• 深棲

【深棲】荷馬車に揺られて

マスター:石田まきば

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/08/19 07:30
完成日
2014/08/26 18:08

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●シャイネの日常

 APVの一角を陣取るシャイネ・エルフハイム(kz0010)はここしばらくのスケジュールを思い返していた。
 新人ハンター達が活動を開始して二月ばかり。新人の殻を破り始めた者も出て来る頃だ。
(どうも使われてばかりだけど……ふふ、それは仕方ないかな)
 タングラム(kz0016)に仕事を押し付けられてばかりの日々だったような気がする。それは今も同じで、彼女に呼び出されたからこの場に居るのだった。
「またタングラムの代わりに仕事に行くのか?」
 近くに居たハンターが声をかけて来たので、笑顔で答えた。
「多分そうなるんじゃないかな?」
「あんたも大変だな、シャイネ」
「ふふ、気遣いありがとう♪ 君もどこか仕事に行くのなら、気を付けて」
 ひらひらと手を振って見送った。
(APVに居る限り、この状態は続くと思うけれどね♪)
 それをわかった上で活動しているのだから自業自得なのだ。

「シャイネ! 居ますですか!」
「もう来ているよ?」
 ご機嫌いかがかな、と挨拶をして、フクカン(kz0035)が彼女にお茶を出すところまでがいつもの流れ。お互いに一息ついたところで、今日の本題が始まるのだった。
「今回は単なる人手不足なのですね。だからシャイネは引率じゃなくて、他の皆と同じように仕事を受けてほしいのですよ。勿論帝国の作戦関連に、ですが」
「心得ているよ? ハンターとしては、帝国だろうとそうでなかろうと、仕事は仕事だからね」
「今回は素直ですね」
「別に断る理由もないしね。……ああでも、すぐは無理だな」
「? ……ああ、定期報告の時期ですか。ごくろーなこってすね」
 少し考えてからのシャイネの言葉に、タングラムも同じくらいの間を取ったあと溜息のような息を漏らして頷く。
「そう。僕は『エルフハイム』だからね♪」
「面倒だと思うんですけどね」
「……でも必要なことだよ。違うかい?」
 タングラムもエルフハイムの出身だが、姓を持たない。姓を持つシャイネは、頻繁に故郷に帰る。これはどちらもエルフハイムのしきたりに関係性があり、二人の立場の違いを表す指標でもあった。
 ほんの少しの間。いつもと違う空気に、フクカンが首を傾げた。
「……? 何の話です?」
「ちょっと帰郷してこようかと思ってね、たまにはほら、帰らないと」
「じゃあ、お土産持っていかなきゃですね!」
「そうだね、最近手に入ったポテチでもいいかな」
「きっと喜ばれると思いますよ!」

●森の都エルフハイム

 集落を含む森全体を、『エルフハイム』と呼んだその時からこの土地の歴史は始まっている。
 この森で、エルフ達は一か所に集まるわけではなく、いくつかの集まりに分かれて暮らしている。その中でも大きなものは4つあり、シャイネはそのうちの1つに顔を出していた。
 神霊樹を擁する最奥地オプストハイム。他の3つとは違い、古来からのエルフの暮らしを頑なに守り続けているこの場所は、純粋なマテリアルにあふれた清浄な土地と呼ぶにふさわしい。
「お帰りシャイネ。そろそろ帰ってくる頃だと思っていたぜ」
「ただいまエクゼント君、僕の楽しい親友♪」
 一人のエルフが近寄ってくる。ヤンキーさながらのリーゼントに髪をセットし、かっちりとした服を身に着け眼鏡を愛用するという奇天烈な格好の男はこのエルフハイムで役人の職に就いていた。
 業務は長老会と呼ばれる爺婆エルフ達のご機嫌伺いや仲介等の代行だが、そこでは結構可愛がられているらしい。主に『長老会に従順』という理由でだ。
 年配のエルフほど、古くからのしきたりを守ることばかり重視しており、それは一言でまとめると『恭順派』と呼ばれていた。
「今回の土産は何だ? お前の詩集以外にもあるんだろ? ああ、勿論これはいつも通り図書館に届けておくな」
 詩集を受け取りながら、シャイネの手元を再び見るエクゼント。
「『ポテチ』にしてみたよ。この面白い袋を開けると食べ物が入っているんだ。開けなければ、日持ちもいいんだってさ」
「茶菓子に向いてるなら、こっそり長老達にも出してみるさ。材料は?」
「薄く切った芋を揚げて、塩をふって味をつけてるんだそうだよ」
「……年寄りにそれはどうなんだ」
「面白いとは思うけどね♪」
「やめておく、後で維新派のガキどもにでも渡しておくぜ」

「外は騒がしいみたいだな、警備隊の連中がピリピリしてた」
「海の方が騒がしくてね、どこもしわ寄せが寄っているみたいだよ。僕もこの後そちらに行くしね」
 すぐにまた仕事に出るというシャイネに、エクゼントは声を潜めて話を変えた。
「そうか。……シャイネ、ユレイテルを知っているか?」
「前に君に聞いた名前かな」
「ああ、長老の一人を親に持つ奴なんだが……維新派でな」
「それはまた面白い子だね♪ 親子喧嘩でもしたのかい?」
「茶化すな。肝心なのはここからだ。そいつが帝国で活動するおまえの名前を耳にしてな……そいつが強引に動いてくれそうだ。お前が引率なら、外縁の仕事をハンターに頼むという話が、今後は出てくるかもしれない」
「……へえ♪」
「とにかく。面倒が起きたら、お前を指名してハンターズソサエティに仕事を依頼する可能性もあるかもしれないってことだ」
「わかったよ。気は長く持って、待っておこうか」
「ああ、頼んだぜ」

●冒険都市リゼリオ

「さて、タングラム君にも釘を刺されたことだし……どの仕事がいいのかな」
 同盟領を襲撃している歪虚達はその数も多いようである。仕事には事欠かないはずだが……帝国は珍しく消極的な態度を示しているようで、ハンター達への仕事の依頼も、他の勢力と比べて方向性が違うものが多いようだ。
(せっかくなら、噂の狂気の歪虚とやらを見てみたいと思うんだけどね?)
 『帝国の作戦関連』で『狂気の歪虚退治』となると自然と候補は絞られる。
「これかな? ……護衛の仕事だけれど、海岸沿いの道を通るようだし……歪虚も陸に上がってくるということかな」
 手にした書類には『同盟から帝国に輸送する物資の護衛』の仕事についてが記載されていた。
「依頼主は……第四師団? よくわからないけれど、帝国軍だということは間違いなさそうだね」
 じゃあこれにしようかな。ざっと内容に目を通したシャイネは、依頼に参加する旨を伝えに受付へと向かっていった。

リプレイ本文

●三台仕立ての輸送隊

「ちょっとした小旅行って感じ?」
 後列の荷馬車近くを歩くアーシェ・ネイラス(ka1066)が呟く。気持ち早めに歩けば置いていかれない程度の速度だ。荷馬車の乗り心地は決していいものではなかったから。
(重たいもの、つまり固いものばかりだからな)
 多少の毛布や道具類があっても、寄りかかるには固すぎる。
「何か見えたか?」
「今は大丈夫みたいだよ」
 幌の隙間から顔を覗かせ尋ねる弥勒 明影(ka0189)にアーシェが答える。これまでに倒されてきているのか、彼らはまだ歪虚には遭遇していなかった。
「そうか。……多少は慣れておかないと、後が辛いぞ」
 忠告する明影自身、既に座り込むのにちょうどよい具合を探り終えている。
「疲れたら寝心地なんて関係ないよ」
 だから大丈夫との答えに、明影も強く勧めることはしなかった。

 カルムカロマ=リノクス(ka0195)と白神 霧華(ka0915)の提案もあり、特に高価なものは中央の馬車に寄せて、後列の一台は荷を軽くしてあった。ハンター達を多く収容するためでもあり、馬車そのものを切り捨てるという最終手段の為でもあった。勿論全てを無事に届けるのがこの仕事の本来の目的ではあるのだが。
(網の代わりになるといいけれど)
 テントや毛布などの野営道具に触れつつカルムカロマは考える。運んでいるのは既に帝国が代価を払っている、購入済の物資だ。勝手に使うわけにはいかない。結果、自由にできるのは自分達に割り当てられた品になる。一般的な物ならば途中の都市で補充ができるし、それくらいなら経費も出るだろう。
「せいぜい投げ縄かな。どう思う?」
「油があればより良かったでしょうが」
 霧華も積み荷を見回し小さく息をつく。積まれた道具類も金属製の物ばかり。気軽に持ち出すのは難しいと判断するしかなかった。

 地図を見ながら、ベレティウス・グレイバー(ka1723)は行程を確認していた。
「ヴァリオスを越えれば、歪虚もほとんど出ないと聞いているよ」
 同乗しているシャイネ・エルフハイム(ka0010)の言葉を元に、現在地と照らし合わせる。
「歪虚が来ねぇってことか?」
 はっきりしない内容にイライラとした表情。だがそれ以上昂ることはない。
「それもあるかもしれないね」
「帝国や辺境からの援軍が近くまで出ているんじゃなかったかな」
 ぼんやりとした顔で会話を聞いていたエアルドフリス(ka1856)の言葉が入り込む。シャイネが頷く。
「だったと思うよ」
「最初からそう言いやがれ」
 それ以上は言わない。代わりに別の疑問を告げる。
「で、このちんたら馬車の足は早くできそうか?」
「俺達が下りて、押せばかな」
 飄々としたエアルドフリスに、涼やかに笑うシャイネ。掴みどころの無い同乗者達をじろりと見てからベレティウスは黙った。
「長閑な海なんだがなあ……おっといかん」
 出かけたあくびをかみ殺すエアルドフリス。まだ敵は現れない。

「この前運んだのは、割れモンだったけど、今回はそーゆー心配、無さそー、です」
 輸送の仕事に続けてありついた八城雪(ka0146)が御者台から前を見る。先頭の馬車でもあり、海岸沿いの道のおかげで見通しは悪くない。右手側は海が見えて、左手側も平地が広がっている。
「商品の安全を心配しなくていいのは助かるな」
 ビスマ・イリアス(ka1701)も頷く。
(ある意味基本的な仕事というべきだが、それだけに気を抜くわけにはいかないな)
 気を抜くときほど穴にはまってしまうのが定説というものだ。特にこの仕事は期間も長い。
「雪、そろそろ警戒を変わろ……」
「来た!」
 交代しようとビスマがかけた声を遮り、雪は武器を手にひらりと御者台へと身を進めた。そのまま荷馬車を降りて駆けていく。
「進行方向、海岸側から一匹くるぞ、です!」
 無線機に叫ぶ。繋いだ先ではカルムカロマが聞いているはずだ。
 雪の声にベレティウスも顔を出している。エアルドフリスの提案で決めたハンドサインをビスマが送れば、中央の荷馬車にも情報が伝えられた。

●狂気の強固

 見つけた歪虚はヤドカリ型。足の左側、ハサミ脚以外の4本が人と同じになっている左右非対称の異形。
 ギリギリまで足音を立てない様抑えたが、砂地に変わり難しくなる。それまで別の方角を向いていた歪虚の目が雪をとらえ向かってきた。
 接敵するギリギリまで抑えていたマテリアルを開放、雪の右腕に赤い模様が展開され、広がっていく。
「最近、海辺りは歪虚がうじゃうじゃで、飽きねー、です」
 身の丈より長い大斧を脚めがけて振り下ろす。人の肉を切る感触に笑みが浮かぶ。思った通り柔らかい。
(ゾクゾクする感じ、あっても。まだ足りない、です)
 容易に断ち切ることができない。皮は人に同じでも、その骨は殻と同じく堅いという事か。
 2本のハサミが雪に向けて振り上げられる。一方は避け、もう一方は腕に当てられてしまう。
「ぐぅっ……!」
 堅いからこそ、刃がなくても打撃力が高い。グローブのお蔭で軽減はできたが、もしなかったら。二回とも当てられていたら。瀕死になっていた可能性があるほど。
 繋がったままの無線機から雪の声が聞こえる。カルムカロマも武器を手に荷台から飛び出した。
 闘う様子を伺っていたはずのアーシェの背中が見えた。彼女は既に援護に向かっている。
 様子をうかがっていた中央の仲間に向けてサインを送り、カルムカロマも駆けだした。既に瞳と同じ緑のオーラを纏わせながら。

「ドカンと大きいの、行こうか!」
 マテリアルの力で回転する刃が歪虚の急所、殻の隙間のその奥へと入り込んでいく。確かな手ごたえにアーシェは内心喜んだが、歪虚の動きが変わる様子は見られない。
(予想以上に耐久力があるかな、これは)
 ドワーフの力をもってしても容易に思えない強さ。それは狂気であることにも起因しているかもしれない。統制の見られない動き、だからこそ自制もなく常に全力でなのではないかと。
 風の刃が歪虚の足に鋭く傷をつけて、青い血の流れる量が増える。エアルドフリスの魔法だ。殻が物理攻撃に強い分、魔法に弱ければいいとの願望も込めた一撃だったがどれほどの影響を与えたのか。見逃すまいと視線で追う。
「動かんでくださいよ、痛い目見たくなけりゃ」
 御者の隣にいた商人を荷の方へと押し込む。人的被害だってない方がいい。
「まだ速度を落とすほどではないみたいですね」
 霧華が歪虚の脚を見る。どれくらい脚を潰せば歪虚の歩みが遅くなるだろうか。敵が一匹のうちに、基準となりそうな情報は多く得ておきたいと思いながら、太刀を脚へと振り下ろした。

「突破を視野に入れたほうがよさそうかな」
 バゼラードを突き立てながら言うカルムカロマに反論の言葉は帰ってこない。このまま戦っていれば、歪虚一匹相手に勝利を収めることはできるだろう。だが今回の旅路はあくまでも物資の輸送。歪虚は殲滅対象ではあるが、今回その是非は影響を与えない。
 まだ行程は残っている。確かにこれまで歪虚との遭遇はなかったが、それはリゼリオに近かったからだ。ここから先は遭遇頻度が上がる可能性が高い。複数匹と対峙することもあるだろう。
 この一匹を退治すれば、今後遭遇する敵への対処は格段に楽になるのかもしれない。だが同時に、この一匹を倒し切れないこの段階で、皆手数を多く消費していた。必要な情報だけを得たら、見切りをつけたほうがいい頃合いなのだ。
「あ゛あ゛?! イライラさせやがって。時間が勿体ねえわ!」
 頭に向かって振り上げられるハサミ脚を避けながらベレティウスが叫ぶ。蛇のようになった目が人に似た脚を見据え、最後の一本を斬り潰した。
 ガクリ
 人の脚4本を失って初めて、歪虚の様子が変わる。背負った殻の底辺を全て地面に引きずる形になり、動きがやっと遅くなったのだ。
「さっさと進むぞ」
 馬車を押してでもこいつを引き離す。そして戦闘に割いた分の時間の遅れを取り戻すのだとベレティウスが御者に合図する。待機していたビスマとシャイネもそれぞれが乗っていた馬車の後方へと回った。
 同じく待機していた明影がロープを霧華とカルムカロマに投げて寄越す。輪にしたロープの端に火をつけて、歪虚の背負う殻の尖った先端にひっかけてから離れる。
 少しばかりの火で倒れるとは思っていない。歪虚自身の気が少しでも引ければ足止めの効果が期待できるかもしれないという一つの賭けだ。海岸沿いで障害物も少ないから、大火事になることもない。
 しばらくは後方の歪虚を警戒しながら馬車を押して進み……歪虚が追いつけないことを確認してから、ハンター達は元の通り荷馬車へと乗り込んだ。

●損害防止

 覚醒状態を維持しながらの行程は、力を発揮しやすい点で優れていた。個々の能力が強化される恩恵で、歪虚の存在を感知しやすかったのだ。
 2度目の遭遇では5匹、3度目は2匹、4度目は1匹というように、頻度は確実に増えていた。
 進行方向、しかも街道近くにたむろする5匹を見つけた時、ハンター達は突破作戦を決行した。
 それまでの荷馬車の配置とは一時的に変えて、エアルドフリス、ベレティウス、明影の遠距離攻撃が可能な三人がそれぞれ一人ずつ荷馬車に併走。残りは皆馬車から降り、前衛の5人が一対一で歪虚をマークするのだ。シャイネは補助に回る。

(被害を最小限にするためにも!)
 マテリアルで動きも磨きあげ、レイピアを突き出すビスマ。先端が鋭い分、柔らかい脚への攻撃は仕掛けやすく、また殻の隙間にも入り込みやすかったのかもしれない。関節部分を突き、ぼきりと脚が一本折れる。
 荷馬車が通り過ぎ十分な距離をとるまでは、歪虚達を自分達でひき付けておかなければいけない。
「押せればもっと速度は出るだろうが……」
 歪虚の速さはハンター達とさほど変わらない。少しでも脚を減らし、彼らの動きに制限を与えなければすぐに追いつかれてしまう。
 荷馬車から近い歪虚を優先して撃ちぬこうと魔導銃を構える明影。荷馬車の速度にあわせながら、追おうとする歪虚の撃退を並行していた。
「流石に脚を狙うのは厳しいか? ……だが」
 自身も標的も動いている。意識も敵だけに向けるわけにはいかない状況ではあるのだが、確実に狙っていく。
(痛みを感じているように見えないな)
 脚のように部位がの破損で多少はわかる部分もあるが、どれだけの体力を持っているのか、推し量ることができない。
「皆、荷馬車は抜けたみたいだよ! あと少しで僕らも離脱だ、ふふ、準備はいいかい?」
 特定の歪虚と対峙していないシャイネがハンター達全員に聞こえるよう声を張り上げた。

 幸いだったのは、彼ら歪虚の出現地域。都市や宿場のすぐ近くでは殆ど出現せず、生活圏から離れた地域での遭遇が多かった。都市にはハンターオフィスの支部もあるから、近隣の歪虚は定期的に退治できているということなのだろう。おかげでハンター達の覚醒回数制限について、初日を終えるころには傾向も掴め、余裕が持てるようになってきていた。

●小旅行

 ヴァリオスの近隣で戦う帝国や辺境の部隊を見つけてはじめて、自分達の戦いが一段落したのだとハンター達から安堵の息が漏れる。
 これまでに9回歪虚を発見し、総数では28匹。所在が進行方向ではない限り、荷馬車の速度を上げて振り切り、やり過ごす事で戦闘を回避してきたけれど。それでもスキルの消耗はギリギリだったのだ。
「今日は美味しいものが食べれそうかな」
 ハムとかあったらいいよねとアーシェが楽しみに笑う。途中で見つけた網タイツの歪虚の足。その網から連想したのだろうか。
「極彩色の街と呼ばれてるくらいだからな、料理の彩度も凄そうだ」
 だが今は休みたい。ずっと警戒を維持していた疲れが明影に睡魔を呼んでいるようだ。

 翌日からは形ばかりの警戒を交代でしながら、本当の意味でのどかな旅路。
「済まんが、俺は一眠りさせて貰う。何かあれば、起こしてくれ」
 気の緩んだ明影は軍帽を深くかぶって眠る体勢。序盤で揺れに慣らしていたおかげで、寝入りは早い。
「シャイネから見た帝国ってどんな感じなんだ?」
 ビスマの問いかけに、少し目を細めて笑うシャイネ。
「ふふ。僕は君達と同じように、APVに所属しているひとりのハンターだから、そう多くは知らないけれど……エルフハイムの中で言われているよりは、帝国は柔軟な考えを持っているみたいだね」
 外に出て、食事の質と同じくらい驚いたことだよと続く。
「エルフには態度が違うんですか?」
 霧華が首をかしげる。
「他のエルフの集落については噂程度にしか知らないけど。僕らのエルフハイムは、帝国に監視されているんだよ」
 不可侵条約で直接の衝突は禁止されているが、監視ならば条約に違反しているわけではないというのが帝国側の主張らしい。
「今回の襲撃、帝国が本格派兵しない理由、あんたは知ってるかね?」
 情報源としては望み薄とわかったうえでエアルドフリスが尋ねる。この仕事だって帝国絡みではあるが、退治を主軸とした依頼ではない。
「確かに派兵の仕事が少ないとは思っていたけど。長老達が聞いたらどう思うやら」
 頭の固い年寄りの集まりだよと補足が付いた。

「習慣とかは?」
「本集め、かな? 僕らは総じて本が好きだよ。自分で書くのも、読むのもね」
 新しい本を入手したり、見聞を書き留めたり。エルフハイムの最奥地には図書館が存在する。本集めに森から出るエルフも多い。
「カルムカロマ君は何か書いていないのかい?」
 エルフハイムとは別の集落からも、本が寄贈されることがある。新たな伝手は増やしたいと思うシャイネだ。
「いや、ボクはあまり」
 未来に何かを残す事に前向きになれないからと口にするわけにもいかず、控えめに答えた。
「エルフにもほんと個性があるんだな」
 聞いていたビスマが腕を組み頷く。まったくそのとおりである。

「へえ、こんなモンが需要があるんだな。金払いは結構良いのか?」
 代価を聞きながらベレティウスは商人と商売を語り合う。
(帝国の奴等の欲求不満がどれだけ溜まっているかだな……)
 娯楽の少ない軍事国家。稼ぎ時を見極めれば、面白いように物流が操れる可能性もあるだろうと見込む。その時のための情報収集はなるべく多くしておくべきだ。
 エアルドフリスが商人の名を呼んでいたことも合わせて、記憶しておく。
「何も襲って来ねーから、暇、です。おやつでも、持ってくりゃ、良かった、です」
 雑魚でもいいから他の敵はいないかと、周辺警戒を兼ねて御者の隣に陣取る雪。足をプラプラ、体全体で暇だと主張している。暇つぶしになるかとシャイネに詩を頼んでみた。
 独特な調子をつけたシャイネの詩を背景に、つかの間ののんびりした時間が過ぎていくのであった。

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MVP一覧


  • カルムカロマ=リノクスka0195

  • ベレティウス・グレイバーka1723
  • 赤き大地の放浪者
    エアルドフリスka1856

重体一覧

参加者一覧

  • バトル・トライブ
    八城雪(ka0146
    人間(蒼)|18才|女性|闘狩人
  • 輝きを求める者
    弥勒 明影(ka0189
    人間(蒼)|17才|男性|霊闘士

  • カルムカロマ=リノクス(ka0195
    エルフ|26才|男性|疾影士
  • 不屈の鬼神
    白神 霧華(ka0915
    人間(蒼)|17才|女性|闘狩人
  • デュラハン刈りの乙女
    アーシェ・ネイラス(ka1066
    ドワーフ|20才|女性|闘狩人
  • 未来に贈る祈りの花
    ビスマ・イリアス(ka1701
    人間(紅)|32才|男性|疾影士

  • ベレティウス・グレイバー(ka1723
    人間(紅)|28才|男性|闘狩人
  • 赤き大地の放浪者
    エアルドフリス(ka1856
    人間(紅)|30才|男性|魔術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン シャイネに質問
エアルドフリス(ka1856
人間(クリムゾンウェスト)|30才|男性|魔術師(マギステル)
最終発言
2014/08/17 22:43:02
アイコン 相談卓
弥勒 明影(ka0189
人間(リアルブルー)|17才|男性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2014/08/19 07:08:42
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/08/17 11:43:46