ゲスト
(ka0000)
冬の庭をつくろう!
マスター:紡花雪

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/01/10 07:30
- 完成日
- 2016/01/18 17:58
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●散歩道を華やかに
自由都市同盟領、農耕推進地域ジェオルジのとある村——会議所の扉に『冬の庭園づくり会議中』の貼り紙がしてある。
「——今年のテーマは『魔法』に決まったわけなんじゃが……問題が起こっているようじゃ」
のんびりとした村長の声が、唸るように暗くなる。会議に参加する村人たちもまた、樹木草花カタログをめくりながら、頭を抱えていた。
ここは、園芸と造園を愛する村。美しい庭造りのために、さまざまな庭木や草花を生育している。冬の造園や園芸といえば、冬枯れといわれるように庭木や草花は華やかさに欠け、作業も庭木の寒さ対策、大掛かりな造園工事、春のための植え付けばかりである。だが通年して園芸と造園で人々を楽しませたいこの村では、中央公園の一角にある散歩道だけは華やかな冬の庭園として造園するのだ。
耐寒性の小花は色が豊富。冬咲きの薔薇は淡い色合いで可憐なものばかり。散歩道を縁取るのは常緑の庭木や地這い品種の草で、ちっとも寂しくはない。
だが今年はいつもより作業が遅れていた。それは、園芸の天敵、穴掘りネズミの登場である。
「冬の庭園は温室仕様で暖かいからの。これまでも何度かあったことじゃ。だが今年の穴掘りネズミは違うらしい」
「ああ、スーチャの親父が見たってよ! タヌキみたいな大きさで、前肢がドリルになってるらしいな。それに細長い尻尾を鞭みたいに振るって、おいそれと近付けんのだと。そうそう、捕獲網は前歯で噛みちぎるんだ。動きが速くて、追いかけるのも難儀らしいぞ」
「むむむ……。温室に来るのは寒いのが苦手だからだって話もあるが、温室を開放したら植物に影響が出るだろうな」
「凶暴で、球根が大好物ときた。もうお手上げだ!」
「いや、それならもう、ハンターに頼もう。それしかない」
これ以上時季が遅くなると、草花の植え付けが難しくなる。それでは、冬の庭園を楽しみにしている人々に申し訳ない。
「うむ……討伐のついでに、冬の庭園づくりに手を貸してくれたら、さらに嬉しいのぅ」
この日の会議の結果、全面的な協力を仰ぐとしてハンターオフィスに依頼することとなった。
自由都市同盟領、農耕推進地域ジェオルジのとある村——会議所の扉に『冬の庭園づくり会議中』の貼り紙がしてある。
「——今年のテーマは『魔法』に決まったわけなんじゃが……問題が起こっているようじゃ」
のんびりとした村長の声が、唸るように暗くなる。会議に参加する村人たちもまた、樹木草花カタログをめくりながら、頭を抱えていた。
ここは、園芸と造園を愛する村。美しい庭造りのために、さまざまな庭木や草花を生育している。冬の造園や園芸といえば、冬枯れといわれるように庭木や草花は華やかさに欠け、作業も庭木の寒さ対策、大掛かりな造園工事、春のための植え付けばかりである。だが通年して園芸と造園で人々を楽しませたいこの村では、中央公園の一角にある散歩道だけは華やかな冬の庭園として造園するのだ。
耐寒性の小花は色が豊富。冬咲きの薔薇は淡い色合いで可憐なものばかり。散歩道を縁取るのは常緑の庭木や地這い品種の草で、ちっとも寂しくはない。
だが今年はいつもより作業が遅れていた。それは、園芸の天敵、穴掘りネズミの登場である。
「冬の庭園は温室仕様で暖かいからの。これまでも何度かあったことじゃ。だが今年の穴掘りネズミは違うらしい」
「ああ、スーチャの親父が見たってよ! タヌキみたいな大きさで、前肢がドリルになってるらしいな。それに細長い尻尾を鞭みたいに振るって、おいそれと近付けんのだと。そうそう、捕獲網は前歯で噛みちぎるんだ。動きが速くて、追いかけるのも難儀らしいぞ」
「むむむ……。温室に来るのは寒いのが苦手だからだって話もあるが、温室を開放したら植物に影響が出るだろうな」
「凶暴で、球根が大好物ときた。もうお手上げだ!」
「いや、それならもう、ハンターに頼もう。それしかない」
これ以上時季が遅くなると、草花の植え付けが難しくなる。それでは、冬の庭園を楽しみにしている人々に申し訳ない。
「うむ……討伐のついでに、冬の庭園づくりに手を貸してくれたら、さらに嬉しいのぅ」
この日の会議の結果、全面的な協力を仰ぐとしてハンターオフィスに依頼することとなった。
リプレイ本文
●庭を荒らすもの
冬のジェオルジ――山に雪冠がかかり、田畑は眠りにつく。
だがこの村は、比較的穏やかな気候で降雪が少ないこともあり、冬でも園芸と造園に力を入れることができるのだ。その代償として、少しでも暖かい土地を求める動物たちが集まってくるのはよくあることだ。穴掘りネズミも、そうした動物のうちのひとつである。
ハンターたちが到着したときも村は晴れて暖かく、冬の風も緩やかだった。冬の庭園づくりの役員によって温室に案内されたハンターたちは温室内で散開し、トランシーバーで連絡を取り合いながら雑魔化した穴掘りネズミとその巣穴を探し始めた。
「まさか穴掘りネズミが雑魔化しているなんて。侵食が進んでいなければ良いけど」
橙色の髪に銀色の瞳が印象的な女性、クローディア(ka3392)が言った。これ以上、庭が掘り荒らされるのを防ぐためにも、素早く対処をしなくてはならない。
手分けをして18本ある大きな庭木の根元を確認すると、すぐに巣穴は見つかった。散歩道の西側、北から2列目奥の庭木の下だ。散歩道への出入り口から離れており、一番暖かい辺りである。
「無理な気もしますが、一応、生命感知やりましょうか」
冬の庭園の真ん中に立ったのは、夜桜 奏音(ka5754)である。取り出した呪符をきらめかせて、彼女を中心にして見えない結界を作りだした。だが、奏音の言うとおり雑魔化してしまった穴掘りネズミは感知しないようだ。
捜索の傍ら、植物の保護と避難移動の作業を進めていたのは、マチルダ・スカルラッティ(ka4172)である。根が浅い植物は周囲の土を崩さないようにそのまま布袋で覆い、台車の上に乗せることで被害を防ぐのだ。マチルダは、数人の村人と一緒に作業をしている。
「冬やし、あったかいとこにいたいんは解るけど、植物に影響があるんやったら仕方ないなぁ」
のんびりとした声で言ったのは、春日(ka5987)である。あまり争いを好まない彼女は、住処を追われる穴掘りネズミのことも気になってしまうようだ。そして、移動の難しい植物に結界術を施すのも忘れない。
村の役員と庭木や花の移動について話し合っていたのは、仙堂 紫苑(ka5953)である。今はまだネズミ雑魔の姿が見えず、危険が少ないうちに彼らの協力を頼みたいと判断してのことだ。植物の移動を急ぎつつ、ネズミ雑魔の気配を探るのも忘れない。もちろん、危険が伴うときには村人には速やかに避難してもらうつもりだ。
避難のために掘り起こした植物の一部には、明らかな動物の噛み跡が残っていた。好物だという球根の残骸もある。早くネズミ雑魔を見つけなければと、ハンターたちは温室の捜索を続けた。
●ネズミとの戦闘
手分けをして捜索すれば、冬の庭園の温室はそう広いものでない。
「――うわあぁっ!」
繊細な小花の移送をしていた村人が、浅い穴から顔を出した穴掘りネズミと出くわしたのだ。
1体目が発見されたのは、温室の南東隅である。村の役員をはじめ数人の村人が庭木や花の移動を手伝っていたが、ハンターたちの適切な判断により、すぐさま温室の外へと逃がされた。
近くにいたのは、クローディアと春日である。対峙した低木の茂みにうずくまっているように見えたが、ハンターの姿を見ると鋭い前歯を剥き、前肢のドリルをウィィィィンと回して威嚇してきた。
クローディアは、その威嚇さえ押し戻すような威圧感を立ちのぼらせる。そして体内を巡るマテリアルを構えた日本刀に流し込み、地を蹴った。特殊モーターの低い振動音が風を切り、強い打撃が穴掘りネズミに叩き込まれる。
仲間にトランシーバーで連絡を取っていた春日は、南側の出入り口へとネズミ雑魔を追い立てようとする。外に追い出してしまえば、寒さで動きが鈍るだろう。彼女は符を組み合わせることで威力と正確性を底上げし、蝶のような光弾をネズミ雑魔に飛ばしぶつけた。
ギャンッ、と飛び上がったネズミ雑魔は、自慢の俊足で駆け出し、時に前肢ドリルで土を跳ね上げた。
その頃、奏音はトランシーバーで仲間と連絡を取ったところだった。あと二体を見つけなければならないと、中央付近の庭木周辺を探すことにした。すると、仲間の交戦を察したらしいネズミ雑魔の1体が、巣穴に向かって走っていくのを発見した。奏音は符を舞い踊らせるように散らせて結界を張り、光を弾けさせる。目が眩んだネズミ雑魔は、ふらつきながら視覚以外の感覚を頼って逃げ出した。
マチルダは、ネズミ雑魔を温室の外に追い出そうと考えていた。寒さで眠くなり動きが鈍くなったところで退治するという作戦だ。奏音の攻撃によって前後不覚に陥っているネズミ雑魔を狙い、マチルダは攻撃を繰り出す。地の精霊の力を借り、土の壁でネズミ雑魔の行く手を阻んだ。土の壁にぶつかったネズミ雑魔は、たまらず逆方向――北側の出入り口に向かって走り出した。
3体目のネズミ雑魔は、北西の隅で穴を掘って食糧を探しているところだった。それを発見したのは、紫苑である。すぐさまトランシーバーで仲間に報告すると、奏音とマチルダが交戦しているネズミ雑魔が紫苑の方に逃げてきているとわかった。そのまま2体とも外に誘導することに決め、リボルビングナックルを嵌めた拳をネズミ雑魔に向かって繰り出した。瞬間的に光の剣が閃く。その一撃はネズミ雑魔の前肢ドリルによって受け止められた。そしてネズミ雑魔は、尻尾の鞭を振るいながら駆け出すしかなかった。
一方、クローディアと春日は、南東の隅へと1体のネズミ雑魔を追い詰めていた。逃げ場を失ったネズミ雑魔は、前肢ドリルで地表を削って、クローディアと春日に向けて土を跳ね上げてくる。二人が土を避けようとすると、その隙間から尻尾の鞭が飛んできた。
クローディアは土を払いのけて尻尾の鞭をかわし、オートMURAMASAを震わせる。クローディアは渾身の一撃を振り下ろした。土が飛び散り、飛び上がったネズミ雑魔は地に転がった。
そこに春日が畳み掛ける。弱ったネズミ雑魔は掘って盛った土に身を隠そうとしているものの、逃げ場はない。春日は呪文が書きつけられた呪符を取り出し、符術師の技術で魔法の威力を上昇させ、蝶の光弾を撃ち込んだ。ネズミ雑魔は閃光を発したかと思うや否や、霧のように散って消えた。
奏音、マチルダ、紫苑は、2体のネズミ雑魔を追いかけていた。すでに、庭木や低木、花々は移動してあるため、隠れる場所はない。ネズミ雑魔がドリルで掘った浅い穴だけだ。その中で、北側出入り口の扉を開いたのはマチルダである。ビュッと寒風が吹き込み、ネズミ雑魔が痺れたように動きを鈍らせた。
奏音はより動きの鈍い――先ほど五色光符陣で目を眩ませた1体を狙って結界を張り、もう一度光でネズミ雑魔を焼いた。ピギャァァッと甲高い悲鳴が響く。
その悲鳴が途切れるまで待たず、マチルダは光の矢でネズミ雑魔を貫いた。光が弾け、2体目のネズミ雑魔が霧散した。
最後の1体も堪らず、そして名残惜しげに出入り口を駆け出していく。それを追って、紫苑もまた温室の外へと飛び出した。
紫苑は自身のマテリアルを拳の武器に流し込む。そうして高められた力をもって、瞬間的な光の剣を出現させてネズミ雑魔に叩き込んだ。敵は寒い外気の中で動けなくなっている。リボルビングナックルのシリンダーが回転し、強い光が雑魔を穿つ。
最後のネズミ雑魔が、寒い風の中に消えていった。
●冬の庭園で造園を楽しむ
冬の庭園、温室の被害は最小限で済んだ。
それは、ハンターたちによる事前準備と対策のおかげである。
冬の庭づくりを始めるにあたって、ハンターたちは村人を交えて互いの意見を交換している。
「私は、魔法を思わせる幻獣を題材にしようと思う」
クローディアが言った。彼女は、様々な大きさの植栽を色で使い分けて庭づくりをすることにしたのだ。
「すみませんが、出入り口の近くを少し譲っていただけますか? アーチを作りたいので」
庭の場所について希望を申し出たのは、奏音である。彼女は、出入り口付近に薔薇のアーチをつくろうとしていた。リアルブルーに対する関心が高い彼女は、その知識を活かしたいと考えている。
「私は、庭木を剪定して迷宮を表現したいな」
マチルダは、低木から高木までの庭木を効果的に使いたいようだ。そのための楽しい仕掛けも考えてある。
「来てくれた人らが楽しんでくれるお庭になるよぉにきばりますな。楽しみやねぇ」
ゆったりと楽しげに、春日が言った。彼女は、淡い色から濃い色まで彩り豊かな花を植栽し、美しい魔法を表現しようとしていた。
「俺のサブテーマは、『雷』ってところでどうだろう?」
黄色を主体にした配色を考えているのは、紫苑だ。彼は、魔法の閃光や雷を表現するのだ。他にも、蔦植物を使った造形も考えている。
こうして打ち合わせが済み、皆で協力して穴掘りネズミが掘った穴を埋めると、造園作業が始まった。もちろん、村人たちは全面的にハンターたちへ協力している。煉瓦を用意したり、さまざまな色の花を揃えたり、休憩用のベンチの設置や、夜間のライトアップなどだ。
作業を続けながら、ハンターたちは何度も調整の打ち合わせを重ねた。庭園の温室の外には、ワクワクした様子の村人たちが集まっている。
そして、彼らの期待を超えた冬の庭が、出来上がった――。
●冬の庭で魔法にかかる
『開園! 冬の庭園へようこそ』――。
北側の出入り口に看板が掲げられ、その前に集まった村人たちが拍手喝采に盛り上がっている。そして扉が開かれ、村人たちが次々に冬の庭園の散歩を楽しみ始めた。
温室の扉を抜けるとまず人々を迎えるのは、奏音が手掛けた冬薔薇のアーチである。淡い色の可憐な薔薇で彩られたアーチには、ところどころ小さな明かりがきらめいていた。そしてアーチの先は半透明のカーテンで遮られていて、それを抜けると少し奥に小さく盛られた山があり、その頂上には煉瓦作りの噴水がある。散歩道には休憩用のベンチも設置された。頂上から裾野に向かって色とりどりの花壇が段々に組まれ、とても華やかで心地よい空間を演出している。
そして次に現れたのは、美しく四角に剪定された常緑の庭木の迷宮である。マチルダの庭だ。初めは低く段々と高くなり、そこには小窓がいくつか付いている。その窓を開けると、別の植栽が見えるのだ。散歩途中の親子が、楽しそうにその窓を覗き、わぁっと声を上げている。
緑の迷宮を抜けると、そこには魔法と幻獣の世界が広がっていた。クローディアの手掛けた庭である。大きめの庭木を刈ったり捻ったりすることで、有翼の幻獣がそこに誕生していた。地面には植えられた地這いの草や小花が、まるで幻獣の起こした風のようになっている。そして一際目を引くのは、緑の長い尾が美しいリーリーを象った高木だ。大地を速く走るリーリーの姿が再現されていて、とても躍動感がある。
駆けるリーリーを通り過ぎると、紫苑の庭に入る。そこではさまざまな黄色の花が咲き乱れ、ときおり白や水色の花も混ざっていた。これは、雷の魔法、その閃光を表しているのだ。庭の目を引くところには、小さな花が咲く高木に蔦植物を絡ませた魔法陣が空中に浮かんでいる。まさに魔法の象徴である。
そして最後に現れるのが、春日が手掛けた庭。淡い色の小花が敷かれた庭は、出口に向かってどんどん鮮やかなピンクや黄色に変化していく。常緑の庭木も、淡い色の花を咲かせていた。それは、冬から春に変わる魔法だ。夜になれば明かりを灯して、また違う雰囲気を楽しむことができる。雪のような淡色から、春の華やかな色へ続く庭は、人々の心をぬくもりでいっぱいにした。
冬の庭園を散歩して堪能した村人たちは、うっとりとした様子で温室を出てくる。草花と木を使った魔法にかけられてしまったかのようだ。村の役員たちもとても満足げに頷いている。
もうすぐ、この村でも雪が降る。だがハンターたちがもたらした草花の魔法は、白い雪をも溶かしてしまうぬくもりを人々の胸に残した。
冬のジェオルジ――山に雪冠がかかり、田畑は眠りにつく。
だがこの村は、比較的穏やかな気候で降雪が少ないこともあり、冬でも園芸と造園に力を入れることができるのだ。その代償として、少しでも暖かい土地を求める動物たちが集まってくるのはよくあることだ。穴掘りネズミも、そうした動物のうちのひとつである。
ハンターたちが到着したときも村は晴れて暖かく、冬の風も緩やかだった。冬の庭園づくりの役員によって温室に案内されたハンターたちは温室内で散開し、トランシーバーで連絡を取り合いながら雑魔化した穴掘りネズミとその巣穴を探し始めた。
「まさか穴掘りネズミが雑魔化しているなんて。侵食が進んでいなければ良いけど」
橙色の髪に銀色の瞳が印象的な女性、クローディア(ka3392)が言った。これ以上、庭が掘り荒らされるのを防ぐためにも、素早く対処をしなくてはならない。
手分けをして18本ある大きな庭木の根元を確認すると、すぐに巣穴は見つかった。散歩道の西側、北から2列目奥の庭木の下だ。散歩道への出入り口から離れており、一番暖かい辺りである。
「無理な気もしますが、一応、生命感知やりましょうか」
冬の庭園の真ん中に立ったのは、夜桜 奏音(ka5754)である。取り出した呪符をきらめかせて、彼女を中心にして見えない結界を作りだした。だが、奏音の言うとおり雑魔化してしまった穴掘りネズミは感知しないようだ。
捜索の傍ら、植物の保護と避難移動の作業を進めていたのは、マチルダ・スカルラッティ(ka4172)である。根が浅い植物は周囲の土を崩さないようにそのまま布袋で覆い、台車の上に乗せることで被害を防ぐのだ。マチルダは、数人の村人と一緒に作業をしている。
「冬やし、あったかいとこにいたいんは解るけど、植物に影響があるんやったら仕方ないなぁ」
のんびりとした声で言ったのは、春日(ka5987)である。あまり争いを好まない彼女は、住処を追われる穴掘りネズミのことも気になってしまうようだ。そして、移動の難しい植物に結界術を施すのも忘れない。
村の役員と庭木や花の移動について話し合っていたのは、仙堂 紫苑(ka5953)である。今はまだネズミ雑魔の姿が見えず、危険が少ないうちに彼らの協力を頼みたいと判断してのことだ。植物の移動を急ぎつつ、ネズミ雑魔の気配を探るのも忘れない。もちろん、危険が伴うときには村人には速やかに避難してもらうつもりだ。
避難のために掘り起こした植物の一部には、明らかな動物の噛み跡が残っていた。好物だという球根の残骸もある。早くネズミ雑魔を見つけなければと、ハンターたちは温室の捜索を続けた。
●ネズミとの戦闘
手分けをして捜索すれば、冬の庭園の温室はそう広いものでない。
「――うわあぁっ!」
繊細な小花の移送をしていた村人が、浅い穴から顔を出した穴掘りネズミと出くわしたのだ。
1体目が発見されたのは、温室の南東隅である。村の役員をはじめ数人の村人が庭木や花の移動を手伝っていたが、ハンターたちの適切な判断により、すぐさま温室の外へと逃がされた。
近くにいたのは、クローディアと春日である。対峙した低木の茂みにうずくまっているように見えたが、ハンターの姿を見ると鋭い前歯を剥き、前肢のドリルをウィィィィンと回して威嚇してきた。
クローディアは、その威嚇さえ押し戻すような威圧感を立ちのぼらせる。そして体内を巡るマテリアルを構えた日本刀に流し込み、地を蹴った。特殊モーターの低い振動音が風を切り、強い打撃が穴掘りネズミに叩き込まれる。
仲間にトランシーバーで連絡を取っていた春日は、南側の出入り口へとネズミ雑魔を追い立てようとする。外に追い出してしまえば、寒さで動きが鈍るだろう。彼女は符を組み合わせることで威力と正確性を底上げし、蝶のような光弾をネズミ雑魔に飛ばしぶつけた。
ギャンッ、と飛び上がったネズミ雑魔は、自慢の俊足で駆け出し、時に前肢ドリルで土を跳ね上げた。
その頃、奏音はトランシーバーで仲間と連絡を取ったところだった。あと二体を見つけなければならないと、中央付近の庭木周辺を探すことにした。すると、仲間の交戦を察したらしいネズミ雑魔の1体が、巣穴に向かって走っていくのを発見した。奏音は符を舞い踊らせるように散らせて結界を張り、光を弾けさせる。目が眩んだネズミ雑魔は、ふらつきながら視覚以外の感覚を頼って逃げ出した。
マチルダは、ネズミ雑魔を温室の外に追い出そうと考えていた。寒さで眠くなり動きが鈍くなったところで退治するという作戦だ。奏音の攻撃によって前後不覚に陥っているネズミ雑魔を狙い、マチルダは攻撃を繰り出す。地の精霊の力を借り、土の壁でネズミ雑魔の行く手を阻んだ。土の壁にぶつかったネズミ雑魔は、たまらず逆方向――北側の出入り口に向かって走り出した。
3体目のネズミ雑魔は、北西の隅で穴を掘って食糧を探しているところだった。それを発見したのは、紫苑である。すぐさまトランシーバーで仲間に報告すると、奏音とマチルダが交戦しているネズミ雑魔が紫苑の方に逃げてきているとわかった。そのまま2体とも外に誘導することに決め、リボルビングナックルを嵌めた拳をネズミ雑魔に向かって繰り出した。瞬間的に光の剣が閃く。その一撃はネズミ雑魔の前肢ドリルによって受け止められた。そしてネズミ雑魔は、尻尾の鞭を振るいながら駆け出すしかなかった。
一方、クローディアと春日は、南東の隅へと1体のネズミ雑魔を追い詰めていた。逃げ場を失ったネズミ雑魔は、前肢ドリルで地表を削って、クローディアと春日に向けて土を跳ね上げてくる。二人が土を避けようとすると、その隙間から尻尾の鞭が飛んできた。
クローディアは土を払いのけて尻尾の鞭をかわし、オートMURAMASAを震わせる。クローディアは渾身の一撃を振り下ろした。土が飛び散り、飛び上がったネズミ雑魔は地に転がった。
そこに春日が畳み掛ける。弱ったネズミ雑魔は掘って盛った土に身を隠そうとしているものの、逃げ場はない。春日は呪文が書きつけられた呪符を取り出し、符術師の技術で魔法の威力を上昇させ、蝶の光弾を撃ち込んだ。ネズミ雑魔は閃光を発したかと思うや否や、霧のように散って消えた。
奏音、マチルダ、紫苑は、2体のネズミ雑魔を追いかけていた。すでに、庭木や低木、花々は移動してあるため、隠れる場所はない。ネズミ雑魔がドリルで掘った浅い穴だけだ。その中で、北側出入り口の扉を開いたのはマチルダである。ビュッと寒風が吹き込み、ネズミ雑魔が痺れたように動きを鈍らせた。
奏音はより動きの鈍い――先ほど五色光符陣で目を眩ませた1体を狙って結界を張り、もう一度光でネズミ雑魔を焼いた。ピギャァァッと甲高い悲鳴が響く。
その悲鳴が途切れるまで待たず、マチルダは光の矢でネズミ雑魔を貫いた。光が弾け、2体目のネズミ雑魔が霧散した。
最後の1体も堪らず、そして名残惜しげに出入り口を駆け出していく。それを追って、紫苑もまた温室の外へと飛び出した。
紫苑は自身のマテリアルを拳の武器に流し込む。そうして高められた力をもって、瞬間的な光の剣を出現させてネズミ雑魔に叩き込んだ。敵は寒い外気の中で動けなくなっている。リボルビングナックルのシリンダーが回転し、強い光が雑魔を穿つ。
最後のネズミ雑魔が、寒い風の中に消えていった。
●冬の庭園で造園を楽しむ
冬の庭園、温室の被害は最小限で済んだ。
それは、ハンターたちによる事前準備と対策のおかげである。
冬の庭づくりを始めるにあたって、ハンターたちは村人を交えて互いの意見を交換している。
「私は、魔法を思わせる幻獣を題材にしようと思う」
クローディアが言った。彼女は、様々な大きさの植栽を色で使い分けて庭づくりをすることにしたのだ。
「すみませんが、出入り口の近くを少し譲っていただけますか? アーチを作りたいので」
庭の場所について希望を申し出たのは、奏音である。彼女は、出入り口付近に薔薇のアーチをつくろうとしていた。リアルブルーに対する関心が高い彼女は、その知識を活かしたいと考えている。
「私は、庭木を剪定して迷宮を表現したいな」
マチルダは、低木から高木までの庭木を効果的に使いたいようだ。そのための楽しい仕掛けも考えてある。
「来てくれた人らが楽しんでくれるお庭になるよぉにきばりますな。楽しみやねぇ」
ゆったりと楽しげに、春日が言った。彼女は、淡い色から濃い色まで彩り豊かな花を植栽し、美しい魔法を表現しようとしていた。
「俺のサブテーマは、『雷』ってところでどうだろう?」
黄色を主体にした配色を考えているのは、紫苑だ。彼は、魔法の閃光や雷を表現するのだ。他にも、蔦植物を使った造形も考えている。
こうして打ち合わせが済み、皆で協力して穴掘りネズミが掘った穴を埋めると、造園作業が始まった。もちろん、村人たちは全面的にハンターたちへ協力している。煉瓦を用意したり、さまざまな色の花を揃えたり、休憩用のベンチの設置や、夜間のライトアップなどだ。
作業を続けながら、ハンターたちは何度も調整の打ち合わせを重ねた。庭園の温室の外には、ワクワクした様子の村人たちが集まっている。
そして、彼らの期待を超えた冬の庭が、出来上がった――。
●冬の庭で魔法にかかる
『開園! 冬の庭園へようこそ』――。
北側の出入り口に看板が掲げられ、その前に集まった村人たちが拍手喝采に盛り上がっている。そして扉が開かれ、村人たちが次々に冬の庭園の散歩を楽しみ始めた。
温室の扉を抜けるとまず人々を迎えるのは、奏音が手掛けた冬薔薇のアーチである。淡い色の可憐な薔薇で彩られたアーチには、ところどころ小さな明かりがきらめいていた。そしてアーチの先は半透明のカーテンで遮られていて、それを抜けると少し奥に小さく盛られた山があり、その頂上には煉瓦作りの噴水がある。散歩道には休憩用のベンチも設置された。頂上から裾野に向かって色とりどりの花壇が段々に組まれ、とても華やかで心地よい空間を演出している。
そして次に現れたのは、美しく四角に剪定された常緑の庭木の迷宮である。マチルダの庭だ。初めは低く段々と高くなり、そこには小窓がいくつか付いている。その窓を開けると、別の植栽が見えるのだ。散歩途中の親子が、楽しそうにその窓を覗き、わぁっと声を上げている。
緑の迷宮を抜けると、そこには魔法と幻獣の世界が広がっていた。クローディアの手掛けた庭である。大きめの庭木を刈ったり捻ったりすることで、有翼の幻獣がそこに誕生していた。地面には植えられた地這いの草や小花が、まるで幻獣の起こした風のようになっている。そして一際目を引くのは、緑の長い尾が美しいリーリーを象った高木だ。大地を速く走るリーリーの姿が再現されていて、とても躍動感がある。
駆けるリーリーを通り過ぎると、紫苑の庭に入る。そこではさまざまな黄色の花が咲き乱れ、ときおり白や水色の花も混ざっていた。これは、雷の魔法、その閃光を表しているのだ。庭の目を引くところには、小さな花が咲く高木に蔦植物を絡ませた魔法陣が空中に浮かんでいる。まさに魔法の象徴である。
そして最後に現れるのが、春日が手掛けた庭。淡い色の小花が敷かれた庭は、出口に向かってどんどん鮮やかなピンクや黄色に変化していく。常緑の庭木も、淡い色の花を咲かせていた。それは、冬から春に変わる魔法だ。夜になれば明かりを灯して、また違う雰囲気を楽しむことができる。雪のような淡色から、春の華やかな色へ続く庭は、人々の心をぬくもりでいっぱいにした。
冬の庭園を散歩して堪能した村人たちは、うっとりとした様子で温室を出てくる。草花と木を使った魔法にかけられてしまったかのようだ。村の役員たちもとても満足げに頷いている。
もうすぐ、この村でも雪が降る。だがハンターたちがもたらした草花の魔法は、白い雪をも溶かしてしまうぬくもりを人々の胸に残した。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
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作戦用相談板 仙堂 紫苑(ka5953) 人間(クリムゾンウェスト)|23才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2016/01/10 07:31:18 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/01/07 21:33:10 |