ゲスト
(ka0000)
夢の守る者、力を確かめる者
マスター:DoLLer

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/11/24 15:00
- 完成日
- 2015/11/29 06:22
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
地下の研究室を照らすランプの明かりに、機械の身体が浮かび上がった。
鋼鉄の兜の陰にレンズの瞳。配管を束ねた首、歯車と機導による駆動装置が剥き出しになった肩。そして青い水晶が輝く幾何学模様が刻まれるマテリアルエンジン。それに伸びる無数のパイプはだらしなく下へ落ち、そこから先はなかった。
そんな機械の巨人、作りかけの魔導アーマーの虚ろな瞳の見下ろす先で、薄汚れた白衣を着たドワーフの男が3人。またこちらを見上げていた。
「フラズルさん、本当に機能拡張型魔導アーマーなんて実現可能なんですか? CAMだって操縦型なんですよ」
「できる。万物の中を流れるマテリアルを扱うクリムゾンウェストの錬金術、機導術の方が向いているんだ。指を動かしてリボンを結ぶ。これは人間の意志、記憶の再生、神経の伝達、そして指の筋肉の動作。ここには全部マテリアルが微量ながら関与している。それを拡張して機械に伝えてやることができれば、大した出力も必要なく機械を動作させられるんだ」
フラズルは全く今までの形とは違う魔導アーマーから視線を外すと、問いかけたオットーにそう答えた。
「簡単に言うがな。フラズル。今ある資材でそれをやるのは至難の業だぜ」
二人の会話を黙って聞いていたもう一人の男、レギンはため息一つついて、工房内を見渡した。
魔導アーマーの研究といえば帝国の摩天楼錬魔院ではあるが、ここはそこから随分と離れた錬金術研究所。設備も道具も国家機関のそれと比べれば拙いものばかりだった。
それでもここまでこぎ着けたのも、この3人、そして協力者達が元錬魔院のメンバーであるが故と言えた。
今彼らが挑んでいるのは『着込む』魔導アーマー。錬魔院でずっと研究を続けもう少しで実用化するはずであった。だが、フラズルチームの魔導アーマーは結局日の目を見ることはなかった。完成の目途がつく前に怠惰の軍勢の南下、そしてCAMの歪虚乗っ取り事件、そしてナナミ川決戦と続き。
フラズルの研究成果はそれに間に合わなかった。
いや、正確に言うと一つだけ。
エンジンの元となる基礎設計だけは世に出た。それも錬魔院の長ナサニエルの改良によって。それも魔導アーマーではなくCAMに転用するという形で。
何度抗議したことか。しかし、それは届くことはなかった。届いたのは、叩きつけた辞表だけ。
「いや、可能性は、ある」
フラズルは白衣の内ポケットから焼け焦げたノートの切れ端を取り出した。
「賢者の石に限りなく近いものを生成できたという記録がつい最近発見されたんだ。膨大なマテリアルを内包し、物と生命の橋渡しをするという役目をもちうる。しかもサイズは拳大。こいつ1つあるだけで、ナサニエルさえできなかったモノが作り上げられるんだ!」
その言葉にオットーの目は輝き、レギンの顔色は驚きに満ちた。
賢者の石、とは錬金術を学ぶ者ならば究極の目標として誰もが知るものであった。石なのに水のように柔らかく、石を黄金に変える力を持ち、不老不死の薬の材料となると云われる。
「本当か!? 眉唾でなく?」
「ハンターから聞いた依頼記録にも人間と融合した魔導アーマーの記述があった。実験は成功しているんだ」
それなら。疑り深かったレギンも懐疑的な顔を落とし、興奮に満ちていた。
「障害もあるんだろう?」
「ああ、この技術の核心は……今は歪虚の手にあるってことだ」
●
泉のほとり。白い砂に囲まれて。
月明かりの下で薬草を摘んでいた女がいた。月光に映える銀の髪、抜けるような白い肌。草木も眠るような深い闇の中で浮かび上がる彼女の姿はエクラが教える天使とかいう存在の様だった。
錬金術師が賢者の石を生成する際に、そっと陰から応援をしていたという逸話。
そしてつい先日、近くにある施療院の為に姿を見せない人物が薬草を届けいるという噂話は、彼女の存在がそこにあるとフラズルに教えてくれた。
「ブリュンヒルデ!」
フラズルの呼びかけに彼女は顔を上げて小さく微笑んだ。待っていましたと言わんばかりだ。
だが、あれは歪虚。フラズルの中に燃える覚醒者の血がそうだと告げていた。生ある者とは相容れぬ存在だと。
「お前が持っている錬成の知識を……話してもらうぞ」
アルケミストデバイスを起動し、エネルギーの光をその腹に焦点を定める。
殺してはならない。秘術を聞き出すまでは。
「「「ま モ レ」」」
突然武器を構えられたことに後ずさるブリュンヒルデから、濁った、空気を振るわせる低い声が幾重にも重なるようにしてフラズルの耳を揺らした。
「!?」
泉の地面に広がっていた白い砂、いや、砕けた骨がブリュンヒルデを竜巻のようにして包み込み、フラズルを吹き飛ばした。
白い竜巻は波打ち、徐々にいくつもの人の形を作り出す。群像のような影はやがて巨人の様な白骨の姿に。それは何度も骨片をボロボロと破片を零れ落としながらも、霊光の渦の中でまた巻き上がり崩壊と再構成を続けながら、徐々に確固とした形を作り上げていく。
5m以上あるその白骨はブリュンヒルデを抱え上げると、立ち上がってそのままフラズルを見下ろした。
「「「スクイ ノ 女神 ヲ 傷つけ サセ ヌ」」」
「なんだ、こいつ……!?」
驚愕するフラズルの腹に槍より巨大な分厚い指先が突き刺さった。
激痛で意識が遠のく中で、ブリュンヒルデの必死な声が聞こえた。
「待って、その人は悪い人ではありません!」
安易に夢は果たしてくれないのか。
フラズルは歩み去る巨大な白骨に連れ去られるブリュンヒルデを見つめた。
いや、絶対にあきらめて、なるものか。
骨片の混じった白い砂をフラズルはガリリと爪を立てて握り締めた。
鋼鉄の兜の陰にレンズの瞳。配管を束ねた首、歯車と機導による駆動装置が剥き出しになった肩。そして青い水晶が輝く幾何学模様が刻まれるマテリアルエンジン。それに伸びる無数のパイプはだらしなく下へ落ち、そこから先はなかった。
そんな機械の巨人、作りかけの魔導アーマーの虚ろな瞳の見下ろす先で、薄汚れた白衣を着たドワーフの男が3人。またこちらを見上げていた。
「フラズルさん、本当に機能拡張型魔導アーマーなんて実現可能なんですか? CAMだって操縦型なんですよ」
「できる。万物の中を流れるマテリアルを扱うクリムゾンウェストの錬金術、機導術の方が向いているんだ。指を動かしてリボンを結ぶ。これは人間の意志、記憶の再生、神経の伝達、そして指の筋肉の動作。ここには全部マテリアルが微量ながら関与している。それを拡張して機械に伝えてやることができれば、大した出力も必要なく機械を動作させられるんだ」
フラズルは全く今までの形とは違う魔導アーマーから視線を外すと、問いかけたオットーにそう答えた。
「簡単に言うがな。フラズル。今ある資材でそれをやるのは至難の業だぜ」
二人の会話を黙って聞いていたもう一人の男、レギンはため息一つついて、工房内を見渡した。
魔導アーマーの研究といえば帝国の摩天楼錬魔院ではあるが、ここはそこから随分と離れた錬金術研究所。設備も道具も国家機関のそれと比べれば拙いものばかりだった。
それでもここまでこぎ着けたのも、この3人、そして協力者達が元錬魔院のメンバーであるが故と言えた。
今彼らが挑んでいるのは『着込む』魔導アーマー。錬魔院でずっと研究を続けもう少しで実用化するはずであった。だが、フラズルチームの魔導アーマーは結局日の目を見ることはなかった。完成の目途がつく前に怠惰の軍勢の南下、そしてCAMの歪虚乗っ取り事件、そしてナナミ川決戦と続き。
フラズルの研究成果はそれに間に合わなかった。
いや、正確に言うと一つだけ。
エンジンの元となる基礎設計だけは世に出た。それも錬魔院の長ナサニエルの改良によって。それも魔導アーマーではなくCAMに転用するという形で。
何度抗議したことか。しかし、それは届くことはなかった。届いたのは、叩きつけた辞表だけ。
「いや、可能性は、ある」
フラズルは白衣の内ポケットから焼け焦げたノートの切れ端を取り出した。
「賢者の石に限りなく近いものを生成できたという記録がつい最近発見されたんだ。膨大なマテリアルを内包し、物と生命の橋渡しをするという役目をもちうる。しかもサイズは拳大。こいつ1つあるだけで、ナサニエルさえできなかったモノが作り上げられるんだ!」
その言葉にオットーの目は輝き、レギンの顔色は驚きに満ちた。
賢者の石、とは錬金術を学ぶ者ならば究極の目標として誰もが知るものであった。石なのに水のように柔らかく、石を黄金に変える力を持ち、不老不死の薬の材料となると云われる。
「本当か!? 眉唾でなく?」
「ハンターから聞いた依頼記録にも人間と融合した魔導アーマーの記述があった。実験は成功しているんだ」
それなら。疑り深かったレギンも懐疑的な顔を落とし、興奮に満ちていた。
「障害もあるんだろう?」
「ああ、この技術の核心は……今は歪虚の手にあるってことだ」
●
泉のほとり。白い砂に囲まれて。
月明かりの下で薬草を摘んでいた女がいた。月光に映える銀の髪、抜けるような白い肌。草木も眠るような深い闇の中で浮かび上がる彼女の姿はエクラが教える天使とかいう存在の様だった。
錬金術師が賢者の石を生成する際に、そっと陰から応援をしていたという逸話。
そしてつい先日、近くにある施療院の為に姿を見せない人物が薬草を届けいるという噂話は、彼女の存在がそこにあるとフラズルに教えてくれた。
「ブリュンヒルデ!」
フラズルの呼びかけに彼女は顔を上げて小さく微笑んだ。待っていましたと言わんばかりだ。
だが、あれは歪虚。フラズルの中に燃える覚醒者の血がそうだと告げていた。生ある者とは相容れぬ存在だと。
「お前が持っている錬成の知識を……話してもらうぞ」
アルケミストデバイスを起動し、エネルギーの光をその腹に焦点を定める。
殺してはならない。秘術を聞き出すまでは。
「「「ま モ レ」」」
突然武器を構えられたことに後ずさるブリュンヒルデから、濁った、空気を振るわせる低い声が幾重にも重なるようにしてフラズルの耳を揺らした。
「!?」
泉の地面に広がっていた白い砂、いや、砕けた骨がブリュンヒルデを竜巻のようにして包み込み、フラズルを吹き飛ばした。
白い竜巻は波打ち、徐々にいくつもの人の形を作り出す。群像のような影はやがて巨人の様な白骨の姿に。それは何度も骨片をボロボロと破片を零れ落としながらも、霊光の渦の中でまた巻き上がり崩壊と再構成を続けながら、徐々に確固とした形を作り上げていく。
5m以上あるその白骨はブリュンヒルデを抱え上げると、立ち上がってそのままフラズルを見下ろした。
「「「スクイ ノ 女神 ヲ 傷つけ サセ ヌ」」」
「なんだ、こいつ……!?」
驚愕するフラズルの腹に槍より巨大な分厚い指先が突き刺さった。
激痛で意識が遠のく中で、ブリュンヒルデの必死な声が聞こえた。
「待って、その人は悪い人ではありません!」
安易に夢は果たしてくれないのか。
フラズルは歩み去る巨大な白骨に連れ去られるブリュンヒルデを見つめた。
いや、絶対にあきらめて、なるものか。
骨片の混じった白い砂をフラズルはガリリと爪を立てて握り締めた。
リプレイ本文
「ブリュンヒルデはね、純粋な夢だけに反応するんだ。だけど君の前には現れなかった」
南條 真水(ka2377)は依頼人フラズルの数歩先を進み、そしてピタリと振り返ってそう言った。
「なんだよ。純粋じゃないってのか……?」
「ワカメ(現錬魔院長ナサニエルの俗称)を見返したいとかさ」
フラズルが明らかに動揺したのを見て南條がニヤリと悪戯な笑みを浮かべた。ブリュンヒルデが率先して現れない理由はこれで証明された。
「大丈夫、お話ししてもらえるようにはするよ」
アシェ・ブルゲス(ka3144)は灰色の髪を軽く掻いて困ったように笑った。南條が明らかにしたように今回の一番の問題点はフラズル本人だ。彼が心を入れ替えない限りロクなことにならない。物の『前』と『後』をよく知る廃材アーティストのアシェは経験という名の直感でそれを感じていた。
それを回避してあげたいところだけど。
「なに言ってるんだ。ブリュンヒルデは歪虚だぞ。戦わずしてなんとかなる相手じゃなかろう? 今、世界を揺るがす諸事件を見て見ろ。あいつらは邪悪だが人智を超えた技術を持ってる……人間から召し上げているんだ。それを取り返すのに」
とうとうと語るフラズルの言葉を聞いて セレスティア(ka2691)は小さくため息をついた。邪悪な歪虚から知識という宝物を取り返す。そんな簡単な話ではないのを彼女は知っていた。ブリュンヒルデは善や悪でははかりきれない尺度の持ち主。それはただひたすらに断罪しうる存在ではない。心が、情が、働く相手なのだ。依頼の発端を聞いてもそれはちゃんと窺えたはずだ。
それをここまで単純化できるフラズルの思考はある意味清々しいと思えた。
「脅しでどうにかできる相手ではないですので、それだけは注意してください」
見極めよう。歪虚の中でも人と手を組める存在なのか。それともやはり敵対する存在なのかを。
「とりあえず、話をする時は武器を置いてもらいますぜ。あの姉さんの持ってる知識をちゃんと役立てて欲しいんでさ。その為にしっかりと信頼関係を築いてくだせぇ」
鬼百合(ka3667)が帽子をかぶったままぺこりと頭を下げると、フラズルもさすがに何も言えなくなったのか、モゴモゴとしばらくした後、アルケミストデバイスの電源を落とした。
「騎士たる骸と戦い、主である歪虚とは仲良く、か。変わり者の集団だな。ここは」
バレル・ブラウリィ(ka1228)は一番先頭を進み、獣道を油断なく進みながらぼそっと呟くのを久我・御言(ka4137)はくすりと笑顔を浮かべた。
この依頼に入って。そして今こうして道を率先してくれているバレルの姿が、立場を異にして皮肉るような人ではないことは誰もが承知だ。
つまり変わり者、の中には自分自身も含まれている。彼はそれを気づいているのかな。と久我は心の中で小さく語りかける中、バレルの枝葉をかき分け進む音が途切れた。
広がる視界。青い月が浮かぶ幻想の世界。
「さて、ご挨拶といこうか。麗しのメフィストフェレスに」
●
「逸るなよ」
今にも飛びかかりそうに腰を落とすフラズルの前を守るように立ち、バレルはぽそりとそう言った。
目の前で、戦い前とは思えないような和やかな空気が広がっていた。それが台無しにされては話が難しくなってしまう。
「やあ、先日ぶり」
「南條様、先日はお世話になりました。おかげで誰とも争わずに薬草をお渡しできました」
南條の語りかけに、早々に姿を現したガシャドクロの上に座るブリュンヒルデも相好を崩して微笑んだ。互いの会話はトランシーバーで伝わる。
「すみません、降りてお話しできればいいのですが」
「「「マモレ マモリマスゾ マモロウ」」」
「完全に敵視されてますね」
セレスティアはそそりたつ白い巨塔の上で丁重に肩の上に乗せられるブリュンヒルデを見上げた。ブリュンヒルデは何度も何度もその骨を軽く叩いて止めてください、と連呼するその言葉が、上っ面ではなく心のこもった声であることはセレスティアの耳にもしっかり届いていた。
無暗な戦いを嫌っていることは間違いない。
「それは君が作り上げたのではないのかね?」
久我の問いかけにブリュンヒルデは凛として答えた。
「いいえ、私は存在を作るなんてできません。彼らにはずっと意志があります。立ちたい戦いたい守りたい。ですが身体が朽ち、想いを果たせない人達です。そんな彼らのお手伝いをするだけです」
つまり、命令はできないということか。
久我はトランシーバーを離してしばらく考えている横から、アシェの頭が割り込みトランシーバーを通じて語り掛ける。
「戦いになっても、大丈夫かな? その骸骨は諦めてもらうことになるけど」
「夢は時として何かと衝突するものです。それも乗り越える力が夢を掴む力にもなりますので……どうぞ全力で」
全く気落ちしたり、辛さを感じさせるような声ではなかった。
確かに素材の力、宿っている力を引き出すにもそれなりに火を加えたり、そぎ落としたりしなくてはならない時もある。ハンターならそれを錬成というのだが。
アシェは廃材を扱うものとして、そっか、と独り言ちた。
優しいだけじゃない。ブリュンヒルデはそういうことも知っているんだ。
「わかりやした……でも姉さんを傷つけたくはないんでさ。そっち行きますんでよろしく頼んまさぁ」
鬼百合が最後に話しかけると、ガシャドクロの上に座るブリュンヒルデが頷くのが見えた。
「結局、戦いか」
「ちゃんと説得できりゃ良かったんですが……オレ、ブリュンヒルデの姉さんを迎えに行きますんで、すみませんが、手伝ってくだせぇ」
バレルが腰に下げた二本のバスタードソードを引き抜き、腰を落としつつ前に進み出たのと同時に鬼百合は入れ替わりで小さく囁く。
「……脚に一撃を入れれば下に注意が向くはずです」
セレスティアもレイピアを引き抜き、まっすぐガシャドクロに突き付けた。
「仕方あるまい。先方の要望と現場の意見が食い違うことなどよくある事だ。それを収めてきた私の力を見せようじゃないか。鬼百合君、安心したまえ。全力でサポートするよ」
ゴーグルをはめて自信たっぷりの笑顔を覗かせる久我の姿をちらりとだけ鬼百合は見上げると、短杖を持ってコクリと頷いた。もうその手には無数の眼が生まれ、あちこちを見渡す。
「それじゃ、いっくよー……」
アシェの周りに漂うグレーのオーラがぱちりぱちりと弾ける音と共に、火花が、そして陽炎が生まれた。そして烈風と共に虚ろな風はガシャドクロの足元に飛びつき、盛大な赤に生まれ変わって爆ぜた。
それが戦いの合図だった。
●
バレルは一気に懐に飛び込むと、ガシャドクロもそれに合わせて足を引いた。
しかし、それも読み通りの動き。バレルは虚空となった場所で踏み込み、ぐるりと遠心力を付けて二本の剣を同時に残る軸足に叩きつける。密度の高い骨はまるで鉄の様だったが、それでもバレルにはそれをしっかり砕く感触が伝わって来た。
「オオオオオ、オオン」
「!」
真上から全体重と遠心力を叩きつけたバレルが止まるのを見計らったかのようなタイミングで骨の槍が降り注いだ。ガシャドクロの指だ。それをすばやくレイピアのファーント(飛び込みざまの突き)で弾き飛ばしたセレスティアがバレルにヒールを施す。
「光よ。恵みとなりては力とならんことを!」
「軸足を崩したのに、あんなに正確な攻撃ができるのか」
口に溜まった血を吐き捨てながら、バレルは油断なく剣を構えなおした。
本来ならばあの一撃で軸足を壊せば上半身からの攻撃はボロボロになるはずだった。しかし、攻撃は薙ぎ払いでもなく、狙いすましたような突き。
「同時に狙おう。私は上、足を向けることになるが許してくれたまえ」
「落ちてこなければ構わない」
バレルの横に久我が並ぶ。
そして、示し合わせたように二人が走った。バレルはそのまま態勢を低くして、地面を這うように駆け抜ける。その真上を久我がジェットブーツで飛翔した。
「さあ、共に……」
と差し伸べたその手がガシャドクロの腕で弾き飛ばされた。
「!」
バレルはその隙にと、もう一度バスタードソードを叩きつけた。しかし刹那に姿勢が変わり、バレルの斬撃は骨を薄く削いだ程度でいなされてしまう。
「バラバラに動く……!?」
それを見上げていたセレスティアはガシャドクロの滑稽な、いや、人体構造上有りえない動きに思わず呆然とした。久我とバレルの動きを同時にいなしている様子は背骨か腰に無理があり、骨のきしむ音が届いていた。他のスケルトンでは見たことのない動きだ。
「仕方ないなぁ。少し痺れさせるからその間に頼むよ」
南條はそう言うが早いか、靴に輝く翼を生み出すと、大地を滑るように走るとガシャドクロの足元を駆け抜けると、振り向きざまにエレクトリックショックを準備し終えた機杖を叩きつけた。
震えた。効いてる!
と思った瞬間、腰骨より上がぐりんと180度回転し、腕が南條に降りかかってくる。
「有りえないだろ!?」
カマイタチを含んだ突風が南條の眼前で吹き荒れ、白骨の腕がバラバラに切り裂かれて散っていく。アシェのウィンドガストだ。
「構造上無理な体勢。うーん、美しくないなぁ。こう機能美というものが。変形合体するのかな。これ」
などとぼやいたアシェの一言にセレスティアがわかりました、と口を開いた。
「この骸は……複数の亡霊で構成されています」
そうだ。かつてブリュンヒルデが奈落の底から這いあがって来た瞬間。無数の亡霊に取り囲まれていた。対して今はガシャドクロのみ。
数が減ったのではない、隠れているわけでもない。
一体化しているのだ。
「なるほど、そう考えれば納得がいくね。さっすが戦場の女神。いや、慧眼を評して輝く瞳を持つ乙女(グラウコーピス)なんていいかも」
「そんな悠長に言ってる場合じゃありません! この広場では相手の方が有利です! 森の中へ!!」
セレスティアはすぐさまレクイエムを発動し、目をくらませている間に森の中へと皆を誘導した。
しかしガシャドクロも黙ってはいない。木々をかき分け、まるでモグラの穴に手を入れるようにして、ハンター達に追い迫る。
「そこまでだ」
森の中に黄金色の明かりがともる。ガシャドクロの白い額を照らし火花を散らせるのは、枝の上に立つバレルが背負う炎だった。
深淵の闇を映す眼窩をバレルは一瞥するとそのまま枝から跳躍し、全体重と落下する勢いも合わせた渾身の一撃を叩きこんだ。
「さっさと行け!!」
「バレルくん、感謝するよっ。さあ鬼百合君。麗しのメフィストを救い出そうではないか」
久我はそのまま鬼百合の手を取って、大きく飛翔した。
ブリュンヒルデをずっと守り続けていた手が離れ、近づく久我を叩き落とそうと向かって来た。しかしそれも織り込み済み。
「任せたよ」
久我はそう言うと、鬼百合を押し投げ、自身はそのままジェットブーツで得た推進力の最中、空中で機動砲を撃ち放った。
派手に七色の閃光を浴びて吹き飛ぶ腕に鬼百合は足をつけると、今度は自らの脚で飛び上がった。
「姉さん!!!」
「鬼百合様!」
ブリュンヒルデの腕を掴み、鬼百合はそのまま空中へと走った。
ガシャドクロが追いすがる手を南條が機導剣で切り裂いたが、それでも悶え、追いすがって来る。
「「「オオオオオオ マテ マタレイ」」」
「どんなけタフなんだよ!」
刃を振り回して巨大な白骨を何度も削り飛ばすが、ガシャドクロの勢いは全く落ちず南條は悲鳴を上げた。
バラバラになった骨片もあるが、それは霊光に包まれてはまた再生する。ボロボロになっている分損傷はしているのだろうが、止めてだて、ということになるとどの攻撃でも抑え込めずにいた。
「大事な存在だとはわかっているんたけど、ごめんね」
疲れ果てて思わずよろける南條を庇うようにして、アシェが立ちはだかった。
優しく、そして少しだけ申し訳なさそうに。
その表情とガシャドクロの視線はすぐに隔たれた。大地が隆起して作る魔法の壁によって。アシェのアースウォールだった。
「今の間に離れよう」
「倒せませんでしたか……」
セレスティアはまだそれでも身もだえして進もうとし、また主ブリュンヒルデを呼ぶガシャドクロの嗚咽を耳にし、少し目を細くした。
●
ガシャドクロは大きく離された時点で、とうとう音も聞こえてこなくなった。
森から随分離れた場所で腰を落ち着けたハンターに囲まれて、フラズルとブリュンヒルデは立っていた。
互いに緊張の面持ちはあったが、最初のように危害を与える素振りはどちらもない。最初は興奮に始まる激しい感情に身を焼いていたフラズルもブリュンヒルデの静かな瞳に見つめられるうちに次第に落ち着いていったようだった。
見た目は清楚で汚れなど知らぬ姿。だが、彼女を前にするハンターは誰もが反射的に感じるマテリアルの変調によって彼女がやはり歪虚だと思い知らされる。
「あんたの持ってる知識と技術を、くれないか」
「はい、喜んで。フラズル様の夢、今はしっかりわかります」
それは拍子抜けするほどにあっさりとしたものだった。
「最初に諭されたのが、効いたようだな」
南條をちらりと見たバレルは、セレスティアのヒールの順番を後回しでいいと断った。
「いや、歪虚なんて悪意の塊だろうと思ってたオレが悪かった。そうじゃないのもいるんだな」
概念を覆されてはにかむフラズル。
それを横目に久我は一ついいかな、とブリュンヒルデに問いかけた。
「君は夢があるなら歪虚でも手伝うのかな? そして先ほどの亡霊は……そのなれの果てではないのか?」
その問いかけにブリュンヒルデはしばらく黙っていた。答えを探している、というより言葉の真意をくみ取りかねている。そんな顔だった。
「……人の壁というものを大きく捉えすぎるのではありませんか? 植物も動物も人も歪虚も、この世界を動かす想いと夢の前ではひとえに胡蝶の夢と同じことです」
存在、身体上の制約であり、心や魂の前では同じ?
久我は少しだけ眉をひそめた。
「タナトス(破壊欲求)とエロス(創造欲求)の違いはあるがね」
彼女は純粋な欲求には区別はしないのであろう。だが歪虚側にいて人間側に足を運ぶということはこちらの方がよほど彼女が魅了される夢に溢れているということなのかもしれない。
それを黙って聞いていた南條はフラズルに少しだけ、語り掛けた。
「一番最初、何のために夢を描いたのか。原点は忘れない方が良いよ」
「南條様の仰る通りです。正しく、夢の案内人でいらっしゃいますね」
南條の言葉に、ブリュンヒルデは心底嬉しそうな顔をした。
それを見て、フラズルもこくりと頷いた。
新たな一歩を踏み出すためにこの命を賭けようとした夢は確固たる形となり一歩近づく。
南條 真水(ka2377)は依頼人フラズルの数歩先を進み、そしてピタリと振り返ってそう言った。
「なんだよ。純粋じゃないってのか……?」
「ワカメ(現錬魔院長ナサニエルの俗称)を見返したいとかさ」
フラズルが明らかに動揺したのを見て南條がニヤリと悪戯な笑みを浮かべた。ブリュンヒルデが率先して現れない理由はこれで証明された。
「大丈夫、お話ししてもらえるようにはするよ」
アシェ・ブルゲス(ka3144)は灰色の髪を軽く掻いて困ったように笑った。南條が明らかにしたように今回の一番の問題点はフラズル本人だ。彼が心を入れ替えない限りロクなことにならない。物の『前』と『後』をよく知る廃材アーティストのアシェは経験という名の直感でそれを感じていた。
それを回避してあげたいところだけど。
「なに言ってるんだ。ブリュンヒルデは歪虚だぞ。戦わずしてなんとかなる相手じゃなかろう? 今、世界を揺るがす諸事件を見て見ろ。あいつらは邪悪だが人智を超えた技術を持ってる……人間から召し上げているんだ。それを取り返すのに」
とうとうと語るフラズルの言葉を聞いて セレスティア(ka2691)は小さくため息をついた。邪悪な歪虚から知識という宝物を取り返す。そんな簡単な話ではないのを彼女は知っていた。ブリュンヒルデは善や悪でははかりきれない尺度の持ち主。それはただひたすらに断罪しうる存在ではない。心が、情が、働く相手なのだ。依頼の発端を聞いてもそれはちゃんと窺えたはずだ。
それをここまで単純化できるフラズルの思考はある意味清々しいと思えた。
「脅しでどうにかできる相手ではないですので、それだけは注意してください」
見極めよう。歪虚の中でも人と手を組める存在なのか。それともやはり敵対する存在なのかを。
「とりあえず、話をする時は武器を置いてもらいますぜ。あの姉さんの持ってる知識をちゃんと役立てて欲しいんでさ。その為にしっかりと信頼関係を築いてくだせぇ」
鬼百合(ka3667)が帽子をかぶったままぺこりと頭を下げると、フラズルもさすがに何も言えなくなったのか、モゴモゴとしばらくした後、アルケミストデバイスの電源を落とした。
「騎士たる骸と戦い、主である歪虚とは仲良く、か。変わり者の集団だな。ここは」
バレル・ブラウリィ(ka1228)は一番先頭を進み、獣道を油断なく進みながらぼそっと呟くのを久我・御言(ka4137)はくすりと笑顔を浮かべた。
この依頼に入って。そして今こうして道を率先してくれているバレルの姿が、立場を異にして皮肉るような人ではないことは誰もが承知だ。
つまり変わり者、の中には自分自身も含まれている。彼はそれを気づいているのかな。と久我は心の中で小さく語りかける中、バレルの枝葉をかき分け進む音が途切れた。
広がる視界。青い月が浮かぶ幻想の世界。
「さて、ご挨拶といこうか。麗しのメフィストフェレスに」
●
「逸るなよ」
今にも飛びかかりそうに腰を落とすフラズルの前を守るように立ち、バレルはぽそりとそう言った。
目の前で、戦い前とは思えないような和やかな空気が広がっていた。それが台無しにされては話が難しくなってしまう。
「やあ、先日ぶり」
「南條様、先日はお世話になりました。おかげで誰とも争わずに薬草をお渡しできました」
南條の語りかけに、早々に姿を現したガシャドクロの上に座るブリュンヒルデも相好を崩して微笑んだ。互いの会話はトランシーバーで伝わる。
「すみません、降りてお話しできればいいのですが」
「「「マモレ マモリマスゾ マモロウ」」」
「完全に敵視されてますね」
セレスティアはそそりたつ白い巨塔の上で丁重に肩の上に乗せられるブリュンヒルデを見上げた。ブリュンヒルデは何度も何度もその骨を軽く叩いて止めてください、と連呼するその言葉が、上っ面ではなく心のこもった声であることはセレスティアの耳にもしっかり届いていた。
無暗な戦いを嫌っていることは間違いない。
「それは君が作り上げたのではないのかね?」
久我の問いかけにブリュンヒルデは凛として答えた。
「いいえ、私は存在を作るなんてできません。彼らにはずっと意志があります。立ちたい戦いたい守りたい。ですが身体が朽ち、想いを果たせない人達です。そんな彼らのお手伝いをするだけです」
つまり、命令はできないということか。
久我はトランシーバーを離してしばらく考えている横から、アシェの頭が割り込みトランシーバーを通じて語り掛ける。
「戦いになっても、大丈夫かな? その骸骨は諦めてもらうことになるけど」
「夢は時として何かと衝突するものです。それも乗り越える力が夢を掴む力にもなりますので……どうぞ全力で」
全く気落ちしたり、辛さを感じさせるような声ではなかった。
確かに素材の力、宿っている力を引き出すにもそれなりに火を加えたり、そぎ落としたりしなくてはならない時もある。ハンターならそれを錬成というのだが。
アシェは廃材を扱うものとして、そっか、と独り言ちた。
優しいだけじゃない。ブリュンヒルデはそういうことも知っているんだ。
「わかりやした……でも姉さんを傷つけたくはないんでさ。そっち行きますんでよろしく頼んまさぁ」
鬼百合が最後に話しかけると、ガシャドクロの上に座るブリュンヒルデが頷くのが見えた。
「結局、戦いか」
「ちゃんと説得できりゃ良かったんですが……オレ、ブリュンヒルデの姉さんを迎えに行きますんで、すみませんが、手伝ってくだせぇ」
バレルが腰に下げた二本のバスタードソードを引き抜き、腰を落としつつ前に進み出たのと同時に鬼百合は入れ替わりで小さく囁く。
「……脚に一撃を入れれば下に注意が向くはずです」
セレスティアもレイピアを引き抜き、まっすぐガシャドクロに突き付けた。
「仕方あるまい。先方の要望と現場の意見が食い違うことなどよくある事だ。それを収めてきた私の力を見せようじゃないか。鬼百合君、安心したまえ。全力でサポートするよ」
ゴーグルをはめて自信たっぷりの笑顔を覗かせる久我の姿をちらりとだけ鬼百合は見上げると、短杖を持ってコクリと頷いた。もうその手には無数の眼が生まれ、あちこちを見渡す。
「それじゃ、いっくよー……」
アシェの周りに漂うグレーのオーラがぱちりぱちりと弾ける音と共に、火花が、そして陽炎が生まれた。そして烈風と共に虚ろな風はガシャドクロの足元に飛びつき、盛大な赤に生まれ変わって爆ぜた。
それが戦いの合図だった。
●
バレルは一気に懐に飛び込むと、ガシャドクロもそれに合わせて足を引いた。
しかし、それも読み通りの動き。バレルは虚空となった場所で踏み込み、ぐるりと遠心力を付けて二本の剣を同時に残る軸足に叩きつける。密度の高い骨はまるで鉄の様だったが、それでもバレルにはそれをしっかり砕く感触が伝わって来た。
「オオオオオ、オオン」
「!」
真上から全体重と遠心力を叩きつけたバレルが止まるのを見計らったかのようなタイミングで骨の槍が降り注いだ。ガシャドクロの指だ。それをすばやくレイピアのファーント(飛び込みざまの突き)で弾き飛ばしたセレスティアがバレルにヒールを施す。
「光よ。恵みとなりては力とならんことを!」
「軸足を崩したのに、あんなに正確な攻撃ができるのか」
口に溜まった血を吐き捨てながら、バレルは油断なく剣を構えなおした。
本来ならばあの一撃で軸足を壊せば上半身からの攻撃はボロボロになるはずだった。しかし、攻撃は薙ぎ払いでもなく、狙いすましたような突き。
「同時に狙おう。私は上、足を向けることになるが許してくれたまえ」
「落ちてこなければ構わない」
バレルの横に久我が並ぶ。
そして、示し合わせたように二人が走った。バレルはそのまま態勢を低くして、地面を這うように駆け抜ける。その真上を久我がジェットブーツで飛翔した。
「さあ、共に……」
と差し伸べたその手がガシャドクロの腕で弾き飛ばされた。
「!」
バレルはその隙にと、もう一度バスタードソードを叩きつけた。しかし刹那に姿勢が変わり、バレルの斬撃は骨を薄く削いだ程度でいなされてしまう。
「バラバラに動く……!?」
それを見上げていたセレスティアはガシャドクロの滑稽な、いや、人体構造上有りえない動きに思わず呆然とした。久我とバレルの動きを同時にいなしている様子は背骨か腰に無理があり、骨のきしむ音が届いていた。他のスケルトンでは見たことのない動きだ。
「仕方ないなぁ。少し痺れさせるからその間に頼むよ」
南條はそう言うが早いか、靴に輝く翼を生み出すと、大地を滑るように走るとガシャドクロの足元を駆け抜けると、振り向きざまにエレクトリックショックを準備し終えた機杖を叩きつけた。
震えた。効いてる!
と思った瞬間、腰骨より上がぐりんと180度回転し、腕が南條に降りかかってくる。
「有りえないだろ!?」
カマイタチを含んだ突風が南條の眼前で吹き荒れ、白骨の腕がバラバラに切り裂かれて散っていく。アシェのウィンドガストだ。
「構造上無理な体勢。うーん、美しくないなぁ。こう機能美というものが。変形合体するのかな。これ」
などとぼやいたアシェの一言にセレスティアがわかりました、と口を開いた。
「この骸は……複数の亡霊で構成されています」
そうだ。かつてブリュンヒルデが奈落の底から這いあがって来た瞬間。無数の亡霊に取り囲まれていた。対して今はガシャドクロのみ。
数が減ったのではない、隠れているわけでもない。
一体化しているのだ。
「なるほど、そう考えれば納得がいくね。さっすが戦場の女神。いや、慧眼を評して輝く瞳を持つ乙女(グラウコーピス)なんていいかも」
「そんな悠長に言ってる場合じゃありません! この広場では相手の方が有利です! 森の中へ!!」
セレスティアはすぐさまレクイエムを発動し、目をくらませている間に森の中へと皆を誘導した。
しかしガシャドクロも黙ってはいない。木々をかき分け、まるでモグラの穴に手を入れるようにして、ハンター達に追い迫る。
「そこまでだ」
森の中に黄金色の明かりがともる。ガシャドクロの白い額を照らし火花を散らせるのは、枝の上に立つバレルが背負う炎だった。
深淵の闇を映す眼窩をバレルは一瞥するとそのまま枝から跳躍し、全体重と落下する勢いも合わせた渾身の一撃を叩きこんだ。
「さっさと行け!!」
「バレルくん、感謝するよっ。さあ鬼百合君。麗しのメフィストを救い出そうではないか」
久我はそのまま鬼百合の手を取って、大きく飛翔した。
ブリュンヒルデをずっと守り続けていた手が離れ、近づく久我を叩き落とそうと向かって来た。しかしそれも織り込み済み。
「任せたよ」
久我はそう言うと、鬼百合を押し投げ、自身はそのままジェットブーツで得た推進力の最中、空中で機動砲を撃ち放った。
派手に七色の閃光を浴びて吹き飛ぶ腕に鬼百合は足をつけると、今度は自らの脚で飛び上がった。
「姉さん!!!」
「鬼百合様!」
ブリュンヒルデの腕を掴み、鬼百合はそのまま空中へと走った。
ガシャドクロが追いすがる手を南條が機導剣で切り裂いたが、それでも悶え、追いすがって来る。
「「「オオオオオオ マテ マタレイ」」」
「どんなけタフなんだよ!」
刃を振り回して巨大な白骨を何度も削り飛ばすが、ガシャドクロの勢いは全く落ちず南條は悲鳴を上げた。
バラバラになった骨片もあるが、それは霊光に包まれてはまた再生する。ボロボロになっている分損傷はしているのだろうが、止めてだて、ということになるとどの攻撃でも抑え込めずにいた。
「大事な存在だとはわかっているんたけど、ごめんね」
疲れ果てて思わずよろける南條を庇うようにして、アシェが立ちはだかった。
優しく、そして少しだけ申し訳なさそうに。
その表情とガシャドクロの視線はすぐに隔たれた。大地が隆起して作る魔法の壁によって。アシェのアースウォールだった。
「今の間に離れよう」
「倒せませんでしたか……」
セレスティアはまだそれでも身もだえして進もうとし、また主ブリュンヒルデを呼ぶガシャドクロの嗚咽を耳にし、少し目を細くした。
●
ガシャドクロは大きく離された時点で、とうとう音も聞こえてこなくなった。
森から随分離れた場所で腰を落ち着けたハンターに囲まれて、フラズルとブリュンヒルデは立っていた。
互いに緊張の面持ちはあったが、最初のように危害を与える素振りはどちらもない。最初は興奮に始まる激しい感情に身を焼いていたフラズルもブリュンヒルデの静かな瞳に見つめられるうちに次第に落ち着いていったようだった。
見た目は清楚で汚れなど知らぬ姿。だが、彼女を前にするハンターは誰もが反射的に感じるマテリアルの変調によって彼女がやはり歪虚だと思い知らされる。
「あんたの持ってる知識と技術を、くれないか」
「はい、喜んで。フラズル様の夢、今はしっかりわかります」
それは拍子抜けするほどにあっさりとしたものだった。
「最初に諭されたのが、効いたようだな」
南條をちらりと見たバレルは、セレスティアのヒールの順番を後回しでいいと断った。
「いや、歪虚なんて悪意の塊だろうと思ってたオレが悪かった。そうじゃないのもいるんだな」
概念を覆されてはにかむフラズル。
それを横目に久我は一ついいかな、とブリュンヒルデに問いかけた。
「君は夢があるなら歪虚でも手伝うのかな? そして先ほどの亡霊は……そのなれの果てではないのか?」
その問いかけにブリュンヒルデはしばらく黙っていた。答えを探している、というより言葉の真意をくみ取りかねている。そんな顔だった。
「……人の壁というものを大きく捉えすぎるのではありませんか? 植物も動物も人も歪虚も、この世界を動かす想いと夢の前ではひとえに胡蝶の夢と同じことです」
存在、身体上の制約であり、心や魂の前では同じ?
久我は少しだけ眉をひそめた。
「タナトス(破壊欲求)とエロス(創造欲求)の違いはあるがね」
彼女は純粋な欲求には区別はしないのであろう。だが歪虚側にいて人間側に足を運ぶということはこちらの方がよほど彼女が魅了される夢に溢れているということなのかもしれない。
それを黙って聞いていた南條はフラズルに少しだけ、語り掛けた。
「一番最初、何のために夢を描いたのか。原点は忘れない方が良いよ」
「南條様の仰る通りです。正しく、夢の案内人でいらっしゃいますね」
南條の言葉に、ブリュンヒルデは心底嬉しそうな顔をした。
それを見て、フラズルもこくりと頷いた。
新たな一歩を踏み出すためにこの命を賭けようとした夢は確固たる形となり一歩近づく。
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作戦相談宅 バレル・ブラウリィ(ka1228) 人間(リアルブルー)|21才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/11/24 00:34:42 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/11/23 02:59:13 |