死ねない理由

マスター:水貴透子

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/08/13 19:00
完成日
2014/08/21 22:48

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


冷たい雨が降り注ぐ。
身体を滴る液体が血なのか、それとも雨なのかさえ判別できずにいた。

このまま、俺は死ぬんだろうか。

ぼやける視界の中、どんよりとした灰色の空を見上げながら心の中で呟く。

「……死って、意外と身近にあるんだな」

ハンターとして活動を始めてから、ここまでの深手を負った事はなかった。
だから、俺は気づけなかったんだ。

自分が死と隣り合わせの場所に立っているんだって、事に――……。

一緒に来たハンター達は、もう逃げ帰っているだろう。
殺意を振りまく雑魔の気配以外、何も感じる事はないから。

「死にたく、ないなぁ……」

自分が死ぬ事などありえない、そう思っていた過去の自分を殴り飛ばしたい。

「……別れくらい、済ませておけばよかった」

頭の中を過るのは、昔からの友人、ハンターになってからの友人――……。
そして、生涯守りたいと願った女性の姿。

ハンターとして雑魔と戦い、自分は特別だと思っていた。
けど、今は『普通』が恋しい。
友人と馬鹿を言い合って、好きな女と一緒にいて、ただ平凡な毎日を過ごす。
俺が選ばなかった日常を持つ者が、酷く羨ましく思えた。

「……誰か、助けて」

雨に打たれ、頬に熱いものが流れる。
誰かを守る側でありながら、助けを乞う姿が酷く滑稽で惨めに思えた。

けど、今の俺はなりふりなんて構っていられない。
生きて戻る、そのためだったらどんな醜態だって晒してやる。

ずしん、と地面を通して伝わってくる振動。
振動は近づいてきて、俺は地面を這いつくばりながら、少しでも『奴』から逃げるため動き出した。

リプレイ本文

●任務のために集まったハンター達

「……先行しているハンターの様子が気に掛かりますわね。大怪我などしていなければ宜しいのですけど……」
 日下 菜摘(ka0881)は案内人から与えられた資料を見ながら、ため息混じりに呟く。
「第一陣のハンター達は、何をミスったんでしょうね? 単に力不足なら、駆け出しの自分もヤバそうっすけど……」
 テリー・ヴェランダル(ka0911)は、とんとん、とつま先で地面を蹴りながら言う。
「まあ、どうミスったにせよ、こんな天気の日に死んでいい事にはならないはずっす!」
 テリーは大きく息を吐き、いつでも出発出来るように、準備を整えていた。
「全くヘマしやがって……と言いたいが、ハンターをやる以上、明日は我が身ってね。放っておくのも寝覚めが悪いし、迎えに行ってやるか」
 影護 絶(ka1077)はぶっきらぼうに呟いたけど、彼なりに現地に残っているハンターの心配をしているようだ。
「そうだよね、同じハンターとして放っておけないよ……! 私だって、一歩間違えば同じ事になるかもしれないんだし……うぅ、ぶるぶる」
 リンカ・エルネージュ(ka1840)も。影護と同じく、明日は我が身と思っているらしく、身体を震わせながら呟いている。
「理由は何であれ、人には生き続けていく意味がある。命の灯が消えていないのなら、手遅れになる前に、また灯すだけよ」
 ミスティカ(ka2227)は淡々とした口調で呟く。その瞳には行方不明になっているハンターを助ける、という強い意志が感じ取られた。
「人命救助ねぇ? 俺は人命救助とか興味ねェけど、俺と違って戦って死ぬ事を望まねェ奴らが、死を目の当たりにした時、如何すんのか、ちょっと気になるな」
 シャガ=VII(ka2292)は不敵な笑みを浮かべる。
「まぁ、俺と違う人種なのかどうかは、本人達に会うまで分かんねェけどな?」
「……ふむ、3mの巨人風雑魔かえ? 腕が鳴るのじゃ」
 切金 凪(ka2321)は紫の髪をなびかせながら、にっこりと微笑む。
「今回の依頼は雑魔退治と、ハンターの救助……大変そうだけど、2つとも解決しないとね」
 氷坂 湊(ka2737)は小さなため息とともに言葉を漏らす。
「ここでこうしていても始まりませんね、2つの目的を果たすためにも出発しましょう」
 日下の言葉にハンター達は頷き、雑魔退治&ハンター救助という2つの任務のために行動を開始し始めたのだった。

●雑魔と救助対象を求めて……

 ハンター達は効率よく救助対象を見つけるため、班を2つに分ける作戦を立てていた。
 1班・日下、テリー、ミスティカ、シャガの4名。
 2班・影護、リンカ、切金、氷坂の4名。
 どちらの班も雑魔、救助対象、どちらに遭遇しても良いようにバランス良く考えられた編成だった。
「ここに来る前に、逃走したハンター達に話を聞いていたぞえ。大体の交戦場所は聞いておいたから、地図に記しておいたのじゃ」
 同じ場所にいるとは限らないが、それでも闇雲に探すよりもある程度の目安にはなるだろう。
「何かあったら、お互いに連絡取るっつーことで? いっちょ行きますかねェ」
 シャガは大きく伸びをしながら呟き、ハンター達はそれぞれの班に分かれて行動を開始した。

※1班
「期待はしてねェけど、一応な」
 シャガは連れて来た柴犬の頭を撫でながら呟く。
 もしかしたら、犬の嗅覚で何か分かるかもしれない、と彼は連れて来たのだろう。
「自分も連れて来たっすよ、巨人の方だけでも察知してくれるといいんですけどねー」
 テリーも連れて来た柴犬の頭を撫でながら、苦笑気味に呟く。
「随分と激しい雨が降っているわね、地面の足跡や血痕を流していないといいんだけど」
 ミスティカは少しでも手がかりになるものを探すため、地面をしっかりと見ている。
「あら、これは……?」
 日下が木に触れながら、首を傾げる。
「何かあったのか?」
 ぴたり、と歩みを止めた日下にシャガが近寄って、彼女が触れている木を見つめる。
 そこには不自然な傷跡が残されており、明らかに争った後のように見える。
「この傷つけたのって、ハンターっすよね? 雑魔は3m、この位置に傷をつけるなら、中腰になんなきゃ無理っすよ……まあ、雑魔が中腰しないとも限りませんけどね」
 木に残された傷跡を見ながら、テリーが冷静に分析を行っていく。
「ねえ、こっちに不自然な跡を見つけたんだけど……これ、あなた達はどう見るかしら」
 ミスティカに呼ばれ、日下、シャガ、テリーは彼女の側に向かう。
 すると、確かに彼女が言うように不自然な跡が残されている。
 雨で薄れてしまっているけど、何かを引きずったような痕跡が残っていた。
「んー、でもこれ引きずったっていうには妙じゃないっすか? 何かを引きずった割には、前方、後方、どっちにも足跡が残されてないっす」
「…確かにそうだな、引きずったような跡の中に足を踏ん張ったみたいな……そんな感じの痕跡は残ってるけど、足跡そのものが残されてない」
 シャガは自分達が歩いてきた方向を見ながら呟く。彼が見た方向には4名分の足跡が残されている。
「もしかしたら、這いつくばった跡じゃないでしょうか? ここ、手で地面を掴んだ跡だと思うんですけど……」
 日下が指差した場所には、確かに5つの穴が開いていて、形的に手で地面を掴んだ跡に間違いはなかった。
「……けど、どうして這いつくばって逃げる必要があったのかしら」
 ミスティカは口元に手を当てながら、考え込むように呟く。
「答えは簡単じゃん。追っかけてくる『何か』がいたからだろ?」
 シャガが呟いた時、少し離れた所から激しい音が聞こえてくる。
 それと同時に2班の影護から、救助対象と雑魔を発見した、という連絡も入った――……。

※2班
 時を少し戻し、まだ2班が救助対象と雑魔を発見していない頃まで巻き戻す。
「さすがに雨で視界が悪いな、残された痕跡とか見逃してしまいそうだな」
 影護が苦笑気味に呟く。
 雨はどんどん勢いを増しており、地面を叩きつけるような激しさを持っている。
「これだけ雨が酷いと、金さんの嗅覚も役に立たないかもしれないね……」
 ゴールデンレトリバーの金さんの頭を撫でながら、リンカがため息混じりに呟く。
「……それに、天気のせいなのか元々なのか、薄暗くて……ちょっと怖いね」
 早くハンターさんを探してあげないと、と言葉を付け足しながらリンカは気持ちが沈まないよう、明るい声で同じ班のハンター達に声を掛けていた。
「……ハンターさん、どこにいるのかな……」
 氷坂は周りを見渡しながら警戒を続ける。
「やれやれ、滑らぬように『サブマリンシューズ』を履いてきたが、降り続く雨で地面がぬかるんでおるゆえ、滑らぬよう気をつけねばなるまいの」
「……1班からの連絡は、まだない……か」
 影護は持ってきた『トランシーバー』を見ながら、ため息を吐く。
「雑魔からは逃げられたとしても、この雨では体温を奪われるからな……早く見つけた方が良いっていう状況に変わりはなさそうだ」
 影護は少し焦ったような表情を見せながら、周りを見渡す。
「……みなさん、あれ……」
 さぁっ、と顔色を青ざめさせながら氷坂が呟く。
 彼の視線の先には、どすん、どすん、と足音を響かせながら歩く姿を見つけた。
 そして、氷坂が青ざめていた理由、それは――…。
「あれ、救助対象のハンターさんなんじゃ……」
 リンカが呟き、影護は『トランシーバー』で1班に状況を伝えた後、雑魔とハンターの間に割り入るため、地面を蹴った。

●合流、戦闘開始

「ウォーターシュート!」
 追われているハンターから気を逸らすため、リンカがスキルを使用して攻撃を行う。
「えーい! ウォーターシュート連射ぁっ!」
 ずしん、と激しい雨の中でも聞こえる足音を響かせながら、雑魔のターゲットが救助対象から、討伐に来たハンター達へと移る。
「もうすぐ1班も来る、合流するまで深追いはするな!」
 影護が2班の仲間達に言葉を投げかける。どんな事情があったにせよ、1度はハンターを退けるほどの雑魔、油断をすれば彼らの二の舞になりかねないと考えたからだ。
「ハンターさん、大丈夫? 自分達が助けに来たからね」
 氷坂が怪我をしたハンターに駆け寄り『ヒール』を連続で使用する。
「出血は多いけど、何とか大丈夫だよ……あとは、あれさえ倒せば……自分達も、ハンターさんも、無事に帰る事が出来る」
 氷坂が言葉を投げかけると、ハンターはボロボロと涙を零しながら「……助けに来てくれて、ありがとう」と何度もお礼の言葉を述べてきた。
「安心するのは早いぞ、無事に帰るためにも我らはあの雑魔を倒さねばならんのじゃからな」
 切金の言葉に、ハンターもゆっくりと頷く。
「しかし、お主は怪我をしておる。あの雑魔は我らに任せれば良い」
 切金が呟いた時、別行動を取っていた1班が合流してくる。
「私はハンターさんの方に行きます、全員ではないですが『プロテクション』で防御力を上昇させておきますね」
 日下は『プロテクション』を使用して、影護、シャガ、切金の3名の防御力を上昇させた。
「そろそろ雨に打たれるのも飽きてきたころじゃ、とっととしまいにさせてもらうぞえ」
 切金は『踏込』を使用した後に、雑魔へと向かって駆け出し『強打』を繰り出す。
「大きさは違っても、所詮は人型……弱点的なもんは俺らと変わらねェだろ?」
 シャガは不敵に微笑みながら『グラディウス』を構え、雑魔のひざ裏を攻撃する。
 大きいということは、それなりに重さもあるということ。
 足を潰せば機動力を削ぐだけではなく、雑魔をサンドバッグにする事だって無理じゃない。
「おっと、そっちにはでけェ水たまりがあるぜ?」
 シャガは口の端を持ち上げて笑み、雑魔は足を滑らせ、そのまま転んでしまう。
「あらあら、起き上がっている時はそれなりに迫力があったけど……転んでいる姿は、普通の雑魔よりもお間抜けね」
 ミスティカは『ランアウト』を使用した後『スラッシュエッジ』で攻撃を行う。
 雑魔が起き上がろうとするのを阻むように、日下が『ホーリーライト』を繰り出す。彼女の攻撃は、雑魔の顔に命中して、雑魔は呻きながら、再び地面へと舞い戻る。
「悪いけど、その目、潰させてもらうっすよ」
 テリーは『オートマチックピストル』を構え、ガゥン、と銃声を響かせる。
 彼女の放った弾丸は雑魔の片目を奪い、森中に響くような奇声に、ハンター達は耳を塞いだ。
「さぁて、トドメを――……っとぉ!」
 影護が攻撃を仕掛けようとした時、雑魔は暴れるように手足をばたつかせる。
「いったぁいっ!」
 リンカが飛んできた石で頭を打ち、泣きそうな声をあげる。
「女の子の頭に石をぶつけるなんて、許さないんだからっ!」
 リンカは『集中』を使用して、魔法攻撃の威力を高めた後、近距離からの『ファイアアロー』をお見舞いする。
「そろそろ、終わりだ――……っ!」
 影護は『ランアウト』を使用した後に『スラッシュエッジ』で強力な一撃を繰り出す。
 そして、影護が動き始めた時、ミスティカも彼の動きに合わせるように同じく『スラッシュエッジ』を使用して、雑魔へと攻撃を行う。
 そして、切金とシャガが追撃を行い、今回のハンター達は無事に任務条件を達成したのだった。

●戦いが終わり……

「……今回は、俺達が不甲斐ないせいで迷惑を掛けて申し訳なかった」
 雑魔を倒した後、治療を終えたハンターが今回集まったハンター達に頭を下げた。
「よォ、あんたさ、死を間近に感じた時……何を思った?」
 シャガが興味半分でハンターに問い掛ける。
「運命だとか言って受け入れるか? 死にたくねェってガキみてェに泣き喚くか? ……まぁ、俺ならどっちもゴメンだね……大事なモン1つ護れずこんなトコで無様に逝くなら、ヒト辞めてでも立ち向かう」
 戦うの諦めちまったら、何も救えねェんだよ――……とシャガは言葉を付け足す。
「死ぬほど辛い目に遭って、平穏な日々が恋しくなったかしら。けど、この先どう生きようと、悔いのない人生を送りなさい」
 ミスティカは優しくハンターの言葉を投げかける。突き放しているのではなく、心から心配しているからこそ、投げかけた言葉なのだろう。
「ぎりぎりでしたけど、間に合って本当に良かったですわ。きっと貴方の帰りを待つ人も喜んでくれるでしょうね」
 日下の言葉に、ハンターは大事な人の事でも思い出したのだろう、再び涙をボロボロと零し始めた。
「……彼女を置いて、死ねなかった……どんなに惨めな姿であろうと、生きて帰りたかった」
 テリーは泣き崩れるハンターの姿を見ながら(死ねない理由かぁ)と心の中で呟く。
(自分の場合はコロニーで死んだ叔父がそれかも……って、辛気臭いっすね、やめやめ!)
 勢いよく頭を振りながら、泣きそうになる自分の心に喝を入れる。
「泣くでない、結果がすべての世界じゃ……お主は生き残った、それが結果じゃよ」
 切金はハンターの肩に手を置きながら、にっこりと微笑む。
「さぁ、帰りましょう。ずぶ濡れになってしまいましたし……風邪を引かないよう、身体を温めなくては……」
 氷坂はハンター達に話しかけ、本部への帰還を促す。
 そして、それぞれが歩き始めた頃、氷坂はピタリと歩みを止めた。
「……ああ、そうだ。折角だからキミにピッタリな言葉を教えてあげるよ……」
 Go to hell(地獄に落ちろ)と動かぬ雑魔の死体に向けて、言葉を贈ったのだった。

 その後、ハンターを救助した者達に手紙が届いた。
 救助したハンターはこれからも任務を続けていく、と。
 みんなに助けてもらった命、決して無駄には散らさない事を誓う、と――……。

END

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MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 冥土へと還す鎮魂歌
    日下 菜摘(ka0881
    人間(蒼)|24才|女性|聖導士
  • Gun-ner
    テリー・ヴェランダル(ka0911
    人間(蒼)|17才|女性|猟撃士
  • 疾風迅雷
    影護 絶(ka1077
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士
  • 青炎と銀氷の魔術師
    リンカ・エルネージュ(ka1840
    人間(紅)|17才|女性|魔術師
  • 黒き刃
    ミスティカ(ka2227
    人間(紅)|23才|女性|疾影士
  • 《戦車》の誇りを抱く者
    シャガ=VII(ka2292
    人間(紅)|22才|男性|霊闘士
  • 幼き心は折れぬ刃
    切金 凪(ka2321
    人間(蒼)|10才|女性|闘狩人
  • 光の治癒士
    氷坂 湊(ka2737
    人間(蒼)|16才|男性|聖導士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/08/08 04:44:27
アイコン 相談卓
日下 菜摘(ka0881
人間(リアルブルー)|24才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2014/08/12 23:35:41