ゲスト
(ka0000)
ロックバンド『エクリプス』のスノーフェス
マスター:sagitta

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~10人
- サポート
- 0~10人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 8日
- 締切
- 2015/12/16 15:00
- 完成日
- 2015/12/24 00:54
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
「あ、雪だ……! ねぇ、みんな、雪降ってるよ!」
キーボード担当の翠(スイ)が、はしゃいだ声をあげて部屋の中を振り返った。部屋の中にいたバンドのメンバーたちが一斉に顔を上げた。
「道理で寒いと思った……おい翠、寒いから窓閉めろよ」
「やだよ烏(カラス)! 今、雪見てるんだから~!」
大げさに自分の体を抱いて震えてみせたベースの烏に対して、翠が口をとがらせる。
「雪かぁ……あっちでも、降ってるころかな」
しみじみとつぶやいたのはドラムの白(ハク)。あっち、とは彼らの故郷、リアルブルーのことだ。
彼らは『エクリプス』という名のロックバンドのメンバーで、バンドごとこちらの世界にやってきた来訪者だ。転移してきてからも夢を追いかけることをあきらめきれず、数ヶ月前にクリムゾンウェストでのライブに成功し、夏には野外フェスまで行った。今も、新しいライブの構想を練りながら新曲をつくったり、練習に励んでいるところで、こちらに来たばかりのころの沈んだ雰囲気はもはや少しも見られなかった。
「ねぇねぇ、雪だるまつくろうよ!」
「雪といえば雪だるま、だなんて、翠はオコサマだな~」
はしゃぐ翠に、ヴォーカルの蒼(ソウ)がにやにや笑いを向けてみせた。
「むー! そういう蒼は、雪といえばなんなんだよ~」
「そりゃ、あれだろ、スノボとか、スキーとか……」
「……スノーフェス」
ぼそり、と言ったのは、それまでずっと黙っていたギターの紅(ベニ)だ。彼の言葉に、メンバーが一斉に注目する。
「また、やりたくないか」
あくまでも静かにつぶやく。メンバーが一斉に、同じ光景を思い出していた。
リアルブルーで、まだエクリプスが駆け出しのバンドだったころ。彼らがはじめて参加した大きな企画が、スキー場にステージを設置して行った「スノーフェス」と題したイベントだった。まっ白な雪に囲まれながら、夜通しで行う平和の祭典。
「やりたいやりたい! まっ白な雪に映える照明、山と谷に響き渡る音……」
翠が、うっとりしたようにつぶやく。
「やろう。今、こっちの世界は歪虚との戦いで大変なことになってる。こんなときだからこそ、俺たちにできることもあるはずだ」
真剣な眼差しで言ったのは実質的なリーダーでもある烏だ。
「そうだな。チャリティーコンサートにして、少しでも歪虚と戦う人たちに、何かを届けられれば」
お人好しの白も、喜んでうなずく。
「また、ハンターのみんなに力を借りて企画しよう。場所はサマーフェスと同じ、ピースホライズンでいいかな。ハンターたちがステージに上がる機会もあるといいな。あのときのフェスと同じように、ロックバンドだけじゃなくて、ダンスとかお笑いをやるステージがあってもいいし」
蒼が言う。すでに彼の目には、そのときの光景が浮かんでいる。
「……テーマソングをつくりたい。歌詞は、歪虚と戦う最前線である、ハンターたちから募集できるといい。テーマは……雪と、希望」
紅の言葉に、全員が賛成を表明した。
「あ、雪だ……! ねぇ、みんな、雪降ってるよ!」
キーボード担当の翠(スイ)が、はしゃいだ声をあげて部屋の中を振り返った。部屋の中にいたバンドのメンバーたちが一斉に顔を上げた。
「道理で寒いと思った……おい翠、寒いから窓閉めろよ」
「やだよ烏(カラス)! 今、雪見てるんだから~!」
大げさに自分の体を抱いて震えてみせたベースの烏に対して、翠が口をとがらせる。
「雪かぁ……あっちでも、降ってるころかな」
しみじみとつぶやいたのはドラムの白(ハク)。あっち、とは彼らの故郷、リアルブルーのことだ。
彼らは『エクリプス』という名のロックバンドのメンバーで、バンドごとこちらの世界にやってきた来訪者だ。転移してきてからも夢を追いかけることをあきらめきれず、数ヶ月前にクリムゾンウェストでのライブに成功し、夏には野外フェスまで行った。今も、新しいライブの構想を練りながら新曲をつくったり、練習に励んでいるところで、こちらに来たばかりのころの沈んだ雰囲気はもはや少しも見られなかった。
「ねぇねぇ、雪だるまつくろうよ!」
「雪といえば雪だるま、だなんて、翠はオコサマだな~」
はしゃぐ翠に、ヴォーカルの蒼(ソウ)がにやにや笑いを向けてみせた。
「むー! そういう蒼は、雪といえばなんなんだよ~」
「そりゃ、あれだろ、スノボとか、スキーとか……」
「……スノーフェス」
ぼそり、と言ったのは、それまでずっと黙っていたギターの紅(ベニ)だ。彼の言葉に、メンバーが一斉に注目する。
「また、やりたくないか」
あくまでも静かにつぶやく。メンバーが一斉に、同じ光景を思い出していた。
リアルブルーで、まだエクリプスが駆け出しのバンドだったころ。彼らがはじめて参加した大きな企画が、スキー場にステージを設置して行った「スノーフェス」と題したイベントだった。まっ白な雪に囲まれながら、夜通しで行う平和の祭典。
「やりたいやりたい! まっ白な雪に映える照明、山と谷に響き渡る音……」
翠が、うっとりしたようにつぶやく。
「やろう。今、こっちの世界は歪虚との戦いで大変なことになってる。こんなときだからこそ、俺たちにできることもあるはずだ」
真剣な眼差しで言ったのは実質的なリーダーでもある烏だ。
「そうだな。チャリティーコンサートにして、少しでも歪虚と戦う人たちに、何かを届けられれば」
お人好しの白も、喜んでうなずく。
「また、ハンターのみんなに力を借りて企画しよう。場所はサマーフェスと同じ、ピースホライズンでいいかな。ハンターたちがステージに上がる機会もあるといいな。あのときのフェスと同じように、ロックバンドだけじゃなくて、ダンスとかお笑いをやるステージがあってもいいし」
蒼が言う。すでに彼の目には、そのときの光景が浮かんでいる。
「……テーマソングをつくりたい。歌詞は、歪虚と戦う最前線である、ハンターたちから募集できるといい。テーマは……雪と、希望」
紅の言葉に、全員が賛成を表明した。
リプレイ本文
●
「夏に続き運営を担当するザレムだ。またよろしく」
「また頼りにしてるぜ」
差し出されたザレム・アズール(ka0878)の手を取り、烏(カラス)が気さくに笑う。
「お久しぶりです。今回もよろしくお願いします」
エルバッハ・リオン(ka2434)もペコリ、と頭を下げた。おお、とうれしそうな声を上げたのは白(ハク)だ。
「前回の焼きそばは良かったなぁ。今回も楽しみにしてるよ」
「今回も屋台を出そうと思いますが、やはり冬の野外ですし、暖かくなるようなものを販売しましょうか」
エルの言葉に、白が子供のような笑顔を浮かべた。
「いいね! 楽しみだなぁ」
「今回は俺も、暖かい飲み物を作って売ろうと思う。たぶんすごく売れるよ」
ザレムが言う。
「ああ、快適で楽しいフェスにするためにも、寒さ対策はいちばん重要だな。ずっと火を焚いて絶やさないようにして、暖を取れるエリアを作るようにしよう」
ザレムの言葉を引き取って言ったのはヒュムネ・ミュンスター(ka4288)だ。彼女の姿を見て、蒼(ソウ)が笑顔を見せる。
「よう、また来てくれたんだな、ヒュムネ」
「当たり前だ! エクリプスとスノーフェス、燃えてきたぜー! 是非協力させてくれよな!」
ヒュムネはうれしそうに親指を立ててみせた。リアルブルーにいた頃からエクリプスのファンだった彼女は、この世界ではもはやエクリプスの相棒ともいうべきだろう。
「……エクリプスは、向こうで聞いた事あるけどライヴは初めてね」
やや離れたところでメンバーたちを見つめながらつぶやいたのは、岩波レイナ(ka3178)だ。エクリプスと同じくリアルブルー出身のレイナは、少しだけ彼らに親近感を抱いていたりする。そんなこと、口に出しては言わないけれど。
「レイナ、っていうの? よろしく! 一緒にお祭り楽しもうね!」
不意に声をかけられて、レイナは驚いて振り返る。そこには翠(スイ)が、屈託なく笑っていた。
「べ、べつに、あなたたちの音楽に、期待、なんて、してないんだからね!」
口をついて出てくるのは、そんな素直じゃない言葉。
「あら、レイナ、あなたも来ていたのね?」
妖艶な声。レイナの体が硬直する。
「けけけけ、ケイ様!」
ケイ・R・シュトルツェ(ka0242)。彼女もまた、リアルブルーから転移してきたものであり、レイナのあこがれの「歌姫」だった。
「あなたと一緒に音楽を楽しめるの、うれしいわ」
ケイのそんな言葉に、レイナの心は舞い上がる。
「そそ、そんな、あたしの方こそ……」
(け、ケイ様の歌が聞けるなんて! あたし、なんてラッキーなの! これはもう、スタッフとして最高のフェスにしてみせるわよ!)
レイナは、そう心に強く誓うのだった。
「エクリプスの皆さん、あたしも、ステージで歌わせてもらえるかしら」
「もちろんだ。音楽を愛する仲間、歓迎する」
ケイの言葉に、紅(ベニ)が力強くうなずく。
「俺も1枚噛ませて貰うゼ」
そう言ったのはヤナギ・エリューナク(ka0265)。彼もリアルブルーではプロバンドのベーシストだったのだという。
「俺と悠司、デルとで3ピースバンドをやる。ジャンルはHR/HMだ」
「俺はヴォーカルをやるよ。クリムゾンウェストでもライヴが出来るなんて、思っても見なかったなぁ!」
鈴木悠司(ka0176)がはしゃいだ声で言う。
「熱い音楽で、雪を溶かしてやろーぜ!」
蒼がうれしそうに拳を突き上げた。
●
「わー、こんなにばっちりキメたの久しぶり!」
「なんかインディーズ時代に戻ったみたいだな!」
フェス当日。控室ではしゃいだ声を上げているのは、翠と蒼の二人。蒼は筋盛りの正統派ビジュアル系ヘア、翠はエクステを編みこんだ中性的な外見で、額にはゴーグルを載せている。
「……ふむ、オレ、なかなかいい男だな?」
鏡を見ながら悦に入っているのは烏。外ハネ気味に流した髪が決まっている。
「ビジュアル系バンドは見た目大事だからねぇ」
メイクを終えたメンバーたちを眺めながら満足そうにつぶやいたのは、清柳寺 月羽(ka3121)。普段は男勝りでぶっきらぼうな月羽だが、驚くほど手際よく5人のメイクをしてのけたのだ。
「せっかくだからとことんV系を貫いてみたんだけど、どうかしら」
そう言って笑ったのはヘアアレンジを担当したケイだ。
「お、オレ、こんなのでいいのかな」
鏡を見つつちょっと照れ気味なのは白だ。普段はあまり化粧っけのない彼だが、今日はしっかりとメイクを施した上に、三つ編みのエクステとヘアバンドまでしている。
「野外でのステージだ。これくらい目立つ方がいい」
そう言った紅は逆立てた赤い髪がよく映え、元々の整った顔立ちがメイクでさらに際立ち、妖艶さを醸し出している。
「……お茶とお菓子、持ってきたわよ。休憩にしたら?」
そのとき、お盆を持ったレイナが控室にやってきた。
「おお、レイナちゃん、気が効くね! ありがとう!」
烏が礼を言うと、レイナが顔を赤くして目をそらした。
「……べべべ、別に、大したことじゃないわよ! いいからあんたたちは、その、ステージちゃんとがんばりなさいよ!」
●
「予想以上の盛況っぷりだな……」
会場で客の入りを確認するザレムが思わず感嘆のつぶやきを漏らす。雪で白く染まる会場は、人波で埋め尽くされていた。ザレムが企画したとおり、来場者にはエクリプスのロゴが入ったカップが配られている。カップには通し番号が入っていて、あとでくじ引きにも使えるという凝りようだ(くじに当たった人は、エクリプスの特製グッズをプレゼントされる)。
「ザレムさんの広報活動の賜物ですね……わたしも緊張してきました」
アニス・エリダヌス(ka2491)が尊敬の眼差しをザレムに向けながら言う。彼女は今回のフェスでオープニングを担当することになっている。
「お客さんがこんなにいてうれしいです。折角のフェスですから、私達の方でも盛り上げて行きましょうか」
フィルメリア・クリスティア(ka3380)も人々を眺めながら言った。彼女も、友人のアニスと一緒にオープニングに参加する予定で、今は少し緊張気味だ。
「これでよし、っと」
手作りの屋台に『暖かいスープ販売』の張り紙を貼って、準備万端のエルが満足気にうなずいた。
「レイナさん、今日はよろしくお願いします」
そう言ってエルが深々と頭を下げる。
「任せといて。じゃんじゃん売るわよ~」
エルと一緒にスープの販売を担当することになったレイナがやる気満々でうなずいた。
●
カラン、カランと、遠くからベルの音が聞こえ、徐々に大きくなってくる。と、ステージの後方から一つの影が見えてきた。
「……ソリ?」
誰かのつぶやく声。
徐々に見えてきたのは、たくましい馬が引く、ソリに見立てたゴムボート。手綱を握るのは雪のようなふわふわの装飾をつけた赤いアイドル衣装に身を包んだアニスだ。
「蒼の世界の冬は、こういうものだと伺いました」
そう言って彼女がイメージしたのは、リアルブルーの『クリスマス』だ。
不意に、会場から歓声が上がった。ソリが現れたのとは逆側の袖から、美しく着飾ったフィルメリアが現れたのだ。アニスとは対象的な、目の覚めるような青いドレスを身にまとっている。大人っぽさと可愛らしさを兼ね備えたその姿はまるで雪の精霊のようだ。
フィルメリアはクラシックギターを抱え、ポロンポロンと静かにそれを爪弾き始める。
ザレムの提案で設置した音響板の効果もまずまずのようで、音は雪に包まれた会場のすみずみにまで綺麗に響いている。
「清水よ巡れ、大地よ繁れ。やがて眩き茜が見えよう」
ソリから降りたアニスがおもむろに口を開き、朗々と歌い上げる。ギターの爪弾きとベルの音が溶けるように声と交じり合う。アニスの故郷に伝わる、創世の歌。それは、大きな危機にあるこの世界を慈しみ励ますような。
歌が終わり、アニスとフィルメリアが手を取り合ってお辞儀をすると、会場から大きな拍手が上がった。
「レディースエンジェントルメーン! ボーイズエンガールズ! エクリプスのスノーフェスに、ようこそ!」
雪の山々に、張りのある声が響き渡った。アニスの引くソリに乗っていたヒュムネが立ち上がったのだ。一瞬あっけにとられた観客達は、すぐに我に返って拳を突き上げる。
「お前ら、今日は、寒さなんてふっ飛ばして熱い熱いステージをお届けするぜ!!」
ヒュムネが叫ぶと、それに呼応して会場から熱い叫び声が聞こえてくる。
「早速、素晴らしいロックを届けるぜ! まずは『C.R』!」
ヒュムネの声に呼応して、会場の灯りが一気に消え、闇の中から体の芯に響き渡るような低い音が流れ出る。
灯りが一斉に点いた。ステージの上に現れたのは、悠司、ヤナギ、デルフィーノ(ka1548)の3人から成る3ピースバンドだ。3人とも白を基調としたロック系の服装で、赤と青の灯りを照り返して雪の中でよく映えている。
一心不乱にフレーズを奏でるのはベースのヤナギ。ベースの音に重なるように、ギターのリフが始まった。デルフィーノが奏でるは、息を呑むほどの速弾き。ヤナギとちらりと視線を交わし、ニヤリ、と笑い合う。競うような音の応酬。
唐突に、音が止まった。会場を支配した静寂に、悠司が息を吸う音が、やけにゆっくりと聞こえ。
「凍て付く冬空の輝きが 誰をも魅了し連れて行く」
ハスキーながらも滑らかかつパワフルな悠司の歌声。ベースとギターの音が、息を吹き返したように始まり、声と絡み合って激しい音のうねりを作っていく。
「星が瞬くその刹那 きっとお前はもう居ない
星が流れるその刹那 きっと俺らももう居ない」
ヤナギがピックを会場に投げると、ひときわ歓声が上がった。そのままフィンガーピッキングに切り替え、スピーディでメロディアスなフレーズを奏でる。リズムを刻むだけではない、感情のこもった熱いベースだ。デルフィーノのギターも負けていない。タッピング奏法も駆使した高度な技術をこれでもかと見せつけつつ、多彩に変化する音で歌を彩る。間奏の途中で二人が悠司を囲んで妖艶な仕草をして見せると観客の一部からはため息が漏れた。
「凍て付く冬空の輝きが 誰をも魅了し連れて行く
そう その先に見えて来るのは」
そこで悠司が言葉を切り、ヤナギとデルフィーノもピタリと手を止める。
一瞬の静寂。
「永らえる 蘇る 永久の生 永久の煌めき」
デルフィーノのハモリとも合わせつつ、悠司が最後のフレーズを力強いミックスボイスで歌い上げる。たった1曲で、観客達の心は、1つになっていた。
「すばらしい演奏だったな! みんな、『C.R』に大きな拍手を!」
司会のヒュムネの声に応えて割れるような拍手。大舞台をやり遂げた3人の表情は晴れ晴れとしていた。
「次は、一転、可愛らしい女の子の歌声を聞いてもらおう! 清柳寺 月羽!」
司会の言葉に応じ、ステージに再び明かりが灯る。中央にやや緊張した面持ちで立つ月羽は、衣装も派手ではなくメイクも控えめだ。しかし、それがより彼女の素朴な美しさを引き出していると言える。
ハイハットの音と、ピアノの響きでアップテンポな曲が始まる。よく見れば、彼女の後方、バックバンドとして楽器を奏でているのはエクリプスの白、翠、烏の3人だ。
「聞いてください、『今宵のあたしは王子様』」
月羽がかわいらしい笑顔を見せると、観客席からは歓声。
激しいロックからは一転、ポップで軽やかな曲調だ。リアルブルーの若手女性アイドルの歌で、主に若者に受けがいいらしい。
「退屈な 昼(ライフ)にgood bye! こ・よ・い・は王子様ぁー!」
歌が始まると控えめな雰囲気は一転、確かな歌唱力と大胆なパフォーマンスで歌い上げる月羽。
「ラストだよ! みんないっしょに!」
月羽が観客席に向かって叫ぶ。ポップソングならではの親しみやすいメロディーのおかげで、繰り返すサビのフレーズを覚えるのは難しくない。
『こ・よ・い・は王子様ぁー!』
観客と一緒に歌いながら、月羽は満足感に包まれていた。実は密かに歌手の道を諦めきれず、ライブに挑戦したかった月羽にとって、今回のこの経験は忘れられないものになるだろう。
「『清柳寺 月羽』、素晴らしいステージをありがとう! よーし、どんどん行くぞ! 次は『歌姫ケイ』の登場だ!」
ヒュムネの紹介に合わせてステージに現れたケイ。紫のドレスに身を包み、青と赤の照明に照らされて妖艶に佇んでいる。
「ついにケイ様の出番だわ!」
客席の後ろ、スープの屋台でレイナが小さくつぶやく。さいわい、皆ステージに釘付けで、スープを買いに来るお客さんはいないから、レイナも集中してステージを見ることができる。レイナは幸運を天に感謝した。
美しいギターの音が流れる。舞台の端でギターを爪弾くのはエクリプスの紅。激しいなかに悲しげな叙情を潜ませた、メロディアスなフレーズ。その音に身を委ねるように軽く目を閉じていたケイが、ふっと目を開いた。
静かな憂いを湛えながらも、気迫に満ちた透き通った緑の瞳。観る者はその視線に射抜かれたようになり、歌姫から目が離せない。
「決して混ざり合うことの無い運命 けれど出逢ってしまった
もう… 止められない
もう… 離せない
決して混ざり合うことの無い運命 けれどその唇は重なる侭……」
ケイが透明感のある歌声で歌い上げる。その声は雪に吸い込まれてしまうことなく、しっかりと存在感を残して谷に響き渡る。曲のコンセプトは「蒼と紅の世界」。切ない、けれど、二人さえいればどうなってもいい、という背徳感――。
ケイの「語り上げる」とでも言うべき抑揚に富んだ歌い方で、切なさと妖艶さが両立する世界が創りあげられていく。
ケイが歌い終わったとき、会場の誰もがその余韻に包まれて、しばし動くことを忘れていた。
●
「さあて、次はいよいよエクリプスの登場……と、その前に、お前たちのホンネを、聞かせてもらいたい! このステージを借りて、誰かに伝えたいメッセージがあるやつ、遠慮せずにどんどん上がって来い!」
ヒュムネ考案の、休憩も兼ねたトークショー。ここまでのステージですっかりテンションの上がった観客達は、我も我もと手を上げて、ステージの上で叫んでいる。
歪虚と戦うハンターたちへの激励、連れ添った奥さんへの感謝、ときには、上司への愚痴などなど。中でもいちばん盛り上がっているのは、「片思いの相手への告白」だ。
「観客参加型のイベントか、なるほど考えたな」
ホットドリンクの屋台を切り盛りするザレムが、感心したようにつぶやく。
「いいですね、ああいうの。楽しそうです」
せっせとスープをつくりながら、エルがつぶやく。
「あ、エクリプスの演奏が始まるみたい。……べ、別に楽しみなわけじゃないけど!」
レイナの言葉に、3人は期待を込めた眼差しをステージに向けたのだった。
●
会場の盛り上がりは最高潮。
ロックバンド「エクリプス」は、最高のパフォーマンスをステージの上に繰り広げる。白のドラムが正確かつ力強いリズムを刻み、烏のベースは踊るようにリズムとメロディを駆け巡る。スイのキーボードが軽やかに笑い、紅のギターが音を、聞くものの心に刻みつける。
そして蒼の、力強くも繊細な歌声。彼の紡ぐ言葉は、人々の心の鎧を溶かし、柔らかく無邪気な心の奥底に届いて、そっと触れる。
「正直、リアルブルーからこっちに来たとき、何もかもを失ったような気がして絶望的な気持ちになったこともある。何度も諦めそうになった。でも、支えてくれた仲間たちがいた」
MCで蒼が、抑えきれない喜びを噛みしめるように言った。
「みんなに、ありがとうを言いたい。最後に、この日のために曲をつくってきました。俺たちを支えてくれたハンターたち、彼らとともにつくった歌。聞いてください、『Snow White』」
翠のキーボードの美しい旋律から、曲が始まる。
「想いと違い閉じる瞳の奥には いったい何が映る?
凍てつく白さに君の瞳が 今は凍りついてしまっても
必要無いモノなんて何もないのさ……例え、それが冷たくとも」
そこでドラムとベース、それにギターの旋律が乗り、曲が盛り上がる。
「そう…必ず雪は融け逝く
積もる悲しみも いつかは綺麗に流れて行く
白の中には芽吹く生命」
蒼が右手を掲げる。呼応するように、観客達も高々と手を挙げた。
「だから 熱くなれ、天と地を焦がすように
君の輝きが俺を貫くのさ」
最高潮に盛り上がるステージ。紅のギターが歪みたっぷりの速弾きを轟かせる。
かと思えば一転、楽器の音がピタリと止まり、静まり返ったステージに響き渡る蒼の声。
「真っ白な雪のキャンバスに 俺たちの明日を描こう
今は前に進み続けよう
いつかきっと迎えられる 白く光輝く未来に繋がる明日を目指して」
「夏に続き運営を担当するザレムだ。またよろしく」
「また頼りにしてるぜ」
差し出されたザレム・アズール(ka0878)の手を取り、烏(カラス)が気さくに笑う。
「お久しぶりです。今回もよろしくお願いします」
エルバッハ・リオン(ka2434)もペコリ、と頭を下げた。おお、とうれしそうな声を上げたのは白(ハク)だ。
「前回の焼きそばは良かったなぁ。今回も楽しみにしてるよ」
「今回も屋台を出そうと思いますが、やはり冬の野外ですし、暖かくなるようなものを販売しましょうか」
エルの言葉に、白が子供のような笑顔を浮かべた。
「いいね! 楽しみだなぁ」
「今回は俺も、暖かい飲み物を作って売ろうと思う。たぶんすごく売れるよ」
ザレムが言う。
「ああ、快適で楽しいフェスにするためにも、寒さ対策はいちばん重要だな。ずっと火を焚いて絶やさないようにして、暖を取れるエリアを作るようにしよう」
ザレムの言葉を引き取って言ったのはヒュムネ・ミュンスター(ka4288)だ。彼女の姿を見て、蒼(ソウ)が笑顔を見せる。
「よう、また来てくれたんだな、ヒュムネ」
「当たり前だ! エクリプスとスノーフェス、燃えてきたぜー! 是非協力させてくれよな!」
ヒュムネはうれしそうに親指を立ててみせた。リアルブルーにいた頃からエクリプスのファンだった彼女は、この世界ではもはやエクリプスの相棒ともいうべきだろう。
「……エクリプスは、向こうで聞いた事あるけどライヴは初めてね」
やや離れたところでメンバーたちを見つめながらつぶやいたのは、岩波レイナ(ka3178)だ。エクリプスと同じくリアルブルー出身のレイナは、少しだけ彼らに親近感を抱いていたりする。そんなこと、口に出しては言わないけれど。
「レイナ、っていうの? よろしく! 一緒にお祭り楽しもうね!」
不意に声をかけられて、レイナは驚いて振り返る。そこには翠(スイ)が、屈託なく笑っていた。
「べ、べつに、あなたたちの音楽に、期待、なんて、してないんだからね!」
口をついて出てくるのは、そんな素直じゃない言葉。
「あら、レイナ、あなたも来ていたのね?」
妖艶な声。レイナの体が硬直する。
「けけけけ、ケイ様!」
ケイ・R・シュトルツェ(ka0242)。彼女もまた、リアルブルーから転移してきたものであり、レイナのあこがれの「歌姫」だった。
「あなたと一緒に音楽を楽しめるの、うれしいわ」
ケイのそんな言葉に、レイナの心は舞い上がる。
「そそ、そんな、あたしの方こそ……」
(け、ケイ様の歌が聞けるなんて! あたし、なんてラッキーなの! これはもう、スタッフとして最高のフェスにしてみせるわよ!)
レイナは、そう心に強く誓うのだった。
「エクリプスの皆さん、あたしも、ステージで歌わせてもらえるかしら」
「もちろんだ。音楽を愛する仲間、歓迎する」
ケイの言葉に、紅(ベニ)が力強くうなずく。
「俺も1枚噛ませて貰うゼ」
そう言ったのはヤナギ・エリューナク(ka0265)。彼もリアルブルーではプロバンドのベーシストだったのだという。
「俺と悠司、デルとで3ピースバンドをやる。ジャンルはHR/HMだ」
「俺はヴォーカルをやるよ。クリムゾンウェストでもライヴが出来るなんて、思っても見なかったなぁ!」
鈴木悠司(ka0176)がはしゃいだ声で言う。
「熱い音楽で、雪を溶かしてやろーぜ!」
蒼がうれしそうに拳を突き上げた。
●
「わー、こんなにばっちりキメたの久しぶり!」
「なんかインディーズ時代に戻ったみたいだな!」
フェス当日。控室ではしゃいだ声を上げているのは、翠と蒼の二人。蒼は筋盛りの正統派ビジュアル系ヘア、翠はエクステを編みこんだ中性的な外見で、額にはゴーグルを載せている。
「……ふむ、オレ、なかなかいい男だな?」
鏡を見ながら悦に入っているのは烏。外ハネ気味に流した髪が決まっている。
「ビジュアル系バンドは見た目大事だからねぇ」
メイクを終えたメンバーたちを眺めながら満足そうにつぶやいたのは、清柳寺 月羽(ka3121)。普段は男勝りでぶっきらぼうな月羽だが、驚くほど手際よく5人のメイクをしてのけたのだ。
「せっかくだからとことんV系を貫いてみたんだけど、どうかしら」
そう言って笑ったのはヘアアレンジを担当したケイだ。
「お、オレ、こんなのでいいのかな」
鏡を見つつちょっと照れ気味なのは白だ。普段はあまり化粧っけのない彼だが、今日はしっかりとメイクを施した上に、三つ編みのエクステとヘアバンドまでしている。
「野外でのステージだ。これくらい目立つ方がいい」
そう言った紅は逆立てた赤い髪がよく映え、元々の整った顔立ちがメイクでさらに際立ち、妖艶さを醸し出している。
「……お茶とお菓子、持ってきたわよ。休憩にしたら?」
そのとき、お盆を持ったレイナが控室にやってきた。
「おお、レイナちゃん、気が効くね! ありがとう!」
烏が礼を言うと、レイナが顔を赤くして目をそらした。
「……べべべ、別に、大したことじゃないわよ! いいからあんたたちは、その、ステージちゃんとがんばりなさいよ!」
●
「予想以上の盛況っぷりだな……」
会場で客の入りを確認するザレムが思わず感嘆のつぶやきを漏らす。雪で白く染まる会場は、人波で埋め尽くされていた。ザレムが企画したとおり、来場者にはエクリプスのロゴが入ったカップが配られている。カップには通し番号が入っていて、あとでくじ引きにも使えるという凝りようだ(くじに当たった人は、エクリプスの特製グッズをプレゼントされる)。
「ザレムさんの広報活動の賜物ですね……わたしも緊張してきました」
アニス・エリダヌス(ka2491)が尊敬の眼差しをザレムに向けながら言う。彼女は今回のフェスでオープニングを担当することになっている。
「お客さんがこんなにいてうれしいです。折角のフェスですから、私達の方でも盛り上げて行きましょうか」
フィルメリア・クリスティア(ka3380)も人々を眺めながら言った。彼女も、友人のアニスと一緒にオープニングに参加する予定で、今は少し緊張気味だ。
「これでよし、っと」
手作りの屋台に『暖かいスープ販売』の張り紙を貼って、準備万端のエルが満足気にうなずいた。
「レイナさん、今日はよろしくお願いします」
そう言ってエルが深々と頭を下げる。
「任せといて。じゃんじゃん売るわよ~」
エルと一緒にスープの販売を担当することになったレイナがやる気満々でうなずいた。
●
カラン、カランと、遠くからベルの音が聞こえ、徐々に大きくなってくる。と、ステージの後方から一つの影が見えてきた。
「……ソリ?」
誰かのつぶやく声。
徐々に見えてきたのは、たくましい馬が引く、ソリに見立てたゴムボート。手綱を握るのは雪のようなふわふわの装飾をつけた赤いアイドル衣装に身を包んだアニスだ。
「蒼の世界の冬は、こういうものだと伺いました」
そう言って彼女がイメージしたのは、リアルブルーの『クリスマス』だ。
不意に、会場から歓声が上がった。ソリが現れたのとは逆側の袖から、美しく着飾ったフィルメリアが現れたのだ。アニスとは対象的な、目の覚めるような青いドレスを身にまとっている。大人っぽさと可愛らしさを兼ね備えたその姿はまるで雪の精霊のようだ。
フィルメリアはクラシックギターを抱え、ポロンポロンと静かにそれを爪弾き始める。
ザレムの提案で設置した音響板の効果もまずまずのようで、音は雪に包まれた会場のすみずみにまで綺麗に響いている。
「清水よ巡れ、大地よ繁れ。やがて眩き茜が見えよう」
ソリから降りたアニスがおもむろに口を開き、朗々と歌い上げる。ギターの爪弾きとベルの音が溶けるように声と交じり合う。アニスの故郷に伝わる、創世の歌。それは、大きな危機にあるこの世界を慈しみ励ますような。
歌が終わり、アニスとフィルメリアが手を取り合ってお辞儀をすると、会場から大きな拍手が上がった。
「レディースエンジェントルメーン! ボーイズエンガールズ! エクリプスのスノーフェスに、ようこそ!」
雪の山々に、張りのある声が響き渡った。アニスの引くソリに乗っていたヒュムネが立ち上がったのだ。一瞬あっけにとられた観客達は、すぐに我に返って拳を突き上げる。
「お前ら、今日は、寒さなんてふっ飛ばして熱い熱いステージをお届けするぜ!!」
ヒュムネが叫ぶと、それに呼応して会場から熱い叫び声が聞こえてくる。
「早速、素晴らしいロックを届けるぜ! まずは『C.R』!」
ヒュムネの声に呼応して、会場の灯りが一気に消え、闇の中から体の芯に響き渡るような低い音が流れ出る。
灯りが一斉に点いた。ステージの上に現れたのは、悠司、ヤナギ、デルフィーノ(ka1548)の3人から成る3ピースバンドだ。3人とも白を基調としたロック系の服装で、赤と青の灯りを照り返して雪の中でよく映えている。
一心不乱にフレーズを奏でるのはベースのヤナギ。ベースの音に重なるように、ギターのリフが始まった。デルフィーノが奏でるは、息を呑むほどの速弾き。ヤナギとちらりと視線を交わし、ニヤリ、と笑い合う。競うような音の応酬。
唐突に、音が止まった。会場を支配した静寂に、悠司が息を吸う音が、やけにゆっくりと聞こえ。
「凍て付く冬空の輝きが 誰をも魅了し連れて行く」
ハスキーながらも滑らかかつパワフルな悠司の歌声。ベースとギターの音が、息を吹き返したように始まり、声と絡み合って激しい音のうねりを作っていく。
「星が瞬くその刹那 きっとお前はもう居ない
星が流れるその刹那 きっと俺らももう居ない」
ヤナギがピックを会場に投げると、ひときわ歓声が上がった。そのままフィンガーピッキングに切り替え、スピーディでメロディアスなフレーズを奏でる。リズムを刻むだけではない、感情のこもった熱いベースだ。デルフィーノのギターも負けていない。タッピング奏法も駆使した高度な技術をこれでもかと見せつけつつ、多彩に変化する音で歌を彩る。間奏の途中で二人が悠司を囲んで妖艶な仕草をして見せると観客の一部からはため息が漏れた。
「凍て付く冬空の輝きが 誰をも魅了し連れて行く
そう その先に見えて来るのは」
そこで悠司が言葉を切り、ヤナギとデルフィーノもピタリと手を止める。
一瞬の静寂。
「永らえる 蘇る 永久の生 永久の煌めき」
デルフィーノのハモリとも合わせつつ、悠司が最後のフレーズを力強いミックスボイスで歌い上げる。たった1曲で、観客達の心は、1つになっていた。
「すばらしい演奏だったな! みんな、『C.R』に大きな拍手を!」
司会のヒュムネの声に応えて割れるような拍手。大舞台をやり遂げた3人の表情は晴れ晴れとしていた。
「次は、一転、可愛らしい女の子の歌声を聞いてもらおう! 清柳寺 月羽!」
司会の言葉に応じ、ステージに再び明かりが灯る。中央にやや緊張した面持ちで立つ月羽は、衣装も派手ではなくメイクも控えめだ。しかし、それがより彼女の素朴な美しさを引き出していると言える。
ハイハットの音と、ピアノの響きでアップテンポな曲が始まる。よく見れば、彼女の後方、バックバンドとして楽器を奏でているのはエクリプスの白、翠、烏の3人だ。
「聞いてください、『今宵のあたしは王子様』」
月羽がかわいらしい笑顔を見せると、観客席からは歓声。
激しいロックからは一転、ポップで軽やかな曲調だ。リアルブルーの若手女性アイドルの歌で、主に若者に受けがいいらしい。
「退屈な 昼(ライフ)にgood bye! こ・よ・い・は王子様ぁー!」
歌が始まると控えめな雰囲気は一転、確かな歌唱力と大胆なパフォーマンスで歌い上げる月羽。
「ラストだよ! みんないっしょに!」
月羽が観客席に向かって叫ぶ。ポップソングならではの親しみやすいメロディーのおかげで、繰り返すサビのフレーズを覚えるのは難しくない。
『こ・よ・い・は王子様ぁー!』
観客と一緒に歌いながら、月羽は満足感に包まれていた。実は密かに歌手の道を諦めきれず、ライブに挑戦したかった月羽にとって、今回のこの経験は忘れられないものになるだろう。
「『清柳寺 月羽』、素晴らしいステージをありがとう! よーし、どんどん行くぞ! 次は『歌姫ケイ』の登場だ!」
ヒュムネの紹介に合わせてステージに現れたケイ。紫のドレスに身を包み、青と赤の照明に照らされて妖艶に佇んでいる。
「ついにケイ様の出番だわ!」
客席の後ろ、スープの屋台でレイナが小さくつぶやく。さいわい、皆ステージに釘付けで、スープを買いに来るお客さんはいないから、レイナも集中してステージを見ることができる。レイナは幸運を天に感謝した。
美しいギターの音が流れる。舞台の端でギターを爪弾くのはエクリプスの紅。激しいなかに悲しげな叙情を潜ませた、メロディアスなフレーズ。その音に身を委ねるように軽く目を閉じていたケイが、ふっと目を開いた。
静かな憂いを湛えながらも、気迫に満ちた透き通った緑の瞳。観る者はその視線に射抜かれたようになり、歌姫から目が離せない。
「決して混ざり合うことの無い運命 けれど出逢ってしまった
もう… 止められない
もう… 離せない
決して混ざり合うことの無い運命 けれどその唇は重なる侭……」
ケイが透明感のある歌声で歌い上げる。その声は雪に吸い込まれてしまうことなく、しっかりと存在感を残して谷に響き渡る。曲のコンセプトは「蒼と紅の世界」。切ない、けれど、二人さえいればどうなってもいい、という背徳感――。
ケイの「語り上げる」とでも言うべき抑揚に富んだ歌い方で、切なさと妖艶さが両立する世界が創りあげられていく。
ケイが歌い終わったとき、会場の誰もがその余韻に包まれて、しばし動くことを忘れていた。
●
「さあて、次はいよいよエクリプスの登場……と、その前に、お前たちのホンネを、聞かせてもらいたい! このステージを借りて、誰かに伝えたいメッセージがあるやつ、遠慮せずにどんどん上がって来い!」
ヒュムネ考案の、休憩も兼ねたトークショー。ここまでのステージですっかりテンションの上がった観客達は、我も我もと手を上げて、ステージの上で叫んでいる。
歪虚と戦うハンターたちへの激励、連れ添った奥さんへの感謝、ときには、上司への愚痴などなど。中でもいちばん盛り上がっているのは、「片思いの相手への告白」だ。
「観客参加型のイベントか、なるほど考えたな」
ホットドリンクの屋台を切り盛りするザレムが、感心したようにつぶやく。
「いいですね、ああいうの。楽しそうです」
せっせとスープをつくりながら、エルがつぶやく。
「あ、エクリプスの演奏が始まるみたい。……べ、別に楽しみなわけじゃないけど!」
レイナの言葉に、3人は期待を込めた眼差しをステージに向けたのだった。
●
会場の盛り上がりは最高潮。
ロックバンド「エクリプス」は、最高のパフォーマンスをステージの上に繰り広げる。白のドラムが正確かつ力強いリズムを刻み、烏のベースは踊るようにリズムとメロディを駆け巡る。スイのキーボードが軽やかに笑い、紅のギターが音を、聞くものの心に刻みつける。
そして蒼の、力強くも繊細な歌声。彼の紡ぐ言葉は、人々の心の鎧を溶かし、柔らかく無邪気な心の奥底に届いて、そっと触れる。
「正直、リアルブルーからこっちに来たとき、何もかもを失ったような気がして絶望的な気持ちになったこともある。何度も諦めそうになった。でも、支えてくれた仲間たちがいた」
MCで蒼が、抑えきれない喜びを噛みしめるように言った。
「みんなに、ありがとうを言いたい。最後に、この日のために曲をつくってきました。俺たちを支えてくれたハンターたち、彼らとともにつくった歌。聞いてください、『Snow White』」
翠のキーボードの美しい旋律から、曲が始まる。
「想いと違い閉じる瞳の奥には いったい何が映る?
凍てつく白さに君の瞳が 今は凍りついてしまっても
必要無いモノなんて何もないのさ……例え、それが冷たくとも」
そこでドラムとベース、それにギターの旋律が乗り、曲が盛り上がる。
「そう…必ず雪は融け逝く
積もる悲しみも いつかは綺麗に流れて行く
白の中には芽吹く生命」
蒼が右手を掲げる。呼応するように、観客達も高々と手を挙げた。
「だから 熱くなれ、天と地を焦がすように
君の輝きが俺を貫くのさ」
最高潮に盛り上がるステージ。紅のギターが歪みたっぷりの速弾きを轟かせる。
かと思えば一転、楽器の音がピタリと止まり、静まり返ったステージに響き渡る蒼の声。
「真っ白な雪のキャンバスに 俺たちの明日を描こう
今は前に進み続けよう
いつかきっと迎えられる 白く光輝く未来に繋がる明日を目指して」
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
- デルフィーノ(ka1548)
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 ヒュムネ・ミュンスター(ka4288) 人間(リアルブルー)|13才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/12/16 01:53:18 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/12/16 01:52:10 |