• 闇光

【闇光】希望を求める『真紅』

マスター:香月丈流

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~10人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/01/04 19:00
完成日
2016/01/13 02:14

みんなの思い出

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オープニング

 希望も一瞬にして深い絶望へと変わる。最善だと思っていた手が、最悪な事態を招く。
 人の決断が正しいか否か、結果を見るまでは分からない。時には道を誤ったり、何かを失う事もあるだろう。
 だが、どんな結果が待っていようとも、希望を捨てない限り道は拓ける。歩みを止めなければ、失敗も大きな糧となる。
 少なくとも……『彼ら』は絶望に沈むより、僅かな希望を求めて足掻く事を選んだ。
「艦内の破損個所、全て確認が取れました! これから必要資材をリストアップします!」
「軽傷、重傷を含め、負傷者多数! 死亡者は居ませんが、処置や薬品が必要です!」
「誰か、手を貸してくれ! 格納庫に負傷者を集めるぞ!」
 様々な声が飛び交い、人々が忙しなく動き回る。外から響く轟音に、足元から伝わる振動。焦げたような匂いが鼻を刺激し、張り詰めた空気が肌を叩く。
 人類の希望……歪虚に対する切り札、サルヴァトーレ・ロッソ。地に墜ちた巨大戦艦の中で、乗員達も独自の戦いを続けていた。
 艦内の破損箇所を調べ、応急修理を施す。負傷者は格納庫に集め、医薬品を持ち寄って治療。再びロッソで飛び立つため、力を合わせていた。
「無駄だよ。あんな『バケモノ』に勝てるワケがねぇ……」
 呟くような、小さな声。乗員の中には、墜落のショックや恐怖で動けなくなっている者も少なくない。船室に閉じこもる者、膝を抱えてガタガタと震える者、虚ろな表情で宙を眺める者も居る。
 独り言を呟いた男性も、気力を失った1人だった。酒瓶片手に格納庫の隅に座り、同僚達の姿をずっと見ている。
「担架が通るぞ! 道を開けてくれ!」
「布団でも緩衝剤でも良いから、何か柔らかい物を敷いて! 怪我人を床に転がせないでしょ!?」
「包帯、余ってませんか!? あと、消毒用アルコールも!」
 声を掛け合い、忙しそうに動き回る乗員達。返り血や機械油を浴びても、動く事を止めない。絶望を味わったからこそ、窮地に陥っているからこそ……互いに助け合おうとしている。
 希望が全て断たれたワケではない。ロッソは墜ちたが、人類が歪虚に敗北したワケでもない。絶望に染まるには、まだ早過ぎる。
(騒がしい……諦めりゃ楽になるのによ。ったく、静かに酒も呑めねぇな……!)
 ゆっくりと、男性は酒瓶を床に置いた。両手で自身の頬を叩くと、表情が一変。瞳に希望の光が宿り、体の底から力が溢れ出す。
「おい! 消毒ならコレ使え!」
 叫びながら、男性は酒瓶を放り投げた。消毒液の代用……とまでは言えないが、無いよりはマシである。
 酒瓶を手放した男性は、格納庫から駆け出した。逃げるワケではなく、現実逃避でもなく……負傷した仲間を探すために。

リプレイ本文


 墜落し、黒煙を上げるサルヴァトーレ・ロッソ。その上空に、大量の隼が群がっている。正確に言えば、隼の姿をしたゾンビ……つまりは、死体型雑魔が。
 奴らは、本能的に感じているのだろう。ロッソ内部で『餌』になりつつある命がある事に。
 20匹を超える隼が群がる中、荒野を駆ける幌馬車が1台。荷台は普通の物より大型で、2頭のゴースロン馬が牽引している。
 加えて、4台のバイクが護衛するように併走し、馬車の後方には騎馬が1騎。そのまま荒野を一気に駆け抜け、ロッソの格納庫に走り込んだ。


「待たせて悪かった。怪我人はどこだ?」
 馬車が停まるのと同時に、柊 真司(ka0705)がバイクから飛び下りる。ハンターになる前、彼はサルヴァトーレ・ロッソに所属していた。予想外の帰艦になってしまったが、そんな事は微塵も気にしていない。
 今優先するべきなのは、怪我人を治療する事と、病院まで安全に送り届ける事。その気持ちは、参加者全員が同じである。
 同行した医療スタッフ4人が、馬車から降りて足早に駆けていく。ハンター達は積荷を下ろす者と治療を手伝う者に分かれ、それぞれの作業を始めた。
「多少のお手伝いは、わたくしにお任せ下さいませ。少々、心得がありますので……」
 スタッフに指示を仰ぎつつも、持参したミネラルウォーターで傷を洗う月雲 夜汐(ka5780)。手慣れた動きで応急処置を施しているが、その横顔は若干曇っている。
 昔、必死に覚えた応急手当……それは、治癒の力を持つ姉や妹に憧れたから。夜汐は剣の才能に恵まれたが、癒力は授からなかった。だから……悪あがきでも治療術を覚え、家族や集落の民を癒したかったのだ。
 結果として、その知識が人命救助に役立っている。過去の苦々しい記憶も、彼女の糧となっているのだ。
(サルヴァトーレ・ロッソ……リアルブルーの知識や技術は興味深いが、今は人命優先だな)
 荷台から積荷を下ろしながら、ツィスカ・V・アルトホーフェン(ka5835)は艦内を観察している。サファイヤのような青い瞳と、艶やかな長い黒髪が印象的な『貴族令嬢』だが、思考は柔軟で革新的。リアルブルーの偉人や文化を独自に学び、強い関心を抱いている。
 状況が違っていたら、彼女は乗組員から話を聞き、知識を深めていただろう。今は負傷者を救うため、ツィスカは医療道具を急いで運んだ。
 ザレム・アズール(ka0878)は重傷者を診察するスタッフに付き添い、紙にペンを走らせている。これは、治療に必要な道具や処置を書き連ねた簡易カルテ。これを患者の首から下げておけば、治療や優先順位を判断しやすくなる。
 診察が終わると、ザレムは重ねた毛布の上に患者を寝かせた。体を支えて横にし、手を離そうとした瞬間、患者が彼の腕を強く掴む。言葉は発しなかったが、その瞳が強く訴えていた。
 『こんな所で死にたくない』と。
 ザレムは患者の手を強く握り、真っ直ぐに視線を返した。
「必ず病院に連れて行く。任せてくれ」
 気休めではない、力強い言葉。彼は物事を冷静に判断する反面、可能性が少しでもあるなら諦めない。迷いの無い青眼が、患者を静かに見詰めている。
 ザレムの言動で安心したのか、患者は手を離して眠りの底に落ちる。脈や呼吸に異常がない事を確認し、ザレムはカルテ作りを再開した。
 その隣では、蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)が荷物から水筒を取り出し、水で軽傷者の傷口を洗っている。水筒の中身は蜜鈴がマテリアルで浄化したため、飲料水よりも雑菌が少ない。
 が……どんなに綺麗な水でも、傷口には染みるワケで。短い悲鳴と小粒の涙が、軽傷者から零れた。
「大の男が、此の程度の傷で泣き言を言うでない。大丈夫じゃ、じきに良うなる故……な?」
 優しく励まし、柔らかく微笑む蜜鈴。彼女はエルフ特有の端正な美しさに加え、心を落ち着かせるような『癒しの空気』を纏っている。こんな美女に励まされたら、どんな男性でも一瞬で泣き止むだろう。
 蜜鈴は愛用の扇を取り出し、傷口を扇いで乾燥させると、包帯と傷薬で処置を施した。
 ハンター達の支援もあり、治療は順調に進んでいる。真司は軍属時代の応急手当を思い出しながら、切り傷や軽傷を処置。打撲は包帯と添え木で固定し、湿布と氷で患部を冷やした。
 貪狼(ka5799)は戦場暮らしの経験を活かし、臨機応変に軽傷者の対応をしている。治療に必要な道具は大量に持ってきたが、いつ足りなくなるか分からない。艦内にある物も使い、物資の消耗も抑えている。
「おい、そこの。コンロか何か、加熱器を貸してくれ。湯を沸かして煮沸殺菌したい」
 包帯を巻きながら、貪狼は元気そうなロッソ乗員に声を掛けた。が……乗員は目を逸らし、舌打ち混じりにブツブツと呟いている。墜落のショックもあり、手伝わされる事が不満なのだろう。
「仲間の命が懸かっているんだろ……四の五の言わず動け……!」
 非協力的な乗員に、貪狼の言葉が突き刺さる。大声を上げたワケではないが、幾多の死線を乗り越えてきた者は迫力が違う。真紅の瞳が鋭く輝き、黒い長髪が天を衝きそうな勢いである。
「道具も人手も足りてねぇんだ、このままだと命に関わるぞ?」
 2人の会話を聞いていた真司が、言葉を付け加えた。彼の言う通り、怪我の処置は一刻を争う。いつ状態が悪化しても不思議ではないし、口論している時間も惜しい。
 ハンター2人に促され、乗員は舌打ちしながら疾走。数分もしないうちに、小型のコンロを持って戻ってきた。
 貪狼は礼を述べ、準備してきた鍋に水を注いで点火。沸騰したら布を入れ、煮沸して医療スタッフに渡した。
「貪狼さん、あたしもコンロ使って良いかな?」
 重傷者の処置を手伝っていたメイム(ka2290)が、貪狼に問い掛ける。彼が無言で頷くと、メイムは医療スタッフに断りを入れて駆け出した。
 向かった先は、馬車。150cmにも満たない小さな体躯で大量の毛布を運び出し、コンロに移動。皮袋から色んな香木やお香を取り出し、一気に火を点けた。
 白檀とヒノキの香りが広がり、怪我人や乗員の心を落ち着かせる。香り自体は強いが、嫌な臭いはしない。メイムは物干しのような台を組み上げて毛布を掛け、その下に香を移動させた。
「メイムさん? この匂いは、一体何をしてるんだ?」
 彼女の行動を不思議に思ったのか、疑問を口にする鞍馬 真(ka5819)。荷物を運ぶ途中だったのか、両手に大量の荷物を抱えている。
「これ? 雑魔が『血の臭い』に誘われるというなら、強い香りで打ち消せば狙われずに済むかと思って」
 真の質問に、メイムは笑顔で言葉を返した。毛布を香で焚き染めれば、血の匂いは誤魔化せる。雑魔に対して効果があるかは不明だが、試してみる価値はあるだろう。
 メイムは毛布に香気を染み込ませ、出血の多い者に渡していく。真は感心して声を漏らし、荷物の運搬を再開した。
 怪我人の治療が一段落した頃、ザレム、メイム、夜汐の3人は、幌馬車の荷台に毛布を重ね始めた。これから重傷者を馬車に乗せるのだが、板に直接寝かせるワケにはいかない。少しでも衝撃を和らげるため、毛布を敷いているのだ。
 準備が整った所で、ハンターの大半が協力して怪我人を運び入れる。患者が格納庫から減る中、真は静かに格納庫から外に出た。その手に、愛用の銃を握って。
「もうすぐ出発みたいだ。私達も『仕事』を始めようか、アニスさん」
 ロッソの外では、アニス・テスタロッサ(ka0141)が待機していた。彼女も元軍人でロッソに乗艦していたが、今日は艦内に入っていない。現場に着いた時から、アニスは野生動物を探していた。
 不意に、2人の視界を2羽の野兎が走り抜ける。反射的に、アニスは銃を構えて引金を連続で引いた。激しい弾幕が雨のように降り注ぎ、地面に穴を穿って兎達の動きが止まる。
 その隙に、真が近寄って網を投げた。網が絡まっている間にロープで手足を縛り、2羽の野兎を無傷で捕まえた。
「俺らが生き残るためだ……恨んでいいぜ。恨まれるのは、慣れてる」
 呟くように、アニスが野兎に語り掛ける。一瞬、彼女の赤い瞳に悲しみの色が浮かんだ。


 ハンターがロッソに来てから、約4時間。怪我人の治療が終わり、重傷者の乗車も完了した。あとは、ラオネンの病院まで搬送すれば、依頼は無事に終わる。
「搬送は任せるわ。馬車が出る前に、俺らが『釣り』に出る。多少はマシになんだろ」
 そう説明し、アニスは野兎を持って物陰に移動。格納庫に転がっていたナイフを手に取り……素早く、野兎に突き立てた。
 今回の雑魔は『血の匂い』に反応して襲ってくる。その習性を逆手に取り、彼女と真は囮になって敵を引き寄せるつもりなのだ。血の匂いを出すため、野兎を死なない程度に傷付け、バイクの荷台に縛り付けて。
 真も、アニスと同じように準備を進めている。2人の覚悟は理解しているため、非難や反論する者は1人も居ない。
「戦闘は2人に任せて、私達は最短距離を進みましょう。無駄な消耗は、可能な限り避けた方が良い」
「そうだね……出来るだけ、安全なルートに誘導するよ」
 状況を冷静に分析するツィスカに、メイムが同意して頷く。これから、メイムは御者の隣に座ってナビを担当する。御者を務めるのはザレムで、幌馬車を引くゴースロンは、彼とメイムの馬だったりする。
 夜汐と貪狼は荷台に乗り込み、道中での処置を担当。真司、蜜鈴、ツィスカは護衛役として、バイクや馬で併走する事になっている。
 ハンター達に医療スタッフ、乗員の準備が完了したのを確認し、アニスと真はバイクで飛び出した。
 エンジンが唸りを上げ、大地を疾走。馬車は南東方向に進むため、アニスは西に。真は南へと進んでいく。十秒もしないうちに、大量の隼が2人に群がり始めた。
 十数羽の雑魔が上空を飛び回り、降下と急上昇を繰り返す。鋭い爪や嘴がアニスと真、野兎を斬り裂き、血飛沫が舞い散った。
 囮役から約1分遅れ、馬車が格納庫から駆け出す。大型という事もあり、走行速度は時速15km程度。囮役が敵を大量に引き付けているが、馬車にも雑魔が集まってきた。
「来やがったな……片っ端から撃ち落としてやるぜ!」
 咆哮一閃、真司の金眼に闘志が宿る。バイクから片手を離して空中に三角形を描くと、そこから3筋の光が奔った。閃光が宙に軌跡を描き、一瞬で3羽の隼を貫通。それが止めとなり、雑魔達は力無く墜落して地面に転がった。
「燃え尽きるを望まぬ者を、生きると足掻く命を奪う者なぞ、許しはせぬ。劫火を以って後悔する間もなく屠ってやろうぞ……!」
 自身の怒りを表すかの如く、蜜鈴は燃え盛る火球を生み出す。それを敵に向かって投げ放つと、接触と同時に炸裂して炎が溢れ出した。燃え広がる紅蓮の爆炎は、まるで大輪の花弁。炎が雑魔を飲み込み、数羽を纏めて燃え散らした。
「援護します。仮に撃ち漏らしがあっても、私が対処しますので」
 言葉と共に、ツィスカは魔導拳銃を介してマテリアルを操作。体内のマテリアルをエネルギーに変換し、銃口から放出して真司と蜜鈴の運動能力を高めた。
(下手に動くより、仲間を信じて駆け抜ける!)
「そのまま進め……!」
 静かに叫び、ザレムは鞭で馬の尻部を叩く。馬車は素早い動きに向いていないため、敵を回避するより直進した方が危険は少ないと判断したのだろう。ほんの少しだけ速度が上がり、力強く大地を駆けていく。
 だが、まだまだ安心は出来ない。雑魔の攻撃は続いているし、かなりの数が上空で群がっている。それに、今回の最優先事項は、怪我人の搬送。病院に運ぶ間に、容体が悪化する恐れもある。幌馬車の中で、医療スタッフ達は慌ただしく動き回っていた。
 幌の外から響いて来る、戦闘の音。銃声に、爆発音に、雑魔の断末魔……様々な音が、少しずつ近付いているような気がする。不安を感じているのか、出入り口付近の患者は表情が固い。
 彼らを安心させるには、敵を遠ざけるしかないだろう。
「やれやれ……『状況は最悪が当たり前』とは、よく言ったもんだ。精々、悪足掻きをしようじゃねぇか……!」
 包帯を取り換えていた貪狼は、刀に手を伸ばした。その手に、夜汐の白くて小さな手が重なる。
「わたくしが出ましょう。悔しくはありますが、知識も腕も……昔から貴方様には叶いませぬゆえ」
 言うが早いか、夜汐は血濡れた包帯を握って荷台から飛び出した。血の匂いに反応し、上空から雑魔が急降下。着地したばかりの夜汐に、隼の爪が迫る。
 敵の接近に気付き、夜汐は絡繰刀を抜きながら半回転。爪撃が頬を浅く裂いたが、彼女の斬撃は雑魔を捉えて両断していた。腐血が派手に舞い散り、死骸が大地に転がる。
「子鬼と侮るは……後悔致しましょうぞ」
 誰に聞かせるわけでもなく、夜汐は静かに呟いて刀を構え直した。


 囮役のアニスと真は、速度を調節しながら雑魔を引き付け続けている。全身に無数の傷が刻まれているが、それを気にする素振りも見せない。
 アニスは瞳にマテリアルを込め、敵の動きに集中。降下のタイミングに合わせてバイクを加速させ、銃弾にマテリアルを込めて引金を引いた。
 速度と威力を増した銃撃が、隼の体を真っ直ぐに撃ち抜く。敵が力尽きたのを確認するより早く、アニスは茶色のポニーテールを揺らしながらバイクを駆った。
 真は日本刀と拳銃を器用に使い分け、距離に関係なく雑魔と対峙している。銃撃で牽制しつつ、敵が急降下する動きに合わせて刀を奔らせた。
 威力を抑え、命中精度を高めた斬撃。正確無比な剣閃が雑魔を両断し、死骸が大地に転がった。
 囮2人への襲撃は激しいが、馬車を狙う雑魔も少なくない。蜜鈴は右手でナイフを握り、自身の左腕を斬り裂いた。
「人の子の命を救うためならば、妾の負傷なぞ問題ではない。おんしらの好きな『血』は、ここじゃ」
 血濡れた腕を高く上げ、血の匂いを周囲に振り撒く。それに反応し、敵の集団が彼女に殺到した。
 蜜鈴は不敵に微笑み、煙管を軽く振る。火皿から種子のような炎が放たれ、空中で破裂して敵の群れを飲み込んだ。
 追撃するように、真司はマテリアルを破壊エネルギーに変換。そこに炎を上乗せし、拳銃から撃ち出した。
 ほぼ同じタイミングで、ツィスカも引金を引く。銃口にマテリアルが集まり、一条の光となって宙を奔った。
 爆炎と炎撃、閃光が重なり、雑魔を焦がしていく。光と炎が消えた時、襲ってきた集団も消滅していた。
 馬車の遥か後方……夜汐が飛び降りた位置では、まだ戦闘が続いている。包帯に染み込んだ血液と彼女の出血が、敵を予想以上に集めているようだ。疲労と痛みで、彼女の動きも若干鈍っている。
「さっきの気勢はどうした、チビ助?」
 不意に、夜汐の耳に聞き慣れた声が響く。次いで、貪狼の斬撃が大気を斬り裂き、雑魔を豪快に切断した。そのまま手首を返し、急降下する敵にカウンターを叩き込む。一瞬で2羽の隼を撃破し、夜汐の隣に並び立った。
 貪狼は夜汐が飛び降りた時から、彼女の状況を気にしていた。本当は重傷者の治療に専念するつもりだったが、1人で戦うのは限界だと判断し、彼女の救援に駆け付けたのだろう。
「相も変わらぬ、鳥頭様でございますね」
 貪狼と背中合わせに立ち、軽口を返す夜汐。その表情は、安堵の笑みに溢れていた。


 ロッソを出発してから、約2時間。真とアニスは、貪狼と夜汐を連れて馬車と合流した。怪我を負っている者は多いが、欠けた者は1人も居ない。ハンター達は雑魔を振り切り、順調に道中を進んでいた。
 全員が役割を果たした結果、馬車への被害はゼロ。最大の障害は解消され、重傷者の容体も安定している。
「雑魔は振り切ったが、油断は禁物だ。全員を守るためなら尚更……な」
 真は注意を促し、馬車の前に移動。当面の危険は去ったが、依頼が完了したワケではない。注意を払うにに越したことはないだろう。
 周囲を警戒しつつも、平和な時間が流れていく。特に問題もなく馬車は進み、気が付けばラオネンまで1km弱の距離まで来ていた。
「こちら、ザレム・アズール。ロッソから怪我人を運んできた。誘導と受け入れを頼む。こちらの状況は……」
 ザレムは魔導短伝話の電波をマテリアルで増幅させ、町に連絡を入れた。重傷者の人数や状態を詳しく伝え、受け入れの準備を要請。一刻も早く手術や処置を行えるよう、頼んでいる。
 その甲斐あってか、馬車が病院に着くと、重傷者達はスムーズに院内へ搬送された。楽観できる容体ではないが、命の危機に晒されている者は1人も居ない。ようやく、9人は胸を撫で下ろした。
 素直に喜ぶ仲間達を尻目に、アニスは1人、病院を離れた。向かった先は、酒場。隅の席に座り、強い酒を煽る。
「仕事自体はミス無くこなせたからいいけど……俺が言い出した事とはいえ、後味悪ぃな……」
 彼女は、野兎を犠牲にした事を気に病んでいた。人を守るためとはいえ……傷つけて囮にし、長時間の出血が原因で死なせてしまった。
 状況を考えれば仕方ない事ではあるが、頭で分かっていても、心で納得できない。モヤモヤした気持ちのまま、酒を胃に流し込む。酔いにくい体質が災いし、アニスの痛飲は翌朝まで続いた。

依頼結果

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MVP一覧

  • オールラウンドプレイヤー
    柊 真司ka0705
  • 幻獣王親衛隊
    ザレム・アズールka0878
  • ヒトとして生きるもの
    蜜鈴=カメーリア・ルージュka4009
  • 力を請い願う銀鬼
    月雲 夜汐ka5780

重体一覧

参加者一覧

  • 赤黒の雷鳴
    アニス・テスタロッサ(ka0141
    人間(蒼)|18才|女性|猟撃士
  • 遙けき蒼空に心乗せて
    ユキヤ・S・ディールス(ka0382
    人間(蒼)|16才|男性|聖導士
  • オールラウンドプレイヤー
    柊 真司(ka0705
    人間(蒼)|20才|男性|機導師
  • 幻獣王親衛隊
    ザレム・アズール(ka0878
    人間(紅)|19才|男性|機導師
  • タホ郷に新たな血を
    メイム(ka2290
    エルフ|15才|女性|霊闘士
  • ヒトとして生きるもの
    蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009
    エルフ|22才|女性|魔術師
  • 力を請い願う銀鬼
    月雲 夜汐(ka5780
    鬼|14才|女性|闘狩人

  • 貪狼(ka5799
    鬼|18才|男性|舞刀士

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • アウレールの太陽
    ツィスカ・V・A=ブラオラント(ka5835
    人間(紅)|20才|女性|機導師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 負傷者救出作戦
ツィスカ・V・A=ブラオラント(ka5835
人間(クリムゾンウェスト)|20才|女性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2016/01/04 16:22:10
アイコン 【質問卓】
メイム(ka2290
エルフ|15才|女性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2016/01/03 16:15:00
アイコン ぷれいんぐー
メイム(ka2290
エルフ|15才|女性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2016/01/04 13:13:10
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/12/31 18:35:22