未来に刻む勝利を 第1話

マスター:赤山優牙

シナリオ形態
シリーズ(新規)
難易度
普通
オプション
参加費
1,300
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/02/03 07:30
完成日
2016/02/07 23:54

このシナリオは2日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●暗躍する憤怒
 歪虚王、九蛇頭尾大黒狐 獄炎が人間によって討ち滅ぼされ、王に付き添っていた多くの歪虚も倒された。
 『九尾御庭番衆』も崩壊。鬼達は歪虚から離れ、人間側に戻ってしまった。
 惨憺たる結果である。
 七眷属の中で笑い者もいいところだ。その事に耐えきらず、生き残った憤怒の歪虚は、無用な突撃を繰り返し、ますます消耗していく。
「今一度、残存する勢力を集め、人間共を今度こそ、根絶やしにしてくれるわ!」
 轟々と口から炎を吐きだしながら、真っ黒い巨大な犬が叫んでいた。歪虚の名は災狐。
 九蛇頭尾大黒狐 獄炎の近親者と名乗っている。真偽は分からない。疑った者は、怒りに触れ、炎に焼かれてしまうからだ。
「災狐様、十鳥城の矢嗚文(やおぶみ)が拒絶しております!」
「所詮は元人間という事か、だから、人間臭いのは嫌いなんだ!」
 感情が高まったのか全身から炎が吹き出る災狐。
 近くにいた部下が遠ざかる。油断していると、着火してしまう。
「……いや、待てよ」
 ふと、災狐は冷静になった。
 怒りに任せ周囲が見えなくなる傾向がある憤怒の中で、災狐は冷静になる時がある。それは、怒りが収まったのではなく、効率良く物事を成す事を思いついた時だ。
「あの城下に残っている人間共を見せしめや人質として使えるな……」
「さ、さすが、災狐様です!」
「よし! お前ら、十鳥城に忍び込むのだ! 矢嗚文の隙を見て、城と町を奪うのだ!」
 その命令に、災狐の部下らは一斉に走りだした。

●龍尾城の一室
 十鳥城とその城下町は、憤怒の歪虚勢力に一帯を呑み込まれた。明確な時期は不明だが、少なくとも今の帝の時代の話しではない。
 高い城壁と深い掘り、武家と住民の抵抗で音信不通後もいくらかは、持ち堪えたと思われるが……。
「……全滅していたと思っていたら、違いましてね」
 説明していたのは、立花院 紫草 (kz0126) だ。エトファリカ征夷大将軍という地位であり、スメラギが西方に行っているので、名実共にエトファリカ連邦国の頂点に立つ御方である。
 涼しげな眼差しとサラサラの灰髪が、年齢を若く感じさせる。
「十鳥城の城主は、矢嗚文か……で、なんで、僕が呼ばれたのでしょうか? ムラちゃん」
 どうもズレてしまう眼鏡を直しながら大轟寺 蒼人が軽く応えた。
 刹那、頭をひっぱたかれる。どこから調達してきたのか、ハリセンで思いっきり叩かれる。
「征夷大将軍に向かって良い心掛けですね、蒼人」
「も、申し訳ないです……」
 そういえば、小さい頃から、スメラギとやんちゃをしていては、紫草にこうやって怒られていた気がする。
「大轟寺家の事は私も知っています。もっとも、知ったのは、つい最近の事でしたが」
 紫草に大轟寺家の事を伝えたのは朝廷の幹部の一人だった。スメラギが西方に行くのに合わせての事だ。
「……つまり、十鳥城の抜け穴を通過して、城門でも開ければいいのですか?」
「いえ、違います。残っている住民らと共に城を解放させるのです」
 その言葉に蒼人はガタっと立ち上がった。
「残ってるって……住民が生き残ってるって!?」
 驚く蒼人の台詞に紫草は静かに頷いた。
 全滅していたと思われていた十鳥城と城下町には人の気配があったと言う。
 ただし、中には入れなかった。呼び掛けにも反応もなく、斥候は敵勢力域でもあったので、それ以上の調査を断念して戻ってきたのだ。
「その話しを聞くと、人質にされている可能性も?」
「そういう事です。なので、城下町の中の確認、そして、生き残っている住民が居れば救い出し、城を解放させたいのです」
「……分かりました。大轟寺蒼人、十鳥城へ向かいます」
 こうして、新しい戦いが始まろうとしていた。

●天ノ都
 破壊された街から威勢の良い掛け声があちらこちらで響いていた。
「スメちゃん、聞こえる? 民の声が……。本当に……本当に、良かった……」
 青空を仰ぎ見ながら、呟く蒼人。
 歪虚侵略から滅びを免れた事以上に、スメラギが無事だったという奇跡に。
 代々、御柱様は短命であった。それは、龍脈の力を使い、結界を維持していたが為だ。そして、黒龍亡き今、スメラギは真の意味でも、柱から解放された。
 蒼人は小さい頃からスメラギと遊び仲間だった。御柱は短命だと冷め気味のスメラギを楽しませて、笑顔を引き出したかった。
(ありがとう、西方の友人達よ)
 歪虚王を倒した後から、スメラギは笑う事が多くなったと思う。
 最も親愛する帝であり、親友でもあり、憧れの存在であったスメラギが救われたのは、西方からの勇士のおかげだ。
(西方に行ってみたいが……僕には、やらなきゃいけない事がある……)
 グッと拳を強く握り、南の方角を睨む。
 歪虚王は討伐されたが、残存する『憤怒』に属する歪虚の軍勢は残っている。
(それに……裏切り者を、いつまでも、のさばらせているわけにはいかない)
 歪虚との長い戦いの中で、武家でありながら、帝を裏切り、歪虚側に寝返った存在がいた。
(スメちゃんは、柱としての運命を打ち破った。今度は、僕が、大轟寺家との宿命と戦う番だ)
 大轟寺は、エトファリカ武家四十八家門の中でも、古くから第九位という地位にいる。
 表向きは古参の武家という事ではあるが、その裏では、武家四十八家門及び多くの一般武家を監視する役目を持っていた。
 大轟寺は代々、歪虚との戦闘技術よりも、対人戦を小さい頃から叩き込まれており、蒼人もその通り育った。対人戦が得意なのは、そういう理由からだ。
「今までは、ずっと、単独で戦い続けていた大轟寺家だけど、僕からは違う。僕には西方の友人達がいるのだから」
 蒼人は、眼鏡を中指で直しながら、そんな決意を発した。
 その時、視界の中に、明らか、西方の人間と思われる人物を見つける。
「なんと、可憐な!」
 ふわゆるの緑髪が風に乗り、翡翠色を思わせるような美しい瞳。
 ドレスに身を包んだ少女がゆったりとした足取りで物珍しそうに街並を眺めている。きっと、西方から来たハンターだろうか。西方好きの彼を止める障害は……なかった。
 物凄い速さで蒼人は近付いた。
「ようこそ、美しいハンターの方よ。天ノ都は初めてですか? この僕、大轟寺蒼人が案内致しますよ」
 眼鏡をクイクイと動かしながら壁ドンでポーズを取る蒼人。
 そんな蒼人を一瞥して少女は言った。
「……必要ありません」
「いえ、そんな事はないはずです! 必ず、僕は、力になれますよ!」
 必死に食い下がる蒼人。
「私、どちらかというと、力を貸す方ですし……」
「え?」
 その応えに蒼人は疑問の顔を浮かべた。
 スッと差し出される名刺を成すがままに受け取る蒼人。
「『ハンターズ・ソサエティ』の職員だって!?」
「はい。貴方のノゾミ、叶える事ができますよ」
 ニッコリと文字通り営業スマイルを向けて来た少女に蒼人はまんまと乗せられたのは言うまでもない事であった。

リプレイ本文

●十鳥城へと出発の時
「エルフやドワーフは珍しいのですかねぇ。視線が珍妙な物を見るソレっぽいです」
 シルディ(ka2939)が苦笑を浮かべながら、エルフの特徴的な耳を帽子で隠した。
「西方と比べれば珍しいかもしれないですが、きっと、大丈夫ですよ」
 蒼人が眼鏡の位置を直しながら答える。
 それでも、念の為に東方風の衣装を人数分用意してきてはいた。
「潜入作戦ですから、おかしな見た目をしていたら教えて下さいねぇ」
 その衣装に袖を通しながらシルディは蒼人に向かって言った。
 これから抜け穴を通過して歪虚に支配されているという町へ忍び込むのだ。姿形は警戒していた方が良い……と踏んでの事だ。
(歪虚の勢力圏内で生き延びていた人たちを救う……失敗は許されない大仕事です)
 決意を込めてグッと正八角形を握りしめたのはメトロノーム・ソングライト(ka1267)だ。
 青く美しい長髪を、わざわざ黒く染め直し、この作戦に対する意気込みを感じさせる。
(……)
 ふと故郷の村の事を思い出した。
 辛くて悲しい記憶。歪虚の勢力圏内で生き延びていた人達はどんな気持ちで日々を過ごしているのだろうか。
 神妙な表情のメトロノームとは逆に星輝 Amhran(ka0724)が明るい笑顔を十鳥城の方角へと向けていた。
「この依頼……村の頃にやった親父様との汚れ仕事を思い出すのぅ♪」
 手には先程までつけていた仮面を持っている。
 蒼人に対し、仮面と素顔のギャップ萌えを狙っていたのだが、あっさりとした反応だったのは意外だった。
「潜入とは、迅速・静粛が重要よな? その辺りは何としても遂行するのじゃ」
「はい、義姉上。私もその様に思います」
 黒髪を弾ませてレオン・イスルギ(ka3168)は義姉上に応えると、視線を蒼人に向けた。
「蒼人様は、対人戦術の練逹者、でございますか……」
 依頼主でもあり同行者でもある彼から、対人戦なら自信はあると言われている。
 レオンが持つ流派『八ツ原御流天津交法』とは技術の趣が違う。天津交法は、巨きく強大な魔性の化外と渡り合う為、ただ一撃の重さと正確さを求めた交叉剣術だからだ。彼の戦い振りを見て、剣士としてなにか得られることがあるかもしれない。
 同じような雰囲気でミィリア(ka2689)も蒼人へ熱い視線を向けていた。
(お城までの抜け道なんて冒険みたいでドキドキでござる……!)
 蒼人はものほんのおサムライさんである。しかも、歴史深い武門の上位家だ。
 憧れのおサムライさんに近付く為にも、しっかりと観察しなければ。
「戦いにでもなったら刀捌き見れるかなかなっ! ひゃー!」
 思わず心の声を表出しながら、照れる様に両手を頬に当てた。姿は可愛いが、口にした内容が怖い。
「どうですか、大轟寺さん。なにか思い出しましたか?」
 真剣な表情でシェルミア・クリスティア(ka5955)が蒼人に訊ねる。
 抜け穴の事で他にも情報があるかもしれない。
「そう、何度も訊かれても……シェルミアさんの優しい口付があれば、思い出せるかもしれません」
「……うん。絶対に嫌です」
 さり気ないシェルミアのキツイ言葉に蒼人が砕け散る。
 これで、蒼人が、当てにできない感じだけはハッキリしたかもしれない。

●第一の部屋
 抜け穴の途中、広い部屋に出た一行の前に待っていたのは無数の扉だった。
 大きさ形も様々な扉が床や壁、天井とあらゆる場所に設置されている。
「通路に使うなら扉前の埃が他より少なそうですが……ふむ」
 部屋の中に踏み込んだシルディが辺りを注意深く観察する。
 埃だけではなく血痕なんかもないかと探すが、それらしきものはない。
「一応、この抜け穴は使用されたはずはないはずだ」
 蒼人がそう説明しながら、安易に扉の一つに手を伸ばした。
 刹那、バチっと弾けるような音と共に彼が悲鳴をあげる。どうやら、罠扉だったようだ。それでも次の扉に手をかけようとする蒼人。
 あれが、おサムライ。肉を切らして骨を断つ。そう感じたミィリアも扉の一つを手に取る。
「ちょっとぐらい痛くたって平気だもんね……うう……」
 律儀にノックしてみる。一応、音の違いがあるか確認してからの事であり、素ボケではない。
 意を決して開くと、蒼人が今まさに別の扉を開けようとしていた扉が豪快に開いた。意表を突かれ、直撃した痛みに頭を埋める蒼人。どうやら、正解の扉では無かったようだ。
「ええーい、とにかく怪しいところから開けまくるっきゃない!」
「ま、待ってk」
 覚悟を決めたミィリアが怪しそうな扉を片っ端から開ける。
 都度、蒼人の悲鳴が響いたが、残念な事にどれも正解ではなかった。
「大丈夫ですか? 蒼人様」
 レオンの心配に、彼はボロボロになりながらも眼鏡の位置を直す。
 眼鏡が半壊しているが、本人は気がついていないようだ。
「では折角ですので……私は、この赤の扉を」
 直後、天井の扉が開いたと思ったら、なぜか金ダライが落ちてきて、蒼人の頭に直撃した。
 ゴイーンと音と共に力尽きて倒れ込む。
「シェルミアさん……せめて、最後に、スカートの中を……」
「……絶対に嫌です」
 反射的にドレスのスカートを手で押さえるシェルミア。
「ここまで来ると、どれが本物か分かりませんね。シェルミア様の占術なら、良き指標となるでしょう」
「ちょっと自信は無いけど、正解の扉か、その手掛かりが得られないか占ってみるよ」
 レオンの呼び掛けにシェルミアは頷くと蒼人の背中で符を並べた。
 幸せだとかもうちょい上の方とか蒼人の声は無視して、占いを行うと出た符は『上』を示した。
「構造からして流石に天井にある扉が正解って言う事は……」
 天井を見上げるシェルミア。
 同じように天井を見上げたシルディが呟く。
「いや……あり得なくない事かもしれませんね」
「私も、可能性は低いと最初は思っていましたけれど……」
 メトロノームが顔にかかった長い髪を手で流しながら続ける。
「天井の扉の方が、敵の侵入に利用されるのを防ぐには向いていますし、かえって可能性は高いかもしれません」
 その推理は理に適っているかもしれない。
 もし、この抜け穴が十鳥城からの脱出路であれば、『降りてくる』だけだからだ。逆に侵入者にとっては障害として存在する事になる。
「罠の扉もあるという事は侵入者を想定しての事だと思いますし」
 ボロボロになった蒼人を見下ろしながら推理を展開するメトロノーム。
 タライの罠は先程あった通りだ。ぷるぷると震えてしまう。
「そういう事なら、わしが見てこようかの」
 軽くウォーミングアップをして星輝が口元を緩めた。
 疾影士には体にマテリアルを巡らせて、常識では考えられない事ができる。
「じゃが、その為には絞る必要があるじゃろう」
 全員が見守る中、天井を見上げながらゆっくりと歩く星輝はやがて、一つの扉の下で立ち止まる。
「メトロノームの推理が正しければ、本来、この抜け穴は上から下に降りてくる所じゃ。と、なるとじゃ……本来は『蓋』じゃなかろうかのう」
 天井に丸い扉が一つだけ。
 他は四角や多角の扉だ。四角の扉は一辺の長さより対角線の方が長い。その様な蓋は一般的には落下しやすいと言われる。
 かくして、星輝はスキルを用い、天井にあった丸い扉を押し上げて正解を確認したのであった。

●第二の部屋
「全員で一気に駆け抜ければ、突破できそうじゃの」
 部屋の罠を蒼人から聞いた星輝が、部屋の反対側の扉を見て呟く。
 壁が両側から迫って来て圧迫するというが、ハンター達の基礎能力は高い。振り返って仲間達を見てみれば、全員、身軽そうだ。
「待て、僕は無理だ」
 蒼人が太刀2本を掲げた。これだけでもかなりの重さだろう。
「となると、壁罠を壊すという事ですねぇ。音が気になる所ですが、まぁ、大丈夫でしょう」
「間に合わない可能性を考えて、壊せるなら壊そう。後ほど使うかもしれないし」
 シルディとシェルミアの言葉にレオンも頷いた。
 一回切りの抜け穴ではないはずだ。今後も使う事を考えれば罠をなんとかしていた方がいいはず。
「流石に、剣で壁を切り崩すのは至難でしょうか……であれば、術理を以って鎮めるのみ」
 幸いな事に石床の一部は崩れていて地面が剥きだした。
 これなら、土壁の魔法を使う事も可能なはず。
「アースウォールで壁を作りストッパー代わりにし、壊れたら、即新たな壁を作り直し、その合間に壁を破壊です」
 メトロノームも同様の魔法を使うつもりである。
 あまり使う機会が少ない魔法だが、こういう時は在ると無いとでは雲泥の差だ。
「壊せばいいんなら得意分野かなっ。力仕事には自信あるもんね!」
 嬉々として刀を抜き放つミィリアだった。

●第三の部屋
 壁が迫ってくる罠の部屋を魔法と力押しで突破して一行は最後の部屋へと到着した。
「ミィリアのすっごい活躍、いかがでしたでござるか?」
 先程の壁破壊の際、渾身の一撃で壁を罠ごと破壊した彼女はその勢いのまま部屋の中央に座っする石像を飲み込んだスライム状の雑魔を見つめる。
 一行が部屋に入ってきても微動だにしない。
「罠がぱっと見ないのも怪しすぎるでついでに潰そうかの」
 星輝が警戒するのも無理はない。
 もし、抜け穴を通過したと分かるような通報装置だったら困る事になるのは明白だ。
「確か……虎は西方の守り神でしたっけ?」
 シルディが帽子の位置を直しながら呟いた。
 そして、石像の4本足を注視する……特にスイッチの様な物は見られない……だけかもしれないが。
「少し浮いていれば分かりやすいんですけどねぇ~」
 諦めたような口調でシルディは鞭を構えた。
 レオンも石像とスライム状の雑魔に対して炎のマテリアルを付与した刀を構える。
「虎の像……罠か、敵か、あるいは鍵か……判断はつきかねますが、であれば、スライム状の雑魔から仕留めます」
 誰もがその存在を危ぶむ。
 怪しい事この上ない。ミィリアは見た目に似合わぬ缶ビールを取りだすと、それを転がしてみた。
「あの石像はどう見ても怪しいよね……何かのスイッチとか?」
 首を傾げた所で転がった缶ビールが石像とスライム状の雑魔に当たった。
 次の瞬間、プシュ! と美味しそうな音を立てて缶が解けて、中身の液体が流れる。
「なにか意味がある気がするでござる」
 ちょっと缶ビールがもったいなかったかもと思いながらミィリアが呟いた言葉にメトロノームが頷く。
「まずはスライムの排除を優先しましょう」
 そして手を掲げると、炎の矢の魔法を使う。
 迸った炎矢は石像とそれを覆うスライム状の雑魔を直撃した。
「わたしも、まずは雑魔だけを弾き飛ばせないかやってみます」
 シェルミアも符術で光弾を放つ。
 雑魔は石像から外れなかった。反撃とばかりに全周囲に向かって酸を射出する。
 石像の口の部分が同時にパカっと開くと、一行が居た入口に向かって炎が噴き出された。
「やはり、何かしらの仕掛けであるようじゃ!」
 素早い身のこなしで炎から逃れると石像の背面へと回る星輝。
 一方のミィリアは炎から仲間達を庇うように自ら前へと進み出ながら刀を振り上げた。
 彼女の小さい身体を炎が直撃し、炎が左右に裂ける。
「まずはスライムっぽい方からどうにか!」
 炎は見た目は凄いが、耐えられないレベルではない。
 すれ違いざまに斬りかかる。雑魔の身体は容易く切り裂いたが、石像は硬かった。手が痺れる。
「力任せというのは僕の趣味じゃないですがね」
 両手に其々、刀を持った蒼人が目にも止まらぬ速さで斬りかかる。
 対人戦が得意と言っていたが、刀捌きは確かのようだ。
 二人の攻撃で雑魔が剥がれかけてきた。
「動きを妨げます」
 メトロノームが放った氷のマテリアルが雑魔に直撃すると、雑魔の動きがやや鈍くなる。
 もこっと緩慢な動作で蠢く雑魔。
「部屋の中に罠はなさそうです」
 罠が無いか咄嗟に占ったシェルミアの言葉で確信を得たのか、意を決した星輝がワイヤーを煌めかせながら間合いを詰めると、雑魔に引っ掛ける。
「今じゃ、レオン!」
「八ツ原御流天津交法“白式”が崩し――“咲薙”」
 前屈みの姿勢から倒れ込むように踏み出して、距離を詰めながら炎を纏った刀を真横に一閃する。
 炎のマテリアルが乱れ咲き散る光跡を残し雑魔を切った瞬間、星輝がワイヤーをひっぱり雑魔を石像から剥いた。
 剥き出しになった石像にミィリアが再度、渾身の力を込めて斬りかかる。
「石像も敵だとしても攻撃あるのみ! 硬そうだろうと殴ってればいつか壊れる! ハズ!」
 全力の一撃は石像を吹き飛ばしながら壊すには十分だった。

●抜け穴突破
 石像があった場所の床が、ボコンという音と共に地中から姿を現した。
 同時に、一方の壁に隠し扉が現れ、先へと続く通路が表れた。
「どうやら、石像は炎を吐く罠であると同時に、仕掛けの重りだったようですねぇ」
 仕掛けを細かく確認しながらシルディが解説した。
 恐らく、この部屋に踏み込んだ時に炎が作動するような仕掛けだったようだ。それがスライム状の雑魔によってタイミングがズレたのだろう。
「スライムは液体状だからの。扉の隙間を通ってきた……という事かの」
 星輝が隠し扉から先に伸びる通路を覗きこみながら言った。
 石像には炎を吐く装置が組み込まれていた。その力を狙ってスライム状の雑魔が石像を覆っていたとすれば、一応の説明はつくだろう。
 とりあえず、これで抜け穴を突破できるはずだ……蒼人の記憶が確かなら。
「これで、十鳥城の城下町へと。大轟寺さん、この町で知っている事はあるのかな?」
 符の数を確認しながらシェルミアが蒼人に訊ねた。
 蒼人は眼鏡の位置を直しながら答える。眼鏡ズレ過ぎとシェルミアは思ったが、口にする事は無かった。
「残念ながら、僕が当主になる前の話しだしね。いつの頃から今の状況になったか、どうして、人が生きているのか分からないよ」
 歪虚勢力域では負のマテリアルによる汚染が進む。
 鬼の中では対応できる者もいると言われているが、ただの人間がそんな中で生きていけるとは思えない。
 ましてや、数十年という時の流れの中でだ。謎は深まるばかりである。
「町の構造も分からないし、そもそも、この抜け穴の先も、城下町のどこに繋がっているのかも、ね」
「それも、ここから出れば、分かる……という事でしょうか?」
 両肩を竦めた蒼人の台詞に訊ね返したレオンの言葉。
 誰しも、その言葉に頷く。
 道は拓いた。後は抜け穴を通過して町へと至るだけだ。町へ出たら状況を確認する術はあるだろう。
「よぉし! 出発でござる~!」
 笑みを浮かべてミィリアが元気よく宣言したのであった。


 こうして、抜け穴を無事に突破した一行は、十鳥城への城下町への潜入を果たす。
 そこで見た人々の姿は――

 貧しく、乏しく、なによりも、どの人々の顔も疲れ切っていた。


 第2話へ続く――

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MVP一覧

  • アルテミスの調べ
    メトロノーム・ソングライトka1267
  • 春霞桜花
    ミィリアka2689

重体一覧

参加者一覧

  • 【魔装】の監視者
    星輝 Amhran(ka0724
    エルフ|10才|女性|疾影士
  • アルテミスの調べ
    メトロノーム・ソングライト(ka1267
    エルフ|14才|女性|魔術師
  • 春霞桜花
    ミィリア(ka2689
    ドワーフ|12才|女性|闘狩人
  • おっとり紳士
    シルディ(ka2939
    エルフ|22才|男性|疾影士
  • 命を刃に
    レオン・イスルギ(ka3168
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • 符術剣士
    シェルミア・クリスティア(ka5955
    人間(蒼)|18才|女性|符術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓、です
メトロノーム・ソングライト(ka1267
エルフ|14才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2016/02/02 21:18:01
アイコン 質問、なのです
メトロノーム・ソングライト(ka1267
エルフ|14才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2016/01/29 21:59:23
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/01/29 07:07:49