ゲスト
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【初夢】番長サチコVS番長連合
マスター:御影堂

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/12/31 19:00
- 完成日
- 2016/01/06 20:17
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
ここは関東近郊にあるクライズ学園。
街をまるごと飲み込む形で存在し、様々な生徒が通っている。異文化交流もとい異世界交流を推奨し、クリムゾンウェストからも多くの学生が通う。
これは、そんなもしかしたらの世界のお話。
クリムゾンウェストとリアルブルーが真に交差し、文化交流を果たした世界。
●
サチコ・w・ルサスールはクライズ学園の「裏」生徒会長である。
なんか格好良いという単純な理由から、勝手に立ち上げた組織である。
活動内容は、目安箱に投書された依頼をこなすというものであった。
夕暮れ時、旧校舎にあてがわれた裏生徒会室でサチコは難しい顔をしていた。
いつもであれば、部屋に来ていの一番に目安箱チェックをする彼女であるが、今日は目安箱に手すら触れていなかった。
代わりに彼女の視線の先に置かれていたのは、『番長伝説』なる書物である。
全国津々浦々、伝説の番長黄金時代のことが書かれたサブカル本だ。
番長が華やかに戦い、散っていった番長黄金時代。
古ぼけた表紙が、時代のふるさを物語っていた。
サチコがこの書物を図書館のほこりが降り積もったダンボールから、むりくり探しだしてきたのにはわけがある。
『番長伝説』の隣に、筆で書かれたいかつい字で「クライズ学園 番長へ」という封筒が置かれていた。
時間を少し遡ること、一時間前――。
放課後のチャイムとともに、サチコは「表」の生徒会に捕まっていた。
なんてことはない。呼び出しの放送さえあれば、サチコはほいほいついていくのだ。
裏生徒会のボロ扉と違い、革張りの重厚な扉を開けた先に生徒会長システィーヌが待っていた。
「まずは、そちらへおかけなさい」
示されたのは、裏生徒会のパイプ椅子とは天と地ほどに差のある革張りの椅子だった。
なれない高級感溢れる感触に、サチコは縮こまる。
「さて、あなたを呼んだ理由ですが……単刀直入に言います。番長になりなさい」
「ふぇ?」
気品あふれる唇から零れ出た単語に、サチコは間抜け面を晒した。
システィーヌの隣りにいた副会長が、咳払いをして補足する。
「今朝方、我が学園宛に番長連合から手紙が届きました」
「番長……連合?」
曰く、全国の番長を束ねようと画策する組織らしい。
クライズ学園は、記念すべき101校目の標的として選ばれたのだという。
「ですが、ご承知の通り、我が校には番長はいません」
そんなものがいる学校のほうが、今日日珍しいだろう。
「かといって、生徒会が出るのもおかしな話。そこで、あなたです」
「ふぇ?」
「裏生徒会とか、どことなく番長っぽいでしょ。だから、任せるわ」
「え、え」
システィーヌは、スッとテーブルを滑らせ、番長連合からの手紙をサチコに渡す。
拒否権などないと、その目が語っていたのだった。
●
「どうしましょう……コレ」
手紙を開ければ、かなり剛毅な文字で日時と場所が指定されていた。
三日後、クライズ学園近郊の野球場で待つとのことだ。
それまでにクライズ学園の番長勢力を整えなければならない。
要は、いつもどおりなのであるが……。
「……」
無言で『番長伝説』をパラパラとめくる。
次第に、読むスピードが早く、表情が真剣になり、目が輝いていく。
「かっこ……いいですわ!」
ちょろかった。
「見てなさい、番長連合! このクライズ学園番長サチコが倒してみせますわ!」
こうして、裏生徒会長サチコこと番長サチコの戦いが始まった!
ここは関東近郊にあるクライズ学園。
街をまるごと飲み込む形で存在し、様々な生徒が通っている。異文化交流もとい異世界交流を推奨し、クリムゾンウェストからも多くの学生が通う。
これは、そんなもしかしたらの世界のお話。
クリムゾンウェストとリアルブルーが真に交差し、文化交流を果たした世界。
●
サチコ・w・ルサスールはクライズ学園の「裏」生徒会長である。
なんか格好良いという単純な理由から、勝手に立ち上げた組織である。
活動内容は、目安箱に投書された依頼をこなすというものであった。
夕暮れ時、旧校舎にあてがわれた裏生徒会室でサチコは難しい顔をしていた。
いつもであれば、部屋に来ていの一番に目安箱チェックをする彼女であるが、今日は目安箱に手すら触れていなかった。
代わりに彼女の視線の先に置かれていたのは、『番長伝説』なる書物である。
全国津々浦々、伝説の番長黄金時代のことが書かれたサブカル本だ。
番長が華やかに戦い、散っていった番長黄金時代。
古ぼけた表紙が、時代のふるさを物語っていた。
サチコがこの書物を図書館のほこりが降り積もったダンボールから、むりくり探しだしてきたのにはわけがある。
『番長伝説』の隣に、筆で書かれたいかつい字で「クライズ学園 番長へ」という封筒が置かれていた。
時間を少し遡ること、一時間前――。
放課後のチャイムとともに、サチコは「表」の生徒会に捕まっていた。
なんてことはない。呼び出しの放送さえあれば、サチコはほいほいついていくのだ。
裏生徒会のボロ扉と違い、革張りの重厚な扉を開けた先に生徒会長システィーヌが待っていた。
「まずは、そちらへおかけなさい」
示されたのは、裏生徒会のパイプ椅子とは天と地ほどに差のある革張りの椅子だった。
なれない高級感溢れる感触に、サチコは縮こまる。
「さて、あなたを呼んだ理由ですが……単刀直入に言います。番長になりなさい」
「ふぇ?」
気品あふれる唇から零れ出た単語に、サチコは間抜け面を晒した。
システィーヌの隣りにいた副会長が、咳払いをして補足する。
「今朝方、我が学園宛に番長連合から手紙が届きました」
「番長……連合?」
曰く、全国の番長を束ねようと画策する組織らしい。
クライズ学園は、記念すべき101校目の標的として選ばれたのだという。
「ですが、ご承知の通り、我が校には番長はいません」
そんなものがいる学校のほうが、今日日珍しいだろう。
「かといって、生徒会が出るのもおかしな話。そこで、あなたです」
「ふぇ?」
「裏生徒会とか、どことなく番長っぽいでしょ。だから、任せるわ」
「え、え」
システィーヌは、スッとテーブルを滑らせ、番長連合からの手紙をサチコに渡す。
拒否権などないと、その目が語っていたのだった。
●
「どうしましょう……コレ」
手紙を開ければ、かなり剛毅な文字で日時と場所が指定されていた。
三日後、クライズ学園近郊の野球場で待つとのことだ。
それまでにクライズ学園の番長勢力を整えなければならない。
要は、いつもどおりなのであるが……。
「……」
無言で『番長伝説』をパラパラとめくる。
次第に、読むスピードが早く、表情が真剣になり、目が輝いていく。
「かっこ……いいですわ!」
ちょろかった。
「見てなさい、番長連合! このクライズ学園番長サチコが倒してみせますわ!」
こうして、裏生徒会長サチコこと番長サチコの戦いが始まった!
リプレイ本文
●
クライズ学園近郊で部活動や地域の交流に使われる野球場が、今日は特別大勢の人間で賑わっていた。
ただし、そのほとんどは俗にいう番長で構成された番長連合だ。対するはクライズ学園を代表する番長……ではなく裏生徒会の一行。
そして、そのどちらにも属さない女性が1人。
「壮観ねぇ」
キセルを吹かして佇む女性の名は、紫吹(ka5868)。
身請人の元へ向かう途中で自分付の禿に似た少女を見かけ、観戦に興じたのだ。
禿に瓜二つの少女こそ、裏生徒会の中央に立つサチコだった。
戦場に立つ面々を見比べ、紫吹は少しつまらなそうに言う。
「番長連合、もう少し骨があるかと思ったけど、そうでもない……か」
だが、多勢に無勢。どうなるかと紫吹は静かに見守るのだった。
●
二日前、サチコはクラスメイトの天竜寺 舞(ka0377)と裏生徒会室にいた。そこに裏生徒会の会計、最上 風(ka0891)も同席していた。
「うわ、なにそれ! 『ほくさい学園道中物語』とか『女坂』とかの番長漫画好きなんだよね。やるやる、番長やるよ♪」
「ありがとうございますわ」
剣道部所属の彼女に声をかけてよかったと、サチコは胸をなでおろす。
「ところで、サチコさん」
ふと、二人の会話に風が口を出す。
「風の仕入れた情報によると、セーラー服、ヨーヨー、鉄仮面が女番長におすすめらしいですよ?」
「え、さすがに鉄仮面は……」
「他のはいいんだ」
苦笑する舞も加わって、サチコの衣装談義が始まる。
その途中、話は別の方向へ逸れる。
「どうせなら、サチコさんも番長みたいに、二つ名とか異名とかつけませんか?」
「……裏生徒会長では、だめでしょうか」
「もっとカッコイイのがいいですね」
「そうそう。もっと番長らしいのにしなくちゃ」
わきゃわきゃと話が盛り上がっていた、その時――。
ドアが弾け飛びそうなほどの勢いで開かれ、大きな音を打ち鳴らした。
古風なスケバンが、ずいっと入ってきてサチコにメンチを切る。
「ひっ」とサチコは肩を震わせた。
黙ってメンチを切る女の正体は、ボルディア・コンフラムス(ka0796)だ。その目の前に木刀が振り下ろされる。
「ちょっと、いきなり入ってきて失礼だよ?」
舞が彼女を阻んだのだ。
「すまねぇ。ちょいと頼みたいことがあってな」
いうやいなやボルディアは、手を床につき土下座スタイルへと移行した。
混乱を来す裏生徒会室内で、ボルディアは叫んだ。
「番長であるアンタを置いて、差し出がましいのは百も承知!」
サチコがオロオロとするのに構わず、ボルディアは続ける。
「だが、恥を忍んで頼む。番長王は俺に譲っちゃくれねぇか!!」
ぽかんとする空間で、こほんっと風が咳をする。
「まず話と、出すものを出してもらわなければなりませんね」
●
ボルディアは関東近郊を本拠とする暴走族集団『腐麗威武』のヘッドだった。
過去形なのは、番長連合による襲撃のためだ。
「……というわけだ」
「番長王の称号は、別に差し上げますよ」とさらりとサチコはいう。
今度は訝しげな表情を見せるボルディアに、事情を説明する。
裏生徒会室の扉の側に、怪しげな人影が一つ。
「ついに、クラ学番長の名を継ぐ者が現れるか……!」
まるで伝説を知る村の老人のように呟くのは、ヴォーイ・スマシェストヴィエ(ka1613)だ。彼は当学園の用務員として勤務するアラサーである。
だが、その正体はクライズ学園番長の証を守り続ける、学園OBなのだ。
新たな伝説誕生を前にして、彼は気の昂ぶりを感じていた。
「おっと、そこの君。おたくも裏生徒会に与するために来たのかい?」
「え?」
たまたま部屋の前を通りかかった鈴胆 奈月(ka2802)がいきなり声をかけられ、立ち止まった。
何のことかわからない奈月に、「頑張ってくれたまえ」と一方的な言葉を送りヴォーイは去っていく。
取り残された奈月は嫌な予感がし、その場を離れようとした。
だが扉が開き、中から出てきたサチコと目が合ってしまった。
「ちょうどよいところに、奈月さんがいましたわ!」
「……またか、またなのか」
旧校舎にサボりに来ただけなのに、これだ。奈月はお約束という呪いの存在を感じずにはいられないのであった。
●
再び当日の野球場。
「サチコさんにいきなり番長連合との戦いに加わって欲しいと頼まれましたが、まずは警察に相談した方が良いような気がしますが」
サチコたち裏生徒会に与するエルバッハ・リオン(ka2434)は、真顔でそんなことをつぶやいた。ここまで来てしまっては、いまさらである。
彼女とは対照的に、拳を揉みながら戦いを待つ者がいた。
ボルディアの舎弟、阿部 透馬(ka5823)である。
「徒党組み合ってってのもなんだかなぁ……」
「あん? 何か言ったか」
「……まぁいいか! なんでもないぜ、姐さん」
姐さんが納得しているなら、透馬がなにかいうことはない。
それに、久々に暴れられるのだ。
「やるからにはトコトンはしゃがせて貰わねぇとな!」
気力を充満させ、透馬は前方の番長集団を見やるのだった。
そんな折、番長連合側から風が戻ってくる。
「え、風さん。どうして、そちらから……」
困惑するサチコに、風はしれっと告げる。
「薬入りの差し入れを番長王に看破されました。残念でなりませんねー」
「ちょっ!? 卑怯ですわよ」
「決闘は、手紙を受け取った時から始まっているんですよ?」
駆け引きの世界では、風のほうが上手である。
それ以上に「敵からの施しいらぬ」と差し入れをぶっ潰した番長王は、愚直さで策を破壊する力を有していた。
「さて、名乗りです。頑張ってくださいねー」
それ以上何も言わせないという形で、風が名乗りを促す。
途端、サチコは頬を赤らめつつ前に出るのだった。
「番長王! 私がクライズ学園番長、ま、まほ……」
辿々しい様子のサチコに番長王が片眉を上げる。
「ほら、しっかり」と舞がサチコの背中を押した。
すっと息を深く吸い込んで、顔を真赤にしながら叫ぶ。
「魔法少女番長サチコですわ! いざ、尋常に勝負!!」
魔法少女番長サチコは、魔法少女風にアレンジしたスケバン衣装を身にまとって戦場に立つ。
名乗りと同時に雑魚番長どもが走りだし、手前にいた10名ほどが落とし穴に消えた。
目を丸くするサチコに風が言う。
「最終的に勝てば良いんですよ。それに、有象無象を引き連れ、数で来る相手に容赦は入りませんよね?」
消えた雑魚番長の後ろから湧き出る雑魚番長の姿を見て、サチコは引きつった笑顔で頷くのだった。
●
戦いの火蓋はこうして落とされた。
切り込み隊長として透馬が飛び出し、拳を振るう。
「寄ってたかって勝ったって、それで楽しいのか?」
気を練りあげて放たれた拳は、雑魚番長を木刀ごと地面に沈める。
「もっとエキサイティングにいこうぜ!」
叫びながら拳をぶつけ、楽しげに次の相手へ立ち向かう。
その傍ら、
「おらおら現役共、それでも番長はれんのかぁっ!?」
声を張り上げ戦いに赴くヴォーイの姿があった。
あきらかに1人だけ学生ではないが、気にしてはいけない。
ヴォーイは、ジェットハンマーを回転しながらぶん回して雑魚番長を蹴散らしていく。
そんな中、一角では熾烈な色気勝負の機運が高まっていた。
雑魚番長が集う場所で、エルが制服のボタンを谷間が見える程度に開ける。
「皆さん、サチコさんの味方になってくれたら、後で天国に連れて行って上げますよ」
甘く弾むような声で告げられ、男性の雑魚番長のうち半数くらいの心が揺らいだ。
その様子を遠くから眺めていた紫吹は、雑魚番長どもを鼻で笑った。
「あれしきで動きが止まるようじゃ、ダメねぇ。さて、助太刀でも……ん?」
視線が揺らぎ、一点に向かう。肉体美番長が神輿を担いで参上したのだ。
「あなたも中々のようね。けど、私にはかなわないわよ!」
チャイナドレスかと言うぐらい深いスリットの入ったロングスカートを履き、色気を振りまく少女……セクシー番長エスカルラータ(ka0220)である。
そのセクシーさを前にして、雑魚番長どもの寝返りが止まる。
「……ん?」
だが、神輿の上から雑魚番長の面々を長め表情が陰った。
「小隊の数が足りないわね?」
そのとき、野球場内に不敵な笑い声が響いた。
「ふっふっふ……貴様らの居ても居なくてもちょっと賑やかし程度に居れば展開に役立つかな程度の部下たちは、今頃バニー部の『おもてなし』の手の内……二度と出られぬ地下深くよ」
「誰!?」
「バニー部主将、リズリエル・ュリウス(ka0233)だ!」
盛大に名乗りを上げて現れたのは、風にうさ耳をなびかせるバニー服の少女だった。彼女は名乗りの通り、バニー部主将である。
彼女には悩みがあった。
バニー部の部室を裏生徒会との取引によって手に入れたは良いがうさ耳の量産が進まないのだ。うさ耳が増えないことには部員を増やせない。そこで戦いに与する代わりに、裏工場の裏うさ耳を手に入れる契約を交わしたのだ。
「ふっふっふ。私の部下は豊満だ。それ以上は言うまい」
「なんて卑怯な……けれど数ではまだ勝ってるわ。あなたたち、やぁ~っておしまい!」
セクシーな声に雑魚番長が動き出した……そのとき。
爆炎が雑魚番長たちを吹き飛ばした。エルがファイアーボールを放ったのだ。
蹴散らされていく雑魚番長に目もくれず、リズリエルは肉体美番長の面前に躍り出る。
「まずはおまえから倒す。肉体美とは如何なる物か……この女バニの紫豹と恐れられた私のポージングを見るがいい!」
女バニとは女子バニー部のことである。女豹のポーズからはじまり、肉体美番長とポーズ合戦を繰り広げる。異様な一角に誰もツッコミを居れられない。
というか、それどころではなかった。
数を減らしたとはいえ雑魚番長は星の数ほどにいる。エルや透馬が蹴散らすのに集中する中、それぞれも必要な相手へと近づいていた。
●
愛用の帽子に意匠された目玉から光の波動をぶっ放し、風が雑魚を吹き飛ばす。
その隙間を縫って、舞が剣撃番長のところまでたどり着く。
「さぁ、そこのでくの坊! あんたの剣撃が植替、この『白銀の舞』が上か……勝負だよ!」
木刀を突き付けての名乗り上げ、剣撃番長はただ笑みを浮かべるのみ。
そして始まる打ち合い。舞は目線と足さばきでフェイントをかけつつ、剣撃番長の防御の隙間を狙って一撃を叩き込む。
対する剣撃番長は攻撃を受けつつもカウンター気味に、大ぶりの一撃で舞を突き上げる。避けることに集中しても、なおも伸びる一撃。数発喰らえば、体力の半分近くを持っていかれる。
一合二合と打ち合えば力負けするのは明らか。しかし、剣撃を受けた数は剣撃番長のほうが上だ。その上体が、今揺らぐ。
「見よ! 変移◯刀霞斬り!」
隙を見逃さず舞が強く踏み出す。剣撃番長がすかさず木刀を振り下ろすが、刃に感触はない。次の瞬間、強い衝撃が脇腹を襲った。
舞の胴払いが見事に決まったのだ。
「……っ」
敵を打ち倒した舞だが、慌ててスカートを押さえる。集中した代償として、スカートが翻ったのだ。その瞬間を、雑魚番長の一部がしかりと見た。そして、倒れこんだ剣撃番長も見逃しはしなかった。
「何見てんのよスケベ!」
顔を真赤に染め、舞は剣撃番長へさらに木刀を振り下ろす。
舞が容赦なく、記憶がなくなるまで打ち込む間に番長王へたどり着くものがいた。
――ヴォーイである。
●
「さすが番長王だ、なんともないぜ!」
だが、魔力を込めて放たれた一撃はまるで響かない。
番長王はふん、と鼻を鳴らすと拳をつきこんだ。十メートル近く宙を舞い、落下する。動けなくなったヴォーイは近くにいたサチコに特殊強化鋼製ヨーヨーを手渡す。
「後は……頼む」
「残念ですけれど、彼と戦うのは私ではありませんわ」
サチコは告げると、まっすぐ魔導番長へと向かう。
跳んできた魔弾は奈月が障壁で防ぐ。
「無茶は……しないでくれ」
「肝に銘じますわ」と苦笑を浮かべつつ、サチコは地を駆ける。
そう、この戦いの熱に浮かれ、サチコは覚醒したのだ!
それでも倒れないよう注意をしつつ、奈月は射撃番長に集中する。
「そんな間合いで大丈夫か?」
何度ジェットブーツを発動させても、距離を取ろうとする相手へ不意打ちに機導砲を放つ。一条の光に飲み込まれながら、銃を乱射するが弾丸は届かない。
今度こそと一気に距離を詰め、奈月は剣撃を放った。
「ボクが、いつから剣しか扱えないと錯覚していた?」
倒れた射撃番長に告げ、奈月は番長王の方を見る。
ボルディアが番長王に迫っていた。
●
「俺のチームを潰した時のニヤケヅラ、忘れたこたぁなかったぜ。ここで会ったが百年目、てめぇはこの場でブチ殺す!」
番長王が反応を見せるより早く、そして、重く拳を叩き込んでいく。鋭い一撃を、番長王は甘んじて受け止める。苛烈な攻撃が続くかと思えたところで、一発の弾丸がボルディアの足下を穿った。
狙撃番長だ。
舌打ちしたボルディアに透馬が目配せする。
ボルディアは彼に狙撃番長を任せ、再び番長王と対峙する。激しい殴打の打ち合いの中で、巻き込まれた雑魚番長が派手に宙を舞っていく……。
二人の戦いに飛んだ雑魚番長が、一つの波紋を呼んだ。
「痛っ」
紫吹の真上に落ちてしまったのだ。派手な戦いを望んでいたとはいえ、巻き込まれるのは予想外。
「アタシの上に落下とはイイ度胸だ!」
ついに彼女もグラウンドに降り立つ。そこではポージング勝負に敗北した肉体美番長がいた。その身体を踏み越え、紫吹は迫る爆炎と雑魚どもを打ち払う。
「何よ、あなた」と突如現れた紫吹にエスカルラータが槍を構える。エスカルラータは、紫吹の放つ色気力を感じ取ったのだ。
「そうねぇ。どちらの味方でもないが……言うならば蝶太夫とでも」
見渡せば、ちょうどリズリエルとエスカルラータが対峙するところだった。
面白そうな笑みを上げて、いう。
「アタシが真のセクシー番長と謳ってやるさね」
それが合図となり始まった戦いをお届けするには、あまりにも色気力がありすぎる。結果だけを後ほど、お伝えすることにしよう。
●
魔導番長はサチコと何故か準備されていたピッチングマシーンを駆使した風の前に敗れ去った。どこからそんなものをと思ったが、風は落とし穴を作っていたのだ。
「用意周到ですわね」
呆れ口調でサチコは呟き、残された番長王と狙撃番長に注意を向けた。
なお、セクシー番長VS謎の太夫VSエル&リズのセクシーコンビは見えないことにした。紫吹が炎を躍らせ、対抗してエルが炎を放ち、リズとエスカルラータがセクシーに打ち合う様は視界になかった。
そして、狙撃番長は……。
「せっかく楽しいタイマンしてんのにこそこそ横槍かい? 関心しねえな!」
その懐に透馬の侵入を許していた。
「っしゃおらぁーー!」
抉るような突きが狙撃番長を穿つ。そして、その一撃に愛銃を落として倒れた。
「鍛え方が足りないんだよ」
見れば遠くには番長王の巨体と、炎を拳にまとわせるボルディアの姿があった。
「姐さんなら、んな野郎に遅れ取る訳ねーだろ。パーッとやっちまってくんなー!」
声を張り上げ、透馬は声援を送るのだった。
●
さすがは番長王だ、とボルディアは思う。
炎のようなオーラが傷を癒やす炎癒という技も使い切るほどに、彼の者の拳は強い。だが、それ以上に自分のほうが強いとボルディアは踏ん張りながら笑う。
番長王の愚直な突き上げに負けじ劣らず、ボルディアは頭突きやケリを合わせためった打ち喧嘩スタイルで対抗していた。
互いに体力も限界が近い、ボルディアは距離を取ると深く息を吸う。
「俺のこの手が真っ赤に燃える! テメェを倒せと轟き叫ぶ!」
ありったけの力を拳に込めて、赤き炎が吹き荒れる!
「これが……俺の拳だアァーッ!」
強力無比な突きが番長王の胸元で爆発した。
焼け跡を胸にいだき、番長王がゆっくりと崩れ落ちる。ボルディアの慟哭が、野球場にこだました。
その裏で、セクシー番長もまたセクシーに敗れ去っていた。
その散り際をお届けできないのが非情に残念でならない。あまりにもセクシーすぎたのだ……。
●
後日、裏生徒会室――。
「あれ、これってサチコが番長連合のトップになったてこと? 今、サチコは果てしなく遠い……」
「いえ、違います。番長王はボルディアさんに譲りましたわ」
舞の言葉を遮り、サチコはいう。
もったいないと舞はいうが、サチコの手元にはクラ学番長の証が握られていた。
「じゃ、クラ学番長の証、確かに渡したぜ」
謎の男にそう託された、ヨーヨーである。
今のサチコには、番長王よりも価値のあるものだった。
「あ、サチコさーん。あの戦いの経費は表の生徒会に断られたので、サチコさん持ちで付けときましたよ」
思い出にひたるサチコを風が現実に連れ戻す。
「本当は地雷とか手榴弾とかも手配したかったのですが、表の生徒会長さんに差し押さえを喰らってしまいましたよ―」
風の言葉に二の句がつなげないでいると、放送が流れた。
生徒会長直々に、冷静な怒りの声でサチコを呼び出す放送だ。
「……あ、あんまりですわぁ」
今日も旧校舎にサチコの悲鳴が、響くのだった。
クライズ学園近郊で部活動や地域の交流に使われる野球場が、今日は特別大勢の人間で賑わっていた。
ただし、そのほとんどは俗にいう番長で構成された番長連合だ。対するはクライズ学園を代表する番長……ではなく裏生徒会の一行。
そして、そのどちらにも属さない女性が1人。
「壮観ねぇ」
キセルを吹かして佇む女性の名は、紫吹(ka5868)。
身請人の元へ向かう途中で自分付の禿に似た少女を見かけ、観戦に興じたのだ。
禿に瓜二つの少女こそ、裏生徒会の中央に立つサチコだった。
戦場に立つ面々を見比べ、紫吹は少しつまらなそうに言う。
「番長連合、もう少し骨があるかと思ったけど、そうでもない……か」
だが、多勢に無勢。どうなるかと紫吹は静かに見守るのだった。
●
二日前、サチコはクラスメイトの天竜寺 舞(ka0377)と裏生徒会室にいた。そこに裏生徒会の会計、最上 風(ka0891)も同席していた。
「うわ、なにそれ! 『ほくさい学園道中物語』とか『女坂』とかの番長漫画好きなんだよね。やるやる、番長やるよ♪」
「ありがとうございますわ」
剣道部所属の彼女に声をかけてよかったと、サチコは胸をなでおろす。
「ところで、サチコさん」
ふと、二人の会話に風が口を出す。
「風の仕入れた情報によると、セーラー服、ヨーヨー、鉄仮面が女番長におすすめらしいですよ?」
「え、さすがに鉄仮面は……」
「他のはいいんだ」
苦笑する舞も加わって、サチコの衣装談義が始まる。
その途中、話は別の方向へ逸れる。
「どうせなら、サチコさんも番長みたいに、二つ名とか異名とかつけませんか?」
「……裏生徒会長では、だめでしょうか」
「もっとカッコイイのがいいですね」
「そうそう。もっと番長らしいのにしなくちゃ」
わきゃわきゃと話が盛り上がっていた、その時――。
ドアが弾け飛びそうなほどの勢いで開かれ、大きな音を打ち鳴らした。
古風なスケバンが、ずいっと入ってきてサチコにメンチを切る。
「ひっ」とサチコは肩を震わせた。
黙ってメンチを切る女の正体は、ボルディア・コンフラムス(ka0796)だ。その目の前に木刀が振り下ろされる。
「ちょっと、いきなり入ってきて失礼だよ?」
舞が彼女を阻んだのだ。
「すまねぇ。ちょいと頼みたいことがあってな」
いうやいなやボルディアは、手を床につき土下座スタイルへと移行した。
混乱を来す裏生徒会室内で、ボルディアは叫んだ。
「番長であるアンタを置いて、差し出がましいのは百も承知!」
サチコがオロオロとするのに構わず、ボルディアは続ける。
「だが、恥を忍んで頼む。番長王は俺に譲っちゃくれねぇか!!」
ぽかんとする空間で、こほんっと風が咳をする。
「まず話と、出すものを出してもらわなければなりませんね」
●
ボルディアは関東近郊を本拠とする暴走族集団『腐麗威武』のヘッドだった。
過去形なのは、番長連合による襲撃のためだ。
「……というわけだ」
「番長王の称号は、別に差し上げますよ」とさらりとサチコはいう。
今度は訝しげな表情を見せるボルディアに、事情を説明する。
裏生徒会室の扉の側に、怪しげな人影が一つ。
「ついに、クラ学番長の名を継ぐ者が現れるか……!」
まるで伝説を知る村の老人のように呟くのは、ヴォーイ・スマシェストヴィエ(ka1613)だ。彼は当学園の用務員として勤務するアラサーである。
だが、その正体はクライズ学園番長の証を守り続ける、学園OBなのだ。
新たな伝説誕生を前にして、彼は気の昂ぶりを感じていた。
「おっと、そこの君。おたくも裏生徒会に与するために来たのかい?」
「え?」
たまたま部屋の前を通りかかった鈴胆 奈月(ka2802)がいきなり声をかけられ、立ち止まった。
何のことかわからない奈月に、「頑張ってくれたまえ」と一方的な言葉を送りヴォーイは去っていく。
取り残された奈月は嫌な予感がし、その場を離れようとした。
だが扉が開き、中から出てきたサチコと目が合ってしまった。
「ちょうどよいところに、奈月さんがいましたわ!」
「……またか、またなのか」
旧校舎にサボりに来ただけなのに、これだ。奈月はお約束という呪いの存在を感じずにはいられないのであった。
●
再び当日の野球場。
「サチコさんにいきなり番長連合との戦いに加わって欲しいと頼まれましたが、まずは警察に相談した方が良いような気がしますが」
サチコたち裏生徒会に与するエルバッハ・リオン(ka2434)は、真顔でそんなことをつぶやいた。ここまで来てしまっては、いまさらである。
彼女とは対照的に、拳を揉みながら戦いを待つ者がいた。
ボルディアの舎弟、阿部 透馬(ka5823)である。
「徒党組み合ってってのもなんだかなぁ……」
「あん? 何か言ったか」
「……まぁいいか! なんでもないぜ、姐さん」
姐さんが納得しているなら、透馬がなにかいうことはない。
それに、久々に暴れられるのだ。
「やるからにはトコトンはしゃがせて貰わねぇとな!」
気力を充満させ、透馬は前方の番長集団を見やるのだった。
そんな折、番長連合側から風が戻ってくる。
「え、風さん。どうして、そちらから……」
困惑するサチコに、風はしれっと告げる。
「薬入りの差し入れを番長王に看破されました。残念でなりませんねー」
「ちょっ!? 卑怯ですわよ」
「決闘は、手紙を受け取った時から始まっているんですよ?」
駆け引きの世界では、風のほうが上手である。
それ以上に「敵からの施しいらぬ」と差し入れをぶっ潰した番長王は、愚直さで策を破壊する力を有していた。
「さて、名乗りです。頑張ってくださいねー」
それ以上何も言わせないという形で、風が名乗りを促す。
途端、サチコは頬を赤らめつつ前に出るのだった。
「番長王! 私がクライズ学園番長、ま、まほ……」
辿々しい様子のサチコに番長王が片眉を上げる。
「ほら、しっかり」と舞がサチコの背中を押した。
すっと息を深く吸い込んで、顔を真赤にしながら叫ぶ。
「魔法少女番長サチコですわ! いざ、尋常に勝負!!」
魔法少女番長サチコは、魔法少女風にアレンジしたスケバン衣装を身にまとって戦場に立つ。
名乗りと同時に雑魚番長どもが走りだし、手前にいた10名ほどが落とし穴に消えた。
目を丸くするサチコに風が言う。
「最終的に勝てば良いんですよ。それに、有象無象を引き連れ、数で来る相手に容赦は入りませんよね?」
消えた雑魚番長の後ろから湧き出る雑魚番長の姿を見て、サチコは引きつった笑顔で頷くのだった。
●
戦いの火蓋はこうして落とされた。
切り込み隊長として透馬が飛び出し、拳を振るう。
「寄ってたかって勝ったって、それで楽しいのか?」
気を練りあげて放たれた拳は、雑魚番長を木刀ごと地面に沈める。
「もっとエキサイティングにいこうぜ!」
叫びながら拳をぶつけ、楽しげに次の相手へ立ち向かう。
その傍ら、
「おらおら現役共、それでも番長はれんのかぁっ!?」
声を張り上げ戦いに赴くヴォーイの姿があった。
あきらかに1人だけ学生ではないが、気にしてはいけない。
ヴォーイは、ジェットハンマーを回転しながらぶん回して雑魚番長を蹴散らしていく。
そんな中、一角では熾烈な色気勝負の機運が高まっていた。
雑魚番長が集う場所で、エルが制服のボタンを谷間が見える程度に開ける。
「皆さん、サチコさんの味方になってくれたら、後で天国に連れて行って上げますよ」
甘く弾むような声で告げられ、男性の雑魚番長のうち半数くらいの心が揺らいだ。
その様子を遠くから眺めていた紫吹は、雑魚番長どもを鼻で笑った。
「あれしきで動きが止まるようじゃ、ダメねぇ。さて、助太刀でも……ん?」
視線が揺らぎ、一点に向かう。肉体美番長が神輿を担いで参上したのだ。
「あなたも中々のようね。けど、私にはかなわないわよ!」
チャイナドレスかと言うぐらい深いスリットの入ったロングスカートを履き、色気を振りまく少女……セクシー番長エスカルラータ(ka0220)である。
そのセクシーさを前にして、雑魚番長どもの寝返りが止まる。
「……ん?」
だが、神輿の上から雑魚番長の面々を長め表情が陰った。
「小隊の数が足りないわね?」
そのとき、野球場内に不敵な笑い声が響いた。
「ふっふっふ……貴様らの居ても居なくてもちょっと賑やかし程度に居れば展開に役立つかな程度の部下たちは、今頃バニー部の『おもてなし』の手の内……二度と出られぬ地下深くよ」
「誰!?」
「バニー部主将、リズリエル・ュリウス(ka0233)だ!」
盛大に名乗りを上げて現れたのは、風にうさ耳をなびかせるバニー服の少女だった。彼女は名乗りの通り、バニー部主将である。
彼女には悩みがあった。
バニー部の部室を裏生徒会との取引によって手に入れたは良いがうさ耳の量産が進まないのだ。うさ耳が増えないことには部員を増やせない。そこで戦いに与する代わりに、裏工場の裏うさ耳を手に入れる契約を交わしたのだ。
「ふっふっふ。私の部下は豊満だ。それ以上は言うまい」
「なんて卑怯な……けれど数ではまだ勝ってるわ。あなたたち、やぁ~っておしまい!」
セクシーな声に雑魚番長が動き出した……そのとき。
爆炎が雑魚番長たちを吹き飛ばした。エルがファイアーボールを放ったのだ。
蹴散らされていく雑魚番長に目もくれず、リズリエルは肉体美番長の面前に躍り出る。
「まずはおまえから倒す。肉体美とは如何なる物か……この女バニの紫豹と恐れられた私のポージングを見るがいい!」
女バニとは女子バニー部のことである。女豹のポーズからはじまり、肉体美番長とポーズ合戦を繰り広げる。異様な一角に誰もツッコミを居れられない。
というか、それどころではなかった。
数を減らしたとはいえ雑魚番長は星の数ほどにいる。エルや透馬が蹴散らすのに集中する中、それぞれも必要な相手へと近づいていた。
●
愛用の帽子に意匠された目玉から光の波動をぶっ放し、風が雑魚を吹き飛ばす。
その隙間を縫って、舞が剣撃番長のところまでたどり着く。
「さぁ、そこのでくの坊! あんたの剣撃が植替、この『白銀の舞』が上か……勝負だよ!」
木刀を突き付けての名乗り上げ、剣撃番長はただ笑みを浮かべるのみ。
そして始まる打ち合い。舞は目線と足さばきでフェイントをかけつつ、剣撃番長の防御の隙間を狙って一撃を叩き込む。
対する剣撃番長は攻撃を受けつつもカウンター気味に、大ぶりの一撃で舞を突き上げる。避けることに集中しても、なおも伸びる一撃。数発喰らえば、体力の半分近くを持っていかれる。
一合二合と打ち合えば力負けするのは明らか。しかし、剣撃を受けた数は剣撃番長のほうが上だ。その上体が、今揺らぐ。
「見よ! 変移◯刀霞斬り!」
隙を見逃さず舞が強く踏み出す。剣撃番長がすかさず木刀を振り下ろすが、刃に感触はない。次の瞬間、強い衝撃が脇腹を襲った。
舞の胴払いが見事に決まったのだ。
「……っ」
敵を打ち倒した舞だが、慌ててスカートを押さえる。集中した代償として、スカートが翻ったのだ。その瞬間を、雑魚番長の一部がしかりと見た。そして、倒れこんだ剣撃番長も見逃しはしなかった。
「何見てんのよスケベ!」
顔を真赤に染め、舞は剣撃番長へさらに木刀を振り下ろす。
舞が容赦なく、記憶がなくなるまで打ち込む間に番長王へたどり着くものがいた。
――ヴォーイである。
●
「さすが番長王だ、なんともないぜ!」
だが、魔力を込めて放たれた一撃はまるで響かない。
番長王はふん、と鼻を鳴らすと拳をつきこんだ。十メートル近く宙を舞い、落下する。動けなくなったヴォーイは近くにいたサチコに特殊強化鋼製ヨーヨーを手渡す。
「後は……頼む」
「残念ですけれど、彼と戦うのは私ではありませんわ」
サチコは告げると、まっすぐ魔導番長へと向かう。
跳んできた魔弾は奈月が障壁で防ぐ。
「無茶は……しないでくれ」
「肝に銘じますわ」と苦笑を浮かべつつ、サチコは地を駆ける。
そう、この戦いの熱に浮かれ、サチコは覚醒したのだ!
それでも倒れないよう注意をしつつ、奈月は射撃番長に集中する。
「そんな間合いで大丈夫か?」
何度ジェットブーツを発動させても、距離を取ろうとする相手へ不意打ちに機導砲を放つ。一条の光に飲み込まれながら、銃を乱射するが弾丸は届かない。
今度こそと一気に距離を詰め、奈月は剣撃を放った。
「ボクが、いつから剣しか扱えないと錯覚していた?」
倒れた射撃番長に告げ、奈月は番長王の方を見る。
ボルディアが番長王に迫っていた。
●
「俺のチームを潰した時のニヤケヅラ、忘れたこたぁなかったぜ。ここで会ったが百年目、てめぇはこの場でブチ殺す!」
番長王が反応を見せるより早く、そして、重く拳を叩き込んでいく。鋭い一撃を、番長王は甘んじて受け止める。苛烈な攻撃が続くかと思えたところで、一発の弾丸がボルディアの足下を穿った。
狙撃番長だ。
舌打ちしたボルディアに透馬が目配せする。
ボルディアは彼に狙撃番長を任せ、再び番長王と対峙する。激しい殴打の打ち合いの中で、巻き込まれた雑魚番長が派手に宙を舞っていく……。
二人の戦いに飛んだ雑魚番長が、一つの波紋を呼んだ。
「痛っ」
紫吹の真上に落ちてしまったのだ。派手な戦いを望んでいたとはいえ、巻き込まれるのは予想外。
「アタシの上に落下とはイイ度胸だ!」
ついに彼女もグラウンドに降り立つ。そこではポージング勝負に敗北した肉体美番長がいた。その身体を踏み越え、紫吹は迫る爆炎と雑魚どもを打ち払う。
「何よ、あなた」と突如現れた紫吹にエスカルラータが槍を構える。エスカルラータは、紫吹の放つ色気力を感じ取ったのだ。
「そうねぇ。どちらの味方でもないが……言うならば蝶太夫とでも」
見渡せば、ちょうどリズリエルとエスカルラータが対峙するところだった。
面白そうな笑みを上げて、いう。
「アタシが真のセクシー番長と謳ってやるさね」
それが合図となり始まった戦いをお届けするには、あまりにも色気力がありすぎる。結果だけを後ほど、お伝えすることにしよう。
●
魔導番長はサチコと何故か準備されていたピッチングマシーンを駆使した風の前に敗れ去った。どこからそんなものをと思ったが、風は落とし穴を作っていたのだ。
「用意周到ですわね」
呆れ口調でサチコは呟き、残された番長王と狙撃番長に注意を向けた。
なお、セクシー番長VS謎の太夫VSエル&リズのセクシーコンビは見えないことにした。紫吹が炎を躍らせ、対抗してエルが炎を放ち、リズとエスカルラータがセクシーに打ち合う様は視界になかった。
そして、狙撃番長は……。
「せっかく楽しいタイマンしてんのにこそこそ横槍かい? 関心しねえな!」
その懐に透馬の侵入を許していた。
「っしゃおらぁーー!」
抉るような突きが狙撃番長を穿つ。そして、その一撃に愛銃を落として倒れた。
「鍛え方が足りないんだよ」
見れば遠くには番長王の巨体と、炎を拳にまとわせるボルディアの姿があった。
「姐さんなら、んな野郎に遅れ取る訳ねーだろ。パーッとやっちまってくんなー!」
声を張り上げ、透馬は声援を送るのだった。
●
さすがは番長王だ、とボルディアは思う。
炎のようなオーラが傷を癒やす炎癒という技も使い切るほどに、彼の者の拳は強い。だが、それ以上に自分のほうが強いとボルディアは踏ん張りながら笑う。
番長王の愚直な突き上げに負けじ劣らず、ボルディアは頭突きやケリを合わせためった打ち喧嘩スタイルで対抗していた。
互いに体力も限界が近い、ボルディアは距離を取ると深く息を吸う。
「俺のこの手が真っ赤に燃える! テメェを倒せと轟き叫ぶ!」
ありったけの力を拳に込めて、赤き炎が吹き荒れる!
「これが……俺の拳だアァーッ!」
強力無比な突きが番長王の胸元で爆発した。
焼け跡を胸にいだき、番長王がゆっくりと崩れ落ちる。ボルディアの慟哭が、野球場にこだました。
その裏で、セクシー番長もまたセクシーに敗れ去っていた。
その散り際をお届けできないのが非情に残念でならない。あまりにもセクシーすぎたのだ……。
●
後日、裏生徒会室――。
「あれ、これってサチコが番長連合のトップになったてこと? 今、サチコは果てしなく遠い……」
「いえ、違います。番長王はボルディアさんに譲りましたわ」
舞の言葉を遮り、サチコはいう。
もったいないと舞はいうが、サチコの手元にはクラ学番長の証が握られていた。
「じゃ、クラ学番長の証、確かに渡したぜ」
謎の男にそう託された、ヨーヨーである。
今のサチコには、番長王よりも価値のあるものだった。
「あ、サチコさーん。あの戦いの経費は表の生徒会に断られたので、サチコさん持ちで付けときましたよ」
思い出にひたるサチコを風が現実に連れ戻す。
「本当は地雷とか手榴弾とかも手配したかったのですが、表の生徒会長さんに差し押さえを喰らってしまいましたよ―」
風の言葉に二の句がつなげないでいると、放送が流れた。
生徒会長直々に、冷静な怒りの声でサチコを呼び出す放送だ。
「……あ、あんまりですわぁ」
今日も旧校舎にサチコの悲鳴が、響くのだった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/12/28 18:39:57 |
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相談卓 最上 風(ka0891) 人間(リアルブルー)|10才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2015/12/31 14:55:45 |