ゲスト
(ka0000)
食人植物ウツボちゃん
マスター:尾仲ヒエル

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/11/05 07:30
- 完成日
- 2015/11/12 01:29
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●お兄ちゃん
「俺たちゃドワーフ、陽気な兄弟。酒と仕事と酒が好き」
金色に色付くイチョウ並木に、調子はずれの歌が響く。
並木道を歩く声の主は、大きなリュックを背負った2人組のドワーフだった。
「今日も良く働いたなあ」
「早く宿に帰って一杯やろうよ」
茶色のヒゲを生やした2人は瓜二つと言っていいほど似ていた。
「あ、ほら。町が見えてきたよ」
「おいおい。急ぎすぎて転ぶなよ」
ツルハシの覗くリュックを揺らして数歩進んだドワーフが、遠くに見える町に声を弾ませる。
「兄さん、今日はどこの店にしようか」
いつもならすぐに返ってくる兄の返事がない。
「兄さん?」
不信に思って振り返った弟ドワーフは、ぽかんと口を開けて固まった。
弟ドワーフの視線の先には、見たこともないほど巨大な植物と、その植物の袋から突き出した2本の足があった。
●ウツボちゃん
それはウツボカズラに似ていた。
ドワーフの背丈を軽く超える大きさと、背後で生き物のようにうねうねとうごめく緑色のツルを除けば。
「な、な、な」
ぱくぱくと口を開け閉めする弟ドワーフの目の前で、ウツボカズラの下半分がゴクリと動いた。
突き出ていた2本の足が呑みこまれ、完全に見えなくなる。
はっと我に返った弟ドワーフがリュックを探る。
そして、たいまつを取り出すと、震える手で火をつけた。
「この化け物め……兄さんのかたき!」
ぐいっと濡れた目をぬぐった弟ドワーフが、燃え盛るたいまつを投げつけようと腕を振りかぶる。
「待て待て」
そのとき、どこからかくぐもった声が聞こえてきた。
「簡単に殺すな。俺はまだ生きてるぞ」
「兄さん!?」
驚いた弟ドワーフがは、たいまつをぽろりと取り落とす。
「俺は大丈夫だよ。ただなあ。この中がつるつるしていて、どうにも出られそうにない」
声と同時に、ウツボカズラの袋の表面が、もごもごと動いた。
「お前だけじゃ無理だろうから、とりあえず助けを呼んできてくれ」
案外大丈夫そうな兄の声に、弟ドワーフはほっとした表情を浮かべる。
「でも兄さん。本当に大丈夫なのか?」
「ああ。さっきツルハシで底に穴をあけたから、すぐに溶かされることもないだろう」
その言葉の通り、袋の底からは水のようなものがちょろちょろと流れ出ている。
「分かった。待っててくれ。すぐに助けを呼んでくるからな!」
そう叫ぶと、弟ドワーフは町へ向かって全速力で駆けだした。
●ウツボちゃん内部
「行ったか……」
うっすらと緑色に光を通すウツボカズラの内部で、兄ドワーフはため息をついた。
泣き虫の弟には言わなかったが、捕まったときに足を痛めて思うように動けないのだ。
「まあ、あいつが無事で良かった」
ウツボカズラの内部はつるっとした筒状になっており、底の部分には酸の液と何かの動物の骨が残っていた。
骨の上に乗っていれば、しばらくの間は酸に溶かされることはないだろう。
そう考えた兄ドワーフは、痛む足をかばいながら骨の上で姿勢を整えた。
●動くウツボちゃん
ずり、ずりずり。
並木道に何かを引きずるような音が響く。
ウツボカズラがゆっくりと体を動かし、弟ドワーフが道に落としていったたいまつに近づいていた。
にゅっと伸びた緑色のツルが、まだ燃えているたいまつを掴んで持ち上げる。
そして、そのまま地面にべしべしと叩き付けはじめた。
それでも火が消えないと、ウツボカズラは小さな袋から酸をを吐き出した。
じゅっと音が上がり、火が消える。
ウツボカズラは満足したようにツルをひっこめ、イチョウの木の後ろ側へゆっくりと戻っていった。
「俺たちゃドワーフ、陽気な兄弟。酒と仕事と酒が好き」
金色に色付くイチョウ並木に、調子はずれの歌が響く。
並木道を歩く声の主は、大きなリュックを背負った2人組のドワーフだった。
「今日も良く働いたなあ」
「早く宿に帰って一杯やろうよ」
茶色のヒゲを生やした2人は瓜二つと言っていいほど似ていた。
「あ、ほら。町が見えてきたよ」
「おいおい。急ぎすぎて転ぶなよ」
ツルハシの覗くリュックを揺らして数歩進んだドワーフが、遠くに見える町に声を弾ませる。
「兄さん、今日はどこの店にしようか」
いつもならすぐに返ってくる兄の返事がない。
「兄さん?」
不信に思って振り返った弟ドワーフは、ぽかんと口を開けて固まった。
弟ドワーフの視線の先には、見たこともないほど巨大な植物と、その植物の袋から突き出した2本の足があった。
●ウツボちゃん
それはウツボカズラに似ていた。
ドワーフの背丈を軽く超える大きさと、背後で生き物のようにうねうねとうごめく緑色のツルを除けば。
「な、な、な」
ぱくぱくと口を開け閉めする弟ドワーフの目の前で、ウツボカズラの下半分がゴクリと動いた。
突き出ていた2本の足が呑みこまれ、完全に見えなくなる。
はっと我に返った弟ドワーフがリュックを探る。
そして、たいまつを取り出すと、震える手で火をつけた。
「この化け物め……兄さんのかたき!」
ぐいっと濡れた目をぬぐった弟ドワーフが、燃え盛るたいまつを投げつけようと腕を振りかぶる。
「待て待て」
そのとき、どこからかくぐもった声が聞こえてきた。
「簡単に殺すな。俺はまだ生きてるぞ」
「兄さん!?」
驚いた弟ドワーフがは、たいまつをぽろりと取り落とす。
「俺は大丈夫だよ。ただなあ。この中がつるつるしていて、どうにも出られそうにない」
声と同時に、ウツボカズラの袋の表面が、もごもごと動いた。
「お前だけじゃ無理だろうから、とりあえず助けを呼んできてくれ」
案外大丈夫そうな兄の声に、弟ドワーフはほっとした表情を浮かべる。
「でも兄さん。本当に大丈夫なのか?」
「ああ。さっきツルハシで底に穴をあけたから、すぐに溶かされることもないだろう」
その言葉の通り、袋の底からは水のようなものがちょろちょろと流れ出ている。
「分かった。待っててくれ。すぐに助けを呼んでくるからな!」
そう叫ぶと、弟ドワーフは町へ向かって全速力で駆けだした。
●ウツボちゃん内部
「行ったか……」
うっすらと緑色に光を通すウツボカズラの内部で、兄ドワーフはため息をついた。
泣き虫の弟には言わなかったが、捕まったときに足を痛めて思うように動けないのだ。
「まあ、あいつが無事で良かった」
ウツボカズラの内部はつるっとした筒状になっており、底の部分には酸の液と何かの動物の骨が残っていた。
骨の上に乗っていれば、しばらくの間は酸に溶かされることはないだろう。
そう考えた兄ドワーフは、痛む足をかばいながら骨の上で姿勢を整えた。
●動くウツボちゃん
ずり、ずりずり。
並木道に何かを引きずるような音が響く。
ウツボカズラがゆっくりと体を動かし、弟ドワーフが道に落としていったたいまつに近づいていた。
にゅっと伸びた緑色のツルが、まだ燃えているたいまつを掴んで持ち上げる。
そして、そのまま地面にべしべしと叩き付けはじめた。
それでも火が消えないと、ウツボカズラは小さな袋から酸をを吐き出した。
じゅっと音が上がり、火が消える。
ウツボカズラは満足したようにツルをひっこめ、イチョウの木の後ろ側へゆっくりと戻っていった。
リプレイ本文
●ハンターオフィスにて
「雑魔に捕食されてる……ですか?」
依頼内容を聞いたティア・ユスティース(ka5635)は、青い瞳を心配そうに揺らがせた。
夜が明けてからの出発という話に、正義感の強いハンターたちの顔が曇る。
「まだ人が捕らわれているのなら、ゆっくりなどしていられませんね。迅速に歪虚を斃し、助け出さねばなりません」
相馬 拾九(ka4893)の凛とした声が響くと、その横でシードル ブルトン(ka5816)も大きく頷く。
これが初めての依頼、しかも同じドワーフが捕えられていると聞いて、ブルトンの口調にも自然と熱が入る。
「同胞のピンチだというのに、こうしてはおれん。すぐに救出に向かおうではないか!」
「賛成ね。朝まで放っておいて、遊んでいる子供や、散歩中の老人が襲われたりしたらひとたまりもないわ。すぐにでも救出に向かいましょう」
長身を壁に持たせかけた陶 凛華(ka5636)の提案に、全員が賛成の声を上げた。
「そうと決まれば、手遅れになる前に急ごう!」
元気よくオフィスから飛び出していく超級まりお(ka0824)の後に、他のハンターたちも次々と続く。
「あ、そうそう。弟さんに伝えておいて。急いでお兄さんを助けに行ってくるから待ってて、って」
最後に小柄なマチルダ・スカルラッティ(ka4172)が伝言を残し、ハンターたちはオフィスを後にした。
●並木道の戦い
ハンターたちが並木道の手前に到着した時には、辺りは暗闇に包まれつつあった。
「ここが並木道か」
「灯りつけるね」
ブルトンとまりおがたいまつに火をつけると、辺りがぱっと明るく照らし出される。
「私はこれを使う」
その灯りの中、凛華がLEDライトを左手の小手にさらしで巻き付けて固定する。
それぞれが灯りの準備を始める中、ティアが仲間に近付いた。
「お2人にプロテクションをかけますね」
その言葉と共に、拾九とまりおの全身を光が覆う。
「感謝します」
「なんか無敵って感じ! ありがと!」
ハンターたちが見回してみても、ハンターたちの灯りに照らし出された範囲には、イチョウの木々が規則的に並ぶだけで、まだ雑魔の姿はないようだった。
「私、外側から探してみるね」
LEDライトを手にしたマチルダが並木道の外側に回った。
ハンターたちが警戒しながら進んでいくと、マチルダがイチョウの木の影に奇妙な影を見つけた。
「……いたよ!」
ライトに照らされたのは、巨大な雑魔の姿だった。
「お兄さん! 助けに来ました!」
「聞こえますか?」
ティアと拾九が声をかけると、雑魔の大きな袋の表面がもそもそと動いた。
「ああ、大丈夫だ。ここにいる」
兄ドワーフのひとまずの無事を確認したハンターたちは散開し、雑魔を取り囲むように位置取った。
雑魔の正面には拾九。その後ろには弓を構えた凛華。雑魔の左右はまりおとブルトンが固め、ツルのうねる雑魔の背後をティアとマチルダが狙う。
ハンターたちのかざす灯りによって、雑魔の姿が全ての角度から煌々と照らされた。
ウツボカズラに似た見た目の雑魔の体には、大きな袋が1つ、小さな袋が4つ。
大きな袋の表面には血管を思わせる赤い葉脈が走り、袋の上部には蓋状の大きな葉が半ばかぶさっている。
小さな袋のふちからは、液体のようなものがだらだらと地面に垂れていた。
そんな雑魔の背後でうねうねとうごめくツルを見つめ、拾九が絞り出すように叫んだ。
「雑魔め……どれほど美しかろうと容赦はしません!」
「……ん?」
凛華が矢をつがえていた手を止める。
「美しい?」
「今、美しいって言った?」
ハンターたちが困惑げに顔を見合わせる中、拾九が2本の刀をすらりと引き抜く。
その上半身を、陣羽織を思わせる光が包んだ。
「参ります!」
その言葉に、はっと我に返った残りのメンバーたちも武器を構えた。
マチルダがワンドを手にマテリアルを解放した瞬間、ほのかな薔薇の香りを含んだ微風が周囲に沸き起こる。
ティアが杖を構える腕には小盾のオーラが浮かび上がり、同時に黒い髪が艶めく金色に染まった。
ブルトンは……特に変化はなく、たいまつの光を受けて、毛のない頭がキラリと光った。
そのとき、ひゅん、と風を切る音がして、2本のツルが振りおろされた。
「うお!?」
目の前の地面をえぐったツルに、ブルトンが慌てて飛びのく。
「おっと」
続いて狙われたまりおも、得意のジャンプで危なげなくツルを避けた。
間髪入れず前に走り出た拾九が、まりおを襲ったツルを切り落とす。
「さあ、かかってきなさい!」
しかし新たに追加されたツルは拾九ではなく、まりおとブルトンのいる方角を狙って繰り出された。
執拗に繰り出される攻撃をジャンプで避けながら、まりおが呟く。
「なんかさ、僕たちに攻撃が集中してない?」
「もしかして、火が嫌いなのかしら?」
弓を構えた凛華が、灯りを受けて銀色に光る髪をこぼしながら首を傾げる。
確かに攻撃を受けているのは、たいまつを持った2人だけだ。
「なるほど。それなら、これを利用して攪乱できるかもしれないな」
一度後ろに退いたブルトンが、たいまつを雑魔の近くに投げる。
すると、雑魔は慌てたようにツルを振りおろし、何度もたいまつを叩いた。
めきっという音と共に、たいまつが折れて火が消える。
「正解みたいですね」
金色の髪を揺らしてティアが頷く。
「まだまだあるぞ!」
ブルトンが次のたいまつに火をつけると、雑魔がツルをそちらに向けた。
「お。今ならいけるかも!」
雑魔の注意が逸れている隙に、立体攻撃を使ったまりおが雑魔目がけて大きくジャンプした。
根本の葉、そして小さな袋を足場代わりに使うと、そのまま大きな袋に迫る。
「お兄さん! 手を!」
まりおが腕を伸ばした瞬間、袋の上部の蓋状になった部分が大きな音をたてて閉じた。
パックン!
「うわ!」
慌てて腕を引っ込めたまりおは、袋の側面を蹴って退却を図った。
とんぼ返りして地面に着地したまりおに、マチルダが声をかける。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫!」
にっと笑ってみせたまりおは、袋に向かって声を張り上げた。
「お兄さんごめん! 蹴っちゃったけど大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。こちらのことは気にせず存分に戦ってくれ」
袋の内側からくぐもった声が答える。
「先にツルを落としましょう」
拾九が日本刀「骨喰」をひらめかせると、たちまちツルが斬り落とされる。
「支援します」
ティアが手にした杖を左右に引くと、中に仕込まれていた鋭い刃が現れた。
ツルの届くギリギリの位置から、ブルトンのたいまつを狙って振りおろされたツルを分断する。
「ほれ、こっちだ!」
ブルトンはたいまつが破壊されるたびに新しいたいまつに火をつけ、雑魔の周囲をところせましと駆け回った。
「こっちも忘れないでよね!」
ブルトンだけがツルの標的にならないよう、たいまつを手にしたまりおも飛び回って雑魔の注意を逸らす。
「火が嫌いなら、これはどう?」
マチルダが雑魔の背後からファイアアローを撃ち込むと、ツルが根元からちぎれて落ちる。
その時、雑魔の茎についた小さな袋の内のひとつが、ふるふると不穏な様子で震え出した。
「明らかに怪しいわね」
弓を構えた凛華が警戒の言葉を口にした時、小さい袋がまりお目がけて何かの液体を吐き出した。
まりおが飛びのくと同時に、液体が落ちた地面から、じゅっと白い煙が上がる。
「酸!?」
「任せて。私の弓で落としてあげる」
弦の音が響くと、凛華の放った矢が小さな袋の1つを見事撃ち落とした。
地面に落ちた袋から、じゅう、と音をたてて酸がこぼれる。
たいまつによる攪乱と、矢継ぎ早に繰り出される攻撃。
ツルは次々と減らされていき、やがて本数が半分以下になった頃、雑魔の様子に変化があった。
雑魔の体が紅葉するように赤く染まり、ツルの動きが速くなる。
赤くなった雑魔は、近くにいるティアに向かってツルを伸ばした。
「きゃあ!」
仕込み杖を振るっていたティアが、ツルに巻きつかれて悲鳴を上げる。
とっさに盾を構えてダメージを防いだものの、そのまま身動きが取れなくなってしまう。
「ティア!」
「ティア殿!」
「ええい! 植物の分際で!」
仲間たちが声を上げる中、ブルトンが投げつけた円盤状のチャクラムが、ティアに巻きついていたツルに命中した。
しゅるりとツルを引っ込めた雑魔は、続いて拾九を狙う。
「そうはいきませんよ」
刃を外側に向けて待ち構えていた拾九の2本の刀が、巻きつこうとしたツルを見事に断ち切った。
「仲間になんてことするのよ!」
マチルダが放ったウィンドスラッシュが鋭い風となって雑魔を襲い、数本のツルをまとめてひきちぎる。
風と共に、マチルダの周囲に強い薔薇の香りが立ちのぼった。
「2つ目!」
凛華が小さな袋を次々と撃ち落としていく間を縫うように、拾九とティアがツルに斬りつける。
「これ以上の攻撃は許しません!」
「びっくりさせられたお返しです!」
2人が刃をひらめかせるたび、ちぎれたツルがぽとりぽとりと地面に落ちていく。
「3つ目!」
まっすぐに飛んだ矢が小さな袋を刎ね飛ばす。
平穏な森の生活に飽きてハンターとなった凛華の目には、今はいきいきとした光が満ちている。
「これで最後!」
4つ目の小さな袋を落とした凛華が声を上げる頃には、ツルは1本もなくなっていた。
一番大きな袋と葉だけを残した雑魔が、葉をざわつかせながら退却を始める。
「お兄さん、袋を落とすよ!」
マチルダが茎に向けてウィンドスラッシュを放つと、大きな袋がどさりと落ちた。
地面に倒れた袋の蓋が開き、中から現れた2本の腕がばたばたと動く。
「今度こそ!」
ジャンプしたまりおがその腕を掴み、兄ドワーフの体を引きずり出した。
まりおが兄ドワーフを安全な所まで運んだことを確認して、凛華が形の良い唇を上げる。
「これで思う存分やれそうね」
「雑魔め、覚悟するがいい!」
「僕も本気出しちゃうよ!」
チャクラムを構えるブルトンの後ろで、雑魔に向き直ったまりおが刀を抜く。
次の瞬間、茎と葉だけになった雑魔の体に、ハンターたちの攻撃が降り注いだ。
●戦闘の後に
「よし。折れてはいないようだ」
ブルトンがヒールをかけると、柔らかな光が兄ドワーフの足を包む。
「ありがとう。怪我なんてしているのがばれたら、心配性の弟が何て言うか」
やれやれといった表情を浮かべる兄ドワーフの様子に、他の仲間の怪我を確認していたティアがくすくすと笑い声をこぼした。
少し離れた所では、木の枝を手にしたマチルダが、、好奇心に満ちた表情で雑魔の残骸をつついていた。
「ねえ、これって燃やしておいたほうがいいかな?」
「それがいいと思う」
頷いたまりおが、残骸に向かってたいまつを投げる。
「そーれ。ファイアー!」
雑魔の残骸はメラメラと燃え上がり、やがて炎が収まった後には白っぽい灰だけが残った。
「おお。よく燃えたな。念のために火の始末もしておこうか」
そこにブルトンが持参したスコップで砂をかけると、雑魔の姿は跡形もなく消え失せた。
「これでよし、と」
やがて夜明けの光が辺りをぼんやりと明るく照らし始めた頃、兄ドワーフを伴ったハンターたちは町に到着した。
待ちきれなかったのだろう。町の端で、落ち着かなげにぐるぐると歩き回っていた弟ドワーフが、ハンターたちに気が付いて声を上げる。
「……兄さん!」
ハンターたちの元へ駆け寄った弟ドワーフは、兄の体に抱き付くと、おんおんと声を上げて泣き出した。
「心配かけて悪かったな」
肩口を涙でびしょびしょにされていく兄ドワーフの様子を、ハンターたちは微笑ましく見守る。
しばらくして弟から解放された兄ドワーフは、ハンターたちに向き直ると深々と頭を下げた。
「ありがとう。あなた方がいなければ雑魔に食われていただろう。……それだけでなく、弟までやられていたかもしれない」
弟ドワーフも濡れた顔を服の袖でぐいとぬぐうと、その隣で頭を下げた。
「……ありがとう。本当にありがとう」
「私たちが到着するまで持ち堪えたのは、お兄さんの頑張りがあったからよ」
くびれた腰に手を当てながら凛華が微笑むと、兄ドワーフが照れた様子で頭をかいた。
「そうだ。よくぞ持ちこたえた! と、いうわけで、これから無事を祝って飲もうじゃないか!」
にかりと笑ったブルトンが提案すると、まりおが横で手を挙げた。
「はいはい。僕お腹すいた! ごはん食べたい!」
「それなら良い店がある」
ドワーフ兄弟が先に立って案内する中、拾九が真面目な顔で呟いた。
「……しかしあの歪虚の形、壺として見れば中々趣のある形でしたね。後であれに倣って作品を作ってみましょうか」
呟きを耳にしてしまったティアが笑顔を引きつらせ、その横でマチルダが頭を抱える。
「おもむき……おもむきとは……」
「マチルダさん、しっかり。考えたら駄目です……!」
こうして無事に任務を終えたハンターたちは、にぎやかに明け方の町に消えていった。
「雑魔に捕食されてる……ですか?」
依頼内容を聞いたティア・ユスティース(ka5635)は、青い瞳を心配そうに揺らがせた。
夜が明けてからの出発という話に、正義感の強いハンターたちの顔が曇る。
「まだ人が捕らわれているのなら、ゆっくりなどしていられませんね。迅速に歪虚を斃し、助け出さねばなりません」
相馬 拾九(ka4893)の凛とした声が響くと、その横でシードル ブルトン(ka5816)も大きく頷く。
これが初めての依頼、しかも同じドワーフが捕えられていると聞いて、ブルトンの口調にも自然と熱が入る。
「同胞のピンチだというのに、こうしてはおれん。すぐに救出に向かおうではないか!」
「賛成ね。朝まで放っておいて、遊んでいる子供や、散歩中の老人が襲われたりしたらひとたまりもないわ。すぐにでも救出に向かいましょう」
長身を壁に持たせかけた陶 凛華(ka5636)の提案に、全員が賛成の声を上げた。
「そうと決まれば、手遅れになる前に急ごう!」
元気よくオフィスから飛び出していく超級まりお(ka0824)の後に、他のハンターたちも次々と続く。
「あ、そうそう。弟さんに伝えておいて。急いでお兄さんを助けに行ってくるから待ってて、って」
最後に小柄なマチルダ・スカルラッティ(ka4172)が伝言を残し、ハンターたちはオフィスを後にした。
●並木道の戦い
ハンターたちが並木道の手前に到着した時には、辺りは暗闇に包まれつつあった。
「ここが並木道か」
「灯りつけるね」
ブルトンとまりおがたいまつに火をつけると、辺りがぱっと明るく照らし出される。
「私はこれを使う」
その灯りの中、凛華がLEDライトを左手の小手にさらしで巻き付けて固定する。
それぞれが灯りの準備を始める中、ティアが仲間に近付いた。
「お2人にプロテクションをかけますね」
その言葉と共に、拾九とまりおの全身を光が覆う。
「感謝します」
「なんか無敵って感じ! ありがと!」
ハンターたちが見回してみても、ハンターたちの灯りに照らし出された範囲には、イチョウの木々が規則的に並ぶだけで、まだ雑魔の姿はないようだった。
「私、外側から探してみるね」
LEDライトを手にしたマチルダが並木道の外側に回った。
ハンターたちが警戒しながら進んでいくと、マチルダがイチョウの木の影に奇妙な影を見つけた。
「……いたよ!」
ライトに照らされたのは、巨大な雑魔の姿だった。
「お兄さん! 助けに来ました!」
「聞こえますか?」
ティアと拾九が声をかけると、雑魔の大きな袋の表面がもそもそと動いた。
「ああ、大丈夫だ。ここにいる」
兄ドワーフのひとまずの無事を確認したハンターたちは散開し、雑魔を取り囲むように位置取った。
雑魔の正面には拾九。その後ろには弓を構えた凛華。雑魔の左右はまりおとブルトンが固め、ツルのうねる雑魔の背後をティアとマチルダが狙う。
ハンターたちのかざす灯りによって、雑魔の姿が全ての角度から煌々と照らされた。
ウツボカズラに似た見た目の雑魔の体には、大きな袋が1つ、小さな袋が4つ。
大きな袋の表面には血管を思わせる赤い葉脈が走り、袋の上部には蓋状の大きな葉が半ばかぶさっている。
小さな袋のふちからは、液体のようなものがだらだらと地面に垂れていた。
そんな雑魔の背後でうねうねとうごめくツルを見つめ、拾九が絞り出すように叫んだ。
「雑魔め……どれほど美しかろうと容赦はしません!」
「……ん?」
凛華が矢をつがえていた手を止める。
「美しい?」
「今、美しいって言った?」
ハンターたちが困惑げに顔を見合わせる中、拾九が2本の刀をすらりと引き抜く。
その上半身を、陣羽織を思わせる光が包んだ。
「参ります!」
その言葉に、はっと我に返った残りのメンバーたちも武器を構えた。
マチルダがワンドを手にマテリアルを解放した瞬間、ほのかな薔薇の香りを含んだ微風が周囲に沸き起こる。
ティアが杖を構える腕には小盾のオーラが浮かび上がり、同時に黒い髪が艶めく金色に染まった。
ブルトンは……特に変化はなく、たいまつの光を受けて、毛のない頭がキラリと光った。
そのとき、ひゅん、と風を切る音がして、2本のツルが振りおろされた。
「うお!?」
目の前の地面をえぐったツルに、ブルトンが慌てて飛びのく。
「おっと」
続いて狙われたまりおも、得意のジャンプで危なげなくツルを避けた。
間髪入れず前に走り出た拾九が、まりおを襲ったツルを切り落とす。
「さあ、かかってきなさい!」
しかし新たに追加されたツルは拾九ではなく、まりおとブルトンのいる方角を狙って繰り出された。
執拗に繰り出される攻撃をジャンプで避けながら、まりおが呟く。
「なんかさ、僕たちに攻撃が集中してない?」
「もしかして、火が嫌いなのかしら?」
弓を構えた凛華が、灯りを受けて銀色に光る髪をこぼしながら首を傾げる。
確かに攻撃を受けているのは、たいまつを持った2人だけだ。
「なるほど。それなら、これを利用して攪乱できるかもしれないな」
一度後ろに退いたブルトンが、たいまつを雑魔の近くに投げる。
すると、雑魔は慌てたようにツルを振りおろし、何度もたいまつを叩いた。
めきっという音と共に、たいまつが折れて火が消える。
「正解みたいですね」
金色の髪を揺らしてティアが頷く。
「まだまだあるぞ!」
ブルトンが次のたいまつに火をつけると、雑魔がツルをそちらに向けた。
「お。今ならいけるかも!」
雑魔の注意が逸れている隙に、立体攻撃を使ったまりおが雑魔目がけて大きくジャンプした。
根本の葉、そして小さな袋を足場代わりに使うと、そのまま大きな袋に迫る。
「お兄さん! 手を!」
まりおが腕を伸ばした瞬間、袋の上部の蓋状になった部分が大きな音をたてて閉じた。
パックン!
「うわ!」
慌てて腕を引っ込めたまりおは、袋の側面を蹴って退却を図った。
とんぼ返りして地面に着地したまりおに、マチルダが声をかける。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫!」
にっと笑ってみせたまりおは、袋に向かって声を張り上げた。
「お兄さんごめん! 蹴っちゃったけど大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。こちらのことは気にせず存分に戦ってくれ」
袋の内側からくぐもった声が答える。
「先にツルを落としましょう」
拾九が日本刀「骨喰」をひらめかせると、たちまちツルが斬り落とされる。
「支援します」
ティアが手にした杖を左右に引くと、中に仕込まれていた鋭い刃が現れた。
ツルの届くギリギリの位置から、ブルトンのたいまつを狙って振りおろされたツルを分断する。
「ほれ、こっちだ!」
ブルトンはたいまつが破壊されるたびに新しいたいまつに火をつけ、雑魔の周囲をところせましと駆け回った。
「こっちも忘れないでよね!」
ブルトンだけがツルの標的にならないよう、たいまつを手にしたまりおも飛び回って雑魔の注意を逸らす。
「火が嫌いなら、これはどう?」
マチルダが雑魔の背後からファイアアローを撃ち込むと、ツルが根元からちぎれて落ちる。
その時、雑魔の茎についた小さな袋の内のひとつが、ふるふると不穏な様子で震え出した。
「明らかに怪しいわね」
弓を構えた凛華が警戒の言葉を口にした時、小さい袋がまりお目がけて何かの液体を吐き出した。
まりおが飛びのくと同時に、液体が落ちた地面から、じゅっと白い煙が上がる。
「酸!?」
「任せて。私の弓で落としてあげる」
弦の音が響くと、凛華の放った矢が小さな袋の1つを見事撃ち落とした。
地面に落ちた袋から、じゅう、と音をたてて酸がこぼれる。
たいまつによる攪乱と、矢継ぎ早に繰り出される攻撃。
ツルは次々と減らされていき、やがて本数が半分以下になった頃、雑魔の様子に変化があった。
雑魔の体が紅葉するように赤く染まり、ツルの動きが速くなる。
赤くなった雑魔は、近くにいるティアに向かってツルを伸ばした。
「きゃあ!」
仕込み杖を振るっていたティアが、ツルに巻きつかれて悲鳴を上げる。
とっさに盾を構えてダメージを防いだものの、そのまま身動きが取れなくなってしまう。
「ティア!」
「ティア殿!」
「ええい! 植物の分際で!」
仲間たちが声を上げる中、ブルトンが投げつけた円盤状のチャクラムが、ティアに巻きついていたツルに命中した。
しゅるりとツルを引っ込めた雑魔は、続いて拾九を狙う。
「そうはいきませんよ」
刃を外側に向けて待ち構えていた拾九の2本の刀が、巻きつこうとしたツルを見事に断ち切った。
「仲間になんてことするのよ!」
マチルダが放ったウィンドスラッシュが鋭い風となって雑魔を襲い、数本のツルをまとめてひきちぎる。
風と共に、マチルダの周囲に強い薔薇の香りが立ちのぼった。
「2つ目!」
凛華が小さな袋を次々と撃ち落としていく間を縫うように、拾九とティアがツルに斬りつける。
「これ以上の攻撃は許しません!」
「びっくりさせられたお返しです!」
2人が刃をひらめかせるたび、ちぎれたツルがぽとりぽとりと地面に落ちていく。
「3つ目!」
まっすぐに飛んだ矢が小さな袋を刎ね飛ばす。
平穏な森の生活に飽きてハンターとなった凛華の目には、今はいきいきとした光が満ちている。
「これで最後!」
4つ目の小さな袋を落とした凛華が声を上げる頃には、ツルは1本もなくなっていた。
一番大きな袋と葉だけを残した雑魔が、葉をざわつかせながら退却を始める。
「お兄さん、袋を落とすよ!」
マチルダが茎に向けてウィンドスラッシュを放つと、大きな袋がどさりと落ちた。
地面に倒れた袋の蓋が開き、中から現れた2本の腕がばたばたと動く。
「今度こそ!」
ジャンプしたまりおがその腕を掴み、兄ドワーフの体を引きずり出した。
まりおが兄ドワーフを安全な所まで運んだことを確認して、凛華が形の良い唇を上げる。
「これで思う存分やれそうね」
「雑魔め、覚悟するがいい!」
「僕も本気出しちゃうよ!」
チャクラムを構えるブルトンの後ろで、雑魔に向き直ったまりおが刀を抜く。
次の瞬間、茎と葉だけになった雑魔の体に、ハンターたちの攻撃が降り注いだ。
●戦闘の後に
「よし。折れてはいないようだ」
ブルトンがヒールをかけると、柔らかな光が兄ドワーフの足を包む。
「ありがとう。怪我なんてしているのがばれたら、心配性の弟が何て言うか」
やれやれといった表情を浮かべる兄ドワーフの様子に、他の仲間の怪我を確認していたティアがくすくすと笑い声をこぼした。
少し離れた所では、木の枝を手にしたマチルダが、、好奇心に満ちた表情で雑魔の残骸をつついていた。
「ねえ、これって燃やしておいたほうがいいかな?」
「それがいいと思う」
頷いたまりおが、残骸に向かってたいまつを投げる。
「そーれ。ファイアー!」
雑魔の残骸はメラメラと燃え上がり、やがて炎が収まった後には白っぽい灰だけが残った。
「おお。よく燃えたな。念のために火の始末もしておこうか」
そこにブルトンが持参したスコップで砂をかけると、雑魔の姿は跡形もなく消え失せた。
「これでよし、と」
やがて夜明けの光が辺りをぼんやりと明るく照らし始めた頃、兄ドワーフを伴ったハンターたちは町に到着した。
待ちきれなかったのだろう。町の端で、落ち着かなげにぐるぐると歩き回っていた弟ドワーフが、ハンターたちに気が付いて声を上げる。
「……兄さん!」
ハンターたちの元へ駆け寄った弟ドワーフは、兄の体に抱き付くと、おんおんと声を上げて泣き出した。
「心配かけて悪かったな」
肩口を涙でびしょびしょにされていく兄ドワーフの様子を、ハンターたちは微笑ましく見守る。
しばらくして弟から解放された兄ドワーフは、ハンターたちに向き直ると深々と頭を下げた。
「ありがとう。あなた方がいなければ雑魔に食われていただろう。……それだけでなく、弟までやられていたかもしれない」
弟ドワーフも濡れた顔を服の袖でぐいとぬぐうと、その隣で頭を下げた。
「……ありがとう。本当にありがとう」
「私たちが到着するまで持ち堪えたのは、お兄さんの頑張りがあったからよ」
くびれた腰に手を当てながら凛華が微笑むと、兄ドワーフが照れた様子で頭をかいた。
「そうだ。よくぞ持ちこたえた! と、いうわけで、これから無事を祝って飲もうじゃないか!」
にかりと笑ったブルトンが提案すると、まりおが横で手を挙げた。
「はいはい。僕お腹すいた! ごはん食べたい!」
「それなら良い店がある」
ドワーフ兄弟が先に立って案内する中、拾九が真面目な顔で呟いた。
「……しかしあの歪虚の形、壺として見れば中々趣のある形でしたね。後であれに倣って作品を作ってみましょうか」
呟きを耳にしてしまったティアが笑顔を引きつらせ、その横でマチルダが頭を抱える。
「おもむき……おもむきとは……」
「マチルダさん、しっかり。考えたら駄目です……!」
こうして無事に任務を終えたハンターたちは、にぎやかに明け方の町に消えていった。
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/11/03 07:25:16 |
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相談卓 相馬 拾九(ka4893) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|舞刀士(ソードダンサー) |
最終発言 2015/11/04 20:19:07 |