ゲスト
(ka0000)
救いたる、招かれたる
マスター:練子やきも

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/12/14 12:00
- 完成日
- 2015/12/22 09:54
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
王国北部の森の中、その者は彷徨っていた。
目的がある訳でもなく、ただ生きるために生きる。その事に不満も退屈もなく、ただ、生きるために日々を戦っていた。
聞こえた何かの音と、ニンゲンの匂いに興味を持って、ふとかき分けた茂みの奥。見付けたのは、倒れているニンゲンだった。
怪我をしてここまで逃げて来た所で気を失った、という所か。戦うための『武器』と、身を守る『防具』を身に付けているという事は、戦う者なのだろう。
ふと、以前に見掛けたニンゲン達の事が頭に浮かんだその者は、フン、とひとつ息を吐くと、此方に近づく嗅ぎ慣れた気配……面倒臭い方の二本足、ゴブリンの気配の方へと走り出した。
●おはようといただきませ
「うぅ……俺は……助かったのか……っうぉっ!?」
哨戒中に数匹のゴブリンと遭遇して傷を負い倒れた男が目覚めると、そこに居たのは一頭の、50センチサイズの……トラ。
慌てた男は、起き上がり、剣を抜こうとするが、痛みで言うことを聞かない身体はそのどちらも行動として成してはくれず、挙げ句何故か傍に落ちていたウサギの死体で手が滑り……あらためて倒れ直す。
(あ、死んだな、俺)
動かぬ身体。此方へ歩み寄るトラを見て頭をよぎった諦めは、近付いたトラが咥えて自分の目の前に落とした……落とし直した? ウサギの死体で更に混乱する。
「……????」
流石に状況が飲み込めない男がウサギに手を出さないのを見て、何だか面倒臭そうにフン、と鼻を鳴らしたトラは、そのまま茂みの奥へと消えて行く。
それほど時を置かず、再度茂みの奥から現れたトラが引きずって来た……ゴブリンの死体を見て、理解する。
どうやら自分はこのトラに助けられたらしい事と、このウサギの死体はトラが狩って持って来た物らしい事、そして……。
男の目の前に落としたゴブリンの死体を見せつけながら、少し離れた場所に座って此方を見ているトラが
『わざわざ持って来てやったぞ、さあ食え』
と言っているのが聞こえたような気がした。
●生の延びた先
森の中で倒れていた男がトラに救われた話は、噂話として街の中に広がって行った。
単純に噂話として楽しむ者、ほら話として眉に唾を付ける者、それぞれの反応を示す街の人々。中にはそのトラを捕まえてペットにしたいと考える物好きが現れるのも、まあ良くある話ではあった。
良くある話ではあったのだが、問題は、それを考えた者にそれを実行に移すだけの財力と行動力が備わってしまっていた事か。
『生け捕りのみ、100万G』
ハンターオフィスの中は、ばら撒かれたビラに書かれたトラの賞金の話で持ち切りになっていた。
「トラって言ってもそのサイズならまだガキだ、しかも人間を怖がらない人懐こい奴。とっ捕まえてペットにしてやった方がそのトラの為ってもんだろ」
「いやいや、いくら何でもそりゃねーだろ。身勝手に捕まえて檻の中に閉じ込めるとか、奴隷みたいなもんじゃねーか」
「明日をも知れない生活よりゃマシだろ」
「明日をも知れないのはお前も同じ事じゃねーか。……だったらいっそお前が飼われてろよ、トラの格好して」
「それいいな!」
「いいのかよ……」
自分達で行動を起こす様子もないその男達の無駄話を、聞くでもなく聞いていたハンターの1人は、ふと立ち上がると……自分の行動のため、準備を始めた。
目的がある訳でもなく、ただ生きるために生きる。その事に不満も退屈もなく、ただ、生きるために日々を戦っていた。
聞こえた何かの音と、ニンゲンの匂いに興味を持って、ふとかき分けた茂みの奥。見付けたのは、倒れているニンゲンだった。
怪我をしてここまで逃げて来た所で気を失った、という所か。戦うための『武器』と、身を守る『防具』を身に付けているという事は、戦う者なのだろう。
ふと、以前に見掛けたニンゲン達の事が頭に浮かんだその者は、フン、とひとつ息を吐くと、此方に近づく嗅ぎ慣れた気配……面倒臭い方の二本足、ゴブリンの気配の方へと走り出した。
●おはようといただきませ
「うぅ……俺は……助かったのか……っうぉっ!?」
哨戒中に数匹のゴブリンと遭遇して傷を負い倒れた男が目覚めると、そこに居たのは一頭の、50センチサイズの……トラ。
慌てた男は、起き上がり、剣を抜こうとするが、痛みで言うことを聞かない身体はそのどちらも行動として成してはくれず、挙げ句何故か傍に落ちていたウサギの死体で手が滑り……あらためて倒れ直す。
(あ、死んだな、俺)
動かぬ身体。此方へ歩み寄るトラを見て頭をよぎった諦めは、近付いたトラが咥えて自分の目の前に落とした……落とし直した? ウサギの死体で更に混乱する。
「……????」
流石に状況が飲み込めない男がウサギに手を出さないのを見て、何だか面倒臭そうにフン、と鼻を鳴らしたトラは、そのまま茂みの奥へと消えて行く。
それほど時を置かず、再度茂みの奥から現れたトラが引きずって来た……ゴブリンの死体を見て、理解する。
どうやら自分はこのトラに助けられたらしい事と、このウサギの死体はトラが狩って持って来た物らしい事、そして……。
男の目の前に落としたゴブリンの死体を見せつけながら、少し離れた場所に座って此方を見ているトラが
『わざわざ持って来てやったぞ、さあ食え』
と言っているのが聞こえたような気がした。
●生の延びた先
森の中で倒れていた男がトラに救われた話は、噂話として街の中に広がって行った。
単純に噂話として楽しむ者、ほら話として眉に唾を付ける者、それぞれの反応を示す街の人々。中にはそのトラを捕まえてペットにしたいと考える物好きが現れるのも、まあ良くある話ではあった。
良くある話ではあったのだが、問題は、それを考えた者にそれを実行に移すだけの財力と行動力が備わってしまっていた事か。
『生け捕りのみ、100万G』
ハンターオフィスの中は、ばら撒かれたビラに書かれたトラの賞金の話で持ち切りになっていた。
「トラって言ってもそのサイズならまだガキだ、しかも人間を怖がらない人懐こい奴。とっ捕まえてペットにしてやった方がそのトラの為ってもんだろ」
「いやいや、いくら何でもそりゃねーだろ。身勝手に捕まえて檻の中に閉じ込めるとか、奴隷みたいなもんじゃねーか」
「明日をも知れない生活よりゃマシだろ」
「明日をも知れないのはお前も同じ事じゃねーか。……だったらいっそお前が飼われてろよ、トラの格好して」
「それいいな!」
「いいのかよ……」
自分達で行動を起こす様子もないその男達の無駄話を、聞くでもなく聞いていたハンターの1人は、ふと立ち上がると……自分の行動のため、準備を始めた。
リプレイ本文
いつもながらに騒めいているハンターオフィスで、ビラを眺めてクシャクシャと握り潰している者、折り畳んでポイ、とくずかごに放り込む者。それぞれにとりあえず明らかに拒否の姿勢を示していた数人のハンター達は、誰が言い出すともなく頷くと、魔導短伝話をリンクさせ、行動を開始した。
ざわめく酒場に入り込み、カウンターで酒を頼んだ神代 誠一(ka2086)は、喧騒に耳を傾けた。耳に入る噂話の中にトラの話をしているテーブルを見付けると、グラスを片手にそのテーブルへと移動する。
軽い雑談で相手の持っている情報を確認してみるが、やはりビラ以上の話を持っている様子はなく。
「やぁ〜、ここだけの話なんですけど。そのビラ……連絡先間違ってるらしいですね」
「ガッハッハ、そいつぁ間抜けな話だな」
既に酔いで鼻まで赤くなっている男達はあっさりと信じ込み、その大声によって噂は上書きされていく。
「捕獲しても届け先が違うんじゃ意味がないですよね」
大声で騒いでいるその男達の横で、半分酔っ払ったような様子を見せながらにこやかに話を締めた誠一は、しっかりとした足取りでその酒場を離れた。
一方、グリムバルド・グリーンウッド(ka4409)は、直接森の中へと入っていた。
「困ってる感じにウロついてたら出て来ないかなー」
少なくとも賞金稼ぎより先にトラに会えない事には本当に困ることになってしまうので、実際困ってはいるのだが
「……あいつ、元気みたいだな」
人を助けるトラなんて者がそうそう居るとも思えず。自然に思い浮かぶ、以前共に戦った子トラの姿。
「優しい奴、だよな」
出逢った時の事を思い出して、軽い笑みと言葉が漏れる。 同時に、そんな奴から自由を奪おうとする相手に対して浮かぶ、ちょっとした怒り、というかムカつき。
「……よし、機会があったら一発ブン殴ろう」
パシン、と軽く拳を掌に叩き付け、グリムバルドは森に向けて走り出した。
そしてここは、噂の元となった男の家。漏れ来る声はスピアを担いだ若い男、ハンターであるダイン(ka2873)の声だった。 ダインも、グリムバルドと同じくそのトラが旧知の相手であると確信していた。
「ねえ、何とかしてやめさせられないかな? あの子に人を嫌いになって欲しくないんだ」
「そうだよ! 人を助けたトラが、助けて損するなんて変な話だもん」
すがるように男に話し掛けるダインの横から、ホワイトラビット(ka5692)もピョコピョコと跳ねながら男を説得する。
「だよな。俺も、今回みたいな恩が仇で返るようなのを見て見ぬ振りなんてしたくない」
畳み掛けるキヅカ・リク(ka0038)の言葉に、男も周りのハンター達を見回しながら首を縦に振る。
「もちろん、俺もそんなの寝覚めが悪いし、協力させて欲しい」
男が取り出して来た付近の地図に書き込まれたポイントに、あ、という控えめな声と共に1つの手が挙がる。
「そこなら私知ってます」
和泉 澪(ka4070)にとって覚えのある場所、彼女が以前トラと共に戦った場所の近くだった。
その男にトラと出逢った細かい位置の情報を聞き出した一行。
「じゃあ出発だな。……と、ただトラって呼ぶのも味気ないし、トラの呼称は……虎鉄という事でどうだろう」
出発に向けてにこやかに提案するリクの声に、一瞬流れる微妙な雰囲気。さりとて対案が特にあるでもなく、今回は虎鉄と呼ぶという事で話が決まった所で……。
「話は聞かせて貰ったけど、皆も虎さん助けたい感じかな?」
「あ、仁川さん」
奇遇だね、と澪達に向けてにこやかに微笑む仁川 リア(ka3483)と
「俺もこの話は気に入らねえ、一口噛ませて貰うぜ」
噂話がデマではない事を確認しに来て、手間が省けた形になった五黄(ka4688)が頷く。
「んで、よ。ビラ見てトラを捕まえようとする奴も出るだろうし、俺はそいつらにお引き取り願う役をやろうかと思うんだが」
リアの方を見ながら、自分の行動を伝える五黄。
「ああ、僕もそっちに回ろうかな」
「ボクも! ……ボク、それ程口が回る方じゃないし!」
「早いなオイ」
頷いたリアの言葉と同時に、ホワイトラビットが決断すると共にピョンピョンと走り出す。身体を動かす方が性に合っている彼女は、待ち伏せのため森に向かうようだ。
「……そうだね、トラの捜索は和泉達に任せておけば大丈夫そうだ、上手く見付けてくれるよ。こっちも期待を裏切らないように仕事しよう」
こうして、即席のトラ防衛作戦は幕を上げた。
酒場を出た誠一は、そのまま再度ハンターオフィスへと向かっていた。
「あぁ、そのビラですか、商人さんとこの人が勝手に撒いてっただけですので、欲しければ好きなだけ持ってって下さい」
微妙にやる気の無さそうな受付嬢に
「ああ……いえ、たった今酒場で聞いたんですが、何だか情報に間違いがあって刷り直すらしいので、回収に来たんですよ」
良かったら回収に協力して頂けると助かります、という誠一の言葉に気軽に応じる受付嬢。正式な依頼ではないため、彼女にとってはどうでも良い物なようだ。
ビラを運びながら通り掛かった井戸端会議にも声を掛けた誠一は、魔導短伝話を取り出し……。
「……流石に通じませんね。少し急ぎましょうか」
通話範囲外を示す音を聴き、軽く眼鏡のブリッジを持ち上げた誠一の姿は、強く踏み込む足音と、流れる風だけを残して路地から消えて行った。
●みつけた?
「よっ、と!」
一気に噴出したマテリアルの淡い光をなびかせながら手近な樹を駆け上がったリクが、クルリと回転しながら着地する。
「トラは見えなかったけど、やっぱり居るな……。賞金稼ぎ」
「……急ぎましょう」
賞金稼ぎと思しき集団が別方向から森に入るのを見て眉を寄せたリクの声に、澪も表情を引き締める。そして……。
「お? あいつ確かオフィスに居た……キヅカだな」
飛び上がったリクの姿を見かけたグリムバルドは、単独での捜索に早々に見切りを付ける事にしたようだった。
「この近くで間違い無いと思うのですが……」
男に貰った地図の標の位置で立ち止まった、リクと澪、そしてグリムバルドの3人。
「縄張りにしている訳じゃなさそうかな……。でも近くに居るのは間違い無さそうだ」
打ち捨てられたゴブリンの死体の側に新しいトラの毛を見付けたリクの言葉に、これで誘い出せないかな、と、牛乳瓶の蓋を開く澪。
そのパカッという音が付近に響いた直後、樹上から聞こえたガサッという音と共にグリムバルドの頭に軽い衝撃が走る。
「いでっ! 何が……って、お前かよ……」
グリムバルドの頭を踏み台にして、その目の前に飛び降りて来たのは、例のトラ……虎鉄だった。
虎鉄はどうやら既にこちらに気付いていたようで、樹上に身を隠しながら3人を眺めていたらしい。
グリムバルドの足下にお座りのポーズで座り込みながら、じーっと澪の手元を眺めている虎鉄の視線が、降りてきた理由と、その要求を雄弁に語っていた。
●狩るものは
猟具屋で網を買い込む男達を見付け、近付く五黄。持ち掛けた同行の交渉は
「人に慣れてるって噂はあるが、相手は虎だろ?」
彼の放った一言であっさりと通った。どうやら男達の方も危険について思うところはあったようで、渡りに船と言った所らしい。
気勢をあげる男達の背後で、悪い笑みを浮かべる五黄。確かに『虎』に手を出す事はとても危険であるというその言には、嘘はなかった。
「困るんだよね、僕らより先にアレを見つけられるのは……」
こっそり連絡を取り合いながら差し掛かった、森の入り口。
芝居掛かった言葉と共に、五黄と行動を共にしている賞金稼ぎの前に立ち塞がる、リア。
見せ付けるように覚醒したリアが、熱なく燃え盛る金色の翼を軽く羽撃かせながら静かに構えたその槍は、ピタリと賞金稼ぎ達に向けられ、息を飲む男達……
「どかぁーーん!」
の横合いから、クルリと回転しながら手近な1人に向けて飛び蹴りを放ちつつ飛び込む白い塊。
着地と共に、一時も止まらないジンガの構えから次の標的に向けて回転するホワイトラビットの蹴撃で、戦闘は始まった。
「大怪我しないうちに帰った方が良いんじゃない? 収入ナシの上に治療費でマイナス、なんて……嫌でしょ?」
暴れ回るホワイトラビットを見ながら告げるリアの言葉に、一斉に五黄を振り返る男達。
「せ、先生! お願いします!」
「よっしゃ! 任せろ!」
五黄が言葉と共に放ったアッパーで大空を舞う、賞金稼ぎA。
「……へ?」
「せ、先生、ナズェ!」
「オンドゥルラギッタンディスカー!?」
「悪いな、虎に手ぇ出すとあっちゃあ見過ごせねぇんだよ」
口々に悲鳴? を上げる賞金稼ぎ達に見せびらかすように、ピコピコと己の『耳』と『尻尾』を動かす五黄。
「どかどかーん!」
3人もの覚醒者を相手にして、賞金稼ぎ達に成す術など無かった。
●説得力
「ちょっと、俺の話聞いてくれないかな」
街の入り口で、ボロボロになった賞金稼ぎ達を迎えたのはダインだった。立ちはだかったダインに各々の武器を向ける賞金稼ぎ達だったが、武器を構えようとしないダインの様子に賞金稼ぎ達も武器を降ろす。
「俺が前に会った時、あの子トラ、俺たちがそこに着く前から牧場を守ってくれてて、さ……」
野生のトラが自分から人の味方をしてくれている事、その事を失いたくない、と告げるダインの言葉に考え込む賞金稼ぎ達。
ちょっと考えさせてくれ、とダインに告げて酒場に戻った賞金稼ぎ達が、酒場の酔っ払いから、賞金のビラが回収騒ぎになっている事を知らされるのはその後間もなくの事だった……。
●ミルクタイム
「よう、久し振り……俺の事覚えてるか?」
澪から貰った牛乳を美味そうに飲んでいる虎鉄に、挨拶しながら牛乳を入れた皿の横に干し肉を置くグリムバルド。
虎鉄の耳は、今はピクピクと別の方向……仲間達が賞金稼ぎと戦っている方向を気にしているようだが、まぁ覚えてなかったら自分の上に飛び降りては来ないだろうとも思う。
「それで、ですね? 今、君を狙っている人が居るから、しばらく隠れてて欲しいんだけど……」
牛乳を飲み終わった虎鉄に向けて忙しなく手を動かして、どうにか虎鉄とコミュニケーションを取ろうとする澪。
「……通じてますかね?」
パントマイムのようなポーズのまま、カクン、とグリムバルドとリク、そして何とか合流に間に合った誠一の方に首を向けて尋ねる。
「なんか通じてそうな感じもするけど、正直……わからねぇ」
「俺も、ちょっとわからないな……」
「……わかりました、街の人達が諦めるその日まで、私はトラさんと行動を共にします!」
正直な感想を告げるリクとグリムバルド、トラを触ってみようかな、と、おっかなびっくりに手をわきわきさせている誠一に向けて、野生生活を宣言する澪だった。
「もしこの森にこだわりが無いなら、移動してみないか?」
頑張りが斜め方向に飛翔し始めた澪の横から虎鉄に話し掛けるグリムバルド。その言葉に欠伸で応えたトラは、グリムバルドが渡した干し肉を咥えると……
それは単に干し肉が口に大き過ぎただけなのかも知れない。だけど確かに、トラはニヤリと笑うように口を歪めながら、樹上へと、駆け上って行った。
虎鉄を見送った彼等が、魔導短伝話で仲間達から、賞金稼ぎ達が虎鉄を諦めた事を知らされたのはその直後の事だった。
●とある商人の屋敷にて
「んー? ビラの回収? まだ早いと思うが……。まあ良い、私はちょっと幻獣を買……借り受けるために出掛けねばならんくなったから、回収してくれるのならまぁ丁度良いわい。ワシのイェジドちゃあ〜〜ん! 待っててねぇ〜〜!」
という言葉を実際に発したかどうかはともかくとして、商人はこの騒ぎの直後から商用で街を離れる事となり、澪が野生に還る前に事態は自然と終息を迎える事となった。
トラが何処へ向かったのかはわからないが、今まで通り気ままに生きて行くのだろう。その行く先は、トラにしか……いや、トラ本人にもわからないのかも知れない。
野生に生きる者の明日がどうなるのかはわからない。ただ、少なくとも今は、大丈夫。そう思えた。
ざわめく酒場に入り込み、カウンターで酒を頼んだ神代 誠一(ka2086)は、喧騒に耳を傾けた。耳に入る噂話の中にトラの話をしているテーブルを見付けると、グラスを片手にそのテーブルへと移動する。
軽い雑談で相手の持っている情報を確認してみるが、やはりビラ以上の話を持っている様子はなく。
「やぁ〜、ここだけの話なんですけど。そのビラ……連絡先間違ってるらしいですね」
「ガッハッハ、そいつぁ間抜けな話だな」
既に酔いで鼻まで赤くなっている男達はあっさりと信じ込み、その大声によって噂は上書きされていく。
「捕獲しても届け先が違うんじゃ意味がないですよね」
大声で騒いでいるその男達の横で、半分酔っ払ったような様子を見せながらにこやかに話を締めた誠一は、しっかりとした足取りでその酒場を離れた。
一方、グリムバルド・グリーンウッド(ka4409)は、直接森の中へと入っていた。
「困ってる感じにウロついてたら出て来ないかなー」
少なくとも賞金稼ぎより先にトラに会えない事には本当に困ることになってしまうので、実際困ってはいるのだが
「……あいつ、元気みたいだな」
人を助けるトラなんて者がそうそう居るとも思えず。自然に思い浮かぶ、以前共に戦った子トラの姿。
「優しい奴、だよな」
出逢った時の事を思い出して、軽い笑みと言葉が漏れる。 同時に、そんな奴から自由を奪おうとする相手に対して浮かぶ、ちょっとした怒り、というかムカつき。
「……よし、機会があったら一発ブン殴ろう」
パシン、と軽く拳を掌に叩き付け、グリムバルドは森に向けて走り出した。
そしてここは、噂の元となった男の家。漏れ来る声はスピアを担いだ若い男、ハンターであるダイン(ka2873)の声だった。 ダインも、グリムバルドと同じくそのトラが旧知の相手であると確信していた。
「ねえ、何とかしてやめさせられないかな? あの子に人を嫌いになって欲しくないんだ」
「そうだよ! 人を助けたトラが、助けて損するなんて変な話だもん」
すがるように男に話し掛けるダインの横から、ホワイトラビット(ka5692)もピョコピョコと跳ねながら男を説得する。
「だよな。俺も、今回みたいな恩が仇で返るようなのを見て見ぬ振りなんてしたくない」
畳み掛けるキヅカ・リク(ka0038)の言葉に、男も周りのハンター達を見回しながら首を縦に振る。
「もちろん、俺もそんなの寝覚めが悪いし、協力させて欲しい」
男が取り出して来た付近の地図に書き込まれたポイントに、あ、という控えめな声と共に1つの手が挙がる。
「そこなら私知ってます」
和泉 澪(ka4070)にとって覚えのある場所、彼女が以前トラと共に戦った場所の近くだった。
その男にトラと出逢った細かい位置の情報を聞き出した一行。
「じゃあ出発だな。……と、ただトラって呼ぶのも味気ないし、トラの呼称は……虎鉄という事でどうだろう」
出発に向けてにこやかに提案するリクの声に、一瞬流れる微妙な雰囲気。さりとて対案が特にあるでもなく、今回は虎鉄と呼ぶという事で話が決まった所で……。
「話は聞かせて貰ったけど、皆も虎さん助けたい感じかな?」
「あ、仁川さん」
奇遇だね、と澪達に向けてにこやかに微笑む仁川 リア(ka3483)と
「俺もこの話は気に入らねえ、一口噛ませて貰うぜ」
噂話がデマではない事を確認しに来て、手間が省けた形になった五黄(ka4688)が頷く。
「んで、よ。ビラ見てトラを捕まえようとする奴も出るだろうし、俺はそいつらにお引き取り願う役をやろうかと思うんだが」
リアの方を見ながら、自分の行動を伝える五黄。
「ああ、僕もそっちに回ろうかな」
「ボクも! ……ボク、それ程口が回る方じゃないし!」
「早いなオイ」
頷いたリアの言葉と同時に、ホワイトラビットが決断すると共にピョンピョンと走り出す。身体を動かす方が性に合っている彼女は、待ち伏せのため森に向かうようだ。
「……そうだね、トラの捜索は和泉達に任せておけば大丈夫そうだ、上手く見付けてくれるよ。こっちも期待を裏切らないように仕事しよう」
こうして、即席のトラ防衛作戦は幕を上げた。
酒場を出た誠一は、そのまま再度ハンターオフィスへと向かっていた。
「あぁ、そのビラですか、商人さんとこの人が勝手に撒いてっただけですので、欲しければ好きなだけ持ってって下さい」
微妙にやる気の無さそうな受付嬢に
「ああ……いえ、たった今酒場で聞いたんですが、何だか情報に間違いがあって刷り直すらしいので、回収に来たんですよ」
良かったら回収に協力して頂けると助かります、という誠一の言葉に気軽に応じる受付嬢。正式な依頼ではないため、彼女にとってはどうでも良い物なようだ。
ビラを運びながら通り掛かった井戸端会議にも声を掛けた誠一は、魔導短伝話を取り出し……。
「……流石に通じませんね。少し急ぎましょうか」
通話範囲外を示す音を聴き、軽く眼鏡のブリッジを持ち上げた誠一の姿は、強く踏み込む足音と、流れる風だけを残して路地から消えて行った。
●みつけた?
「よっ、と!」
一気に噴出したマテリアルの淡い光をなびかせながら手近な樹を駆け上がったリクが、クルリと回転しながら着地する。
「トラは見えなかったけど、やっぱり居るな……。賞金稼ぎ」
「……急ぎましょう」
賞金稼ぎと思しき集団が別方向から森に入るのを見て眉を寄せたリクの声に、澪も表情を引き締める。そして……。
「お? あいつ確かオフィスに居た……キヅカだな」
飛び上がったリクの姿を見かけたグリムバルドは、単独での捜索に早々に見切りを付ける事にしたようだった。
「この近くで間違い無いと思うのですが……」
男に貰った地図の標の位置で立ち止まった、リクと澪、そしてグリムバルドの3人。
「縄張りにしている訳じゃなさそうかな……。でも近くに居るのは間違い無さそうだ」
打ち捨てられたゴブリンの死体の側に新しいトラの毛を見付けたリクの言葉に、これで誘い出せないかな、と、牛乳瓶の蓋を開く澪。
そのパカッという音が付近に響いた直後、樹上から聞こえたガサッという音と共にグリムバルドの頭に軽い衝撃が走る。
「いでっ! 何が……って、お前かよ……」
グリムバルドの頭を踏み台にして、その目の前に飛び降りて来たのは、例のトラ……虎鉄だった。
虎鉄はどうやら既にこちらに気付いていたようで、樹上に身を隠しながら3人を眺めていたらしい。
グリムバルドの足下にお座りのポーズで座り込みながら、じーっと澪の手元を眺めている虎鉄の視線が、降りてきた理由と、その要求を雄弁に語っていた。
●狩るものは
猟具屋で網を買い込む男達を見付け、近付く五黄。持ち掛けた同行の交渉は
「人に慣れてるって噂はあるが、相手は虎だろ?」
彼の放った一言であっさりと通った。どうやら男達の方も危険について思うところはあったようで、渡りに船と言った所らしい。
気勢をあげる男達の背後で、悪い笑みを浮かべる五黄。確かに『虎』に手を出す事はとても危険であるというその言には、嘘はなかった。
「困るんだよね、僕らより先にアレを見つけられるのは……」
こっそり連絡を取り合いながら差し掛かった、森の入り口。
芝居掛かった言葉と共に、五黄と行動を共にしている賞金稼ぎの前に立ち塞がる、リア。
見せ付けるように覚醒したリアが、熱なく燃え盛る金色の翼を軽く羽撃かせながら静かに構えたその槍は、ピタリと賞金稼ぎ達に向けられ、息を飲む男達……
「どかぁーーん!」
の横合いから、クルリと回転しながら手近な1人に向けて飛び蹴りを放ちつつ飛び込む白い塊。
着地と共に、一時も止まらないジンガの構えから次の標的に向けて回転するホワイトラビットの蹴撃で、戦闘は始まった。
「大怪我しないうちに帰った方が良いんじゃない? 収入ナシの上に治療費でマイナス、なんて……嫌でしょ?」
暴れ回るホワイトラビットを見ながら告げるリアの言葉に、一斉に五黄を振り返る男達。
「せ、先生! お願いします!」
「よっしゃ! 任せろ!」
五黄が言葉と共に放ったアッパーで大空を舞う、賞金稼ぎA。
「……へ?」
「せ、先生、ナズェ!」
「オンドゥルラギッタンディスカー!?」
「悪いな、虎に手ぇ出すとあっちゃあ見過ごせねぇんだよ」
口々に悲鳴? を上げる賞金稼ぎ達に見せびらかすように、ピコピコと己の『耳』と『尻尾』を動かす五黄。
「どかどかーん!」
3人もの覚醒者を相手にして、賞金稼ぎ達に成す術など無かった。
●説得力
「ちょっと、俺の話聞いてくれないかな」
街の入り口で、ボロボロになった賞金稼ぎ達を迎えたのはダインだった。立ちはだかったダインに各々の武器を向ける賞金稼ぎ達だったが、武器を構えようとしないダインの様子に賞金稼ぎ達も武器を降ろす。
「俺が前に会った時、あの子トラ、俺たちがそこに着く前から牧場を守ってくれてて、さ……」
野生のトラが自分から人の味方をしてくれている事、その事を失いたくない、と告げるダインの言葉に考え込む賞金稼ぎ達。
ちょっと考えさせてくれ、とダインに告げて酒場に戻った賞金稼ぎ達が、酒場の酔っ払いから、賞金のビラが回収騒ぎになっている事を知らされるのはその後間もなくの事だった……。
●ミルクタイム
「よう、久し振り……俺の事覚えてるか?」
澪から貰った牛乳を美味そうに飲んでいる虎鉄に、挨拶しながら牛乳を入れた皿の横に干し肉を置くグリムバルド。
虎鉄の耳は、今はピクピクと別の方向……仲間達が賞金稼ぎと戦っている方向を気にしているようだが、まぁ覚えてなかったら自分の上に飛び降りては来ないだろうとも思う。
「それで、ですね? 今、君を狙っている人が居るから、しばらく隠れてて欲しいんだけど……」
牛乳を飲み終わった虎鉄に向けて忙しなく手を動かして、どうにか虎鉄とコミュニケーションを取ろうとする澪。
「……通じてますかね?」
パントマイムのようなポーズのまま、カクン、とグリムバルドとリク、そして何とか合流に間に合った誠一の方に首を向けて尋ねる。
「なんか通じてそうな感じもするけど、正直……わからねぇ」
「俺も、ちょっとわからないな……」
「……わかりました、街の人達が諦めるその日まで、私はトラさんと行動を共にします!」
正直な感想を告げるリクとグリムバルド、トラを触ってみようかな、と、おっかなびっくりに手をわきわきさせている誠一に向けて、野生生活を宣言する澪だった。
「もしこの森にこだわりが無いなら、移動してみないか?」
頑張りが斜め方向に飛翔し始めた澪の横から虎鉄に話し掛けるグリムバルド。その言葉に欠伸で応えたトラは、グリムバルドが渡した干し肉を咥えると……
それは単に干し肉が口に大き過ぎただけなのかも知れない。だけど確かに、トラはニヤリと笑うように口を歪めながら、樹上へと、駆け上って行った。
虎鉄を見送った彼等が、魔導短伝話で仲間達から、賞金稼ぎ達が虎鉄を諦めた事を知らされたのはその直後の事だった。
●とある商人の屋敷にて
「んー? ビラの回収? まだ早いと思うが……。まあ良い、私はちょっと幻獣を買……借り受けるために出掛けねばならんくなったから、回収してくれるのならまぁ丁度良いわい。ワシのイェジドちゃあ〜〜ん! 待っててねぇ〜〜!」
という言葉を実際に発したかどうかはともかくとして、商人はこの騒ぎの直後から商用で街を離れる事となり、澪が野生に還る前に事態は自然と終息を迎える事となった。
トラが何処へ向かったのかはわからないが、今まで通り気ままに生きて行くのだろう。その行く先は、トラにしか……いや、トラ本人にもわからないのかも知れない。
野生に生きる者の明日がどうなるのかはわからない。ただ、少なくとも今は、大丈夫。そう思えた。
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/12/10 10:08:06 |
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相談卓 和泉 澪(ka4070) 人間(リアルブルー)|19才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/12/13 02:03:50 |