ゲスト
(ka0000)
オムスライム
マスター:月宵

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/11/22 19:00
- 完成日
- 2015/11/30 06:16
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
辺境の地。そこには様々な部族が存在している。彼らにはそれぞれ崇拝し、信仰するトーテムと言うものが存在する。彼ら部族をまとめあげるに不可欠なもの、言わば生命線と言ったところだろうか。
そんな部族の中に『イチヨ族』と言うものがいる。彼らは流浪の少数部族で、各地を転々とする者達。彼らのトーテムの名は『概念精霊・コリオリ』と言う。
彼らの信条は『他部族の信仰を信仰する』と言う変わったものだ。
それが例え、如何なる信仰であろうとも……
●イタダケマセン
足音慌ただしい調理場。まだ暁と言うにも微妙な時間から、材料の仕込みは行われていた。
「ふわぁ……おはようさん」
そんな調理場に現れた二十歳頃の青年は、黒髪を一つに結いながら生欠伸を一つ。
「おはようございます。今日は進行役、よろしくお願いします」
部族の役人と思わしき人物は、作業中にもかかわらず青年に会釈を返した。青年の名は、マ・エダ。イチヨ族の舞刀士だ。
今回、この集落では収穫祭が行われる。そのメインイベント、とも言えるのがエダが司会を行う『パンケーキタワーコンテスト』だ。
集落付近に集落または、帝国付近の街から参加者を募り、思い思いのパンケーキを作るイベントだ。
エダもただ物見遊山に調理場に来たわけではない。色々な材料の最終確認に来たのだ。
パンケーキタワーを作るのだ、当然ながら材料も膨大になってくる。
「お、玉子。無事に届いたんだな」
大小ばらばらの玉子を眺めながらエダは安堵する。各集落より協力を得て、集めた産みたての玉子その数600個。
ナマモノ故に不安が少々あったが、無事に届いていたようだ。因みに調理場にあるのは、まだほんの一部。置ききれないので、他は氷室に置いてある。
「どーれっ、と」
唐突に、作業台の隅っこで玉子の塔より一つ拝借し、自ら持参したおにぎりを椀に入れて箸で崩し始めた。
「あのエダ殿、何を」
「ん? 腹減ったから玉子かけご飯」
「えぇ!? ダメですよ。コンテスト用なのに」
「大丈夫だって、600個もあるんだぜ」
1つくらい消えてもバレやしない、そうエダが言えば制止を諦めた役人は項垂れる。声がおさまったのを知れば、早速とばかりに碗の縁に玉子を当て、陶器の様な白肌にヒビをいれた。
その瞬間だった。
玉子から出てきた黄身と白身が、大きく膨らみエダを頭から足までスッポリ覆ったのだ。
(クソ……息が…っ)
「エダ殿!?」
口鼻に入り込む粘着性の白身が、水よりも素早く酸素を奪ってゆく。咄嗟にエダは腰元の得物を掴む。
ビチャ
「ケホッ、ケホッ、カハ」
白身と黄身を居合い斬りで一閃。生命を失った玉子は重力に従い地面に落ちた。全卵のみずたまりだけが、無残に残っている。
「大丈夫ですか!?」
「ああ、なんとかな」
「い、急いで族長呼んできます!」
●状況説明
「いやぁ、助かりましたぞ。流石マ・エダ様。こんなこと、誰も気付きませんでしょう」
「アハハハ……まぁ、ハイ」
調理場へと直ぐに族長が来てくれた。少しすると、とある集落でとれた玉子が出荷中に、歪虚化したと。恐らく道中にてのマテリアルの異常が、玉子を雑魔にしたのだろう。
「そのエダ様が言った玉子『オムスライム』ですが」
因みに名称はエダが付けた。理由スライムっぽいから、閑話休題。
そっちの集落の玉子は、早々にハンター達によって退治されたからひと安心と言うことだ。
「だが、こっちはそうはいかないぜ」
その集落から仕入れた玉子は計100個。しかも既に他の玉子と混ざってしまっている。
「全部破棄……なんて出来ませんよ?」
それ以上に、今回のコンテストを中止にするワケにもいかない。
「参ったなぁ……俺は仕入れは疎いんだぜ」
エダの担当は、司会や進行役などの仕事。仕出しや準備は別の人間が担当している。が、その人物は、別件で今近くにいない。
「ハンターに頼むしかないな」
イチヨ族としても、催事を中止するのは忍びないことだ。自分達の面子にも関わる。
「出来れば倒したオムスライムは、生卵として回収をお願い致します」
と言うのも、成り立ての歪虚化したものは、消滅後、正のマテリアルが入り『美味しくなることがある』。
現に別集落で退治されたオムスライムは、そのハンター達の朝ごはんとして美味しくいただかれた。
「ですが族長、コンテストまで後1時間しかありません」
「急ぎましょう。そうだ、もしこの件が解決すれば、労いにコンテストの審査員として参加して貰いましょう」
「了解。なら、ちょっくら依頼しに行って来るぜ」
そんな部族の中に『イチヨ族』と言うものがいる。彼らは流浪の少数部族で、各地を転々とする者達。彼らのトーテムの名は『概念精霊・コリオリ』と言う。
彼らの信条は『他部族の信仰を信仰する』と言う変わったものだ。
それが例え、如何なる信仰であろうとも……
●イタダケマセン
足音慌ただしい調理場。まだ暁と言うにも微妙な時間から、材料の仕込みは行われていた。
「ふわぁ……おはようさん」
そんな調理場に現れた二十歳頃の青年は、黒髪を一つに結いながら生欠伸を一つ。
「おはようございます。今日は進行役、よろしくお願いします」
部族の役人と思わしき人物は、作業中にもかかわらず青年に会釈を返した。青年の名は、マ・エダ。イチヨ族の舞刀士だ。
今回、この集落では収穫祭が行われる。そのメインイベント、とも言えるのがエダが司会を行う『パンケーキタワーコンテスト』だ。
集落付近に集落または、帝国付近の街から参加者を募り、思い思いのパンケーキを作るイベントだ。
エダもただ物見遊山に調理場に来たわけではない。色々な材料の最終確認に来たのだ。
パンケーキタワーを作るのだ、当然ながら材料も膨大になってくる。
「お、玉子。無事に届いたんだな」
大小ばらばらの玉子を眺めながらエダは安堵する。各集落より協力を得て、集めた産みたての玉子その数600個。
ナマモノ故に不安が少々あったが、無事に届いていたようだ。因みに調理場にあるのは、まだほんの一部。置ききれないので、他は氷室に置いてある。
「どーれっ、と」
唐突に、作業台の隅っこで玉子の塔より一つ拝借し、自ら持参したおにぎりを椀に入れて箸で崩し始めた。
「あのエダ殿、何を」
「ん? 腹減ったから玉子かけご飯」
「えぇ!? ダメですよ。コンテスト用なのに」
「大丈夫だって、600個もあるんだぜ」
1つくらい消えてもバレやしない、そうエダが言えば制止を諦めた役人は項垂れる。声がおさまったのを知れば、早速とばかりに碗の縁に玉子を当て、陶器の様な白肌にヒビをいれた。
その瞬間だった。
玉子から出てきた黄身と白身が、大きく膨らみエダを頭から足までスッポリ覆ったのだ。
(クソ……息が…っ)
「エダ殿!?」
口鼻に入り込む粘着性の白身が、水よりも素早く酸素を奪ってゆく。咄嗟にエダは腰元の得物を掴む。
ビチャ
「ケホッ、ケホッ、カハ」
白身と黄身を居合い斬りで一閃。生命を失った玉子は重力に従い地面に落ちた。全卵のみずたまりだけが、無残に残っている。
「大丈夫ですか!?」
「ああ、なんとかな」
「い、急いで族長呼んできます!」
●状況説明
「いやぁ、助かりましたぞ。流石マ・エダ様。こんなこと、誰も気付きませんでしょう」
「アハハハ……まぁ、ハイ」
調理場へと直ぐに族長が来てくれた。少しすると、とある集落でとれた玉子が出荷中に、歪虚化したと。恐らく道中にてのマテリアルの異常が、玉子を雑魔にしたのだろう。
「そのエダ様が言った玉子『オムスライム』ですが」
因みに名称はエダが付けた。理由スライムっぽいから、閑話休題。
そっちの集落の玉子は、早々にハンター達によって退治されたからひと安心と言うことだ。
「だが、こっちはそうはいかないぜ」
その集落から仕入れた玉子は計100個。しかも既に他の玉子と混ざってしまっている。
「全部破棄……なんて出来ませんよ?」
それ以上に、今回のコンテストを中止にするワケにもいかない。
「参ったなぁ……俺は仕入れは疎いんだぜ」
エダの担当は、司会や進行役などの仕事。仕出しや準備は別の人間が担当している。が、その人物は、別件で今近くにいない。
「ハンターに頼むしかないな」
イチヨ族としても、催事を中止するのは忍びないことだ。自分達の面子にも関わる。
「出来れば倒したオムスライムは、生卵として回収をお願い致します」
と言うのも、成り立ての歪虚化したものは、消滅後、正のマテリアルが入り『美味しくなることがある』。
現に別集落で退治されたオムスライムは、そのハンター達の朝ごはんとして美味しくいただかれた。
「ですが族長、コンテストまで後1時間しかありません」
「急ぎましょう。そうだ、もしこの件が解決すれば、労いにコンテストの審査員として参加して貰いましょう」
「了解。なら、ちょっくら依頼しに行って来るぜ」
リプレイ本文
氷室は部屋全体を見通せるが薄暗く、吐いた息は白くなる。高く木箱は積まれ、その中にはいくつもの玉子が眠っている。
玉子の味に偏りが出ないよう、公平な審査の丁寧な行為。しかし今回はそれが仇となったのだ。
「うー、冷たい!」
清潔さが大事と、水をピュアウォーターで浄化し容器洗浄に使うのはエーミ・エーテルクラフト(ka2225)だ。予定では玉子から歪虚を探す実験に30分、実行に残り30分。最悪、1分間に20個割れば間に合う計算だ。
(これならコンテスト参加に間に合うわね)
「言われたもの持ってきたぜ?」
塩一袋抱えて、マ・エダがハンター達へ話掛ける。塩の袋を片隅に置くと彼は、あとよろしく、と手を振り帰……
「マ・エダさんも手伝ってくれるわよね?」
――ら、させないであろうエーミの笑み。
「オイオイ、オレこの後、打ち合わせだぜ」
「だって私は魔術師よ。後衛なの」
ねぇ、と微笑をひとつ。やんわり目元の力を弱めるエーミ。
「美人さんに言われちゃ断れないぜ。だが、手伝いだけな」
折角着替えて髪を整えたのに、司会としてもう玉子まみれにするわけにはいかない。
「どうぞ、こちらです」
「御丁寧にありがとう御座います」
黒耀 (ka5677)は箱に引き詰められた玉子。合計にして100個を古川 舞踊(ka1777)に手渡した。舞踊と墨城 緋景(ka5753)は他とは違う調査方法を使うようだ。
「歪虚化した卵ってな、そのまま食っちまうと腹壊すんかなァ」
未だ動きを見せない玉子を、そうっと6セットに分ける少年は鎬鬼(ka5760)である。
「おまえの犬っころ大丈夫か?」
と彼が視線を移すと片隅で丸まっている柴犬がいた。肌を刺すほど寒さはこの室内にはないと言えど、冬に氷室。寒いことは間違いない。
「うん、シロにも手伝ってもらうから」
もうちょっと待っててね、と緋景はペットの頭を撫でてやった。塩や短伝話、はたまた犬まで利用する他のハンター達に鎬鬼は感心していた。
「よぉし、これで良いかしら」
体格を利用し玉子を積み上げた小紅(ka5734)が、肩を回しながら全員へ振り返る。
「数が多いけど、お祭りで使うなら何とかしないとね。頑張りましょ」
●実験してみよう
『此方、古川です。緋景さん、聴こえますか?』
『こちら緋景、感度良好。古川くんどうぞ~』
目と鼻の先の相手へと魔導短伝話を使用する二人。勿論遊びではない。これも立派な実験だ。内容として、短伝話を通信に使う際に入る、負マテリアルのノイズを逆に利用するものだ。
緋景としては、本当は黒耀と共に行いたかったのだが。
強く強く「…え? 短伝話? はは、あのような西方の機械を、この私が上手く扱えるとお思いで? 当然! 使えませんとも!! ええ!!!」と断言されたのだ。
兎に角、気を取り直して短伝話を玉子へと近付ける。
ゴゴゴゴ……
氷室内部の風音が聴こえるばかりで、一つ目の玉子にノイズはない。
「念のため掛けます」
舞踊はタクトを取り出し、手慣れた様子で操作をしていく。彼女が行ったのは伝波増幅。つまりはよりノイズを聞き分けられるように、術をこの氷室にかけたのだ。
「大丈夫だね、よし次」
それでもクリアな音に、一抹の不安を帯びながらも緋景は次々と玉子に伝話を宛がうのであった……
こちらではエーミが指導しながら、深い桶いっぱいの水の中に玉子を一つ入れる。
これは本来、古い玉子と新しい玉子を見分ける方法だ。新しい玉子は重く沈み、古ければ軽くて浮かんでしまう。
現在、浄化された綺麗な水には玉子が水底にいる。この玉子は仕入れたものとは別。つまり、この玉子が歪虚と言うことはない。
黒耀はその間に、コップに濃いめの塩水を作る。勿論これもピュアウォーターを使用した食塩水だ。これを少しずつださっきの桶に注ぐ。
ちょっとずつ、ちょっとずつ、塩水を増やしていけばその内玉子はぷっかりと水面を浮いてきた。
「わー、本当に浮いてきたわね」
小紅が物珍しそうに呟くが、本番はこっから。更に幾つもの玉子を桶の中に投入していく。それをエーミは観察する、浮いている玉子がブイのように増えていく。
「物理法則を超越した連中だけど、悪意の分だけ重くならないのかしら?」
エダからはオムスライムは膨らんだと聞いた。ならば、通常の玉子より、重くなる筈と彼女は考えた。
「……そうかも知れません」
幾つかの玉子が、浮かずに底へと引かれていくことに黒耀は気付いた。それを小紅は腕を突っ込み冷たいのも気にせず玉子を取り出した。
「タライこれでいいか?」
「ありがとうエダちゃん」
エダが持ってきた大きな木のタライに玉子を一個置く小紅。
「まずは、一つ目!」
手に持った鉄扇にて、閉じたまま玉子の殻を叩いた。
コツン
硬い鉄扇の角が辺り、殻にヒビが入った。
途端。自ら殻を破り、小紅に黄身と白身――オムスライムが飛び掛かってきた。
「ダァ!」
小紅は鉄扇を広げオムスライムの攻撃を防ぎ、そのままビタァァァン!
タライに戻されたオムスライムは潰れ、ただの玉子の中身がそこにあるだけであった。
「どうやら、当たり……のようですね」
この調子で分別して行きましょう。そう黒耀はカードバインダーを片手に微笑むのであった。
一方短伝話組は……
『これ……何個目になりますか?』
淡々と短伝話に向かって告げる舞踊に、緋景はげんなりとこう返した。
『50個目……ここまでノイズ無し!』
一つ一つ懇切丁寧に、短伝話を玉子にあててきた二人。しかし、ノイズはいっこうにその音を見せやしない。
「なァー、この方法あってないんじゃねぇか?」
鎬鬼少年の無慈悲な一言が、二人のハートに突き刺さる。
これは後にあるイチヨ族の少年に聞いた話だが、確かに歪虚にてノイズが通信に出ることはあるらしい。しかし、それはよっぽど強く、いるだけで辺りを歪虚化するほどの力があるものらしい。
つまり、その辺りの一般的な雑魚スライムで、ノイズは先ず出ないそうだ。
とにもかくにも、短伝話作戦は失敗だった。そこで緋景は、塩水組から、歪虚と思わしき玉子を貰ってくる。
「さぁ、シロ。こいつを嗅ぐんだ」
シロはすんすんと、鼻先を近付け玉子の匂いを嗅ぐ。そして、今度は幾つも玉子の並ぶ箱にシロを近付ける。それは先程、短伝話で調べたものだ。
鼻スンスン。
「どう?シロ」
すると、ある箇所で彼は鳴いてくれた。どうやら、ヒトにはわからないほど僅かだが、玉子の匂いが違うようだ。
「ですが、割って調べている時間はありません」
短伝話でそれなりに時間を使っていたため、中身を今確認する時間はない。
仕方ないので、シロの鳴いた辺りの玉子を数個ずつ別の箱へ移すことにした。
30分経過。600の玉子をハンター達は無事に数えおわっていた。が、正確に100個見分けたとは言えなかった。シロの嗅覚頼りにしたやり方は、複数の玉子を分けるに至ったのは先程も告げたであろう。
しかし、塩水側も途中で浮きかけたり、沈みかけたりする玉子が幾つか存在し、判断に困りそちらも分けていた。
その数、両方合わせて約200個。
「ご苦労さん。それじゃオレはコイツ連れて先に外に出てるぜ?」
寒さでプルプルと震えているシロを持ち上げて、エダは氷室を出るところだった。
「御多忙中に、お手伝いありがとう御座いました」
「オレが手伝ったんだ。ちゃんと会場まで玉子持ってきてくれよ」
舞踊が会釈をすると、今度こそエダは頼むぜと告げて去っていった。
これで残す作業は後一つ。残り30分以内でオムスライム退治だ。
「おっしゃ、いくぞー!」
最初に動いたのは鎬鬼。大きなタライを前に置いて玉子を割った。再び襲いかかるオムスライムに、七節棍を折り曲げ撹拌するように打った。
「おっと」
「うぉ!」
無事、タライに落っこちる全卵。が、衝撃で玉子がそこらじゅうに飛び散る。見事に見切った鎬鬼は、汚れることなく玉子を処理する。傍らで見ていた小紅も鉄扇で丁寧に汚れを防いでいる。オムスライム、あまり耐久力はないようだ。
朝飯前に退治された、と言うのも納得できる。
「これは……やっぱり後で後片付けね」
何度か戦闘する内に、オムスライムの生態もわかってきた。オムスライムは、殻を割ったヒトに必ず向かう。それもちょっとしたヒビが入っただけでた。小紅はこれを外気に反応しているのでは、と考える。
「きゃあ!」
飛び散る範囲は思った以上に広く、エーミのように遠距離で攻撃したとしてもかかるときはかかる。
「私は後衛なのに。エダの奴」
「無理して来てもらっていたのですから、これ以上引き止めるワケにはいきません」
舞踊が傍らで手伝いつつ、エーミをたしなめるように言う。そんな彼女は、跳ねる卵液は防御壁を展開し完全に遮断。
こっちでは黒耀と緋景が二人で作業している。片手で丁寧に玉子を割れば、符から飛び出した蝶に似た光球がオムスライムを突き抜ける。
飛んでくる玉子飛沫は更に、瑞鳥符でガード。
「産んだはずの卵を親鳥で防護!何かちょっと背徳心!」
ゴーグル越しに見える光景に罪悪感を覚えつつも、緋景は顔についたものを指でひとすくいして、パクっ。
コクある黄身は、暫く口の中で転がしたいほど濃厚であった。独特の生臭みもなく、芳醇なきのことも見間違う香り、らしい。
グシャッ
タライの縁に誰よりも勢いよく叩き付け、黒耀は玉子を割……砕く?
むろん、殻が入ろうがどこふくかぜとタライの中。が、一つ目はただの玉子であった。
「………………」
黒耀は一度カードバインダーをそっ閉じ。気を取り直して二つ目。広がる白身を待ってましたと盾で防ぐ。同時に胡蝶符で貫く。
「夢幻の蝶で敵のライフをゼロに!さらば墓地へ!復活などない」
「うわ! 黒さん玉子!」
バインダー片手に宣言する黒耀。先程のタライかち割りの振動か、箱から玉子がころりん、パカンと割れてオムスライムが現れた。
突然の出現に対応出来ず、盾も間に合わずとっさに大切なカードバインダーだけはこの手で守る、と閉じた。
グチャ
黒耀にとって身の毛のよだつ音がした。開けてみれば意味はわかる。不幸にも、バインダーを閉じた時に入ってきたオムスライムが潰れて大切なカード、こと符は玉子まみれに……ナニカガキレルオトガシタ。
「ドロー! トラップカード発動!」
高々と掲げる符。オムスライムに落ちる雷。雷で加熱され生半熟に、しかし黒耀のターンは終わることを知らない。
どろどろのカードバインダーから、二枚目の符を取り出したところで緋景は背後から笑いをこらえて羽交い締める。
「もうやめて!オムのライフポイントはゼロよ!」
「…墨城?なぜ羽交い締めにしているのです? 私よりもそこのモンスターカード共をっ!?」
抗い緋景の戒めを抜けた黒耀。だが、運悪く…いや先程落っことした玉子で足が滑り、後頭部をゴツン。
そのまま、気絶である。最初は慌てた緋景も、急いでいるので黒耀を傍らに置いてから一言。
「一人減ったんで、時間ないから壁にぶつけても構わないよね? ね?」
「おー! 俺がざるで全部カラは取り除くぞ!」
既に自分の分のノルマを終えた鎬鬼が、元気よく目の細かい金ザルを振りながら言った。他に審査員のことも考えるとは、幼いながらも気遣いが出来る少年のようだ。
「それでは、再開致しましょうか」
そう言いつつ、舞踊は笑顔でデリンジャーの銃口を密かに下ろしたのであった。
●試食!
結果から言えば、ハンター達はエダが進行を始める本当の直前に間に合った。
何故、玉子が最初から割れてるのか、不思議がるヒトもいたが何事もないと知ればすぐに話はおさまった。
実際、割られた玉子はただの玉子であり、族長、ハンター、エダ達はひどく安心する。
そして、その時はやってきた。
『さぁさ、お待ちかね各パンケーキタワーのお披露目とご試食だぁ!』
一瞬皿に乗せられたそれは、パンケーキを建築物かと違うほどに高く、綺麗に盛り付けられていた。
参加者には、リクエストとして如何なるパンケーキが審査員が好みとしているかを教えている。
そうすれば、自ずとその傾向のパンケーキが完成する、と言うわけだ。
「うわ、すごいね」
それは緋景がリクエストした『質より量生クリームてんこ盛り』である。
これはミルフイユかと疑いたくなるほど、カスタードクリームと生クリームを挟んで重ね、その数は100枚になるのだろうか……しかもこれを作ったのは飛び入り参加のエーミである。
先ずいかにしてナイフを入れるかを考える緋景、を無視してフォークでぶっ刺して黒耀がいただく。
「甘いですね。けど、カスタードにはからめるがあって、苦味で丁度良いです」
「黒さん! ずるいです」
そんな既に室内で見慣れた光景に、エーミは新たな台詞を加えた。
「でも、ズルをした私はキケン。それに私は魔術師だもの」
凄くイイ笑みに、思わず聞き返す黒耀と緋景。しかし『謎も料理のスパイスなの♪』などと供述しどこかへ行ってしまった……
これをお土産にするのは断念しよう、そうしよう。そう二人は考えたと言う。
次に出てきたパンケーキは、小紅がリクエスト。『バターに蜂蜜、そして生クリーム』だ。
量こそエーミのものには負けているが、網目上かけられた黄金の蜂蜜の上に、じゅんわり溶けたバター。
冷めないように、と生クリームはお好みでと傍らに添えられた何とも高級感漂う一品だ。
「おいし~! やっぱりシンプルが一番よね」
男性ながらに、頬を押さえて絶品と誉める小紅。この笑顔を笑うものは、きっといないであろう。
「パンケーキなのに甘すぎないので、これならお嬢様へも持って帰れます」
一番フォークは進まぬなれど、紅茶を一口いただいた舞踊の感想は、彼女にしては心のこもっていたものであった。
最後に出てきたのは、鎬鬼がリクエストした『肉とか野菜とか辛めの香辛料とか使ったやつ』だ。
人参や、ほうれん草、チーズなどを練り込んだパンケーキが一枚一枚彩り豊かに重ねられ、最上段にはまるでリボンのように巻かれたこんがりベーコン、更にブラックペッパーが
満遍なく散らされている。
それを鎬鬼は眺めてから、一番上のパンケーキを手掴み、ベーコンを巻いてがっつりとかぶりつく。
「うっめーー! 辛ぇー!」
こうして、他の審査員達も試食を終えた。オムスライムが如何なる味であったか。
それは、ほぼ空になった皿をみれば理解できるだろう。
『さぁ、今回のパンケーキタワーコンテスト、優勝者は―――!!』
玉子の味に偏りが出ないよう、公平な審査の丁寧な行為。しかし今回はそれが仇となったのだ。
「うー、冷たい!」
清潔さが大事と、水をピュアウォーターで浄化し容器洗浄に使うのはエーミ・エーテルクラフト(ka2225)だ。予定では玉子から歪虚を探す実験に30分、実行に残り30分。最悪、1分間に20個割れば間に合う計算だ。
(これならコンテスト参加に間に合うわね)
「言われたもの持ってきたぜ?」
塩一袋抱えて、マ・エダがハンター達へ話掛ける。塩の袋を片隅に置くと彼は、あとよろしく、と手を振り帰……
「マ・エダさんも手伝ってくれるわよね?」
――ら、させないであろうエーミの笑み。
「オイオイ、オレこの後、打ち合わせだぜ」
「だって私は魔術師よ。後衛なの」
ねぇ、と微笑をひとつ。やんわり目元の力を弱めるエーミ。
「美人さんに言われちゃ断れないぜ。だが、手伝いだけな」
折角着替えて髪を整えたのに、司会としてもう玉子まみれにするわけにはいかない。
「どうぞ、こちらです」
「御丁寧にありがとう御座います」
黒耀 (ka5677)は箱に引き詰められた玉子。合計にして100個を古川 舞踊(ka1777)に手渡した。舞踊と墨城 緋景(ka5753)は他とは違う調査方法を使うようだ。
「歪虚化した卵ってな、そのまま食っちまうと腹壊すんかなァ」
未だ動きを見せない玉子を、そうっと6セットに分ける少年は鎬鬼(ka5760)である。
「おまえの犬っころ大丈夫か?」
と彼が視線を移すと片隅で丸まっている柴犬がいた。肌を刺すほど寒さはこの室内にはないと言えど、冬に氷室。寒いことは間違いない。
「うん、シロにも手伝ってもらうから」
もうちょっと待っててね、と緋景はペットの頭を撫でてやった。塩や短伝話、はたまた犬まで利用する他のハンター達に鎬鬼は感心していた。
「よぉし、これで良いかしら」
体格を利用し玉子を積み上げた小紅(ka5734)が、肩を回しながら全員へ振り返る。
「数が多いけど、お祭りで使うなら何とかしないとね。頑張りましょ」
●実験してみよう
『此方、古川です。緋景さん、聴こえますか?』
『こちら緋景、感度良好。古川くんどうぞ~』
目と鼻の先の相手へと魔導短伝話を使用する二人。勿論遊びではない。これも立派な実験だ。内容として、短伝話を通信に使う際に入る、負マテリアルのノイズを逆に利用するものだ。
緋景としては、本当は黒耀と共に行いたかったのだが。
強く強く「…え? 短伝話? はは、あのような西方の機械を、この私が上手く扱えるとお思いで? 当然! 使えませんとも!! ええ!!!」と断言されたのだ。
兎に角、気を取り直して短伝話を玉子へと近付ける。
ゴゴゴゴ……
氷室内部の風音が聴こえるばかりで、一つ目の玉子にノイズはない。
「念のため掛けます」
舞踊はタクトを取り出し、手慣れた様子で操作をしていく。彼女が行ったのは伝波増幅。つまりはよりノイズを聞き分けられるように、術をこの氷室にかけたのだ。
「大丈夫だね、よし次」
それでもクリアな音に、一抹の不安を帯びながらも緋景は次々と玉子に伝話を宛がうのであった……
こちらではエーミが指導しながら、深い桶いっぱいの水の中に玉子を一つ入れる。
これは本来、古い玉子と新しい玉子を見分ける方法だ。新しい玉子は重く沈み、古ければ軽くて浮かんでしまう。
現在、浄化された綺麗な水には玉子が水底にいる。この玉子は仕入れたものとは別。つまり、この玉子が歪虚と言うことはない。
黒耀はその間に、コップに濃いめの塩水を作る。勿論これもピュアウォーターを使用した食塩水だ。これを少しずつださっきの桶に注ぐ。
ちょっとずつ、ちょっとずつ、塩水を増やしていけばその内玉子はぷっかりと水面を浮いてきた。
「わー、本当に浮いてきたわね」
小紅が物珍しそうに呟くが、本番はこっから。更に幾つもの玉子を桶の中に投入していく。それをエーミは観察する、浮いている玉子がブイのように増えていく。
「物理法則を超越した連中だけど、悪意の分だけ重くならないのかしら?」
エダからはオムスライムは膨らんだと聞いた。ならば、通常の玉子より、重くなる筈と彼女は考えた。
「……そうかも知れません」
幾つかの玉子が、浮かずに底へと引かれていくことに黒耀は気付いた。それを小紅は腕を突っ込み冷たいのも気にせず玉子を取り出した。
「タライこれでいいか?」
「ありがとうエダちゃん」
エダが持ってきた大きな木のタライに玉子を一個置く小紅。
「まずは、一つ目!」
手に持った鉄扇にて、閉じたまま玉子の殻を叩いた。
コツン
硬い鉄扇の角が辺り、殻にヒビが入った。
途端。自ら殻を破り、小紅に黄身と白身――オムスライムが飛び掛かってきた。
「ダァ!」
小紅は鉄扇を広げオムスライムの攻撃を防ぎ、そのままビタァァァン!
タライに戻されたオムスライムは潰れ、ただの玉子の中身がそこにあるだけであった。
「どうやら、当たり……のようですね」
この調子で分別して行きましょう。そう黒耀はカードバインダーを片手に微笑むのであった。
一方短伝話組は……
『これ……何個目になりますか?』
淡々と短伝話に向かって告げる舞踊に、緋景はげんなりとこう返した。
『50個目……ここまでノイズ無し!』
一つ一つ懇切丁寧に、短伝話を玉子にあててきた二人。しかし、ノイズはいっこうにその音を見せやしない。
「なァー、この方法あってないんじゃねぇか?」
鎬鬼少年の無慈悲な一言が、二人のハートに突き刺さる。
これは後にあるイチヨ族の少年に聞いた話だが、確かに歪虚にてノイズが通信に出ることはあるらしい。しかし、それはよっぽど強く、いるだけで辺りを歪虚化するほどの力があるものらしい。
つまり、その辺りの一般的な雑魚スライムで、ノイズは先ず出ないそうだ。
とにもかくにも、短伝話作戦は失敗だった。そこで緋景は、塩水組から、歪虚と思わしき玉子を貰ってくる。
「さぁ、シロ。こいつを嗅ぐんだ」
シロはすんすんと、鼻先を近付け玉子の匂いを嗅ぐ。そして、今度は幾つも玉子の並ぶ箱にシロを近付ける。それは先程、短伝話で調べたものだ。
鼻スンスン。
「どう?シロ」
すると、ある箇所で彼は鳴いてくれた。どうやら、ヒトにはわからないほど僅かだが、玉子の匂いが違うようだ。
「ですが、割って調べている時間はありません」
短伝話でそれなりに時間を使っていたため、中身を今確認する時間はない。
仕方ないので、シロの鳴いた辺りの玉子を数個ずつ別の箱へ移すことにした。
30分経過。600の玉子をハンター達は無事に数えおわっていた。が、正確に100個見分けたとは言えなかった。シロの嗅覚頼りにしたやり方は、複数の玉子を分けるに至ったのは先程も告げたであろう。
しかし、塩水側も途中で浮きかけたり、沈みかけたりする玉子が幾つか存在し、判断に困りそちらも分けていた。
その数、両方合わせて約200個。
「ご苦労さん。それじゃオレはコイツ連れて先に外に出てるぜ?」
寒さでプルプルと震えているシロを持ち上げて、エダは氷室を出るところだった。
「御多忙中に、お手伝いありがとう御座いました」
「オレが手伝ったんだ。ちゃんと会場まで玉子持ってきてくれよ」
舞踊が会釈をすると、今度こそエダは頼むぜと告げて去っていった。
これで残す作業は後一つ。残り30分以内でオムスライム退治だ。
「おっしゃ、いくぞー!」
最初に動いたのは鎬鬼。大きなタライを前に置いて玉子を割った。再び襲いかかるオムスライムに、七節棍を折り曲げ撹拌するように打った。
「おっと」
「うぉ!」
無事、タライに落っこちる全卵。が、衝撃で玉子がそこらじゅうに飛び散る。見事に見切った鎬鬼は、汚れることなく玉子を処理する。傍らで見ていた小紅も鉄扇で丁寧に汚れを防いでいる。オムスライム、あまり耐久力はないようだ。
朝飯前に退治された、と言うのも納得できる。
「これは……やっぱり後で後片付けね」
何度か戦闘する内に、オムスライムの生態もわかってきた。オムスライムは、殻を割ったヒトに必ず向かう。それもちょっとしたヒビが入っただけでた。小紅はこれを外気に反応しているのでは、と考える。
「きゃあ!」
飛び散る範囲は思った以上に広く、エーミのように遠距離で攻撃したとしてもかかるときはかかる。
「私は後衛なのに。エダの奴」
「無理して来てもらっていたのですから、これ以上引き止めるワケにはいきません」
舞踊が傍らで手伝いつつ、エーミをたしなめるように言う。そんな彼女は、跳ねる卵液は防御壁を展開し完全に遮断。
こっちでは黒耀と緋景が二人で作業している。片手で丁寧に玉子を割れば、符から飛び出した蝶に似た光球がオムスライムを突き抜ける。
飛んでくる玉子飛沫は更に、瑞鳥符でガード。
「産んだはずの卵を親鳥で防護!何かちょっと背徳心!」
ゴーグル越しに見える光景に罪悪感を覚えつつも、緋景は顔についたものを指でひとすくいして、パクっ。
コクある黄身は、暫く口の中で転がしたいほど濃厚であった。独特の生臭みもなく、芳醇なきのことも見間違う香り、らしい。
グシャッ
タライの縁に誰よりも勢いよく叩き付け、黒耀は玉子を割……砕く?
むろん、殻が入ろうがどこふくかぜとタライの中。が、一つ目はただの玉子であった。
「………………」
黒耀は一度カードバインダーをそっ閉じ。気を取り直して二つ目。広がる白身を待ってましたと盾で防ぐ。同時に胡蝶符で貫く。
「夢幻の蝶で敵のライフをゼロに!さらば墓地へ!復活などない」
「うわ! 黒さん玉子!」
バインダー片手に宣言する黒耀。先程のタライかち割りの振動か、箱から玉子がころりん、パカンと割れてオムスライムが現れた。
突然の出現に対応出来ず、盾も間に合わずとっさに大切なカードバインダーだけはこの手で守る、と閉じた。
グチャ
黒耀にとって身の毛のよだつ音がした。開けてみれば意味はわかる。不幸にも、バインダーを閉じた時に入ってきたオムスライムが潰れて大切なカード、こと符は玉子まみれに……ナニカガキレルオトガシタ。
「ドロー! トラップカード発動!」
高々と掲げる符。オムスライムに落ちる雷。雷で加熱され生半熟に、しかし黒耀のターンは終わることを知らない。
どろどろのカードバインダーから、二枚目の符を取り出したところで緋景は背後から笑いをこらえて羽交い締める。
「もうやめて!オムのライフポイントはゼロよ!」
「…墨城?なぜ羽交い締めにしているのです? 私よりもそこのモンスターカード共をっ!?」
抗い緋景の戒めを抜けた黒耀。だが、運悪く…いや先程落っことした玉子で足が滑り、後頭部をゴツン。
そのまま、気絶である。最初は慌てた緋景も、急いでいるので黒耀を傍らに置いてから一言。
「一人減ったんで、時間ないから壁にぶつけても構わないよね? ね?」
「おー! 俺がざるで全部カラは取り除くぞ!」
既に自分の分のノルマを終えた鎬鬼が、元気よく目の細かい金ザルを振りながら言った。他に審査員のことも考えるとは、幼いながらも気遣いが出来る少年のようだ。
「それでは、再開致しましょうか」
そう言いつつ、舞踊は笑顔でデリンジャーの銃口を密かに下ろしたのであった。
●試食!
結果から言えば、ハンター達はエダが進行を始める本当の直前に間に合った。
何故、玉子が最初から割れてるのか、不思議がるヒトもいたが何事もないと知ればすぐに話はおさまった。
実際、割られた玉子はただの玉子であり、族長、ハンター、エダ達はひどく安心する。
そして、その時はやってきた。
『さぁさ、お待ちかね各パンケーキタワーのお披露目とご試食だぁ!』
一瞬皿に乗せられたそれは、パンケーキを建築物かと違うほどに高く、綺麗に盛り付けられていた。
参加者には、リクエストとして如何なるパンケーキが審査員が好みとしているかを教えている。
そうすれば、自ずとその傾向のパンケーキが完成する、と言うわけだ。
「うわ、すごいね」
それは緋景がリクエストした『質より量生クリームてんこ盛り』である。
これはミルフイユかと疑いたくなるほど、カスタードクリームと生クリームを挟んで重ね、その数は100枚になるのだろうか……しかもこれを作ったのは飛び入り参加のエーミである。
先ずいかにしてナイフを入れるかを考える緋景、を無視してフォークでぶっ刺して黒耀がいただく。
「甘いですね。けど、カスタードにはからめるがあって、苦味で丁度良いです」
「黒さん! ずるいです」
そんな既に室内で見慣れた光景に、エーミは新たな台詞を加えた。
「でも、ズルをした私はキケン。それに私は魔術師だもの」
凄くイイ笑みに、思わず聞き返す黒耀と緋景。しかし『謎も料理のスパイスなの♪』などと供述しどこかへ行ってしまった……
これをお土産にするのは断念しよう、そうしよう。そう二人は考えたと言う。
次に出てきたパンケーキは、小紅がリクエスト。『バターに蜂蜜、そして生クリーム』だ。
量こそエーミのものには負けているが、網目上かけられた黄金の蜂蜜の上に、じゅんわり溶けたバター。
冷めないように、と生クリームはお好みでと傍らに添えられた何とも高級感漂う一品だ。
「おいし~! やっぱりシンプルが一番よね」
男性ながらに、頬を押さえて絶品と誉める小紅。この笑顔を笑うものは、きっといないであろう。
「パンケーキなのに甘すぎないので、これならお嬢様へも持って帰れます」
一番フォークは進まぬなれど、紅茶を一口いただいた舞踊の感想は、彼女にしては心のこもっていたものであった。
最後に出てきたのは、鎬鬼がリクエストした『肉とか野菜とか辛めの香辛料とか使ったやつ』だ。
人参や、ほうれん草、チーズなどを練り込んだパンケーキが一枚一枚彩り豊かに重ねられ、最上段にはまるでリボンのように巻かれたこんがりベーコン、更にブラックペッパーが
満遍なく散らされている。
それを鎬鬼は眺めてから、一番上のパンケーキを手掴み、ベーコンを巻いてがっつりとかぶりつく。
「うっめーー! 辛ぇー!」
こうして、他の審査員達も試食を終えた。オムスライムが如何なる味であったか。
それは、ほぼ空になった皿をみれば理解できるだろう。
『さぁ、今回のパンケーキタワーコンテスト、優勝者は―――!!』
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/11/20 02:16:56 |
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相談卓 鎬鬼(ka5760) 鬼|17才|男性|格闘士(マスターアームズ) |
最終発言 2015/11/21 21:15:48 |