ゲスト
(ka0000)
【初夢】郷愁、ある日のショッピングモール
マスター:御影堂

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~50人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/01/07 22:00
- 完成日
- 2016/01/18 21:06
このシナリオは3日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
……これは夢か、と私は問うた。
紛れも無く夢だ、と私は答えた。
目の前に広がっていたのは、平穏な日常風景。
クリムゾンウェストのファンタジーなものではなく、忘れかけていた、けれど決して忘れてはならない光景だった。
よく通っていた郊外型のショッピングモールである、
食料品を扱う店はスーパーや輸入品を扱う店といくつもが軒を連ね、若者向けのファッションブランド、慣れ親しんだ家電量販店、ゲームセンターに映画館までが揃っている。
「何をぼーっとしてるの?」
聞き慣れた声に振り向けば、この光景におおよそ似つかわしくない少女がいた。
背が高く耳の先が細長く尖っていた。エルフである。
「もう、遅れてきたからって無視はひどいわよ!」
混乱する俺を尻目に、少女は怒りの表情を見せる。
それが本当に起こっているわけではないと、俺は知っていた。
クリムゾンウェストで散々一緒に冒険した仲間だったからだ。
「さ、連れて行ってよ。君が過ごした日常を、私にも教えて?」
これは、夢だろう。
だからこそ、彼女を案内することができるのだ。
まずはウィンドウショッピング。
エルフの少女は、クリムゾンウェストの服を着ていた。どうやら、私の夢想力が不足しているらしい。だが、かえって服を一緒に選ぶ楽しみになる。
とっかえひっかえ試着して、カシミアのタートルネックセーターとシックなパンツ、それとコートを購入した。
そして、映画。
彼女の好きそうなアクションものにした。もし、デートだとしても俺はそれを選んだだろう。甘ったるい恋愛ものは彼女の好みではない気がするからだ。
大興奮の彼女の顔を見ていると、正解だったと思う。夢だけど……ね。
ちょうどいい昼の時間になったので、レストラン街にある天ぷら屋に入った。
よだれが垂れてきた彼女のだらしない顔に、思わず笑ってしまう。
「うぅ、だって美味しそうなんだもの!」
ふくれっ面で期限を悪くしたかと思ったが、すぐに出てきた天ぷらでチャラになった。
満足した彼女を連れてゲームセンターで少し遊び、もう一度買い物をしてから帰途につく。ショッピングモールを出ると、日が傾いていた。
日が沈むごとに、視界がふわふわと陽炎のように揺らめく。
目覚めの時だとすぐにわかった。
あぁ、楽しかった。
そういえば、他にもクリムゾンウェストで見た連中がいたような……。
彼らも楽しめただろうか。
そんな風に思いながら、俺は夢の世界で目を閉じるのだった。
……これは夢か、と私は問うた。
紛れも無く夢だ、と私は答えた。
目の前に広がっていたのは、平穏な日常風景。
クリムゾンウェストのファンタジーなものではなく、忘れかけていた、けれど決して忘れてはならない光景だった。
よく通っていた郊外型のショッピングモールである、
食料品を扱う店はスーパーや輸入品を扱う店といくつもが軒を連ね、若者向けのファッションブランド、慣れ親しんだ家電量販店、ゲームセンターに映画館までが揃っている。
「何をぼーっとしてるの?」
聞き慣れた声に振り向けば、この光景におおよそ似つかわしくない少女がいた。
背が高く耳の先が細長く尖っていた。エルフである。
「もう、遅れてきたからって無視はひどいわよ!」
混乱する俺を尻目に、少女は怒りの表情を見せる。
それが本当に起こっているわけではないと、俺は知っていた。
クリムゾンウェストで散々一緒に冒険した仲間だったからだ。
「さ、連れて行ってよ。君が過ごした日常を、私にも教えて?」
これは、夢だろう。
だからこそ、彼女を案内することができるのだ。
まずはウィンドウショッピング。
エルフの少女は、クリムゾンウェストの服を着ていた。どうやら、私の夢想力が不足しているらしい。だが、かえって服を一緒に選ぶ楽しみになる。
とっかえひっかえ試着して、カシミアのタートルネックセーターとシックなパンツ、それとコートを購入した。
そして、映画。
彼女の好きそうなアクションものにした。もし、デートだとしても俺はそれを選んだだろう。甘ったるい恋愛ものは彼女の好みではない気がするからだ。
大興奮の彼女の顔を見ていると、正解だったと思う。夢だけど……ね。
ちょうどいい昼の時間になったので、レストラン街にある天ぷら屋に入った。
よだれが垂れてきた彼女のだらしない顔に、思わず笑ってしまう。
「うぅ、だって美味しそうなんだもの!」
ふくれっ面で期限を悪くしたかと思ったが、すぐに出てきた天ぷらでチャラになった。
満足した彼女を連れてゲームセンターで少し遊び、もう一度買い物をしてから帰途につく。ショッピングモールを出ると、日が傾いていた。
日が沈むごとに、視界がふわふわと陽炎のように揺らめく。
目覚めの時だとすぐにわかった。
あぁ、楽しかった。
そういえば、他にもクリムゾンウェストで見た連中がいたような……。
彼らも楽しめただろうか。
そんな風に思いながら、俺は夢の世界で目を閉じるのだった。
リプレイ本文
●
冬のさめざめとした空気を感じ、鞍馬 真(ka5819)は目を覚ました。
視界に飛び込んできたのはショッピングモールの風景だった。どこかで聞いたことのあるような音楽に紛れ、人々の声が聞こえてくる。
「ここは……」
座っているのは、モールに併設されたベンチらしかった。伸びをして立ち上がる。
どうやらリアルブルーのようだが、クリムゾンウェストの住人もいる。
夢かと独り言ち、夢ならばと歩き出す。
「新刊は出ているかな」
どうせ夢なら、探していた本でも売ってないかと本屋を目指す。
真は本屋に向かう途中、ブランドショップのエリアを通った。
そこには服を求める買い物客が、何人も行き交っている。
「……なんでよりにもよってこいつと……」
「なにかいったかしら?」
「……あ? なんでもねぇよ」
ぼやく男とせっつく女……鵤(ka3319)とロス・バーミリオン(ka4718)は、そんなやり取りをしながらブディックの前を歩いていた。
ロスは少し遅れ気味の鵤へ、せっつくように言う。
「ルカちゃん! さっさと来なさいよ!」
「おたくこそさっさと歩きなさいよ」
憎まれ口を叩きながらも鵤は、ロスについていく。時折ウィンドウに飾られた服にルカは目移りし、歩みをゆるめたりする。
呆れながらもロスを見つけた以上、ついていかなければならない。共通の知人から、彼女が一人でいたら護衛がてら付き合って欲しいと頼まれている。これが夢でも現実でも、鵤には同じだった。
「あそこの服屋行くわよ! 何タラタラしてんの!」
「あーはいはい」
少し高めの女性物を主に扱う店で、ロスは張り切って服を選び出す。
「ルカちゃん、これ私に似合うかしら?」
「あーはいはい似合ってる似合ってるぅ」
鵤は見ずに答えているのだが、ルカは気にしない。
これは、これはと何着も試してみる。時折、鵤に対して
「ルカちゃんルカちゃん! これちょっと合わせてみて」
女性物を持ってきては、
「ぶっは! 似あわなさすぎて面白いわぁ」とからかう。
「うわぁきっしょぉ」
フリルのついた服を当てられ、鵤は思わず口に出していた。ロスは引き続き、服を選び続ける。鵤は雑踏を眺めて、適当に相槌を打っていた。
雑踏を行き交う中に、ブリュンヒルデ・ゲンドゥル(ka5812)がいた、
「とりあえず、楽しんでみましょう」
突然の夢にも弾むような声でいい、順応する。周りを見渡し、まず目についたのが人々の服装だった。
自分が着ているものとは違う服装を見て、思案顔で呟く。
「郷に入れば郷に従え、と言いますし……」
あたりを見渡し、コーディネートを考える。いくつかの店をめぐって、ブリュンヒルデはタートルネックセーターにジーンズ。足下には動きやすい紐靴をチョイスした。
「ん、これでいいですね」
再び歩き出したブリュンヒルデは、白いゴシックドレスの少女とすれ違う。
ブリュンヒルデと対極にある、装飾華美な白いゴシックなドレスを着こなし歩く少女。彼女の名はエルバッハ・リオン(ka2434)だ。
「せっかくなので、リアルブルーの服を購入して着替えましょうか」
この夢世界で目覚めた時、エルはそう述べていた。あれこれ見てみた結果、このゴシックドレスを選んだのだった。トランジスタグラマーな彼女が衣装を身にまとえば、人目を引くのも仕方がない。
だがエルは視線を気にすることなく、ショッピングモールを歩いて行く。
世の中、いろんな格好をしている人がいるな。
エルとすれ違いざまに、柊 真司(ka0705)はそんなことを思った。今のはエルフだったようだし、クリムゾンウェストの住人も誘われているのだろうか。いずれにしても、多種多様なファッションがあるわけ……なのだが。
「さすがにこの格好はねぇよ」
「へ?」
きょとんとした顔で真司を見たのは、セリス・アルマーズ(ka1079)だ。真司の隣を歩く彼女は、クリムゾンウェストと変わらぬ全身鎧の姿でいた。夢でこそ許されるが、現実のリアルブルーにいたら警備員が飛んで来るだろう。
せっかくの夢なので案内しようと決めていた真司も、セリスの今の姿は悩ましい。
夢なので財布は傷まないはずだ。ならば、と意を決する。
「着替えるぞ、セリス」
「え、着替え?」
目をパチクリさせるセリスを、真司は有無を言わせず連れて行く。セリスはもとより文句をいうつもりはない。見たことがないショッピングモールの風景の中で、真司は安心できる存在だからだ。
事実、彼に出会うまではかなり狼狽していた。
剣が手元にあったなら、何かのひょうしに抜きかねないほどだった。真司に出会い、夢とわかったことで落ち着きを取り戻したのだ。
「えーと、どれを着ればいいの?」
それでも、このような大規模な服屋は経験したことがない。
「何でも似合いそうだが、何がいいかなぁ」
どうせならいつも着ないようなものを着せてみようか。
そう思いながら、まず持ってきたのは振袖だった。さすがにセリス一人では着付けられないため、店員に助けてもらう。
「なんだか修道服を思い出すわね」
髪もまとめて艶やかしっとり、中々様になっていた。
「次は……」
「え、これは」
次に持ってきたのはゴスロリ服だった。リボンやフリルが満載の服装、しかもミニスカートだった。着るだけならと袖を通し、自分の姿に曖昧な笑みを浮かべる。22歳にもなって、ふりふりの服……と思わなくはない。
が、先ほども見かけたしこの世界ではポピュラーなのかなとも思えた。
「ふむ……」
黙々と次の服……胸開きタートルネックセーター&スカートを持ってくる。今度は膝丈まであるフレアスカート。大人な女性という感じだった。それでも、胸部分の露出に顔が赤らむ。
「これは、ちょっと恥ずかしいよね」
「そうか。じゃあ、さっきので」
セリスの言葉を聞き入れつつ、真司はゴスロリ服に決めた。即決購入しセリスに着替えてもらう。スカートがやや短く感じられたが、全体的な露出で言えば、少ないほうだ。
「次行こうか」
「え、まだ何か着せるつもりなの?」
「いや、今度は……行ってからのお楽しみだ」
はぐらかす真司におずおずとセリスは付いて行く。
全身鎧より、今の格好のほうが恥ずかしかった。
●
手に数冊の小説を持ち、真はショッピングモールを散策していた。
腰を落ち着かせる場所を、探しているのだ。
「どこか、落ち着ける場所は……ないかな」
真は書店で思っていた新刊を手に入れていた。それに加えて、クリムゾンウェストを思わせるファンタジー小説を思わず買ってしまった。今は自分が、その小説の登場人物になった気分すら感じられる。
クリムゾンウェストとの交流が進み、馴染んできたのだなと思う。
「この辺りは……電気屋とゲームセンター? 逆に出たか」
ショッピングモールはムダに広い。踵を返し、喫茶店のある場所を目指す。
戻り際、視界の隅にゲームの体験コーナーに立ち向かう青年が見えた。
青年ことザレム・アズール(ka0878)は、この世界に現出した時にロッソと見間違えた。
ロッソはもっと船らしかったが、ここは城か街を思わせる。何より太陽光と電燈がともに入っているらしく、非情に明るかった。
「ここは……いったい」
呆然している間もなく、ハンターオフィスのような受付を見つけて問いただした。
「つまり、買い物したり遊んだりしたりする施設……?」
ザレムの問いかけに、インフォメーションセンターのお姉さんは不思議そうにしながらも、丁寧懇切に教えてくれた。施設の案内を渡され、そこに載っている店の数に圧倒された。そして、見渡せば三階層吹き抜けの巨大施設だと、ありありとわかる。
「これ全部がか!?」
カルチャーショックどころではない。
しばらく、呆然とベンチに座っていたが、やがて回復する。
「と、とにかく中を色々と巡ってみなくては!」
ちなみに、夢だと気づいていなかった。
そして、現在に至る。
機導師としての本能が、ザレムを電気屋に連れてきたのだった。幾多もの機械を眺めているだけで、好奇心が駆り立てられる。しかし、一番興味を引いたのは画面上に浮かぶCAMのような存在だった。
「この戦闘機に変形するCAMみたいなヤツはスゴイな!」
リアルと見紛うばかりの3Dな戦闘ロボシューティングゲームに、ザレムは驚嘆していた。無論、ゲームとは思っていない。
ゲームを楽しんでいるが、ゲームのロボを実在するものと思っていた。
「……腹が減ったな」
そこそこに遊び倒し、ザレムは食事処を探す。
だが。夢だと思っていないザレムは金欠という危機に直面していた。レストラン街へ辿り着いたものの、行くあてもなく匂いだけが空腹に効く。
「お」
そこに桃源郷を見つけた。あったのは「30分以内に食べたら無料! ドデカステーキMAX」という張り紙だった。常人が見たら胃もたれしそうな重量を気にせず、ザレムは店内へと吸い込まれていった。
アシェ-ル(ka2983)はそんなザレムの姿を目撃していた。
「……私だったら胃もたれしますね」
そう言いながらアイスクリームを美味しそうに食べる。チョコミント味という未知の領域が、アシェールの舌を満足させる。
ちなみに10分前の彼女は、オレンジシャーベットに舌鼓を打っていた。
そのさらに10分前は、バニラアイスを美味しそうに食べていた。アイスクリームを売っている場所を見つける度に、彼女はアイスを食べていた。
合計三十分前、彼女は思った。
「なんで、私、ここのいるのでしたっけ……」
ここが買い物する施設だとは、すぐにわかった。
問題は何故買い物に来たのか。目的を忘れたことだった。
「ん~、そのうち思い出すでしょう」
楽観的頷いて、アシェールは歩き出す。そして、アイスを求め始めた。いくら食べても減らないお金、冷えないお腹、なにより魅力的な種類の数!
「……って! さっきから、私、アイスしか食べてないですよ!」
衝撃の事実だった。
「しかも、なんだか、ぼっちって私だけ!?」
そんなことはないのだが、雑踏を行く家族連れやカップルを眺めているとじわじわとそんな気分にさせられる。目をグルグルと回しながら、アシェールは立ち尽くす。
「……まぁ、せっかくだし、このまま、お買い物でもしよう」
気持ちを切り替えてあたりを見渡す。気がつけば、レストラン街を抜けていた。
「あれです!」
目の前に見えたのは、赤い紙袋に白い字で「福袋」と書かれた商品だった。近づいてみれば、様々な商品をお得につめあわせているらしい。
「福袋を買い占めるのです!」
意気揚々とアシェールは福袋激戦区へぶつかっていくのだった。
●
アシェールが福袋激戦区へ吸い込まれる中、ゲームセンターを目指す女子高生がいた。セーラー服に身を包み、肩まである髪を揺らしながら歩くのは、シャトン(ka3198)である。
彼女は、この光景が夢であると誰よりも強く実感していた。
ときおり磨かれたガラスに映る自分の両眼は、しっかりと見開かれていた。普段している眼帯が必要ないのだ。その両眼に、今知り合いの姿をとらえた。
「よっ、文太」
同じくシャツにズボンと高校生姿をした冬樹 文太(ka0124)だった。
文太はシャトンの姿を見て、気付いてないのか、目をパチクリさせた。
「……なんだ、変な顔して」
シャトンは怪訝そうな表情を見せるが、ウィンドウに見えた自身の姿を思い出す。
「ほら」と笑いながら左目を手で隠した途端、
「おま……シャトンか!?」
驚きの表情を見せ、視線を制服姿と顕在する両眼の間で上下させた。おおよそクリムゾンウェストでは見たこと無い格好に、
(なんや……可愛えぇやん)
と思うのだが、言葉は飲み込んだ。
「ちょうどいい。一緒に来てくれないか?」
「お、おう」
言われるがまま、文太はシャトンに連れられる。行き着いたのは、ゲームセンターだった。UFOキャッチャーから昔懐かしメダルゲームまで、多種多様、所狭しとゲームが置かれていた。
シャトンはその光景に目を輝かせ、文太の袖を引く。
「一度、行ってみたかったんだ」
「ああ……せやな、折角だし遊ぶか」
にっと笑って、アシェールに引かれるがままに中へと入りかけ……足が止まった。
どうやら少しレトロなパンチングゲームに惹かれているらしい。
「よっし、挑戦するで」
ぐっと腰を据えて、一撃をかます。中々いい数字が出た。
こんなもんだろう、と思いつつシャトンと入れ替わる。
「じゃあオレの番だね」
軽くステップを踏みながら、息を吸い込む。シャトンは歪虚と戦っているときと違わぬ集中力で、パンチングマシーンに挑んでいた。
(本気や)
文太が思うと同時に、鋭い拳をシャトンはつきだした。渾身の力がこもった一撃。
パンチングマシーンのメータがギュインと上がり、驚異的な数値を記録する。
「よっし、オレの勝ちだ。ランキング1位! すごいだろ?」
「少しへこむわ」
「職柄、仕方ないって。ほら、力の入れ方とか、タイミングとか」
シャトンの記録はランキング1位を記録していた。そのことを喜びながら、文太へとわずかながらにフォローを入れる。
視線を巡らせて、シャトンは一点を指差した。
「文太なら、あっちの方が得意だろ?」
最新技術を駆使したシューティングゲームだった。このゲームには狙い撃つだけじゃない総合的な射撃能力が求められる。
「任せてや」といいながら文太は筐体の前に立つ。
鋭い視覚や方向感覚が、ゲームの中でも遺憾なく発揮される。気がつけばマテリアルを目に巡らせていた。
(本気だな)とシャトンが思う間にも、スコアは伸びていく。
だが、最終局面はクライマックスに相応しい物量押しだった。
「くそっ! 後少しやったんに!」
フルスコアにわずか及ばず、文太は悔しげに叫んだ。それでもランキング1位のスコアを記録していた。シャトンに、
「お疲れ様。凄かった」
と労われると、「おう」と気を良くする。
ふと時計を見れば、15時を回ろうとしていた。
「なにか食べに行くか」
「そうだな」
歩き出したそのとき、シャトンの足が止まった。どうやらクレーンゲームの一つが気になっているらしい。猫を模した洒落たキーホルダーだった。メタルな感じが愛らしさより、クールさを魅せる。
「よし」
おもむろに小銭を取り出して、クレーンゲームに投入する。すっと集中してクレーンの位置、景品の位置を把握する。慎重にアームを動かし、いとも簡単そうに景品を落とした。
「こういうんは経験とコツがあるんやで」
「……ありがとう、な」
文太が得意げに渡してきた景品を、シャトンは両手で受け取る。シャトンの嬉しそうな笑みに、文太も目を細めて笑うのだった。
こうしてゲームセンターを去っていた二人の姿を眺める白い少女がいた。エルだ。
「なるほど、機械を操作して景品を手に入れる遊びということですか。わりと簡単そうですし、やってみない手はないですね」
多種多様な景品を見て回り、ぬいぐるみの積まれた筐体の前で立ち止まる。
これですね、と直感が働いた。取り出した小銭を投入し、プレイを開始する。クレーンゲームは、ヒモに引っ掛けるタイプ、本体を掴むタイプ、アームを当てて落とすタイプなどがある。
玄人は一発で見抜き、様々な技を駆使して景品をゲットする。だが、はじめてのエルに判断は難しい。そもそもアームが狙ったところに行かないのだ。
ウィーン、スカッ。
ウィーン、スカッ。
ウィーン……スカッ。
「……いいでしょう。こうなれば成功するまで続けるだけです」
財布から出せるだけの小銭を取り出し、筐体の上に積み上げる。これは、覚悟の意思表示だった。無我夢中にUFOキャッチャーへ挑戦する。
燃えるエルの後ろをブリュンヒルデが通って行った。
「へぇー、この世界独自の文化のようですね」
ゲームセンターに辿り着いたブリュンヒルデは、軽快な音楽が鳴り響く場所にいた。
画面の前で音楽に合わせ軽快に踊る人々がいた。しばらく眺めていたブリュンヒルデは合点がいったと手を叩いた。
「なるほど、譜面のとおりにボタンを踏んで行くのですね」
それだけではない。
「上手くやると踊っているかのよう」
踊ル踊ルレボリューションというゲームである。通称OOR。
先客のプレイをしばらく眺めていたブリュンヒルデは、意を決して筐体に登った。実際に前に立って見ると、少し緊張する。
「では私はこれを……」
最初に選べる中では高めの難易度を選択する。先客が踊るのを見て、譜面を覚えたのだ。舞踏はそれなりに得意だし、このゲームは武術に通ずるものもある。
すぐに慣れ、最高難易度への挑戦権を得た。笑みを浮かべ、迷わずに挑戦を決める。背後に見物客が増えていることに気づくのは、そのプレイが終わってからだった。
「すごい人だかりだな」
その人だかりをザレムが通りがけに眺めていた。ステーキで満足した後、暇を持て余して散歩していたのだ。目の前を奇っ怪な人物が通っていた。
赤い袋を山程抱え、よたよたと歩く。そのまま歩くとエスカレーターに突っ込みそうだった。
「おっと、危ないな」
「わ」
思わず手を出して、事情を聞く。赤い袋の中心にいたのは、アシェールだった。宣言通り、福袋を買い占めたのだ。
そのままでは危ないので、休憩ベンチの一角で中身を確かめることにした。
「わぁー。これ、欲しかった強力なアクセサリです!」
「ほう」
「こっちには、凄いレアな品が!」
「福袋ってすごいんだな……」
興奮するアシェールの隣で、ザレムは冷静に福袋を考察していた。中には魔導機械のようなものすらある。
ふと視線を上げれば、OORの前にできていた人だかりが消えいるのだった。
●
「やっと……まけたべ……」
息を切らしながら、人だかりの主ブリュンヒルデはレストラン街に辿り着いた。
ゲームに興じすぎた結果、ファンになりましたと寄ってきた輩がいたのだ。逃げおおせたブリュンヒルデは息を整える。
「ふぅ、体を動かしたらお腹が空いてきました」
調子を取り戻し、あたりを見渡す。ちょうどよくレストラン街である。様々な店がある中で、ブリュンヒルデは回転寿司屋の前で止まった。
「此処、なんか面白そうですね」
中に見えるベルトコンベアと流れる寿司が気になった。
時刻は15時……遅めの昼食に突入する。
ブリュンヒルデのように昼食を取るものもいたが、多くはアフタヌーンティータイムだ。
このモールにはいくつかの喫茶店がある。その中には、スイーツ食べ放題の店があった。ショートケーキだけでも5種類、シュークリームからチョコレートフォンデュまで、多種多様なスイーツが出迎える。
「へぇ、見たことないお菓子がいっぱいだね」
天竜寺 舞(ka0377)は、数多あるスイーツに目を丸くしていた。
「すごいよね」と隣で顔を輝かせるのは、双子の妹、天竜寺 詩(ka0396)だ。スイーツバイキングに来たのは詩が、
「お姉ちゃん、スイーツバイキングだって! 行ってみようよ♪」
とモール内で広告を見つけたからだった。
舞は「なぜここにいるのか」という疑問符を妹の声で打ち消した。苦笑を浮かべつつ、舞もスイーツバイキングについてきたのだった。
そして、今お皿を手にスイーツにトングを伸ばしている。
「これと、これと……これかな」
舞はガトーショコラとプリンをお盆に載せる。
ふと、詩の皿を見て再び目を丸くした。
「そんなに入るの?」
「え」
舞の言葉に今度は詩が、目を見開いた。皿の上には、ティラミスにパンナコッタ、杏仁豆腐に月餅等など……。甘いものでも、結構重たいものだ。
詩は舞の呆れ顔に
「私達女の子だもん。『別腹』があるから大丈夫だよ♪」
弾む声で返すのだった。
席につき食べ始めたのだが、制限時間があるのを思い出す。一生懸命頬張る詩を見て、舞の頬は自然と緩んだ。
少し食べては舞はにこやかな笑みを詩に向ける。
詩は疑問符を浮かべながらも、気にせずに食べ進める。
「家じゃ太るからって、あまり沢山食べさせてもらえなかったじゃない。こんなに食べても食べてもお菓子が出てくるなんて、夢のようだよ」
詩は本当に嬉しそうに話す。伝統芸能の家系に生まれた故の宿命だった。
洋菓子作りも好きな詩は、作り方や材料についてもあれこれ考えていた。そんな詩に舞は笑みを絶やさずに頷く。
「まぁ、家業もあるしね。流石にあまりでぶでぶする訳にもいかないでしょ」
「そうだよね。あ、これ甘~い」
「へへ、でも実はあたし隠れてこっそり友達と食べに行ったりしてるんだけどね」
突然の舞の告白に、詩はフォークを皿の上に落とした。
「嘘! ズルいよ!」
机に手をつき、詩は身を乗り出した。
「あはは、ごめん。次は詩も誘うから」
手を合わせて謝りつつ、舞はいう。
もう、と唇を尖らせて詩は座り直す。目の前には、まだ多種多様なスイーツが残っている。話に花咲かせ、スイーツに舌鼓を打つ。詩もすぐに機嫌を直し、笑顔になるのだった。
ふたつ目の喫茶店は、クレープが有名だった。
ここを訪れていたのは文太とシャトンだ。先に食べていたシャトンが、文太に残りを手渡す。
「苦手なんに無理しんなや……」
「こういうとこは家族とか友人とかと……ほら、オレはいなかったからさ」
「あー、その……」
少し言葉を濁し、
「ちゅうか好物あるんか?」と話題を変える。
「好き嫌い?」
紅茶を口にしながら、シャトンは思い巡らす。
「ん~、食えりゃ何でも……不味くなけりゃ」
「そういうもんか」
落ちかけたいちごを食べながら、文太はシャトンを見る。
こうしていると、普通の高校生に見えた。
「何?」
「いや、なんもない。そういや、さっきな知り合いのおっちゃんが……」
照れ隠しのように文太は再び、話題を変えるのだった。
「くしゅん」
「あら、風邪?」
「いやぁ、さっき飲み仲間を見かけた気がするから……噂でもしてんじゃねーの?」
三店目の喫茶店。少し高級なスイーツを出す店に鵤とロスはいた。
結局、あれだけ連れ回されたものの、ロスは何も買わなかった。そんなところだろうと思っていたので、鵤は適当に返していたわけだ。なお、ロスは楽しめた様子だった。
コーヒーを少しずつ飲み、鵤は適当に生返事をしていた。
鵤の態度を気にせずロスは一方的なおしゃべりを続ける。クリムゾンウェストでの生活のこと、このショッピングモールについて……尽きない話題の中に、ときおり鵤と共通の知人についても織り交ぜる。
「アイツ、今頃死んでそうよねぇ……大丈夫かしら?」
「そーねぇ……。ま、生きてて適当に過ごしてりゃ、それでいいんじゃねぇのぉ?」
その話題が出た時だけ、鵤の視線がロスに向けられる。
「そういうもの?」
「そういう、もんだろ」
微妙な量になっていたコーヒーを一気に飲み干す。空になったカップとロスをさっと見比べ、店員を呼んだ。
「おかわりお願いできる?」
まだ話したりなさそうなロスの様子に、鵤はとことん付き合ってやろうと諦めをみせるのだった。
同じ喫茶店の購買部に、真司とセリスもいた。スイーツもさることながら、紅茶を茶葉で売っている店でもあるのだ。
「テイスティングできるみたいだ。試してみようか?」
「いいの?」
「時間は……あるみたいだしな」
まだ意識がはっきりしている。夢のリミットまではもう少しありそうだった。
アールグレイにダージリン、中国紅茶というのもある。茶葉の種類、生産地、等級……フレーバーティーなるものも存在した。
「これなんか、香りが立ってて美味しいわよね」
「ほう」
セリスの自由に選ばせてみたが、実に楽しそうだ。今も、飲み比べをしながら、違いや好みを模索している。
「リアルブルーの紅茶は、どうだ。気に入ったか?」
「えぇ、フレーバーティーも工夫が凝らしてあって面白いわね」
「セリスが気に入ったなら、よかった」
カップを置いて、真司は軽く微笑む。連れて来てよかった、と心から思っていた。
その評定に何を読み取ったのか、セリスはもやっとしたものを感じた。ここに連れて来てくれたことに対する感謝が、友情とは違う別の思いとして浮かんでいた。
明確な言葉を、その感情に与えることができない。
ただ、幸せな気分であるのは間違いなかった。
「ふ、ふふ」
思わず笑い声を漏らし、セリスは頬を少し赤らめるのだった。
●
鵤たちやセリスたちのいる喫茶店に、真もいた。
「少し眠くなってきたな……」
真は残っていたカフェラテを飲み干すと、読んでいた小説を置く。ものすごく甘いラテは、とても懐かしく感じられ戸惑いすら覚えた。
小説の内容がクリムゾンウェストと似ているために、今がより夢であると自覚できた。小説のような冒険を自分たちがしているという思いが、より強くなった。
「少し、眠るとするか……」
時刻は16時50分、もうすぐ17時になる。窓の外では夕日がだいぶ落ちていた。まどろみが強くなる。もしかしたら、覚めるのかもしれないな。
予感というより確信だった。ゆっくりと椅子に背を預ける。眠りにおちるまで、数秒とかからなかった。
●
「あ゛ーーっ!?」
目が覚めた瞬間、アシェールは強く叫んだ。起き上がると同時に、周囲を見渡す。当然のように見慣れた部屋に、アシェールはいた。
手に入れたはずのレアアイテムやアクセサリは、消え去っていた。探したところで見つかるはずもない。あからさまにアシェールは落胆する。
「……夢……夢かー」
冬空やレア物どもが夢の跡とばかりに、窓の外を見る。日の出がとてもあたたかな日差しを与えてくれる。少しずつ現実に引き戻されていった。
「もうー! 欲しいものを手にしたと思ったのに」
叫び声を上げるも、あの福袋が出現するわけがない。もう一度寝たら……と思いかけたが布団から出ることにした。
「いつか自分の力で手に入れるのです!」
新年の抱負が決まった瞬間であった。
●
ゆっくりと起き上がった文太は、クレープの甘い味が口の中に残っている気がした。
あくびを一つし、髪を掻き乱す。伸びをして朝日を浴びれば、夢心地もだんだんと覚めてくる。
「夢なら……」
思わずこみ上げてくる言葉を口にする。部屋には一人、誰も聞いてやしないのだ。
「キスでもすればよかったか」
そして、苦笑するのだった。
●
「う゛ぁーー!?」
セリスは目覚めとともに叫びを上げ、手で顔を覆った。
ベッドの上で転がりまくった挙句、床に落ちた。新手の床ドンである。
「くふっ」
痛みに一気に覚醒し、ベッドに手をついて起きあがる。セリスの顔は真っ赤だった。熱を持った頬に手を添えつつ、セリスはじたばたする。
「な、なんで、こんな夢見てる……の?」
鏡を見れば、いつもの自分の姿があった。
そこに夢で着たゴスロリが重なって見えた。真司君が選んでくれた服……と今の自分の姿と脇に置いてある全身鎧を見比べる。
「いやいやいや……水飲んで忘れよう」
朝……それも元旦から一気に疲れたセリスであった。
●
クリムゾンウェストの各所で、ショッピングモールにいた人々が目覚めていく。
遊んだゲームに思いを馳せる者、回転寿司に心奪われたもの、スイーツ食べ放題にまた行きたいと思う者……そして、UFOキャッたー再戦を望む者。覚めない夢はないが、見れない夢もない。
このクリムゾンウェストでも、その思いの一端でも達成できる日がくるかも……知れない。
冬のさめざめとした空気を感じ、鞍馬 真(ka5819)は目を覚ました。
視界に飛び込んできたのはショッピングモールの風景だった。どこかで聞いたことのあるような音楽に紛れ、人々の声が聞こえてくる。
「ここは……」
座っているのは、モールに併設されたベンチらしかった。伸びをして立ち上がる。
どうやらリアルブルーのようだが、クリムゾンウェストの住人もいる。
夢かと独り言ち、夢ならばと歩き出す。
「新刊は出ているかな」
どうせ夢なら、探していた本でも売ってないかと本屋を目指す。
真は本屋に向かう途中、ブランドショップのエリアを通った。
そこには服を求める買い物客が、何人も行き交っている。
「……なんでよりにもよってこいつと……」
「なにかいったかしら?」
「……あ? なんでもねぇよ」
ぼやく男とせっつく女……鵤(ka3319)とロス・バーミリオン(ka4718)は、そんなやり取りをしながらブディックの前を歩いていた。
ロスは少し遅れ気味の鵤へ、せっつくように言う。
「ルカちゃん! さっさと来なさいよ!」
「おたくこそさっさと歩きなさいよ」
憎まれ口を叩きながらも鵤は、ロスについていく。時折ウィンドウに飾られた服にルカは目移りし、歩みをゆるめたりする。
呆れながらもロスを見つけた以上、ついていかなければならない。共通の知人から、彼女が一人でいたら護衛がてら付き合って欲しいと頼まれている。これが夢でも現実でも、鵤には同じだった。
「あそこの服屋行くわよ! 何タラタラしてんの!」
「あーはいはい」
少し高めの女性物を主に扱う店で、ロスは張り切って服を選び出す。
「ルカちゃん、これ私に似合うかしら?」
「あーはいはい似合ってる似合ってるぅ」
鵤は見ずに答えているのだが、ルカは気にしない。
これは、これはと何着も試してみる。時折、鵤に対して
「ルカちゃんルカちゃん! これちょっと合わせてみて」
女性物を持ってきては、
「ぶっは! 似あわなさすぎて面白いわぁ」とからかう。
「うわぁきっしょぉ」
フリルのついた服を当てられ、鵤は思わず口に出していた。ロスは引き続き、服を選び続ける。鵤は雑踏を眺めて、適当に相槌を打っていた。
雑踏を行き交う中に、ブリュンヒルデ・ゲンドゥル(ka5812)がいた、
「とりあえず、楽しんでみましょう」
突然の夢にも弾むような声でいい、順応する。周りを見渡し、まず目についたのが人々の服装だった。
自分が着ているものとは違う服装を見て、思案顔で呟く。
「郷に入れば郷に従え、と言いますし……」
あたりを見渡し、コーディネートを考える。いくつかの店をめぐって、ブリュンヒルデはタートルネックセーターにジーンズ。足下には動きやすい紐靴をチョイスした。
「ん、これでいいですね」
再び歩き出したブリュンヒルデは、白いゴシックドレスの少女とすれ違う。
ブリュンヒルデと対極にある、装飾華美な白いゴシックなドレスを着こなし歩く少女。彼女の名はエルバッハ・リオン(ka2434)だ。
「せっかくなので、リアルブルーの服を購入して着替えましょうか」
この夢世界で目覚めた時、エルはそう述べていた。あれこれ見てみた結果、このゴシックドレスを選んだのだった。トランジスタグラマーな彼女が衣装を身にまとえば、人目を引くのも仕方がない。
だがエルは視線を気にすることなく、ショッピングモールを歩いて行く。
世の中、いろんな格好をしている人がいるな。
エルとすれ違いざまに、柊 真司(ka0705)はそんなことを思った。今のはエルフだったようだし、クリムゾンウェストの住人も誘われているのだろうか。いずれにしても、多種多様なファッションがあるわけ……なのだが。
「さすがにこの格好はねぇよ」
「へ?」
きょとんとした顔で真司を見たのは、セリス・アルマーズ(ka1079)だ。真司の隣を歩く彼女は、クリムゾンウェストと変わらぬ全身鎧の姿でいた。夢でこそ許されるが、現実のリアルブルーにいたら警備員が飛んで来るだろう。
せっかくの夢なので案内しようと決めていた真司も、セリスの今の姿は悩ましい。
夢なので財布は傷まないはずだ。ならば、と意を決する。
「着替えるぞ、セリス」
「え、着替え?」
目をパチクリさせるセリスを、真司は有無を言わせず連れて行く。セリスはもとより文句をいうつもりはない。見たことがないショッピングモールの風景の中で、真司は安心できる存在だからだ。
事実、彼に出会うまではかなり狼狽していた。
剣が手元にあったなら、何かのひょうしに抜きかねないほどだった。真司に出会い、夢とわかったことで落ち着きを取り戻したのだ。
「えーと、どれを着ればいいの?」
それでも、このような大規模な服屋は経験したことがない。
「何でも似合いそうだが、何がいいかなぁ」
どうせならいつも着ないようなものを着せてみようか。
そう思いながら、まず持ってきたのは振袖だった。さすがにセリス一人では着付けられないため、店員に助けてもらう。
「なんだか修道服を思い出すわね」
髪もまとめて艶やかしっとり、中々様になっていた。
「次は……」
「え、これは」
次に持ってきたのはゴスロリ服だった。リボンやフリルが満載の服装、しかもミニスカートだった。着るだけならと袖を通し、自分の姿に曖昧な笑みを浮かべる。22歳にもなって、ふりふりの服……と思わなくはない。
が、先ほども見かけたしこの世界ではポピュラーなのかなとも思えた。
「ふむ……」
黙々と次の服……胸開きタートルネックセーター&スカートを持ってくる。今度は膝丈まであるフレアスカート。大人な女性という感じだった。それでも、胸部分の露出に顔が赤らむ。
「これは、ちょっと恥ずかしいよね」
「そうか。じゃあ、さっきので」
セリスの言葉を聞き入れつつ、真司はゴスロリ服に決めた。即決購入しセリスに着替えてもらう。スカートがやや短く感じられたが、全体的な露出で言えば、少ないほうだ。
「次行こうか」
「え、まだ何か着せるつもりなの?」
「いや、今度は……行ってからのお楽しみだ」
はぐらかす真司におずおずとセリスは付いて行く。
全身鎧より、今の格好のほうが恥ずかしかった。
●
手に数冊の小説を持ち、真はショッピングモールを散策していた。
腰を落ち着かせる場所を、探しているのだ。
「どこか、落ち着ける場所は……ないかな」
真は書店で思っていた新刊を手に入れていた。それに加えて、クリムゾンウェストを思わせるファンタジー小説を思わず買ってしまった。今は自分が、その小説の登場人物になった気分すら感じられる。
クリムゾンウェストとの交流が進み、馴染んできたのだなと思う。
「この辺りは……電気屋とゲームセンター? 逆に出たか」
ショッピングモールはムダに広い。踵を返し、喫茶店のある場所を目指す。
戻り際、視界の隅にゲームの体験コーナーに立ち向かう青年が見えた。
青年ことザレム・アズール(ka0878)は、この世界に現出した時にロッソと見間違えた。
ロッソはもっと船らしかったが、ここは城か街を思わせる。何より太陽光と電燈がともに入っているらしく、非情に明るかった。
「ここは……いったい」
呆然している間もなく、ハンターオフィスのような受付を見つけて問いただした。
「つまり、買い物したり遊んだりしたりする施設……?」
ザレムの問いかけに、インフォメーションセンターのお姉さんは不思議そうにしながらも、丁寧懇切に教えてくれた。施設の案内を渡され、そこに載っている店の数に圧倒された。そして、見渡せば三階層吹き抜けの巨大施設だと、ありありとわかる。
「これ全部がか!?」
カルチャーショックどころではない。
しばらく、呆然とベンチに座っていたが、やがて回復する。
「と、とにかく中を色々と巡ってみなくては!」
ちなみに、夢だと気づいていなかった。
そして、現在に至る。
機導師としての本能が、ザレムを電気屋に連れてきたのだった。幾多もの機械を眺めているだけで、好奇心が駆り立てられる。しかし、一番興味を引いたのは画面上に浮かぶCAMのような存在だった。
「この戦闘機に変形するCAMみたいなヤツはスゴイな!」
リアルと見紛うばかりの3Dな戦闘ロボシューティングゲームに、ザレムは驚嘆していた。無論、ゲームとは思っていない。
ゲームを楽しんでいるが、ゲームのロボを実在するものと思っていた。
「……腹が減ったな」
そこそこに遊び倒し、ザレムは食事処を探す。
だが。夢だと思っていないザレムは金欠という危機に直面していた。レストラン街へ辿り着いたものの、行くあてもなく匂いだけが空腹に効く。
「お」
そこに桃源郷を見つけた。あったのは「30分以内に食べたら無料! ドデカステーキMAX」という張り紙だった。常人が見たら胃もたれしそうな重量を気にせず、ザレムは店内へと吸い込まれていった。
アシェ-ル(ka2983)はそんなザレムの姿を目撃していた。
「……私だったら胃もたれしますね」
そう言いながらアイスクリームを美味しそうに食べる。チョコミント味という未知の領域が、アシェールの舌を満足させる。
ちなみに10分前の彼女は、オレンジシャーベットに舌鼓を打っていた。
そのさらに10分前は、バニラアイスを美味しそうに食べていた。アイスクリームを売っている場所を見つける度に、彼女はアイスを食べていた。
合計三十分前、彼女は思った。
「なんで、私、ここのいるのでしたっけ……」
ここが買い物する施設だとは、すぐにわかった。
問題は何故買い物に来たのか。目的を忘れたことだった。
「ん~、そのうち思い出すでしょう」
楽観的頷いて、アシェールは歩き出す。そして、アイスを求め始めた。いくら食べても減らないお金、冷えないお腹、なにより魅力的な種類の数!
「……って! さっきから、私、アイスしか食べてないですよ!」
衝撃の事実だった。
「しかも、なんだか、ぼっちって私だけ!?」
そんなことはないのだが、雑踏を行く家族連れやカップルを眺めているとじわじわとそんな気分にさせられる。目をグルグルと回しながら、アシェールは立ち尽くす。
「……まぁ、せっかくだし、このまま、お買い物でもしよう」
気持ちを切り替えてあたりを見渡す。気がつけば、レストラン街を抜けていた。
「あれです!」
目の前に見えたのは、赤い紙袋に白い字で「福袋」と書かれた商品だった。近づいてみれば、様々な商品をお得につめあわせているらしい。
「福袋を買い占めるのです!」
意気揚々とアシェールは福袋激戦区へぶつかっていくのだった。
●
アシェールが福袋激戦区へ吸い込まれる中、ゲームセンターを目指す女子高生がいた。セーラー服に身を包み、肩まである髪を揺らしながら歩くのは、シャトン(ka3198)である。
彼女は、この光景が夢であると誰よりも強く実感していた。
ときおり磨かれたガラスに映る自分の両眼は、しっかりと見開かれていた。普段している眼帯が必要ないのだ。その両眼に、今知り合いの姿をとらえた。
「よっ、文太」
同じくシャツにズボンと高校生姿をした冬樹 文太(ka0124)だった。
文太はシャトンの姿を見て、気付いてないのか、目をパチクリさせた。
「……なんだ、変な顔して」
シャトンは怪訝そうな表情を見せるが、ウィンドウに見えた自身の姿を思い出す。
「ほら」と笑いながら左目を手で隠した途端、
「おま……シャトンか!?」
驚きの表情を見せ、視線を制服姿と顕在する両眼の間で上下させた。おおよそクリムゾンウェストでは見たこと無い格好に、
(なんや……可愛えぇやん)
と思うのだが、言葉は飲み込んだ。
「ちょうどいい。一緒に来てくれないか?」
「お、おう」
言われるがまま、文太はシャトンに連れられる。行き着いたのは、ゲームセンターだった。UFOキャッチャーから昔懐かしメダルゲームまで、多種多様、所狭しとゲームが置かれていた。
シャトンはその光景に目を輝かせ、文太の袖を引く。
「一度、行ってみたかったんだ」
「ああ……せやな、折角だし遊ぶか」
にっと笑って、アシェールに引かれるがままに中へと入りかけ……足が止まった。
どうやら少しレトロなパンチングゲームに惹かれているらしい。
「よっし、挑戦するで」
ぐっと腰を据えて、一撃をかます。中々いい数字が出た。
こんなもんだろう、と思いつつシャトンと入れ替わる。
「じゃあオレの番だね」
軽くステップを踏みながら、息を吸い込む。シャトンは歪虚と戦っているときと違わぬ集中力で、パンチングマシーンに挑んでいた。
(本気や)
文太が思うと同時に、鋭い拳をシャトンはつきだした。渾身の力がこもった一撃。
パンチングマシーンのメータがギュインと上がり、驚異的な数値を記録する。
「よっし、オレの勝ちだ。ランキング1位! すごいだろ?」
「少しへこむわ」
「職柄、仕方ないって。ほら、力の入れ方とか、タイミングとか」
シャトンの記録はランキング1位を記録していた。そのことを喜びながら、文太へとわずかながらにフォローを入れる。
視線を巡らせて、シャトンは一点を指差した。
「文太なら、あっちの方が得意だろ?」
最新技術を駆使したシューティングゲームだった。このゲームには狙い撃つだけじゃない総合的な射撃能力が求められる。
「任せてや」といいながら文太は筐体の前に立つ。
鋭い視覚や方向感覚が、ゲームの中でも遺憾なく発揮される。気がつけばマテリアルを目に巡らせていた。
(本気だな)とシャトンが思う間にも、スコアは伸びていく。
だが、最終局面はクライマックスに相応しい物量押しだった。
「くそっ! 後少しやったんに!」
フルスコアにわずか及ばず、文太は悔しげに叫んだ。それでもランキング1位のスコアを記録していた。シャトンに、
「お疲れ様。凄かった」
と労われると、「おう」と気を良くする。
ふと時計を見れば、15時を回ろうとしていた。
「なにか食べに行くか」
「そうだな」
歩き出したそのとき、シャトンの足が止まった。どうやらクレーンゲームの一つが気になっているらしい。猫を模した洒落たキーホルダーだった。メタルな感じが愛らしさより、クールさを魅せる。
「よし」
おもむろに小銭を取り出して、クレーンゲームに投入する。すっと集中してクレーンの位置、景品の位置を把握する。慎重にアームを動かし、いとも簡単そうに景品を落とした。
「こういうんは経験とコツがあるんやで」
「……ありがとう、な」
文太が得意げに渡してきた景品を、シャトンは両手で受け取る。シャトンの嬉しそうな笑みに、文太も目を細めて笑うのだった。
こうしてゲームセンターを去っていた二人の姿を眺める白い少女がいた。エルだ。
「なるほど、機械を操作して景品を手に入れる遊びということですか。わりと簡単そうですし、やってみない手はないですね」
多種多様な景品を見て回り、ぬいぐるみの積まれた筐体の前で立ち止まる。
これですね、と直感が働いた。取り出した小銭を投入し、プレイを開始する。クレーンゲームは、ヒモに引っ掛けるタイプ、本体を掴むタイプ、アームを当てて落とすタイプなどがある。
玄人は一発で見抜き、様々な技を駆使して景品をゲットする。だが、はじめてのエルに判断は難しい。そもそもアームが狙ったところに行かないのだ。
ウィーン、スカッ。
ウィーン、スカッ。
ウィーン……スカッ。
「……いいでしょう。こうなれば成功するまで続けるだけです」
財布から出せるだけの小銭を取り出し、筐体の上に積み上げる。これは、覚悟の意思表示だった。無我夢中にUFOキャッチャーへ挑戦する。
燃えるエルの後ろをブリュンヒルデが通って行った。
「へぇー、この世界独自の文化のようですね」
ゲームセンターに辿り着いたブリュンヒルデは、軽快な音楽が鳴り響く場所にいた。
画面の前で音楽に合わせ軽快に踊る人々がいた。しばらく眺めていたブリュンヒルデは合点がいったと手を叩いた。
「なるほど、譜面のとおりにボタンを踏んで行くのですね」
それだけではない。
「上手くやると踊っているかのよう」
踊ル踊ルレボリューションというゲームである。通称OOR。
先客のプレイをしばらく眺めていたブリュンヒルデは、意を決して筐体に登った。実際に前に立って見ると、少し緊張する。
「では私はこれを……」
最初に選べる中では高めの難易度を選択する。先客が踊るのを見て、譜面を覚えたのだ。舞踏はそれなりに得意だし、このゲームは武術に通ずるものもある。
すぐに慣れ、最高難易度への挑戦権を得た。笑みを浮かべ、迷わずに挑戦を決める。背後に見物客が増えていることに気づくのは、そのプレイが終わってからだった。
「すごい人だかりだな」
その人だかりをザレムが通りがけに眺めていた。ステーキで満足した後、暇を持て余して散歩していたのだ。目の前を奇っ怪な人物が通っていた。
赤い袋を山程抱え、よたよたと歩く。そのまま歩くとエスカレーターに突っ込みそうだった。
「おっと、危ないな」
「わ」
思わず手を出して、事情を聞く。赤い袋の中心にいたのは、アシェールだった。宣言通り、福袋を買い占めたのだ。
そのままでは危ないので、休憩ベンチの一角で中身を確かめることにした。
「わぁー。これ、欲しかった強力なアクセサリです!」
「ほう」
「こっちには、凄いレアな品が!」
「福袋ってすごいんだな……」
興奮するアシェールの隣で、ザレムは冷静に福袋を考察していた。中には魔導機械のようなものすらある。
ふと視線を上げれば、OORの前にできていた人だかりが消えいるのだった。
●
「やっと……まけたべ……」
息を切らしながら、人だかりの主ブリュンヒルデはレストラン街に辿り着いた。
ゲームに興じすぎた結果、ファンになりましたと寄ってきた輩がいたのだ。逃げおおせたブリュンヒルデは息を整える。
「ふぅ、体を動かしたらお腹が空いてきました」
調子を取り戻し、あたりを見渡す。ちょうどよくレストラン街である。様々な店がある中で、ブリュンヒルデは回転寿司屋の前で止まった。
「此処、なんか面白そうですね」
中に見えるベルトコンベアと流れる寿司が気になった。
時刻は15時……遅めの昼食に突入する。
ブリュンヒルデのように昼食を取るものもいたが、多くはアフタヌーンティータイムだ。
このモールにはいくつかの喫茶店がある。その中には、スイーツ食べ放題の店があった。ショートケーキだけでも5種類、シュークリームからチョコレートフォンデュまで、多種多様なスイーツが出迎える。
「へぇ、見たことないお菓子がいっぱいだね」
天竜寺 舞(ka0377)は、数多あるスイーツに目を丸くしていた。
「すごいよね」と隣で顔を輝かせるのは、双子の妹、天竜寺 詩(ka0396)だ。スイーツバイキングに来たのは詩が、
「お姉ちゃん、スイーツバイキングだって! 行ってみようよ♪」
とモール内で広告を見つけたからだった。
舞は「なぜここにいるのか」という疑問符を妹の声で打ち消した。苦笑を浮かべつつ、舞もスイーツバイキングについてきたのだった。
そして、今お皿を手にスイーツにトングを伸ばしている。
「これと、これと……これかな」
舞はガトーショコラとプリンをお盆に載せる。
ふと、詩の皿を見て再び目を丸くした。
「そんなに入るの?」
「え」
舞の言葉に今度は詩が、目を見開いた。皿の上には、ティラミスにパンナコッタ、杏仁豆腐に月餅等など……。甘いものでも、結構重たいものだ。
詩は舞の呆れ顔に
「私達女の子だもん。『別腹』があるから大丈夫だよ♪」
弾む声で返すのだった。
席につき食べ始めたのだが、制限時間があるのを思い出す。一生懸命頬張る詩を見て、舞の頬は自然と緩んだ。
少し食べては舞はにこやかな笑みを詩に向ける。
詩は疑問符を浮かべながらも、気にせずに食べ進める。
「家じゃ太るからって、あまり沢山食べさせてもらえなかったじゃない。こんなに食べても食べてもお菓子が出てくるなんて、夢のようだよ」
詩は本当に嬉しそうに話す。伝統芸能の家系に生まれた故の宿命だった。
洋菓子作りも好きな詩は、作り方や材料についてもあれこれ考えていた。そんな詩に舞は笑みを絶やさずに頷く。
「まぁ、家業もあるしね。流石にあまりでぶでぶする訳にもいかないでしょ」
「そうだよね。あ、これ甘~い」
「へへ、でも実はあたし隠れてこっそり友達と食べに行ったりしてるんだけどね」
突然の舞の告白に、詩はフォークを皿の上に落とした。
「嘘! ズルいよ!」
机に手をつき、詩は身を乗り出した。
「あはは、ごめん。次は詩も誘うから」
手を合わせて謝りつつ、舞はいう。
もう、と唇を尖らせて詩は座り直す。目の前には、まだ多種多様なスイーツが残っている。話に花咲かせ、スイーツに舌鼓を打つ。詩もすぐに機嫌を直し、笑顔になるのだった。
ふたつ目の喫茶店は、クレープが有名だった。
ここを訪れていたのは文太とシャトンだ。先に食べていたシャトンが、文太に残りを手渡す。
「苦手なんに無理しんなや……」
「こういうとこは家族とか友人とかと……ほら、オレはいなかったからさ」
「あー、その……」
少し言葉を濁し、
「ちゅうか好物あるんか?」と話題を変える。
「好き嫌い?」
紅茶を口にしながら、シャトンは思い巡らす。
「ん~、食えりゃ何でも……不味くなけりゃ」
「そういうもんか」
落ちかけたいちごを食べながら、文太はシャトンを見る。
こうしていると、普通の高校生に見えた。
「何?」
「いや、なんもない。そういや、さっきな知り合いのおっちゃんが……」
照れ隠しのように文太は再び、話題を変えるのだった。
「くしゅん」
「あら、風邪?」
「いやぁ、さっき飲み仲間を見かけた気がするから……噂でもしてんじゃねーの?」
三店目の喫茶店。少し高級なスイーツを出す店に鵤とロスはいた。
結局、あれだけ連れ回されたものの、ロスは何も買わなかった。そんなところだろうと思っていたので、鵤は適当に返していたわけだ。なお、ロスは楽しめた様子だった。
コーヒーを少しずつ飲み、鵤は適当に生返事をしていた。
鵤の態度を気にせずロスは一方的なおしゃべりを続ける。クリムゾンウェストでの生活のこと、このショッピングモールについて……尽きない話題の中に、ときおり鵤と共通の知人についても織り交ぜる。
「アイツ、今頃死んでそうよねぇ……大丈夫かしら?」
「そーねぇ……。ま、生きてて適当に過ごしてりゃ、それでいいんじゃねぇのぉ?」
その話題が出た時だけ、鵤の視線がロスに向けられる。
「そういうもの?」
「そういう、もんだろ」
微妙な量になっていたコーヒーを一気に飲み干す。空になったカップとロスをさっと見比べ、店員を呼んだ。
「おかわりお願いできる?」
まだ話したりなさそうなロスの様子に、鵤はとことん付き合ってやろうと諦めをみせるのだった。
同じ喫茶店の購買部に、真司とセリスもいた。スイーツもさることながら、紅茶を茶葉で売っている店でもあるのだ。
「テイスティングできるみたいだ。試してみようか?」
「いいの?」
「時間は……あるみたいだしな」
まだ意識がはっきりしている。夢のリミットまではもう少しありそうだった。
アールグレイにダージリン、中国紅茶というのもある。茶葉の種類、生産地、等級……フレーバーティーなるものも存在した。
「これなんか、香りが立ってて美味しいわよね」
「ほう」
セリスの自由に選ばせてみたが、実に楽しそうだ。今も、飲み比べをしながら、違いや好みを模索している。
「リアルブルーの紅茶は、どうだ。気に入ったか?」
「えぇ、フレーバーティーも工夫が凝らしてあって面白いわね」
「セリスが気に入ったなら、よかった」
カップを置いて、真司は軽く微笑む。連れて来てよかった、と心から思っていた。
その評定に何を読み取ったのか、セリスはもやっとしたものを感じた。ここに連れて来てくれたことに対する感謝が、友情とは違う別の思いとして浮かんでいた。
明確な言葉を、その感情に与えることができない。
ただ、幸せな気分であるのは間違いなかった。
「ふ、ふふ」
思わず笑い声を漏らし、セリスは頬を少し赤らめるのだった。
●
鵤たちやセリスたちのいる喫茶店に、真もいた。
「少し眠くなってきたな……」
真は残っていたカフェラテを飲み干すと、読んでいた小説を置く。ものすごく甘いラテは、とても懐かしく感じられ戸惑いすら覚えた。
小説の内容がクリムゾンウェストと似ているために、今がより夢であると自覚できた。小説のような冒険を自分たちがしているという思いが、より強くなった。
「少し、眠るとするか……」
時刻は16時50分、もうすぐ17時になる。窓の外では夕日がだいぶ落ちていた。まどろみが強くなる。もしかしたら、覚めるのかもしれないな。
予感というより確信だった。ゆっくりと椅子に背を預ける。眠りにおちるまで、数秒とかからなかった。
●
「あ゛ーーっ!?」
目が覚めた瞬間、アシェールは強く叫んだ。起き上がると同時に、周囲を見渡す。当然のように見慣れた部屋に、アシェールはいた。
手に入れたはずのレアアイテムやアクセサリは、消え去っていた。探したところで見つかるはずもない。あからさまにアシェールは落胆する。
「……夢……夢かー」
冬空やレア物どもが夢の跡とばかりに、窓の外を見る。日の出がとてもあたたかな日差しを与えてくれる。少しずつ現実に引き戻されていった。
「もうー! 欲しいものを手にしたと思ったのに」
叫び声を上げるも、あの福袋が出現するわけがない。もう一度寝たら……と思いかけたが布団から出ることにした。
「いつか自分の力で手に入れるのです!」
新年の抱負が決まった瞬間であった。
●
ゆっくりと起き上がった文太は、クレープの甘い味が口の中に残っている気がした。
あくびを一つし、髪を掻き乱す。伸びをして朝日を浴びれば、夢心地もだんだんと覚めてくる。
「夢なら……」
思わずこみ上げてくる言葉を口にする。部屋には一人、誰も聞いてやしないのだ。
「キスでもすればよかったか」
そして、苦笑するのだった。
●
「う゛ぁーー!?」
セリスは目覚めとともに叫びを上げ、手で顔を覆った。
ベッドの上で転がりまくった挙句、床に落ちた。新手の床ドンである。
「くふっ」
痛みに一気に覚醒し、ベッドに手をついて起きあがる。セリスの顔は真っ赤だった。熱を持った頬に手を添えつつ、セリスはじたばたする。
「な、なんで、こんな夢見てる……の?」
鏡を見れば、いつもの自分の姿があった。
そこに夢で着たゴスロリが重なって見えた。真司君が選んでくれた服……と今の自分の姿と脇に置いてある全身鎧を見比べる。
「いやいやいや……水飲んで忘れよう」
朝……それも元旦から一気に疲れたセリスであった。
●
クリムゾンウェストの各所で、ショッピングモールにいた人々が目覚めていく。
遊んだゲームに思いを馳せる者、回転寿司に心奪われたもの、スイーツ食べ放題にまた行きたいと思う者……そして、UFOキャッたー再戦を望む者。覚めない夢はないが、見れない夢もない。
このクリムゾンウェストでも、その思いの一端でも達成できる日がくるかも……知れない。
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最終発言 2016/01/07 15:04:27 |