ゲスト
(ka0000)
カルネヴァーレ・サルディ!
マスター:篠崎砂美

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/02/13 07:30
- 完成日
- 2016/02/18 00:40
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「カーニバルですわ!」
ヴァリオスにある新興商店街の案内所の中で、商店街役員でもあるセレーネ・リコお嬢様が覇気のある声で言いました。
日々過酷な販売競争の激戦が繰り広げられるここヴァリオスで、あれやこれやのイベントを企画しては、商店街を盛り上げようと頑張っています。
そして、今日のお嬢様はいつもとはちょっと違っていました。
ふんだんにフリルのついた青いブラウスを着て、ふわりとしたミニスカートの下にはぴっちりとした黒いタイツを穿いています。服の上からは鮮やかな紫の天鵞絨マントを羽織り、手には大きな羽根飾りのついた鍔広の帽子をかかえていました。腰にはレイピアも佩いていて、ちょっとした男装の騎士気分です。そして、何よりも特徴的だったのは、その顔につけていた仮面です。
アイマスク型で金の縁取りがしてあり、泣きぼくろの位置にダイヤが一粒あしらわれた豪華な仮面です。
町のあちこちには、お嬢様と同じように綺麗に着飾ったり、なぜか着ぐるみやコスプレをした人たちがあふれています。みんな思い思いの形の仮面で顔を隠していますので、誰が誰だか分かりません。たとえ誰だかバレバレでも、分からないことにしておくのです。だって、お祭りなのですから。
そう、街はカーニバルの季節なのでした。
実は、去年の今頃は歪虚による襲撃の直後でしたので、自粛気味にひっそりと行われていました。けれども今年は違います。
大通りには、大道芸人がやってきたりして、本当にお祭りという気分です。
普段はちょっと訳ありのカップルも、今日はいつもよりも大胆です。
相手が誰だか分からないまま、運命の出会いを迎える人もいます。
誰もが大胆になるお祭り……、当然お財布の紐もゆるくなるに違いありません。
人出も普段より多く、ここが商人の稼ぎ時なのでした。
「セールですわ! バーゲンですわ!!」
お嬢様は、抜け目なく商売する気満々です。タイミングよく買い占められたチョコレートなども、ヴァリオスにはそこそこあります。儲けるならば今です!
「それでは、華やかに、売って、売って、売りまくりましょう!」
そう言って、お嬢様は、キランと仮面の奧で目を輝かせました。
ヴァリオスにある新興商店街の案内所の中で、商店街役員でもあるセレーネ・リコお嬢様が覇気のある声で言いました。
日々過酷な販売競争の激戦が繰り広げられるここヴァリオスで、あれやこれやのイベントを企画しては、商店街を盛り上げようと頑張っています。
そして、今日のお嬢様はいつもとはちょっと違っていました。
ふんだんにフリルのついた青いブラウスを着て、ふわりとしたミニスカートの下にはぴっちりとした黒いタイツを穿いています。服の上からは鮮やかな紫の天鵞絨マントを羽織り、手には大きな羽根飾りのついた鍔広の帽子をかかえていました。腰にはレイピアも佩いていて、ちょっとした男装の騎士気分です。そして、何よりも特徴的だったのは、その顔につけていた仮面です。
アイマスク型で金の縁取りがしてあり、泣きぼくろの位置にダイヤが一粒あしらわれた豪華な仮面です。
町のあちこちには、お嬢様と同じように綺麗に着飾ったり、なぜか着ぐるみやコスプレをした人たちがあふれています。みんな思い思いの形の仮面で顔を隠していますので、誰が誰だか分かりません。たとえ誰だかバレバレでも、分からないことにしておくのです。だって、お祭りなのですから。
そう、街はカーニバルの季節なのでした。
実は、去年の今頃は歪虚による襲撃の直後でしたので、自粛気味にひっそりと行われていました。けれども今年は違います。
大通りには、大道芸人がやってきたりして、本当にお祭りという気分です。
普段はちょっと訳ありのカップルも、今日はいつもよりも大胆です。
相手が誰だか分からないまま、運命の出会いを迎える人もいます。
誰もが大胆になるお祭り……、当然お財布の紐もゆるくなるに違いありません。
人出も普段より多く、ここが商人の稼ぎ時なのでした。
「セールですわ! バーゲンですわ!!」
お嬢様は、抜け目なく商売する気満々です。タイミングよく買い占められたチョコレートなども、ヴァリオスにはそこそこあります。儲けるならば今です!
「それでは、華やかに、売って、売って、売りまくりましょう!」
そう言って、お嬢様は、キランと仮面の奧で目を輝かせました。
リプレイ本文
「それでは、いいですわね。華やかに、楽しく、美しく。そして、売る! 頑張って、今期目標を達成してください!」
お嬢様が、案内所に集また商店街の人たちを鼓舞しました。これから、お祭りに合わせて、一大セールを開始するのです。
「商工会からの支援として、プレーンのチョコレートを御用意いたしましたわ。食品関連のお店の方々は、御自由にお使いくださいませ」
テーブルの上に山盛りにされた素材のチョコレートを披露して、お嬢様が言いました。
「でも、東方でカカオが見つかったとかなんとかで、チョコレートは暴落気味だとか」
鞍馬 真(ka5819)が訊ねました。
「それって、大変じゃなあい? もしかして、赤字?」
ルキハ・ラスティネイル(ka2633)もちょっと不安な顔になります。
バレンタインへむけての不足から一時相場が高騰したカカオですが、抜け目のないヴァリオスの商人たちは、事前にそれを見越して買いだめをしていました。おかげで、ますますカカオが品不足となって高騰したわけです。けれども、つい先日、事態を重く見たバレンタイン推奨派のハンターたちが、東方にあるカカオの産地を確保し、以前と同じかそれ以上のカカオの供給を確保したところです。おかげで、今度は相場が暴落しつつあります。
「大丈夫ですわ。私たちが仕入れたカカオは、さっさと加工業者に売った後ですから。ここにあるチョコレートは、すでに値下がりした後の物。もう、差額でボロ儲けですので、ただで配っても損益は出ませんわ」
ニコニコ顔でお嬢様が答えました。さすが、転んでもただでは起きないどころか、転ぶ前に杖で周囲を突き刺していました。
「でも、それでは供給過多で売れないのでは?」
ザレム・アズール(ka0878)が、当然の疑問を口にします。これ以上値が下がる前に、一秒でも早く売ってしまおうと、チョコレート加工業者は血眼のはずです。
「工夫すればいいのでは?」
紫条京真(ka0777)が、言いました。
「その通りですわ」
お嬢様が、うなずきます。工夫しないで売れるものなどありません。もしそんなものがあったとすれば、工夫すればさらなるバカ売れになるではありませんか。
「まずは差別化を計ります。純カカオ、純国産を謳うのです! 新しく見つかった物は、カカオとは言っておりますが、しょせんは同等品。純正品には敵いませんわ。対するに、こちらは、最初からジェオルジなどにあった物です」
「それで、国産って言っちゃっていいんですか?」
まずいんじゃないかと、エルバッハ・リオン(ka2434)が言いました。気候的に、ジェオルジとはいえ、カカオが大量にとれるはずがありません。
「加工はジェオルジやフマーレでやっていますから、国産で問題ありません!」
ドきっぱりと、お嬢様が言い切りました。まあ、それだと、今回見つかった新しい産地の物でも、国内加工すれば国産ということになりそうではありますが。要は、ブランドであるので問題はないようです。
「とりあえず、パンのためにもらっていきますね」
難しいことは分からないけれど、とにかく美味しければいいと、ミオレスカ(ka3496)が、パンに練り込むチョコを確保しました。
京真、ルキハ、ザレム、真たちも、用意しておいた販売用のチョコレートとは別に、今日だけの特別品用のチョコレートを確保します。
素材以外にも、プレゼント用のミニチョコは、たくさん用意されていました。それぞれが、必要な量だけそれをもらっていきます。
「さあ、皆様、お着替えして、本番ですわよ!」
お嬢様が言うと、受付嬢のフィネステラが、部屋の奥を仕切っていたカーテンをサーッと音をたてて勢いよく引きました。そこに、盛りだくさんの衣装や仮面が現れます。
「では、皆様、お召し替えを」
デレトーレ支配人にうながされて、それぞれが衣装を着替えます。
京真は、角飾りのついた黒いフルフェイスのマスクに、キラキラのラメの入った白衣です。怪しい魔王とも、マッドドクターにも見えます。
「どうかな?」
「ダークでミステリアスで、いい感じじゃない♪」
訊ねる京真にそう答えたルキハは、長いフロックコートの上に薄いマントを羽織っています。どちらも真っ白で、ちょっとした貴公子という感じです。仮面は頬骨に沿って顔の上半分だけを被った白いマスクです。
さしずめ、京真とルキハで、貴公子と魔界医師のコンビというところでしょうか。
「怪しいというのは、こういう感じかな」
鮮やかな色の派手な薔薇のアイマスクを被った真が言いました。こちらは、ぴっちりとした漆黒の軍服を着ています。リアルブルーデザインのなんちゃって軍服なのでどこの軍の軍服というわけではありませんが、それが逆にストイックな雰囲気をかもしだし、派手なマスクとのギャップも相まって、怪しさ爆発です。普段はとろんとした表情なので見過ごされていますが、今日は仮面のせいか、本来の美形が強調されています。そのため、口調も相まってか、性別不詳にも見えます。まあ、やり過ぎるとオネエ扱いされてしまいそうですが。
軍服と言えば、ザレムはリアルブルーのCAM整備員風の制服に仮装していました。カーキー色のツナギに、仮面代わりに大きな色つきゴーグルをかけています。周りの人たちの仮装と比べるとかなり異質ですが、これもりっぱな仮装です。
異質と言えば、リアルブルー風の真やザレムたちと比べても、ミオレスカは異風でした。東方風の着流しに、鬼の仮面を被っています。リアルブルーの者たちが見たら、すわ節分かと勘違いしてしまいそうです。
「私は自前を持ってきたから」
リオンが、まるごとうさぎに身をつつんで言いました。顔の部分には、白いフルマスクの仮面を被りました。仮面には、ちょっとデフォルメしたうさぎさんの顔が描いてあります。ちょっとだぶだぶでせっかくのナイスバディが隠れてしまっていますが、そこは愛嬌優先です。宣伝キャラは、親しみがなければいけません。
「さあ、出動ですー!」
キンキラモールに縁取られたど派手な『大特売セール』と書かれた手持ち看板を掲げて、リオンは商店街の通りへと踊りだしていきました。かかえたバスケットには、サービスで配る用のチョコレートを入れてあります。他の者たちも、自分たちの店へと次々に散っていきます。
「わたしは、もう少し待機でしょうか」
ふんだんにレースのフリルがあしらわれたホワイト・プリンセスを着た外待雨 時雨(ka0227)が、愛用のフルートを磨きながら言いました。出番を待って、のんびりと案内所の中でお茶しています。
★ ★ ★
「わあ、うさぎさんです♪」
リオンの着ぐるみ姿を見て、商店街へ買い物にやってきていたルミ(ka3728)が歓声をあげました。
「そのうさぎさん、どこで着られますか?」
思わず、ルミがリオンに訊ねました。
「ええと、これは私オリジナルなんですけれど、案内所でみなさんにも衣装の貸し出しをしていますよ。どうぞ、御利用ください」
リオンが、ルミを案内所へと誘導しました。
「わあ、凄い。何を着てもいいんですか」
「どうぞ、どうぞ」
訊ねるルミに、妖精の仮装に着替えたフィネステラ嬢が答えました。
「どれにしようかなあ……」
バイト先の花屋さんからやっともらえたせっかくのお休みです。ここは、色々と楽しみたいところですが……。
「そういえば、さっきのうさぎさん風もいいかも……」
そう思いついて、ルミがテキパキと衣装を選んでいきました。レースの白いワンピースの上に、ふわもこの衿がついた白いうさぎの毛のマントをふわりと羽織ります。フルフェイスの白い仮面をつけると、うさぎの垂れ耳のカチューシャを頭に被って、銀の髪を被い隠すぐらいにたくさんの花を盛ります。
「さあ、お買い物~♪」
ルミは、意気揚々と表通りへと出て行きました。
「まずは、この格好に似合うリボンとかかなあ」
そう言って、ルミはお嬢様の店に入っていきました。
こちらでは、貸衣装ではなく、売り物のきらびやかな衣装がならべられています。それに合う小間物も、ふんだんにありました。
「可愛いリボンが欲しいなあ」
うさ耳に似合う色のリボンを探して、ルミがあれこれと商品を見比べました。
「こちらに、鏡もありますよ」
凛々しく仮装したお嬢様に勧められて、色々と合わせてみます。結果、光沢のある赤いリボンと、頭の花に合わせた色のコサージュを買いました。
「ありがとうございましたー」
サービスで、可愛いミニチョコつきです。
★ ★ ★
「わあ、手作りコーナーもあるんですのね」
案内所の横に作られた手作りチョコレートコーナーを見つけて、鳳凰院 流宇(ka1922)が歓声をあげました。
お嬢様ドレスにフルフェイスの銀のマスクという姿の流宇は、お料理をしたことがありません。そのため、手作りという言葉に興味津々です。
「料理などしたことのない、わたくしにも、できるのでしょうか……」
「大丈夫。私にだって作れるんだから」
そう言って、フィネステラ嬢が、団子遊びのようないびつな凸凹のたくさんある雪だるまのチョコレート人形を見せて言いました。いや、さすがに雪だるまは、そろそろ季節外れのような気がしますが。それ以前に、これは、ヘタな例でお客様に勇気を分けているのか、やっぱり難しいと叩きのめしているのか、どっちなんでしょう。
バタフライマスクに小振りの蝶の羽根のついたドレスを着たフィネステラ嬢は妖精っぽくて可愛いのですが、いかんせんチョコレートは……。
「心配ございません。希望のお客様には、きちんと御指導いたしますので」
顔の右半分を白いマスクで隠し、家令然としたスーツでびしっと決めた支配人が、流宇に微笑みました。
それに励まされて、流宇がチョコレートを作り始めます。
まずは、せっかくの衣装が汚れないように、ピンクの割烹着を着せられます。ちょっと全身のシルエットがぽっこりとしてしまいますが、可愛らしくレースがあしらわれたりしていて、意外とおしゃれです。
「それでは、最初にチョコを刻んでいただきましょう」
「えーい」
支配人の指導で、流宇が用意されていた板チョコを包丁で刻んでいきました。どうせ溶かすので微塵切りですが、包丁のあて方が悪いのか、盛大に周囲に飛び散ります。派手です。
「次に、湯煎で溶かします」
「てーい」
お湯に浸けたボウルの中で、へらでチョコを溶かしていくわけですが、またもや、溶けたチョコの飛沫が盛大に飛び散ります。ここまで来ると、ほぼお約束です。割烹着、いい仕事をしています。ドレスは無事です。でも、ちょっと、仮面にチョコが飛んでしまいましたか。
「お兄様、喜んでくれるかしら」
流宇としては、チョコを贈る人は兄ぐらいしか思いつきません。この際、拒否権はないことにしてもらいましょう。
「それでは、丸めていただきます」
軽く冷やしたチョコをすくい取り、冷たく冷やした手の上でころころと丸めていきます。いわゆるガナッシュです。
「ころころ、ころころ……」
うっかりとフィネステラ嬢のような雪だるまにならないように、丁寧に丸めていきます。
「ぱらぱらぱら……」
最後に、ココアパウダーをまぶすとできあがりです。うん、初めてにしては、なかなかいい感じにできあがりました。これなら、お兄様にあげても問題ないでしょう。
「後は、綺麗なラッピングをお買い求めください」
「はい♪」
多少大きさは不揃いですが、なんとなく上手くできたガナッシュを持って、流宇は包装を買いに商店街へと出て行きました。
★ ★ ★
「うーん、まさか、売り手だけでなく、買い手もみんな仮装しているとは思わなかったわ」
商店街をにぎわせている売り子やお客たちの姿を見回して、マリィア・バルデス(ka5848)がつぶやきました。
お祭りで盛りあがっているというので、見物もかねてやってきたのですが、ここまでみんなが一体となって盛りあがっているとは思いもしなかったのです。
とはいえ、なんとなくおしゃれしなくてはいけないという予感がしたので、珍しくゴシックドレスなんかを着てきたので、だいたい問題なしです。仮面も、バレンタイン用のハート型の仮面を手に入れています。本来ですと、ちょっと恥ずかしいような仮面ですが、これだけ派手な集団の中では、簡単に埋もれてしまいそうです。
いつもの鎧や戦闘服姿ではないので、ちょっとスカートのあたりがスースーして落ち着かないのですが、女の子なのですから、たまにはこういうのも経験しておかないとだめでしょう。郷に入っては、郷に従えです。
それに、一応仮面をつけているのですから、誰も自分をマリィアだと分からないはずですから。
「そして!」
改めて、マリィアが気合いを入れなおしました。
今日の目的は、あくまでもチョコレートの検分です。
リアルブルーでも様々なチョコレートの種類が存在しました。はたして、ここクリムゾンウェストでは、どんなチョコレートがあるのでしょうか。それを確かめなければならないのです。
案内所の近くには手作りコーナーもあるようで、この世界でもチョコ自体は珍しい物ではないのかもしれません。まあ、確証はないので、一応メモしておきます。メモメモ。
商店街のお店も、服を売っている店はこれ見よがしに派手な衣装を店頭に飾ってお客さんを呼び込んでいます。
雑貨屋では、様々な仮面をずらりとならべていました。長円形で顔全体を被って紐で留める物や、頭巾がついていてすっぽりと頭にかぶれる物もあります。そういう物は、帽子のようにど派手な飾りがついているようです。
顔半分を隠す物も多く、上だけとか、右半分とか、断面も変わった形になっていたりと、様々です。
特に変わっているのは、鼻の部分が異様に長くのびていたり、顎の部分が長くとんがっている物でしょうか。
色は白が大半のようですが、中には真っ黒な物もあります。目の部分の小さなのぞき穴以外の顔を、妖しく、あるいは面白おかしく描いた物もあります。
アイマスクタイプは、マリィアの被っているような真っ赤な物から、ど派手な黄金の物まであり、とんがっていたり丸かったり、本当に千差万別です。でも、ハート型はほとんどないようなので、ちょっとは個性的と言うことなのでしょうか。
中には、動物の被り物のマスクをしている者もいます。もう、こうなると、ほとんど何でもありのコスプレ大会です。
★ ★ ★
「そこの綺麗なお嬢様、お一ついかがかな?」
ど派手な姿のお客を見つけて、軍服姿の真が声をかけました。相手は、ルヌーン・キグリル(ka5477)です。
顔を被う白い仮面には、鮮やかな色に染められた、長いど派手な羽がふんだんにつけられています。真っ赤なドレスにも、大小のふわふわした羽がたくさんつけられていて、ルヌーンが歩く度にゆらゆらと美しくゆれました。
「あら、私のことかしら」
多分自分のことだと分かっていて、ルヌーンが答えます。
横で見ていたマリィアが、あれだけ派手ならそうだろうなあと言う感じで、後ろから売られているチョコをのぞき込みます。派手と言えば、売り子の真がつけている薔薇のマスクもど派手でマリィアのマスクといい勝負です。
「他に誰がいると言うのです。さあ、麗しいあなた、いかがですか、チ・ョ・コ・レー・ト・は!」
ルヌーンの派手な衣装に負けず劣らずのハイテンションで、真が商品を勧めました。
屋台には、様々な方法で綺麗にラッピングされたチョコがならんでいます。可愛い紙袋に、きちんとした箱にリボンをかけた物、ちょっと高級な木の箱、一つとして同じラッピングはありません。
「お嬢様には、こちらなんかいかがでありますかな。殿方の攻略には、ドーンと強烈な一撃が一番!」
箱よりもでっかい紫色のリボンの花がついたチョコを手にとって見せて、真が言いました。
「あら」
ルヌーンが、なんとなく親近感をいだいて、それを購入します。
「まいどありー」
ふわふわステップを踏みながら去って行くルヌーンに、真が敬礼をしました。
★ ★ ★
「わあ、いろんなチョコがあります!」
店先にならべられたチョコを見て、ウサギコスプレのルミがピョンと跳びはねました。
「いかがですか。これらのチョコで、彼の心を解剖してみませんか?」
怪しい医師コスプレの京真が、医療用メスの形をしたチョコをルミに勧めてきました。その横には、注射器に入ったチョコもあります。
「これ、出てこないんじゃ……」
ガッチリと固まっている注射器チョコを見て、ルミが言いました。これでは、押してもチョコが先端から出てくる気がしません。それでは食べられないんじゃないでしょうか。
「大丈夫ですよ。ほら、この通り」
そう言うと、京真が注射器のプランジャーを引き抜いて見せました。シリンジがなくなると、ちゃんとしたスティックチョコになります。
「ちょっと、面白いかも~」
メスのチョコよりは、よっぽど面白食べ物チョコっぽいです。だいたい、メスのチョコは、ヘタにかじりついたら口の中を切ってしまいそうではありませんか。
「これください」
「ありがとうございます。では、お大事に」
処方箋と書かれた袋に入れた注射器チョコを、京真がルミに手渡しました。
「なんだか、ネタに走りすぎのような……」
さっきの包装に凝ったお店とは対照的な、ベクトルの違う凝り方だと、ちょっとマリィアが唖然とします。これって、もらった男性が引いたりしないのでしょうか。
「どうですか、ルキハさん」
「ううむ、先を越されちゃったわね」
ちょっと自慢げに京真に声をかけられて、ルキハがぐぬぬっとなりました。
そこへ、ふわふわとドレスをゆらしながら流宇がやってきました。
「いらっしゃいませぇ。大切なあの人に贈る、綺麗なチョコの花束いかがですかぁ」
おいでおいでと、貴公子コスプレのルキハが、白手袋をした手で流宇を手招きします。
「わあ、綺麗ですねえ」
上手い具合に、流宇が食いついてきてくれました。
ルキハの屋台には、様々な形のチョコレートチップがならべられています。定番のハート型や、星の形。クローバーに、桜型、丸に四角に三角。これらのチョコを自由に選んでもらって、それを木の串に刺して花束のようにラッピングしてしまおうという物のようです。
へえーっと、隣からやってきたマリィアが、物珍しそうにそれぞれのチョコレートを吟味します。形が違えば、味も違うのでしょうか。
「あのう、私が持っているチョコを混ぜてもよろしいですか?」
流宇が、さっき作ったチョコを見せて言いました。
「混ぜるのは大丈夫よん」
ルキハがOKします。
「それでは、これとこれを混ぜて……」
流宇が、いくつかのチョコを指定しました。手作りとちゃんとしたチョコを混ぜて贈れば、見た目や味もなんとかなるでしょう。よければ、どれが流宇の作ったチョコであるかなぞなぞをかけて、兄に楽しんでもらうということもできそうです。
ルキハの方は、選ばれたチョコと流宇の作ったチョコを花に仕立て上げて、慣れた手際でクルクルとラッピングして花束に仕上げていきます。
「わあ、素敵です」
最後に薄い紙で全体をつつまれたチョコの花束をルキハから受け取って、流宇が顔をほころばせました。
★ ★ ★
「どうしたのかな?」
可愛い子ウサギの仮装をした女の子を見つけて、リオンが訊ねました。
「ええと……、お母さんいないの」
「それは困ったねえ。じゃあ、うさぎさんが一緒に捜してあげよう」
すぐに迷子だと分かったので、同じウサギの着ぐるみのリオンが一緒に手を繋いで商店街を歩いて行きました。
「占いはどうですかー」
商店街の端っこの方で占いの屋台を開いていたミチーノ・インフォルが、リオンたちにむかって声をかけてきました。
「迷子のお母さんを見なかった?」
「占ってみましょう」
リオンの問いに、ミチーノが水晶玉をのぞき込みました。リオンとしては、占いではなく、目撃証言が欲しかったのですが……。
「出ましたー。動かないで待つと吉です」
そう言って、ミチーノがリオンにむかって手を差し出します。仕方ないので、リオンがお代の代わりに案内所から持ってきたチョコレートを手渡しました。
「まいどー」
瞬間戸惑ったミチーノでしたが、まあいいやと笑顔を返しました。今日はお祭りなのですから。
「ああ、あの水晶玉もちょっといいなあ」
ミチーノの水晶玉を見て、うさ耳をつけたルミが物欲しそうにつぶやきました。
「そこのあなた! ずばり、水晶のアクセサリーが欲しい! それなら、三軒先の雑貨屋よ!」
ルミの様子を見てとって、ミチーノが叫びました。すかさず、手を差し出します。
「ありがとうです」
そう言うと、ルミもミニチョコを渡して去って行きました。
「いつから、この商店街の通貨はチョコになったのよ……。まったく、ウサギって奴は……」
納得できないと、頭をかかえるミチーノでした。
★ ★ ★
「うーん、見つからないねえ。少し休む?」
商店街を端から端まで一度歩いて回ってから、案内所の前まで戻ってきてリオンが女の子に聞きました。うんと、子ウサギがうなずきます。
「それじゃあ、よろしくお願いします」
「お任せください」
CAMパイロットのバイザーつきヘルメットのような物を被った駐在さんのピロータ・アッフィラートが、迷子を引き受けてくれました。赤いパイロットスーツにハーフのマントという、なんとなく戦隊ヒーローっぽい仮装です。
リオンの方は、手持ち看板に『案内所でうさぎさんの迷子を預かっています』と書いた紙をぶら下げて、再び商店街をいったりきたりし始めました。
★ ★ ★
「商売繁盛、商売繁盛……」
パンパン!
中央広場のCAM像に手を合わせてお祈りしてから、ミオレスカがパン屋の屋台を開きました。
チョコレートパン、チョコレートかけパン、チョコチップ入りパン、チョココロネと、チョコにちなんだCAMパンを各種とりそろえています。それ以外にも、アンパン、メロンパンなど盛りだくさんです。
ぴ~ひゃらら~。
一吹き高く横笛を鳴らしてから、両手にCAMパンを持ったミオレスカが、歌って踊りだしました。歌って踊れる鬼の人です。
「ひとつ、ひとまず、チョコレートパン。
ふたつ、ふっくら、つぶアンパン。
みっつ、みんなでメロンパン。
CAMパン食べてみませんか?」
何やら、CAMパン屋さんのテーマソングのようですが、もしかすると即興かもしれません。
そんな歌につられたのか、色々なチョコレートをかかえたマリィアがやってきました。
「ああ、こういうチョコの使い方もあるわよね」
チョコパンを見て、妙に納得します。
今まで買い集めたチョコを色々とつまんではみたのですが、ほとんどはオーソドックスなビターチョコです。もっと、フレーバーを聞かせたクリムゾンウェストらしい珍しい物があるのかもと思っていたマリィアとしては、ちょっと肩すかしを食らったような感じです。
「美味しいですよー」
ミオレスカが、試食用に小さく切ったチョコパンをマリィアに差し出します。
「あっ、意外といける。でも、さすがにチョコ味ばかりだとねえ」
少し飽きがきてしまうなあと、マリィアが思いました。
「もうちょっと、珍しいフレーバーも欲しいところね。たとえば、季節で言ったら、桃とか」
「桃ですか? そうですね、ちょうど季節ですね。でも、残念、用意してなかったのです。代わりと言ってはなんですが、こちらのアンパンには、塩漬けの桜がついているんですよ。甘塩っぱくて、とってもお勧めです」
そう言って、ミオレスカがマリィアに桜アンパンを勧めました。
「うん、これもなかなか……」
モグモグと、マリィアが桜アンパンを試食します。
「その仮装、バレンタインっぽくて、とっても素敵ですねー」
マリィアのマスクを見て、ミオレスカが言いました。
「あ、ありがとう。じゃあ、このアンパン一つ」
思わずアンパンを買ってしまうマリィアでした。ミオレスカの勝ちです。
★ ★ ★
ミオレスカのパン屋さんの近くには、ザレムの屋台もありました。こちらもCAMにちなんだ商品がならべられています。
「商店街名物、CAMチョコだあ! さあ、いらはい、いらはい」
さかんに景気よくザレムが呼び込みをします。ミオレスカのパン屋さんに負けてはいられません。
「まさか、あれはザレム君? いえ、きっと気のせいよね」
整備員姿のザレムを見たマリィアが首をかしげました。こんな所で、知り合いがチョコを売っているとは夢にも思わなかったものですから。多分、他人のそら似だろうということにしておきます。それでなくとも、今日はみんな仮面を被っていて正体不明です。無理に正体を勘ぐるのは無粋というものでした。
さてさて、ザレムの売っている商品は、題して『デュナミスのアンテナ』。棒状の細長いワッフルを串に刺し、へこみにチョコを詰めた物です。他にも、お祭りの定番、チョコバナナなども用意してあります。
「こういう風に、あたりが出たら、もう一本だよ。ほら、大当たりぃ!」
チョコバナナをモグモグと食べていたザレムが、『大吉』と書かれた串を高く掲げて叫びました。その声に、周囲の人たちが集まってきます。このために、商品を一本食べた甲斐がありました。いえ、決して、お腹が空いたからうっかり食べてしまったと言うことではありません。多分……。
「なんだか、チョコ味のレーションを思い出す商品よね……」
ワッフルを見て、懐かしんでいいのやら、がっかりしていいのやら、悩むマリィアでした。まあ、とにもかくにも、食べてみてみないことには始まりません。
「それ、一つください」
「まいどあり。トッピングは何がいいかな?」
ホワイトチョコのクリームソースや、色とりどりのチョコレートスプレー、大きめのチョコチップ、細切りのココナッツなどをさして、ザレムが言いました。相手がマリィアだとは、まったく気づいていないようです。よほど、ザレムがいだく、普段のマリィアのイメージとはかけ離れていたのでしょうか。謎です。普段なら当然気づくのでしょうが、今日は、お祭りの雰囲気が分からなくしているのかもしれません。なにしろ、どこもかしこもハイテンションですから。
「じゃあ、クラッシュナッツで」
「はい、喜んでー」
マリィアが言うと、ザレムが砕いたミックスナッツの入ったパットに、ワッフルを突っ込んで絡めました。おまけで、キャラメルソースもかけます。
「何が出るかな、何が出るかな♪」
なんだか楽しそうです。雰囲気に押されてマリィアがワッフルをかじると、棒が顕わになりました。『小吉。外れ』と書いてあります。
「残念。もう一本行くかい?」
「も、もう一本!」
ザレムに聞かれて、なんだか悔しくなって叫んでいたマリィアでした。
「まいどありー」
★ ★ ★
「さて、そろそろ出番でしょうか」
のんびりと案内所の奧で待機していた時雨が、重い腰をあげました。顔には、口許だけが露出した、星屑をちりばめたようなキラキラした銀仮面をつけます。銀の光は周囲へも飛び散るデザインで、ふわもこの頭を飾る薄布の衣溜まりの表面で弾けていました。白いドレスと相まって、まるで雪原に流れる川の金波銀波から飛びだした光が星となって弾けているかのようです。
表の商店街の大通りに出た時雨が、顕わになっている唇にフルートをそっと押しあてました。
その一息吐息に、軽快な音色が鳴り響きます。
周囲にいたお客さんたちの視線が、一斉に時雨に集まりました。
軽快な心惹く音楽と共に、時雨が歩きだします。当然のように人々がその後についてきました。
パレードの始まりです。
まるで、軽やかに飛び跳ね踊るパーンのように、あるいは、人々の心を捕らえたハーメルンのように。パレードの行列は、華やかな仮装をした人々を集めて、だんだんと長くなっていきます。
そのパレードに、案内所に戻ってきたリオンも加わります。その後ろには、同じようなうさぎの仮装をした親子がいました。負けじと、ルミもそれに加わってうさぎさん軍団を形成します。
その後から歩くルヌーンの羽がひらひらと踊ります。
夕暮れが近づき、夕日の赤い光が、時雨の率いるパレードの人々をオレンジ色に染めあげました。
チョコの花束を持った流宇の銀のマスクに、夕日の光が映えます。
「商売繁盛~♪」
パレードの人たちにむかって、お嬢様がキラキラと輝く色とりどりの紙吹雪を頭の上に撒き放ちました。
それに倣って、真や京真やルキハが、自分たちの店の前にやってきたパレードの人々にむかって紙吹雪を舞い散らせます。
パレードが商店街の端まで行ってから、反転して広場に戻ってくると、広場のCAM像から花火が打ち上がりました。
「わあ」
ミオレスカが歓声をあげます。
「もう一本!」
「まいどありー!」
その横では、まだあたりを出そうと頑張っているマリィアと、ほくほく顔で自分もチョコバナナをつまむザレムの姿がありました。足許には、たくさんの外れ串が落ちています。
暗くなってきた空に、また花火が上がりました。明るい光が、瞬間着飾った仮面の人々の姿を照らします。
そして、カーニバルは、まだまだ夜へと続くのです……。
お嬢様が、案内所に集また商店街の人たちを鼓舞しました。これから、お祭りに合わせて、一大セールを開始するのです。
「商工会からの支援として、プレーンのチョコレートを御用意いたしましたわ。食品関連のお店の方々は、御自由にお使いくださいませ」
テーブルの上に山盛りにされた素材のチョコレートを披露して、お嬢様が言いました。
「でも、東方でカカオが見つかったとかなんとかで、チョコレートは暴落気味だとか」
鞍馬 真(ka5819)が訊ねました。
「それって、大変じゃなあい? もしかして、赤字?」
ルキハ・ラスティネイル(ka2633)もちょっと不安な顔になります。
バレンタインへむけての不足から一時相場が高騰したカカオですが、抜け目のないヴァリオスの商人たちは、事前にそれを見越して買いだめをしていました。おかげで、ますますカカオが品不足となって高騰したわけです。けれども、つい先日、事態を重く見たバレンタイン推奨派のハンターたちが、東方にあるカカオの産地を確保し、以前と同じかそれ以上のカカオの供給を確保したところです。おかげで、今度は相場が暴落しつつあります。
「大丈夫ですわ。私たちが仕入れたカカオは、さっさと加工業者に売った後ですから。ここにあるチョコレートは、すでに値下がりした後の物。もう、差額でボロ儲けですので、ただで配っても損益は出ませんわ」
ニコニコ顔でお嬢様が答えました。さすが、転んでもただでは起きないどころか、転ぶ前に杖で周囲を突き刺していました。
「でも、それでは供給過多で売れないのでは?」
ザレム・アズール(ka0878)が、当然の疑問を口にします。これ以上値が下がる前に、一秒でも早く売ってしまおうと、チョコレート加工業者は血眼のはずです。
「工夫すればいいのでは?」
紫条京真(ka0777)が、言いました。
「その通りですわ」
お嬢様が、うなずきます。工夫しないで売れるものなどありません。もしそんなものがあったとすれば、工夫すればさらなるバカ売れになるではありませんか。
「まずは差別化を計ります。純カカオ、純国産を謳うのです! 新しく見つかった物は、カカオとは言っておりますが、しょせんは同等品。純正品には敵いませんわ。対するに、こちらは、最初からジェオルジなどにあった物です」
「それで、国産って言っちゃっていいんですか?」
まずいんじゃないかと、エルバッハ・リオン(ka2434)が言いました。気候的に、ジェオルジとはいえ、カカオが大量にとれるはずがありません。
「加工はジェオルジやフマーレでやっていますから、国産で問題ありません!」
ドきっぱりと、お嬢様が言い切りました。まあ、それだと、今回見つかった新しい産地の物でも、国内加工すれば国産ということになりそうではありますが。要は、ブランドであるので問題はないようです。
「とりあえず、パンのためにもらっていきますね」
難しいことは分からないけれど、とにかく美味しければいいと、ミオレスカ(ka3496)が、パンに練り込むチョコを確保しました。
京真、ルキハ、ザレム、真たちも、用意しておいた販売用のチョコレートとは別に、今日だけの特別品用のチョコレートを確保します。
素材以外にも、プレゼント用のミニチョコは、たくさん用意されていました。それぞれが、必要な量だけそれをもらっていきます。
「さあ、皆様、お着替えして、本番ですわよ!」
お嬢様が言うと、受付嬢のフィネステラが、部屋の奥を仕切っていたカーテンをサーッと音をたてて勢いよく引きました。そこに、盛りだくさんの衣装や仮面が現れます。
「では、皆様、お召し替えを」
デレトーレ支配人にうながされて、それぞれが衣装を着替えます。
京真は、角飾りのついた黒いフルフェイスのマスクに、キラキラのラメの入った白衣です。怪しい魔王とも、マッドドクターにも見えます。
「どうかな?」
「ダークでミステリアスで、いい感じじゃない♪」
訊ねる京真にそう答えたルキハは、長いフロックコートの上に薄いマントを羽織っています。どちらも真っ白で、ちょっとした貴公子という感じです。仮面は頬骨に沿って顔の上半分だけを被った白いマスクです。
さしずめ、京真とルキハで、貴公子と魔界医師のコンビというところでしょうか。
「怪しいというのは、こういう感じかな」
鮮やかな色の派手な薔薇のアイマスクを被った真が言いました。こちらは、ぴっちりとした漆黒の軍服を着ています。リアルブルーデザインのなんちゃって軍服なのでどこの軍の軍服というわけではありませんが、それが逆にストイックな雰囲気をかもしだし、派手なマスクとのギャップも相まって、怪しさ爆発です。普段はとろんとした表情なので見過ごされていますが、今日は仮面のせいか、本来の美形が強調されています。そのため、口調も相まってか、性別不詳にも見えます。まあ、やり過ぎるとオネエ扱いされてしまいそうですが。
軍服と言えば、ザレムはリアルブルーのCAM整備員風の制服に仮装していました。カーキー色のツナギに、仮面代わりに大きな色つきゴーグルをかけています。周りの人たちの仮装と比べるとかなり異質ですが、これもりっぱな仮装です。
異質と言えば、リアルブルー風の真やザレムたちと比べても、ミオレスカは異風でした。東方風の着流しに、鬼の仮面を被っています。リアルブルーの者たちが見たら、すわ節分かと勘違いしてしまいそうです。
「私は自前を持ってきたから」
リオンが、まるごとうさぎに身をつつんで言いました。顔の部分には、白いフルマスクの仮面を被りました。仮面には、ちょっとデフォルメしたうさぎさんの顔が描いてあります。ちょっとだぶだぶでせっかくのナイスバディが隠れてしまっていますが、そこは愛嬌優先です。宣伝キャラは、親しみがなければいけません。
「さあ、出動ですー!」
キンキラモールに縁取られたど派手な『大特売セール』と書かれた手持ち看板を掲げて、リオンは商店街の通りへと踊りだしていきました。かかえたバスケットには、サービスで配る用のチョコレートを入れてあります。他の者たちも、自分たちの店へと次々に散っていきます。
「わたしは、もう少し待機でしょうか」
ふんだんにレースのフリルがあしらわれたホワイト・プリンセスを着た外待雨 時雨(ka0227)が、愛用のフルートを磨きながら言いました。出番を待って、のんびりと案内所の中でお茶しています。
★ ★ ★
「わあ、うさぎさんです♪」
リオンの着ぐるみ姿を見て、商店街へ買い物にやってきていたルミ(ka3728)が歓声をあげました。
「そのうさぎさん、どこで着られますか?」
思わず、ルミがリオンに訊ねました。
「ええと、これは私オリジナルなんですけれど、案内所でみなさんにも衣装の貸し出しをしていますよ。どうぞ、御利用ください」
リオンが、ルミを案内所へと誘導しました。
「わあ、凄い。何を着てもいいんですか」
「どうぞ、どうぞ」
訊ねるルミに、妖精の仮装に着替えたフィネステラ嬢が答えました。
「どれにしようかなあ……」
バイト先の花屋さんからやっともらえたせっかくのお休みです。ここは、色々と楽しみたいところですが……。
「そういえば、さっきのうさぎさん風もいいかも……」
そう思いついて、ルミがテキパキと衣装を選んでいきました。レースの白いワンピースの上に、ふわもこの衿がついた白いうさぎの毛のマントをふわりと羽織ります。フルフェイスの白い仮面をつけると、うさぎの垂れ耳のカチューシャを頭に被って、銀の髪を被い隠すぐらいにたくさんの花を盛ります。
「さあ、お買い物~♪」
ルミは、意気揚々と表通りへと出て行きました。
「まずは、この格好に似合うリボンとかかなあ」
そう言って、ルミはお嬢様の店に入っていきました。
こちらでは、貸衣装ではなく、売り物のきらびやかな衣装がならべられています。それに合う小間物も、ふんだんにありました。
「可愛いリボンが欲しいなあ」
うさ耳に似合う色のリボンを探して、ルミがあれこれと商品を見比べました。
「こちらに、鏡もありますよ」
凛々しく仮装したお嬢様に勧められて、色々と合わせてみます。結果、光沢のある赤いリボンと、頭の花に合わせた色のコサージュを買いました。
「ありがとうございましたー」
サービスで、可愛いミニチョコつきです。
★ ★ ★
「わあ、手作りコーナーもあるんですのね」
案内所の横に作られた手作りチョコレートコーナーを見つけて、鳳凰院 流宇(ka1922)が歓声をあげました。
お嬢様ドレスにフルフェイスの銀のマスクという姿の流宇は、お料理をしたことがありません。そのため、手作りという言葉に興味津々です。
「料理などしたことのない、わたくしにも、できるのでしょうか……」
「大丈夫。私にだって作れるんだから」
そう言って、フィネステラ嬢が、団子遊びのようないびつな凸凹のたくさんある雪だるまのチョコレート人形を見せて言いました。いや、さすがに雪だるまは、そろそろ季節外れのような気がしますが。それ以前に、これは、ヘタな例でお客様に勇気を分けているのか、やっぱり難しいと叩きのめしているのか、どっちなんでしょう。
バタフライマスクに小振りの蝶の羽根のついたドレスを着たフィネステラ嬢は妖精っぽくて可愛いのですが、いかんせんチョコレートは……。
「心配ございません。希望のお客様には、きちんと御指導いたしますので」
顔の右半分を白いマスクで隠し、家令然としたスーツでびしっと決めた支配人が、流宇に微笑みました。
それに励まされて、流宇がチョコレートを作り始めます。
まずは、せっかくの衣装が汚れないように、ピンクの割烹着を着せられます。ちょっと全身のシルエットがぽっこりとしてしまいますが、可愛らしくレースがあしらわれたりしていて、意外とおしゃれです。
「それでは、最初にチョコを刻んでいただきましょう」
「えーい」
支配人の指導で、流宇が用意されていた板チョコを包丁で刻んでいきました。どうせ溶かすので微塵切りですが、包丁のあて方が悪いのか、盛大に周囲に飛び散ります。派手です。
「次に、湯煎で溶かします」
「てーい」
お湯に浸けたボウルの中で、へらでチョコを溶かしていくわけですが、またもや、溶けたチョコの飛沫が盛大に飛び散ります。ここまで来ると、ほぼお約束です。割烹着、いい仕事をしています。ドレスは無事です。でも、ちょっと、仮面にチョコが飛んでしまいましたか。
「お兄様、喜んでくれるかしら」
流宇としては、チョコを贈る人は兄ぐらいしか思いつきません。この際、拒否権はないことにしてもらいましょう。
「それでは、丸めていただきます」
軽く冷やしたチョコをすくい取り、冷たく冷やした手の上でころころと丸めていきます。いわゆるガナッシュです。
「ころころ、ころころ……」
うっかりとフィネステラ嬢のような雪だるまにならないように、丁寧に丸めていきます。
「ぱらぱらぱら……」
最後に、ココアパウダーをまぶすとできあがりです。うん、初めてにしては、なかなかいい感じにできあがりました。これなら、お兄様にあげても問題ないでしょう。
「後は、綺麗なラッピングをお買い求めください」
「はい♪」
多少大きさは不揃いですが、なんとなく上手くできたガナッシュを持って、流宇は包装を買いに商店街へと出て行きました。
★ ★ ★
「うーん、まさか、売り手だけでなく、買い手もみんな仮装しているとは思わなかったわ」
商店街をにぎわせている売り子やお客たちの姿を見回して、マリィア・バルデス(ka5848)がつぶやきました。
お祭りで盛りあがっているというので、見物もかねてやってきたのですが、ここまでみんなが一体となって盛りあがっているとは思いもしなかったのです。
とはいえ、なんとなくおしゃれしなくてはいけないという予感がしたので、珍しくゴシックドレスなんかを着てきたので、だいたい問題なしです。仮面も、バレンタイン用のハート型の仮面を手に入れています。本来ですと、ちょっと恥ずかしいような仮面ですが、これだけ派手な集団の中では、簡単に埋もれてしまいそうです。
いつもの鎧や戦闘服姿ではないので、ちょっとスカートのあたりがスースーして落ち着かないのですが、女の子なのですから、たまにはこういうのも経験しておかないとだめでしょう。郷に入っては、郷に従えです。
それに、一応仮面をつけているのですから、誰も自分をマリィアだと分からないはずですから。
「そして!」
改めて、マリィアが気合いを入れなおしました。
今日の目的は、あくまでもチョコレートの検分です。
リアルブルーでも様々なチョコレートの種類が存在しました。はたして、ここクリムゾンウェストでは、どんなチョコレートがあるのでしょうか。それを確かめなければならないのです。
案内所の近くには手作りコーナーもあるようで、この世界でもチョコ自体は珍しい物ではないのかもしれません。まあ、確証はないので、一応メモしておきます。メモメモ。
商店街のお店も、服を売っている店はこれ見よがしに派手な衣装を店頭に飾ってお客さんを呼び込んでいます。
雑貨屋では、様々な仮面をずらりとならべていました。長円形で顔全体を被って紐で留める物や、頭巾がついていてすっぽりと頭にかぶれる物もあります。そういう物は、帽子のようにど派手な飾りがついているようです。
顔半分を隠す物も多く、上だけとか、右半分とか、断面も変わった形になっていたりと、様々です。
特に変わっているのは、鼻の部分が異様に長くのびていたり、顎の部分が長くとんがっている物でしょうか。
色は白が大半のようですが、中には真っ黒な物もあります。目の部分の小さなのぞき穴以外の顔を、妖しく、あるいは面白おかしく描いた物もあります。
アイマスクタイプは、マリィアの被っているような真っ赤な物から、ど派手な黄金の物まであり、とんがっていたり丸かったり、本当に千差万別です。でも、ハート型はほとんどないようなので、ちょっとは個性的と言うことなのでしょうか。
中には、動物の被り物のマスクをしている者もいます。もう、こうなると、ほとんど何でもありのコスプレ大会です。
★ ★ ★
「そこの綺麗なお嬢様、お一ついかがかな?」
ど派手な姿のお客を見つけて、軍服姿の真が声をかけました。相手は、ルヌーン・キグリル(ka5477)です。
顔を被う白い仮面には、鮮やかな色に染められた、長いど派手な羽がふんだんにつけられています。真っ赤なドレスにも、大小のふわふわした羽がたくさんつけられていて、ルヌーンが歩く度にゆらゆらと美しくゆれました。
「あら、私のことかしら」
多分自分のことだと分かっていて、ルヌーンが答えます。
横で見ていたマリィアが、あれだけ派手ならそうだろうなあと言う感じで、後ろから売られているチョコをのぞき込みます。派手と言えば、売り子の真がつけている薔薇のマスクもど派手でマリィアのマスクといい勝負です。
「他に誰がいると言うのです。さあ、麗しいあなた、いかがですか、チ・ョ・コ・レー・ト・は!」
ルヌーンの派手な衣装に負けず劣らずのハイテンションで、真が商品を勧めました。
屋台には、様々な方法で綺麗にラッピングされたチョコがならんでいます。可愛い紙袋に、きちんとした箱にリボンをかけた物、ちょっと高級な木の箱、一つとして同じラッピングはありません。
「お嬢様には、こちらなんかいかがでありますかな。殿方の攻略には、ドーンと強烈な一撃が一番!」
箱よりもでっかい紫色のリボンの花がついたチョコを手にとって見せて、真が言いました。
「あら」
ルヌーンが、なんとなく親近感をいだいて、それを購入します。
「まいどありー」
ふわふわステップを踏みながら去って行くルヌーンに、真が敬礼をしました。
★ ★ ★
「わあ、いろんなチョコがあります!」
店先にならべられたチョコを見て、ウサギコスプレのルミがピョンと跳びはねました。
「いかがですか。これらのチョコで、彼の心を解剖してみませんか?」
怪しい医師コスプレの京真が、医療用メスの形をしたチョコをルミに勧めてきました。その横には、注射器に入ったチョコもあります。
「これ、出てこないんじゃ……」
ガッチリと固まっている注射器チョコを見て、ルミが言いました。これでは、押してもチョコが先端から出てくる気がしません。それでは食べられないんじゃないでしょうか。
「大丈夫ですよ。ほら、この通り」
そう言うと、京真が注射器のプランジャーを引き抜いて見せました。シリンジがなくなると、ちゃんとしたスティックチョコになります。
「ちょっと、面白いかも~」
メスのチョコよりは、よっぽど面白食べ物チョコっぽいです。だいたい、メスのチョコは、ヘタにかじりついたら口の中を切ってしまいそうではありませんか。
「これください」
「ありがとうございます。では、お大事に」
処方箋と書かれた袋に入れた注射器チョコを、京真がルミに手渡しました。
「なんだか、ネタに走りすぎのような……」
さっきの包装に凝ったお店とは対照的な、ベクトルの違う凝り方だと、ちょっとマリィアが唖然とします。これって、もらった男性が引いたりしないのでしょうか。
「どうですか、ルキハさん」
「ううむ、先を越されちゃったわね」
ちょっと自慢げに京真に声をかけられて、ルキハがぐぬぬっとなりました。
そこへ、ふわふわとドレスをゆらしながら流宇がやってきました。
「いらっしゃいませぇ。大切なあの人に贈る、綺麗なチョコの花束いかがですかぁ」
おいでおいでと、貴公子コスプレのルキハが、白手袋をした手で流宇を手招きします。
「わあ、綺麗ですねえ」
上手い具合に、流宇が食いついてきてくれました。
ルキハの屋台には、様々な形のチョコレートチップがならべられています。定番のハート型や、星の形。クローバーに、桜型、丸に四角に三角。これらのチョコを自由に選んでもらって、それを木の串に刺して花束のようにラッピングしてしまおうという物のようです。
へえーっと、隣からやってきたマリィアが、物珍しそうにそれぞれのチョコレートを吟味します。形が違えば、味も違うのでしょうか。
「あのう、私が持っているチョコを混ぜてもよろしいですか?」
流宇が、さっき作ったチョコを見せて言いました。
「混ぜるのは大丈夫よん」
ルキハがOKします。
「それでは、これとこれを混ぜて……」
流宇が、いくつかのチョコを指定しました。手作りとちゃんとしたチョコを混ぜて贈れば、見た目や味もなんとかなるでしょう。よければ、どれが流宇の作ったチョコであるかなぞなぞをかけて、兄に楽しんでもらうということもできそうです。
ルキハの方は、選ばれたチョコと流宇の作ったチョコを花に仕立て上げて、慣れた手際でクルクルとラッピングして花束に仕上げていきます。
「わあ、素敵です」
最後に薄い紙で全体をつつまれたチョコの花束をルキハから受け取って、流宇が顔をほころばせました。
★ ★ ★
「どうしたのかな?」
可愛い子ウサギの仮装をした女の子を見つけて、リオンが訊ねました。
「ええと……、お母さんいないの」
「それは困ったねえ。じゃあ、うさぎさんが一緒に捜してあげよう」
すぐに迷子だと分かったので、同じウサギの着ぐるみのリオンが一緒に手を繋いで商店街を歩いて行きました。
「占いはどうですかー」
商店街の端っこの方で占いの屋台を開いていたミチーノ・インフォルが、リオンたちにむかって声をかけてきました。
「迷子のお母さんを見なかった?」
「占ってみましょう」
リオンの問いに、ミチーノが水晶玉をのぞき込みました。リオンとしては、占いではなく、目撃証言が欲しかったのですが……。
「出ましたー。動かないで待つと吉です」
そう言って、ミチーノがリオンにむかって手を差し出します。仕方ないので、リオンがお代の代わりに案内所から持ってきたチョコレートを手渡しました。
「まいどー」
瞬間戸惑ったミチーノでしたが、まあいいやと笑顔を返しました。今日はお祭りなのですから。
「ああ、あの水晶玉もちょっといいなあ」
ミチーノの水晶玉を見て、うさ耳をつけたルミが物欲しそうにつぶやきました。
「そこのあなた! ずばり、水晶のアクセサリーが欲しい! それなら、三軒先の雑貨屋よ!」
ルミの様子を見てとって、ミチーノが叫びました。すかさず、手を差し出します。
「ありがとうです」
そう言うと、ルミもミニチョコを渡して去って行きました。
「いつから、この商店街の通貨はチョコになったのよ……。まったく、ウサギって奴は……」
納得できないと、頭をかかえるミチーノでした。
★ ★ ★
「うーん、見つからないねえ。少し休む?」
商店街を端から端まで一度歩いて回ってから、案内所の前まで戻ってきてリオンが女の子に聞きました。うんと、子ウサギがうなずきます。
「それじゃあ、よろしくお願いします」
「お任せください」
CAMパイロットのバイザーつきヘルメットのような物を被った駐在さんのピロータ・アッフィラートが、迷子を引き受けてくれました。赤いパイロットスーツにハーフのマントという、なんとなく戦隊ヒーローっぽい仮装です。
リオンの方は、手持ち看板に『案内所でうさぎさんの迷子を預かっています』と書いた紙をぶら下げて、再び商店街をいったりきたりし始めました。
★ ★ ★
「商売繁盛、商売繁盛……」
パンパン!
中央広場のCAM像に手を合わせてお祈りしてから、ミオレスカがパン屋の屋台を開きました。
チョコレートパン、チョコレートかけパン、チョコチップ入りパン、チョココロネと、チョコにちなんだCAMパンを各種とりそろえています。それ以外にも、アンパン、メロンパンなど盛りだくさんです。
ぴ~ひゃらら~。
一吹き高く横笛を鳴らしてから、両手にCAMパンを持ったミオレスカが、歌って踊りだしました。歌って踊れる鬼の人です。
「ひとつ、ひとまず、チョコレートパン。
ふたつ、ふっくら、つぶアンパン。
みっつ、みんなでメロンパン。
CAMパン食べてみませんか?」
何やら、CAMパン屋さんのテーマソングのようですが、もしかすると即興かもしれません。
そんな歌につられたのか、色々なチョコレートをかかえたマリィアがやってきました。
「ああ、こういうチョコの使い方もあるわよね」
チョコパンを見て、妙に納得します。
今まで買い集めたチョコを色々とつまんではみたのですが、ほとんどはオーソドックスなビターチョコです。もっと、フレーバーを聞かせたクリムゾンウェストらしい珍しい物があるのかもと思っていたマリィアとしては、ちょっと肩すかしを食らったような感じです。
「美味しいですよー」
ミオレスカが、試食用に小さく切ったチョコパンをマリィアに差し出します。
「あっ、意外といける。でも、さすがにチョコ味ばかりだとねえ」
少し飽きがきてしまうなあと、マリィアが思いました。
「もうちょっと、珍しいフレーバーも欲しいところね。たとえば、季節で言ったら、桃とか」
「桃ですか? そうですね、ちょうど季節ですね。でも、残念、用意してなかったのです。代わりと言ってはなんですが、こちらのアンパンには、塩漬けの桜がついているんですよ。甘塩っぱくて、とってもお勧めです」
そう言って、ミオレスカがマリィアに桜アンパンを勧めました。
「うん、これもなかなか……」
モグモグと、マリィアが桜アンパンを試食します。
「その仮装、バレンタインっぽくて、とっても素敵ですねー」
マリィアのマスクを見て、ミオレスカが言いました。
「あ、ありがとう。じゃあ、このアンパン一つ」
思わずアンパンを買ってしまうマリィアでした。ミオレスカの勝ちです。
★ ★ ★
ミオレスカのパン屋さんの近くには、ザレムの屋台もありました。こちらもCAMにちなんだ商品がならべられています。
「商店街名物、CAMチョコだあ! さあ、いらはい、いらはい」
さかんに景気よくザレムが呼び込みをします。ミオレスカのパン屋さんに負けてはいられません。
「まさか、あれはザレム君? いえ、きっと気のせいよね」
整備員姿のザレムを見たマリィアが首をかしげました。こんな所で、知り合いがチョコを売っているとは夢にも思わなかったものですから。多分、他人のそら似だろうということにしておきます。それでなくとも、今日はみんな仮面を被っていて正体不明です。無理に正体を勘ぐるのは無粋というものでした。
さてさて、ザレムの売っている商品は、題して『デュナミスのアンテナ』。棒状の細長いワッフルを串に刺し、へこみにチョコを詰めた物です。他にも、お祭りの定番、チョコバナナなども用意してあります。
「こういう風に、あたりが出たら、もう一本だよ。ほら、大当たりぃ!」
チョコバナナをモグモグと食べていたザレムが、『大吉』と書かれた串を高く掲げて叫びました。その声に、周囲の人たちが集まってきます。このために、商品を一本食べた甲斐がありました。いえ、決して、お腹が空いたからうっかり食べてしまったと言うことではありません。多分……。
「なんだか、チョコ味のレーションを思い出す商品よね……」
ワッフルを見て、懐かしんでいいのやら、がっかりしていいのやら、悩むマリィアでした。まあ、とにもかくにも、食べてみてみないことには始まりません。
「それ、一つください」
「まいどあり。トッピングは何がいいかな?」
ホワイトチョコのクリームソースや、色とりどりのチョコレートスプレー、大きめのチョコチップ、細切りのココナッツなどをさして、ザレムが言いました。相手がマリィアだとは、まったく気づいていないようです。よほど、ザレムがいだく、普段のマリィアのイメージとはかけ離れていたのでしょうか。謎です。普段なら当然気づくのでしょうが、今日は、お祭りの雰囲気が分からなくしているのかもしれません。なにしろ、どこもかしこもハイテンションですから。
「じゃあ、クラッシュナッツで」
「はい、喜んでー」
マリィアが言うと、ザレムが砕いたミックスナッツの入ったパットに、ワッフルを突っ込んで絡めました。おまけで、キャラメルソースもかけます。
「何が出るかな、何が出るかな♪」
なんだか楽しそうです。雰囲気に押されてマリィアがワッフルをかじると、棒が顕わになりました。『小吉。外れ』と書いてあります。
「残念。もう一本行くかい?」
「も、もう一本!」
ザレムに聞かれて、なんだか悔しくなって叫んでいたマリィアでした。
「まいどありー」
★ ★ ★
「さて、そろそろ出番でしょうか」
のんびりと案内所の奧で待機していた時雨が、重い腰をあげました。顔には、口許だけが露出した、星屑をちりばめたようなキラキラした銀仮面をつけます。銀の光は周囲へも飛び散るデザインで、ふわもこの頭を飾る薄布の衣溜まりの表面で弾けていました。白いドレスと相まって、まるで雪原に流れる川の金波銀波から飛びだした光が星となって弾けているかのようです。
表の商店街の大通りに出た時雨が、顕わになっている唇にフルートをそっと押しあてました。
その一息吐息に、軽快な音色が鳴り響きます。
周囲にいたお客さんたちの視線が、一斉に時雨に集まりました。
軽快な心惹く音楽と共に、時雨が歩きだします。当然のように人々がその後についてきました。
パレードの始まりです。
まるで、軽やかに飛び跳ね踊るパーンのように、あるいは、人々の心を捕らえたハーメルンのように。パレードの行列は、華やかな仮装をした人々を集めて、だんだんと長くなっていきます。
そのパレードに、案内所に戻ってきたリオンも加わります。その後ろには、同じようなうさぎの仮装をした親子がいました。負けじと、ルミもそれに加わってうさぎさん軍団を形成します。
その後から歩くルヌーンの羽がひらひらと踊ります。
夕暮れが近づき、夕日の赤い光が、時雨の率いるパレードの人々をオレンジ色に染めあげました。
チョコの花束を持った流宇の銀のマスクに、夕日の光が映えます。
「商売繁盛~♪」
パレードの人たちにむかって、お嬢様がキラキラと輝く色とりどりの紙吹雪を頭の上に撒き放ちました。
それに倣って、真や京真やルキハが、自分たちの店の前にやってきたパレードの人々にむかって紙吹雪を舞い散らせます。
パレードが商店街の端まで行ってから、反転して広場に戻ってくると、広場のCAM像から花火が打ち上がりました。
「わあ」
ミオレスカが歓声をあげます。
「もう一本!」
「まいどありー!」
その横では、まだあたりを出そうと頑張っているマリィアと、ほくほく顔で自分もチョコバナナをつまむザレムの姿がありました。足許には、たくさんの外れ串が落ちています。
暗くなってきた空に、また花火が上がりました。明るい光が、瞬間着飾った仮面の人々の姿を照らします。
そして、カーニバルは、まだまだ夜へと続くのです……。
依頼結果
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イベント相談 ミオレスカ(ka3496) エルフ|18才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2016/02/11 23:25:59 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/02/13 07:11:47 |