ゲスト
(ka0000)
聖なる夜の不届き者達
マスター:天田洋介

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/12/26 19:00
- 完成日
- 2016/01/04 09:14
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
伯爵地【ニュー・ウォルター】はグラズヘイム王国の南部に位置する。領主が住まう城塞都市『マール』は海岸線よりも十kmほど内陸部に存在していた。
マールと海岸線を繋ぐ運河のおかげで海上の帆船で直接乗りつけることができる。もっとも帆船が利用できるのは『ニュー港』までだ。
それ以降は手こぎのゴンドラが利用されている。升の目のように造成された都市内の水上航路はとても賑やか。橋を利用しての徒歩移動も可能だが、そうしている者は数少ない。それだけマールの民の間に水上航路は溶け込んでいた。
クリスマス。
城塞都市マールの広場には巨大なモミの木が聳える。今の時期は電飾やオーナメントで化粧が施され、クリスマスツリーに大変身していた。
この時期だけ日が暮れても広場には多くの人が集まる。友人同士、家族連れや恋人同士で賑わう。いつもは日中だけの屋台も営業を続けていた。
近隣のエクラ教会ではミサが行われる。パイプオルガンの調べに合わせて賛美歌が広場にまで届く。クリスマスの祝いの中で多くの者は幸せを感じ取る。
しかし世の中には邪悪な意味でこの時期を喜ぶ者達もいた。スリや引ったくりの類いである。
奴らが好むのは人混みだ。賑わいの広場は絶好の稼ぎ場と化す。毎年、二十四日だけで十数件の盗難が発生する。官憲に被害を届けない数も含めれば三十は下らないだろう。
「毎年じくじたる思いなのです。そこでなのですが、今年は被害をゼロに抑えたいのです」
マールの治安を守る兵団の代表者『マリティン』がハンターズソサエティー支部を訪ねて協力を願った。
ハンターに一般人として広場へ紛れ込んでもらい、スリや引ったくりの実行犯を探して欲しいというのが依頼の趣旨である。
変装した兵士が見張っているので無理に捕まえる必要はなかった。足止めさえすればすぐに駆けつけてくれる手筈だ。わざと隙をみせて誘い込むのも一つの手である。
期間は二十二から二十四日まで。変装や飲食にかかる費用はすべて兵団持ち。クリスマスはもうすぐであった。
マールと海岸線を繋ぐ運河のおかげで海上の帆船で直接乗りつけることができる。もっとも帆船が利用できるのは『ニュー港』までだ。
それ以降は手こぎのゴンドラが利用されている。升の目のように造成された都市内の水上航路はとても賑やか。橋を利用しての徒歩移動も可能だが、そうしている者は数少ない。それだけマールの民の間に水上航路は溶け込んでいた。
クリスマス。
城塞都市マールの広場には巨大なモミの木が聳える。今の時期は電飾やオーナメントで化粧が施され、クリスマスツリーに大変身していた。
この時期だけ日が暮れても広場には多くの人が集まる。友人同士、家族連れや恋人同士で賑わう。いつもは日中だけの屋台も営業を続けていた。
近隣のエクラ教会ではミサが行われる。パイプオルガンの調べに合わせて賛美歌が広場にまで届く。クリスマスの祝いの中で多くの者は幸せを感じ取る。
しかし世の中には邪悪な意味でこの時期を喜ぶ者達もいた。スリや引ったくりの類いである。
奴らが好むのは人混みだ。賑わいの広場は絶好の稼ぎ場と化す。毎年、二十四日だけで十数件の盗難が発生する。官憲に被害を届けない数も含めれば三十は下らないだろう。
「毎年じくじたる思いなのです。そこでなのですが、今年は被害をゼロに抑えたいのです」
マールの治安を守る兵団の代表者『マリティン』がハンターズソサエティー支部を訪ねて協力を願った。
ハンターに一般人として広場へ紛れ込んでもらい、スリや引ったくりの実行犯を探して欲しいというのが依頼の趣旨である。
変装した兵士が見張っているので無理に捕まえる必要はなかった。足止めさえすればすぐに駆けつけてくれる手筈だ。わざと隙をみせて誘い込むのも一つの手である。
期間は二十二から二十四日まで。変装や飲食にかかる費用はすべて兵団持ち。クリスマスはもうすぐであった。
リプレイ本文
●
(いろいろとあったなあ)
日中のマール広場外縁。ザレム・アズール(ka0878)は道沿いの行商を眺めながら今年を振り返っていた。
大物初討伐に大作戦への参加、出会いと別れ、そして初重体。それらをネタにしてしみじみと過ごすつもりの年末が、どこをどう間違ったのか仕事の真っ最中である。
(ディナーも楽しみにしていたのに……。全員捕まえてやるぞ)
すでに二日をかけて犯罪者共を捕まえているが、クリスマスイブの今日こそが本番だ。
ザレムは貴族風の衣服に身を包んでいた。スーツに上品なモノクル、真っ白な手袋を填め、暗器の仕込み杖を持ち歩く。途中、アクセサリー売りの行商の前で足を止める。細工物が数多く並んでいた。
「ナターシャが喜んでくれそうだな。ミキの分も、そうしたら二人とも」
だらしない笑みを浮かべつつ、膨らんだ財布から金を支払う。このようにザレムはボンボン貴族を演じていた。アクセサリーと財布を鞄に収めて、広場への近道となる路地裏へ。すると男二人組が追いかけてくる。
(付けられているな)
ポケットの中には送信中の無線機が忍ばせてある。男二人組が追い抜きざまにザレムの鞄を奪っていく。
「ど、泥棒だぁ!」
ザレムが叫びが響いてすぐに路地裏の出口付近に人影が浮かんだ。
「はいはい、そこのおっさんたち、今見たわよ。確りバッチリみたわよっ!」
人影の正体は岩波レイナ(ka3178)だ。無線を聞いて先回りしたのである。
「うるせぇ。退け!」
男二人組は相手の実力を見誤った。岩波は道を譲りつつも覚醒を済ます。
「不届き者にはお仕置きが必要よね」
裏路地からでた瞬間、黒づくめの背中に雷撃を放って派手に転ばす。髭面は転んだ相棒から鞄を奪って一人で逃げだした。
「人混みに紛れちまえばこっちのもん……さっきのボンボン?!」
髭面が向かう先にザレムが舞い降りる。ジェットブーツで飛べば簡単なことだ。
「ボンボンは止めてくれ」
ザレムの雷撃で髭面が足を滑らせながら仰向けに倒れた。その勢いで鞄が宙に舞う。
水路に落ちたと思われたが水音はしない。駆けつけたザレムの猟犬シバがキャッチしてくれたのである。
「ありがとうな」
「あたしほどではないしろ、よくやったわね」
ザレムと岩波がシバを誉めているところに警備の兵士達が現れた。犯人共を引き渡し、それぞれの見回りに戻るのだった。
●
この三日間、紫吹(ka5868)はその日の仕事を始める前に必ずやったことがある。それは広場中央の煌びやかなモミの巨木を見上げることだ。
「何度みてもキレイな飾りだねぇ……。ちょいと、そこなニーサン、これは? ……そうそうくりすます?のだったねぇ。面白いことがこっちには在るンだねぇ。あのヒトと一緒に見たかった、よ」
しばし目を伏せた後でぴしゃりとハリセンを鳴らす。「邪魔するやつにはちょいとお灸が必要かねぇ」と呟きつつ。
『俺は広場の東側にいる。今は西側が手薄のはずだ』
「じゃ、その辺りを練り歩こうかねぇ」
人目につかないところで情報交換。ザレムと無線連絡をしたあとで本格的に動きだした。
着物姿の紫吹は普通に歩いているだけでも目立つ。女性は綺麗な着物に引きつけられ、男性は胸元や妖美な肢体につい注目してしまう。
紫吹がお付きの者を探す素振りで心細そうに辺りを見回す。
大きく開いた胸元から端が見えている財布に気づかぬ物取りはいない。衆人環視の元ではかすめとれないが、人混みの中ならば別だ。
そうなったわずかな間に彼女の胸元から財布が抜き取られてしまった。
意気揚々と人混みから離れた若者のスリが中身を確認しようと財布を開いて眉をひそめる。札入れの部分に挟まれていた木札には『天誅』と血文字が書かれていた。
「何だい、アンタ。可哀相にこんな日に。こんなこと」
女性の声が聞こえた瞬間、スリの後頭部がハリセンで激しく叩かれた。「パンッ」と快活な音が鳴り響く。スリが呆気にとられている間に駆けつけた警備の兵士達が腕を掴んで身柄を確保する。
「ははは、吃驚したかい?」
煙管を取りだして一服しつつ連行されていくスリの背中を見送った。そうしている間に岩波から無線連絡が届く。
『中年太りで赤髪のスリを兵士の一人が取り逃したのよ。左腕を噛まれたのがその辺にいたら対処してくれるかなっ?』
「了解よ」
簡単に見つからないと考えていたが、雑踏の中に特徴そのままの人物を見かける。
「ねぇ……ニーサン、アタシと遊ばないかい?」
しなを作りつつ、赤髪にこっそりと耳打ち。人通りのない裏路地へと誘い込んだ。そして太腿を触ろうとしてきた左手の袖を捲って確かめた。
「これ、誰に噛まれたのか教えてくれる?」
抱きつかれるのを躱して地面に転ばせる。暴れるので足蹴にしながら無線で連絡するのだった。
●
十五時を回った頃、マリィア・バルデス(ka5848)は広場の片隅にある屋台に並んでいた。この地では珍しい和風の焼き鳥屋だ。
「おじさん、この子たち用にその肉一本タレ付けないで焼いてもらえるかしら? あ、私はタレ付きで一本ちょうだい」
マリィアは腰に拳銃をぶら下げている。変装しようとも自分の立ち振る舞いから軍人のにおいを消しきることはできない。敢えて『街に遊びに来た金遣いの荒い気の緩んだハンター』を演じていた。
「これ美味しいわね。もう一本ずつもらえるかしら? ちょっと待って」
鞄から取りだした財布からお金を払う。実は財布の中は空っぽ。本物の硬貨は折り畳んだハンカチの中にある。
鞄を卓においたまま焼き鳥を味わう。
「その肉も美味しい?」
二頭が小さく吠えるとマリィアは鞄を卓に残したまま屈んだ。そして頭や喉を撫でてあげる。
(さっきからこっちを見ている奴はいるけど)
自分を付け狙う二人の男がいた。
今以上の隙を作るために次の屋台では葡萄酒を呷る。上機嫌なほろ酔い気分で隣のパスタ屋台へ。
二頭へ注意を向けている間に長椅子に置いた鞄が何者かに掴まれる。目を付けていた茶帽子の男だった。
即座に相手の手首を蹴り上げて鞄を放させる。瞬時に両手を地面へついて回す足の勢いで茶帽子を転ばせた。
「α、γ、ズボンを噛んで離すな!」
マリィアの指示通りに忠犬二頭が動く。
「γはこのまま待機、αはあいつを追え!」
落ちていた鞄を拾ってにげようとした金髪の男をマリィアが指さす。瞬く間にαは追いついて金髪の後ろ裾に噛みつく。
「酒は飲んだフリをしただけで酔ってはいないからね」
マリィアが置き引き犯共に一言。駆けつけた警備の兵士達に説明して捕まえてもらうのだった。
●
「お兄ちゃんあれ見て! すっごくきれいだよー!!」
「おぉ、本当だ。この時期の広場は凄く綺麗だな。夜になったらもっと綺麗だろう。後でもう一度見に来ようか」
クリスマスツリーを眺めるパトリス=クロー(ka1872)と鳳凰院ひりょ(ka3744)は兄妹を装っていた。そうずることで悪人共をおびき寄せる作戦を立てる。
パトリスが首からぶら下げる大きな鞄の口は開けたままだ。中には財布が忍ばせてあった。
「二つもらえますか? あっ!」
焼き栗を買った際、パトリスが財布を落としてしまう。
「俺が拾うから」
地面に散らばった硬貨の中には金貨も混じる。その様子を痩せ気味の頬がこけた中年女性が遠くから見つめていた。
兄妹の広場散策は続く。料理だけでなく装飾用の小物を扱う屋台も多かったのでそれを眺めるだけでも楽しい時間を過ごせた。近くの教会から聞こえてくる賛美歌も気分を盛り上げてくれる。
夕暮れ時、色とりどりな電飾の輝きによってクリスマスツリーが闇から浮かび上がる。あたらめて見上げた兄妹は美しさに釘付けとなった。
そのとき痩せた女性が兄妹の背後に近づく。パトリスと肩が触れ合うものの、無言で通り過ぎていった。
勘が働いたパトリスが鞄の中を確かめると財布が見つからない。鳳凰院と一瞬だけ見つめ合ったパトリスが大きく息を吸う。
「誰か―! あの頬のこけているおばさんが私の財布捕ったー!!」
涙目になりながらパトリスが指さす。痩せた女性の逃げ足は速かったが、すぐに鳳凰院が追いついた。腕を掴んで動きを止める。
「は、放せ! あたしゃ何もしとらんよ」
「その握っている財布は妹のだ」
「何いってるんだい。あたしのもんだよ」
「嘘までつくなんて!」
鳳凰院と痩せた女性との言い争いが始まった。人だかりができたところへ警備の兵士達がやってくる。
「ふふーん、こんな素敵な日にわるーいことする人は、このパティちゃんが許さないんだからねっ! サンタさんに代わってお仕置きしちゃうぞっ☆ なーんちゃって」
「本当にこれ、あなたのかな?」
パトリスと鳳凰院が財布の中身を兵士に確かめてもらう。すると一枚の紙が挟まれていた。『スリやひったくりは許さない。ひりょ&パティ』と書かれてあり、さらに兄妹のイラストも付いている。
「ちょっ、ちょっと! 女の子に手を上げるなんて何考えてるのよーっ!!」
無言でスリ女性に小突かれたパトリスがハリセンでやり返す。すぱあんと軽快な音がクリスマスツリーの根元で響き渡った。
「こちらもう一人捕まえましたよ」
鳳凰院が無線で仲間達に報告。これでハンター一同が協力して捕まった犯罪者数は三十八名になっていた。
●
「困ったな。どうやら道に迷ってしまったようだ」
街角で地図を広げていた男は顎に手を当てながら首を傾げる。華美な服装ではないが、仕立てからいって質のよい高級品ばかり。セドリック・L・ファルツ(ka4167)はおっとりな表情で辺りを回す。そんな彼を遠巻きに眺めていた人物が一人いた。
(まぁでも、見るからにカモよね。あたしがスリの側ならほっとくわけないし)
エキドナ(ka4182)は目立たぬ格好で壁に寄りかかりながら焼き栗を頬張る。
セドリックが囮となり、エキドナが監視役として悪人に目星をつける。ここ数日間、このような方法で犯罪者を捕まえてきた。
そうこうするうちに宵の口になる。屋台を覗き込んだセドリックに外套を羽織った男が忍び寄ってきた。
(あれって手練れよね?)
見張っていたエキドナが勘づく。スリがターゲットにわざとぶつかるのは意識を逸らすためなのだが外套の男は違う。すれ違った瞬間に財布だけを攫っていく。
「そこの方、待って下さい。私の財布を持っていったでしょう?」
セドリックに肩を掴まれた外套の男が振り返る。
「言いがかりはやめろ。財布なんて知らねぇぞ」
睨まれてもセドリックが退くことはない。言い争いの最中に警備の兵士達が現れる。そして外套の男の身体検査が行われたが、財布は見つからなかった。
「どう落とし前つけてくれるんだ?」
「ほら、あった!」
外套の男がセドリックを脅そうと迫ったとき、エキドナの声が聞こえる。外套の男の背後で屈んでいたエキドナが財布を掲げた。
「外套の裏側にあったわ。裾の固い部分じゃ兵士のみなさんもわかりにくいわよね」
「ど、どうして、それがっ!」
「それがってことはこの財布のこと知っているってことよね?」
今度はエキドナが外套の男に迫る。間違いなくセドリックの財布だった。こうして外套の男はスリ犯として捕まえられる。
「これではまるで、私のほうが守られている女性のようだね。助かったよ」
セドリックが羨望の眼差しでエキドナを見つめた。
「すってすぐにお金だけ抜き取って財布を捨てたのよ。探すのにちょっと手間取っちゃったわ」
「それでは外套の裏にあったというのは?」
「ちょっとした嘘ね。自白も得られたから問題ないわよ」
ウィンクするエキドナ。これには私も騙されたとセドリックが笑う。
「まもなく屋台が終わる頃だ。義娘の……クリスマスプレゼントを選ぶのを、手伝って欲しいんだ」
「おじ様、またスリに襲われかねないもの。付いて行かないとこっちが心配よ」
その後は一緒に買い物をする。
「私が贈ったドレスやアクセサリーを義娘は着けてくれなくてね。メッセージカードの文面もよく考えたつもりなのだが」
「女の子を着飾るのは、その子を束縛してるって意味合いにもなるし……年頃の女の子は、自分で装いを考えるのが好きなんだし……カードもさ、ほら、ちょっとキザじゃない?」
エキドナは贈り物としてペットを提案する。セドリックへの贈り物としてシックな色合いのマフラーを巻いてあげた。
「やっぱ真面目な子にはふざけたプレゼントがいいかしら? んー……でも折角だし、大人の男向けのアクセサリとか……お揃いとかのが喜ぶかな?」
エキドナは弟への贈り物も選んだ。
二十時が過ぎて広場での商売が終わる。街の人々もそれぞれの居場所へ戻っていくのだった。
●
依頼者『マリティン』が一同のために予約した料理店の個室でパーティが開かれる。
「メリークリスマス!」
ザレムが乾杯の音頭をとった。
「あー、捕まえるの楽しかった! おつかれさまでしたっ!!」
パトリスは満面の笑顔。七面鳥の丸焼きを始めとした料理がこれでもかと卓に運ばれてくる。
(老いも若きも、皆楽しそうだったな。 少し寂しくな……いわよ! 独りで十分楽しいわよっ!)
岩波が葡萄酒を飲んで軽いため息をつく。前の世界ではこの時期、大好きな歌姫のライヴで過ごしていたことを思いだす。
「これ、よかったら。深い意味はないからさ。手伝ってくれたお礼だ。誰かに使ってもらった方が良いかな、って」
ふいにザレムから贈り物を差しだされる。岩波がそれを受け取ったかどうかは両者だけが知ることだ。
「どの料理も美味しいわね」
「マリィア君、先程屋台を食べ歩いたといっていましたが」
マリィアが簡潔にセドリックの疑問に答える。「料理は屋台とは別腹よ」と。
七面鳥はもちろんどの料理も満遍なく頂いた。愛犬二頭も炙り肉のご相伴に預かる。
「では少しだけ」
エキドナとセドリックは葡萄酒を飲み交わす。程々にしたのはこの後に控えている家族との語らいのためだ。
「おいしそうなごはんがいっぱいだねっ! うん! おいしいっ!!!」
もっきゅもっきゅとパトリスが頬張る。お肉の塊にガブリと齧りつく。
「パティ、お疲れ様」
「お兄ちゃ、じゃなかった、ひりょさんと一緒で楽しかったよ」
「パティがノリノリだったな」
「えへへっ♪」
鳳凰院とパトリスは今日の出来事を話す。仲間達も武勇伝を聞かせてくれる。
その頃、紫吹は一人で野外の花壇に腰かけていた。煙管で一服しながら眺めていたのは、想い人同士で幸せそうな人達である。
教会のミサが終わったようで一時的に人通りが増えていた。紫吹はもう戻らぬヒトのことを思いだし、祈りながらイブの夜を過ごしたのだった。
(いろいろとあったなあ)
日中のマール広場外縁。ザレム・アズール(ka0878)は道沿いの行商を眺めながら今年を振り返っていた。
大物初討伐に大作戦への参加、出会いと別れ、そして初重体。それらをネタにしてしみじみと過ごすつもりの年末が、どこをどう間違ったのか仕事の真っ最中である。
(ディナーも楽しみにしていたのに……。全員捕まえてやるぞ)
すでに二日をかけて犯罪者共を捕まえているが、クリスマスイブの今日こそが本番だ。
ザレムは貴族風の衣服に身を包んでいた。スーツに上品なモノクル、真っ白な手袋を填め、暗器の仕込み杖を持ち歩く。途中、アクセサリー売りの行商の前で足を止める。細工物が数多く並んでいた。
「ナターシャが喜んでくれそうだな。ミキの分も、そうしたら二人とも」
だらしない笑みを浮かべつつ、膨らんだ財布から金を支払う。このようにザレムはボンボン貴族を演じていた。アクセサリーと財布を鞄に収めて、広場への近道となる路地裏へ。すると男二人組が追いかけてくる。
(付けられているな)
ポケットの中には送信中の無線機が忍ばせてある。男二人組が追い抜きざまにザレムの鞄を奪っていく。
「ど、泥棒だぁ!」
ザレムが叫びが響いてすぐに路地裏の出口付近に人影が浮かんだ。
「はいはい、そこのおっさんたち、今見たわよ。確りバッチリみたわよっ!」
人影の正体は岩波レイナ(ka3178)だ。無線を聞いて先回りしたのである。
「うるせぇ。退け!」
男二人組は相手の実力を見誤った。岩波は道を譲りつつも覚醒を済ます。
「不届き者にはお仕置きが必要よね」
裏路地からでた瞬間、黒づくめの背中に雷撃を放って派手に転ばす。髭面は転んだ相棒から鞄を奪って一人で逃げだした。
「人混みに紛れちまえばこっちのもん……さっきのボンボン?!」
髭面が向かう先にザレムが舞い降りる。ジェットブーツで飛べば簡単なことだ。
「ボンボンは止めてくれ」
ザレムの雷撃で髭面が足を滑らせながら仰向けに倒れた。その勢いで鞄が宙に舞う。
水路に落ちたと思われたが水音はしない。駆けつけたザレムの猟犬シバがキャッチしてくれたのである。
「ありがとうな」
「あたしほどではないしろ、よくやったわね」
ザレムと岩波がシバを誉めているところに警備の兵士達が現れた。犯人共を引き渡し、それぞれの見回りに戻るのだった。
●
この三日間、紫吹(ka5868)はその日の仕事を始める前に必ずやったことがある。それは広場中央の煌びやかなモミの巨木を見上げることだ。
「何度みてもキレイな飾りだねぇ……。ちょいと、そこなニーサン、これは? ……そうそうくりすます?のだったねぇ。面白いことがこっちには在るンだねぇ。あのヒトと一緒に見たかった、よ」
しばし目を伏せた後でぴしゃりとハリセンを鳴らす。「邪魔するやつにはちょいとお灸が必要かねぇ」と呟きつつ。
『俺は広場の東側にいる。今は西側が手薄のはずだ』
「じゃ、その辺りを練り歩こうかねぇ」
人目につかないところで情報交換。ザレムと無線連絡をしたあとで本格的に動きだした。
着物姿の紫吹は普通に歩いているだけでも目立つ。女性は綺麗な着物に引きつけられ、男性は胸元や妖美な肢体につい注目してしまう。
紫吹がお付きの者を探す素振りで心細そうに辺りを見回す。
大きく開いた胸元から端が見えている財布に気づかぬ物取りはいない。衆人環視の元ではかすめとれないが、人混みの中ならば別だ。
そうなったわずかな間に彼女の胸元から財布が抜き取られてしまった。
意気揚々と人混みから離れた若者のスリが中身を確認しようと財布を開いて眉をひそめる。札入れの部分に挟まれていた木札には『天誅』と血文字が書かれていた。
「何だい、アンタ。可哀相にこんな日に。こんなこと」
女性の声が聞こえた瞬間、スリの後頭部がハリセンで激しく叩かれた。「パンッ」と快活な音が鳴り響く。スリが呆気にとられている間に駆けつけた警備の兵士達が腕を掴んで身柄を確保する。
「ははは、吃驚したかい?」
煙管を取りだして一服しつつ連行されていくスリの背中を見送った。そうしている間に岩波から無線連絡が届く。
『中年太りで赤髪のスリを兵士の一人が取り逃したのよ。左腕を噛まれたのがその辺にいたら対処してくれるかなっ?』
「了解よ」
簡単に見つからないと考えていたが、雑踏の中に特徴そのままの人物を見かける。
「ねぇ……ニーサン、アタシと遊ばないかい?」
しなを作りつつ、赤髪にこっそりと耳打ち。人通りのない裏路地へと誘い込んだ。そして太腿を触ろうとしてきた左手の袖を捲って確かめた。
「これ、誰に噛まれたのか教えてくれる?」
抱きつかれるのを躱して地面に転ばせる。暴れるので足蹴にしながら無線で連絡するのだった。
●
十五時を回った頃、マリィア・バルデス(ka5848)は広場の片隅にある屋台に並んでいた。この地では珍しい和風の焼き鳥屋だ。
「おじさん、この子たち用にその肉一本タレ付けないで焼いてもらえるかしら? あ、私はタレ付きで一本ちょうだい」
マリィアは腰に拳銃をぶら下げている。変装しようとも自分の立ち振る舞いから軍人のにおいを消しきることはできない。敢えて『街に遊びに来た金遣いの荒い気の緩んだハンター』を演じていた。
「これ美味しいわね。もう一本ずつもらえるかしら? ちょっと待って」
鞄から取りだした財布からお金を払う。実は財布の中は空っぽ。本物の硬貨は折り畳んだハンカチの中にある。
鞄を卓においたまま焼き鳥を味わう。
「その肉も美味しい?」
二頭が小さく吠えるとマリィアは鞄を卓に残したまま屈んだ。そして頭や喉を撫でてあげる。
(さっきからこっちを見ている奴はいるけど)
自分を付け狙う二人の男がいた。
今以上の隙を作るために次の屋台では葡萄酒を呷る。上機嫌なほろ酔い気分で隣のパスタ屋台へ。
二頭へ注意を向けている間に長椅子に置いた鞄が何者かに掴まれる。目を付けていた茶帽子の男だった。
即座に相手の手首を蹴り上げて鞄を放させる。瞬時に両手を地面へついて回す足の勢いで茶帽子を転ばせた。
「α、γ、ズボンを噛んで離すな!」
マリィアの指示通りに忠犬二頭が動く。
「γはこのまま待機、αはあいつを追え!」
落ちていた鞄を拾ってにげようとした金髪の男をマリィアが指さす。瞬く間にαは追いついて金髪の後ろ裾に噛みつく。
「酒は飲んだフリをしただけで酔ってはいないからね」
マリィアが置き引き犯共に一言。駆けつけた警備の兵士達に説明して捕まえてもらうのだった。
●
「お兄ちゃんあれ見て! すっごくきれいだよー!!」
「おぉ、本当だ。この時期の広場は凄く綺麗だな。夜になったらもっと綺麗だろう。後でもう一度見に来ようか」
クリスマスツリーを眺めるパトリス=クロー(ka1872)と鳳凰院ひりょ(ka3744)は兄妹を装っていた。そうずることで悪人共をおびき寄せる作戦を立てる。
パトリスが首からぶら下げる大きな鞄の口は開けたままだ。中には財布が忍ばせてあった。
「二つもらえますか? あっ!」
焼き栗を買った際、パトリスが財布を落としてしまう。
「俺が拾うから」
地面に散らばった硬貨の中には金貨も混じる。その様子を痩せ気味の頬がこけた中年女性が遠くから見つめていた。
兄妹の広場散策は続く。料理だけでなく装飾用の小物を扱う屋台も多かったのでそれを眺めるだけでも楽しい時間を過ごせた。近くの教会から聞こえてくる賛美歌も気分を盛り上げてくれる。
夕暮れ時、色とりどりな電飾の輝きによってクリスマスツリーが闇から浮かび上がる。あたらめて見上げた兄妹は美しさに釘付けとなった。
そのとき痩せた女性が兄妹の背後に近づく。パトリスと肩が触れ合うものの、無言で通り過ぎていった。
勘が働いたパトリスが鞄の中を確かめると財布が見つからない。鳳凰院と一瞬だけ見つめ合ったパトリスが大きく息を吸う。
「誰か―! あの頬のこけているおばさんが私の財布捕ったー!!」
涙目になりながらパトリスが指さす。痩せた女性の逃げ足は速かったが、すぐに鳳凰院が追いついた。腕を掴んで動きを止める。
「は、放せ! あたしゃ何もしとらんよ」
「その握っている財布は妹のだ」
「何いってるんだい。あたしのもんだよ」
「嘘までつくなんて!」
鳳凰院と痩せた女性との言い争いが始まった。人だかりができたところへ警備の兵士達がやってくる。
「ふふーん、こんな素敵な日にわるーいことする人は、このパティちゃんが許さないんだからねっ! サンタさんに代わってお仕置きしちゃうぞっ☆ なーんちゃって」
「本当にこれ、あなたのかな?」
パトリスと鳳凰院が財布の中身を兵士に確かめてもらう。すると一枚の紙が挟まれていた。『スリやひったくりは許さない。ひりょ&パティ』と書かれてあり、さらに兄妹のイラストも付いている。
「ちょっ、ちょっと! 女の子に手を上げるなんて何考えてるのよーっ!!」
無言でスリ女性に小突かれたパトリスがハリセンでやり返す。すぱあんと軽快な音がクリスマスツリーの根元で響き渡った。
「こちらもう一人捕まえましたよ」
鳳凰院が無線で仲間達に報告。これでハンター一同が協力して捕まった犯罪者数は三十八名になっていた。
●
「困ったな。どうやら道に迷ってしまったようだ」
街角で地図を広げていた男は顎に手を当てながら首を傾げる。華美な服装ではないが、仕立てからいって質のよい高級品ばかり。セドリック・L・ファルツ(ka4167)はおっとりな表情で辺りを回す。そんな彼を遠巻きに眺めていた人物が一人いた。
(まぁでも、見るからにカモよね。あたしがスリの側ならほっとくわけないし)
エキドナ(ka4182)は目立たぬ格好で壁に寄りかかりながら焼き栗を頬張る。
セドリックが囮となり、エキドナが監視役として悪人に目星をつける。ここ数日間、このような方法で犯罪者を捕まえてきた。
そうこうするうちに宵の口になる。屋台を覗き込んだセドリックに外套を羽織った男が忍び寄ってきた。
(あれって手練れよね?)
見張っていたエキドナが勘づく。スリがターゲットにわざとぶつかるのは意識を逸らすためなのだが外套の男は違う。すれ違った瞬間に財布だけを攫っていく。
「そこの方、待って下さい。私の財布を持っていったでしょう?」
セドリックに肩を掴まれた外套の男が振り返る。
「言いがかりはやめろ。財布なんて知らねぇぞ」
睨まれてもセドリックが退くことはない。言い争いの最中に警備の兵士達が現れる。そして外套の男の身体検査が行われたが、財布は見つからなかった。
「どう落とし前つけてくれるんだ?」
「ほら、あった!」
外套の男がセドリックを脅そうと迫ったとき、エキドナの声が聞こえる。外套の男の背後で屈んでいたエキドナが財布を掲げた。
「外套の裏側にあったわ。裾の固い部分じゃ兵士のみなさんもわかりにくいわよね」
「ど、どうして、それがっ!」
「それがってことはこの財布のこと知っているってことよね?」
今度はエキドナが外套の男に迫る。間違いなくセドリックの財布だった。こうして外套の男はスリ犯として捕まえられる。
「これではまるで、私のほうが守られている女性のようだね。助かったよ」
セドリックが羨望の眼差しでエキドナを見つめた。
「すってすぐにお金だけ抜き取って財布を捨てたのよ。探すのにちょっと手間取っちゃったわ」
「それでは外套の裏にあったというのは?」
「ちょっとした嘘ね。自白も得られたから問題ないわよ」
ウィンクするエキドナ。これには私も騙されたとセドリックが笑う。
「まもなく屋台が終わる頃だ。義娘の……クリスマスプレゼントを選ぶのを、手伝って欲しいんだ」
「おじ様、またスリに襲われかねないもの。付いて行かないとこっちが心配よ」
その後は一緒に買い物をする。
「私が贈ったドレスやアクセサリーを義娘は着けてくれなくてね。メッセージカードの文面もよく考えたつもりなのだが」
「女の子を着飾るのは、その子を束縛してるって意味合いにもなるし……年頃の女の子は、自分で装いを考えるのが好きなんだし……カードもさ、ほら、ちょっとキザじゃない?」
エキドナは贈り物としてペットを提案する。セドリックへの贈り物としてシックな色合いのマフラーを巻いてあげた。
「やっぱ真面目な子にはふざけたプレゼントがいいかしら? んー……でも折角だし、大人の男向けのアクセサリとか……お揃いとかのが喜ぶかな?」
エキドナは弟への贈り物も選んだ。
二十時が過ぎて広場での商売が終わる。街の人々もそれぞれの居場所へ戻っていくのだった。
●
依頼者『マリティン』が一同のために予約した料理店の個室でパーティが開かれる。
「メリークリスマス!」
ザレムが乾杯の音頭をとった。
「あー、捕まえるの楽しかった! おつかれさまでしたっ!!」
パトリスは満面の笑顔。七面鳥の丸焼きを始めとした料理がこれでもかと卓に運ばれてくる。
(老いも若きも、皆楽しそうだったな。 少し寂しくな……いわよ! 独りで十分楽しいわよっ!)
岩波が葡萄酒を飲んで軽いため息をつく。前の世界ではこの時期、大好きな歌姫のライヴで過ごしていたことを思いだす。
「これ、よかったら。深い意味はないからさ。手伝ってくれたお礼だ。誰かに使ってもらった方が良いかな、って」
ふいにザレムから贈り物を差しだされる。岩波がそれを受け取ったかどうかは両者だけが知ることだ。
「どの料理も美味しいわね」
「マリィア君、先程屋台を食べ歩いたといっていましたが」
マリィアが簡潔にセドリックの疑問に答える。「料理は屋台とは別腹よ」と。
七面鳥はもちろんどの料理も満遍なく頂いた。愛犬二頭も炙り肉のご相伴に預かる。
「では少しだけ」
エキドナとセドリックは葡萄酒を飲み交わす。程々にしたのはこの後に控えている家族との語らいのためだ。
「おいしそうなごはんがいっぱいだねっ! うん! おいしいっ!!!」
もっきゅもっきゅとパトリスが頬張る。お肉の塊にガブリと齧りつく。
「パティ、お疲れ様」
「お兄ちゃ、じゃなかった、ひりょさんと一緒で楽しかったよ」
「パティがノリノリだったな」
「えへへっ♪」
鳳凰院とパトリスは今日の出来事を話す。仲間達も武勇伝を聞かせてくれる。
その頃、紫吹は一人で野外の花壇に腰かけていた。煙管で一服しながら眺めていたのは、想い人同士で幸せそうな人達である。
教会のミサが終わったようで一時的に人通りが増えていた。紫吹はもう戻らぬヒトのことを思いだし、祈りながらイブの夜を過ごしたのだった。
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作戦相談 パトリス=クロー(ka1872) 人間(リアルブルー)|12才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/12/26 18:45:15 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/12/26 12:56:57 |