ゲスト
(ka0000)
壁とボールとマルマルどーん
マスター:練子やきも

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/02/23 07:30
- 完成日
- 2016/03/02 07:19
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
とある小さな街のハンターオフィスの中、受付嬢の座るカウンターの前の椅子に正座しつつ、そのカウンターにへばり付いている少女が居た。
ポニーテールに纏めた黄色い髪をダランと背中に垂らしながら、受付のオブジェと化している少女の名前はエルミィ。無駄な元気と造酒の腕が特徴の、基本役立たずな新米ハンターである。
「という訳で……冷やかしなら帰って下さい」
落ち着いた……やや冷ややかな視線を向けつつも、なにやら妙に乱れた髪を手櫛で直しながら、いつもの台詞を流す受付嬢。
「はい、そうします……」
普段なら更に大騒ぎを始める所なのだが、鳴りを潜めたその元気力は、彼女の行動を動かす事はなかった。
●アホの子。
「……もう1度言って貰えますか?」
「はい! スキルセットって何ですか!」
「……貴女はアホですか?」
時は遡り、それは退屈な昼下がりのことだった。
若干の暇を持て余していた受付嬢の元へ、いつもながらの業務の邪魔をしに来たエルミィの放った質問に危うくカウンターに沈みそうになった受付嬢だったが、ここはハンターオフィス。彼女の仕事場であり、衆目の視線もある事が何とか脱力感を止まらせていたが……。
その代わりという訳でもないが、かつてないサイズで受付嬢の額に浮かんだ青筋マークは、紅く、赫く、そのRGB色相を変化させてゆく……。具体的には赤のゲージだけギュンギュン上がっていた。
『あの口数の少ない受付嬢があんなに喋るのを初めて見た』
その光景を見た者達は、言葉少なにそれだけを語ったとか。
●それで治れば世話はなく
「かーそるを合わせて左くりっく……かーそるを合わせて左くりっ……く?」
フラフラと帰路への歩みを進めつつ謎の呪文を唱えていたエルミィが、ふと何かに気付いたように、首を傾げながら前に目を向ける。
ピョコンと横に垂れた黄色いポニーテールをブラブラ揺らしつつ、耳を澄ましたエルミィの耳に響く、武器を打ち鳴らす……戦いの音。
……自分では役に立たないかも知れない……
……などと殊勝な事など考える事もなく、本能の赴くまま走り出すエルミィだった。
●堅く鎧う玉
門の前で盾を構えた門番達が、物凄い速度で転がって来た2メートルサイズの球体に弾き飛ばされる。
そのまま門扉に激突した球体は、ゴロリと向きを変え兵士へと向き直る。何とか門の中に逃げ込んだ女性を追って来たらしいその球体は、丸めていた身体を伸ばして軽く飛び跳ねると、救援を待つべく門を閉ざして街の外で時間稼ぎする為に残った兵士へと襲い掛かってゆく。
「救援はもう呼びに行ってるんです、よね。だったら私にできる事は……」
塀の上から覗き込みつつ呟くエルミィの目に、倒れ伏した兵士達の姿が映る。倒れた兵士達もまだ息はある筈。救助する余裕があれば良かったのだが、門を開ける訳にも行かない為、エルミィには彼等を救出する手段など咄嗟には思い浮かぶものでもなく……。
「私も手伝います!」
ーー時間を稼ぐ。それだけを考えて、エルミィは塀の外へと飛び降りた。
ポニーテールに纏めた黄色い髪をダランと背中に垂らしながら、受付のオブジェと化している少女の名前はエルミィ。無駄な元気と造酒の腕が特徴の、基本役立たずな新米ハンターである。
「という訳で……冷やかしなら帰って下さい」
落ち着いた……やや冷ややかな視線を向けつつも、なにやら妙に乱れた髪を手櫛で直しながら、いつもの台詞を流す受付嬢。
「はい、そうします……」
普段なら更に大騒ぎを始める所なのだが、鳴りを潜めたその元気力は、彼女の行動を動かす事はなかった。
●アホの子。
「……もう1度言って貰えますか?」
「はい! スキルセットって何ですか!」
「……貴女はアホですか?」
時は遡り、それは退屈な昼下がりのことだった。
若干の暇を持て余していた受付嬢の元へ、いつもながらの業務の邪魔をしに来たエルミィの放った質問に危うくカウンターに沈みそうになった受付嬢だったが、ここはハンターオフィス。彼女の仕事場であり、衆目の視線もある事が何とか脱力感を止まらせていたが……。
その代わりという訳でもないが、かつてないサイズで受付嬢の額に浮かんだ青筋マークは、紅く、赫く、そのRGB色相を変化させてゆく……。具体的には赤のゲージだけギュンギュン上がっていた。
『あの口数の少ない受付嬢があんなに喋るのを初めて見た』
その光景を見た者達は、言葉少なにそれだけを語ったとか。
●それで治れば世話はなく
「かーそるを合わせて左くりっく……かーそるを合わせて左くりっ……く?」
フラフラと帰路への歩みを進めつつ謎の呪文を唱えていたエルミィが、ふと何かに気付いたように、首を傾げながら前に目を向ける。
ピョコンと横に垂れた黄色いポニーテールをブラブラ揺らしつつ、耳を澄ましたエルミィの耳に響く、武器を打ち鳴らす……戦いの音。
……自分では役に立たないかも知れない……
……などと殊勝な事など考える事もなく、本能の赴くまま走り出すエルミィだった。
●堅く鎧う玉
門の前で盾を構えた門番達が、物凄い速度で転がって来た2メートルサイズの球体に弾き飛ばされる。
そのまま門扉に激突した球体は、ゴロリと向きを変え兵士へと向き直る。何とか門の中に逃げ込んだ女性を追って来たらしいその球体は、丸めていた身体を伸ばして軽く飛び跳ねると、救援を待つべく門を閉ざして街の外で時間稼ぎする為に残った兵士へと襲い掛かってゆく。
「救援はもう呼びに行ってるんです、よね。だったら私にできる事は……」
塀の上から覗き込みつつ呟くエルミィの目に、倒れ伏した兵士達の姿が映る。倒れた兵士達もまだ息はある筈。救助する余裕があれば良かったのだが、門を開ける訳にも行かない為、エルミィには彼等を救出する手段など咄嗟には思い浮かぶものでもなく……。
「私も手伝います!」
ーー時間を稼ぐ。それだけを考えて、エルミィは塀の外へと飛び降りた。
リプレイ本文
ハンターオフィスに文字通り駆け込んだ兵士の救援要請を聞くが早いか、依頼の受理届けを受付嬢に任せて、ハンター達は街の門へと走り出していた。
「いきなりの襲撃ですね。雑魔かどうかは分かりませんが……」
走りながら洩れたエルバッハ・リオン(ka2434)の呟きに
「アルマジロ、でしたね。食用になると聞いた事もありますが」
怪我人のため、受付嬢に施療院の手配を依頼して追い付いてきたクオン・サガラ(ka0018)が軽口で応じながら、眼前に迫った壁の上部に突き出た木製の柱にショットアンカーを打ち込み、一気に飛び上がる。
「アルマジロを見るのは初めてだが、まさかこんな形で初遭遇を果たすとはな……」
隣に飛び上がった鞍馬 真(ka5819)が、草原を転がる物体を見下ろしながらちょっぴり残念そうにしている。できれば普通の草食獣として出逢いたかった。
「ちょえい! とりゃー!」
登った塀の眼下に映る草原では、何だか気の抜けた掛け声を上げながら前方に身を投げ出し、硬い甲殻に鎧われた巨大な『ボール』を躱すエルミィの姿。全力で避ける事に専念しているようで、色々と気を回す余裕は無いようだ。主に履いているスカートからチラチラ覗く白い物的な意味で。
「強固な鎧は攻撃にも使える、合理的じゃの」
続いて昇って来たレーヴェ・W・マルバス(ka0276)が軽く呟きつつ、武器を構える。
(……じゃがまあ、まるで突き崩せぬという訳でもない)
その視線は、抜目なく敵の防御の抜け穴を探っていた。
「よし、準備完了! いけるよ颯!」
「おっけーですわ、お時ちゃん!」
塀の前にその辺にあった板と柱を組み上げて即席のジャンプ台を作った時音 ざくろ(ka1250)と八劒 颯(ka1804)が、後方に停めていたそれぞれの魔導バイク、『ナグルファル』と『龍雲』に乗り込む。
「アルマジロの撃退は任せて良さそうですわね」
「はい、討伐に向かってくれる方々が居るのですから、私達は救助と退避の準備をするとしましょう」
言いながら早速、柱にロープを結び始めた明王院 穂香(ka5647)の姿を見て、ひとつ頷くとそれを手伝い始めた音羽 美沙樹(ka4757)だった。
「行くよ颯、これであいつの速度に対抗だ!」
ロープを結び終え、周囲の非戦闘員に声を掛けている二人の傍を駆け抜け、上げたざくろの声とともに宙を舞うナグルファル。
(よもや壊れたりはしないと思いますけど……)
風を切り走る颯の心に湧いた、若干の不安を吹き飛ばすように、龍雲は外壁を飛び越えて行った。
●援軍来たりて
「エルミィ、助けに来たよ!」
「後ははやて達におまかせですの!」
飛び込んだざくろと颯の『ナグルファル』と『龍雲』2台のバイクの動きを追うように向きを変えたアルマジロ。その目の前に突き立ったクオンの弓から放たれた矢に一瞬怯んだ所へ、すかさず走り込んだ真が気を惹くために放った踏み込みざまの試作振動刀、ムラマサの一撃がアルマジロの甲殻に浅い筋を残す。
「よく頑張ったな、あとは任せろ」
アルマジロの前に立ち振動刀、雷撃刀、二振りの刃を構える真の後ろで、明るく礼を言いながら下がったエルミィは
「はい、ありがとうございます~。えっと、じゃあわたしは……」
「兵士さん達をおねがい」
「兵士さん達を運ぶのを手伝って下さい」
「なら救助に回ってくれい」
異口同音に告げられた指示にほあっ! と同意なのか単にびっくりしたのかよくわからない声を上げつつも、手近な兵士の足を取って、救助の手伝いを始める。
「怪我人ですので丁重に扱ってあげて下さ……あたま! 地面に擦ってますから!」
とりあえず動かせる状態に、と兵士の容態を診ていた美沙樹が、エルミィの『救助行為』に頭を抱える。……まあ、兜があるから傷が残るとかは無さそうなのが救いか。
「先ずは負傷者を一箇所に集めて下さい」
意識しているのかいないのかそのウサ耳をピコピコさせながら掌に集められたヒーリングスフィアの優しい光が、穂香の周りに集められた兵士達へと放たれる。その光に包まれ、傷が癒えて息を吹き返す兵士達。……自力で動ける程ではないが、搬送しても問題は無い程度までは回復したようだ。
「負傷者が退避します、上の方々、よろしくお願いします」
穂香が声をかけ、ロープを巻き付けた兵士達が次々と塀の中へと運び込まれる。塀の中では既に準備が整えられたようで、兵士達はすぐにクオンの手配した施療院へと搬送されるようだ。
「これで一安心ですわね」
(……彼女等の勇敢さ、無駄にさせずに済みました)
疲れ果てて転がっているエルミィの横でほっと胸を撫で下ろしつつ、額から流れる汗をそっと拭った美沙樹は、仲間達の方に視線を送る。そちらの方も既に戦闘は終結に向かっていた。
●3つの決着
転がる隙を与えぬようアルマジロの前に立ち二刀を振るう真を、塀の上からクオンとレーヴェの放つ、あるいは流水の如き、あるいは陽光の如き、静かな鋭い矢が導くように援護し、ざくろと颯の魔導バイクが切り込み、切り抜け、その速度を活かしたヒットアンドアウェイで甲殻を削る。
戦況の大勢は決まった、そう思えた時
「おっと、これは一大事じゃの」
感じた違和感に向けたレーヴェの視界に映る、転がり来る物体の上げる砂煙が……2つ程。
「兵士達をこれ以上の危険に晒す訳にも行きませんわ」
「そうだね、こっちは任せられる、ざくろ達は増援を兵士達から遠ざけよう」
「ですわね。せっかく確保しておいた足ですもの」
美沙樹の声に、顔を見合せ頷くざくろと颯。兵士達に近付けさせない、その思いは一致していた。
「ボールは友達……怖くない」
転がり来る2メートルサイズの大玉の前、立ちはだかったざくろの眼前に
「颯、パスだ!」
マテリアルで構成された、パチパチと爆ぜる火花を纏った光の壁、『攻性防壁』が展開され、直後に激突した大玉はざくろの狙い通りに颯の方へと弾かれ、転がり跳ぶ。跳んだのだが……防壁はダメージを軽減はしても無効化するものではなく、結果
「わ~~!」
「お時ちゃん、これと友情は育めません……わぁぁ~!」
ボールを跳ね返しながらも普通に跳ねられるざくろと、ざくろの言葉にツッコミを入れつつも跳ね返ったボールを攻性防壁で跳ね返し別のアルマジロへとレシーブしつつそのまま跳ねられ宙を舞う、颯。その姿は……まさにビリヤードだった。ブレイクしていた。
場面は戻り、傷だらけになり追い詰められた最初のアルマジロは、最期の抵抗に出ようとしていた。転がるために身体をひと跳ねしようとしたその一瞬の踏み込み。その脚を、レーヴェの狙い澄ましたイチイの弓の、輝く一閃が貫く。
体勢を大きく崩し、腹を見せたアルマジロの身体を、震動する刀身が、雷撃纏う刃が、貫き刻む。
腹を貫いた双刃をひと振りして鞘に戻した真の前で、獣はその動きを……止めた。
他方、転がる友達と激しいカーチェイスと言うべきか、バイクでの突撃による激突を繰り広げていたざくろは、着実にダメージを積み重ねていた。そして……
「地を駆け、風を嵐と化せ……疾風迅雷、超・重・斬!」
転がり終えるタイミングを見計らった、バイクの速度を乗せた突撃から振るわれた、冗談のように巨大な、超重錬成されたグレートソード……エッケザックスは、その振るわれた軌跡に障害になる物などなかった、とでも言うように、貫いた残骸と共に大地を穿った。
「兵士の退避は終わりました、お手伝いします!」
エルバッハの放ったアイスボルトが、白く煌めく粒子を流しながら颯の相対していたアルマジロに着弾し、その動きを動きを鈍らせた。
「……そこは充分に射程内です」
ただ事実を述べた言の葉。その黒い目を細め、狙いを定めて放った一矢は狙い過たず、アイスボルトにより動きの鈍ったアルマジロの目を射抜く。
悲鳴なのだろう、奇っ怪な異音を発するアルマジロの捩らせた腹部めがけて飛び込んだ、バイクとドリルとツインテール。
「体内から焼き尽くしてあげますわ! びりびり電撃どりる!」
バイクによる突撃でアルマジロの腹部へ深々と突き刺さったドリルから放たれた、端的な表現で事実のみを告げるその攻撃は、びりびり電撃を放ちながらやたらエグい音と悲鳴を、しばらくの間周囲にお届けしていた。……たぶんこのアルマジロが1番気の毒なアルマジロだった物と思われる。
●ごろごろアフター
「やはり雑魔化していたみたいですね……」
何も遺さず、黒い塵となって消え行くアルマジロの死体を、戦闘で良い具合に減ってきたお腹にチラリと目をやってちょっぴり残念そうに眺めているクオンの後方で、門や塀の損傷や状態ををチェックしてはダメ出しというかツッコミというか、強化案を提案しているレーヴェの声に耳を傾ける兵士達。どうやら門や塀が得に脆かったという訳でもなく、単純にアルマジロの威力重視のローリングがそれなりに強かっただけらしい。ドワーフ的ビフォーとアフターな感じに魔改造されてしまいそうな案もチラホラでてたりもするのだが、まあ現実的には多少の強化程度に落ち着くのだろう。
一方施療院では、参考書で読んだ応急手当程度ですが、と前置きしつつもそれなりにテキパキと作業をこなしているエルバッハと、応急手当から兵士達を付きっ切りで介護していた美沙樹と、回復魔法を使っている所を見られて、あっちにこっちにと何だか関係ない所にまで引っ張って行かれている穂香の、三人の忙しそうな姿があった。孫の嫁に! いやいっそワシの嫁に! などと方々から声をかけられている彼女達が解放されるのには、どうやらしばらくかかりそうだ。
「お疲れ様、良く頑張ったな」
喧騒から少し離れた場所に設置されているベンチでは、どうやら元気を使い果たしたらしくペタンとややお行儀の悪い格好で座り込んだエルミィの頭をポンポンと労う真。
「そうだ、エルミィ機導術のコツってわかる?」
そして、エルミィの戦う様子を見ていて気を利かせたざくろがヒョイとその横から顔を出し、機導師としてのアドバイスをするべくスキルの使い方の実演ショーが始まる。
「だいたいこんな感じかな」
「そしてここでマテリアルを回転させるとドリルになるんですの」
ついでにドリル布教を始める颯の言葉に顔を輝かせて身を乗り出すエルミィの姿に、真とざくろが思わず顔を見合わせるが……始まった颯先生のドリル談義は当分終わりそうにはなかった。
「いきなりの襲撃ですね。雑魔かどうかは分かりませんが……」
走りながら洩れたエルバッハ・リオン(ka2434)の呟きに
「アルマジロ、でしたね。食用になると聞いた事もありますが」
怪我人のため、受付嬢に施療院の手配を依頼して追い付いてきたクオン・サガラ(ka0018)が軽口で応じながら、眼前に迫った壁の上部に突き出た木製の柱にショットアンカーを打ち込み、一気に飛び上がる。
「アルマジロを見るのは初めてだが、まさかこんな形で初遭遇を果たすとはな……」
隣に飛び上がった鞍馬 真(ka5819)が、草原を転がる物体を見下ろしながらちょっぴり残念そうにしている。できれば普通の草食獣として出逢いたかった。
「ちょえい! とりゃー!」
登った塀の眼下に映る草原では、何だか気の抜けた掛け声を上げながら前方に身を投げ出し、硬い甲殻に鎧われた巨大な『ボール』を躱すエルミィの姿。全力で避ける事に専念しているようで、色々と気を回す余裕は無いようだ。主に履いているスカートからチラチラ覗く白い物的な意味で。
「強固な鎧は攻撃にも使える、合理的じゃの」
続いて昇って来たレーヴェ・W・マルバス(ka0276)が軽く呟きつつ、武器を構える。
(……じゃがまあ、まるで突き崩せぬという訳でもない)
その視線は、抜目なく敵の防御の抜け穴を探っていた。
「よし、準備完了! いけるよ颯!」
「おっけーですわ、お時ちゃん!」
塀の前にその辺にあった板と柱を組み上げて即席のジャンプ台を作った時音 ざくろ(ka1250)と八劒 颯(ka1804)が、後方に停めていたそれぞれの魔導バイク、『ナグルファル』と『龍雲』に乗り込む。
「アルマジロの撃退は任せて良さそうですわね」
「はい、討伐に向かってくれる方々が居るのですから、私達は救助と退避の準備をするとしましょう」
言いながら早速、柱にロープを結び始めた明王院 穂香(ka5647)の姿を見て、ひとつ頷くとそれを手伝い始めた音羽 美沙樹(ka4757)だった。
「行くよ颯、これであいつの速度に対抗だ!」
ロープを結び終え、周囲の非戦闘員に声を掛けている二人の傍を駆け抜け、上げたざくろの声とともに宙を舞うナグルファル。
(よもや壊れたりはしないと思いますけど……)
風を切り走る颯の心に湧いた、若干の不安を吹き飛ばすように、龍雲は外壁を飛び越えて行った。
●援軍来たりて
「エルミィ、助けに来たよ!」
「後ははやて達におまかせですの!」
飛び込んだざくろと颯の『ナグルファル』と『龍雲』2台のバイクの動きを追うように向きを変えたアルマジロ。その目の前に突き立ったクオンの弓から放たれた矢に一瞬怯んだ所へ、すかさず走り込んだ真が気を惹くために放った踏み込みざまの試作振動刀、ムラマサの一撃がアルマジロの甲殻に浅い筋を残す。
「よく頑張ったな、あとは任せろ」
アルマジロの前に立ち振動刀、雷撃刀、二振りの刃を構える真の後ろで、明るく礼を言いながら下がったエルミィは
「はい、ありがとうございます~。えっと、じゃあわたしは……」
「兵士さん達をおねがい」
「兵士さん達を運ぶのを手伝って下さい」
「なら救助に回ってくれい」
異口同音に告げられた指示にほあっ! と同意なのか単にびっくりしたのかよくわからない声を上げつつも、手近な兵士の足を取って、救助の手伝いを始める。
「怪我人ですので丁重に扱ってあげて下さ……あたま! 地面に擦ってますから!」
とりあえず動かせる状態に、と兵士の容態を診ていた美沙樹が、エルミィの『救助行為』に頭を抱える。……まあ、兜があるから傷が残るとかは無さそうなのが救いか。
「先ずは負傷者を一箇所に集めて下さい」
意識しているのかいないのかそのウサ耳をピコピコさせながら掌に集められたヒーリングスフィアの優しい光が、穂香の周りに集められた兵士達へと放たれる。その光に包まれ、傷が癒えて息を吹き返す兵士達。……自力で動ける程ではないが、搬送しても問題は無い程度までは回復したようだ。
「負傷者が退避します、上の方々、よろしくお願いします」
穂香が声をかけ、ロープを巻き付けた兵士達が次々と塀の中へと運び込まれる。塀の中では既に準備が整えられたようで、兵士達はすぐにクオンの手配した施療院へと搬送されるようだ。
「これで一安心ですわね」
(……彼女等の勇敢さ、無駄にさせずに済みました)
疲れ果てて転がっているエルミィの横でほっと胸を撫で下ろしつつ、額から流れる汗をそっと拭った美沙樹は、仲間達の方に視線を送る。そちらの方も既に戦闘は終結に向かっていた。
●3つの決着
転がる隙を与えぬようアルマジロの前に立ち二刀を振るう真を、塀の上からクオンとレーヴェの放つ、あるいは流水の如き、あるいは陽光の如き、静かな鋭い矢が導くように援護し、ざくろと颯の魔導バイクが切り込み、切り抜け、その速度を活かしたヒットアンドアウェイで甲殻を削る。
戦況の大勢は決まった、そう思えた時
「おっと、これは一大事じゃの」
感じた違和感に向けたレーヴェの視界に映る、転がり来る物体の上げる砂煙が……2つ程。
「兵士達をこれ以上の危険に晒す訳にも行きませんわ」
「そうだね、こっちは任せられる、ざくろ達は増援を兵士達から遠ざけよう」
「ですわね。せっかく確保しておいた足ですもの」
美沙樹の声に、顔を見合せ頷くざくろと颯。兵士達に近付けさせない、その思いは一致していた。
「ボールは友達……怖くない」
転がり来る2メートルサイズの大玉の前、立ちはだかったざくろの眼前に
「颯、パスだ!」
マテリアルで構成された、パチパチと爆ぜる火花を纏った光の壁、『攻性防壁』が展開され、直後に激突した大玉はざくろの狙い通りに颯の方へと弾かれ、転がり跳ぶ。跳んだのだが……防壁はダメージを軽減はしても無効化するものではなく、結果
「わ~~!」
「お時ちゃん、これと友情は育めません……わぁぁ~!」
ボールを跳ね返しながらも普通に跳ねられるざくろと、ざくろの言葉にツッコミを入れつつも跳ね返ったボールを攻性防壁で跳ね返し別のアルマジロへとレシーブしつつそのまま跳ねられ宙を舞う、颯。その姿は……まさにビリヤードだった。ブレイクしていた。
場面は戻り、傷だらけになり追い詰められた最初のアルマジロは、最期の抵抗に出ようとしていた。転がるために身体をひと跳ねしようとしたその一瞬の踏み込み。その脚を、レーヴェの狙い澄ましたイチイの弓の、輝く一閃が貫く。
体勢を大きく崩し、腹を見せたアルマジロの身体を、震動する刀身が、雷撃纏う刃が、貫き刻む。
腹を貫いた双刃をひと振りして鞘に戻した真の前で、獣はその動きを……止めた。
他方、転がる友達と激しいカーチェイスと言うべきか、バイクでの突撃による激突を繰り広げていたざくろは、着実にダメージを積み重ねていた。そして……
「地を駆け、風を嵐と化せ……疾風迅雷、超・重・斬!」
転がり終えるタイミングを見計らった、バイクの速度を乗せた突撃から振るわれた、冗談のように巨大な、超重錬成されたグレートソード……エッケザックスは、その振るわれた軌跡に障害になる物などなかった、とでも言うように、貫いた残骸と共に大地を穿った。
「兵士の退避は終わりました、お手伝いします!」
エルバッハの放ったアイスボルトが、白く煌めく粒子を流しながら颯の相対していたアルマジロに着弾し、その動きを動きを鈍らせた。
「……そこは充分に射程内です」
ただ事実を述べた言の葉。その黒い目を細め、狙いを定めて放った一矢は狙い過たず、アイスボルトにより動きの鈍ったアルマジロの目を射抜く。
悲鳴なのだろう、奇っ怪な異音を発するアルマジロの捩らせた腹部めがけて飛び込んだ、バイクとドリルとツインテール。
「体内から焼き尽くしてあげますわ! びりびり電撃どりる!」
バイクによる突撃でアルマジロの腹部へ深々と突き刺さったドリルから放たれた、端的な表現で事実のみを告げるその攻撃は、びりびり電撃を放ちながらやたらエグい音と悲鳴を、しばらくの間周囲にお届けしていた。……たぶんこのアルマジロが1番気の毒なアルマジロだった物と思われる。
●ごろごろアフター
「やはり雑魔化していたみたいですね……」
何も遺さず、黒い塵となって消え行くアルマジロの死体を、戦闘で良い具合に減ってきたお腹にチラリと目をやってちょっぴり残念そうに眺めているクオンの後方で、門や塀の損傷や状態ををチェックしてはダメ出しというかツッコミというか、強化案を提案しているレーヴェの声に耳を傾ける兵士達。どうやら門や塀が得に脆かったという訳でもなく、単純にアルマジロの威力重視のローリングがそれなりに強かっただけらしい。ドワーフ的ビフォーとアフターな感じに魔改造されてしまいそうな案もチラホラでてたりもするのだが、まあ現実的には多少の強化程度に落ち着くのだろう。
一方施療院では、参考書で読んだ応急手当程度ですが、と前置きしつつもそれなりにテキパキと作業をこなしているエルバッハと、応急手当から兵士達を付きっ切りで介護していた美沙樹と、回復魔法を使っている所を見られて、あっちにこっちにと何だか関係ない所にまで引っ張って行かれている穂香の、三人の忙しそうな姿があった。孫の嫁に! いやいっそワシの嫁に! などと方々から声をかけられている彼女達が解放されるのには、どうやらしばらくかかりそうだ。
「お疲れ様、良く頑張ったな」
喧騒から少し離れた場所に設置されているベンチでは、どうやら元気を使い果たしたらしくペタンとややお行儀の悪い格好で座り込んだエルミィの頭をポンポンと労う真。
「そうだ、エルミィ機導術のコツってわかる?」
そして、エルミィの戦う様子を見ていて気を利かせたざくろがヒョイとその横から顔を出し、機導師としてのアドバイスをするべくスキルの使い方の実演ショーが始まる。
「だいたいこんな感じかな」
「そしてここでマテリアルを回転させるとドリルになるんですの」
ついでにドリル布教を始める颯の言葉に顔を輝かせて身を乗り出すエルミィの姿に、真とざくろが思わず顔を見合わせるが……始まった颯先生のドリル談義は当分終わりそうにはなかった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/02/22 21:56:00 |
|
![]() |
救援と撃退 音羽 美沙樹(ka4757) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|舞刀士(ソードダンサー) |
最終発言 2016/02/22 21:59:09 |