ゲスト
(ka0000)
【闇光】竜種。全高16メートル
マスター:馬車猪

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/02/01 19:00
- 完成日
- 2016/02/04 22:34
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●カム・ラディ遺跡外縁部
黄色い炎が戦場を覆った。
傲慢の歪虚達が激しく動揺している。
不用意に口を開いた個体は喉から内蔵まで焼かれて消滅し、自慢の盾で防ごうとした人型歪虚は赤熱武具に焼かれて息絶える。
生き延びたのは敢えて前に出た精鋭8体のみ。
炎の主まで10メートルの距離まで近づくと、暑い他は快適な空気が出迎えた。
「貴様、何を考えてっ」
はるか高みにある竜種の頭をにらみつける。
たいした度胸ではあるが最悪の行動だ。
地表1メートルから2メートルの空間を竜種の尻尾が高速で飛来する。
表面は鉄錆色の薄い鱗、中身は凄まじい密度の筋肉のみ。
動きの始動から最高速に達するまで秒もかからない。尻尾に気づかぬ傲慢の大半を肉と骨と瘴気の挽肉に変えた。
「この糞トカゲが!」
「乱心したか」
人型が崩れて本性が現れる。
リアルブルー人が悪魔と言われて連想する存在そのものが、怒りをむき出しにして鋼より堅い爪で襲いかかる。
傲慢の生き残り2体はどちらも全高6メートル強。
対する竜種の歪虚は全高16メートル弱。ただし両の翼は垂れ下がり、胸から腹に至るまで酷い火傷で覆われている。
「この場で無為に滅ぶが」
左の悪魔がかぎ爪のついたつま先で竜種をけり上がる。
かつてハンター達がドラゴン型十三魔の体を駆け上がれたように、強欲に属する竜種は機敏さに欠ける傾向があり急所狙いも比較的楽だ。
が、かぎ爪状のつま先が空をつかんで悪魔本体が背中から倒れていく。
巨大な爪が振り下ろされる。
悪魔の頭が胸までめり込んで、限界を超えた圧力によって粉微塵に弾けた。
「馬鹿な」
右の悪魔が動揺する。
それでもかぎ爪を突き出す速度は凄まじく速い。雑にくっついただけの傷跡を切り開いて致命傷を与えるはずだった。
巨大な足に複数の筋肉による力がかかる。
熟練のハンターと比べると稚拙な、しかし並の竜種では望むことすらできない精度で滑るように動く。
当たればガルドブルムの鱗を貫けるはずの爪が、薄い鱗に斜めから当たって表面にのみ傷をつける。
「馬鹿なぁっ!」
悪魔の瞳が恐怖で濁る。
竜種の瞳には敵意すら無い。
五月蠅い蠅を潰すように無造作に、ただただ尻尾を速く振って潰した。
●数日前
竜種が地面を駆けている。
左右の翼は無残に破壊され、固い地面で高速で引きずられて全壊している。
腹の傷も酷い。
治療とは到底いえない、傷口を焼いただけの箇所が壊死しかかっている。
けれど目の光だけは異様に強い。
世界を焼き尽くすに足る情念が確かな理性で制御され、闇色の宝玉の如く輝いていた。
万全な翼が風を撃つ。
その音は頭上の高空から聞こえ、恐るべき速度で近づき竜種の目の前で停止した。
『落ち着け』
口腔奥に膨大な炎を集める竜種に対し、災厄の十三魔ガルドブルムが心底楽しげに笑いかける。
食欲を抑えきれずに舌なめずりする顔と表現しても間違いでは無い。
『お前の腹を切ったハンター目当てだな』
喉奥の輝きが増す。
自身を焼き尽くすかもしれない炎を前に、ガルドブルムは一層機嫌がよくなる。
『ならま、一つこの俺がイイコト教えてやるよ』
このまま人類領域に突入しても、迎撃に出てくるのは雑兵の群れだ。
大群を蹂躙し続けても最終的に出てくるのはCAMくらいで、お前は本懐を果たすこと無く滅ぶ。
そう、ガルドブルムは淡々と事実だけを指摘した。
『あっちだ』
北方の一点を翼で示す。
負のマテリアルに満ちた荒野だ。
その方向に延々飛び続ければ、少数の人類と例の龍がいるはずだ。
『いいか、人間は馬鹿じゃあ、ねェ。強欲を抱き続け、忠実であり続ける人間は少ねェかもしれんがな。……奴らはカム・ラディの神霊樹奪取に動く。北の馬鹿から力を分捕る為の中継拠点として使う為だ。なァ、考えてみろよ。奴らなら最精鋭で突っ込みそうじゃねエか』
喉奥の光が消えていく。
竜種の瞳がかつてない輝きを帯びる。
ガルドブルム自身はカム・ラディに向かうつもりはない。この竜種以外に自らの予測を教えるつもりもない。
勝つか負けるか分からない戦いにしたいからだ。
『ア? あァ、気にすんな。餞別さ、お前の強欲に対する、な』
ガルドブルムが脱力する。
地から顔を出した巨岩のように安定したまま、最小限の力で以て滑るように動く。
足の先から頭の頂点まで完全に近い制御がされている。
敵の動きを回避する動作と防ぐ構えが互いを打ち消さずに同居している。
これが、ハンターと戦うまでに彼が得たものだった。
『行け』
破滅を捲く歪虚の間に友愛も共感もない。
それぞれの欲に突き動かされ、二度と交わらぬ道を突き進んでいった。
●戦闘依頼
異様に単純な依頼だ。
ナディアの魔法でカム・ラディ遺跡へ転移。
転移門をつくる要人とその護衛達と別れ、脅威になる歪虚全てを討ち滅ぼすという内容だ。
あなたの担当は遺跡外縁部。
おそらく歪虚はこちらの奇襲に気づいていないだろうが、無防備とは考えづらい。
「妙な予感がするのじゃ」
転送直前にナディアが突然そんなことを言い出した。
今更止まれないし止まる気はないのだが、文句の一つも言いたくなる。
「むむむ……」
結局何がおかしいか分からないまま転送される。
あなたが全高16メートルと歪虚と遭遇する、数分前のことであった。
黄色い炎が戦場を覆った。
傲慢の歪虚達が激しく動揺している。
不用意に口を開いた個体は喉から内蔵まで焼かれて消滅し、自慢の盾で防ごうとした人型歪虚は赤熱武具に焼かれて息絶える。
生き延びたのは敢えて前に出た精鋭8体のみ。
炎の主まで10メートルの距離まで近づくと、暑い他は快適な空気が出迎えた。
「貴様、何を考えてっ」
はるか高みにある竜種の頭をにらみつける。
たいした度胸ではあるが最悪の行動だ。
地表1メートルから2メートルの空間を竜種の尻尾が高速で飛来する。
表面は鉄錆色の薄い鱗、中身は凄まじい密度の筋肉のみ。
動きの始動から最高速に達するまで秒もかからない。尻尾に気づかぬ傲慢の大半を肉と骨と瘴気の挽肉に変えた。
「この糞トカゲが!」
「乱心したか」
人型が崩れて本性が現れる。
リアルブルー人が悪魔と言われて連想する存在そのものが、怒りをむき出しにして鋼より堅い爪で襲いかかる。
傲慢の生き残り2体はどちらも全高6メートル強。
対する竜種の歪虚は全高16メートル弱。ただし両の翼は垂れ下がり、胸から腹に至るまで酷い火傷で覆われている。
「この場で無為に滅ぶが」
左の悪魔がかぎ爪のついたつま先で竜種をけり上がる。
かつてハンター達がドラゴン型十三魔の体を駆け上がれたように、強欲に属する竜種は機敏さに欠ける傾向があり急所狙いも比較的楽だ。
が、かぎ爪状のつま先が空をつかんで悪魔本体が背中から倒れていく。
巨大な爪が振り下ろされる。
悪魔の頭が胸までめり込んで、限界を超えた圧力によって粉微塵に弾けた。
「馬鹿な」
右の悪魔が動揺する。
それでもかぎ爪を突き出す速度は凄まじく速い。雑にくっついただけの傷跡を切り開いて致命傷を与えるはずだった。
巨大な足に複数の筋肉による力がかかる。
熟練のハンターと比べると稚拙な、しかし並の竜種では望むことすらできない精度で滑るように動く。
当たればガルドブルムの鱗を貫けるはずの爪が、薄い鱗に斜めから当たって表面にのみ傷をつける。
「馬鹿なぁっ!」
悪魔の瞳が恐怖で濁る。
竜種の瞳には敵意すら無い。
五月蠅い蠅を潰すように無造作に、ただただ尻尾を速く振って潰した。
●数日前
竜種が地面を駆けている。
左右の翼は無残に破壊され、固い地面で高速で引きずられて全壊している。
腹の傷も酷い。
治療とは到底いえない、傷口を焼いただけの箇所が壊死しかかっている。
けれど目の光だけは異様に強い。
世界を焼き尽くすに足る情念が確かな理性で制御され、闇色の宝玉の如く輝いていた。
万全な翼が風を撃つ。
その音は頭上の高空から聞こえ、恐るべき速度で近づき竜種の目の前で停止した。
『落ち着け』
口腔奥に膨大な炎を集める竜種に対し、災厄の十三魔ガルドブルムが心底楽しげに笑いかける。
食欲を抑えきれずに舌なめずりする顔と表現しても間違いでは無い。
『お前の腹を切ったハンター目当てだな』
喉奥の輝きが増す。
自身を焼き尽くすかもしれない炎を前に、ガルドブルムは一層機嫌がよくなる。
『ならま、一つこの俺がイイコト教えてやるよ』
このまま人類領域に突入しても、迎撃に出てくるのは雑兵の群れだ。
大群を蹂躙し続けても最終的に出てくるのはCAMくらいで、お前は本懐を果たすこと無く滅ぶ。
そう、ガルドブルムは淡々と事実だけを指摘した。
『あっちだ』
北方の一点を翼で示す。
負のマテリアルに満ちた荒野だ。
その方向に延々飛び続ければ、少数の人類と例の龍がいるはずだ。
『いいか、人間は馬鹿じゃあ、ねェ。強欲を抱き続け、忠実であり続ける人間は少ねェかもしれんがな。……奴らはカム・ラディの神霊樹奪取に動く。北の馬鹿から力を分捕る為の中継拠点として使う為だ。なァ、考えてみろよ。奴らなら最精鋭で突っ込みそうじゃねエか』
喉奥の光が消えていく。
竜種の瞳がかつてない輝きを帯びる。
ガルドブルム自身はカム・ラディに向かうつもりはない。この竜種以外に自らの予測を教えるつもりもない。
勝つか負けるか分からない戦いにしたいからだ。
『ア? あァ、気にすんな。餞別さ、お前の強欲に対する、な』
ガルドブルムが脱力する。
地から顔を出した巨岩のように安定したまま、最小限の力で以て滑るように動く。
足の先から頭の頂点まで完全に近い制御がされている。
敵の動きを回避する動作と防ぐ構えが互いを打ち消さずに同居している。
これが、ハンターと戦うまでに彼が得たものだった。
『行け』
破滅を捲く歪虚の間に友愛も共感もない。
それぞれの欲に突き動かされ、二度と交わらぬ道を突き進んでいった。
●戦闘依頼
異様に単純な依頼だ。
ナディアの魔法でカム・ラディ遺跡へ転移。
転移門をつくる要人とその護衛達と別れ、脅威になる歪虚全てを討ち滅ぼすという内容だ。
あなたの担当は遺跡外縁部。
おそらく歪虚はこちらの奇襲に気づいていないだろうが、無防備とは考えづらい。
「妙な予感がするのじゃ」
転送直前にナディアが突然そんなことを言い出した。
今更止まれないし止まる気はないのだが、文句の一つも言いたくなる。
「むむむ……」
結局何がおかしいか分からないまま転送される。
あなたが全高16メートルと歪虚と遭遇する、数分前のことであった。
リプレイ本文
●全高16メートル
転移直後に敵が迫っていた。
ルシェン・グライシス(ka5745)が瞬きする。
竜種歪虚の巨体が見せた錯覚で実際は数十メートルの距離がある。。
しかし防具越しに感じるある圧力は凄まじい。
「良い欲望ね」
殺意は感じない。
特定のものを求める思いが強すぎて、歪虚が普遍的に持つ滅びへの渇望が隠れてしまっている。
あの竜種には見覚えがある。
帝都近くの戦いで現れ撃退された、災厄の十三魔麾下の強力な歪虚だ。
既にドラッケンブレスの射程内にも関わらず、鉄錆色の竜は髪の毛1本分すら動かない。
「求めるのは誰……何か」
同行者と共に歪虚へ向かいながら独りごちる。
復讐が目的であるなら、己の腹を切り裂いたクリスティン・ガフ(ka1090)を目視した瞬間にブレスを使ったはずだ。
それで全滅するほどハンターはもろくはないけれども、戦いは竜種の有利に展開しただろう。。
「正々堂々の戦いが望みね。まったく……男の子だこと。だけど」
形の良い唇が艶を増して笑みの形をつくる。
竜種の尻尾の間合いの一歩外で止まる。
「聖導士である以上その勤めを果たさせて頂くわ」
ルシェンからわき出したマテリアルが黒い薔薇の形をとる。
そこから守りの力のみ抜け出て前衛の体を覆い、戦いが始まった。
「さぁて、竜殺しと行くか!」
アーサー・ホーガン(ka0471)は押さえていた気配を解放した。
位置は竜種の半壊した翼のうしろ。
敵自身の体と翼による死角であり、初歩的な隠密術を見破られたとしても敵に困難な回避か防御を強要する絶好の位置だ。
幅広い刀身の大剣を構えて突進する。
敵は見上げても視認困難なほど大きい。接触するだけで体が爆ぜかねない重量差がある。
そんな現状を正しく理解した上で、アーサーは普段と同じように駆け、エッケザックスを巨大な尻尾の根元に叩き込んだ。
「行け、クリスティン。ぶちかませ!」
手応えが軽い。鱗の堅い部分で受けられたことを感じつつ、アーサーは反対側にいる仲間に声をかけた。
360度を観る竜種の知覚が、アーサーが声をかけた方向に集中する。
そこにいたのはルシェル。次のプロテクションを準備中であり攻撃に加わっていない。
竜種の警戒が薄れた空間にクリスティンが進入する。
手には両手持ちの長大なサーベル。吹き出す紅黒いマテリアルは、CAMの倍はある竜種の負のマテリアルに負けていない。
「あの時腹を齧ったドラゴンステーキ殿とは」
竜種は特別な反応はしない。2つある腕のうち1つをクリスティンに移動させ、サーベルを防御可能な位置に巨大な爪を持ってくる。
「嬉しいな」
複数の、彼女とは別のマテリアルが紅と黒の間に交じる。
彼女の全身の筋がわずかずつ動き、爪を避け鉄錆色の鱗に届く位置へ体を運ぶ。
刃が宙を征く。
回避も防御も間に合わない竜の足にめり込み、骨に深い傷をつけて反対側から貫通した。
歪虚の気配が変わる。
怒りでも恨みでも無く、あえて当ててはめるなら安堵の感情が両の瞳に浮かぶ。
かつて以上の力を持った怨敵に出会えた。あとは全てを賭けて戦うだけだ。
「まずっ」
セリス・アルマーズ(ka1079) の腕が跳ね上がる。
長くて分厚い大重量の盾を持っているとは思えない速度だ。
が、その速度でも高速で振り下ろされる竜爪を防ぐのはぎりぎりだ。
先端が表面に触れた時点で大量の火花が散る。
視界の半分が火花に覆われる。衝突に伴う轟音で耳が半ば麻痺する。
「このっ」
鍛えた骨と筋肉とマテリアルでは足りない。
防御に特化したシールドディフェンスで衝撃を受け流して地面に流す。
永い時に耐えた石畳に蜘蛛の巣状のひびが入って砕け、鉄の靴に覆われたセリスの足がめり込んだ。
「ちっ……」
常人なら即死、CAMでも3度は耐えられない爪撃を多少の打撲程度ですませたのに、セリスの顔には緊迫した表情が浮かんでいる。
クリスティン達が複数方向から刃を繰り出しドラゴンを削っている。
竜種の傷が癒える様子は無い。しかし巨大な歪虚は少々削られても比率としてはたいした傷は負わず、逆にセリス達は一度受けるだけでヒールの使用を強いられる。生命力が違いすぎるのだ。
「来るぞっ!」
アーサーが警告を発する前にクリスティンが、警告とほぼ同時にセリスが飛んだ。
地表1メートルから2メートルの空間を肉の塊が通過する。
先端部で空気を切り裂く音が聞こえたのは、おそらく気のせいではないだろう。
セリスは白銀の全身甲冑を着込んだまま危なげ無く着地。
クリスティンを狙う爪撃の進路上に盾を構えて割り込む。
盾で受け流す。当たった箇所が赤熱して腕まで熱が伝わる。
「来なさいよ。鱗1つ残さず」
斜め左右から超高速で竜爪が接近する。避けづらくしかも高威力の、人間に向けるには過剰な攻撃力。
「浄化してやるわ!!」
両方の爪と盾が激突し、セリスの足下から膨大な量の瓦礫が吹き飛んだ。
●ドラゴンテイル
並の装甲板以上の鱗で覆われた肉の鞭が、縦横無尽に戦場を舞っている。
「リアル狩りゲーですかっ」
鎧武者が高速後方宙返りで竜の尻尾を回避した。
着時にはさすがに少し体制が崩れるが、回避時に行った移動で爪撃とドラゴンテイルの射程から逃れている。
「総長の言ってた妙な予感って、このドラゴンですね」
歪虚の喉奥に光が灯る。
灯ったときには和泉 澪(ka4070)は前に出ていてドラッケンブレスの間合いから消える。
「転移門設置の妨げにならないように」
竜種の意識が澪に集中した分ほかがおろそかになる。猛攻を加える白兵ハンターと竜種を横目に、澪は大胆に円を描いて移動し竜の腰に背中側から向かう。
「この場で討伐します!」
跳躍する。何度もハンターの攻撃を受けちぎれかけた竜足を足場にさらに飛んで、極太の尻尾付け根に最新の技術で作られた刀を突き立てる。
「うん、躱せ……る?」
澪にミスは一切無い。
ただ、反撃のドラゴンテイルの振りが歪虚自身も予想外なほどに絶妙で、回避も防御も不可能なタイミングで澪に直撃した。
女性としては低くない、女戦士としては大きくもない肢体が石畳の上にたたきつけられる。
幼少時からの修行で染みついた受け身が無意識に出来てい無ければ、良くて再起不能だった。
「痛……」
頭を軽く振って起き上がる。
声が普通に出ていることに、彼女自身が最もよく驚いていた。
「間に合いましたね」
貴公子そのものの声と、対怪獣戦にはあまりに不似合いな音が全く同時に聞こえた。
「回復するまでは防御に専念を。加護……プロテクション・スヴェルは頭部の防護に特化しています。尻尾を受ける際は注意してください」
金髪碧眼のクローディオ・シャール(ka0030)が癒やしの力を送ってくる。
乗っているのがメタリックシルバーのママチャリではなく白い戦馬なら、澪もくらっとしてしまったかもしれない。
「来るぞ!」
言うより速くアーサーが仕掛け、攻撃の予備動作が終わる前に尻尾に切りつけた。
ドラゴンテイルが空間を支配する。
直線のダメージで少し狙いが甘いがとにかく攻撃範囲が広い。
アーサーはぎりぎりで回避できたが、それまで攻撃にまわっていた白兵ハンター複数が防御や回避を強いられる。
「これはまた……なかなかの大物が現れたものだな」
向きを180度変えて再度尻尾が飛来。
クローディオは長方形の盾で以て防ぎはしたが、尻尾の勢いを減らすことはできない。
澪も今度は完璧な回避に成功したものの、こうまで頻繁に攻撃されると打つ手が限られてくる。
「尻尾を無効化出来れば、多少なりとも楽になるはずですが…っ!」
裏拳の要領で振るわれた竜爪をしゃがんで躱す。
「しゃぁ!!」
弾くようにカウンターで剣を当てる。
爪と刃の力と速度がかみ合い爪の付け根に深い傷を付けた。
だが元が大きすぎて機能停止にはほど遠い。
アーサー達が爪を防いで稼いだ時間を活かして竜種正面から猛攻が行われ、しかし尻尾の旋回によってリズムを崩される。
「でけぇのも良し悪しだよな」
アーサーもダメージが蓄積している。
練り込んだマテリアルにより高速治癒するが既に残弾に余裕が無い。
「澪さん、何か案は……あるようですね」
治癒以外の目的でマテリアルを使う。軽度の歪虚汚染に冒されかかったハンターから悪影響が消える。
「囮を務めます。存分に」
クローディオが竜種に向かう。
マントが翻って十字の紋章が雄々しく揺れ、よく整備されたママチャリが軽快な音を立てた。
「戦ってください」
尻尾の動きに変化が生じた。
腰から胸を狙う高度ではなく、ハンター達の頭部から胸を消し飛ばすための軌道に変化する。
「この程度恐れるには値しない。当初の予定通り、与えられた使命を全うするのみ」
勢いよく一漕ぎして位置を調整。
健在な方の腕で盾を構え、尻尾を受けて澪に向かって流す。
「やぁっ!」
斬撃が尻尾の中心近くまで切り裂く。
竜種は絶妙に力加減で流血を押さえて澪の頭を狙う。
「鳴隼一刀流」
回避の動きで力を溜めて。
「隼旋斬!」
飛び上がって極太の尻尾に飛び乗り、全身と刃で美しい円を描く。
傷口にするりと刃が入り反対側に抜けた。
●竜種
巨大な尻尾が半ばに1本の線が引かれそのままずれていく。
竜の唸り、ブーツが硬い石畳を踏む音、心は耐えられても体が耐えられずに漏れた呻きに満ちた戦場を、1発の銃弾が進む。
ワイヤーが巨大な足爪の先端に巻き付く。
アーサーが危険を冒して手の爪を弾く。
繊細な回避行動を封じられ、防御に使うための爪と腕を一瞬にも満たない間無力化された竜の鱗に、85度以上の角度で銃弾が命中する。
格の割には薄い鱗を貫き深くで停止する。発狂確実な激痛に襲われているなのに竜種の動きに変化はない。
「魅力的なお嬢さん達に目が行くのは解るが此方も見てくれねーとオジサン暇なんだわ」
動じないのは紫月・海斗(ka0788)も同じだ。
戦況を正しく把握した上で、焦らず驕らず弾を送り続ける。
これが実に巧くいっている。初撃を除けばトータルで最も多くのダメージを与えている1人だ。
体積にしてCAMの10倍以上の巨体がすり足で刃を躱す。
「何あれ旦那の指金?」
竜種の動きに覚えがある。
正確に表現するならCAMサイズのガルドブルムの動きを強引に翻案したものだ。
「あんましこーいう事しねー気がすんだけどな?」
単なる気まぐれってこともありそうだが、と事実に近い推測をする間も攻撃の手は休めない。
竜種から大量の血が流れて地面を汚している。
負のマテリアルが濃い血の中に、正のマテリアルが含まれた血が数リットル。
全てハンターのものだ。敵が予想以上に頑丈で、敵を重傷直前に追い込むかわりに治癒術が尽きかけている。
「さあ、どうするよ」
消滅直前の圧倒的重圧に耐えて目の前のハンターを削り切るか、今ならぎりぎり3度使えるドラッケンブレスに頼るか。
「ハッ!」
竜の首が持ち上がる。喉の奥に眩い光がうまれる。
海斗が遮蔽物を捨てジェットブーツで前へ跳ぶ。
「根性が足りねぇなァ!」
炎が増して光の柱が伸びる。
海斗の加速が終わる。ブレスの最低射程より近くに着地。半ば千切れた足の裂傷に雷を叩き込む。
巨体が一時的に止まる。
「血が足りない人は爪とブレスのが届かない距離に撤退!」
斬龍刀「天墜」が竜の足1つを切断する。
竜種の絶妙の体重移動により片足で安定を保ち、異様に避け辛い軌道とタイミングで左右から竜爪が迫る。
そこまでの技を駆使されてもリリティア・オルベール(ka3054)なら余裕で回避可能だ。
その中に竜種にとってのまぐれ当たりが混じっていなければが。
片方の爪の欠けた部分が、強固ではあるが軽量な鎧に引っかかる。
これでは回避も防御もできない。壮絶な重量がリリティアの体にかかる。
「次から次へと、この世界はほんとーに」
マテリアルで真紅に染まった瞳が輝く。
勢いを増すオーラが新たに翼の形をとり合計3対6枚の翼となり宙を打つ。
「飽きさせないですね!」
純粋な生命力と体力に任して拘束を振りほどく。
これまで数十度仲間をサポートしてきたワイヤーを放って竜種の回避行動を妨害。
この期に及んでも動きの精度を保った竜種を、それを上回る精度で駆け上がる。
彼女の目の前に、傷だらけで本来の防御力を失った腹が無防備に存在した。
マテリアルが繋がる。
仲間の応援と一緒に力が伝わり爆発的に膨れあがる。
「これで!」
下から上に切り上げる。
少数残っていた鱗が砕かれ、単体でも強靱であった皮膚が切断され、それでもなお勢いを失わぬ刃に重要臓器複数が両断され、さらに翼を操る神経を粉砕してようやく停止した。
「飛べない竜はなんでしょうね、ただのトカゲですか?」
腹を蹴って剣を斬龍刀を引き抜く動作で後ろへ跳ぶ。
拳銃弾が竜の頭から胸にかけて着弾し追撃を妨害した。
「射撃はなれませんけど、四の五の言ってる訳にはいきませんからね。……もう、躱す力もないか」
魔導拳銃を片手に構えてルシェンが呟いた。
はじめの頃は、ワイヤーの援護があって初めて有効打が出る可能性が出てくるだったのに、今では普通に竜種に当たる。
片足と片翼と尻尾まで失うと、さすがに精妙な身体制御も失われるようだ。
「止めはしません。武運を」
クローディオが最後のヒールを使ってクリスティンを見送った。
血が足りない。体温が危険な域まで低下している。
生命力も万全には遠く、今なら回避に失敗した時点で地面に伏すのは確実だ。
「お前のような強欲を喰らう事で私の力は高まる」
巨大な爪が斜め横から迫る。
ただ前に進むことで回避する。
「恐らくお前はガルド殿の入れ知恵で来たのだろうが」
意外なことに、この竜種の技の他にガルドブルムの気配はない。
「本懐は遂げられず可哀想にな」
歪虚が己の体を支えきれずに前のめりに倒れる。
薄い鱗に覆われた喉に、弾と刃が突き刺さる。
「それではごちそうさま。強欲なドラゴンステーキ殿」
ドラゴンの首筋が内側から弾け、高速で閉まっていく口がクリスティンに迫る。
天剣絶刀は止まらない。
歪虚の意地も誇りも何もかもを上回り、竜鱗と顎を砕いて存在の核を切り裂いた。
負のマテリアルが消滅していく。
濃密かつ膨大過ぎて、マイナスが0に戻るだけなのに浄化されているようにも感じる。
「ガルドブルムはどこにいるの?」
リリティアの問いは返事を期待したものではなかった。
「っ、頭に直接」
竜が薄れる。反対側が透けて見える。
「CAM。竜……龍?」
断片的な情報以外は何も残さず、巨大な竜種歪虚はこの世から消滅した。
転移直後に敵が迫っていた。
ルシェン・グライシス(ka5745)が瞬きする。
竜種歪虚の巨体が見せた錯覚で実際は数十メートルの距離がある。。
しかし防具越しに感じるある圧力は凄まじい。
「良い欲望ね」
殺意は感じない。
特定のものを求める思いが強すぎて、歪虚が普遍的に持つ滅びへの渇望が隠れてしまっている。
あの竜種には見覚えがある。
帝都近くの戦いで現れ撃退された、災厄の十三魔麾下の強力な歪虚だ。
既にドラッケンブレスの射程内にも関わらず、鉄錆色の竜は髪の毛1本分すら動かない。
「求めるのは誰……何か」
同行者と共に歪虚へ向かいながら独りごちる。
復讐が目的であるなら、己の腹を切り裂いたクリスティン・ガフ(ka1090)を目視した瞬間にブレスを使ったはずだ。
それで全滅するほどハンターはもろくはないけれども、戦いは竜種の有利に展開しただろう。。
「正々堂々の戦いが望みね。まったく……男の子だこと。だけど」
形の良い唇が艶を増して笑みの形をつくる。
竜種の尻尾の間合いの一歩外で止まる。
「聖導士である以上その勤めを果たさせて頂くわ」
ルシェンからわき出したマテリアルが黒い薔薇の形をとる。
そこから守りの力のみ抜け出て前衛の体を覆い、戦いが始まった。
「さぁて、竜殺しと行くか!」
アーサー・ホーガン(ka0471)は押さえていた気配を解放した。
位置は竜種の半壊した翼のうしろ。
敵自身の体と翼による死角であり、初歩的な隠密術を見破られたとしても敵に困難な回避か防御を強要する絶好の位置だ。
幅広い刀身の大剣を構えて突進する。
敵は見上げても視認困難なほど大きい。接触するだけで体が爆ぜかねない重量差がある。
そんな現状を正しく理解した上で、アーサーは普段と同じように駆け、エッケザックスを巨大な尻尾の根元に叩き込んだ。
「行け、クリスティン。ぶちかませ!」
手応えが軽い。鱗の堅い部分で受けられたことを感じつつ、アーサーは反対側にいる仲間に声をかけた。
360度を観る竜種の知覚が、アーサーが声をかけた方向に集中する。
そこにいたのはルシェル。次のプロテクションを準備中であり攻撃に加わっていない。
竜種の警戒が薄れた空間にクリスティンが進入する。
手には両手持ちの長大なサーベル。吹き出す紅黒いマテリアルは、CAMの倍はある竜種の負のマテリアルに負けていない。
「あの時腹を齧ったドラゴンステーキ殿とは」
竜種は特別な反応はしない。2つある腕のうち1つをクリスティンに移動させ、サーベルを防御可能な位置に巨大な爪を持ってくる。
「嬉しいな」
複数の、彼女とは別のマテリアルが紅と黒の間に交じる。
彼女の全身の筋がわずかずつ動き、爪を避け鉄錆色の鱗に届く位置へ体を運ぶ。
刃が宙を征く。
回避も防御も間に合わない竜の足にめり込み、骨に深い傷をつけて反対側から貫通した。
歪虚の気配が変わる。
怒りでも恨みでも無く、あえて当ててはめるなら安堵の感情が両の瞳に浮かぶ。
かつて以上の力を持った怨敵に出会えた。あとは全てを賭けて戦うだけだ。
「まずっ」
セリス・アルマーズ(ka1079) の腕が跳ね上がる。
長くて分厚い大重量の盾を持っているとは思えない速度だ。
が、その速度でも高速で振り下ろされる竜爪を防ぐのはぎりぎりだ。
先端が表面に触れた時点で大量の火花が散る。
視界の半分が火花に覆われる。衝突に伴う轟音で耳が半ば麻痺する。
「このっ」
鍛えた骨と筋肉とマテリアルでは足りない。
防御に特化したシールドディフェンスで衝撃を受け流して地面に流す。
永い時に耐えた石畳に蜘蛛の巣状のひびが入って砕け、鉄の靴に覆われたセリスの足がめり込んだ。
「ちっ……」
常人なら即死、CAMでも3度は耐えられない爪撃を多少の打撲程度ですませたのに、セリスの顔には緊迫した表情が浮かんでいる。
クリスティン達が複数方向から刃を繰り出しドラゴンを削っている。
竜種の傷が癒える様子は無い。しかし巨大な歪虚は少々削られても比率としてはたいした傷は負わず、逆にセリス達は一度受けるだけでヒールの使用を強いられる。生命力が違いすぎるのだ。
「来るぞっ!」
アーサーが警告を発する前にクリスティンが、警告とほぼ同時にセリスが飛んだ。
地表1メートルから2メートルの空間を肉の塊が通過する。
先端部で空気を切り裂く音が聞こえたのは、おそらく気のせいではないだろう。
セリスは白銀の全身甲冑を着込んだまま危なげ無く着地。
クリスティンを狙う爪撃の進路上に盾を構えて割り込む。
盾で受け流す。当たった箇所が赤熱して腕まで熱が伝わる。
「来なさいよ。鱗1つ残さず」
斜め左右から超高速で竜爪が接近する。避けづらくしかも高威力の、人間に向けるには過剰な攻撃力。
「浄化してやるわ!!」
両方の爪と盾が激突し、セリスの足下から膨大な量の瓦礫が吹き飛んだ。
●ドラゴンテイル
並の装甲板以上の鱗で覆われた肉の鞭が、縦横無尽に戦場を舞っている。
「リアル狩りゲーですかっ」
鎧武者が高速後方宙返りで竜の尻尾を回避した。
着時にはさすがに少し体制が崩れるが、回避時に行った移動で爪撃とドラゴンテイルの射程から逃れている。
「総長の言ってた妙な予感って、このドラゴンですね」
歪虚の喉奥に光が灯る。
灯ったときには和泉 澪(ka4070)は前に出ていてドラッケンブレスの間合いから消える。
「転移門設置の妨げにならないように」
竜種の意識が澪に集中した分ほかがおろそかになる。猛攻を加える白兵ハンターと竜種を横目に、澪は大胆に円を描いて移動し竜の腰に背中側から向かう。
「この場で討伐します!」
跳躍する。何度もハンターの攻撃を受けちぎれかけた竜足を足場にさらに飛んで、極太の尻尾付け根に最新の技術で作られた刀を突き立てる。
「うん、躱せ……る?」
澪にミスは一切無い。
ただ、反撃のドラゴンテイルの振りが歪虚自身も予想外なほどに絶妙で、回避も防御も不可能なタイミングで澪に直撃した。
女性としては低くない、女戦士としては大きくもない肢体が石畳の上にたたきつけられる。
幼少時からの修行で染みついた受け身が無意識に出来てい無ければ、良くて再起不能だった。
「痛……」
頭を軽く振って起き上がる。
声が普通に出ていることに、彼女自身が最もよく驚いていた。
「間に合いましたね」
貴公子そのものの声と、対怪獣戦にはあまりに不似合いな音が全く同時に聞こえた。
「回復するまでは防御に専念を。加護……プロテクション・スヴェルは頭部の防護に特化しています。尻尾を受ける際は注意してください」
金髪碧眼のクローディオ・シャール(ka0030)が癒やしの力を送ってくる。
乗っているのがメタリックシルバーのママチャリではなく白い戦馬なら、澪もくらっとしてしまったかもしれない。
「来るぞ!」
言うより速くアーサーが仕掛け、攻撃の予備動作が終わる前に尻尾に切りつけた。
ドラゴンテイルが空間を支配する。
直線のダメージで少し狙いが甘いがとにかく攻撃範囲が広い。
アーサーはぎりぎりで回避できたが、それまで攻撃にまわっていた白兵ハンター複数が防御や回避を強いられる。
「これはまた……なかなかの大物が現れたものだな」
向きを180度変えて再度尻尾が飛来。
クローディオは長方形の盾で以て防ぎはしたが、尻尾の勢いを減らすことはできない。
澪も今度は完璧な回避に成功したものの、こうまで頻繁に攻撃されると打つ手が限られてくる。
「尻尾を無効化出来れば、多少なりとも楽になるはずですが…っ!」
裏拳の要領で振るわれた竜爪をしゃがんで躱す。
「しゃぁ!!」
弾くようにカウンターで剣を当てる。
爪と刃の力と速度がかみ合い爪の付け根に深い傷を付けた。
だが元が大きすぎて機能停止にはほど遠い。
アーサー達が爪を防いで稼いだ時間を活かして竜種正面から猛攻が行われ、しかし尻尾の旋回によってリズムを崩される。
「でけぇのも良し悪しだよな」
アーサーもダメージが蓄積している。
練り込んだマテリアルにより高速治癒するが既に残弾に余裕が無い。
「澪さん、何か案は……あるようですね」
治癒以外の目的でマテリアルを使う。軽度の歪虚汚染に冒されかかったハンターから悪影響が消える。
「囮を務めます。存分に」
クローディオが竜種に向かう。
マントが翻って十字の紋章が雄々しく揺れ、よく整備されたママチャリが軽快な音を立てた。
「戦ってください」
尻尾の動きに変化が生じた。
腰から胸を狙う高度ではなく、ハンター達の頭部から胸を消し飛ばすための軌道に変化する。
「この程度恐れるには値しない。当初の予定通り、与えられた使命を全うするのみ」
勢いよく一漕ぎして位置を調整。
健在な方の腕で盾を構え、尻尾を受けて澪に向かって流す。
「やぁっ!」
斬撃が尻尾の中心近くまで切り裂く。
竜種は絶妙に力加減で流血を押さえて澪の頭を狙う。
「鳴隼一刀流」
回避の動きで力を溜めて。
「隼旋斬!」
飛び上がって極太の尻尾に飛び乗り、全身と刃で美しい円を描く。
傷口にするりと刃が入り反対側に抜けた。
●竜種
巨大な尻尾が半ばに1本の線が引かれそのままずれていく。
竜の唸り、ブーツが硬い石畳を踏む音、心は耐えられても体が耐えられずに漏れた呻きに満ちた戦場を、1発の銃弾が進む。
ワイヤーが巨大な足爪の先端に巻き付く。
アーサーが危険を冒して手の爪を弾く。
繊細な回避行動を封じられ、防御に使うための爪と腕を一瞬にも満たない間無力化された竜の鱗に、85度以上の角度で銃弾が命中する。
格の割には薄い鱗を貫き深くで停止する。発狂確実な激痛に襲われているなのに竜種の動きに変化はない。
「魅力的なお嬢さん達に目が行くのは解るが此方も見てくれねーとオジサン暇なんだわ」
動じないのは紫月・海斗(ka0788)も同じだ。
戦況を正しく把握した上で、焦らず驕らず弾を送り続ける。
これが実に巧くいっている。初撃を除けばトータルで最も多くのダメージを与えている1人だ。
体積にしてCAMの10倍以上の巨体がすり足で刃を躱す。
「何あれ旦那の指金?」
竜種の動きに覚えがある。
正確に表現するならCAMサイズのガルドブルムの動きを強引に翻案したものだ。
「あんましこーいう事しねー気がすんだけどな?」
単なる気まぐれってこともありそうだが、と事実に近い推測をする間も攻撃の手は休めない。
竜種から大量の血が流れて地面を汚している。
負のマテリアルが濃い血の中に、正のマテリアルが含まれた血が数リットル。
全てハンターのものだ。敵が予想以上に頑丈で、敵を重傷直前に追い込むかわりに治癒術が尽きかけている。
「さあ、どうするよ」
消滅直前の圧倒的重圧に耐えて目の前のハンターを削り切るか、今ならぎりぎり3度使えるドラッケンブレスに頼るか。
「ハッ!」
竜の首が持ち上がる。喉の奥に眩い光がうまれる。
海斗が遮蔽物を捨てジェットブーツで前へ跳ぶ。
「根性が足りねぇなァ!」
炎が増して光の柱が伸びる。
海斗の加速が終わる。ブレスの最低射程より近くに着地。半ば千切れた足の裂傷に雷を叩き込む。
巨体が一時的に止まる。
「血が足りない人は爪とブレスのが届かない距離に撤退!」
斬龍刀「天墜」が竜の足1つを切断する。
竜種の絶妙の体重移動により片足で安定を保ち、異様に避け辛い軌道とタイミングで左右から竜爪が迫る。
そこまでの技を駆使されてもリリティア・オルベール(ka3054)なら余裕で回避可能だ。
その中に竜種にとってのまぐれ当たりが混じっていなければが。
片方の爪の欠けた部分が、強固ではあるが軽量な鎧に引っかかる。
これでは回避も防御もできない。壮絶な重量がリリティアの体にかかる。
「次から次へと、この世界はほんとーに」
マテリアルで真紅に染まった瞳が輝く。
勢いを増すオーラが新たに翼の形をとり合計3対6枚の翼となり宙を打つ。
「飽きさせないですね!」
純粋な生命力と体力に任して拘束を振りほどく。
これまで数十度仲間をサポートしてきたワイヤーを放って竜種の回避行動を妨害。
この期に及んでも動きの精度を保った竜種を、それを上回る精度で駆け上がる。
彼女の目の前に、傷だらけで本来の防御力を失った腹が無防備に存在した。
マテリアルが繋がる。
仲間の応援と一緒に力が伝わり爆発的に膨れあがる。
「これで!」
下から上に切り上げる。
少数残っていた鱗が砕かれ、単体でも強靱であった皮膚が切断され、それでもなお勢いを失わぬ刃に重要臓器複数が両断され、さらに翼を操る神経を粉砕してようやく停止した。
「飛べない竜はなんでしょうね、ただのトカゲですか?」
腹を蹴って剣を斬龍刀を引き抜く動作で後ろへ跳ぶ。
拳銃弾が竜の頭から胸にかけて着弾し追撃を妨害した。
「射撃はなれませんけど、四の五の言ってる訳にはいきませんからね。……もう、躱す力もないか」
魔導拳銃を片手に構えてルシェンが呟いた。
はじめの頃は、ワイヤーの援護があって初めて有効打が出る可能性が出てくるだったのに、今では普通に竜種に当たる。
片足と片翼と尻尾まで失うと、さすがに精妙な身体制御も失われるようだ。
「止めはしません。武運を」
クローディオが最後のヒールを使ってクリスティンを見送った。
血が足りない。体温が危険な域まで低下している。
生命力も万全には遠く、今なら回避に失敗した時点で地面に伏すのは確実だ。
「お前のような強欲を喰らう事で私の力は高まる」
巨大な爪が斜め横から迫る。
ただ前に進むことで回避する。
「恐らくお前はガルド殿の入れ知恵で来たのだろうが」
意外なことに、この竜種の技の他にガルドブルムの気配はない。
「本懐は遂げられず可哀想にな」
歪虚が己の体を支えきれずに前のめりに倒れる。
薄い鱗に覆われた喉に、弾と刃が突き刺さる。
「それではごちそうさま。強欲なドラゴンステーキ殿」
ドラゴンの首筋が内側から弾け、高速で閉まっていく口がクリスティンに迫る。
天剣絶刀は止まらない。
歪虚の意地も誇りも何もかもを上回り、竜鱗と顎を砕いて存在の核を切り裂いた。
負のマテリアルが消滅していく。
濃密かつ膨大過ぎて、マイナスが0に戻るだけなのに浄化されているようにも感じる。
「ガルドブルムはどこにいるの?」
リリティアの問いは返事を期待したものではなかった。
「っ、頭に直接」
竜が薄れる。反対側が透けて見える。
「CAM。竜……龍?」
断片的な情報以外は何も残さず、巨大な竜種歪虚はこの世から消滅した。
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
---|
面白かった! | 12人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
- The Fragarach
リリティア・オルベール(ka3054)
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
- 鬼塚 陸(ka0038) → セリス・アルマーズ(ka1079)
- 岩井崎 メル(ka0520) → リリティア・オルベール(ka3054)
- 柊 真司(ka0705) → 紫月・海斗(ka0788)
- ピオス・シルワ(ka0987) → リリティア・オルベール(ka3054)
- メイム(ka2290) → クリスティン・ガフ(ka1090)
- Gacrux(ka2726) → クリスティン・ガフ(ka1090)
- シガレット=ウナギパイ(ka2884) → クリスティン・ガフ(ka1090)
- Holmes(ka3813) → セリス・アルマーズ(ka1079)
- 玉兎 小夜(ka6009) → リリティア・オルベール(ka3054)
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
相談卓 クリスティン・ガフ(ka1090) 人間(クリムゾンウェスト)|19才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2016/01/31 19:09:56 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/01/27 01:48:20 |