ゲスト
(ka0000)
眠りを邪魔するアイツの名は……
マスター:御影堂
- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
- 1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/08/16 09:00
- 完成日
- 2014/08/23 04:44
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
王国内を結ぶ街道沿いには、いくつかの宿場がある。それぞれの宿場は、それぞれが儲けるためにあれやこれやと考えている。
今回の依頼は、そんな宿場の1つから寄せられた。
その宿場は、安らかな睡眠をモットーにしていた。訪れた旅人や行商人が、1日で疲れを吹き飛ばせるように、寝具や灯り、宿場全体の雰囲気など。随所にわたって、工夫を凝らしている。
食事も宿の代表者が勉強会を行うなど、積極的に疲労回復を狙う。
これらの努力により、この宿場は街道を逸れてでも訪れたい宿場ベストに選ばれるまでに成長した。
だが、苦難は唐突に訪れた。
「う゛る゛さ゛い゛ぃ゛ぃ゛!!」
お前の声のほうがうるさいといわれそうな声で、ある男が叫びを上げた。
男は行商の疲れを取るべく、近くまで来るといつもこの宿場を訪れていた。ぐっすりすっきり眠れる……疲れが泥の中に溶けていくような、素敵な時間を過ごせる。
そう思っていたのだが、
「悪いが、今日は泊まる気になれない!」
手間賃だけを叩きつけ、男は去っていく。
その男の声が聞こえたのか、聞こえてないのか。逃げられた宿場の主人は、ため息をついた。宿場の主人は、眠たそうな顔で窓の外を見る。
「これは、どうしようもないな」
宿場のそばには、ちょっとした林があるのだが、大迷惑にもほどがある音が、そこから届けられていた。
音、というよりは鳴き声なのだ。
ミーンミーンミーンッ!!
ジジジジジジジジジッ!!
グワッチョグワッチョグワッチョ
有り体に言えば、これらの音がミックスされて届けられていることになる。
多大な迷惑である。大迷惑である。
巨大なセミが、林に発生しライブ・コンサートのファンよろしく大声援を送っているのだった。そのおかげで、疲れを癒やすことすらできない旅人たちが宿場を避けてしまう。
このままでは、築き上げてきたブランドは瞬く間に崩壊するだろう……。
●
「というわけで、セミ討伐なわけです」
スタッフは、依頼者たちの怨嗟の声をまとめあげて、そう締めくくった。
「ものすごい音量らしいので、声の掛け合いはできないでしょうね。耳もやられて、気分を悪くしてしまうかもしれませんね」
人事のように淡々とどういった事態が想定できるかを述べていく。
ありがたいのか、迷惑なのか、どっちともとれる。
「雑魔であるのは、間違いないでしょう。宿場町に安眠を取り戻してください」
王国内を結ぶ街道沿いには、いくつかの宿場がある。それぞれの宿場は、それぞれが儲けるためにあれやこれやと考えている。
今回の依頼は、そんな宿場の1つから寄せられた。
その宿場は、安らかな睡眠をモットーにしていた。訪れた旅人や行商人が、1日で疲れを吹き飛ばせるように、寝具や灯り、宿場全体の雰囲気など。随所にわたって、工夫を凝らしている。
食事も宿の代表者が勉強会を行うなど、積極的に疲労回復を狙う。
これらの努力により、この宿場は街道を逸れてでも訪れたい宿場ベストに選ばれるまでに成長した。
だが、苦難は唐突に訪れた。
「う゛る゛さ゛い゛ぃ゛ぃ゛!!」
お前の声のほうがうるさいといわれそうな声で、ある男が叫びを上げた。
男は行商の疲れを取るべく、近くまで来るといつもこの宿場を訪れていた。ぐっすりすっきり眠れる……疲れが泥の中に溶けていくような、素敵な時間を過ごせる。
そう思っていたのだが、
「悪いが、今日は泊まる気になれない!」
手間賃だけを叩きつけ、男は去っていく。
その男の声が聞こえたのか、聞こえてないのか。逃げられた宿場の主人は、ため息をついた。宿場の主人は、眠たそうな顔で窓の外を見る。
「これは、どうしようもないな」
宿場のそばには、ちょっとした林があるのだが、大迷惑にもほどがある音が、そこから届けられていた。
音、というよりは鳴き声なのだ。
ミーンミーンミーンッ!!
ジジジジジジジジジッ!!
グワッチョグワッチョグワッチョ
有り体に言えば、これらの音がミックスされて届けられていることになる。
多大な迷惑である。大迷惑である。
巨大なセミが、林に発生しライブ・コンサートのファンよろしく大声援を送っているのだった。そのおかげで、疲れを癒やすことすらできない旅人たちが宿場を避けてしまう。
このままでは、築き上げてきたブランドは瞬く間に崩壊するだろう……。
●
「というわけで、セミ討伐なわけです」
スタッフは、依頼者たちの怨嗟の声をまとめあげて、そう締めくくった。
「ものすごい音量らしいので、声の掛け合いはできないでしょうね。耳もやられて、気分を悪くしてしまうかもしれませんね」
人事のように淡々とどういった事態が想定できるかを述べていく。
ありがたいのか、迷惑なのか、どっちともとれる。
「雑魔であるのは、間違いないでしょう。宿場町に安眠を取り戻してください」
リプレイ本文
●
「(放送コードに引っかかるかもしれない言葉)っすよ!!」
神楽(ka2032)がいきなり、何を言っているのかといえば、耳栓テストに乗じた悪事である。
「ケケケ、マジで聞こえないみたいっすね! なら折角だし色々言ってみるっす」
と確認後に叫んでいた。
「っと、これ以上は危ないっすね」
霧島(ka2263)が外すというサインを出したのを見て、出かかった言葉を飲み込む。
耳栓を外して霧島は上を見上げた。
「暑い日々が続く中更に騒音か……確かに堪らないな……」
比較的涼しい林の中でも、漏れてくる太陽光がじりじりと肌を焼く。
ましてや、セミの鳴き声が暑さを増幅させていた。まだ、接近していないにも関わらず、互いの声が聞こえにくくて仕方がない。
「安眠を売りにしている宿にとって、この雑魔は迷惑千万だな」
ワンドをぐっと握りしめ、イレーヌ(ka1372)は周囲を警戒する。進むごとに音が大きくなっていた。
「早いところ、討伐してしまうとしよう」
「安眠妨害雑魔……わたしなんだか嫌いだな」
ミウ・ミャスカ(ka0421)はそういうが、そもそも好む者はいないような気がする。
だが、睡眠を愛するミウにとっては愛しさ余らず憎さ百倍といったところだろう。
「絶対にやっつけちゃうんだからね」
この林も、騒音さえなければ木陰が気持ちい筈なのだ。
そんなことを考えるミウは、眠たげな瞳の奥に確かな闘志を燃やしていた。
「セミといえば……」
おもむろに切り出したのは、ジオラ・L・スパーダ(ka2635)だ。
「夏に店の前を掃除する時にいつも転がってるあれだ」
死んでいるか生きているかわからない状態のセミ、突けばいきなりブルブルと鳴き出したりする。
その姿を思い返して、
「だから、容赦なく叩くつもりだ」
何の宣言かはわからないが、抗議するようにセミの鳴き声がジオラの声をかき消した。
会話も辛くなるほどに、音が増していたのだ。誰となく、耳栓をつけ始める。
「うわぁ。セミもこれだけ大きいときもちわるいね!」
テルヒルト(ka0963)の感想をかき消すほどの騒音を、木の上から発しているモノがいた。
セミである。人間大のセミが、木に張り付いて羽を震わせていた。
驚いている場合ではない。すかさず、ジェスチャーで発見の合図を送る。
「あれが……セミですか」
合図に気づいたクオン・サガラ(ka0018)がその姿を見て、驚愕する。
リアルブルーで知っているセミからすれば、どこをどうすればアンナモノになるのか謎だ。
興味すらわくところだが、すっとアサルトライフルに手をかける。
警戒しながら進み、全部の位置をそれとなく確認した。
「作戦通りに」
クオンがハンドサインを出し、返事が返ってくる。うなずきを合図に戦闘が開始された。
●
「耳栓しててもうっせーっす! とっとと片付けるっすよ~!」
音に言葉をかき消されながらかけ出したのは、神楽だ。動物霊の力で身のこなしを軽くし、銃器で手近なセミを狙う。
飛び立つより先に撃てるならば、ただの的だ。
「先制しなきゃだよね」
続くテルヒルトもデリンジャーを突き出し、引き金を引く。が、一歩遅かった。
イレーヌたちの攻撃に気づいたのか、セミの足が木を離すのが早かった。
しかし、飛び立った瞬間、セミは撃ち抜かれることになる。
「このアサルトライフル使い勝手が良いな」
姿勢を安定させ、じっくりと狙っていた者がいた。霧島だ。
何者かの祈りか、はたまたセミの運が悪いのか。弾丸は足を砕き、身を貫いていった。
撃たれた方向へ向かおうとしたセミの羽をさらなる弾丸が襲う。
「……モズ霊さん力を貸してね」
ミウだ。
セミを食べる鳥を思い浮かべ、その力を借りていた。銀色のリボルバーから硝煙がたなびく。
羽を撃ちぬかれ、制御をなくしたセミが向かう先にはジオラが立っていた。
「覚悟しろー!」
釘バットを構え、セミに負けじと精一杯に叫ぶ。ジオラは、グッと力を込めると一気に、釘バットを繰り出した。
体当たりをかわしながら、セミの腹部を叩く。
「よっしっ!」
地面に落ちたのを確認し、声を上げる。だが、ジオラは別方向から迫る衝撃音には気づかなった。
叫び声をすべて吹き飛ばすような、音の嵐。過ぎ去った後で、ジオラは何とかハンドサインを送った。
轟音は、各所を飛び交う。イレーヌや霧島を次々と襲っていった。
「何とか、耐えれたが……」
霧島は地面に伏せることで、音による痺れを逃していた。
体勢を戻すと、返す弾丸でセミを穿つ。移動しようと飛び立ったセミが、またもや羽を撃たれていた。
同じ相手をミウも狙うが、こちらは不規則な飛行で避けてみせる。
「猫霊さんよろしくね?」
ミウも動物霊の力を借りながら、するりと移動する。
「あれ、落ちる」
イレーヌがしびれる体を何とか動かし、誰となくハンドサインを送る。ホーリーライトを当てていたセミが飛び立ったものの、すぐに地面へ落ちていた。
「神楽さんに任せとけっす!」
すかさず神楽が飛び込み、トンファーを繰り出す。
「ぶっ潰れろっす!」
何とか飛翔しようともがいていたセミを、思いっきりぶっ叩く。抵抗するように暴れるセミの羽が、神楽を襲う。
思わぬ抵抗だったが、守りを固めてむしろ抑えに入る。
「任せとけっすよ」
神楽がそれを抑えている間に、テルヒルトはジオラに襲いかかっていたセミへ駆け寄る。
マテリアルを循環させ、全身の動きが滑らかになっていく。刃は深くセミを切りつけた。
なおも暴れるセミをジオラが逃げ場を塞ぐ。羽根と足が地味に痛いが、マテリアルを活性化させて耐えてみせる。
「お待たせしました」
エネルギーを溜めたクオンが、アサルトライフルを構える。テルヒルトが射線から外れた一瞬を狙い、足を打ち砕いた。
死に体のセミに、テルヒルトがトドメを刺そうとしたところで、邪魔が入る。
いまだ、木から引きずり下ろせていないセミが音撃を仕掛けてきたのだ。
「ぐぅ」
まともにくらったテルヒルトは、ぐらりと体を揺らしてしまう。その隙に、暴れるがまま逃げ出そうとしたセミだったが、
「逃すわけがないだろう」
機敏に察した霧島が、引導を渡すこととなった。
●
「分かれましょう」
そう提案したのはクオンだった。
音撃も避けれないことがなく、地面に落とされたセミはさほど脅威ではない。
落としたセミを逃さないためにも、分散しようというのだ。
真っ先に動いたのは、しびれがおさまったテルヒルトだった。マテリアルを脚に込めて、神楽の抑えているセミへ駆け出す。
「あ、待つっす!」
その神楽だが、ハンドサインを確認した隙を突いてセミが脱出を図っていた。拳銃の引き金を引くが、不規則な軌道に弾丸がスッポ抜ける。逆に羽によって巻き起こった風が、神楽の体勢を崩す。
このままでは逃げられると思った矢先、セミの羽を弾丸が貫いた。
爆発的加速によってセミを射程におさめたテルヒルトが、デリンジャーの引き金を引いたのだ。地面に足をつけたセミへ、止まることなく接近を果たす。
翻弄するように放たれた刃が、セミを斬る。
「追いついたっす」
そこへ神楽も近くから銃撃を仕掛ける。動きの鈍ったセミを狙うのは、難しい仕事ではない。
この一撃によって飛べなくなったセミは、地面に倒れる。
「暴れないで、よね」
地面を転がるように動くセミをテルヒルトが仕留めた。
この二人をサポートするように立ちまわっていたのは、クオンだ。
テルヒルトに音撃を食らわせていたセミを、機導砲で撃ちぬく。羽の根元を狙った攻撃だったが、飛ぶのが早く足を奪い去るのが精一杯だった。
引きつけるべく、銃声を響かせるが弾丸は飛び回るセミに当たらない。
「体勢を整えましょうか」
放たれた音撃を掠らせながら、クオンはマテリアルをエネルギー化して自身へ流し込む。
こちらは任せてというハンドサインを送り、クオンは自分の獲物を狙うのだった。
ミウと霧島、そしてジオラは同一対象を狙っていた。
「よくみえるよ」
モズ霊の力によって、獲物を狙う瞳が鋭く光る。硝煙の匂いを撒きながら、弾丸はセミを木から引き剥がす。
セミは爆音を飛ばしながら、ミウたちのいる方向へまっすぐと飛来する。
途中飛んできた音撃は、霧島が真正面から受けてしまっていた。
「大丈夫とは、言いがたいな」
体勢がぐらつきかけたのを見て、すかさずイレーヌが回復に入る。別方向からの音撃を彼女も受けていたが、気と体はしっかりと保てていた。
イレーヌの柔らかい光に包まれながら、それでも霧島は対象を見つめていた。
こちらへ飛び込んでくるようならば、狙わない手はないのだ。精神を研ぎ澄ませ、音撃で鈍った身体を動かす。
リロードと同時に、瞳へマテリアルを込める。狙いすました一撃は、セミを撃ち落とすには十分だった。
「一匹様ご案内だね!」
死にかけなセミなら、とどめを刺さねばならぬ。そんな使命をトラウマから背負っているジオラが立っていた。
どうしても、崩れかけたセミからは、店先の動きを思い出してしまう。
だからこそ、ジオラはやらねばならぬのだった。
「せぃ、やっ!」
おもいっきり振りぬかれた釘バットが、セミの頭部を叩く。そのままひっくり返ったセミへ、追撃するようにイレーヌがホーリーライトを突き刺す。
それでも、動きかけたセミへジオラが再度釘バットを振り下ろした。
「これだけやれば、とりあえずは……」
全く動かなくなったセミを見下ろして、安堵したのもつかの間、ジオラを轟音が襲った。
●
残る二体のうち、一体はクオンによって引きつけられていた。
では、残る一体は?
轟音を受けたジオラが視線を向けた先、セミが飛び立ったところだった。
しびれる身体にマテリアルを循環させ、気を落ち着かせる。イレーヌも駆け寄り、光で包み込んでいく。痛めた身体が、少しずつ癒される。
ジオラを襲ったセミへ立ち向かったのは、ミウだった。
轟音を、猫霊の加護によりのらりくらりとかわしてみせる。鋭い視線と弾丸でセミを射抜く。
合わせるように霧島が引き金を引く。二重の弾道が、セミの逃げ場を塞ぎ、羽をもぎ取っていった。
「手間を掛けさせてくれる」
「……逃さないよ」
ミウと霧島は、さらに銃撃を重ねていく。
飛べなくとも地を這い、ほうぼうの体で逃げ出そうとするセミを最後に光が撃ち抜いた。
イレーヌがホーリーライトを放ったのだ。
なんとかジオラも回復を見せ、三人に追い付いてきた。
見やれば、クオンが引きつけていたセミが地に落ちたところだった。
神楽とテルヒルトが囲い込むところへ、全員が合流する。
あれほどうるさく反響していたセミの鳴き声は、潰えるのだった。
●
「音はやんでいるはずなのに、まだ耳鳴りがしますね」
げんなりした顔で、クオンは薬莢を拾っていた。
神楽も耳の様子を気にしながら、背伸びをしている。
「うぇ~、疲れた~。それにまだ耳鳴りがするっす。これはこの町自慢の豊かな眠りで癒してもらうしかないっすね!」
「豊かな眠りを満喫しないと」
「ぐっすり眠るとそんなに違うの?」
半ば使命感に燃えるミウに、テルヒルトが問いかける。
ミウがこくりと頷くと、楽しみーと嬉しそうに言うのだった。
宿についた一行はそれぞれの部屋に向かう。
静かな宿場で、滋養強壮に聞く美味な食事を堪能する。
「メシうめ~っす!」
騒ぎ立てる神楽をよそに、端の方ではジオラやテルヒルトが一献頂いていた。
「お酒も出るんだ!」
驚きとともに嬉しい声をあげるテルヒルトと、対照的に涼やかに飲むジオラである。
それぞれの眠りを誘うのであれば、多少の酒も必要だという宿の意向なのだった。
「うん、これはいい酒だね。最高だな」
思わずジオラが漏らすほど、美味しい物が出ていた。二日酔いになっては、意味が無いと、明日には決して残らない上質の酒を用意しているのだという。
料理に、お酒に舌鼓を打った一行はそれぞれの部屋に戻る。灯りの調整された静かな部屋で、それぞれの癒やしの夜を過ごすのだ。
「照明凝ってるね。あっこの寝具すごい……宿の工夫に感動だよ」
部屋の一つ一つに目を輝かせていたミウだったが、当然のごとくトロンとしていく。
うつらうつらと首を動かし、
「ああ、見てたらもう駄目……おやすみなさい」
そう告げて、静かな寝息を立てながら幸せそうに眠るのだ。
「ふぅ…安らぎをうりにしているだけあって素晴らしいな……。個人的にまた来てみるとする……か……」
隣の部屋でも、霧島がすぅっと眠りに落ちていた。
「部屋もいい感じっす! これは彼女とか連れてきたら一気に落せそうっす! そんなんいないっすけど!」
対照的にどやどやと声を出していたのが神楽だ。案内した宿の人に、
「成虫がいたんなら幼虫がいてもおかしくないっす! つーことは、毎年セミに悩まされるんすかね?」
なんてことをいいながら、困惑顔をさせたりもした。だが、この空間の魔力には勝てなかったようだ。
「ま、いっか。でてきたら考えるっす! 今はこのベットを満喫するっす! つーわけで、お休み~。神楽さんは惰眠を貪るっす!」
まくし立てると、ぱたんとベッドにダイブして眠るのだ。
一方で眠らない方向で、この空間を楽しむものもいる。
イレーヌは子守唄のような穏やかな歌を口ずさんでいた。時折、紙のまくれる音だけが響く。眠りにつくまでの間、静かで適度な灯りの中、読書に勤しむのだった。
「予約をして帰るのですか? 確かに、素晴らしい宿でしたね」
クオンがそう告げたのは、霧島だった。テルヒルトたちが満足そうに姿を現す中、先んじて宿の主人に次の宿泊日を問い合わせていたのだった。
「あぁ、素晴らしかったからな」
疲れのないすっきりとした顔で、霧島が告げる。
戦いに疲れた身体も、耳鳴りがしていた耳もよくなっていた。
すべてを包み込み癒やす宿、一度はおいでやすらぎの里。
そんな謳い文句の看板を見納めながら、ハンターたちは宿場町を後にするのだった。
「(放送コードに引っかかるかもしれない言葉)っすよ!!」
神楽(ka2032)がいきなり、何を言っているのかといえば、耳栓テストに乗じた悪事である。
「ケケケ、マジで聞こえないみたいっすね! なら折角だし色々言ってみるっす」
と確認後に叫んでいた。
「っと、これ以上は危ないっすね」
霧島(ka2263)が外すというサインを出したのを見て、出かかった言葉を飲み込む。
耳栓を外して霧島は上を見上げた。
「暑い日々が続く中更に騒音か……確かに堪らないな……」
比較的涼しい林の中でも、漏れてくる太陽光がじりじりと肌を焼く。
ましてや、セミの鳴き声が暑さを増幅させていた。まだ、接近していないにも関わらず、互いの声が聞こえにくくて仕方がない。
「安眠を売りにしている宿にとって、この雑魔は迷惑千万だな」
ワンドをぐっと握りしめ、イレーヌ(ka1372)は周囲を警戒する。進むごとに音が大きくなっていた。
「早いところ、討伐してしまうとしよう」
「安眠妨害雑魔……わたしなんだか嫌いだな」
ミウ・ミャスカ(ka0421)はそういうが、そもそも好む者はいないような気がする。
だが、睡眠を愛するミウにとっては愛しさ余らず憎さ百倍といったところだろう。
「絶対にやっつけちゃうんだからね」
この林も、騒音さえなければ木陰が気持ちい筈なのだ。
そんなことを考えるミウは、眠たげな瞳の奥に確かな闘志を燃やしていた。
「セミといえば……」
おもむろに切り出したのは、ジオラ・L・スパーダ(ka2635)だ。
「夏に店の前を掃除する時にいつも転がってるあれだ」
死んでいるか生きているかわからない状態のセミ、突けばいきなりブルブルと鳴き出したりする。
その姿を思い返して、
「だから、容赦なく叩くつもりだ」
何の宣言かはわからないが、抗議するようにセミの鳴き声がジオラの声をかき消した。
会話も辛くなるほどに、音が増していたのだ。誰となく、耳栓をつけ始める。
「うわぁ。セミもこれだけ大きいときもちわるいね!」
テルヒルト(ka0963)の感想をかき消すほどの騒音を、木の上から発しているモノがいた。
セミである。人間大のセミが、木に張り付いて羽を震わせていた。
驚いている場合ではない。すかさず、ジェスチャーで発見の合図を送る。
「あれが……セミですか」
合図に気づいたクオン・サガラ(ka0018)がその姿を見て、驚愕する。
リアルブルーで知っているセミからすれば、どこをどうすればアンナモノになるのか謎だ。
興味すらわくところだが、すっとアサルトライフルに手をかける。
警戒しながら進み、全部の位置をそれとなく確認した。
「作戦通りに」
クオンがハンドサインを出し、返事が返ってくる。うなずきを合図に戦闘が開始された。
●
「耳栓しててもうっせーっす! とっとと片付けるっすよ~!」
音に言葉をかき消されながらかけ出したのは、神楽だ。動物霊の力で身のこなしを軽くし、銃器で手近なセミを狙う。
飛び立つより先に撃てるならば、ただの的だ。
「先制しなきゃだよね」
続くテルヒルトもデリンジャーを突き出し、引き金を引く。が、一歩遅かった。
イレーヌたちの攻撃に気づいたのか、セミの足が木を離すのが早かった。
しかし、飛び立った瞬間、セミは撃ち抜かれることになる。
「このアサルトライフル使い勝手が良いな」
姿勢を安定させ、じっくりと狙っていた者がいた。霧島だ。
何者かの祈りか、はたまたセミの運が悪いのか。弾丸は足を砕き、身を貫いていった。
撃たれた方向へ向かおうとしたセミの羽をさらなる弾丸が襲う。
「……モズ霊さん力を貸してね」
ミウだ。
セミを食べる鳥を思い浮かべ、その力を借りていた。銀色のリボルバーから硝煙がたなびく。
羽を撃ちぬかれ、制御をなくしたセミが向かう先にはジオラが立っていた。
「覚悟しろー!」
釘バットを構え、セミに負けじと精一杯に叫ぶ。ジオラは、グッと力を込めると一気に、釘バットを繰り出した。
体当たりをかわしながら、セミの腹部を叩く。
「よっしっ!」
地面に落ちたのを確認し、声を上げる。だが、ジオラは別方向から迫る衝撃音には気づかなった。
叫び声をすべて吹き飛ばすような、音の嵐。過ぎ去った後で、ジオラは何とかハンドサインを送った。
轟音は、各所を飛び交う。イレーヌや霧島を次々と襲っていった。
「何とか、耐えれたが……」
霧島は地面に伏せることで、音による痺れを逃していた。
体勢を戻すと、返す弾丸でセミを穿つ。移動しようと飛び立ったセミが、またもや羽を撃たれていた。
同じ相手をミウも狙うが、こちらは不規則な飛行で避けてみせる。
「猫霊さんよろしくね?」
ミウも動物霊の力を借りながら、するりと移動する。
「あれ、落ちる」
イレーヌがしびれる体を何とか動かし、誰となくハンドサインを送る。ホーリーライトを当てていたセミが飛び立ったものの、すぐに地面へ落ちていた。
「神楽さんに任せとけっす!」
すかさず神楽が飛び込み、トンファーを繰り出す。
「ぶっ潰れろっす!」
何とか飛翔しようともがいていたセミを、思いっきりぶっ叩く。抵抗するように暴れるセミの羽が、神楽を襲う。
思わぬ抵抗だったが、守りを固めてむしろ抑えに入る。
「任せとけっすよ」
神楽がそれを抑えている間に、テルヒルトはジオラに襲いかかっていたセミへ駆け寄る。
マテリアルを循環させ、全身の動きが滑らかになっていく。刃は深くセミを切りつけた。
なおも暴れるセミをジオラが逃げ場を塞ぐ。羽根と足が地味に痛いが、マテリアルを活性化させて耐えてみせる。
「お待たせしました」
エネルギーを溜めたクオンが、アサルトライフルを構える。テルヒルトが射線から外れた一瞬を狙い、足を打ち砕いた。
死に体のセミに、テルヒルトがトドメを刺そうとしたところで、邪魔が入る。
いまだ、木から引きずり下ろせていないセミが音撃を仕掛けてきたのだ。
「ぐぅ」
まともにくらったテルヒルトは、ぐらりと体を揺らしてしまう。その隙に、暴れるがまま逃げ出そうとしたセミだったが、
「逃すわけがないだろう」
機敏に察した霧島が、引導を渡すこととなった。
●
「分かれましょう」
そう提案したのはクオンだった。
音撃も避けれないことがなく、地面に落とされたセミはさほど脅威ではない。
落としたセミを逃さないためにも、分散しようというのだ。
真っ先に動いたのは、しびれがおさまったテルヒルトだった。マテリアルを脚に込めて、神楽の抑えているセミへ駆け出す。
「あ、待つっす!」
その神楽だが、ハンドサインを確認した隙を突いてセミが脱出を図っていた。拳銃の引き金を引くが、不規則な軌道に弾丸がスッポ抜ける。逆に羽によって巻き起こった風が、神楽の体勢を崩す。
このままでは逃げられると思った矢先、セミの羽を弾丸が貫いた。
爆発的加速によってセミを射程におさめたテルヒルトが、デリンジャーの引き金を引いたのだ。地面に足をつけたセミへ、止まることなく接近を果たす。
翻弄するように放たれた刃が、セミを斬る。
「追いついたっす」
そこへ神楽も近くから銃撃を仕掛ける。動きの鈍ったセミを狙うのは、難しい仕事ではない。
この一撃によって飛べなくなったセミは、地面に倒れる。
「暴れないで、よね」
地面を転がるように動くセミをテルヒルトが仕留めた。
この二人をサポートするように立ちまわっていたのは、クオンだ。
テルヒルトに音撃を食らわせていたセミを、機導砲で撃ちぬく。羽の根元を狙った攻撃だったが、飛ぶのが早く足を奪い去るのが精一杯だった。
引きつけるべく、銃声を響かせるが弾丸は飛び回るセミに当たらない。
「体勢を整えましょうか」
放たれた音撃を掠らせながら、クオンはマテリアルをエネルギー化して自身へ流し込む。
こちらは任せてというハンドサインを送り、クオンは自分の獲物を狙うのだった。
ミウと霧島、そしてジオラは同一対象を狙っていた。
「よくみえるよ」
モズ霊の力によって、獲物を狙う瞳が鋭く光る。硝煙の匂いを撒きながら、弾丸はセミを木から引き剥がす。
セミは爆音を飛ばしながら、ミウたちのいる方向へまっすぐと飛来する。
途中飛んできた音撃は、霧島が真正面から受けてしまっていた。
「大丈夫とは、言いがたいな」
体勢がぐらつきかけたのを見て、すかさずイレーヌが回復に入る。別方向からの音撃を彼女も受けていたが、気と体はしっかりと保てていた。
イレーヌの柔らかい光に包まれながら、それでも霧島は対象を見つめていた。
こちらへ飛び込んでくるようならば、狙わない手はないのだ。精神を研ぎ澄ませ、音撃で鈍った身体を動かす。
リロードと同時に、瞳へマテリアルを込める。狙いすました一撃は、セミを撃ち落とすには十分だった。
「一匹様ご案内だね!」
死にかけなセミなら、とどめを刺さねばならぬ。そんな使命をトラウマから背負っているジオラが立っていた。
どうしても、崩れかけたセミからは、店先の動きを思い出してしまう。
だからこそ、ジオラはやらねばならぬのだった。
「せぃ、やっ!」
おもいっきり振りぬかれた釘バットが、セミの頭部を叩く。そのままひっくり返ったセミへ、追撃するようにイレーヌがホーリーライトを突き刺す。
それでも、動きかけたセミへジオラが再度釘バットを振り下ろした。
「これだけやれば、とりあえずは……」
全く動かなくなったセミを見下ろして、安堵したのもつかの間、ジオラを轟音が襲った。
●
残る二体のうち、一体はクオンによって引きつけられていた。
では、残る一体は?
轟音を受けたジオラが視線を向けた先、セミが飛び立ったところだった。
しびれる身体にマテリアルを循環させ、気を落ち着かせる。イレーヌも駆け寄り、光で包み込んでいく。痛めた身体が、少しずつ癒される。
ジオラを襲ったセミへ立ち向かったのは、ミウだった。
轟音を、猫霊の加護によりのらりくらりとかわしてみせる。鋭い視線と弾丸でセミを射抜く。
合わせるように霧島が引き金を引く。二重の弾道が、セミの逃げ場を塞ぎ、羽をもぎ取っていった。
「手間を掛けさせてくれる」
「……逃さないよ」
ミウと霧島は、さらに銃撃を重ねていく。
飛べなくとも地を這い、ほうぼうの体で逃げ出そうとするセミを最後に光が撃ち抜いた。
イレーヌがホーリーライトを放ったのだ。
なんとかジオラも回復を見せ、三人に追い付いてきた。
見やれば、クオンが引きつけていたセミが地に落ちたところだった。
神楽とテルヒルトが囲い込むところへ、全員が合流する。
あれほどうるさく反響していたセミの鳴き声は、潰えるのだった。
●
「音はやんでいるはずなのに、まだ耳鳴りがしますね」
げんなりした顔で、クオンは薬莢を拾っていた。
神楽も耳の様子を気にしながら、背伸びをしている。
「うぇ~、疲れた~。それにまだ耳鳴りがするっす。これはこの町自慢の豊かな眠りで癒してもらうしかないっすね!」
「豊かな眠りを満喫しないと」
「ぐっすり眠るとそんなに違うの?」
半ば使命感に燃えるミウに、テルヒルトが問いかける。
ミウがこくりと頷くと、楽しみーと嬉しそうに言うのだった。
宿についた一行はそれぞれの部屋に向かう。
静かな宿場で、滋養強壮に聞く美味な食事を堪能する。
「メシうめ~っす!」
騒ぎ立てる神楽をよそに、端の方ではジオラやテルヒルトが一献頂いていた。
「お酒も出るんだ!」
驚きとともに嬉しい声をあげるテルヒルトと、対照的に涼やかに飲むジオラである。
それぞれの眠りを誘うのであれば、多少の酒も必要だという宿の意向なのだった。
「うん、これはいい酒だね。最高だな」
思わずジオラが漏らすほど、美味しい物が出ていた。二日酔いになっては、意味が無いと、明日には決して残らない上質の酒を用意しているのだという。
料理に、お酒に舌鼓を打った一行はそれぞれの部屋に戻る。灯りの調整された静かな部屋で、それぞれの癒やしの夜を過ごすのだ。
「照明凝ってるね。あっこの寝具すごい……宿の工夫に感動だよ」
部屋の一つ一つに目を輝かせていたミウだったが、当然のごとくトロンとしていく。
うつらうつらと首を動かし、
「ああ、見てたらもう駄目……おやすみなさい」
そう告げて、静かな寝息を立てながら幸せそうに眠るのだ。
「ふぅ…安らぎをうりにしているだけあって素晴らしいな……。個人的にまた来てみるとする……か……」
隣の部屋でも、霧島がすぅっと眠りに落ちていた。
「部屋もいい感じっす! これは彼女とか連れてきたら一気に落せそうっす! そんなんいないっすけど!」
対照的にどやどやと声を出していたのが神楽だ。案内した宿の人に、
「成虫がいたんなら幼虫がいてもおかしくないっす! つーことは、毎年セミに悩まされるんすかね?」
なんてことをいいながら、困惑顔をさせたりもした。だが、この空間の魔力には勝てなかったようだ。
「ま、いっか。でてきたら考えるっす! 今はこのベットを満喫するっす! つーわけで、お休み~。神楽さんは惰眠を貪るっす!」
まくし立てると、ぱたんとベッドにダイブして眠るのだ。
一方で眠らない方向で、この空間を楽しむものもいる。
イレーヌは子守唄のような穏やかな歌を口ずさんでいた。時折、紙のまくれる音だけが響く。眠りにつくまでの間、静かで適度な灯りの中、読書に勤しむのだった。
「予約をして帰るのですか? 確かに、素晴らしい宿でしたね」
クオンがそう告げたのは、霧島だった。テルヒルトたちが満足そうに姿を現す中、先んじて宿の主人に次の宿泊日を問い合わせていたのだった。
「あぁ、素晴らしかったからな」
疲れのないすっきりとした顔で、霧島が告げる。
戦いに疲れた身体も、耳鳴りがしていた耳もよくなっていた。
すべてを包み込み癒やす宿、一度はおいでやすらぎの里。
そんな謳い文句の看板を見納めながら、ハンターたちは宿場町を後にするのだった。
依頼結果
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マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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【依頼相談卓】 ミウ・ミャスカ(ka0421) 人間(クリムゾンウェスト)|13才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2014/08/16 08:07:11 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/08/11 23:56:29 |