ゲスト
(ka0000)
【幻森】The Shapeless
マスター:剣崎宗二

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 6~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 7日
- 締切
- 2015/11/16 12:00
- 完成日
- 2015/11/24 06:23
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
幻獣の森を巡る争いは、『歪虚連合軍』と『幻獣王親衛隊』の激突という形へ発展した。
幻獣を守るべく動き出した親衛隊は歪虚に対して有利な戦いを繰り広げ、敵をヤオト渓谷へ撤退させるまでに至った。
ここで幻獣王チューダは敵の追撃を命じ、幻獣の戦士ツキウサギがこれに従って敵を追撃した。しかし、この撤退が敵の計略だと判明する頃には、ツキウサギら追撃部隊の退路は伏兵によって断たれていた。
敵の計略で形勢が逆転する状況。
危機的状況を招いた王チューダは、頭を掻きながら言い放つ。
「あー。えーっと……後はみんなで何とかすであります」
●偽装工作
「実に面白いですなぁ。……まるで喜劇でございますね」
形を変えながら、孤立した部隊への一角へと、影は忍び寄る。
薄っぺらく、まるで地を這うように。形無き者は――彼らへと向かっていく。
「何を――っぁぁぁあ!?」
悲鳴が上がる。無理も無い。仲間と思っていた者に、刺されたのだから。
「俺は何も…!?」
弁解しようとした戦士が、仲間たちに取り押さえられる。
だが、彼を取り押えた者たちの一人は――目の色が違っていた。
「てめぇは…前から気に入らなかったんだ…!!」
武器を大きく振り上げ、取り押さえられた男に叩き付ける。何度も、何度も。
明確な殺意を持って、叩き続ける。
「ぐあっ!?」
後ろでまた叫び声が上がる。また他の戦士が、仲間に刺されたのだろう。
――混乱は、どんどんと広がっていく。
疑惑は疑心暗鬼を呼び、恐怖と憎悪を広げていく。
「やれやれ……実に簡単な事です。兵力が多いと言うのは決して、利になる事だけではありませんからねぇ。――特に、吾輩の前では」
――人が多ければ、それだけ統制は取りにくくなる。
そしてそれに付け入るのは、この者――『ノーフェイス』にとっては、特に難しい事ではなかった。
「おや、来客ですか」
その注意は、新たに到着した者たちに向けられた。
部隊の異常に気づいたハンターたちが、終に、その問題を解決する為、到着したのであった。
「新しい玩具ですか。…さてはて、どういうドラマを見せてくれるのでしょうかな。吾輩は…楽しみですなぁ」
彼は――再度、人ごみに紛れ込む。
かくして。偽りを暴く為の戦いが、始まったのであった。
幻獣を守るべく動き出した親衛隊は歪虚に対して有利な戦いを繰り広げ、敵をヤオト渓谷へ撤退させるまでに至った。
ここで幻獣王チューダは敵の追撃を命じ、幻獣の戦士ツキウサギがこれに従って敵を追撃した。しかし、この撤退が敵の計略だと判明する頃には、ツキウサギら追撃部隊の退路は伏兵によって断たれていた。
敵の計略で形勢が逆転する状況。
危機的状況を招いた王チューダは、頭を掻きながら言い放つ。
「あー。えーっと……後はみんなで何とかすであります」
●偽装工作
「実に面白いですなぁ。……まるで喜劇でございますね」
形を変えながら、孤立した部隊への一角へと、影は忍び寄る。
薄っぺらく、まるで地を這うように。形無き者は――彼らへと向かっていく。
「何を――っぁぁぁあ!?」
悲鳴が上がる。無理も無い。仲間と思っていた者に、刺されたのだから。
「俺は何も…!?」
弁解しようとした戦士が、仲間たちに取り押さえられる。
だが、彼を取り押えた者たちの一人は――目の色が違っていた。
「てめぇは…前から気に入らなかったんだ…!!」
武器を大きく振り上げ、取り押さえられた男に叩き付ける。何度も、何度も。
明確な殺意を持って、叩き続ける。
「ぐあっ!?」
後ろでまた叫び声が上がる。また他の戦士が、仲間に刺されたのだろう。
――混乱は、どんどんと広がっていく。
疑惑は疑心暗鬼を呼び、恐怖と憎悪を広げていく。
「やれやれ……実に簡単な事です。兵力が多いと言うのは決して、利になる事だけではありませんからねぇ。――特に、吾輩の前では」
――人が多ければ、それだけ統制は取りにくくなる。
そしてそれに付け入るのは、この者――『ノーフェイス』にとっては、特に難しい事ではなかった。
「おや、来客ですか」
その注意は、新たに到着した者たちに向けられた。
部隊の異常に気づいたハンターたちが、終に、その問題を解決する為、到着したのであった。
「新しい玩具ですか。…さてはて、どういうドラマを見せてくれるのでしょうかな。吾輩は…楽しみですなぁ」
彼は――再度、人ごみに紛れ込む。
かくして。偽りを暴く為の戦いが、始まったのであった。
リプレイ本文
●Discretion
「催眠と変身…ゲリラ戦に最適の能力だね」
だからこそ、この場で排除しなければならない。
――読んだ資料の内容を、もう一度脳内で復習し。アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)が、混沌としていた場に入る。
「周囲は任せてください。また逃げられては困りますからね」
真田 天斗(ka0014)が、そんなアルトと共に、少しだけ後退する。混乱に乗じてノーフェイスが逃げ出すと言う事を、彼らは警戒していたのだ。
「さて諸君、落ち着きたまえ。これは恐らく、姿を変えられる『ノーフェイス』と言う歪虚が――」
それに答えたHolmes(ka3813)の話が終わる前に、周囲の者たちが、一斉に彼女の方を睨みつける。
「どうしてお前が信用できる?本当に誰にでも化けられると言うのなら、お前に化けてる可能性だってあるんじゃないか?」
キン。
刃のぶつかり合う音。狂気に駆られたのか、催眠されたのか、とある兵士が他の者に襲い掛かったのだ。
「とにかく、一旦皆さん、武器を置いてください!このままでは同士討ちに」
「置いたらお前たちが襲い掛かってくるんだろ?騙されねぇぜ!!」
――確かに、若しも兵士たちが『通常の精神状態』であったのならば、ハンターたちの命に素早く従っただろう。だが、彼らは既に催眠術による同士討ちにより、疑心暗鬼に陥っていた。それに加え――
「どうなるんでしょうね、若しも彼らが、歪虚の作り出した幻影だとしたら」
隣の兵士にのみ聞こえるような小さい声で、一人、呟く。
それは兵士たちの心の恐慌を煽るような言葉。
(「フフ、既に恐怖に陥っている方でしたら、簡単ですからねぇ」)
――ノーフェイスの戦術は、『誤認』と『煽動』に特化している。
ハンターたちが兵士に『安全を保障』する事が即座に出来なかった以上、多くの兵士が己の身を守る武器を放棄する事を渋った。
「これはいけないな」
割り込んだのは三里塚 一(ka5736)。展開される無数の、白い鳥。
「見たまえ、鳩だ。平和的だろう?」
それが攻撃を受け止め、一般兵の致命傷を避ける。然し、それでも、『彼一人で』守れる範囲には、少しばかり限りがある。各所で兵士たちが、次々と斬られて行く。
「仕方ない…少しだけ、力と言う物に訴えるとしようか、ワトソン君」
両手を打ち合わせ、Holmesは前に歩み出た。
●Recognition
――結果として、兵士の1/4程がHolmesに強制的に武装解除され、取り押さえられた時点で、暴走する者は居なくなった。
恐らくノーフェイスも気づいたのであろう。このまま操る者を変え続ければ、動ける人間が少なくなり、疑いが自分の方へと向く可能性が高まると。
「んー、確かに何かこの近くには居るみたいだけど……?」
魔道短電話にノイズが出ないのを見て、バナディアン・I(ka4344)が頭をかしげる。
――そもそも『どの程度の距離まで歪虚に近づけばノイズが走るのか』と言う実証的なデータを、ハンターたちはまだ持っていない。或いは、相当遠くに居てもノイズが出るのかも知れないし、歪虚の個体差によってもその範囲は違うのかも知れない。
(「反応での確認は無理そうかな……」)
本来、兵士たちが武器を捨てるのに戸惑ったかどうかで判別を試みようとした十色 エニア(ka0370)。だが、先の騒動で多くの兵士が武装解除を渋ったのが、判別の障害となった。その為回収した武器を、1つずつ確認しに掛かる。
「さて、この中に紛れ込んでいる歪虚を探す方法だが――」
そう言って、いきなり。Holmesは自身の掌に、ナイフを突き立てた。
眼を丸くする兵士たちに、彼女は平然と続ける。
「これを一人ずつ行ってもらいたいかな」
――兵士たちの先頭に居た者から、順に『検査』を受けていく。実行するのはHolmes、そして彼女を補助するように、烏丸 涼子 (ka5728)が監視、補助検査をしている。
「はい、ちょっと触らせてよね」
二の腕を押し、血の色を確かめる。一人ずつそれを繰り返していく。
然し、検査をするラインは、一つ。即ち全員を検査するには、著しい時間が掛かる。そしてその時間中、敵たる者が大人しくしていると考えるのは――余りにも楽観的だろう。
「うわぁぁ!?」
突如、取っ組み合いの喧嘩が始まる。また催眠術か。
暴れまわっていたのは、覚醒者の男。故にその怪力の前に、周囲の非覚醒者である兵は、散り散りに引く。
「いい加減にしてほしいわね…!」
ドン。涼子の背負い投げで、地面に叩き付けられる男。すぐさま馬乗りになるようにして、それを取り押さえる。
だが…
「混ざったな……」
今の騒ぎで一瞬、列が散ったせいで、再度並べ直す必要が出てきた。
「まだ検査を受けてない人はこっちに!」
エニアの呼び声に、人が戻っていくが――足りない。恐らく先ほどの催眠術で混乱を起こし、その隙に、検査済みの人の中に紛れ込んだのだろう。
「ふふ…面倒だな。いっそ全部焼き払えれば楽なのだが」
物騒な事を呟く一。周囲にある、光り輝く結界は、彼の手による物だ。抵抗を上げてくれるその結界は、歪虚の催眠術に抵抗し易くなる効果を与えてくれる。だが、一般兵の抵抗力は、例えそれが覚醒者だったとしても――歴戦のハンターたちとは比べようがない。催眠術に引っかかってしまうのも、また仕方のない事か。
どうする?もう一度、検査済みの列をも合わせて検査しなおすか?だが、その間にまた、何かを仕掛けてこないとは限らない。
事実、今の混乱に乗じて、兵士が二名、暗殺されるかのごとく、腹部を刺されて殺されている。その刺された傷から出た血はあまりにも少ない。血を体内に取り込んだのだとしたら、刺す際も偽装されてしまうだろう。それでも涼子の検査には引っかかるだろうが――
「――凄く、落ち着いていますね。周りが慌てているのに」
そんな中。アメリア・フォーサイス(ka4111)は、一人の兵士に接近していた。
恐慌の表情を浮かべる周囲と比べて、彼は、余りにも落ち着きすぎている。
「慌ててもどうにもならないのが分かっておりますから」
回答に納得したようにこくり、と頷くと。振り向いたアメリアは、エニアの方に目配せする。
それに頷いたエニアが、手を翳す。すると、白いもやのような物が、先ほどの男と周囲の兵士たちの周りを覆う。
崩れ落ちるようにして、男たちが倒れる。だがハンターたちは見逃さなかった。先ほどアメリアと話した男が、一瞬遅れて倒れるのを。倒れる際その四肢が、人にはありえない動きをしたのを。
「戻って」
警戒しているアルトと真斗を呼び戻す為、袖で口を隠しながら、アメリアが短伝話に呼びかける。
その間に、ほかのハンターたちは周囲を取り囲んだ。
「おやまぁ、やはりばれましたか。いけませんねぇ……」
むにゅり。
不可思議な動きで、男が立ち上がる。周囲に居るハンターたちが、その人の姿が表像でしかない事を知っている。
――『形無き邪悪』ノーフェイス。
●Combat
「こそこそ隠れて、正面から戦うのが怖いんでしょ?」
「ええ。その通りです。卑怯こそが、我輩の根源ですからねぇ」
突進した涼子が手を伸ばし、ノーフェイスに掴みかかる。力づくでその腕を握ると、膝を当て、引っ張る。
「やれやれ、何の冗談ですかね」
ぬるり。掴まれた腕が極端にまで細くなり、捕縛をすり抜ける。そのまま、涼子の背後へと抜けると、ノーフェイスの背中から突き出した鋼の棘が、彼女に突き刺さる。
「こういう事だよ!
背骨への直撃は避けた――でなければ、動けなくなっている。涼子はそのまま棘を掴むと、猛烈な腕力を以って前方の地面へ叩き付ける。流石に無限には体が伸びないのか、ノーフェイスも引っ張られ、そのまま地面へと叩き付けられる。然しすぐさまその身体は形を変えて、立ち上がる。
完全なる軟体であるその身体には、叩きつけによる衝撃は、ダメージを与えても、行動を阻害するという意味ではほぼ意味を成さない。
「こういう趣向は如何ですかな?」
ぶちり。紐が刃に切断される音。
ハンターたちが武装解除させ、集めた武器の中には――ノーフェイスの一部もまた、含まれていた。紐で縛って置いたものの、それは形を変えて紐を切断し。そして――回転するように周囲の武器を吹き飛ばし、刃の雨と化して一般兵たちの方を襲わせた。
「少しばかり数が多いね……!」
瑞鳥符を展開し、周囲の兵を守る一。だが、混乱を鎮める際に多少、使ってしまったのもあり。限りある符では全ての兵を守る事は出来ない。
降り注ぐ刃の雨の命中率は低く、致命傷には至らない者も多い。それでも――運が悪い者、と言うのは、どこにでも居るものだ。
「ぐぁっ!」
刃が突き刺さり、そのまま地に縫いとめられるようにして、動かなくなる兵士。
然し、次の瞬間。ノーフェイスの身体には、弾丸が突き刺さっていた。
「おお?」
身震いし、大きく動きが鈍るノーフェイス。アメリアの放った冷気を多大に孕んだ弾丸は、見事にその全身を冷却したのであった。
「さて、リベンジを果たさせていただこうかな」
深い呼吸音と共に、振り上げられる大鎌。動きの鈍ったノーフェイスがそれを逃れる術はなく――
「盾になって頂きましょうか」
鎌は、飛び込んできた兵士を、両断した。
――Holmesの腕力は恐るべき物で。兵士を両断した上で、尚もノーフェイスの一部を切り取る。
だが、何が起こったのか。脳内で理解しようとした一瞬の隙に、顔に鉄槌のような打撃を受ける。
頭部を硬化させ、フレイルのように振るったノーフェイスの『頭突き』だ。
「まだやるのかな…?」
再度、冷気を弾丸に込め、引き金を引く。だがそれはまた、飛び込んできた兵士に突き刺さる事になる。今度来たのは覚醒者だろうか。即死には至っていないが、弾丸の貫通を阻害し、ノーフェイスもまた、無傷。
「速やかに退却!混乱は相手の思うつぼ、兵士なら強い意志を持って行動せよ!」
連絡を受けた、周辺の警戒から駆けつけた真斗が、到着と共に叫ぶ。
「あ、ああ!」
その声に、落ち着きを取り戻したかのように。秩序正しく、撤退して行く兵士たち。
「さて、これで人の盾は使えなくなったね?」
エニアが、ノーフェイスの方を睨みつける。その手に湛えるは、雷光。
放たれる一閃。蒼雷が、ノーフェイスの身体を貫く。
「…おお、これは中々…」
「……」
声も発さずに、接近するアルト。最早話す言葉は持たない。ただ、後は相手を叩き潰すのみ。
「真似できるのは表像だけのようだね」
犬が隣で吠えている。先ほど武器を吹き飛ばした、『体の一部』に向かって、だ。匂いが違うのだろう。
逃すわけには行かない。振るう刃が、華となり。左右から同時にノーフェイスに襲い掛かる。逃げ道を封じられた敵は然し、敢えてアルトに、接近するように体当たりを仕掛ける。
ザシュ。ノーフェイスの後方に、僅かに刃が食い込む。浅いのは、連続攻撃故の威力の低さか。
密着した状態からそのまま、ノーフェイスは身体を変化させ、無数の金属棘として前に打ち出す!
「くうぅ…っ!」
密着した状態では回避は不可能。完全に受けてしまうアルト。然し、彼女とて唯では引き下がらない。強引に手首を回転させて刃の軌道を変え、硬化していない部分に刀を突き立てる。
「……ほう」
落ち着いた声ではあるが、後退したノーフェイス。この一合は、痛み分けであると言えよう。
「なら…!」
再度、雷撃を手に込めるエニア。その瞬間、四方から、棘が放たれる。先ほど切り落とされたノーフェイスの一部か。
「――!」
その棘がエニアに届く前に、バナディアンがそれを受け止める。先ほどから、味方へ向けられた攻撃を代わりに防いだ彼女だ。終にその体力は尽き、倒れ伏す。だが、その挺身は、エニアが二発目の雷撃を放つチャンスを作った。
「破片ごと…焼き尽くしてあげる…!」
再度、雷光がノーフェイスに突き刺さる。飛び散る破片はない。直線上を薙ぎ払う雷撃は、飛び散る破片をも破壊した。
「むう…確かに面倒ですな…」
怯んだ隙を突き、既にアルトとHolmes、そして涼子が近づいてきている。打たれ続けるのは、決してノーフェイスにとっては得策ではない。
「――ええ、まとめて、焼き尽くしていただきましょうか」
ノーフェイスが変身を解く。その真実の姿は――透明、限りなく透明な、スライム。
(「コアらしい物は――見当たらないか」)
有れば打ち抜いてあげた物を。そう、舌打ちする。だが、やる事は代わらない。三度、雷撃の呪文を唱えるエニア。
その時彼女の脳裏には浮かばなかったのだ。『何故』、ノーフェイスが変身を解いたのかを。
その表面に、紋様が浮かび上がる。
「ぐぁっ!?」
涼子の背後から、雷撃が彼女を打ち据える。何故、と考える間もなく。目に映ったのは、隊列のまま逃げる兵士たちを、背後から纏めて貫く雷撃。
――普通ならば、エニアには催眠は効かなかっただろう。だが、彼女は紋章を目にしてしまったのだ。――精神的抵抗力を削り取る、魔の紋章を。
「――相変わらず、いやらしい」
心の波を強引に精神力で押さえ込み。真斗の拳が叩き込まれる。
前後の別がないノーフェイスには、奇襲と言う物は通じにくい。だが、肉盾を失った事で打ち込まれたアメリアの冷気弾が、その回避を阻害していた。
吹き飛び、木に叩き付けられる。そのまま体色を木に合わせるノーフェイス。撤退するつもりか。
「させないよ!」
防御を打ち崩す、涼子の打撃。極め技は効かない物の、投げはある程度の効果が出るのが実証済み。木から引き剥がすようにして引っ張ると共に、
「いいですよ。そのまま――」
真斗の拳もまた迫る。そのまま地面に叩きつけ――
「やれやれ。近づきすぎたとは思わないのですかねぇ」
拳は、涼子の胴を捉えていた。
――真斗もまた、あの紋章を――目に入れていたのだった。
最後の力で、地面にノーフェイスを叩き付ける。
そして、射撃と魔法、そして斬撃が一斉にその場に降り注ぎ、それを粉砕した。
『形無き邪悪』ノーフェイス。凶悪なその歪虚は、倒されたかに思われた。
●Escape
「やれやれ。仕方ありませんね…」
戦闘が終わってから暫くして。戦場から少し離れた場所で。地面がこんもりと盛り上がる。
そのスライムは…先ほどハンターたちと交戦した時に比べ。かなり小さくなっていた。
「体積の大半を囮に使ってしまいましたからな…暫くは動けますまい」
涼子に投げられる一瞬。全身が引き剥がされたように見せかけ、彼は体の大半を切り離してダミーにし、残りの部分を偽装したまま、逃走したのである。
「さて、どうやって回復を図りましょうかねぇ」
――邪悪は、未だ終わらず。
「催眠と変身…ゲリラ戦に最適の能力だね」
だからこそ、この場で排除しなければならない。
――読んだ資料の内容を、もう一度脳内で復習し。アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)が、混沌としていた場に入る。
「周囲は任せてください。また逃げられては困りますからね」
真田 天斗(ka0014)が、そんなアルトと共に、少しだけ後退する。混乱に乗じてノーフェイスが逃げ出すと言う事を、彼らは警戒していたのだ。
「さて諸君、落ち着きたまえ。これは恐らく、姿を変えられる『ノーフェイス』と言う歪虚が――」
それに答えたHolmes(ka3813)の話が終わる前に、周囲の者たちが、一斉に彼女の方を睨みつける。
「どうしてお前が信用できる?本当に誰にでも化けられると言うのなら、お前に化けてる可能性だってあるんじゃないか?」
キン。
刃のぶつかり合う音。狂気に駆られたのか、催眠されたのか、とある兵士が他の者に襲い掛かったのだ。
「とにかく、一旦皆さん、武器を置いてください!このままでは同士討ちに」
「置いたらお前たちが襲い掛かってくるんだろ?騙されねぇぜ!!」
――確かに、若しも兵士たちが『通常の精神状態』であったのならば、ハンターたちの命に素早く従っただろう。だが、彼らは既に催眠術による同士討ちにより、疑心暗鬼に陥っていた。それに加え――
「どうなるんでしょうね、若しも彼らが、歪虚の作り出した幻影だとしたら」
隣の兵士にのみ聞こえるような小さい声で、一人、呟く。
それは兵士たちの心の恐慌を煽るような言葉。
(「フフ、既に恐怖に陥っている方でしたら、簡単ですからねぇ」)
――ノーフェイスの戦術は、『誤認』と『煽動』に特化している。
ハンターたちが兵士に『安全を保障』する事が即座に出来なかった以上、多くの兵士が己の身を守る武器を放棄する事を渋った。
「これはいけないな」
割り込んだのは三里塚 一(ka5736)。展開される無数の、白い鳥。
「見たまえ、鳩だ。平和的だろう?」
それが攻撃を受け止め、一般兵の致命傷を避ける。然し、それでも、『彼一人で』守れる範囲には、少しばかり限りがある。各所で兵士たちが、次々と斬られて行く。
「仕方ない…少しだけ、力と言う物に訴えるとしようか、ワトソン君」
両手を打ち合わせ、Holmesは前に歩み出た。
●Recognition
――結果として、兵士の1/4程がHolmesに強制的に武装解除され、取り押さえられた時点で、暴走する者は居なくなった。
恐らくノーフェイスも気づいたのであろう。このまま操る者を変え続ければ、動ける人間が少なくなり、疑いが自分の方へと向く可能性が高まると。
「んー、確かに何かこの近くには居るみたいだけど……?」
魔道短電話にノイズが出ないのを見て、バナディアン・I(ka4344)が頭をかしげる。
――そもそも『どの程度の距離まで歪虚に近づけばノイズが走るのか』と言う実証的なデータを、ハンターたちはまだ持っていない。或いは、相当遠くに居てもノイズが出るのかも知れないし、歪虚の個体差によってもその範囲は違うのかも知れない。
(「反応での確認は無理そうかな……」)
本来、兵士たちが武器を捨てるのに戸惑ったかどうかで判別を試みようとした十色 エニア(ka0370)。だが、先の騒動で多くの兵士が武装解除を渋ったのが、判別の障害となった。その為回収した武器を、1つずつ確認しに掛かる。
「さて、この中に紛れ込んでいる歪虚を探す方法だが――」
そう言って、いきなり。Holmesは自身の掌に、ナイフを突き立てた。
眼を丸くする兵士たちに、彼女は平然と続ける。
「これを一人ずつ行ってもらいたいかな」
――兵士たちの先頭に居た者から、順に『検査』を受けていく。実行するのはHolmes、そして彼女を補助するように、烏丸 涼子 (ka5728)が監視、補助検査をしている。
「はい、ちょっと触らせてよね」
二の腕を押し、血の色を確かめる。一人ずつそれを繰り返していく。
然し、検査をするラインは、一つ。即ち全員を検査するには、著しい時間が掛かる。そしてその時間中、敵たる者が大人しくしていると考えるのは――余りにも楽観的だろう。
「うわぁぁ!?」
突如、取っ組み合いの喧嘩が始まる。また催眠術か。
暴れまわっていたのは、覚醒者の男。故にその怪力の前に、周囲の非覚醒者である兵は、散り散りに引く。
「いい加減にしてほしいわね…!」
ドン。涼子の背負い投げで、地面に叩き付けられる男。すぐさま馬乗りになるようにして、それを取り押さえる。
だが…
「混ざったな……」
今の騒ぎで一瞬、列が散ったせいで、再度並べ直す必要が出てきた。
「まだ検査を受けてない人はこっちに!」
エニアの呼び声に、人が戻っていくが――足りない。恐らく先ほどの催眠術で混乱を起こし、その隙に、検査済みの人の中に紛れ込んだのだろう。
「ふふ…面倒だな。いっそ全部焼き払えれば楽なのだが」
物騒な事を呟く一。周囲にある、光り輝く結界は、彼の手による物だ。抵抗を上げてくれるその結界は、歪虚の催眠術に抵抗し易くなる効果を与えてくれる。だが、一般兵の抵抗力は、例えそれが覚醒者だったとしても――歴戦のハンターたちとは比べようがない。催眠術に引っかかってしまうのも、また仕方のない事か。
どうする?もう一度、検査済みの列をも合わせて検査しなおすか?だが、その間にまた、何かを仕掛けてこないとは限らない。
事実、今の混乱に乗じて、兵士が二名、暗殺されるかのごとく、腹部を刺されて殺されている。その刺された傷から出た血はあまりにも少ない。血を体内に取り込んだのだとしたら、刺す際も偽装されてしまうだろう。それでも涼子の検査には引っかかるだろうが――
「――凄く、落ち着いていますね。周りが慌てているのに」
そんな中。アメリア・フォーサイス(ka4111)は、一人の兵士に接近していた。
恐慌の表情を浮かべる周囲と比べて、彼は、余りにも落ち着きすぎている。
「慌ててもどうにもならないのが分かっておりますから」
回答に納得したようにこくり、と頷くと。振り向いたアメリアは、エニアの方に目配せする。
それに頷いたエニアが、手を翳す。すると、白いもやのような物が、先ほどの男と周囲の兵士たちの周りを覆う。
崩れ落ちるようにして、男たちが倒れる。だがハンターたちは見逃さなかった。先ほどアメリアと話した男が、一瞬遅れて倒れるのを。倒れる際その四肢が、人にはありえない動きをしたのを。
「戻って」
警戒しているアルトと真斗を呼び戻す為、袖で口を隠しながら、アメリアが短伝話に呼びかける。
その間に、ほかのハンターたちは周囲を取り囲んだ。
「おやまぁ、やはりばれましたか。いけませんねぇ……」
むにゅり。
不可思議な動きで、男が立ち上がる。周囲に居るハンターたちが、その人の姿が表像でしかない事を知っている。
――『形無き邪悪』ノーフェイス。
●Combat
「こそこそ隠れて、正面から戦うのが怖いんでしょ?」
「ええ。その通りです。卑怯こそが、我輩の根源ですからねぇ」
突進した涼子が手を伸ばし、ノーフェイスに掴みかかる。力づくでその腕を握ると、膝を当て、引っ張る。
「やれやれ、何の冗談ですかね」
ぬるり。掴まれた腕が極端にまで細くなり、捕縛をすり抜ける。そのまま、涼子の背後へと抜けると、ノーフェイスの背中から突き出した鋼の棘が、彼女に突き刺さる。
「こういう事だよ!
背骨への直撃は避けた――でなければ、動けなくなっている。涼子はそのまま棘を掴むと、猛烈な腕力を以って前方の地面へ叩き付ける。流石に無限には体が伸びないのか、ノーフェイスも引っ張られ、そのまま地面へと叩き付けられる。然しすぐさまその身体は形を変えて、立ち上がる。
完全なる軟体であるその身体には、叩きつけによる衝撃は、ダメージを与えても、行動を阻害するという意味ではほぼ意味を成さない。
「こういう趣向は如何ですかな?」
ぶちり。紐が刃に切断される音。
ハンターたちが武装解除させ、集めた武器の中には――ノーフェイスの一部もまた、含まれていた。紐で縛って置いたものの、それは形を変えて紐を切断し。そして――回転するように周囲の武器を吹き飛ばし、刃の雨と化して一般兵たちの方を襲わせた。
「少しばかり数が多いね……!」
瑞鳥符を展開し、周囲の兵を守る一。だが、混乱を鎮める際に多少、使ってしまったのもあり。限りある符では全ての兵を守る事は出来ない。
降り注ぐ刃の雨の命中率は低く、致命傷には至らない者も多い。それでも――運が悪い者、と言うのは、どこにでも居るものだ。
「ぐぁっ!」
刃が突き刺さり、そのまま地に縫いとめられるようにして、動かなくなる兵士。
然し、次の瞬間。ノーフェイスの身体には、弾丸が突き刺さっていた。
「おお?」
身震いし、大きく動きが鈍るノーフェイス。アメリアの放った冷気を多大に孕んだ弾丸は、見事にその全身を冷却したのであった。
「さて、リベンジを果たさせていただこうかな」
深い呼吸音と共に、振り上げられる大鎌。動きの鈍ったノーフェイスがそれを逃れる術はなく――
「盾になって頂きましょうか」
鎌は、飛び込んできた兵士を、両断した。
――Holmesの腕力は恐るべき物で。兵士を両断した上で、尚もノーフェイスの一部を切り取る。
だが、何が起こったのか。脳内で理解しようとした一瞬の隙に、顔に鉄槌のような打撃を受ける。
頭部を硬化させ、フレイルのように振るったノーフェイスの『頭突き』だ。
「まだやるのかな…?」
再度、冷気を弾丸に込め、引き金を引く。だがそれはまた、飛び込んできた兵士に突き刺さる事になる。今度来たのは覚醒者だろうか。即死には至っていないが、弾丸の貫通を阻害し、ノーフェイスもまた、無傷。
「速やかに退却!混乱は相手の思うつぼ、兵士なら強い意志を持って行動せよ!」
連絡を受けた、周辺の警戒から駆けつけた真斗が、到着と共に叫ぶ。
「あ、ああ!」
その声に、落ち着きを取り戻したかのように。秩序正しく、撤退して行く兵士たち。
「さて、これで人の盾は使えなくなったね?」
エニアが、ノーフェイスの方を睨みつける。その手に湛えるは、雷光。
放たれる一閃。蒼雷が、ノーフェイスの身体を貫く。
「…おお、これは中々…」
「……」
声も発さずに、接近するアルト。最早話す言葉は持たない。ただ、後は相手を叩き潰すのみ。
「真似できるのは表像だけのようだね」
犬が隣で吠えている。先ほど武器を吹き飛ばした、『体の一部』に向かって、だ。匂いが違うのだろう。
逃すわけには行かない。振るう刃が、華となり。左右から同時にノーフェイスに襲い掛かる。逃げ道を封じられた敵は然し、敢えてアルトに、接近するように体当たりを仕掛ける。
ザシュ。ノーフェイスの後方に、僅かに刃が食い込む。浅いのは、連続攻撃故の威力の低さか。
密着した状態からそのまま、ノーフェイスは身体を変化させ、無数の金属棘として前に打ち出す!
「くうぅ…っ!」
密着した状態では回避は不可能。完全に受けてしまうアルト。然し、彼女とて唯では引き下がらない。強引に手首を回転させて刃の軌道を変え、硬化していない部分に刀を突き立てる。
「……ほう」
落ち着いた声ではあるが、後退したノーフェイス。この一合は、痛み分けであると言えよう。
「なら…!」
再度、雷撃を手に込めるエニア。その瞬間、四方から、棘が放たれる。先ほど切り落とされたノーフェイスの一部か。
「――!」
その棘がエニアに届く前に、バナディアンがそれを受け止める。先ほどから、味方へ向けられた攻撃を代わりに防いだ彼女だ。終にその体力は尽き、倒れ伏す。だが、その挺身は、エニアが二発目の雷撃を放つチャンスを作った。
「破片ごと…焼き尽くしてあげる…!」
再度、雷光がノーフェイスに突き刺さる。飛び散る破片はない。直線上を薙ぎ払う雷撃は、飛び散る破片をも破壊した。
「むう…確かに面倒ですな…」
怯んだ隙を突き、既にアルトとHolmes、そして涼子が近づいてきている。打たれ続けるのは、決してノーフェイスにとっては得策ではない。
「――ええ、まとめて、焼き尽くしていただきましょうか」
ノーフェイスが変身を解く。その真実の姿は――透明、限りなく透明な、スライム。
(「コアらしい物は――見当たらないか」)
有れば打ち抜いてあげた物を。そう、舌打ちする。だが、やる事は代わらない。三度、雷撃の呪文を唱えるエニア。
その時彼女の脳裏には浮かばなかったのだ。『何故』、ノーフェイスが変身を解いたのかを。
その表面に、紋様が浮かび上がる。
「ぐぁっ!?」
涼子の背後から、雷撃が彼女を打ち据える。何故、と考える間もなく。目に映ったのは、隊列のまま逃げる兵士たちを、背後から纏めて貫く雷撃。
――普通ならば、エニアには催眠は効かなかっただろう。だが、彼女は紋章を目にしてしまったのだ。――精神的抵抗力を削り取る、魔の紋章を。
「――相変わらず、いやらしい」
心の波を強引に精神力で押さえ込み。真斗の拳が叩き込まれる。
前後の別がないノーフェイスには、奇襲と言う物は通じにくい。だが、肉盾を失った事で打ち込まれたアメリアの冷気弾が、その回避を阻害していた。
吹き飛び、木に叩き付けられる。そのまま体色を木に合わせるノーフェイス。撤退するつもりか。
「させないよ!」
防御を打ち崩す、涼子の打撃。極め技は効かない物の、投げはある程度の効果が出るのが実証済み。木から引き剥がすようにして引っ張ると共に、
「いいですよ。そのまま――」
真斗の拳もまた迫る。そのまま地面に叩きつけ――
「やれやれ。近づきすぎたとは思わないのですかねぇ」
拳は、涼子の胴を捉えていた。
――真斗もまた、あの紋章を――目に入れていたのだった。
最後の力で、地面にノーフェイスを叩き付ける。
そして、射撃と魔法、そして斬撃が一斉にその場に降り注ぎ、それを粉砕した。
『形無き邪悪』ノーフェイス。凶悪なその歪虚は、倒されたかに思われた。
●Escape
「やれやれ。仕方ありませんね…」
戦闘が終わってから暫くして。戦場から少し離れた場所で。地面がこんもりと盛り上がる。
そのスライムは…先ほどハンターたちと交戦した時に比べ。かなり小さくなっていた。
「体積の大半を囮に使ってしまいましたからな…暫くは動けますまい」
涼子に投げられる一瞬。全身が引き剥がされたように見せかけ、彼は体の大半を切り離してダミーにし、残りの部分を偽装したまま、逃走したのである。
「さて、どうやって回復を図りましょうかねぇ」
――邪悪は、未だ終わらず。
依頼結果
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ロレント君への質問 Holmes(ka3813) ドワーフ|8才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2015/11/14 21:17:02 |
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ノースフェイス撃退相談卓 Holmes(ka3813) ドワーフ|8才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2015/11/16 09:04:45 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/11/11 07:34:57 |