ゲスト
(ka0000)
【闇光】Game of Korias
マスター:剣崎宗二
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出? もっと見る
オープニング
「実に、興味深いな」
肩の傷を撫で、仮面をかけた男――コーリアスは、静かに笑みを浮かべる。
思い出したのは、彼に挑んだハンターたち。その身体を変えられらながらも最後まで戦い、コーリアスの肩に傷をつけた、その者たち。
「そうだな。もう一度、遊んでみるとしよう。…退屈よりは、幾ばくかマシだろう」
そう決めた彼は、再びコートを背負う。
前回の傷を踏まえ、既に更なる『対策』は考えた。傷を狙ってくるなら――そして、防御を貫く貫通攻撃をするなら――
彼は、自分の力に、絶対なる自信を持っていた。
彼は決して、自分の能力が『如何なる者をも叩き潰す』と言う意味での最強と考えた事はない。だが、『如何なる状況にも対応する』と言う意味では、そう考えていた。
●ハンターオフィス
この日。ハンターオフィスは、異様な慌しさに追われていた。
――歪虚から、依頼が届くと言う、異様さに。
人つてに届けられた、手紙。幾度も人の手を渡り歩いたそれを、職員が開封した時。差出人を名乗っていたのは――コーリアス。『錬金術の到達者』である歪虚にして、先の撤退戦に於ける歪虚戦力の一角。
『やぁ…皆さん。先の戦闘での健闘はお見事だったよ。お陰で相当、楽しませてもらったし――僕も面白い物を手に入れた。先ずは感謝を言っておこうかな。
さて、今回の本題は、前回俺に物質に変えられた二人だ。……まだ像はばらばらにされてないよね?
流石に損壊されてたら僕も元には戻せないんだけど…元々彼らを完全に変成したのは、しつこかったのを止める為だったからね。戻す事もやぶさかではない。…ただ――条件が一つある』
お互い、顔を見合わせ。そして職員たちが、一斉に動き出した。
●会談場
地球軍少尉。『Negotiator』ロレント・フェイタリは。野外に設けられた会談場で、コーリアスと相対していた。
(「やれやれ、仮面のせいもありますが、底が見えませんね…」)
普段危険を避ける彼が、この場に出てきたのは、コーリアスが『場に一般人を一人は入れる事』と指定したのと…交渉に不慣れな者も居るハンターたちのサポートの為だ。初手から話を拒まれてしまっては、話にならないためだ。
「…それで、そちらの条件と言いますのは?」
「あの空飛ぶ巨大戦艦に、触らせて欲しいかな」
ぴくりと、ロレントの眉が動く。
「…それは簡単にはできませんね。貴方の能力は私も存じております。一瞬でロッソを分解させられてしまっては余りに損害が大きすぎます」
「分解能力は使わないさ。単にあれの構造が知りたいだけかな」
ふむ、とロレントは考え込む。嘘を言っているようには見えない。だとすれば――
「交代、しましょうか。…仲間の命が、掛かっているのですから」
そう、呟いた。
●相談
「――と言うのが、あちらの要望です。二人を元に戻す代わりに、サルヴァトーレ・ロッソを触り、解析させて欲しい。至極単純な交換条件です」
だからこそ、面倒なのだが、と付け加える。
「お仲間の命が掛かっています。あなた方自身が交渉するのが、悔いの残らない結果となりましょう」
そう、ロレントは控えていたハンターたちに、語りかける。
「私からできるアドバイスは…そうですね。あの者の性格は皆様がご存知の通り、刺激を好み退屈を嫌う。なので、あの者が出す条件は、『恐らく』真実。交渉を受け入れた場合、彼はロッソに危害は加えないでしょう。そして――」
声を潜める。
「軍から、連絡が来ております。あの者の体組織の一部を取得する事が出来れば、『或いは』こちらの錬金術と、リアルブルーの元素知識を合わせた技術でお仲間を元に戻せるかもしれないと。かすり傷程度ではダメです。ヤツの肉の一部を抉り取る…その程度の体組織を取得できれば、です」
但し、と付け加える。
「変な動きを見せればあの者は戦闘を厭いません。そして――あの者の戦闘能力は、以前に相対した事のある皆様が――最も良く、ご存知かと思います。見せしめとして、真っ先に私が狙われるのではないか、と推測しておりますが」
まるで他人事のように淡々と、ロレントは言い放った。
「――私とて、この場に来た以上、覚悟は出来ております。皆様に、方針はお任せいたしますよ」
肩の傷を撫で、仮面をかけた男――コーリアスは、静かに笑みを浮かべる。
思い出したのは、彼に挑んだハンターたち。その身体を変えられらながらも最後まで戦い、コーリアスの肩に傷をつけた、その者たち。
「そうだな。もう一度、遊んでみるとしよう。…退屈よりは、幾ばくかマシだろう」
そう決めた彼は、再びコートを背負う。
前回の傷を踏まえ、既に更なる『対策』は考えた。傷を狙ってくるなら――そして、防御を貫く貫通攻撃をするなら――
彼は、自分の力に、絶対なる自信を持っていた。
彼は決して、自分の能力が『如何なる者をも叩き潰す』と言う意味での最強と考えた事はない。だが、『如何なる状況にも対応する』と言う意味では、そう考えていた。
●ハンターオフィス
この日。ハンターオフィスは、異様な慌しさに追われていた。
――歪虚から、依頼が届くと言う、異様さに。
人つてに届けられた、手紙。幾度も人の手を渡り歩いたそれを、職員が開封した時。差出人を名乗っていたのは――コーリアス。『錬金術の到達者』である歪虚にして、先の撤退戦に於ける歪虚戦力の一角。
『やぁ…皆さん。先の戦闘での健闘はお見事だったよ。お陰で相当、楽しませてもらったし――僕も面白い物を手に入れた。先ずは感謝を言っておこうかな。
さて、今回の本題は、前回俺に物質に変えられた二人だ。……まだ像はばらばらにされてないよね?
流石に損壊されてたら僕も元には戻せないんだけど…元々彼らを完全に変成したのは、しつこかったのを止める為だったからね。戻す事もやぶさかではない。…ただ――条件が一つある』
お互い、顔を見合わせ。そして職員たちが、一斉に動き出した。
●会談場
地球軍少尉。『Negotiator』ロレント・フェイタリは。野外に設けられた会談場で、コーリアスと相対していた。
(「やれやれ、仮面のせいもありますが、底が見えませんね…」)
普段危険を避ける彼が、この場に出てきたのは、コーリアスが『場に一般人を一人は入れる事』と指定したのと…交渉に不慣れな者も居るハンターたちのサポートの為だ。初手から話を拒まれてしまっては、話にならないためだ。
「…それで、そちらの条件と言いますのは?」
「あの空飛ぶ巨大戦艦に、触らせて欲しいかな」
ぴくりと、ロレントの眉が動く。
「…それは簡単にはできませんね。貴方の能力は私も存じております。一瞬でロッソを分解させられてしまっては余りに損害が大きすぎます」
「分解能力は使わないさ。単にあれの構造が知りたいだけかな」
ふむ、とロレントは考え込む。嘘を言っているようには見えない。だとすれば――
「交代、しましょうか。…仲間の命が、掛かっているのですから」
そう、呟いた。
●相談
「――と言うのが、あちらの要望です。二人を元に戻す代わりに、サルヴァトーレ・ロッソを触り、解析させて欲しい。至極単純な交換条件です」
だからこそ、面倒なのだが、と付け加える。
「お仲間の命が掛かっています。あなた方自身が交渉するのが、悔いの残らない結果となりましょう」
そう、ロレントは控えていたハンターたちに、語りかける。
「私からできるアドバイスは…そうですね。あの者の性格は皆様がご存知の通り、刺激を好み退屈を嫌う。なので、あの者が出す条件は、『恐らく』真実。交渉を受け入れた場合、彼はロッソに危害は加えないでしょう。そして――」
声を潜める。
「軍から、連絡が来ております。あの者の体組織の一部を取得する事が出来れば、『或いは』こちらの錬金術と、リアルブルーの元素知識を合わせた技術でお仲間を元に戻せるかもしれないと。かすり傷程度ではダメです。ヤツの肉の一部を抉り取る…その程度の体組織を取得できれば、です」
但し、と付け加える。
「変な動きを見せればあの者は戦闘を厭いません。そして――あの者の戦闘能力は、以前に相対した事のある皆様が――最も良く、ご存知かと思います。見せしめとして、真っ先に私が狙われるのではないか、と推測しておりますが」
まるで他人事のように淡々と、ロレントは言い放った。
「――私とて、この場に来た以上、覚悟は出来ております。皆様に、方針はお任せいたしますよ」
リプレイ本文
●契約の履行
「さて、では――始めようか。あの二人は持ってきているね?」
コーリアスの問いかけに、頷いたのはJ・D(ka3351)。今回の交渉の決定稿は彼による物。故に――彼が皆を代表して、前に出ている。
そこに置かれたのは、石像。そして頭上には――サルヴァトーレ・ロッソ。
望む望まないに関わらず。ロッソは空中にてほぼ静止状態にある。それどころか、墜落しそうな状況を、必死に立て直す努力をしている最中なのである。
「……」
ポーカーフェイスをしては居る物の、J・Dの心中は穏やかではない。
もしこの状況を見てコーリアスが『今なら楽にデータを得られる』と考えれば、全ての努力は水の泡と化す。
だが、その心配を他所に。コーリアスは――銅の像に、手を伸ばした。
「先ずは――一人」
ポン。丸で嘘のように、像が肉体に変化する。しゃがむように地面に手を付いたそのハンターは、すぐさまコーリアスに飛びかかろうとするが――
「かおる、おかえり」
彼に抱きつくようにして、端へ寄せたのは、狛(ka2456)。
それは半分、彼が本当に復活した喜びによる物で。もう半分は、彼がコーリアスを攻撃し、約束を破らないように――と言う事であった。
忘れる事無かれ。この場にはロレントも居る。若しもコーリアスが無差別な反撃を行えば…ハンターたちは兎も角、一般人である彼は無事では済まないだろう。
「――それでは、僕はアレに触ってくるとしよう」
狛が復活したハンターに事情を説明している間に、コーリアスが足元の地面に手を着く。
次の瞬間、地面が大きく隆起し、まるで巨大な柱を形成するように、コーリアスを空中に持ち上げる。
これを見て、クローディオ・シャール(ka0030)は彼が交渉の際に言った『触る事はできるが、面倒である』の意味を悟る事になる。
彼は確かに空中に行く術を持っている。だが、この方法では、高速に飛行するロッソに手を触れる事はできない。何かしらの手段でロッソの速度を下げなければ、届く頃には既にロッソはその場を通過しているだろう。
――最も、彼の能力を全力で運用すれば。或いは彼に――協力者が居たのならば、それをクリアする事は難しくは無い。面倒とは、そう言う事なのだ。
その手が、ロッソの表層に触れる。
「成る程。……そういう構造か。…修理が必要な部位も多いようだけど、まぁ僕には関係のない事かな」
目を閉じる。
「得られた情報は、三つ。一つはそれ程役にも立たないが…残り二つは中々興味深い」
パン。
手を叩くと、足元の柱が段々と砕けて行き。そしてコーリアスは――地面に着地する。
「さて、こちらも交換条件の二段目を履行しよう」
その手が触れたのは、二つめの像――木像。
「ガァァァァァ!」
肉身の身体に戻るなり、拳を振り上げたそのハンターを受け止めたのは、Holmes(ka3813)の掌。
「まぁ待ちたまえ。今はその時ではない」
面識のある彼女の制止に、そのハンターの動きが止まる。そのまま説明しながら、彼を後退させるHolmes。
「さぁ、コッチに」
J・Dの案内に従い、ロレントもまた、その場から撤退する。
(「さて…暇ですし、少し準備でもしておきましょうかね」)
コーリアスの口元に、笑みが浮かぶ。
――彼は遊びに対しても『全力』。そうでもなければ、相手の『面白さ』は引き出せないからだ。
ハンターたちがロレントと復活した二人の仲間たちを撤退させている間に。彼は数々の変化を、服の下に仕込む。
自身の弱点は、錬金術を同時に多数の対象に対して履行できない事。それはコーリアス自身も、百も承知だ。
――ならば、事前に仕込んでしまえばいい。
幸いにもハンターたちの提案は。彼に敵の構成――その身のこなしや動きの癖を見てから。そして、交渉によって、話の仕方から性格を解析してから、仕込む時間を与えたのだから。
体のありとあらゆる部位を、別々の物に変形させ。状況に備える。
その笑みは、これから得られる『楽しみ』を考えた時、自然にあふれ出た物だ。
●Duel Game
「ブロートはお持ちでは? 前回私たちから奪取した――」
「僕には物を『持つ』必要がないのは、前回の一件から分かってると思ったんだけどねぇ」
コーリアスは常に、必要な物を錬成できる。それ故に、彼は『持たざる者』にして『持ちえる者』でもある。
「そうか。それはつまらない質問をしてしまったな。…戦闘では退屈させないよう頑張るので、すまないが宜しく頼む」
「言葉はいい。行動で示してもらいたい物だ。――さぁ…始めようかねぇ」
戻ってきたハンターたちを前に、ザレム・アズール(ka0878)の言葉に対して放たれたコーリアスの一言。それが合図になったかのように、一斉に彼らは動き出す。
先手を取ったのは、両手剣による一閃を仕掛けたザレム。それを手から錬成した剣で弾き、逆に地面を叩くコーリアス。隆起した地面がザレムを突き飛ばし、彼はその場に倒れこむ。
(「既に成された決定にとやかく言うつもりは御座いません。…後は彼に対抗する術を、全力を以って探すのみです」)
メトロノーム・ソングライト(ka1267)は、そもそもコーリアスにロッソに触れさせる事には反対であった。だが、参戦した総員の決定として、確実に物質化されたハンターたちを元に戻す事が優先とされたのだ。
ザレムが突き飛ばされ距離が離れた瞬間を狙って、歌声が、響き渡る。無数の妖精の幻影が飛び回り、彼を眠りに誘おうと試みる。
かくり。体が前に向けて曲がり、崩れ落ちる寸前で踏みとどまったように見えた。
「ヤレヤレ……一発、試してみるかネェ」
射撃が打ち込まれる。カン。既に硬化している部位に当たったのか、効果はあまり出ていない。
「なら…これで!」
続いて仕掛けたのは、リリティア・オルベール(ka3054)。振り上げたのは、巨大な大太刀。
ドン。眠り掛けていても尚反応したのか、強く踏みつけるその足で、錬成されたのは――『地面』。それは一瞬にしてぬかるみとなり、足を取られたリリティアの一閃は僅かにリーチが届かず空を切る。
直後、狛が飛ばした犬たちが、コーリアスに体当たりする。
本来は錬成を妨害するつもりであった。だが、その変化は余りにも『速い』。人を錬成する時のようにゆっくりと変動していくならば兎も角、このような簡単な錬成にとっては、妨害は至難の技。そしてそれは鵤の光弾も同じ。当たっていない訳ではない。無効化された訳でもない。ただ、コーリアスの耐久力が圧倒的なのか、それとも金属化したその表面にある程度軽減されているのか。当たっていても行動は妨害できていないのだ。
「ち、ならコレはどうかな?」
直後に打ち込まれる、冷気の弾丸。J・Dが放ったそれが纏う冷気が、一瞬にしてコーリアスの表皮を冷却させ、その動きを緩慢にさせる。
その瞬間、倒されたと思われていたザレムが――ぴくりと動いた。
「そこだ…っ!」
倒れた状態から、体勢をも立て直さずに強行にジェットブーツで加速。その途中で武器をクローに換装し――脇腹に向かって、引っ掛けるように、一閃!
強硬に体制が崩れた状態で行った攻撃であるにも関わらず、攻撃が直撃したのは冷気弾、そして催眠術の効果もあるのだろう。後はこのまま、突き立った爪を引っ張れば――
「ね、いい演技だったと思わない?」
がっしりと、腕が――コーリアスの手に掴まれる。
その動きは、眠気の影響を受けているとも、冷気の効果を受けているとも思えない。
――コーリアスは錬金術士。その力は、己の肉体をすら変容させる。
己の肉体への影響は、『変化』させて消してしまえばよい。その上で――彼は、影響を受けたかのように『装って』いたのだ。攻撃を誘う、その為に。
「けど…ここを捉えてしまえば――!」
彼が自身の状態異常――冷気を消す為に錬金術を使ったとすれば、この一手は錬金術を使えない。故に先に次の手を打てるのは――ザレム。
ジェットブーツを全開にし、肉を引き裂きそのまま持ち去ろうと試みる。これさえ成功すれば、ハンターたちの目的は達成された事になる。
だが、クローはその場から一ミリも動こうとはしなかった。まるで、何かに固定されているかのように。
「前回傷を受けた部位を避けようともせず、寧ろ差し出したのには…理由があるんだよ」
脇腹を捲ると、そこは金属化しており…まるで沼のように、ザレムのクローを飲み込んでいた。
「粘性金属。前回錬成したこれは、思いの他使い勝手が良かったからね。今回は事前に仕込んでおいた。――表面を皮膚らしく見せかけるの、結構時間掛かったんだよ?」
事前に彼は既に、前回狙われた位置に対し、仕込みをしておいた。故に今回は寧ろ、その部位を盾として使う動きが多かったのだ。
逆の手が、ザレムの顔に掛かった瞬間。
パン。その手に打ち込まれる弾丸。と同時に、防御障壁が、ザレムの目の前に展開される。
「安心してよ。石像にするつもりはない――そんな事をしたら、これ以上楽しめなくなっちゃうからね」
コーリアスが睨んだのは、弾丸を撃ったJ・Dと、障壁を展開した鵤(ka3319)。
その手は防御障壁を貫き、ザレムの顔の前に翳される。――障壁は確かにマテリアル故に、コーリアスの錬金の影響を受ける事はない。だが、障壁は完全に攻撃を防ぐ物ではなく、飽くまでもその威力を削ぐ事でダメージを軽減する物。コーリアスが力で押し込めば、依然、『触れられる』事は避けられない。
意識が遠のく。何かを吸わされたのか。
「完全に同じ物は無理だけど――催眠ガスくらいは、僕にも出来るからね」
「離したまえよ」
敵意を全て殺気に変え、Holmesがコーリアスを睨みつける。だが、彼はまるでそれに気づかないかのように振舞っている。何かの方法で抵抗しているのか、それとも――単に精神が図太く、他者を気にしないコーリアスのその性格故か。
ならば、とばかりに、その手からザレムを救出しようと、光の軌跡がアルマ・アニムス(ka4901)と鵤の手から同時に放たれ、その手を再度、J・Dが銃撃する。
然しその全てを、
「僕にだって、無抵抗の相手ならこの程度は出来る」
コーリアスは、眠ってしまったザレムを盾にして、回避したのである。
直撃の勢いは、決して弱い物ではない。それが――コーリアスを倒す為の、友の祈りの乗った物であれば尚更だ。
「中々変な事をしてくれるじゃん?」
顔色は変えないが、鵤の心中は穏やかではない。
――マテリアルリンクの弱点は、それが「条件を満たした初撃」にのみ適用される事。例え、それが外れたとしても。例え――それが別の目標へ誘導された、としても。
その衝撃に覚醒したザレムは、固定されたクローを放棄。即座に盾で一撃を受け、そのまま盾をコーリアスに叩き付ける。その盾を、手で受け止めるコーリアス。マテリアルで覆われているとは言え、盾の本体に触れるのはコーリアスの腕力を以ってすれば造作の無い事。幾ら元は戦士ではなかったとは言え――コーリアスは、上位の歪虚なのである。
だが、触れた瞬間、彼は僅かにマスクの下の顔を顰める。一瞬にして、盾は高熱を帯びていたのだ。
見れば後ろには、手を翳すメトロノームの姿。直撃の直前に、ファイアエンチャントを使用し、火の属性を盾に帯びさせていたのだ。
「お返しするよ」
盾が錬成される。それは巨大な矢と化し、メトロノームの方へと打ち返される。元々回避を得意としていなかった彼女の足に矢は突き刺さり、そのまま地面へと縫いつける。
だが、それはまた、ザレムに攻撃の機を与える事となる。クローディオがメトロノームにヒールを掛けたのを余所目で確認し、地を蹴って再度急噴射。今度は大剣が、コーリアスの足を狙う!
「忘れ物、してないかい?」
そう呟いたコーリアスが、わざと体の片側を、彼に向けた。そこには、先ほど接着されたクローが。
噴射される、無数の短刀。それを全身に浴びながらも、ザレムは尚も突き進む。ただ、一太刀、浴びせる為に。
――だが、友の祈りにより致命傷はかわしていたとは言え、最初に受けた仲間たちからの一撃は、余りにも重かった。僅かな距離を残して――彼の剣は、地に落ちた。
●問題を解決すると言う事
コーリアスとて無傷と言うわけではなかった。ザレムを盾にし、防げたのは前面のみ。後方から放たれていた鵤のデルタレイは、彼の背後に直撃していた。やはり多方向からの同時攻撃は、生粋の戦士ではないコーリアスには反応しにくいか。
「逃げないのかい?」
「何故、僕が逃げなければならない?」
Holmesの振り下ろしは、空中にて無数の金属の糸の様な物に絡み取られ、コーリアスに触れていない。だがその糸はギリギリと軋みを上げ、今でも切れそうである。流石に、怪力を持つ彼女を止めるには、少し荷が重いと言う事か。
だが、それは即ち、先の先を狙っていたリリティアの攻撃が外れると言う事。攻撃に優れたリリティアの攻撃範囲にコーリアスを追い込もうとしたHolmesの誤算は唯一つ。――そもそもコーリアスは、『動いて』回避しようとはしないのだ。
然し。それもまた、ハンターたちにとっては問題ではない。
「コイツはおっさんの分だ…とっとけ!」
ミリア・コーネリウス(ka1287)の強烈な一撃が、叩きつけられる。既に変化してあった金属の外殻で受けた物の、その衝撃力は想像以上で。力に押され、転倒するコーリアス。だが、直後、大地が隆起し、無数の水晶の弾丸が、追撃しようとしたリリティアと束縛を引き千切ったHolmes押し返す。すぐさまクローディオが盾を構えて彼女らの前に出、盾で残りの水晶弾を弾くと共に癒しの結界を展開して、二人の体力を回復させた。
「この体勢もまた…悪くは無いかな」
元々、コーリアスはその場から動かずとも攻撃を繰り出す事は可能である。そして彼は、明確に移動して回避すると言う動きを取らない。故に彼にとって――立っていようが、座っていようが、寝ていようが。それは大した違いではない。
「その油断は命取りになりますよ」
翳す白き剣。それが彼女の歌を増幅し。――メトロノームは、雷光の魔獣を招来するための歌を謡う。
招来した雷獣は一直線に地に伏せるコーリアスに向かって突進し、その表皮の防御ごと、地面までも貫く。そう。これは前回彼を打ち据えた雷光と、同系統の術だ。
「少し面倒だね、その技は。そろそろ解決策を考えなきゃいけないけど……」
「そう何度も何度も自由にやらせると言うのもね」
後ろに回りこんだ鵤が、光球を三つ生成する。デルタレイだ。
だが、その光球が放たれる前に。コーリアスの手が地面を叩き、地面が蠢き始める。
前回のように隔離されぬよう、前に出るメトロノーム。だが、目の前の光景は――彼女の予想していた物ではなかった。
「後ろや左右からの挟撃が面倒なら――後ろと左右を『なくしてしまえばいい』ってね」
立ち上がった壁は、三面。それは丁度一辺のない正方形のような形を形成し、コーリアス自身を至近距離で取り囲んだ。存在しない一辺は、メトロノームの方を向いていた。これが何を意味するかを理解した時、即座にメトロノームは距離を離そうと試みる。
「もう遅いよ――『Vacuum』」
ぐん。背中から何かに押されたかのように、前に飛ぶメトロノーム。壁の裏側から回りこんできたクローディオが、彼女を庇おうとするが一手遅く。
「Squash」
両サイドの壁の端が一斉に鋭利な刃歯に変化し、メトロノームを挟みこんだ。
壁が開かれた時。彼女はそこに倒れこんでおり、ぴくりとも動かない。
「また…!」
歯軋りする狛。コーリアスの後ろが壁に遮られた瞬間。獣化した彼が動き出しており、重傷を負ったザレムを安全な場所まで運び込んでいた。
すぐさま追加で発生した負傷者に対応すべく、彼は再度、前に出る。
「もう一発くらいたいのかネェ」
銃に弾丸と同時に充填したのは、冷気。
J・Dの冷気弾が、倒れこんだメトロノームを囮にして少し上方からコーリアスを湾曲した軌道で襲う。
「Overheat」
その飛来する弾丸にコーリアスが指を触れた瞬間。閃光、そして爆炎が巻き上がり、視界を遮る。
爆炎の中から、飛来する燃え盛る木の杭。アルマ、そして鵤のデルタレイがそれを迎撃する。
「ん?」
足に違和感を感じるコーリアス。見れば――倒れたはずのメトロノームが、彼の足に刃を突き立てていた。
「最後の足掻きかな。…成る程ね」
倒れた『フリ』をした彼女が、密かに抉り取った肉片を懐にしまった直後。
「Heavy」
ズン。背中に、強烈な圧力が掛かる。
「っ――!」
踏みつけた足を、密度の高い物質に変換し。更に力を加えるコーリアス。
地面にヒビが入るほどの踏みつけを受け。意識を手放しても尚、メトロノームは懐にしまった物を手放さなかった。
それこそが将来、目の前の凶敵に対する、切り札になるかも知れないのだから。
●切り取る為に
爆炎が晴れたその瞬間。リリティアがコーリアスに肉薄する。――Holmesとミリアがそれに続かなかったのには、訳がある。コーリアスの三方を囲む壁によって接近できる方向が限られてしまい、実質彼に同時に近接攻撃を仕掛けられる者は、一人になっていたのである。
「少し邪魔だね。この壁は」
Holmesはその壁を破砕すべく大鎌を横に振るう。
「なら…これだ!」
ミリアは跳躍から飛び掛ると見せかけ、空中で剣を振るって衝撃波を作り出しその反動で後ろに跳ぶ。
それをコーリアスが壁を動かして防いだのを見た直後。リリティアは大きく剣を引き、一直線に突き出す。
「へぇ…中々の連携だ」
強力な一突きが、コーリアスの胸に突き刺さる。金属板で出来た防御を貫通し、肉に至ったと確信できた。だがまだ浅い。防御を抜ける際に大半の力を相殺された。
「もう少し、楽しませて上げますよ」
柄のスイッチを入れる。雷撃がコーリアスの全身を走り。ピクリと、その身体を動かす。
「成る程。そういう仕組みだったのか。中々に『楽しい』ギミックだ」
再度、リリティアが柄のスイッチを以って、雷撃を加えようとした瞬間。
「Forge――『EarthLine』」
そのまま、電撃が彼女自身の身体に全て流れ込む。見れば、刃に触れたコーリアスの手。スイッチから一条の金属線が伸び、彼女の腕に絡み付いていたのである。
「今っ!」
コーリアスの錬金術は『同時には』二つの物を変換できない。故に今、同時攻撃を仕掛ければ、どちらかは通る。そう考えたリリティアが仲間たちに合図すると同時に、もう一本の機械剣を抜き放つ。
彼女の身体で射線は通り難くなっているとは言え、歴戦の経験から来る狙撃能力を持つJ・D、そして鵤にとっては問題ではない。
弾丸。光弾。そして剣閃が、一斉にコーリアスに襲い掛かる。どれか一つを変換して防いでも、他の二つの属性の物が、当たるはずだ。
「Forge――『Spike Shield』」
胸に突き刺さったままの剣に手を当て、変化させる。作り出されたのは、無数の棘が前面に突き出した巨大な盾。それは生成されると共にその棘でリリティアを刺して弾き飛ばし、盾面が弾丸と光弾を受け止める。
「確かに僕は、一度に一つしか変換できない。…ならば変換するその『一つ』に工夫を加えて、その一つで色々な状況に対応すればいいとは思わないかな?」
同じ方向から多彩な攻撃が飛んで来るのならば、実体盾で防げばいい。マテリアルの光弾も、実体の壁には阻まれるのだから。
が、その盾は、コーリアスの視線を一時的に阻んだ。故に彼は、今までずっと後ろに居り、後方支援に徹していたアルマの接近に――気づかなかったのだ。
「――接近戦は苦手です。でも、できないなんて言った覚えはありませんよ」
手には光輝くマテリアルの剣。突進の勢いそのままに、それを、一直線にコーリアスの腹部に――突き立てる!
「むう…!」
腹部にもまた、液体金属のトラップは仕込んであった。だが、それは非実体であるアルマの機導剣を取り込むことはできない。
「仕方ありませんね……」
右手がアルマの顔に掛かる。
「させねぇよ!」
パン。ミリアが盾でその手を叩き、弾き上げる。そのまま盾の裏から高熱の剣を引き出し、その手に向けて一閃!
「おっと」
手が、逆に刀身を掴む。肉の焼ける匂いがしたのは一瞬だけ。直後、刀身の全体が、ミリアの腕ごと氷結する。
だが、彼はミリアを離さざるを得なかった。
「――徹しますっ――!」
同時に変換できるのは1つだけ。それは即ち、コーリアスによるアルマの機導剣への対処が遅れた事を意味する。
表層装甲を溶かし。――その腹部に、マテリアルの剣がめり込んだ。
すぐさま腕を捻り、抉り取ろうと試みるアルマ。だが装甲に挟まれているが故の僅かな遅れが、コーリアスに彼の腕を掴む機を与えた。ミリアがクローディアのヒールを受け体力を取り戻したのと、その行動はほぼ同時。
「く…傷があるならバンデージが必要だよね。…丁度いい『材料』があるじゃないか」
掴んだその両手が高熱を帯び。丸で溶解するように、機導剣を放っていたアルマの腕を『切り取った』。
即座に材質を変動させ、まるで流体のように溶けたそれを、自らの肉体と同化させる。
「…野郎がァァァ!」
相方を傷つけられたミリアが、黙っている筈も無い。完全に体力が回復する前に、彼女はコーリアスに飛び掛かる。傷を塞ぐのに集中していたコーリアスは迎撃できず、そのまま打撃によって後ろに自ら作った壁に叩きつけられる。次の瞬間、その壁が砕け散った。
「これで少し、風通しがよくなった…そう思わんかね、ワトソン君」
Holmesの力の前には、例え鋼の壁でも、何れは砕け散るだろう。それがただの土石の壁なら尚更だ。
「やれやれ。次はもう少し頑丈な材質で壁を作るべきなのかな」
苦笑いのような声が、コーリアスの口から漏れる。
直後、連続した弾丸が、彼の手を弾き、その壁の残骸に触らせない。
「もう一回作り直しはゴメンだぜ?」
J・Dが、銃を構え、彼を狙っていた。
――傷のせいか。コーリアスの動きは、少し鈍っていた。今こそが、好機。そう判断したハンターたちは、一斉に動き出す。
「あ、こーりあすくん! もいおが何だか知らなかったんすよね! この時代のもいおはこういうのっすよ!」
メトロノームを救出した狛の手から、投げつけられる芋。それに視線が釣られ、コーリアスが手でキャッチした瞬間。両側そして後方――壁が破壊された方向から、それぞれリリティア、鵤、そしてクローディオが、それぞれの得物を振り上げ、コーリアスの両腕を狙っていた。
元々回避に優れていない彼がこれを避けるのは困難。体の一部を変化させても、他の所に直撃を受ける。どれかを受け止めて変動させても同じだ。其れほどまでに、連携は完璧だったのだ。
「――Decompose」
ボン。手に持った芋が、異臭を放つ黄色いガスとなり、一気に周囲に拡散し全ての視界を遮る。だが、その程度で止まる彼らでもない。既に刃は至近距離まで近づいていた。ならば、そのまま振り抜くのみ。
だが、踏み込んだ瞬間。足元に違和感を感じる。踏み込みが効かない。寧ろ滑っている――
「……ふう。危ない危ない」
黄色の霧が晴れた時。
クローディオの盾は、鵤の腹部に。
鵤の機導剣は、リリティアの脇腹に。
そしてリリティアの機械剣は――クローディオの肩に突き刺さっていた。
コーリアスはと言えば、少し後ろに下がった所で、寝転がるようにして地に伏せていた。
見れば、地面には油のような黒い液体が。それは、コーリアスの靴――踵辺りに繋がっており。
「Slick Shoes…意外と面白い物だねぇ。作ってみて正解だったかな」
起き上がると共に、錬成で自身の周りの黒い油を分解する。
彼は――自身の足から油を噴出する事でその場を脱し。その油で近距離から攻撃していた三人の足を滑らせ。お互いの攻撃をお互いに当たるように仕向けたのだ。
最も、こう攻撃するように計算した訳ではなく、当初は単にお互い転べば――と言う考えだったのだが。偶然にも上手くいったということか。或いは…単に皆、攻撃に意識を取られすぎたせいか。
「ままならないものだね」
一気に情勢は不利となった。それでも尚、再度大鎌を構えるHolmes。元々彼女の戦術は、力に任せて威嚇し、仲間たちの範囲に追い込むと言う物。盾と自己回復を用いて持久戦をする事は出来る。が、それでも、目の前の凶敵を倒すには――手数が足りない。
「そろそろしつこいよ?」
苛立つコーリアス。巨大な壁が地面から立ち上がり、Holmesを両方から猛烈な勢いで挟みこむ。
倒れこむ彼女は、然し最後の一手を用意していた。
「その足……貰って…おこうか」
最後の力で、右手に繋がっていたワイヤーを引っ張る。それは、コーリアスの足の周りで輪になっており。絞まればその足を切れる。
然し、既にHolmesの体力は尽き掛けており。故にワイヤーが肉に食い込み、切断するには、僅かに長い時間を要した。それはコーリアスに異常に気づかせ、『対策させる』のには、十分な時間であった。
「Magnis」
ワイヤーの動きが止まり、Holmesが握っていた側が、不自然に震え始める。
その先が腕に突き刺さる。血管を辿り、侵入していく。
そして――
「Forge――『Gunpowder』」
ドン。
爆発が、起こった。
●落とし所
カラン。武器が地に置かれる。
「ヤメだ、ヤメ」
「……どういう意味かな?」
「ここまで、ってコトだ」
問いかけたコーリアスに、J・Dはそう答える。
「…まぁ、僕はもう十分に楽しんだし。色んな新しいアイデアも出来たし。別にいいけど……」
「コッチも、残りのメンバーでアンさんに勝てるとは思わねぇんでな」
目線は、狛に介抱されていた、メトロノームの懐に抱えた手へ。
既にこちらの目的は達した。コーリアスも、こちらが彼の体の一部を手に入れている事には気づいていないようだ。
これ以上戦って、何かしら広域を焼く攻撃で、既に確保されたサンプルまで焼かれたのならば、あそこまで耐えたメトロノームの努力ですら水の泡となる。故に――ここで戦闘を終わらせるのが、最良の選択だと、彼は判断したのである。
――アルマへの仕打ちから鑑みるに。これ以上続ければ誰か死ぬ可能性が高まる。その考えもあった。
「それなら、また興味のある物を見つけた時に、訪問させてもらうよ」
「ソンナ事がネェ事を祈るけどな」
かくして、コーリアスはその場から去っていった。
深く、溜息をつくJ・D。
多くのハンターたちが倒れたが、彼らの仲間の祈り。酒友を待ち――帰還を待ちわびる友の祈り――それらが、彼らを守ってくれたのか。致命傷を受けた者は、誰一人いない。
コーリアスの実力を考えれば、この人数で彼に手傷を与えられたのは、既に大金星と言えるだろう。それに、彼の体組織のサンプルも手に入れた。
そして何よりも――仲間は、帰ってきた。
――未来は、繋がったのだ。
●幕間~Mechina~
数日後。
「♪♪~♪♪」
コーリアスは、上機嫌で鼻歌を口ずさみながら、作業をしていた。
その目の前には、機械でできた人形のような物が。
「兵器が巨大でなければいけないってのには、どうも僕は賛同できない。同じ力を発揮するならば、小さい方が取り回しやすいはずだからね」
人形の腰には、巨大な折りたたみ式の砲が。そしてその胸には、先日砦から奪った、『あの装置』をそのまま縮小した物が。
「けど、生命だけはどうにもならない……か。ここはやはり。僕の『末裔』の力を借りるより他なさそうだね」
楽しげにコートを羽織り。コーリアスは、自らの研究室を後にした。
目指すは――『天命輪転』と呼ばれる歪虚の元。
無機物に命を吹き込む力を持つ、その歪虚の元。
「さて、では――始めようか。あの二人は持ってきているね?」
コーリアスの問いかけに、頷いたのはJ・D(ka3351)。今回の交渉の決定稿は彼による物。故に――彼が皆を代表して、前に出ている。
そこに置かれたのは、石像。そして頭上には――サルヴァトーレ・ロッソ。
望む望まないに関わらず。ロッソは空中にてほぼ静止状態にある。それどころか、墜落しそうな状況を、必死に立て直す努力をしている最中なのである。
「……」
ポーカーフェイスをしては居る物の、J・Dの心中は穏やかではない。
もしこの状況を見てコーリアスが『今なら楽にデータを得られる』と考えれば、全ての努力は水の泡と化す。
だが、その心配を他所に。コーリアスは――銅の像に、手を伸ばした。
「先ずは――一人」
ポン。丸で嘘のように、像が肉体に変化する。しゃがむように地面に手を付いたそのハンターは、すぐさまコーリアスに飛びかかろうとするが――
「かおる、おかえり」
彼に抱きつくようにして、端へ寄せたのは、狛(ka2456)。
それは半分、彼が本当に復活した喜びによる物で。もう半分は、彼がコーリアスを攻撃し、約束を破らないように――と言う事であった。
忘れる事無かれ。この場にはロレントも居る。若しもコーリアスが無差別な反撃を行えば…ハンターたちは兎も角、一般人である彼は無事では済まないだろう。
「――それでは、僕はアレに触ってくるとしよう」
狛が復活したハンターに事情を説明している間に、コーリアスが足元の地面に手を着く。
次の瞬間、地面が大きく隆起し、まるで巨大な柱を形成するように、コーリアスを空中に持ち上げる。
これを見て、クローディオ・シャール(ka0030)は彼が交渉の際に言った『触る事はできるが、面倒である』の意味を悟る事になる。
彼は確かに空中に行く術を持っている。だが、この方法では、高速に飛行するロッソに手を触れる事はできない。何かしらの手段でロッソの速度を下げなければ、届く頃には既にロッソはその場を通過しているだろう。
――最も、彼の能力を全力で運用すれば。或いは彼に――協力者が居たのならば、それをクリアする事は難しくは無い。面倒とは、そう言う事なのだ。
その手が、ロッソの表層に触れる。
「成る程。……そういう構造か。…修理が必要な部位も多いようだけど、まぁ僕には関係のない事かな」
目を閉じる。
「得られた情報は、三つ。一つはそれ程役にも立たないが…残り二つは中々興味深い」
パン。
手を叩くと、足元の柱が段々と砕けて行き。そしてコーリアスは――地面に着地する。
「さて、こちらも交換条件の二段目を履行しよう」
その手が触れたのは、二つめの像――木像。
「ガァァァァァ!」
肉身の身体に戻るなり、拳を振り上げたそのハンターを受け止めたのは、Holmes(ka3813)の掌。
「まぁ待ちたまえ。今はその時ではない」
面識のある彼女の制止に、そのハンターの動きが止まる。そのまま説明しながら、彼を後退させるHolmes。
「さぁ、コッチに」
J・Dの案内に従い、ロレントもまた、その場から撤退する。
(「さて…暇ですし、少し準備でもしておきましょうかね」)
コーリアスの口元に、笑みが浮かぶ。
――彼は遊びに対しても『全力』。そうでもなければ、相手の『面白さ』は引き出せないからだ。
ハンターたちがロレントと復活した二人の仲間たちを撤退させている間に。彼は数々の変化を、服の下に仕込む。
自身の弱点は、錬金術を同時に多数の対象に対して履行できない事。それはコーリアス自身も、百も承知だ。
――ならば、事前に仕込んでしまえばいい。
幸いにもハンターたちの提案は。彼に敵の構成――その身のこなしや動きの癖を見てから。そして、交渉によって、話の仕方から性格を解析してから、仕込む時間を与えたのだから。
体のありとあらゆる部位を、別々の物に変形させ。状況に備える。
その笑みは、これから得られる『楽しみ』を考えた時、自然にあふれ出た物だ。
●Duel Game
「ブロートはお持ちでは? 前回私たちから奪取した――」
「僕には物を『持つ』必要がないのは、前回の一件から分かってると思ったんだけどねぇ」
コーリアスは常に、必要な物を錬成できる。それ故に、彼は『持たざる者』にして『持ちえる者』でもある。
「そうか。それはつまらない質問をしてしまったな。…戦闘では退屈させないよう頑張るので、すまないが宜しく頼む」
「言葉はいい。行動で示してもらいたい物だ。――さぁ…始めようかねぇ」
戻ってきたハンターたちを前に、ザレム・アズール(ka0878)の言葉に対して放たれたコーリアスの一言。それが合図になったかのように、一斉に彼らは動き出す。
先手を取ったのは、両手剣による一閃を仕掛けたザレム。それを手から錬成した剣で弾き、逆に地面を叩くコーリアス。隆起した地面がザレムを突き飛ばし、彼はその場に倒れこむ。
(「既に成された決定にとやかく言うつもりは御座いません。…後は彼に対抗する術を、全力を以って探すのみです」)
メトロノーム・ソングライト(ka1267)は、そもそもコーリアスにロッソに触れさせる事には反対であった。だが、参戦した総員の決定として、確実に物質化されたハンターたちを元に戻す事が優先とされたのだ。
ザレムが突き飛ばされ距離が離れた瞬間を狙って、歌声が、響き渡る。無数の妖精の幻影が飛び回り、彼を眠りに誘おうと試みる。
かくり。体が前に向けて曲がり、崩れ落ちる寸前で踏みとどまったように見えた。
「ヤレヤレ……一発、試してみるかネェ」
射撃が打ち込まれる。カン。既に硬化している部位に当たったのか、効果はあまり出ていない。
「なら…これで!」
続いて仕掛けたのは、リリティア・オルベール(ka3054)。振り上げたのは、巨大な大太刀。
ドン。眠り掛けていても尚反応したのか、強く踏みつけるその足で、錬成されたのは――『地面』。それは一瞬にしてぬかるみとなり、足を取られたリリティアの一閃は僅かにリーチが届かず空を切る。
直後、狛が飛ばした犬たちが、コーリアスに体当たりする。
本来は錬成を妨害するつもりであった。だが、その変化は余りにも『速い』。人を錬成する時のようにゆっくりと変動していくならば兎も角、このような簡単な錬成にとっては、妨害は至難の技。そしてそれは鵤の光弾も同じ。当たっていない訳ではない。無効化された訳でもない。ただ、コーリアスの耐久力が圧倒的なのか、それとも金属化したその表面にある程度軽減されているのか。当たっていても行動は妨害できていないのだ。
「ち、ならコレはどうかな?」
直後に打ち込まれる、冷気の弾丸。J・Dが放ったそれが纏う冷気が、一瞬にしてコーリアスの表皮を冷却させ、その動きを緩慢にさせる。
その瞬間、倒されたと思われていたザレムが――ぴくりと動いた。
「そこだ…っ!」
倒れた状態から、体勢をも立て直さずに強行にジェットブーツで加速。その途中で武器をクローに換装し――脇腹に向かって、引っ掛けるように、一閃!
強硬に体制が崩れた状態で行った攻撃であるにも関わらず、攻撃が直撃したのは冷気弾、そして催眠術の効果もあるのだろう。後はこのまま、突き立った爪を引っ張れば――
「ね、いい演技だったと思わない?」
がっしりと、腕が――コーリアスの手に掴まれる。
その動きは、眠気の影響を受けているとも、冷気の効果を受けているとも思えない。
――コーリアスは錬金術士。その力は、己の肉体をすら変容させる。
己の肉体への影響は、『変化』させて消してしまえばよい。その上で――彼は、影響を受けたかのように『装って』いたのだ。攻撃を誘う、その為に。
「けど…ここを捉えてしまえば――!」
彼が自身の状態異常――冷気を消す為に錬金術を使ったとすれば、この一手は錬金術を使えない。故に先に次の手を打てるのは――ザレム。
ジェットブーツを全開にし、肉を引き裂きそのまま持ち去ろうと試みる。これさえ成功すれば、ハンターたちの目的は達成された事になる。
だが、クローはその場から一ミリも動こうとはしなかった。まるで、何かに固定されているかのように。
「前回傷を受けた部位を避けようともせず、寧ろ差し出したのには…理由があるんだよ」
脇腹を捲ると、そこは金属化しており…まるで沼のように、ザレムのクローを飲み込んでいた。
「粘性金属。前回錬成したこれは、思いの他使い勝手が良かったからね。今回は事前に仕込んでおいた。――表面を皮膚らしく見せかけるの、結構時間掛かったんだよ?」
事前に彼は既に、前回狙われた位置に対し、仕込みをしておいた。故に今回は寧ろ、その部位を盾として使う動きが多かったのだ。
逆の手が、ザレムの顔に掛かった瞬間。
パン。その手に打ち込まれる弾丸。と同時に、防御障壁が、ザレムの目の前に展開される。
「安心してよ。石像にするつもりはない――そんな事をしたら、これ以上楽しめなくなっちゃうからね」
コーリアスが睨んだのは、弾丸を撃ったJ・Dと、障壁を展開した鵤(ka3319)。
その手は防御障壁を貫き、ザレムの顔の前に翳される。――障壁は確かにマテリアル故に、コーリアスの錬金の影響を受ける事はない。だが、障壁は完全に攻撃を防ぐ物ではなく、飽くまでもその威力を削ぐ事でダメージを軽減する物。コーリアスが力で押し込めば、依然、『触れられる』事は避けられない。
意識が遠のく。何かを吸わされたのか。
「完全に同じ物は無理だけど――催眠ガスくらいは、僕にも出来るからね」
「離したまえよ」
敵意を全て殺気に変え、Holmesがコーリアスを睨みつける。だが、彼はまるでそれに気づかないかのように振舞っている。何かの方法で抵抗しているのか、それとも――単に精神が図太く、他者を気にしないコーリアスのその性格故か。
ならば、とばかりに、その手からザレムを救出しようと、光の軌跡がアルマ・アニムス(ka4901)と鵤の手から同時に放たれ、その手を再度、J・Dが銃撃する。
然しその全てを、
「僕にだって、無抵抗の相手ならこの程度は出来る」
コーリアスは、眠ってしまったザレムを盾にして、回避したのである。
直撃の勢いは、決して弱い物ではない。それが――コーリアスを倒す為の、友の祈りの乗った物であれば尚更だ。
「中々変な事をしてくれるじゃん?」
顔色は変えないが、鵤の心中は穏やかではない。
――マテリアルリンクの弱点は、それが「条件を満たした初撃」にのみ適用される事。例え、それが外れたとしても。例え――それが別の目標へ誘導された、としても。
その衝撃に覚醒したザレムは、固定されたクローを放棄。即座に盾で一撃を受け、そのまま盾をコーリアスに叩き付ける。その盾を、手で受け止めるコーリアス。マテリアルで覆われているとは言え、盾の本体に触れるのはコーリアスの腕力を以ってすれば造作の無い事。幾ら元は戦士ではなかったとは言え――コーリアスは、上位の歪虚なのである。
だが、触れた瞬間、彼は僅かにマスクの下の顔を顰める。一瞬にして、盾は高熱を帯びていたのだ。
見れば後ろには、手を翳すメトロノームの姿。直撃の直前に、ファイアエンチャントを使用し、火の属性を盾に帯びさせていたのだ。
「お返しするよ」
盾が錬成される。それは巨大な矢と化し、メトロノームの方へと打ち返される。元々回避を得意としていなかった彼女の足に矢は突き刺さり、そのまま地面へと縫いつける。
だが、それはまた、ザレムに攻撃の機を与える事となる。クローディオがメトロノームにヒールを掛けたのを余所目で確認し、地を蹴って再度急噴射。今度は大剣が、コーリアスの足を狙う!
「忘れ物、してないかい?」
そう呟いたコーリアスが、わざと体の片側を、彼に向けた。そこには、先ほど接着されたクローが。
噴射される、無数の短刀。それを全身に浴びながらも、ザレムは尚も突き進む。ただ、一太刀、浴びせる為に。
――だが、友の祈りにより致命傷はかわしていたとは言え、最初に受けた仲間たちからの一撃は、余りにも重かった。僅かな距離を残して――彼の剣は、地に落ちた。
●問題を解決すると言う事
コーリアスとて無傷と言うわけではなかった。ザレムを盾にし、防げたのは前面のみ。後方から放たれていた鵤のデルタレイは、彼の背後に直撃していた。やはり多方向からの同時攻撃は、生粋の戦士ではないコーリアスには反応しにくいか。
「逃げないのかい?」
「何故、僕が逃げなければならない?」
Holmesの振り下ろしは、空中にて無数の金属の糸の様な物に絡み取られ、コーリアスに触れていない。だがその糸はギリギリと軋みを上げ、今でも切れそうである。流石に、怪力を持つ彼女を止めるには、少し荷が重いと言う事か。
だが、それは即ち、先の先を狙っていたリリティアの攻撃が外れると言う事。攻撃に優れたリリティアの攻撃範囲にコーリアスを追い込もうとしたHolmesの誤算は唯一つ。――そもそもコーリアスは、『動いて』回避しようとはしないのだ。
然し。それもまた、ハンターたちにとっては問題ではない。
「コイツはおっさんの分だ…とっとけ!」
ミリア・コーネリウス(ka1287)の強烈な一撃が、叩きつけられる。既に変化してあった金属の外殻で受けた物の、その衝撃力は想像以上で。力に押され、転倒するコーリアス。だが、直後、大地が隆起し、無数の水晶の弾丸が、追撃しようとしたリリティアと束縛を引き千切ったHolmes押し返す。すぐさまクローディオが盾を構えて彼女らの前に出、盾で残りの水晶弾を弾くと共に癒しの結界を展開して、二人の体力を回復させた。
「この体勢もまた…悪くは無いかな」
元々、コーリアスはその場から動かずとも攻撃を繰り出す事は可能である。そして彼は、明確に移動して回避すると言う動きを取らない。故に彼にとって――立っていようが、座っていようが、寝ていようが。それは大した違いではない。
「その油断は命取りになりますよ」
翳す白き剣。それが彼女の歌を増幅し。――メトロノームは、雷光の魔獣を招来するための歌を謡う。
招来した雷獣は一直線に地に伏せるコーリアスに向かって突進し、その表皮の防御ごと、地面までも貫く。そう。これは前回彼を打ち据えた雷光と、同系統の術だ。
「少し面倒だね、その技は。そろそろ解決策を考えなきゃいけないけど……」
「そう何度も何度も自由にやらせると言うのもね」
後ろに回りこんだ鵤が、光球を三つ生成する。デルタレイだ。
だが、その光球が放たれる前に。コーリアスの手が地面を叩き、地面が蠢き始める。
前回のように隔離されぬよう、前に出るメトロノーム。だが、目の前の光景は――彼女の予想していた物ではなかった。
「後ろや左右からの挟撃が面倒なら――後ろと左右を『なくしてしまえばいい』ってね」
立ち上がった壁は、三面。それは丁度一辺のない正方形のような形を形成し、コーリアス自身を至近距離で取り囲んだ。存在しない一辺は、メトロノームの方を向いていた。これが何を意味するかを理解した時、即座にメトロノームは距離を離そうと試みる。
「もう遅いよ――『Vacuum』」
ぐん。背中から何かに押されたかのように、前に飛ぶメトロノーム。壁の裏側から回りこんできたクローディオが、彼女を庇おうとするが一手遅く。
「Squash」
両サイドの壁の端が一斉に鋭利な刃歯に変化し、メトロノームを挟みこんだ。
壁が開かれた時。彼女はそこに倒れこんでおり、ぴくりとも動かない。
「また…!」
歯軋りする狛。コーリアスの後ろが壁に遮られた瞬間。獣化した彼が動き出しており、重傷を負ったザレムを安全な場所まで運び込んでいた。
すぐさま追加で発生した負傷者に対応すべく、彼は再度、前に出る。
「もう一発くらいたいのかネェ」
銃に弾丸と同時に充填したのは、冷気。
J・Dの冷気弾が、倒れこんだメトロノームを囮にして少し上方からコーリアスを湾曲した軌道で襲う。
「Overheat」
その飛来する弾丸にコーリアスが指を触れた瞬間。閃光、そして爆炎が巻き上がり、視界を遮る。
爆炎の中から、飛来する燃え盛る木の杭。アルマ、そして鵤のデルタレイがそれを迎撃する。
「ん?」
足に違和感を感じるコーリアス。見れば――倒れたはずのメトロノームが、彼の足に刃を突き立てていた。
「最後の足掻きかな。…成る程ね」
倒れた『フリ』をした彼女が、密かに抉り取った肉片を懐にしまった直後。
「Heavy」
ズン。背中に、強烈な圧力が掛かる。
「っ――!」
踏みつけた足を、密度の高い物質に変換し。更に力を加えるコーリアス。
地面にヒビが入るほどの踏みつけを受け。意識を手放しても尚、メトロノームは懐にしまった物を手放さなかった。
それこそが将来、目の前の凶敵に対する、切り札になるかも知れないのだから。
●切り取る為に
爆炎が晴れたその瞬間。リリティアがコーリアスに肉薄する。――Holmesとミリアがそれに続かなかったのには、訳がある。コーリアスの三方を囲む壁によって接近できる方向が限られてしまい、実質彼に同時に近接攻撃を仕掛けられる者は、一人になっていたのである。
「少し邪魔だね。この壁は」
Holmesはその壁を破砕すべく大鎌を横に振るう。
「なら…これだ!」
ミリアは跳躍から飛び掛ると見せかけ、空中で剣を振るって衝撃波を作り出しその反動で後ろに跳ぶ。
それをコーリアスが壁を動かして防いだのを見た直後。リリティアは大きく剣を引き、一直線に突き出す。
「へぇ…中々の連携だ」
強力な一突きが、コーリアスの胸に突き刺さる。金属板で出来た防御を貫通し、肉に至ったと確信できた。だがまだ浅い。防御を抜ける際に大半の力を相殺された。
「もう少し、楽しませて上げますよ」
柄のスイッチを入れる。雷撃がコーリアスの全身を走り。ピクリと、その身体を動かす。
「成る程。そういう仕組みだったのか。中々に『楽しい』ギミックだ」
再度、リリティアが柄のスイッチを以って、雷撃を加えようとした瞬間。
「Forge――『EarthLine』」
そのまま、電撃が彼女自身の身体に全て流れ込む。見れば、刃に触れたコーリアスの手。スイッチから一条の金属線が伸び、彼女の腕に絡み付いていたのである。
「今っ!」
コーリアスの錬金術は『同時には』二つの物を変換できない。故に今、同時攻撃を仕掛ければ、どちらかは通る。そう考えたリリティアが仲間たちに合図すると同時に、もう一本の機械剣を抜き放つ。
彼女の身体で射線は通り難くなっているとは言え、歴戦の経験から来る狙撃能力を持つJ・D、そして鵤にとっては問題ではない。
弾丸。光弾。そして剣閃が、一斉にコーリアスに襲い掛かる。どれか一つを変換して防いでも、他の二つの属性の物が、当たるはずだ。
「Forge――『Spike Shield』」
胸に突き刺さったままの剣に手を当て、変化させる。作り出されたのは、無数の棘が前面に突き出した巨大な盾。それは生成されると共にその棘でリリティアを刺して弾き飛ばし、盾面が弾丸と光弾を受け止める。
「確かに僕は、一度に一つしか変換できない。…ならば変換するその『一つ』に工夫を加えて、その一つで色々な状況に対応すればいいとは思わないかな?」
同じ方向から多彩な攻撃が飛んで来るのならば、実体盾で防げばいい。マテリアルの光弾も、実体の壁には阻まれるのだから。
が、その盾は、コーリアスの視線を一時的に阻んだ。故に彼は、今までずっと後ろに居り、後方支援に徹していたアルマの接近に――気づかなかったのだ。
「――接近戦は苦手です。でも、できないなんて言った覚えはありませんよ」
手には光輝くマテリアルの剣。突進の勢いそのままに、それを、一直線にコーリアスの腹部に――突き立てる!
「むう…!」
腹部にもまた、液体金属のトラップは仕込んであった。だが、それは非実体であるアルマの機導剣を取り込むことはできない。
「仕方ありませんね……」
右手がアルマの顔に掛かる。
「させねぇよ!」
パン。ミリアが盾でその手を叩き、弾き上げる。そのまま盾の裏から高熱の剣を引き出し、その手に向けて一閃!
「おっと」
手が、逆に刀身を掴む。肉の焼ける匂いがしたのは一瞬だけ。直後、刀身の全体が、ミリアの腕ごと氷結する。
だが、彼はミリアを離さざるを得なかった。
「――徹しますっ――!」
同時に変換できるのは1つだけ。それは即ち、コーリアスによるアルマの機導剣への対処が遅れた事を意味する。
表層装甲を溶かし。――その腹部に、マテリアルの剣がめり込んだ。
すぐさま腕を捻り、抉り取ろうと試みるアルマ。だが装甲に挟まれているが故の僅かな遅れが、コーリアスに彼の腕を掴む機を与えた。ミリアがクローディアのヒールを受け体力を取り戻したのと、その行動はほぼ同時。
「く…傷があるならバンデージが必要だよね。…丁度いい『材料』があるじゃないか」
掴んだその両手が高熱を帯び。丸で溶解するように、機導剣を放っていたアルマの腕を『切り取った』。
即座に材質を変動させ、まるで流体のように溶けたそれを、自らの肉体と同化させる。
「…野郎がァァァ!」
相方を傷つけられたミリアが、黙っている筈も無い。完全に体力が回復する前に、彼女はコーリアスに飛び掛かる。傷を塞ぐのに集中していたコーリアスは迎撃できず、そのまま打撃によって後ろに自ら作った壁に叩きつけられる。次の瞬間、その壁が砕け散った。
「これで少し、風通しがよくなった…そう思わんかね、ワトソン君」
Holmesの力の前には、例え鋼の壁でも、何れは砕け散るだろう。それがただの土石の壁なら尚更だ。
「やれやれ。次はもう少し頑丈な材質で壁を作るべきなのかな」
苦笑いのような声が、コーリアスの口から漏れる。
直後、連続した弾丸が、彼の手を弾き、その壁の残骸に触らせない。
「もう一回作り直しはゴメンだぜ?」
J・Dが、銃を構え、彼を狙っていた。
――傷のせいか。コーリアスの動きは、少し鈍っていた。今こそが、好機。そう判断したハンターたちは、一斉に動き出す。
「あ、こーりあすくん! もいおが何だか知らなかったんすよね! この時代のもいおはこういうのっすよ!」
メトロノームを救出した狛の手から、投げつけられる芋。それに視線が釣られ、コーリアスが手でキャッチした瞬間。両側そして後方――壁が破壊された方向から、それぞれリリティア、鵤、そしてクローディオが、それぞれの得物を振り上げ、コーリアスの両腕を狙っていた。
元々回避に優れていない彼がこれを避けるのは困難。体の一部を変化させても、他の所に直撃を受ける。どれかを受け止めて変動させても同じだ。其れほどまでに、連携は完璧だったのだ。
「――Decompose」
ボン。手に持った芋が、異臭を放つ黄色いガスとなり、一気に周囲に拡散し全ての視界を遮る。だが、その程度で止まる彼らでもない。既に刃は至近距離まで近づいていた。ならば、そのまま振り抜くのみ。
だが、踏み込んだ瞬間。足元に違和感を感じる。踏み込みが効かない。寧ろ滑っている――
「……ふう。危ない危ない」
黄色の霧が晴れた時。
クローディオの盾は、鵤の腹部に。
鵤の機導剣は、リリティアの脇腹に。
そしてリリティアの機械剣は――クローディオの肩に突き刺さっていた。
コーリアスはと言えば、少し後ろに下がった所で、寝転がるようにして地に伏せていた。
見れば、地面には油のような黒い液体が。それは、コーリアスの靴――踵辺りに繋がっており。
「Slick Shoes…意外と面白い物だねぇ。作ってみて正解だったかな」
起き上がると共に、錬成で自身の周りの黒い油を分解する。
彼は――自身の足から油を噴出する事でその場を脱し。その油で近距離から攻撃していた三人の足を滑らせ。お互いの攻撃をお互いに当たるように仕向けたのだ。
最も、こう攻撃するように計算した訳ではなく、当初は単にお互い転べば――と言う考えだったのだが。偶然にも上手くいったということか。或いは…単に皆、攻撃に意識を取られすぎたせいか。
「ままならないものだね」
一気に情勢は不利となった。それでも尚、再度大鎌を構えるHolmes。元々彼女の戦術は、力に任せて威嚇し、仲間たちの範囲に追い込むと言う物。盾と自己回復を用いて持久戦をする事は出来る。が、それでも、目の前の凶敵を倒すには――手数が足りない。
「そろそろしつこいよ?」
苛立つコーリアス。巨大な壁が地面から立ち上がり、Holmesを両方から猛烈な勢いで挟みこむ。
倒れこむ彼女は、然し最後の一手を用意していた。
「その足……貰って…おこうか」
最後の力で、右手に繋がっていたワイヤーを引っ張る。それは、コーリアスの足の周りで輪になっており。絞まればその足を切れる。
然し、既にHolmesの体力は尽き掛けており。故にワイヤーが肉に食い込み、切断するには、僅かに長い時間を要した。それはコーリアスに異常に気づかせ、『対策させる』のには、十分な時間であった。
「Magnis」
ワイヤーの動きが止まり、Holmesが握っていた側が、不自然に震え始める。
その先が腕に突き刺さる。血管を辿り、侵入していく。
そして――
「Forge――『Gunpowder』」
ドン。
爆発が、起こった。
●落とし所
カラン。武器が地に置かれる。
「ヤメだ、ヤメ」
「……どういう意味かな?」
「ここまで、ってコトだ」
問いかけたコーリアスに、J・Dはそう答える。
「…まぁ、僕はもう十分に楽しんだし。色んな新しいアイデアも出来たし。別にいいけど……」
「コッチも、残りのメンバーでアンさんに勝てるとは思わねぇんでな」
目線は、狛に介抱されていた、メトロノームの懐に抱えた手へ。
既にこちらの目的は達した。コーリアスも、こちらが彼の体の一部を手に入れている事には気づいていないようだ。
これ以上戦って、何かしら広域を焼く攻撃で、既に確保されたサンプルまで焼かれたのならば、あそこまで耐えたメトロノームの努力ですら水の泡となる。故に――ここで戦闘を終わらせるのが、最良の選択だと、彼は判断したのである。
――アルマへの仕打ちから鑑みるに。これ以上続ければ誰か死ぬ可能性が高まる。その考えもあった。
「それなら、また興味のある物を見つけた時に、訪問させてもらうよ」
「ソンナ事がネェ事を祈るけどな」
かくして、コーリアスはその場から去っていった。
深く、溜息をつくJ・D。
多くのハンターたちが倒れたが、彼らの仲間の祈り。酒友を待ち――帰還を待ちわびる友の祈り――それらが、彼らを守ってくれたのか。致命傷を受けた者は、誰一人いない。
コーリアスの実力を考えれば、この人数で彼に手傷を与えられたのは、既に大金星と言えるだろう。それに、彼の体組織のサンプルも手に入れた。
そして何よりも――仲間は、帰ってきた。
――未来は、繋がったのだ。
●幕間~Mechina~
数日後。
「♪♪~♪♪」
コーリアスは、上機嫌で鼻歌を口ずさみながら、作業をしていた。
その目の前には、機械でできた人形のような物が。
「兵器が巨大でなければいけないってのには、どうも僕は賛同できない。同じ力を発揮するならば、小さい方が取り回しやすいはずだからね」
人形の腰には、巨大な折りたたみ式の砲が。そしてその胸には、先日砦から奪った、『あの装置』をそのまま縮小した物が。
「けど、生命だけはどうにもならない……か。ここはやはり。僕の『末裔』の力を借りるより他なさそうだね」
楽しげにコートを羽織り。コーリアスは、自らの研究室を後にした。
目指すは――『天命輪転』と呼ばれる歪虚の元。
無機物に命を吹き込む力を持つ、その歪虚の元。
依頼結果
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面白かった! | 22人 |
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対コーリアス戦術相談 J・D(ka3351) エルフ|26才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/12/14 03:22:33 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/12/06 19:36:35 |
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対コーリアス・交渉卓 ロレント・フェイタリ(kz0111) 人間(リアルブルー)|37才|男性|一般人 |
最終発言 2015/12/14 01:17:48 |
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相談卓 クローディオ・シャール(ka0030) 人間(クリムゾンウェスト)|30才|男性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2015/12/14 00:26:24 |
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質問卓 リリティア・オルベール(ka3054) 人間(リアルブルー)|19才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/12/14 10:21:11 |