• 闇光

【闇光】望郷の虎

マスター:韮瀬隈則

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/02/16 15:00
完成日
2016/02/24 06:32

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


「拾って還してやらねばなるまいよ」
 辺境の老ハンター。佐々木寅次は集落の留守を預ける孫にそう言って、ここ──1ヶ月前にサルヴァトーレ・ロッソ防衛作戦が行われた帝国北方フレーベルニンゲン平原──に来ている。

 昨年、になるか。冬の初めの撤退戦で、リアルブルーの船に乗れずに力尽きた者たち。彼らを護って逝った者たち。辺境の地に横たわる、人と機械の亡骸。
 彼らへの供養と慰霊。叶わぬならせめてもの遺品の帰郷。
 かの大規模作戦終了後、辺境の民とハンター有志により、細々と行われてきた遺体と遺品の回収作業。いつ終わるとも知れない作業に、ここにきて増員募集がかかった。

 辺境のそこへ、ではない。
 帝国北方。
 フレーベルニンゲン決戦と俗に呼ばれる作戦の地、である。

「最大限数のユニットと兵器回収に努めよ。不可能あるいは困難である場合、歪虚ならびに敵対亜人による鹵獲阻止を理由に破壊せよ」
 増員依頼の詳細に、それまでの回収作業要綱と違って大書きされた文字。つまりはそういうことである。



 佐々木寅次は70年前、大戦末期に転移した大日本帝国陸軍の少年兵だった過去を持つ。
 暑い夏の終わり、大陸からの撤退戦の最中。生きて還ることはあるまいとは覚悟の上。持てない砲と弾薬を処分し、チャチな歩兵銃と軍刀だけで何ができたろう? それでも愛しい者へ届くならばと懐に入れた遺書は、引揚げ船に託す機会もなく、未だ異郷の寅次の手にある。
「迎えの船を目の前にして、連れ帰る者達を目の前にして、斃れて逝ったのだ。還してやらねばなるまいよ。その武器に味方を撃たせてはなるまいよ」
 寅次は戦場で遺品泥棒を働く歪虚と亜人を、嫌というほど見てきている。案の定、戦場の外れでの事前調査書にはゴブリンらしき遺体荒らしの跡があった。
 70年前、ゲリラに奪われた銃弾に家族の写真ごと貫かれた戦友の顔が忘れられない。
 ガタゴトと揺れる魔導トラックの荷台で、寅次は再度小さくごちた。


 と、その時──
 ひゅうっ! と鋭い音と共に、行く手斜め前方の空に信号弾が上がった。
 サルヴァトーレ・ロッソから派遣された調査車両が、あの場所に向かっていたはずだ。



「信号弾! 遅かれ早かれ位置がバレる、構うもんですか!」

 元ロッソの乗組員だろうか。くたびれた作業着に防寒着を重ね、トラック荷台から銃を構えた女性ハンターが、運転手に応援要請を指示する。確か、この近くに1班、回収作業にあたるハンターが来ているはずだ。


 ──少し前。
 不適切にも個人的感傷をあらわにして、かの女性ハンターは地図とファイルを片手に、破壊された防衛陣地末端で回収前調査へ向かっていた。
「あの子は絶対ここに居る。出動直後までモニタしていたもの。必ず見つけて連れ帰る」
 知り合いらしい魔導トラックの運転手が、仕方ないなという顔で示された位置へとハンドルを切る。転移後の今も嘱託で整備に従事するほど、彼女はCAMに思い入れがあるのだから、と。
 あの子というのは、白地の肩に虎縞文様のトライバルが描かれたデュミナスで、特に彼女が可愛がっていた機体だ。機械相手に可愛がるとは妙な表現だが──専属パイロットを機体と表裏一体に支えてきた、彼女の自負の表れである。
 絶対に連れ帰る。とは、CAMだけの事ではないのだろう。
 祖父が大戦で、父が大事故で、恋人が宇宙開発で還らなかった。だから私は整備士になった。必ず帰ってこれる機体のために。──いつか酔った彼女がこぼした言葉を、運転手は覚えている。

「見つけた!」
 彼女の歓喜。しかしそれが怒気に変わる。
「あいつら……汚らわしい手で触らないでよ!」
 元の地形に資材と瓦礫が積み重なった陰に、擱座した白い曲線。その周囲と表面にへばりつく、小さな幾つもの影。人間では、ない。ゴブリンの遺体荒らしと……更に小さい人影は……なんだろう?
 コボルドでも連れてきたか、と舌打ちして、運転手は双眼鏡を構え驚愕の声をあげた。
「……嘘!? なんで動くの!」
 更に彼女の悲鳴。
 曲線が揺らぎ、半身をおこす。ぎこちなく兵装を握る腕が揺れる。
 不器用に振り上げた刀身が、運の悪いゴブリンを叩き潰した。
 ゴブリンの操縦ではない。あれは歪虚だ。
 小さな人影を幾つもへばりつかせたまま、ガクガクと揺らぎ片足を突っ支い棒に立ち上がったがCAMが、瓦礫の合間に逃げるゴブリンを追う。そして──

 慌てて瓦礫の死角にトラックを寄せた運転手に、増援を呼べと指示が飛んだ。
「今を逃したらあの子はやがてロッソを撃つ。連れ戻すには今しかないの」


 ──彼女の名は、佐々木満桜。
 70年の時と世界の壁を越えて戦場に会す、祖父と娘は互いの存在を未だ知らない。

リプレイ本文


 異変前。
 思い起こせば──不穏な兆候はあったのだ。

「バイク、貸して頂いてありがとうなの。普段は馬でかぽかぽ歩いてるけれど、あの子戦場怖がるのと泥棒さんが不安だったの。えーっと……」
 なんて呼べばいいんだろう? 佐々木さん? 満桜ちゃん?
 小首を傾げディーナ・フェルミ(ka5843)がトラック荷台の満桜に礼を言う。
「格納庫じゃ佐々木って呼び捨てだけど、好きなように呼んで」
 くすりと返し、満桜はバイクの調整は充分かと聞く。多重ロック対応で少し弄ってあるからと言って、盗賊団の物色跡を思い出したのだろう。忌々しげに片眉を顰めた。
「たくさんの子たちが壊されたまま、盗まれ朽ちていくのは偲びないです。ひとつでも多く回収して、また動くようにしてあげたいです」
 併走する沙織(ka5977)が小さく頷いて、行く手の瓦礫を望む。視線は遥かその先だ。
(私のあの子……愛機は失われてしまったけれど、形見の部品を継いでくれる子がいたら、と思うもの)

 瓦礫外縁本調査班。
 皆が皆、愛機と愛馬をこの子と呼ぶのは、偶然ではない。
 亜人盗賊団の活動が判ったのは、先遣調査の報告からだ。先遣も危うく襲われかけた、とあっては穏やかではない。オフィスは志願者2名をロッソ経由で当調査班に振り分けた。
 そして、その判断は的中する。



 甲高い音をあげて発煙飛翔する信号弾──

「トラック位置遷移! すぐ! 回収部隊が合流予定点近くにいればいいけど」
「やっとりま!」
 運がよければ数分、わるければもっと。
 元の合流予定地から算出して持ちこたえなければならない。
 ぎりっ、と満桜が奥歯を噛み締め、運転手が煙草を咥えるそこへ、沙織が「はい」と、一口チョコの包みを渡す。
「バレンタインですし、食べると落ち着きますよ」
 頭のガソリンですからね! と笑う。バレンタインの単語に一瞬キョドる運転手の礼を制して、回収作戦のトラック用共通無線周波数を聞く。
「確か出発するとき、書類見て合わせてましたよね? 教えてください!」
「距離と速度的に、あまり意味は無いと思うが……」
「構いません、勝機は勝ち取ります」
 伝達するもののない荒野でトラック同士。有効距離500m。通信機器搭載は慣習的範囲にすぎない。それでも──増援に有効な情報を送らなければなるまい。トランシーバーを調整した沙織は双眼鏡を構え、荷台に入れっぱなしだったラジコン飛行機を取り出した。

「あの子の索敵、まけたみたいだけど……変ね」
「カメラじゃないですよね?」
 瓦礫の山が特に点在するバリケード跡に潜み、歩行の止まったCAMの様子を窺う。高い視点からの索敵は間違いないだろうが──

 一瞬の油断──かもしれない。
 ほんの数秒、全員CAMの挙動に注目してしまった。
 相手がCAMとゴブリンだったから。普通なら瑕疵にもならない、数秒のこと。

「痛っ!」
 満桜の肩を一矢が掠めた。
「ヒールを……」
 デイーナが手当に向かい、制され警戒に入る。
「平気! それよりCAMは?」
「気づいて、でも撃ってこない、です?」
 沙織と満桜のやりとり。それでも索敵継続中なのが気配でわかる。次は撃たれる。
「歪虚です。あのゴブリン、歪虚にされています」
 震える声でディーナが、矢の主を示す。瓦礫のあちこちに得物を構え睨む目の色が──ゴブリンのものではなかった。 弓が2匹、斧が2匹。生意気にも4マンセルに近い。
「佐々木ちゃん、行って! CAMを連れて帰るには歪虚に好きにさせてはいけないの! 私が足止めするの!」
 ディーナが叫ぶ。
 最初に見た盗賊ゴブリンは10体近く、残りはどこだろう? 包囲強襲は時間の問題──
「ダメ、無茶しないで」
 満桜の制止に、ディーナはかぶりをふる。
「私、ヒールもセイクリッドフラッシュもディヴァインウィルも、こんな時のために備えてきたの。足止めの最適解が私なの。だから……みんなを連れ帰るために、行って!!」
「運転手さん、出して! いま諮詢してるほうが状況は悪化する。ディーナさん、あなたに銃は向けさせません!」
 そういうことか!
 沙織の指摘にトラックが発進する。
 なお案じる満桜を、殲滅だって狙えちゃうの、とデイーナが笑って送る。
 ゴブリンとCAMが連携関係にあるとしたら、包囲網成立から崩すべきであった。
「少し離れたらラジコンを出します。CAMの注意をひいて、位置転換しながら攻勢反転に必要な情報を集めます」
 頼むね、と、大好きだったマンガの飛空船を、沙織は空に放った。



 がたん。外周域回収班のトラックが跳ねた。
 散乱する瓦礫を踏んだらしい。調査班との合流点まであとわずかだ。
「帰れなかった無念の欠片か。わかるよ。果たしてない約束があるのに、諦めるなんてできないものね」
 ちょっと停めてて。と、レホス・エテルノ・リベルター(ka0498)はバイクを反転させ、小さなケースを持ち帰りトラック荷台の袋に収めた。中には誰かの写真と手紙。
「パイロット時代、出撃前に遺書を書くんだ。何十通も無駄にしたけど、最後の一通は家族に届いたかな……」
 本当はここで生きてることを知らせたいけど。と飲み込んで、レホスは寅次を見る。
「俺の遺書か? 受け取る者も残っておるまいよ」
 自分は帰らぬ、遺書も託さぬ。少し前、道すがらの戯れ話に寅次が言った。
 70年。寅次がリアルブルーに居ない歳月。

(佐々木さんの言う大戦ってあの戦争じゃないか! 僕が生まれるずっと前から帰れていないって、機会は全く……いや、状況が違う。ロッソが来たことが転機のはずだ。ダメだ、待つ人も居なくなるなんて考えちゃ……小夜ちゃんの心が……)
 再発進するキヅカ・リク(ka0038)のナグルファルが殊更爆音をたてた。心中を隠すように。
「……リクのおにいはん……最近……少し考えるよぉになりました」
 浅黄 小夜(ka3062)の重装馬が寄り添う。隠し事はできない。
「小夜は帰ること諦めてないけれど……ダメでも気持ちだけは帰りたいから……小夜のことずっと覚えていて欲しいです」
「小夜ちゃん?」
「寅次のお爺ちゃん……それでも遺品集めるんは……生きた証を故郷に還す為です」
「うん。ずっと一緒に居よう。何があっても二人で帰ろう」
 キヅカが小夜を、小夜がキヅカを、必ず故郷に連れて行こう。

(──ナーバスになっていけないな)
 久延毘 大二郎(ka1771)の溜息。古戦場調査なら嬉々となるのに近代戦は生々しすぎる。特に、歪虚を身近に暮らすこの世界では。

 ひゅうっ!

 その時、蒼天を貫いて信号弾が鳴った。
「距離! 即応まで何分かかる? 無線は?」
「現在地はここ。計算より急ぐほうが良い位置よ」
 寅次が久延毘に地図を投げる。
「久しぶりの再会が、また荒事だな」
「聖地奪還から続く回収整理の一端だったはずが、また、だ。一応言っておくが、寅次氏。無茶まであのときの再現は勘弁願いたい」
 くくっ。言われてしまったわ。二人で笑い、行く手を睨む。
 
「巨人? いや……」
 キヅカの肉眼に小さく、瓦礫から突出するシルエットが見える。
「魔導型デュミナス初期配備仕様だね。でも操縦機動じゃない」
「リベルター君。人が動かすものではない、と?」
「それ以前、設計上ありえない」
 久延毘の問いにレホスは断定した。

 ──ふいにクラクションが響く。
『繋がった! 当調査班4名、暴走CAMならびに歪虚化ゴブリン集団と交戦中!』
 トラック運転手が搭載無線の最大音量に上げる。
 一斉にハンター達が車両を寄せる。
『パイロット不明、機動と索敵は未知のシステムと推測。片脚不動、超機動の片脚で補完。肘と指の単純動作も、肩の超機動で補っています。間接部へ不審物付着を確認。特定部位の独立機動が濃厚。予備弾装廃棄済み』
 やはり──レホスが頷く。
『おそらく索敵も独立系統です。射程内の動体に反応するも、攻撃時に再索敵』

「当方南南東、距離400。位置関係送信請う、挟撃は可能か?」
 最低限、だが対策が矢継ぎ早に発案されるに充分。増援のアドバンテージ獲得に動く。
 が、番狂わせ、あるいは遅滞戦術の限界は見逃してくれなかったようだ。
 30mmアサルトライフルの発射音、そして悲鳴──
『ディーナさん! ああ……ゴブリンを止めて!』

「僕がCAMの注意を惹きます。その隙にゴブリンを。態勢建て直してください!」
 頼む、とキヅカは最速のバイクを加速する。
 落ち着けと制した声は彼を止めるものでなく。レホスの構造的助言と、小夜の祈りにも似た信頼の言葉であった。
「お兄はん……気ぃつけて……小夜も終わり次第行きますけん……無茶されんといて」
 寅次が久延毘を窺う。思考がバレてるなと苦笑で返す。



(借りたバイク、無事でよかったの……)
 立てかけたバイクの満桜特製盗難防止警報が鳴り響いている。自分よりバイクを心配して、ディーナは荒い息をつきマーブルシールドを構える。4匹の残りは半生の1匹。敵の増援も想定内。だが、CAMの照準まで連れてくるとは……
 回復の余地は無い。
 ゴブリンが距離を詰める。覚悟は決めた。
 その時! 喧しいクラクションが警報に重なる。抱えられる衝撃に転がれば、先程斧を振り上げていたゴブリン共が火球の中で身を捩っていた。

「間に合ぅて良かったです……」
 浅黄いいます。一礼し今度は弓を構える敵を灼く。
「佐々木さん退避ありがとう。安心してよ。アレには触らせないから」
 防御障壁で貴女ごと護るから。レホスが示した先は満桜のバイク。
 ディーナは自分を抱える老人を見上げる。
(……この人も佐々木さん?)
「奴らの得物がな、許せんのよ」
 攻勢反転に備えろと、寅次がバイクの脇に抱き下ろす。
「ペンタグラムとレイジオブマルス。どっちの餌食になりたい? その得物、遺品だね? ねぇ、このバイク狙って彼女襲った罪はどう償いたい?」
 数に臆する自分ではなくなった、と、レホスの二丁拳銃が間断たなくゴブリンを狙い撃つ。怒り任せに見えて、冷静に、小夜と寅次を最適位置に導いていく。奴らは武装強盗そのもの、CAMもハンターもお構いなしに盗みを働く。行動原理の報いにふさわしく殲滅するために。
 ──劫!
 また火球。
 しぶとく立つ1匹を寅次の一撃が沈める。
「弓ぃ2匹……逃がしてしまいました」
 CAM対策の位置転換。一網打尽にするには時間切れだ。バイクと馬とトラックが瓦礫間を縫う。
「回収優先順位は対亜人は下位、放置もやむなし。でも、当然?」
「はい……無線機越しに沙織さん? ……からヒント貰いました……やられた事はやりかえすんやと」



 瓦礫の微細な破片が散った。
 駆け抜けるエンジン音へ30mmアサルトライフルの銃撃音が襲う。
「くっ! 侵入角が同一じゃ、あいつの索敵ロスは狙えない、か……」
 キヅカは手持ちの射程を計算しながら、急いで転倒したバイクを起こす。瓦礫を撃ち一次反応を触発、二次反応前に急接近し威力偵察。あわよくば無駄撃ちを狙う。もとより無傷でできよう筈もなかったが……
「一度銃口に捕捉されちまうと、誤索敵なんて関係ないわけね?」
 俺を狙ってる? 上等じゃねぇか!
 心中毒づくキヅカに再度銃口から索敵の気配──

 バンッ!
 銃撃ではない炸裂音。右手の瓦礫に埋もれた火薬箱が炎を上げている。
「キヅカ君。位置転換、次の牽制で別角度から侵入だ。ヤツのレンジとバイク機動の勝負だな」
 索敵ロジックは把握したが無茶すぎないか?
 瓦礫影から現れた久延毘は、ルーンアイパッチの奥で片眉を顰めてるのだろう。
「必ず援護に来ていただけると判ってましたから」
「敵残弾はあと最大7だ。健闘を祈る」
 照れ隠しの返事代わりか、久延毘は再度手ごろな廃品を物色しに移動する。別方面で火球があがった。邪魔者殲滅からの攻勢反転を見越して仕込むべきだろう。

「最小射程って知ってるか?」
 キヅカはCAMの足元を高機動で駆け巡る。先程までいた地面に穴が開く。
「付着物って魔道機構の代替みたいに付いてるアレか!?」
 機動偏向とも合致する。ためしにとΔLを放ち、今度はカタナの洗礼をうけた。何度もCAMの股下を潜り抜ける頭上に銃撃音が響く。推定残弾、2……1……
 背面から抜け見上げた先──銃口は確実に久延毘を捉えていた。
「「「久延毘さんっ!」」」
 複数の声。合流完了。そして引かれるトリガー──



「パイロットが1発消費してたわけだ。ああ、大丈夫。以前の銃撃も私狙いじゃない。ゴブリンを火矢で追い立てて釣餌とは、君達やるね。ところで移動砲台の成れの果てを止めなきゃいけないんだが……リベルター君?」
 久延毘の長舌がレホスへ振られる。
「久延毘さんの予定通り、瓦礫側面に追い込んで脚にブリザードお願い。小夜さんのアイスボルトも。私も万一に備え稼動脚を破壊する弾数は残してる。けど、あの子を撃ちたくない」
 あの機体知ってるから。
 寅次が言う。知る者こそが破壊すべきだ。
「待って!! やるなら私が、あの子の親代わりは私だもの!」
 破壊という言葉に満桜が割り入り叫ぶ。ふん、と鼻を鳴らし満桜をみた寅次の目が大きく見開かれた。
「……みさお?」
 え? ──そんな顔をしたのだろう。
「大丈夫です……無傷で縫いとめます」
「アレは駆動代替と索敵しかしない。やれます」
 満桜に声をかけ、小夜とキヅカが久延毘の先導で策定位置に向かっていく。
「心配ないの、盾もあるの」
「早く取り戻しにいこう?」
 ディーナと沙織が満桜の手をとる。
 レホスは安堵と心配を混ぜ寅次を窺って、歩き出した。


 静止したCAMのコクピットを貫く長槍の痕跡。
 半狂乱の満桜が探しても、稼動済みの脱出装置はパイロットの居場所を教えてはくれなかった。
「間接部ほか、制御用の魔導機構はみな自爆されてました。おそらく、パイロット自身の最後のコントロールでしょう」
 キヅカが背面まで観測してわかった。鹵獲防止。彼の最後の仕事だ。
「必ず帰るって、家族同然って、なのに一言も残してくれないなんて」
「パイロットはね、無駄を承知で脱出装置を稼動させるんだ」
「完璧な整備ありがとう、って遺言です」
 レホスと沙織の言葉に、また涙。

「遺品を捜していて見つけた。廃棄兵装の陰。たぶん、彼だ。連れて行ってやってくれ」
 慣れないなとまた溜息をついて久延毘が来た方角を指す。ディーナが満桜の腕を取る。
「佐々木ちゃん? あ、えーと、満桜ちゃん行こう?」

 二人の佐々木──?
「勘違いならごめんなさい。さっきのこともですが、ご親族ではありませんか?」
 キヅカの声が揺れ、握る小夜の手が震える。

「佐々木貞(みさお)を知っているか?」
「祖母の名よ」
「壮健でおるか?」
「あっちに居たときは、毎朝、寅次さん寅次さんって仏壇の鈴を連打してたわ」


 少し笑って──寅次はぐいっと空を仰いだ。

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MVP一覧

  • 飽くなき探求者
    久延毘 大二郎ka1771
  • 戦場に咲く白い花
    沙織ka5977

重体一覧

参加者一覧

  • 白き流星
    鬼塚 陸(ka0038
    人間(蒼)|22才|男性|機導師
  • 理由のその先へ
    レホス・エテルノ・リベルター(ka0498
    人間(蒼)|18才|女性|機導師
  • 飽くなき探求者
    久延毘 大二郎(ka1771
    人間(蒼)|22才|男性|魔術師
  • きら星ノスタルジア
    浅黄 小夜(ka3062
    人間(蒼)|16才|女性|魔術師
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士
  • 戦場に咲く白い花
    沙織(ka5977
    人間(蒼)|15才|女性|機導師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
久延毘 大二郎(ka1771
人間(リアルブルー)|22才|男性|魔術師(マギステル)
最終発言
2016/02/16 03:01:04
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/02/14 20:30:07