ゲスト
(ka0000)
【闇光】雪に刻む轍・前編
マスター:樹シロカ

- シナリオ形態
- シリーズ(新規)
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,300
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/12/14 22:00
- 完成日
- 2015/12/24 20:22
このシナリオは3日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●雪原の異変
黄昏時のような頼りない光のもと、三台の魔導トラックがゆっくりと街道を進む。
雪道は固く凍り、スピードがほとんど出せないのだ。
「おい。なんか変な音が聞こえないか?」
「ん? ……何も聞こえんが……」
助手席から身を乗り出した兵士が、寒風に耳を澄ます。
「いや、様子が変だ。一度止めろ!」
空砲の合図で後続車もゆっくりと止まった。それとほぼ同時だった。
街道脇の雪原が、突然山となって盛り上がったのだ。
「なんだありゃ……!」
ギャギャギャギャッ。
近くの枯れ木から、不気味な声と共に鳥が羽ばたいた。
●負傷兵キャンプ
魔導バイクの伝令兵が、雪を跳ね上げながら危なっかしく飛び込んで来た。
その知らせを受けて同盟軍駐留軍を預かるメリンダ・ドナーティ(kz0041)中尉は、急ぎ駆けつける。
ガチガチ震えながらも、伝令兵は託されたメッセージを伝えた。
「要請通り、という訳にはいきませんが。救援物資が届く手筈になっていました」
ほっと安堵の息をつきかけて、メリンダが眉を寄せる。
「……いま、した?」
「はい。実は……」
連合軍司令官の要請を受けて北方まで出征した同盟軍派遣部隊だったが、地理に通じているとは言い難い。
そこでメリンダの隊は、専ら後方任務に当たっていた。
後方といっても楽ができるはずもない。
負傷兵の回収、彼らを回収したキャンプの警護、回復した将兵の現場復帰支援、などなど。やることは幾らでもあった。
そうしているうちに医薬品や食糧、その他の物資が不足し始めたのだ。
そこでメリンダは思いつく限りの伝手を頼り、何とか物資を手配した。その物資がようやく届くことになったのだが……。
「歪虚、ですか」
唇を噛み、メリンダが呻くように呟く。
輸送団が街道を走行中、巨大歪虚に襲われたのだ。
幸い物資はほとんど無事で、どうにか近くの防衛拠点に逃げ込んだのだが、そこから動けない。
伝令はそのことを伝えに来たという訳だ。
「ありがとうございます。後はこちらで引き取りに行くよう手配します。暖かい物でも飲んで、ゆっくり身体を休めてください」
メリンダは敢えて笑顔を作って見せた。
黄昏時のような頼りない光のもと、三台の魔導トラックがゆっくりと街道を進む。
雪道は固く凍り、スピードがほとんど出せないのだ。
「おい。なんか変な音が聞こえないか?」
「ん? ……何も聞こえんが……」
助手席から身を乗り出した兵士が、寒風に耳を澄ます。
「いや、様子が変だ。一度止めろ!」
空砲の合図で後続車もゆっくりと止まった。それとほぼ同時だった。
街道脇の雪原が、突然山となって盛り上がったのだ。
「なんだありゃ……!」
ギャギャギャギャッ。
近くの枯れ木から、不気味な声と共に鳥が羽ばたいた。
●負傷兵キャンプ
魔導バイクの伝令兵が、雪を跳ね上げながら危なっかしく飛び込んで来た。
その知らせを受けて同盟軍駐留軍を預かるメリンダ・ドナーティ(kz0041)中尉は、急ぎ駆けつける。
ガチガチ震えながらも、伝令兵は託されたメッセージを伝えた。
「要請通り、という訳にはいきませんが。救援物資が届く手筈になっていました」
ほっと安堵の息をつきかけて、メリンダが眉を寄せる。
「……いま、した?」
「はい。実は……」
連合軍司令官の要請を受けて北方まで出征した同盟軍派遣部隊だったが、地理に通じているとは言い難い。
そこでメリンダの隊は、専ら後方任務に当たっていた。
後方といっても楽ができるはずもない。
負傷兵の回収、彼らを回収したキャンプの警護、回復した将兵の現場復帰支援、などなど。やることは幾らでもあった。
そうしているうちに医薬品や食糧、その他の物資が不足し始めたのだ。
そこでメリンダは思いつく限りの伝手を頼り、何とか物資を手配した。その物資がようやく届くことになったのだが……。
「歪虚、ですか」
唇を噛み、メリンダが呻くように呟く。
輸送団が街道を走行中、巨大歪虚に襲われたのだ。
幸い物資はほとんど無事で、どうにか近くの防衛拠点に逃げ込んだのだが、そこから動けない。
伝令はそのことを伝えに来たという訳だ。
「ありがとうございます。後はこちらで引き取りに行くよう手配します。暖かい物でも飲んで、ゆっくり身体を休めてください」
メリンダは敢えて笑顔を作って見せた。
リプレイ本文
●
冷たい風が頬を叩く。
何処までも続く白い光景に、ウィンス・デイランダール(ka0039)は溶け込むかのように見えた。
暫し考え込み、建物に戻る。
「ドナーティ、ちょっとやってもらいたいことがある」
「何でしょう?」
白いコートを着込んだメリンダが愛想よく答えた。
「これを使え。それで、だ……」
トランシーバーを渡すと、ウィンスは低い声でメリンダに何事かを語る。
榊 兵庫(ka0010)は寒い中、額にうっすらと汗を浮かべていた。
「よし、こんなもんだな」
油にまみれた作業用の手袋を外し、魔導バイクの座席を軽く叩く。
「こっちもできた!」
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)も魔導バイク「ゲイル」のタイヤから顔をあげた。
ふたりは雪道に備えて、借り受けたチェーンを魔導バイクに装着しているのだ。
兵庫が念のためにアルトのバイクの方も確認し、OKを出す。
龍崎・カズマ(ka0178)が愛馬を引いてきた。
「こっちはいつでも行けるぜ」
馬の鼻息が白い。臆病で優しい生き物を危険に晒すのは忍びないが、その鋭い勘に期待してのことだ。
アルトはもこもこの毛皮に包まれた犬を抱き締める。
「頼んだよ」
恐らく人間よりも、異変に気付くのは早いだろう。保険は多めにかけておくに限る。
魔導トラックの運転席に乗り込むメリンダに、央崎 枢(ka5153)が声をかけた。
「ねーさん、無理はすんなよ! いざとなったら俺が運転変わるからな」
どんなことが起こるか判らない。ハンターではないメリンダには対応しきれない事態もありうる。
馴染みの枢から気遣われ、メリンダも肩の力をぬいて笑顔を向けた。
「有難うございます、何かあったら宜しくお願いしますね。でも央崎さんもお気を付けて!」
星野 ハナ(ka5852)が運転席に向かってひらひらと手を振る。
「メリンダさん運転よろしくお願いしますぅ」
「はい、なるべく安全運転を心がけますね!」
ハナは毛皮のコートをしっかりと着込んで、荷台に回った。
「それじゃ私は荷台でぇ……っと。一度乗ってみたかったんですよねぇ。これから何度もあるかもしれませんけどぉ」
簡易な幌がかけられただけの荷台は、いかにも無骨だ。
先に乗りこんでいたジャック・エルギン(ka1522)が手を差し出す。
「ほらよ、掴まれ。そこの金具に足をかけて……そうそう、上手いぜ」
「ありがとうございますぅー♪」
ハナはにっこり笑って、遠慮なく手を借りる。続いて叢雲 伊織(ka5091)も。
「毛布は持参しましたけど……手が悴まないようにようしておきませんと」
まだあどけなさの残る顔には、強い責任感が滲む。
兵站は戦の要である。物資が足りないと聞かされれば士気も下がるというものだ。何としても無事に持ち帰らねばならない。
最後に乗りこんだウィンスが、荷台に予備の毛布を広げ、更にカンテラを置いた。
「これでもないよりはましだろう」
ハナは軽く手をあげ、荷台の面々に尋ねる。
「えっとぉ。ちょっと考えたんですけどぉ。四人居るので各人一方向警戒にしますぅ? それとも全周警戒ですぅ?」
「兵士が最初に勘づいたのは『変な音』って話だ。左右の警戒は必要じゃねーの」
口調こそ軽いが、幌の隙間から覗くジャックの目は真剣だ。
自身も同盟出身、故国を遠く離れてこのキャンプに駐留している同盟軍の兵士達を応援してやりたい気もある。
「じゃあ私は、こちらから見てますねぇ。こう、トラックの左側から後にかけて、ぐるっとぉ」
ハナが移動すると、伊織は双眼鏡を手に右側へ。
「ではボクは、こちらから監視しますね!」
トラックに全員が乗り込んだのを確認し、カズマが馬を進ませる。
「そんじゃま、安全確保と行きますかねぇ」
カズマを先頭に、一団がゆっくりと雪原へと進み出た。
「頼んだぞー!」
「気をつけてくださいねー!」
キャンプの人々の声がわっと背中に押し寄せる。
「貴重な物資、速やかに受領して戻ってこよう」
兵庫は振り返らないまま、分かっているというように片手をあげた。
●
歪虚が出現した地点は、キャンプへ続く街道上だった。
往路で倒してから物資を引き取るか、やり過ごして物資を運ぶか。普通に考えれば前者だが、万一討ち漏らせば復路で手負いの歪虚から思わぬ報復を受けるかもしれない。
「どの道、敵に怯えながらでは運搬の効率も上がらぬだろう」
多少のリスクを覚悟の上でも往路での殲滅を図るという兵庫の意見に、全員が賛同した。
騎乗のカズマを先導に、魔導バイクの兵庫、アルト、枢、その後から大型魔導トラックが続く。
「しっかし、たまらねーなこの寒さは」
ジャックが荷台でぼやいたのも無理はない。視界確保には幌を閉じるわけにもいかず、荷台の面々は寒風に晒されたまま運ばれているのだ。
「これを飲め。多少は暖まるだろう」
ウィンスが差し出したのは、暖かな湯気を立てる生姜入りの紅茶だった。乏しい物資の中、キャンプで分けて貰ったものだ。
「ああ、すまん」
反射的に受け取ったが、ジャックはまじまじとウィンスを見てしまう。
「……何だ?」
「いや。えーと……準備がいいな」
「任務の一環だ。チームのパフォーマンスの低下は見過ごせない」
大真面目な顔で頷き、ウィンスは伊織とハナにも紅茶を配る。
(なんかこう、案外オカンぽいというか……)
ジャックは紅茶をすすりつつ、流石にその言葉を飲みこむ。
ある意味、寒さが最大の敵だった。
少し前までは踏み固められていた道も、歪虚の出現で人通りが絶え、ともすれば道以外の場所に踏み込みそうになる。
「伝令くんが転倒して怪我しなかったのは、奇跡だよ」
アルトは懐炉がわりの祝福の水筒を服の上から撫でた。
やがて、歪虚の出現地点が近付く。
物音を聞き逃すまいと、皆が口をつぐむ。互いの回線は開いたままだ。
聞こえるのはタイヤが轍を刻む音、馬の息遣い、そして吹き抜ける風の音のみ。
その時、カズマの馬の足並みが乱れた。
同時に、雪が軋む音。
「トラックは停止しろ。おいでなすったぜ」
カズマが囁く。馬は何かに興奮し、その場でやたらと足踏みする。
『一匹ですか?』
メリンダの緊張した声。
「まだ分からん。だが最悪の事態に備えて欲しい」
そう返事した時だった。突如、右前方の雪原が盛り上がったのだ。
アルトがバイクを降り、カズマの傍らに並んだ。雪の割れ目から姿を見せた敵の姿に呆れたような声を出す。
「スノーワーム……要するに白いミミズか」
雪の中から現れたのは、つるんとした先頭部分であった。続いて少し色合いの違う部分。これが『首』なのだろう。そこまで見えたところで、敵はまた雪に潜り込む。
「足がないのはどうにも苦手だな、生理的に。狩らせてもらう」
アルトの言葉に僅かに口元を緩めつつ、カズマが声をかけた。
「ワームの耐久度がいまいち読めん。あちらの勢いを利用して、まずは表皮に穴を空けてやろう」
凍った雪を掻き分けて進むだけの固さだ、楽観視はしない。
枢がニヤリと笑い、ヴァイパーソードを鞭型に変化させた。
「待ってやる必要もないだろう。向こうから出て来るように仕向ければいい」
ワームはこちらの立てる物音に反応している可能性が高いと考え、「エンタングル」でヴァイパーソードを打ち鳴らす。
ガチャガチャと金属の立てる物音が響いた。
果たして、枢のすぐ近くの雪原が、大きく膨らむ。
「捕捉されると面倒だ、一撃離脱でいくぞ」
兵庫のバイクが唸る。手にした十字の穂先を持つ槍に力を籠める。
スピードを乗せた重い一撃を、膨らむ雪山目がけて思い切り叩きつけた。
「キキキキキィ!」
耳障りな音をたて、ワームが身を捩った。走りぬけようとした兵庫にその尾部を叩きつける。
「痛ッ……!」
兵庫はバイクごと飛ばされたが、柔らかい雪が幸いした。
だが尚も迫るワーム。
「行くぞ」
カズマはアルトと共に、猛進。
ワームは単細胞らしく、完全に兵庫に意識が向いていた。一気に間合いを詰めると、敵を挟むように二手に分かれる。
――どちらが狙われてもどちらかが残る。言葉にしなくても互いに思うことは同じだ。
うねるワームの身体に、カズマは自重をかけて銀光煌めくスピアの穂先を抉り込む。
ワームが暴れるが、持って行かれそうになるスピアに尚も力をかける。
アルト専用にカスタマイズされた、試作振動刀「オートMURAMASA」の駆動音が大きくなった。全身から赤い陽炎が立ち昇る。
「逃がさない」
言葉よりも雄弁に語る刃が、カズマが付けた傷を更に押し広げた。
ワームの身体は今にも分断されそうだ。そのとき、これまでとは全く違う音が響く。
「キキィィイイイイイ」
それが前触れだった。ワームの首部分が閃光に包まれる。
バシッ!
目が眩み、全身に痛みが走る。電気ショックだ。
同時にワームは尾部を更に打ちつけようとして――身悶えた。
「そうはいくか」
枢が鞭状のヴァイパーソードを尾部に絡め、動きを封じていたのだ。
自らも電撃を受け、額から血を流している。それでも足を踏ん張り、尾部を押さえる。
「いいぞ、このまま断ち切る!」
カズマは取り回しの良いロングソードに持ち替え、力いっぱい叩きつけた。
ワームは何とか厄介な連中を引きはがそうと、再び閃光を発する。
枢は歯を食いしばって痛みに耐えるが、ワームの力も強い。振り切られるかと思った瞬間、兵庫の槍が尾部を縫い止める。
「もう少しだ、頑張れ!」
こうして身動きできないままに、ワームの身体は分断された。
だが安堵している暇はない。
「トラックは!?」
後方からも、甲高い音が響いてくる。
●
前方が戦闘状態に入ったとの知らせに、ジャックはすぐにトラックの荷台から飛び降りた。
「ミミズの化けモンか。雪に待ち伏せ、ご苦労なこった!」
「敵は一体しか確認できていないんだな?」
ウィンスはメリンダに確認し、ジャックと共に停止したトラックを背中にして雪道に立つ。
伊織とハナは荷台から周囲の警戒を続けていた。
「このトラックの方が音は大きいですからね。音に反応するなら、こちらを無視するのは考えにくいと思います」
伊織は僅かな変化も見逃すまいと目を凝らした。
その袖口をハナが引っ張る。
「進行方向起点にして七時方向、距離およそ三百m。一緒に見てくださいぃ!」
「えっ」
伊織が双眼鏡を向ける。果たして、不自然に盛り上がった雪の塊が、みるみる接近して来る。
「来ました!」
叫ぶと同時に伊織は荷台を飛びおりる。
ハナも続いて降り、トラックの後方へ向かって駆け出した。
「……火炎符! こっち向きなさいワーム! 貴方の敵は私ですよぉ! 」
大声をあげて走りながら、取り出した火炎符を打つ。
進行方向を見定め、力いっぱい。
「キキ、キキ……」
辺りに響き渡る耳障りな高い音。ちらりと見えた丸い頭部が、火炎に包まれた。
「キキキキキィ!」
それは悲鳴か、怒号か。ワームは余程こたえたのか、真っ直ぐにハナを目がけて突っ込んでくる。
「支援します!」
伊織が赤い弓を引き絞り、続けさまに矢を射る。当たらなくてもいい、ハナに向かう敵の意識を逸らすことができればいいのだ。
伸びあがったワームの頭めがけて、別方向からも鋭い一撃。
「ほら、こっちがお留守だ!」
ジャックがスローイングカードで狙うのは首。だが知能が低い敵はめちゃくちゃに頭を振りまわし、却って狙い難い。
それでも三方向からの遠距離攻撃に、ワームは不利を悟ったらしく雪に潜り込もうとする。
その隙にウィンスが近付いていた。雪に潜り込む敵の身体に七色に輝く槍の刃先を突き立てると、ワーム自身が逃げる力で引っ張られた傷口が大きく広がる。
「今だ、ドナーティ。頼むぞ」
トランシーバーに語りかけるや否や、手を傷口に突っ込んだ。
『えっ、えっ!? 待って、えーと、えーと、あーーー本日はお集まりいただきまして誠に……!!!』
メリンダの良く通る声がトランシーバーから響く。ワームは雪に潜り込んだが、メリンダの声は途切れ途切れに続く。
ウィンスはメリンダに、周波数を合わせたトランシーバーを渡していた。敵が潜んだ場所が分かるように、いざというときは『声』を出し続けろと。
(ついてきたからには、役に立った方が当人も気も楽だろう)
ある意味、ウィンスなりの思いやりだったのかもしれない。
メリンダは自棄になりながら、同盟軍の定例会見をでっちあげて喋り続ける。
「こりゃ便利だな」
ジャックが笑いをこらえながら、声が近付くのを待ち構えた。
「とど……けぇ!!」
ここぞと見定めた地点でバスターソードを突き出す。ワームが顔を出した瞬間、『刺突一穿』の直線攻撃が頭部を打つ。
「キキィィイイイイイ」
「もしかして……」
ワームが立てる異様な音に、伊織は嫌な予感を覚えた。
伊織が狙いを定め、首目がけて一矢を放つのと、ウィンスが敵の身体に槍を突き立てるのはほぼ同時。
その瞬間、閃光が走った。
「……ッ!!」
「くっ!!」
ジャックとウィンスが放電を受けてよろめいた。そのまま逃げるかと思えば、ワームは尾部を思い切り逸らし、ウィンスを打とうと身を捩る。
それでもウィンスは槍に籠める力を緩めない。
「痛ってえ……滅茶苦茶やりやがって!」
ジャックがバスターソードを抉り込む。ワームの身体が千切れ、暴れていた尾部が雪原を滑って行った。
『危ない!! 星野さんッ』
ワームの腹からメリンダの叫び声が響く。
「トラックは、守り抜きますぅ!」
ハナは覚悟を決めた。自分の身を呈しても、トラックは破壊させない。
飛んでくるワームの尾部目がけて、瑞鳥符を打つ。
「逸れてくださいよぅ……!」
光の鳥がぶつかり、ワームの尾は大きく跳ねた。トラックからは逸れたが、ハナの身体が巻き込まれて弾き飛ばされる。
「きゃっ……!」
ハナの身体は一瞬宙に浮き、それから地面に叩きつけられた。
「なんて無茶を!」
駆け寄るメリンダに、ハナはそれでも笑って見せた。
内心、できればイケメンの方が良かったかなー等と思ったことは内緒である。
●
確認されていたワーム二体は、見事退治された。
防衛拠点に辿りつくと、怪我人の応急手当てをすませ、直ぐに物資を満載したトラックと共に帰路につく。
「キャンプじゃ待ちくたびれているだろう。この物資を一刻も早く届けてやることにしようぜ」
兵庫は傷の痛みを思わせない様子で待っている者たちを気遣った。
街道を進み、先刻の場所を通る。ワームが這いずった跡がまだ雪の上に残っていた。
大型トラックのハンドルを握りながら、メリンダはちらりとそれを見遣る。
(ワームは千切れて直ぐには消えなかった。なりたて歪虚、ね……)
軽く身震いすると、正面を見据える。
ひとまずは、任務を完遂することが大事なのだから。
<続>
冷たい風が頬を叩く。
何処までも続く白い光景に、ウィンス・デイランダール(ka0039)は溶け込むかのように見えた。
暫し考え込み、建物に戻る。
「ドナーティ、ちょっとやってもらいたいことがある」
「何でしょう?」
白いコートを着込んだメリンダが愛想よく答えた。
「これを使え。それで、だ……」
トランシーバーを渡すと、ウィンスは低い声でメリンダに何事かを語る。
榊 兵庫(ka0010)は寒い中、額にうっすらと汗を浮かべていた。
「よし、こんなもんだな」
油にまみれた作業用の手袋を外し、魔導バイクの座席を軽く叩く。
「こっちもできた!」
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)も魔導バイク「ゲイル」のタイヤから顔をあげた。
ふたりは雪道に備えて、借り受けたチェーンを魔導バイクに装着しているのだ。
兵庫が念のためにアルトのバイクの方も確認し、OKを出す。
龍崎・カズマ(ka0178)が愛馬を引いてきた。
「こっちはいつでも行けるぜ」
馬の鼻息が白い。臆病で優しい生き物を危険に晒すのは忍びないが、その鋭い勘に期待してのことだ。
アルトはもこもこの毛皮に包まれた犬を抱き締める。
「頼んだよ」
恐らく人間よりも、異変に気付くのは早いだろう。保険は多めにかけておくに限る。
魔導トラックの運転席に乗り込むメリンダに、央崎 枢(ka5153)が声をかけた。
「ねーさん、無理はすんなよ! いざとなったら俺が運転変わるからな」
どんなことが起こるか判らない。ハンターではないメリンダには対応しきれない事態もありうる。
馴染みの枢から気遣われ、メリンダも肩の力をぬいて笑顔を向けた。
「有難うございます、何かあったら宜しくお願いしますね。でも央崎さんもお気を付けて!」
星野 ハナ(ka5852)が運転席に向かってひらひらと手を振る。
「メリンダさん運転よろしくお願いしますぅ」
「はい、なるべく安全運転を心がけますね!」
ハナは毛皮のコートをしっかりと着込んで、荷台に回った。
「それじゃ私は荷台でぇ……っと。一度乗ってみたかったんですよねぇ。これから何度もあるかもしれませんけどぉ」
簡易な幌がかけられただけの荷台は、いかにも無骨だ。
先に乗りこんでいたジャック・エルギン(ka1522)が手を差し出す。
「ほらよ、掴まれ。そこの金具に足をかけて……そうそう、上手いぜ」
「ありがとうございますぅー♪」
ハナはにっこり笑って、遠慮なく手を借りる。続いて叢雲 伊織(ka5091)も。
「毛布は持参しましたけど……手が悴まないようにようしておきませんと」
まだあどけなさの残る顔には、強い責任感が滲む。
兵站は戦の要である。物資が足りないと聞かされれば士気も下がるというものだ。何としても無事に持ち帰らねばならない。
最後に乗りこんだウィンスが、荷台に予備の毛布を広げ、更にカンテラを置いた。
「これでもないよりはましだろう」
ハナは軽く手をあげ、荷台の面々に尋ねる。
「えっとぉ。ちょっと考えたんですけどぉ。四人居るので各人一方向警戒にしますぅ? それとも全周警戒ですぅ?」
「兵士が最初に勘づいたのは『変な音』って話だ。左右の警戒は必要じゃねーの」
口調こそ軽いが、幌の隙間から覗くジャックの目は真剣だ。
自身も同盟出身、故国を遠く離れてこのキャンプに駐留している同盟軍の兵士達を応援してやりたい気もある。
「じゃあ私は、こちらから見てますねぇ。こう、トラックの左側から後にかけて、ぐるっとぉ」
ハナが移動すると、伊織は双眼鏡を手に右側へ。
「ではボクは、こちらから監視しますね!」
トラックに全員が乗り込んだのを確認し、カズマが馬を進ませる。
「そんじゃま、安全確保と行きますかねぇ」
カズマを先頭に、一団がゆっくりと雪原へと進み出た。
「頼んだぞー!」
「気をつけてくださいねー!」
キャンプの人々の声がわっと背中に押し寄せる。
「貴重な物資、速やかに受領して戻ってこよう」
兵庫は振り返らないまま、分かっているというように片手をあげた。
●
歪虚が出現した地点は、キャンプへ続く街道上だった。
往路で倒してから物資を引き取るか、やり過ごして物資を運ぶか。普通に考えれば前者だが、万一討ち漏らせば復路で手負いの歪虚から思わぬ報復を受けるかもしれない。
「どの道、敵に怯えながらでは運搬の効率も上がらぬだろう」
多少のリスクを覚悟の上でも往路での殲滅を図るという兵庫の意見に、全員が賛同した。
騎乗のカズマを先導に、魔導バイクの兵庫、アルト、枢、その後から大型魔導トラックが続く。
「しっかし、たまらねーなこの寒さは」
ジャックが荷台でぼやいたのも無理はない。視界確保には幌を閉じるわけにもいかず、荷台の面々は寒風に晒されたまま運ばれているのだ。
「これを飲め。多少は暖まるだろう」
ウィンスが差し出したのは、暖かな湯気を立てる生姜入りの紅茶だった。乏しい物資の中、キャンプで分けて貰ったものだ。
「ああ、すまん」
反射的に受け取ったが、ジャックはまじまじとウィンスを見てしまう。
「……何だ?」
「いや。えーと……準備がいいな」
「任務の一環だ。チームのパフォーマンスの低下は見過ごせない」
大真面目な顔で頷き、ウィンスは伊織とハナにも紅茶を配る。
(なんかこう、案外オカンぽいというか……)
ジャックは紅茶をすすりつつ、流石にその言葉を飲みこむ。
ある意味、寒さが最大の敵だった。
少し前までは踏み固められていた道も、歪虚の出現で人通りが絶え、ともすれば道以外の場所に踏み込みそうになる。
「伝令くんが転倒して怪我しなかったのは、奇跡だよ」
アルトは懐炉がわりの祝福の水筒を服の上から撫でた。
やがて、歪虚の出現地点が近付く。
物音を聞き逃すまいと、皆が口をつぐむ。互いの回線は開いたままだ。
聞こえるのはタイヤが轍を刻む音、馬の息遣い、そして吹き抜ける風の音のみ。
その時、カズマの馬の足並みが乱れた。
同時に、雪が軋む音。
「トラックは停止しろ。おいでなすったぜ」
カズマが囁く。馬は何かに興奮し、その場でやたらと足踏みする。
『一匹ですか?』
メリンダの緊張した声。
「まだ分からん。だが最悪の事態に備えて欲しい」
そう返事した時だった。突如、右前方の雪原が盛り上がったのだ。
アルトがバイクを降り、カズマの傍らに並んだ。雪の割れ目から姿を見せた敵の姿に呆れたような声を出す。
「スノーワーム……要するに白いミミズか」
雪の中から現れたのは、つるんとした先頭部分であった。続いて少し色合いの違う部分。これが『首』なのだろう。そこまで見えたところで、敵はまた雪に潜り込む。
「足がないのはどうにも苦手だな、生理的に。狩らせてもらう」
アルトの言葉に僅かに口元を緩めつつ、カズマが声をかけた。
「ワームの耐久度がいまいち読めん。あちらの勢いを利用して、まずは表皮に穴を空けてやろう」
凍った雪を掻き分けて進むだけの固さだ、楽観視はしない。
枢がニヤリと笑い、ヴァイパーソードを鞭型に変化させた。
「待ってやる必要もないだろう。向こうから出て来るように仕向ければいい」
ワームはこちらの立てる物音に反応している可能性が高いと考え、「エンタングル」でヴァイパーソードを打ち鳴らす。
ガチャガチャと金属の立てる物音が響いた。
果たして、枢のすぐ近くの雪原が、大きく膨らむ。
「捕捉されると面倒だ、一撃離脱でいくぞ」
兵庫のバイクが唸る。手にした十字の穂先を持つ槍に力を籠める。
スピードを乗せた重い一撃を、膨らむ雪山目がけて思い切り叩きつけた。
「キキキキキィ!」
耳障りな音をたて、ワームが身を捩った。走りぬけようとした兵庫にその尾部を叩きつける。
「痛ッ……!」
兵庫はバイクごと飛ばされたが、柔らかい雪が幸いした。
だが尚も迫るワーム。
「行くぞ」
カズマはアルトと共に、猛進。
ワームは単細胞らしく、完全に兵庫に意識が向いていた。一気に間合いを詰めると、敵を挟むように二手に分かれる。
――どちらが狙われてもどちらかが残る。言葉にしなくても互いに思うことは同じだ。
うねるワームの身体に、カズマは自重をかけて銀光煌めくスピアの穂先を抉り込む。
ワームが暴れるが、持って行かれそうになるスピアに尚も力をかける。
アルト専用にカスタマイズされた、試作振動刀「オートMURAMASA」の駆動音が大きくなった。全身から赤い陽炎が立ち昇る。
「逃がさない」
言葉よりも雄弁に語る刃が、カズマが付けた傷を更に押し広げた。
ワームの身体は今にも分断されそうだ。そのとき、これまでとは全く違う音が響く。
「キキィィイイイイイ」
それが前触れだった。ワームの首部分が閃光に包まれる。
バシッ!
目が眩み、全身に痛みが走る。電気ショックだ。
同時にワームは尾部を更に打ちつけようとして――身悶えた。
「そうはいくか」
枢が鞭状のヴァイパーソードを尾部に絡め、動きを封じていたのだ。
自らも電撃を受け、額から血を流している。それでも足を踏ん張り、尾部を押さえる。
「いいぞ、このまま断ち切る!」
カズマは取り回しの良いロングソードに持ち替え、力いっぱい叩きつけた。
ワームは何とか厄介な連中を引きはがそうと、再び閃光を発する。
枢は歯を食いしばって痛みに耐えるが、ワームの力も強い。振り切られるかと思った瞬間、兵庫の槍が尾部を縫い止める。
「もう少しだ、頑張れ!」
こうして身動きできないままに、ワームの身体は分断された。
だが安堵している暇はない。
「トラックは!?」
後方からも、甲高い音が響いてくる。
●
前方が戦闘状態に入ったとの知らせに、ジャックはすぐにトラックの荷台から飛び降りた。
「ミミズの化けモンか。雪に待ち伏せ、ご苦労なこった!」
「敵は一体しか確認できていないんだな?」
ウィンスはメリンダに確認し、ジャックと共に停止したトラックを背中にして雪道に立つ。
伊織とハナは荷台から周囲の警戒を続けていた。
「このトラックの方が音は大きいですからね。音に反応するなら、こちらを無視するのは考えにくいと思います」
伊織は僅かな変化も見逃すまいと目を凝らした。
その袖口をハナが引っ張る。
「進行方向起点にして七時方向、距離およそ三百m。一緒に見てくださいぃ!」
「えっ」
伊織が双眼鏡を向ける。果たして、不自然に盛り上がった雪の塊が、みるみる接近して来る。
「来ました!」
叫ぶと同時に伊織は荷台を飛びおりる。
ハナも続いて降り、トラックの後方へ向かって駆け出した。
「……火炎符! こっち向きなさいワーム! 貴方の敵は私ですよぉ! 」
大声をあげて走りながら、取り出した火炎符を打つ。
進行方向を見定め、力いっぱい。
「キキ、キキ……」
辺りに響き渡る耳障りな高い音。ちらりと見えた丸い頭部が、火炎に包まれた。
「キキキキキィ!」
それは悲鳴か、怒号か。ワームは余程こたえたのか、真っ直ぐにハナを目がけて突っ込んでくる。
「支援します!」
伊織が赤い弓を引き絞り、続けさまに矢を射る。当たらなくてもいい、ハナに向かう敵の意識を逸らすことができればいいのだ。
伸びあがったワームの頭めがけて、別方向からも鋭い一撃。
「ほら、こっちがお留守だ!」
ジャックがスローイングカードで狙うのは首。だが知能が低い敵はめちゃくちゃに頭を振りまわし、却って狙い難い。
それでも三方向からの遠距離攻撃に、ワームは不利を悟ったらしく雪に潜り込もうとする。
その隙にウィンスが近付いていた。雪に潜り込む敵の身体に七色に輝く槍の刃先を突き立てると、ワーム自身が逃げる力で引っ張られた傷口が大きく広がる。
「今だ、ドナーティ。頼むぞ」
トランシーバーに語りかけるや否や、手を傷口に突っ込んだ。
『えっ、えっ!? 待って、えーと、えーと、あーーー本日はお集まりいただきまして誠に……!!!』
メリンダの良く通る声がトランシーバーから響く。ワームは雪に潜り込んだが、メリンダの声は途切れ途切れに続く。
ウィンスはメリンダに、周波数を合わせたトランシーバーを渡していた。敵が潜んだ場所が分かるように、いざというときは『声』を出し続けろと。
(ついてきたからには、役に立った方が当人も気も楽だろう)
ある意味、ウィンスなりの思いやりだったのかもしれない。
メリンダは自棄になりながら、同盟軍の定例会見をでっちあげて喋り続ける。
「こりゃ便利だな」
ジャックが笑いをこらえながら、声が近付くのを待ち構えた。
「とど……けぇ!!」
ここぞと見定めた地点でバスターソードを突き出す。ワームが顔を出した瞬間、『刺突一穿』の直線攻撃が頭部を打つ。
「キキィィイイイイイ」
「もしかして……」
ワームが立てる異様な音に、伊織は嫌な予感を覚えた。
伊織が狙いを定め、首目がけて一矢を放つのと、ウィンスが敵の身体に槍を突き立てるのはほぼ同時。
その瞬間、閃光が走った。
「……ッ!!」
「くっ!!」
ジャックとウィンスが放電を受けてよろめいた。そのまま逃げるかと思えば、ワームは尾部を思い切り逸らし、ウィンスを打とうと身を捩る。
それでもウィンスは槍に籠める力を緩めない。
「痛ってえ……滅茶苦茶やりやがって!」
ジャックがバスターソードを抉り込む。ワームの身体が千切れ、暴れていた尾部が雪原を滑って行った。
『危ない!! 星野さんッ』
ワームの腹からメリンダの叫び声が響く。
「トラックは、守り抜きますぅ!」
ハナは覚悟を決めた。自分の身を呈しても、トラックは破壊させない。
飛んでくるワームの尾部目がけて、瑞鳥符を打つ。
「逸れてくださいよぅ……!」
光の鳥がぶつかり、ワームの尾は大きく跳ねた。トラックからは逸れたが、ハナの身体が巻き込まれて弾き飛ばされる。
「きゃっ……!」
ハナの身体は一瞬宙に浮き、それから地面に叩きつけられた。
「なんて無茶を!」
駆け寄るメリンダに、ハナはそれでも笑って見せた。
内心、できればイケメンの方が良かったかなー等と思ったことは内緒である。
●
確認されていたワーム二体は、見事退治された。
防衛拠点に辿りつくと、怪我人の応急手当てをすませ、直ぐに物資を満載したトラックと共に帰路につく。
「キャンプじゃ待ちくたびれているだろう。この物資を一刻も早く届けてやることにしようぜ」
兵庫は傷の痛みを思わせない様子で待っている者たちを気遣った。
街道を進み、先刻の場所を通る。ワームが這いずった跡がまだ雪の上に残っていた。
大型トラックのハンドルを握りながら、メリンダはちらりとそれを見遣る。
(ワームは千切れて直ぐには消えなかった。なりたて歪虚、ね……)
軽く身震いすると、正面を見据える。
ひとまずは、任務を完遂することが大事なのだから。
<続>
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依頼の相談用スレッド ジャック・エルギン(ka1522) 人間(クリムゾンウェスト)|20才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/12/14 15:57:40 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/12/11 00:14:29 |
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【質問卓】メリンダさんに質問! アルト・ヴァレンティーニ(ka3109) 人間(クリムゾンウェスト)|21才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/12/13 21:27:07 |