ゲスト
(ka0000)
【深棲】海岸の海蛇
マスター:藤城とーま

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/08/05 12:00
- 完成日
- 2014/08/13 01:12
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●冒険都市リゼリオ内。
今、ここでは「狂気」の歪虚についての話で持ち切りである。
各国の要人の姿を見かけただとか、自分はこんな歪虚を見ただとか、重要そうなものから眉唾なものまでさまざま。
ただ、海兵らが懸命に海域の防を担っているのも事実だが――いくらでも人手が欲しいところではあるだろう。
ハンターズソサエティに依頼される仕事も、そういった類のものが多いようだ。
マクシミリアン・ヴァイス(kz0003)も、その依頼群を眺めて仕事を物色しているらしい。
見ている最中新たに張り出されるものもあり、現在ハンターオフィス内は仕事を求めるハンターたちで賑わっていた。
護衛や討伐といった仕事がメインで張り出されているようだが、
その中で、マクシミリアンが眼に留めたのは……『海蛇退治』であった。
説明には『全長3メートルほど、羽のような胸ビレと背ビレを持ち、鋭い牙は横に伸びていて極めて鋭利』とある。
既に海岸付近で人間を襲い、数人が尊い命を落としていることも書いてあった。
海岸付近は一般人の立ち入りを禁止しているはずだが、やはり怖いもの見たさ……というのは、命が代償だとしても抑えきれぬものだろうか。
そのおぞましき姿やぎらぎらと輝く赤い瞳。決して怯むことのなく突撃してくる攻撃的な性格に、恐怖などを植え付けられることもあるようだ。
酷くなればその者も狂気を帯びてしまう、とも言われているが――……一体どこまでが本当なのだろう。
だが、どんな姿であれ歪虚は敵である。切って捨てるに十分値するものだ。
戦いの前は、ある種昂揚感のようなものが体にみなぎる。
きっと、これから集まるハンターにも、そのような者がいるかもしれない。
今、ここでは「狂気」の歪虚についての話で持ち切りである。
各国の要人の姿を見かけただとか、自分はこんな歪虚を見ただとか、重要そうなものから眉唾なものまでさまざま。
ただ、海兵らが懸命に海域の防を担っているのも事実だが――いくらでも人手が欲しいところではあるだろう。
ハンターズソサエティに依頼される仕事も、そういった類のものが多いようだ。
マクシミリアン・ヴァイス(kz0003)も、その依頼群を眺めて仕事を物色しているらしい。
見ている最中新たに張り出されるものもあり、現在ハンターオフィス内は仕事を求めるハンターたちで賑わっていた。
護衛や討伐といった仕事がメインで張り出されているようだが、
その中で、マクシミリアンが眼に留めたのは……『海蛇退治』であった。
説明には『全長3メートルほど、羽のような胸ビレと背ビレを持ち、鋭い牙は横に伸びていて極めて鋭利』とある。
既に海岸付近で人間を襲い、数人が尊い命を落としていることも書いてあった。
海岸付近は一般人の立ち入りを禁止しているはずだが、やはり怖いもの見たさ……というのは、命が代償だとしても抑えきれぬものだろうか。
そのおぞましき姿やぎらぎらと輝く赤い瞳。決して怯むことのなく突撃してくる攻撃的な性格に、恐怖などを植え付けられることもあるようだ。
酷くなればその者も狂気を帯びてしまう、とも言われているが――……一体どこまでが本当なのだろう。
だが、どんな姿であれ歪虚は敵である。切って捨てるに十分値するものだ。
戦いの前は、ある種昂揚感のようなものが体にみなぎる。
きっと、これから集まるハンターにも、そのような者がいるかもしれない。
リプレイ本文
●戦いの匂い
生臭いような磯風が、ハンター達の鼻腔に届く。
今回退治するのは、海蛇とのことなのだが――……。
「夏だ! 海だ! 海蛇だ!……って夏休みの宿題感覚じゃないっつの! こんな所まで追っかけてくるなんて、狂気の歪虚ってのはとんでもないストーカー野郎だこと!」
遥・シュテルンメーア(ka0914)は金の長いツインテールをふるふると震わせながら怒っていた。
彼女はリアルブルー出身。ここへ転移する際からの付き合いなのだから、彼らにとってその嫌悪感も一層のものなのだろう。
海岸入り口付近についたばかりだが、件の海蛇の姿は見えない。
「海蛇型、か……なんか無いんですかね? 歪虚を倒すコツっていうか、弱点みたいなのって?」
有屋 那津人(ka0470)が同行していたマクシミリアン・ヴァイス(kz0003)へ訊ねると、彼は青い目を無遠慮に那津人へ向ける。
「弱点は、個体ごとに違うこともままある。俺も実際に【狂気の歪虚】と戦うのは初めてだ」
あ、そうなの? と那津人は目を丸くした。
「ただ、元は海蛇。陸地では敏捷性は低下するかもしれないし――蛇に胸骨はない」
「あ、確かに。そうすると鱗が少ないお腹の側を狙いたいけれど……警戒されそうですよね」
ルア・パーシアーナ(ka0355)は小首を傾げて対策を考えていた。
「ま、戦っているうちに弱点が見えてきたり策が閃くッてことってもあるだろ。討伐は大事だけど、折角だ。愉しもうゼ」
ヤナギ・エリューナク(ka0265)は海岸の向こうを眺めながらどこか機嫌良さそうに答えた。
「楽しい事ですかぁ……。俺は逆ですねえ。最近、向こうでの事をよく思い出しますよ」
那津人は力なくそう答え、脳裏をよぎるリアルブルーでの出来事に目を閉じた。
「就職してもあんまり楽しい事が無かったなあ。どうして思い出したくないもの、忘れたいものってのは……中々頭から離れないんですかね?」
本っ当に嫌になりますよ、とくたびれた愛想笑いをマクシミリアンへと向けたが、無愛想なハンターは『人間というのはそういう風に出来ている』と答える。
「きっと、お前は嫌な事から逃げなかったんだろうな。やらなくてはいけないことが分かっていたから……余計にそういった物がこびりつくんだろう。俺は――」
マクシミリアンが何かを言いかけた時、鰭ヶ崎 狐華音(ka2719)が砂浜を指す。
水中より上がってきたのは、依頼書の内容とも合致する海蛇だった。
「なるほど、水ン中で獲物が来るまで潜んでたってのかァ? 海岸にいないはずだゼ……」
ヤナギが舌打ちし、剣を手にすると『行こうぜ』とユキヤ・S・ディールス(ka0382)に声をかける。
「はい。大きな海蛇……あれは確かに見目だけでも脅威ですね」
ユキヤは海岸を這い始めた海蛇を見つめると表情を曇らせる。早めに倒さなければならない、とも感じたのだろう。
被害は最小に、そして敵を迅速に倒すため――狐華音たちは海蛇の前へと飛び出していった。
●決戦、海蛇
海蛇の体は近くで見ればなおの事大きく、身を起こして自分たちハンターを睥睨してくる――それだけですら威圧的だった。
ルアはその重い圧を感じ取って息を呑み、心を落ち着かせようとしている。
「――あの横に突きだした牙は危険だから注意しないと」
狐華音が指摘した、大きく張り出した牙。そこに目を向けたハンター達。
下手な武器よりも鋭利な牙で胴体を貫かれれば、覚醒者といえども無事では済まないだろう。
「攻撃だけじゃない。海岸……ともあって、足を取られないようにしないといけないわね」
狐華音の指摘する通り、足場は砂、そして波。耐滑性もあるブーツだとはいえ、砂が散れば体勢を崩す事すらありうる。そこを海蛇(以下、蛇)に狙われる事も考えられた。
ルアも波打ち際の湿り気を帯びる砂をつま先で叩く。
那津人が仲間に目くばせを行うと、皆互いの位置を確認して頷き合った。
「こうやって皆で一体を囲むことになりますね。お互いに邪魔にならないよう、一応気を使っておきますか」
じりじりと少しずつ距離を取ったところで、ユキヤはヤナギにプロテクションを掛ける。
「サンキュ、ユキヤ! そんじゃ、まァ――その自慢の牙、へし折ってやるゼ!」
光の粒子に包まれたヤナギ。頑丈な蛇の牙を1本でも折る事を目的として動いた。
ランアウトで移動力も高まった彼の通った後には、砂と光の粒子が舞う。
その間、ユキヤはホーリーライトの詠唱をしながら、ヤナギが斬りつけるタイミングを計っている。
グラディウスを握ると牙の根元を狙って、振りかぶった際――ユキヤも光の矢を放った。
斬るというより剣をぶつけるようにして当てていく剣と、ユキヤの魔法が牙に当たったが――その強力な一撃でも折ることが出来ず、ヤナギは舌打ちすると瞬時に蛇から間合いを離す。
「全く効いてないわけじゃないと思うけど……」
大ぶりのヒレ攻撃を躱してから、ルアが距離を詰め、牙を折ろうと一撃を叩きこむ。
射線に入り込まぬよう位置取りした遥は、自身へ攻性強化を付与すると水中銃を陸地用の弾に変更し間髪入れず、蛇の喉元を水中銃で狙撃。
身を仰け反らせた様を見る限り、それなりに効いているようだ。
「チャクラムがうまく嵌って口が閉じれない、なんて間抜けなことになってくれりゃ楽なんですがね……」
指でくるくると輪を回しながら那津人は投擲の体勢へと入り、やはり牙を狙うことにしたらしい。
吸い込まれるように戦輪は蛇の牙へと命中。今までのダメージも蓄積していたようで、ビシッという音と共に、牙は横に亀裂が入ったが、チャクラムを口で受けようとはしなかったようだ。
「その脅威、狩らせて貰うわ――……はあぁっ!」
狐華音が牙の亀裂へ日本刀を突きこむ。
攻撃を当て続けていた右側の牙がとうとうボキリと根元から折れ、砂地へと転がる。
「よしっ……!」
思わず拳を握ったルア。
左側から攻めていたマクシミリアンは、踏込で蛇の腹にロングソードを突き立てた。
背面よりは防御力は弱いようだったが――剣が肉を易々と断ち切れるほどではない。
怒りに燃える蛇は、狐華音を牙の餌食にするつもりのようだ。彼女を見つめると、大きな口を開いて首を横薙ぎに振るう。
「そんな攻撃なんか……回避、してやるんだから!」
どの方向へと逃げるかは、ほとんど勘。
狐華音はマルチステップで間一髪、牙を避けると小さく安堵の息を吐いた。
反対側の牙も折っておくか? そう誰しもが考えた時の事だ。
蛇の腹が砂にべたりと付き、まるで『伏せ』をするような体勢になる。
「なに……? 攻撃が効いて来たのかな?」
これはチャンスなのかもしれない――距離を詰めた那津人に、ユキヤは蛇が不自然に身をよじるのを見て鋭い声を発した。
「違う……尻尾です――避けて!」
「くっ……!」
何故と感じる間もなく、那津人は言われたとおり出来る限り俊敏に横へ動く。
すると、海蛇は大きく身をくねらせ……彼の立っていた場所めがけて、長い尻尾が鞭のようにしなったと思うと、砂を打つ。
ユキヤの声が無かったら、彼は尻尾の強打を食らっていたかもしれない。
「……ああ、助かりましたよ……。ありがとうございます」
砂浜を抉り、小穴が開くほどの威力があった尻尾を見つめ、那津人は身体に駆け抜ける焦燥に似た恐怖を感じ――震えるどころか、うっすらと笑いを浮かべていた。
「やはり、口を狙う方が胴体よりも早いようです……」
危険はかなり大きいですけどと考えを述べて、ユキヤは小さく唸った。
なんといっても口の中の柔肉は鍛える事が出来ない。狙い目ではある。
「……ヤナギさん、あの……」
ユキヤは持っていた鉄パイプを見せた。意図を読もうと、片眉を上げユキヤを見下ろすヤナギ。
「うまく行くかは分かりませんが、これをつっかえ棒がわりにしてみるのも一つの手かと思ったので……危険は承知で、お願いできないでしょうか」
しげしげと鉄パイプを眺めていたヤナギは、そうだよなァ、と呟いて。
「どれだけの効果があるか分かんねェケド、無いよりゃマシだろ。援護は頼むゼ」
ユキヤと周りの仲間にそう優しく告げると、再びその身にプロテクションの光を纏い、ヤナギは駆け出していく。
「絶対に、攻撃は阻止します!」
ヤナギの背中へと力強く言葉を送ると、ユキヤはホーリーライトを蛇の大きなヒレや尻尾へと放つ。
光が爆ぜ、蛇が怯む。
「そうだ、これだよ! このスリル……! こういうのがなきゃ『生きてる』って気がしないんだ!」
那津人は愉しそうに誰にともなく言い放ちながら、チャクラムを飛ばしてヒレを切り裂く。
美しい青色の鰭膜は裂かれ、無残な様相を呈している。
「物理が通りにくいってんなら、これでどうよ!」
水中銃やデリンジャーで援護していた遥は、機導砲に切り替えて蛇の顔目がけて撃っていく。
「ヤナギ様の活路は、皆で開くっ……!」
ランアウトで近づいた狐華音は頭上に構えた刀を、渾身の力を込めて蛇の頭へ振り下ろす。
強い思いを込めた狐華音の刃は蛇の鱗を数枚剥ぎ取り、肉を露出させてなお、口先を深く切りつけた。
蛇にとっても気に入らなかったのだろう。血を流しながらも狐華音を威嚇するかのように大きく開かれた口。
「イイねェ。押し込むのに絶好のタイミングじゃねーの? これなら、ガッツリ食えンだろォ!?」
ランアウトで懐へと飛び込んできたヤナギが、鉄パイプを縦にして、蛇の口へ差し込むように押し込んだ。
「ギッ……!!」
口を閉ざそうとしても、鉄パイプが邪魔をして口は閉じない――!
「観察、分析、実験、考察は研究者の基本……! 教授のあだ名が伊達じゃないって事、見せてあげるわ!」
遥は水中銃を構えたまま、もがく蛇の口内へ銃口を押し当てると――機導砲を超至近距離で放つ。
一条の光が蛇の首裏を貫き、想像を絶する痛みに蛇は身体をくねらせた。
「うッ……! でも、これくらい想定済みよっ……」
暴れられた拍子に牙の先に触れてしまったため、腕は引っ掻かれたようにまっすぐな跡を残して傷つけられてしまったが、そのリスクを視野に入れて遥はこの策を実行したのだ。
「良かったなァ、気に入ってくれたみてーだゼ、ユキヤのプレゼント」
大きく開いた口腔へ、ヤナギは剣ではなくオートマチックピストルに持ち替え、遥と同じように喉奥に数発叩き込む。
これだけの銃弾を浴びれば、この歪虚だって無事ではいられない――、と、僅かな心の隙がルアに芽生える。
そこを感じ取ったのだろうか。狂気をはらむ赤い瞳でルアを見据えた蛇。
突然向けられた眼を見つめてしまい、びくん、と、ルアの体が大きく震えた。
「――ちょっと、大丈夫? あんなものに呑まれちゃだめよ! 気をしっかり持って!」
蛇眼を見つめたまま、視線を逸らすことのできないルアに、遥が叱咤の声を上げて呼び戻そうとしている。
「あ……っ」
恐怖に声が出ないこともあるのだと――頭の片隅でルアは思う。あの赤い目は、恐怖だけではなく、平常ではいられなくなるような……自分をあちら側へを誘うようにも感じた。
「――そんな小手先に惑わされるな。お前を呼ぶ声は頭の中から聞こえているわけではないはずだ」
はっきりと伝わる男の声に、ルアははっとして周りを見る。
自分を心配そうに見つめる遥やユキヤ、そして――無表情だが自分をまっすぐに見据えるマクシミリアン。
(……そうだよ。皆に助けてもらうだけじゃなくて、私も誰かを助ける為に……対等になるためにハンターになったんだから――こんな所で竦んでたら、意味、ないんだよ!)
ぱし、と自分の頬を数回軽く叩いて、ルアはきゅっと唇を結んだ。
その瞳に迷いや曇りは見受けられない。
「……ん、大丈夫みてーだな? よし、そんじゃ――総攻撃でケリ着けようゼ!」
ヤナギがパチンと指を鳴らし、再び海蛇へと向き直る。
「かなり衰弱していても、あいつはまだ勢いがあるわ。お互い力押しの戦いになるけど……」
「大丈夫。どんな相手だろうと、皆も私も、決して屈しないんだからっ!」
遥は機導砲で蛇の眼を狙い、狐華音も日本刀を突き刺して眼球を潰し視力を奪った。
激痛にのたうち回る蛇の尻尾や牙に当たらぬよう気を配りながら、ルアが側面からの攻撃を見まい、反撃を食らわないうちにすぐに離れた。
「良く動くもんだ。あんま長引いて飽きちまったら興ざめだからな。そろそろ死ねや、蛇公」
ぞんざいな口調で言い放つ那津人。
チャクラムを握りしめると、弱ってきた蛇の口元を横へ裂くように斬りつける。
もともと開いてはいるが、ぱっくりと口を横に切り裂かれ――集中的に斬撃と射撃を浴び続けたこの巨大な海蛇にも、命が尽きる時が来たようだ。
「これで、終わりです」
ユキヤのホーリーライトを口の中へと浴びせられ、蛇は重たい音を立てて砂浜に沈むと、そのまま動かなくなった。
●平穏の海岸
光を失った目で青い空を見上げている蛇。命を持たぬ身体は煙となって徐々に消えていく。
全力で戦ったため疲労感を覚えつつも、那津人は海蛇の消えゆく姿を何も言わず眺めていた。
「ユキヤ。お疲れさんだ。なかなか、いいフォローだったぜ?」
「ヤナギさん……ありがとうございます。こちらこそ、ありがとうございました」
2人は朗らかな笑みを向け、ハイタッチを交わす。
ぱぁん、と軽快な音が砂浜に鳴り響いた。
「んもぅ。肌に傷がついたらどうしてくれるのよ……」
自身の腕を見ながら、悲しそうな顔をする遥。傷自体は大したことはなかったが、大事な体。
回復をかければ傷は塞がるにしても、愚痴の一つや二つ言いたくもなるだろう。
「なんだか、一つ乗り越えられたような……そんな感じです」
ルアも胸の上に手を置きながら先ほどの事を思い出していた。
「みなさん、さっきは助けてくださって、ありがとうございました」
ぺこりと頭を下げたルアに、いいのいいの、と遥が微笑む。
「仲間だしね、当然でしょ」
納刀した狐華音もそう言って頷くと、ルアは恥ずかしそうな笑みを返す。
「周囲には歪虚らしきものはいないようだ。帰還するぞ」
マクシミリアンは、そんな彼らを促すと、すぐに背を向ける。
同行したハンターたちが勝利を分かち合う気持ちも分からなくもない。かつては自分もそうだった。
(狂気の歪虚、か……)
まだ歪虚は片付いたわけではなく、敵はこの先――ラッツィオ島に多く残っているのだ。
その体に流れるのは、戦いの興奮冷めやらぬものなのか、まだ見ぬ敵への高揚か。
次の戦いへと急ぐように、彼は馬車に乗り込んだ。
生臭いような磯風が、ハンター達の鼻腔に届く。
今回退治するのは、海蛇とのことなのだが――……。
「夏だ! 海だ! 海蛇だ!……って夏休みの宿題感覚じゃないっつの! こんな所まで追っかけてくるなんて、狂気の歪虚ってのはとんでもないストーカー野郎だこと!」
遥・シュテルンメーア(ka0914)は金の長いツインテールをふるふると震わせながら怒っていた。
彼女はリアルブルー出身。ここへ転移する際からの付き合いなのだから、彼らにとってその嫌悪感も一層のものなのだろう。
海岸入り口付近についたばかりだが、件の海蛇の姿は見えない。
「海蛇型、か……なんか無いんですかね? 歪虚を倒すコツっていうか、弱点みたいなのって?」
有屋 那津人(ka0470)が同行していたマクシミリアン・ヴァイス(kz0003)へ訊ねると、彼は青い目を無遠慮に那津人へ向ける。
「弱点は、個体ごとに違うこともままある。俺も実際に【狂気の歪虚】と戦うのは初めてだ」
あ、そうなの? と那津人は目を丸くした。
「ただ、元は海蛇。陸地では敏捷性は低下するかもしれないし――蛇に胸骨はない」
「あ、確かに。そうすると鱗が少ないお腹の側を狙いたいけれど……警戒されそうですよね」
ルア・パーシアーナ(ka0355)は小首を傾げて対策を考えていた。
「ま、戦っているうちに弱点が見えてきたり策が閃くッてことってもあるだろ。討伐は大事だけど、折角だ。愉しもうゼ」
ヤナギ・エリューナク(ka0265)は海岸の向こうを眺めながらどこか機嫌良さそうに答えた。
「楽しい事ですかぁ……。俺は逆ですねえ。最近、向こうでの事をよく思い出しますよ」
那津人は力なくそう答え、脳裏をよぎるリアルブルーでの出来事に目を閉じた。
「就職してもあんまり楽しい事が無かったなあ。どうして思い出したくないもの、忘れたいものってのは……中々頭から離れないんですかね?」
本っ当に嫌になりますよ、とくたびれた愛想笑いをマクシミリアンへと向けたが、無愛想なハンターは『人間というのはそういう風に出来ている』と答える。
「きっと、お前は嫌な事から逃げなかったんだろうな。やらなくてはいけないことが分かっていたから……余計にそういった物がこびりつくんだろう。俺は――」
マクシミリアンが何かを言いかけた時、鰭ヶ崎 狐華音(ka2719)が砂浜を指す。
水中より上がってきたのは、依頼書の内容とも合致する海蛇だった。
「なるほど、水ン中で獲物が来るまで潜んでたってのかァ? 海岸にいないはずだゼ……」
ヤナギが舌打ちし、剣を手にすると『行こうぜ』とユキヤ・S・ディールス(ka0382)に声をかける。
「はい。大きな海蛇……あれは確かに見目だけでも脅威ですね」
ユキヤは海岸を這い始めた海蛇を見つめると表情を曇らせる。早めに倒さなければならない、とも感じたのだろう。
被害は最小に、そして敵を迅速に倒すため――狐華音たちは海蛇の前へと飛び出していった。
●決戦、海蛇
海蛇の体は近くで見ればなおの事大きく、身を起こして自分たちハンターを睥睨してくる――それだけですら威圧的だった。
ルアはその重い圧を感じ取って息を呑み、心を落ち着かせようとしている。
「――あの横に突きだした牙は危険だから注意しないと」
狐華音が指摘した、大きく張り出した牙。そこに目を向けたハンター達。
下手な武器よりも鋭利な牙で胴体を貫かれれば、覚醒者といえども無事では済まないだろう。
「攻撃だけじゃない。海岸……ともあって、足を取られないようにしないといけないわね」
狐華音の指摘する通り、足場は砂、そして波。耐滑性もあるブーツだとはいえ、砂が散れば体勢を崩す事すらありうる。そこを海蛇(以下、蛇)に狙われる事も考えられた。
ルアも波打ち際の湿り気を帯びる砂をつま先で叩く。
那津人が仲間に目くばせを行うと、皆互いの位置を確認して頷き合った。
「こうやって皆で一体を囲むことになりますね。お互いに邪魔にならないよう、一応気を使っておきますか」
じりじりと少しずつ距離を取ったところで、ユキヤはヤナギにプロテクションを掛ける。
「サンキュ、ユキヤ! そんじゃ、まァ――その自慢の牙、へし折ってやるゼ!」
光の粒子に包まれたヤナギ。頑丈な蛇の牙を1本でも折る事を目的として動いた。
ランアウトで移動力も高まった彼の通った後には、砂と光の粒子が舞う。
その間、ユキヤはホーリーライトの詠唱をしながら、ヤナギが斬りつけるタイミングを計っている。
グラディウスを握ると牙の根元を狙って、振りかぶった際――ユキヤも光の矢を放った。
斬るというより剣をぶつけるようにして当てていく剣と、ユキヤの魔法が牙に当たったが――その強力な一撃でも折ることが出来ず、ヤナギは舌打ちすると瞬時に蛇から間合いを離す。
「全く効いてないわけじゃないと思うけど……」
大ぶりのヒレ攻撃を躱してから、ルアが距離を詰め、牙を折ろうと一撃を叩きこむ。
射線に入り込まぬよう位置取りした遥は、自身へ攻性強化を付与すると水中銃を陸地用の弾に変更し間髪入れず、蛇の喉元を水中銃で狙撃。
身を仰け反らせた様を見る限り、それなりに効いているようだ。
「チャクラムがうまく嵌って口が閉じれない、なんて間抜けなことになってくれりゃ楽なんですがね……」
指でくるくると輪を回しながら那津人は投擲の体勢へと入り、やはり牙を狙うことにしたらしい。
吸い込まれるように戦輪は蛇の牙へと命中。今までのダメージも蓄積していたようで、ビシッという音と共に、牙は横に亀裂が入ったが、チャクラムを口で受けようとはしなかったようだ。
「その脅威、狩らせて貰うわ――……はあぁっ!」
狐華音が牙の亀裂へ日本刀を突きこむ。
攻撃を当て続けていた右側の牙がとうとうボキリと根元から折れ、砂地へと転がる。
「よしっ……!」
思わず拳を握ったルア。
左側から攻めていたマクシミリアンは、踏込で蛇の腹にロングソードを突き立てた。
背面よりは防御力は弱いようだったが――剣が肉を易々と断ち切れるほどではない。
怒りに燃える蛇は、狐華音を牙の餌食にするつもりのようだ。彼女を見つめると、大きな口を開いて首を横薙ぎに振るう。
「そんな攻撃なんか……回避、してやるんだから!」
どの方向へと逃げるかは、ほとんど勘。
狐華音はマルチステップで間一髪、牙を避けると小さく安堵の息を吐いた。
反対側の牙も折っておくか? そう誰しもが考えた時の事だ。
蛇の腹が砂にべたりと付き、まるで『伏せ』をするような体勢になる。
「なに……? 攻撃が効いて来たのかな?」
これはチャンスなのかもしれない――距離を詰めた那津人に、ユキヤは蛇が不自然に身をよじるのを見て鋭い声を発した。
「違う……尻尾です――避けて!」
「くっ……!」
何故と感じる間もなく、那津人は言われたとおり出来る限り俊敏に横へ動く。
すると、海蛇は大きく身をくねらせ……彼の立っていた場所めがけて、長い尻尾が鞭のようにしなったと思うと、砂を打つ。
ユキヤの声が無かったら、彼は尻尾の強打を食らっていたかもしれない。
「……ああ、助かりましたよ……。ありがとうございます」
砂浜を抉り、小穴が開くほどの威力があった尻尾を見つめ、那津人は身体に駆け抜ける焦燥に似た恐怖を感じ――震えるどころか、うっすらと笑いを浮かべていた。
「やはり、口を狙う方が胴体よりも早いようです……」
危険はかなり大きいですけどと考えを述べて、ユキヤは小さく唸った。
なんといっても口の中の柔肉は鍛える事が出来ない。狙い目ではある。
「……ヤナギさん、あの……」
ユキヤは持っていた鉄パイプを見せた。意図を読もうと、片眉を上げユキヤを見下ろすヤナギ。
「うまく行くかは分かりませんが、これをつっかえ棒がわりにしてみるのも一つの手かと思ったので……危険は承知で、お願いできないでしょうか」
しげしげと鉄パイプを眺めていたヤナギは、そうだよなァ、と呟いて。
「どれだけの効果があるか分かんねェケド、無いよりゃマシだろ。援護は頼むゼ」
ユキヤと周りの仲間にそう優しく告げると、再びその身にプロテクションの光を纏い、ヤナギは駆け出していく。
「絶対に、攻撃は阻止します!」
ヤナギの背中へと力強く言葉を送ると、ユキヤはホーリーライトを蛇の大きなヒレや尻尾へと放つ。
光が爆ぜ、蛇が怯む。
「そうだ、これだよ! このスリル……! こういうのがなきゃ『生きてる』って気がしないんだ!」
那津人は愉しそうに誰にともなく言い放ちながら、チャクラムを飛ばしてヒレを切り裂く。
美しい青色の鰭膜は裂かれ、無残な様相を呈している。
「物理が通りにくいってんなら、これでどうよ!」
水中銃やデリンジャーで援護していた遥は、機導砲に切り替えて蛇の顔目がけて撃っていく。
「ヤナギ様の活路は、皆で開くっ……!」
ランアウトで近づいた狐華音は頭上に構えた刀を、渾身の力を込めて蛇の頭へ振り下ろす。
強い思いを込めた狐華音の刃は蛇の鱗を数枚剥ぎ取り、肉を露出させてなお、口先を深く切りつけた。
蛇にとっても気に入らなかったのだろう。血を流しながらも狐華音を威嚇するかのように大きく開かれた口。
「イイねェ。押し込むのに絶好のタイミングじゃねーの? これなら、ガッツリ食えンだろォ!?」
ランアウトで懐へと飛び込んできたヤナギが、鉄パイプを縦にして、蛇の口へ差し込むように押し込んだ。
「ギッ……!!」
口を閉ざそうとしても、鉄パイプが邪魔をして口は閉じない――!
「観察、分析、実験、考察は研究者の基本……! 教授のあだ名が伊達じゃないって事、見せてあげるわ!」
遥は水中銃を構えたまま、もがく蛇の口内へ銃口を押し当てると――機導砲を超至近距離で放つ。
一条の光が蛇の首裏を貫き、想像を絶する痛みに蛇は身体をくねらせた。
「うッ……! でも、これくらい想定済みよっ……」
暴れられた拍子に牙の先に触れてしまったため、腕は引っ掻かれたようにまっすぐな跡を残して傷つけられてしまったが、そのリスクを視野に入れて遥はこの策を実行したのだ。
「良かったなァ、気に入ってくれたみてーだゼ、ユキヤのプレゼント」
大きく開いた口腔へ、ヤナギは剣ではなくオートマチックピストルに持ち替え、遥と同じように喉奥に数発叩き込む。
これだけの銃弾を浴びれば、この歪虚だって無事ではいられない――、と、僅かな心の隙がルアに芽生える。
そこを感じ取ったのだろうか。狂気をはらむ赤い瞳でルアを見据えた蛇。
突然向けられた眼を見つめてしまい、びくん、と、ルアの体が大きく震えた。
「――ちょっと、大丈夫? あんなものに呑まれちゃだめよ! 気をしっかり持って!」
蛇眼を見つめたまま、視線を逸らすことのできないルアに、遥が叱咤の声を上げて呼び戻そうとしている。
「あ……っ」
恐怖に声が出ないこともあるのだと――頭の片隅でルアは思う。あの赤い目は、恐怖だけではなく、平常ではいられなくなるような……自分をあちら側へを誘うようにも感じた。
「――そんな小手先に惑わされるな。お前を呼ぶ声は頭の中から聞こえているわけではないはずだ」
はっきりと伝わる男の声に、ルアははっとして周りを見る。
自分を心配そうに見つめる遥やユキヤ、そして――無表情だが自分をまっすぐに見据えるマクシミリアン。
(……そうだよ。皆に助けてもらうだけじゃなくて、私も誰かを助ける為に……対等になるためにハンターになったんだから――こんな所で竦んでたら、意味、ないんだよ!)
ぱし、と自分の頬を数回軽く叩いて、ルアはきゅっと唇を結んだ。
その瞳に迷いや曇りは見受けられない。
「……ん、大丈夫みてーだな? よし、そんじゃ――総攻撃でケリ着けようゼ!」
ヤナギがパチンと指を鳴らし、再び海蛇へと向き直る。
「かなり衰弱していても、あいつはまだ勢いがあるわ。お互い力押しの戦いになるけど……」
「大丈夫。どんな相手だろうと、皆も私も、決して屈しないんだからっ!」
遥は機導砲で蛇の眼を狙い、狐華音も日本刀を突き刺して眼球を潰し視力を奪った。
激痛にのたうち回る蛇の尻尾や牙に当たらぬよう気を配りながら、ルアが側面からの攻撃を見まい、反撃を食らわないうちにすぐに離れた。
「良く動くもんだ。あんま長引いて飽きちまったら興ざめだからな。そろそろ死ねや、蛇公」
ぞんざいな口調で言い放つ那津人。
チャクラムを握りしめると、弱ってきた蛇の口元を横へ裂くように斬りつける。
もともと開いてはいるが、ぱっくりと口を横に切り裂かれ――集中的に斬撃と射撃を浴び続けたこの巨大な海蛇にも、命が尽きる時が来たようだ。
「これで、終わりです」
ユキヤのホーリーライトを口の中へと浴びせられ、蛇は重たい音を立てて砂浜に沈むと、そのまま動かなくなった。
●平穏の海岸
光を失った目で青い空を見上げている蛇。命を持たぬ身体は煙となって徐々に消えていく。
全力で戦ったため疲労感を覚えつつも、那津人は海蛇の消えゆく姿を何も言わず眺めていた。
「ユキヤ。お疲れさんだ。なかなか、いいフォローだったぜ?」
「ヤナギさん……ありがとうございます。こちらこそ、ありがとうございました」
2人は朗らかな笑みを向け、ハイタッチを交わす。
ぱぁん、と軽快な音が砂浜に鳴り響いた。
「んもぅ。肌に傷がついたらどうしてくれるのよ……」
自身の腕を見ながら、悲しそうな顔をする遥。傷自体は大したことはなかったが、大事な体。
回復をかければ傷は塞がるにしても、愚痴の一つや二つ言いたくもなるだろう。
「なんだか、一つ乗り越えられたような……そんな感じです」
ルアも胸の上に手を置きながら先ほどの事を思い出していた。
「みなさん、さっきは助けてくださって、ありがとうございました」
ぺこりと頭を下げたルアに、いいのいいの、と遥が微笑む。
「仲間だしね、当然でしょ」
納刀した狐華音もそう言って頷くと、ルアは恥ずかしそうな笑みを返す。
「周囲には歪虚らしきものはいないようだ。帰還するぞ」
マクシミリアンは、そんな彼らを促すと、すぐに背を向ける。
同行したハンターたちが勝利を分かち合う気持ちも分からなくもない。かつては自分もそうだった。
(狂気の歪虚、か……)
まだ歪虚は片付いたわけではなく、敵はこの先――ラッツィオ島に多く残っているのだ。
その体に流れるのは、戦いの興奮冷めやらぬものなのか、まだ見ぬ敵への高揚か。
次の戦いへと急ぐように、彼は馬車に乗り込んだ。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/08/04 05:14:50 |
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相談所 有屋 那津人(ka0470) 人間(リアルブルー)|26才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2014/08/04 23:47:49 |