ゲスト
(ka0000)
迷いの闇
マスター:水貴透子

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/06/16 15:00
- 完成日
- 2014/06/21 20:34
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
大型刑務所――デッドウェスト・ジェイル(DWJ)。
要塞都市から離れた場所に存在する重々しい場所。
ここには軽犯罪者から重犯罪者まで、様々な罪を犯した人間たちが収監されている。
窃盗、傷害、殺人――……何らかの罪を追う人間が、罪を償うために在籍する場所。
※※※
「……何故、こんな事になった?」
監視員の女性が忌々しげに呟く。
彼女の前には、先日新しく護送員として働き始めた若い男性が震えながら俯いている。
「申し訳ございません! 本日より収監予定の囚人に、逃げられてしまいました……!」
「……結果は聞いていない。私が聞いているのは、そこに至るまでの過程だ」
小さく舌打ちをしながら、女性は護送員に話を続けるように促す。
「……囚人が、用を足したいと言ったので……護送車から降ろしたんですが、その隙に後ろから殴られて」
護送員が言い終わらないうちに、女性が深いため息を吐いた。
「用を足したい? そんな言葉を信じて、護送車から降ろしたというのか……愚かにもほどがあるな」
「すみません、軽犯罪者でしたし、わざわざ逃げなくても一年ほどで出所できる人間だったので……」
「たかが一年でも、拘束される側からすれば、その一年は果てしなく長いものだ。逃げない理由にはならん」
女性の言葉に、再び護送員がうつむく。
「しかし、デッドウェスト・ジェイルの人間で探しに行けるほど、ここの人員は大勢ではない」
「……それでは、どうするのですか?」
「人を雇って、探しに行かせる。お前は反省房行きだ。自分の愚かさが招いた事態を、深く反省するんだな」
カツン、と靴音を鳴らしながら女性は護送員の前から姿を消した。
彼女が向かった先は――……。
要塞都市から離れた場所に存在する重々しい場所。
ここには軽犯罪者から重犯罪者まで、様々な罪を犯した人間たちが収監されている。
窃盗、傷害、殺人――……何らかの罪を追う人間が、罪を償うために在籍する場所。
※※※
「……何故、こんな事になった?」
監視員の女性が忌々しげに呟く。
彼女の前には、先日新しく護送員として働き始めた若い男性が震えながら俯いている。
「申し訳ございません! 本日より収監予定の囚人に、逃げられてしまいました……!」
「……結果は聞いていない。私が聞いているのは、そこに至るまでの過程だ」
小さく舌打ちをしながら、女性は護送員に話を続けるように促す。
「……囚人が、用を足したいと言ったので……護送車から降ろしたんですが、その隙に後ろから殴られて」
護送員が言い終わらないうちに、女性が深いため息を吐いた。
「用を足したい? そんな言葉を信じて、護送車から降ろしたというのか……愚かにもほどがあるな」
「すみません、軽犯罪者でしたし、わざわざ逃げなくても一年ほどで出所できる人間だったので……」
「たかが一年でも、拘束される側からすれば、その一年は果てしなく長いものだ。逃げない理由にはならん」
女性の言葉に、再び護送員がうつむく。
「しかし、デッドウェスト・ジェイルの人間で探しに行けるほど、ここの人員は大勢ではない」
「……それでは、どうするのですか?」
「人を雇って、探しに行かせる。お前は反省房行きだ。自分の愚かさが招いた事態を、深く反省するんだな」
カツン、と靴音を鳴らしながら女性は護送員の前から姿を消した。
彼女が向かった先は――……。
リプレイ本文
●脱走犯を捕まえるために
「……歪虚との戦闘だけかと思ったけど、こういう脱獄犯の捜索とかもやるんだ」
まるで何でも屋だなぁ、と言葉を付け足しながら呟いたのは依頼を受けたキヅカ・リク(ka0038)だった。
「すまないな、今は軽犯罪者の捜索に裂ける人員がいない。君達を頼る他ないんだ」
女性監視員は酷く申し訳なさそうな表情を見せ、ハンター達に深く頭を下げる。
「女の子が簡単に頭を下げちゃいけないよー? ほら、俺達に任せて?」
テオドール・ロチェス(ka0138)は、女性監視員の手を握り、にっこりと笑顔を見せる。
「そんな顔をしなくても、ちゃーんと頼まれた仕事はやるよ? 荒事は皆にお任せだけど」
「頼りにはしているが、同意なき女性への接触は軽犯罪と――……」
「テオさん、テオさん! 手を離さないと、逃げた人の代わりに入れられちゃいますよ!」
女性監視員の言葉を聞き、慌てて2人の間に入ったのはレイフェン=ランパード(ka0536)だった。
実際はこの程度で刑務所に入れられるはずはないが、どうやらハンター達に依頼してきた女性監視員は、妙に真面目で冗談の通じない相手のようだ。
「逃げた人って窃盗犯だったんだっけ? 窃盗ねぇ……もしかしたら理由があるのかもしれないけど、だからって犯罪に手を染めていいわけじゃないからなー」
ため息混じりに呟いたのは留内陽平(ka0291)。こんな時代だからこそ、色々な事情を持つ人間はいるだろうが、犯罪は犯罪――……というのが、彼の心のようだ。
「ボクもそう思う。どんなに小さな罪だとしても、償う事から逃げちゃダメだよね」
レホス・エテルノ・リベルター(ka0498)は女性監視員から渡された資料を読みながら、小さく頷き、そしてしっかりと自分の考えを告げた。
「っていうか、この世界の犯罪者に基本的人権的なものはあるのか? まさか捕まったら、そのまま出られないとか、そういうわけでもないんだよな?」
「犯した罪の重さによって、DWJに服役する期間が決まる。こんな時代だからこそ、犯罪者はしっかりと隔離しなくてはならないんだ、野放しにすれば……それこそ地獄絵図になるのは分かりきっているからな」
レイフェンの言葉を聞き、女性監視員が答える。
「状況によっては情状酌量も認められ、服役態度次第では定められた期間より早く出る事も可能だ」
「なるほど、その辺は僕達のいた世界と大して変わらないって事かな」
「……実際どうだかわからねえけど、資料だけだと俺に似てるんだよな、この逃げた奴」
資料を読みながら、ヒースクリフ(ka1686)が深いため息を吐く。
「なるほど、つまりヒースクリフさんを目安にして探せばいいってことかな」
「……そうそう、って違うだろ! いくらなんでも俺を目安って、どんだけ曖昧だよ」
「冗談だって、ちょっとからかっただけなんだから本気にしちゃダメだよ」
レホスは笑いながら答え、ヒースクリフは小さく肩を竦めた。
「ま、受けたからにはがんばんないとね」
さて、労働しますかぁ――……と言葉を付け足し、キヅカが大きく伸びをする。
「私はここで待つ、諸君らの活躍を祈っているぞ」
女性監視員の言葉を合図に、ハンター達の仕事は始まりを告げた。
●見渡す限りの平原
「これ、結構に分かりやすい場所だね。どの方向からも見えるだろうし……」
キヅカが指差したのは、少し大きめの岩。
ハンター達は、予めある程度の相談をしており、脱走犯を追い詰める場所と捜索範囲を決める事にしていた。
幸いにも目印になる物はあるし、周りからも見やすい場所であり、ハンター達の条件に適った岩も存在している。
「決めた時間に1度はここに戻ってくるようにして、状況を共有し合うっていうのもいいかもしれない」
「今回の捜索ってバラバラになるんだよね? はぁ……女の子と一緒が良かったな」
テオドールは大袈裟なくらいのため息と共に、レホスをちらっと見つめる。
「これはお仕事なんだよ? ちゃんとやらないと逃げられちゃうんだから」
レホスが呆れたように呟くと「分かってるって」と手をひらひらさせながら、テオドールは答えた。
「捕縛用の縄は借りれたから、捕まえたらこれで縛って逃げられないようにすればいいかな」
留内は女性監視員から借りてきた縄を見せながら、ハンター達に言葉を投げかける。
「それはいいね。強引な方法で逃げてるし、見つけても大人しく捕まってくれる可能性ってのは低いだろうし」
留内の持つ縄を見つめながら、レイフェンが頷いて答える。
「俺はなるべく情報を、すぐに共有出来るように心がけるよ」
キヅカは軽く手を挙げながら呟く。彼は捜索範囲を持たず、全員の捜索範囲を往復する連絡係として行動する事に決まっている。もちろん決めた時間に集合するのは当たり前だが、連絡係がいれば即座の行動も出来るから懸命な判断と言えるだろう。
「さて、面倒だがやるしかないか」
ヒースクリフがため息混じりに呟き、行動を開始し始めたのだった。
そして、同時刻。
遠くから、身を屈めてハンター達を見つめる視線があった。
「くそ、早かったな。さっさとこの地点を抜けておけば良かった。すぐに動けば危険だと身を隠していたのが失敗だったか」
ハンター達が散っていく姿を見つめる男性は、DWJの監視員から依頼された捕縛対象者だった。
「中々に広いからどうやって探せばいいのかな」
レホスは遠くを見る仕草をしながら、ため息混じりに呟く。
「こんな場所でローラー作戦ってのもなぁ、時間が掛かりすぎるし……地面とかの変化に注意しながら探すしかないか。俺はこっちを探すから、レホスさんはそっちよろしく」
留内は言葉を残して、そのままレホスの側から離れて行った。
「ボクも行こうかな。出来れば抵抗なく降伏してほしいんだけどね」
レホスは用意したダーツを見つめながら呟く。状況から見ても、大人しく降伏する可能性が低いと考えられ、レホスは最終手段としてダーツを投げて動きを鈍らせる事を考えていた。
もちろん相手は覚醒者ではなく一般人だから、スキルを使って攻撃をしたら大怪我をする可能性が高い。
だから、レホスはダーツの先端を粘土で保護して、刺さらないように工夫していた。
「よし、行こう……」
レホスが動き始め、そこからだいぶ離れた所でヒースクリフがため息を吐いていた。
「盗んだのは金……ありがちっちゃありがちだが、なーんか引っ掛かるんだよな」
資料に書いてあった罪状は窃盗、盗んだ物はお金――……だが、大金と呼べるほどのお金ではなく『何かを買う物を決めて盗んだ』ように見える金額だった。
「……とりあえず、本人を見つけなきゃどうにもならないか」
資料の紙をたたみ、ヒースクリフも脱走犯の捜索を開始する。
「まー、なるようになるさ……むしろ、なるようにしかならないだろうけど」
レイフェンが小さく呟いた時「レイフェン君!」とキヅカが慌てたように駆けつけた。
「どうしたんだ? その様子を見ると……脱走犯を見つけたって事かな」
「その通りだよ、テオドール君が見つけて追いかけられてる最中なんだ。僕は他の人に知らせに行くから、レイフェン君はすぐに向かって欲しい」
「りょーかい……ん? 追いかけられてる? ど、どういう状況よ、それ……」
レイフェンは敬礼の真似をした後、キヅカによって告げられた場所へ向かい始めた。
そして、時間を遡り――……。
「青い空、白い雲! 絶好のデート日和なのに、何で男追っかけなきゃいけないの……」
テオドールは盛大なため息を吐きながら、てくてく、と歩いている。
「って言うか、おにーさん丸腰なんだけどなー、危なかったら困るんだけどなー」
ブツブツと文句を呟きながら、テオドールが歩いていると……。
「俺は、まだ捕まるわけにはいかないんだっ!」
棒切れを振り上げながら、見知らぬ男がテオドールに襲い掛かってくる。
「あ、ちょ、タ、タンマ! 俺、戦闘とか無理だし! たーすーけーてーぇー……!」
テオドールの叫びを聞き、キヅカが駆けつけた。
「……どういう状況だ、これって」
脱走犯から追いかけられるテオドール。妙にシュールだ、とキヅカは小さく呟いた。
(とりあえず、今のうちに他の皆を呼んできた方がいいな。それにしても、携帯ないって、本当に不便だなぁ……)
キヅカは心の中で呟き、そっとその場を離れた。
●合流、捕縛作戦開始
脱走犯から追いかけられながらも、テオドールは予め決めていた場所まで誘導してくる。
「俺、頑張った! あとは皆にお任せ……!」
ぜぇぜぇ、と息切れを起こしながら、テオドールは他のハンター達に告げた。
「6人と1人、おまけに囲まれてるんだから逃げられないのは分かるよね? 無駄な抵抗はやめた方がいいと思うよ?」
レホスが脱走犯に向けて言葉を投げかけるが、興奮状態にあるせいか、それとも最初から聞くつもりがないのか、脱走犯は何も答えない。
「……はぁ」
抵抗する脱走犯を見て、レイフェンは『踏込』を使用して、脱走犯の背後の地面を抉る。
「ひっ……」
「僕はね、君をどうしたいとか、君にどうしてほしいとかはないんだ。成り行きに任せるだけ。でも、君が何の策もなく逃げ続けるつもりなら『どういう成り行き』になるか、想像してるのかな?」
脅すでも何でもなく、ただ当たり前のようにレイフェンは呟く。逆に、その淡々とした口調が脱走犯に恐怖を与えた。
「それとも『捕まるくらいなら殺せ』が君の成り行きなら、僕はそれでもいいからね? 皆が何を言おうと、僕は君の意志を尊重する……さて、君は何のために、どうする?」
「お前には何か理由があったのかもしれない。だけど、嘘つきは何を言っても信じてもらえなくなる……ってのは、まぁ分かるだろ?」
「……それでも、俺はまだ捕まるわけにはいかない! くそっ」
脱走犯は半ばヤケクソになりながら、ハンター達に向かって走り出す。
「……仕方ない、これを使わせてもらうよ!」
レホスはため息を吐き、粘土で先端を保護したダーツを脱走犯に向けて投げた。
「……っ!?」
自分めがけて投げられたダーツ(粘土装着)に驚き、ピタリ、と足を止めた。
「……っ、今だ!」
足を止めた脱走犯に、留内が飛びかかり、借りていた縄で身体をぐるぐると縛り、ハンター達は無事、脱走犯を捕縛する事に成功した。
●犯罪の理由、逃走の理由
「一応、何で逃げようとしたのか教えてくれるか?」
脱走犯を捕らえて、留内が問い掛ける……が、下を俯いたまま何も答えようとはしない。
「お前にはお前の理由があったんだろうけど、お前に騙された無関係な護送員が懲罰を受けるのはお前のせいだし。彼に謝るのが筋ってもんだろ?」
「ボクも、どうして逃げたのか聞きたいな。きみの事をよく知ってるわけじゃないけど、あんまり悪い事をするような人には見えないんだよね、気のせいかもしれないけどね」
「おにーさんは、男に興味ないから、向こうでタバコでも吸ってようかなー」
レホスが問い掛けた後、テオドールは苦笑気味に呟く。脱走犯が女性ならば、親身になって話を聞いたのかもしれないけど、今回はテオドールが優しくするに値しない男性のせいか、言葉通り、本当に興味がないようだった。
「……目的を果たしたら、ちゃんと戻るつもりだったんだ。これで薬を買って、母親に届けたら……ちゃんと、摘みを償うつもりだった」
脱走犯が懐から取り出したのは盗んだであろう金。恐らく証拠として護送員が持っていた物を奪い返して逃げたのだろう。
「俺はあんた達みたいに戦える力があるわけでもない、ただの一般人が金を稼ぐには……これしかなかったんだよ」
涙をぼろぼろと零しながら脱走犯は呟き、その場にいたハンター達は言葉を失う。何らかの理由があるとは思っていても、親のため、とは思っていなかったのだろう。
「……言ってる事は分からないでもないんだけど、その金も他人が努力して得た金、あんたが他人の努力を奪っていい理由にはならないからね」
キヅカが脱走犯に告げる。彼の言う通り、情に流されて何でも許していたら、それこそこの世は弱肉強食の地獄になるのだから。
「ボク達は、きみを捕まえる依頼を受けてここにいるから、盗んだものと分かっているお金で……薬を買いに行かせる事は出来ないよ」
レホスは苦しそうな表情を浮かべながら、脱走犯に告げる。
「……」
レホスの言葉を聞き、言葉なく涙を流す脱走犯を見ながら、ヒースクリフは小さなため息を漏らした。
●脱走犯、引き渡しへ
「諸君、脱走犯の捕縛をご苦労だった」
DWJの女性監視員に脱走犯を引き渡すと、少しだけ驚いた表情を見せられた。
「こんなに早く決着がつくとは思っていなかった、私は君達を過小評価していたようだ。DWJの不祥事に力を貸してくれて助かった、また有事の際はぜひ力を貸してほしい」
女性監視員は深く頭を下げながら、ハンター達にお礼を言う。
「あの、彼の母親に薬を届けさせる事は出来ないかな……?」
レホスは女性監視員に小さな声で問いかける。
「……薬? 何の事だ?」
「彼がお金を盗んだのは母親の薬を買うため、逃げたのは薬を買って届けたかったから。犯罪に手を染めた彼を庇うつもりはないけど、ボクは……」
「監視員さんよ、俺と一つ勝負をしないか? ルールは簡単、サイコロを振って、どちらが大きな数を出す――……それだけだ」
ヒースクリフの提案に、女性監視員、そしてハンター達も驚きの表情を見せる。
「DWJの監視員である私に賭け事か……念のために聞こう、賭けるものは?」
「……お互いの財布、買った方は負けた方の財布を貰う事が出来て、使い道も自由だ」
「なるほど、お前は私から財布を奪い、その男の母親に薬を買うつもりだな」
「……さぁ? それはどうか分からない、俺の自由だからな」
不敵な笑みを浮かべ、ヒースクリフが呟く。
「くだらないな、私が付き合う理由はない」
女性監視員は吐き捨てるように呟き、自らの懐から財布を取り出し、地面に放る。
「その財布は持ち主の現れないものだ、私は何も見ていないし、誰が取っても構わん」
女性監視員はそれだけ言葉を残すと、脱走犯を連れて歩きだす。
「俺は勝負を……!」
「見ず知らずの男のために賭け事を言い出すんだ、何が何でも勝つつもりだろう? 恐らく必ずお前が勝てる方法で。そうなったらそれは詐欺になり、私はお前を捕まえなければならん、監視員としての言葉ではないが……面倒な仕事を増やされても困る」
女性監視員は呟き、そのままスタスタとDWJの方へ歩き出した。
「痺れるねぇ、仕事が終わったらお茶でも誘ってみようかな」
女性監視員の後ろ姿を見つめながら、テオドールが呟く。
その後、ハンター達は脱走犯の母親の元に薬を届け、任務を完了したのだった。
END
「……歪虚との戦闘だけかと思ったけど、こういう脱獄犯の捜索とかもやるんだ」
まるで何でも屋だなぁ、と言葉を付け足しながら呟いたのは依頼を受けたキヅカ・リク(ka0038)だった。
「すまないな、今は軽犯罪者の捜索に裂ける人員がいない。君達を頼る他ないんだ」
女性監視員は酷く申し訳なさそうな表情を見せ、ハンター達に深く頭を下げる。
「女の子が簡単に頭を下げちゃいけないよー? ほら、俺達に任せて?」
テオドール・ロチェス(ka0138)は、女性監視員の手を握り、にっこりと笑顔を見せる。
「そんな顔をしなくても、ちゃーんと頼まれた仕事はやるよ? 荒事は皆にお任せだけど」
「頼りにはしているが、同意なき女性への接触は軽犯罪と――……」
「テオさん、テオさん! 手を離さないと、逃げた人の代わりに入れられちゃいますよ!」
女性監視員の言葉を聞き、慌てて2人の間に入ったのはレイフェン=ランパード(ka0536)だった。
実際はこの程度で刑務所に入れられるはずはないが、どうやらハンター達に依頼してきた女性監視員は、妙に真面目で冗談の通じない相手のようだ。
「逃げた人って窃盗犯だったんだっけ? 窃盗ねぇ……もしかしたら理由があるのかもしれないけど、だからって犯罪に手を染めていいわけじゃないからなー」
ため息混じりに呟いたのは留内陽平(ka0291)。こんな時代だからこそ、色々な事情を持つ人間はいるだろうが、犯罪は犯罪――……というのが、彼の心のようだ。
「ボクもそう思う。どんなに小さな罪だとしても、償う事から逃げちゃダメだよね」
レホス・エテルノ・リベルター(ka0498)は女性監視員から渡された資料を読みながら、小さく頷き、そしてしっかりと自分の考えを告げた。
「っていうか、この世界の犯罪者に基本的人権的なものはあるのか? まさか捕まったら、そのまま出られないとか、そういうわけでもないんだよな?」
「犯した罪の重さによって、DWJに服役する期間が決まる。こんな時代だからこそ、犯罪者はしっかりと隔離しなくてはならないんだ、野放しにすれば……それこそ地獄絵図になるのは分かりきっているからな」
レイフェンの言葉を聞き、女性監視員が答える。
「状況によっては情状酌量も認められ、服役態度次第では定められた期間より早く出る事も可能だ」
「なるほど、その辺は僕達のいた世界と大して変わらないって事かな」
「……実際どうだかわからねえけど、資料だけだと俺に似てるんだよな、この逃げた奴」
資料を読みながら、ヒースクリフ(ka1686)が深いため息を吐く。
「なるほど、つまりヒースクリフさんを目安にして探せばいいってことかな」
「……そうそう、って違うだろ! いくらなんでも俺を目安って、どんだけ曖昧だよ」
「冗談だって、ちょっとからかっただけなんだから本気にしちゃダメだよ」
レホスは笑いながら答え、ヒースクリフは小さく肩を竦めた。
「ま、受けたからにはがんばんないとね」
さて、労働しますかぁ――……と言葉を付け足し、キヅカが大きく伸びをする。
「私はここで待つ、諸君らの活躍を祈っているぞ」
女性監視員の言葉を合図に、ハンター達の仕事は始まりを告げた。
●見渡す限りの平原
「これ、結構に分かりやすい場所だね。どの方向からも見えるだろうし……」
キヅカが指差したのは、少し大きめの岩。
ハンター達は、予めある程度の相談をしており、脱走犯を追い詰める場所と捜索範囲を決める事にしていた。
幸いにも目印になる物はあるし、周りからも見やすい場所であり、ハンター達の条件に適った岩も存在している。
「決めた時間に1度はここに戻ってくるようにして、状況を共有し合うっていうのもいいかもしれない」
「今回の捜索ってバラバラになるんだよね? はぁ……女の子と一緒が良かったな」
テオドールは大袈裟なくらいのため息と共に、レホスをちらっと見つめる。
「これはお仕事なんだよ? ちゃんとやらないと逃げられちゃうんだから」
レホスが呆れたように呟くと「分かってるって」と手をひらひらさせながら、テオドールは答えた。
「捕縛用の縄は借りれたから、捕まえたらこれで縛って逃げられないようにすればいいかな」
留内は女性監視員から借りてきた縄を見せながら、ハンター達に言葉を投げかける。
「それはいいね。強引な方法で逃げてるし、見つけても大人しく捕まってくれる可能性ってのは低いだろうし」
留内の持つ縄を見つめながら、レイフェンが頷いて答える。
「俺はなるべく情報を、すぐに共有出来るように心がけるよ」
キヅカは軽く手を挙げながら呟く。彼は捜索範囲を持たず、全員の捜索範囲を往復する連絡係として行動する事に決まっている。もちろん決めた時間に集合するのは当たり前だが、連絡係がいれば即座の行動も出来るから懸命な判断と言えるだろう。
「さて、面倒だがやるしかないか」
ヒースクリフがため息混じりに呟き、行動を開始し始めたのだった。
そして、同時刻。
遠くから、身を屈めてハンター達を見つめる視線があった。
「くそ、早かったな。さっさとこの地点を抜けておけば良かった。すぐに動けば危険だと身を隠していたのが失敗だったか」
ハンター達が散っていく姿を見つめる男性は、DWJの監視員から依頼された捕縛対象者だった。
「中々に広いからどうやって探せばいいのかな」
レホスは遠くを見る仕草をしながら、ため息混じりに呟く。
「こんな場所でローラー作戦ってのもなぁ、時間が掛かりすぎるし……地面とかの変化に注意しながら探すしかないか。俺はこっちを探すから、レホスさんはそっちよろしく」
留内は言葉を残して、そのままレホスの側から離れて行った。
「ボクも行こうかな。出来れば抵抗なく降伏してほしいんだけどね」
レホスは用意したダーツを見つめながら呟く。状況から見ても、大人しく降伏する可能性が低いと考えられ、レホスは最終手段としてダーツを投げて動きを鈍らせる事を考えていた。
もちろん相手は覚醒者ではなく一般人だから、スキルを使って攻撃をしたら大怪我をする可能性が高い。
だから、レホスはダーツの先端を粘土で保護して、刺さらないように工夫していた。
「よし、行こう……」
レホスが動き始め、そこからだいぶ離れた所でヒースクリフがため息を吐いていた。
「盗んだのは金……ありがちっちゃありがちだが、なーんか引っ掛かるんだよな」
資料に書いてあった罪状は窃盗、盗んだ物はお金――……だが、大金と呼べるほどのお金ではなく『何かを買う物を決めて盗んだ』ように見える金額だった。
「……とりあえず、本人を見つけなきゃどうにもならないか」
資料の紙をたたみ、ヒースクリフも脱走犯の捜索を開始する。
「まー、なるようになるさ……むしろ、なるようにしかならないだろうけど」
レイフェンが小さく呟いた時「レイフェン君!」とキヅカが慌てたように駆けつけた。
「どうしたんだ? その様子を見ると……脱走犯を見つけたって事かな」
「その通りだよ、テオドール君が見つけて追いかけられてる最中なんだ。僕は他の人に知らせに行くから、レイフェン君はすぐに向かって欲しい」
「りょーかい……ん? 追いかけられてる? ど、どういう状況よ、それ……」
レイフェンは敬礼の真似をした後、キヅカによって告げられた場所へ向かい始めた。
そして、時間を遡り――……。
「青い空、白い雲! 絶好のデート日和なのに、何で男追っかけなきゃいけないの……」
テオドールは盛大なため息を吐きながら、てくてく、と歩いている。
「って言うか、おにーさん丸腰なんだけどなー、危なかったら困るんだけどなー」
ブツブツと文句を呟きながら、テオドールが歩いていると……。
「俺は、まだ捕まるわけにはいかないんだっ!」
棒切れを振り上げながら、見知らぬ男がテオドールに襲い掛かってくる。
「あ、ちょ、タ、タンマ! 俺、戦闘とか無理だし! たーすーけーてーぇー……!」
テオドールの叫びを聞き、キヅカが駆けつけた。
「……どういう状況だ、これって」
脱走犯から追いかけられるテオドール。妙にシュールだ、とキヅカは小さく呟いた。
(とりあえず、今のうちに他の皆を呼んできた方がいいな。それにしても、携帯ないって、本当に不便だなぁ……)
キヅカは心の中で呟き、そっとその場を離れた。
●合流、捕縛作戦開始
脱走犯から追いかけられながらも、テオドールは予め決めていた場所まで誘導してくる。
「俺、頑張った! あとは皆にお任せ……!」
ぜぇぜぇ、と息切れを起こしながら、テオドールは他のハンター達に告げた。
「6人と1人、おまけに囲まれてるんだから逃げられないのは分かるよね? 無駄な抵抗はやめた方がいいと思うよ?」
レホスが脱走犯に向けて言葉を投げかけるが、興奮状態にあるせいか、それとも最初から聞くつもりがないのか、脱走犯は何も答えない。
「……はぁ」
抵抗する脱走犯を見て、レイフェンは『踏込』を使用して、脱走犯の背後の地面を抉る。
「ひっ……」
「僕はね、君をどうしたいとか、君にどうしてほしいとかはないんだ。成り行きに任せるだけ。でも、君が何の策もなく逃げ続けるつもりなら『どういう成り行き』になるか、想像してるのかな?」
脅すでも何でもなく、ただ当たり前のようにレイフェンは呟く。逆に、その淡々とした口調が脱走犯に恐怖を与えた。
「それとも『捕まるくらいなら殺せ』が君の成り行きなら、僕はそれでもいいからね? 皆が何を言おうと、僕は君の意志を尊重する……さて、君は何のために、どうする?」
「お前には何か理由があったのかもしれない。だけど、嘘つきは何を言っても信じてもらえなくなる……ってのは、まぁ分かるだろ?」
「……それでも、俺はまだ捕まるわけにはいかない! くそっ」
脱走犯は半ばヤケクソになりながら、ハンター達に向かって走り出す。
「……仕方ない、これを使わせてもらうよ!」
レホスはため息を吐き、粘土で先端を保護したダーツを脱走犯に向けて投げた。
「……っ!?」
自分めがけて投げられたダーツ(粘土装着)に驚き、ピタリ、と足を止めた。
「……っ、今だ!」
足を止めた脱走犯に、留内が飛びかかり、借りていた縄で身体をぐるぐると縛り、ハンター達は無事、脱走犯を捕縛する事に成功した。
●犯罪の理由、逃走の理由
「一応、何で逃げようとしたのか教えてくれるか?」
脱走犯を捕らえて、留内が問い掛ける……が、下を俯いたまま何も答えようとはしない。
「お前にはお前の理由があったんだろうけど、お前に騙された無関係な護送員が懲罰を受けるのはお前のせいだし。彼に謝るのが筋ってもんだろ?」
「ボクも、どうして逃げたのか聞きたいな。きみの事をよく知ってるわけじゃないけど、あんまり悪い事をするような人には見えないんだよね、気のせいかもしれないけどね」
「おにーさんは、男に興味ないから、向こうでタバコでも吸ってようかなー」
レホスが問い掛けた後、テオドールは苦笑気味に呟く。脱走犯が女性ならば、親身になって話を聞いたのかもしれないけど、今回はテオドールが優しくするに値しない男性のせいか、言葉通り、本当に興味がないようだった。
「……目的を果たしたら、ちゃんと戻るつもりだったんだ。これで薬を買って、母親に届けたら……ちゃんと、摘みを償うつもりだった」
脱走犯が懐から取り出したのは盗んだであろう金。恐らく証拠として護送員が持っていた物を奪い返して逃げたのだろう。
「俺はあんた達みたいに戦える力があるわけでもない、ただの一般人が金を稼ぐには……これしかなかったんだよ」
涙をぼろぼろと零しながら脱走犯は呟き、その場にいたハンター達は言葉を失う。何らかの理由があるとは思っていても、親のため、とは思っていなかったのだろう。
「……言ってる事は分からないでもないんだけど、その金も他人が努力して得た金、あんたが他人の努力を奪っていい理由にはならないからね」
キヅカが脱走犯に告げる。彼の言う通り、情に流されて何でも許していたら、それこそこの世は弱肉強食の地獄になるのだから。
「ボク達は、きみを捕まえる依頼を受けてここにいるから、盗んだものと分かっているお金で……薬を買いに行かせる事は出来ないよ」
レホスは苦しそうな表情を浮かべながら、脱走犯に告げる。
「……」
レホスの言葉を聞き、言葉なく涙を流す脱走犯を見ながら、ヒースクリフは小さなため息を漏らした。
●脱走犯、引き渡しへ
「諸君、脱走犯の捕縛をご苦労だった」
DWJの女性監視員に脱走犯を引き渡すと、少しだけ驚いた表情を見せられた。
「こんなに早く決着がつくとは思っていなかった、私は君達を過小評価していたようだ。DWJの不祥事に力を貸してくれて助かった、また有事の際はぜひ力を貸してほしい」
女性監視員は深く頭を下げながら、ハンター達にお礼を言う。
「あの、彼の母親に薬を届けさせる事は出来ないかな……?」
レホスは女性監視員に小さな声で問いかける。
「……薬? 何の事だ?」
「彼がお金を盗んだのは母親の薬を買うため、逃げたのは薬を買って届けたかったから。犯罪に手を染めた彼を庇うつもりはないけど、ボクは……」
「監視員さんよ、俺と一つ勝負をしないか? ルールは簡単、サイコロを振って、どちらが大きな数を出す――……それだけだ」
ヒースクリフの提案に、女性監視員、そしてハンター達も驚きの表情を見せる。
「DWJの監視員である私に賭け事か……念のために聞こう、賭けるものは?」
「……お互いの財布、買った方は負けた方の財布を貰う事が出来て、使い道も自由だ」
「なるほど、お前は私から財布を奪い、その男の母親に薬を買うつもりだな」
「……さぁ? それはどうか分からない、俺の自由だからな」
不敵な笑みを浮かべ、ヒースクリフが呟く。
「くだらないな、私が付き合う理由はない」
女性監視員は吐き捨てるように呟き、自らの懐から財布を取り出し、地面に放る。
「その財布は持ち主の現れないものだ、私は何も見ていないし、誰が取っても構わん」
女性監視員はそれだけ言葉を残すと、脱走犯を連れて歩きだす。
「俺は勝負を……!」
「見ず知らずの男のために賭け事を言い出すんだ、何が何でも勝つつもりだろう? 恐らく必ずお前が勝てる方法で。そうなったらそれは詐欺になり、私はお前を捕まえなければならん、監視員としての言葉ではないが……面倒な仕事を増やされても困る」
女性監視員は呟き、そのままスタスタとDWJの方へ歩き出した。
「痺れるねぇ、仕事が終わったらお茶でも誘ってみようかな」
女性監視員の後ろ姿を見つめながら、テオドールが呟く。
その後、ハンター達は脱走犯の母親の元に薬を届け、任務を完了したのだった。
END
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相談卓 鬼塚 陸(ka0038) 人間(リアルブルー)|22才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2014/06/15 23:52:32 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/06/11 17:27:03 |