ゲスト
(ka0000)
異種族に友情は芽生えるか
マスター:真太郎

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/01/15 07:30
- 完成日
- 2016/01/22 23:13
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
そのコボルトは生まれながらに虚弱だった。
体は通常のコボルトよりも二回りも小さく、力も弱く、臆病だった。
同じ群れの他のコボルト達には疎まれ、爪弾きにされ、群れの中では孤立して暮らしていた。
獲物を狩るだけの力はないが仲間は狩りを手伝ってくれない。
だから虚弱なコボルトには虫を捕まえるのが精々だった。
しかしそれでは腹を十分に満たす事はできず、力はつかず、体も大きくなれなかった。
雨が長く続いた事があった。
虚弱なコボルトは虫すら捕まえられなくなり、長雨の間は何も食べる事ができなかった。
だから雨があがった頃には虚弱なコボルトの体は弱りきっていた。
それでも群れのコボルトは誰も助けない。
だから虚弱なコボルトは1人で狩りに出る。
森を歩くと木々の葉に残っていた雨粒が体を濡らし、虚弱なコボルトを冷やして更に弱らせた。
空腹と冷えでどんどん体力が失われ、虚弱なコボルトは遂に動けなくなってしまう。
身を温めるために体を丸め、目を閉じるとだんだんと眠たくなってくる。
それは死への眠りだったのかもしれない。
「あーー! ワンちゃんだっ!」
しかしそんな大声で虚弱なコボルトの眠りは覚まされた。
目を開けると、自分と大して背丈の変わらぬ人間の姿があった。
虚弱なコボルトが初めて見る人間だった。
子供なのだろう。小さく、弱そうだ。
それでも虚弱な上に弱っている今のコボルトよりは強いかもしれない。
「グルル……」
虚弱なコボルトは警戒心を露にして唸った。
「どうしたのワンちゃん?」
しかし人間の子供の方は無警戒に近づいてくる。
虚弱なコボルトは後ずさった。
「もしかしてお腹空いてるの? これ食べる?」
人間の子供は背負っていたリュックからおにぎりを出して地面に置いた。
虚弱なコボルトの目がおにぎりに釘付けとなる。
初めて見る物だが、匂いで食べ物だと分かる。
自然とよだれが垂れた。
しかし食べ物と人間の子供との距離が近い。
このままでは近づく事ができず、虚弱なコボルトの視線がおにぎりと子供の間を行ったり来たりする。
「ミミカ何もしないよ。おいで」
ミミカというらしい人間の子供が手招きするが、虚弱なコボルトはもちろん近寄らない。
「もー……。じゃあミミカ離れてあげるね」
ミミカが背を向けて離れてゆく。
その瞬間、虚弱なコボルトは猛ダッシュでおにぎりに喰らいつき、猛ダッシュで草むらに飛び込んだ。
そこで思いっきり咀嚼する。
美味かった。
食べ物の味が口中に染み渡った。
脳が、腹が、全身が、歓喜で満たされる。
「やっぱりお腹へってたんだね。はい、これもあげる」
ミミカは地面にクッキーを置いたが、その場を離れなかった。
そしてニコニコしながら虚弱なコボルトが来るのを待つ。
虚弱なコボルトの中で警戒心と食欲が天秤にかかる。
そして……食欲が勝った。
空腹による欲求に抗えなかったのだ。
ミミカの視線を気にしながらジリジリと近づき、クッキーを取った途端に再び猛ダッシュで草むらに飛び込んだ。
「ここで食べてよ~」
ミミカが不満そうに口を尖らせながら虚弱なコボルトのいる草むらに向かって言う。
クッキーを食べ終えた虚弱なコボルトは草むらから顔を出し、ミミカを見た。
警戒心が薄らいだ訳ではないが、まだ何かくれるかもしれないという期待はあった。
「ごめんね。ご飯はもうないの」
そんな期待を感じ取ったのか、ミミカが申し訳なさそうに謝る。
「じゃ、またねワンちゃん。バイバイ」
ミミカは手を振ると去っていった。
虚弱なコボルトはミミカの気配が感じ取れなくなるまでその場を動かなかった。
その後もミミカはほぼ毎日食べ物を持ってきてくれた。
ミミカに勝手にロブと名付けられた虚弱なコボルトは飢える事がなくなった。
何日も会っていればロブも自分がミミカより力が強いと分かってそれほど警戒しなくなり、食事もミミカの傍で取るようになった。
「わーい! ロブの毛ふっかふかー」
そうするとミミカが無遠慮に触ってくる。
最初は逃げていたが、すぐに害はないと分かり、今では好きにさせている。
「ミミカ、昨日は学校のテストで100点とったんだよ。凄いでしょー」
ミミカはロブがご飯を食べている間に色々な話をしていた。
ロブには人間の言葉は分からないが、ミミカが楽しそうにしているのは分かる。
ロブは無警戒で弱いミミカを狩って喰う事も考えたが、そうするとミミカの持ってくる食い物が食べられなくなる。
だからロブはミミカを襲わないでいた。
少なくとも最初の理由はそうだった。
そんなある日、コボルトの集落をゴブリンが襲うようになった。
ゴブリンの方が知能が高くて強いが、コボルトの方が数が多くて地の利もあったため、両者の力は互角だった。
そのため、コボルトとゴブリンの抗争は何日も続いた。
もちろんロブもゴブリンと戦わされた。
ミミカの食べ物のお陰で少し力の付いていたロブは何とか生き残る事ができていた。
もしミミカと出会っていなければとっくにゴブリンに殺されていただろう。
だがゴブリンとの抗争のため、ロブはミミカに会えなくなっていた。
そしてコボルトとゴブリンの抗争の事はミミカの住む村にも伝わっていた。
森にコボルトが住んでいる事は以前から知られていたが、今まで村に害はなかっため放置されていた。
しかしゴブリンはコボルトより恐ろしい存在だ。
もしコボルトが負けてゴブリンが住みつくようになれば村も襲われるかもしれない。
そう思った村人たちはハンターを雇い、ゴブリンと、ついでにコボルトも退治してもらう事に決めた。
雇われたハンターが村にやってくると、村長が迎えに出た。
「よく来てくださいました。ですが、ゴブリンとコボルトはまだ戦っておりまして。今日明日中には終わると思いますから、生き残った方を退治していただけますか」
村長がそう話していた時、1人の女性が血相を変えて駆けてきた。
「ミミカがっ! ミミカがいないんですっ!!」
詳しく話を聞くと、娘のミミカの姿が見当たらず、森へ入っていった可能性が高いという事だった。
「もしゴブリンやコボルトに見つかっていたら……」
村長の顔も青くなった。
「ハンターさん! お願いします! 今すぐゴブリンとコボルトを退治してください! でないとミミカが……ミミカがぁー!!」
母親が涙ながらにハンター達に訴えてくる。
「私からもお願いします! どうか今すぐ退治に行って、この人の娘さんを助けてあげてください!」
村長もハンター達に頭を下げた。
その頃、ミミカはロブを探して森へ入っていた。
「ロブー。ロブー!」
しかも普段は行かない森の奥へまで入ってしまっていた。
そのまま進めばコボルトのテリトリーに入るとも知らずに……。
体は通常のコボルトよりも二回りも小さく、力も弱く、臆病だった。
同じ群れの他のコボルト達には疎まれ、爪弾きにされ、群れの中では孤立して暮らしていた。
獲物を狩るだけの力はないが仲間は狩りを手伝ってくれない。
だから虚弱なコボルトには虫を捕まえるのが精々だった。
しかしそれでは腹を十分に満たす事はできず、力はつかず、体も大きくなれなかった。
雨が長く続いた事があった。
虚弱なコボルトは虫すら捕まえられなくなり、長雨の間は何も食べる事ができなかった。
だから雨があがった頃には虚弱なコボルトの体は弱りきっていた。
それでも群れのコボルトは誰も助けない。
だから虚弱なコボルトは1人で狩りに出る。
森を歩くと木々の葉に残っていた雨粒が体を濡らし、虚弱なコボルトを冷やして更に弱らせた。
空腹と冷えでどんどん体力が失われ、虚弱なコボルトは遂に動けなくなってしまう。
身を温めるために体を丸め、目を閉じるとだんだんと眠たくなってくる。
それは死への眠りだったのかもしれない。
「あーー! ワンちゃんだっ!」
しかしそんな大声で虚弱なコボルトの眠りは覚まされた。
目を開けると、自分と大して背丈の変わらぬ人間の姿があった。
虚弱なコボルトが初めて見る人間だった。
子供なのだろう。小さく、弱そうだ。
それでも虚弱な上に弱っている今のコボルトよりは強いかもしれない。
「グルル……」
虚弱なコボルトは警戒心を露にして唸った。
「どうしたのワンちゃん?」
しかし人間の子供の方は無警戒に近づいてくる。
虚弱なコボルトは後ずさった。
「もしかしてお腹空いてるの? これ食べる?」
人間の子供は背負っていたリュックからおにぎりを出して地面に置いた。
虚弱なコボルトの目がおにぎりに釘付けとなる。
初めて見る物だが、匂いで食べ物だと分かる。
自然とよだれが垂れた。
しかし食べ物と人間の子供との距離が近い。
このままでは近づく事ができず、虚弱なコボルトの視線がおにぎりと子供の間を行ったり来たりする。
「ミミカ何もしないよ。おいで」
ミミカというらしい人間の子供が手招きするが、虚弱なコボルトはもちろん近寄らない。
「もー……。じゃあミミカ離れてあげるね」
ミミカが背を向けて離れてゆく。
その瞬間、虚弱なコボルトは猛ダッシュでおにぎりに喰らいつき、猛ダッシュで草むらに飛び込んだ。
そこで思いっきり咀嚼する。
美味かった。
食べ物の味が口中に染み渡った。
脳が、腹が、全身が、歓喜で満たされる。
「やっぱりお腹へってたんだね。はい、これもあげる」
ミミカは地面にクッキーを置いたが、その場を離れなかった。
そしてニコニコしながら虚弱なコボルトが来るのを待つ。
虚弱なコボルトの中で警戒心と食欲が天秤にかかる。
そして……食欲が勝った。
空腹による欲求に抗えなかったのだ。
ミミカの視線を気にしながらジリジリと近づき、クッキーを取った途端に再び猛ダッシュで草むらに飛び込んだ。
「ここで食べてよ~」
ミミカが不満そうに口を尖らせながら虚弱なコボルトのいる草むらに向かって言う。
クッキーを食べ終えた虚弱なコボルトは草むらから顔を出し、ミミカを見た。
警戒心が薄らいだ訳ではないが、まだ何かくれるかもしれないという期待はあった。
「ごめんね。ご飯はもうないの」
そんな期待を感じ取ったのか、ミミカが申し訳なさそうに謝る。
「じゃ、またねワンちゃん。バイバイ」
ミミカは手を振ると去っていった。
虚弱なコボルトはミミカの気配が感じ取れなくなるまでその場を動かなかった。
その後もミミカはほぼ毎日食べ物を持ってきてくれた。
ミミカに勝手にロブと名付けられた虚弱なコボルトは飢える事がなくなった。
何日も会っていればロブも自分がミミカより力が強いと分かってそれほど警戒しなくなり、食事もミミカの傍で取るようになった。
「わーい! ロブの毛ふっかふかー」
そうするとミミカが無遠慮に触ってくる。
最初は逃げていたが、すぐに害はないと分かり、今では好きにさせている。
「ミミカ、昨日は学校のテストで100点とったんだよ。凄いでしょー」
ミミカはロブがご飯を食べている間に色々な話をしていた。
ロブには人間の言葉は分からないが、ミミカが楽しそうにしているのは分かる。
ロブは無警戒で弱いミミカを狩って喰う事も考えたが、そうするとミミカの持ってくる食い物が食べられなくなる。
だからロブはミミカを襲わないでいた。
少なくとも最初の理由はそうだった。
そんなある日、コボルトの集落をゴブリンが襲うようになった。
ゴブリンの方が知能が高くて強いが、コボルトの方が数が多くて地の利もあったため、両者の力は互角だった。
そのため、コボルトとゴブリンの抗争は何日も続いた。
もちろんロブもゴブリンと戦わされた。
ミミカの食べ物のお陰で少し力の付いていたロブは何とか生き残る事ができていた。
もしミミカと出会っていなければとっくにゴブリンに殺されていただろう。
だがゴブリンとの抗争のため、ロブはミミカに会えなくなっていた。
そしてコボルトとゴブリンの抗争の事はミミカの住む村にも伝わっていた。
森にコボルトが住んでいる事は以前から知られていたが、今まで村に害はなかっため放置されていた。
しかしゴブリンはコボルトより恐ろしい存在だ。
もしコボルトが負けてゴブリンが住みつくようになれば村も襲われるかもしれない。
そう思った村人たちはハンターを雇い、ゴブリンと、ついでにコボルトも退治してもらう事に決めた。
雇われたハンターが村にやってくると、村長が迎えに出た。
「よく来てくださいました。ですが、ゴブリンとコボルトはまだ戦っておりまして。今日明日中には終わると思いますから、生き残った方を退治していただけますか」
村長がそう話していた時、1人の女性が血相を変えて駆けてきた。
「ミミカがっ! ミミカがいないんですっ!!」
詳しく話を聞くと、娘のミミカの姿が見当たらず、森へ入っていった可能性が高いという事だった。
「もしゴブリンやコボルトに見つかっていたら……」
村長の顔も青くなった。
「ハンターさん! お願いします! 今すぐゴブリンとコボルトを退治してください! でないとミミカが……ミミカがぁー!!」
母親が涙ながらにハンター達に訴えてくる。
「私からもお願いします! どうか今すぐ退治に行って、この人の娘さんを助けてあげてください!」
村長もハンター達に頭を下げた。
その頃、ミミカはロブを探して森へ入っていた。
「ロブー。ロブー!」
しかも普段は行かない森の奥へまで入ってしまっていた。
そのまま進めばコボルトのテリトリーに入るとも知らずに……。
リプレイ本文
馬やバイクなどで急行したハンター達が森の奥のゴブリンとコボルトが抗争している現場に到着する。
「敵を殲滅、ミミカ嬢を救出する。至極簡単、単純明快で非常によろしい」
月叢 虎刃(ka5897)が機嫌よくバイクから降りる。
「でも、そのミミカさんが見当たらないよ~」
オシェル・ツェーント(ka5906)は見渡せる範囲を探ってみたが、10歳の女の子らしい人影は見つからない。
「化けもんシメるだけの仕事じゃねーのかよ、クソッ!」
一見ヤンキー風な大伴 鈴太郎(ka6016)が悪態をつくが、言葉とは裏腹にその表情は心配そうだ。
「安全な所に隠れていてくれてるといいのですけど……」
同じく心配気な様子のブレナー ローゼンベック(ka4184)も周囲を探してみたが、やはり見つからない。
「でも戦場はここだけじゃないみたいよ。あっちでも戦ってるわ」
八原 篝(ka3104)が指差す遠方で、ゴブリンとコボルトが戦っている様子が小さく見える。
「戦いに巻き込まれていたら厄介だな。ん~……さすがに子供がいるか分からないか」
仙堂 紫苑(ka5953)は目を凝らしてみたが、現場の詳細は分からない。
「僕が偵察してきます。ミミカさんが見つかったらトランシーバーで連絡しますので」
保・はじめ(ka5800)はそう言い残し、馬で駆けてゆく。
「他にも戦場がないか探しましょう。危険な場所から探していけばミミカの生存率は上がるはずよ」
「そうですね」
「うむ」
「早く見っけてやンねーと……」
篝の提案を受けて、ブレナー、虎刃、鈴太郎が森の端々に目を凝らす。
「あ! 見つけました」
ブレナーが森の一点を指差す。
「僕が偵察に出ます。誰かトランシーバーを貸してください」
これまであまり捜索に関わってこなかったカイン・マッコール(ka5336)が重い腰を上げる。
「ほら、持ってけ」
カインは仙堂からトランシーバーを受け取ると馬に跨った。
皆には偵察に出ると言ったが、カインはミミカのいるいないに関わらず敵を殲滅するつもりでいた。
なぜなら彼はゴブリンを殺す事を1番の目的として依頼を受けているからだ。
「コボルト側が劣勢だね。今1人やられたよ」
「数はコボルトが多いみたいだが装備が貧弱すぎる。このままだとゴブリンが勝つだろうな」
主戦場の様子を見ているオシェルと仙堂が戦況予想を話す。
「また1人やられたし、そうなりそうだね」
ふと、たった今コボルトを倒したゴブリンがこちらを向く。
すると運悪く篝と目が合ってしまう。
(しまった!)
篝は慌てて首を引っ込めたが、ゴブリンは別のゴブリンに呼びかけ、2体でこちらに向かってきた。
「ごめんなさい。ゴブリンに見つかったわ」
「構わん。どうせ後々倒す相手だ」
「しゃーねー。一戦やらかすとすっか!」
虎刃は『デリンジャー』を抜き、鈴太郎は『ナックル「セルモクラスィア」』を打ち合わせた。
『保です。ミミカさんを発見しました』
「はいはい、じゃあできるだけ早く向かうね~」
しかし戦闘が始まる前に保から連絡が入り、オシェルが応じる。
「見つかったか」
「じゃあ、救助を優先しましょう」
「でもゴブリンはどうすンだ?」
『皆さんは救助に行って下さい。ゴブリンは僕が相手します』
無線で一連の会話を聞いていたカインが申し出る。
「1人で相手するつもりなの?」
『2体くらい問題ありません』
「……わかったわ。救助したらすぐに戻るから時間稼ぎをお願い」
『了解』
「よし、では行くぞ」
虎刃と仙堂がバイクに跨ってエンジンをかける。
「ほら、篝さん。後ろに乗って」
「ありがとう」
「どうぞ、鈴さん」
「サンキュー」
オシェルは篝を、ブレナーは鈴太郎を自分の馬に乗せて走りだした。
その頃、保はミミカの周囲の様子を探っていた。
ミミカは大きな木の根元で蹲って震えている。
ミミカの2mくらい前で小柄なコボルトがゴブリンと戦っており、更に少し離れた場所でもゴブリンとコボルトが戦っている。
(とにかく距離を詰めよう)
ミミカと戦闘の距離が近いため、保は身を潜めながらミミカを救助しやすい位置までジリジリと近寄ってゆく。
ゴブリンとコボルトの戦闘を注視しながら移動していると、小柄なコボルトは常にミミカを背にして戦っているように見えた。
(どういう事だ?)
不思議に思っている間にもう1体のコボルトが倒されてしまい、ゴブリンがこちらに向かってくる。
小柄なゴブリンも持っていた剣を弾かれ、蹴倒された。
(ゴブリンの気がコボルトに反れている隙にミミカさんを……)
保が動こうとした、その時。ミミカが石を拾ってゴブリンに投げ始めた。
(えっ!?)
「ロブ逃げてー!」
2体のゴブリンの視線がミミカに向く。
「くっ!」
保は慌てて符を抜くと『火炎符』を放った。
『火炎符』を喰らったゴブリンが衝撃で後ろに吹っ飛ぶ。
だがもう1体のゴブリンはミミカに向かって剣を振り上げた。
保は更に符を抜いたが間に合いそうにない。
「ガァ!!」
しかし小柄なコボルトがゴブリンに組み付き、体に牙を喰い込ませた。
ゴブリンは剣を逆手に持ち変え、小柄なコボルトの背に突き立てる。
「ロブーーー!!」
ミミカが悲鳴をあげながら小柄なゴブリンに駆け寄ろうとするが、保が後ろから抱えて止める。
「ミミカさんだね。逃げるよ」
「やだーー!! ロブーー!! ロブーー!!」
ミミカが保から逃れようともがき出す。
その時、魔導エンジン音を響かせながら仙堂がバイクで突っ込んできた。
仙堂はリアをロックさせてカウンターをあてると車体を90度曲げる。
そして車体を横滑りさせながら『デリンジャー』を抜いて発砲。
アクロバティックな銃撃だったため弾は外れたが、ゴブリンの注意は仙堂に向き、小柄なコボルトは驚いて離れた。
「絶対にあの子を救うよマルカヴ!」
そこにブレナーが愛馬のマルカヴを全速で駆け込ませ、馬の背から鈴太郎が跳躍する。
「オラアアァァー!」
跳躍中に『螺旋突』を発動し、ゴブリンの顔面にナックルを叩きこんだ。
ゴブリンの顔面の骨が砕けてナックルがめり込み、一撃で絶命する。
「ミミカ嬢は保護できたようだな。僥倖だ。残った敵はコイツだけか」
虎刃がデリンジャーを抜いて小柄なコボルトに向ける。
「ダメーーー!!」
ミミカは保の手を振り切ると、小柄なコボルトの前に飛び出して両手を広げた。
「やめて!! ロブを殺さないでっ!!」
「む? これは……どういう事だ?」
まったく予期しなかった事態に虎刃は困惑し、保を見た。
「それが、僕にも事情がさっぱりで……」
「ミミカ、あなたとそのコボルトはどういう関係なの?」
「ロブはミミカのお友達よ。ずっとミミカを守ってくれてたの」
篝の問いかけにミミカは当たり前といった顔で答える。
「ダチ? このワン公とダチなのか?」
密かにちょっと羨ましいと思う鈴太郎だった。
「……君は、ミミカさんを守ってくれてたの?」
「グルルル……」
オシェルがロブに尋ねたが、牙を剥いて唸られるだけだった。
「確かにそのコボルトはミミカさんを守るように戦っていました」
戸惑っている一同に保が補足をいれる。
「なんと……彼は君の勇敢な騎士なのだな」
虎刃は感嘆の声を漏らし、銃を仕舞う。
するとロブはミミカを虎刃の方に軽く押し、身を翻した。
「え?」
「なに!」
虎刃は咄嗟にミミカを抱きとめる。
ロブは落ちていた剣を拾って走りだす。
「待て!」
「止めて!」
仙堂は銃をロブに向けたが、ミミカの声で引き金を引けない。
その間にロブの姿は草むらに消えた。
「逃げたのかしら?」
「いや、アイツ仲間助けに行ったンじゃねーか? あっちはコボルトが戦ってる方だろ」
鈴太郎が指差す先は自分達がやってきた方角だ。
「確かに逃げるだけなら剣はいりませんし、ミミカさんを置いていったのは、僕達と一緒なら安全だと思ったのかもしれませんね」
保が納得顔で言う。
「お兄ちゃん達、ロブを助けて!」
ミミカが泣き出しそうな顔でお願いしてくる。
「みんなどうする?」
オシェルが代表して皆に尋ねる。
「ボクは助けてあげたいです」
「オレもだ。体張ってミミカ護ってたヤツをシメるってのはおかしーだろ」
「依頼主にとってはミミカの保護が最優先で、ゴブリンとコボルトの殲滅はついでな感じだったし、いいんじゃないか」
「そうですね。『異種族を』いつか仇為す『かもしれない』から排除するというのは、僕的には抵抗ありますし」
「小生も異論ない」
「……」
ブレナー、鈴太郎、仙堂、保、虎刃は賛成したが、篝は難色を示している。
今後コボルトが村の脅威となる可能性はあり、その時にはロブも含めて排除しなければならないからだ。
「私は先にミミカを村まで送り届けておくわ」
だから篝はそう申し出た。
「ミミカ、ロブの所に行きたい」
「ミミカ、よく聞いて。ロブと、ロブの仲間達を死なせたくないのなら、あなたは村の皆を説得しなければいけない」
「ミミカが?」
「そうよ。あなたにしかできないの」
「うん、分かった」
ミミカはすぐに頷いたが、深く考えての返事とは思えない。
「ミミカさんを手伝ってあげたいので、ボクも一緒にマルカヴで送ります」
「頼むわ」
篝はブレナーの申し出をありがたく受けた。
「話は纏まったね。じゃ、カインさんに伝えるよ」
オシェルはトランシーバーを手にとった。
頼まれたのは時間稼ぎだが、カインは殲滅するつもりでいた。
戦馬を全力で駆けさせ、走っているゴブリンを後ろから強襲。
チャージで1体を跳ね飛ばしてから蹄で踏み潰して轢死させ、馬上で【渾身撃】を発動すると、飛び降りざまにもう1体を袈裟斬りにする。
「大方、コボルトの縄張りを拠点にして村を襲撃するつもりだったんだろうが、その前にお前達を根絶やしにさせてもらう」
2体片付けたカインは馬を呼び戻して跨ると、コボルトと抗争を続けているゴブリンに標的を定めた。
『カインさーん。コボルトはミミカさんの友達らしいから殺さないようにね~』
(コボルトが友達?)
オシェルからの無線を聞いてカインが訝しむ。
「ゴブリンは?」
『やっちゃって構わないよ』
「了解」
どんな事態になっているのか知らないが、それだけ分かれば十分だった。
一方、主戦場に向かっていた5人は途中で4体のゴブリンを発見していた。
「別の所でコボルトを倒してきた帰りかな?」
「じゃあ、そのコボルト達は……」
「全滅だろう」
「チッ! まずはこいつらヤッちまおーぜ!」
「おぅ!」
仙堂はバイクを吹かしてゴブリン達の前に出ると進路を塞いだ。
「仲間の所に戻る必要はないぜ。お前ら全員地獄で会えるんだからな」
仙堂は残忍な笑みを浮かべるとデリンジャーでゴブリンの腿を撃ち抜く。
ゴブリンが片膝をつくと、頭にも1発撃ち込んでトドメを刺した。
オシェルは符を抜くとゴブリンに向かって投げ放ち、『瑞鳥符』を発動。
虎刃に向かって剣を振り上げたゴブリンの前に光輝く鳥が現れて翼を広げる。
ゴブリンの振り下ろした剣は光の鳥に当たり、光の鳥は剣の威力を相殺して霧散した。
虎刃は威力の鈍った剣を容易く避けてゴブリンの懐に入り込むと『柔能制剛』を発動。
「フンッ!」
鳩尾に掌底を突き入れてゴブリンの体をくの字に曲げると腕を取り、そのまま背負投げで地面に叩きつける。
更に倒れたゴブリンの首を踏み抜いて、完全に息の根を止めた。
保は自分を狙ってきたゴブリンに『桜幕符』を発動。
するとゴブリンの視界が桜吹雪の幻覚に覆われ、保を見失ってしまう。
ゴブリンは当てずっぽうに剣を振り回すが、もちろん当たらない。
「そんな所に僕はいませんよ」
保は更に2枚の符を抜くと『コンボカード』と『火炎符』を発動。
ゴブリンの視界が晴れると眼前には灼熱の炎があり、それがゴブリンの目にした最後の光景となった。
「いくぞオラァー!」
鈴太郎は剣を構えているゴブリンに真っ直ぐ突っ込んでいった。
当然ゴブリンは鈴太郎の動きに合わせて剣を振り下ろしてくる。
鈴太郎は『金剛』を発動すると腕で剣を薙ぎ払った。
衝撃で腕は痺れたが痛みはない。
「もらったぁー!!」
鈴太郎は剣を払われて体勢を崩しているゴブリンの顔面に拳を叩き込んだ。
ゴブリンの顔がひしゃげ、衝撃で体が左に流れる。
「もう一発ーッ!!」
鈴太郎はゴブリンが倒れきる前に左拳を下から掬い上げるように放つ。
左拳は顎にヒットし、衝撃でゴブリンの足が地面を離れて宙を舞う。
そして仰向けに倒れたゴブリンが起き上がる事は二度となかった。
5人が主戦場に戻ると、他のゴブリンは既にカインに殲滅されていた。
生き残りのコボルトは樹上にいた3体とロブだけだ。
「後の処理はお任せします。僕はゴブリンを殺しに来ただけですので、痩せたコボルトに興味はない」
カインにそう言われたが、後はミミカの説得次第だ。
「ロブ! 何があってもダチ裏切るようなダセー真似だけはすンなよな?」
やがて仲間と去り始めたロブに鈴太郎はそう告げた。
ミミカを村に送リ届けると、母親が真っ先に抱きしめた。
「ミミカ良く無事で……」
「ハンターさん、ありがとうございます」
村長にも感謝されたが、問題はこれからだ。
「ミミカね。コボルトさんと友達になったの。だからみんなもコボルトさんと仲良くして欲しいの」
「……え?」
ミミカの説得が始まったが、その言葉はたどたどしく、村長も村人も渋い表情だ。
「ミミカ、コボルトは危ない生き物なのよ」
「そんな事ないもん。友達だもん!」
「ボクは以前、人語を操るゴブリンに出会いました」
話が平行線になりかけたため、ブレナーが口を挟む。
「亜人は確かに人とは種族が違いますが、彼らには彼らなりの価値観があって感情がありました。だから言葉が通じずともその溝は時として埋める事が出来ると思うのです。亜人によってこれまで齎された被害は沢山あるかもしれませんし、これからそれが起こらないとも限りません。でも、ミミカさんは彼と友達になりたがっています。凄く難しい事ですし、全てを受け入れて欲しいという訳ではありません。ただ、彼らも縄張り争いで酷く疲弊しています。だからせめて、このままそっとしておいて頂けませんか?」
「……ゴブリン退治の方は?」
「それは間違いなく行うわ。コボルトが害を成した時には改めて退治もします」
「……分かりました。しばらく様子をみましょう」
篝の返事を聞き、村長は渋々承諾した。
しかし翌日以降、コボルトは森からいなくなっていた。
ミミカがロブと会っていた場所に行くと、何故かどんぐりが山積みになっており、いくら待ってもロブは来なかった。
ロブがミミカに友情を感じていたかは分からない。
だが、ミミカは友情を感じており、ロブは命がけでミミカを守っていた。
それは間違いない事実だ。
「敵を殲滅、ミミカ嬢を救出する。至極簡単、単純明快で非常によろしい」
月叢 虎刃(ka5897)が機嫌よくバイクから降りる。
「でも、そのミミカさんが見当たらないよ~」
オシェル・ツェーント(ka5906)は見渡せる範囲を探ってみたが、10歳の女の子らしい人影は見つからない。
「化けもんシメるだけの仕事じゃねーのかよ、クソッ!」
一見ヤンキー風な大伴 鈴太郎(ka6016)が悪態をつくが、言葉とは裏腹にその表情は心配そうだ。
「安全な所に隠れていてくれてるといいのですけど……」
同じく心配気な様子のブレナー ローゼンベック(ka4184)も周囲を探してみたが、やはり見つからない。
「でも戦場はここだけじゃないみたいよ。あっちでも戦ってるわ」
八原 篝(ka3104)が指差す遠方で、ゴブリンとコボルトが戦っている様子が小さく見える。
「戦いに巻き込まれていたら厄介だな。ん~……さすがに子供がいるか分からないか」
仙堂 紫苑(ka5953)は目を凝らしてみたが、現場の詳細は分からない。
「僕が偵察してきます。ミミカさんが見つかったらトランシーバーで連絡しますので」
保・はじめ(ka5800)はそう言い残し、馬で駆けてゆく。
「他にも戦場がないか探しましょう。危険な場所から探していけばミミカの生存率は上がるはずよ」
「そうですね」
「うむ」
「早く見っけてやンねーと……」
篝の提案を受けて、ブレナー、虎刃、鈴太郎が森の端々に目を凝らす。
「あ! 見つけました」
ブレナーが森の一点を指差す。
「僕が偵察に出ます。誰かトランシーバーを貸してください」
これまであまり捜索に関わってこなかったカイン・マッコール(ka5336)が重い腰を上げる。
「ほら、持ってけ」
カインは仙堂からトランシーバーを受け取ると馬に跨った。
皆には偵察に出ると言ったが、カインはミミカのいるいないに関わらず敵を殲滅するつもりでいた。
なぜなら彼はゴブリンを殺す事を1番の目的として依頼を受けているからだ。
「コボルト側が劣勢だね。今1人やられたよ」
「数はコボルトが多いみたいだが装備が貧弱すぎる。このままだとゴブリンが勝つだろうな」
主戦場の様子を見ているオシェルと仙堂が戦況予想を話す。
「また1人やられたし、そうなりそうだね」
ふと、たった今コボルトを倒したゴブリンがこちらを向く。
すると運悪く篝と目が合ってしまう。
(しまった!)
篝は慌てて首を引っ込めたが、ゴブリンは別のゴブリンに呼びかけ、2体でこちらに向かってきた。
「ごめんなさい。ゴブリンに見つかったわ」
「構わん。どうせ後々倒す相手だ」
「しゃーねー。一戦やらかすとすっか!」
虎刃は『デリンジャー』を抜き、鈴太郎は『ナックル「セルモクラスィア」』を打ち合わせた。
『保です。ミミカさんを発見しました』
「はいはい、じゃあできるだけ早く向かうね~」
しかし戦闘が始まる前に保から連絡が入り、オシェルが応じる。
「見つかったか」
「じゃあ、救助を優先しましょう」
「でもゴブリンはどうすンだ?」
『皆さんは救助に行って下さい。ゴブリンは僕が相手します』
無線で一連の会話を聞いていたカインが申し出る。
「1人で相手するつもりなの?」
『2体くらい問題ありません』
「……わかったわ。救助したらすぐに戻るから時間稼ぎをお願い」
『了解』
「よし、では行くぞ」
虎刃と仙堂がバイクに跨ってエンジンをかける。
「ほら、篝さん。後ろに乗って」
「ありがとう」
「どうぞ、鈴さん」
「サンキュー」
オシェルは篝を、ブレナーは鈴太郎を自分の馬に乗せて走りだした。
その頃、保はミミカの周囲の様子を探っていた。
ミミカは大きな木の根元で蹲って震えている。
ミミカの2mくらい前で小柄なコボルトがゴブリンと戦っており、更に少し離れた場所でもゴブリンとコボルトが戦っている。
(とにかく距離を詰めよう)
ミミカと戦闘の距離が近いため、保は身を潜めながらミミカを救助しやすい位置までジリジリと近寄ってゆく。
ゴブリンとコボルトの戦闘を注視しながら移動していると、小柄なコボルトは常にミミカを背にして戦っているように見えた。
(どういう事だ?)
不思議に思っている間にもう1体のコボルトが倒されてしまい、ゴブリンがこちらに向かってくる。
小柄なゴブリンも持っていた剣を弾かれ、蹴倒された。
(ゴブリンの気がコボルトに反れている隙にミミカさんを……)
保が動こうとした、その時。ミミカが石を拾ってゴブリンに投げ始めた。
(えっ!?)
「ロブ逃げてー!」
2体のゴブリンの視線がミミカに向く。
「くっ!」
保は慌てて符を抜くと『火炎符』を放った。
『火炎符』を喰らったゴブリンが衝撃で後ろに吹っ飛ぶ。
だがもう1体のゴブリンはミミカに向かって剣を振り上げた。
保は更に符を抜いたが間に合いそうにない。
「ガァ!!」
しかし小柄なコボルトがゴブリンに組み付き、体に牙を喰い込ませた。
ゴブリンは剣を逆手に持ち変え、小柄なコボルトの背に突き立てる。
「ロブーーー!!」
ミミカが悲鳴をあげながら小柄なゴブリンに駆け寄ろうとするが、保が後ろから抱えて止める。
「ミミカさんだね。逃げるよ」
「やだーー!! ロブーー!! ロブーー!!」
ミミカが保から逃れようともがき出す。
その時、魔導エンジン音を響かせながら仙堂がバイクで突っ込んできた。
仙堂はリアをロックさせてカウンターをあてると車体を90度曲げる。
そして車体を横滑りさせながら『デリンジャー』を抜いて発砲。
アクロバティックな銃撃だったため弾は外れたが、ゴブリンの注意は仙堂に向き、小柄なコボルトは驚いて離れた。
「絶対にあの子を救うよマルカヴ!」
そこにブレナーが愛馬のマルカヴを全速で駆け込ませ、馬の背から鈴太郎が跳躍する。
「オラアアァァー!」
跳躍中に『螺旋突』を発動し、ゴブリンの顔面にナックルを叩きこんだ。
ゴブリンの顔面の骨が砕けてナックルがめり込み、一撃で絶命する。
「ミミカ嬢は保護できたようだな。僥倖だ。残った敵はコイツだけか」
虎刃がデリンジャーを抜いて小柄なコボルトに向ける。
「ダメーーー!!」
ミミカは保の手を振り切ると、小柄なコボルトの前に飛び出して両手を広げた。
「やめて!! ロブを殺さないでっ!!」
「む? これは……どういう事だ?」
まったく予期しなかった事態に虎刃は困惑し、保を見た。
「それが、僕にも事情がさっぱりで……」
「ミミカ、あなたとそのコボルトはどういう関係なの?」
「ロブはミミカのお友達よ。ずっとミミカを守ってくれてたの」
篝の問いかけにミミカは当たり前といった顔で答える。
「ダチ? このワン公とダチなのか?」
密かにちょっと羨ましいと思う鈴太郎だった。
「……君は、ミミカさんを守ってくれてたの?」
「グルルル……」
オシェルがロブに尋ねたが、牙を剥いて唸られるだけだった。
「確かにそのコボルトはミミカさんを守るように戦っていました」
戸惑っている一同に保が補足をいれる。
「なんと……彼は君の勇敢な騎士なのだな」
虎刃は感嘆の声を漏らし、銃を仕舞う。
するとロブはミミカを虎刃の方に軽く押し、身を翻した。
「え?」
「なに!」
虎刃は咄嗟にミミカを抱きとめる。
ロブは落ちていた剣を拾って走りだす。
「待て!」
「止めて!」
仙堂は銃をロブに向けたが、ミミカの声で引き金を引けない。
その間にロブの姿は草むらに消えた。
「逃げたのかしら?」
「いや、アイツ仲間助けに行ったンじゃねーか? あっちはコボルトが戦ってる方だろ」
鈴太郎が指差す先は自分達がやってきた方角だ。
「確かに逃げるだけなら剣はいりませんし、ミミカさんを置いていったのは、僕達と一緒なら安全だと思ったのかもしれませんね」
保が納得顔で言う。
「お兄ちゃん達、ロブを助けて!」
ミミカが泣き出しそうな顔でお願いしてくる。
「みんなどうする?」
オシェルが代表して皆に尋ねる。
「ボクは助けてあげたいです」
「オレもだ。体張ってミミカ護ってたヤツをシメるってのはおかしーだろ」
「依頼主にとってはミミカの保護が最優先で、ゴブリンとコボルトの殲滅はついでな感じだったし、いいんじゃないか」
「そうですね。『異種族を』いつか仇為す『かもしれない』から排除するというのは、僕的には抵抗ありますし」
「小生も異論ない」
「……」
ブレナー、鈴太郎、仙堂、保、虎刃は賛成したが、篝は難色を示している。
今後コボルトが村の脅威となる可能性はあり、その時にはロブも含めて排除しなければならないからだ。
「私は先にミミカを村まで送り届けておくわ」
だから篝はそう申し出た。
「ミミカ、ロブの所に行きたい」
「ミミカ、よく聞いて。ロブと、ロブの仲間達を死なせたくないのなら、あなたは村の皆を説得しなければいけない」
「ミミカが?」
「そうよ。あなたにしかできないの」
「うん、分かった」
ミミカはすぐに頷いたが、深く考えての返事とは思えない。
「ミミカさんを手伝ってあげたいので、ボクも一緒にマルカヴで送ります」
「頼むわ」
篝はブレナーの申し出をありがたく受けた。
「話は纏まったね。じゃ、カインさんに伝えるよ」
オシェルはトランシーバーを手にとった。
頼まれたのは時間稼ぎだが、カインは殲滅するつもりでいた。
戦馬を全力で駆けさせ、走っているゴブリンを後ろから強襲。
チャージで1体を跳ね飛ばしてから蹄で踏み潰して轢死させ、馬上で【渾身撃】を発動すると、飛び降りざまにもう1体を袈裟斬りにする。
「大方、コボルトの縄張りを拠点にして村を襲撃するつもりだったんだろうが、その前にお前達を根絶やしにさせてもらう」
2体片付けたカインは馬を呼び戻して跨ると、コボルトと抗争を続けているゴブリンに標的を定めた。
『カインさーん。コボルトはミミカさんの友達らしいから殺さないようにね~』
(コボルトが友達?)
オシェルからの無線を聞いてカインが訝しむ。
「ゴブリンは?」
『やっちゃって構わないよ』
「了解」
どんな事態になっているのか知らないが、それだけ分かれば十分だった。
一方、主戦場に向かっていた5人は途中で4体のゴブリンを発見していた。
「別の所でコボルトを倒してきた帰りかな?」
「じゃあ、そのコボルト達は……」
「全滅だろう」
「チッ! まずはこいつらヤッちまおーぜ!」
「おぅ!」
仙堂はバイクを吹かしてゴブリン達の前に出ると進路を塞いだ。
「仲間の所に戻る必要はないぜ。お前ら全員地獄で会えるんだからな」
仙堂は残忍な笑みを浮かべるとデリンジャーでゴブリンの腿を撃ち抜く。
ゴブリンが片膝をつくと、頭にも1発撃ち込んでトドメを刺した。
オシェルは符を抜くとゴブリンに向かって投げ放ち、『瑞鳥符』を発動。
虎刃に向かって剣を振り上げたゴブリンの前に光輝く鳥が現れて翼を広げる。
ゴブリンの振り下ろした剣は光の鳥に当たり、光の鳥は剣の威力を相殺して霧散した。
虎刃は威力の鈍った剣を容易く避けてゴブリンの懐に入り込むと『柔能制剛』を発動。
「フンッ!」
鳩尾に掌底を突き入れてゴブリンの体をくの字に曲げると腕を取り、そのまま背負投げで地面に叩きつける。
更に倒れたゴブリンの首を踏み抜いて、完全に息の根を止めた。
保は自分を狙ってきたゴブリンに『桜幕符』を発動。
するとゴブリンの視界が桜吹雪の幻覚に覆われ、保を見失ってしまう。
ゴブリンは当てずっぽうに剣を振り回すが、もちろん当たらない。
「そんな所に僕はいませんよ」
保は更に2枚の符を抜くと『コンボカード』と『火炎符』を発動。
ゴブリンの視界が晴れると眼前には灼熱の炎があり、それがゴブリンの目にした最後の光景となった。
「いくぞオラァー!」
鈴太郎は剣を構えているゴブリンに真っ直ぐ突っ込んでいった。
当然ゴブリンは鈴太郎の動きに合わせて剣を振り下ろしてくる。
鈴太郎は『金剛』を発動すると腕で剣を薙ぎ払った。
衝撃で腕は痺れたが痛みはない。
「もらったぁー!!」
鈴太郎は剣を払われて体勢を崩しているゴブリンの顔面に拳を叩き込んだ。
ゴブリンの顔がひしゃげ、衝撃で体が左に流れる。
「もう一発ーッ!!」
鈴太郎はゴブリンが倒れきる前に左拳を下から掬い上げるように放つ。
左拳は顎にヒットし、衝撃でゴブリンの足が地面を離れて宙を舞う。
そして仰向けに倒れたゴブリンが起き上がる事は二度となかった。
5人が主戦場に戻ると、他のゴブリンは既にカインに殲滅されていた。
生き残りのコボルトは樹上にいた3体とロブだけだ。
「後の処理はお任せします。僕はゴブリンを殺しに来ただけですので、痩せたコボルトに興味はない」
カインにそう言われたが、後はミミカの説得次第だ。
「ロブ! 何があってもダチ裏切るようなダセー真似だけはすンなよな?」
やがて仲間と去り始めたロブに鈴太郎はそう告げた。
ミミカを村に送リ届けると、母親が真っ先に抱きしめた。
「ミミカ良く無事で……」
「ハンターさん、ありがとうございます」
村長にも感謝されたが、問題はこれからだ。
「ミミカね。コボルトさんと友達になったの。だからみんなもコボルトさんと仲良くして欲しいの」
「……え?」
ミミカの説得が始まったが、その言葉はたどたどしく、村長も村人も渋い表情だ。
「ミミカ、コボルトは危ない生き物なのよ」
「そんな事ないもん。友達だもん!」
「ボクは以前、人語を操るゴブリンに出会いました」
話が平行線になりかけたため、ブレナーが口を挟む。
「亜人は確かに人とは種族が違いますが、彼らには彼らなりの価値観があって感情がありました。だから言葉が通じずともその溝は時として埋める事が出来ると思うのです。亜人によってこれまで齎された被害は沢山あるかもしれませんし、これからそれが起こらないとも限りません。でも、ミミカさんは彼と友達になりたがっています。凄く難しい事ですし、全てを受け入れて欲しいという訳ではありません。ただ、彼らも縄張り争いで酷く疲弊しています。だからせめて、このままそっとしておいて頂けませんか?」
「……ゴブリン退治の方は?」
「それは間違いなく行うわ。コボルトが害を成した時には改めて退治もします」
「……分かりました。しばらく様子をみましょう」
篝の返事を聞き、村長は渋々承諾した。
しかし翌日以降、コボルトは森からいなくなっていた。
ミミカがロブと会っていた場所に行くと、何故かどんぐりが山積みになっており、いくら待ってもロブは来なかった。
ロブがミミカに友情を感じていたかは分からない。
だが、ミミカは友情を感じており、ロブは命がけでミミカを守っていた。
それは間違いない事実だ。
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相談卓 カイン・A・A・カーナボン(ka5336) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2016/01/15 05:25:33 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/01/11 13:06:10 |