑魔に変化するかも知れません」
学者にも歪虚崇拝の賊が何故マナシー町を狙っているのかはわからなかった。ただその危険がある以上、放っておけるはずがない。悪いのは歪虚崇拝の賊だが、責任の一端は学者にもある。
さっそく手続きが進められる。ハンター一行がマナシー町周辺に辿り着いたのはそれから六日後のことだった。
リプレイ本文
●
ハンター一行は馬車に乗り込んでマナシー町を目指していた。魔導バイクで道中の護衛役を引き受けてくれた仲間もいる。
朝方は晴れていた。しかし昼を過ぎた今、空は濃い灰色の雲で覆われている。
「あれがそうだよな?」
御者台で手綱を握っていたヴァイス(ka0364)が隣に座っていたルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)の肩を軽く叩く。
「わぁ、なんか大量に特殊召喚されちゃってます……。でも私、負けないんだから! どちらが召喚のプロか勝負なのです」
丘を越えると街道の進行方向に蠢く影がある。それらはすべて魔法生物や雑魔だ。
ひとまず反転して一kmほど引き返す。一行は相談の末、先にマナシー町へは立ち寄らず戦うことに決めた。今、こうしている間も人に危害を加える敵が増え続けているはずだからだ。
「こうなったら……、よーしやってやるよ!」
「魔法生物や雑魔の発生源を放置なんて出来ませんものね……」
エスクラーヴ(ka5688)と明王院 穂香(ka5647)が扉を開けて馬車から下りる。
「もう少し早くたどり着いていたらとは思うがこればかりは仕方がないな」
「すぐに見つかって運がよかったと思うことにするのがよさそうだ」
「そうだな。マテリアルの残滓から魔法生物から生まれるのか。向こうの世界の常識ではなかなか理解しづらいところがあるな」
「まったくだ」
榊 兵庫(ka0010)とヴァイスは馬車から馬を外して草が生えている辺りの樹木に手綱等で繋いだ。
戦闘に不必要なすべては街道の外れに残しておく。盗まれる心配はあったが、おそらく問題ない。あれだけの群れに周辺住民が気づかないはずがないからだ。誰もこの付近に近寄ろうとはしないだろう。
「それでは道中で相談した通りに二つの班に分かれようか。残滓撤去と雑魔処理、ボクは殲滅班だ」
Holmes(ka3813)は戦闘に備えて口に咥えていたパイプをひとまず片付ける。次に彼女がエドワードと名付けた愛車の魔導バイク・エドワードのメーターをぽんぽんと撫でてあげた。
雑魔や魔法生物と戦う排除班は榊兵庫、ヴァイス、Holmes、不動の四名。分割することで鉱物マテリアル残滓を無効化させる処理班は穂香、エスクラーヴ、ルンルンの三名だ。
「まぁ、そう気張らなくても良いよ。不法投棄の処理とでも思えば、少しは気が楽になるさ」
「わ、わかっているよ。これは武者震いだからな」
処理班の負担が軽くなるよう撤去しやすい環境を提供するとHolmesはエスクラーヴと約束を交わす。
「さあ阻んでみろ、我々の行く手をな!」
不動シオン(ka5395)はホルスターから抜いたオートマチック「チェイサー」の安全装置を外した。
「あ……。やっぱり」
ルンルンが頬に当たるものを感じて掌を差しだす。雨粒が人差し指の根元で弾ける。
ハンター一行が再び丘の上に立ったとき、雨降りは本格的になっていた。
●
湧いた敵の全数がわからないまま戦いは始まった。
処理班は残滓の山がどこにあるのかわかるまで後方で待つ。群れから離れた個体を倒しつつ様子をうかがう。
処理班はひたすらに敵を討った。
血が滲む傷跡を浮かび上がらせた覚醒の榊兵庫が十文字槍「人間無骨」を握りしめて突撃。大地を揺るがせるが如くの勢いで踏み込み、槍の穂先で薙ぎ払う。有象無象の人敵が散っていく。
(……一体一体はさほどでもないが数が多い。これは骨が折れるな)
休む暇も無く敵が密集している奥へと進む。薙ぎ払いによる一掃はここぞというときにだけ使った。
どちらに振り向いても敵だらけ。牙を剥いた狼雑魔に兎や鷹の形をした個体も見かけられる。それらに混じってカラフルな半透明の軟体魔法生物スライムも大量にいた。
「何?!」
突如として突進してきたスライムに真横から体当たりをされる。想像していた以上の衝撃によって弾かれ、榊兵庫は地面に叩きつけられた。
雨降りのせいで泥だらけになってしまったか、その分負った怪我もほんのわずかだ。すぐに起き上がって復帰するが先程のスライムが気になる。
「さきほどスライムの変種がボールのように弾んで体当たりをしてきたぞ」
「さしずめスライムボールか。わかった。注意させてもらうぜ」
榊兵庫は見かけたヴァイスに近づいて背中を合わせで敵と戦いながら言葉を交わした。
「易々と何度も飛ばされてたまるものか」
スライムボールの突進に合わせて榊兵庫が槍の穂先を突きだす。叩けば弾けるものの、刃で切り裂けば瞬く間に破裂する。
(なるほどな。そういった特性があるのか)
ヴァイスは榊兵庫がスライムボールを倒したところを観察して理解した。榊兵庫が離れていって再び一人になった。敵の懐で煌剣「ルクス・ソリス」を振りかざし、旋風を巻き起こす。
襲いかかろうとしていた雑魔が瞬く間に消え去る。そうしたときを狙い澄ましたかのようにスライムボールが突進してきた。
「!」
弾きとばされるヴァイス。しかし高く舞い上がったおかげで姿勢を立て直せる余裕が生まれた。無事着地できたものの、それでも侮辱された気分なのは変わりない。
「これではっきりとしたな」
ヴァイスは今回の殲滅戦において一番厄介なのがスライムボールだと認識する。
「相棒のエドワード・ハードウィックにかかれば、こんな数に突撃するのも楽なものさ」
魔導バイクで敵の群れに斬り込むハンターもいた。Holmesは愛車のエンジン音を轟かせながら敵の真っ只中を駆け抜ける。
味方が周囲にいない場所で急停車させてシートの上に立つ。廻を使った大鎌「グリムリーパー」による全方位攻撃で一網打尽に刈り取っていく。
Holmesは魔導バイクで戦場を走り回ることによってはある傾向を見いだす。敵は無作為に散らばっているように見えるが、それなりに同質で集団を形成していた。
スライムのような魔法生物のグループ。生物からを雑魔に転じたグループ。または無から発生した雑魔のグループ。そのような括りである。ひとまず戦闘能力が高そうな生物変化の雑魔を優先的に狙った。
「ゲームを楽しませてもらうぞ。来い雑魔ども!」
不動はひたすら敵を黒漆太刀で斬り捨てながら前へと進んだ。真っ二つになった屍が次々と消えていく。警戒されて敵が近寄らなくなったときには銃撃で応戦。そうしていくうちに奇妙な景色と遭遇した。魔法生物や雑魔が大量に折り重なっている有様を見かけたのである。
(あの真下がもしや?)
彼女の勘が冴える。魔法生物や雑魔の発生源であるマテリアル残滓の集まりはその真下に隠れていた。
●
橙色に黄色、赤色、青色のスライムボールが雨打つ大地で跳ね回る。泥水で足元が滑りやすい不利な状況下でもハンター一行の奮闘は続いていた。
「そろそろいけますね」
メイスファイティングを自らに付与して雑魔と戦っていた穂香が周囲を回す。残滓の穴まで大分道が拓けてきた。
「ジュゲームリリカルクルクルマジカル……ルンルン忍法胡蝶の舞!」
ルンルンがここぞとばかりに術を発動。蝶に似た光弾が巨体のスライムを散り散りに破裂させる。
「火遁の術! オマケのシュリケーン☆」
火炎符は鋭い爪で威嚇してきた熊雑魔を燃やし尽くした。さらに手裏剣「八握剣」で立ち塞がるスライムボールを破裂させていく。
「これを持っていくんだよな」
「布のシートや桶も忘れずに載せていってください。手袋は忘れずに。素手で作業すると、すぐに手の皮がめくれちゃいますから……」
エスクラーヴと穂香が『猫車』と呼ばれる手押し車に準備する。
目前の敵を倒したルンルンも猫車のハンドルを握った。鉱物処理班の三人が雨の大地を駆ける。
排除班が三人の移動に力を貸す。
「ここは任せろ!」
穂香に迫ったスライムボールを榊兵庫が槍先で突く。
(正念場はこれからか)
ヴァイスは旋風で討ち漏らした雑魔を煌剣で斬る。通りすがったルンルンがコクリと頷いて感謝の意を示す。
「く、くるんじゃないよっ!」
エスクラーヴが兎雑魔に追いかけられた。
「いかに数を揃えようと、陣形が整っていなければ話にならぬ! 来い、死ぬ気で私を止めたければな!」
不動が間に入って兎雑魔と対峙。雨に濡れた黒漆太刀の刃が素速い兎雑魔を捉えて消し去る。突進してきた猪雑魔にも怯まず、正中に沿って真っ二つに叩き斬った。
「少し試してみたいんことがあるんだよね」
Holmesは残滓の穴近くに愛車・エドワードを停める。そこへおあつらえ向きのスライムボールが向かってきた。
構えた大鎌「グリムリーパー」で狙っていたのはノックバック。スライムボールに平の部分を思い切り叩きつける。
凄まじい勢いで遠くに飛んでいくスライムボール。仲間にぶつかってから弾けて消えさった。但し、ぶつけられたスライムボール仲間は周囲に勢いを伝達していく。まるで弾かれたビリヤードの球のように。
穴に到達した鉱物処理班の三名が作業に取りかかる。
「混ざらないようにするにはこれが一番なはずなのですっ!」
ルンルンとエスクラーヴが二人がかりで大きなシートを広げていく。穂香は風に飛ばされないよう四隅に重石を載せた。
こうして残滓の穴の周囲に十枚のシートが敷かれる。これらに分けていけば反応が収まって魔法生物や雑魔が発生しなくなるはずだ。
「さあ、頑張りますねっ!」
穂香がシャベルで残滓を掬って猫車に積んでいく。一杯になったら一番外側のシートまで運んでひっくり返した。
十回に一度か二度、移動中の猫車で魔法生物や雑魔が発生する。
穂香が押していた猫車に魔法生物が発生。ステップを踏みつつ近づいたエスクラーヴが拳を繰りだした。フックで仕留めたのはスライムである。
「ありがとうですわ」
「まあ、その……。お互い様だ」
その言葉通り、後にエスクラーヴが押していた猫車で発生した雑魔を穂香が倒した。ルンルンも同じく運送途中の猫車を倒さないように力を合わせる。
「ジュゲームリリカル……ルンルン忍法忍鳥招来☆ 受け止めて蓬莱鷹!」
ルンルンが瑞鳥符で出現させた光の鳥が遠方のスライムボールの動きを止める。その間にエスクラーヴは目的の場所で猫車をひっくり返してから拳の勢いで弾けさせた。
「スライムの体当たり、山にぶつけて崩すの利用できないかな?」
「穴の底ですからね。Holmesさんがビリヤードの玉のように弾いていましたが」
ルンルンと穂香の会話を聞いていたエスクラーヴが思いつく。
「あのスライム、すごく跳ねるだろ? 残滓の穴でさらに窪みを用意して埋めてさ。シートを被せたらもしかして……」
エスクラーヴの思いつきを試してみることになる。
窪みに発生したばかりのスライムボールを蹴って放り込む。大急ぎで残滓をかけて埋めた。排除班の何名かにも手伝ってもらい、予備のシートを被せる。
まもなく打ち上げ花火のように空に向かって飛んでいく。てるてる坊主のような形状になって落下する。這いだしてきたスライムボールを退治すると、シートの中に残滓が百kgほど詰まった状態が残った。
これは使えると穴の底が深くなってきてから活用する。やがて穴に残った残滓の残りが四分の一となった。
一面を埋め尽くしていた魔法生物や雑魔は排除班の活躍で一掃されている。排除班も手伝って残滓を掻きだしていく。
討ちもらしがなかったか愛車で走り回っていたHolmesが仲間と合流しようとしたときに異変が起こる。穴の底が膨れあがり、次々とスライムボールが大量発生したのである。小柄だったがその数は百以上。まさに穴から溢れだす状況になった。
このままでは作業ができないと判断。Holmesはエンジン音を三回吹かすことで仲間達に一時待避の合図を送る。一分待ってからはぐれスライムボールの体当たりをノックバックで打ち返した。そして素速く愛車で逃げる。
スライムボール同士が干渉して一斉に弾け飛んだ。こうして穴周辺に残ったのはわずかな数体だけになる。処理班の三名に榊兵庫が加わってそれらを倒す。その四人で残滓運びを再開した。
「……これは骨が折れる仕事だな。だが、やり遂げなくてはなるまい」
「その通りです。急ぎましょうっ!」
穴底へ飛びおりた榊兵庫とルンルンがスコップで残滓を掬う。縄付きの木桶に詰めると大声で合図をだす。
「急げっ!」
「よいしょ!」
地表に残ったエスクラーヴと穂香は縄を引っ張って木桶を引き揚げた。そして間近なシートの上に積む。それを繰り返す。
雨は泥だらけになってもすぐに洗い流されてしまうほどの大降りになっていた。
ヴァイスと不動が散らばったスライムボールを撃破していく。駆ける勢いで水飛沫をあげながら斬り裂いた。
Holmesは残滓の穴から半径百メートルを保ちながら愛車で周回する。発見次第スライムボールを倒す。
ノックバックでの散らしから十数分後、残滓のすべてが十以上の小山に分けられる。二時間ほど監視を続けたが、魔法生物や雑魔が発生することはなかった。
●
ハンター一行がマナシー町へ辿り着いたのは宵の口の頃であった。
町の人々は厳しい警戒態勢を敷いていたので一行の到着にすぐ気づく。自分達が近郊で発生していた魔法生物や雑魔をすべて倒したと告げると大いに驚かれる。
宿部屋に泊まって風呂に浸かり、これから遅い夕食を食べようとした頃に町の代表がやってきた。
「みなさんのいうとおりでした。ありがとう、ありがとうございます」
確認したところ禍々しかった近郊はただの野原と化していたとのことである。
一行が滞在した数日の間に地元の官憲の調べによって様々な事実が判明した。残滓を放置したのは普段からマナシー町に危害を加えてきた歪虚崇拝の賊の仕業。敬虔なエクラ教信者が多く住んでいるこの町を滅ぼしたかったようである。
ハンターのおかげで町は被害を受けずに済んだ。そうとも知らずに疲弊したところを襲おうとした歪虚崇拝の賊が返り討ちになる。すべては丸く収まった。
「皆様に光の加護がありますように」
町の人々が帰路に就こうとしたハンター一行を見送ってくれる。
残された残滓は町の人々が分割したままで回収済み。後日、学者が手配した新たな輸送請負業者によって正しく処分される予定である。
こうしてマナシー町はハンター一行のおかげで救われたのだった。
ハンター一行は馬車に乗り込んでマナシー町を目指していた。魔導バイクで道中の護衛役を引き受けてくれた仲間もいる。
朝方は晴れていた。しかし昼を過ぎた今、空は濃い灰色の雲で覆われている。
「あれがそうだよな?」
御者台で手綱を握っていたヴァイス(ka0364)が隣に座っていたルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)の肩を軽く叩く。
「わぁ、なんか大量に特殊召喚されちゃってます……。でも私、負けないんだから! どちらが召喚のプロか勝負なのです」
丘を越えると街道の進行方向に蠢く影がある。それらはすべて魔法生物や雑魔だ。
ひとまず反転して一kmほど引き返す。一行は相談の末、先にマナシー町へは立ち寄らず戦うことに決めた。今、こうしている間も人に危害を加える敵が増え続けているはずだからだ。
「こうなったら……、よーしやってやるよ!」
「魔法生物や雑魔の発生源を放置なんて出来ませんものね……」
エスクラーヴ(ka5688)と明王院 穂香(ka5647)が扉を開けて馬車から下りる。
「もう少し早くたどり着いていたらとは思うがこればかりは仕方がないな」
「すぐに見つかって運がよかったと思うことにするのがよさそうだ」
「そうだな。マテリアルの残滓から魔法生物から生まれるのか。向こうの世界の常識ではなかなか理解しづらいところがあるな」
「まったくだ」
榊 兵庫(ka0010)とヴァイスは馬車から馬を外して草が生えている辺りの樹木に手綱等で繋いだ。
戦闘に不必要なすべては街道の外れに残しておく。盗まれる心配はあったが、おそらく問題ない。あれだけの群れに周辺住民が気づかないはずがないからだ。誰もこの付近に近寄ろうとはしないだろう。
「それでは道中で相談した通りに二つの班に分かれようか。残滓撤去と雑魔処理、ボクは殲滅班だ」
Holmes(ka3813)は戦闘に備えて口に咥えていたパイプをひとまず片付ける。次に彼女がエドワードと名付けた愛車の魔導バイク・エドワードのメーターをぽんぽんと撫でてあげた。
雑魔や魔法生物と戦う排除班は榊兵庫、ヴァイス、Holmes、不動の四名。分割することで鉱物マテリアル残滓を無効化させる処理班は穂香、エスクラーヴ、ルンルンの三名だ。
「まぁ、そう気張らなくても良いよ。不法投棄の処理とでも思えば、少しは気が楽になるさ」
「わ、わかっているよ。これは武者震いだからな」
処理班の負担が軽くなるよう撤去しやすい環境を提供するとHolmesはエスクラーヴと約束を交わす。
「さあ阻んでみろ、我々の行く手をな!」
不動シオン(ka5395)はホルスターから抜いたオートマチック「チェイサー」の安全装置を外した。
「あ……。やっぱり」
ルンルンが頬に当たるものを感じて掌を差しだす。雨粒が人差し指の根元で弾ける。
ハンター一行が再び丘の上に立ったとき、雨降りは本格的になっていた。
●
湧いた敵の全数がわからないまま戦いは始まった。
処理班は残滓の山がどこにあるのかわかるまで後方で待つ。群れから離れた個体を倒しつつ様子をうかがう。
処理班はひたすらに敵を討った。
血が滲む傷跡を浮かび上がらせた覚醒の榊兵庫が十文字槍「人間無骨」を握りしめて突撃。大地を揺るがせるが如くの勢いで踏み込み、槍の穂先で薙ぎ払う。有象無象の人敵が散っていく。
(……一体一体はさほどでもないが数が多い。これは骨が折れるな)
休む暇も無く敵が密集している奥へと進む。薙ぎ払いによる一掃はここぞというときにだけ使った。
どちらに振り向いても敵だらけ。牙を剥いた狼雑魔に兎や鷹の形をした個体も見かけられる。それらに混じってカラフルな半透明の軟体魔法生物スライムも大量にいた。
「何?!」
突如として突進してきたスライムに真横から体当たりをされる。想像していた以上の衝撃によって弾かれ、榊兵庫は地面に叩きつけられた。
雨降りのせいで泥だらけになってしまったか、その分負った怪我もほんのわずかだ。すぐに起き上がって復帰するが先程のスライムが気になる。
「さきほどスライムの変種がボールのように弾んで体当たりをしてきたぞ」
「さしずめスライムボールか。わかった。注意させてもらうぜ」
榊兵庫は見かけたヴァイスに近づいて背中を合わせで敵と戦いながら言葉を交わした。
「易々と何度も飛ばされてたまるものか」
スライムボールの突進に合わせて榊兵庫が槍の穂先を突きだす。叩けば弾けるものの、刃で切り裂けば瞬く間に破裂する。
(なるほどな。そういった特性があるのか)
ヴァイスは榊兵庫がスライムボールを倒したところを観察して理解した。榊兵庫が離れていって再び一人になった。敵の懐で煌剣「ルクス・ソリス」を振りかざし、旋風を巻き起こす。
襲いかかろうとしていた雑魔が瞬く間に消え去る。そうしたときを狙い澄ましたかのようにスライムボールが突進してきた。
「!」
弾きとばされるヴァイス。しかし高く舞い上がったおかげで姿勢を立て直せる余裕が生まれた。無事着地できたものの、それでも侮辱された気分なのは変わりない。
「これではっきりとしたな」
ヴァイスは今回の殲滅戦において一番厄介なのがスライムボールだと認識する。
「相棒のエドワード・ハードウィックにかかれば、こんな数に突撃するのも楽なものさ」
魔導バイクで敵の群れに斬り込むハンターもいた。Holmesは愛車のエンジン音を轟かせながら敵の真っ只中を駆け抜ける。
味方が周囲にいない場所で急停車させてシートの上に立つ。廻を使った大鎌「グリムリーパー」による全方位攻撃で一網打尽に刈り取っていく。
Holmesは魔導バイクで戦場を走り回ることによってはある傾向を見いだす。敵は無作為に散らばっているように見えるが、それなりに同質で集団を形成していた。
スライムのような魔法生物のグループ。生物からを雑魔に転じたグループ。または無から発生した雑魔のグループ。そのような括りである。ひとまず戦闘能力が高そうな生物変化の雑魔を優先的に狙った。
「ゲームを楽しませてもらうぞ。来い雑魔ども!」
不動はひたすら敵を黒漆太刀で斬り捨てながら前へと進んだ。真っ二つになった屍が次々と消えていく。警戒されて敵が近寄らなくなったときには銃撃で応戦。そうしていくうちに奇妙な景色と遭遇した。魔法生物や雑魔が大量に折り重なっている有様を見かけたのである。
(あの真下がもしや?)
彼女の勘が冴える。魔法生物や雑魔の発生源であるマテリアル残滓の集まりはその真下に隠れていた。
●
橙色に黄色、赤色、青色のスライムボールが雨打つ大地で跳ね回る。泥水で足元が滑りやすい不利な状況下でもハンター一行の奮闘は続いていた。
「そろそろいけますね」
メイスファイティングを自らに付与して雑魔と戦っていた穂香が周囲を回す。残滓の穴まで大分道が拓けてきた。
「ジュゲームリリカルクルクルマジカル……ルンルン忍法胡蝶の舞!」
ルンルンがここぞとばかりに術を発動。蝶に似た光弾が巨体のスライムを散り散りに破裂させる。
「火遁の術! オマケのシュリケーン☆」
火炎符は鋭い爪で威嚇してきた熊雑魔を燃やし尽くした。さらに手裏剣「八握剣」で立ち塞がるスライムボールを破裂させていく。
「これを持っていくんだよな」
「布のシートや桶も忘れずに載せていってください。手袋は忘れずに。素手で作業すると、すぐに手の皮がめくれちゃいますから……」
エスクラーヴと穂香が『猫車』と呼ばれる手押し車に準備する。
目前の敵を倒したルンルンも猫車のハンドルを握った。鉱物処理班の三人が雨の大地を駆ける。
排除班が三人の移動に力を貸す。
「ここは任せろ!」
穂香に迫ったスライムボールを榊兵庫が槍先で突く。
(正念場はこれからか)
ヴァイスは旋風で討ち漏らした雑魔を煌剣で斬る。通りすがったルンルンがコクリと頷いて感謝の意を示す。
「く、くるんじゃないよっ!」
エスクラーヴが兎雑魔に追いかけられた。
「いかに数を揃えようと、陣形が整っていなければ話にならぬ! 来い、死ぬ気で私を止めたければな!」
不動が間に入って兎雑魔と対峙。雨に濡れた黒漆太刀の刃が素速い兎雑魔を捉えて消し去る。突進してきた猪雑魔にも怯まず、正中に沿って真っ二つに叩き斬った。
「少し試してみたいんことがあるんだよね」
Holmesは残滓の穴近くに愛車・エドワードを停める。そこへおあつらえ向きのスライムボールが向かってきた。
構えた大鎌「グリムリーパー」で狙っていたのはノックバック。スライムボールに平の部分を思い切り叩きつける。
凄まじい勢いで遠くに飛んでいくスライムボール。仲間にぶつかってから弾けて消えさった。但し、ぶつけられたスライムボール仲間は周囲に勢いを伝達していく。まるで弾かれたビリヤードの球のように。
穴に到達した鉱物処理班の三名が作業に取りかかる。
「混ざらないようにするにはこれが一番なはずなのですっ!」
ルンルンとエスクラーヴが二人がかりで大きなシートを広げていく。穂香は風に飛ばされないよう四隅に重石を載せた。
こうして残滓の穴の周囲に十枚のシートが敷かれる。これらに分けていけば反応が収まって魔法生物や雑魔が発生しなくなるはずだ。
「さあ、頑張りますねっ!」
穂香がシャベルで残滓を掬って猫車に積んでいく。一杯になったら一番外側のシートまで運んでひっくり返した。
十回に一度か二度、移動中の猫車で魔法生物や雑魔が発生する。
穂香が押していた猫車に魔法生物が発生。ステップを踏みつつ近づいたエスクラーヴが拳を繰りだした。フックで仕留めたのはスライムである。
「ありがとうですわ」
「まあ、その……。お互い様だ」
その言葉通り、後にエスクラーヴが押していた猫車で発生した雑魔を穂香が倒した。ルンルンも同じく運送途中の猫車を倒さないように力を合わせる。
「ジュゲームリリカル……ルンルン忍法忍鳥招来☆ 受け止めて蓬莱鷹!」
ルンルンが瑞鳥符で出現させた光の鳥が遠方のスライムボールの動きを止める。その間にエスクラーヴは目的の場所で猫車をひっくり返してから拳の勢いで弾けさせた。
「スライムの体当たり、山にぶつけて崩すの利用できないかな?」
「穴の底ですからね。Holmesさんがビリヤードの玉のように弾いていましたが」
ルンルンと穂香の会話を聞いていたエスクラーヴが思いつく。
「あのスライム、すごく跳ねるだろ? 残滓の穴でさらに窪みを用意して埋めてさ。シートを被せたらもしかして……」
エスクラーヴの思いつきを試してみることになる。
窪みに発生したばかりのスライムボールを蹴って放り込む。大急ぎで残滓をかけて埋めた。排除班の何名かにも手伝ってもらい、予備のシートを被せる。
まもなく打ち上げ花火のように空に向かって飛んでいく。てるてる坊主のような形状になって落下する。這いだしてきたスライムボールを退治すると、シートの中に残滓が百kgほど詰まった状態が残った。
これは使えると穴の底が深くなってきてから活用する。やがて穴に残った残滓の残りが四分の一となった。
一面を埋め尽くしていた魔法生物や雑魔は排除班の活躍で一掃されている。排除班も手伝って残滓を掻きだしていく。
討ちもらしがなかったか愛車で走り回っていたHolmesが仲間と合流しようとしたときに異変が起こる。穴の底が膨れあがり、次々とスライムボールが大量発生したのである。小柄だったがその数は百以上。まさに穴から溢れだす状況になった。
このままでは作業ができないと判断。Holmesはエンジン音を三回吹かすことで仲間達に一時待避の合図を送る。一分待ってからはぐれスライムボールの体当たりをノックバックで打ち返した。そして素速く愛車で逃げる。
スライムボール同士が干渉して一斉に弾け飛んだ。こうして穴周辺に残ったのはわずかな数体だけになる。処理班の三名に榊兵庫が加わってそれらを倒す。その四人で残滓運びを再開した。
「……これは骨が折れる仕事だな。だが、やり遂げなくてはなるまい」
「その通りです。急ぎましょうっ!」
穴底へ飛びおりた榊兵庫とルンルンがスコップで残滓を掬う。縄付きの木桶に詰めると大声で合図をだす。
「急げっ!」
「よいしょ!」
地表に残ったエスクラーヴと穂香は縄を引っ張って木桶を引き揚げた。そして間近なシートの上に積む。それを繰り返す。
雨は泥だらけになってもすぐに洗い流されてしまうほどの大降りになっていた。
ヴァイスと不動が散らばったスライムボールを撃破していく。駆ける勢いで水飛沫をあげながら斬り裂いた。
Holmesは残滓の穴から半径百メートルを保ちながら愛車で周回する。発見次第スライムボールを倒す。
ノックバックでの散らしから十数分後、残滓のすべてが十以上の小山に分けられる。二時間ほど監視を続けたが、魔法生物や雑魔が発生することはなかった。
●
ハンター一行がマナシー町へ辿り着いたのは宵の口の頃であった。
町の人々は厳しい警戒態勢を敷いていたので一行の到着にすぐ気づく。自分達が近郊で発生していた魔法生物や雑魔をすべて倒したと告げると大いに驚かれる。
宿部屋に泊まって風呂に浸かり、これから遅い夕食を食べようとした頃に町の代表がやってきた。
「みなさんのいうとおりでした。ありがとう、ありがとうございます」
確認したところ禍々しかった近郊はただの野原と化していたとのことである。
一行が滞在した数日の間に地元の官憲の調べによって様々な事実が判明した。残滓を放置したのは普段からマナシー町に危害を加えてきた歪虚崇拝の賊の仕業。敬虔なエクラ教信者が多く住んでいるこの町を滅ぼしたかったようである。
ハンターのおかげで町は被害を受けずに済んだ。そうとも知らずに疲弊したところを襲おうとした歪虚崇拝の賊が返り討ちになる。すべては丸く収まった。
「皆様に光の加護がありますように」
町の人々が帰路に就こうとしたハンター一行を見送ってくれる。
残された残滓は町の人々が分割したままで回収済み。後日、学者が手配した新たな輸送請負業者によって正しく処分される予定である。
こうしてマナシー町はハンター一行のおかげで救われたのだった。
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相談卓 Holmes(ka3813) ドワーフ|8才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2015/11/01 20:55:52 |
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質問卓 Holmes(ka3813) ドワーフ|8才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2015/10/30 12:34:58 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/10/31 06:11:12 |